説明

多孔質膜の製造方法

【課題】多孔質膜に含まれる溶剤を凝固させることで、空孔率の高い多孔質膜を安定して得ることができる多孔質膜の製造方法、並びに電池用セパレータの製造方法を提供する。
【解決手段】製膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から洗浄溶剤を用いて低分子量物を除去する工程を含む多孔質膜の製造方法において、前記低分子量物を除去した多孔質膜に含まれる洗浄溶剤を、これより融点の高い高融点溶剤で置換する置換工程と、置換後の多孔質膜に含まれる高融点溶剤を凝固させる凝固工程と、その高融点溶剤を凝固状態で又は液化後に蒸発させて乾燥させる乾燥工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製膜後に溶媒等の低分子量物を含有する多孔質膜から洗浄溶剤を用いて低分子量物を除去する工程を含む多孔質膜の製造方法、並びに電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜はさまざまな分野に応用展開されている。それら用途の中でも、電池内に使用される多孔質膜として、電池膜セパレータがさまざまなタイプの電池に使用されている。
【0003】
種々のタイプの電池が実用に供されているが、最近、電子機器のコードレス化等に対応するために、軽量で、高起電力、高エネルギーを得ることができ、しかも、自己放電が少ないリチウム電池が注目を集めている。今後は電気自動車用バッテリーの構成部材としても期待されている。
【0004】
リチウム電池は、携帯電話やノートブックパソコン用として、多量に用いられており、更に、今後、電気自動車用バッテリーとしても期待されている。これらの電池は正極と負極との間に、それら電極間の短絡を防止するために多孔質膜を使用している。
【0005】
このような電池膜は、通常、正極負極間のリチウムイオンの透過性を確保するために、多数の微細孔を有する微多孔膜を用いている。このような電池膜用微多孔膜には、電池特性に関係して、種々の特性が要求され、なかでも、高強度で高空孔率であり、更に、温度上昇時の寸法安定性にすぐれることが重要な要求特性である。微多孔膜が高空孔率を有することは、セパレータとしてのイオン透過性を向上させ、充放電特性、特に、高電流密度での充放電特性を向上させるため重要な要求特性である。
【0006】
このような微多孔膜の製造方法としては、従来、超高分子量ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン樹脂を溶媒中、加熱し、溶解させて、混練り物とし、これからゲル状シートを調製し、延伸し、脱溶媒する溶剤法など、種々の方法が提案されている。この中で溶剤法が一般に用いられている。
【0007】
溶剤法は結晶性樹脂に溶媒を添加し、溶融混練した後に溶媒を除去する工程を含み、この溶媒除去工程の効率性とその後の乾燥性が、結晶性樹脂微多孔膜の生産性だけでなく、微多孔膜の機械物性にも影響を与える。溶媒除去工程には、従来から塩化メチレンを始めとする低沸点の塩素化アルカンや、ヘキサン等の沸点の低い脂肪族炭化水素系化合物が使用されている。低沸点の脂肪族炭化水素系化合物は、洗浄力は高いが、乾燥工程における引火爆発の危険性が高いという短所を有している。
【0008】
これに対し、引火性のない溶剤として、例えば、下記の特許文献1〜2には、有機溶剤と水との混合溶剤及び界面活性剤水溶液等の代替溶剤が提案されている。しかし、これらのような準水系及び水系溶剤は、熱可塑性樹脂に含まれる溶媒を十分に洗浄できているとはいえない。
【0009】
また、空孔率の大きい微多孔膜の製造方法として以下のような方法が提案されている。例えば、膜製造過程において、延伸倍率を高くする方法、ポリオレフィン樹脂と溶媒との比率を変化させる方法、延伸性の高いポリオレフィン樹脂を使用する方法、多孔膜の材料系に特徴を持たせる方法などがある。
【0010】
例えば、下記の特許文献3には、ポリオレフィン樹脂中にスチレンブロックと水素添加されたイソプレンブロックからなる飽和型熱可塑性エラストマーをポリオレフィン樹脂と共に用いることで高空孔率を達成している。
【0011】
また下記の特許文献4には、重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリオレフィン(A)又は重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリオレフィンを含む組成物(B)からなるポリオレフィン微多孔膜により、高空孔率な多孔質膜を形成できることが提案されている。
【0012】
ただし、これらの手法では空孔率の調整に材料自体の変更を伴うために、空孔率を調製した膜それぞれの最終的な膜の特性が微妙に異なってしまうなどの問題が生じる。また、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂を使用するものでは、非常に高い空孔率を有する膜を形成することが可能である。しかしながら材料系が大幅に異なるために本質的に異なる膜となってしまう。
【0013】
一方、製膜条件を大幅に変更することなく、製膜後の溶媒除去に用いる洗浄溶剤の選定により、空孔率を制御する方法も提案されている。例えば、製膜後のシートを非水系溶剤で洗浄後、より低沸点のハイドロフルオロカーボンで浸漬洗浄した後、これを乾燥させる方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0014】
しかしながら、この方法では、洗浄に低沸点の溶剤を用いても、洗浄後の乾燥にある程度時間がかかるため、膜の収縮が生じてしまい、空孔率が十分向上しないことが判明した。また、特に連続工程への適用を想定すると、浸漬洗浄により徐々に不純物(製膜溶媒や非水系溶剤)の濃度が高くなるため、乾燥時の溶剤の蒸発速度が低下して、空孔率の低下が顕著になる。
【0015】
【特許文献1】特開平6−256559号公報
【特許文献2】特開平6−298985号公報
【特許文献3】特開2000−72908号公報
【特許文献4】国際公開WO00/49073号公報
【特許文献5】特開2000−12695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明の目的は、多孔質膜に含まれる溶剤を凝固させることで、空孔率の高い多孔質膜を安定して得ることができる多孔質膜の製造方法、並びに電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、多孔質膜を製造する際の洗浄工程において、多孔質膜に含まれる溶剤を凝固させることにより、得られる多孔質膜の空孔率が大きくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明の多孔質膜の製造方法は、製膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から洗浄溶剤を用いて低分子量物を除去する工程を含む多孔質膜の製造方法において、前記低分子量物を除去した多孔質膜に含まれる洗浄溶剤を、これより融点の高い高融点溶剤で置換する置換工程と、置換後の多孔質膜に含まれる高融点溶剤を凝固させる凝固工程と、その高融点溶剤を凝固状態で又は液化後に蒸発させて乾燥させる乾燥工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の多孔質膜の製造法によると、多孔質膜に含まれる高融点溶剤を凝固させた後、乾燥を行うため、実施例の結果が示すように、得られる多孔質膜の空孔率が大きくなる。その理由の詳細は不明であるが、多孔質膜に含まれる高融点溶剤を凝固させることにより、空孔内に溶剤が凝固して充填された状態で構造が固定化されるため、空孔率が高くなると推測される。また、洗浄溶剤を高融点溶剤で置換するため、より室温に近い温度で凝固させることができ、凝固工程を簡易に行うことができる。
【0020】
上記において、ポリオレフィン系樹脂及び炭化水素系溶媒を含む樹脂組成物を溶融混練し、得られた溶融混練物を冷却してシート状物を得た後、一軸方向以上に延伸する工程を含むことが好ましい。このようにして製膜された多孔質膜は、一般に強度に優れ、空孔率も高いなど電池用セパレータに適した性能を有し、上記本発明により更に空孔率を改善することができる。
【0021】
また、前記凝固工程を前記高融点溶剤の融点−20℃〜融点の温度範囲内で行い、前記乾燥工程を前記高融点溶剤の融点〜融点+20℃の温度範囲内で行うことが好ましい。これによって凝固工程と乾燥工程との温度差を小さくすることができ、昇温による多孔質膜の収縮を更に抑制することができる。また、乾燥温度も相対的に低くなるため、安全に乾燥を進行させることができる。
【0022】
また、前記高融点溶剤は、融点が5〜30℃であることが好ましい。このような融点の溶剤を用いると、室温に近い温度で凝固させることができ、凝固工程を簡易に行うことができる。
【0023】
更に、前記高融点溶剤は、オゾン破壊係数がゼロのフッ素系溶剤であることが好ましい。フッ素系溶剤は、一般に揮発性が高く、引火点が無く又は不燃性で、他の成分の溶解性も良好で、回収も容易である。また、オゾン破壊係数がゼロであるため、地球環境的にも良好である。
【0024】
一方、本発明の電池用セパレータの製造方法は、上記いずれかに記載の多孔質膜の製造方法によって電池用セパレータを製造することを特徴とする。本発明の電池用セパレータの製造方法によると、多孔質膜に含まれる溶剤を凝固させることで、空孔率の高い多孔質膜を安定して得ることができ、電池用セパレータとして良好な性能が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の多孔質膜の製造方法は、製膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から洗浄溶剤を用いて低分子量物を除去する工程を含むものである。
【0026】
多孔質膜としては、例えばポリオレフィン系樹脂、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PPES(ポリフェニルスルホン)、PVA、PTFE、セルロース系樹脂、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリイミドなどが挙げられる。
【0027】
製膜方法としては、製膜後に低分子量物が残存する方法であれば、特に限定されず、溶剤法、非溶媒誘起型湿式相分離法、熱誘起型湿式相分離法、乾式相分離法、開孔延伸法など何れでもよい。
【0028】
また、除去する低分子量物としては、製膜溶媒、可塑剤、膨潤剤、ゲル化制御剤、溶解性無機塩類、残存モノマー成分などいずれでもよい。また、残存する低分子量物は、孔内、微細組織の表面、または微細組織の内部に存在するものなど、いずれでもよい。
【0029】
本発明は、多孔質膜の製膜工程が、ポリオレフィン系樹脂及び炭化水素系溶媒を含む樹脂組成物を溶融混練し、得られた溶融混練物を冷却してシート状物を得た後、これを一軸方向以上に延伸する工程を含む場合が有効である。これらの一連の工程で得られるポリオレフィン系の多孔質膜には、多孔質構造中に流動パラフィンなどの炭化水素系溶媒を含有している。以下、この製膜工程を例にとって説明する。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−へキセン等のオレフィンの単独重合体、共重合体、およびこれらのブレンド物等のポリオレフィンが好ましい。これらのなかでは、重量平均分子量が5×10以上の超高分子量ポリオレフィンを、好ましくは5重量%以上用いるのが望ましい。中でも得られる多孔質膜の機械的強度の観点から、超高分子量ポリエチレンが素材として特に好ましい。
【0031】
本発明に用いることのできる溶媒としては、多孔質膜を構成する樹脂の溶解性や膨潤性に優れたものであれば、通常用いられる公知のものを限定されることなく用いることができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂に対しては、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン、テトラリン、流動パラフィン等の脂肪族又は環式の炭化水素、沸点がこれらに対応する鉱油留分等が挙げられ、これらの中では、流動パラフィンなどの不揮発性溶媒が好ましい。
【0032】
ポリオレフィン系樹脂及び溶媒の混合割合は、ポリオレフィン系樹脂の種類、溶解性などの材料条件や混練時間、混練温度などの混練条件により異なるため、一概には決定できないが、ポリオレフィン系樹脂および溶媒とのスラリー状樹脂混合組成物を溶融混練した際にシート状に成形できる程度であれば特に限定されない。例えば、樹脂成分の配合量は混合物中の5〜30重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、10〜25重量%がさらに好ましい。樹脂成分の配合量は、得られる多孔質膜の強度を向上させる観点から、5重量%以上が好ましく、また、ポリオレフィンを十分に溶媒に溶解させて、混練することができる観点から、30重量%以下が好ましい。
【0033】
混合物中の溶媒の配合量は70〜95重量%が好ましく、75〜90重量%がより好ましい。該配合量は、混練性適度で特性的に優れる観点から、70重量%以上が好ましく、また、押出す際にダイスでの成形が容易になる観点から、95重量%以下が好ましい。
【0034】
また、シャツトダウン機能(電池膜内の温度上昇時に、発火等の事故を防止するため、微多孔膜が溶融して微多孔膜を目詰まりさせ、電流を遮断する機能)を付与する目的として、重量平均分子量5×10未満のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマー、グラフトコポリマーが1種類以上含有されてもよい。
【0035】
重量平均分子量が5×10未満のポリオレフィン類としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エチレン−アクリルモノマー共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系や、ポリオレフィン系、ポリジエン系、塩化ビニル系、ポリエステル系等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0036】
グラフトコポリマーとしては、主鎖にポリオレフィン、側鎖に非相性基を有するビニル系ポリマーを側鎖としたグラフトコポリマーが挙げられるが、ポリアクリル類、ポリメタクリル類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキシアルキレン類が好ましい。なお、ここで非相溶性基とは、ポリオレフィンに対して非相溶性基を意味する。
【0037】
これらの5×10未満のポリオレフィン類、熱可塑性エラストマー、グラフトコポリマーの含有量は、適宜要求されるシャツトダウン温度により設定されるが、多孔質膜の原料樹脂混合物中、70重量%以下が好ましく、50重量%以下が更に好ましい。該含有量は、高分子量ポリオレフィンの架橋点を十分確保し、十分な耐熱性が得られるという観点から70重量%以下が好ましい。
【0038】
なお、前記樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料、造核剤、顔料、難燃剤、充填剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加しても良い。
【0039】
得られる樹脂組成物を溶融混練する工程は、通常用いられる公知の方法により行うことができる。その際に高分子量ポリオレフィンのポリマー鎖の十分な絡み合いを得るために混合物に十分なせん断力を作用させて行なうことが好ましい。例えば、樹脂組成物をバンバリーミキサー、ニーダー等を用いてバッチ式で混練したり、連続押出機などを用いたりしてもよい。連続混練機としては単軸混練機や二軸押出機、プラネタリー式などの多軸混練機を用いてもよく、またこれら装置を複数組み合わせた工程でも良い。
【0040】
混合物を溶解混練する際の温度は、溶媒が高分子量ポリオレフィンを溶解開始させる温度(溶融開始温度)〜+60℃の範囲で行なうことが好ましい。該温度は、高分子量ポリオレフィンが効率よく分散する観点から、溶解開始温度以上が好ましい。なお、高分子量ポリオレフィンの熱分解や酸化劣化を抑制するため、溶解後の混練時に、膜特性を低下させない程度に温度を下げても問題はない。
【0041】
シート状に成形する工程は、通常用いられる公知の方法により行うことができる。方法としては、特に限定されず、例えば、押し出し機先端にTダイ等を取り付ける方法が挙げられる。また、カレンダー成形やプレス成形によりシート化してもよい。
【0042】
得られたシート状押出し物は、ゲル化により構造を固定するなどの目的で押し出したシート状物を急冷することが有効である。急冷の温度としては、好ましくは100℃以下、より好ましくは−10℃以下に冷却した金属板に挟み込み冷却して、シート状に成形することが望ましい。このようにして得られるシート状成形物の厚みとしては、特に限定されないが、その後の工程における処理のしやすさから、2〜20mmのものが好ましく、5〜10mmのものがより好ましい。
【0043】
次に得られたシート状成形物を、その空孔率と強度向上を図るため、延伸処理する。延伸処理の方法は特に限定されるものではなく、通常のテンター法、ロール法、またはこれらの方法の組み合わせであってもよい。また、一軸延伸、二軸延伸等のいずれの方法をも適用することができ、二軸延伸の場合は、縦横同時延伸または逐次延伸のいずれでもよいが、強度向上の観点から、縦横同時延伸が好ましい。
【0044】
なお、本発明では、延伸処理に先立ちシートの延伸性を向上させるために、シート状成形物の圧延処理を行ってもよい。圧延処理としてはロールによる圧延処理、金属板に挟み込み加熱して圧延する方法などが挙げられる。また圧延工程は延伸後に行ってもよい。
【0045】
延伸倍率は、目的とする空孔率や強度により適宜設定できるが、好ましくは、延伸前の面積に対し通常2〜300倍、好ましくは10〜250倍の範囲で行う。延伸処理時の温度は、延伸の均一性が良好で、十分な膜強度が得られる観点から、高分子量ポリオレフィンの融点+5℃以下の温度が好ましい。温度が高すぎると構造が崩れて強度が低下する恐れがある。またあまりにも低い温度であると延伸時に、膜の破断や延伸後の収縮が大きくなる恐れがある。
【0046】
本発明は、製膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から洗浄溶剤を用いて低分子量物を除去する工程を含むものであり、前記の延伸処理により得られた多孔質膜の場合、洗浄溶剤を用いて脱溶媒処理が行なわれる。
【0047】
洗浄溶剤としては、樹脂混合物の調製に用いた溶媒に応じて、無機系あるいは有機系の溶剤を適宜選択することが出来る。乾燥速度が速いという観点から、沸点が100℃以下の溶剤であることが好ましいが、特に限定されることは無い。
【0048】
具体的な有機系の溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソノナン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類、フッ素系溶剤の例として、鎖状フルオロカーボン、環状フルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロエーテルなどの易揮発性溶剤があげられる。なおこれらは単独、または2種以上を混合して用いることもできる。
【0049】
洗浄方法としては、特に限定されず、乾燥速度が遅い洗浄溶剤を選択した場合は乾燥が速いフッ素系溶剤等で仕上げ洗浄を行う多段洗浄を行っても良い。具体的には、例えば、溶剤を投入した浴にシート状成形物を浸漬して溶媒を抽出する方法、溶剤をシート状成形物にスプレーノズル等からシャワーする方法、蒸気で溶媒除去する方法等が挙げられる。これらの方法は、単独または2種類以上の方法を組み合わせて洗浄を行うことも出来、乾燥速度を高めるという観点から蒸気で洗浄する工程を用いても良い。
【0050】
上記の洗浄溶剤による洗浄は、温度による構造変化を抑えるという観点から、10〜50℃で行うのが好ましい。
【0051】
本発明では、上記の溶剤で溶媒除去を行った後、除去後の多孔質膜に含まれる洗浄溶剤を、これより融点の高い高融点溶剤で置換する置換工程を行う。上記の洗浄溶剤は、一般的に融点が0℃以下と低いため、これを凝固させるには、冷却能力の大きい冷却装置や、断熱設備などが必要となる。これを避けるため、本発明では、洗浄溶剤より融点の高い高融点溶剤で予め置換しておく。
【0052】
高融点溶剤は、融点が5〜30℃であることが好ましく、融点が10〜30℃であることがより好ましい。高融点溶剤の融点が30℃を超えると、乾燥時に昇温する際のエネルギーが大きくなる傾向があり、高融点溶剤の融点が5℃未満であると、簡易な設備で凝固させるのが困難になる傾向がある。なお、高融点溶剤としては、乾燥速度を速くするという観点から、沸点が100℃以下のものが好ましい。
【0053】
また、高融点溶剤としては、環境への配慮からオゾン破壊係数がゼロのものを用いるのが好ましい。また、易揮発性溶剤であるフッ素系溶剤を用いるのが好ましい。オゾン破壊係数が0で低沸点のフッ素系溶剤としては、例えばパーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタンなどのパーフルオロカーボン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロブタン、ノナフルオロペンタン、ウンデカフルオロヘキサン、ウンデカフルオロヘキサン、ヘプタフルオロシクロペンタン、ノナフルオロシクロヘキサンなどのハイドロフルオロカーボン等が挙げられる。
【0054】
溶剤の置換は、高融点溶剤を用いて洗浄溶剤を含む多孔質膜を洗浄する方法により行うことができる。この洗浄は、濯ぎ洗浄および仕上げ洗浄として行うことも可能である。洗浄方法としては、特に限定されず、例えば、溶剤を投入した浴にシート状成形物を浸漬して溶媒を抽出する方法、溶剤をシート状成形物にスプレーノズル等からシャワーする方法等が挙げられる。これらの方法は、単独または2種類以上の方法を組み合わせて洗浄を行うこともできる。
【0055】
高融点溶剤による置換工程の温度は、置換後に多孔質膜を高融点溶剤の融点以下の温度にしやすくするため、高融点溶剤の融点〜融点+10℃の範囲内で行うことが好ましく、融点〜融点+3℃の範囲内で行うことがより好ましい。
【0056】
本発明では、次いで、置換後の多孔質膜に含まれる高融点溶剤を凝固させる凝固工程を実施する。凝固工程は高融点溶剤の融点−20℃〜融点の温度範囲内で行うのが好ましく、高融点溶剤の融点−10℃〜融点の温度範囲内で行うのがより好ましい。
【0057】
融点以下で凝固させる方法としては、自然冷却、強制冷却、減圧冷却(真空引き)する方法などが挙げられるが、融点が室温付近である溶剤で濯ぎ洗浄および仕上げ洗浄を行うことで、凝固工程を簡略化することが出来る。そのような溶剤を用いることによって溶剤が瞬間的に凝固し、膜構造が固定化され収縮などが生じないため高空孔率が得られる。
【0058】
本発明では、次いで、高融点溶剤を凝固状態で又は液化後に蒸発させて乾燥させる乾燥工程を実施する。高融点溶剤を凝固状態で蒸発させて乾燥させる場合、融点以下に温度を維持しつつ、減圧によって高融点溶剤を昇華させるのが好ましい。
【0059】
また、高融点溶剤を液化後に蒸発させて乾燥させる場合、乾燥工程を高融点溶剤の融点〜融点+20℃の温度範囲内で行うのが好ましい。特に、膜の変質を抑えるため、50℃以下で行うことが好ましい。なお、乾燥工程では、高融点溶剤を完全に乾燥させる必要はなく、後述するヒートセット処理を乾燥工程と兼用してもよい。
【0060】
なお、以上のような一連の脱溶媒処理は延伸前に行なってもよい。また延伸処理前に脱溶媒処理を行った後、再度、延伸処理後に脱溶媒処理を行って、残存溶媒を除去する工程をとってもよい。なお、本発明では、延伸処理後および脱溶媒処理の前後に、表面性や特性改善のためさらに圧延処理を行なってもよい。例えば、前記シート状成形物を延伸処理と脱溶媒処理(延伸と脱溶媒の順序はいずれが先でもよい)を行なってから圧延処理に供してもよく、またシート状成形物を延伸処理してから延伸処理と脱溶媒処理を行なってもよい。また延伸処理後と脱溶媒処理後の双方で圧延処理を行ってもよい。
【0061】
次に、前記の工程により得られた多孔質構造を有する成形物の収縮抑制や構造固定化のためにヒートセット処理を行う。ヒートセット処理は一回で熱処理する一段式熱処理法でも、最初に低温でまず熱処理し、その後さらに高温での熱処理を行なう多段式の熱処理法でもよく、あるいは昇温しながら熱処理する昇温式熱処理法でもよいが、ガーレ値等の多孔質膜の元の諸特性を損なうことなく処理することが望ましい。
【0062】
ヒートセット処理の際の温度は、一段式熱処理の場合には、結晶性樹脂の融点−20℃以上、融点以下の温度が好ましい。温度で表した場合、結晶性樹脂の融点や、多孔質膜の組成によるが40〜140℃が好ましい。
【0063】
また諸特性を損なわずに、短時間で熱処理を完了するためには、多段式あるいは昇温式熱処理法も好ましい。この場合の熱処理時間は、使用する結晶性樹脂によるが、結晶性樹脂の融点−20℃以上、融点以下の温度が好ましい。温度で表した場合、結晶性樹脂の融点や、多孔質膜の組成により一概には決められないが例えば115℃であれば30分以上であることが好ましい。また、必要に応じてさらに高温で、さらに短時間の3段目以降の熱処理を行なってもよい。
【0064】
具体的な熱処理方法としては、多孔質膜の四隅を固定し熱処理炉に投入する、ロールに捲回して熱処理炉に投入する、テンターで面積方向を固定して連続的に熱処理炉に通す等の公知の方法が用いられる。このようにして得られた多孔質膜は溶剤乾燥時に安全であり、また大幅な成形条件を変更する必要なく、空孔率を向上することが期待できる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、各種特性については、下記要領にて測定を行なった。
【0066】
[フィルム厚]
1/10000mm表示可能なシックネスゲージにより測定し、25点の平均値を用いた。
【0067】
[空孔率]
測定対象の多孔質膜を5cmの正方形に切り抜き、その体積と重量を求め、得られる結果から次式を用いて計算する。
空孔率(体積%)=100×(体積(cm)−重量(g)/樹脂及び無機物の平均密度(g/cm))/体積(cm
【0068】
[実施例1]
超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量:10、融点:約140℃)12.5重量部と、溶媒である流動パラフィン75重量部、および熱可塑性エラストマー(住友化学製TPE821)2.5重量部、酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガノックス1010)0.47重量部をスラリー状に均一混合し、得られた樹脂組成物を二軸連続混練機を用い、150℃で溶融混練した。その後、得られた混練物を金属板に挟み込み、シート状に70℃まで急冷した。さらに急冷結晶化させたシート状成形物を約130℃でギャップ1.3mmでプレスし、シート状成形物を圧延、延伸した。これらの急冷シートを約130℃の温度で押し出し方向4.5倍×幅方向3.8倍に縦横同時二軸延伸し、多孔質構造中に溶媒を含んだ多孔質膜を得た。
【0069】
溶媒を含んだ多孔質膜を切り出してSUS製枠に固定した後、デカン中で25℃にて脱溶媒処理を3分行った後、さらに同様の脱溶媒処理を2回繰り返した。その後、仕上げ洗浄として23℃でフッ素化炭化水素溶剤(日本ゼオン社製、ゼオローラH、融点:20.5℃)に3分間浸漬し溶剤置換を行った後、凝固工程として15℃で約2分間保持して溶剤を凝固させた。その後、乾燥工程として25℃まで上昇させ、その温度で2分間保持して溶剤を乾燥させた。次いで、ヒートセットのため、金属枠に固定した状態で85℃×12h+116℃×2hで空気中にて熱処理を行ない、空孔率50%の多孔質膜を得た。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、25℃で乾燥工程を実施する代わりに、ヒートセットで乾燥工程を兼用したこと以外は、実施例1と全く同様にして、空孔率51%の多孔質膜を得た。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、凝固工程を行わずに40℃で約2分間保し、更に乾燥工程の温度を40℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、空孔率44%の多孔質膜を得た。
【0072】
[比較例2]
実施例1において、仕上げ洗浄の操作温度を40℃とし、凝固工程を行わずに40℃で約2分間保し、更に乾燥工程を60℃に変更した以外は,実施例1と同様にして空孔率36%の多孔質膜を得た。
以上の結果を表1に示す。
【0073】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製膜後に低分子量物を含有する多孔質膜から洗浄溶剤を用いて低分子量物を除去する工程を含む多孔質膜の製造方法において、
前記低分子量物を除去した多孔質膜に含まれる洗浄溶剤を、これより融点の高い高融点溶剤で置換する置換工程と、置換後の多孔質膜に含まれる高融点溶剤を凝固させる凝固工程と、その高融点溶剤を凝固状態で又は液化後に蒸発させて乾燥させる乾燥工程と、を含むことを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂及び炭化水素系溶媒を含む樹脂組成物を溶融混練し、得られた溶融混練物を冷却してシート状物を得た後、一軸方向以上に延伸する工程を含む請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記凝固工程を前記高融点溶剤の融点−20℃〜融点の温度範囲内で行い、前記乾燥工程を前記高融点溶剤の融点〜融点+20℃の温度範囲内で行う請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記高融点溶剤は、融点が5〜30℃である請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記高融点溶剤は、オゾン破壊係数がゼロのフッ素系溶剤である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法によって電池用セパレータを製造する電池用セパレータの製造方法。

【公開番号】特開2006−291080(P2006−291080A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115342(P2005−115342)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】