説明

多孔質膜形成用塗料及び多孔質膜

【課題】DPF等の排ガス浄化フィルタの隔壁の表面に、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも粒子状物質の高い捕集効率が得られ、しかも圧力損失も低い多孔質膜を形成することが可能な多孔質膜形成用塗料を提供する。
【解決手段】排ガス浄化フィルタの多孔質支持体11の表面に、この多孔質支持体11の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜13を形成するための塗料であり、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と分散媒とを含有しており、この微粒子は、平均一次粒子径が5nm以上かつ300nm以下、タップかさ密度が0.5g/cm以上かつ2.0g/cm以下、塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、この塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜形成用塗料及び多孔質膜に関し、更に詳しくは、自動車のディーゼルエンジン等から排出される排ガスから粒子状物質を除去するための排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に、酸化触媒特性を有する多孔質膜を形成する際に用いて好適な多孔質膜形成用塗料、及び、この多孔質膜形成用塗料を塗布、熱処理して得られた多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれる様々な物質は、大気汚染の原因となり、これまでに様々な環境問題を引き起こしている。特に、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)は、喘息や花粉症等のアレルギー性疾患を引き起こす要因とも言われている。
一般に、自動車用ディーゼルエンジンでは、粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルタとして、セラミックス製の目封じタイプのハニカム構造体を有するDPF(Diesel Particulate Filter)が使用されている(例えば特許文献1、2)。
この目封じタイプのハニカム構造体とは、セラミックス製のハニカム構造体のセル(ガス流路)の両端を市松模様に目封じしたものであり、このハニカム構造体の一方の端面からセルに取り入れられた粒子状物質を含む排ガスは、セル間の隔壁中の細孔を通過する際に粒子状物質が捕集されて浄化ガスとなり、この浄化ガスがハニカム構造体の他方の端面から排出される。
【0003】
このDPFでは、特にサブミクロン径の粒子状物質の捕集特性を向上させることが要求されているが、従来のDPFでは、その隔壁の平均気孔径が5〜50μm程度であるから、隔壁に粒子状物質が堆積していない状態でのDPFにおける捕集効率(粒子状物質の重量基準)は90%に達しておらず、隔壁の排ガス流入面に粒子状物質が堆積するにつれて、この隔壁の排ガス流入面に粒子状物質の層が形成され、この粒子状物質の層に新しい粒子状物質が捕集されることでDPFにおける捕集効率が向上し、100%に近付いていく。このように、従来のDPFでは、粒子状物質の層が形成した後の捕集効率は高いものの、粒子状物質の堆積量が少ない状態での捕集効率は必ずしも満足できるものではないことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
ここで、粒子状物質の堆積量が少ない状態で捕集効率を高めるためには、DPFにおける隔壁の細孔径を小さくするのが有効であることが知られている。しかしながら、細孔径を小さくすると、DPF中のガス透過性が低下するために圧力損失が上昇してしまい、十分な排ガス流量を得ることができない。
このように、従来の技術では、粒子状物質の堆積量が少ない状態での高い捕集効率と低い圧力損失を両立することができず、この両方の性能を満たす材料が求められている。
【0005】
また、自動車の走行時には、常にエンジンから粒子状物質が排出されるために、DPFのハニカム構造体のセル中に粒子状物質が徐々に蓄積される。この蓄積が進行して粒子状物質の堆積量が過大になると、いわゆる「目詰まり」の状態となり、DPFにおける圧力損失が上昇することとなり、この粒子状物質を何らかの方法で定期的に除去し、DPFの圧力損失を低減させる必要がある。
そこで、従来では、粒子状物質が所定量堆積した時点で排ガス温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させる再生と称される操作を行い、DPFの圧力損失を低減させている。
【0006】
しかしながら、この再生方法では、排ガスの温度を上昇させるために燃料をDPF前段の排ガス中に噴射させる必要があるが、再生に用いられる燃料は自動車の走行には全く寄与しない。そこで、燃料のエネルギーを有効利用するとともに燃料消費率を向上させるためには、再生にかかる時間が短く、再生時に使用する燃料が少なくてすむ、いわゆる再生効率の良い排ガス浄化フィルタが求められていた。
【0007】
DPFにおける再生効率を改善させる方法としては、従来より、酸化触媒である白金や銀等の貴金属微粒子あるいは酸化セリウム等の酸化物微粒子をDPFの隔壁に担持させ、粒子状物質の酸化を促進させる方法が提案されている(例えば特許文献3、4)。この方法では、酸化触媒を担持させることにより、DPF再生時に必要となる温度の低下ないしは再生のための高温保持時間の短縮ができるので、DPF自体の熱劣化も低減することができる。
これらの酸化触媒をDPFの隔壁に担持させる方法としては、酸化触媒微粒子を含むスラリー中にDPFのハニカム構造体自体を含浸させ、このDPFの隔壁に酸化触媒微粒子を付着させる方法(例えば特許文献3、4)、酸化触媒金属化合物を含有する溶液中にDPFのハニカム構造体を含浸した後、このDPFの隔壁に付着した成分を還元して金属微粒子化し、このDPFの隔壁に酸化触媒微粒子を付着させる方法(例えば特許文献4)等が提案されている。
【0008】
次に、使用時の圧力損失が低くかつ微粒子の捕集効率が高いフィルタとしては、大きな気孔径を有する多孔質支持体の表面に、気孔径が多孔質支持体の気孔径よりも小さくかつ厚みが薄い多孔質膜を設けたフィルタが知られている。
このようなフィルタとしては、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に多孔質膜が形成されたセラミックフィルタが知られている。
このセラミックフィルタでは、多孔質膜は、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に、粒子径の小さいセラミックス粒子からなる積層体を形成し、この積層体を熱処理することにより形成される。この多孔質膜の気孔径を捕集する粒子の大きさに合わせて制御する方法としては、積層体を構成しているセラミックス粒子の粒子径を調整する方法が用いられている。
【0009】
ところで、多孔質セラミックスからなる支持体の表面に、この多孔質セラミックスよりも気孔径が小さくかつ厚みが薄い多孔質膜を形成する場合には、多孔質膜を構成するセラミックス粒子の粒子径を多孔質セラミックスの気孔径よりも小さくする必要があった。このため、多孔質膜を形成する際に、この多孔質膜を構成するセラミックス粒子が多孔質セラミックスの気孔内に侵入してしまうという問題点が生じる虞があった。
そこで、このような問題点を解決するための様々な方法が提案されている。
【0010】
例えば、セラミックスからなる多孔質支持体を疎水化処理するとともに、粒子径の小さいセラミックス粒子を含む水系スラリーを用いることにより、この水系スラリーが多孔質支持体の気孔内に入らないようにする方法が提案されている(例えば特許文献5)。この方法では、多孔質支持体の表面に水系スラリーを付着させるために、水系スラリーに疎水化処理剤を除去またはその機能を低下させる物質を添加している。
また、予め、粒子径の小さいセラミックス粒子を多孔質支持体の気孔径と同等もしくはそれ以上の大きさの二次粒子とし、この二次粒子を含むスラリーを用いて多孔質膜を形成する方法が提案されており、二次粒子の製造方法としては、セラミックス粒子を予め仮焼する方法(例えば特許文献6)や、スラリーに凝集剤を加えて、セラミックス粒子を凝集させる方法(例えば特許文献7)が提案されている。
【0011】
さらに、多孔質支持体の気孔に除去可能な物質を充填して、この気孔を塞いだ後、多孔質支持体の表面に粒子径の小さいセラミックス粒子を含むスラリーを塗布する方法が提案されており、気孔を塞ぐ方法としては、除去可能な物質として可燃性物質を用い、この可燃性物質を後の焼成工程により燃焼除去する方法(例えば特許文献8)、除去可能な物質として水やアルコールを用い、塗布後、乾燥することにより、これら水やアルコールを除去する方法(例えば特許文献9、10)、が提案されている。
【特許文献1】特開平5−23512号公報
【特許文献2】特開平9−77573号公報
【特許文献3】特開2005−7259号公報
【特許文献4】特開2001−73748号公報
【特許文献5】特開2000−218114号公報
【特許文献6】特開平11−33322号公報
【特許文献7】特開平11−188217号公報
【特許文献8】特開平1−274815号公報
【特許文献9】特公昭63−66566号公報
【特許文献10】特開2000−288324号公報
【非特許文献1】SAEテクニカルペーパー 980545 米国自動車技術者協会 1998年発行(SAE Technical Paper 980545, Society of Automotive Engineers (1998))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来のDPFでは、隔壁の平均気孔径が5〜50μm程度とミクロン径のオーダーであるために、この平均気孔径より径の小さなサブミクロン径の粒子状物質を捕集することは容易ではないという問題点があった。
サブミクロン径の粒子状物質の捕集特性を向上させるためには、DPFにおける隔壁の平均気孔径を縮小することも一つの方法であるが、隔壁の平均気孔径を縮小すると、サブミクロン径の粒子状物質の捕集特性は向上するものの、DPFとしての通気性が低下し、圧力損失が増加するため、十分な排ガス流量が得られないという不具合が生じることとなる。すなわち、従来のDPFでは、特に粒子状物質の堆積量が少ない状態における高い捕集効率と低い圧力損失(十分な排ガス流量)を両立できておらず、この両方の性能を満たす材料が求められていた。
そこで、DPFにおける隔壁の平均気孔径を5〜50μmのままとし、この隔壁の表面に平均気孔径が数10nm〜5μmの多孔質膜を形成することが考えられている。この多孔質膜を形成する場合、上述した従来技術を適用することが考えられる。
【0013】
しかしながら、このような多孔質膜を有するDPFにおいても、次のような問題点がある。
例えば、平均気孔径が100nmの多孔質膜を形成するためには、多孔質膜を構成する粒子の一次粒子径を40〜60nm程度とする必要があり、この粒子径はDPFの平均気孔径の数100分の1程度の大きさである。このように、多孔質膜を構成する粒子の一次粒子径は、上記の従来技術における多孔質膜の粒子径がサブミクロンからミクロンのオーダーであるのに比べて非常に小さい。
そのため、DPFの隔壁に多孔質膜を形成する際に、従来技術をそのまま適用しても、多孔質膜を構成する粒子の一部が隔壁の気孔内に流入することを避けるのが難しい。
【0014】
さらに、DPFの主要部であるハニカム構造体は、それぞれのセルが、例えば一端が封止された断面1mm角、長さ150mmの細長い筒状をなしており、さらに、これらのセルは、隣接するセルの封止端部の位置が互いに逆方向となるように交互に封止端部が設けられ、重ねられてハニカム状とされた特殊な形状であるのに対し、上述の従来技術における隔壁は、板状または直径がセンチメートルのオーダーの筒状である。したがって、DPFの主要部であるハニカム構造体の隔壁に多孔質膜を形成する際に、上記の従来技術を適用しようとしても、形状が大幅に異なることから適用が難しい。また、従来技術が適用可能であったとしても、工程が複雑になり、用いる材料等も工夫する必要があり、製造コストが高くなる虞がある。
このように、DPFの主要部であるハニカム構造体の隔壁の表面に多孔質膜を形成する技術については、いまだに確立されていないのが現状である。
【0015】
さらに加えて、DPFの隔壁に酸化触媒微粒子を担持させる場合、従来方法では酸化触媒粒子が隔壁の表面だけでなく隔壁の気孔内部にまで入り込むため、酸化触媒微粒子が隔壁の全体に渡って存在することとなる。一方、このDPFを用いて排ガス中の粒子状物質を捕集する場合、粒子状物質はDPFの隔壁の表面に層状に堆積し、気孔内部にはあまり浸入しない。特に粒子状物質がある程度堆積した後は、この傾向が強くなる(非特許文献1参照)。
このように、粒子状物質がDPFの隔壁の排ガス流入側の表面に局在するために、気孔内部に存在する酸化触媒粒子は粒子状物質と接することが無く、粒子状物質の酸化除去にはほとんど寄与しないことになり、無駄である。したがって、酸化触媒粒子を隔壁の表面に選択的に担持させることができれば、担持させた酸化触媒粒子の触媒効果を有効に活用することが可能となるが、その様な方法はまだ提案されていない。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、DPF等の排ガス浄化フィルタの隔壁の表面に、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも粒子状物質の高い捕集効率が得られ、しかも圧力損失も低い多孔質膜を形成することが可能な多孔質膜形成用塗料を提供することを目的とする。
さらに、隔壁における酸化触媒の担持方法を改善することにより、再生処理時に、隔壁の表面に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮し、再生処理時の排ガス温度上昇に必要な燃料の使用を低減し、燃料消費率の低下やフィルタ機能の劣化防止及び酸化触媒の劣化抑制を図ることができるDPF等の排ガス浄化フィルタ用の多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造体の隔壁に、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子を含み、かつ所定の膜厚、平均気孔径及び平均気孔率を有する多孔質膜を設けることにより、粒子状物質の堆積量が少ない状態でも高い捕集効率が得られると同時に圧力損失の上昇を抑制することができ、しかもDPF等の再生時においては、従来のDPF等に比べて隔壁に堆積する粒子状物質の燃焼時間を短縮することができることを見出した。
そして、DPF等の排ガス浄化フィルタを構成するハニカム構造体の隔壁に多孔質膜を形成する場合に、平均一次粒子径、タップかさ密度及び塗料中の平均二次粒子径が制御されたセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と、分散媒とを含有し、その粘度が2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下に制御された多孔質膜形成用塗料を用いれば、隔壁である多孔質支持体の表面にセリウムを含有する酸化物微粒子を成分とする多孔質膜を形成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の多孔質膜形成用塗料は、排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であって、前記塗料は、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と分散媒とを含有しており、前記微粒子は、平均一次粒子径が5nm以上かつ300nm以下、タップかさ密度が0.5g/cm以上かつ2.0g/cm以下、前記塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、前記塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下であることを特徴とする。
【0019】
前記セリウムを含有する酸化物は、酸化セリウム単体、または、ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物、または、ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物と酸化セリウム単体との混合物であることが好ましい。
【0020】
本発明の多孔質膜は、本発明の多孔質膜形成用塗料を塗布して得られた塗膜を熱処理してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔質膜形成用塗料によれば、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と分散媒とを含有し、この微粒子の平均一次粒子径を5nm以上かつ300nm以下、タップかさ密度を0.5g/cm以上かつ2.0g/cm以下、塗料中の平均二次粒子径を0.1μm以上かつ10μm以下に制御し、さらに、塗料の粘度を2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下に制御したので、排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した際に、微粒子が多孔質支持体の気孔内に侵入するのを抑制することができる。したがって、排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に、セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子を含み、この多孔質支持体の平均気孔径より小さな平均気孔径を有し、しかも均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
また、この多孔質膜形成用塗料を多孔質支持体の表面に塗布するだけで塗膜を形成することができるので、いかなる形状の多孔質支持体であっても、多孔質支持体の形状等の制約を受けることなく、その表面に均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
【0022】
本発明の多孔質膜によれば、本発明の多孔質膜形成用塗料を塗布して得られた塗膜を熱処理したので、排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の平均気孔径より小さな微小径の気孔を有し、微小径の微細粒子の捕集特性が向上した多孔質膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の多孔質膜形成用塗料及び多孔質膜を実施するための最良の形態について説明する。なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
初めに、本発明の内容をより理解し易くするために、本発明の多孔質膜形成用塗料を用いることで形成が可能となる排ガス浄化フィルタについて説明する。
【0024】
「排ガス浄化フィルタ」
図1は、本発明の一実施形態の多孔質膜形成用塗料が適用可能な自動車用ディーゼルエンジンに用いられる排ガス浄化フィルタであるDPFを示す一部破断斜視図、図2は同DPFの隔壁構造を示す断面図であり、図1において符号βで示す面を拡大した図である。
【0025】
このDPF10は、多数の細孔(気孔)を有する円柱状の多孔質セラミックスからなるフィルタ基体(多孔質支持体)11と、このフィルタ基体11内に形成されたガス流路12と、このガス流路12のうち排ガスの上流側の端部が開放された流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13とにより概略構成されている。
【0026】
フィルタ基体11は、炭化ケイ素、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素等の耐熱性の多孔質セラミックスからなるハニカム構造体であり、排ガスGの流れ方向である軸方向に沿い、平均気孔径が5μm以上かつ50μm以下の多孔質セラミックスからなる隔壁14によりハニカム構造とされ、この隔壁14により囲まれた軸方向の中空の領域が多数のセル状のガス流路12とされている。
このフィルタ基体11の軸方向の両端面のうち一方の端面αが、粒子状物質を含む排ガスGが流入する流入面とされ、他方の端面γが、上記の排ガスGから粒子状物質を取り除いた浄化ガスCを排出する排出面とされている。
【0027】
ガス流路12は、排ガスGの流れ方向(長手方向)から見た場合に、上流側端部と下流側端部とが交互に閉塞された構造、すなわち、排ガスGの流入側である上流側端部が開放された流入セル12Aと、浄化ガスCを排出する側である下流側端部が開放された流出セル12Bとにより構成されている。
【0028】
多孔質膜13は、流入セル12Aの内壁面(隔壁14の流入セル12A側の表面)12aに、本発明の多孔質膜形成用塗料を塗布し、その後熱処理して得られた、セリウムを含有する酸化物を成分とする膜であり、その平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上かつ3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上かつ2μm以下である。また、平均気孔率は35%以上かつ90%以下、平均膜厚は40μm以下である。また、この多孔質膜13を構成する粒子の一次粒子径は5nm以上かつ300nm以下である。
【0029】
なお、この多孔質膜13は、流入セル12Aの内壁面だけでなく、流出セル12Bの内壁面(隔壁14の流出セル12B側表面)にも設けられていてかまわない。ただし、以下の記載では、流入セル12Aの内壁面に設けられたものとして説明する。
【0030】
この多孔質膜13は、フィルタ基体11の隔壁14を構成する多孔質セラミックスの細孔内に実質的に入り込むことなく、流入セル12Aの内壁面12a上にて独立した膜となっている。すなわち、多孔質膜13を形成する酸化物微粒子は、隔壁14の内部への侵入が抑制された状態で流入セル12Aの内壁面12aに形成され、隔壁14に形成されている気孔を塞ぐことはない。
この多孔質膜13は、多数の気孔を有することにより、これらの気孔が連通し、結果として、貫通孔を有するフィルタ状の多孔質となっている。
【0031】
このDPF10では、その流入口側、すなわち端面α側から流入した粒子状物質(PM)30を含む排ガスGは、流入セル12Aを、端面α側から端面γ側へと流れる過程で、フィルタ基体11の隔壁14を通過する。この際、排ガスG中に含まれる粒子状物質30は隔壁14、特に隔壁14の流入セル12A側の内壁面12aに形成された多孔質膜13により捕集されて除去され、この粒子状物質30が除去された浄化ガスCは、流出セル12Bを端面α側から端面γ側へと流れ、最終的に排出口側、すなわち端面γ側から排出される。
【0032】
このDPF10では、多孔質膜13の平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下であり、隔壁14の気孔径、すなわち従来のDPFの平均気孔径である5〜50μm程度より小さい。これにより、粒子状物質30は、隔壁14にほとんど入り込むことなく、その堆積量が少ない段階から多孔質膜13により捕集され、高い捕集効率を得ることができる。
【0033】
この多孔質膜13の平均膜厚は40μm以下であり、フィルタ基体の一般的な厚みである200〜400μmよりも薄い。また、この多孔質膜13の平均気孔率は35〜90%であり、多くの細孔を有している。さらに、多孔質膜13の支持体である隔壁14の平均細孔径は5〜50μmと、多孔質膜13の平均細孔径と比べて十分に大きい。以上の点により、このDPF10は、圧力損失が低く、十分な排ガス流を得ることができる。
【0034】
さらに、多孔質膜13を設けることにより、粒子状物質30が堆積していく際に隔壁14の細孔内に粒子状物質30が入り込み難い。このため、多孔質膜が付与されていない場合に比べて、粒子状物質30が隔壁14の細孔を閉塞し難くなり、粒子状物質30が堆積した後の圧力損失上昇を抑えることができる。
【0035】
また、多孔質膜13の存在により、フィルタの再生時に、粒子状物質を燃焼させるための酸素が粒子状物質層中に均等に流通するようになり、酸素が供給され難い粒子状物質が減るため、粒子状物質の酸化が均等に進み、結果として粒子状物質の燃焼時間を短縮することができる。
【0036】
ここで、多孔質膜13がセリウムを含有する酸化物を成分としている点について説明する。
多孔質膜13の成分である酸化セリウムは、酸化触媒特性、すなわち粒子状物質30の燃焼触媒作用を有している。この酸化セリウムによる粒子状物質30の燃焼触媒作用については、酸化セリウムから放出される活性酸素が粒子状物質30の燃焼に寄与していることが知られており、一方で、この活性酸素は寿命が短いことが知られている。
【0037】
セリウムを含有する酸化物微粒子は、多孔質膜13の形状にて隔壁14の表面に存在しており、一方、粒子状物質30は主に多孔質膜13により捕集される。したがって、セリウムを含有する酸化物微粒子と、捕集された粒子状物質30とは近接した状態となり、セリウムを含有する酸化物微粒子から発生する活性酸素が失活する前に粒子状物質30と反応することとなり、セリウムを含有する酸化物微粒子の触媒活性をより有効に引き出すことができる。
【0038】
さらに、多孔質膜13はフィルタ基体11を構成する多孔質セラミックスの細孔内に実質的に入り込んでいないので、そのほとんど全てが粒子状物質30の酸化除去に寄与することができる。したがって、従来技術のように、セリウムを含有する酸化物微粒子がフィルタの気孔内部に入り込み、その結果として粒子状物質30の酸化除去にはほとんど寄与しなくなる(無駄となる)ということがない。以上により、セリウムを含有する酸化物を無駄なく有効に利用して、十分な酸化触媒効果を得ることができる。
【0039】
このように、本発明の多孔質膜形成用塗料を用いて形成された多孔質膜を有する排ガス浄化フィルタでは、セリウムを含有する酸化物を成分とする多孔質膜13の平均気孔径を0.05μm以上かつ5μm以下とすることができる。これにより、多孔質膜の構造の利点である粒子状物質30の捕集効率の向上、圧力損失の低減、排ガス浄化フィルタ再生時における燃焼時間の短縮を図ることができる。
また、セリウムを含有する酸化物微粒子の粒子状物質30の燃焼触媒作用により、再生時の粒子状物質30の燃焼を促進させる効果がある。
【0040】
さらには、セリウムを含有する酸化物微粒子の担持方法を改善することにより、担持した酸化触媒の触媒効果を有効に作用させることができるので、粒子状物質30の燃焼触媒効果の向上による再生処理時の燃焼時間のさらなる短縮、燃焼温度の低下をも図ることができる。
そして、これらの各効果を総合することにより、粒子状物質の捕集特性に優れるほか、再生処理時間のさらなる短縮により、再生処理時に必要な燃料の使用量をより低減させることができ、排ガス浄化フィルタ自体や酸化触媒の劣化をより抑制することができる。
【0041】
「多孔質膜形成用塗料」
本実施形態の多孔質膜形成用塗料は、上述したDPF等の排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であり、この塗料は、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と分散媒とを含有しており、この微粒子は、平均一次粒子径が5nm以上かつ300nm以下、タップかさ密度が0.5g/cm以上かつ2.0g/cm以下、この塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、この塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下である。
【0042】
上記の微粒子は、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子であり、下記の(a)〜(c)のいずれかが好ましい。
(a)酸化セリウム単体
(b)ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物
(c)ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物と酸化セリウム単体との混合物
ここで、微粒子の成分を酸化物とした理由は、この多孔質膜形成用塗料により得られた多孔質膜の耐熱性を十分に確保することができるからである。例えば、DPF等のセラミックフィルタの場合、排ガスの温度が1000℃程度にまで上昇することがあるので、多孔質膜の材料に対しても1000℃程度までの耐熱性が必要になる。
【0043】
ここで、微粒子の成分をセリウムを含有する酸化物とした理由は、酸化セリウムが酸化触媒特性を有しているからである。
ディーゼル車の排ガス浄化に用いられるDPFを再生する場合、DPFの温度を上昇させて、堆積した粒子状物質を燃焼除去させる操作を行うのが一般的である。本発明のセリウムを含有する酸化物微粒子は、酸化セリウムを成分として含んでいることから、酸化触媒特性、すなわち粒子状物質の燃焼触媒作用を有している。したがって、DPFの多孔質膜をセリウムを含有する酸化物で形成することにより、再生時における粒子状物質の燃焼除去を促進させることができ、その結果、再生時に排ガス温度を上昇させて粒子状物質を燃焼させるために必要とする燃料を低減することができ、さらに再生に要する時間を短縮したり、再生時の温度を下げることにより、DPFや酸化触媒としてのセリウムを含有する酸化物の劣化を抑制することができる。
【0044】
次に、「タップかさ密度」について説明する。なお、この「タップかさ密度」とは、日本工業規格JIS R 1628−1997「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に規定されている「タップかさ密度」のことであり、上記の規格には、タップかさ密度の測定方法についても規定されている。
この微粒子のタップかさ密度が真密度(真比重)より小さくなる原因は、微粒子間に空隙が生じるからである。すなわち、タップかさ密度(ρt)と真密度(ρr)との比(ρt/ρr)は、空隙率、すなわち気孔率を示すことになる。
【0045】
ここで、タップかさ密度を決定付ける主要因は、微粒子の一次粒子径と粒子形状である。粒子形状に差異が無い場合には、微粒子の平均一次粒子径が小さいほどタップかさ密度は小さくなり、得られる多孔質膜の気孔率は増大するが、気孔径は小さくなる。また、微粒子の一次粒子径が等しい場合には、微粒子の形状異方性が高いほどタップかさ密度は小さくなり、得られる多孔質膜の気孔率が増大し気孔径も大きくなる。
【0046】
したがって、本実施形態の多孔質膜形成用塗料に含まれる微粒子の一次粒子径とタップかさ密度を規定することにより、本実施形態の塗料を用いて形成される多孔質膜の気孔径と気孔率を制御することが可能となる。
【0047】
以上の点を考慮すると、このセリウムを含有する酸化物微粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ300nm以下が好ましく、より好ましくは5nm以上かつ200nm以下、さらに好ましくは10nm以上かつ100nm以下である。
また、この微粒子のタップかさ密度は、0.5g/cm以上かつ2.0g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.7g/cm以上かつ1.6g/cm以下、さらに好ましくは0.8g/cm以上かつ1.4g/cm以下である。
【0048】
これは、セリウムを含有する酸化物微粒子の平均一次粒子径とタップかさ密度を上記の範囲に限定すれば、本発明の目的とする平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下、平均気孔率が35%以上かつ90%以下の多孔質膜を形成することができることを示している。
そして、上記の範囲内で平均一次粒子径とタップかさ密度が異なる複数種の微粒子を混合して用いることにより、多孔質膜の気孔径を所望の値に制御することができる。
【0049】
さらに、セリウムを含有する酸化物微粒子の平均一次粒子径とタップかさ密度を上記の範囲に限定した理由は、平均一次粒子径が5nmを下回るか、またはタップかさ密度が0.5g/cmを下回ると、本塗料を用いて形成した多孔質膜の平均気孔径が微粒子の形状に因らず小さくなり、多孔質膜により生じる圧力損失が大きくなるので好ましくないからである。また、平均一次粒子径が5nmを下回る微粒子の製造は、コスト高となり、生産性の観点からも好ましくない。
【0050】
また、平均一次粒子径が300nmを超えるか、またはタップかさ密度が2.0g/cmを超えると、セリウムを含有する酸化物微粒子の粒子径が過大となるために、平均気孔径が5μm以下の多孔質膜を得ることができる安定性が良好な塗料を得るのが難しくなるので、好ましくない。
【0051】
このようなセリウムを含有する酸化物微粒子を分散媒中に分散させて、多孔質膜形成用塗料とする。
この分散工程は、湿式法によることが好ましい。また、この湿式法で用いられる分散機としては、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミル、ジェットミル、振動ミル、アトライター、高速ミル、ハンマーミル等が好適に用いられる。
上記のボールミルとしては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられ、また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミル等が挙げられる。
【0052】
この分散媒としては、水または有機溶媒が好適に用いられ、その他、必要に応じて、高分子モノマーやオリゴマーの単体もしくはこれらの混合物も用いられる。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1種のみ、または2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
上記の高分子モノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系またはメタクリル系のモノマー、エポキシ系モノマー等が好適に用いられる。また、上記のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に用いられる。
これらの分散媒のうち、塗料用として好ましいものは、水、アルコール類、ケトン類であり、これらの中でも、水、アルコール類がより好ましく、水が最も好ましい。
【0054】
この塗料では、セリウムを含有する酸化物微粒子と分散媒との親和性を高めるために、このセリウムを含有する酸化物微粒子の表面改質を行っても良い。表面改質剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、システアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アミノエタンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、酸化物微粒子の表面に吸着する官能基を有し、かつ分散媒と親和性を有する末端基を有する表面改質剤であれば良い。
【0055】
この塗料中の微粒子の平均二次粒子径は、0.1μm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上かつ6μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上かつ5μm以下である。
ここで、塗料中の微粒子の平均二次粒子径を上記の範囲に限定した理由は、塗料中の微粒子の平均二次粒子径が0.1μmを下回ると、この塗料を5μm以上かつ50μm以下の平均気孔径を有する排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した場合に、この塗料が多孔質支持体の内部に浸入し易くなり、多孔質支持体の表面に多孔質膜を形成することが難くなるので好ましくないからである。また、微粒子の平均二次粒子径が10μmを超えると、塗料の分散安定性を確保するのが困難になったり、均質な多孔質膜を得難くなるので好ましくないからである。
【0056】
この塗料の粘度は、2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは2mPa・s以上かつ500mPa・s以下、さらに好ましくは2mPa・s以上かつ300mPa・s以下である。
ここで、塗料の粘度を上記の範囲に限定した理由は、粘度が2mPa・sを下回ると、この塗料を、5μm以上かつ50μm以下の平均気孔径を有する排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に塗布した場合に、この塗料が多孔質支持体の気孔内に浸入し易くなり、多孔質支持体の表面に多孔質膜を形成することが難くなるので好ましくないからである。また、粘度が1000mPa・sを超えると、排ガス浄化フィルタのセルの内部に塗料を十分に浸透させることができなくなったり、排ガス浄化フィルタのセル中の余分な塗料を除去するのが困難になる等のため、所望の多孔質膜が形成されなかったり、均一な厚みの多孔質膜が形成し難くなったりするので好ましくないからである。
【0057】
この塗料中のセリウムを含有する酸化物微粒子の含有率は、塗料の粘度、塗料中の微粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように適宜選択することができるが、好ましくは2質量%以上かつ60質量以下、より好ましくは3質量%以上かつ50質量以下、さらに好ましくは5質量%以上かつ40質量以下である。
ここで、塗料中の微粒子の含有率が2質量%を下回ると、塗料の粘度が2mPa・sを下回り易くなったり、所望の膜厚を得るために塗工回数を増やす必要が生じる等により、生産性が劣る虞があるので好ましくない。また、微粒子の含有率が60質量%を超えると、塗料の分散安定性を確保するのが困難になったり、均一な多孔質膜を得難くなるので好ましくない。
【0058】
この塗料は、セリウムを含有する酸化物微粒子と、DPF等の排ガス浄化フィルタの隔壁等の多孔質支持体との間にバインダー機能を持たせる等のために、親水性あるいは疎水性の高分子等を適宜含有してもよい。この高分子等は、上記の分散媒に溶解し、かつ塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができる。
【0059】
ここで、水を分散媒とした場合、親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸ポリビニルビロリドン、ポリアリルアミン等の合成高分子;セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン、キトサン、ペクチン、アガロース、カラギーナン、キチン、マンナン等の多糖類及び多糖類由来の物質等の天然高分子;ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン等のタンパク質及びタンパク質由来の物質;等を用いることができる。
また、これら合成高分子、多糖類、タンパク質等を由来とするゲル、ゾル等の物質を用いることもできる。
【0060】
なお、この塗料における上記の微粒子の質量に対する上記の高分子の質量の比(高分子の質量/微粒子の質量)は、塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の値になる範囲で適宜選択することができるが、0以上かつ1以下の範囲が好ましい。
上記の高分子は、最終的に熱処理によって揮散、分解ないしは焼失し、多孔質膜には残存しない成分であるから、上記の比が1を超えると、高分子の含有率が高すぎてしまい、コストの上昇を招くことになるので好ましくない。
【0061】
この塗料の分散安定性を確保したり、あるいは塗布性を向上させたりするために、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜添加してもよい。これらは、塗料中の微粒子の平均二次粒子径及び塗料の粘度が所望の範囲になるように適宜選択することができる。
これら界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等の添加量に特に制限はなく、塗料の粘度及び塗料中の微粒子の平均二次粒子径が本発明の範囲内となるように、添加する目的に応じて加えればよい。
【0062】
この多孔質膜形成用塗料によれば、本発明の目的とする排ガス浄化フィルタに好適に用いられる、セリウムを含有する酸化物微粒子を成分とし、平均気孔径が0.05μm以上かつ5μm以下、平均気孔率が35%以上かつ90%以下であり、均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
この多孔質膜形成用塗料は、塗布するだけで塗膜を形成することができるので、対象物の形状等の制約を受けることなく、その表面に均質性に優れた多孔質膜を容易に形成することができる。
【0063】
「多孔質膜」
本実施形態の多孔質膜は、上記の多孔質膜形成用塗料を多孔質支持体の表面に塗布し、得られた塗膜を熱処理することにより、得ることができる。
この多孔質膜の平均気孔径は0.05μm以上かつ5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上かつ3μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上かつ2μm以下である。また、平均気孔率は35%以上かつ90%以下であることが好ましい。
塗布方法については、多孔質支持体の形状や材質に合わせて適宜選択すればよく、特に制限はないが、ウォッシュコート、ディップコート等、通常のウエットコート法を用いることができる。また、塗布した後に圧縮空気等を用いて塗膜の膜厚以上の余分な塗布液を除去し、塗膜の膜厚を調整してもよい。
【0064】
この塗膜には、分散剤の他、必要に応じて上記の高分子、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等が添加されているので、これらを除去し、かつ塗膜に微細孔構造を形成する等のために熱処理を行う。
熱処理温度は、200℃以上かつ2000℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以上かつ1500℃以下である。
また、熱処理時間は、0.25時間以上かつ10時間以下が好ましく、より好ましくは0.5時間以上かつ5時間以下である。
この熱処理の際の雰囲気は、特に限定されず、大気等の酸化性雰囲気、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等の不活性雰囲気、水素、一酸化炭素等の還元性雰囲気、のいずれかの雰囲気中にて行うことができる。
【0065】
そして、本実施形態の多孔質膜を、平均気孔径が5μm以上かつ50μm以下の多孔質セラミックスからなる多孔質支持体の表面に形成することにより、上述した排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0066】
また、本実施形態の多孔質膜形成用塗料は、粘度が2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下、含まれる微粒子の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であるから、この多孔質膜形成用塗料を多孔質支持体の表面に直接塗布した場合においても、塗料が支持体の気孔内に実質的に浸入することなく、多孔質支持体の表面に均質な塗布膜を形成することができる。
したがって、本実施形態の多孔質膜形成用塗料を用いて多孔質支持体の表面に直接塗布膜を形成し、この塗布膜を熱処理することにより、上述した排ガス浄化フィルタを得ることができる。この排ガス浄化フィルタは、既に述べたように、従来の排ガス浄化フルタと比べて粒子状物質の捕集特性に優れ、再生時の特性に優れる等、非常に優れた特性を有するものである。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
「実施例1」
(塗料の作製)
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径5nm、タップかさ密度0.5g/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子を用いた。
このCeO微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCeO分散液Aを得た。
このCeO分散液A167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した実施例1の塗料Aを得た。
【0069】
(多孔質膜の作製)
この塗料Aを用いて多孔質膜を形成した。多孔質膜を形成する多孔質支持体としては、排ガス浄化フィルタとして用いられるSiC製のハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を用いた。このハニカム構造体では、その隔壁が多孔質支持体となっている。このハニカム構造体は、予め純水に浸漬して気孔内に水を充填保持させておいた。
次いで、このハニカム構造体を塗料Aに浸漬させた後に引き上げるディップコートを3回繰り返し行った。次いで、このディップコートを行ったハニカム構造体を150℃にて1時間乾燥し、さらに大気中500℃にて2時間熱処理し、ハニカム構造体の隔壁表面にCeO微粒子からなる多孔質膜を形成した。
【0070】
(塗料の評価)
この塗料Aの25℃における粘度を、B型粘度計(東機産業社製)を用いて測定した。
また、この塗料A中のCeO微粒子の平均二次粒子径を、測定装置HPPS(Malvern Instruments社製)を用いて、動的光散乱法により測定した。
【0071】
(多孔質膜の評価)
上記の多孔質膜付きハニカム構造体を、ハニカム構造体の隔壁毎小さく破断し、多孔質膜の表面及び多孔質膜が形成された隔壁の断面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス社製)を用いて観察した。その結果、隔壁の表面には、CeO微粒子からなる多孔質膜が約15μmの厚みで形成されており、また、多孔質膜の主成分であるCeO微粒子は、隔壁の気孔内部にはほとんど存在していなかった。
【0072】
この多孔質膜の平均気孔径及び平均気孔率を、水銀ポロシメーター AutoPoreIV 9505(島津製作所社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。なお、この測定結果は、多孔質膜と隔壁(多孔質支持体)を合わせたものとなるので、多孔質膜が形成されていないSiC製のハニカム構造体(DPF、平均気孔径:10μm、平均気孔率:42%)を対照として同様に測定し、両者の結果から多孔質膜の平均気孔径及び平均気孔率を算出した。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0073】
「実施例2」
(塗料の作製)
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径20nm、タップかさ密度1.1g/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子を用いた。
このCeO微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCeO分散液Bを得た。
このCeO分散液B167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した実施例2の塗料Bを得た。
【0074】
この塗料Bについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
得られた多孔質膜の多孔質支持体を含む断面の電界放射型走査電子顕微鏡像を図3に示す。
この図3によれば、多孔質支持体の表面に、CeO微粒子により構成され、多孔質支持体に比べて微小な気孔を有する多孔質膜が形成しており、さらにCeO微粒子は実質的に多孔質支持体の気孔内に浸入していないことが分かる。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0075】
「実施例3」
実施例2で作製したCeO分散液B167g、メチルセルロースB(25℃における2%水溶液の粘度が20mPa・s)を15質量%含む水溶液18g、水65gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCeO微粒子が分散した実施例3の塗料Cを得た。
この塗料Cについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0076】
「実施例4」
実施例2で作製したCeO分散液B167g、メチルセルロースB(25℃における2%水溶液の粘度が20mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCeO微粒子が分散した実施例4の塗料Dを得た。
この塗料Dについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0077】
「実施例5」
実施例2で作製したCeO分散液B167g、メチルセルロースC(25℃における2%水溶液の粘度が100mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCeO微粒子が分散した実施例5の塗料Eを得た。
この塗料Eについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0078】
「実施例6」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径50nm、タップかさ密度1.3/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子を用いた。
このCeO微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCeO分散液Cを得た。
このCeO分散液C167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した実施例5の塗料Fを得た。
【0079】
この塗料Fについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0080】
「実施例7」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径300nm、タップかさ密度2.0/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子を用いた。
このCeO微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCeO分散液Dを得た。
このCeO分散液D167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した実施例7の塗料Gを得た。
【0081】
この塗料Gについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0082】
「実施例8」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径20nm、タップかさ密度1.1/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子18gと、平均一次粒子径300nm、タップかさ密度2.0/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子72gとの混合微粒子を用いた。
この混合微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCeO分散液Eを得た。
このCeO分散液E167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した実施例8の塗料Hを得た。
【0083】
この塗料Hを用いて、熱処理温度を1200℃としたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を形成した。
この塗料H及び得られた多孔質膜について、実施例1と同様にして評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0084】
「実施例9」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、セリウムとジルコニウムの組成比が1:1の複合酸化物(Ce0.5Zr0.5)微粒子を用いた。この複合酸化物微粒子の平均一次粒子径は20nm、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.5Zr0.5と示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとジルコニウムの組成比が1:1の酸化物ということであって、セリウムとジルコニウムが1:1の組成比で完全に固溶した複合酸化物であるCeZrOだけではなく、セリウムとジルコニウムの組成比が異なる複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれている。
【0085】
この複合酸化物微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCe0.5Zr0.5分散液Fを得た。
このCe0.5Zr0.5分散液F167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.5Zr0.5微粒子が分散した実施例9の塗料Iを得た。
【0086】
この塗料Iについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0087】
「実施例10」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、セリウムとジルコニウムの組成比が7:3の複合酸化物(Ce0.7Zr0.3)微粒子を用いた。この複合酸化物微粒子の平均一次粒子径は20nm、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.7Zr0.3と示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとジルコニウムの組成比が7:3の酸化物ということであって、セリウムとジルコニウムが7:3の組成比で完全に固溶した複合酸化物であるCeZr20だけではなく、セリウムとジルコニウムの組成比が異なる複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれている。
【0088】
この複合酸化物微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCe0.7Zr0.3分散液Gを得た。
このCe0.7Zr0.3分散液G167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.7Zr0.3微粒子が分散した実施例10の塗料Jを得た。
【0089】
この塗料Jについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0090】
「実施例11」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、セリウムとジルコニウムの組成比が2:8の複合酸化物(Ce0.2Zr0.8)微粒子を用いた。この複合酸化物微粒子の平均一次粒子径は20nm、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.2Zr0.8と示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとジルコニウムの組成比が2:8の酸化物ということであって、セリウムとジルコニウムが2:8の組成比で完全に固溶した複合酸化物であるCeZr10だけではなく、セリウムとジルコニウムの組成比が異なる複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれている。
【0091】
この複合酸化物微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCe0.2Zr0.8分散液Hを得た。
このCe0.2Zr0.8分散液H167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.2Zr0.8微粒子が分散した実施例11の塗料Kを得た。
【0092】
この塗料Kについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0093】
「実施例12」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、セリウムとランタンの組成比が9:1の複合酸化物(Ce0.9La0.12−x)微粒子を用いた。この複合酸化物微粒子の平均一次粒子径は20nm、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.9La0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとランタンの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化ランタンが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとランタンの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれている。
この微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCe0.9La0.12−x分散液Iを得た。
【0094】
このCe0.9La0.12−x分散液I167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.9La0.12−x微粒子が分散した実施例10の塗料Lを得た。
この塗料Lについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0095】
「実施例13」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、セリウムとプラセオジムの組成比が9:1の複合酸化物(Ce0.9Pr0.12−x)微粒子を用いた。この複合酸化物微粒子の平均一次粒子径は20nm、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.9Pr0.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとプラセオジムの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化プラセオジムが固溶した複合酸化物だけではなく、セリウムとプラセオジムの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれている。
この微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCe0.9Pr0.12−x分散液Jを得た。
【0096】
このCe0.9Pr0.12−x分散液J167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.9Pr0.12−x微粒子が分散した実施例11の塗料Mを得た。
この塗料Mについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0097】
「実施例14」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、セリウムとイットリウムの組成比が9:1の複合酸化物(Ce0.90.12−x)微粒子を用いた。この複合酸化物微粒子の平均一次粒子径は20nm、タップかさ密度は1.1g/cmであった。
なお、ここでCe0.90.12−xと示すものは、あくまで微粒子全体としてのセリウムとイットリウムの組成比が9:1の酸化物ということであって、酸化セリウム結晶中に酸化イットリウムが固溶した複合酸化物だけでなく、セリウムとイットリウムの組成比が9:1ではない複合酸化物や、酸化セリウム単体が含まれている。
この微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをボールミルで2時間混合し、固形分が30質量%のCe0.90.12−x分散液Kを得た。
【0098】
このCe0.90.12−x分散液K167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCe0.90.12−x微粒子が分散した実施例12の塗料Nを得た。
この塗料Nについて、実施例1と同様にして多孔質膜の形成、塗料の評価、多孔質膜の評価を行った。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0099】
「比較例1」
実施例2で作製したCeO分散液B83g、メチルセルロースD(25℃における2%水溶液の粘度が2mPa・s)を15質量%含む水溶液8g、水159gを、マグネチックスターラーを用いて1時間攪拌・混合し、水中にCeO微粒子が分散した比較例1の塗料Oを得た。
【0100】
この塗料Oについて、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料Oを用いて実施例1と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、熱処理後のハニカム構造体の隔壁を電界放射型走査電子顕微鏡により観察したところ、隔壁の表面に多孔質膜が形成されていなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0101】
「比較例2」
実施例2で作製したCeO分散液B167g、メチルセルロースE(25℃における2%水溶液の粘度が200mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを、手振りにて攪拌・混合し、水中にCeO微粒子が分散した比較例2の塗料Pを得た。
【0102】
この塗料Pについて、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料Pを用いて実施例1と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、ハニカム構造体の内部(DPFのセル内部)に塗料Pが浸透せず、隔壁の表面に多孔質膜を形成することができなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0103】
「比較例3」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径5nm、タップかさ密度0.5g/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子を用いた。
このCeO微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gをジルコニアビーズを用いたサンドグラィンダーで4時間分散処理し、固形分が30質量%のCeO分散液Lを得た。
このCeO分散液L167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した比較例3の塗料Qを得た。
【0104】
この塗料Qについて、実施例1と同様にして塗料の評価を行った。
また、この塗料Qを用いて実施例1と同様にして多孔質膜の作製を行ったが、熱処理後のハニカム構造体の隔壁を電界放射型走査電子顕微鏡により観察したところ、隔壁の気孔中にCeO微粒子が入り込み、この隔壁の表面には多孔質膜が形成されていなかった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0105】
「比較例4」
セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子として、平均一次粒子径1000nm、タップかさ密度2.4g/cmの酸化セリウム(CeO)微粒子を用いた。
このCeO微粒子90g、水201g、ポリカルボン酸系分散剤9gを、ボールミルを用いて2時間混合し、固形分が30質量%のCeO分散液Mを得た。
このCeO分散液M167gに、メチルセルロースA(25℃における2%水溶液の粘度が5mPa・s)を15質量%含む水溶液67g、水16gを加えてマグネチックスターラーを用いて1時間攪拌し、水中にCeO微粒子が分散した比較例4の塗料Rを得た。
【0106】
この塗料Rは、撹拌を停止すると、直ちにCeO微粒子の沈降が始まり、短時間でCeO微粒子の沈殿物と上澄み液との2層に分離してしまった。
これにより、この塗料Rは多孔質膜形成用塗料として適さないことが分かった。
これら塗料及び多孔質膜の作製条件を表1に、得られた塗料及び多孔質膜の評価結果を表2に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
これらの評価結果によれば、実施例1〜14の塗料は、セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と分散媒とを含有しており、微粒子の平均一次粒子径、タップかさ密度および塗料中の平均二次粒子径、ならびに塗料の粘度が適切に制御されていることから、SiC製のハニカム構造体の隔壁(多孔質支持体)表面に、多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成することができた。
【0110】
一方、比較例1では、塗料の粘度が低すぎたために、この塗料が多孔質支持体の気孔内に入り込んでしまい、多孔質膜を形成することができなかった。
比較例2では、塗料の粘度が高過ぎたために、塗料をSiC製のハニカム構造体内に行き渡らせることができず、この隔壁(多孔質支持体)の表面に塗膜を形成することができなかった。
比較例3では、セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子の二次粒子径が小さすぎたために、塗料が隔壁(多孔質支持体)の気孔内に入り込んでしまい、多孔質膜を形成することができなかった。
比較例4では、セリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子の一次粒子径が大きすぎたために、塗料自体を作製することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の一実施形態の多孔質膜形成用塗料が適用可能なDPFを示す一部破断斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の多孔質膜形成用塗料が適用可能なDPFの隔壁構造を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例2の多孔質膜の多孔質支持体を含む断面を示す電界放射型走査電子顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0112】
10 DPF
11 フィルタ基体
12 ガス流路
12A 流入セル
12B 流出セル
13 多孔質膜
14 隔壁
30 粒子状物質
α、γ 端面
G 排ガス
C 浄化ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス浄化フィルタの多孔質支持体の表面に、この多孔質支持体の平均気孔径よりも小さな平均気孔径を有する多孔質膜を形成するための塗料であって、
前記塗料は、少なくともセリウムを含有する酸化物を成分とする微粒子と分散媒とを含有しており、
前記微粒子は、平均一次粒子径が5nm以上かつ300nm以下、タップかさ密度が0.5g/cm以上かつ2.0g/cm以下、前記塗料中の平均二次粒子径が0.1μm以上かつ10μm以下であり、
前記塗料の粘度は2mPa・s以上かつ1000mPa・s以下であることを特徴とする多孔質膜形成用塗料。
【請求項2】
前記セリウムを含有する酸化物は、
酸化セリウム単体、
または、ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物、
または、ジルコニウム、イットリウム、希土類元素の群から選択される1種または2種以上の元素とセリウムとの複合酸化物と酸化セリウム単体との混合物
であることを特徴とする請求項1記載の多孔質膜形成用塗料。
【請求項3】
請求項1または2記載の多孔質膜形成用塗料を塗布して得られた塗膜を熱処理してなることを特徴とする多孔質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−155873(P2010−155873A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333337(P2008−333337)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】