説明

多孔質膜の製造方法

【課題】親水性高分子物質を含有する疎水性高分子物質溶液を用いて製膜した膜の親水性を損なわずに、かつ強度、伸びなどを低下せしめることなくその透水性を増加せしめた親水性高分子物質含有多孔質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】親水性高分子物質を含有する疎水性高分子物質溶液を用いて製膜した膜または製膜後熱水処理した膜を、0.03〜5重量%を占める量の無機過硫酸塩とともに0.03〜1重量%を占める量の無機塩を含有する水溶液に浸せきまたは湿潤させた状態で50〜135℃の熱を加えて架橋する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、透水性能を改善せしめた多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、多くの家庭あるいは飲食店では、水道水をそのまま飲料用、調理用に用いることは少なくなってきており、ペットボトルに詰められ市販されている水飲料あるいは水道水を浄水器でろ過した水が飲料水等として用いられている。このうち浄水器は、装置の購入価格自体は市販されている飲料水の価格と比較して高価であるものの、長く使用するにつれて単位水当たりの価格が安くなること、ペットボトルのような容器のゴミが出ないこと、さらには購入時に重く嵩張る荷物を運搬する必要がないことから環境と人に優しい装置であるといえる。
【0003】
このような浄水器としては、一般的には水道水中の塩素、トリハロメタン、溶解性鉛等を吸着によって除去する活性炭と、装置内で発生する可能性がある雑菌、活性炭粉末、濁度成分等を除去するための多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールから構成されているものが多い。
【0004】
中空糸膜としては、乾湿式紡糸法によって製膜される中空糸膜であって、耐熱性、強度および分離性といった観点からはポリスルホン系やポリフッ化ビニリデン系のポリマー製のものが多く用いられている。かかるポリマーには、得られる多孔質膜が疎水性であることおよびその孔径制御といった関係から通常親水性物質が添加され、製膜性ポリマー、親水性物質、これらの可溶性溶媒などを混合することで、製膜溶液(紡糸原液)が調製される。
【0005】
親水性物質としては、主にグリセリン、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)等の少なくとも一種が用いられ、好ましくはPVPが用いられる。PVPは、任意の重合度またはK値のものを選択することによって、製膜溶液の粘度あるいは多孔質膜の孔径を調整することができ、さらにPVPを含有させた膜に熱、ガンマ線、架橋剤等で処理することで架橋することができるので、使用時のPVPの溶出抑制や架橋による膜構造の変化によって透水性向上を図ることが可能である。
【0006】
このうち、架橋剤での処理は、ガンマ線による処理などとは異なり、ガンマ線発生装置などの高価な設備を使用せずに膜全体にわたって均一な架橋が可能である。かかる架橋剤を用いた架橋方法については、PVP含有膜に熱を加えて架橋する方法が提案されている(特許文献1〜2参照)。
【0007】
しかしながら、これらの文献に記載されているように、過硫酸アンモニウムのみを含有する溶液中でPVPを含む膜に熱を加えると強度と伸びの低下がみられる傾向にあり、これに対しては透過性能を図るべく過硫酸アンモニウム濃度を高めて処理する必要があるものの、濃度を高めるにつれて強度、伸びの低下が大きくなるので、強度の高いポリフッ化ビニリデン系膜等への適用であればある程度可能ではあるものの、ポリスルホン系膜への適用は実質的に困難であるといえる。
【0008】
また、例えば5%程度の高濃度の過硫酸アンモニウムで処理した膜は、親水性が乏しく、低圧での透水性や耐ファウリング性に劣るという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−543546号公報
【特許文献2】特許第3,043,093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、親水性高分子物質を含有する疎水性高分子物質溶液を用いて製膜した膜の親水性を損なわずに、かつ強度、伸びなどを低下せしめることなくその透水性を増加せしめた親水性高分子物質含有多孔質膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、親水性高分子物質を含有する疎水性高分子物質溶液を用いて製膜した膜または製膜後熱水処理した膜を、0.03〜5重量%を占める量の無機過硫酸塩とともに0.03〜1重量%を占める量の無機塩を含有する水溶液に浸せきまたは湿潤させた状態で50〜135℃の熱を加えて架橋することによって達成される。
【発明の効果】
【0012】
架橋剤成分である無機過硫酸塩とともに所定濃度の無機塩を介在させた溶液に、膜を浸せきまたは湿潤させた状態で熱処理することで、低濃度の無機過硫酸塩存在下で架橋反応を進行させることができるため、強度、伸びの大幅な低下を伴うことなく、また親水性を損なわない状態で、透水性を増加させることができるといったすぐれた効果を奏する。かかる処理方法は、架橋剤としての低濃度の無機過硫酸塩および無機塩を用いれば足りるため、均一な膜の架橋を安価に行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
製膜原液としては、疎水性高分子物質、親水性高分子物質、これらの可溶性溶媒などを混合したものが用いられる。
【0014】
疎水性高分子物質としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアミドなどが用いられ、好ましくは耐熱性、強度、分離性などの観点からポリフッ化ビニリデンまたはポリスルホンが用いられる。
【0015】
疎水性高分子物質には、親水性高分子物質、具体的にはラジカル反応によって架橋可能な親水性高分子物質、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース、エチレン・ビニルアルコール共重合体等が用いられ、好ましくはPVPが添加される。PVPとしては、分子量が約1000(K-15)〜2200000(K-115)、好ましくは約10000(K-30)〜1200000(K-90)のものが、疎水性高分子物質100重量部当り約5〜120重量部、好ましくは約10〜100重量部の割合で用いられる。PVPがこれより多い割合で用いられると、製膜溶液の粘度が高くなるので紡糸性が悪くなるばかりではなく透水性も低下するようになり、一方これより少ない割合で用いられると、所望の透水性の向上を図ることができない。
【0016】
疎水性高分子物質および親水性高分子物質は、これらの可溶性溶媒などに混合されて、製膜原液を構成する。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。疎水性高分子物質は、これらの溶媒に溶解させた製膜原液中12〜23重量%を占めるような濃度で用いられ、このような濃度範囲を外れると、架橋後の膜強度および伸びが低下するようになる。
【0017】
以上の成分よりなる製膜原液を用いての製膜は、従来公知の製膜方法をそのまま用いることができ、製膜後の膜形状は平膜、中空糸膜のいずれであってもよく、平膜の製膜は、例えばシート状の支持体上に製膜溶液を流延し、その後凝固浴中に浸せきすることにより行われ、中空糸膜の製膜は、水などを芯液として二重環状ノズルから水などの凝固浴中に乾湿式紡糸または湿式紡糸することにより行われる。いずれの場合にあっても、次いで親水性高分子物質の不溶化処理が行われる。
【0018】
不溶化処理は、0.03〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%を占める量の無機過硫酸塩に、さらに0.03〜1重量%、好ましくは0.05〜0.6重量%を占める量の無機塩を加えた水溶液中に、膜を浸せきまたは湿潤させた状態でオートクレーブなどを用いて温度50〜135℃で、一般的には30〜180分間加熱し、架橋反応させることによって行われる。ここで、無機過硫酸塩水溶液の濃度がこれより低い濃度で用いられると透水性能の向上が図れず、これより高い濃度で用いられると処理後の膜強度および伸びが低下するようになる。また、無機塩水溶液がこれより低い濃度で用いられると強度、伸び、親水性の低下を避けることができず、これより高い濃度で用いられると透水性の向上効果が少なくなるようになる。
【0019】
無機過硫酸塩としては、例えばアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられ、無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウムなどが挙げられるが、これらの塩に限られず他の塩も使用可能である。
【0020】
なお、特許文献1〜2では、架橋に際して無機過硫酸塩が用いられているが、無機過硫酸塩とともに所定濃度の塩を介在させた溶液に多孔質膜を浸せきまたは湿潤させた状態で架橋を行うといった態様については何ら教示されてはいない。
【実施例】
【0021】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0022】
実施例1
ポリスルホン樹脂(BASF社製品Ultrason S3010)15重量部、ポリビニルピロリドン(同社製品Luvisko K90)2重量部およびジメチルホルムアミド83重量部よりなる室温で均一な製膜原液を、二重環状ノズルから水を芯液として水凝固浴中に乾湿式紡糸した。得られた中空糸膜を、121℃の0.5重量%過硫酸アンモニウムおよび0.1重量%NaClをそれぞれ溶解させた水溶液中に1時間浸せきして架橋反応させた後、さらに水置換してから60℃のオーブン中で乾燥し、外径0.4mm、内径0.2mmの多孔質ポリスルホン中空糸膜を得た。
【0023】
得られた中空糸膜について、透水性能、バブルポイント、濡れ速度、引張破断強度および引張破断伸びについての測定が行われた。
透水性能:ループ状にした中空糸膜全体をガラス管内に挿入し、その端部をエポキシ樹
脂を用いて束着したモジュールを用い、中空糸膜端部を下向きにした状態で
ガラス管内に25℃の純水を供給し、中空糸膜をろ過する純水透過速度を、純
水透過量/〔中空糸膜外側表面積×平均圧力(100kPag:中空糸内側と外側
の水圧差)〕の値により算出
バブルポイント:ループ状にした中空糸膜の一部をその端部がガラス管内に収まるよう
にエポキシ樹脂を用いて束着し、ガラス管外の中空糸膜ループ部をエ
タノールに浸せきした状態でガラス管内に圧力をかけ、エタノール中
の中空糸膜面より気泡が発生する圧力を測定
濡れ性能:中空糸膜端面を0.02重量%メチレンブルー水溶液に浸漬して、膜にメチレン
ブルー水溶液が吸収される速度を膜側面の吸水上部の移動速度(mm/秒)によ
って測定
引張破断強度:中空糸膜を引張試験装置(島津製作所製品オートグラフ)に設置し、標線
間距離50mm、引張速度240mm/分で引張試験を行い、破断時の強度/試
験前断面積の値により算出
引張破断伸び:(引張破断強度試験における破断時の中空糸膜長さ−試験前の中空糸膜
長さ)/試験前の中空糸膜長さ×100(%)の割合を算出
【0024】
実施例2
実施例1において、0.1重量%NaClの代わりに0.1重量%CaCl2が用いられた。
【0025】
比較例1
実施例1において、0.5重量%過硫酸アンモニウムおよび0.1重量%NaCl水溶液が用いられず、加圧水を用いた処理が行われた。
【0026】
比較例2
実施例1において、0.1重量%NaCl水溶液を用いず、5重量%過硫酸アンモニウムのみの水溶液を用いた架橋処理が行われた。
【0027】
比較例3
比較例2において、5重量%過硫酸アンモニウムの代わりに2重量%過硫酸アンモニウムのみの水溶液を用いた架橋処理が行われた。
【0028】
比較例4
比較例2において、5重量%過硫酸アンモニウムの代わりに1重量%過硫酸アンモニウムのみの水溶液を用いた架橋処理が行われた。
【0029】
比較例5
比較例2において、5重量%過硫酸アンモニウムの代わりに0.5重量%過硫酸アンモニウムのみの水溶液を用いた架橋処理が行われた。
【0030】
比較例6
比較例2において、5重量%過硫酸アンモニウムの代わりに0.1重量%過硫酸アンモニウムのみの水溶液を用いた架橋処理が行われた。
【0031】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、使用した膜処理液中の過硫酸アンモニウム濃度および塩濃度とともに、次の表に示される。なお、( )内の数値は、比較例1で得られた各測定値(標準値)を100とする指数を示している。

実施例 比 較 例
1 2 1 2 3 4 5 6
〔処理用水溶液濃度〕
過硫酸アンモニウム 0.5 0.5 0 5 2 1 0.5 0.1
塩化ナトリウム 0.1
塩化カルシウム 0.1
〔測定項目〕
透水性能(g/cm2/時間) 2410 2180 1990 2310 2185 2150 2110 2070
(121) (110) (100) (116) (110) (108) (106) (104)
バブルポイント(MPag) 0.19 0.19 0.19 0.19 0.19 0.19 0.19 0.19 (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100) (100)
濡れ性能 (mm/秒) 29 29 29 <0.8 8.3 18 26 29
(100) (100) (100) (<2.76) (29) (62) (90) (100)
引張破断強度 (MPa) 4.0 4.0 4.1 3.2 3.5 3.7 3.8 4.2
(98) (98) (100) (78) (85) (90) (93) (102)
引張破断伸び (%) 40 39 48 31 32 34 37 43
(83) (81) (100) (65) (67) (71) (77) (90)
【0032】
以上の結果から、次のことがいえる。
(1) 架橋時の膜処理液成分として過硫酸アンモニウムとともに無機塩が用いられた各実施例では、これらが用いられていない比較例1と比べて、バブルポイント、濡れ性については同等の性能を維持し、強度および伸びの低下をわずかに留めたうえで、すぐれた透水性を示している。
(2) 架橋時の膜処理液成分として過硫酸アンモニウムのみを用いた比較例2〜5では、いずれもバブルポイントについては比較例1と同等の性能を示し、透水性の改善も図られるものの、濡れ性、強度および伸びの低下を避けることができない。
(3) 架橋時の膜処理液成分として過硫酸アンモニウムのみを用いた場合であっても、その量を少量とした比較例6では、バブルポイント、濡れ性、強度では比較例1と同等の性能を示し、伸びの大幅な低下も避けることができるが、透水性の大きな改善も図ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る多孔質膜の製造方法によって得られる多孔質膜は、除湿膜、燃料電池用等の加湿膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜などとして有効に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子物質を含有する疎水性高分子物質溶液を用いて製膜した膜または製膜後熱水処理した膜を、0.03〜5重量%を占める量の無機過硫酸塩とともに0.03〜1重量%を占める量の無機塩を含有する水溶液に浸せきまたは湿潤させた状態で50〜135℃の熱を加えて架橋することを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
親水性高分子物質が、ポリビニルピロリドンである請求項1記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
無機過硫酸塩としてアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩が用いられる請求項1記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
無機塩が塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムである請求項1記載の多孔質膜の製造方法。

【公開番号】特開2013−94692(P2013−94692A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237098(P2011−237098)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】