説明

多孔質材料評価方法および多孔質材料評価装置

【課題】 本発明は、多孔質材料が有する細孔の透過流量分布を評価する多孔質材料評価方法と、評価装置に関するものである。
【解決手段】 発明の多孔質材料評価方法は、板状の多孔質材料の第1の面を検査液に接触させ、多孔質材料を湿潤させる湿潤手順と、所定の気体圧力に一定周期の音波に基づく音圧変動を加えた検査用気体を多孔質材料の第2の面に印加し、多孔質材料を介して第1の面に検査用気体を透過させる気体透過手順と、気体透過手順によって第1の面を透過した検査用気体の流量を計測する計測手順と、を有するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材料が有する細孔の透過流量分布を評価する多孔質材料評価方法と、多孔質材料評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
濾過フィルターなどに用いられる多孔質材料の特性評価方法の一つに、多孔質材料が有する細孔の孔径に対する透過流量分布により特性を評価する方法がある。
【0003】
多孔質材料の透過流量分布を求める方法として、バブルポイント法が知られている。この方法において、多孔質材料の一方の面を水などの検査液で湿潤し、他方の面から気体を印加し、気体の圧力を増加させながら毛細管力によって細孔に進入した検査液の表面張力に打ち勝って細孔を透過した気体の流量を計測し、計測値から圧力変動に対する気体流量の増分を算出することにより、細孔の孔径に対する透過流量分布を求めることがきる。気体圧力の増加に伴う気体の透過は、初めは大きな孔径の細孔から始まり徐々に微細な細孔にまで及ぶため、透過流量の増分を算出すれば多孔質材料が有する各孔径に対する透過流量分布を知ることができる。
【0004】
このバブルポイント法を用いて多孔質材料の完全性を調べる方法が提案されている。例えば、親水性溶媒で湿潤した多孔質材料に両親媒性液体を透過させ、更に所定の表面張力を持つ検査液を透過させ、その後に検査気体を透過させて検査気体の流量または圧力から評価する方法が提案されている。この方法によれば、気体圧力を低圧の状態で測定できると共に、正確に完全性を知ることができる、とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−301415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、多孔質材料の透過流量の分布を求めるには、検査液で湿潤された多孔質材料の一方の面から検査用気体の気体圧力を徐々に増加し、印加した気体圧力とこの気体圧力において細孔を透過する気体の透過流量を計測し、計測した気体圧力の変動に対する透過流量の変動分から各径の細孔に対する透過流量分布を算出していた。このようにして求めた透過流量分布は、孔径が大きい細孔に対する透過流量の算出した値に問題はないが、数μm程度の微細な径の細孔では透過流量の計測値が不規則に変動し、透過流量の算出値は信頼性に乏しいという問題があった。
【0007】
この透過流量の計測値の変動原因は、以下に示される現象に基づくものと推測される。微小の細孔からの流量を計測している状態では、その孔径よりも大きな孔径の細孔からも同時に気体が透過している状態で計測を行なっていることになる。細孔からの気体の透過は、細孔の検査液と接する開口部で表面張力に打ち勝った気体が気泡となって検査液中に押し出され、開口部から断続的に離脱することで透過する。この気泡が断続して検査液から出るため流量計による計測値は変動し、この変動が流量計測の揺らぎとして現れ、バックグランドノイズとなっている。バックグランドノイズが微小細孔の流量を計測している信号の大きさ以上になると、計測した流量信号はバックグランドノイズに埋もれ、計測精度が低下することになる。こうなると、精度の高い流量計を用いても、ノイズに埋もれた信号を取り出すのは困難となる。
【0008】
本発明はこの問題を踏まえ、微小細孔においても高い精度で多孔質材料の細孔の透過流量分布を求めることができる透過流量分布評価方法と、透過流量分布評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の一観点によれば、板状の多孔質材料の第1の面を検査液に接触させ、多孔質材料を湿潤させる湿潤手順と、所定の気体圧力に一定周期の音波に基づく音圧変動を加えた検査用気体を多孔質材料の第2の面に印加し、多孔質材料を介して第1の面に検査用気体を透過させる気体透過手順と、気体透過手順によって第1の面を透過した検査用気体の流量を計測する計測手順と、を有する多孔質材料評価方法を提供できる。
【0010】
発明の別の一観点によれば、検査液を入れる液室と検査用気体を導入する気室とを有し、液室と気室との間に板状の多孔質材料を狭持し、狭持された多孔質材料の表面が液室と気室とに露出するように配置される狭持部を有するチャンバと、気室に設けられ、導入された検査用気体の気体圧力に加える音波の音圧を発生する音圧発生器と、導入された気体圧力を計測する圧力計測手段と、気室から多孔質材料を介して液室に透過する検査用気体の流量を計測する流量計測手段と、検査用気体を所定の気体圧力に調圧し、調圧された検査用気体を気室に導入し、圧力計測手段と流量計測手段とに計測指示を行なって圧力計測手段と流量計測手段とから計測結果を取得する制御手段と、を有する多孔質材料評価装置を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一定圧力に一定周期の音圧を加えた検査用気体を多孔質材料に印加することにより、検査液を透過する検査用気体に一定周期の圧力変動をもたらして気泡の発生及び離脱を周期的に行なわせることができ、バックグランドノイズの影響を抑制することができる。これにより、微細な細孔においても高い精度で多孔質材料の透過流量分布を求めることができる多孔質材料評価方法と、多孔質材料評価装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】多孔質材料評価装置の構成例を示す図である。
【図2】検査用気体の検査液透過例を示す図である。
【図3】算出した流路コンダクタンス例を示す図である。
【図4】本発明の多孔質材料評価装置の構成例(実施例1)を示す図である。
【図5】本発明における印加する気体圧力と計測される透過流量の変動例を示す図である。
【図6】本発明による流路コンダクタンスの計測フロー例を示す図である。
【図7】本発明により求めた流路コンダクタンス例を示す図である。
【図8】本発明の多孔質材料評価装置の構成例(実施例2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する前に、多孔質材料評価方法と気体圧力の変動に対する透過流量の増加分の算出例について図1と図2を用いて説明する。なお、気体圧力を増加させたときに細孔を透過する気体の流量増加は、細孔を流路としたときの気体の通り易さを示すことから、ここでは流路コンダクタンスということにする。
【0014】
図1は、多孔質材料評価装置の構成例を示した図である。多孔質材料評価装置10は大きく分けて試料チャンバー20、圧力計30、流量計40、制御部50およびガスボンベ60から構成する。試料チャンバー20の空間は、試料21を狭持する狭持部22で上下に区画され、下方が気室23、上方が液室24となっている。狭持部22の気室23および液室24に対する面の中央部分は開口しており、板状にした多孔質材料の試料21がこの狭持部22にセットされたとき、多孔質材料の表面はこの開口から気室23および液室24に露出するようになっている。計測時には液室24には検査液80が満たされ、これにより試料21には検査液80が細孔に進入し湿潤した状態になる。気室23にはガスボンベ60が制御弁61を介して配管接続し、検査用気体70が導入される。気室23の検査用気体70の圧力は圧力計30で計測され、気室23から試料21を通って液室24に流れる検査用気体70の透過流量は流量計40で計測される。液室24を流れる検査用気体70は流量計40を通った後、試料チャンバー20外に排出される。図の黒塗り実線の矢印は、液室24から排出された検査用気体72を示している。なお、ガスボンベ60には加圧された空気や窒素、アルゴンなどの検査用気体70が充填されている。
【0015】
透過流量の測定は、気室23に導入される検査用気体70の圧力を徐々に増加させ、ある圧力になると検査用気体70が試料21の最も大きな細孔から透過を始めるのでこの圧力から透過流量の計測を開始する。細孔内には検査液80が表面張力によって起こる毛細管現象により進入しているが、気室23から印加した検査用気体の圧力がこの表面張力を上廻ると検査用気体70は細孔を通り抜けて検査液80中を気泡71となって抜け出る。
【0016】
図2はこの状態を説明する模式図で、図2(a)は検査用気体70の気体圧力90と検査液80による表面張力91とがバランスしている状態を示している。図2(a)の試料21の上方は液室24で検査液80が満たされている状態を示しており、試料21の下方は気室23で気体圧力90の検査用気体70が入っている状態を示している。試料21は孔径がa、b、c(a<b<c)の細孔(それぞれ、細孔a、細孔b、細孔cとする)を有しており、孔径の大きさによって細孔内の検査液80の液面の高さは異なっている。これは、孔径の大きい細孔ほど表面張力91は弱くなるので検査用気体70の気体圧力90に押されて細孔中の検査液80の液面は細孔の上方の位置にある。図2(a)に示すように最も孔径の大きい細孔cの液面が高い位置にあり、最も孔径の小さな細孔aの液面が低い位置にある。図2(a)の状態は、この状態で気体圧力90と表面張力91がバランスしており、検査用気体70の透過は未だ行なわれていない。
【0017】
図2(b)は図2(a)から検査用気体70の気体圧力90が増加し、この気体圧力90が表面張力91を上廻り、検査用気体70が最も大きな孔径の細孔cから気体の透過が開始した状態を示した図である。細孔を透過した検査用気体70は気泡72となって検査液80を通り液室24に抜けることになる。
【0018】
次に、図1に示した多孔質材料評価装置10を用いて透過流量の測定を行なう方法を説明する。まず、板状にした多孔質材料の試料21を試料チャンバー20の狭持部22に固定し、液室24に検査液80を満たし、試料21を検査液80で湿潤させる。試料21が充分に湿潤した後に、制御部50により制御弁61を制御し、ガスボンベ60から検査用気体70(ここでは空気を用いる)の気体圧力を徐々に高めながら気室23に導入する。気体圧力の増加と共に、圧力計30および流量計40からの計測値を記録して行く。検査用気体を所定圧まで上げて計測を終了する。計測した圧力と流量とから、圧力の増分に対する流量の増分を微分によって算出することで、その圧力値に対応する孔径の細孔の流路コンダクタンスを求めることができる。或る気体圧力のもとで計測している流量Q(P)は、或る大きさ以上の孔径の全ての細孔から透過している気体の総流量であるので、(1)式で表すことができる。
【0019】
【数1】

(但し、P:気体圧力、C(P):多孔質材料全体の流路コンダクタンス、c(t):毛細管力tを有する細孔の流路コンダクタンス)
(1)式を微積分の基本定理と合成関数の微分から変換して、細孔の流路コンダクタンスを(2)式で求めることができる。
c(P)=d(Q(P)/P)/dP
=(1/P)dQ(P)/dP−(1/P)Q(P)・・・(2)
一方、気体圧力と細孔の孔径(半径r)とは、(3)式の関係にあるので、気体圧力Pにおける孔径を求めることができる。
【0020】
r=2σcosθ/P・・・・・(3)
(但し、σ:表面張力、θ:接触角)
即ち、気体圧力Pにおける透過流量を計測することで、孔径rのc(P)を求めることができる。また、孔径rが寄与する透過流量は、c(P)に気体圧力Pを乗じることで求まる。
【0021】
上記のようにして求めた計測結果と算出した流路コンダクタンスの例を図3に示す。なお、ここでは上記の検査液に湿潤して透過流量を計測する前に、試料21を乾燥した状態で透過流量を計測し(乾燥流量という)、湿潤した状態の透過流量を乾燥流量の比率で表わしている。このように表すことで、計測時における検査用気体70の上限圧力を決めることができる。即ち、図3に示すように、試料21が湿潤した状態の流量が乾燥流量と等しくなったとき(流量/乾燥流量=100%)に透過流量の計測を終了しているが、このときが多孔質材料が有する細孔の中で最も小さな孔径の細孔からの透過が行なわれたことになり、気体圧力をこれ以上増加させて計測する意味がない、ことになる。
【0022】
図3において、点線のグラフは計測された流量を示し、実線のグラフは計測された流量から算出した流路コンダクタンスを示している。計測している流量は、前述のように圧力増に対して最も大きな孔径の細孔からの流量により小さな孔径の細孔の流量が順次加わって行くので、圧力の増加に伴って流量の傾斜はより急な傾斜となる。ここでの流路コンダクタンスの算出は、孔径が20μm以下の孔径に対して行なっている。図3に示されるように5μm程度以下で算出された流路コンダクタンスは乱高下し、不安定になっている。不安定の原因は前述したバックグランドノイズによるものと考えられ、本発明はこの不安定となる問題に対し微細な細孔においても高い精度で透過流量を計測できるようにすることにある。
【0023】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0024】
(実施例その1)
本発明の多孔質材料評価装置を図4を用いて説明する。図4は、多孔質材料評価装置11の構成例を示した図で、図1に示した従来技術による多孔質材料評価装置10と比較できるように同様の配置で描いている。また、多孔質材料評価装置10と同一の構成要素には同じ符号を付けている。
【0025】
多孔質材料評価装置11が多孔質材料評価装置10と異なる点は、新たに音圧発生器100と音波発振器110、および位相検波装置200を付け加えたことと、多孔質材料評価装置10の制御部50の機能に音波発振器110に対してon/offの制御を行なう機能を加わえて新たに制御部51としたことが異なる。試料チャンバー20、圧力計30、流量計40、ガスボンベ60および制御弁61は、同一で先に説明したので省略する。
【0026】
音圧発生器100は所謂スピーカーであり、音波発振器110は発振回路と電力増幅回路とを備え、音圧発生器100を音波周波数で駆動できる。音圧発生器100は、気室23内に配置され、気室23内の検査用気体70を振動させる。気室23に導入されている検査用気体70は、ガスボンベ60から出た検査用気体70が制御弁61によって所定の圧力に調整されているので、その調整された圧力に音圧発生器100による音圧が加えられたものとなる。
【0027】
次に、図4に示した音圧発生器100が発生する音波の周波数について説明する。音源である音圧発生器100と試料21の間で定常波が立つと、細孔の中の検査用気体70と検査液80との気液界面が定常波の節になり、気液界面では音圧発生器100で発生した音圧変動に対して追従しないことになる。このため、発生音波の周波数νはその定常波の固有振動数より小さくする必要がある。例えば、気室23における音圧発生器100と試料21との間の長さを10cm、音速c=330m/sとすると、周波数νは1,650Hz以下でなければならないことになる(固有振動数f=(330/0.1)×(1/2)=1,650Hz、(1/2)は半波長で節となるため)。
【0028】
上記は、発生音波の周波数νに対して気室23の固有振動数に基づく制約であるが、細孔から検査液中で発生する気泡の成長に基づく制約について検討する。発生音波の周波数νがあまりに大きい(高い)と気泡の成長に必要な時間が充分にとれず、流量変動の振幅が小さくなってしまい流量変動の信号の検知が困難になる。このため、流量変動の振幅が小さくなり過ぎない条件として、多孔質体からの気泡が1個発生するのに要する時間が音波周期の半分より短いとする。これを条件とすると、次の(4)式が成り立つ。
【0029】
1/2ν>Vb(r)×N(r)/q(r) ・・・・(4)
(但し、Vb(r):気泡体積、N(r):半径rの細孔数の多孔質材料における面密度、q(r):半径rの細孔からの単位面積、単位時間当たりの流量)
一方、気泡に働く浮力は、(5)式で求められる。
【0030】
(ρl−ρg)×Vb(r)×G ・・・・・・・・・(5)
(但し、ρl:液体密度、ρg:気体密度、G:重力加速度)
気泡を細孔の開口部に付けて留めようとする力は、細孔の周囲長(2πr)に働く表面張力σなので、
2πr×σ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
(但し、2πr:細孔の周囲長、σ:表面張力)
(5)式が(6)式より少しでも大きくなると気泡は細孔の開口部から離れるので(5)式と(6)式が釣り合うときのVb(r)を気泡の大きさ(体積)と見做すことができ、気泡の体積は(7)式で求まる。
【0031】
Vb(r)=2πr×σ/(ρl−ρg)G ・・・(7)
例えば、r=5μm、ρl=1g/cm(水)、σ=73dyn/cm(水と空気の界面、at20℃)、G=9.8m/s、として空気の密度を無視すると、気泡の体積は
Vb(5)=2.3×10−11
となる。さらに、N(5)=100個/cm、q(5)=1cm/s・cmとして、(4)式より周波数νを求めると、周波数νは、217Hzとなる。この値は、気室23の固有振動数から求めた1,650Hz以下を満足するので、発生音波の周波数νは217Hz以下であればよいことになる。
【0032】
続いて、音圧発生器100の駆動電力について検討する。まず、発生音波の音の強さIは、音波の進む方向に垂直な単位面積を単位時間に通過する音波のエネルギー量であり、(8)式で表される。
【0033】
I=(1/2)(ΔP)/ρc ・・・・・・・・・・(8)
(但し、ΔP:音圧振幅、ρ:空気の密度、c:音速)
多孔質材料の孔径が20〜25μmのところで孔径精度を0.01μmの単位で考えるとすると、この20〜25μmの範囲である5μmの孔径変化に対する気体圧力の変化は図3に示されるように、1,300Paに相当する(図3の横軸の孔径20〜25μm間の5μmの孔径変化に対し、気体圧力の変化は6.3×10〜5×10Pa間の1.3×10Paとなる)。従って、0.01μmに相当する気体圧力の変化は2.6Paとなり、これを1/10以上の精度で測定するものとすれば、音波による強制振動させる圧力変動は0.1Pa程度であれば充分である。
【0034】
そこで、ΔP=0.1Pa(この値は、74dB相当)としたときの音の強さは、空気の密度ρ=1.29kg/m、音速c=330m/sとして(5)式に代入すると1.2×10−5W/mとなる。
【0035】
この音の強さを発生させるスピーカーに必要な電力は、次のように考えることができる。音源から音が球面波で広がるとして10cm(前述した気室23における音圧発生器100と試料21との間の長さ)離れた球面の面積は、0.042m。従って、この面を通過する1.2×10−5W/mの強度の音の総仕事率は、5×10−7Wとなるので、スピーカーの電気−音の変換効率を1%とすると5×10−5Wの電力でよいことになる。
【0036】
次に、位相検波装置200について検討する。位相検波装置200には音波信号を参照信号として入力し、流量計40で検出した信号から音波信号と同じ周波数の信号を抽出することを行なう。位相検波装置200を用いることで計測精度を高めることができる。例えば、発生音波の周波数を200Hz、位相検波の時定数を0.1secとすると、この間に20周期の音波に対する流量変動の信号が得られることになる。位相検波では、この20個の信号を内蔵されたローパスフィルターで積算して平均化することになる。ローパスフィルターによる高周波ノイズ除去の効果に加えて、さらに積分効果で信号に重なる信号とノイズの比は1/√20=0.22となり、約5倍の高精度測定ができることになる。
【0037】
次に、本発明における流量計測時の気体圧力と透過流量のそれぞれの変動例を説明する。気室23にはガスボンベ60から制御弁61を介して調圧された検査用気体70が導入され、この検査用気体70に音圧発生器100で発生した音圧を加えた検査用気体70を試料21面に印加している。このときの検査用気体70の音圧による変動を図5(a)に示す。例えば、図5(a)に示す調圧された気体圧力P0は25×10Paで、この圧力に音波による0.1×10Paの音圧が加わって変動する。後述するが、この音圧は制御部51によって音波発振器110の出力をon/offしているので、出力offの状態では制御弁61で調圧された気体圧力P0の一定圧の状態となり、出力onとなって音圧が加わり変動する。onからoffまでの時間内で透過流量の計測が行なわれるが、on/offの時間は例えば0.5secである。透過流量は、図5(b)に示すように気体圧力の変動に追従して同様に変動する。例えば、音波発振器110の出力offの状態(一定の気体圧力P0)の透過流量が1.0cm/s・cmであるとき、音波発振器110の出力onによりこの1.0cm/s・cmの透過流量を中心に音圧により0.005cm/s・cmの変動が行なわれる。
【0038】
続いて、流路コンダクタンスの計測方法を図6を用いて説明する。図6は、多孔質材料が有する種々の孔径の細孔に対する流路コンダクタンスを求める計測フローの例を示した図である(正確には、図4に示した多孔質材料評価装置11の制御部51の制御のフローということになる)。なお、計測に当たっては、先に示した図1、図3と同様の条件とするために、検査液80には水を、検査用気体70は空気を用い、試料21を湿潤させる前に乾燥流量を測っている。また、計測開始前の状態は、気体圧力の圧力は「0」に、音波発振器110は出力offの状態になっているものとする。
【0039】
図6において、まず制御部51は段階的に気体圧力を上昇させるカウンタをi=0として初期化する。続いて、制御弁61を制御して検査用気体70の圧力Pを初期圧力となるように調圧する。初期圧力は、検査用気体70が試料21を通って透過を始める前の圧力とする。予め本番前の予備計測で検査用気体70の透過開始の圧力を求めておき、この圧力を初期圧力として制御部50に設定しておけばよい(図6のステップS1、S2。以降、単に(S1、S2)と書く)。
【0040】
音波発振器110を出力off(i=0では既に出力offとなっている)し、カウントアップ(i=i+1)する。そして、検査用気体70の圧力をΔP増加させ(即ち、P=P+ΔP)、このときの気体圧力P(i)と透過流量Qw(P(i))を計測する(S3〜S7)。
【0041】
透過流量Qw(P(i))は未だ音圧を加えていない状態の圧力P(i)における透過流量で、検査の終了を判断するのに用いる。S8において、計測した透過流量Qw(P(i))が予め計測しておいた圧力Pにおける乾燥流量Qd(P(i))より少ないときは未測定の細孔が存在すると判断して次のステップに進むが、透過流量Qw(P(i))が乾燥流量Qd(P(i))と等しくなったときは全ての細孔から気体の透過が行なわれたとして計測を終了する。なお、乾燥流量Qd(P(i))は、気体圧力P(i)のときの乾燥流量である(S8)。
【0042】
計測した圧力P(i)において、圧力P(i)に対応する細孔の孔径(半径r)を前述した(3)式を用いて求める。続いて、制御部51は音波発振器110の出力をonとして圧力P(i)に音圧を加え、透過流量Q(i)を計測する(S9〜S11)。
【0043】
次のステップに進んで、カウンタiが1以下であればステップ3に戻り、そうでなければ次のS13に進む。即ち、i=1の最初の計測ではS3に戻ってΔP圧力を増加させた計測を行なうことになる(S12)。
【0044】
S13において、カウンタがiとi−1のときに計測した透過流量と気体圧力のそれぞれの増加分ΔQとΔPを求め、さらにそれらの比率Q’=ΔQ/ΔPを求める。続いて、流路コンダクタンスを前述した(2)式から求める。求めた流路コンダクタンスはS9で求めた孔径r(i)の流路コンダクタンスである(S13、S14)。
【0045】
図6に示した計測フローにより、各孔径に対する流路コンダクタンスを求めることができる。各孔径の流量を求めるには、流路コンダクタンスに圧力P(i)を乗じてやればよい。また、このようにして求めた流路コンダクタンスは、図7に示される。図7は先に示した図3に合せて描いた図で、流量のグラフは図3と同一である。流路コンダクタンスが孔径5μm以下の大きさで安定して求められていることが分かる。
【0046】
(実施例その2)
実施例その1では気室23に音圧発生器100を備えて試料21を透過する検査用気体を周期的に変動させることを行なったが、実施例その2は実施例その1と同様に気室23に音圧発生器100を備えるが、音圧により試料21を振動させものである。試料21を振動させることにより、細孔の開口部に纏わり付く気泡を強制的に振るい落とすことを行なうものである。
【0047】
図8に実施例その2における多孔質材料評価装置12の構成例を示す。多孔質材料評価装置12は、図4に示した実施例その1の多孔質材料評価装置11の構成例と較べて、位相検波装置200がなく、制御部52の機能が制御部51と異なり、試料チャンバー20の狭持部22の試料21を狭持する部分に支持部材25を備えている点で異なる。
【0048】
制御部52は、流量の計測信号を流量計40から取り込む点で制御51と異なる(計測信号を取り込む点では、従来方法として説明した制御部50と同一である)。なお、音波発振器110のon−offの制御は、制御部51と同様に行なっている。
【0049】
支持部材25は、狭持部22にあって試料21の周辺部を支持し、試料21の振動を妨げないようにするものである。例えば低硬度(硬度5°〜10°)のシリコンゴムは振動する試料21を支持するのに適している。
【0050】
音圧発生器100の周波数は、固有振動を起こさせないために前述と同様の200Hz程度でよい。また、音圧発生器100を駆動するための電力は、実施例その1ではごく僅かの電力で良かったが、実施例その2では試料21自体を振動させるので遥かに大きな電力を必要とする。音圧発生器100からの音波の出力が90db程度であれば、試料21を振動させることができるので、その出力が得られる電力を印加するようにすればよい。
【0051】
多孔質材料評価装置12を用いた流路コンダクタンスの求め方は、基本的には従来方法で説明した気体圧力に対する透過流量を計測し、それらの計測値から圧力変動に対する透過流量の変動を微分して求める。但し、実施例その2では試料21を振動させているので、透過流量値は所定時間(例えば、0.5sec)に計測した計測値の平均値を用いるようにすればよい。また、気体圧力の計測は、音圧の影響を避けるため音波発振器110をoffにした状態のときに計測する。
【0052】
以上、本発明の多孔質材料評価方法と多孔質材料評価装置の実施例を説明したが、これらは上記した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0053】
10 多孔質材料評価装置
11 (実施例その1の)多孔質材料評価装置
12 (実施例その2の)多孔質材料評価装置
20 試料チャンバー
21 試料
22 狭持部
23 気室
24 液室
25 支持部材
30 圧力計
40 流量計
50 制御部
51 (実施例その1の)制御部
52 (実施例その2の)制御部
60 ガスボンベ
61 制御弁
70 検査用気体
71 気泡
72 (排気された)検査用気体
80 検査液
90 気体圧力
91 表面張力
100 音圧発生器
110 音波発振器
200 位相検波装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の多孔質材料の第1の面を検査液に接触させ、該多孔質材料を湿潤させる湿潤手順と、
所定の気体圧力に一定周期の音波に基づく音圧変動を加えた検査用気体を前記多孔質材料の第2の面に印加し、該多孔質材料を介して前記第1の面に該検査用気体を透過させる気体透過手順と、
前記気体透過手順によって前記第1の面を透過した検査用気体の流量を計測する計測手順と、
を有することを特徴とする多孔質材料評価方法。
【請求項2】
前記計測手順における前記検査用気体の流量の計測は、前記音波の信号を参照信号とし、検出された該流量の検出信号から該参照信号が有する周波数に等しい周波数成分を計測信号として抽出して計測する
ことを特徴とする請求項1に記載の多孔質材料評価方法。
【請求項3】
前記気体透過手順において発生する音波の周期は、該音波を印加する空間の固有振動数より低い
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の多孔質材料評価方法。
【請求項4】
検査液を入れる液室と検査用気体を導入する気室とを有し、該液室と該気室との間に板状の多孔質材料を狭持し、該狭持された多孔質材料の表面が該液室と該気室とに露出するように配置される狭持部を有するチャンバと、
前記気室に設けられ、前記導入された検査用気体の気体圧力に加える音波の音圧を発生する音圧発生器と、
前記導入された気体圧力を計測する圧力計測手段と、
前記気室から前記多孔質材料を介して前記液室に透過する該検査用気体の流量を計測する流量計測手段と、
前記検査用気体を所定の気体圧力に調圧し、調圧された検査用気体を前記気室に導入し、前記圧力計測手段と前記流量計測手段とに計測指示を行なって該圧力計測手段と該流量計測手段とから計測結果を取得する制御手段と
を有することを特徴とする多孔質材料評価装置。
【請求項5】
板状の多孔質材料の第1の面を検査液に接触させ、該多孔質材料を湿潤させる湿潤手順と、
音波に基づく音圧変動を前記多孔質材料に印加し、該多孔質材料を振動させる振動手段と、
所定の気体圧力の検査用気体を前記多孔質材料の第2の面に印加し、該多孔質材料を介して前記第1の面に該検査用気体を透過させる気体透過手順と、
前記気体透過手順によって前記第1の面を透過した検査用気体の流量を計測する計測手順と、
を有することを特徴とする多孔質材料評価方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−88269(P2013−88269A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228471(P2011−228471)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)