説明

多孔質膜処理装置

【課題】薬液浸漬後に加熱した際の中空糸膜の細径化および扁平化等の異形化を防止できる多孔質膜処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質膜処理装置は、多孔質膜の薬液処理工程に用いられるものであり、薬液Bに多孔質膜(中空糸膜A)または多孔質膜前駆体を浸漬する薬液浸漬部10と、薬液Bに浸漬された後の前記多孔質膜または多孔質膜前駆体を加熱する加熱部20とを有し、加熱部20は、加熱容器21と、加熱容器21の内部を加熱する加熱手段22と、加熱容器21の内部に前記多孔質膜または多孔質膜前駆体を走行させるガイド手段23とを備え、ガイド手段23は、直径80mm以上のフリーロールからなるガイドロールにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤を含む薬液によって多孔質膜を処理する多孔質膜の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、水処理方法として、分離の完全性やコンパクト性などに優れた多孔質膜のろ過膜を用いた方法が注目を集めている。
多孔質膜の製造方法としては、高分子溶液を非溶媒により相分離させて多孔化する非溶媒相分離現象を利用した非溶媒相分離法が知られている。
非溶媒相分離法を用いて多孔質膜を製造する際には、疎水性ポリマー、親水性ポリマー、および溶媒を含む製膜原液を吐出口(紡糸ノズル、Tダイなど)から吐出し、凝固液中で凝固して多孔質膜前駆体(中空糸等)を得る。
上記凝固工程により形成された多孔質膜前駆体には、溶液状態の親水性ポリマーや溶媒が多量に残留している。親水性ポリマーがその後に得られる多孔質膜に多く残留していると、透水性が損なわれ、また、親水性ポリマーが多孔質膜中で乾固すると、膜の機械的強度を低下させるおそれがある。そのため、通常、凝固工程の後には、多孔質膜中に残留する親水性ポリマーを、次亜塩素酸等の酸化剤を含む薬液に浸漬させた後、加熱して分解し、洗浄して親水性ポリマーを充分に除去する処理を施す(特許文献1,2)。
上記の処理方法において、薬液浸漬後に多孔質膜を加熱する際には、例えば、加熱容器と、加熱容器の内部を加熱する加熱手段と、加熱容器の内部に多孔質膜を走行させるためのガイドロールとを備える加熱装置が広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−302449号公報
【特許文献2】特開2005−220202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の加熱容器を備えた加熱装置を用いて薬液浸漬後の多孔質膜を加熱すると、多孔質膜が異形化(例えば、多孔質膜が中空糸膜である場合、細径化および扁平化)することがあった。異形化した多孔質膜は所望の性能が得られにくいため、製品から排除される。
本発明は、薬液浸漬後に加熱した際の多孔質膜の異形化を防止できる多孔質膜処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]多孔質膜または多孔質膜前駆体の薬液処理工程に用いられる多孔質膜の処理装置であって、薬液に多孔質膜または多孔質膜前駆体を浸漬する薬液浸漬部と、薬液に浸漬された後の前記多孔質膜または多孔質膜前駆体を加熱する加熱部とを有し、前記加熱部は、加熱容器と、加熱容器の内部を加熱する加熱手段と、加熱容器の内部に前記多孔質膜または多孔質膜前駆体を走行させるガイド手段とを備え、前記ガイド手段は、直径80mm以上のフリーロールからなるガイドロールにより構成される多孔質膜処理装置。
[2]ガイドロールに取り付けられる軸受けが、ポリエーテルエーテルケトン製の外輪及び内輪と、フッ素樹脂製またはフッ素樹脂を表面被覆したリテーナーを有する回転軸受けとを備える、[1]に記載の多孔質膜処理装置。
[3]前記回転軸受けは、シリコンカーバイド系のセラミック製のボールベアリングを有する、[2]に記載の多孔質膜処理装置。
[4]前記加熱容器がチタン製である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
[5]前記加熱手段は、加熱容器の底部近傍に設けられた蒸気噴出手段であり、加熱手段と前記ガイド手段との間に、加熱手段を保護する保護カバーが設けられている、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多孔質膜処理装置によれば、薬液浸漬後に加熱した際の多孔質膜の細径化および扁平化等の異形化を防止できる。
本発明の多孔質膜処理装置においては、ガイドロールに取り付けられる軸受けが、ポリエーテルエーテルケトン製の外輪及び内輪と、フッ素樹脂製またはフッ素樹脂を表面被覆したリテーナーを有する回転軸受けとを備えれば、多孔質膜の異形化をより防止できる。
また、前記回転軸受けが、シリコンカーバイド系のセラミック製のボールベアリングを有すれば、磨耗を抑制することができる。
また、加熱容器がチタン製であれば、耐腐食性を向上させることができ、錆の発生を抑制できる。
また、加熱手段が、加熱容器の底部近傍に設けられた蒸気噴出手段であり、加熱手段とガイド手段との間に、加熱手段を保護する保護カバーが設けられていれば、上記噴出手段の蒸気噴出口の閉塞を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の多孔質膜処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多孔質膜処理装置の一実施形態について、中空糸膜の処理例を一例として説明する。
図1に、本実施形態の多孔質膜処理装置の模式図を示す。本実施形態の多孔質膜処理装置1は、薬液浸漬部10と加熱部20と洗浄部30と乾燥部40とを有する。
【0009】
(薬液浸漬部)
本実施形態における薬液浸漬部10は、薬液Bが入れられた処理槽11と、中空糸膜Aが薬液Bに複数回浸漬されるように中空糸膜Aをガイドするガイド手段12と、ガイド手段12を支持する支持部材13と、処理槽11の内部に設けられた冷却器14と、薬液Bを処理槽11に供給する薬液供給管15と、処理槽11から薬液Bを排出する薬液排出管16とを備える。
【0010】
本実施形態における処理槽11においては、薬液Bが、薬液供給管15から供給され、薬液排出管16から排出されて、中空糸膜Aの移送方向の下流側から上流側に向かって移動するようになっている。
また、処理槽11は、耐食性を有する材質とされ、なかでも、チタンが好ましい。処理槽11がチタン製であれば、腐食防止効果が高く、錆の発生を抑制できるため、処理槽11の劣化を抑制でき、また、錆の接触による中空糸膜Aの傷付きを防止できる。
【0011】
ガイド手段12は、処理槽11の薬液Bの液面11aよりも下方に位置するように複数設けられた下部ガイドロール12aと、薬液Bの液面11aよりも上方に位置するように複数設けられた上部ガイドロール12bとを有する。
ガイド手段12では、下部ガイドロール12aと上部ガイドロール12bとに、中空糸膜Aを交互に掛け回して移送方向を反転させることによって、中空糸膜Aを鉛直方向に往復させながら移送させて、中空糸膜Aの薬液Bへの浸漬と中空糸膜Aの薬液Bからの引き上げとを繰り返すようになっている。これにより、中空糸膜Aを薬液Bに複数回浸漬するようになっている。
【0012】
(加熱部)
本実施形態における加熱部20は、加熱容器21と、加熱容器21の底部近傍に設けられた加熱手段22と、加熱容器21の内部の加熱手段22の上方にて中空糸膜Aを走行させるガイド手段23と、加熱手段22を保護する保護カバー24とを備える。
【0013】
本実施形態における加熱容器21は略直方体の容器である。加熱容器21は、耐食性を有する材質とされ、なかでも、チタンが好ましい。加熱容器21がチタン製であれば、腐食防止性が高いため、中空糸膜Aに含まれる酸化剤による錆の発生を抑制でき、加熱容器21の劣化を抑制できる。また、錆が落下して中空糸膜Aに接触して傷付けることを防止できる。
【0014】
本実施形態における加熱手段22は、水蒸気等の加熱用蒸気を噴出する蒸気噴出手段からなり、蒸気によって加熱容器21の内部を加熱するものである。本実施形態では、蒸気噴出手段として、蒸気が供給される配管22aに複数の噴出口22bが形成されたものが使用される。
【0015】
ガイド手段23は、加熱容器21の上側に配置された上部ガイドロール23aと、加熱容器21の下側に配置された下部ガイドロール23bとからなっている。上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bは各々複数設けられており、中空糸膜Aは上部ガイドロール23aと下部ガイドロール23bとに交互に巻き掛けられる。このようなガイド手段23では、中空糸膜Aを鉛直方向に往復させるように中空糸膜Aの移送方向を反転させながら、中空糸膜Aを移送するようになっている。
【0016】
上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bは直径80mm以上、好ましくは90mm以上のフリーロールである。ここで、フリーロールとは、モータ等の駆動手段が取り付けられていないロールのことである。
上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bの直径が80mm未満であると、上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bに巻き掛けられた際に中空糸膜Aに付与される張力が高くなり過ぎて、中空糸膜Aを細径化または扁平化することがある。また、実用性の点からは、上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bの直径は100mm以下であることが好ましい。
また、上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bに取り付けられる軸受けは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂などの耐擦過性に優れた部材からなる外輪及び内輪と、フッ素樹脂製または表面がフッ素樹脂で被覆されたリテーナーを有する回転軸受けとを備えるものが好ましい。これらのうち、後述の酸化剤耐性に優れ、酸化剤を含む薬液を用いても割れにくいことから、外輪及び内輪にはポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いることが好ましく、リテーナーに用いるフッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を用いることが好ましい。
軸受けが上記のようなものであると、磨耗しにくく、ベアリングの交換頻度を減らすことができ、また、回転不良による張力の上昇を抑えることができるため、中空糸膜Aの異形化(細径化や扁平化)をより防止できる。
回転軸受けの例としては、ボールベアリングなどが挙げられるが、ボールベアリングを用いる場合には、耐摩耗性の面から、ベアリング球がセラミック、特にシリコンカーバイド系のセラミックを用いることが好ましい。
【0017】
保護カバー24は、加熱手段22とガイド手段23との間に設けられ、ガイド手段23によって走行する中空糸膜Aからの落下物が加熱手段22に衝突しないように加熱手段22を保護するものである。保護カバー24は、加熱手段22の上方のみを覆っており、加熱容器21の側面側を覆っていない。したがって、加熱手段22の噴出口22bから噴出された蒸気は加熱容器21内に拡散可能になっている。
【0018】
上記の加熱部20では、加熱手段22から蒸気を噴出することによって加熱容器21内を加熱し、ガイド手段23によって走行する中空糸膜Aを気相中で加熱できるようになっている。また、保護カバー24によって、走行する中空糸膜Aからの落下物が加熱手段22に衝突することを防止できるようになっている。
【0019】
(洗浄部)
本実施形態における洗浄部30は、洗浄液Cが入れられる洗浄槽31と、第1減圧洗浄手段32と、加圧洗浄手段33と、第2減圧洗浄手段34と、ガイドロール35とを備える。第1減圧洗浄手段32と加圧洗浄手段33と第2減圧洗浄手段34は、洗浄槽31内の洗浄液Cに浸漬されている。また、上流側から、第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33、第2減圧洗浄手段34の順に配置されている。
第1減圧洗浄手段32および第2減圧洗浄手段34には真空ポンプ32a、34aが接続されており、真空ポンプ32a、34aによって中空糸膜Aの外側を減圧して、中空糸膜Aの内部の親水性ポリマー水溶液を中空糸膜Aの外側に排出するようになっている。
加圧洗浄手段33には加圧ポンプ33aが接続されており、加圧ポンプ33aによって中空糸膜Aの外側を加圧して、中空糸膜Aの外側から洗浄液Cを中空糸膜Aの内部に圧入するようになっている。
ガイドロール35は、中空糸膜Aが洗浄槽31内を走行すると共に、第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33および第2減圧洗浄手段34の内部を走行するように配置されている。
【0020】
(乾燥部)
乾燥部40は、洗浄部30で洗浄された中空糸膜Aを乾燥するものである。具体的には、熱風乾燥機、真空乾燥機などが挙げられる。
乾燥部40よりも下流側には、中空糸膜Aを巻き取るボビン等の巻き取り手段が設けられていてもよい。
【0021】
(中空糸膜の処理方法)
上記処理装置を用いた中空糸膜の処理方法の一例について説明する。
本処理例は、薬液浸漬工程と加熱工程と洗浄工程と乾燥工程とを有する。
【0022】
[薬液処理工程]
薬液処理工程では、親水性ポリマーが残留する中空糸膜Aを薬液Bに浸漬する。
具体的には、薬液供給管15を介して処理槽11に薬液Bを供給し、薬液排出管16から排出させて、中空糸膜Aの移送方向の下流側から上流側に向かって移動させる。これにより、薬液浸漬工程後の中空糸膜A中の酸化剤濃度を一定化しやすくする。
それと共に、中空糸膜Aを下部ガイドロール12aと上部ガイドロール12bとの間を往復させながら移送させる。これにより、中空糸膜Aを走行させながら、中空糸膜Aの薬液Bへの浸漬と中空糸膜Aの薬液Bからの引き上げとを繰り返して、中空糸膜Aに薬液Bを浸透させる。
【0023】
薬液Bに含まれる酸化剤としては、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過硫酸塩等を挙げられる。これらのなかでも、酸化力が強く分解性能に優れること、取扱性に優れること、安価なこと等の点より、次亜塩素酸塩が好ましい。次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられ、なかでも、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
薬液Bの温度は50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。薬液温度が50℃以下であれば、中空糸膜Aに残留する親水性ポリマーおよび中空糸膜Aから脱落した親水性ポリマーと、薬液Bに含まれる酸化剤との反応を抑制できる。そのため、加熱部20に移送する中空糸膜A中に、活性な酸化剤を充分量保持させることができる。薬液Bは、冷却器14を用いて冷却することができる。
ただし、過度に低温であると、酸化分解は抑制されるものの、温度制御に要するコストが高くなる傾向にある。そのため、薬液Bの温度は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0025】
本例において、中空糸膜は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとこれらを溶解する溶媒とを含む製膜原液を紡糸ノズルから吐出し、凝固液で凝固させ、必要に応じて洗浄して得たものであり、充分に多孔質膜化していてもよいし、多孔質膜化が不充分な前駆体であってもよい。
製膜原液は、紡糸ノズルから送出した中空紐状支持体の周面に吐出してもよい。中空紐状支持体としては、編紐または組紐を使用することができる。編紐または組紐を構成する繊維として、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維等が挙げられる。また、繊維の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸のいずれであってもよい。
【0026】
疎水性ポリマーとしては、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどが挙げられる。また、これらの共重合体であってもよい。疎水性ポリマーを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記疎水性ポリマーのなかでも、次亜塩素酸などの酸化剤に対する耐久性が優れる点から、フッ素系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンやフッ化ビニリデンと他の単量体からなる共重合体が好ましい。
親水性ポリマーは、製膜原液の粘度を中空糸膜の形成に好適な範囲に調整し、製膜状態の安定化を図るために添加されるものであって、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどが好ましく使用される。これらの中でも、中空糸膜の孔径の制御や中空糸膜の強度の点から、ポリビニルピロリドンやポリビニルピロリドンに他の単量体が共重合した共重合体が好ましい。
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルモルホリン−N−オキシドなどが挙げられ、これらを1種以上使用できる。また、溶媒への疎水性ポリマーや親水性ポリマーの溶解性を損なわない範囲で、疎水性ポリマーや親水性ポリマーの貧溶媒を混合して使用してもよい。
【0027】
[加熱工程]
加熱工程では、加熱部20によって、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを気相中で加熱し、親水性ポリマーを酸化分解して低分子量化する。
具体的には、まず、加熱手段22の噴出口22bから、水蒸気等の蒸気を噴出させ、その蒸気によって加熱容器21の内部を加熱する。次いで、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを、上部ガイドロール23aと下部ガイドロール23bとに交互に巻き掛けて移送することによって、鉛直方向に往復させながら移送する。これにより、加熱した加熱容器21の内部に、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを走行させて加熱する。
【0028】
加熱容器21内部の相対湿度は、酸化剤の乾燥を防いで親水性ポリマーの酸化分解を促進できることから、80%以上が好ましく、90%以上とすることがより好ましく、100%近傍とするのが最も好ましい。
加熱温度の下限は、加熱処理時間を短くできることから50℃とすることが好ましく、80℃とすることがより好ましい。加熱温度の上限は、大気圧状態では100℃とすることが好ましい。ここで、加熱温度とは、加熱容器21内の温度のことである。
【0029】
上記のように、気相中で中空糸膜Aを加熱する本実施形態の加熱工程では、加熱した加熱容器21の内部に、薬液Bが浸透した中空糸膜Aを走行させることにより、中空糸膜Aに残留する親水性ポリマーを薬液B中の酸化剤によって酸化分解する。また、上記加熱工程では、中空糸膜A中に浸透した薬液Bが希釈されにくく、また、薬液Bが加熱媒体中に流出しにくいため、薬液B中の酸化剤を中空糸膜A中に残存する親水性ポリマーの分解に効率的に使用できる。
【0030】
[洗浄工程]
洗浄工程では、中空糸膜Aを、第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33および第2減圧洗浄手段34を通過させながら洗浄して親水性ポリマーを除去する。
具体的には、ガイドロール35によって、中空糸膜Aを、洗浄槽31内の第1減圧洗浄手段32、加圧洗浄手段33および第2減圧洗浄手段34の内部を走行させる。
第1減圧洗浄手段32では、真空ポンプ32aによって中空糸膜Aの外側を減圧することにより、中空糸膜Aの内部の親水性ポリマー水溶液を中空糸膜Aの外側に排出させる。
加圧洗浄手段33では、加圧ポンプ33aによって中空糸膜Aの外側を加圧することによって、中空糸膜Aの外側から洗浄液Cを中空糸膜Aの内部に圧入し、洗浄液Cで親水性ポリマーを置換、希釈する。
第2減圧洗浄手段34では、真空ポンプ34aによって中空糸膜Aの外側を再度減圧して、中空糸膜Aの内部の親水性ポリマー水溶液を中空糸膜Aの外側に排出させる。
これにより、中空糸膜Aから親水性ポリマーを除去する。
【0031】
[乾燥工程]
乾燥工程の方法としては特に制限はなく、熱風乾燥、真空乾燥等を適用することができる。乾燥工程後には、乾燥された中空糸膜Aをボビン等の巻き取り手段に巻取ってもよい。
【0032】
(作用効果)
上記実施形態では、薬液浸漬部10にて、中空糸膜Aに薬液Bを浸透させ、加熱部20にて、薬液Bを浸透させた中空糸膜Aを加熱して、中空糸膜Aに残留する親水性ポリマーを低分子量化させ、洗浄部30にて、中空糸膜Aを洗浄して低分子量化した親水性ポリマーを除去する。
上記加熱部20は、ガイド手段23の上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bが直径80mm以上のフリーロールであるため、上部ガイドロール23aおよび下部ガイドロール23bに巻き掛けられた際に中空糸膜Aに付与される張力を抑制でき、中空糸膜Aの細径化または扁平化を防止できる。
また、加熱部20は、加熱手段22とガイド手段23との間に保護カバー24が設けられており、中空糸膜Aから親水性ポリマー等が落下しても、保護カバー24によって加熱手段22への衝突を回避できる。これにより、落下物が加熱手段22の噴出口22bを閉塞させることを防止できる。
【0033】
(他の実施形態)
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
例えば、薬液浸漬部では、中空糸膜を薬液に繰り返し浸漬させず、1回の浸漬であってもよい。また、薬液を、中空糸膜の移送方向の上流側から下流側に移動させてもよい。
また、加熱部は、保護カバーを備えていなくてもよい。また、加熱手段が、加熱容器の内側の底部以外の部分(例えば、側面部、天井部)に設けられていてもよい。
また、上記実施形態における洗浄部は減圧洗浄手段を加圧洗浄手段の上流側と下流側に備えていたが、上流側または下流側のみであってもよい。また、第2減圧洗浄手段の下流側に加圧洗浄手段と減圧洗浄手段をさらに備えてもよい。また、減圧洗浄手段または加圧洗浄手段のみであっても構わない。
また、本発明の処理装置は、中空糸膜のみならずフィルム膜等の平膜に対しても適用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されない。
【0035】
[実施例1]
以下のようにして多孔質中空糸膜を製造した。
容器に、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、サムソンファインケミカル社製)の112.2Lを投入し、開孔剤である日本触媒社製PVP−K79(ポリビニルピロリドン)の15.6kgを投入し、次いで膜形成性樹脂であるアルケマ社製PVDF301F(ポリフッ化ビニリデン)の29.7kgを投入して混合し、製膜原液を調製し、紡糸ノズルに供給した。
また、補強支持体として編紐(三菱レイヨン製、商品名M1205)を使用し、製膜原液と同時に紡糸ノズルに供給して、該補強支持体の外側に前記製膜原液を塗布するように紡糸し、80℃に保温した凝固液(8%DMAc水溶液)中で製膜原液を凝固させて多孔質中空糸膜を形成した。さらに、洗浄液(90℃の熱水)による洗浄、次亜塩素酸塩に浸漬した後に加熱することによる開孔剤の除去(薬液浸漬工程、加熱工程)、および乾燥を行って多孔質中空糸膜を得た。紡糸ノズルより後段の工程(洗浄工程、薬液浸漬工程、加熱工程、乾燥工程)に使用するガイドロールには、直径80mmのフリーロールを用いた。
実施例1における多孔質中空糸膜の処理では、細径化、偏平化などの異形化が生じず、安定して良好な品質の多孔質中空糸膜が得られた。
【0036】
[比較例1]
紡糸ノズルより後段の工程(洗浄工程、薬液浸漬工程、加熱工程、乾燥工程)に使用するガイドロールを、直径50mmのフリーロールとした以外は実施例1と同様にして多孔質中空糸膜の処理を行った。
比較例1における多孔質中空糸膜の処理では、フリーロールの直径を50mmにしたことにより、工程張力が高くなりすぎて、多孔質中空糸膜の細径化、偏平化などの品質トラブルを引き起こした。
【符号の説明】
【0037】
10 薬液浸漬部
11 処理槽
11a 液面
12 ガイド手段
12a 下部ガイドロール
12b 上部ガイドロール
13 支持部材
14 冷却器
15 薬液供給管
16 薬液排出管
20 加熱部
21 加熱容器
22 加熱手段
22a 配管
22b 噴出口
23 ガイド手段
23a 上部ガイドロール
23b 下部ガイドロール
24 保護カバー
30 洗浄部
31 洗浄槽
32 第1減圧洗浄手段
32a 真空ポンプ
33 加圧洗浄手段
33a 加圧ポンプ
34 第2減圧洗浄手段
34a 真空ポンプ
35 ガイドロール
A 中空糸膜
B 薬液
C 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜または多孔質膜前駆体の薬液処理工程に用いられる多孔質膜の処理装置であって、
薬液に多孔質膜または多孔質膜前駆体を浸漬する薬液浸漬部と、薬液に浸漬された後の前記多孔質膜または多孔質膜前駆体を加熱する加熱部とを有し、
前記加熱部は、加熱容器と、加熱容器の内部を加熱する加熱手段と、加熱容器の内部に前記多孔質膜または多孔質膜前駆体を走行させるガイド手段とを備え、
前記ガイド手段は、直径80mm以上のフリーロールからなるガイドロールにより構成される多孔質膜処理装置。
【請求項2】
ガイドロールに取り付けられる軸受けが、ポリエーテルエーテルケトン製の外輪及び内輪と、フッ素樹脂製またはフッ素樹脂を表面被覆したリテーナーを有する回転軸受けとを備える、請求項1に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項3】
前記回転軸受けは、シリコンカーバイド系のセラミック製のボールベアリングを有する、請求項2に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項4】
前記加熱容器がチタン製である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。
【請求項5】
前記加熱手段は、加熱容器の底部近傍に設けられた蒸気噴出手段であり、加熱手段と前記ガイド手段との間に、加熱手段を保護する保護カバーが設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質膜処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229380(P2012−229380A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99967(P2011−99967)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】