説明

多孔質膜、樹脂溶液および多孔質膜の製造方法

【課題】透水性、分離特性、低ファウリング性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂多孔質膜を提供する。
【解決手段】多孔質基材に多孔質樹脂層が積層されてなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデン系樹脂と、ポリビニルピロリドン系樹脂と、重量平均分子量が1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂とを有することを特徴とする多孔質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水製造、浄水処理、廃水処理などの水処理、食品工業分野に好適な多孔質膜に関する。特に廃水処理において活性汚泥槽内に浸漬し固液分離に好適に用いられる多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質膜は、飲料水製造、浄水処理、廃水処理などの水処理分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、廃水処理などの水処理分野においては、多孔質膜が従来の砂濾過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられるようになってきている。また、食品工業分野においては、発酵に用いた酵母の分離除去や処理原液の濃縮を目的として、多孔質膜が用いられている。
【0003】
廃水処理分野では活性汚泥と呼ばれる微生物集合体により、フロック化した汚泥と処理水とを分離する活性汚泥処理プロセスが広く用いられている。この場合、沈殿法により固液分離を行なう場合、活性汚泥を高濃度化して分解処理を進めて処理効率を上げようとすると、後段の沈殿池において汚泥の沈降性不良を生じる場合があり、水質の悪化を防止するための管理作業が繁雑になる。そこで、この汚泥と処理水との固液分離に膜分離技術を利用することで、高濃度活性汚泥処理を行なった場合にも水質の悪化を招かず省スペースになる。
【0004】
上述のように多様に用いられる多孔質膜は、分離対象物質の堆積、付着、閉塞等による透水性の低下(ファウリング)がおこると運転の安定性に支障をきたし、曝気洗浄の曝気量を多くしたり薬品洗浄頻度を多くしたりする必要があり、高運転コストにつながるため高透水性で低ファウリングの多孔質膜が求められている。また、浄水処理では透過水の殺菌や膜のバイオファウリング防止の目的で、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を膜モジュール部分に添加したり、酸、アルカリ、塩素、界面活性剤などで膜そのものを洗浄したりするため、多孔質膜には化学的耐久性(耐薬品性)が求められる。さらに、水道水製造では、家畜の糞尿などに由来するクリプトスポリジウムなどの塩素に対して耐性のある病原性微生物が浄水場で処理しきれず、処理水に混入する事故が1990年代から顕在化していることから、このような事故を防ぐため、多孔質膜には、原水が処理水に混入しないよう十分な分離特性と高い物理的耐久性が要求されている。
【0005】
このように、多孔質膜には、高い透水性、優れた分離特性、化学的耐久性(耐薬品性)、物理的耐久性および低ファウリング性が求められる。
【0006】
そこで、これらの要求性能のなかで特に化学的耐久性、物理的耐久性を満足するために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた多孔質膜が使用されるようになってきている。しかしながら、ポリフッ化ビニリデン系樹脂はこのままでは低ファウリング性が充分であるとはいえない。多孔質膜のファウリングを抑制する方法としては、微少な濁質による細孔の閉塞を防ぐために細孔径を小さくする方法がある。また、疎水性の大きな微生物ほど疎水性相互作用により吸着能が大きく、疎水性物質は疎水性固体表面に吸着しやすいという報告があり(非特許文献1)、疎水性のポリフッ化ビニリデン膜を親水化することにより吸着を抑制し低ファウリング性を付与する事もできる。ポリフッ化ビニリデン膜の親水化方法としては特許文献1のように膜表面および細孔内表面に親水性ポリマーをコーティングする方法があるが、親水性ポリマーが剥離すると低ファウリング性を維持できないと考えられる。そこで親水性ポリマーをコーティングせずにブレンドすれば膜表面が削れた場合でも親水性ポリマーが膜表面に存在し低ファウリング性を維持できると考えられる。
【0007】
しかし、一般的に特許文献2のように親水性ポリマーをポリフッ化ビニリデン系樹脂とブレンドする場合、そのままブレンドし製膜する場合はポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性が悪いため製膜性が悪くなり、製膜できた場合も水中で使用する間に親水性ポリマーが膜外へ溶出し低ファウリング性を維持できない問題があった。
【0008】
この問題を解決するために、特許文献3ではポリアクリル酸エステル系樹脂やポリメタクリル酸エステル系樹脂を相溶化剤として用いることにより、ポリビニルピロリドン系樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂に微分散した多孔質膜を得ることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−161103号公報
【特許文献2】特開昭60−216804号公報
【特許文献3】特開2006−205067号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】森崎久雄,外1名,“界面と微生物”,学会出版センター,1986年,p57−60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の多孔質膜では、ポリビニルピロリドン系樹脂の溶出が充分に抑制できず、親水性を充分に維持できないことがあった。
【0012】
本発明は、従来の技術の上述した問題点を解決し、透水性、分離特性、低ファウリング性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂多孔質膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採りうる。
【0014】
(1)多孔質基材に多孔質樹脂層が積層されてなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデン系樹脂と、ポリビニルピロリドン系樹脂と、重量平均分子量が1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂とを有することを特徴とする多孔質膜。
【0015】
(2)ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、並びに重量平均分子量1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を用いて製造された多孔質膜であって、平均粒径0.032mのポリスチレン微粒子の阻止率(R)と、樹脂溶液の樹脂濃度(C)の関係が、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の多孔質膜。
【0016】
R>C×5−48・・・(I)
(3)ポリフッ化ビニリデン系樹脂を10重量%以上20重量%以下、ポリビニルピロリドン系樹脂を0.5重量%以上5重量%以下、重量平均分子量1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を0.5重量%以上5重量%以下含有することを特徴とする樹脂溶液。
【0017】
(4)温度が20℃以上60℃以下の範囲である(3)に記載の樹脂溶液を多孔質基材の表面に接触させた後、凝固液体に接触させることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【0018】
(5)前記凝固液体が20℃以上60℃以下の範囲内であり、前記樹脂溶液中の樹脂の非溶媒を95重量%以上100重量%以下含有することを特徴とする(4)に記載の多孔質膜の製造方法。
【0019】
(6)多孔質膜における平均粒径0.032mのポリスチレン微粒子の阻止率(R)と、前記樹脂溶液の樹脂濃度(C)の関係が、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項4又は5に記載の多孔質膜の製造方法。
【0020】
R>C×5−48・・・(I)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、親水性成分の溶出が少なく、透水性、化学的耐久性、物理的耐久性、分離特性に優れた低ファウリング性ポリフッ化ビニリデン系樹脂多孔質膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の多孔質膜の詳細を説明する。
【0023】
本発明において、多孔質膜は多孔質基材に多孔質樹脂層が積層されてなり、多孔質樹脂層が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、重量平均分子量が1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を有することを特徴とする。
【0024】
上記構成によると、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を膜素材として用いる事で膜の物理的耐久性、化学的耐久性に優れた膜を得ることができ、親水性のポリビニルピロリドン系樹脂、さらに親水性のポリメタクリル酸エステル系樹脂を含んでいることにより膜に親水化を付与することができる。
【0025】
多孔質樹脂層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、重量平均分子量が1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を、主成分として含有する。つまり、これらの樹脂の合計重量が、多孔質樹脂層全体の重量の50%以上、70%以上、90%以上、又は95%以上を占める。また、多孔質樹脂層が、実質的にこれらの樹脂のみで構成されていてもよい。
【0026】
多孔質樹脂層におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量は50重量%〜98重量%であることが好ましく、ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量は1重量%〜35重量%であることが好ましく、ポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計含有量は1重量%〜35重量%であることが好ましい。
【0027】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が50重量%〜98重量%であることで、化学的耐久性、物理的耐久性に優れた多孔質膜とすることができる。ポリビニルピロリドン系樹脂の含有量が1重量%〜35重量%であることで、多孔質膜に低ファウリング性を付与することができる。ポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計含有量が1重量%〜35重量%であることで、ポリビニルピロリドン系樹脂の溶出を抑制できると共に、分離特性に優れた多孔質膜とすることができる。
【0028】
また、多孔質樹脂層におけるポリビニルピロリドン系樹脂の重量/ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量は、0.01以上であることが好ましく、0.7以下であることが好ましい。多孔質樹脂層におけるポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計重量/ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量は、0.01以上であることが好ましく、0.7以下であることが好ましい。
【0029】
また、多孔質樹脂層におけるポリビニルピロリドン系樹脂の重量/ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量は、0.01以上であることで、多孔質膜に低ファウリング性を付与することができる。多孔質樹脂層におけるポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計重量/ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量が0.01以上であることで、ポリビニルピロリドン系樹脂の溶出を抑制することができると共に、分離特性に優れた多孔質膜とすることができる。
【0030】
なお、これらの樹脂以外の成分として、多孔質樹脂層は、多価アルコール、無機塩、界面活性剤等の化合物を、20重量%以下、又は10重量%以下の割合で含有してもよい。
【0031】
一般にポリビニルピロリドン系樹脂のような親水性ポリマーはポリフッ化ビニリデン系樹脂のような疎水性ポリマーとは相溶性が悪く、混合して製膜できたとしても水中で使用したときにポリビニルピロリドン系樹脂だけが水中に溶出し、親水性を維持できない。一方、例えばポリメタクリル酸エステル系樹脂は親水性で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に対し分子レベルで相溶することが解っており(S.P.Nunes, K.V.Peinemann, Journal of Membrane Science 1992, 73 p25)、ポリビニルピロリドン系樹脂に対しても親和性がある。このことからポリフッ化ビニリデン系樹脂がポリアクリル酸エステル系樹脂やポリメタクリル酸エステル系樹脂と共に存在することで相溶化剤として働き、ポリビニルピロリドン系樹脂が膜中で相溶し、分散することができる。このとき、ポリビニルピロリドン系樹脂はミクロドメインを形成し微分散していると考えられる。
【0032】
しかしながら、ポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量が20万を超える場合は、その相溶性が不十分となり、ポリビニルピロリドン系樹脂の溶出抑制効果が小さくなると共に、特に粒径の小さい微粒子の阻止率が低くなる。例えば、重合平均分子量が大きいポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂を含有する樹脂溶液を降温したときに、目視において濁りおよびチンダル現象を確認することができる。
【0033】
我々は、このような相溶性が不十分である樹脂溶液を用いた多孔質膜において、平均粒径0.032μm以下のポリスチレン微粒子の阻止率が低下することを見いだした。この多孔質膜において、0.032μm以下のポリスチレン微粒子の阻止率を向上させるためには、例えば樹脂溶液中の樹脂濃度を増加させる方法が挙げられるが、樹脂濃度の増加に伴って多孔質膜が緻密化し透水性が大幅に低下するため、高い透水性と高い分離特性を両立する多孔質膜を得ることはできない。すなわち本発明は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を有してなる分離機能層を備えた多孔質膜において、ポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量を1万以上20万以下とすることにより、降温しても濁りおよびチンダル現象の見られない相溶性の高い樹脂溶液を得ることに成功し、ポリビニルピロリドン系樹脂の溶出抑制効果を高めると共に、特に0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率の向上した多孔質膜が得られることを見いだしたものである。
【0034】
本発明におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂で、複数のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンの残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーなどとの共重合体である。かかる共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない程度に、前記フッ素系モノマー以外の例えばエチレンなどのモノマーが共重合されていても良い。なかでも化学的強度および物理的強度の高さからフッ化ビニリデンホモポリマーからなる樹脂が好ましく用いられる。
【0035】
上述したポリフッ化ビニリデン系樹脂は、物理的強度や低ファウリング性を考慮すると重量平均分子量が5万以上50万以下の範囲内にあることが好ましく、溶媒への溶解性や製膜性、その他樹脂との相溶性を考慮すると重量平均分子量10万以上40万以下のものが好ましく用いられる。
【0036】
ポリビニルピロリドン系樹脂とはビニルピロリドン単独重合体、他の共重合可能なビニル系モノマーまたはオレフィンとの共重合体を示す。ポリビニルピロリドン系樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、化学的強度および低ファウリング性、恒久的な膜への残存性を考慮すると80万以上200万以下が好ましい。
【0037】
ポリアクリル酸エステル系樹脂とは特に限定しないが例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートなどアクリル酸エステル系モノマーの単独重合体、これらの共重合体、さらには他の共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体を示す。
【0038】
ポリメタクリル酸エステル系樹脂とは特に限定しないが、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートなどメタクリル酸エステル系モノマーの単独重合体、これらの共重合体、さらには他の共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体を示す。なお、ポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂には、メタクリル酸エステルモノマーとアクリル酸エステル系モノマーとの共重合体も含まれる。これらポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂のなかでポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性、製膜性、コストの点からポリメチルメタクリレートがより好ましく用いられる。
【0039】
ポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリビニルピロリドン系樹脂との相溶性の点から、1万以上20万以下である必要がある。ポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量が20万以下であると、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリビニルピロリドン系樹脂との相溶性が高くなり、均質な多孔質膜構造を有する分離特性が向上した多孔質膜を得ることができる。また、ポリアクリル酸エステル系樹脂およびポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量が1万以上であると、多孔質膜の耐久性が高くなる。
【0040】
本発明の多孔質膜は、3.0×10−9/m/s/Pa以上の透水性を有することが好ましく、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率が90%以上、かつ平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率が30%以上であること好ましい。ただし、前述した通り樹脂溶液の樹脂濃度を増加させると透水性は大きく低下するものの、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率は向上する傾向があるため、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率のみで多孔質膜の評価をすることは妥当ではない。そこで、多孔質膜の平均粒径0.032mのポリスチレン微粒子の阻止率と、樹脂溶液の樹脂濃度の関係を表した時、本発明の多孔質膜は以下の式(I)を満たすことを特徴とする。
【0041】
式(I)
R>C×5−48
(式中、Rは平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(%)であり、Cは樹脂溶液中のポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂の合計濃度(重量%)である。)
このような分離特性を有することにより、微少な濁質による細孔の閉塞が従来よりも少ない、透水性および低ファウリング性に優れた多孔質膜を得ることができる。
【0042】
次に本発明の多孔質膜を形成する樹脂溶液について説明する。
【0043】
本発明の多孔質膜を形成する樹脂溶液は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を10重量%以上20重量%以下、ポリビニルピロリドン系樹脂を0.5重量%以上5重量%以下、重量平均分子量1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を0.5重量%以上5重量%以下、およびこれらを溶解する溶媒を含んでなる。これら樹脂を溶解する溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトン等およびそれらの混合溶媒を用いることができ、その中でも特にDMFを用いることが好ましい。また、本発明の樹脂溶液は、80℃以上140℃以下の温度範囲で溶解させることが好ましく、100℃以上120℃以下の温度範囲で溶解させることがより好ましい。このようにして得られる樹脂溶液は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂の3成分の相溶性が高く、透水性、分離特性、低ファウリング性に優れた多孔質膜を得ることができる。
【0044】
また、本発明の樹脂溶液においては、本発明の効果を逸脱しない範囲で開孔剤を添加してもよい。開孔剤は特に制限されないが、凝固液体への溶解性の高いものが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類が好ましく用いられる。
【0045】
本発明の多孔質膜の製造方法においては、上記の樹脂溶液を調製し、該樹脂溶液を多孔質基材の表面に接触させた後、凝固液体に接触させることで所望の形状に成形するものである。例えば、樹脂溶液を平膜用の口金から吐出して多孔質基材の上に塗布し、必要に応じて所定の長さの乾式部を通過させた後、凝固浴に導いて浸漬凝固させる。使用する前記口金の寸法は、製造する平膜の寸法と膜構造により適宜選択すればよいが、おおよそ0.1mm以上10mm以下の範囲であることが好ましい。また、口金の温度すなわち製膜時の樹脂溶液温度は、20℃以上60℃以下の範囲が好ましく、口金温度と溶解温度が異なっていても構わない。溶解温度については、溶解を短時間に均一に行うという点から、口金温度より高い温度に設定することも好ましく採用できる。
【0046】
多孔質膜の厚みは10μm以上1mm以下、さらには30μm以上500μm以下の範囲内であることが好ましい。多孔質膜は多孔質基材の表面に単層の多孔質樹脂層が設けられてなるが、多孔質基材と多孔質樹脂層が重なり合う層が存在してもよい。多孔質基材としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、綿、絹などの有機繊維からなる織物、編物、不織布等の多孔質基材や、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維からなる織物、編物等の多孔質基材を用いる事ができる。この中で伸縮性、コストの点から特に有機繊維からなる多孔質基材が好ましい。
【0047】
前記の通り、多孔質基材上に塗布された樹脂溶液は、凝固液体と接触し、凝固して多孔質樹脂層を形成する。また、膜表面の機能層は、凝固液体に非溶媒を含有することにより、非溶媒誘起分離が発生し膜表面に機能層が形成される。
【0048】
この際用いられる凝固液体は、非溶媒、または非溶媒と溶媒とを含む混合溶液を用いることができる。ここで非溶媒としては水を用いることが好ましく、溶媒としては樹脂溶液と同様の溶媒を用いることが好ましい。凝固液体における非溶媒は少なくとも90重量%とするのが好ましく、95重量%以上100重量%以下の範囲がより好ましい。また、凝固液体の温度は、通常0℃以上80℃以下の範囲で選定するのが好ましく、20℃以上60℃以下の範囲がより好ましい。
【0049】
前記の凝固液体に接触させる形態としては、凝固液体と多孔質基材に塗布された樹脂溶液とが十分に接触して凝固が可能であるならば、特に限定されるものではなく、凝固液体が貯留された液槽形態であっても良いし、さらに必要により前記液槽は、温度や組成が調整された液体が循環もしくは更新されても良い。前記液槽形態が最も好適ではあるが、場合によっては、液体が管内を流動している形態であっても良いし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に凝固液体をコーターで塗布する形態や、凝固液体をスプレーなどで噴射する形態であっても良い。
【0050】
さらに、多孔質樹脂層が多孔質基材の上に形成された多孔質膜において、多孔質樹脂層を構成する樹脂の一部が多孔質基材中に入り込み、多孔質樹脂層を構成する樹脂と基材とが混在する層が、多孔質樹脂層と多孔質基材との間に介在することが好ましい。基材表面側の内部に樹脂が入り込むことで、いわゆるアンカー効果によって多孔質樹脂層が多孔質基材に堅固に定着され、多孔質樹脂層が多孔質基材から剥がれるのを防止できるようになる。多孔質樹脂層は、多孔質基材に対して、片面に偏って存在しても構わないし、また、両面に存在しても構わない。多孔質樹脂層は、多孔質基材に対して、対称構造であっても、非対称構造であっても構わない。また、多孔質樹脂層が多孔質基材に対して両面に存在している場合には、両側の多孔質樹脂層が、多孔質基材を介して連続的であっても構わないし、不連続であっても構わない。
【0051】
次に本発明において用いる多孔質膜を製造する方法について説明する。この多孔質膜は、樹脂溶液を多孔質基材の片表面若しくは両表面に接触させ、非溶媒を含む凝固液体中で凝固させ多孔質樹脂層を形成することにより製造することができる。このとき、多孔質基材の表面に樹脂溶液を接触させる手段は、樹脂溶液の塗布でもよく、また、多孔質基材を樹脂溶液に浸漬させる方法でもよい。多孔質基材に樹脂溶液を塗布する場合には、多孔質基材の片面に塗布しても構わないし、両面に塗布しても構わない。多孔質基材とは別に多孔質樹脂層のみを形成した後に両層を接合する方法でもよい。
【0052】
そして、樹脂溶液を凝固させるにあたっては、多孔質基材上の樹脂溶液被膜のみを凝固液体に接触させる方法でもよいし、また、樹脂溶液被膜を基材ごと凝固液に浸漬する方法でもよい。樹脂溶液被膜のみを凝固液に接触させるためには、例えば、基材上に形成された樹脂溶液被膜にコーターを用いて塗布することにより凝固液体と接触させる方法や、基材上に形成された樹脂溶液被膜が下側に来るようにして凝固浴表面と接触させる方法、ガラス板、金属板などの平滑な板の上に多孔質基材を接触させて、凝固液体が多孔質基材側に回り込まないように貼り付け、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液被膜を有する多孔質基材を板ごと凝固浴に浸漬する方法などがある。後者の方法では、多孔質基材を板に貼り付けてから樹脂溶液の被膜を形成しても構わないし、基材に樹脂溶液の被膜を形成してから板に貼り付けても構わない。
【0053】
上述のようにして製造される本発明の多孔質膜は、たとえば、プレートアンドフレーム型の膜モジュールの分離膜として使用される。固液分離装置は、活性汚泥槽などの活性汚泥などの被処理液が収容されている処理槽中に浸漬配置され、ポンプにより処理原液側に加圧手段をもしくは透過液側に吸引手段を設け、膜ろ過が行われる。もちろん、ポンプを設けず水位差による膜ろ過を行ってもよい。固液分離装置は、膜の洗浄効果を得るために、膜の下方に曝気装置を配置する等、膜面に対して被処理液が並行に流れるようにする手段を備えていてもよい。
【実施例】
【0054】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、得られた多孔質膜の膜性能評価は以下の方法で行った。
【0055】
(1)透水性
多孔質膜の透水性の測定は、多孔質膜を直径50mmの円形に切り出し、円筒型のろ過ホルダーにセットし、蒸留水を25℃で、水頭高さ1mで5分間予備透過させた後、続けて透過させて透過水を3分間採水して求めた。
【0056】
(2)ポリスチレン微粒子阻止率
ポリスチレン微粒子の阻止率は、攪拌式セル(アドバンテック(株)製VHP−43K)に多孔質膜(直径4.3cm)をセットし、評価圧力30kPa、攪拌速度700rpmにて、蒸留水にポリスチレン微粒子(Magshere(株)製 公称粒径0.083μm、Magshere(株)製 公称粒径0.032μm)を20ppmの濃度になるように分散させてなる50mlの評価原液を10mlろ過した後、透過液3mlと撹拌式セル内に残存した評価原液をサンプリングした。評価原液と透過液の波長(0.083μm:250nm、0.032μm:238nm)の紫外線の吸光度から、以下に示す式によって求めた。
【0057】
微粒子阻止率=〔(原液の吸光度−透過液の吸光度)/原液の吸光度〕×100
ここで、吸光度測定には分光光度計(U−3200)(日立製作所製)を用いた。
【0058】
(3)ポリアクリル酸エステル系樹脂/ポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量
ポリアクリル酸エステル系樹脂/ポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1wt%、流量0.2mL/min、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。
【0059】
(4)多孔質膜中のポリビニルピロリドン系樹脂の定量
多孔質膜中のポリビニルピロリドン系樹脂量をH−NMRスペクトルの解析によって定量した。H−NMRスペクトルは、重水素化溶媒に多孔質樹脂層を溶解し、NMR測定装置(日本電子(株)製JNM−EX−270、積算回数32回)により得た。
【0060】
(実施例1)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF、重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量7.2万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。なお、「測定値」と特に断らない限り、重量平均分子量は、メーカーの公称値である。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0061】
ポリフッ化ビニリデン:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
得られた樹脂溶液を25℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象は確認されず、樹脂溶液の相溶性が高いことが確認された。
【0062】
次に25℃の上記樹脂溶液を、見かけ密度が0.48g/cm、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、直ちに20℃の水凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質基材を得た。
【0063】
この多孔質膜基材を95℃の熱水に2分間浸漬してDMFを洗い出し、多孔質膜を得た。
【0064】
この多孔質膜は、透水性11.5×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率99%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率38%であった。
【0065】
前述の式(I)について検討すると、実施例1で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は38%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が15重量%であるため、実施例1で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たしていた。
【0066】
(実施例2)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF、重量平均分子量28.4万(市販品))、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、メタクリル酸エステル樹脂(重量平均分子量15.1万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを120℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0067】
ポリフッ化ビニリデン:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
メタクリル酸エステル樹脂:1重量%
得られた樹脂溶液を25℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象は確認されず、樹脂溶液の相溶性が高いことが確認された。
【0068】
次に25℃の上記樹脂溶液を、見かけ密度が0.48g/cm、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、直ちに20℃の水凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質基材を得た。
【0069】
この多孔質膜基材を95℃の熱水に2分間浸漬してDMFを洗い出し、多孔質膜を得た。
【0070】
この多孔質膜は、透水性12.1×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率99%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率41%であった。
【0071】
前述の式(I)について検討すると、実施例2で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は41%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が15重量%であるため、実施例2で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たしていた。
【0072】
(実施例3)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量7.2万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを120℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0073】
ポリフッ化ビニリデン:17重量%
ポリビニルピロリドン:3重量%
ポリメチルメタクリレート:2重量%
得られた樹脂溶液を50℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象は確認されず、樹脂溶液の相溶性が高いことが確認された。
【0074】
次に50℃の上記樹脂溶液を、見かけ密度が0.48g/cm、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布に塗布し、直ちに35℃の5重量%DMF水溶液からなる凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質基材を得た。
【0075】
この多孔質膜基材を95℃の熱水に2分間浸漬してDMFを洗い出し、多孔質膜を得た。
【0076】
この多孔質膜は、透水性5.2×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率99%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率66%であった。
【0077】
前述の式(I)について検討すると、実施例3で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は66%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が22重量%であるため、実施例3で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たしていた。
【0078】
(実施例4)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量18万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量85万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量6.4万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0079】
ポリフッ化ビニリデン:12重量%
ポリビニルピロリドン:3重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
得られた樹脂溶液を25℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象は確認されず、樹脂溶液の相溶性が高いことが確認された。
【0080】
次に25℃の上記樹脂溶液を用いて実施例1と同様の製造方法で製膜を行い、多孔質膜を得た。
【0081】
この多孔質膜は、透水性9.8×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率98%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率40%であった。
【0082】
前述の式(I)について検討すると、実施例4で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は40%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が16重量%であるため、実施例4で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たしていた。
【0083】
(実施例5)
製膜原液用の樹脂成分としてフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(重量平均分子量23万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量7.2万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0084】
フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
得られた樹脂溶液を25℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象は確認されず、樹脂溶液の相溶性が高いことが確認された。
【0085】
次に25℃の上記樹脂溶液を用いて実施例1と同様の製造方法で製膜を行い、多孔質膜を得た。
【0086】
この多孔質膜は、透水性10.1×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率99%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率45%であった。
【0087】
前述の式(I)について検討すると、実施例1で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は45%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が15重量%であるため、実施例1で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たしていた。
(実施例6)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、アクリル樹脂(メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体、重量平均分子量7.5万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0088】
ポリフッ化ビニリデン:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
得られた樹脂溶液を25℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象は確認されず、樹脂溶液の相溶性が高いことが確認された。
【0089】
次に25℃の上記樹脂溶液を用いて実施例1と同様の製造方法で製膜を行い、多孔質膜を得た。
【0090】
この多孔質膜は、透水性9.9×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率99%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率46%であった。
【0091】
前述の式(I)について検討すると、実施例1で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は46%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が15重量%であるため、実施例1で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たしていた。
【0092】
(比較例1)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量29.1万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0093】
ポリフッ化ビニリデン:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
得られた樹脂溶液を25℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象が確認され、樹脂溶液の相溶性が低いことが確認された。
【0094】
次に25℃の上記樹脂溶液を用いて実施例1と同様の製造方法で製膜を行い、多孔質膜を得た。
【0095】
この多孔質膜は、透水性13.6×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率98%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率18%であった。
【0096】
前述の式(I)について検討すると、比較例1で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は18%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が15重量%であるため、比較例1で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たさなかった。
【0097】
(比較例2)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量180万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量29.1万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを120℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0098】
ポリフッ化ビニリデン:17重量%
ポリビニルピロリドン:3重量%
ポリメチルメタクリレート:2重量%
得られた樹脂溶液を50℃に降温してレーザー光を照射したところ、チンダル現象が確認され、樹脂溶液の相溶性が低いことが確認された。
【0099】
次に50℃の上記樹脂溶液を用いて実施例2と同様の製造方法で製膜を行い、多孔質膜を得た。
【0100】
この多孔質膜は、透水性6.6×10−9/m/s/Pa、平均粒径0.083μmのポリスチレン微粒子の阻止率99%、平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率56%であった。
【0101】
前述の式(I)について検討すると、比較例2で得られた多孔質膜の平均粒径0.032μmのポリスチレン微粒子の阻止率(R)は56%であり、樹脂溶液中の樹脂の合計濃度(C)が22重量%であるため、比較例2で得られた多孔質膜は式(I)の「R>C×5−48」を満たさなかった。
【0102】
実施例1〜4では、本発明の特徴であるポリフッ化ビニリデン系樹脂と、ポリビニルピロリドン系樹脂と、重量平均分子量が1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂の相溶性が高く、透水性と分離特性に優れた多孔質膜を達成している。一方、比較例1および2においては、ポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂の重量平均分子量が20万を超えているために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂およびポリビニルピロリドン系樹脂との相溶性が低く、結果的に阻止率が低い多孔質膜となっている。
【0103】
(ポリビニルピロリドン系樹脂の溶出)
[比較例3:膜A]
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量85万、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0104】
ポリフッ化ビニリデン:14重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
次に40℃の上記樹脂溶液を、厚さ95μmのポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上に塗布し、直ちに20℃の水凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質樹脂膜を得た。
【0105】
[比較例4:膜B]
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量85万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量29.1万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0106】
ポリフッ化ビニリデン:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
次に40℃の上記樹脂溶液を、厚さ95μmのポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上に塗布し、直ちに20℃の水凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質膜を得た。
【0107】
[実施例7:膜C]
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量28.4万、市販品)、ポリビニルビロリドン(重量平均分子量85万、市販品)、ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量7.2万(測定値)、市販品)を用いた。また、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(市販品、純度99.9%)を用いた。これらを100℃の温度下で2時間撹拌し、次の組成を有する樹脂溶液を作製した。
【0108】
ポリフッ化ビニリデン:13重量%
ポリビニルピロリドン:1重量%
ポリメチルメタクリレート:1重量%
次に40℃の上記樹脂溶液を、厚さ95μmのポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/sec)上に塗布し、直ちに20℃の水凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質膜を得た。
【0109】
上記の膜A〜Cと、さらに90℃蒸留水中に3時間浸漬した膜A〜Cについて、多孔質樹脂層をポリエステル不織布から剥離させ、絶乾後にH−NMRによってPVPを定量した。その結果、膜Aは熱水浸漬前後でPVPが42%減少しているのに対し、膜Bは28%減少、膜Cは20%減少であった。以上より、本発明の多孔質膜はポリスチレン微粒子の阻止率が高いことに加え、ポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂によるポリビニルピロリドン系樹脂の溶出抑制効果も高いことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材に多孔質樹脂層が積層されてなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデン系樹脂と、ポリビニルピロリドン系樹脂と、重量平均分子量が1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂とを有することを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、並びに重量平均分子量1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂をを含有する樹脂溶液を用いて製造された多孔質膜であって、
平均粒径0.032mのポリスチレン微粒子の阻止率(R)と、前記樹脂溶液の樹脂濃度(C)の関係が、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の多孔質膜。
R>C×5−48・・・(I)
【請求項3】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を10重量%以上20重量%以下、ポリビニルピロリドン系樹脂を0.5重量%以上5重量%以下、重量平均分子量1万以上20万以下のポリアクリル酸エステル系樹脂および/またはポリメタクリル酸エステル系樹脂を0.5重量%以上5重量%以下含有することを特徴とする樹脂溶液。
【請求項4】
温度が20℃以上60℃以下の範囲である請求項3に記載の樹脂溶液を多孔質基材の表面に接触させた後、凝固液体に接触させることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記凝固液体が20℃以上60℃以下の範囲内であり、前記樹脂溶液中の樹脂の非溶媒を95重量%以上100重量%以下含有することを特徴とする請求項4に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
多孔質膜における平均粒径0.032mのポリスチレン微粒子の阻止率(R)と、前記樹脂溶液の樹脂濃度(C)の関係が、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項4又は5に記載の多孔質膜の製造方法。
R>C×5−48・・・(I)

【公開番号】特開2012−106235(P2012−106235A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231437(P2011−231437)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】