説明

多孔質膜およびその製造方法

【課題】
活性汚泥槽内で固液分離する用途で使用しても被処理液に対する物理耐久性が高く、かつ高透水性を実現することができる液体分離用に好適な多孔質膜を提供する。
【解決手段】
多孔質基材の表面に単層の多孔質樹脂層を有してなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層が平均直径0.5μm以上10μm以下である球状体からなり、該球状体の表面に平均孔径が0.05μm以上5μm以下の細孔が少なくとも1つ以上形成されており、かつ、該多孔質膜の少なくとも片側の表面の平均孔径が0.05μm以上5μm以下であることを特徴とする多孔質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理や、食品工業分野での固液分離処理に良好な多孔質膜に関する。特に排水処理において活性汚泥槽内に浸漬し固液分離に好適に用いられる多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水や廃水の浄化に使われるようになってきている平膜状や中空糸膜状の多孔質膜は、膜を配設した膜分離エレメントや、該エレメントの複数を配置した膜分離モジュールの装置として水浄化処理に使用されている。
【0003】
そのような膜分離エレメントに配設される膜として、いろいろな種類、形態のものがあるが、界面活性剤を含むポリフッ化ビニリデン樹脂溶液を、織布や不織布のような基材の表面に塗布したり、基材に含浸させたりした後、ポリフッ化ビニリデン樹脂を凝固させ、基材層の表面に多孔質ポリフッ化ビニリデン樹脂層を形成してなる、いわゆる精密ろ過膜と称される平板状の複合分離膜が知られている(特許文献1)。
【0004】
この複合分離膜において、多孔質ポリフッ化ビニリデン樹脂層は分離機能層として作用するが、そのような平膜においては、他の形態の分離膜、たとえば中空糸膜にくらべて単位体積あたりの有効膜面積を大きくとることが困難であるため、ろ過対象に応じた細孔径を保ちつつ透水量を多くすることが要求されている。しかるに、透水量を大きくしようとして空隙率を高くすると、細孔径が大きくなりすぎたり、表面に亀裂が入ったりして阻止率が低下する。一方、阻止率を上げようとして細孔を小さくすると、今度は透水性が低下してしまう。すなわち、阻止率の向上と透水性の向上とは相反する関係にあり、両者のバランスを整えることは難しい。
【0005】
加えて、下廃水用分離膜においては、膜ろ過運転中に、被処理水に含まれる砂のような無機物や汚泥、その他の固形物が膜面に激しく衝突したり、活性汚泥への酸素の供給や目詰まり防止のために行うエアレーション操作による気泡が激しく膜面に衝突したりすることによって、著しい衝撃や振動が膜面に加わると膜の破損、液のリークが生じ易くなるので、それにも十分に耐える膜強度を備えていることが要求される。
【0006】
例えば、特許文献2にはポリフッ化ビニリデン系樹脂を良溶媒に溶解したポリマー溶媒を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点よりかなり低い温度で、口金から押し出したり、ガラス板上にキャストしたりして成形した後、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒を含む液体に接触させて非溶媒誘起相分離により非対称多孔構造を形成させる湿式溶液法が開示されている。しかしながら、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒を含む液体に接触させて非溶媒誘起相分離により非対称多孔構造を形成させる湿式溶液法では、膜厚方向に均一に相分離を起こさせることが困難であり、マクロボイドを含む非対称膜となるため物理的強度が十分でないという問題点がある。
【0007】
また、特許文献3には、多孔質膜が三次元網目状構造と球状構造との両方を有する多孔質膜が開示されている。この多孔質膜では、三次元網目構造部が非溶媒誘起相分離により形成された非対称多孔構造を有する分離機能層であり、球状構造部は熱誘起相分離法により形成された対称多孔構造を有する分離機能層を支える支持部構造であるが、三次元網目構造部は非対称多孔構造であるため、物理的強度が十分でないという問題点がある。
【0008】
また、特許文献4で開示されているように、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に無機微粒子と有機液状体を混練し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を融点以上の温度で口金から押し出したり、プレス機でプレスしたりして成形した後、冷却固化し、その後有機液状体と無機微粒子を抽出する事により多孔構造を形成する溶融抽出法が開示されている。溶融抽出法の場合、空孔性の制御が容易で、マクロボイドは成形せず比較的均質で高強度の膜が得られるものの、無機微粒子の分散性が悪いとピンホールのような欠陥を生じる可能性がある。さらに溶融抽出法は、製造コストが極めて高くなるという欠点を有している。
【0009】
特許文献5では多孔質膜の上にさらに限外ろ過膜を載せた複合膜について開示されている。この複合膜は、基材となる多孔質膜への限外ろ過膜への結合性を良くするために、グリセリンのアルコール溶液などで処理後、乾燥してポリマー溶液を塗布し、非溶媒で凝固して限外ろ過膜を形成させるものであるため、工程が複雑で製造コストが極めて高くなるという欠点を有している。
【特許文献1】特開2003−135939号公報
【特許文献2】欧州特許第0037836号明細書
【特許文献3】国際公開第03/106545号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5022990号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0245863号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、活性汚泥槽内で固液分離する用途で使用しても活性汚泥などの被処理液に対する物理的耐久性が高く、かつ高透水性を実現することができる液体分離用に好適な多孔質膜を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、次の(1)〜(7)に述べる構成からなる。
(1)多孔質基材の表面に単層の多孔質樹脂層を有してなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層が平均直径0.5μm以上10μm以下である球状体からなり、該球状体の表面に平均孔径が0.05μm以上5μm以下の細孔が少なくとも1つ以上形成されており、かつ、該多孔質膜の少なくとも片側の表面の平均孔径が0.05μm以上5μm以下であることを特徴とする多孔質膜。
(2)前記多孔質樹脂層が熱可塑性樹脂からなる(1)に記載の多孔質膜。
(3)前記熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂である(2)に記載の多孔質膜。
(4)落砂式摩耗試験の前後における平均粒径0.09μmのラテックス微粒子の阻止率(%)を、落砂式摩耗試験前の阻止率をA(%)、落砂式摩耗試験後の阻止率をB(%)としたとき、次の不等式
A−B≦50(%)
の関係を満足することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質膜。
(5)平膜である(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔質膜。
(6)20〜60重量%のポリフッ化ビニリデン系樹脂、1〜30重量%の親水性多孔化剤および該ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒を含有し、温度が80〜175℃の範囲であるポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材の表面に接触させた後、凝固浴の中に浸漬させることで得られることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
(7)前記凝固浴の中の液体が、温度が0〜50℃の範囲内であり、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒を60〜100重量%含有することを特徴とする(6)に記載の多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、活性汚泥液などの被処理液に対しても物理的耐久性が高く、かつ高透水性を実現することができ液体分離用に好適な多孔質膜を得ることができる。従って多孔質膜の耐久性が向上され、長期的運転を行うことが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る多孔質膜は、多孔質基材の表面に単層の多孔質樹脂層を有してなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層が平均直径0.5μm以上10μm以下である球状体からなり、該球状体の表面に平均孔径が0.05μm以上5μm以下の細孔が少なくとも1つ以上形成されており、かつ、該多孔質膜の少なくとも片側の表面の平均孔径が0.05μm以上5μm以下であることを特徴とする多孔質膜である。
【0014】
ここで球状体とは多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造からなるものをいう。球状体は、もっぱら球晶からなると推定される。球晶とは、熱可塑性樹脂溶液が相分離して多孔構造を形成する際に、熱可塑性樹脂が球形に析出、固化した結晶のことである。
【0015】
球状体の平均直径は、平均直径0.5μm以上10μm以下であることが必要である。球状体の直径は、多孔質膜の表面または断面を球状体が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて写真を撮り、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状体の直径を測定し、数平均することで求めることができる。写真の解像処理装置で解析し、等価円直径の平均を平均直径とすることも好ましく採用できる。
【0016】
球状体の表面には、細孔が少なくとも1つ以上形成されている必要がある。また、この細孔の平均孔径は、0.05μm以上5μm以下であることが必要である。ここで、球状体の表面の細孔の平均孔径は、多孔質膜の表面または断面を球状体の表面の細孔が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて写真を撮り、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均することで求めることができる。写真の解像処理装置で解析し、等価円孔径の平均を平均孔径とすることも好ましく採用できる。
【0017】
また、多孔質膜は平均粒径約0.09μm以下の微粒子の阻止率が90%以上であることが好ましい。この微粒子阻止率が90%以上である場合には、菌体や汚泥などによる目詰まりやリーク、ろ過差圧の上昇を起こすことなく、長期間の運転を行なうことができる。
【0018】
この微粒子阻止率は、攪拌式セル(アドバンテック(株)製VHP−43K)に多孔質膜をセットし、評価圧力9.8kPa、攪拌速度600rpmにて、逆浸透膜(東レ(株)製SUL−G10)によるろ過水に平均粒径0.09μm以下の微粒子としてポリスチレンラテックス微粒子(セラディン(株)製 公称孔径0.083μm)を25ppmの濃度になるように分散させてなる評価原液をろ過し、評価原液と得られたろ過透過液とについて、波長250nmの紫外線の吸光度を測定し、次式によって微粒子阻止率を求めることができる。
微粒子阻止率=[(原水の吸光度−透過液の吸光度)/原液の吸光度]×100
ここで、吸光度測定には分光光度計(日立製作所製 U−3200)を用いることができる。
【0019】
また、本発明の多孔質膜は、落砂式摩耗試験の前後における平均粒径0.09μmのラテックス微粒子の阻止率を測定し、落砂式摩耗試験前の阻止率をA(%),落砂式摩耗試験後の阻止率をB(%)としたとき、次の不等式の関係を満足することが好ましい。
A−B≦50(%)
AとBの差が50%より大きいと菌体や汚泥などがリークしたり、菌体が汚泥などによる膜つまりが起こったり、ろ過差圧の上昇が起こったり、寿命が極端に短くなったりする。通常はA−B≦10の範囲がさらに好ましい。
【0020】
ここで、多孔質膜の摩耗試験は、落砂式摩耗試験装置(ASTM D673#80 東洋精機製作所製)により、水平面と45°の角度に保持した受台に多孔質膜サンプルの多孔質樹脂層が上面にでるようにセットして、高さ650mmから400gのSiC(45#)をサンプル上から落下させる摩耗試験によって行うことができる。
【0021】
また、平均粒径0.09μmのラテックス微粒子の阻止率(%)の値は、前述した手法と同様に測定することで求めることができる。
【0022】
さらに、本発明の多孔質膜は、純水透過係数1×10−9/m/Pa/s以上であることが好ましい。この純水透過係数が1×10−9/m/Pa/sに満たない時は膜の水透過性が劣る事から高い圧力で運転する必要があり、運転コストが大きくなるというデメリットがある。ここで、純水透過係数は、飲料水を透析膜(東レ(株)製フィルトライザー(登録商標) B2−1.5H)でろ過したものを原水とし、温度25℃、ヘッド圧1mの条件下で膜ろ過させることによって測定することができる。なお、純水透過係数は、ポンプ等で加圧や吸引して得た値を換算して求めても良い。水温についても、評価液体の粘性で換算しても良い。
【0023】
本発明に係る多孔質樹脂層に用いられる樹脂は、特に限定されないが、球状体を作りやすいことから、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0024】
ここで、熱可塑性樹脂とは、鎖状高分子からなり、加熱すると外力によって変形・流動する性質が表れる樹脂のことをいう。熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアクリルニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS樹脂)、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS樹脂)、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびこれらの混合物や共重合体が挙げられる。これらと混和可能などの樹脂を混和しても良い。
【0025】
本発明に係る多孔質樹脂層に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂およびポリフッ化ビニリデン系樹脂から選ばれたものが、耐薬品性が高いため、特に好ましい。
【0026】
その中でもポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とするものが最も好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーならば特に限定されず、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーとの共重合体であり、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のフッ素系モノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。場合によっては、フッ素系モノマー以外の例えばエチレン等のモノマーが含まれていても良い。
【0027】
またポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、要求される多孔質膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが5万〜100万の範囲が好ましい。多孔質膜として、特に平膜への製膜性を考慮した場合は10万〜60万の範囲が好ましく、さらに25万〜45万の範囲が好ましい。重量平均分子量がこの範囲よりも大きくなると、樹脂溶液の粘度が高くなりすぎ、またこの範囲よりも小さくなると、樹脂溶液の粘度が低くなりすぎ、いずれも多孔質膜を成形することが困難になる。
【0028】
本発明において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を60℃未満の低温では5重量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点(例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデンホモポリマー単独で構成される場合は178℃程度)以下の高温領域で5重量%以上溶解させることができる溶媒のことである。貧溶媒に対し、60℃未満の低温でもポリフッ化ビニリデン系樹脂を5重量%以上溶解させることが可能な溶媒を良溶媒、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点または液体の沸点まで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒を非溶媒と定義する。
【0029】
ここで貧溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート等の中鎖長のアルキルケトン、エステル、グリコールエステル及び有機カーボネート等が挙げられる。また良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等が挙げられる。さらに非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る親水性多孔化剤とは、親水性を有していて当該多孔質樹脂層の多孔化を促す性質を有するものならば、なんら限定されるものではなく、好ましくは、親水性有機物の高分子乃至は低分子物質である。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル(モノ、トリエステル体等)等の多価アルコールのエステル体、ソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキサイド低モル付加物、ノニルフェノールのエチレンオキサイド低モル付加物、プルロニック型エチレンオキサイド低モル付加物等のエチレンオキサイド低モル付加物、ポリオキシエチレンアルキルエステル、アルキルアミン塩、ポリアクリル酸ソーダ等の界面活性剤、グリセリンなどの多価アルコール類、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類である。これらは1種類で用いても2種類以上の混合物で用いても良い。これらの親水性多孔化剤は重量平均分子量50,000以下のものが好ましく、より好ましくは30,000以下である。これよりも分子量の大きなものは、凝固浴中の液体への抽出性が悪く、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液へも均一溶解しにくいために好ましくない場合がある。この親水性多孔剤は、凝固浴の液体中で溶媒抽出され構造凝集が起こる時に溶媒に比べ比較的長時間多孔質樹脂中に残留すると考えられる。
【0031】
溶媒抽出に伴う構造凝集が緩やかになってから、親水性多孔剤が抽出されるので、得られた多孔質樹脂層は空孔性が高いものになる。得られる構造は、親水性多孔化剤の種類、分子量、添加量等に依存するが、本発明においては、平均直径0.5μm以上10μm以下である球状体からなる多孔質樹脂層が得られる。ここで、球状体が連結された構造を有する、もしくは球状体と球状体の境界や隙間に細孔が分布する、あるいは球状体間の隙間自体が大きくなる、または球状体自体に5μm以下の細孔が多数分布する、あるいはこれらの要因が複合することによって、本発明の多孔質膜は空孔性が高く透水性の高いものになる。
【0032】
このような構造を有する多孔質膜は、従来の湿式溶液法で得られる網目構造を有する多孔質膜と比べて、物理的強度を高くすることができる。
【0033】
本発明の製造方法では、まずポリフッ化ビニリデン系樹脂(以下、単にポリマーとも表記する)を20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%の濃度範囲で、親水性多孔化剤を1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%の濃度範囲で、該ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒を含有し、温度が80〜175℃、好ましくは100〜150℃の温度範囲で溶解した該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を使用する。
【0034】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂のポリマー濃度が高くなれば高い強度が特性を有する多孔質膜が得られるが、高すぎると製造した多孔質膜の空孔率が小さくなり、透水性能が低下する。また、調製したポリマー溶液の粘度が適正範囲に無ければ、平膜状に成型することが困難である。なお、前記ポリマー溶液の調製において、複数の貧溶媒を用いても良い。また、ポリマーの溶解性に支障が生じない範囲内で、前記貧溶媒に良溶媒や非溶媒が混在していても良い。本発明では、ポリマー濃度を前記の通り20〜60重量%と高濃度にすることで、高い強度特性を発現している。
【0035】
また、本発明において、球状体の表面の平均孔径の制御は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に親水性多孔剤を入れることにより、球状が結晶を形成する際に、親水性多孔剤の液滴が球状体内部に取り残され、凝固浴の液体中で溶媒抽出され構造凝集が起こる時に溶媒に比べ比較的長時間多孔質樹脂中に残留することで、球状体の表面に細孔が形成され、親水性多孔剤の種類、分子量、添加量等により平均孔径が依存すると考えられることから種類、分子量、添加量等で平均孔径を制御する。
【0036】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液中に、親水性多孔化剤が含まれないもしくは1重量%未満であると得られた多孔質膜が十分な空孔性をもたず、透水性が得にくい。また、30重量%を超えて親水性多孔化剤を含むとポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に均一に溶解できず、平膜状に成型できない。また、多孔質膜に筋やピンホール状の欠陥を与え、分離特性が低下し、強度も弱くなる。本発明では前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液中の親水性多孔化剤濃度を前記の通り1〜30重量%とすることで球状体の表面に細孔を形成させている。
【0037】
また本発明の製造方法においては、貧溶媒を用いることで、湿式溶液法で得られる網目構造よりも、球状の結晶からなると推定される球状体の膜構造が優先して形成するが、貧溶媒を用いない場合、あるいは、貧溶媒に貧溶媒以外の溶媒を加えすぎて、溶媒系が貧溶媒としての溶解特性から逸脱した場合、以下の通りの問題が発生する。即ち、溶媒もしくは溶媒系が、良溶媒であるもしくは良溶媒的特性を有する場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液のポリマーに対する溶解能が低温においても高くなるため、製膜時に低温にクエンチしても降温により熱相分離した球状体が凝固析出しにくく、球状体の球がより大きく成長する。これにより得られる膜は少ない点で球状体同士がむすびついており、多孔質膜が強度的に弱いものとなる。一方、溶媒もしくは溶媒系が、非溶媒であるもしくは非溶媒的特性を有する場合、ポリマーが溶媒もしくは溶媒系に均一に溶解しにくく製膜安定性上不都合である。
【0038】
この際に用いられるポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒の含有率は、好ましくは80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%の範囲である。
【0039】
さらにポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製する際には、多孔質膜の表面に形成されている機能層と球状体の細孔を制御するために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に上記以外の無機物質等を添加してもよい。例えば無機物質としては塩化リチウム、塩化カルシウム、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、活性炭微粒子等が挙げられる。
【0040】
本発明の多孔質膜の製造方法においては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を調製した後、該ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材の表面に接触させて、凝固浴の中に浸漬させることで所望の形状に成形するものである。
【0041】
例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を平膜用の口金から吐出して多孔質基材の上に塗布し、必要に応じて所定の長さの乾式部を通過させた後、凝固浴に導いて凝固させる。口金を用いる場合、口金から吐出する前に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を、5〜100μmのステンレス製フィルター等で濾過することが好ましい。使用する前記口金の寸法は、製造する平膜の寸法と膜構造により適宜選択すればよいが、おおよそスリット幅は0.1mm〜10mmの範囲であることが好ましい。
【0042】
また、口金の温度すなわち製膜温度は、溶解温度と同様、80〜175℃、好ましくは100〜170℃の範囲にあれば良く、口金温度と溶解温度が異なっても構わない。溶解温度については、溶解を短時間に均一に行うという点から、口金温度より高い温度に設定することも好ましく採用できる。
【0043】
多孔質膜の厚みは10μm〜1mm、さらには30μm〜500μmの範囲内であることが好ましい。多孔質膜は多孔質基材の表面に単層の多孔質樹脂層が設けられてなるが、多孔質基材と多孔質樹脂層が重なりあう層が存在しても良い。多孔質基材としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、綿、絹などの有機繊維からなる織物、編物、不織布等の多孔質基材や、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維からなる織物、編物等の多孔質基材を用いる事ができる。この中で伸縮性、コストの点から特に有機繊維からなる多孔質基材が好ましい。
【0044】
前記の通り、多孔質基材上に塗布されたポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液は、凝固浴の中に入り、凝固して多孔質樹脂層を形成する。
【0045】
また、膜表面の機能層は、凝固浴の中の液体に水等の非溶媒を含有することにより、非溶媒誘起分離が発生し膜表面に機能層が形成される。
【0046】
この際用いられる凝固浴の中の液体は、温度が好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜30℃であり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒の濃度が好ましくは60〜100重量%、より好ましくは70〜90重量%の範囲で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の非溶媒の濃度が好ましくは1〜35重量%、より好ましくは5〜30重量%の範囲である。凝固浴がこの温度範囲にあることにより、凝固工程において、球状が発達しやすい冷却凝固が支配的となる。貧溶媒は、複数のものを混合して用いても良い。また、前記の濃度範囲を外れない限りにおいて、貧溶媒に、貧溶媒以外の溶媒が混合されてもよい。好ましくは非溶媒が混合されるが、場合によっては良溶媒を混合しても良いし、親水化多孔化剤を混合してもよい。
【0047】
凝固浴においてポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の溶解温度から大きい温度差を与えて急冷することで、球状体が微小になると同時に、適度に球状体間にポリマー分子の凝集体が存在し、透水性と高い強度特性を有する膜構造を発現する。
【0048】
また、凝固浴の中の液体に、ある程度高い濃度の非溶媒を含有させることで、非溶媒誘起相分離により膜表面に機能層を形成することが可能となる。
【0049】
凝固浴の中の液体に水等の非溶媒を高い濃度で含有させると、膜表面に非常に緻密な機能層を形成してしまい、透水性能は発現しない。
【0050】
なお、前記凝固浴の形態としては、凝固浴の中の液体と多孔質基材に塗布されたポリフッ化ビニリデン系樹脂とが十分に接触して冷却および凝固等が可能であるならば、特に限定されるものではなく、文字通り冷却および凝固液体が貯留された液槽形態であっても良いし、さらに必要により前記液槽は、温度や組成が調整された液体が循環もしくは更新されても良い。前記液槽形態が最も好適ではあるが、場合によっては、液体が管内を流動している形態であっても良いし、空中に走向等しているポリフッ化ビニリデン系樹脂に冷却液体が噴射される形態であっても良い。
【0051】
また、これらとは別の高透水性発現のアプローチとして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を、凝固浴の中の液体として温度が0〜50℃、好ましくは3〜30℃であり、濃度が1〜100重量%、好ましくは1〜50重量%の範囲で親水性多孔化剤を含有する液体を用いて、凝固させる方法も好ましく採用される。親水性多孔化剤は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に含まれるものと同種の1種又は複数種のものを用いることが望ましいが、それ以外の親水性多孔化剤を用いてもよい。また、前記の濃度範囲を外れない限りにおいて、親水性多孔化剤に、親水性多孔化剤以外の溶媒が混合されてもよい。好ましくは非溶媒または貧溶媒が混合されるが、場合によっては良溶媒を混合しても良い。冷却浴に親水性多孔化剤を含有することにより、吐出した多孔質膜が冷却浴および凝固浴中で溶媒抽出され凝固析出するときにポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の溶媒抽出速度に比べて、濃度勾配により親水性多孔化剤の抽出速度が低下する。その結果溶媒抽出に伴う構造収縮時もより長期間構造中に親水性多孔化剤が構造中に留まり、空孔性が高く透水性が高い膜が発現する。
【0052】
さらに、多孔質樹脂層が多孔質基材の上に形成された多孔質膜において、多孔質樹脂層を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂の一部が多孔質基材中に入り込み、多孔質樹脂層を構成する樹脂と基材とが混在する層が、多孔質樹脂層と多孔質基材との間に介在することが好ましい。基材表面側の内部にポリフッ化ビニリデン系樹脂が入り込むことで、いわゆるアンカー効果によって多孔質樹脂層が多孔質基材に堅固に定着され、多孔質樹脂層が多孔質基材から剥がれるのを防止できるようになる。多孔質樹脂層は、多孔質基材に対して、片面に偏って存在しても構わないし、また、両面に存在しても構わない。多孔質樹脂層は、多孔質基材に対して、対称構造であっても、非対称構造であっても構わない。また、多孔質樹脂層が多孔質基材に対して両面に存在している場合には、両側の多孔質樹脂層が、多孔質基材を介して連続的であっても構わないし、不連続であっても構わない。
【0053】
次に、本発明において用いる多孔質膜を製造する方法について説明する。この多孔質膜は、たとえば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及び親水性多孔化剤などを含むポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を、多孔質基材の片表面若しくは両表面に接触させ、貧溶媒および非溶媒を含む凝固浴の液体中で凝固させ多孔質樹脂層を形成することにより製造することができる。このとき、多孔質基材の表面にポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を接触させる手段は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の塗布でもよく、また、多孔質基材をポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に浸漬させる方法でもよい。多孔質基材にポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を塗布する場合には、多孔質基材の片面に塗布しても構わないし、両面に塗布しても構わない。多孔質基材とは別に多孔質樹脂層のみを形成した後に両層を接合する方法でもよい。
【0054】
そして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を凝固させるにあたっては、多孔質基材上のポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液被膜のみを凝固液に接触させる方法でもよいし、また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液被膜を基材ごと凝固液に浸漬する方法でもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液被膜のみを凝固液に接触させるためには、例えば、基材上に形成されたポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液被膜が下側に来るようにして凝固浴表面と接触させる方法や、ガラス板、金属板などの平滑な板の上に多孔質基材を接触させて、凝固浴が多孔質基材側に回り込まないように貼り付け、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液被膜を有する多孔質基材を板ごと凝固浴に浸漬する方法などがある。後者の方法では、多孔質基材を板に貼り付けてからポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の被膜を形成しても構わないし、基材にポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液の被膜を形成してから板に貼り付けても構わない。
【0055】
そして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液には、前記したポリフッ化ビニリデン系樹脂などの他に、必要に応じて開孔剤やそれらを溶解する溶媒等を添加してもよい。
【0056】
上述のようにして製造される本発明の多孔質膜は、たとえば、プレートアンドフレーム型の膜モジュールの分離膜として使用される。固液分離装置は、活性汚泥槽などの活性汚泥などの被処理液が収容されている処理槽中に浸漬配置され、ポンプにより処理原液側に加圧手段をもしくは透過液側に吸引手段を設け、膜ろ過が行われる。もちろん、ポンプを設けず水位差による膜ろ過を行ってもよい。固液分離装置は、膜の洗浄効果を得るために、膜の下方に曝気装置を配置する等、膜面に対して被処理液が並行に流れるようにする手段を備えていてもよい。
【実施例】
【0057】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、得られた多孔質膜の膜性能評価は以下の方法で行った。
(1)球状体の平均直径
多孔質膜の表面または断面を球状体が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて写真を撮り、20個の任意の球状体の直径を測定し、数平均して求めた。
(2)球状体の表面の細孔の平均孔径
多孔質膜の表面または断面を球状体の表面の細孔が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて写真を撮り、20個任意の細孔の直径を測定し、数平均することで求めた。
(3)ポリスチレンラテックス微粒子阻止率
攪拌式セル(アドバンテック(株)製VHP−43K)に多孔質膜をセットし、評価圧力9.8kPa、攪拌速度600rpmにて、逆浸透膜(東レ(株)製SUL−G10)によるろ過水に平均粒径0.09μm以下の微粒子としてポリスチレンラテックス微粒子(セラディン(株)製 公称孔径0.083μm)を25ppmの濃度になるように分散させてなる評価原液をろ過し、評価原液と得られたろ過透過液とについて、波長250nmの紫外線の吸光度を測定し、次式によって微粒子阻止率を求めた。
微粒子阻止率=[(原水の吸光度−透過液の吸光度)/原液の吸光度]×100
ここで、吸光度測定には分光光度計(日立製作所製 U−3200)を用いた。
(4)落差式摩耗試験
落砂式摩耗試験装置(ASTM D673#80 東洋精機製作所製)により、水平面と45°の角度に保持した受台に多孔質膜サンプルの多孔質樹脂層が上面にでるようにセットして、高さ650mmから400gのSiC(45#)をサンプル上から落下させて行い、落砂式摩耗試験前の阻止率A(%)から落砂式摩耗試験後の阻止率B(%)を差し引いて求めた。
(5)純水透過係数
飲料水を透析膜(東レ(株)製 フィルトライザー(登録商標)B2−1.5H)でろ過したものを原水とし、温度25℃、ヘッド圧1mの条件下で膜ろ過させることによって測定した。なお、純水透過係数は、ポンプ等で加圧や吸引して得た値を換算して求めた。
(実施例1)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0058】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :30.0重量%
γ−ブチロラクトン :65.0重量%
ポリエチレングリコール : 5.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、貧溶媒のγ−ブチロラクトン80重量%と非溶媒の水20重量%を含む15℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0059】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトン及びポリエチレングリコールを洗い流し、多孔質膜とした。
【0060】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は0.4μm、球状体の平均直径は5μm、球状体の表面の平均孔径0.45μmであった。多孔質膜の厚みは102μmで、機能層の界面から他端部まで連通孔構造であり、純水透過係数は38×10−9/m/s/Paと高い水準であった。
【0061】
上記多孔質膜について初期値(摩耗試験前)の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率が98%であった。また、摩耗試験後のポリスチレンラテックス阻止率は95%であった。このように、ポリスチレンラテックス微粒子の阻止率性能の摩耗試験による低下幅(A−B)は、3.0%と極めて小さく、摩耗試験による多孔質膜の性能低下は認められず、摩耗試験後でも90以上の良好な水準を維持することができた。
【0062】
さらに、図1(多孔質膜の表面)及び図2(多孔質膜の断面)に得られた多孔質膜の構造写真を示し、表1に膜性能の評価結果を示す。
(実施例2)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0063】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :30.0重量%
γ−ブチロラクトン :60.0重量%
ポリエチレングリコール :10.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、貧溶媒のγ−ブチロラクトン80重量%と非溶媒の水20重量%を含む15℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0064】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトン及びポリエチレングリコールを洗い流し、多孔質膜とした。
【0065】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は0.60μm、球状体の平均直径は7μm、球状体の表面の平均孔径0.60μmであった。多孔質膜の厚みは104μmで、機能層の界面から他端部まで連通孔構造であり、純水透過係数は33×10−9/m/s/Paと高い水準であった。
【0066】
上記多孔質膜について初期値(摩耗試験前)の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率が93%であった。また、摩耗試験後のポリスチレンラテックス阻止率は91%であった。このように、ポリスチレンラテックス微粒子の阻止率性能の摩耗試験による低下幅(A−B)は、2.0%と極めて小さく、摩耗試験による多孔質膜の性能低下は認められず、摩耗試験後でも90以上の良好な水準を維持することができた。
【0067】
さらに、図3(多孔質膜の表面)及び図4(多孔質膜の断面)に得られた多孔質膜の構造写真を示し、表1に膜性能の評価結果を示す。
(実施例3)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0068】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :35.0重量%
γ−ブチロラクトン :60.0重量%
ポリエチレングリコール :5.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、貧溶媒のγ−ブチロラクトン80重量%と非溶媒の水20重量%を含む10℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0069】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトン及びポリエチレングリコールを洗い流し、多孔質膜とした。
【0070】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は0.50μm、球状体の平均直径は4μm、球状体の表面の平均孔径0.55μmであった。多孔質膜の厚みは99μmで、機能層の界面から他端部まで連通孔構造であり、純水透過係数は26×10−9/m/s/Paと高い水準であった。
【0071】
上記多孔質膜について初期値(摩耗試験前)の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率が97%であった。また、摩耗試験後のポリスチレンラテックス阻止率は92%であった。このように、ポリスチレンラテックス微粒子の阻止率性能の摩耗試験による低下幅(A−B)は、6.0%と小さく、摩耗試験による多孔質膜の性能低下は認められず、摩耗試験後でも90以上の良好な水準を維持することができた。
(実施例4)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてグリセリン、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0072】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :30.0重量%
γ−ブチロラクトン :65.0重量%
グリセリン :5.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、貧溶媒のγ−ブチロラクトン80重量%と非溶媒の水20重量%を含む15℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0073】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトン及びグリセリンを洗い流し、多孔質膜とした。
【0074】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は0.80μm、球状体の平均直径は6μm、球状体の表面の平均孔径0.85μmであった。多孔質膜の厚みは98μmで、機能層の界面から他端部まで連通孔構造であり、純水透過係数は27×10−9/m/s/Paと高い水準であった。
【0075】
上記多孔質膜について初期値(摩耗試験前)の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率が91%であった。また、摩耗試験後のポリスチレンラテックス阻止率は90%であった。このように、ポリスチレンラテックス微粒子の阻止率性能の摩耗試験による低下幅(A−B)は、1.0%と小さく、摩耗試験による多孔質膜の性能低下は認められず、摩耗試験後でも90以上の良好な水準を維持することができた。
(比較例1)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0076】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :30.0重量%
γ−ブチロラクトン :65.0重量%
ポリエチレングリコール : 5.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、非溶媒の水100重量%の15℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0077】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトン及びポリエチレングリコールを洗い流し、多孔質膜とした。
【0078】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は0.01μm以下、球状体の平均直径は5μm、球状体の表面の平均孔径0.40μmであった。多孔質膜の厚みは101μmで、機能層にはほとんど細孔がみられず、純水透過係数は1×10−9/m/s/Pa以下と低い水準であった。
【0079】
上記多孔質膜について摩耗試験による摩耗試験前後の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率測定は純粋透過係数の値が得られなかったことから測定できなかった。
【0080】
さらに、図5(多孔質膜の表面)及び図6(多孔質膜の断面)に得られた多孔質膜の構造写真を示し、表1に膜性能の評価結果を示す。
(比較例2)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0081】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :30.0重量%
γ−ブチロラクトン :70.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、貧溶媒のγ−ブチロラクトン80重量%と非溶媒の水20重量%を含む15℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0082】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトンを洗い流し、多孔質膜とした。
【0083】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は2.0μm、球状体の平均直径は6μm、球状体の表面の平均孔径0.01μm以下であった。多孔質膜の厚みは103μmで、機能層の界面から他端部まで連通孔構造であり、純水透過係数は66×10−9/m/s/Paと非常に高い水準であった。
【0084】
上記多孔質膜について初期値(摩耗試験前)の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率が5.0%であった。また、摩耗試験後のポリスチレンラテックス阻止率は4.0%であった。このように、ポリスチレンラテックス微粒子の阻止率性能の摩耗試験による低下幅(A−B)は、1.0%であったが、機能層も膜表面平均孔径が大きく阻止率が10%以下と非常に低い値であった。
【0085】
さらに、図7(多孔質膜の表面)及び図8(多孔質膜の断面)に得られた多孔質膜の構造写真を示し、表1に膜性能の評価結果を示す。
(比較例3)
製膜原液用の樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン(PVDF/呉羽化学工業株式会社製、KF#1300)を用いた。また、親水性多孔化剤としてポリエチレングリコール(平均分子量20,000)、貧溶媒としてγ−ブチロラクトンをそれぞれ用いた。これらを160℃の温度下で十分に攪拌し、次の組成を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製した。
【0086】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF) :30.0重量%
γ−ブチロラクトン :70.0重量%
次に上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を50μmのステンレス製フィルター等で濾過した後、160℃に調整したスリット幅1mmの平膜用口金から、厚み100μmになるように、密度0.42g/cm、厚み160μmのポリエステル繊維不織布の上に塗布し、直ちに、非溶媒の水100重量%の15℃の凝固液中に5分間浸漬して、多孔質樹脂層が形成された多孔質膜を製造した。
【0087】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材に塗布した多孔質樹脂層を95℃の熱水に2分間浸漬してγ−ブチロラクトン及びポリエチレングリコールを洗い流し、多孔質膜とした。
【0088】
得られた多孔質膜について膜性能評価を行った結果、多孔質膜の表面の機能層の平均孔径は0.1μm以下、球状体の平均直径は6.0μm、球状体の表面の平均孔径0.01μm以下であった。多孔質膜の厚みは102μmで、機能層にはほとんど細孔がみられず、純水透過係数は1×10−9/m/s/Pa以下と低い水準であった。
【0089】
上記多孔質膜について摩耗試験による摩耗試験前後の平均粒径0.09μmのポリスチレンラテックス微粒子の阻止率測定は純粋透過係数の値が得られなかったことから測定できなかった。
【0090】
さらに、図9(多孔質膜の表面)及び図10(多孔質膜の断面)に得られた多孔質膜の構造写真を示し、表1に膜性能の評価結果を示す。
【0091】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1における多孔質樹脂層の表面を撮影した構造写真である。
【図2】実施例1における多孔質樹脂層の断面を撮影した構造写真である。
【図3】実施例2における多孔質樹脂層の表面を撮影した構造写真である。
【図4】実施例2における多孔質樹脂層の断面を撮影した構造写真である。
【図5】比較例1における多孔質樹脂層の表面を撮影した構造写真である。
【図6】比較例1における多孔質樹脂層の断面を撮影した構造写真である。
【図7】比較例2における多孔質樹脂層の表面を撮影した構造写真である。
【図8】比較例2における多孔質樹脂層の断面を撮影した構造写真である。
【図9】比較例3における多孔質樹脂層の表面を撮影した構造写真である。
【図10】比較例3における多孔質樹脂層の断面を撮影した構造写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材の表面に単層の多孔質樹脂層を有してなる多孔質膜であって、該多孔質樹脂層が平均直径0.5μm以上10μm以下である球状体からなり、該球状体の表面に平均孔径が0.05μm以上5μm以下の細孔が少なくとも1つ以上形成されており、かつ、該多孔質膜の少なくとも片側の表面の平均孔径が0.05μm以上5μm以下であることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
前記多孔質樹脂層が熱可塑性樹脂からなる請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂である請求項2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
落砂式摩耗試験の前後における平均粒径0.09μmのラテックス微粒子の阻止率(%)を、落砂式摩耗試験前の阻止率をA(%)、落砂式摩耗試験後の阻止率をB(%)としたとき、次の不等式
A−B≦50(%)
の関係を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項5】
平膜である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項6】
20〜60重量%のポリフッ化ビニリデン系樹脂、1〜30重量%の親水性多孔化剤および該ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒を含有し、温度が80〜175℃の範囲であるポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を多孔質基材の表面に接触させた後、凝固浴の中に浸漬させることで得られることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記凝固浴の中の液体が、温度が0〜50℃の範囲内であり、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒を60〜100重量%含有することを特徴とする請求項6に記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−75851(P2010−75851A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247560(P2008−247560)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】