説明

多孔質金属の製造方法

【課題】触媒反応や電極反応に有効利用可能な、大表面積の多孔質金属、ならびに、表面に酸化皮膜を備えた多孔質金属を圧延により作製する方法を提供する。
【解決手段】金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合する混合工程と、混合した混合粉末を圧延する圧延工程又は混合した混合粉末を加圧成形して圧粉体とする加圧成形工程の後に当該圧粉体を圧延する圧延工程と、前記支持粉末を除去して空隙を形成する支持粉末除去工程とを含むことを特徴とする多孔質金属の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質金属の製造方法に関し、大表面積を有する多孔質金属、更に表面処理を行うことによりその表面に酸化皮膜を備えた多孔質金属を大量生産することが出来る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質金属の製造方法としては、(1)溶融した金属中に水素化チタン等の発泡剤を混合し、発生したガスを含んだ状態で凝固させる溶湯発泡法(特許文献1)、(2)金属粉末と塩化ナトリウム等のスペーサー材を混合し、押出し又は圧延した後でスペーサー材を除去するスペーサー法(特許文献2)、通電やプラズマによる焼結を利用するスペーサー法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−302765号公報
【特許文献2】特許第4048251号
【特許文献3】特開平03−285880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記溶湯発泡法で作製される多孔質金属は孔同士が独立したクローズドセル型構造で、孔の内部が外部と通じていないために表面積が小さく、電池集電体や触媒又はその担体として利用することが出来なかった。また、従来の圧延を利用したスペーサー法では気孔率が70%未満と少なく、外部と連通することなく独立して存在する一部のスペーサー材が内部に残留することがあった。例えば、塩化ナトリウムをスペーサーとして利用した場合には、除去し切れなかった塩化ナトリウムが外部環境に曝された場合に多孔質金属基材の腐食を促進させてしまうという問題点があった。また、通電やプラズマ焼結を利用する作製法では気孔率の高い多孔質金属を作製することができるが、バッチ処理となるため量産には適していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記問題に鑑み鋭意検討の結果、圧延を利用したスペーサー法において金属粉末と支持粉末の粒径を調整することで、従来の圧延を利用した方法に比べて気孔率を大きくすることができ、表面積の大きな多孔質金属を製造する方法を見出した。具体的には、支持粉末の粒径を金属粉末の10倍以上に規定し、加えて支持粉末の混合割合を金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で規定するものである。これにより、金属粉末が個々に分かれることなく、連通した気孔率の大きな多孔質金属を製造することが出来る。また、製造方法として圧延を利用することで連続的に処理することが出来、大量生産が可能となる。加えて前記多孔質金属に対して表面処理を施すことで結合金属粉末の表面に酸化皮膜が形成され、連通気孔でかつ耐食性に優れた多孔質金属が得られることも見出した。
【0006】
すなわち、本発明の第1の実施態様は請求項1において、金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合する混合工程と、混合した混合粉末を圧延する圧延工程と、前記支持粉末を除去して空隙を形成する支持粉末除去工程と、を含むことを特徴とする多孔質金属の製造方法とした。
【0007】
本発明は請求項2において、金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合する混合工程と、混合した混合粉末を加圧成形して圧粉体とする加圧成形工程と、当該圧粉体を圧延する圧延工程と、前記支持粉末を除去して空隙を形成する支持粉末除去工程と、を含むことを特徴とする多孔質金属の製造方法とした。
【0008】
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記金属粉末を純アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも一方から成るものとし、前記支持粉末を水溶性塩とした。
【0009】
本発明は請求項4では請求項1〜3のいずれか一項において、前記圧延工程の前に、前記混合粉末又は圧粉体を、前記支持粉末の融点未満で、かつ、前記金属粉末の再結晶温度以上融点未満の温度に予め加熱する予熱工程を備えるものとした。
【0010】
次に本発明の第2の実施態様は請求項5において、金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合して混合粉末とし、この混合粉末を圧延して圧延体とし、次いで、この圧延体に、水、アルカリ溶液及び酸溶液を用いた少なくともいずれか一の表面処理を施すことを特徴とする多孔質金属の製造方法とした。
【0011】
本発明は請求項6において、金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合して混合粉末とし、この混合粉末を圧延して圧延体とし、次いで、この圧延体から前記支持粉末を除去して空隙を形成し、水、アルカリ溶液、酸溶液及び水蒸気を用いた少なくともいずれか一の表面処理を施すことを特徴とする多孔質金属の製造方法とした。
【0012】
本発明は請求項7では請求項5又は6において、前記金属粉末を純アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも一方から成るものとし、前記支持粉末を水溶性塩とした。
【0013】
本発明は請求項8では請求項5〜7のいずれか一項において、前記圧延工程の前に、前記混合粉末を加圧成形して圧粉体とするものとした。
【0014】
本発明は請求項9では請求項5〜8のいずれか一項において、前記圧延工程の前に、前記混合粉末又は圧粉体を、前記支持粉末の融点未満で、かつ、前記金属粉末の再結晶温度以上融点未満の温度に予め加熱する予熱工程を備えるものとした。
【0015】
本発明は請求項10では請求項5〜9のいずれか一項において、前記表面処理を、前記圧延体を50℃以上100℃以下の水、アルカリ溶液及び酸溶液のいずれかに1分以上60分以下浸漬させるものとした。更に、本発明は請求項11では請求項6〜9のいずれか一項において、前記表面処理を、前記圧延体を100℃以上300℃以下の水蒸気に10分以上180分以下曝すものとした。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、金属粉末と支持粉末の粒径及びそれらの混合割合を調整した混合粉末やこの圧粉体を圧延することで、表面積の大きな多孔質金属を量産できる方法を提供することができる。更に本発明は、板状又は帯状の金属と前記混合粉末又は圧粉体とを一緒に圧延することで、多孔質金属と板状又は帯状の金属とを重ねて一体化した複合材料を製造することも出来る。更に、多孔質金属の結合金属粉末表面に酸化皮膜を形成させることで、優れた耐食性を有する多孔質金属を製造することが出来る。このようにして作製した多孔質金属は、大面積の表面を吸着反応、触媒反応、電極反応、光反応などの反応サイトとして利用することによって反応効率を増大させることができる。また、複合体とすることで平滑な表面を必要とする部分にも利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の方法により製造される多孔質アルミニウムの断面を表すSEM写真である。
【図2】図1の断面を圧延方向との関係で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(a)多孔質金属
本発明の第1の実施態様によって製造される多孔質金属は、金属粉末と支持粉末の混合物を圧延した後に、支持粉末を除去することで得られる空隙とその空隙を形成する結合金属粉末壁とによって構成される。圧延することで金属粉末と共に支持粉末も変形し、支持粉末を除去して形成される空隙は圧延面に対して垂直方向に潰れた形状をなす。支持粉末によって形成される空隙同士は、結合金属粉末壁の一部に開いた孔によって連通する構造をなす。そのため、空隙同士が連通せずに孤立している構造と異なり、本来外部と接していない位置にある支持粉末を除去することが可能である。
【0019】
(b)金属粉末
本発明では金属粉末と支持粉末の混合粉末に圧延を施すことから、金属には圧延で塑性変形する延伸材料であることが求められる。延伸材料としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、銅、鉄及びこれらの合金が挙げられる。中でもアルミニウム材が好ましく、純アルミニウム又はアルミニウム合金が好適に用いられる。アルミニウム合金としては、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金が用いられる。支持粉末の粒径が金属粉末の10倍以上である必要があるため、様々な粒径の支持粉末を利用できるようにするためにも金属粉末の粒径は小さい方が好ましい。本発明に用いる金属粉末の粒径は1〜50μmが好ましい。ここでいう粒径とは、レーザー回折/散乱法で測定した粒径のメジアン径である。
【0020】
(c)支持粉末
本発明に用いる支持粉末には、圧延時に金属粉末の変形に伴い一緒に粉砕され、かつ/又は変形し、圧延後は容易に除去できる物質が使用できる。圧延後の支持粉末の除去では水を用いて溶出させる方法が簡便であり、このために支持粉末としては水溶性塩が好適に用いられる。水溶性塩としては、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物や炭酸塩などが挙げられる。塩化ナトリウムや塩化カリウムが、入手の容易性から好ましい。また、支持粉末を除去してこれが存在していたスペースを空隙として残すことから、支持粉末の粒径は多孔質金属の孔径に直接影響する。本発明では支持粉末の粒径は金属粉末の10倍以上である必要がある。10倍を下回ると金属粉末による支持粉末の被覆が十分ではなくなり、金属粉末同士の結合が途切れ易くなる。このため、支持粉末を除去した際に結合の途切れた部分で金属粉末が単独又は幾つかの塊としてなって、他の金属粉末と分離してしまう。本発明に用いる支持粉末は、10〜1000μmの粒径を有するものが好ましい。ここでいう粒径とは、ふるい目開き又はレーザー回折/散乱法で測定した粒径のメジアン径である。
【0021】
(d)混合工程
前記金属粉末と前記支持粉末からなる混合粉末の混合比は体積比で、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19である。すなわち、混合粉末中における金属粉末の体積含有率は5〜30%であり、支持粉末の体積含有率は95〜70%、好ましくは95〜75%、更に好ましくは90〜80%である。多孔質金属の気孔率にはこの混合割合が反映されるため、本発明で作製できる多孔質金属の気孔率は70〜95%程度となる。
【0022】
支持粉末の体積含有率が95%を超える場合、多孔質金属を構成する結合金属粉末壁が少な過ぎるため壁の強度が弱くなると共に、壁が途切れる可能性が大きくなってしまうため、支持粉末を除去した時に多孔質金属が分裂してしまう。一方、支持粉末の体積含有率が70%未満の場合には、支持粉末の含有率が少な過ぎるために支持粉末同士が接触することなく独立して存在することになり、支持粉末を除去する際に多孔質金属内に残留する可能性が大きくなる。また、残留支持粉末の除去に長時間を要することにもなる。例えば、金属粉末として純アルミニウム粉末を、支持粉末として塩化ナトリウム粉末を用いて、体積比で純アルミニウム粉末:塩化ナトリウム粉末=35:65%の混合粉末を圧延し、これを水道水の流水に24時間に浸漬させても、塩化ナトリウムの除去率は95%程度であった。従って、溶出除去に長時間を要し生産効率が著しく低下するので採用できない。そのため、金属粉末と支持粉末の体積混合比は、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19、好ましくは1:3〜1:19であり、更に好ましくは2:8〜1:9である。
【0023】
混合手段としては、タンブラーミキサー、ドラムミキサー等の各種ミキサー、V型混合機、W型混合機、振動攪拌機、容器回転混合機等が用いられるが、十分な混合物が得られるのであれば特に限定されるものではない。
【0024】
(e)圧延工程
本発明では金属粉末と支持粉末の前記混合粉末を、冷間又は熱間で圧延する。圧延により金属粉末が塑性変形することで金属粉末を覆っていた酸化皮膜が破れて金属新生面が現れ、金属粉末同士が結合する。この時、支持粉末も金属粉末と一緒に変形し、後に空隙となる空間を保持する。圧延は圧延体の理論比重に対する嵩比重の比(嵩比重/理論比重)が80%以上、好ましくは85%以上となるようにロールギャップを調整して圧延する。ここで、理論比重とは、圧延体に空隙がないものとして、金属粉末と支持粉末の真比重から算出される。一方、嵩比重とは、実測定した圧延体の質量と体積から求められる。圧延技術としては、公知のあらゆる圧延技術を利用することが出来るが、粉末圧延機を使用することが好ましい。圧延時には潤滑剤を使用しても良く、その種類は特に限定されるものではない。但し、支持粉末として水溶性塩を使用する場合には水系の潤滑剤を使用することはできない。
【0025】
また、圧延体を構成する金属粉末同士の結合を促進させるために、圧延後において圧延体を原料金属粉末の融点付近まで加熱し、焼結してもよい。この時の雰囲気としては大気、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、真空雰囲気を利用できるが、不活性雰囲気や真空雰囲気であることが好ましい。
【0026】
(f)加圧成形を利用した圧延工程
上記のように金属粉末と支持粉末の混合粉末を直接圧延する方法(粉末圧延)に代えて、予め金型を用いて混合粉末を加圧成形して圧粉体を形成し、これを圧延する方法を採用しても良い。この場合、粉末圧延機以外の圧延機を利用して圧延できるという利点がある。また、予め圧粉体を形成しておくことで、粉末供給時に供給量が偏るといった問題も解消することができる。圧粉体としては取り扱いが困難でない程度に固まっていればよく、そのためには、10〜200MPa程度の荷重を加えて加圧成形すればよい。
【0027】
(g)予熱工程
圧延を熱間で実施する場合には、圧延前に混合粉末又は圧粉体を予め加熱しておくことが好ましい。加熱ロールを用いて圧延し、圧延時に混合粉末又は圧粉体を加熱する方法でも同様の効果を得ることができる。予熱は必ずしも必要ではなく、金属粉末同士に十分な結合を生じさせられるのであれば冷間でも構わない。但し、温度が高いほど一般的には金属粉末及び支持粉末の変形が容易になると共に、金属結合が進行し易いため予熱するのが好ましい。予熱温度は、使用する支持粉末の融点未満であり、かつ、金属粉末の再結晶温度以上融点未満である。圧延時にこのような温度範囲に達するように、予熱温度を調整する。例えば金属粉末として純アルミニウム、支持粉末として塩化ナトリウムを使用する場合には、予熱温度としては300〜500℃が好ましい。加熱ロールを用いる場合には加熱ロールの温度が支持粉末及び金属粉末の融点を越えてはならない。
【0028】
(h)支持粉末の除去工程
圧延体中の支持粉末の除去には、溶出等の方法が用いられる。支持粉末として水溶性塩を用いる場合には、圧延体を十分な量の水浴又は流水浴に浸漬する等の方法で容易に溶出除去することができる。この場合、溶出に用いる水は温水のように温度は高い方が溶出は速くなるため、30℃以上の水を用いるのが好ましい。水溶性塩を溶出させる水は適用先によってはイオン交換水や蒸留水等、不純物の少ない方が好ましいが、水道水でも特に問題は無い。
【0029】
(i)多孔質金属と板状又は帯状の金属との複合多孔質金属
次に本発明の応用技術である複合多孔質金属は、本発明の実施態様に係る発明によって製造される多孔質金属と板状又は帯状の金属とを一体化した複合材である。この複合多孔質金属は、板状又は帯状の金属の片面に前記混合粉末を載置しこれを圧延して得られる2層構造体、或いは、2枚の板状又は帯状の金属の間に前記混合粉末を挟んでこれを圧延した3層構造体、更には、板状又は帯状金属と前記混合粉末を交互に複数積層してこれを圧延した多層構造体とすることができる。また、粉末を圧延機に供給するホッパーを通す形で、板状又は帯状の金属を粉末と一緒に圧延機に送り出して圧延し、板状又は帯状の金属を粉末で挟んだ多層構造体とすることもできる。本発明の実施態様と同様に、混合粉末に代えてこれを予め加圧成形した圧粉体を用いることもできる。また、支持粉末の径や混合割合の異なる圧粉体を載置してこれを圧延し、気孔の大きさや気孔率の異なる多層構造体とすることもできる。もちろん、圧粉体を重ねたものを板状又は帯状の金属に載置し、又は挟んだ状態で圧延して多層構造体とすることもできる。この複合多孔質金属では、用いる金属粉末及び支持粉末、ならびに、これらの混合方法、加圧成形方法、支持粉末の除去方法については、本発明の実施態様に係る発明によって製造される多孔質金属の場合と同じである。以下においては、本発明の応用技術である複合多孔質金属に特有な点についてのみ説明する。
【0030】
(j)板状又は帯状の金属
該複合多孔質金属に使用する板状又は帯状の金属は、圧延において延伸性を示す材料であればその種類は特に限定されず、エキスパンドメタルやパンチングメタル等の穴の開いたものでも構わない。延伸材料としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、銅、鉄及びこれらの合金が挙げられる。中でもアルミニウム材が好ましく、純アルミニウム又はアルミニウム合金が好適に用いられる。アルミニウム合金としては、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系のアルミニウム合金が用いられる。
【0031】
(k)圧延工程
該複合多孔質金属では、金属粉末と支持粉末の混合粉末を板状又は帯状の金属に載置してこれを冷間又は熱間で圧延する。圧延は、混合粉末が板状又は帯状の金属の片面に接した2層構造体の状態で、或いは、混合粉末を2枚の板状又は帯状の金属で挟んだ3層構造体の状態で、或いは、混合粉末と板状又は帯状の金属を交互に複数層重ねた多層構造体状態の状態で実施される。圧延により金属粉末及び板状又は帯状の金属が塑性変形することで、それぞれの酸化皮膜が破れて金属新生面が現れ、金属粉末同士、ならびに、金属粉末と板状又は帯状の金属とが結合する。この時、支持粉末も金属粉末と一緒に変形し、後に空隙となる空間を保持する。圧延は圧延体の理論比重に対する嵩比重の比(嵩比重/理論比重)が80%以上、好ましくは85%以上となるように圧延する。圧延技術としては、公知のあらゆる圧延技術を利用することが出来る。圧延時には潤滑剤を使用することが好ましく、その種類は特に限定されるものではない。但し、支持粉末として水溶性塩を使用する場合には水系の潤滑剤を使用することはできない。
なお、本発明と同様に、混合粉末に代えて予め加圧成形した圧粉体を用いること、そして圧粉体同士を重ねて圧延することもできる。また、粉末を圧延機に供給するホッパーを通す形で、板状又は帯状の金属を粉末と一緒に圧延機に送り出して圧延し、板状又は帯状の金属を粉末で挟んだ多層構造体とすることもできる。更に、圧延体を構成する金属粉末同士の結合を促進させるために、圧延後、圧延体を原料金属粉末あるいは板状又は帯状の金属の融点付近まで加熱して焼結してもよい。この時の雰囲気としては大気、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、真空雰囲気を利用できるが、不活性雰囲気や真空雰囲気であることが好ましい。
【0032】
(l)予熱工程
該複合多孔質金属においても、圧延を熱間で実施する場合には、圧延前に混合粉末及び/又は板状又は帯状の金属を予め加熱しておくことが好ましい。第1の実施態様と同様に、予熱は必ずしも必要ではなく、金属粉末同士に十分な結合を生じさせられるのであれば冷間でも構わない。但し、温度が高いほど一般的には金属粉末、支持粉末及び板状又は帯状の金属の変形が容易になると共に、金属結合が進行し易いため予熱するのが好ましい。加熱ロールを用いて圧延し、圧延時に混合粉末又は圧粉体を加熱する方法でも同様の効果を得ることができる。予熱温度は、使用する支持粉末の融点未満であり、かつ、金属粉末及び板状又は帯状の金属の再結晶温度以上融点未満である。圧延時にこのような温度範囲に達するように、予熱温度を調整する。例えば金属粉末として純アルミニウム、支持粉末として塩化ナトリウム、帯状金属として純アルミニウムを使用する場合には、予熱温度としては300〜500℃が好ましい。加熱ロールを用いる場合には加熱ロールの温度が支持粉末、金属粉末及び板状又は帯状の金属の融点を越えてはならない。
【0033】
(m)多孔質金属
次に本発明の第2の実施態様によって製造される多孔質金属は、第1の実施態様に係る発明によって製造される多孔質金属において、結合金属粉末壁の表面に酸化皮膜が形成されたものである。この第2の実施態様に係る発明によって製造される多孔質金属(以下、「表面処理多孔質金属」と記す)では、用いる金属粉末及び支持粉末、ならびに、これらの混合方法、圧延方法、加圧成形方法、予熱方法、支持粉末の除去方法については、第1の実施態様に係る発明によって製造される多孔質金属と同じであり、以下においてはこれと異なる点についてのみ説明する。
【0034】
(n)酸化皮膜
結合金属粉末壁の表面に形成される酸化皮膜としては、金属粉末の無水酸化皮膜と水和酸化皮膜の少なくとも一方が含まれる。以下において、「酸化皮膜」という場合には、特に断らない限り、無水酸化皮膜と水和酸化皮膜の両方を指すものとする。無水酸化皮膜としてはAl等が挙げられる。水和酸化皮膜は、一般にAl(nHO)で表されるが、具体的にはAlOOH等が挙げられる。これら酸化皮膜には、クロム、ニッケル、コバルト、燐、フッ素等の元素を含む化合物が含有されてもよい。
【0035】
(o)表面処理方法
多孔質体の表面処理は、水、アルカリ溶液、酸溶液及び水蒸気を用いた少なくともいずれか一の処理あるいは複数の処理を組み合わせて施すものである。溶液系処理では、水、アルカリ溶液又は酸溶液に多孔質金属を浸漬する。蒸気系処理では、水蒸気中に多孔質金属を曝すことによって行われる。溶液系処理では、水による処理、酸溶液による処理、アルカリ溶液による処理を単独で、或いは、複数組み合わせてもよい。更に、これらの溶液系処理と水蒸気系処理を組み合わせて行ってもよい。
【0036】
溶液系処理に用いる水としては、イオン交換水、蒸留水、超純水などの所謂純水が好適に用いられる。酸溶液としては、珪フッ化ナトリウム、クロム酸、リン酸、炭酸等の溶液が好適に用いられる。これら酸溶液としては、水溶液が好ましい。アルカリ溶液としては、クロム酸塩、過マンガン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、アンモニア等の溶液が好適に用いられる。これらアルカリ溶液としては、水溶液が好ましい。酸とアルカリの水溶液では、上記純水の水溶液を用いるのがより好ましい。酸溶液やアルカリ溶液には、亜鉛、ニッケル、コバルト、銅等の重金属塩を添加してもよい。処理液としては、上記溶液の他に人工海水を含めた海水も用いることが出来る。一方、蒸気系処理では水蒸気を用いる。水蒸気としては、純水などの水から発生させた蒸気が用いられる。なお、上述のアルカリ溶液、酸溶液から発生させたアルカリ成分や酸成分を含有する蒸気を用いてもよい。また、溶液系処理を行った場合、孔内に処理液が残留することで腐食の促進や、使用時の不具合に繋がることが懸念されることから、洗浄及び乾燥を行うことが好ましい。
【0037】
溶液系処理の処理温度は、50℃以上100℃以下とするのが好ましい。処理温度が50℃未満では、酸化皮膜の形成に時間が掛かり、十分な耐食性を発揮できない場合がある。一方、100℃を超えると、温度を維持するために余分なエネルギーを消費することになると共に、蒸気の発生が著しく作業環境が過酷になる場合がある。溶液系処理の処理時間は、1分以上60分以下とするのが好ましい。処理時間が1分未満であると十分な酸化皮膜が形成されず、耐食性が劣る場合がある。一方、60分を超えると、それ以上処理を行っても効果が飽和してしまう場合がある。溶液系処理を行った場合は、処理液を除去するために水洗等の洗浄を行うことが好ましい。
【0038】
水蒸気系処理の処理温度は、100℃以上300℃以下とするのが好ましく、実施の容易さから110℃以上200℃以下とするのが更に好ましい。処理温度が100℃未満では、多孔質金属の外面における水蒸気の凝集によって内部まで酸化皮膜が形成されない場合がある。水蒸気の温度が300℃を超えると、温度を高くする効果が飽和してしまう場合がある。水蒸気系処理の処理時間は、10分以上180分以下とするのが好ましい。処理時間が10分未満では、十分な酸化皮膜が形成されず、耐食性が劣る場合がある。一方、180分を超えると、それ以上処理を行っても効果が飽和してしまう場合がある。
【0039】
溶液系処理による表面処理多孔質金属の製造においては、通常、上記に詳述した多孔質金属の表面処理と共に支持粉末を除去することもできるので、支持粉末の除去工程を設けなくてもよい。一方、溶液処理において表面処理と共に支持粉末を十分に除去することができない場合や水蒸気処理の場合には、別途、支持粉末を除去する必要があるので、金属粉末の圧延後であって表面処理前に支持粉末を除去して空隙を形成する工程を設けなければならない。
【0040】
上記表面処理に先立って、効率的に皮膜を形成させるために金属表面の酸化皮膜や油分を除去することを目的として水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液や硝酸等の酸溶液で、脱脂処理や洗浄処理を行ってもよい。これら脱脂処理や洗浄処理には、市販の脱脂剤や洗浄剤を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例及び比較例に基づいて、本発明の第1の実施態様を具体的に説明する。
実施例1〜14及び比較例1〜4
金属粉末として、粒径の異なる下記純アルミニウム粉末(A1〜A3)を用いた。支持粉末として、ふるい目開きの中央値による粒径の異なる塩化ナトリウム粉末(B1〜B3)、ならびに、粒径がふるい目開きの中央値で550μmの塩化カリウム(B4)を用いた。表1及び表2に示すように、純アルミニウム粉末と支持粉末を所定の混合体積比で混合した混合物を調製した。調製した混合物を表1及び表2に記載の温度に予め加熱又は加熱しないで圧延し、厚さ1.5〜4mmの圧延体試料を作製した。なお、実施例1、2、4、7、8、11、12〜14及び比較例1、2、4では、混合物を加圧成形してこれを圧延した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
<純アルミニウム粉末A(アルミニウム純度99.7%以上)>
A1:粒径3μm
A2:粒径20μm
A3:粒径30μm
【0045】
<塩化ナトリウム粉末B>
B1:粒径120μm
B2:粒径550μm
B3:粒径780μm
<塩化カリウム粉末B>
C1:粒径550μm
【0046】
上記のようにして作製した圧延体試料を用いて、以下の評価を行った。
(a)形状維持性
20mm×20mmに切り出した圧延体試料を20℃の流水(水道水)中に24時間浸漬し支持粉末を溶出させ多孔質金属とした。溶出前後の体積減少割合を形状維持の指標とし、下記基準で評価した。
○:体積減少割合<10%
×:10%≦体積減少割合
○を合格とし、×を不合格とした。
【0047】
(b)支持粉末除去性
支持粉末の除去性を調査するために、上記溶出後の多孔質金属中の塩化ナトリウム又は塩化カリウムの残留量を測定し、下記基準で評価した。
○:残留量<0.5%
△:0.5%≦残留量<1%
×:1%≦残留量
○、△を合格とし、×を不合格とした。
【0048】
評価結果を、表1及び表2に示す。表1及び表2に示すように、実施例1〜14ではいずれも、形状維持性及び支持粉末除去性が合格であった。ここで、実施例2において作製した多孔質金属の断面SEM写真を図1の(a)〜(c)に示す。(a)は、図2の断面1のSEM写真である。断面1は圧粉体4の圧延面に平行な断面を表し、断面2は、圧延方向Lに垂直な断面を表し、断面3は圧延方向Lに平行な断面を表す。また、図1において、Aは支持粉末が除去された空隙を、Bは結合金属粉末壁を示す。
【0049】
比較例1及び比較例2では、支持粉末である塩化ナトリウム粉末の粒径が小さ過ぎたため金属粉末が支持粉末を十分に覆うことができず、金属粉末同士の結合が途切れて形状の崩れが発生した。
比較例3では、支持粉末の混合割合が少な過ぎたため、圧延体中に独立して存在した支持粉末が水洗後も残留した。
比較例4では、支持粉末の混合割合が多過ぎたため金属粉末同士の結合頻度が少なく、形状の崩れが発生した。
【0050】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明の第2の実施態様を具体的に説明する。
実施例15〜29及び比較例5〜7
表面処理を施す前の多孔質アルミニウム試料として、実施例13において作製した試料を用いた。すなわち、上記Alのアルミニウム粉末と、上記B2の塩化ナトリウム粉末を用い、アルミニウム粉末:塩化ナトリウム粉末=1:9の体積比で混合して多孔質アルミニウム試料を作製した。混合粉末は50MPaで加圧成形して板状圧粉体とし、予熱工程において500℃に加熱してから圧延した。塩化ナトリウムの溶出は20℃の流水(水道水)中に24時間浸漬して行った。
【0051】
このようにして作製した多孔質アルミニウム試料に対して、表3、4に示す処理液又は蒸気を用い、処理温度と処理時間を変えて表面処理を行った。処理液の溶媒にはイオン交換水を用いた。実施例24、25では、処理液として人工海水(ASTM D1141準拠)を用いた。また、実施例25では、支持粉末を溶出する工程を行わずに表面処理を行った。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
上記のようにして作製した多孔質アルミニウム試料を用いて、以下の評価を行った。
【0055】
(c)耐食性
表面処理を施した多孔質アルミニウム試料に20%塩酸100mlを流通させ、多孔質アルミニウムを通過した塩酸中のAl濃度を測定し、下記基準で評価した。
◎:3mg/L>Al濃度
○:10mg/L>Al濃度≧3mg/L
△:18mg/L>Al濃度≧10mg/L
×:Al濃度≧18mg/L
◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
【0056】
評価結果を表3及び4に示す。表3及び4に示すように、実施例15〜29ではいずれも耐食性が合格であった。しかしながら、実施例26、27、28では処理温度が低く、実施例29では処理時間が短かったため、他の実施例に比べて耐食性が劣った。
【0057】
比較例5では、表面処理を施さなかったために耐食性が不合格であった。
比較例6では、有機溶剤であるヘキサンで処理を行っても皮膜は形成されず、耐食性が不合格であった。
比較例7では、大気雰囲気で熱処理しただけなので、表面に耐食性の皮膜が形成されず耐食性が不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明による多孔質金属は気孔率が高く連通孔で表面積が大きいことから、吸着剤、触媒、吸音材、電池電極、電磁波吸収体、光吸収体などに利用した際に、優れた性能を発揮する。また、多孔質金属と帯状又は板状の金属との複合多孔質金属は、吸着性など多孔質金属が有する特性に加えて、帯状又は板状の金属の構造材としての特性を併せもつ。更に、表面処理多孔質金属では、流体成分などによる腐食についても表面の酸化皮膜によって優れた耐食性を有する。
【符号の説明】
【0059】
1,2,3‥‥‥断面、4‥‥‥圧粉体、A‥‥‥空隙、B‥‥‥結合金属粉末壁、L‥‥‥圧延方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合する混合工程と、混合した混合粉末を圧延する圧延工程と、前記支持粉末を除去して空隙を形成する支持粉末除去工程と、を含むことを特徴とする多孔質金属の製造方法。
【請求項2】
金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合する混合工程と、混合した混合粉末を加圧成形して圧粉体とする加圧成形工程と、当該圧粉体を圧延する圧延工程と、前記支持粉末を除去して空隙を形成する支持粉末除去工程と、を含むことを特徴とする多孔質金属の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末が純アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも一方から成り、前記支持粉末が水溶性塩である、請求項1又は2に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項4】
前記圧延工程の前に、前記混合粉末又は圧粉体を、前記支持粉末の融点未満で、かつ、前記金属粉末の再結晶温度以上融点未満の温度に予め加熱する予熱工程を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項5】
金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合して混合粉末とし、この混合粉末を圧延して圧延体とし、次いで、この圧延体に、水、アルカリ溶液及び酸溶液を用いた少なくともいずれか一の表面処理を施すことを特徴とする多孔質金属の製造方法。
【請求項6】
金属粉末と、粒径が金属粉末の10倍以上の支持粉末とを、金属粉末:支持粉末=3:7〜1:19の体積比で混合して混合粉末とし、この混合粉末を圧延して圧延体とし、次いで、この圧延体から前記支持粉末を除去して空隙を形成し、水、アルカリ溶液、酸溶液及び水蒸気を用いた少なくともいずれか一の表面処理を施すことを特徴とする多孔質金属の製造方法。
【請求項7】
前記金属粉末が純アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも一方から成り、前記支持粉末が水溶性塩である、請求項5又は6に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項8】
前記圧延工程の前に、前記混合粉末を加圧成形して圧粉体とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項9】
前記圧延工程の前に、前記混合粉末又は圧粉体を、前記支持粉末の融点未満で、かつ、前記金属粉末の再結晶温度以上融点未満の温度に予め加熱する予熱工程を備える、請求項5〜8のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項10】
前記表面処理が、前記圧延体を50℃以上100℃以下の水、アルカリ溶液及び酸溶液のいずれかに1分以上60分以下浸漬させる、請求項5〜9のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。
【請求項11】
前記表面処理が、前記圧延体を100℃以上300℃以下の水蒸気に10分以上180分以下曝す、請求項6〜9のいずれか一項に記載の多孔質金属の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1808(P2012−1808A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107484(P2011−107484)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】