説明

多孔質酸化チタン及びその製造方法

【課題】より大きい平均孔径を有し、高い光触媒機能や吸着機能等を奏する多孔質酸化チタンを得ることが可能な多孔質酸化チタンの製造方法を提供する。
【解決手段】カチオン性界面活性剤が形成するミセル水溶液に、膨潤剤である水に難溶性の有機化合物を添加して膨潤させ、得られた膨潤ミセルを鋳型として酸化チタン形成反応を進行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶構造を有する多孔質酸化チタン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒機能や吸着機能等の機能性表面を有する材料において、その機能を向上させるために、表面積を大きくした多孔質材料が望まれている。中でも、均一で規則的な細孔の配列を有する多孔質材料、所謂メソポーラス材料と呼ばれている材料は、高い比表面積に加え、光触媒機能を有するため、触媒担体や色素増感太陽電池等、様々な分野への応用が期待されている。特に、光触媒機能を奏する酸化チタンの多孔質材料が注目されている。
【0003】
特許文献1には、界面活性剤と酸化硫酸チタンを水中で混合し、結晶性の酸化チタンを析出させた後に界面活性剤を除去することにより多孔質酸化チタンを製造する方法が開示されている。この方法では界面活性剤が形成するミセルを鋳型として、その近傍で酸化チタン形成反応を進行させることができるため、結晶構造を有する多孔質酸化チタンを得ることが可能である。
【特許文献1】特開2006−69877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法により得られる酸化チタンの多孔質材料(以下、多孔質酸化チタンとする)の平均孔径は、約2nm〜4nmと小さいため、多孔質酸化チタンに要求されている機能(光触媒機能や吸着機能等)を十分に奏することは困難である。
【0005】
以上の課題に鑑み、本発明はより大きい平均孔径を有し、高い光触媒機能や吸着機能等を奏する多孔質酸化チタンを得ることが可能な多孔質酸化チタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カチオン性界面活性剤が形成するミセル水溶液に、膨潤剤である有機化合物を添加して膨潤させ、得られた膨潤ミセルを鋳型として酸化チタン形成反応を進行させることにより、より大きい平均孔径を有し、多孔質酸化チタンを得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下のようなものを提供する。
【0007】
本発明は、結晶構造を有する多孔質酸化チタンの製造方法であって、カチオン性界面活性剤と、水に難溶性の有機化合物と、チタン塩と、を混合する混合工程を有する多孔質酸化チタンの製造方法を提供する。
【0008】
ここで、本発明における「多孔質酸化チタン」とは、均一で規則的な配列の空孔(以下、メソ孔とする)(直径2nm〜50nm)が形成されている、所謂メソポーラス構造を有する多孔質酸化チタンをいう。また、「水に難溶性の有機化合物」とは、例えば、水に対して最大で10質量%程度までしか溶解することができない有機化合物をいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より大きい平均孔径を有し、高い光触媒機能や吸着機能等を奏する多孔質酸化チタンを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略するが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0011】
本発明に係る多孔質酸化チタンの製造方法は、カチオン性界面活性剤と、水に難溶性の有機化合物と、チタン塩と、を混合する混合工程を有する。
【0012】
カチオン性界面活性剤は、水中でミセルを形成する。ミセルに、水に難溶性の有機化合物を添加すると、疎水性基により形成されるミセルの核に有機化合物が取り込まれ、体積が増加した膨潤ミセルが形成される。この状態で酸性のチタン塩を加えると、カチオン性界面活性剤のカチオン性基(親水基)を中心に、下記の反応が順次起こり、結晶性の酸化チタンが析出する。具体的には、まず水に溶解した酸化硫酸チタン(チタン塩)が水和チタン酸(X−SO)となる(下記(1)参照)。この水和チタン酸がカチオン性界面活性剤ミセルが提供する局所的な塩基場と反応して水酸化チタンを形成する(下記(2)参照)。そして水酸化チタンの形成後、重縮合反応が進行して酸化チタンが生成する(下記(3)参照)。なお、下記反応は、チタン塩として酸化硫酸チタンを用いた場合であり、式中のXは、水和チタン酸(IV)の骨格を示す。
また、下記(3)の反応はカチオン性界面活性剤分子集合体の表面で起こり、それに伴って、球状ミセルが図1に示されるように、ヘキサゴナル状の規則的な配列に変化する。
【化1】

このように、膨潤ミセルを鋳型にして上記酸化チタン形成反応を進行させることにより、璧膜の厚さを維持しつつ、より大きい平均孔径(4nm〜8nm)を有する多孔質酸化チタンを得ることが可能となる。
【0013】
また、上述のように、カチオン性界面活性剤と有機化合物とで形成される膨潤ミセルは、メソポーラス構造の鋳型となるものである。すなわち、膨潤ミセルとチタン塩を混合することで、結晶がカチオン性界面活性剤の分子集合体表面で析出して、その結果、水溶液中で規則性を持った構造となる。カチオン性界面活性剤を除く部分に結晶構造を有する酸化チタンが得られる。
【0014】
ここで、カチオン性界面活性剤としては、水溶液中で配列してメソポーラス構造の鋳型となる性質ないし構造を有するものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、アンモニウムに結合する4つの置換基のうち、1つの置換基のみが長鎖で、他が短鎖の四級アンモニウム塩が挙げられる。より好ましくはモノ長鎖アルキル四級アンモニウム塩であり、特に好ましくは、長鎖基の炭素数が10〜20個であるモノ長鎖脂肪族四級アンモニウム塩である。この長鎖基の炭素数は12〜18個であることが好ましく、また、長鎖のアルキル基以外の脂肪族基については特に限定はないが、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
特に好ましいカチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。またそのアニオンとしては特に限定はなく、塩素イオン、臭素イオン、水酸化イオン等が用いられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0015】
また、水に難溶性の有機化合物(以下、単に有機化合物ともいう)としては、炭素数3から32の直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素基を有するものであり、かつ、常温で液体のものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等の直鎖状の飽和炭化水素化合物;イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン等の分岐状の飽和炭化水素化合物;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の環状の飽和炭化水素化合物;ブタテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等の直鎖状の不飽和炭化水素化合物;イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン等の分岐状の不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。また、ベンゼン、ナフタレンのように、芳香族環を有していてもよい。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。このような有機化合物を添加することにより、膨潤ミセルを効率よく形成することが可能となる。
【0016】
上記炭化水素化合物は、置換基を有していてもよい。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の低級アルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;水酸基、アミノ基、シアノ基、オキソ基、ハロゲン等が挙げられる。具体的には、メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン,1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。また、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類;1−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類;イソアミルアルコール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘキサデカノール、2−エチルヘキサノール、1−ドデカノール等のアルコール類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びトリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物;メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0017】
中でも、カチオン性界面活性剤ミセルの中心部と表面付近の両方(即ち、ミセル内全体)に可溶化される有機化合物である1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン等を用いることが好ましい。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0018】
また、チタン塩としては、硫酸塩、オキシ硫酸塩、オキシ塩化物、リン酸塩、酢酸塩及び硝酸塩が挙げられる。具体的には、硫酸チタン、酸化硫酸チタン、四硝酸チタン等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る多孔質酸化チタンの製造方法の混合工程の具体的な手順としては、まず、所定量のカチオン性界面活性剤を所定量の水に溶解させ、水溶液を調製する。次いで、有機化合物(以下、有機化合物とする)を所定量溶解させることにより、膨潤ミセルの水溶液(以下、膨潤ミセル溶液とする)を調製する。
【0020】
上記水溶液の濃度としては、30mM(mモル/L)〜240mMであることが好ましく、50mM〜180mMであることがより好ましい。また、添加する有機化合物の量は、その種類によって異なるが、当該有機化合物の可溶化限界濃度(界面活性剤水溶液中に分子状態で溶解することが可能な濃度の最大値)以上であることが好ましい。
また、カチオン性界面活性剤1モルに対する前記有機化合物の混合モル量は、使用するカチオン性界面活性剤と有機化合物によって異なるが、0モルよりも大きく、20モル以下である。このような範囲とすることにより、カチオン性界面活性剤が形成するミセルの核に有機化合物が取り込まれ、膨潤ミセルを形成することが可能となる。
具体的なモル比としては、例えば、カチオン性界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド1モルを用いる場合、有機化合物として、1−ヘキサデカノールを用いた場合には、混合モル比は1であることが好ましい。また、有機化合物としてn−デカンを用いた場合の混合モル比は、6であることが好ましく、1,3,5−トリメチルベンゼンを用いた場合の混合モル比は16であることが好ましい。
【0021】
本工程によって調製される膨潤ミセル溶液の調製条件としては、使用するカチオン性界面活性剤や有機化合物の種類によって異なるが、以下の通りであることが好ましい。混合温度としては、10℃から80℃であることが好ましく、25℃〜80℃であることがより好ましく、40℃〜70℃であることがさらに好ましい。混合時間としては、1時間〜50時間であることが好ましく、10時間〜30時間であることがより好ましい。このような条件とすることにより、膨潤の程度が良好な膨潤ミセルを形成することが可能となる。
【0022】
このようにして調製した膨潤ミセル溶液に、所定量のチタン塩を添加する。チタン塩の添加量としては、上記カチオン性界面活性剤1モルに対し、10モル〜100モルであることが好ましく、30モル〜70モルであることがより好ましく、40モル〜60モルであることが最も好ましい。添加量をこのような範囲の量とすることにより、膨潤ミセルを鋳型にして酸化チタン形成反応を進行させることが可能となる。この酸化チタン形成反応により形成される酸化チタンは結晶性であるため、従来行われていた焼成工程を経ることなく、結晶性の璧膜を有する多孔質酸化チタンを得ることが可能となる。さらに、得られる多孔質酸化チタンのメソ孔の配列を制御して、ハチの巣状の断面を有するヘキサゴナル構造とすることが可能となる。これによって、より高い光触媒機能や吸着機能等を奏することが可能となる。
なお、上記膨潤ミセル溶液全体に対するチタン塩の濃度は特に限定はないが、200mM〜3000mM(mモル/L)が好ましい。
【0023】
チタン塩を添加した後、所定温度で所定時間、混合撹拌することが好ましい。これによって酸化チタン形成反応をより効率よく進行させることが可能となる。混合温度は、使用するカチオン性界面活性剤の種類によって異なるが、10℃〜80℃であることが好ましく、40℃〜70℃であることがさらに好ましい。さらに好ましくは60℃近傍である。液温が低すぎると生成する酸化チタンの結晶性が低くなる傾向にある。また逆に液温が高いと、カチオン性界面活性剤がうまく配列せず、ヘキサゴナル構造の規則性が低下したり、規則性がなくなる可能性がある。
混合時間は、チタン塩から十分に結晶性の酸化チタンが析出する時間とであれば、特に限定されるものではなく、通常、5時間〜120時間であり、好ましくは10時間〜80時間程度、特に好ましくは、15時間〜60時間、更に好ましくは、20時間〜40時間である。混合時間が短すぎると、生成する酸化チタンの結晶性が低下する傾向にあり、逆に混合時間が長すぎると、結晶性は上がるが、メソ孔の配列規則性が低下し、ヘキサゴナル構造が消失する場合がある。また、混合時間が長すぎると酸化チタンのアナターゼ型のみならず、ルチル型も形成される傾向にある。
なお、本発明の製造方法での反応液のpHは、酸化硫酸チタンの濃度にも依存するが、酸性領域であることが好ましい。
【0024】
酸化チタン形成反応の終了後は、生成した多孔質酸化チタンを濾過により分離し、水やアルコールを用いて洗浄し、乾燥させる。このときの乾燥温度は、100℃〜150℃であることが好ましく、110℃〜140℃であることがより好ましい。乾燥時間は2時間〜20時間であることが好ましく、5時間〜15時間であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明に係る多孔質酸化チタンの製造方法において、上記混合工程を経た後に、カチオン性界面活性剤や有機化合物を除去する除去工程を更に有していてもよい。これによって目的のメソ孔を有する多孔質酸化チタンを得ることができる。除去方法としては、特に限定はないが、アルコールによりカチオン性界面活性剤や有機化合物を溶解させて除去する方法や、加熱処理により除去する方法を用いることが好ましい。
加熱温度は、カチオン性界面活性剤が十分に除去され、かつ、多孔質酸化チタンのヘキサゴナル構造が壊れない程度の温度であることが必要であれば特に限定されるものではない。例えば、100℃〜500℃であることが好ましく、100℃〜400℃であることが特に好ましい。加熱時間もカチオン性界面活性剤を除去するのに充分であれば特に限定はないが、2時間〜10時間が好ましい。
【0026】
このような工程を経て製造された多孔質酸化チタンのメソ孔の直径は、約5nm〜50nm、好ましくは約7nm〜15nmのメソ孔を有する円筒状の結晶が、ハチの巣状の断面を形成するように複数個組み合わさったヘキサゴナル構造を形成している。メソ孔の直径とメソ孔の壁膜の厚さの比は特に限定はないが、5:1〜50:1が好ましく、7:1〜15:1が特に好ましい。また、壁膜の厚さは0.5nm〜5nmであることが好ましく、0.8nm〜1.5nmであることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、比表面積を効率的に拡大することが可能となる。
【0027】
この多孔質酸化チタンは、一般には粒子の状態で得ることができる。この粒子の直径は特に限定はないが、製造の容易さ、表面積の増大等の点で、20nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜100nmであることが特に好ましい。
【0028】
本発明に係る多孔質酸化チタンは、結晶構造を有する酸化チタンで構成されることを特徴とするものである。この多孔質酸化チタンが有する結晶構造は、アナターゼ型及びルチル型のいずれでもよいが、アナターゼ型であることが、光反応触媒、有害有機物の除去、湿式太陽電池、光治療等に使用され得るので好ましい。
なお、得られる多孔質酸化チタンは、粒子全体が結晶構造を有していることも好ましいが、必ずしも全てが結晶構造になっている必要はなく、不定形の構造部分があってもよい。
【0029】
なお、本発明の多孔質酸化チタンの構造は、X線回折により確認される。例えば、アナターゼ型結晶構造を有するチタニアで構成されている場合は、銅KαX線回析において、1次回折角2θが20°〜60°の範囲に観察される。
【0030】
さらに、本発明の多孔質酸化チタンは、メソ孔の配列構造がヘキサゴナル構造であることが好ましい。このようなヘキサゴナル構造を有することは、メソポーラス材料の(100)面に起因する銅Kα線の1次回折角2θが、0.5°〜2.5°の範囲に、更に高次ピークが、3°〜5°に現れることにより確認することができる。
【0031】
本発明に係る製造方法により得られる多孔質酸化チタンは、その表面活性と表面積の大きさを生かして、光反応触媒、有害有機物の除去、湿式太陽電池、光治療等の用途に用いられ得る。また、メソポーラス構造の特性を生かして、触媒担体、分子レベルのフィルター、吸着剤等の用途に用いることが可能である。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
カチオン性界面活性剤として、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、CTABとする)を、有機化合物として1−ヘキサデカノールを、チタン塩として酸化硫酸チタンを用いた。
まず、水25gにCTABと1−ヘキサデカノールを順次溶解させた。このときのCTABと1−ヘキサデカノールのモル比(CTAB:1−ヘキサデカノール)は1:1であった。次いで、これを60℃まで加熱し、約24時間撹拌した。その後3Mの酸化硫酸チタン水溶液を添加し、60℃で24時間更に撹拌した。このときのCTABと酸化硫酸チタンとのモル比(CTAB:酸化硫酸チタン)は、1:50であった。
次いで、反応が終了した溶液を吸引濾過し、得られた生成物を水で洗浄した。そして120℃のもと10時間乾燥させた。
【0033】
得られた多孔質酸化チタンはX線回折(XRD)測定、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により評価した。XRD測定は、フィリップス社製、Xpert−MPDを用い、X線源としては、銅Kα線を用いた。その結果を図2に示す。図に向かって下側が本実施例の回折ピークである。これより、(100)面の回折ピーク(2θ/deg.)が1.75°付近に観察された。また、この回折ピークより算出した細孔間距離(メソ孔の孔径)は5.05nmであった。
【0034】
[比較例1]
有機化合物を含有しない以外は実施例1と同様の方法で多孔質酸化チタンを調製した。比較例1に係る多孔質酸化チタンのX線回折の結果を図2に示す。図に向かって上側が比較例の回折ピークである。これより、(100)面の回折ピーク(2θ/deg.)が2.17°付近に観察された。また、この回折ピークより算出した細孔間距離は4.07nmであった。
【0035】
[実施例2〜5]
カチオン性界面活性剤として、CTABを、有機化合物としてn−デカンを、チタン塩として酸化硫酸チタンを用いた。
実施例1と同様に水25gにCTABとn−デカンを順次溶解させた。このときのCTABとn−デカンのモル比(CTAB:n−デカン)はそれぞれ、1:6(実施例2)、1:12(実施例3),1:16(実施例4),1:20(実施例5)であった。次いで、これを60℃まで加熱し、約24時間撹拌した。その後3Mの酸化硫酸チタン水溶液を添加し、60℃で24時間更に撹拌した。このときのCTABと酸化硫酸チタンとのモル比(CTAB:酸化硫酸チタン)は、1:50であった。
次いで、反応が終了した溶液を吸引濾過し、得られた生成物を水で洗浄した。そして120℃のもと10時間乾燥させた。
【0036】
X線回折の結果を図3に、また、(100)面の回折ピーク(2θ/deg.)とこの回折ピークより算出した細孔間距離を下記表1に示す。
【0037】
[比較例2,3]
有機化合物を含有しない、又はCTAB:n−デカンのモル比が1:25となるような量とした以外は実施例2〜5と同様の方法で多孔質酸化チタンを調製した。実施例2〜5と同様に、X線回折の結果を図3に、また、(100)面の回折ピーク(2θ/deg.)とこの回折ピークより算出した細孔間距離を下記表1に示す。
【表1】

【0038】
[実施例6,7]
カチオン性界面活性剤として、CTABを、有機化合物として1,3,5−トリメチルベンゼンを、チタン塩として酸化硫酸チタンを用いた。
実施例1と同様に水25gにCTABと1,3,5−トリメチルベンゼンを順次溶解させた。このときのCTABと1,3,5−トリメチルベンゼンのモル比(CTAB:1,3,5−トリメチルベンゼン)はそれぞれ、1:12(実施例6)、1:16(実施例7)であった。次いで、これを60℃まで加熱し、約24時間撹拌した。その後3Mの酸化硫酸チタン水溶液を添加し、60℃で24時間更に撹拌した。このときのCTABと酸化硫酸チタンとのモル比(CTAB:酸化硫酸チタン)は、1:50であった。
次いで、反応が終了した溶液を吸引濾過し、得られた生成物を水で洗浄した。そして120℃のもと10時間乾燥させた。
【0039】
X線回折の結果を図4に、また、(100)面の回折ピーク(2θ/deg.)とこの回折ピークより算出した細孔間距離を下記表2に示す。また、実施例7の透過型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0040】
[比較例4]
有機化合物を含有しない以外は実施例6,7と同様の方法で多孔質酸化チタンを調製した。実施例6,7と同様に、X線回折の結果を図4に、また、(100)面の回折ピーク(2θ/deg.)とこの回折ピークより算出した細孔間距離を下記表2に示す。また、透過型電子顕微鏡写真を図6に示す。
【表2】

【0041】
以上の結果より、本発明に係る製造方法は、より大きい平均孔径を有する多孔質酸化チタンを製造することが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る多孔質酸化チタンが形成される様子を示した図である。
【図2】実施例1、比較例1に係る多孔質酸化チタンのX線回折の結果を示した図である。
【図3】実施例2〜5、比較例2,3に係る多孔質酸化チタンのX線回折の結果を示した図である。
【図4】実施例6,7、比較例4に係る多孔質酸化チタンのX線回折の結果を示した図である。
【図5】実施例7の透過型電子顕微鏡写真を示した図である。
【図6】比較例4の透過型電子顕微鏡写真を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造を有する多孔質酸化チタンの製造方法であって、
カチオン性界面活性剤と、水に難溶性の有機化合物と、チタン塩と、を混合する混合工程を有する多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記カチオン性界面活性剤1モルに対する前記有機化合物の混合モル量は、0モルよりも大きく20モル以下である請求項1に記載の多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物は、炭素数3から32の直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素基を有するものである請求項1又は2に記載の多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項4】
前記チタン塩の塩は、硫酸塩、オキシ硫酸塩、オキシ塩化物、リン酸塩、酢酸塩及び硝酸塩からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種である請求項1から3いずれかに記載の多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記混合工程における混合温度は、10℃から80℃である請求項1から4いずれかに記載の多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記混合工程を経た後に、前記有機物を除去する除去工程を更に有する請求項1から5いずれかに記載の多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の製造方法により製造された多孔質酸化チタン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−222491(P2008−222491A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63030(P2007−63030)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】