説明

多孔質粒子とポリマー分子のコンジュゲートならびにその使用

水性媒体中で安定に分散しうる多孔質粒子(これは機能物質を吸着していてもよい)と水溶性高分子鎖セグメントをベースとするポリマーとのコンジュゲート、ならびにその使用(例えば、生理活性物質の安定担持または除放)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、医薬、化粧料、診断薬、農業、環境汚染防止、等の分野で使用できる多孔質粒子とポリマー分子のコンジュゲート(または複合体)に関し、さらには該コンジュケートの使用にも関する。
【背景技術】
多孔質粒子、例えばシリカ、クレイなどは、その表面特性を利用して、多種多様な物質の分離用吸着材として、または多種多様な機能物質の安定化等を企図するための担体として使用されてきた。さらに、粒子特性を改良するための改質も行われてきた。例えば、文献1(以下の各文献と共に下記にまとめて示す)には、焼成多孔質ガラス表面にフルオレセインを吸着した物質が、文献2には、エチレングリコールの存在下で二酸化炭素を用いてメタケイ酸塩溶液から沈殿させ、さらにアミノ基を有するシランカプリン剤で修飾したシリカ表面に数種の色素を吸着させた物質が記載されている。
また、文献3には数百ナノメートルのラテックス粒子上に高分子電解質を交互に用いて、より微細なシリカもしくは磁鉄鉱とグルコースオキシダーゼ(GOx)の多層を堆積させた磁気バイオ/ナノリアクターが記載されており、かようなリアクターは多層中のGOx量に比例する酵素活性を示すことも教示されている。文献4には、微細(fine)なシリカ粒子表面へのカチオン界面活性剤の吸着を介してステロイド類を組み込んだ粒子が記載されており、また、界面活性剤の濃度によりステロイドの結合性が変動することも示唆されている。文献5には、テトラエチルシリケートの加水分解および重縮合中またはその後、フェニトインを組み込んだシリカ−薬物ハイブリッドである粒子が記載されており、該ハイブリッドからのフェニトインの制御された放出も検討されている。文献6には、メタケイ酸マグネシウム、SiOまたはこれらの混合物のフレーク状粒子上に薬物(抗ヒスタミン薬等)を吸着せしめた吸着質が封入された軟質ゼラチンカプセルが記載されており、また、該吸着質は薬物の分散安定性を高めるのに寄与することも記載されている。
また、文献7には、溝を備えた無機マトリックスと該溝中に配置されたフェロモン等の薬剤を含有する粒子が記載されており、さらにこの粒子は薬剤を徐放できることも記載されている。
文献のリスト
文献1:Fujii,T.et al.,Research on Chemical Intermediates(1992),17(1),1−14.
文献2:Krysztafkiewicz,A.et al.,Applied Surface Science(2002),199(1−4),31−39.
文献3:Fang,M.et al.,Langmuir(2002),18(16),6338−6344.
文献4:Cherkaoui,I.et al.,International Journal of Pharmaceutics(1998),176(1),111−120.
文献5:Goto,H.et al.,Journal of Nanoparticle Research(1999),1(2),205−213.
文献6:Lech,S.US 6027746 A.
文献7:Anderson,T.et al.,US 2003031694 A1.
【発明の開示】
上記した従来の粒子は例えば文献6に記載されている吸着質(adsorbate)のように液体中で均質に分散し得るものも提供されているが、水性流体、特に血液等の生物学的流体中では分散安定性に劣るものが多い。
そこで、本発明者らは、機能物質が担持された多孔質粒子の水性流体中での分散安定性を高め、しかも所望により、該多孔質粒子から担持されていた機能物質の水性流体中への制御された放出(または徐放)を可能にするシステムを開発すべく研究してきた。その結果、意外にも特定のポリマーで多孔質粒子表面を修飾すると、該粒子の水性流体中での分散安定性が飛躍的に高まることのみならず、存在する場合には、吸着されていた機能物質が水性流体中へ徐放され、他方、機能物質が存在しない場合には、機能物質(または有害物質)を含有する溶液から該物質を吸着除去できることを見出した。
こうして、本発明によれば、機能物質が吸着されたもしくは非吸着の多孔質粒子およびその粒子表面に固定された水溶性高分子鎖セグメントをベースとするポリマー分子を含んでなるコンジュゲートが提供される。
別の態様の本発明としては、機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、該機能物質が生理活性物質、香料、抗微生物剤および化粧品原料からなる群より選ばれる前記コンジュゲートを有効成分として含んでなる該機能物質を徐放するための組成物、また、前記コンジュゲートの該機能物質を徐放する組成物の調製のための使用、さらに前記コンジュゲートを該機能物質の施用が必要とされる部位または場所に施用し、該機能物質の作用を発現させる方法も提供される。
さらに別の態様の本発明として、機能物質を含まない前記コンジュゲートを有効成分として含んでなる、水性溶液または流体中に存在する機能物質、特に有害物質を吸着除去するための組成物、また、前記コンジュゲートを有害物質の除去が望まれる部位または場合に置くことを含んでなる該有害物質の除去方法も提供される。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に従うコンジュゲートまたは複合体を構成する多孔質粒子は、後述する機能物質をその界面における何らかの表面エネルギーにより特異的に吸着しうるような孔径の細孔を有する粒子であれば、有機物質もしくは無機物質またはそれらのハイブリドのいずれに由来するものであってもよい。したがって、かような細孔の孔径は限定されるものでないが、一般的に10μm〜1nm(10Å)、好ましくは1μm〜1nm、さらに好ましくは0.5μm〜1nmである。また、粒子の平均径は、本発明の目的、すなわち表面の修飾により、安定な分散性が達成できるものであればよいが、一般的に5nm〜10mm、好ましくは5nm〜50μm、より好ましくは5nm〜3μmである。
有機物質由来の多孔質粒子の例としては、架橋ポリスチレン、アガロース、セファデックス、ポリエチレン焼結連続多孔質体およびポリプロピレン焼結連続多孔質体が挙げられる。
本発明において好ましく用いられるのは、無機物質由来の多孔質粒子であって、限定されるものでないが、シリカ、クレイ、ゼオライト、チタニア、アルミナおよびジルコニア等である。なお、本発明にいうシリカ(silica)は、単に、二酸化ケイ素(SiO)の別称として用いているのでなく、慣用的に二酸化ケイ素に限定されることなく何らかのケイ素分を含み、上記に定義した多孔質粒子をすべて包含する概念で使用している。したがって、上述の文献2〜6に記載されているようにして形成されるシリカ粒子も本発明にいうシリカに包含される。クレイには無機天然物またはそれらの加工物が包含され、おもに粘土鉱物を含み、石英、長石などの粗粒鉱物、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、非晶質物質を含んでいてもよい。また、非晶質もしくは結晶質または層構造粘土鉱物から調製される粒子も、本発明にいうクレイに包含される。ゼオライトもまた、天然もしくは合成のいずれであってもよく、通常、分子ふるいや吸着剤として使用できるものが、本発明にいうゼオライトの好ましい例である。その他のチタニア、アルミナおよびジルコニアの語も上記シリカやクレイと同様の広範な概念をもつものとして使用している。
本発明に従うコンジュゲートまたは複合体を構成する水溶性高分子鎖セグメントをベース(または主要部)とするポリマー分子は、該水溶性高分子鎖セグメントの他に、該ポリマー分子が上述した多孔質粒子に固定されうる官能基または機能性部分を有していることが必須である。
かような水溶性高分子鎖セグメントは、本発明の目的、すなわち上述のような多孔質粒子の水性流体中での分散安定性を高めるように作用するものであれば、それらの種類にかかわりなく本発明に包含される。しかし、一般的には、水溶性高分子鎖セグメントとしてポリエチレングリコール(以下、PEGと略記することもある)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドおよびポリメタクリルアミドを好ましいものとして挙げることができる。また、該ポリマー分子が有する前記官能基または機能性部分は、該ポリマー分子を多孔質粒子表面に固定するように働くが、ここにいう「固定する」とは、多孔質粒子表面に結合されたポリマー分子が不動化された状態になることを意味する。ここにいう結合は、該粒子表面に存在しうるもしくは、必要により付加した官能基(例えば、シラノール、ヒドロキシル、メルカプト、アミノ、カルボキシル基等)とポリマー分子中に存在する前記官能基または機能性部分に存在しうる官能基との間での共有結合、または該粒子表面とポリマー分子中に存在する官能基、好ましくは機能性部分との間の物理的相互作用(例えば、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールスカ等)による結合であることができる。
以上のごときポリマー分子について、説明を簡潔にするために水溶性高分子鎖セグメントとして好ましい態様の一つであるPEG由来のセグメントを有するポリマーを例に主として挙げ以下に説明するが、他のポリマー分子もこれらの説明に基づいて理解できるであろう。PEG由来のセグメントを有するポリマー(またはポリマー分子)は、下記の一般式(I)によって表すことができる。
−L−(CHCHO)−L−X (I)
上式中、Rは水素原子、メチル、保護されていてもよいホルミル、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルまたはビニルスルホニル基を表し、
およびLは相互に独立して、原子価結合またはリンカーを表し、
Xは多孔質粒子表面に当該ポリマー分子を固定することのできる共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分を表し、そして
nは2〜20,000の整数である。
がリンカーである場合の代表的なものとしては、限定されるものでないが、−(CH−O−、−(CH−COO−または−(CH−S−で表される連結基であることができ、ここでp、qおよびrはそれぞれ独立して0〜8の整数である。これらのリンカーは記載した方向性で上記の式(I)のL部分に組み込まれる構造を有する。一方、Lがリンカーである場合の代表的なものとしては、限定される

で表される連結基であることができ、ここで、kおよびlは1〜6の整数である。これらのリンカーは記載した方向性で上記の式(I)のL部分に組み込まれる構造を有する。
Xが官能基である場合の基としては、シラノール、メルカプト、カルボキシルおよびアミノ基を挙げることができる。このような基は、多孔質粒子表面に、例えば、シラノール基またはヒドロキシル基が存在する場合にはXのシラノールと縮合してシロキサン結合(−SiO−)を形成し、またはXのカルボキシル基と縮合してエステル結合(−OCO−)を形成することにより、ポリマー分子を多孔質粒子表面に固定することができる。他方、Xは、モノ−もしくはジ−低級アルキル置換アミノ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、メルカプト基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、シラノール基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、カルボキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、スルホ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、リン酸基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、およびヒドロキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分であることができる。なお、上記または下記において本明細書でいう、低級アルキルは、炭素原子数1〜6個(C−C)の直鎖または分岐したアルキルであり、具体的なものとしてはメチル、エチル、n−プロピル、iso.−プロピル、ブチル、sec.−ブチル、ヘキシル等を挙げることができる。
Xの好ましい態様であるモノ−もしくはジ−低級アルキル置換アミノ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分は、下記の一般式(II)で表されるものが代表例である。

上式中、R、R、RおよびRは、相互に独立して水素原子、低級アルキル基であることができ、さらにRは−(CH−S−C(=S)N(alk)、ここでxは0〜6の整数であり、alkは同一もしくは異なる低級アルキル基を表し、
は、式

または−CONR(CH2)−で表される基であり、zは0〜10の整数であり、Rは酸素原子、イオウ原子、窒素原子で中断されていてもよい低級アルキル基を表し、mは1〜2,000の整数を表す。
これらのポリマーは、Y.Nagasaki et al.,Macromol.Chem.Rapid Commun.1997,18,972に記載の方法またはそれらの方法に準じて製造することができ、また、Rが−(CH−S−C(=S)

で表されるポリマーは、特願2003−049000の明細書の記載に従って製造できる。なお、特定の製造例を反応スキームで示すと、次のように製造されるイニファターを用い、さらにジアルキルアミノスチレン等を重合させる方法が挙げられる。
スキームI:

スキームII:

(上式中、Aは、低級アルキルオキシ、保護されていてもよいホルミル、保護されていてもよいヒドロキシ、等であることができる。)
さらに、Rまたは上記Aの定義における保護されていてもホルミルとは、式

で表され、RおよびRは、相互に独立して、低級アルキルを表すか、一緒になってメチル置換エチレンを表すか、あるいはR−OおよびR−Oが一緒になってO=を表す(この場合にホルミルOCH−となる)。また、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルは、例えばペプチド合成等の技術分野で周知の保護基により保護されているか、または未保護の状態にある基を意味する。さらに、保護されたアミノ基にはマレイミドが包含され、ヒドロキシルの保護基にはp−トルエンスルホニル基も包含される。
上記の「共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分」にいう各種官能基を有するポリマーは、例えば、上記のスキームI:における“A”として、保護された形態にあるメルカプト基(例えば、トリアルキルシリルスルフィド)等を、保護された形態にあるシラノール基(例えば、トリアルコキシシリル)を選び、スキームIに記載に従う最初の工程を実施し、必要により、それぞれの保護基を脱離することによって得ることができる(例えば、特開平11−322917号公報および特開2003−149245号公報参照)。同様にその他の官能基を有するポリマーも、それぞれ対する保護された形態にある官能基を“A”として選び、上記のスキームIに準じて得ることができる。
他方、側鎖にモノ−もしくはジ−低級アルキル基以外の官能基を有するオリゴまたはポリマー主鎖部分をもつポリマーは、例えば、上記のY.Nagasaki et al.,で用いるジアルキルアミノエチル(メタ)アクリロイルに代え、所望の官能基(保護されていてもよい)を有する(メタ)アクリル酸エステルまたはアミドを用いて第二のブロックを形成する重合反応を行うか、または上記のイニファターを用い、さらに所望の官能基(保護されていてもよい)を有する(メタ)アクリル酸エステルまたはアミドを用いて第二のブロックを形成することによって得ることができる。
このようなポリマー分子中に例えば、上記の式(II)で表される部分を有するポリマーは、例えば、多孔質粒子がシリカ、クレイ、ゼオライト等である場合は、水性流体中で該粒子表面に物理的に結合でき、しかもイオン強度の変化等では該表面から遊離しないで固定された状態が保持できる。さらに、例えば、上記の式(II)におけるRおよびRを、それぞれメチルにするかエチルにするかによりポリマー分子を温度感受性にすることもできる(例、Lが−COO(CH−であり、RおよびRがエチル基である場合には40℃付近でポリマー分子を水に対して不溶化せしめることもできる。)。また、さらにRおよびRを選ぶことにより、ポリマーの親−疎水性バランスやアミノ基のpKaを制御することにより、水性流体中でのポリマー分子の分散性を制御することもできる。このような制御は、例えば、本発明に従うコンジュゲートの多孔質粒子に機能物質が吸着されている場合に、該物質をコンジュゲートから水性流体中へ放出する挙動を制御するのに利用できる。本明細書で用いる場合の水性流体とは、水それ自体を初め、生物学的流体(例えば、血液、尿)、緩衝剤、等張剤、さらには水混和性の有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトコトリル、ジメチルホルムアミド等)を含む水溶液を包含する概念である。
多孔質粒子に吸着させうる機能物質は、いずれも限定されるものでないが、次のものを挙げることができる。
(a) 色素としては、アゾ系色素、キノン系色素、トリアリールメタン系色素、シアニン系色素、アクロシアニン系色素、インジゴ系色素が挙げられ、それぞれのクラスには、いずれも当業者に周知の色素が包含される。
(b) 蛍光・発光体としては、ピレン、アントラセン、FITC、Texas Red、CY−3、CY−5、CdS量子ドット、CdSe/ZnS量子ドット等が挙げられる。
(c) 生理活性物質としては、アクチビンA(ヒト型)、ALCAM(ヒト型)、ANG(アンジオゲニン)(ヒト型)、BDNF(ヒト型)、BMF−2(ヒト型)カドヘリン、Caspase−1(ヒト型)、CD14、CD40、チトクロームC、EGF(ヒト型)、Fasリガンド、各クラスのインターロイキン、各クラスのインターフェロン、等を挙げることができる。
(d) 香料としては、シス−3−ヘキセノールおよびその各種エステル、3,6−ノナジエノール、ジャスミンおよびその類似物、デルターデカラクトン等のラクトン類、2−n−ヘキシルシクロペンタノン、プレニルアセテート等を挙げることができる。また、抗体、酵素、核酸、ペプチド核酸も上記の生理活性物質に包含される。
(e) 磁性体としては、フェリコロイド(Fe)を挙げることができる。
(f) 食品添加物としては、ウド抽出物、アオイ花抽出物、アズキ全草抽出物、エリソルビン酸、γ−オリザノールを挙げることができる。
(g) 化粧品原料としては、アスコルビン酸およびその誘導体、アセチルパントテニルエーテル、アセロラエキス、アセンヤクエキス、アビエチン酸エステル、アラントイン、アルブチン、イチョウエキス、ウイキョウエキス、カミツレエキス、甘草エキス、コウジ酸、トコフェロールおよびその誘導体、サリチル酸、ヨクイニンエキス等を挙げることができる。
(h) 抗微生物剤には、当該技術分野で周知の抗ウイル剤および抗バクテリア剤、抗菌・カビ剤、抗腫瘍剤、抗生物質が包含される。これらには、例えば、限定されるものでないが、アジスロマイシン、エリスロマイシン、ジョサマイシン、スピラマイシン、タイロシン等のマクロライド系抗生物質、オキシテトラサイクリン、オーレオマイシン、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質、アルベカシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ネオマイシン、トブラマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質、アボパルシン、テイコプラニン、バンコマイシン等のグリコペプチド系抗生物質、アンピシリン、オキサシリン、スルバクタム、セファロスポリン、セファトリアゾン、タゾバクタム、ナフシリン、ピペラシリン、ペニシリン、メチシリン等のβ−ラクタム系抗生物質、クロロマイセチン等クロラムフェニコール系抗生物質、バージニアマイシン、プリスチナマイシン等のストレプトグラミン系抗生物質、リンコマイシン、ダプトマイシン等のその他の抗生物質、スルファメトキサゾール、スルホンアミド等のサルファ剤、キノロン、ナリジクス酸等のキノロン系抗菌剤、エンロフロキサシン、オフロキサシン、サラフロキサシン、シプロ、トロパン、バイトリル等のニューキノロン系抗菌剤、等を挙げることができる。
このような、機能物質は、多孔質粒子とポリマー分子とのコンジュゲートを形成する前に多孔質粒子に吸着させておくか、またはコンジュゲートを形成している間もしくはコンジュゲートが形成された後に多孔質粒子に吸着させることもできる。したがって、機能物質を含まないコンジュゲートは水性流体中に存在しうる機能物質、特に有害物質(例えば、コレステロール、中性脂肪等)を当該流体から吸着除去するのに使用できる。
多孔質粒子とポリマー分子のコンジュゲートは、必要により機能物質の共存下で、ポリマーおよび存在する場合には機能物質を溶解しうる溶媒、例えば、水、テトラヒドロフラン、低級アルカノール、ジクロロメタン、超臨界二酸化炭素、芳香族炭化水素中で、溶媒が液体状態を維持しうる温度において、多孔質粒子とポリマー分子がコンジュゲートを形成するのに十分な時間接触させればよい。通常、ポリマー分子は、重量基準で多孔質粒子の1/100〜10,000倍量、好ましくは1/10〜1000倍量、さらに好ましくは1〜200倍量使用するのがよい。
多孔質粒子に吸着担持させうる機能物質は、それぞれの組み合わせの種類が異なることによって変動するが、多孔質粒子の重量を基準に、0.00001重量%〜200重量%、好ましくは0.1重量%〜30重量%より好ましくは0.1重量%〜10重量%である。
こうして、機能物質を多孔質粒子に吸着した多孔質粒子とポリマー分子とのコンジュゲートは、特に、機能物質が蛍光・発光体および色素の一部以外であるときは、水性流体中に置いたとき、場合により温度変化、pH変化、水混和性有機溶媒の添加等により多孔質粒子から機能物質を制御された様式で脱着し、水性溶体中へ放出することができる。
したがって、例えば、機能物質が抗微生物剤、特に、抗菌剤であるときは、パルプ工業、アルミ延伸工業、食品加工業または水性潤滑油などの水を大量に利用する産業用水または廃水に本発明に従うコンジュゲートを施用することにより、長期間の殺菌を行うことができる。また、機能物質が生理活性物質であるときは、コンジュゲートを生体の所望の部位に投与ないし埋植し、その場で生理活性物質を徐放させて、各種疾患の治療または予防を行うこともできる。また、機能物質が香料であるときは、コンジュゲートを水性流体中に置くことにより香料を徐放することができ、これは室内の芳香化または芳香性化粧料に使用できるであろう。さらに、化粧品原料が、例えば、安定性に欠けるかもしくは皮膚に悪影響を及ぼす場合等には、そのような化粧品原料の安定化もしくは安全使用に、本発明に従コンジュゲートは資することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明による多孔質粒子の分散安定化の概念図である。
図2は、シリカ粒子とPEG/PAMAブロック共重合体とのコンジュゲートのイオン強度の変動に対する分散安定性を示すグラフである。■プロットはシリカ粒子のみの結果を示し、●はコンジュゲートの水溶液の透過率を示す。
図3は、クレイ粒子とPEG/PAMAブロック共重合体とのコンジュゲートへのピレン分子の吸着特性を示すグラフである。
図4は、クレイ粒子とPEG/PAMAブロック共重合体とのコンジュゲートへのCdSe/ZnS型半導体ナノ粒子の吸着挙動を示すグラフである。
図5は、クレイ粒子とPEG/PAMAブロック共重合体とのコンジュゲートにヒドロキノンを吸着させた場合のL−ドーパを用いて抗酸化挙動について調べた結果を示すグラフである。■ブロットはヒドロキノンのみを、●はクレイ粒子に吸着させたヒドロキノンを、▲は、ヒドロキノンのみを3時間インキュベートしたときを、▼はクレイ粒子に吸着させたヒドロキノンを3時間インキュベートしたときの結果を表す。
図6は、クレイ粒子とPEG/PASTブロック共重合体とのコンジュゲートの分散安定性を示すグラフである。
図7は、クレイ粒子に吸着させたピレンの放出挙動を示すグラフである。
図8は、クレイ粒子とPEG/PAMAブロック共重合体とのコンジュゲートに対するウシ血清アルブミン(BSA)の吸着挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について具体例を挙げてさらに説明するが、これは本発明の理解を容易にするために提供するものである。
実施例1:シリカ粒子コンジュゲートの製造方法
この実施例で使用するポリマー(PEG/PAMAと略記する下記式で表されるポリマー)

上述のY.Nagasaki et al.,Macromol.Chem.Rapid Commun.1997,18,927に記載の方法に従って得られた。PEG Mn=4,000g/mol、PAMA(ポリメタクリル酸(2−N,N−ジメチルアミノエチル))Mn=2,000)を分散安定剤として用い、シリカ粒子を修飾した。
フィルターを通したコロイダルシリカ溶液(日産化学工業株式会社、スノーテックスS(コロイダルシリカ)粒径17nm)150μL(シリカ粒子41.5mg含有)に9.85mlのリン酸バッファー(pH=7.4)を加え、全量を10mlとして、30分間超音波をあてたものに、PEG/AMAのブロックポリマー(4000/2000)を200mgをリン酸バッファー10mlに溶解させたものを加え、Uv−visスペクトルにより、その透過率の変化を調べた結果、ほぼ完全に透明であった。
このようにして調製したコンジュゲートの安定性をイオン強度を変化させて評価した。その結果を図2に示す。ブロックポリマーを加えない系ではイオン強度を増加させると容易に凝集沈殿し、白濁するのに対し、ブロックポリマー混合系では極めて高い塩強度でも全く透明を保っていることがわかる。
動的光散乱(DLS)測定によって測定した粒径は70nmであった。
実施例2:クレイ粒子とPEG/PAMAとのコンジュゲートの製造方法
実施例1のシリカをクレイ粒子(Laporte Indutries LTD、Laponite XLG−(F)、5mg)に代えた以外は実施例1の方法を繰り返して、コンジュゲートを調製した。このようにして調製したコンジュゲートの安定性をイオン強度を変化させて評価した。PEG/PAMA複合化粒子ではシリカと同様極めて安定分散の粒子が調製された。DLS測定によって測定した粒径は140nmであった。
実施例3:シリカとPEG/PAMAコンジュゲートに対するグルセオフルビン(GF)の担持
この実施例では、実施例1で調製したコンジュゲートに抗真菌剤としてグルセオフルビンを担持させた。グルセオフルビン(GF)5mgをアセトンに溶かし、シリカ粒子(40mg)のリン酸緩衝液中に加え、シリカ粒子にGFを取り込ませた。その後、PEG/PAMAの200mgを加え、撹拌してコンジュゲートを調製した。蛍光による測定結果、3%のGFがコンジュゲートに取り込まれていることが確認された。
実施例4:クレイ粒子とPEG/PAMAとのコンジュゲートに対するピレンの担持
リン酸バッファー(10mM,pH7.4;NaHPO.12HO,2.865g/l;NaHPO.2HO,0.312g/l)10mL中にクレイ粒子100mg及びPEG/PAMA200mgのリン酸緩衝溶液にピレンのアセトン溶液(1mg〜8mg/1mL)を加え、1時間室温遮光下で撹拌した。調製した溶液を透析により未吸着ピレンを除き、蛍光測定した。図3から見られるように、蛍光強度が徐々に増加し、6%を越えたところでエキシマーの吸収が増加することから細孔内に濃縮されていることがわかる。こうしてクレイに対する蛍光体の安定担持が達成された。
実施例5:クレイ粒子とPEG/PAMAとのコンジュゲートに対する半導体蛍光粒子の担持
クロロホルム10mL中にクレイ10mg、CdSe量子ドット0.13ml(20・mol/ml)、PEG/PAMA200mg(5000/2000)を加え、2時間よく撹拌し、クロロホルムを留去させた。ここにリン酸バッファー10mLを加え、蛍光測定を行った。クレイに担持させたCdSe−粒子それ自体はリン酸バッファー中で殆ど発光しないものの、PEG/PAMAで安定化したCdSe−クレイは強い発光を示した(図4参照)。コンジュゲートへのCdSe/ZnS型半導体ナノ粒子の吸着の様子(a)、クレイ粒子にCdSe/ZnS型半導体ナノ粒子を吸着させると発光強度は極端に低下する(b)のに対し、コンジュゲートでは極めて強い発光挙動が見られる。
実施例6:クレイ粒子とPEG/PAMAとのコンジュゲートに対するヒドロキノンの担持
実施例4のピレンのかわりにヒドロキノンを用いた以外は全く同様の方法でヒドロキノンの担持を行った。図5に示すようにヒドロキノン及びクレイ粒子担持ヒドロキノンのL−DOPA抗酸化性を調べたところ、良好な結果を得た。特にヒドロキノンでは3時間リン酸緩衝液中でインキュベートした後にL−DOPAを加えたところ全く抗酸化性を失っていたのに対し、クレイ粒子担持ヒドロキノンでは活性が残存しており、クレイ粒子に担持された物質の安定化が達成され、薬物徐放担体として優れていることが確認された。
実施例7:PEG/ポリ(4−ジメチルアミノメチルスチレン)(PEG/PASTs略記する。)ブロック共重合体による多孔質粒子の安定化

PEG/PASTは、上記スキームIIで得られた最終化合物をイニファターとして用い、4−ジメチルアミノエチルメチルスチレンをアニオンリビング重合させることによって得た。こうして得たPEG/PASTをPEG/PAMAの代わりに用いたこと以外、実施例2の操作を繰り返してクレイ粒子とのコンジュゲートを得た。
図6からみられるとおり、PEG/PASTの添加量を増やすと透明性が増し、コンジュゲートの分散安定化性が高まることが確認された。
実施例8:ピレンの放出実験
100mlナスフラスコにクレイ6mg、アセトン6ml、アセトン溶解させたピレン0.3mg(19.8・1)(5wt%)を加えた。次にクレイにピレンを取り込ませるため、2h撹拌を行い、エバポレートし、アセトンを除去した。その後、0.4μmのシリンジフィルターをかけ、クレイ粒子と未反応のピレンを除いた。その次に、サンプルを透析膜に入れ、2Lの密封できる容器に入れた。そして、この溶液を1mL取り出し、蛍光測定し、その強度変化を観察し、あらかじめ用意した検量線データと比較することによりリリース量を算出した。最終を図7に示す。また、フィルターの中に入ったピレン−クレイ溶液の蛍光強度を測ることにより、クレイに配位したピレンの状態も測定することにした。なお反応はすべて遮光下で行った。
透析膜の外に出てきたピレンのリリース量から2日後までは、クレイに取り込まれたピレンがほとんど放出されていないことが分かる。その後、3日目あたりからピレンが放出されてきている様子が分かる。その後リリースさせてから20日後あたりまでピレンが大きくリリースされている様子が分かる。その後のリリース挙動は、非常に緩やかになっていく様子がわかる。その後、30日付近では、ほとんどピレンは、リリースされていないことが確認される。
実施例9:タンパク非特異吸着抑制評価
30mlサンプル官にシリカ粒子660μl、とPBS10mL(0.15M)とを加え30時間超音波処理を行った。その後PEG/PAMAを0から200mg加えサンプル調整を行ったのち、超遠心分離(70000rpm,312000×g,30分)を3回行いクレイと未反応のPEG/PAMAを除いた。その後、溶液が0.1mg/mlとなるように蛍光でラベル化されたタンパクであるFITC−BSAをリン酸緩衝溶液で溶解させたものを加え、1時間振とうを行い、超遠心分離(70000rpm,312000×g,30分)をかけることにより、その上澄み液の蛍光測定を行い(ex=493nm)、タンパク吸着量を認めた。
図8にシリカに吸着したタンパク量を上澄み及びシリカ粒子上からはがしとったタンパク量を定量することによって求めたデータを示す。ポリマーが無いかあるいは少ない場合には大量のタンパク質が粒子に吸着しているのに対し、ポリマー添加量を増やすと非特異的吸着が効果的に抑制されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、各種機能物質を担持し、安定に水性流体中に分散できめコンジュゲートを提供する。機能物質の機能によって利用不能産業が拡大しうるが、例えば、機能物質が生理活性物質である場合は、医薬製造業で本発明を利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能物質が吸着されたもしくは非吸着の多孔質粒子およびその粒子表面に固定された水溶性高分子鎖セグメントをベースとするポリマー分子を含んでなるコンジュゲート。
【請求項2】
ポリマー分子が、水溶性高分子鎖としてポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドおよびポリメタクリルアミドからなる群より選ばれるポリマー由来の鎖を有し、かつ、多孔質粒子表面に該ポリマー分子を固定することのできる共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分を有する請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
ポリマー分子が、一般式(I)
−L−(CHCHO)−L−X (I)
(式中、Rは水素原子、メチル、保護されていてもよいホルミル、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルまたはビニルスルホニル基を表し、
およびLは相互に独立して、原子価結合またはリンカーを表し、
Xは多孔質粒子表面に当該ポリマー分子を固定することのできる共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分を表し、そして
nは2〜20,000の整数である)
で表される請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
Xがメルカプト基、シラノール基、カルボキシル基、アミノ基、またはモノ−もしくはジ−低級アルキル置換アミノ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、メルカプト基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、シラノール基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、カルボキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、スルホ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、リン酸基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、およびヒドロキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分からなる群より選ばれる請求項3に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
多孔質粒子が平均粒子径10nm〜10mmを有し、かつ、10μm〜1nm(10Å)の孔径の細孔を有する有機または無機粒子である請求項1記載のコンジュゲート。
【請求項6】
多孔質粒子が架橋ポリスチレン、アガロース、セファデックス、ポリエチレン焼結連続多孔質体、およびポリプロピレン焼結連続多孔質体からなる群より選ばれる請求項5記載のコンジュゲート。
【請求項7】
多孔質粒子がシリカ、クレイ、ゼオライト、チタニア、アルミナおよびジルコニアからなる群より選ばれる請求項5記載のコンジュゲート。
【請求項8】
多孔質粒子が機能物質を非吸着の状態にある請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
多孔質粒子が機能物質を吸着した状態にある請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が色素、蛍光・発光体、磁性体、生理活性物質、抗微生物剤、食品添加物、香料もしくは化粧品原料からなる群より選ばれる請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が生理活性物質である請求項1に記載のコンジュゲートを有効成分として含んでなる生理活性物質を徐放するための組成物。
【請求項12】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が香料である請求項1に記載のコンジュゲートを有効成分として含んでなる香料を徐放するための組成物。
【請求項13】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が抗微生物剤である請求項1に記載のコンジュゲートを有効成分として含んでなる抗微生物剤を徐放するための組成物。
【請求項14】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が化粧品原料である請求項1に記載のコンジュゲートを有効成分として含んでなる化粧品原料を徐放するための組成物。
【請求項15】
機能物質を含まない請求項1に記載のコンジュゲートを有効成分として含んでなる水性溶液中に存在する有害物質を吸着除去するための組成物。
【請求項16】
有害物質がコレステロールまたは中性脂肪であり、該コンジュゲートが生体内に投与されるものである請求項15記載の組成物。
【請求項17】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が抗微生物剤である請求項1に記載のコンジュゲートを微生物が成長する環境に置くことを含んでなる該環境における微生物の防除方法。
【請求項18】
機能物質が多孔質粒子表面に吸着されており、そして該物質が化粧品原料である請求項1に記載のコンジュゲートを含む化粧品を、該化粧品原料を必要とする部位の皮膚に施用することを含んでなる化粧方法。

【国際公開番号】WO2005/005548
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511593(P2005−511593)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010162
【国際出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000125370)学校法人東京理科大学 (27)
【Fターム(参考)】