説明

多孔質複合酸化物及びその製造方法

【課題】高温において焼成後も、特に2nm以上のメゾ細孔を十分に有する複合金属酸化物を提供する。
【解決手段】2種以上の金属元素を含む複合酸化物の一次粒子の凝集体である二次粒子の凝集体からなり、前記二次粒子間に細孔径が2〜100nmであるメゾ細孔を有する多孔質複合酸化物において、酸素雰囲気中において600℃で5時間焼成後に、前記メゾ細孔のうち直径10nm以上である二次粒子間の細孔の割合が全メゾ細孔容積の10%以上であるようにされている。この複合酸化物は、大きな二次粒子を形成しないように一次粒子の凝集を抑制することによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物及びその製造方法に関する。詳細には、本発明は、高温において焼成後も十分な大きさの細孔を有する多孔質複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合酸化物は2種以上の金属酸化物が化合物をつくった形の酸化物であり、構造の単位としてオキソ酸のイオンが存在しないものをいう。この複合酸化物の重要な用途の1つは触媒及び触媒担体であり、特に内燃機関の排気ガス浄化用触媒が知られている。
【0003】
例えば、セリウム−ジルコニウム複合酸化物は三元触媒用の担体として用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。三元触媒は、内燃機関の排気ガス中の炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行って浄化するものであり、この三元触媒には酸化雰囲気では酸素を貯蔵し、還元雰囲気では酸素を放出する酸素吸蔵放出能(OSCという)を有するセリウム酸化物が添加されている。ところが、触媒金属とセリウム酸化物を含む三元触媒は、800℃以上の高温下で使用されるとセリウム酸化物の結晶成長によりOSCが低下しやすいため、このセリウム酸化物の結晶成長を抑制して高いOSCを維持するためにセリウム酸化物にジルコニウム酸化物を添加し、セリウム−ジルコニウム複合酸化物を形成している。
【0004】
また、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化鉄、セリア及びマグネシアのうち2種以上からなる複合酸化物をNOx吸蔵還元触媒用の担体として用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−220228号公報(第2〜4頁)
【特許文献2】特開2001−170487号公報(第2〜第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合酸化物粉末の製造方法としては、一般的に、各金属酸化物又は炭酸塩、水酸化物などのその前躯体の粉末を混合して焼成する粉末同時焼成法、複数の金属無機塩の水溶液にアルカリを添加して中和して、酸化物又は水酸化物のコロイド分散液を生成する共沈法、有機溶媒に溶解した複数の金属アルコキシドに水を添加して加水分解するアルコキシド法が知られている。
【0007】
粉末同時焼成法では、粉末を微細化できる限度があり、また粉末から複合酸化物を得るには高温での焼成が必要である。高温焼成では粒成長し、表面積が低下する。実際には高表面積で、かつ原子レベルで完全に均一化された複合酸化物の微粉末を得ることは困難である。共沈法では、水溶液中における複数の無機イオンの中和沈殿反応を利用するものであり、生成するコロイド粒子の粒径は微細であるが、各無機イオンの沈殿反応はpHに依存するので個々のコロイド粒子はそれぞれ単独の金属酸化物又は金属水酸化物の粒子になる傾向があり、やはり原子レベルでは均一に混合された複合酸化物を生成するものではない。これまでのアルコキシド法は、有機溶媒中における複数の金属アルコキシドの加水分解を利用するものであるが、金属アルコキシドの種類により安定性、加水分解反応の速度に相違があるために、金属間で酸化物を生成する優先順位があり、やはり原子レベルでは均一に混合された複合酸化物を生成するものではなかった。
【0008】
また、従来の方法では得られる複合酸化物の細孔制御を行ってはいるが、一般に2〜7nm程度の小さな細孔をピークとする細孔分布を有する。また、従来の複合酸化物は一次粒子の凝集体からなり、この一次粒子間に小さな細孔を有しているため、高温でシンタリングが進んだ場合に、この一時粒子間のシンタリングが進行し、結晶全体が萎縮し、細孔容積が著しく小さくなる。
【0009】
上記の特許文献1では、担体の細孔を2〜100nmとしているが、基本的には一次粒子間の細孔容積を増加させたに過ぎず、結果として一次粒子間のシンタリングが進むと、結晶全体として萎縮して細孔容積が減少することになる。
【0010】
従って、本発明は、複合酸化物を構成する金属が均一に分布し、かつ高温で焼成しても細孔、特に細孔径が10nm以上のメゾ細孔容積が減少し、性能低下を起こすことのない複合酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、1番目の発明によれば、2種以上の金属元素を含む複合酸化物の一次粒子の凝集体である二次粒子の凝集体からなり、前記二次粒子間に細孔径が2〜100nmであるメゾ細孔を有する多孔質複合酸化物において、酸素雰囲気中において600℃で5時間焼成後に、前記メゾ細孔のうち直径10nm以上である二次粒子間の細孔の割合が全メゾ細孔容積の10%以上であるようにされている。
【0012】
2番目の発明では、1番目の発明において、前記一次粒子の粒径を3〜15nmとし、前記二次粒子の粒径を30〜100nmとしている。
【0013】
3番目の発明では、1番目の発明において、前記金属元素がセリウムとジルコニウムの2種からなっている。
【0014】
4番目の発明では、1番目の多孔質複合酸化物の製造方法において、加水分解することにより水酸化物を形成する第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中において界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションを混合し、この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、この加水分解時に上記逆ミセル間の距離を十分に保ち、二次粒子間に十分な大きさの細孔を形成するように、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積及び界面活性剤の体積に対し大きくしている。
【0015】
5番目の発明では、4番目の発明において、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積に対して2倍以上としている。
【0016】
6番目の発明では、4番目の発明において、逆ミセル外の有機相の体積を界面活性剤の体積に対して5倍以上としている。
【0017】
7番目の発明では、4番目の発明において、逆ミセル内の水相の径を5nmとし、逆ミセル間の距離を20nm以上としている。
【0018】
8番目の発明では、1番目の多孔質複合酸化物の製造方法において、有機溶媒中において界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相において第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液を混合し反応させて、第1の金属と第2以降の金属元素を含む化合物を沈殿させ、これを加水分解し、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、この加水分解時に上記逆ミセル間の距離を十分に保ち、二次粒子間に十分な細孔を形成するように、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積及び界面活性剤の体積に対し大きくしている。
【0019】
9番目の発明では、8番目の発明において、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積に対して2倍以上としている。
【0020】
10番目の発明では、8番目の発明において、逆ミセル外の有機相の体積を界面活性剤の体積に対して5倍以上としている。
【0021】
11番目の発明では、8番目の発明において、逆ミセル内の水相の径を5nm以上とし、逆ミセル間の距離を20nm以上としている。
【0022】
12番目の発明では、1番目の多孔質複合酸化物の製造方法において、第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液を混合し反応させて、第1の金属と第2以降の金属元素を含む化合物を沈殿させ、これを加水分解し、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液の混合物中の合計の金属元素イオン濃度を0.3mol/L以下として化合物を沈殿させ、その後この沈殿を含む溶液を濃縮して二次粒子を凝集させている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の多孔質複合酸化物は、図1に示すように、粒径5〜15nm程度の複合酸化物の一次粒子1の凝集体である、粒径約100nm程度の二次粒子2が凝集してなり、一次粒子1の間に細孔を有するのみならず、二次粒子2の間に直径10〜100nmのメゾ細孔3を有している。また、本発明の多孔質複合酸化物は、600℃という高温で焼成した後も、焼成前と比較して細孔容積はほとんど変化せず、直径10nm以上の細孔が全細孔容積の10%以上を占めている。これに対して、従来の複合酸化物は、図2に示すように、一次粒子1の凝集体である二次粒子2から構成されているものの、全体として大きな1つの二次粒子からなり、二次粒子間に細孔が形成されることがなく、一次粒子間に細孔が存在するのみである。そしてこの凝集体を高温で焼成すると、細孔容積が小さくなり、全体が収縮する。なお、本明細書において、細孔径は液体窒素温度における窒素吸着法により測定した値である。また、細孔容積分布は、窒素導入圧に対する窒素吸着量から一般的な計算手法であるBJH法によりもとめた値である。
【0024】
このように、本発明の複合酸化物が高温で焼成しても細孔容積が低下しない理由は以下のとおりと考えられる。すなわち、本発明の複合酸化物は、従来の複合酸化物とは異なり、図1に示すように二次粒子間にも細孔が存在するため、一次粒子の間の結合状態の強いところと弱いところが存在する。細孔が大きなところは結合が弱く、焼成の際にそこから容易に裂け目が広がる。一方、結合の強いところは高温焼成によりシンタリングが進行するため、直径の小さな細孔は潰れ、直径の大きな細孔が増加する。その結果、全体としては細孔容積はあまり変化せず、大きな細孔径を有するものに変化する。これに対して、従来の複合酸化物では、一次粒子間の結合がほぼ均一な状態であるため、高温焼成により一気にシンタリングが進行することになる。このことは、一次粒子の凝集体である二次粒子の体積の低下及び細孔容積の低下を意味する。このように、本発明の複合酸化物では、一次粒子間の結合力の異なる部分が存在することにより、高温焼成による一次粒子間のシンタリングによる体積低下を抑制している。
【0025】
本発明における多孔質複合酸化物の種類は格別に限定されず、少なくとも第1の金属元素及び第2の金属元素を含む複合酸化物であればよい。複合酸化物の系は多くの教科書、ハンドブックなどに公知であり、アルミナ、ジルコニア、セリア、シリカ、酸化鉄、酸化マンガン、酸化クロム、酸化イットリウム、など金属酸化物を形成する多くの金属元素の酸化物は、ほとんどが第2以降の金属元素を添加して複合酸化物を形成することができる。どのような元素同士が複合酸化物を形成するかということ自体は知られている。本発明は、そのすべての複合酸化物に対して、加水分解性の原料又は無機金属塩原料が存在するかぎり適用できる。
【0026】
このような複合酸化物の例としては、セリウム−ジルコニウム複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物は、酸化ジルコニウムZr2Oの結晶構造を有しており、この結晶構造中のジルコニウムの一部がセリウムにより置換されている。従来は酸化セリウムを触媒金属とともに担体上に担持させていたため、高温下で触媒を使用すると酸化セリウムの結晶成長により、酸化セリウムの酸素吸蔵放出能(OSC)が低下してしまうが、セリウムを複合酸化物として用いることにより高温下で使用してもOSCの低下を抑制することができる。さらに、本発明の複合酸化物では、高温での焼成後も十分な大きさの細孔を有しており、ディーゼル排気ガス中のHCのような分子量の大きなHCをも担体中に拡散させることができ、OSCを発揮することにより浄化することができる。
【0027】
また、他の例としては、ランタン等の希土類金属とジルコニウムの複合酸化物が挙げられる。酸化ジルコニウムの結晶構造中のジルコニウムの一部をランタンで置換すると、ジルコニウムは4価でありランタンは3価であるため、結晶格子中内に酸素の存在しない酸素欠陥が形成される。この複合酸化物にアルカリ金属を添加すると、酸素欠陥に電子が供与される。電子の供与された酸素欠陥はきわめて強い塩基性を有し、従って電子の供与された酸素欠陥は強塩基点を構成する。このような強塩基点には、排気ガス中の一酸化窒素NOが捕獲され、結果として多量の一酸化窒素がこの複合酸化物中に吸着されることになる。すなわち、この複合酸化物はNOx吸蔵作用を有することとなり、NOx吸蔵還元触媒に利用することができる。そして、このランタン−ジルコニウム複合酸化物は高温での焼成後も十分な大きさの細孔を有しており、排気ガスをすばやく拡散することができ、排気ガス浄化を効率化することができる。
【0028】
次に、本発明の多孔質複合酸化物の製造方法について説明する。従来の複合酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子から成っているが、本発明の複合酸化物は、まずこの一次粒子から一旦100nm程度の大きさの比較的小さな二次粒子を複数形成し、次いでこの二次粒子を凝集させることによって形成している。すなわち、一次粒子を形成した後、反応系においてこの一次粒子の濃度が高いと、この一次粒子が全体として凝集し、大きな二次粒子を形成してしまうので、本発明では図1に示すように、一次粒子を形成した後、これを凝集させる際に一次粒子間に物理的に空間を形成して一次粒子同士の衝突を抑制し、一次粒子が全体として凝集することを抑制し、まず100nm程度の比較的小さな二次粒子を形成し、これを凝集させることによって、二次粒子間に細孔を形成している。
【0029】
本発明の多孔質複合酸化物の製造方法の第一の態様は、加水分解して水酸化物を形成する第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中において界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションを混合し、この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、この加水分解時に上記逆ミセル間の距離を十分に保ち、二次粒子間に十分な大きさの細孔を形成するように、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積及び界面活性剤の体積に対し大きくすることを特徴とする。
【0030】
加水分解して水酸化物を形成する第1の金属元素の化合物を本明細書では第1金属化合物と称する。但し、この第1金属化合物を構成する金属は狭い意味の金属ではなく、M−O−M結合を形成することができる元素M一般を意味するものである。
【0031】
この第1金属化合物としては、いわゆるゾルゲル法において一般に用いられる金属化合物を使用することができる。その例としては、金属アルコキシド、アセチルアセトン金属錯体、金属カルボキシレート、金属無機化合物(例えば硝酸塩、オキシ塩化塩、塩化物等)等を用いることができる。
【0032】
金属アルコキシドを形成する金属元素Mは、第1族から第14族までの元素、第16族ではイオウ、セレン、テルル、第15族ではリン、砒素、アンチモン、ビスマスが含まれるが、白金族元素や一部のランタノイド元素はアルコキシドを形成しないといわれている。例えば、ケイ素アルコキシドやゲルマニウムアルコキシドも金属アルコキシドと言われる。金属アルコキシドは各種の金属アルコキシドが市販されており、また製造方法も公知であるので、入手は容易である。
【0033】
金属アルコキシドM(OR)(ただし、Mは金属、Rはメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基)の加水分解反応も知られており、形式的には、M(OR)+nHO→M(OH)+nROH、次いで、M(OH)→MOn/2+n/2HOで表される。
【0034】
アセチルアセトン金属錯体(CHCOCHCOCHM(ただし、Mは金属)の加水分解反応も知られており、(CHCOCHCOCHM+nROH→nCHCOCHC(OH)CH+M(OH)、次いで、M(OH)→MOn/2+n/2HOで表される。
【0035】
アセチルアセトン金属錯体は各種の金属錯体が市販されており、また製造方法も公知であるので、入手は容易である。代表的には、アルミニウムアセトナト、バリウムアセトナト、ランタンアセトナト、白金アセトナト等があり、アルコキシド以上に多種のものがある。
【0036】
金属アルコキシドやアセチルアセトン金属錯体などの有機金属化合物は、アルコール、極性有機溶媒、炭化水素溶媒などの中から適当な溶媒を選択すれば容易に溶解する。本発明の溶媒としては水相と2相分離されうる疎水性(油性)の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
有機溶媒の例としては、シクロヘキサン、ベンゼンなどの炭化水素、ヘキサノールなどの直鎖アルコール、アセトンなどのケトン類がある。有機溶媒の選択基準としては、界面活性剤の溶解度の他マイクロエマルションを形成する領域の広さ(水/界面活性剤のモル比が大きい)等がある。
【0038】
このように加水分解して水酸化物を生成する第1の金属元素の化合物を溶解した有機相中に水を添加すると、有機金属化合物の加水分解反応が開始、進行することが知られている。一般的には、第1金属化合物を溶解した有機相に水を添加し、攪拌して金属水酸化物を得ることができる。
【0039】
本発明では、有機相中に水相を界面活性剤で微細に分散させた逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含む油中水型エマルションを形成しておいて、このエマルションに上記第1金属化合物の溶液を添加し、攪拌して混合することで、逆ミセル内の界面活性剤で取り囲まれた水相において、第2以降の金属元素のイオンと反応させ、加水分解を行う。この方法では多数の逆ミセルが、反応核となること、あるいは生成した水酸化物の微粒子を界面活性剤が安定化させることで、微細な生成物の粒子が得られると考えられている。
【0040】
上記のような加水分解反応において、複数の加水分解性金属化合物を有機相中に溶解しておくことで、水と接触させたとき、その複数の金属化合物が加水分解して、複数の金属の水酸化物が同時に生成することも知られている。
【0041】
本発明では、この加水分解性金属化合物のうちの1種類(第1の元素を含む化合物)を有機相に存在させ、その有機相と水相との接触の際に、第2の金属元素、さらには第3以降の金属元素を、逆ミセル内の水相中にイオンとして存在させておくことを特徴とする。
【0042】
水相中にイオンとして存在させることは、水溶性金属塩、特に、硝酸塩、塩化物などの無機酸塩、さらに酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を用いることができる。水相中に存在する第2の元素のイオンは金属の単体イオンのほか、第2の元素を含む錯イオンでもよい。第3以降の元素のイオンも同様である。
【0043】
有機相と水相を接触させると、有機相中の有機金属化合物が水と接触することで加水分解反応を起こして第1の金属の水酸化物又は酸化物を生成するが、このとき、本発明によれば、水相中に存在する金属のイオンが加水分解生成物である第1の金属の水酸化物(又は酸化物)中に取り込まれることが見出された。この現象は従来知られていない。水相中のイオンが特別の沈降操作を行わなくても水酸化物中に取り込まれる理由は十分には理解されないが、第1金属化合物がアルコキシドの場合を例として説明すると、アルコキシドが加水分解されるときに水相中の第2の金属イオンがアルコキシドを誘起して加水分解が進行する、あるいはアルコキシドの加水分解した微小な水酸化物が水相中所定量の金属イオンを捕らえて凝集していくものと考えられる。
【0044】
本発明によれば、特に、この新規な製法において、有機相中の第1の金属元素の化合物が加水分解して得られる水酸化物中に、水相中に存在する第2の金属元素のイオンが取り込まれるが、得られる水酸化物中の第1の金属元素と第2以降の金属元素が非常に均一に分散した水酸化物を得ることができ、その均一さは従来のアルコキシド法、即ち、有機相中に複数の金属アルコキシドを存在させた場合と比べて顕著に優れ得ることが見出された。比較的低い焼成温度でも焼成後の複合酸化物の第1の金属元素と第2の金属元素が原子レベルで理想的に混合された複合酸化物(固溶体)も得られた。このようなことは従来の金属アルコキシド法では達成されていなかった。従来の金属アルコキシド法では金属アルコキシドの種類によって安定性が異なるので第1の金属元素と第2の金属元素の間で不均一な生成物しか得られない。
【0045】
本発明により得られる複合酸化物における第1の金属元素及び第2の金属元素の相対比は、有機相中の第1の金属元素の量と水相中の第2の金属元素の量の比により調整することができる。
【0046】
本発明では、反応系が油中水型のエマルション系又はマイクロエマルション系であることが好ましい。この場合、第一にマイクロエマルション径が数nm〜十数nmと極めて小さく、有機相−水相界面が極めて広い(径が10nm場合で8000m2/リッター程度)ことによる加水分解速度の高速化、第二に水相が分殻化され、一個当たりでは極く少量の金属イオン(おおよそ100個程度)しか含まないことによる均質化の効果によると考えられる。
【0047】
この意味でマイクロエマルション中の逆ミセルの水相の径は2〜20nm、好ましくは2〜15nm、より好ましくは2〜10nmである。
【0048】
油中水型のエマルション系又はマイクロエマルション系を形成する方法は知られている。有機相媒体としては、シクロヘキサン、ベンゼンなどの炭化水素、ヘキサノールなどの直鎖アルコール、アセトンなどのケトン類など上記の有機溶媒と同様のものが使用できる。本考案で用いることができる界面活性剤は、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤など多種に渡り、用途に合わせて有機相成分との組合せで使用することができる。
【0049】
非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテルに代表されるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル系、ポリオキシエチレン(n=10)オクチルフェニルエーテルに代表されるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル系、ポリオキシエチレン(n=7)セチルエーテルなどに代表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタントリオレートに代表されるポリオキシエチレンソルビタン系界面活性剤などを用いることができる。
【0050】
アニオン系界面活性剤としては、ジ−2−エチレンヘキシルスルフォ琥珀酸ナトリウムなどが用いることができ、カチオン系界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライドやセチルトリメチルアンモニウムブロマイドなどを用いることができる。
【0051】
油中水型のエマルション系又はマイクロエマルション系が好ましいが、本発明の製法は水中油型エマルション系でも行うことが可能である。
【0052】
本発明では、3以上の元素の複合酸化物を製造する場合には、第3以降の元素は逆ミセル内の水相中に存在させる。有機相中に複数の加水分解性金属化合物を存在させると、有機相中では加水分解性金属化合物間で安定性に差があるため不均一な生成物になるからである。もっとも、第1の金属元素と第2の金属元素の間では均一である必要があるが、第1の金属元素と第3の金属元素の間では均一性が重要でなければ、第3の元素の金属化合物を有機相中に存在させてもよい。
【0053】
この第2の金属元素のイオンを含む逆ミセルは、上記の界面活性剤を上記の有機相媒体に溶解し、これに第2の金属元素のイオンを含む水溶液を添加し、攪拌するインジェクション法によって形成することができる。
【0054】
こうして、第1金属化合物の溶液と第2の金属元素のイオンを水相に含む逆ミセルを接触させ、加水分解によって第1の金属元素と第2の金属元素を含む複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成した後、この一次粒子を含む系を所定温度(30℃〜80℃)において所定時間(2時間)放置して熟成させる。この熟成工程において一次粒子が凝集し、二次粒子を形成する。この際、すべての一次粒子が凝集して大きな二次粒子を形成するのではなく、一旦、比較的小さな二次粒子を形成し、次いで二次粒子間に十分な大きさの細孔を形成して二次粒子同士が凝集するように、逆ミセル相互の距離を十分に保って加水分解及び熟成を行う。
【0055】
具体的には、図3に示すように、親油基を外側に、親水基を内側に向けた界面活性剤4により形成された逆ミセル5を形成し、内部の水相6に第2の金属元素のイオンを含ませておく。ここで、水滴の径d1は5nm以上、好ましくは10nm程度であり、水滴間の距離d2は20nm以上にする。逆ミセルはブラウン運動によって常に移動し拡散しているが、本発明においては水相に対する有機相の体積を増大させ、水滴間、すなわち逆ミセル間の距離を十分に保っているため、すべての一次粒子が凝集して大きな二次粒子を形成しないよう一次粒子の凝集を抑制し、100nm程度の大きさの小さな二次粒子を形成するようにしている。
【0056】
逆ミセルを含むマイクロエマルションにおいて、逆ミセルの水滴の大きさ及び水滴間の距離は、水の量、オイルの量及び界面活性剤の量の3つの因子によってきまる。図4に、マイクロエマルションにおける水、オイル及び界面活性剤の使用領域を示す。また、以下の表1に、図4の3相マップにおける逆ミセルの水滴径と水滴間距離の影響を示す1例を示す。
【0057】
【表1】


【0058】
一般に、w/o型マイクロエマルションは、界面活性剤をオイルに溶解した液に水を添加し、攪拌するインジェクション法によって形成する。このようなことから、水と界面活性剤のモル比:w/s値(W値)を増加するとは、一般に添加する水の量を増加することにあたる。すなわち、図4の3相マップでは、1の方向に移動することになる。このような条件では、表1に示したように、水滴径の増加はわずかであり、水滴間距離が大幅に減少する。このような場合には一次粒子の凝集は大きく、二次粒子は大きくなってしまう。さらに水を増加すると、中間領域に入らずに、2相分離領域に入る場合が多い。w/o型でもo/w型でもない中間領域にするには、あらかじめ界面活性剤濃度を増加させておく必要がある。
【0059】
次に、図4において3の方向に移動する場合、すなわちオイルを増加する場合は、水滴径は大きくなり、水滴間距離も大幅に増加する。この場合は大量のオイルを添加してもw/o型のマイクロエマルションは壊れることは少なく、水滴の大きさの増加、水滴間距離の増加も自由に変化できるので制御性がよい。但し、これでも水滴径と水滴間距離を独立に制御するという観点からは十分ではないので、図5に示すように、ベクトルを少しずらすことによって水滴径と水滴間距離を独立に制御することが可能になる。
【0060】
すなわち、図5に示すように、オイルを多くしかつ界面活性剤濃度を高めることによって4の方向に移動させると、水滴径は変化せず、水滴間距離のみを増大させることができる。また、水相中のイオンの濃度を変えずに溶液量を多くする、すなわち溶液の希薄化によって5の方向に移動させた場合は、水滴径をより大きくし、水滴間距離の変化は比較的少ない。但し、こちらの領域は、界面活性剤に対して水、オイルとも増加させるため、その領域は狭く、マップの位置によって状態の変化が敏感すぎるため、精度よい調整が必要となる。
【0061】
本発明において、大きな二次粒子を形成しないようにするためには、逆ミセルの水滴径を大きくすることなく、水滴間距離のみを増加させることが必要である。上記の結果から明らかなように、水及び界面活性剤に対してオイルの比を高めると、水滴径と水滴間距離の両方を同時に増加する。具体的には、オイルを水に対して体積比で2倍以上にし、界面活性剤に対して体積比で5倍以上増加させればよい。
【0062】
上記のように、有機相と水相を接触させて加水分解反応を行うと、一般的に水酸化物(前駆体)が生成する。本発明によれば、いずれにしても、生成物を乾燥後、焼成して複合酸化物を製造する。生成物の分離、乾燥方法は従来どおりでよい。焼成条件も従来と同様でよく、焼成の温度、焼成雰囲気などは、特定の複合酸化物の種類に応じて選択すればよい。しかし、一般的にいって、従来と比べてより低温で焼成できる。予め金属元素が均一に分散しているため金属元素を固体中で拡散させるエネルギーが少なくてよいためと考えられる。
【0063】
本発明の多孔質複合酸化物の製造方法の第二の態様は、有機溶媒中において界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相において第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液を混合し反応させて、第1の金属と第2以降の金属元素を含む化合物を沈殿させ、これを加水分解し、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、この加水分解時に上記逆ミセル間の距離を十分に保ち、二次粒子間に十分な細孔を形成するように、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積及び界面活性剤の体積に対し大きくすることを特徴とする。
【0064】
この第二の態様の方法において、使用する金属元素、界面活性剤、有機溶媒は第一の態様の方法と共通する。この第二の態様の方法では、第1の金属元素及び第2以降の金属元素をともにイオンとして逆ミセル内の水相中に存在させ、この水相内でいわゆる共沈法によって複合酸化物を形成する。
【0065】
具体的には、例えば、第1の金属元素の塩の溶液と第2の金属元素の塩の溶液を用意し、第1の態様の方法におけるように、界面活性剤を有機溶媒に溶解し、ここに第1の金属元素の塩の溶液及び第2の金属元素の溶液を添加して、それぞれの金属元素イオンを含む2種の逆ミセルを形成する。あるいは、1つの逆ミセル内に2種以上の金属元素イオンを含ませる。そしてこれとは別に、沈殿剤を含む水溶液を用いて、同様に沈殿剤を水相に含む逆ミセルを用意する。沈殿剤としては、従来の共沈法において用いられている沈殿剤を用いることができ、例えば金属塩を中和することのできるアンモニア、炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ、アルコール等が例示される。これらのうち、後の焼成時に揮発するアンモニア、炭酸アンモニウムが特に好ましく、またこのアルカリ溶液のpHは9以上であることが好ましい。
【0066】
こうして製造した、第1の金属のイオンを含む逆ミセル、第2の金属のイオンを含む逆ミセル、又は第1の金属のイオンと第2の金属のイオンを共に含む逆ミセル、及び沈殿剤を含む逆ミセル、さらには必要により、第3以降の他の金属のイオンを含む逆ミセルを有機溶媒内で混合し、逆ミセルの水相内で反応させ、次いで第一の態様の方法と同様にして熟成させることにより複合酸化物の前駆体を形成させる。この際、各逆ミセルの大きさ及び逆ミセル間の距離を、第1の態様の方法と同様にして調整することにより、得られる複合酸化物において、一次粒子の凝集を抑制し、形成する二次粒子の大きさを制限し、二次粒子間にメゾ細孔を有する多孔質複合酸化物を得ることができる。
【0067】
この第二の態様の方法によれば、第一の態様の方法と比較して、得られる複合酸化物において2種の金属元素の分散性は若干低いが、一次粒子の凝集を第一の態様の方法と同様に制御することができ、同様の細孔を有する複合酸化物を得ることができる。
【0068】
本発明の多孔質複合酸化物の製造方法の第三の態様は、第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液を混合し反応させて、第1の金属と第2以降の金属元素を含む化合物を沈殿させ、これを加水分解し、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液の混合物中の合計の金属元素イオン濃度を0.3mol/L以下として化合物を沈殿させ、その後この沈殿を含む溶液を濃縮し二次粒子を凝集させることを特徴とする。
【0069】
この第三の態様の方法では、まず、第二の態様の方法と同様に、第1の金属の塩の水溶液と第2の金属の塩の水溶液を用意し、これらを混合し、沈殿剤を添加して反応させ、複合酸化物の前駆体を形成するものであるが、これら2種の金属の塩の溶液を混合する際に、それぞれの水溶液を希薄溶液として混合する。その金属塩溶液の濃度は、0.15mol/L以下、好ましくは0.1mol/L以下とする。このような希薄溶液中で混合することにより、形成される一次粒子の衝突を抑制し、大きな二次粒子を形成しないように凝集を抑制することができる。反応後、一次粒子の沈殿を含む溶液を、例えばノズルからスプレーすることにより、又は浸透膜を通すことにより濃縮し、凝集を進ませ、結果としてメゾ細孔を有する複合酸化物を得ることができる。
【実施例】
【0070】
実施例1
内容積15リットルのビーカーにシクロヘキサン8.6リットル、ポリエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル350gを入れ、硝酸セリウム43gと蒸留水120mLよりなる水溶液を加え攪拌した。室温下でマグネチックスターラーを用い攪拌して逆ミセル(油中水型マイクロエマルション、水滴実測直径17nm)を作成した。これとは別に、ジルコニウムブトキシド50gをシクロヘキサン0.8リットルに溶解させたジルコニウムアルコキシド溶液を作成し、これを上記マイクロエマルションに加えた。この際のシクロヘキサン(有機相)に対する水(水相)の体積比は78である。室温下においてこの混合物をよく攪拌すると、ただちにビーカー内が白黄色に曇り、コロイド粒子(二次粒子、粒径10nm程度)が生成した。
【0071】
次に、コロイドの凝集を調節するためにアンモニア水でpHを8に調整した。さらに攪拌を約1時間続け熟成を行った。母液を炉別し、得られた沈殿をエタノールで3回洗浄し、80℃で一夜乾燥後、大気中600℃、900℃及び1000℃で5時間焼成して、セリウムとジルコニウムを含む複合酸化物(セリアジルコニア)を得た。複合酸化物のCe/Zrモル比は1/1であった。
【0072】
実施例2
基本的に実施例1と同様にしてSrZrO3複合酸化物を製造した。すなわち、内容積15リットルのビーカーにシクロヘキサン8.6リットル、ポリエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル350gを入れ、硝酸ストロンチウム37gと蒸留水100mLよりなる水溶液を加え攪拌した。室温下でマグネチックスターラーを用い攪拌して逆ミセル(油中水型マイクロエマルション、水滴実測直径15nm)を作成した。これとは別に、ジルコニウムブトキシド68gをシクロヘキサン0.8リットルに溶解させたジルコニウムアルコキシド溶液を作成し、これを上記マイクロエマルションに加えた。このときの逆ミセル間距離は約22nmであった。室温下においてこの混合物をよく攪拌すると、ただちにビーカー内が白黄色に曇り、コロイド粒子(粒径10nm程度)が生成した。
【0073】
次に、コロイドの凝集を調節するためにアンモニア水でpHを10.2に調整した。さらに攪拌を約1時間続け熟成を行った。母液を炉別し、得られた沈殿をエタノールで3回洗浄し、80℃で一夜乾燥後、大気中600℃、900℃及び1000℃で5時間焼成して、ストロンチウムとジルコニウムを含む複合酸化物(ストロンチウムジルコニア)を得た。得られた粉末をラマン散乱法、X線回折法等で分析し、結晶形態がペロブスカイトであることを確認した。
【0074】
実施例3
内容積15リットルのビーカーにシクロヘキサン8.6リットル、ポリエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル350gを入れ、硝酸セリウム42.5g、硝酸ジルコニウム30.1g及び蒸留水120mLよりなる水溶液を加え攪拌した。室温下でマグネチックスターラーを用い攪拌して逆ミセルを作成した。次にこの逆ミセルを、アンモニアを水相に含む逆ミセル溶液に滴下し、攪拌を続け、コロイド粒子を形成した。続いて、実施例1と同様にしてコロイドを凝集させ、セリウムとジルコニウムを含む複合酸化物(セリアジルコニア)を得た。
【0075】
実施例4
内容積15リットルのビーカーに、それぞれ濃度0.025mol/Lとなるように硝酸セリウム及び硝酸ジルコニウムを溶解した水溶液10リットルを加え、硝酸イオンに対して同量のアンモニア水を滴下し、中和してコロイド粒子を形成した。続いて、このコロイド粒子を含む溶液を乾燥空気中に噴霧して、溶液量が半分になるようにした。その後、この溶液にアンモニアを滴下してpHを約8に調整することにより凝集体を得た。これをろ過し、80℃で一晩乾燥させ、規定濃度で焼成し、セリウムとジルコニウムを含む複合酸化物(セリアジルコニア)を得た。
【0076】
比較例1
2リットルの蒸留水に硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムをそれぞれ0.5mol/Lとなるように添加し、溶解させた。この水溶液にアンモニア水を滴下し、pHを9に調整し、沈殿を得た。これをろ過し、乾燥後、600℃で焼成した。
【0077】
比較例2
2リットルの蒸留水に非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)を泡が立たない程度に添加した。その後、これに硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムをそれぞれ0.5mol/Lとなるように添加し、溶解させた。この水溶液にアンモニア水を滴下し、pHを9に調整し、沈殿を得た。これを水洗、ろ過し、乾燥後、600℃で焼成した。
【0078】
性能評価
得られた多孔質複合酸化物について、600℃、900℃及び1000℃での焼成後の細孔容積を、液体窒素温度下、窒素吸着により測定した。その結果を図6に示す。また、得られた多孔質複合酸化物について、600℃及び900℃での焼成後の細孔分布を同様に窒素吸着により測定した。その結果を図7に示す。
【0079】
図6及び7に示す結果から明らかなように、従来の複合金属酸化物では高温で焼成すると細孔容積が大きく低下し、また細孔分布はそのピークが高い側にシフトするものの、ピークの値が低下し、細孔容積が低下したことを示している、これに対して、本発明の複合金属酸化物では高温で焼成しても細孔容積が低下せず、細孔分布もピーク値が高い方にシフトするのみで、そのピーク高さ及び細孔容積はほとんど変化しなかった。
【0080】
セリアジルコニアはZr格子にCeが高分散に置換した場合に、酸素吸蔵性能が高いことが知られている(Catal. Today, 74, 225-234 (2002), Y.Nagaiら)。そこで酸素吸蔵量を測定することで置換量を予測することができる。特に低温(300℃以下)における酸素吸蔵量は顕著にその影響を受ける。ここで酸素吸蔵量はCeの酸化、還元で表すことができる。即ち、
【化1】

【0081】
上記実施例1並びに比較例1及び2で得られたセリアジルコニアの酸素吸蔵能を、酸素パルス吸着法を用いて評価した。得られた酸素吸蔵能からセリウムの利用率を計算し、ここでCe(IV)O2→Ce(III)O1.5+1/2O2の場合をCe利用効率100%とし、結果を図8に示す。
【0082】
図8に示されているように、本発明によれば、高温焼成後でも大きなCeの利用効率が得られており、これは複合水酸化物合成時からZrとCeの高分散が達成されていることを示す。このように本発明により製造したセリアジルコニアはこれまでにない低温活性の高い触媒原料として利用できることが判明した。
【0083】
さらに、本発明の複合金属酸化物は、特にディーゼル排気ガスの浄化触媒として有用である。ディーゼルでは、NOxを還元するために排気系にHC源として軽油を添加している。ところが、この軽油成分は排気系で気化しても分子量が大きいため、従来の金属複合酸化物中には十分に拡散することができず、この拡散が律速となり、反応が進まない。ところが、本発明の複合金属酸化物では、2nm以上のメゾ細孔を十分に有しているため、軽油成分も内部に拡散させることができ、十分な浄化を達成することができる。
【0084】
本発明によれば、高温で焼成しても十分な細孔容積を有する複合金属酸化物が提供され、排気ガス浄化用触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の複合金属酸化物の構成を示す図である。
【図2】従来の複合金属酸化物の構成を示す図である。
【図3】本発明の方法における逆ミセルの大きさとその間の距離を示す模式図である。
【図4】マイクロエマルションにおける水、界面活性剤及びオイルの関係を示す3相マップである。
【図5】図4の一部の拡大図である。
【図6】各種のセリウム−ジルコニウム複合酸化物の焼成時の細孔容積の変化を示すグラフである。
【図7】各種のセリウム−ジルコニウム複合酸化物の600℃と900℃での焼成後の細孔分布の変化を示すグラフである。
【図8】各種のセリウム−ジルコニウム複合酸化物の酸素吸蔵量の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0086】
1 一次粒子
2 二次粒子
3 メゾ細孔
4 逆ミセル
5 界面活性剤
6 水相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の金属元素を含む複合酸化物の一次粒子の凝集体である二次粒子の凝集体からなり、前記二次粒子間に細孔径が2〜100nmであるメゾ細孔を有する多孔質複合酸化物であって、酸素雰囲気中において600℃で5時間焼成後に、前記メゾ細孔のうち直径10nm以上である二次粒子間の細孔の割合が全メゾ細孔容積の10%以上であることを特徴とする多孔質複合酸化物。
【請求項2】
前記一次粒子の粒径が3〜15nmであり、前記二次粒子の粒径が30〜100nmである、請求項1記載の多孔質複合酸化物。
【請求項3】
前記金属元素がセリウムとジルコニウムの2種からなる、請求項1記載の多孔質複合酸化物。
【請求項4】
請求項1記載の多孔質複合酸化物の製造方法であって、
加水分解することにより水酸化物を形成する第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中に界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションとを混合し、
この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、
重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、
この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、
さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、
この加水分解時に上記逆ミセル間の距離を十分に保ち、二次粒子間に十分な大きさの細孔を形成するように、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積及び界面活性剤の体積に対し大きくすることを特徴とする多孔質複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積に対して2倍以上とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
逆ミセル外の有機相の体積を界面活性剤の体積に対して5倍以上とする、請求項4記載の方法。
【請求項7】
逆ミセル内の水相の径が5nm以上であり、逆ミセル間の距離が20nm以上である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
請求項1記載の多孔質複合酸化物の製造方法であって、
有機溶媒中に界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相において、第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液を混合し反応させて、第1の金属と第2以降の金属元素を含む化合物を沈殿させ、
これを加水分解し、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、
この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、
さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、
この加水分解時に上記逆ミセル間の距離を十分に保ち、二次粒子間に十分な大きさの細孔を形成するように、逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積及び界面活性剤の体積に対し大きくすることを特徴とする多孔質複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
逆ミセル外の有機相の体積を逆ミセル内の水相の体積に対して2倍以上とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
逆ミセル外の有機相の体積を界面活性剤の体積に対して5倍以上とする、請求項8記載の方法。
【請求項11】
逆ミセル内の水相の径が5nm以上であり、逆ミセル間の距離が20nm以上である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
請求項1記載の多孔質複合酸化物の製造方法であって、
第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液を混合し反応させて、第1の金属元素と第2以降の金属元素を含む化合物を沈殿させ、
これを加水分解し、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、
この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、
さらにこの二次粒子を凝集することを含み、
第1の金属元素のイオンを含む水溶液と第2以降の金属元素のイオンを含む水溶液の混合物中の合計の金属元素イオン濃度を0.3mol/L以下として化合物を沈殿させ、その後この沈殿を含む溶液を濃縮し二次粒子を凝集させることを特徴とする多孔質複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−13064(P2009−13064A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259001(P2008−259001)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【分割の表示】特願2003−143312(P2003−143312)の分割
【原出願日】平成15年5月21日(2003.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】