説明

多孔質膜の製造方法及び膜処理装置

【課題】複雑な工程を経ず、また、貧溶媒を使用せずに高度に多孔化された含フッ素樹脂膜及びこれを用いた高活性触媒担持膜の製造方法を提供する。
【解決手段】含フッ素樹脂からなる樹脂を非プロトン性極性溶媒に溶解させて溶液を得る工程と、該溶液を基材上にキャスティングする塗布工程と、キャスティングされた溶液を、その溶媒である非プロトン性極性溶媒の蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度として、非プロトン性極性溶媒を揮発させる成膜工程と、からなる多孔質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素樹脂から構成することで優れた耐候性、耐薬品性と強度を備え、空孔率が高く、かつ、均質な多孔構造を有する多孔質膜の製造方法及び膜処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体の処理において、逆浸透、限外ろ過、精密ろ過などを行う際に、セルロースアセテート系、ポリエチレン、ポリプロピレン系、ポリメチルメタクリレート系、ポリアクリロニトリル系、ポリスルホン系などの材料で製造された多孔質膜が用いられている。
【0003】
このような多孔質膜には、処理対象や条件にもよるが、一般的に、耐溶媒性、耐薬品性、耐熱性、透過性能、機械的強度、耐酸性などが要求される。ところが、従来の多孔質膜は、材質によって、これらの特性に一長一短があり、全ての特性に優れているとは言い難いものであった。
【0004】
このような観点から、耐溶媒性、耐薬品性、耐熱性、透過性能、機械的強度、耐酸性の全てに優れた特性を有するフッ素系樹脂、特に、ポリフッ化ビニリデン樹脂が注目され、この材質を多孔質膜化することが検討されてきた。
【0005】
ポリフッ化ビニリデン樹脂からなる多孔質膜の製造方法としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂とそれを溶解する遅乾性溶剤、樹脂を溶解または膨潤させる揮発性の大きい速乾性溶剤を用いた樹脂溶液をシート状とし、速乾性溶剤をある程度揮発させた後、樹脂を溶解しない処理液中に浸漬して溶剤を溶出させて多孔性シートを製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、ポリフッ化ビニリデン樹脂をジメチルアセトアミド(良溶剤)−イソプロパノール(貧溶剤)混合溶剤に溶解し、この溶液を支持体上に展延してフィルムを形成した後、該フィルムを急冷浴中で急冷して、多孔質膜を形成する方法(例えば、特許文献2参照)、ポリフッ化ビニリデン樹脂を貧溶媒に分散させた後、良溶媒を添加し、55℃以下、6日間かけて溶媒和させ、これを基材に塗布し、二つの乾燥ゾーン(第1領域:50〜120℃,第2領域:80〜150℃)に通過させて多孔質化させる方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−126572号公報
【特許文献2】特許第3178772号公報
【特許文献3】特許第4264415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら公知の成膜方法は、成膜工程が複雑で、原液系の調整も複雑なため、その成膜操作が煩雑であり、実質的に均一なサイズの多孔質膜を得ることや、得られた膜の多孔度を調整することが困難であった。
【0008】
特に、水処理用多孔質膜、血液浄化用多孔質膜、電池用セパレータ荷電膜、触媒担持フィルム等には均一で空孔率の高いものが要求されているため、これらの用途に適した多孔質膜を製造することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、複雑な工程を経ることなく、さらに、貧溶媒を使用せずに多孔度が高く、均一に多孔化された含フッ素樹脂膜を製造することができる方法及びこの製造方法により得られた多孔質膜を適用した膜処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、貧溶媒を用いずに、含フッ素樹脂を非プロトン性極性溶媒に溶解させ、溶液をキャスティングした後、非プロトン性極性溶媒が所定の蒸気圧となるようにして成膜することで、優れた多孔質膜が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明の多孔質膜の製造方法は、含フッ素樹脂を非プロトン性極性溶媒に溶解させる溶解工程と、溶解工程で得られた溶液を基材上にキャスティングする塗布工程と、塗布工程でキャスティングされた溶液を、その使用した非プロトン性極性溶媒の蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度にして、非プロトン性極性溶媒を揮発させる成膜工程と、からなることを特徴とするものである。
なお、本発明の「溶解工程」における「溶解」には、部分的には膨潤状態の分子を含むが、全体としては塗布できる程度に分子相互の結合が解離して溶媒中に分散している状態も含むものとする。
【0012】
また、本発明の膜処理装置は、本発明の多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔質膜の製造方法によれば、高度に多孔化された多孔質膜を、簡便な成膜工程及び溶液の調整により得ることができる。また、この多孔質膜として触媒微粒子を担持させるようにした場合、触媒活性が大幅に向上した多孔質膜とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
本発明の多孔質膜の製造方法は、含フッ素樹脂を非プロトン性極性溶媒に溶解させて溶液を得る溶解工程と、溶液を基材上にキャスティングする塗布工程と、キャスティングされた溶液を、その溶媒である非プロトン性極性溶媒の蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度にすることで、非プロトン性極性溶媒を揮発させる成膜工程と、からなることを特徴とする多孔質膜の製造方法である。
【0016】
まず、本発明における含フッ素樹脂を非プロトン性極性溶媒に溶解させて溶液を得る溶解工程は、含フッ素樹脂と非プロトン性極性溶媒とを混合して、非プロトン性極性溶媒に含フッ素樹脂を溶解させるものである。
【0017】
ここで用いることができる含フッ素樹脂は、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキレンビニルエーテル、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等の化合物が重合したフッ素化モノポリマー、フッ素化コポリマー、又はそれらの混合物によるポリマー等が好適である。
【0018】
特に、ポリフッ化ビニリデン樹脂を用いて、これを後述の工程によりフィルム化させた多孔質膜が好ましく、その主鎖中の構成単位の結合形態としてはHead to Tail結合を主鎖中に数多く含むものが好ましい。
【0019】
ポリフッ化ビニリデンからなる膜が好ましいのは、耐熱性、耐薬品性が良好であるため、使用環境を選ばず、製品寿命を長くすることもでき、さらに、膜を形成した時に多孔質性の膜を形成し易いためである。
【0020】
このポリフッ化ビニリデン樹脂としては、市販のものを使用することができ、例えば、クレハKFポリマー(株式会社クレハ製、商品名)、カイナー720(ペンウォルト社製、商品名)等が挙げられる。
【0021】
また、ここで用いられる非プロトン性有機溶媒は、用いる含フッ素樹脂を均一に溶解して溶液が得られるものであればよく、例えば、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチレンジクロライド、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。
【0022】
ここで調整した溶液の粘度は、5000〜50000mPa・sであることが好ましい。粘度が50000mPa・sよりも高くなると、以後の作業性が悪くなってしまう。一方、粘度が5000mPa・sよりも低くなると、成膜操作において液ダレが生じ膜厚の調整が困難になってしまい膜厚がバラツいてしまう。なお、本発明において溶液の粘度は、25℃で、ローター(1°34′×R24)を1回転/分の条件によりE型粘度計を用いて測定したものである。
【0023】
次に、上記溶解工程で得られた溶液を、基材上にキャスティングすることで溶液の層を形成する。このとき用いる基材は、溶液を安定してその表面に保持することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル(PE)等の樹脂製のフィルム等を用いることができる。
【0024】
キャスティングする方法は既存の方法がいずれも適用可能であるが、具体的にはグラビアコーター、リバースロールコーター、キスコーター、ロールナイフコーター、ロッドコーター等のコーターによって塗膜形成する方法、アプリケーターにより手塗りで塗膜形成する方法、スピンコーター法、バーコート法、スクリーン印刷法等があげられ、商品形態によって選択すればよい。
【0025】
そして、このようにキャスティングすることで得られた基材状の溶液層を、その溶液に用いられた非プロトン性極性溶媒の蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度にすることで、該非プロトン性極性溶媒を揮発させ、固化・成膜させる。このようにして得られた樹脂膜は、多孔質膜として得られ、ろ過等の液体の処理に用いることができる。
【0026】
この得られる多孔質膜の膜厚は、例えば、1〜100μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。膜厚が1μm未満の場合、膜の強度が低くなるおそれがある。一方、担体の膜厚が100μmを超えるものは取り扱いづらい。
【0027】
なお、含フッ素樹脂を、DMAc又はNMP溶媒で溶解させて溶液とした後に膜化すると、均一な細孔を有する多孔質膜を得ることができ好ましい。
【0028】
上記非プロトン性極性溶媒を揮発させる温度は溶媒の蒸気圧が2〜10mmHgであることが好ましい。蒸気圧が10mmHgよりも高くなると、均一な空孔が形成されにくい。一方、蒸気圧が2mmHgよりも低くなると、膜厚にバラツキが生じたり、膜の表面に凹凸が生じ易くなったり、実用的な時間で成膜しなくなったりする。
【0029】
このように形成した多孔質膜は、その空孔率を25%以上、より好ましくは30%以上のものとすることも容易であり、このような多孔化された膜は分離膜として好適である。なお、ここで、空孔率とは、多孔質膜の質量をその体積で除して求めた見かけ上の密度と、これを多孔質膜を構成する樹脂組成物の実際の密度との関係から求めたものである。
【0030】
フッ素樹脂以外の樹脂膜、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂等から得られる膜は多孔化処理を行わなければならず、また、これらの膜に担持された触媒は充分な触媒活性を得ることはできない(以上は、例えば、特開2008−110341号公報等に記載されている公知の膜である。)。
【0031】
(第2の実施形態)
次に説明する、本願発明における第2の実施形態では、含フッ素樹脂と非プロトン性極性有機溶媒に加えて、金属微粒子、金属酸化物の微粒子及び導電性を有するカーボン微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を混合して溶液としたものを用いた以外は、第1の実施形態と同一の構成をとるものである。
【0032】
このように、金属微粒子、金属酸化物の微粒子及び導電性を有するカーボン微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を混合して溶液とし、これを成膜原液として用いた場合、得られる多孔質膜にその微粒子由来の機能を付加させることができる。
【0033】
例えば、金属微粒子や金属酸化物の微粒子は、触媒活性を有するものも多く、そのような触媒活性を有する微粒子を用い、多孔質膜を形成することで、得られる多孔質膜は触媒微粒子を担持したものとなる。そして、液体中でその触媒が作用する化学反応を行う系に、その触媒微粒子を担持した多孔質膜を存在させることで、液体中での化学反応を促進させることができる。
【0034】
このとき用いる微粒子は、公知の触媒活性を有する微粒子であれば特に限定されずに用いることができる。この場合、担持させる触媒微粒子の大きさやその担持量等によって適宜膜厚を調整すればよく、一般に、1〜100μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。例えば、多孔質膜の膜厚が100μmを超えると、多孔質膜内部に存在し反応に関与しない触媒が多くなるため製造コストが高くなる割に、その性能は向上せず好ましくない。
【0035】
また、ここで用いることができる触媒は、膜状にした樹脂に固定できる金属触媒、金属酸化物触媒等の固体触媒が挙げられるが、金属酸化物触媒であることが好ましく、その反応変換率が高いことからペロブスカイト型金属酸化物であることが特に好ましい。
このとき、触媒中に用いられる金属としては、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミニウム、イリジウム、銀、金、白金、スズ等の金属から選ばれる複数種の金属を含む複合金属酸化物が挙げられ、LaFe0.95Pd0.05等のようにパラジウムを含むものであることが好ましい。
【0036】
また、触媒微粒子は平均粒径が1μm以下であることが好ましく、例えば、その平均一次粒径は1nm以上100nm以下といったナノサイズの複合酸化物微粒子等を用いることが好ましく、その平均二次粒子径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【0037】
多孔質膜と触媒微粒子の質量比は、それぞれ使用するものの組み合わせにより適宜決定することができるが、例えば、膜担体:触媒微粒子=1000:1〜1:10程度の範囲で用いることができ、10:1〜1:2の範囲であることが好ましい。
【0038】
上記で好ましいとしたペロブスカイト型金属酸化物である触媒微粒子としては、例えば、パラジウムを含むペロブスカイト型化合物としてLaFe(1−r)Pd(0<r<0.2)が挙げられ、このようなペロブスカイト構造を有する触媒微粒子をフッ素樹脂フィルムと組み合わせて用いることによって触媒活性を有する多孔質膜を得ることができる。
【0039】
また、多孔質膜に含有させる成分としてカーボン微粒子を用いる場合、導電性を有し、触媒担持膜の帯電特性を改善することができる。ここで用いるカーボン微粒子は、上記特性を改善することができるものであれば、特に限定されず、市販されている粒状、フィブリル状、繊維状、鱗片状の導電性カーボン微粒子を用いることができる。
【0040】
粒状の炭素化合物としては、黒鉛、アセチレンブラックや各種ファーネス系の導電性カーボンブラックが例示でき、市販の各種のものが使用できる。例えば、粒状の例としては、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名)、HOP(日本黒鉛工業株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0041】
繊維状の例としては、パイロフィル(三菱レイヨン株式会社製、商品名)が挙げられる。また、微細なフィブリル状の炭素化合物の例としては、直径が約3.5〜75nmの微細糸状のフィブリル状炭素化合物が例示され、これは、いわゆるカーボンナノチューブと称されるものである。このフィブリル状の炭素化合物としては、市販の各種のものが使用でき、例えば、ハイペリオン(ハイビリオンカタリシスインターナショナル社製、商品名)などが挙げられる。また、繊維状のものの例としては、昭和電工株式会社製の気相法炭素繊維VGCFが挙げられる。また、これらを混合して使用することもできる。
【0042】
本発明において、導電性カーボン微粒子は、平均粒径が0.001〜10μmであるのが好ましく、0.01〜5μm程度であることがより好ましい。
【0043】
そして、この多孔質膜に配合される導電性カーボン微粒子の配合量は、カーボン微粒子入りの多孔質膜中に1〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。導電性カーボン微粒子の配合量が、1質量%未満であると導電性が不充分で取扱性に問題となる場合があり、25質量%を超えると膜の強度の低下や触媒機能としての反応性が損なわれる場合があり好ましくない。
【0044】
なお、本明細書において、触媒微粒子及び導電性カーボン微粒子における平均粒径は、レーザー回折法により測定されたものである。
【0045】
ここで、本実施形態は、金属微粒子、金属酸化物の微粒子又はカーボン微粒子を含有した樹脂溶液を用いた場合も膜状に形成して製造するものであるが、このとき、微粒子を含有した樹脂溶液は、極性有機溶媒に溶解させたフッ素樹脂に微粒子を混合・分散させて調整しても良いし、微粒子を分散させた極性有機溶媒にフッ素樹脂を後から混合・分散させて溶解させて調整しても良い。
【0046】
このとき、フッ素樹脂と微粒子との混合・分散は、公知の撹拌装置等による一般的な混合・分散方法で容易に行うことができる。この撹拌は、通常は常温で行うことができ、また撹拌速度も担体の混合液と微粒子の分散液とを均一に混合できる程度のものであれば特に制限されるものではない。なお、充分に分散させたり、微粒子が凝集し易い場合にはこれを解砕して分散させたりするために、ボールミル等によるメディア分散装置、高圧ホモジナイザー等による高速高剪断ミキサー等を用いて、フッ素樹脂中に微粒子が均一に分散する操作を行ってもよい。
【0047】
以上のようにして製造された触媒担持した多孔質膜は、液体処理において、液体中での化学反応の促進にも用いることができ、このような用途に用いた場合には、触媒する反応が終了した後に反応液から触媒を多孔質膜と共に容易に分離、回収することができる。このようにして分離、回収された担持触媒は、通常の触媒と同様にして繰り返し触媒反応に用いることができる。
【0048】
上記したように、本実施形態の微粒子担持多孔質膜の製造方法について説明したが、多孔質膜への触媒微粒子の担持方法は必ずしも上記した方法に限らず、例えば、予め、第1の実施形態のように極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂のみから形成したフッ素樹脂からなる多孔質膜の表面に触媒微粒子を加熱、加圧等しながら固定して担持させても良く、その他有効な担持方法であれば特に担持方法は制限されるものではない。
【0049】
以上の2つの実施形態で示したように、本発明の製造方法で得られる多孔質膜は樹脂膜のみからなるもの又は上記のように微粒子を含有する樹脂膜からなるものであるが、さらに、必要に応じて、かつ、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、無機微粒子等を含有していてもよい。
【0050】
ここで、無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機微粒子は、本発明の効果を阻害しないものであればその平均粒径は限定されるものではない。
【0051】
無機微粒子を添加することで、比表面積の増大、耐熱性の向上を図ることができ、さらにフィルムの剛性が増すため、取扱の面でも扱いやすくなり好ましい。ここで、無機微粒子の配合量は、本発明の効果を阻害しないように適宜決定することができ、例えば、多孔質膜中に0〜15質量%の範囲で含有するようにすることが好ましい。
【0052】
また、このように溶媒を揮発させて得られた多孔質膜を、さらに高温で(100℃〜150℃)アフターベイクしてもよい。アフターベイクを行うことにより、得られた多孔質膜に残存している溶媒を除去することができ好ましい。
【0053】
また、本発明の膜処理装置は、上記したような方法で得られた多孔質膜を有することを特徴とするものであり、多孔質膜により液体を処理するものである。この膜処理装置としては、例えば、浄水処理や排水処理の水処理に用いる装置、血液浄化などの医療用途に用いる装置、食品工業分野に用いる装置、電池用セパレータ、荷電膜、燃料電池等の様々な装置が挙げられ、それぞれの用途に適した構成とすればよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量100万)の8質量%溶液を撹拌羽により4時間撹拌し、樹脂溶液を得た(粘度:22000mPa・s)。得られた樹脂溶液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを60℃(溶媒の蒸気圧4mmHg)で30分加温し、溶媒を揮発させ、膜厚25−29μmの多孔質膜を製造した。
【0055】
(実施例2〜5)
ポリフッ化ビニリデンの質量分子量、樹脂量、溶媒と製造条件をそれぞれ表1記載のものとした以外は、実施例1と同様の手順によって多孔質膜を製造した。
ここで、樹脂として、実施例3ではポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量28万)を、溶媒として、実施例3〜5ではN,N−ジメチルアセトアミドを用いた。
【0056】
(実施例6)
N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 100万)の7質量%溶液を50質量部、導電性カーボン微粒子としてHOP(日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径4μm)を0.52質量部計量し、それらをボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、分散液を得た(粘度:15000mPa・s)。得られた分散液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを40℃(溶媒の蒸気圧3.6mmHg)で1次乾燥を40分かけて行い、その後2次乾燥を120℃で10分行うことによって膜厚27−35μmの多孔質膜を製造した。
【0057】
(実施例7)
N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の8質量%溶液を50質量部、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製;一次粒径50nm)を4質量部計量し、それらをボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、触媒微粒子分散液を得た。得られた触媒微粒子分散液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを40℃(溶媒の蒸気圧3.6mmHg)で1次乾燥を40分かけて行い、その後2次乾燥を120℃で10分行うことによって膜厚28−35μmの触媒担持多孔質膜を製造した。
【0058】
(実施例8)
ポリフッ化ビニリデンの樹脂量、溶媒量、ペロブスカイト型金属酸化物を表2に記載したものとした以外は実施例7と同様の手順によって触媒担持多孔質膜を製造した。
【0059】
(比較例1)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量100万)の8質量%溶液を撹拌羽により4時間撹拌し、樹脂溶液を得た(粘度:22000mPa・s)。得られた樹脂溶液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを40℃(溶媒の蒸気圧 0.9mmHg)で60分加温し、溶媒を揮発させたが、成膜しなかった。
【0060】
(比較例2)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量100万)の8質量%溶液を撹拌羽で4時間撹拌し、樹脂溶液を得た(粘度:22000mPa・s)。得られた樹脂溶液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを120℃(溶媒の蒸気圧 69mmHg)で10分加温し、溶媒を揮発させ膜厚17−22μmの多孔質膜を製造した。
【0061】
(比較例3,4)
ポリフッ化ビニリデンの樹脂量、溶媒とそれらを用いたフィルム化条件をそれぞれ表2記載のものとした以外は、比較例1と同様の手順によって多孔質膜を製造した。
【0062】
(比較例5)
N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の8質量%溶液を50質量部、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製;平均粒径50nm)を4質量部計量し、それらをボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、触媒微粒子分散液を得た。得られた触媒微粒子分散液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを25℃(溶媒の蒸気圧1.3mmHg)に30分保持し、溶媒を揮発させたが、成膜しなかった。
【0063】
(比較例6)
N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の8質量%溶液を50質量部、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製;平均粒径50nm)を3.9質量部計量し、それらをボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、触媒微粒子分散液を得た。得られた触媒微粒子分散液をPETフィルムに、アプリケーターで塗布し、これを120℃(溶媒の蒸気圧69mmHg)で30分加温し、溶媒を揮発させて、膜厚18−23μmの触媒担持多孔質膜を製造した。
【0064】
(比較例7)
フィルム化条件(揮発温度、蒸気圧)をそれぞれ表2記載の所定のものとした以外は、比較例6と同様の手順によって触媒担持多孔質膜を製造した。
【0065】
また、実施例及び比較例で得られた多孔質膜について、空孔率、外観、SEM観察、また場合によりTON(触媒反応変換率)の評価を行い、それぞれ表1及び表2にあわせて示した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
[作業性]
樹脂溶液の塗工液粘度が高すぎて展延が困難なもの又は低すぎて液ダレが生ずるもの以外を「良好」と判断した。その目安としては5000〜50000mPa・sの粘度を指標とした。
【0069】
[空孔率]
多孔質膜の質量をその体積で除して求めた見かけ上の密度と、これを多孔質膜を構成する樹脂組成物の実際の密度との関係から空孔率を求めた。
【0070】
[外観]
多孔質膜を目視にて評価し、表面に凹凸が少なく均一なものを「良好」と判定し、それ以外のものは表1,2に直接外観状態を記載した。
【0071】
[SEM観察]
走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S−3400NX)を用い、多孔質膜の表面に形成される空孔の状態を観察し、評価した。
【0072】
[ターンオーバー数(TON)の測定]
4−ブロモアニソール 2.24g(0.012モル)、フェニルボロン酸 2.19g(0.018モル)、炭酸カリウム 4.98g(0.036モル)を、100mL容量の丸底フラスコに加え、溶剤として純水及び1−メトキシ−2−プロパノールを各18mL加え、撹拌溶解した。この溶液に、実施例及び比較例で得られた触媒担持フィルムを接触させ(このとき、4−ブロモアニソールに対し、触媒微粒子中のPdが0.005モル%に相当する量を含む触媒担持フィルムを使用)、室温で24時間反応させた。
反応終了後、反応液にトルエン及び純水を20mLずつ加えて、生成物を溶解した後、吸引ろ過により不溶解物を除去して、分液ロートに移し、下層の水層を分液し、上層のトルエン層を、ガスクロマトグラフィーにより分析し、以下の式により変換率を求めた。
変換率(%)=4−メトキシビフェニル/(4−ブロモアニソール+4−メトキシビフェニル)×100
(予め4−メトキシビフェニルと4−ブロモアニソールのトルエン溶液を個別に測定して相対感度を求め補正した。)
上記と同様の反応条件により、4−ブロモアニソールとフェニルボロン酸とを反応させ、ガスクロマトグラフィーを用いて、パラジウム1モル当りの得られた4−メトキシビフェニルのモル数として、下記式により、ターンオーバー数(turnover number(TON))を求め、その結果を表1及び表2に示した(実施例7〜8及び比較例6〜7)。
ターンオーバー数=4−メトキシビフェニル(モル)/パラジウム(モル)×変換率
【0073】
表1及び表2から明らかなように、実施例1,3,4では、いずれも膜厚は均一で、高い空孔率を有し、かつ外観、作業性共に良好であった。これに対し、蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度で非プロトン性極性溶媒を揮発させたものでない比較例2〜4では、空孔が小さく少なかった。
【0074】
また、実施例7〜8及び比較例6〜7については、触媒担持多孔質膜の評価を行ったが、実施例7及び8(とりわけ7について)は製造条件、評価の全てにおいて良好で、蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度で非プロトン性極性溶媒を揮発させていない比較例6〜7に比べ、空孔率、ターンオーバー(TON)の向上が著しかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素樹脂を非プロトン性極性溶媒に溶解させて溶液を得る溶解工程と、
前記溶液を基材上にキャスティングする塗布工程と、
前記キャスティングされた溶液を、その溶媒である非プロトン性極性溶媒の蒸気圧が2〜10mmHgとなる温度にすることで、前記非プロトン性極性溶媒を揮発させる成膜工程と、
からなることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程により得られる膜の空孔率が30%以上であることを特徴とする請求項1記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
該溶液の粘度が、5000〜50000mPa・sであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記溶液が、カーボン粒子を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記溶液が金属及び/又は金属酸化物の微粒子を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜を用いたことを特徴とする膜処理装置。

【公開番号】特開2011−94054(P2011−94054A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250290(P2009−250290)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】