説明

多孔質膜の製造方法

【課題】 多孔質膜自体の化学的・物理的特徴に極力影響を与えず、かつ特殊な装置や真空工程を必要としない簡易な工程により、表面に封止層を有する多孔質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 基材上に多孔質膜を形成する工程と、支持体上に無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜を形成する工程と、前記基材上に形成された前記多孔質膜と前記支持体上に形成された前記ゲル膜とを密着させて積層体を得る工程と、前記積層体を加熱することで前記ゲル膜を硬化する工程と、硬化した前記ゲル膜上の前記支持体を除去する工程とを有する多孔質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質膜の製造方法に関し、特に封止層を有する多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に多数の空孔を有する多孔質膜は、比表面積、空孔率、細孔径、細孔表面の機能化など、目的に応じて物理的・化学的特徴を制御・付与することにより、広い分野への応用が進んでいる。具体的には、触媒担体膜、分離膜、調湿膜、電極、低誘電率膜、光学薄膜などの分野へ応用されている。特に細孔径は、担体用途の場合には多孔質内部に導入しうる物質の種類を、光学薄膜用途の場合には適用しうる光の種類を、それぞれ決定づける重要なパラメーターである。1990年代にナノサイズとマイクロサイズの中間であるメソ領域の細孔径を有するメソポーラス材料の開発が進んだことにより、多孔質膜の応用検討はより加速している。
【0003】
多孔質膜を特に光学薄膜として用いる場合、多孔質膜の構造制御・光学機能付与だけでなく、周囲の環境が変化した場合でも所望の光学特性を安定して発揮できる環境安定性も重要である。しかし多孔質膜は、非多孔質膜と比べて数桁以上大きい比表面積を有するため、水分子を含む環境中浮遊分子の細孔表面への吸脱着により、多孔質膜の光学特性が敏感に変化する。そのため、環境安定性を保証するうえで、細孔表面への環境中浮遊分子の吸脱着抑制は大きな課題である。
【0004】
多孔質膜の環境安定性を向上するための手段として、多孔質膜の表面に非多孔質材料からなる封止層を形成することが効果的であると期待される。ただし、封止層を形成する際、封止層を形成する材料自身及び封止層形成プロセスで用いられる材料などが多孔質膜内部へ侵入するのを極力抑制することが必要である。また、細孔の物理的・化学的特徴に影響を与えることなく、多孔質膜の表面に選択的に封止層を形成することが重要となる。
【0005】
多孔質膜の表面に封止層を形成する技術として、例えば特許文献1及び特許文献2では、多孔質基材の細孔部に一時的に有機物を充填したうえで、多孔質膜表面に封止層を形成する技術が開示されている。また、非特許文献1及び非特許文献2では、プラズマを併用した原子層堆積法により、多孔質膜表面に封止層を形成する技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−352568号公報
【特許文献2】特開2007−45691号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“J.AM.CHEM.SOC.”,Vol.128,p.11018,2006年
【非特許文献2】“Microelectronic Engineering”,Vol.86,p.2241,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の文献では、多孔質膜の表面に封止層を形成する技術が開示されている。特許文献1及び特許文献2に記載の技術を用いた場合、多孔質膜内部への封止層材料の侵入を防ぐため、多孔質膜の表面もしくは膜全体にわたって、細孔内に一度有機物を充填する必要がある。そのため、多孔質膜内部の細孔表面に予め化学修飾などを施している場合に、一度異種の有機物を充填して、再度除去する工程を経た後では、当初期待していた機能が失われてしまう恐れがあった。
【0009】
また、非特許文献1及び非特許文献2に記載の技術は、封止層の厳密な膜厚制御が可能で非常に緻密な膜が形成できる。しかしながら、専用の真空装置を必要とするうえ工程が複雑であり、かつ成膜速度が遅いため、コスト面からも応用用途は制限される。
【0010】
このように、多孔質膜の環境安定性を向上させるために多孔質膜表面に封止層を形成する上で、多孔質膜自体の化学的・物理的特徴に極力影響を与えず、かつ簡易な工程により封止層を形成することが課題であった。
【0011】
本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、多孔質膜の物理的・化学的性質を変化させることなく、かつ簡易な工程により多孔質膜の表面に封止層を形成することができる多孔質膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する多孔質膜の製造方法は、基材上に多孔質膜を形成する工程と、支持体上に無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜を形成する工程と、前記基材上に形成された前記多孔質膜と、前記支持体上に形成された前記ゲル膜とを密着させて積層体を得る工程と、前記積層体を加熱することで前記ゲル膜を硬化する工程と、硬化した前記ゲル膜上の前記支持体を除去する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多孔質膜の物理的・化学的性質を変化させることなく、かつ簡易な工程により多孔質膜の表面に封止層を形成することができる多孔質膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の多孔質膜の製造方法の一実施態様を示す概略図である
【図2】ゲル膜と多孔質膜を密着させる工程を示す概略図である。
【図3】本発明の多孔質膜の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、表面に無機酸化物からなる封止層を有する多孔質膜の製造方法に係り、下記の各工程を有することを特徴とする。
(1)基材上に多孔質膜を形成する工程。
(2)支持体上に無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜を形成する工程。
(3)前記基材上に形成された多孔質膜と、前記支持体上に形成されたゲル膜とを密着させて積層体を得る工程。
(4)前記積層体を加熱して、前記ゲル膜を硬化して無機酸化物からなる封止層とする工程。
(5)前記封止層上の支持体を除去する工程。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の多孔質膜の製造方法の一実施態様を示す概略図である。図中、1は基材、2は多孔質膜、3は支持体、4は無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜、5は無機酸化物からなる封止層、7は積層体を示す。また、図3において、フローチャートにより一連の工程を示す。
【0018】
工程(1)
まず、図1(a)および図3に示すように、基材1上に多孔質膜2を形成する工程(1)について説明する。
【0019】
基材1は、光学レンズやディスプレイパネル、電極など、用途とするデバイスに応じた材料及び構造から選択される。多孔質膜の成膜を含む後述の各製造工程に対して、充分な耐熱性・耐薬品性をもった材料であれば、材料に特に制限は無い。多孔質膜を反射防止膜などの光学用途に用いる場合、基材1としては、石英ガラスやホウケイ酸ガラス等から用途と性能・コストに応じて選ぶことができる。基板は単一組成のものに限らず、あらかじめ基材1の表面に別の部材が形成されていても良い。
【0020】
多孔質膜2を形成する前に、基材1はあらかじめ、超純水などにより十分に表面が洗浄されていることが好ましい。
【0021】
基材1上には、多孔質膜2を形成する。本発明の製造方法は、1nm以上の細孔径を有する多孔質膜に対して、特に有効に適用することができる。多孔質膜2としてはシリカの連続マトリクス中に、細孔径が2乃至50nmの細孔が形成されたメソポーラスシリカ膜が特に好ましく用いられる。メソポーラスシリカ膜は、可視域の波長において細孔径に由来する光の散乱をほぼ皆無に抑えた低屈折率膜として、光学応用が可能である。
【0022】
以下、多孔質膜2がメソポーラスシリカ膜である場合について説明する。
【0023】
多孔質膜2の膜厚は用途に依存するが、膜質均一性を保つ上で50nmから1μmの範囲であることが好ましい。
【0024】
メソポーラスシリカ膜の製法は特に制限は無く、例えば両親媒性材料を鋳型に用いたゾルゲル法、水熱法、気相法などの既知の手法から、適宜選択して作製することができる。またメソポーラスシリカ膜の構造に関しても特に制限は無く、公知の構造を用いることができる。
【0025】
以下一例として、両親媒性材料を鋳型に使用した、ゾルゲル法を用いたメソポーラスシリカ膜の作製方法について説明する。
【0026】
まず、ゾル溶液を作製する。具体的な材料としては、空孔部分を形成するための鋳型となる両親媒性材料、シリカ壁を形成する原料であるシリカ前駆体物質、アルコール、酸又は塩基触媒、及び水から構成される。これらの材料のほかに、膜質調整などの目的で更に別の添加物を加えても良い。
【0027】
両親媒性材料としては、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの分子集合体を形成する材料が用いられる。両親媒性材料は、後の焼成によって除去することにより空孔を形成するための鋳型となり、必要とするメソポーラスシリカ膜の構造によって種類と量を適宜選択する。
【0028】
シリカ前駆体物質としては、一般的なゾルゲル法によりシリカを形成する際に用いるものが挙げられる。中でも反応性が高く、かつゾル溶液中における分散均一性に優れることから、シリコンアルコキシドが好ましく用いられる。シリコンアルコキシドとして具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどが用いられる。
【0029】
アルコールとしては、上記の両親媒性材料及びシリコンアルコキシドと相溶性を有するものであれば特に制限はなく、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどが用いられる。これらのアルコールを単独で用いても良く、また複数種が混在していても良い。
【0030】
シリコンアルコキシドを加水分解・脱水縮合してシリカを形成するための触媒としては、酸もしくは塩基が用いられる。具体的には、塩酸、酢酸、硝酸、水酸化ナトリウム、アンモニア、及びこれらの水溶液などが用いられる。
【0031】
シリコンアルコキシドの加水分解に必要な水は、上述の触媒水溶液の形で添加しても良く、もしくは別途水を添加しても良い。また、開放系の容器内でゾル溶液の攪拌を行うことにより、空気中の水分を取り込む形でも良い。
【0032】
以上により得られたゾル溶液を、基材上へ塗布する。塗布方法に特に制限は無く、例えばスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法など、一般的な方法が用いられる。
【0033】
次に、得られた塗布膜を乾燥させる。この結果、不要な溶媒が蒸発するだけでなく、シリカ壁の縮合反応もある程度進行する。乾燥方法に特に制限は無く、ホットプレートや乾燥炉を用いた加熱、恒温槽内での所定時間の静置などが適用できる。使用する材料や求める構造、乾燥プロセスの効率等に応じて、最適な乾燥方法を選択すればよい。
【0034】
乾燥した塗布膜を、電気炉などを用いて焼成する。焼成における昇温過程において、シリカ壁の縮合反応が進むとともに、ある一定温度以上に到達することにより、塗布膜中の両親媒性材料が焼成除去され、空孔が形成される。その結果、多孔質膜として空孔率の高いメソポーラスシリカ膜が得られる。
【0035】
メソポーラスシリカ膜には、さらに膜内部の細孔表面に対する化学修飾や、細孔内部への機能性分子及び、または機能性ナノ粒子の導入など、用途に応じてメソポーラスシリカ膜に対する機能付与をあらかじめ施してもよい。
【0036】
工程(2)
次に、図1(b)および図3に示すように、支持体3上に無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜4を形成する工程(2)について説明する。
【0037】
支持体3は、無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜4を表面に形成することができ、かつ、後述する支持体の除去処理により、支持体自体を容易に除去できるような材料を用いることができる。支持体が有機高分子材料からなるフィルムであることが望ましく、特に可とう性を有するプラスチックフィルムが好ましい。例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、ビニルアルコール系、酢酸ビニル系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリエーテルイミド系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリスルホン系、ポリチオエーテル系、ポリエーテルサルホン系、天然高分子系、セルロース系、オレフィン系、エチレン系、プロピレン系、ハロゲン化ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系などのプラスチックフィルムを用いることができる。
【0038】
支持体3の材料を選択する際、後述するゲル膜の硬化工程において、十分な熱耐性を有することが必要である。例として、シリコンアルコキシドの縮重合体を含むゲル膜4に対して、100℃の温度で20時間かけて硬化を進行させる場合であれば、支持体3としては少なくとも熱耐性が100℃より大きい材料から選択される必要がある。この場合には、具体的にはポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などから適宜選択すればよい。
【0039】
支持体3の厚さは、本発明の各製造工程における操作性、及び後述する支持体3の除去工程において十分に除去しうる厚さを考慮して選択すれば、特に制限は無い。支持体3を焼成除去する場合は、支持体3の厚さは10μm乃至500μmが好ましい。
【0040】
ゲル膜4の形成を容易にするために、支持体3の表面に対して、あらかじめ物理的及び、または化学的な処理を施しておいてもよい。例えば、支持体3自体の構造や表面形状が大きな影響を受けない程度に、支持体3の表面に対してUVオゾン処理を施すことは、ゲル膜4の成膜において膜質均一性を向上するうえで有効な手法の一つである。
【0041】
支持体3の表面は、最終的に得られる封止層5の表面形状を決定づけるため、多孔質膜2の用途に応じた表面形状を有することが望ましい。例えば多孔質膜2を光学膜として用いる場合、散乱を抑制するために、封止層5の表面は平坦であることが望ましく、具体的には表面粗さRaは1μm以下であることが望ましい。
【0042】
次に、支持体3上に形成する無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜4について、説明する。
【0043】
本発明におけるゲル膜とは、無機酸化物前駆体を含むゾル液を膜状に展開し、溶媒の一部もしくは全部が蒸発した状態の膜を指す。ゲル膜4中には、封止層5を形成する原料である無機酸化物前駆体が、分子間での縮重合が進んだ状態で含まれている。
【0044】
まず、ゲル膜4のもととなるゾル溶液を作製する。ゾル溶液は、封止層5を形成する原料である無機酸化物前駆体物質を必ず含み、さらに必要に応じて、アルコール、酸又は塩基触媒、水、その他添加剤から構成される。無機酸化物前駆体物質としては、一般的なゾルゲル法で用いられる無機酸化物前駆体物質を用いることができる。例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、金属硝酸塩、金属オキシ塩化物、金属塩化物、シリコンアルコキシド、塩化ケイ素などが用いられる。
【0045】
アルコールとしては、上記の無機酸化物前駆体物質と相溶性を有するもので、かつ支持体3上で撥液性を示すものでなければ特に制限は無い。例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどが用いられる。これらのアルコールを単独で用いても良く、また複数種が混在していても良い。
【0046】
シリコンアルコキシドを加水分解・脱水縮合してシリカを形成するための触媒としては、酸もしくは塩基が用いられる。具体的には、塩酸、酢酸、硝酸、水酸化ナトリウム、アンモニア、及びこれらの水溶液などが用いられる。
【0047】
シリコンアルコキシドの加水分解に必要な水は、上述の触媒水溶液の形で添加しても良く、もしくは別途水を添加しても良い。また、開放系の容器内でゾル溶液の攪拌を行うことにより、空気中の水分を取り込む形でも良い。
【0048】
以上により得られたゾル溶液を用いて、支持体3上にゲル膜4を形成する。ゲル膜の形成方法に特に制限は無く、用途に応じて決まる封止層の膜厚や膜質を達成するのに適した方法で、ゲル膜を形成する。例えばスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法などが用いられる。支持体3としてプラスチックフィルムを用いた場合、支持体3の剛性が不足することにより、直接支持体3上にゲル膜4を形成するのが困難であれば、支持体3を一度別の剛性の高い基体上に固定した上でゲル膜4を形成してもよい。
【0049】
ゲル膜4において、ゾル溶液中に含まれていた各種溶媒はできる限り蒸発していることが望ましい。ゲル膜からこれらの溶媒を除去する目的で、次の工程に移る前にゲル膜を加熱乾燥してもよい。ただし、乾燥時間が長すぎる、もしくは乾燥温度が高すぎる場合には、無機酸化物前駆体の縮重合も進みすぎてしまい、後の工程において多孔質膜とゲル膜の間の密着性が悪くなる恐れがある。この点に関してはゲル膜4を構成する材料や多孔質膜を構成する材料にも依存するが、例えばゲル膜4の赤外吸収スペクトルにおける溶媒由来の吸収ピーク、及び、水酸基由来の吸収ピークを目安に、適切な乾燥条件・乾燥時間を決定すればよい。
【0050】
工程(3)
次に、図1(c)および図3に示すように、基材1上に形成された多孔質膜2の表面と、支持体3上に形成された無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜4の表面とを密着させて積層体7を得る工程について説明する。
【0051】
多孔質膜2の表面は、あらかじめUVオゾン洗浄などの表面処理を施されていることが望ましい。これにより、多孔質膜2の表面に露出する水酸基量が増え、後述の加熱工程において、ゲル膜4中に含まれる無機酸化物前駆体との間で共有結合がより多く形成される。その結果、多孔質層2とゲル膜4の間の密着性が高くなる。
【0052】
ゲル膜4は、先述のように溶媒ができる限り蒸発していることが望ましい。その結果、ゲル膜4を多孔質膜2と密着させた際に、多孔質膜2中への溶媒の侵入が抑制される。これにより、多孔質膜自体の化学的・物理的特徴に極力影響を与えずに多孔質膜2の表面に封止層を形成することができる。また、ゲル膜4の表面に関しても、前述と同様の理由により、あらかじめUVオゾン洗浄などの表面処理が施されていてもよい。
【0053】
表面が十分洗浄された多孔質膜2の表面に、支持体3上に形成されたゲル膜4の表面を密着させ積層体7を得る。積層体7は、基材1/多孔質膜2/ゲル膜4/支持体3が積層した構造体から構成される。この工程を行う環境は、密着界面部への異物の混入を抑制するため、空気清浄度の高いクリーンルームなどで行うことが好ましい。また多孔質膜2及びゲル膜4の表面に対して、除電エアーガンなどにより除電処理を施しておくことも、密着界面部への異物の混入を抑制する上で有効な手段である。
【0054】
多孔質膜2の表面に、支持体3上に形成されたゲル膜4を密着させる際は、異物以外に、空泡の混入にも十分注意する必要がある。支持体3が可とう性を有するプラスチック基板であれば、図2に示すように、多孔質膜2に対してゲル膜4の端部6から徐々に密着させることにより、密着界面への空泡の混入を抑制することができる。
【0055】
工程(4)
次に図1(d)および図3において、積層体7を支持体の焼成除去温度よりも低い温度で加熱して、ゲル膜4を硬化して無機酸化物からなる封止層5へと転化する工程について説明する。
【0056】
この工程において、支持体3の形状が保たれた状態で、ゲル膜4中において無機酸化物前駆体物質の縮重合反応が進行してゲル膜4が硬化し、無機酸化物からなる封止層5が形成される。そのため先述したように、支持体3を焼成除去する場合、支持体3としては焼成除去温度がゲル膜4の硬化に必要な温度よりも高いような材料を選択する必要がある。
【0057】
支持体3の焼成除去温度がゲル膜4の硬化に必要な温度よりも低い場合、加熱に伴い、ゲル膜4が十分硬化しない状態で、支持体3の焼成除去が進行する。その結果、まだ縮重合反応の十分進行していないゲル膜4が多孔質膜2の表面から内部へと浸透する恐れがある。また支持体3が無い状態では、ゲル膜4において縮重合が進行する際に、面内方向での収縮が大きくなり、結果として封止層5においてクラックが発生する恐れがある。
【0058】
ゲル膜4の硬化に必要な温度と支持体3の組み合わせは、ゲル膜4中に含まれる無機酸化物前駆体物質の種類、硬化にかける時間、雰囲気などを考慮して、適切な条件を選択する。
【0059】
なお、支持体3が焼成除去されない限りの温度であれば、できる限り高温で硬化を進行させることが、生産における時間短縮の観点からも有効である。
【0060】
ゲル膜4を硬化して得られる無機酸化物からなる封止層5は、その目的に応じて材料を選択する。例えば光学的に透明な封止膜を形成する場合は、シリカ、チタニア、アルミナ、及びこれらの複合物などが用いられる。また、多孔質膜2を含めて電気的な素子として機能させるために、封止層5に透明電極としての機能を付与する場合は、チタニア、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、及びこれらの複合物などが用いられる。無機酸化物からなる封止層が、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、の少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0061】
工程(5)
次に、図1(e)および図3において、封止層上(硬化したゲル膜上)の支持体3を除去する工程について説明する。
【0062】
前記支持体を除去する工程は、支持体を支持体の焼成除去温度よりも高い温度で加熱して除去するか、又は支持体を有機溶剤による溶解によって除去する。封止層5が、ゲル膜の状態と比較して硬化の進んだ状態であれば、支持体3の除去方法に特に制限は無い。封止層5の硬化をより進めるという観点からも、酸素雰囲気下において焼成することにより、支持体3を焼成除去する手法が望ましい。
【0063】
ただし、あまりに高温で支持体3の焼成除去処理を施すと、多孔質膜2において多孔質構造の崩壊やクラックの発生を招く恐れがある。そのため支持体3の焼成除去処理は、多孔質膜2を構成する材料にも依存するが、一般に1000℃以下の温度が望ましい。
【0064】
支持体3を焼成除去処理する場合、加熱方法に特に制限は無い。例えば電気炉中に静置して等方的に加熱してもよく、またホットプレート上などに静置して基材1側から熱をかけても良い。また、UVオゾン処理など、他の酸化手法を併用しても良い。
【0065】
前述の加熱によりゲル膜4を硬化させて無機酸化物からなる封止層5へと転化する工程と、焼成により支持体3を除去する工程は、必ずしも各々独立して行う必要はない。ゲル膜4の硬化が進んだ後で支持体3が除去されるような順序になっていれば、一度の焼成工程により実施することもできる。例として、ゲル膜4がシリコンアルコキシドの縮重合体を含む材料からなり、支持体3が350℃で焼成除去可能なポリイミドからなるフィルムからなる場合について説明する。シリコンアルコキシドの縮重合反応においては、水素結合を形成して脱水縮合が進んでいなかった隣接シラノール基間でも170℃以上の温度で加熱することにより脱水縮合が進行し、より硬化することが知られている。そこで室温から400℃まで0.5℃/分の昇温速度で上昇させるような酸素雰囲気下での加熱工程とすることにより、170℃を超えた段階でゲル膜4が硬化して無機酸化物からなる封止層5へと転化する。さらに加熱して350℃を超えると徐々に支持体3が焼成除去される。
【0066】
また支持体3の焼成除去速度が、ゲル膜4が硬化して封止層5へと転化する速度よりも十分に遅いような条件が満たされるような材料の組み合わせ、もしくは加熱方法を用いることが出来る。この加熱方法であれば、上記と同様に一度の加熱工程により、ゲル膜の硬化と支持体の焼成除去の両方を達成することができる。
【0067】
多孔質膜2を構成する材料や、多孔質膜2中に別途導入された機能性材料の熱耐性が低いなど、支持体3の焼成除去処理を避ける必要がある場合は、有機溶剤を用いて支持体3を溶解除去してもよい。このとき用いられる有機溶剤は、支持体3を溶解できるものであれば特に制限は無い。先述の工程により、封止層5において十分に縮重合反応が進んでいることで、支持体3の溶解除去工程において有機溶剤が多孔質膜2中へ浸透することが抑制される。そのため本発明の手法においては、有機溶剤を用いて支持体3を除去する場合でも、多孔質膜2の物理的・化学的特徴の変化は極力抑制される。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
テトラアルコキシシラン5.2g、ブロックコポリマー(Pluronic P123、BASF社製)0.7g、エタノール10g、0.01M塩酸水溶液2.7gを混合・攪拌し、ゾル溶液を得た。超純水洗浄を施した石英基板上にゾル溶液をディップコート法により塗布し、塗布膜を得た。その後、基板を電気炉にて400℃で4時間焼成することにより、メソポーラスシリカ薄膜を得た。
【0069】
また、テトラアルコキシシラン5.2g、エタノール10g、0.01M塩酸水溶液2.7gを混合・攪拌し、封止層用ゾル溶液を得た。超純水洗浄を施したポリイミドフィルム(支持体、焼成除去温度:350℃、厚さ40μm)上に封止層用ゾル液をスピンコート法により塗布し、ゲル膜を得た。なお、スピンコート時のみ、ポリイミドフィルムはガラス板上に一時的に固定した。
【0070】
上記メソポーラスシリカ薄膜の表面をUVオゾン洗浄機により5分間洗浄処理を施した。その後、ポリイミドフィルム上に形成したゲル膜と、空泡が入り込まないように端部から慎重に密着し、石英基板/メソポーラスシリカ薄膜/ゲル膜/支持体を含む積層体を得た。
【0071】
次に上記積層体を大気雰囲気下の電気炉中に設置し、1℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した。200℃到達後、1時間保持し、ゲル膜を硬化して封止層を得た。その後1℃/分の昇温速度で400℃まで温度を昇温した。400℃到達後、24時間保持し、支持体を焼成除去した。以上により、表面にシリカからなる封止層を有する、メソポーラスシリカ薄膜が得られた。この表面に封止層を有するメソポーラスシリカ薄膜は、反射防止膜としての機能を有し、かつ相対湿度90%の環境下に100時間暴露した後においても、反射防止特性はほとんど変化しなかった。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同様の手法により、石英基板/メソポーラスシリカ薄膜/ゲル膜/支持体を含む積層体を得た。
【0073】
次に上記積層体を大気雰囲気下の電気炉中に設置し、0.5℃/分の昇温速度で400℃まで昇温した。400℃到達後、24時間保持した。以上により、表面にシリカからなる封止層を有する、メソポーラスシリカ薄膜が得られた。本実施例においては、一度の昇温プロセス中において、ゲル膜の硬化と支持体の焼成除去が行われた結果、実施例1記載のものと同様の、表面に封止層を有するメソポーラスシリカ薄膜が得られた。
【0074】
(実施例3)
支持体としてアクリル樹脂フィルム(厚さ100μm)を用いた以外は、実施例1と同様の手法により、石英基板/メソポーラスシリカ薄膜/ゲル膜/支持体を含む積層体を得た。
【0075】
次に上記積層体を窒素雰囲気下の電気炉中に設置し、1℃/分の昇温速度で100℃まで昇温した。100℃到達後、20時間保持し、ゲル膜を硬化して封止層を得た。その後、上記積層体を一度大気中に取り出し、表面のアクリル樹脂フィルムをアセトンに浸漬することにより、支持体を溶解除去した。
【0076】
本実施例においては、支持体を溶解除去することにより、100℃以下の温度環境下において、実施例1記載のものと同様の、表面に封止層を有するメソポーラスシリカ薄膜が得られた。
【0077】
(実施例4)
実施例1と同様の手法により、石英基板上にメソポーラスシリカ薄膜を得た。
また、チタンテトライソプロポキシド2.6g、1−ブタノール20g、11M塩酸水溶液1.4gを混合・攪拌し、封止層用ゾル溶液を得た。超純水洗浄を施したポリイミドフィルム(支持体、焼成除去温度:350℃、厚さ40μm)上に封止層用ゾル液をスピンコート法により塗布し、ゲル膜を得た。
【0078】
上記メソポーラスシリカ薄膜の表面をUVオゾン洗浄機により5分間洗浄処理を施した。その後、支持体上に形成したゲル膜と、空泡が入り込まないように端部から慎重に密着し、石英基板、メソポーラスシリカ薄膜、ゲル膜、支持体を含む積層体を得た。
【0079】
次に上記積層体を大気雰囲気下の電気炉中に設置し、1℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した。200℃到達後、1時間保持し、ゲル膜を硬化して封止層を得た。その後1℃/分の昇温速度で400℃まで温度を昇温した。400℃到達後、24時間保持し、支持体を焼成除去した。以上により、表面にチタニアからなる封止層を有する、メソポーラスシリカ薄膜が得られた。
【0080】
(比較例1)
テトラアルコキシシラン5.2g、ブロックコポリマー(Pluronic P123、BASF社製)0.7g、エタノール10g、0.01M塩酸水溶液2.7gを混合・攪拌し、ゾル溶液を得た。超純水洗浄を施した石英基板上にゾル溶液をディップコート法により塗布し、塗布膜を得た。その後、基板を電気炉にて400℃で4時間焼成することにより、メソポーラスシリカ薄膜を得た。
【0081】
この表面に封止層を有しないメソポーラスシリカ薄膜は、反射防止膜としての機能を有し、波長550nmにおける初期反射率は0.5%であった。しかし相対湿度90%の環境下に100時間暴露した後において、反射率は1.0%まで上昇していた。これは多孔質膜内部に水分子が吸着したことによる、メソポーラスシリカ膜の屈折率上昇が原因である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の多孔質膜の製造方法は、多孔質膜の物理的・化学的性質を変化させることなく、多孔質膜の表面に無機酸化物からなる封止層を形成することができるので、触媒担体膜、分離膜、調湿膜、電極、低誘電率膜、光学薄膜等の分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 基材
2 多孔質膜
3 支持体
4 ゲル膜
5 封止層
6 端部
7 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に多孔質膜を形成する工程と、
支持体上に無機酸化物前駆体の縮重合体を含むゲル膜を形成する工程と、
前記基材上に形成された前記多孔質膜と、前記支持体上に形成された前記ゲル膜とを密着させて積層体を得る工程と、
前記積層体を加熱することで前記ゲル膜を硬化する工程と、
硬化した前記ゲル膜上の前記支持体を除去する工程と、を有することを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記ゲル膜を硬化する工程は、前記支持体の焼成除去温度よりも低い温度で加熱することで前記ゲル膜を硬化することを特徴とする請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記支持体を除去する工程は、前記支持体の焼成除去温度よりも高い温度で加熱することで前記支持体を除去することを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記支持体を除去する工程は、前記支持体を有機溶剤による溶解によって除去することを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記ゲル膜は、ゾルゲル法により前記無機酸化物前駆体の縮重合を進行させたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質膜が、メソポーラスシリカ膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記無機酸化物が、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
前記支持体が有機高分子材料を含むフィルムであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144395(P2012−144395A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3920(P2011−3920)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】