説明

多孔質膜の作製方法、多孔質膜、及び多孔質膜の前駆体組成物の溶液

【課題】成膜チャンバー及びその部材や排気系や配管等を腐食することなく、低誘電率、低屈折率、及び高機械的強度を有し、疎水性の改良された多孔質膜を作製する方法、多孔質膜、並びに多孔質膜の前駆体組成物の溶液を提供すること。
【解決手段】式:Si(OR)及びR(Si)(OR)4−a(式中、Rは1価の有機基を表し、Rは水素原子、フッ素原子又は1価の有機基を表し、Rは1価の有機基を表し、aは1〜3の整数であり、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよい)で示される化合物から選ばれた化合物と、熱分解性有機化合物とを含む多孔質膜の前駆体組成物の溶液であって、pHが5〜9である溶液を基板上に塗布し、所定の温度範囲で焼成させ、得られた多孔質膜に対する紫外線照射後、ヘキサメチルジシラザン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、トリメチルシリルイミダゾール及びトリメチルアミンジメチルアミンから選ばれた疎水性化合物を所定の温度で気相反応させ、疎水化された多孔質膜を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の作製方法、多孔質膜、及び多孔質膜の前駆体組成物の溶液に関する。特に、配管や成膜チャンバー及びその部材や排気系等を腐食することなく、低誘電率及び低屈折率を有し、かつ、機械的強度にも優れた疎水性の多孔質膜(多孔質シリカ膜)を作製する方法及びこの方法により作製された多孔質膜、並びにこの多孔質膜を作製するための前駆体組成物の溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの分野において、銅配線と共に、2.5以下の低誘電率(k)を特徴とする層間絶縁膜を導入すべく盛んに研究開発されている。この層間絶縁膜として、低誘電率を持つ酸化物膜を多孔質膜にすることで比誘電率をさらに低くすることが提案されている。しかし、多孔質膜にすることで、(1)機械的強度の急激な低下、(2)多孔質膜の孔内への空気中の水分の吸着、(3)この水分吸着を防ぐために導入するCH基等の疎水性基による多孔質膜に接する膜との密着性低下等の問題が引き起こされているのが現状である。そのため、多孔質膜の半導体デバイスへの実用化プロセス、特にCuデュアルダマシン配線構造におけるCMP(Chemical Mechanical Polishing)やワイヤボンディングプロセス等で、(1)機械的強度の低下による多孔質膜の破壊、(2)水分吸湿による比誘電率の上昇、(3)密着性低下による積層膜/多孔質絶縁膜間の剥離発生等の問題が生じており、実用上の大きな障害となっている。
【0003】
有機化合物と無機化合物との自己組織化を利用した均一なメソ細孔を持つ酸化物の製造方法として、シリカゲルと界面活性剤等とを用いて、密封した耐熱性容器内で水熱合成することが提案されており(例えば、特許文献1参照)、このような均一なメソ細孔を持つ酸化物を半導体材料等に用いるために、近年、その形態をフィルム状に調製することが報告されている。
【0004】
例えば、アルコキシシラン類の縮合物と界面活性剤とからなるゾル液中に基板を浸漬し、その基板表面に多孔質シリカを析出させてフィルム状に形成する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。さらに、アルコキシシラン類の縮合物と界面活性剤とを有機溶媒に混合した溶液を基板に塗布し、次いで有機溶媒を蒸発させて基板上にフィルムを調製する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
上記非特許文献1における基板表面に多孔質シリカを析出する方法では、調製に長時間を要し、また、粉体として析出する多孔質シリカが多く、歩留まりが悪い等の欠点があるため、非特許文献2における有機溶媒を蒸発させる方法の方が多孔質シリカフィルムの調製には優れている。
【0006】
上記非特許文献2における有機溶媒を蒸発させて基板上にフィルムを調製する方法において用いられる溶媒として、多価アルコール、グリコールエーテル溶媒、グリコールアセテートエーテル溶媒、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、カルボン酸エステル溶媒等が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、2.5の低誘電率を持ち、高強度を得るために、多孔質膜に対して紫外線照射した後、特定の疎水性化合物を気相反応させる手法が提案されている(特許文献3)。
【0008】
多孔質層間絶縁膜を半導体プロセスで加工するにあたり、膜形成用塗布液による配管等の腐食、塗布液を塗布して成膜した後に焼成した場合に発生する腐食性ガス等による、配管を含めた装置部材の腐食が問題となる。現状では、高い腐食耐性を持つ素材を用いて装置及び部材を構成している。そのため、装置全体のコストが高くなり、それが製品コストに跳ね返るという問題がある。また、公害の面からも、発生する腐食性ガスを無害化処理して排気しなければならず、さらに製品コストが上昇するという問題もある。
【特許文献1】WO-91/11390パンフレット(クレーム等)
【非特許文献1】Nature誌、1996年、379巻(703頁)
【非特許文献2】Supramolecular Science 誌、1998年、5巻(247頁等)
【特許文献2】特開2000-38509号公報(段落番号0013、0014等)
【特許文献3】特開2007-321092号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、多孔質膜の前駆体組成物の溶液である塗布液により配管等を腐食することなく、かつ、塗布液の塗布後の焼成工程において、腐食性ガス、窒素酸化物、及び硫黄酸化物等の発生を抑制して、装置の成膜チャンバー及びその部材や排気系等を腐食することなく、低誘電率及び低屈折率を有し、機械的強度にも優れ、疎水性の改良された多孔質膜を作製する方法、この方法により作製される多孔質膜、並びにこの多孔質膜の前駆体組成物の溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、低誘電率及び低屈折率を有し、かつ、機械的強度に極めて優れた疎水性多孔質膜を作製する際に、多孔質膜の前駆体組成物の溶液である塗布液による配管等の腐食を抑制すると共に、塗布後の焼成の際に腐食性ガス、窒素酸化物、及び硫黄酸化物等の発生を抑制して多孔質膜を作製すべく鋭意研究開発を進めてきた。その結果、加水分解触媒として強酸や強アルカリを用いずに、弱有機酸や弱有機塩基を使用し、かつ、ハロゲン化物、ニトロ基含有化合物、スルホン基含有化合物、窒素酸化物、硫黄酸化物等を含まない前駆体組成物の溶液を用い、塗布後に焼成して得られた多孔質膜に対して紫外線を照射した後、特定の疎水性化合物と気相反応させることにより、従来技術の問題点を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の多孔質膜の作製方法は、
次の一般式(1):
Si(OR) (1)
で示される化合物(A)、及び次の一般式(2):
(Si)(OR)4−a (2)
で示される化合物(B)
【0012】
(上記式(1)及び(2)中、Rは1価の有機基を表し、Rは水素原子、又は1価の有機基を表し、Rは1価の有機基を表し、aは1〜3の整数であり、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよい。)
から選ばれた少なくとも1種の化合物と、250℃以上で熱分解する熱分解性有機化合物(C)とを含有している多孔質膜の前駆体組成物の溶液であって、pHが5〜9である溶液を基板上に塗布し、100〜400℃の温度範囲で乾燥、焼成させ、基板上に形成された多孔質膜に対して、波長157nm〜344nmの紫外線を照射した後、ヘキサメチルジシラザン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、トリメチルシリルイミダゾール及びトリメチルシリルジメチルアミンから選ばれた有機ケイ素化合物である疎水性化合物を、100〜600℃の温度範囲で気相反応させ、疎水化された多孔質膜を作製することを特徴とする。
【0013】
上記熱分解性有機化合物(C)として、250℃未満の熱分解温度を有する化合物を用いると、上記一般式(1)及び(2)で示されるアルコキシシラン類の重合が起きるより早くこの化合物(C)が分解してしまい、多孔質膜の設計通りの孔径を得るのが難しいという問題がある。また、上記前駆体組成物の溶液の酸性度が5より小さくなるか、アルカリ性度が9より大きくなると、配管等に腐食が発生するという問題がある。この前駆体組成物の溶液中には、ハロゲン化物、ニトロ基含有化合物、スルホン基含有化合物、窒素酸化物、硫黄酸化物等が含まれていない。
【0014】
上記多孔質膜の作製方法において、乾燥、焼成温度が100℃未満であると成膜せず、また、400℃を超えると、多孔質膜の孔の形成が不十分になる。また、上記気相反応の反応温度が100℃未満であると、気相反応が十分に起こらず、また、600℃を超えると、多孔質膜が収縮して比誘電率の上昇を招く。
【0015】
上記前駆体組成物中に含まれる熱分解性有機化合物(C)は、分子量200〜5000の界面活性剤を少なくとも1種含んでいることを特徴とする。界面活性剤の分子量が200未満であると、形成できる孔径が小さすぎ、5000を超えると、孔径が大きくなりすぎる。
【0016】
上記前駆体組成物中に含まれる金属イオン不純物は、10ppb以下であることを特徴とする。ここで、金属イオン不純物が、10ppbを超えると、半導体装置の信頼性に影響する。
【0017】
上記前駆体組成物の溶液が、弱塩基性触媒、又は有機酸及び過酸化物から選ばれた弱酸性触媒を含んでいることを特徴とする。前駆体組成物の溶液のpHが5〜9であるので、配管等の腐食が抑制される。
【0018】
本発明の多孔質膜は、上記した多孔質膜の作製方法に従って得られたものである。
【0019】
本発明の多孔質膜の前駆体組成物の溶液は、次の一般式(1):
Si(OR) (1)
で示される化合物(A)、及び次の一般式(2):
(Si)(OR)4−a (2)
で示される化合物(B)
【0020】
(上記式(1)及び(2)中、Rは1価の有機基を表し、Rは水素原子、又は1価の有機基を表し、Rは1価の有機基を表し、aは1〜3の整数であり、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよい。)
から選ばれた少なくとも1種の化合物と、250℃以上で熱分解する熱分解性有機化合物(C)とを含有し、pHが5〜9であることを特徴とする。
【0021】
上記前駆体組成物の溶液は、弱塩基性触媒、又は有機酸及び過酸化物から選ばれた弱酸性触媒を含んでいることを特徴とする。
【0022】
上記溶液中の熱分解性有機化合物(C)が、分子量200〜5000の界面活性剤を少なくとも1種含んでいることを特徴とする。
【0023】
上記溶液中に含まれる金属イオン不純物が、10ppb以下であることを特徴とする。
【0024】
上記前駆体組成物の溶液において、熱分解性有機化合物(C)化合物の熱分解温度250℃以上、その溶液のpH5〜9、及び熱分解性有機化合物(C)中に含まれる界面活性剤の分子量200〜5000については、上記した通りの意味合いがある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、pH5〜9で、かつ、ハロゲン化物、ニトロ基含有化合物、スルホン基含有化合物、窒素酸化物、硫黄酸化物等を含まない前駆体組成物の溶液である塗布液を用いて多孔質膜を作製するので、塗布液による配管等の腐食を抑制できると共に、塗布後の焼成の際に腐食性ガス、窒素酸化物、及び硫黄酸化物等の発生を抑制することができるので、成膜工程に使用する装置の成膜チャンバーやその部材や排気系等を腐食することなく、低誘電率及び低屈折率を有し、かつ、機械的強度にも優れ、疎水性の改良された多孔質膜を作製できるという効果が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の一実施の形態によれば、所望の特性を有する多孔質膜は、次の一般式(1):
Si(OR) (1)
で示される化合物(A)、及び次の一般式(2):
(Si)(OR)4−a (2)
で示される化合物(B)
【0027】
(上記式(1)及び(2)中、Rは1価の有機基を表し、Rは水素原子、又は1価の有機基を表し、Rは1価の有機基を表し、aは1〜3の整数であり、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよい。)から選ばれた少なくとも1種の化合物と、200〜5000の分子量を有し、かつ、250℃以上で熱分解する界面活性剤を含む熱分解性有機化合物(C)と、有機溶媒と、弱塩基性触媒、又は有機酸及び過酸化物から選ばれた弱酸性触媒とを含有し、pHが5〜9である前駆体組成物の溶液から作製される。
【0028】
上記前駆体組成物の溶液は、上記化合物(A)及び化合物(B)から選ばれた少なくとも1種の化合物と、熱分解性有機化合物(C)と、弱塩基性触媒又は弱酸性触媒とを有機溶媒中で混合することにより調製することができる。これらの各成分化合物の添加・混合の順序には特に制限はない。
【0029】
上記前駆体組成物の溶液を調製する方法の一例について、以下具体的に説明する。
【0030】
例えば、上記一般式(1)及び(2)で示される化合物の少なくとも1種類の化合物と、水と、有機溶媒との混合物に、一般式(1)及び(2)で示される化合物中のOR、OR
加水分解せしめるための弱酸性触媒あるいは弱塩基性触媒を加え、20〜80℃の範囲で30分〜5時間攪拌し、一般式(1)及び(2)で示される化合物を加水分解させ、溶液を調製する。次いで、この溶液を攪拌しながら、界面活性剤を1秒間に100万分の1モルから100分の1モルの範囲内で少量ずつ滴下する。この時、界面活性剤は直接滴下しても有機溶媒等で希釈したものを滴下しても良く、界面活性剤の単位時間あたりの滴下量は界面活性剤の分子量に依存するが、多すぎると界面活性剤の分散が不十分となり、最終的に得られる溶液に不均一が生じる。以上の各原料の混合比は目的とする比誘電率によって適宜決定すればよい。
【0031】
上記弱酸性触媒又は弱塩基性触媒を用いる加水分解により、塗布液としての前駆体組成物の溶液のpHを5〜9にすることで初期の目的を達成することができる。
【0032】
上記のようにして界面活性剤を滴下して得た溶液を20〜50℃の範囲、好ましくは25〜30℃の範囲で30分〜24時間攪拌し、多孔質膜の前駆体組成物の溶液を得る。
【0033】
本発明の多孔質膜の作製方法によれば、まず、上記前駆体組成物の溶液を基板上に塗布し、100〜400℃の温度範囲で乾燥、焼成させる。次いで、基板上に形成された多孔質膜に対して、Si−Oの結合エネルギーよりも低く、Si−Cの結合エネルギーよりも高いエネルギーを持つ波長157nm〜344nmの紫外線を照射した後、有機物残渣を取り除いてから、有機ケイ素化合物である疎水性化合物を100〜600℃の温度範囲で気相反応させ、シリル化を行う。
【0034】
近年の半導体装置における加工の微細化に伴い、比誘電率の低減が求められているのと同時に、その成膜温度、雰囲気等にも非常に厳しい要求が出ている。すなわち、従来、多孔質シリカの焼成温度は400℃でも良いとされていたが、近年の半導体装置の加工における要求は、350℃以下で焼成可能であること、また、焼成雰囲気は窒素等の不活性ガス雰囲気で行えること、となっている。しかし、このような低温焼成や雰囲気では界面活性剤の熱分解が終了せずに有機物残渣が残ること、また、焼成温度が低いことによりこのシリカ壁の架橋とシリカ壁を強化するシリル化化合物の架橋が進まず、機械的強度が低い膜になること、などの問題が生じていた。
【0035】
そこで、本発明では、上記したように、Si−Oの結合エネルギーよりも低く、かつ、Si−Cの結合エネルギーよりも大きなエネルギーを持つ波長157nm〜344nmの紫外線を照射し、有機物残渣を取り除いてから、その後シリル化化合物である疎水性化合物によりシリカ壁強化を行っている。ここで再度紫外線を照射し、シリル化化合物による強化を行うことで、多孔質シリカ膜の更なる機械的強度の向上も可能である。また、有機物残渣を分解せしめ、かつSi−Oの結合を切断しないエネルギーをもつものであれば、照射するエネルギーは紫外線に限定されるものではなく、例えば所望のエネルギー状態に加速された電子ビーム等も有効である。
【0036】
本発明によれば、上記したように、疎水性化合物を気相状態で多孔質シリカ膜中の孔内へ導入し、孔内壁に疎水性重合体薄膜を生成させる。
【0037】
本発明を、微細化の著しい半導体装置の層間絶縁膜の形成方法に適用する場合には、一般的に行われている400℃の熱処理を350℃以下の低温焼成処理で行っても十分高い機械的強度を得ることができる。
【0038】
以下、上記前駆体組成物及び多孔質膜の各成分について詳細に説明する。
(アルコキシシラン類)
【0039】
上記一般式(1)及び(2)でそれぞれ示される化合物(A)及び(B)において、R、R及びRの1価の有機基には、アルキル基、アリール基、アリル基、グリシジル基等が含まれる。
【0040】
一般式(1)のRにおける1価の有機基としては、アルキル基又はアリール基を挙げることができる。このアルキル基としては、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることができる。これらのアルキル基は鎖状でも、分岐していてもよい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基等を挙げることができる。Rにおける1価の有機基としては、アルキル基及びフェニル基が好ましい。一般式(2)のR、Rにおける1価の有機基としては、上記一般式(1)のRの場合と同様な有機基を挙げることができる。
【0041】
本発明において用いることのできる一般式(1)及び(2)で示されるアルコキシシラン類としては、特に限定されるものではなく、具体的には以下のようなものを挙げることができる。
【0042】
例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブチルシラン等の4級アルコキシシラン;トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリエトキシプロピルシラン等の3級アルコキシアルキルシラン;トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン等の3級アルコキシアリールシラン;トリメトキシフェネチルシラン、トリエトキシフェネチルシラン等の3級アルコキシフェネチルシラン;ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン等の2級アルコキシアルキルシラン;メチルシリケート51、メチルシリケート53、メチルシリケート55等のアルコキシシラン多量体を挙げることができる。
【0043】
本発明では、上記アルコキシシラン類から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(有機溶媒)
【0044】
本発明で用いることができる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、ヘプタノール−3、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチルヘプタノール−4、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール、ジアセトンアルコール、クレゾール等のモノアルコール系溶媒;
【0045】
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンタンジオール−2,4、2−メチルペンタンジオール−2,4、ヘキサンジオール−2,5、ヘプタンジオール−2,4、2−エチルヘキサンジオール−1,3、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール系溶媒;
【0046】
アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−i−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、フェンチョン等のケトン系溶媒;
【0047】
エチルエーテル、i−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;
【0048】
ジエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等のエステル系溶媒;
【0049】
N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素系溶媒等を挙げることができる。
【0050】
本発明では、上記有機溶媒から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(触媒)
【0051】
本発明において、前駆体組成物の溶液中で用いることができる触媒は、少なくとも1種類以上の弱酸性触媒又は弱塩基性触媒である。
【0052】
弱酸性触媒としては、有機酸や過酸化物を挙げることができ、過酸化物がより好ましい。
【0053】
有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、及びリンゴ酸等を挙げることができる。
【0054】
過酸化物としては、過酸化水素水、アセチルケトンペルオキシド、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、ジイソプロピルベンゼンハイドロペルオキシド、クミンハイドロペルオキシド、t−ブチルハイドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジイソブチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシピバレート、ハイドロゲンペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾイル等を挙げることができる。
【0055】
弱塩基性触媒としては、アンモニウム塩及び窒素含有化合物を挙げることができる。
【0056】
アンモニウム塩としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、及び水酸化テトラブチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0057】
窒素含有化合物としては、例えば、ピリジン、ピロール、ピペリジン、1−メチルピペリジン、2−メチルピペリジン、3−メチルピペリジン、4−メチルピペリジン、ピペラジン、1−メチルピペラジン、2−メチルピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、ピロリジン、1−メチルピロリジン、ピコリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクテン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、2−ピラゾリン、3−ピロリン、キヌクリジン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、及びトリブチルアミン等を挙げることができる。
(界面活性剤)
【0058】
本発明における前駆体組成物の溶液中で用いることができる界面活性剤は、例えば、分子量200〜5000の範囲内のものであれば、特に制限されることはない。分子量が小さい場合には、膜中に形成される孔が小さくなって、孔形成後の気相反応において対象化合物が十分に孔内へ浸透しにくく、また、分子量が大きい場合には、形成される孔が大きくなりすぎる。好ましくは、例えば、以下の界面活性剤を挙げることができる。
【0059】
(I)長鎖アルキル基及び親水基を有する化合物。ここで、長鎖アルキル基としては、好ましくは炭素原子数8〜24のもの、さらに好ましくは炭素原子数12〜18のものである。また、親水基としては、例えば、4級アンモニウム塩、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等が挙げられ、なかでも4級アンモニウム塩、又はヒドロキシル基であることが望ましい。そのような界面活性剤として、具体的には、次の一般式:
【0060】
2n+1(N(CH)(CH))(CH)N(CH)2L+1(1+a)
(上記一般式中、aは0〜2の整数であり、bは0〜4の整数であり、nは8〜24の整数であり、mは0〜12の整数であり、Lは1〜24の整数であり、Xは1価の有機アニオンを表す。)で示されるアルキルアンモニウム塩の使用が好ましい。a、b、n、m、Lがこの範囲内であり、Xがこのようなイオンであれば、形成される孔が適当な大きさとなり、孔形成後の気相反応において対象化合物が十分に孔内へ浸透し、目的とする重合反応が生じる。
【0061】
(II)ポリアルキレンオキシド構造を有する化合物。ここで、ポリアルキレンオキシド構造としては、ポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、ポリテトラメチレンオキシド構造、ポリブチレンオキシド構造等を挙げることができる。そのようなポリアルキレンオキシド構造を有する化合物としては、具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型化合物;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエーテルエステル型化合物等を挙げることができる。
【0062】
本発明においては、上記界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(疎水性化合物)
【0063】
本発明において用いることができる疎水性化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、トリメチルシリルイミダゾール及びトリメチルシリルジメチルアミン等の有機ケイ素化合物を挙げることができる。
【0064】
上記疎水性化合物は、原料多孔質シリカ膜に対して、その孔内壁に重合体薄膜を形成せしめ得るのに十分な量であれば良く、例えば、ガス中濃度が0.1vol%以上であれば良い。
【0065】
上記基板としては、特に制限されず、例えば、ガラス、石英、シリコンウエハー、ステンレス等を挙げることができる。その形状も、特に制限されず、板状、皿状等のいずれであっても良い。
【0066】
上記において、基板に多孔質膜の前駆体組成物の溶液を塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、キャスティング法、ディップ法等の一般的な方法を挙げることができる。例えば、スピンコート法の場合、スピナー上に基板を載置して、この基板上に塗布液を滴下し、500〜10000rpmの回転速度で行う。
【0067】
本発明によれば、低誘電率及び疎水性等に優れた多孔質シリカ膜を得ることができるので、改質多孔質シリカ膜を製造した後に、さらに疎水化処理を行わなくとも十分である。
【0068】
また、本発明によれば、気相反応後の多孔質シリカ膜には疎水性化合物の未重合残基はほとんどないが、仮に有機物残渣があったとしても、得られた改質多孔質シリカ膜上に他の金属薄膜や絶縁膜等を積層した場合、この未重合残基によりこれらの膜同士の密着性が向上する。
【0069】
さらに、本発明では、疎水性化合物の蒸気を処理チャンバー内へ導入する前に、チャンバー内を一旦減圧にし、その後に疎水性化合物の蒸気を導入し、この減圧を維持したまま適度の重合反応を行うことができるので、疎水性化合物のチャンバー内への拡散性が良くなり、孔内における濃度が均一になる。
【0070】
さらにまた、減圧下で行うことができるため、多孔質膜中の孔内に存在する気体分子や水分子等を予め除去した後に疎水性化合物の気体分子を導入することができるので、この化合物の孔内への拡散性がよい。その結果、この疎水性化合物を多孔質膜中の孔内へ短時間で均一に拡散させ、重合反応を起こさせることができるので、大面積の多孔質膜に対しても処理効果の均一性が図れる。
【0071】
上記したように、本発明の多孔質シリカ膜は、誘電率と疎水性の両方に優れると共に機械的強度にも優れているため、層間絶縁膜や配線間絶縁膜等の半導体装置材料;分子記録媒体、透明導電性膜、固体電解質、光導波路、LCD用カラー部材等の光機能材料や電子機能材料として用いることができる。特に、半導体装置材料の層間絶縁膜や配線間絶縁膜には、低誘電率、疎水性や高機械的強度が求められていることからも、このような低誘電率、疎水性、機械的強度に優れる本発明の多孔質シリカ膜を用いることは好都合である。
【0072】
以下に、本発明の多孔質シリカ膜を配線間絶縁膜として用いた半導体装置の製造例について具体的に説明する。この製造は、半導体装置の公知の製造プロセス条件に従って実施できる。
【0073】
まず、上記したようにして、基板表面上に、多孔質シリカ膜を形成する。本発明の多孔質シリカ膜の製造方法によれば、低誘電率、疎水性に優れると共に高機械的強度を有する配線間絶縁膜を得ることができる。次いで、公知の製造プロセス条件に従って、この多孔質シリカ膜上へハードマスクとフォトレジストを形成し、フォトレジストのパターン通りにエッチングする。エッチング後、気相成長法(CVD)によりその多孔質シリカ膜表面に窒化チタン(TiN)や窒化タンタル(TaN)等からなるバリア膜を形成する。
【0074】
本発明の多孔質シリカ膜表面にバリア膜を形成した後、公知のプロセス条件に従って、メタルCVD法、スパッタリング法又は電解メッキ法により配線(銅配線)を形成し、さらにCMPにより膜を平滑化する。次いで、その膜の表面にキャップ膜を形成する。さらに必要であれば、ハードマスクを形成し、上記の工程を繰り返すことで多層化することができ、本発明の多孔質シリカ膜を用いて半導体装置を製造することができる。
【0075】
なお、上記では、好適例として、半導体回路素子の絶縁膜材料を挙げて説明したが、本発明の多孔質シリカ膜の適用はこの用途に制限されるものではなく、例えば、水溶液中での表面加工が必要な防水膜電気材料、触媒材料、フィルター材料等の用途にも適用できる。
【0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明する。これらの実施例及び比較例で用いた多孔質膜の前駆体組成物の溶液の原料、測定装置等は以下の通りである。
【0077】
アルコキシシラン類:テトラエトキシシラン(TEOS)、ジメチルジエトキシシラン(DMDEOS)(山中セミコンダクター(株)製、電子工業グレード)。
【0078】
O:脱金属処理された抵抗値18MΩ以上の純水。
【0079】
有機溶媒:エタノール(和光純薬(株)製、電子工業グレード)及び過酸化水素水(関東化学(株)製、電子工業グレード)。
【0080】
界面活性剤:非イオン界面活性剤のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマー(HO(CHCHO)13(CHCH(CH)O)20(CHCHO)13H(第一工業製薬(株)製、商品名:エパン450、平均分子量:2300)を上記の電子工業グレードのエタノールに溶解した後、脱金属処理を施したもの。
【0081】
シリル化剤:ヘキサメチルジシラザン(山中セミコンダクター(株)製、電子工業グレード)、トリメチルシリルジメチルアミン(高純度化学(株)製)、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、及びトリメチルシリルイミダゾール。
【0082】
屈折率:分光エリプソメトリー(SOPRA社製、GES5)を使用して測定。
【0083】
比誘電率:水銀プローブ測定法(SSM社製、SSM2000)を使用して測定。
【0084】
機械的強度:ナノインデンター(MTS Systems Corporation 製、Nano Indenter DCM)を使用して弾性率を測定。
【実施例1】
【0085】
テトラエトキシシラン(TEOS) 0.022モル、HO 4.13モル、ジメチルジエトキシシラン(DMDEOS) 0.048モル、及び非イオン性界面活性剤のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマー 0.010モルを、エタノール中弱酸性環境下(コハク酸:0.010モル)、25℃で24時間攪拌し透明で均一な塗布液を得た。この塗布液のpHは5.5であった。
【0086】
この塗布液を用いて、半導体Si基板上に1200rpmの条件でスピンコートした後、基板を空気雰囲気下、350℃で1時間焼成処理した。350℃までの昇温時間は15分であった。
【0087】
上記のようにして基板上に形成された多孔質膜に対して、Si−Oの結合エネルギーよりも低く、Si−Cの結合エネルギーよりも高いエネルギーを持つ紫外線を所定の時間照射し、有機残渣を取り除いた。
【0088】
かくして得られた多孔質膜を、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)の蒸気中で、30kPaの圧力下、350℃で30分間焼成処理し、疎水性が高く、かつ、低誘電率を持つ多孔質シリカ膜を形成した。この場合、HMDSの蒸気は、キャリアガスとしての不活性ガスであるNと共に導入し、焼成中常に流した。かくして得られた多孔質シリカ膜の孔内は疎水性の重合薄膜で覆われていた。このときの比誘電率kは2.1で、屈折率は1.242、弾性率は6.40GPaであった。上記焼成中に、腐食性ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物の発生はなかった。
【実施例2】
【0089】
TEOS 0.022モル、HO 4.13モル、DMDEOS 0.048モル、及び非イオン性界面活性剤のポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマー 0.010モルを、エタノール中弱酸性環境下(過酸化水素水:0.010モル)、25℃で24時間攪拌し透明で均一な塗布液を得た。この塗布液のpHは5.7であった。
【0090】
この塗布液を用いて、半導体Si基板上に1200rpmの条件でスピンコートした後、基板を空気雰囲気下、350℃で1時間焼成処理した。350℃までの昇温時間は15分であった。
【0091】
上記のようにして基板上に形成された多孔質膜に対して、実施例1の場合と同様に紫外線を照射し、有機残渣を取り除いた。
【0092】
かくして得られた多孔質膜を、トリメチルシリルジメチルアミンの蒸気中で、30kPaの圧力下、350℃で30分間焼成処理し、疎水性が高く、かつ低誘電率を持つ多孔質シリカ膜を形成した。この場合、トリメチルシリルジメチルアミンの蒸気は、キャリアガスとしての不活性ガスであるNと共に導入し、焼成中常に流した。かくして得られた多孔質シリカ膜の孔内は疎水性の重合薄膜で覆われていた。このときの比誘電率kは2.1で、屈折率は1.249、弾性率は8.40GPaであった。上記焼成中に、腐食性ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物の発生はなかった。
【実施例3】
【0093】
実施例2における過酸化水素水の代わりに、有機過酸化物として、アセチルケトンペルオキシドを用い、また、トリメチルシリルジメチルアミンの代わりに、疎水性化合物として、ヘキサメチルジシラザン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、トリメチルシリルイミダゾールをそれぞれ用いて、実施例2記載の方法を繰り返したところ、得られた多孔質シリカ膜の孔内は疎水性の重合薄膜で覆われていた。このときの比誘電率k、屈折率及び弾性率は、実施例1及び2の場合と同様に、層間絶縁膜として適用するのに十分であった。上記焼成中に、腐食性ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物の発生はなかった。
(比較例1)
【0094】
TEOS 0.022モル、HO 4.13モル、DMDEOS 0.048モル、及びセチルトリメチルアンモニウムクロリド 0.010モルをエタノール中酸性環境下(硝酸:0.010モル)、25℃で24時間攪拌し透明で均一な塗布液を得た。この塗布液のpHは1.9であった。
【0095】
この塗布液を用いて、半導体Si基板上に1200rpmの条件でスピンコートした後、基板を空気雰囲気下、350℃で1時間焼成処理した。350℃までの昇温時間は15分であった。焼成蒸気中に窒素酸化物及び塩化水素が観測された。そのため、塗布液を供給するための配管並びに成膜チャンバー及びその部材等に腐食を生じる可能性がある。
【0096】
上記のようにして基板上に形成された多孔質膜に対して、実施例1の場合と同様に紫外線を照射し、有機残渣を取り除いた。
【0097】
次いで、有機残渣を取り除いた多孔質膜を、ヘキサメチオルジシラザン(HMDS)の蒸気中で、30kPaの圧力下、350℃で30分間焼成処理し、疎水性が高くかつ低誘電率を持つ多孔質シリカ膜を形成した。この場合、HMDSの蒸気は、キャリアガスとしての不活性ガスであるNと共に導入し、焼成中常に流した。かくして得られた多孔質シリカ膜の孔内は疎水性の重合薄膜で覆われていた。このときの比誘電率kは2.1、屈折率は1.242、弾性率は6.30GPaであり、実施例1の場合と同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、低誘電率及び低屈折率を有し、かつ、機械的強度にも優れ、疎水性の改良された多孔質膜を提供する際に、塗布液のpHを弱酸性〜弱塩基性である5〜9とし、かつ、塗布液を基板上に塗布した後に焼成する場合に、腐食性ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物等の発生を抑えて多孔質膜を作製することができる。かくして、この多孔質膜を、半導体装置分野における低比誘電率絶縁膜、ディスプレイ分野等での低屈折率膜として適用する際に、耐酸又は耐塩基性の高い成膜チャンバー及びその部材並びに配管を用いて装置を構成する必要はなく、また、焼成時の腐食性ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物等を考慮して装置設計をする必要もないので、装置コストを低くし、ひいては製品コストを下げることができるので、本発明は、半導体装置分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
Si(OR) (1)
で示される化合物(A)、及び次の一般式(2):
(Si)(OR)4−a (2)
で示される化合物(B)
(上記式(1)及び(2)中、Rは1価の有機基を表し、Rは水素原子、又は1価の有機基を表し、Rは1価の有機基を表し、aは1〜3の整数であり、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよい。)
から選ばれた少なくとも1種の化合物と、250℃以上で熱分解する熱分解性有機化合物(C)とを含有している多孔質膜の前駆体組成物の溶液であって、pHが5〜9である溶液を基板上に塗布し、100〜400℃の温度範囲で乾燥、焼成させ、基板上に形成された多孔質膜に対して、波長157nm〜344nmの紫外線を照射した後、ヘキサメチルジシラザン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、トリメチルシリルイミダゾール及びトリメチルシリルジメチルアミンから選ばれた有機ケイ素化合物である疎水性化合物を、100〜600℃の温度範囲で気相反応させ、疎水化された多孔質膜を作製することを特徴とする多孔質膜の作製方法。
【請求項2】
前記熱分解性有機化合物(C)が、分子量200〜5000の界面活性剤を少なくとも1種含んでいることを特徴とする請求項1記載の多孔質膜の作製方法。
【請求項3】
前記前駆体組成物中に含まれる金属イオン不純物が、10ppb以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質膜の作製方法。
【請求項4】
前記前駆体組成物の溶液が、弱塩基性触媒、又は有機酸及び過酸化物から選ばれた弱酸性触媒を含んでいることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜の作製方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜の作製方法に従って得られたことを特徴とする多孔質膜。
【請求項6】
次の一般式(1):
Si(OR) (1)
で示される化合物(A)、及び次の一般式(2):
(Si)(OR)4−a (2)
で示される化合物(B)
(上記式(1)及び(2)中、Rは1価の有機基を表し、Rは水素原子、又は1価の有機基を表し、Rは1価の有機基を表し、aは1〜3の整数であり、R、R及びRは同一であっても異なっていてもよい。)
から選ばれた少なくとも1種の化合物と、250℃以上で熱分解する熱分解性有機化合物(C)とを含有し、pHが5〜9であることを特徴とする多孔質膜の前駆体組成物の溶液。
【請求項7】
前記前駆体組成物の溶液が、弱塩基性触媒、又は有機酸及び過酸化物から選ばれた弱酸性触媒を含んでいることを特徴とする請求項6記載の多孔質膜の前駆体組成物の溶液。
【請求項8】
前記熱分解性有機化合物(C)が、分子量200〜5000の界面活性剤を少なくとも1種含んでいることを特徴とする請求項6又は7記載の多孔質膜の前駆体組成物の溶液。
【請求項9】
前記前駆体組成物中に含まれる金属イオン不純物が、10ppb以下であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の多孔質膜の前駆体組成物の溶液。


【公開番号】特開2010−16130(P2010−16130A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173910(P2008−173910)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】