説明

多孔質無機膜及びその製造方法並びにこれを用いた電解質膜、燃料電池及び化学センサー

【課題】 膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有する多孔質無機膜及び製造方法並びに電解質膜、燃料電池及び化学センサーを提供する。
【解決手段】 本膜(100)は、膜面に開口して配向配列された柱状細孔(102)を有する。本方法は、棒状の高分子(200)の長手方向の一端が基体(300)表面を向くように配向させて高分子を配列する工程と、高分子が配列された基体表面にゾル層を形成する工程と、ゾル層を固化してなる固化層(400)を熱処理して固化層内から高分子(200)を取り除く工程と、を備える。上記高分子は、主鎖(螺旋構造を有するポリペプチド)と、主鎖に結合され且つ溶媒中で高分子同士を反発させる側鎖(アミノ基、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基)と、主鎖の一端に結合され、基体表面に対する親和性を有する末端基(硫黄元素を含む基)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質無機膜及びその製造方法並びにこれを用いた電解質膜、燃料電池及び化学センサーに関する。更に詳しくは、膜面に対して開口するように配向して配列された複数の柱状細孔を有する多孔質無機膜及びその製造方法並びにこれを用いた電解質膜、燃料電池及び化学センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質無機膜を製造する方法としては、高分子体を鋳型として用いる方法が知られている。この方法によると、鋳型となる高分子体を膜面(即ち、膜面となることが予定された未完成膜体面)に対して平行に配列させて膜面に対して平行な孔を有した多孔質無機膜や、未完成膜体中に高分子体を不規則に配列させて3次元的に連通した孔を有した多孔質無機膜が得られることが知られている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−106200号公報
【非特許文献1】赤堀四郎、金子武夫、成田耕造編「タンパク質化学Iアミノ酸・ペプチド」共立出版、1969年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の多孔質無機膜は、例えば、プロトン伝導性の材料で構成することによりプロトン伝導膜として用いることができる。ところが、膜面に対して平行な孔を有するプロトン伝導膜では、膜厚方向に対するプロトンの伝導を制御することが困難であり、十分なプロトン伝導性を得るには至っていない。また、三次元的に連通する孔を有するプロトン伝導膜も同様に十分なプロトン伝導性を得るには至っていない。
本発明は上記課題を解決するものであり、膜面に対して開口するように配向して配列された複数の柱状細孔を有する多孔質無機膜及びその製造方法並びにこれを用いた電解質膜、燃料電池及び化学センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有する多孔質無機膜の製造方法であって、
複数の棒状の高分子を、該高分子の長手方向の一端が基体表面を向くように配向させて、該基体表面に配列する高分子配列工程と、
該高分子が配列された該基体表面にゾル層を形成するゾル層形成工程と、
該ゾル層を固化してなる固化層を熱処理して該固化層内から該高分子を取り除く高分子除去工程と、を備えることを特徴とする多孔質無機膜の製造方法。
(2)上記高分子は、主鎖と、該主鎖に結合され且つ溶媒中で該高分子同士を反発させる側鎖と、該主鎖の一端に結合され、上記基体表面に対する親和性を有する末端基と、を備える上記(1)に記載の多孔質無機膜の製造方法。
(3)上記主鎖は、螺旋構造を有するポリペプチドである上記(2)に記載の多孔質無機膜の製造方法。
(4)上記末端基は、硫黄元素を含む基を備える上記(2)又は(3)に記載の多孔質無機膜の製造方法。
(5)上記側鎖は、アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも1種を備える上記(2)乃至(4)のうちのいずれかに記載の多孔質無機膜の製造方法。
(6)上記基体表面は、貴金属又は貴金属元素を含有する金属材料からなる上記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の多孔質無機膜の製造方法。
(7)膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有することを特徴とする多孔質無機膜。
(8)上記柱状細孔は、該柱状細孔の長手方向と本多孔質無機膜の膜厚方向とのなす平均角度が65度以下である上記(7)に記載の多孔質無機膜。
(9)上記柱状細孔の鋳型となる棒状の高分子を、該高分子の長手方向の一端が基体表面に向くように配向させて配列させた後、該基体表面にゾル層を形成し、次いで、該ゾル層を固化した後、該高分子を取り除いて得られた上記(7)又は(8)記載の多孔質無機膜。
(10)上記(7)乃至(9)のうちのいずれかに記載の多孔質無機膜を用いたことを特徴とする電解質膜。
(11)上記(10)に記載の電解質膜を用いたことを特徴とする燃料電池。
(12)上記(10)に記載の電解質膜を用いたことを特徴とする化学センサー。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有する多孔質無機膜を得ることができる。また、優れた配向性を示し、膜面に対してより直角に近い角度で柱状細孔を配向させた多孔質無機膜を得ることができる。
高分子が主鎖と所定の側鎖と所定の末端基とを備える場合は、特に優れた配向性が得られ、更に膜面に対してより直角に近い角度で柱状細孔を配向させた多孔質無機膜を得ることができる。
主鎖が螺旋構造を有するポリペプチドである場合は、特に形状安定性のよい柱状細孔を有した多孔質無機膜が得られる。
末端基が硫黄元素を含む基を備える場合は、基体表面に対し優れた配向性をもって高分子を配列することができ、特に金属材料からなる基体表面に対し高い配向性をもって高分子を配列することができる。末端基が硫黄元素を含む基を備える場合は、優れた配向性を得ることができ、特に金属に対して高い配向性を得ることができる。また、末端基に硫黄元素を含む基を用いることで、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基等を用いた場合にも、基体表面に対する高分子の高い配向性を確保することができる。更に、外部エネルギー等を用いて高分子を配向させる必要がなく、自己作用で配向させることができるために、安定性、利便性及び経済性に優れる。
側鎖がアミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも1種を備える場合は、高分子間に優れた反発性を得ることができ、高分子の優れた配向性を得ることができる。また、特に高分子溶媒として水を用いることができ、利便性、安全性及び経済性に優れる。
基体表面が貴金属又は貴金属元素を含有する金属材料からなる場合は、特に硫黄元素を含有する末端基を備える場合に基体表面に対する高分子の優れた配向性を、高分子の自己作用により得ることができる。
本発明の多孔質無機膜によれば、膜面に対して開口するように配向して配列された複数の柱状細孔を有する形状とすることができる。これにより、イオン伝導性が向上された多孔質無機膜、更には電解質膜を得ることができる。例えば、多孔質無機膜がプロトン伝導性の材料で構成したプロトン伝導膜の場合では、プロトン伝導膜が膜面に対して垂直方向に開口された細孔を有しているため、プロトンの膜厚方向への移動が容易となり、プロトン伝導度が向上されたプロトン伝導膜とすることができる。
柱状細孔の長手方向と膜厚方向とのなす平均角度が65度以下である場合には、特に膜面に対して垂直に近い角度で配向されているために、高いイオン伝導性を得ることが可能となる。
所定の方法で得られた多孔質無機膜は、特に優れた配向性を示し、更に膜面に対してより直角に近い角度で配向させることができる。
本発明の電解質膜によれば、膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有する形状とすることができる。これにより、イオン伝導性が向上された多孔質無機膜、更には電解質膜を得ることができる。
本発明の燃料電池によれば、高い発電効率を得ることが可能となる。
本発明の化学センサーによれば、高い検知性能を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]多孔質無機膜
本発明の多孔質無機膜(図1における100)は、膜面(図1における101)に対して開口するように配向して配列された柱状細孔(図1における102)を有することを特徴とする。
【0008】
上記「膜面に対して開口する」とは、膜厚方向に対して柱状細孔が配向されて、膜面に柱状細孔が開口されていることを意味する。即ち、膜面に柱状細孔が開口するために、この柱状細孔は膜面に水平(即ち、膜厚方向に対して垂直方向)には配向されない。また、通常、柱状細孔は膜面の表裏両面に貫通して開口される。但し、膜面の一面にのみ開口されてもよい。この場合は膜厚全体に対して、通常、80%以上(更には90%以上)の深さを有する。
【0009】
上記「柱状細孔」は、細長い孔であり、長手方向におおよそ同じ径(幅)を有する孔である。但し、この柱状細孔はほぼ柱状であることを意味し、例えば、螺旋状や蛇腹状等の形状を含むものである。
この柱状細孔の大きさ及び長さ等は特に限定されない。例えば、柱状細孔の平均孔径は1〜20nm(更には1〜10nm、特に1〜5nm)とすることができる。但し、平均孔径とは、柱状細孔の断面が略円径である場合は平均直径を意味し、柱状細孔の断面が略円形以外である場合は平均最小幅を意味する。この柱状細孔の平均孔径は、製造時に用いる鋳型高分子の外径により制御できる。また、例えば、柱状細孔の長さは5〜200nm(更には20〜200nm、特に100〜200nm)とすることができる。この柱状細孔の長さは、製造時に用いる鋳型高分子の長さ及び多孔質無機膜の膜厚で制御することができる。柱状細孔のアスペクト比は特に限定されないが、アスペクト比3以上(更に5以上、特に7以上、通常200以下)とすることができる。
【0010】
また、柱状細孔の密度は特に限定されず用途等により適宜とすればよい。例えば、本多孔質無機膜は50nm四方あたりに1個以上(更には2個以上、特に5個以上)の柱状細孔を有するものとすることができる。この柱状細孔の密度は、製造時に用いる鋳型高分子の外径及び鋳型高分子を構成する側鎖(反発性側鎖)同士の反発力等で制御できる。
【0011】
また、ヘキサゴナル構造に柱状細孔が配列されたものとすることができる。この場合、通常、50nm四方あたりに5個以上の柱状細孔を有する。ヘキサゴナル構造である場合、多孔質無機膜のX線回折測定によるチャートにおいて(n00)面及び(n10)面のうちの少なくとも(n00)面のピークが認められる(但し、nは1〜5)。更に、柱状細孔の細孔間距離は特に限定されないが、柱状細孔の中心間の距離を、例えば、50nm以下(更には40nm以下、特に30nm以下、通常3nm以上)にすることができる。
【0012】
更に、柱状細孔の膜厚方向に対する配向角度は特に限定されないが、柱状細孔の長手方向と多孔質無機膜の膜厚方向とのなす平均角度(以下、単に「平均配向角」という。図7及び図8におけるγ)を65度以下(更には60度以下、より更に55度以下、特に50度以下、0度であってもよい)にすることができる。この平均配向角は、鋳型高分子の側鎖(反発性側鎖)の種類、側鎖の密度、後述する高分子配列工程で用いる溶媒、ゾル層を構成する溶媒及び加水分解成分等により制御することができる。
【0013】
また、本多孔質無機膜を構成する無機材料は特に限定されず各種無機材料を用いることができるが、通常、この無機材料は無機酸化物である。無機酸化物としては、Si、Zr、Ti、Al、P、W及びB等の元素を含む酸化物(SiO、ZrO、TiO、Al、P、WO及びB等)が挙げられる。これらの元素は1種のみ含有されてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのなかでも構造体として十分な強度を発揮でき、化学的安定性、熱的安定性に優れるためにSi、Zr、Ti及びAlのうちの少なくとも1種の元素を主成分とする酸化物が好ましい。更に、これらのなかでもゲル層の形成が容易であるためSiOが特に好ましい。SiOを主成分とする場合、このSiOの含有量は特に限定されないが、多孔質無機膜全体を100質量%とした場合にSiOを50質量%以上(より好ましくは80質量%以上、100質量%であってもよい)含有することが好ましい。また、プロトン伝導性膜を目的とする場合にはPがPとして更に含有されることが好ましい。Pの含有量は特に限定されないが、多孔質無機膜全体を100質量%とした場合にPは30質量%以下(より好ましくは40質量%以下、通常2質量%以上)含有されることが好ましい。
【0014】
[2]多孔質無機膜の製造方法
本発明の多孔質無機膜の製造方法は、高分子配列工程と、ゲル層形成工程と、高分子除去工程と、を備えることを特徴とする(図2参照)。
【0015】
上記「高分子配列工程」は、棒状の高分子の長手方向の一端が基体(図3の300)表面を向くように高分子を配向させて配列する工程である。
【0016】
上記「高分子」は、多孔質無機膜の柱状細孔を形成する鋳型となる高分子(鋳型高分子)である。この高分子は棒状を呈し、長手方向におおよそ同じ径(幅)を有する。但し、棒状とは、高分子の形状がほぼ棒状であることを意味し、例えば、螺旋状や蛇腹状等の形状を含むものである。また、この高分子は、Si等の無機元素を含有するものであってもよいが、通常、有機高分子である。
更に、高分子(図3の200)の構造は特に限定されないが、主鎖(図3の201)と、主鎖に結合され且つ溶媒中で高分子同士を反発させる側鎖(図3の202)と、主鎖の一端に結合され且つ基体表面に対する親和性を有する末端基(図3の203)と、を備える高分子が好ましい。この高分子のアスペクト比は特に限定されいが、アスペクト比3以上(更に5以上、特に7以上、通常200以下)が好ましい。
【0017】
上記「主鎖」は、高分子の主要部分を構成し、高分子のおおよその形状を決定する部位である。この主鎖としては各種の剛直な高分子を用いることができる。この主鎖は、合成高分子であってもよく、天然高分子であってもよい。主鎖としては、例えば、螺旋構造を有するポリペプチド、繊維状タンパク質(コラーゲン、ミオシン、ケラチン、エラスチン等)、繊維状ポリ乳酸、繊維状ポリ尿素及びセルロース等が挙げられる。これらのなかでも、螺旋構造を有するポリペプチドが好ましい。
【0018】
このポリペプチドとしては、グルタミン、グルタミン酸、各種グルタミンエステル化合物、各種グルタミン酸エステル、アラニン、グリシン、ロイシン、イソロイシン等の各種アミノ酸が重縮合されてなるポリペプチドが好ましい。これらのアミノ酸は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアミノ酸を用いたポリペプチドは螺旋形成能力が高いため安定で剛直な螺旋構造を形成し易い。また、主鎖の大きさ(長さ及び径等)を制御し易い。更に、これらの各ペプチド化合物のなかでも、グルタミン、グルタミン酸、各種グルタミンエステル化合物等のアミノ酸が重縮合されたポリグルタメート類がより好ましく、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)及びポリ(γ−アルキル−L−グルタメート)等が特に好ましい。これらの各ペプチド化合物は主鎖内に1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
尚、上記螺旋構造を有するポリペプチドは、特にプロトン伝導性電解質等の細孔径が小さい多孔質無機膜の製造を目的とする場合には好ましい。孔径の小さい柱状細孔の制御に適するからである。一方、例えば、より大きい孔径の柱状細孔を有する触媒担体等の製造を目的とする場合には繊維状タンパク質等が好ましい。大きい柱状細孔の制御に適するからである。
【0020】
上記「側鎖」は、主鎖に結合され且つ溶媒中で高分子同士を反発させる基を有する側鎖である。各高分子に導入された側鎖同士が溶媒中で反発することにより高分子同士間に反発力を生じ、高分子を基体表面に配向して配列させることができる。この側鎖は上記反発性を得るために極性基を備えることが好ましい。即ち、極性基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ポリエーテル基(特にポリアルキレンエーテル基、更にはポリエチレンオキサイド等)ハロゲン化アルキル基、ニトロ基、ニトリル基及びホルミル基等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
更に、この極性基は親水性を有する親水性基であることが好ましい。溶媒の選択がし易いからである。即ち、親水性基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びエステル基が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、この親水性基は溶媒中でイオンとなるイオン性の基(以下、単に「イオン性基」という)であることが好ましい。特に優れた反発性が得られるからである。即ち、イオン性基としては、アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基が挙げられ、これらのなかでもアミノ基及びカルボキシル基が好ましく、特にアミノ基が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、これらの反発性を発揮する基は、側鎖のなかでもより末端に近い部分に結合されていることが好ましい。即ち、アミノ基末端、カルボキシル基末端、ヒドロキシル基末端を有することが好ましく、アミノ基末端及びカルボキシル基末端がより好ましく、このうちアミノ基末端が特に好ましい。尚、これらのイオン性基は、そのイオン性(各イオン性基の解離度)を制御するために、溶媒のpH調整を行ってもよい。
【0022】
従って、上記イオン性基を備える側鎖として導入する化合物としては、アルキルアミン(アミノ基は1つ又は2つ以上、通常炭素数1〜15程度、好ましくは炭素数4〜10程度)、アルキルカルボン酸(カルボキシル基は1つ又は2つ以上、通常炭素数1〜15程度、好ましくは炭素数4〜10程度)、ポリアルキレングリコール(通常炭素数1〜15程度、好ましくは炭素数4〜10程度)等が挙げられる。これらのなかでも、上記のようにアルキルアミンが好ましい。このアルキルアミンとしては、1,6−ジアミノヘキサン、1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオキサン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン及び1,12−ジアミノドデカン等が挙げられる。
【0023】
また、この溶媒中で高分子同士を反発させる基を有する側鎖の数は特に限定されないが、この側鎖を備える構成単位が、高分子全体を構成する構成単位100%に対して50%以上(より好ましくは80%以上、100モル%であってもよい)含まれることが好ましい。これにより前記平均配向角をより小さくすることができる。即ち、基体表面に対して高分子をより垂直に近い角度で配向させることができるからである。
【0024】
更に、この側鎖は、その嵩高さを変化させることで、得られる柱状細孔の孔径を制御することができる。即ち、側鎖の嵩高さを大きくすることにより、多孔質無機膜における柱状細孔の孔径を大きくすることができる。また、嵩高さを小さくすることでより小さな孔径の柱状細孔を得ることができる。これらの嵩高さは、目的とする多孔質無機膜の用途等により適宜の大きさとすることが好ましい。
【0025】
上記「末端部」は、主鎖の一端に結合され且つ基体表面に対する親和性を有する基である。この末端基を有することにより高分子は、末端基の親和性を利用する(結合性を利用してもよい)ことにより、高分子の長手方向の一端を基体表面に向くように配向して規則的に配列することができる。
【0026】
上記のうち基体に対する親和性を有する基とは、極性基等が挙げられる。極性基としては、硫黄元素(原子及びイオンを含む、以下同様)を含む基、窒素元素を含む基及び酸素元素を含む基等のヘテロ元素を含む基が挙げられる。即ち、例えば、ジスルフィド基(−S−S−)、チオール基(−SH)、スルフィニル基(−SO−)、スルホニル基(−SO−)、ヘテロ原子を含む複素環基、ヘテロ原子を含む縮合複素環基、ニトリル基(−CN)、アミノ基(−NH)、カルボキシル基(−COOH)、ニトロ基(−NO)等が挙げられる。但し、これらの基が単独で(即ち、例えばニトリル基が単独で)末端基を構成する場合を含む。
【0027】
上記ヘテロ原子を含む複素環基としては、チオフェン骨格(−S−を有する複素5員環骨格)を有する基、イソチアゾール骨格(−S−N=を有する複素5員環骨格)を有する基、ナフチリジン骨格(−N=を有する複素12員環骨格)を有する基、ピラゾール骨格(−NH−N=を有する複素5員環骨格)を有する基、ピリダジン骨格(−N=N−を有する複素6員環骨格)を有する基、フタラジン骨格(=N−N=を有する複素12員環骨格)を有する基、イソオキサゾール骨格(−O−N=を有する複素5員環骨格)を有する基等が挙げられる。これらの基は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
これらの基のなかでも、硫黄元素を含む基が好ましく、更には、ジスルフィド基及びチオール基が好ましく、特にジスルフィド基が好ましい。ジスルフィド基はどのような構造中に含まれてもよいが、例えば、末端部にジチオラン骨格(−S−S−部を有する複素5員環骨格)を有する基(リポ酸に由来する基など)等が挙げられる。
これらの極性基は、特に基体表面が金属質である場合に適用することが好ましい。
【0029】
また、結合性を利用する場合、即ち、基体表面に対する結合性を有する基としては、カップリング基が挙げられる。即ち、カップリング基としては、例えば、トリメトキシシリル基及びトリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、トリクロロシリル基等のハロゲン化シリル基等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのカップリング基は基体表面が酸化金属質(例えば、SiO及びTiO等)である場合に適用することが特に好ましい。
【0030】
更に、例えば、結合性を有する基としては、基体表面にカルボキシル基が付着されている場合にはアミノ基等のカルボキシル基と縮合可能な基が挙げられる(基体表面にアミノ基が付着され、末端基がカルボキシル基であってもよい)。上記基体表面が修飾されている場合には、基体表面にSi及びTi等が含有され、この表面に対してカップリング処理により結合されたカップリング剤の他端がカルボキシル基である場合等が含まれる。更に、基板表面がアビチンタンパク質で修飾されている場合には、ビオチン化合物基を末端基として用いることができる(基体表面がビオチン化合物により修飾されている場合にはこの逆とすることができる)。
【0031】
上記「基体表面」は、この表面を構成する構成材料は特に限定されず、前記のように末端基と親和性を有する材料であればよい。即ち、例えば、貴金属からなる表面であってもよく、貴金属元素を含む金属材料からなる表面であってもよく、酸化金属からなる表面であってもよく、酸化金属を含む表面であってもよく、有機化合物からなる表面であってもよく、カップリング剤により処理された表面であってもよい。
【0032】
これらのなかでも、前記末端基がジスルフィド基である場合には、貴金属からなる表面(例えば、構成材料全体の90%以上を貴金属が構成する表面)及び貴金属元素を含有する金属材料からなる表面{例えば、構成材料全体の30%以上(90%未満)を貴金属が構成する表面}が好ましく、特に貴金属からなる(実質的に貴金属からなる)表面が好ましい。貴金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミニウム、イリジウム、白金及び金が挙げられるが、これらのなかでも、金、銀、白金及びパラジウムが好ましく、金、銀及び白金が特に好ましく、とりわけ金が好ましい。
【0033】
また、上記末端基のなかでも末端基が上記硫黄元素を含む基であり、上記基体表面のなかでも基体表面が上記貴金属からなる表面又は上記貴金属元素を含有する金属材料からなる表面である場合には、側鎖は上記側鎖のなかでも上記アミノ基、上記カルボキシル基及び上記ヒドロキシル基のうちの少なくとも1種を備える側鎖であることが特に好ましい。この三者の組合せでは、特に平均配向角を小さくすることができる。即ち、貴金属(特に金)と親和性の高い硫黄元素を含む基により高分子の長手方向の一端を配向させつつ、高分子同士を反発させる側鎖の基体表面への親和性は硫黄元素を含む基よりも小さくすることができ、高分子と基体表面との間の配向性をより巧く制御できるからである。
【0034】
上記「配列」させる方法は特に限定されないが、高分子を溶媒に溶解させて得られた高分子溶液を用いることが好ましい。更に、配列させる際には、この高分子溶液に基体を浸漬して配列してもよく、基体に高分子溶液を塗布(ディップコート、スピンコ−ト、カーテンコート、スクリーン印刷等各種方法を含む)して配列させてもよいが、浸漬により配列させることが好ましい。即ち、高分子配列工程は、棒状の高分子を溶媒に溶解させた後、この溶媒に基体を浸漬して棒状の高分子をこの高分子の長手方向の一端が基体表面を向くように配向させて基体表面に配列する工程であることが好ましい。例えば、末端基が基体表面に対して親和性を有する基である場合には、浸漬するだけで、末端基の親和性により基体表面に配向されることとなる。
【0035】
更に、この際に用いる高分子溶液を構成する溶媒の種類等は特に限定されず、高分子を分解させることなく溶解させることができる溶媒であり、更には、基体を分解しない溶媒であればよい。即ち、この溶媒は、水であってもよく、有機溶媒であってもよく、これらの混合溶媒であってもよい。これらは、側鎖の種類、末端基の種類及び基体表面を構成する材料等により適宜選択できる。即ち、例えば、前記側鎖として親水性基を備える場合には、水、アルコール系有機溶媒、及び水とアルコール系有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい。更に、親水性基のなかでも、イオン性を発揮し得る基を有する場合は、水及び水とアルコール系有機溶媒との混合溶媒が好ましく、特に水が好ましい。
即ち、例えば、溶媒としては、水、アルコール類{アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)、ハロゲン化アルコール(トリフルオロエタノール等)など}等が挙げられる。これらのなかでは、水及びアルコール類が好ましく、特に水が好ましい。
【0036】
上記「ゾル層形成工程」は、高分子が配列された基体表面にゾル層を形成する工程である。ゾル層の形成方法は特に限定されず、ゾルゲル法によりゾル層を形成してもよく、ゲル化されないゾル層を形成してもよい。これらのうちでは、より強固で強度の高い固化層(図2の400)を得ることができ、付形性に優れるためゾルゲル法によるゾル層を形成することが好ましい。即ち、ゾル層形成工程は、高分子が配列された基体表面にゾルゲル法を用いてゾル層を形成する工程であることが好ましい。
【0037】
上記ゾルのうちゾルゲル法によるゾルは、通常、構造材料源、ゾルゲル触媒及び水を含有する。
上記構造材料源は、多孔質無機膜を構成する構造材料となる元素を含む化合物であり、例えば、各種アルコキシド(アルコキシシラン、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド等)、各種金属元素の水溶性塩(珪酸ナトリウム、珪酸リチウム等)、コロイダル金属酸化物(コロイダルシリカ等)などが挙げられる。これらのなかでも各種アルコキシドが好ましく、特に主成分としてアルコキシシランを用いることが好ましい。このアルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)エタン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、リン元素を含有させる場合には、P(O)(OC2n+1からなるアルコキシド等を用いることが好ましい。これらのなかでも、nが3〜5の化合物が好ましい。
【0038】
また、上記ゾルゲル触媒としては、酸、塩基及びアミン化合物等を用いることができる。これらのなかでは、酸及び塩基が好ましい。酸としては塩酸、硫酸、硝酸及びこれらの水溶液等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、塩基としてはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物及びこれらの水溶液等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
このゾルは、構造材料源、ゾルゲル触媒及び水以外にも他の成分を含有することができる。他の成分としては、ゾルの粘度調整成分(アルコール等)、分散剤(界面活性剤等)、ゾルゲル反応促進成分等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一方、ゲル化されないゾルとしては、微粒子状の構造材料源が媒体に分散された分散液が挙げられる。この場合の構造材料源としては、各種セラミックスの微粒子(10μm以下)が挙げられる。即ち、ジルコニア微粒子、チタニア微粒子、アルミナ微粒子等が挙げられる。これらのセラミックス微粒子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記ゾルの膜化方法(被覆方法)は特に限定されない。即ち、例えば、ディッピング、スピンコ−ト、カーテンコート、各種印刷等の各種方法を用いることができる。また、膜化する際には、基体表面に配列された高分子の長さを目安にして膜化することが好ましい。即ち、高分子の長さに対して過度に厚いゾル層を形成すると、柱状細孔が形成され難いからである。このゾルの膜化に際してはゾルの粘度と膜厚との相関とを予め測定し、この相関を用いてゾルの粘度調整を行って膜化することが好ましい。
【0040】
また、ゾル層の固化方法は特に限定れないが、例えば、各種アルコキシドをゾルの主成分として用いたゾルゲル法によるゾル層の場合には、ゾルゲル触媒の作用により加水分解が進行し、次第に固化(ゲル化)が進行し、固化層(ゲル層)となる。更に、含有される水を除去(一部又は全部の除去を含む)することでゲル化が完了される。一方、ゲル化されないゾルを用いた場合には、ゾルを構成する媒体を除去することで固化されて固化層を得ることができる。
【0041】
尚、ゾルに含有される成分としては、高分子を分解せず、高分子の配向状態を大きく変化させない成分を選択する。例えば、高分子配列工程で基板表面に配列された際の高分子の平均配向角と、ゾル層を形成した後の平均配向角とは一致しても一致しなくてもよいが、平均配向角が保持されるか又はより小さい平均配向角となるように各種成分を選択することが好ましい。
【0042】
上記「高分子除去工程」は、ゾル層を固化してなる固化層を熱処理して固化層内から高分子を取り除く工程である。熱処理は簡便に施すことができ、また、高分子の除去も確実に行うことができる。
この熱処理は、高分子を焼失(熱分解及び昇華等どのような形態であってもよい)させることができる温度で加熱する処理である。また、熱処理はどのような方法で行ってもよく、例えば、大気中で行ってもよく、不活性雰囲気中で行ってもよく、還元性雰囲気中で行ってもよく、これらを組み合わせて行ってもよい。更に、熱処理は、1回のみで行ってもよく、工程を区切って数回に分けて行ってもよい。工程を区切って行う場合には、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0043】
また、熱処理温度は特に限定されず、高分子に応じた温度で行うことができる。例えば、主鎖が螺旋構造を有するポリペプチドからなる高分子である場合には、最高温度を400℃以上(より好ましくは600℃以上、通常900℃以下)とすることが好ましい。更に、昇温速度は特に限定されないが、例えば、50℃/分以下(より好ましくは5℃/分以下、通常0.1℃/分以上)の昇温速度が好ましい。この範囲の昇温速度とすることで得られる多孔質無機膜中の残炭を防止できるからである。尚、上記基体はそのまま多孔質無機膜に付属させた状態で使用できる。
【0044】
[3]電解質膜
本発明の電解質膜は、本発明の多孔質無機膜を用いたことを特徴とする。この電解質膜は、通常、本発明の多孔質無機膜のみからなる。この電解質膜の製造方法では、ゾルゲル法を用いることが好ましい。この理由は前述の通りである。また、実際に電解質膜として機能させるためには、通常、電極を要する。電極は、例えば、導電性金属及び固体電解質等から形成できる。
【0045】
[4]燃料電池
本発明の燃料電池(500)は、本発明の電解質膜を用いたことを特徴とする。この燃料電池の構成は特に限定されないが、通常、電解質膜(511、521)及びこの電解質膜を挟む一対の電極(512及び513、522及び523)を備える。この電極は、例えば、導電性金属及び固体電解質により形成できる。
この電極としては、前記基体表面が金属材料である場合には、そのままこの金属材料からなる層を電極として用いることができる。即ち、例えば、基体の一面に金属材料層を形成し、この金属材料層の表面に多孔質無機膜を形成し、次いで、この多孔質無機膜の反対面(基体表面とは異なる面)に更に金属材料層を形成することで、多孔質無機膜(電解質膜)を電極で挟持した構造を得ることができる。
【0046】
また、この電解質膜とこれを挟む一対の電極とを備える構成を単位セル(510、520)とした場合には、この単位セル(510、520)は、1つのみで用いてもよく、2つ以上を併用してもよい。2つ以上を併用する場合には、各単位セルは積層して使用することが好ましい。また、この際には、各単位セル間にセパレータ(530)を挟むことが好ましい。
この燃料電池で使用する燃料ガス及び支燃性ガスの種類は特に限定されないが、例えば、燃料ガスとしては水素及びメタノール等が挙げられ、支燃性ガスとしては空気及び酸素等が挙げられる。燃料ガスは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、支燃性ガスは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記セパレータ(530)を用いる場合、上記燃料ガス及び支燃性ガスは、セパレータ(530)内に設けられた燃料ガス流路(541)及び支燃性ガス流路(542)を用いて各電極表面へ供給することができる。
【0047】
[5]化学センサー
本発明の化学センサー(600)は、本発明の電解質膜(611)を用いたことを特徴とする。この化学センサーの構成は特に限定されないが、通常、電解質膜(611)及び一対の電極(612及び613)を備える。この電極は、例えば、導電性金属及び固体電解質により形成できる。
この電極としては、前記基体表面が金属材料である場合には、そのままこの金属材料からなる層を電極として用いることができる。即ち、例えば、基体の一面に金属材料層を形成し、この金属材料層の表面に多孔質無機膜を形成し、次いで、この多孔質無機膜の反対面(基体表面とは異なる面)に更に金属材料層を形成することで、多孔質無機膜(電解質膜)を電極で挟持した構造を有する化学センサーを得ることができる。更に、基体の表面に金属材料により櫛歯状の一対の電極を形成し、この櫛歯状の一対の電極の表面に多孔質無機膜を形成することで、櫛歯状電極を有する化学センサーを得ることができる。
【0048】
(1)電解質膜とこれを挟む一対の電極とを備える構成、及び、(2)櫛歯状電極とこの表面に形成された電解質膜とを備える構成、を各々単位セルとした場合には、各々単位セルは、一方のみを用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。更に、単位セルは1つのみを用いてもよく、2つ以上を併用してもよい。この化学センサーで検知する成分としては、水素、メタノール、一酸化炭素及び水(湿度)等が挙げられる。
【0049】
更に、本発明の化学センサーは上記電解質膜(611)及び電極(612及び613)以外にも他の部分を備えることができる。より具体的には、図12に示すような構成の化学センサーとすることができる。即ち、検知ガス導入孔(607)及び検知ガス排出孔(605)が設けられた金属容器(601)と、本発明の電解質膜(611)及びこれを挟む電極(612及び613)を備える素子部と、素子部を支持するアルミナ等からなる下側支持体(615)と、素子部及び下側支持体(615)とを金属容器(601)に固定するアルミナ等からなる上側支持体(614)と、スペーサー(602)と、各種Oリング(603)と、負極端子(608)と、正極端子(609)と、を備えることができる。尚、下側支持体(615)には、検知ガスを電極(612)に導くための拡散律速孔(604)が設けられている。更に、下側支持体(615)の図示下面には、電極(613)を金属容器(601)と電気的に接続するために、電極(613)と電気的に接続された電極(624)が形成されている。また、上側支持体(614)の表裏面には、互いに電気的に接続された電極(621及び623)が形成されている。従って、電極(612)は、電極(623)及び電極(621)を介して負極端子(608)と電気的に接続される。更に、拡散律速孔(604)を介して電極(613)側に導かれた検知ガスが電極(612)側に漏れることを防止する目的で、エポキシ等からなるシール部材(605)が備えられている。
検知ガスは、検知ガス拡散律速孔(604)を介して電極(613)側に導入され、電極(613)上で分解してイオンとなる。生成したイオンは電解質膜(611)を介して電極(612)側にポンピングされ、電極(612)上で再びガスとなる。電極(612)上で生成したガスは上側支持体(614)に設けられた流路を介してガス排出孔(605)からセンサー(600)外部に排出される。このとき、電極(613)上で生成したイオン(例えば、プロトン)が電解質膜(611)を伝導することによって生じた電流を測定することにより、検知ガス(例えば、水素ガス)の濃度測定を行うことができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
[1]高分子の作製
(1)螺旋構造を有するポリ(γ−ベンジルL−グルタメート){数平均分子量10000}(図4の化合物1)を出発物質として用い、このポリ(γ−ベンジルL−グルタメート)とα−DL−リポ酸(図4の化合物2)とを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いてDCC法により反応させた。この際に、化合物1と化合物2とは当量で用いた。これによりポリ(γ−ベンジルL−グルタメート)の末端アミノ基とα−DL−リポ酸のカルボキシル基とが縮合された化合物(図4の化合物3)を得た。
【0051】
(2)次いで、上記[1](1)で得られた化合物(図4の化合物3)の側鎖に配置されたベンジル基を、臭化水素酢酸溶液を用いて脱離させて化合物(図4の化合物4)を得た。
【0052】
(3)その後、上記[1](2)で得られた化合物(図4の化合物4)と、1,6−ジアミノヘキサンとを、上記と同じDCC法を用いて反応させた。これにより上記[1](2)で得られた化合物(図4の化合物4)の側鎖の末端であるカルボキシル基と1,6−ジアミノヘキサンのアミノ基とが縮合された化合物(図4の化合物5)を得た。尚、化合物4と1,6−ジアミノヘキサンとは当量で用いた。尚、本[1](3)で得られた化合物(図4の化合物5)は、ジエチルエーテルで再沈殿させて精製した。
【0053】
この化合物(図4の化合物5)は、主鎖が螺旋構造を有するポリペプチド(図4のn=40)からなり、末端基がジスルフィド基を備える1,2−ジチオラン骨格を有し、側鎖がアミノ基末端を有する高分子(Nω−(6−アミノヘキシル)−L−グルタミン)(以下、単に「SS−PAHG」という)である。得られた高分子は、理論上約7nmの長さと、2nmの径を有する。
【0054】
[2]高分子配列工程
(1)上記[1]で得られた高分子5mgを水(1ml)に溶解させた高分子水溶液、及び上記[1]で得られた高分子5mgを2,2,2−トリフルオロエタノール(以下、単に「TFE」という)に溶解させた高分子TFE溶液を各々調整した。
【0055】
(2)次いで、ガラス製の板の表面を約100nmの厚さに金で被覆した1cm四方の基体を用意し、この基体を高分子水溶液及び高分子TFE溶液の各々に4日間浸漬し、その後、各基体を引き上げた。尚、その後、乾燥させず直ぐに後述する[3](4)を行っている。
【0056】
[3]ゾル層形成工程
(1)テトラエトキシシラン(TEOS)と2−プロパノール(PrOH)と塩酸(濃度0.0044Nの塩酸水溶液として配合)とを用いて、TEOS:PrOH:HO:HCl=1:3.8:1:0.8×10−4のモル比となるように各々配合し、得られた混合物を60℃で1時間撹拌して1次ゾルを得た。
【0057】
(2)上記[3](1)で得られた1次ゾルに、更に、塩酸水溶液(濃度0.0054Nの塩酸水溶液として配合)を用いて、TEOS:PrOH:HO:HCl=1:11.4:5:0.4×10−2のモル比となるように各々配合し、得られた混合物を70℃で1時間撹拌して2次ゾルを得た。
【0058】
(3)上記[3](2)で得られた2次ゾルにPrOHを配合して、モル比でPrOHとTEOSとのモル比を1:860とし、1.5時間撹拌した後、1時間放置し、3次ゾルを得た。
【0059】
(4)上記[3](3)で得られた3次ゾルに上記[2](2)で得られた高分子が付着された各基体を浸漬し、1mm/秒の速度で3次ゾルからゆっくりと引き上げることで3次ゾルを高分子が配列された基体表面にディップコートした。
【0060】
(5)上記[3](4)で得られたゾル層が形成された各基体を、大気中に静置して24時間以上放置してゲル化を進行させてゲル膜を形成した。
【0061】
[4]高分子除去工程
上記[3](5)で得られたゲル層が形成された各基体を、焼成炉内に載置し、1℃/分で炉内温度を昇温させ、6時間かけて400℃に到達させた。
引き続き、400℃を保持したまま6時間加熱し、その後、炉内で常温(25℃)まで放冷して本発明の多孔質無機膜を得た。即ち、多孔質無機膜が形成された基体を得た。
【0062】
[5]多孔質無機膜の評価
上記[4]で得られた基板のうち、前記[2](2)で高分子水溶液を用いて得られた多孔質無機膜についてX線回折測定を行った。この測定により得られたX線チャートを図5に示す。この測定の結果、ヘキサゴナル構造の形成を示す(300)面及び(310)面のピークが認められた。これらのピークから算出される各面間距離は(300)面同士が21.1nmであり、(310)面同士が19.1nmであった。即ち、約20nmの間隔を隔てて孔がヘキサゴナルに配列されていることが分かった。
【0063】
[6]多孔質無機膜製造段階における評価
(1)高分子配列工程における高分子の平均配向角の測定
上記[1]及び[2]と同様にして2種の溶媒を用いて高分子が配列された基体を2種得た。これらの各基板を真空中で3日間乾燥させた。その後、FT−IRを用いて反射吸収スペクトル測定(RAS)を行った。その結果を図6に示す。
図6より、両基板において、上記[1]で得られた化合物(図4の化合物5)SS−PAHGの主鎖中の−CO−伸縮運動によるamideIのピークと、SS−PAHGの主鎖中の−NH−変角運動と−CN−伸縮運動とのカップリングよるamideIIのピークと、が得られた。即ち、いずれの基板においてもα−へリックス構造を保持した状態で高分子が基体表面に吸着されていることが分かる。
【0064】
また、上記基体のうち、高分子水溶液を用いて配列させた基体(以下、単に「水溶液使用基体」という)では、amideIIのピークに対して、amideIのピークが大きい。このことから、水溶液使用基体では高分子が高密度且つ高配向に吸着されていることが分かる。このamideIとamideIIの各々ピーク強度比を用いて、下記一般式{E.P.Enriquez and E.T.Samulski,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,255,423(1992)による}を用いて算出される高分子の平均配向角(高分子体の長手方向と基体表面に垂直な方向とのなす平均角度)は46゜であった。
【0065】
【数1】

但し、式中のKは定数であり、その値は1.5である。
【0066】
一方、上記基体のうち、高分子TFE溶液を用いて配列させた基板(以下、単に「TFE使用基体」という)では、amideIのピークとamideIIのピークとがほぼ同じ強度で認められる。しかし、水溶液使用基体に比べると高分子の吸着量は低いことが分かる。また、上記一般式を用いて算出される高分子の平均配向角は59゜であった。
【0067】
これらの結果から、水溶液使用基体では高分子の平均配向角はTFE使用基体に比べると小さく、基板表面に対してより垂直に近い角度で配列されていることが分かる。このため高密度に配列されていると考えられる。これに対して、TFE使用基体では平均配向角が水溶液使用基体に比べると大きく、このため高分子の吸着密度が小さくなっていると考えられる。
【0068】
これらの差異は高分子を溶解させた溶液に起因すると考えられる。即ち、TFE溶液に比べて水溶液は高分子の側鎖のアミノ基末端の解離度が大きい。このため、高分子同士の反発力が強まり、より垂直に近い角度で配列されていると考えられる(図7参照)。また、TFE溶液を使用した場合は、側鎖のアミノ基末端の解離度が小さく、一部のアミノ基が基板表面に吸着されているとも考えられる(図8参照)。これらのことから、側鎖の解離度がより大きくなる溶媒(pH調整等でもよい)に高分子を溶解させて用いることで、高分子の平均配向角をより小さくでき、基体表面に対してより垂直に近い角度で高分子を配列させることができると考えられる。
【0069】
(2)ゲル層内における高分子の配列状態の評価
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)によりAFM像を得た。この結果を図9及び図10に示す。この結果、他部よりも低い凹部として記録された部分は高分子の配列により形成されている凹部であると考えられる。この凹部は、ヘキサゴナル構造に配列されていることが視覚的に確認できる。更に、その細孔間距離は約20nmであり、前記[5]で測定された多孔質無機膜における細孔間距離とほぼ一致している。即ち、ゲル層形成工程において形成されたゲル層を、その後の高分子除去工程で熱処理したことによる形状への影響はほとんど無くヘキサゴナル構造が保持されるものと考えられる。
尚、前記[5]におけるX線回折測定チャートの多重チャートのうちの上方のチャートは、このゲル層のものである。即ち、ゲル層においてもX線回折測定からヘキサゴナル構造が確認された。
【0070】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることがでる。即ち、例えば、高分子の末端基及び側鎖として化合物を導入する際の方法は、前記DCC法に限定されず、例えば、WSC法(水溶液カルボジイミドを含む縮合剤を用いる方法)及び混合酸無水物法等の他の方法を用いることができる。また、導入する化合物によっては縮合反応以外の方法により導入してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の多孔質無機膜及びその製造方法は、多孔質材利用分野において広く用いられる。この多孔質無機膜は、各種電解質膜、触媒担体及び分離膜として利用される。例えば、自動車関連分野(燃料電池、各種化学センサー、燃料ガス精製及び排ガス浄化)、合成化学関連分野(各種化学センサー、触媒担体、成分分離及び精製等)、石油関連分野(各種化学センサー、成分精製、成分分離及び触媒担体等)、家電関連分野(燃料電池、各種化学センサー、吸着、乾燥、脱臭及び抗菌等)、環境関連分野(各種化学センサー、吸着、乾燥、脱臭及び抗菌等)及び、医療関連分野等において広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の多孔質無機膜を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法の工程の一例を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の製造方法で用いる高分子を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の製造方法で用いる高分子の合成過程の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の多孔質膜及びこの前駆体である固化層の各々X線回折チャートである。
【図6】実施例にかかるFT−IRの反射吸収スペクトルのチャートである。
【図7】実施例にかかる高分子の基体表面に配向性を模式的に示す説明図である。
【図8】実施例にかかる高分子の基体表面に配向性を模式的に示す説明図である。
【図9】実施例にかかる固化層表面の3次元AFM像である。
【図10】実施例にかかる固化層表面の2次元AFM像である。
【図11】本発明の燃料電池の一例の断面を模式的に示す説明図である。
【図12】本発明の化学センサーの一例の断面を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
100、511、521及び611;多孔質無機膜(電解質膜)、101;膜面、102;柱状細孔、200;高分子、201;主鎖、202;側鎖、203;末端基、300;基体、400;固化層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有する多孔質無機膜の製造方法であって、
複数の棒状の高分子を、該高分子の長手方向の一端が基体表面を向くように配向させて、該基体表面に配列する高分子配列工程と、
該高分子が配列された該基体表面にゾル層を形成するゾル層形成工程と、
該ゾル層を固化してなる固化層を熱処理して該固化層内から該高分子を取り除く高分子除去工程と、を備えることを特徴とする多孔質無機膜の製造方法。
【請求項2】
上記高分子は、主鎖と、該主鎖に結合され且つ溶媒中で該高分子同士を反発させる側鎖と、該主鎖の一端に結合され、上記基体表面に対する親和性を有する末端基と、を備える請求項1に記載の多孔質無機膜の製造方法。
【請求項3】
上記主鎖は、螺旋構造を有するポリペプチドである請求項2に記載の多孔質無機膜の製造方法。
【請求項4】
上記末端基は、硫黄元素を含む基を備える請求項2又は3に記載の多孔質無機膜の製造方法。
【請求項5】
上記側鎖は、アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも1種を備える請求項2乃至4のうちのいずれかに記載の多孔質無機膜の製造方法。
【請求項6】
上記基体表面は、貴金属又は貴金属元素を含有する金属材料からなる請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の多孔質無機膜の製造方法。
【請求項7】
膜面に対して開口するように配向して配列された柱状細孔を有することを特徴とする多孔質無機膜。
【請求項8】
上記柱状細孔は、該柱状細孔の長手方向と本多孔質無機膜の膜厚方向とのなす平均角度が65度以下である請求項7に記載の多孔質無機膜。
【請求項9】
上記柱状細孔の鋳型となる棒状の高分子を、該高分子の長手方向の一端が基体表面に向くように配向させて配列させた後、該基体表面にゾル層を形成し、次いで、該ゾル層を固化した後、該高分子を取り除いて得られた請求項7又は8記載の多孔質無機膜。
【請求項10】
請求項7乃至9のうちのいずれかに記載の多孔質無機膜を用いたことを特徴とする電解質膜。
【請求項11】
請求項10に記載の電解質膜を用いたことを特徴とする燃料電池。
【請求項12】
請求項10に記載の電解質膜を用いたことを特徴とする化学センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−8505(P2006−8505A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151681(P2005−151681)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】