説明

多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物、それを用いた多孔質金属又は多孔質セラミックスの製造方法

【課題】 多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物やそれを用いて容易に多孔質材料、中でも気孔径や気孔率に分布、例えば傾斜性分布等をもたせ、また、気孔に方向性をもたせた多孔質材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】 上記粘土組成物を、粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と、金属粉又はセラミックス粉と、粒径5〜5000μmの発泡樹脂、中空樹脂及び中実樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる気孔形成材とを含んでなるスラリーに、ゲル化材を加えて粘土状としてなるものとする。該水溶性高分子にポリビニルアルコールを用い、さらにゲル化材に硼砂、硼酸等の含ホウ素化合物、コンゴーレッド、フェノールを用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物、それを用いた多孔質金属又は多孔質セラミックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所要形状の金属製品の製造法として、粘土状の素材を所要形状に成型した後、それを乾燥するか、あるいは脱脂後焼結する方法が知られているが(特許文献1ないし3参照)、この方法は得られる金属製品を高密度とするのを課題とするものであって、多孔質とするものではない。
また、多孔質体としては、気孔率を変化させる製法も知られているが(特許文献4ないし7参照)、これらの方法では気孔率を任意に調整・設計して変化させるのは困難である。
また、方向性のある気孔をもつ多孔質材料の製造方法も提案されてはいるが(特許文献8、9参照)、この方法も多孔質材料に高い気孔率をもたせるのは技術的に難しく、また気孔径の制御も困難である。
【0003】
【特許文献1】特開平07−070604号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平08−269503号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特許第3435508号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平07−138084号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開平10−231184号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】特開2003−128477号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献7】特開2003−165782号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献8】米国特許第5,181,549号明細書(特許請求の範囲その他)
【特許文献9】特開平2003−200253(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、このような事情の下、多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物やそれを用いて容易に多孔質材料、中でも気孔径や気孔率に分布、例えば傾斜性分布等をもたせ、また、気孔に方向性をもたせた多孔質材料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、多孔質金属や多孔質セラミックスを製造するのに適した粘土組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、所定気孔形成材を用い、これと所定無機粉と所定バインダーを含むスラリーにゲル化剤を加えることが、課題解決に資することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と、金属粉又はセラミックス粉と、粒径5〜5000μmの発泡樹脂、中空樹脂及び中実樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる気孔形成材とを含んでなるスラリーに、ゲル化剤を加えて粘土状としてなる多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物。
(2)水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、寒天、マンノース、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、ポリエチレングリコール及びアルキルセルロースの中から選ばれた少なくとも1種である前記(1)記載の粘土組成物。
(3)気孔形成材が発泡ポリスチレンからなる前記(1)又は(2)記載の粘土組成物。
(4)水溶性高分子がポリビニルアルコールであって、ゲル化剤が含ホウ素化合物、コンゴーレッド、フェノールである前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の粘土組成物。
(5)含ホウ素化合物が硼砂、硼酸である前記(4)記載の粘土組成物。
(6)スラリーがさらに界面活性剤を含むものである前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の粘土組成物。
(7)金属粉が、貴金属、貴金属合金、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、アルミニウム系合金、銅系合金、チタン系合金、モリブデン系合金、タングステン系合金、ニッケル系合金、鉄系合金、コバルト系合金、磁性合金、超硬合金、耐食合金、耐熱合金、導電用合金、超電導合金、摺動用合金、軸受用合金、防振合金、水素貯蔵用合金、形状記憶合金、電極用合金、金属間化合物、ステンレス鋼、炭素鋼、合金鋼、磁石鋼、工具鋼及び高速度鋼の中から選ばれた少なくとも1種である前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の粘土組成物。
(8)セラミックス粉が、シリカ、シリカ‐アルミナ、シリカ‐マグネシア、シリカ‐チタニア、シリカジルコニア、アルミナ、アルミナ‐マグネシア、アルミナ‐チタニア、アルミナ‐ボリア、アルミナ‐ジルコニア、アルミナ‐ホスファ、チタニア、ジルコニア、ボリア、ケイ石、ケイ砂、カオリン、ベントナイト、マグネサイト、ドロマイト、長石、陶石、ゼオライト、シリコンカーバイド、PZT及び磁性セラミックスの中から選ばれた少なくとも1種である前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の粘土組成物。
(9)粘性のある水溶性高分子のバインダーの水溶液と金属粉又はセラミックス粉を混合してスラリーを調製し、このスラリーに気孔形成材を混入したのち、ゲル化剤を加えて粘土状とすることを特徴とする多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物の製造方法。
(10)前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の粘土組成物を成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
(11)前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の粘土組成物として、気孔形成材の含有割合を異にする2種以上のものを用い、それらを組み合わせて成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
(12)組み合わせて成形するのを、2種以上の粘土組成物を、気孔形成材の含有割合が積層方向に傾斜分布を呈するように積層することによって行い、厚さ方向に気孔率が傾斜分布を呈する多孔質材料を製造する前記(11)記載の製造方法。
(13)(A)前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の粘土組成物と、(B)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた金属粉又はセラミックス粉を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物及び(C)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた気孔形成材を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物の一方又は両方とを組み合わせて成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
(14)(C)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた気孔形成材を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物を棒状に成形して第一の芯材とし、これを包むように(B)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた金属粉又はセラミックス粉を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物を包着したものを引き伸ばし、これを数等分し、これらをまとめて棒状に成形して第二の芯材とし、これを包むように粘土組成物(B)を包着したものを引き伸ばす操作を繰り返すことにより、引き伸ばし方向に繊維状の気孔形成材が列設された多孔質体前駆体を作成し、該前駆体を乾燥し、これを包むように粘土組成物(B)を包着したのち、乾燥し、さらにこれを包むように(A)前記(1)ないし(8)のいずれかに記載の粘土組成物を包着したのち、乾燥し、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【0007】
本発明の粘土組成物は、粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液、金属粉又はセラミックス粉(以下、金属・セラミックス粉ともいう)及び気孔形成材を含んでなるスラリー(以下、粉体等含有スラリーともいう)に、ゲル化剤を加えて粘土状としてなるものである。
【0008】
この金属粉としては、水と接触させても急激に酸化することのないものが好ましく、このようなものの金属種としては、例えば金、銀、白金、パラジウム等の貴金属やその合金、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、アルミニウム系合金、銅系合金、チタン系合金、モリブデン系合金、タングステン系合金、ニッケル系合金、鉄系合金、コバルト系合金、磁性合金(例えばSm−Co系磁性体、Nd−Fe−B系磁性体等)、超硬合金、耐食合金、耐熱合金、導電用合金、超電導合金、摺動用合金、軸受用合金、防振合金、水素貯蔵用合金、形状記憶合金、電極用合金、金属間化合物、ステンレス鋼、炭素鋼、合金鋼、磁石鋼、工具鋼、高速度鋼等が挙げられる。これらは1種用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、セラミックス粉としては、例えばシリカ、シリカ‐アルミナ、シリカ‐マグネシア、シリカ‐チタニア、シリカ‐ジルコニア、アルミナ、アルミナ‐マグネシア、アルミナ‐チタニア、アルミナ‐ボリア、アルミナ‐ジルコニア、アルミナ‐ホスファ、チタニア、ジルコニア、ボリア、ケイ石、ケイ砂、カオリン、ベントナイト、マグネサイト、ドロマイト、長石、陶石、ゼオライト、シリコンカーバイド、PZT、磁性セラミックス等が挙げられる。これらは1種用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属粉やセラミックス粉の粒径については特に制限されないが、通常100μm以下、好ましくは20〜0.1μmの範囲で、目標とする気孔径、気孔率等を考慮しつつ選ばれる。
【0009】
上記バインダーは、水溶液とすると粘性を示す水溶性高分子であればよく、このようなものとしては、例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニールピロリドン、その他、天然増粘材としてのキサンタンガム、アガロース、マンノース、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、グアガム、カラギーナン、ペクチン、ジュランガムなどが取り扱いが容易であり、中でもポリビニールアルコールが目的粘土組成物に容易に薄く、あるいは細く引き延ばせるなど優れた成形加工性をもたらし、例えば粘土組成物をそのまま圧延・乾燥・焼成することによって、例えば厚さ0.1〜0.5mm、気孔率80〜95%のシート状の多孔質体等を容易に製造するのを可能にするので、好ましい。
これらの水溶性高分子は1種用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
上記気孔形成材は、粒径5〜5000μm、好ましくは20〜1000μmの発泡樹脂、中空樹脂及び中実樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなるものであって、樹脂の材質については加熱あるいはその他の手法による分解が可能であれば限定されないが、好ましくは発泡ポリスチレンが用いられる。気孔形成材は、それを含まない粘土をそのまま乾燥させると収縮してしまうのに対し、目的粘土組成物について乾燥による収縮を起こさせないようにするのに有用である。
【0011】
粉体等含有スラリーにおいて、金属・セラミックス粉の含有割合は体積基準で5〜70%、好ましくは10〜60%の範囲で、また気孔形成材の含有割合は金属・セラミックス粉と水溶性高分子水溶液の合計体積に対し、嵩体積基準で5〜4000%、好ましくは10〜2000%の範囲で選ばれ、水溶性高分子水溶液は水溶性高分子濃度が該水溶液に対して0.5〜30質量%、好ましくは1〜15質量%の範囲になるように調整されたものがよい。
さらに、気孔形成材は望む気孔率に応じて上記含有割合を変動させるが、高気孔率の場合には粉体等含有スラリーに対し5〜20倍のタップ体積となるようにすることも可能である。また、高気孔率の気孔形成には気孔形成材の形状を真球形、あるいはそれに近い形状とすることが望ましい。
【0012】
また、粉体等含有スラリーには、必要に応じ、適宜任意成分添加することもできる。
このような添加成分としては、例えば界面活性剤、成形性向上材、可塑剤、溶媒などが挙げられる。
界面活性剤は粉体等含有スラリーにおいてその表面張力を低下させたり、気孔形成材のなじみを向上させたりするのに有用であり、好ましくはアルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤や、ポリオキシエチルアルキルエーテル等のポリエチレングリコール誘導体、多価アルコール誘導体などのノニオン界面活性剤、市販の汎用中性洗剤が挙げられる。
界面活性剤の添加量は気孔形成材やその粉体等含有スラリーに対する含有割合等に応じて適宜調節される。
また、成形性向上材は、目的粘土組成物について成形性、中でも延性を向上させるのに有用であり、好ましくはでんぷん、多糖類等が挙げられ、さらにでんぷん類としては、小麦粉、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷんなどが入手容易で取り扱いやすいので有利である。
また、可塑剤としては、金属粉又はセラミックス粉の分散効果を高めるもの、好ましくはグリセリン、エチレングリコールが挙げられる。
また、溶媒としては、乾燥性を高めるもの、好ましくはエタノールのようなアルコール類が挙げられる。
【0013】
本発明において用いられるゲル化剤は、前記諸成分を混合して調製されるスラリーに混合することにより、これを粘土状とするものであればよく、例えば水溶性高分子がポリビニルアルコールの場合、このようなものとしては、含ホウ素化合物、コンゴーレッド、フェノールなどが挙げられ、中でも硼砂、硼酸等の含ホウ素化合物が好ましい。
【0014】
前記した本発明の粘土組成物を用いて多孔質材料を製造することができる。
その簡単な方法としては、前記粘土組成物を成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させる方法が挙げられる。
また、この方法において、成形を、本発明の粘土組成物として気孔形成材の含有割合を異にする2種以上のものを用い、これを組み合わせて行うこと、例えば2種以上の粘土組成物を、気孔形成材の含有割合が積層方向に傾斜分布を呈するように積層することなども可能である。
また、(A)本発明の粘土組成物と、(B)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた金属粉又はセラミックス粉を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物及び(C)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた気孔形成材を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物の一方又は両方とを組み合わせて成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させる方法も挙げられる。
このような方法により、任意に気孔率の分布を変化させた材料の成形も可能となり、特に、気孔形成材の含有量を変えた粘土組成物を層状に積み上げ圧延することによって、例えば0.5〜2mmの厚さの間で気孔率を80〜95%と変化させた多孔質体の製造も可能である。
さらには、(C)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた気孔形成材を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物を棒状に成形して第一の芯材とし、これを包むように(B)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた金属粉又はセラミックス粉を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物を包着したものを引き伸ばし、これを数等分し、これらをまとめて棒状に成形して第二の芯材とし、これを包むように粘土組成物(B)を包着したものを引き伸ばす操作を繰り返すことにより、引き伸ばし方向に繊維状の気孔形成材が列設された多孔質体前駆体を作成し、該前駆体を乾燥し、これを包むように粘土組成物(B)を包着したのち、乾燥し、さらにこれを包むように(A)本発明の粘土組成物を包着したのち、乾燥し、焼成するとともに気孔形成材を焼失させる方法も挙げられる。
このような方法により、気孔形成材を含まない金属粘土に金属を含まない粘土の芯をとおし、引き延ばしながら畳み込む操作を何度も繰り返すことによって、材料の縦方向に繊維状に通気孔が通る構造の多孔質材料の製造も可能である。この場合、乾燥時の収縮を避けるため、成形した素材を一旦凍結し凍結乾燥法により乾燥することもできる。
さらにまた、このような方法を組み合わせて繊維状に走った多孔質構造や、気孔率の高い構造を組み合わせ複雑な気孔構造を持つ多孔質体を製造することも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物は、容易に引き伸ばしたり、圧延したり、薄くしたりするなど成形加工性に優れている。
本発明方法によれば、気孔率、気孔径、気孔の方向等の制御された多孔質金属又は多孔質セラミックスを製造することができ、例えば超硬合金のような難加工性材料から貴金属等までの広範な金属やセラミックスを含む幅広い材料の微細なセル構造をもつ高気孔率の多孔質体等を例えばバルク素材等として製造することが可能となる。
本発明方法により得られる多孔質材料の応用範囲は極めて広く、種々の技術分野、例えば、航空宇宙材料、スポーツ用品素材等の軽量かつ高比強度が要求される分野、断熱特性、耐熱性、吸振性の要求される分野、緩衝材料、梱包材料などの衝撃エネルギーの吸収が要求される分野、軽量化の要求される分野、フィルター材料、触媒担体材料、電極材料など広い表面積が要求される分野、生体適合性の要求される分野における素材として利用することが可能である。
本発明方法は、特に安価に供給される鉄系素材やセラミックスについてその多孔質化を実現した効果が大きく、様々の分野における多孔質材料を供するのに資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0017】
<多孔質板>
金属粉として、平均粒径3μmのSUS316Lステンレス鋼粉(アトミックス社製、PF−3)(以下、ステンレス鋼粉PFという)を、また、高分子水溶液として、平均分子量115000、ポリビニルアルコールの6質量%水溶液(日本合成化学工業社製、ゴーセノール)(以下、6%PVA液という)を、また、ゲル化剤として硼砂の8質量%水溶液(以下、8%硼砂液という)を、また、気孔形成材として、平均粒径0.1mmの発泡スチロール球(積水化成品工業社製、膨張率20倍)をそれぞれ用いた。
6%PVA液80容量%(25ml)とステンレス鋼粉PF20容量%(50g)を混合してスラリーを調製し、このスラリーに対し、それぞれ4、6、8及び12gと用量を種々変えて気孔形成用樹脂材を混入し、それぞれにさらに8%硼砂液5mlを加えてゲル化させ粘土状として各金属粘土組成物(それぞれ金属粘土組成物A、金属粘土組成物B、金属粘土組成物C、金属粘土組成物Dという)を得た。
これらの各金属粘土組成物を0.5mm厚の薄板状にローラーで圧延成型し60℃で2時間乾燥したのち、真空雰囲気下1050℃で1時間焼成したところ、厚さ0.4mmの軽量の各種多孔質金属板が得られた。これらの多孔質金属板の各気孔率は、気孔形成用樹脂材の混入量の増える順に、81%、86%、88%、93%と増大した。
このような金属板は、電極、フィルター、触媒担体、軽量構造物外装用など広範囲の用途に利用しうる。
【実施例2】
【0018】
<傾斜構造多孔質板>
実施例1と同様にして得られた金属粘土組成物A、金属粘土組成物C及び金属粘土組成物Dを使用し、厚さ方向に気孔率が変化する多孔質板を以下のようにして作製した。
すなわち、これらの各金属粘土組成物を0.5mm厚の薄板状にローラーで圧延成型し、重ねあわせ、60℃で2時間乾燥したのち、真空雰囲気下1050℃で1時間焼成したところ、気孔率が厚さ方向へ徐々に変化する厚さ1.2mmの多孔質金属板が得られた。気孔率は高気孔率部分で93%、低気孔率部分で80%であった。
このような金属板は、気化装置、燃焼装置等の気化部材用などの用途に利用しうる。
【実施例3】
【0019】
<縦貫通気孔を有する材料>
実施例1と同様に、高分子水溶液としての6%PVA液、金属粉としてのステンレス鋼粉PF、ゲル化剤としての8%硼砂液、気孔形成材としての発泡スチロール球を使用した。
気孔形成材を含まない金属粘土及び気孔形成材粘土はそれぞれ以下のようにして作製した。
すなわち、6%PVA液25mlに対しステンレス鋼粉PF150gを混合してスラリーを調製し、このスラリーに8%硼砂液5mlを加えてゲル化させ粘土状として該金属粘土を得た。
また、6%PVA液25mlに対し発泡スチロール球10gを混合してスラリーを調製し、このスラリーに8%硼砂液5mlを加えてゲル化させ粘土状として気孔形成材粘土を得た。
気孔形成材粘土を長尺で直径10mmの丸棒に成型し、その丸棒を包むように厚さ1mmの金属粘土を巻き付けたのち、直径が1/3程度になるまで引き伸ばし、短尺に7等分し、これらをまとめてまた1つの丸棒にするという操作を3回程度繰り返して軸方向に繊維状の気孔形成材が揃った多孔質体前駆体を作製し、この前駆体を60℃で24時間乾燥し、水素雰囲気下で1050℃で1時間焼成して軸方向に気孔が揃った多孔質ステンレス鋼を多孔質金属として作製した。この多孔質金属の気孔率は80%、気孔径は0.4mm程度であった。
このように引き伸ばしてはまとめる操作を繰り返せば、金属粉と気孔形成材の粒径により制約されるものの、気孔径をさらに小さくしていくことが可能である。
【実施例4】
【0020】
<生体用構造材>
実施例3と同様にして得た多孔質体前駆体を乾燥後、所望の形状に整えたのち、その上に、実施例3と同様にして得た、気孔形成材を含まない金属粘土を薄く引き延ばして貼り付け、乾燥させた。
このようにして得られた成型体の表面にさらに実施例1と同様にして得た金属粘土組成物Cを薄く引きのばしたものを貼り付けて乾燥させて前駆体を作成し、この前駆体を十分な時間をかけて脱脂し焼成することにより、図1に示す構造をもつ製品を作製した。
このようにして得られた製品は、内部が方向性を持つ多孔質状態で、気孔の軸方向に対する強度にすぐれると同時に軽量であり、全体が緻密な層で包まれ、表面が多孔質状態の層でさらに包まれているので、生体との適合性を向上させうる生体用構造材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例4の、生体用構造材として有用な製品の多重気孔構造を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と、金属粉又はセラミックス粉と、粒径5〜5000μmの発泡樹脂、中空樹脂及び中実樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる気孔形成材とを含んでなるスラリーに、ゲル化剤を加えて粘土状としてなる多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物。
【請求項2】
水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、寒天、マンノース、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、ポリエチレングリコール及びアルキルセルロースの中から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の粘土組成物。
【請求項3】
気孔形成材が発泡ポリスチレンからなる請求項1又は2記載の粘土組成物。
【請求項4】
水溶性高分子がポリビニルアルコールであって、ゲル化剤が含ホウ素化合物、コンゴーレッド、フェノールである請求項1ないし3のいずれかに記載の粘土組成物。
【請求項5】
含ホウ素化合物が硼砂、硼酸である請求項4記載の粘土組成物。
【請求項6】
スラリーがさらに界面活性剤を含むものである請求項1ないし5のいずれかに記載の粘土組成物。
【請求項7】
金属粉が、貴金属、貴金属合金、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、アルミニウム系合金、銅系合金、チタン系合金、モリブデン系合金、タングステン系合金、ニッケル系合金、鉄系合金、コバルト系合金、磁性合金、超硬合金、耐食合金、耐熱合金、導電用合金、超電導合金、摺動用合金、軸受用合金、防振合金、水素貯蔵用合金、形状記憶合金、電極用合金、金属間化合物、ステンレス鋼、炭素鋼、合金鋼、磁石鋼、工具鋼及び高速度鋼の中から選ばれた少なくとも1種である請求項1ないし6のいずれかに記載の粘土組成物。
【請求項8】
セラミックス粉が、シリカ、シリカ‐アルミナ、シリカ‐マグネシア、シリカ‐チタニア、シリカ‐ジルコニア、アルミナ、アルミナ‐マグネシア、アルミナ‐チタニア、アルミナ‐ボリア、アルミナ‐ジルコニア、アルミナ‐ホスファ、チタニア、ジルコニア、ボリア、ケイ石、ケイ砂、カオリン、ベントナイト、マグネサイト、ドロマイト、長石、陶石、ゼオライト、シリコンカーバイド、PZT及び磁性セラミックスの中から選ばれた少なくとも1種である請求項1ないし6のいずれかに記載の粘土組成物。
【請求項9】
粘性のある水溶性高分子のバインダーの水溶液と金属粉又はセラミックス粉を混合してスラリーを調製し、このスラリーに気孔形成材を混入したのち、ゲル化剤を加えて粘土状とすることを特徴とする多孔質金属又は多孔質セラミックス用粘土組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれかに記載の粘土組成物を成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれかに記載の粘土組成物として、気孔形成材の含有割合を異にする2種以上のものを用い、それらを組み合わせて成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【請求項12】
組み合わせて成形するのを、2種以上の粘土組成物を、気孔形成材の含有割合が積層方向に傾斜分布を呈するように積層することによって行い、厚さ方向に気孔率が傾斜分布を呈する多孔質材料を製造する請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
(A)請求項1ないし8のいずれかに記載の粘土組成物と、(B)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた金属粉又はセラミックス粉を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物及び(C)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた気孔形成材を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物の一方又は両方とを組み合わせて成形し、乾燥したのち、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。
【請求項14】
(C)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた気孔形成材を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物を棒状に成形して第一の芯材とし、これを包むように(B)粘性のある水溶性高分子からなるバインダーの水溶液と混合させた金属粉又はセラミックス粉を含んでなるスラリーにゲル化剤を加えて粘土状としてなる粘土組成物を包着したものを引き伸ばし、これを数等分し、これらをまとめて棒状に成形して第二の芯材とし、これを包むように粘土組成物(B)を包着したものを引き伸ばす操作を繰り返すことにより、引き伸ばし方向に繊維状の気孔形成材が列設された多孔質体前駆体を作成し、該前駆体を乾燥し、これを包むように粘土組成物(B)を包着したのち、乾燥し、さらにこれを包むように(A)請求項1ないし8のいずれかに記載の粘土組成物を包着したのち、乾燥し、焼成するとともに気孔形成材を焼失させることを特徴とする多孔質材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−307295(P2006−307295A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132405(P2005−132405)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】