説明

多孔質金属箔およびその製造方法

【課題】多孔質金属箔に由来する優れた特性に加えて、両面間で特性差が低減された有用性の高い複合金属箔を連続生産にも適した高い生産性で安価に得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質金属箔10は、金属繊維11で構成される二次元網目構造からなる。この多孔質金属箔10は、光沢度が高めの第一面と、第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを有する。JIS Z 8741(1997)に準拠して60度の入射角および反射角で測定される、第一面の光沢度Gの第二面の光沢度Gに対する比G/Gは1〜15である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属箔およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器、電気自動車、およびハイブリッド自動車用の蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタが注目されている。このような蓄電デバイスの負極集電体として多孔質金属箔が使用され、あるいはその使用が検討されている。これは、多孔質とすることで、体積や重量を低減できること(それにより自動車にあっては燃費を改善できること)、孔を活用したアンカー効果により活物質の密着力を向上できること、孔を利用してリチウムイオンのプレドープ(例えば垂直プレドープ)を効率的に行えること等の利点があるためである。
【0003】
このような多孔質金属箔の公知の製造方法としては、(1)基材表面に絶縁性被膜で所望のパターンでマスキングしておきその上から電解めっきを施すことでパターン通りに孔を形成させる方法、(2)基材表面に特有の表面粗さや表面性状を付与しておきその上から電解めっきを施すことで核生成を制御する方法、(3)無孔質の金属箔をエッチングや機械加工により穿孔する方法、(4)発泡金属や不織布へめっきの手法により三次元網目構造を形成させる方法などが挙げられる。
【0004】
特に、上記(2)の方法については工程が比較的簡素で量産に適することから、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、表面粗さRzが0.8μm以下である陰極に電解めっきを施すことにより微細孔開き金属箔を製造する方法が開示されている。特許文献2には、チタンまたはチタン合金からなるカソード体の表面に陽極酸化法により酸化被膜を形成し、カソード体の表面へ銅を電析して多孔質銅箔を形成してカソード体から剥離する方法が開示されている。特許文献3には、アルミニウム合金キャリア付孔開き金属箔を製造するために、アルミニウムをエッチングすることで均一な突出部を形成し、その突出部を電析の核として徐々に金属粒子を成長させて連ならせる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの従来の製法にあっては、一般的に、多くの工程数を要することから製造コストが高くなる傾向にあること、さらには、パンチング等の機械加工ではバリが発生し、陽極酸化法では核発生の制御が困難であること等の理由から、安定した開孔率の箔を低コストで製造することは容易ではないのが実情である。また、長尺品の製造が難しく、陽極酸化法では連続的に剥離すると酸化被膜が破壊され、多孔質箔の剥離性と開孔率の安定性に課題があった。特に、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの負極集電体では、高性能化に伴い、バリがなく、孔を小さくすることができる、高い開孔率の多孔質金属箔が求められている。
【0006】
一方、集電体としての金属箔にプライマーを塗布して電池特性を向上することが知られている。例えば、特許文献5ではリチウムポリシリケートおよび所望により炭素質成分を含むプライマーを集電体の表面に塗布することが開示されている。また、特許文献6には集電体基材としての金属箔や金属メッシュまたはパンチングメタルのような面状部材の上に、炭素粉末、炭素繊維、導電性ポリマー等の1種または2種以上からなる導電助剤を、バインダーを用いて固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−195689号公報
【特許文献2】特許第3262558号公報
【特許文献3】特開2005−251429号公報
【特許文献4】特開2001−52710号公報
【特許文献5】WO2009/031555A1
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、クラックの形成されたある種の剥離層上に金属めっきを行うことにより、優れた特性を有する多孔質の金属箔を連続生産にも適した高い生産性で安価に得られるとの知見を得た。しかも、金属箔の両面の表面形状ないし表面粗さを近づけることで、両面間で特性差が低減された有用性の高い多孔質金属箔が得られるとの知見も得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、多孔質金属箔に由来する優れた特性に加えて、両面間で特性差が低減された有用性の高い多孔質金属箔を連続生産にも適した高い生産性で安価に得ることにある。
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔であって、
前記多孔質金属箔が、光沢度が高めの第一面と、前記第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを有し、
JIS Z 8741(1997)に準拠して60度の入射角および反射角で測定される、前記第一面の光沢度Gの前記第二面の光沢度Gに対する比G/Gが1〜15である、多孔質金属箔が提供される。
【0011】
また、本発明の他の一態様によれば、多孔質金属箔の製造方法であって、
表面にクラックが発生した剥離層を備えた導電性基材を用意する工程と、
前記剥離層に、前記クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、前記クラックに沿って金属を析出させ、それにより金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔を形成する工程と、
前記多孔質金属箔を前記剥離層から剥離して、前記剥離層との接触面に起因して光沢度が高めの第一面と、前記第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを与える工程と、
前記第一面および前記第二面の少なくともいずれか一方に表面処理を施すことにより、前記第一面の光沢度の前記第二面の光沢度に対する比を小さくする工程と
を含んでなる、製造方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明のさらに別の一態様によれば、多孔質金属箔の製造方法であって、
表面にクラックが発生し、かつ、凹凸が付与された剥離層を備えた導電性基材を用意する工程と、
前記剥離層に、前記クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、前記クラックに沿って金属を析出させ、それにより金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔を形成する工程と、
前記多孔質金属箔を前記剥離層から剥離して、前記剥離層と離れた側に位置する光沢度が高めの第一面と、前記剥離層の凹凸が転写された、光沢度が低めの第二面とを与えるか、または、前記剥離層と離れた側に位置する光沢度が低めの第二面と、前記剥離層の凹凸が転写された光沢度が高めの第一面とを与え、それにより前記第一面の光沢度の前記第二面の光沢度に対する比が小さくされてなる工程と
を含んでなる、製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による多孔質金属箔の一例の上面模式図である。
【図2】本発明による多孔質金属箔を構成する金属繊維の表面処理前の形状を示す模式断面図である。
【図3】本発明による多孔質金属箔を構成する金属繊維の表面処理後の形状を示す模式断面図である。図中、左側に列挙される形状が金属繊維を表面処理により太くする態様に関するものであり、右側に列挙される形状が金属繊維を表面処理により細くする態様に関する。
【図4】本発明による複合金属箔の一例の模式断面図である。
【図5】本発明による多孔質金属箔の製造工程の流れを示す図である。
【図6】本発明による多孔質金属箔を製造するための回転ドラム式製箔装置の一例を示す模式断面図である。
【図7】本発明の製造方法に用いられる両面同時塗布を示す模式図である。
【図8】例A2において、本発明による多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図9】例A2において、本発明による多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面を斜め上方向から(傾斜角45度)から観察したFE−SEM画像である。
【図10】例A2において、本発明による多孔質金属箔の剥離層と接していた面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図11】例A2において、本発明による多孔質金属箔の剥離層と接していた面を斜め上方向(傾斜角45度)から観察したFE−SEM画像である。
【図12】例A2において得られた、本発明による多孔質金属箔を構成する金属繊維を垂直に切断した切断面を示す傾斜角60度にて観察したSIM画像である。
【図13】例A4において行われた引張強度試験における、金属箔サンプルの固定治具への固定を示す模式図である。
【図14】例B2において、本発明による多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図15】例B2において、本発明による多孔質金属箔の剥離層と接していた面を真上(傾斜角0度)から観察したFE−SEM画像である。
【図16A】例D1で得られた試験片1の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図16B】例D1で得られた試験片1の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図17A】例D1で得られた試験片2の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図17B】例D1で得られた試験片2の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図18A】例D1で得られた試験片3の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図18B】例D1で得られた試験片3の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図19A】例D1で得られた試験片4の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図19B】例D1で得られた試験片4の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図20A】例D1で得られた試験片5の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図20B】例D1で得られた試験片5の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図21A】例D1で得られた試験片6の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図21B】例D1で得られた試験片6の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図22A】例D1で得られた試験片7の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像である。
【図22B】例D1で得られた試験片7の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像である。
【図23】例D2で得られた重量開孔率と多孔質金属箔の厚さとの関係をプロットした図である。
【図24A】例D3で得られた凹凸付与金属箔の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像(倍率100倍)である。
【図24B】例D3で得られた凹凸付与金属箔の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像(倍率500倍)である。
【図24C】例D3で得られた凹凸付与金属箔の剥離層と接していなかった面を観察したFE−SEM画像(倍率3000倍)である。
【図25A】例D3で得られた凹凸付与金属箔の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像(倍率100倍)である。
【図25B】例D3で得られた凹凸付与金属箔の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像(倍率500倍)である。
【図25C】例D3で得られた凹凸付与金属箔の剥離層と接していた面を観察したFE−SEM画像(倍率3000倍)である。
【図26A】例E1で得られたクロムめっき形成されたままの状態の電極表面をSEMで観察した画像である。
【図26B】例E1で得られたクロムめっき形成されたままの状態の電極表面をEPMAにより観察したCuマッピング画像である。
【図27】例E1で得られたクロムめっきのクラックに銅が充填された状態の電極の断面をSEMで観察した画像である。
【図28A】例E1で得られたクロムめっきのクラックに銅が充填された状態の電極表面をSEMで観察した画像である。
【図28B】例E1で得られたクロムめっきのクラックに銅が充填された状態の電極表面をEPMAに観察したCuマッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
多孔質金属箔
図1に本発明による多孔質金属箔の一例の上面模式図を示す。図1に示されるように、本発明による多孔質金属箔10は、金属繊維11で構成される二次元網目構造からなる。多孔質金属箔10は、光沢度が高めの第一面と、前記第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを有する。JIS Z 8741(1997)に準拠して60度の入射角および反射角で測定される、第一面の光沢度Gの第二面の光沢度Gに対する比G/Gは(以下、G/G比という)1〜15である。ここで、表面を第一面と称する場合には裏面が第二面となり、裏面を第一面と称する場合には表面が第二面となる。光沢度は金属箔の表面形状および表面粗さを反映するのに適した指標であり、例えば、滑らかで凹凸の小さい金属表面は光沢度が高く、粗く凹凸の大きい表面は光沢度が低い傾向にある。本発明者らの知るかぎり、金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔においてはその製造方法に起因してG/G比が概ね17〜20程度であるが、本発明によれば、両面の表面形状ないし表面粗さをG/G比が1〜15になるまで近づけて両面間で特性差が有意に低減された多孔質金属箔を提供することができる。
【0015】
このように両面間で特性差が低減された多孔質金属箔は様々な用途において有用性が高いものである。例えば、多孔質金属箔(例えば銅箔)を蓄電デバイス用集電体として使用する場合、(1)活物質スラリーの塗工条件を塗工面によって変える必要が無くなる、(2)多孔質金属箔を積層型の蓄電デバイスに組み立てた際、電極反応の面による差をなくして長期使用の信頼性を高めることができる、(3)リチウムイオンドープや円筒の巻き内ないし巻き外への配置など設計自由度を持たせることができる、といった様々な利点が得られる。
【0016】
多孔質金属箔10は、好ましくは3〜80%、より好ましくは5〜60%、さらに好ましくは10〜55%、さらに一層好ましくは20〜55%という開孔率を有する。ここで、開孔率P(%)は、多孔質金属箔と同等の組成および寸法を有する無孔質金属箔の理論重量Wに占める多孔質金属箔の重量Wの比率W/Wを用いて、
P=100−[(W/W)×100]
により定義される。この理論重量Wの算出は、得られた多孔質金属箔の寸法を測定し、測定された寸法から体積(すなわち理論的な無孔質金属箔の体積)を算出し、得られた体積に、作製した多孔質金属箔の材質の密度を乗じることにより行うことができる。
【0017】
このように、多孔質金属箔10にあっては、開孔率を高くしても、二次元網目状に張り巡らされた無数の金属繊維11によって十分な強度を発現することができる。したがって、強度低下を気にすることなく、開孔率を従来に無いレベルにまで高くすることができる。例えば、多孔質金属箔10は、後述する測定方法により測定される引張強さを、好ましくは10N/10mm以上、さらに好ましくは15N/10mm以上とすることができ、これにより多孔質金属箔の破断を効果的に防ぐことができる。もっとも、多孔質金属箔にキャリアを付けた状態で取り扱う場合には、上記範囲より低い引張強度でも問題無い。この場合には、引張強度を気にすることなく開孔率を極限にまで高くすることが可能である。
【0018】
多孔質金属箔10は3〜40μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜25μm、より一層好ましくは10〜20μm、最も好ましくは10〜15μmである。この範囲内であると高開孔率と高強度のバランスに優れる。本発明の多孔質金属箔は金属繊維で構成される二次元網目構造からなるため、多孔質金属箔の厚さは金属繊維の最大断面高さに相当する。このような厚さは多孔質金属箔の孔サイズよりも大きな測定子を用いた市販の膜厚測定装置によって測定するのが好ましい。
【0019】
金属繊維11は金属製の繊維であり、使用する金属は目的とする用途に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。好ましい金属は、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなる。ここで、「含んでなる」とは、上記列挙される金属元素を主として含む金属または合金であればよく、残部として他の金属元素や不可避不純物を含むことが許容されることを意味し、より好ましくは金属ないし合金の50重量%以上が上記列挙される金属元素で構成されるとの意味であり、典型例としては上記列挙される金属元素および不可避不純物からなるものが挙げられる。これらの定義は以下に金属に関して記述される同種の表現に同様に適用されるものとする。これらの金属において、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの負極集電体に適するものは、銅、銅合金、ニッケル、コバルト、および錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるものであり、より好ましくは銅である。特に、二次元網目構造は、基材の表面に形成されたクラックに起因した不規則形状を有してなるのが好ましい。
【0020】
金属繊維11の線径は5〜80μmであるのが好ましく、より好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは8〜30μm、最も好ましくは10〜20μmである。なお、「線径」は、多孔質金属箔を真上から見た場合の繊維11の幅(太さ)として定義され、光学顕微鏡、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)、走査イオン顕微鏡(SIM)等を用いて測定することができる。この範囲内であると高開孔率と高強度のバランスに優れる。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、図1に示されるように、金属繊維11は分枝状繊維であり、分枝状繊維が不規則に張り巡らされることで多孔質金属箔10が構成される。繊維11は、後述する剥離層のクラックに沿った核生成に起因して、無数の金属粒子が連結されてなることにより形成されたものであるが、金属繊維を構成するためには粒子成長によって隣接する金属粒子同士が緊密に結合することが望ましいことから金属繊維を構成する金属粒子はもはや完全な粒子形状を有しなくてよい。また、図2に示されるように、金属繊維11を構成する金属粒子は、粒子形成当初は、球状部11aと底部11bとを有する半球状の形態を有し、全ての金属粒子の底部11bが同一基底面上に位置し、全ての金属粒子の球状部11aが基底面を基準として同じ側に位置するのが典型的である。この場合、基底面に沿った底部11bの幅Dが線径となり、球状部11aの最大断面高さHが多孔質金属箔の厚さに相当する。この基底面およびその上に位置する底部11bは、製造時に用いられる剥離層の平面形状が反映されたものであり、他の製法により製造された場合にはこの形状に限定されるものではない。本発明者らの経験によれば、繊維11において、最大断面高さHの線径Dに対する平均比率は、特に限定されるものではないが、典型的には0.30〜0.70であり、より典型的には0.40〜0.60であり、より一層典型的には0.45〜0.55、最も典型的には約0.50であり、この平均比率はめっき条件等を適宜変えることによって調整することができる。また、本発明者らの経験によれば、多孔質金属箔10における孔の平均面積は、特に限定されるものではないが、典型的には3〜5000μm、より典型的には3〜3000μm、さらに典型的には3〜2000μmである。さらに、本発明者らの経験によれば、多孔質金属箔10において、孔の全個数に占める、最大の孔の面積の1/2以下の面積を有する孔の個数の割合は、特に限定されるものではないが、典型的には60%以上であり、より典型的には70%以上であり、さらに典型的には80%以上である。
【0022】
第一面の光沢度Gの第二面の光沢度Gに対する比G/Gは1〜15であり、好ましい上限値は14、より好ましくは13、さらに好ましくは12、さらに一層好ましくは11である。G/G比は1に近いほど両面間の特性差が小さいことから理論的には好ましいといえるが、このようなG/G比の実現には多孔質金属箔の製造工程(例えば表面処理)における負担が増大する。このためG/G比は用途および必要とされる性能に応じて上記範囲内に収まるように適宜設定すればよい。
【0023】
典型的には、上記範囲のG/G比を満たす多孔質金属箔10において、金属繊維11の断面形状は図2に示される半円状から若干あるいは有意に変化されている。球状部11aと平面状の底部11bとの間における粗さないし凹凸の差が光沢度の差(すなわち高いG/G比)に反映されているところ、球状部11aおよび平面状の底部11bの少なくともいずれか一方の形状を変化させることで球状部11aに由来する面と平面状の底部11bに由来する面との間で粗さないし凹凸の差が低減されるからである。図3にそのような金属繊維断面の具体例をいくつか示す。図3の左側の列に示されるように、当初半円状の断面を有していた金属繊維11は、その曲面および/または底面に追加の金属が付着されることで半円状の原形を失い、楕円形、円形、略長方形、またはその他の凹凸が付加または消失された断面形状とされることができる。また、図3の右側の列に示されるように、当初半円状の断面を有していた金属繊維11は、その曲面および/または底面から金属繊維の一部が研磨等で削り取られることで半円状の原形を失い、略台形、楕円形、円形、またはその他の凹凸が付加または消失された断面形状とされてもよい。さらに、所定のG/G比が実現できるのであれば、金属繊維11の断面は当初の半円状の断面が実質的に維持されていてもよい。例えば、図2に示される半円状断面を有する金属繊維で構成される多孔質金属箔であっても箔自体に形状が付与されることでG/G比が上記範囲内とされてよい。
【0024】
複合金属箔
本発明の好ましい態様によれば、図4に示されるように、多孔質金属箔10とプライマー2とを備えた複合金属箔1としてもよい。多孔質金属箔10は金属繊維11で構成される二次元網目構造からなり、多孔質金属箔の孔の内部および/または周囲の少なくとも一部にはプライマー2が設けられる。この金属箔の孔の内部および/または周囲の少なくとも一部にプライマーを設けることで、多孔質金属箔に由来する優れた特性を維持または向上しながら、所望の機能を金属箔に付与することができる。例えば、孔部をプライマーで埋めることにより、液状の物質を塗工する際の抜けや金属箔の破断を抑えることができる。また、金属箔を集電体として使用する際、集電体にプライマーが塗布されることで集電体と活物質層間の密着性を向上して電気的接触を均一化し、それにより電力密度を安定化およびサイクル寿命の上昇を実現することができる。しかも、多孔質金属箔の孔部をプライマーで埋めてしまってもイオンの透過には変化が無いため、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタの用途においてリチウムイオンのプレドープ等に悪影響を及ぼすこともない。
【0025】
プライマー2は、多孔質金属箔の孔の内部および/または周囲の少なくとも一部に設けられる。プライマー2としては、多孔質金属箔に何らかの機能を前もって付与することができる公知の種々の下塗り剤、前処理剤およびその他の組成物が使用可能であるが、多孔質金属箔に由来する優れた特性を維持または向上しながら、所望の機能を金属箔に付与することができるものであるのが好ましい。そのようなプライマーの例としては、集電体プライマー、防錆剤、接着剤、導電塗料等が挙げられる。プライマー2は、図4に示されるように多孔質金属箔の全面にわたって孔がプライマーで埋められてなるのが典型的であるが、必要とされる用途や性能等に応じて、一部の領域の孔のみをプライマーで埋めてその他の領域の孔を残してもよいし、個々の孔の周囲(すなわち金属繊維の表面)にのみにプライマーを塗布して孔の内部を埋めることなく孔を残してもよい。また、プライマー2は、多孔質金属箔10に付着するものであれば、乾燥した固体のみならず、半固体、半流動体、流動体のいずれの形態であってもよく、乾燥されていなくてもよいし、プライマー液に由来する溶媒を含んでいてもよい。これは、用途に応じて行われる後続の工程において、必要に応じてプライマーを加熱等により適宜処理すれば足りるからである。プライマー2の形成方法は、使用するプライマーの性状等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、浸漬、ダイコーター等による各種スラリー塗工、電着塗装、化学気相蒸着法(CVD)、物理気相蒸着法(PVD)、ならびにスクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷およびインクジェット印刷等の各種印刷手法が挙げられる。
【0026】
好ましいプライマーは、多孔質金属箔が集電体用途に適することから、集電体プライマーである。集電体プライマーは、活物質層と集電体の間に設けられる導電塗料兼接着剤であり、公知の種々の組成のものが使用可能である。これにより、活物質層の集電体への密着性や耐久性を向上し、活物質塗布前の集電体表面処理の工程を無くし、耐食性を向上して集電体を保護し、活物質層と集電体の応力を緩和し、活物質層と集電体との接触抵抗を低減して面内電流分布を均一化することができる。集電体プライマーが塗布された複合電極箔を用いることで、蓄電デバイスにおいて、サイクル寿命および保管寿命が延びる、内部抵抗が低減される、実用容量が向上する、エネルギー損失が低減される、出力特性が改善されるといった様々な効果が得られる。
【0027】
典型的には、集電体プライマーは、導電性材料、バインダー、ならびに所望により添加剤およびプライマー液に由来する溶媒を含んでなる。導電性材料の例としては、導電性炭素粒子、導電性炭素繊維、金属粒子、および導電性ポリマーが挙げられるが、導電性炭素粒子が特に好ましい。
【0028】
導電性炭素粒子は、グラファイト、カーボンブラック等の粒子であるのが好ましい。グラファイトは、鱗片状、繊維状および塊状のいずれの形態であってもよい。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックおよびファーネスブラックが挙げられる。導電性炭素粒子は、プライマー部分の体積抵抗率を容易に低下させる観点から、50nm以下の一次粒子径を有するのが好ましく、より好ましくは40nm以下である。導電性炭素繊維の例としては、気相成長炭素繊維(VGCF)等が挙げられる。導電性炭素繊維は、プライマー部分の体積抵抗率を容易に低下させる観点から、50nm以下の直径を有するものであるのが好ましく、より好ましくは40nm以下である。導電性ポリマーの例としては、ポリアセチレン(トランス型)系ポリマー、ポリパラフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー、およびポリ(3−メチルチオフェン)系ポリマーが挙げられる。導電性ポリマーは、高分子に電子供与剤をドーパントとして添加して導電化させるが、そのようなドーパントとしてはCl、Br、I等のハロゲン、PF、AsF、SbF等のルイス酸、Li、Na、Rb等のアルカリ金属が挙げられる。
【0029】
バインダーは、導電性材料を多孔質金属箔に固定し、かつ、電池の電解液に対する耐性を有するものであれば特に限定されないが、多孔性金属箔の孔を埋めたり、あるいは金属繊維の表面に沿って付着して孔の周囲を覆ったりすることができるものであることが好ましい。バインダーの好ましい例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)等の合成樹脂系バインダー、フッ素ゴム(FR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴム系バインダー、キトサンまたはキトサン誘導体等の天然物系バインダーが挙げられる。導電性材料の添加量は、導電性材料およびバインダーの合計重量に対して、20〜70重量%であるのが好ましく、より好ましくは30〜60重量%である。
【0030】
添加剤の好ましい例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の分散剤ないし増粘剤が挙げられる。溶媒の好ましい例としてはN−メチルピロリドン(NMP)等の揮発性溶媒や水が挙げられる。集電体プライマーは、特許文献4に記載されるように、リチウムポリシリケートを含むものであってもよい。プライマーに含まれるものは用途に応じて適宜選択されればよい。
【0031】
プライマー2で構成される部分の厚さは、多孔質金属箔10の厚さと同等であってよい。したがって、複合金属箔1は3〜40μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは5〜25μm、より一層好ましくは10〜20μm、最も好ましくは10〜15μmである。
【0032】
製造方法
本発明による多孔質金属箔の製造方法の一例を以下に説明するが、本発明による多孔質金属箔は、この製造方法に限定されず、異なる方法により製造されたものも包含する。
【0033】
図5に本発明による多孔質金属箔の製造工程の流れを示す。本発明の製造方法にあっては、まず、多孔質金属箔を製造するための支持体として、導電性基材12を用意する。導電性基材はめっきされることができる程度の導電性を有する基材であればよく、無機材料、有機材料、積層体、および表面を金属とした材料のいずれも使用可能であるが、好ましくは金属である。そのような金属の好ましい例としては、銅、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、錫、亜鉛、インジウム、銀、金、アルミニウム、およびチタン等の金属、ならびにこれらの金属元素の少なくとも一種を含む合金が挙げられ、より好ましくは銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、およびステンレスである。導電性基材の形態も限定されず、箔、板、ドラム等の様々な形態の基材が使用可能である。ドラムの場合は、ドラム本体に導電性金属板を巻き付けて使用してもよく、この場合の導電性金属板の厚さは1〜20mmとするのが好ましい。導電性基材は、製造された多孔質金属箔をその加工中に、あるいはさらにその使用の直前まで支持しておき、多孔質金属箔の取り扱い性を向上させる。特に、金属箔を導電性基材として用いるのが、多孔質金属箔の製造後に導電性基材としての金属箔をそのまま再利用、または溶解および製箔してリサイクルできるという利点があるため好ましい。その場合、金属箔の厚さを10μm〜1mmとするのが、金属箔の製造工程およびその後の加工・搬送工程等においてヨレ等が生じないような強度を確保できることから好ましい。
【0034】
導電性基材の材質や粗さによって剥離層におけるクラックの形状が異なり、それによって多孔質金属箔の開孔率等の特性が変化しうる。一方、金属めっきの種類やめっき条件によっても多孔質金属箔の形状は当然変化しうる。これらを考慮して所望の多孔質金属箔が得られるように、導電性基材の選択、剥離層の形成条件および/またはめっき条件の設定を必要に応じて適宜行えばよい。
【0035】
そして、導電性基材12に剥離層13を形成し、その際、剥離層13にクラック13aを発生させる。なお、剥離層13の形成に先立ち、導電性基材12に酸洗浄、脱脂等の前処理を施してその表面を清浄にしておくことが好ましい。剥離層13はその上に形成されることになる多孔質金属箔10の剥離を容易とするための層であり、クラック13aを発生可能で、かつ、クラック13aでめっきされやすく、クラックの無い部分13bでめっきされにくい性質を有する材料が用いられる。すなわち、発生したクラック13aにある種の金属をめっきにより優先的に析出可能な材料が剥離層13として用いられる。また、この剥離層は多層に形成されていてもよく、この場合、上層のみにクラックが形成されるものであってもよいし、上層のみならずそれより下の層にもクラックが形成されるものであってよい。また、剥離層の表面には、陽極酸化法等により酸化被膜が形成されていてもよいし、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等が存在していてもよい。クラック13aは、剥離層13の応力によって自然に発生するように制御することが好ましく、成膜と同時に形成される必要はなく、その後の洗浄および乾燥工程、機械加工等において発生するものであってよい。クラックは、通常は望ましくないものであるが、本発明の製造方法ではむしろそれを積極的に活用することを特徴としている。特に、クラックは、通常、枝分かれした線が二次元網目状に張り巡らされるように形成される特性があるため、このクラックに沿って金属繊維を形成させることで高い開孔率および高い強度の多孔質金属箔を得ることができる。なお、クラックについては通常の成膜プロセスにおいてその発生が常に懸念されていることから、その発生条件は成膜に従事する当業者が経験的に熟知しており、その経験および知識の範囲内で容易に選択可能である。例えば、めっき浴等の組成制御、剥離層の厚さ、電流密度の条件、浴温度、攪拌条件、後熱処理を工夫したりすること等により行えばよい。
【0036】
剥離層13は、クロム、チタン、タンタル、ニオブ、ニッケル、およびタングステンからなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるか、または有機物(例えば樹脂類)からなるのが好ましく、連続剥離性、耐久性および耐食性の観点から、硬度の高いクロム、チタン、およびニッケルからなる群から少なくとも一種を含んでなるのがより好ましく、不動態の形成により剥離しやすい点でクロム、クロム合金またはクロム酸化物からなるのがさらに好ましい。剥離層13の厚さは1nm〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜50μm、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜15μmである。このような組成および厚さとすることで、クラックの発生を可能としながら、導電性基材に対して剥離層を高抵抗とすることで層上に形成されることになる多孔質金属箔10を成膜および剥離しやすくなる。従って、剥離層としては導電性基材よりも高抵抗な素材を選択することが望まれる。
【0037】
剥離層13の形成方法は、特に限定されず、電解めっき、無電解めっき、スパッタリング法、物理気相蒸着法(PCD)、化学気相蒸着法(CVD)、ゾルゲル法、イオンプレーティング法等の種々の成膜方法が採用可能である。製造効率等の観点から、剥離層13も電解めっきで形成されるのが好ましい。剥離層13には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて熱処理および/または研磨がさらに施されてもよい。すなわち、研磨は、表面を洗浄する程度のものは許容されるが、クラックを潰すほど過度に行われるべきでないことは勿論である。こうして得られた剥離層13には水等による洗浄および乾燥が行われるのが好ましい。
【0038】
クロム電解めっきを行う場合、好ましいクロムめっき液としては、サージェント浴および硬質クロムめっき浴が挙げられ、より好ましくは硬質クロムめっき浴である。市販の硬質クロムめっき浴の好ましい例としては、メルテックス社製のアンカー1127、アトテック社製のHEEF−25、および日本マクダーミッド社製のマック・1が挙げられる。これらのクロムめっき液の浴組成および電着条件は以下のとおりであるが、所望の多孔質金属箔が得られる限りに以下に示される範囲から外れてもよい。
【表1】

【0039】
なお、安定したクロムめっき浴は、典型的には、少量の3価クロムが存在しており、その量は2〜6g/L程度である。また、硬質クロムめっき浴には有機スルホン酸などの触媒を添加してもよい。無水クロム酸の濃度はボーメ度により管理することができる。さらに、鉄、銅、塩化物イオン等の不純物はめっきの状態に影響を与えるので、不純物の溶解量の上限管理には注意が必要である。クロムめっきに用いられるアノードとしては、チタンに酸化鉛やPb−Sn合金をコーティングしたものを好ましく用いることができ、そのようなアノードの代表的な市販品として、SPF社のTi−Pb電極(Sn:5%)や日本カーリット社製のエクセロードLDが挙げられる。
【0040】
次に、剥離層13に、クラック13aに優先的に析出可能な金属をめっきして、クラック13aに沿って無数の金属粒子11を成長させ、それにより金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔10を形成する。前述したように、剥離層13には、めっきされやすい性質を有するクラック13aと、めっきされにくい性質を有するクラックの無い表面部分13bを有する。クラック13aでめっきされやすくなるのは、クラック13aのある部分の方が、それらの無い部分13bよりも電流が流れやすいことから、核生成およびその成長がクラック13aで優先的に起こるためである。クラック13aに優先的に析出可能な金属は、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、および錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるのが好ましく、より好ましくは銅、銀、および金からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなり、さらに好ましくは銅である。
【0041】
多孔質金属箔10の形成方法は、めっきであれば特に限定されず、電解めっき、無電解めっきが挙げられるが、電解めっきがクラック13aに効率良く金属を析出できることから好ましい。めっきの条件は、公知の方法に従って行えばよく特に限定されない。例えば銅めっきを行なう場合には、硫酸銅めっき浴によって行なわれるのが好ましい。銅めっきを行う場合、好ましいめっき浴の組成および電着条件は、硫酸銅五水和物濃度:120〜350g/L、硫酸濃度:50〜200g/L、カソード電流密度:10〜80A/dm、浴温:40〜60℃であるが、これに限定されない。
【0042】
めっき液には、添加剤を適宜加えて金属箔の特性の向上を図ってもよい。例えば銅箔の場合、そのような添加剤の好ましい例としては、膠、ゼラチン、塩素、チオ尿素等の含硫黄化合物、ポリエチレングリコール等の合成系添加剤が挙げられる。これらの好ましい添加剤を用いることで、金属箔の力学的特性や表面状態をコントロールすることができる。添加剤の濃度は限定されないが、通常1〜300ppmである。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、クラック13a内を導電性物質で予め埋めておくのが好ましい。クラックを埋めるための導電性物質としては、剥離層に形成されうる不動体被膜よりも導電性が高いものあれば公知の種々の物質、金属、合金等が使用可能である。そして、クラック13a内が導電性物質で埋められた剥離層13を用いて金属めっきを行うと、めっきのクラック選択性が格段に向上するとともに、成長した粒子が連結した数珠状の形状ではなく、滑らかな線状に金属繊維が形成される。このようなクラック13a内における金属の充填は、電解銅めっき等の電解めっきを事前に繰り返す(すなわち空運転を行う)ことで実現しうるが、めっき液の条件によっては空運転のみではクラックが埋まらないことがある。この傾向はニッケルめっきの場合に特に当てはまる。このような場合には、銅、銀、金等のクラックに入り込みやすい金属で予め空運転するか、あるいは導電性ペーストを塗布することにより、クラックに導電性物質を充填させておき、その後ニッケルめっき等のめっきを行えばよい。この態様によれば、銅と比較してクラックに沿って析出しにくい傾向があるニッケル等の金属を析出させることができる。また、高いクラック選択性で滑らかな金属繊維を形成するので、多孔質金属箔を効率的に製造することができる。なお、多孔質金属箔を剥離してもクラック13a内の析出金属は剥離されずに残存するため、一度クラック13a内が埋まれば、その後はもはや空運転を伴うことなく剥離層13を繰り返し使用して同等の効果が得られる。
【0044】
あるいは、クラック内が析出金属で充填された剥離層付き電極を多孔質金属箔製造用電極として予め用意しておけば、そのような電極を用いて空運転を行うことなく多孔質金属箔の製造を即座に開始することができる。すなわち、本発明の一態様によれば、好ましくは回転ドラム状の導電性基材と、導電性基材上に設けられ、表面にクラックが発生した剥離層と、クラック内に充填された導電性物質とを備えた多孔質金属箔製造用電極が提供される。
【0045】
多孔質金属箔を、剥離層を有する導電性基材から剥離して、単体の多孔質金属箔を得ることができる。剥離後、接着層付きのフィルム等の別基材に転写してもよい。もっとも、プライマー無しの多孔質金属箔を利用に供する場合には、この剥離工程は必須ではなく、剥離層を介して基材が付けられたまま多孔質金属箔製品として取り扱われ、かつ、使用時に初めて剥離される構成としてもよく、この場合、多孔質金属箔の取り扱い性が向上するだけでなく、基材により支持されるためそれほど高い強度は要求されないことから極めて高い開孔率あるいは極めて薄い膜厚とすることも可能となる。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、剥離層を備えた導電性基材が回転ドラム状に構成され、接触工程、めっき工程、剥離工程、および乾燥工程が導電性基材の回転によって順次繰り返されてもよい。このような回転ドラム式製箔装置の一例の模式断面図を図6に示す。図6に示される製箔装置20は、表面にクラックが発生した剥離層(例えばクロムめっき層)を備えた導電性基材製の回転ドラム21(例えばステンレス製ドラム)と、回転ドラム21の下方がめっき液に浸漬される電解めっき槽22と、回転ドラムから多孔質金属箔10を剥離して搬送するための剥離ロール25とを備えてなる。この製箔装置20において回転ドラム21を回転させると、電解めっき槽22内でクラックに沿ってめっきが行われて多孔質金属箔10が形成される。剥離後の回転ドラム21は、所望により水洗や乾燥を行ってもよい。製箔装置20は自然乾燥により乾燥を行う構成であるが、加熱手段を別途設けて乾燥を人為的に行ってもよい。いずれにしても、乾燥工程を経た回転ドラムは回転によって再度一連の工程に付され、めっき工程、剥離工程、および所望により乾燥工程が引き続き行われる。このような態様によれば、回転ドラム式製箔装置を用いて、ロール状の補強された多孔質金属箔を極めて効率的に量産することが可能となる。回転ドラム21は、剥離層表面に発生したクラックの内部が析出金属で予め充填されてなるのが好ましい。
【0047】
上記のようにして剥離層から剥離された多孔質金属箔は、典型的には、剥離層との接触面に起因して光沢度が高めの第一面と、第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを有する。そして、第一面および前記第二面の少なくともいずれか一方に表面処理を施すことにより、第一面の光沢度の第二面の光沢度に対する比を小さくすることができる。例えば、G/G比を1〜15にすることができるが、本発明の方法はこの数値範囲に限定されるものではなく、用途に応じた所望の光沢度比が実現できればよい。このような表面処理の手法としては、第一面の光沢度の第二面の光沢度に対する比を小さくすることができるものであれば公知のいかなる手法であってもよいが、(1)金属の更なるめっき、(2)防錆処理、クロメート処理等による処理皮膜の形成、(3)逆電解等の電解研磨、バフ研磨等の物理的研磨、CMP等の化学的研磨、サンドブラスト等のブラスト処理等による金属繊維の削り取り、またはそれらの任意の組み合わせにより行われるのが好ましい。上記(1)および(2)の手法は箔を構成する金属または一般的に金属箔に許容可能な表面処理剤を金属繊維に付着させるものであり、それにより図3の左側の列に例示されるように金属繊維断面形状を変化させる。一方、上記(3)の手法は金属繊維を部分的に削り取るものであり、それにより図3の右側の列に例示されるように金属繊維断面形状を変化させる。また、所望の光沢度比が得られるのであれば、金属等の付着や金属の削り取りを伴わない単なる変形であってもよい。
【0048】
本発明の別の一態様によれば、凹凸が付与された剥離層を備えた導電性基材を用いて多孔質金属箔を製造することにより、第一面の光沢度の第二面の光沢度に対する比を小さくすることもできる。すなわち、この方法にあっては、凹凸が付与された剥離層を備えた導電性基材を用意する。そして、剥離層に、クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、クラックに沿って金属を析出させ、それにより金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔を形成する。最後に、多孔質金属箔を剥離層から剥離して、剥離層と離れた側に位置する光沢度が高めの第一面と、剥離層の凹凸が転写された、光沢度が低めの第二面とを与えるか、または、剥離層と離れた側に位置する光沢度が低めの第二面と、剥離層の凹凸が転写された光沢度が高めの第一面とを与え、それにより第一面の光沢度の第二面の光沢度に対する比が小さくされてなる多孔質金属箔を得る。つまり、剥離層が平坦な場合にはその平坦性が金属箔の片面に転写されて他方の面との間で凹凸ないし粗さの差を生じることになるが、そのように通常は平坦であるべき剥離層に予め凹凸を付与しておくことで、同様に通常は平坦となるべき金属箔の片面にも転写を介して凹凸を付与することができ、その結果、金属繊維の曲面状析出面に由来する凹凸ないし粗さを有する他方の面との間で光沢度比を小さくすることができる。剥離層に予め凹凸を付与する手法は特に限定されず、クロムめっき等のめっき条件を適宜制御することで剥離層自体に凹凸を形成させてもよいし、導電性基材自体に凹凸を付与しておきその上に剥離層を形成してもよい。
【0049】
本発明の好ましい態様によれば、多孔質金属箔を金属、合金またはその他の表面処理剤で表面処理してもよい。そのような金属および合金としては、亜鉛、錫、ニッケル、モリブデン、パラジウム、コバルト、銅、銀、金、マンガン等の金属およびこれらの任意の金属の合金(例えばNi−Zn、Sn−Zn)。また、その他の表面処理剤としては、クロメート、防錆剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0050】
所望により、最後に、剥離された多孔質金属箔にプライマー液を塗布し、必要に応じて乾燥することで、複合金属箔を得てもよい。プライマー液は、多孔質金属箔に何らかの機能を前もって付与することができる公知の種々の下塗り剤、前処理剤およびその他の組成物が使用可能であるが、多孔質金属箔に由来する優れた特性を維持または向上しながら、所望の機能を金属箔に付与することができるものであるのが好ましい。そのようなプライマーおよびその構成成分については前述したとおりであるが、塗布に適した液状形態を付与するように溶媒を含むのが好ましい。好ましいプライマー液は集電体プライマー液である。
【0051】
プライマー液の塗布方法は特に限定されず、公知の種々の塗布手法に従って行えばよく、縦型コーター、横型コーター、およびそれらの組み合わせのいずれも使用可能である。縦型コーターを用いた塗布は、縦型ディップコーター、縦型ダイコーター等を用いた両面同時塗布により行われるのが好ましく、横型コーターの場合に起こりうるプライマー液が金属箔の孔から抜け落ちるのを効果的に防止して高い塗布精度を実現することができる。図7にそのような両面同時塗布の模式図を示す。両面同時塗布においては、供給ロール40を介して供給される多孔質金属箔10の両面にプライマー液を塗布できるように2台の連続コーター42,42が互いに対向して配置される。連続コーター42,42は両面ダイコ−ター、両面ディップコーター等であってよく、プライマー液を多孔質金属箔10の両面に連続的に塗布する。プライマー液が塗布された時点で多孔質金属箔10は複合金属箔1となり、複合金属箔1は乾燥機44を通過して排出ロール46を介して排出され、乾燥されたプライマー2を備えた複合金属箔1が得られる。一方、横型コーターを用いた塗布にあっては、多孔質金属箔10の孔径、孔形状およびプライマー液の粘性を適宜調節することによりプライマー液が孔から抜けにくくなるようにするのが好ましいが、複合金属箔1の用途がそれほど高い塗布精度を要求しない場合にはそのような調整は不要である。また、縦型コーターおよび横型コーターを用いてプライマー液の二度塗りを行ってもよく、その場合には、まず縦型コーターを用いてプライマー液を薄く塗布して孔埋めおよび乾燥を行った後、量産性の高い横型コーターにおいて高い塗布精度でプライマー液の仕上げ塗布を行うのが好ましい。
【0052】
用途
本発明による多孔質金属箔の代表的な用途としては、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの負極または正極集電体が挙げられるが、それ以外にも、微粉分級用または固液分離処理用のスクリーン装置、触媒の担持体、微生物の保管用容器の酸素供給口に使用されるネット、クリーンルーム用防塵フィルタ、液体抗菌フィルタ、液体改質用フィルタ、電磁波シールド、磁性用材料、導電用材料、装飾シート、消音材、フッ素除去フィルタ、各種シールド材料、高周波ケーブル(例えば銅箔コイル型)、ITO代替材料としての透明電極等の各種用途に使用可能である。例えば、複合金属箔ないし多孔質金属箔を導電性材料等としてプリント基板の内層に使用することで、孔から樹脂や溶剤等に由来するガスを逃がすことができ、それによりブリスタ(膨れ)の発生を抑制することができる。また、複合金属箔ないし多孔質金属箔を導電性材料等として回路形成に使用することで、金属使用量の低減による軽量化を図ることができる。
【0053】
集電体としての用途においては、以下のような好ましい態様が考えられる。すなわち、(1)多孔質金属箔の活物質が剥離し易い側(光沢度が高めの平坦な側)を円筒型集電体の内側にすることで、万が一剥離した際の短絡の危険を低減することができる、(2)箔の孔径と活物質の粒径との間に、接触面積が最大となるような最適値を得るための関係式を作成することができる(これにより活物質が大きいと孔に入らないといった事態も防止できる)、(3)前述したように孔を埋めるプライマー処理をしてから活物質スラリーの両面塗工を行うこともできる、(4)従来慣用される金属箔であると活物質スラリーの塗工時に塗布部分の端部でスラリーが1〜2mm程度広がってしまうことが起こりうるが、本発明の多孔質金属箔であればそれを防げる可能性がある。加えて、撥水性シランカップリング剤を部分的に塗布して多孔質金属箔を部分的に撥水性にしておくのがより効果的である。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0055】
例A1:多孔質金属箔の作製
導電性基材として厚さ35μmの銅箔を用意した。この銅箔に剥離層としてクロムめっきを以下の手順で行った。まず、水を添加して120ml/Lに調整されたプリント配線板用酸性クリーナ(ムラタ社製、PAC−200)に銅箔を40℃で2分間浸漬した。こうして洗浄された銅箔を50ml/Lの硫酸に室温で1分間浸漬することにより、酸活性化した。酸活性化した銅箔を、180g/Lのエコノクロム300(メルテックス社製)および1g/Lの精製濃硫酸を溶解させたクロムめっき浴に浸漬させ、温度:45℃、電流密度:20A/dmの条件で15分間クロムめっきを行った。クロムめっきが形成された銅箔を水洗および乾燥した。得られたクロムめっきの厚さをXRF(蛍光X線分析)により測定したところ約2μmであり、クロムめっきの表面には、めっき応力により発生したとみられる無数のクラックが確認された。
【0056】
このクラックが発生したクロムめっき上に硫酸銅めっきを行った。この硫酸銅めっきは、250g/Lの硫酸銅五水和物(銅濃度で約64g/L)および硫酸80g/Lが溶解された硫酸銅めっき浴に、クロムめっきが施された銅箔を浸漬させ、電流密度:20A/dm、めっき時間:150秒間、アノード:DSE(寸法安定化電極)、浴温:40℃の条件で行った。このとき、クロムめっきの最表面よりもクラック部分の方で電流が流れやすいことから、銅の粒子がクラックを起点として成長した。その結果、クロムめっき上に銅繊維で構成される二次元網目構造が多孔質金属箔として形成された。最後に、多孔質金属箔をクロムめっきから物理的に剥離して、分離された多孔質金属箔を得た。
【0057】
例A2:多孔質金属箔の観察
例A1で得られた多孔質金属箔を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で種々の角度から観察した。まず、多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面(以下、成長面という)を真上(傾斜角0度)および斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、それぞれ図8および9に示される画像が得られた。また、多孔質金属箔を裏返して、多孔質金属箔の剥離層と接していた面(以下、剥離面という)を真上(傾斜角0度)および斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、それぞれ図10および11に示される画像が得られた。これらの図から明らかなように、成長面には金属粒子の球状部に起因する数珠状の凹凸が観察されるのに対して、剥離面では金属粒子の底部に起因する平面およびクラックに沿って形成された中心線が観察された。
【0058】
さらに、多孔質金属箔の金属繊維の断面を、集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いて加工後、走査イオン顕微鏡(SIM)を用いて観察したところ、図12に示される画像が得られた。この図に示されるように、金属繊維の断面組織はクラックを起点として放射状に析出しており、金属繊維の断面形状は球状部と平面状底面とを含む半月状であることが観察された。これらの図に示されるスケールから金属繊維の線径(太さ)を算出したところ、30μmであった。金属繊維断面における最大断面高さHの線径Dに対する比率を算出したところ、約0.50であった。また、単位面積当たりの孔の個数は約300個/mmであった。また、観察された最大の孔の面積は約4700μmであり、孔の全個数に占める、最大の孔の面積の1/2以下の面積(すなわち約2350μm以下)を有する孔の個数の割合は約90%であった。
【0059】
例A3:開孔率の測定
例A1で得られた多孔質金属箔の開孔率を重量法により以下の通り測定した。まず、多孔質金属箔の膜厚をデジタル測長機(デジマイクロMH−15M、ニコン社製)で測定したところ、14.7μmであった。このとき、測定スタンドとしてはMS−5C(ニコン社製)を使用し、測定子としてはデジマイクロMH−15Mの標準装備測定子を使用した。また、100mm×100mm平方の単位重量を測定したところ、0.94gであった。一方、膜厚14.7μm、100mm×100mm平方の無孔質銅箔の理論重量を、銅の密度を8.92g/cmとして計算により求めたところ、1.31gであった。これらの値を用いて、多孔質金属箔の開孔率を以下の通りにして計算したところ、28%と算出された。
(開孔率)=100−[(サンプルの単位重量)/(無孔質銅箔の理論重量)]×100
=100−[(0.94)/(1.31)]×100
=28%
【0060】
例A4:引張強度の測定
例A1で得られた多孔質金属箔の引張強度をJIS C6511−1992に準拠した方法により以下の通り測定した。まず、多孔質金属箔から10mm×100mmの試験片を切り取った。図13に示されるように、この試験片30の両端を引張強度測定機(オートグラフ、島津製作所製)の上下2つの固定治具31,31に50mmの間隔を空けるように挟んで固定した後、50mm/分の引張り速さで引っ張ることにより、引張強度を測定した。このとき、引張強度測定機において1kNのロードセルを使用した。その結果、引張強度は15N/10mm幅であった。また、その際の試験片の伸び率は0.8%であった。この結果から、本発明に係る多孔質金属箔は実用性に耐えうる強度を有していると考えられる。
【0061】
例B1:多孔質金属箔の作製
導電性基材としてSUS304からなるステンレス鋼板を用意した。このステンレス鋼箔に剥離層として厚さ2μmのクロムめっきを以下の手順で行った。まず、水を添加して120ml/Lに調整されたプリント配線板用酸性クリーナ(ムラタ社製、PAC−200)にステンレス鋼板を40℃で2分間浸漬した。こうして洗浄されたステンレス鋼板を50ml/Lの硫酸に室温で1分間浸漬することにより、酸活性化した。酸活性化したステンレス鋼板を、市販の硬質クロムめっき浴(HEEF−25、アトテック社製)に浸漬させ、カソード電流密度:20A/dm、電解時間:400秒、浴温:45℃、クーロン量:8000C/dm、電極面積:1.2dm、極間距離:90mmの条件でクロムめっきを行った。クロムめっきが形成されたステンレス鋼板を水洗および乾燥した。得られたクロムめっきの厚さをXRF(蛍光X線分析)により測定したところ約2μmであり、クロムめっきの表面には、めっき応力により発生したとみられる無数のクラックが確認された。
【0062】
このクラックが発生したクロムめっき上に銀めっきを行った。この銀めっきは、シアン化カリウム25g/L、シアン化銀カリウム(Agとして50g/L)および燐酸塩等が溶解された市販の銀めっき浴(セレナブライトC、日本高純度化学社製)に、クロムめっきが施されたステンレス鋼板を浸漬させ、陰極電流密度:1.0A/dm、電解時間:469秒間、浴温:40℃の条件で行った。このとき、クロムめっきの最表面よりもクラック部分の方で電流が流れやすいことから、銀の粒子がクラックを起点として成長した。その結果、クロムめっき上に銀繊維で構成される二次元網目構造が多孔質金属箔として形成された。最後に、多孔質金属箔をクロムめっきから物理的に剥離して、分離された多孔質金属箔を得た。
【0063】
例B2:多孔質金属箔の観察
例B1で得られた多孔質金属箔を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で種々の角度から観察した。まず、多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面(以下、成長面という)を真上(傾斜角0度)から観察したところ、図14に示される画像が得られた。また、多孔質金属箔を裏返して、多孔質金属箔の剥離層と接していた面(以下、剥離面という)を真上(傾斜角0度)から観察したところ、図15に示される画像が得られた。これらの図から明らかなように、成長面には金属粒子の球状部に起因する数珠状の凹凸が観察されるのに対して、剥離面では金属粒子の底部に起因する平面およびクラックに沿って形成された中心線が観察された。これらの図に示されるスケールから金属繊維の線径(太さ)を算出したところ、11μmであった。金属繊維断面における最大断面高さHの線径Dに対する比率を算出したところ、約0.50であった。また、単位面積当たりの孔の個数は約2000個/mmであった。また、観察された最大の孔の面積は約462μmであり、孔の全個数に占める、最大の孔の面積の1/2以下の面積(すなわち約231μm以下)を有する孔の個数の割合は約97%であった。
【0064】
例B3:開孔率の測定
例B1で得られた多孔質金属箔の開孔率を重量法により以下の通り測定した。まず、多孔質金属箔の膜厚をデジタル測長機(デジマイクロMH−15M、ニコン社製)で測定したところ、6.4μmであった。このとき、測定スタンドとしてはMS−5C(ニコン社製)を使用し、測定子としてはデジマイクロMH−15Mの標準装備測定子を使用した。また、100mm×100mm平方の単位重量を測定したところ、0.450gであった。一方、膜厚6.4μm、100mm×100mm平方の無孔質銀箔の理論重量を、銀の密度を10.49g/cmとして計算により求めたところ、0.672gであった。これらの値を用いて、多孔質金属箔の開孔率を以下の通りにして計算したところ、33%と算出された。
(開孔率)=100−[(サンプルの単位重量)/(無孔質銀箔の理論重量)]×100
=100−[(0.450)/(0.672)]×100
=33%
【0065】
例C1:複合金属箔の作製
複合金属箔の製造例を以下に示す。まず、平均一次粒子径20nmのカーボンブラック粉末とポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比率50:50としてN−メチルピロリドン(NMP)に分散させてなるプライマー液を得る。平均一次粒子径、質量比率、N−メチルピロリドン量等は多孔質金属箔の開孔率、塗布条件等によって適宜調製されればよい。このプライマー液を例A1で作製された図7に示されるような多孔質金属箔に縦型の両面ディップコーターにて多孔質金属箔の両面に塗布する。続いてプライマー液が塗布された金属箔を乾燥して複合金属箔を得る。
【0066】
例D1:光沢度比を小さくした多孔質銅箔の作製
例A1と基本的に同様にして多孔質銅箔を作製した。この多孔質銅箔に表2に示される各種条件に従って硫酸銅めっきによる、後めっきを1回または2回行った。後めっきの組成は例A1で用いた硫酸銅めっき組成と同じ組成を用いる(表中、基本組成と記載される)か、この組成に添加剤として塩酸を加えることで塩化物イオンを50ppm加えるか(表中、基本組成+Cl50ppmと記載される)、または粗化めっき液として50g/Lの硫酸銅五水和物(銅濃度で約13g/L)および硫酸100g/Lが溶解された硫酸銅めっき浴を用いた(表中、粗化めっき液と記載される)。その後、得られた銅箔にベンゾトリアゾール(BTA)またはNi−Znにより防錆処理を行い、光沢度比を小さくした多孔質銅箔試験片を作製した(試験片2〜7)。また、参考のため、後めっきを行わずに防錆処理のみを行った試験片1を作製した。得られた試験片1〜7について、当初厚さ、後めっきにより追加された厚さ、50mm平方重量、重量開孔率、第一面(高光沢度側)の光沢度G、第二面(低光沢度側)の光沢度G、および光沢度比G/Gを測定した。なお、光沢度は、光沢度計(製品名:VG−2000、日本電色工業社製)を用いて、JIS Z 8741(1997)に準拠して60度の入射角および反射角で測定された。得られた結果は表2に示されるとおりであった。
【0067】
また、得られた多孔質金属箔を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した。まず、多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面(成長面)を斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、図16A〜22AのA系列に示される画像が得られた。また、多孔質金属箔を裏返して、多孔質金属箔の剥離層と接していた面(剥離面)を斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、図16B〜22BのB系列に示される画像が得られた。
【0068】
【表2】

【0069】
例D2:重量開孔率と厚みの関係
例A1と基本的に同様にして表3に示されるような各種厚さの多孔質銅箔を作製した(試験片8〜14)。また、試験片13および14については、表3に示される各種条件に従って硫酸銅めっきによる後めっきを1回行った。後めっきの組成は例A1で用いた硫酸銅めっき組成と同じ組成を用いた。得られた試験片8〜14について、当初厚さ、後めっきにより追加された厚さ、50mm平方重量、および重量開孔率を測定したところ、得られた結果は表3に示されるとおりであった。また、試験片13および14について光沢度を測定して光沢度比G/Gを算出したところ、それぞれ11.3および9.2であった。なお、光沢度はJIS Z 8741(1997)に準拠して60度の入射角および反射角で測定された。
【0070】
【表3】

【0071】
表3に示されるデータに基づいて、重量開孔率と銅箔の合計厚さとの関係をプロットしたところ、図23に示されるとおりとなった。この結果から、後めっき法を用いて多孔質金属箔の厚さを増加させた場合には、後めっき無しの製箔工程のみで同等の厚さに製造された多孔質金属箔と比べて、開孔率が下がりにくい、すなわち孔が埋まりにくいことが分かる。
【0072】
例D3:凹凸が付与された多孔質金属箔の作製
導電性基材として厚さ35μmの銅箔を用意した。この銅箔に剥離層としてクロムめっきを以下の手順で行った。まず、水を添加して120ml/Lに調整されたプリント配線板用酸性クリーナ(ムラタ社製、PAC−200)に銅箔を40℃で2分間浸漬した。こうして洗浄された銅箔を50ml/Lの硫酸に室温で1分間浸漬することにより、酸活性化した。酸活性化した銅箔を、180g/Lのエコノクロム300(メルテックス社製)および1g/Lの精製濃硫酸を溶解させたクロムめっき浴に浸漬させ、温度:25℃、電流密度:20A/dmの条件で15分間クロムめっきを行った。クロムめっきが形成された銅箔を水洗および乾燥した。得られたクロムめっきの表面には、めっき応力により発生したとみられる無数のクラックのみならず無数の山状の凹凸が確認された。
【0073】
このクラックが発生したクロムめっき上に硫酸銅めっきを行った。この硫酸銅めっきは、250g/Lの硫酸銅五水和物(銅濃度で約64g/L)および硫酸80g/Lが溶解された硫酸銅めっき浴に、クロムめっきが施された銅箔を浸漬させ、電流密度:20A/dm、めっき時間:150秒間、アノード:DSE(寸法安定化電極)、浴温:40℃の条件で行った。このとき、クロムめっきの最表面よりもクラック部分の方で電流が流れやすいことから、銅の粒子がクラックを起点として成長した。その結果、クロムめっき上に銅繊維で構成される二次元網目構造が多孔質金属箔として形成された。最後に、多孔質金属箔をクロムめっきから物理的に剥離して、分離された多孔質金属箔を得た。
【0074】
また、得られた多孔質金属箔を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した。まず、多孔質金属箔の剥離層と接していなかった面(成長面)を斜め上(傾斜角45度)から100倍、500倍、3000倍でそれぞれ観察したところ、図24A〜Cに示される画像が得られた。また、多孔質金属箔を裏返して、多孔質金属箔の剥離層と接していた面(剥離面)を斜め上方向(傾斜角45度)から観察したところ、図25A〜Cに示される画像が得られた。これらの画像から明らかなように、無数の凹凸が形成されたクロムめっき剥離層上に多孔質金属箔を形成することにより、剥離層が平坦であれば同様に平坦となっていたはずの剥離層と接していた面に、凹凸を付与することができる。したがって、こうして得られた多孔質金属箔においては、その両面に凹凸が存在することから、両面間の光沢度比、ひいては特性差が低減されるものと解される。
【0075】
例E1:クラック選択性の比較
例A1と同様にして、表面にクラックが形成されたクロムめっきを備えた電極を作製した。このクロムめっき形成された直後の状態の電極表面をSEMで観察したところ、図26Aに示されるような画像が得られた。また、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)によりCuマッピングを行ったところ、図26Bに示されるようなマッピング画像が得られ、銅がクラックに沿って未だ析出していないことが確認された。次いで、この電極を用いて、例A1と同様の手順に従って、硫酸銅めっきおよび銅箔の剥離を空運転として複数回繰り返した。このときのクロムめっき表面のクラック近傍の断面をSEMで観察したところ図27に示される画像が得られ、クラックが析出金属で埋まっており、そこから金属繊維が成長していることが確認された。電極表面から銅箔を剥離してクロムめっき表面をSEMで観察したところ、図28Aに示されるような画像が得られた。また、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)によりCuマッピングを行ったところ、図28Bに示されるようなマッピング画像が得られ、クラックに埋まっている金属が銅であることが確認された。このようにクラックが銅で埋まったクロムめっき表面を有する電極を用いて例A1と同様にして多孔質銅箔の製造を行ったところ、成長した粒子が連結した数珠状の形状ではなく、滑らかな線状に金属繊維が形成されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔であって、
前記多孔質金属箔が、光沢度が高めの第一面と、前記第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを有し、
JIS Z 8741(1997)に準拠して60度の入射角および反射角で測定される、前記第一面の光沢度Gの前記第二面の光沢度Gに対する比G/Gが1〜15である、多孔質金属箔。
【請求項2】
前記多孔質金属箔と同等の組成および寸法を有する無孔質金属箔の理論重量Wに占める前記多孔質金属箔の重量Wの比W/Wを用いて、
P=100−[(W/W)×100]
により定義される開孔率Pが3〜80%である、請求項1に記載の多孔質金属箔。
【請求項3】
前記金属繊維が、5〜80μmの線径を有する、請求項1または2に記載の多孔質金属箔。
【請求項4】
前記金属繊維が不規則に張り巡らされてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項5】
前記金属繊維が分枝状繊維であり、該分枝状繊維が不規則に張り巡らされてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項6】
3〜40μmの厚さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項7】
前記二次元網目構造が、基材の表面に形成されたクラックに起因した不規則形状を有してなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項8】
前記金属繊維が、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項9】
前記比G/Gが1〜10である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項10】
前記第一面および/または前記第二面に、防錆処理およびクロメート処理から選択される少なくとも一種に起因する処理皮膜をさらに備えた、請求項1〜9のいずれか一項に記載の多孔質金属箔。
【請求項11】
多孔質金属箔の製造方法であって、
表面にクラックが発生した剥離層を備えた導電性基材を用意する工程と、
前記剥離層に、前記クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、前記クラックに沿って金属を析出させ、それにより金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔を形成する工程と、
前記多孔質金属箔を前記剥離層から剥離して、前記剥離層との接触面に起因して光沢度が高めの第一面と、前記第一面と反対側に位置する光沢度が低めの第二面とを与える工程と、
前記第一面および前記第二面の少なくともいずれか一方に表面処理を施すことにより、前記第一面の光沢度の前記第二面の光沢度に対する比を小さくする工程と
を含んでなる、製造方法。
【請求項12】
前記表面処理が、前記金属の更なるめっきにより行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記表面処理が、防錆処理、クロメート処理、およびシランカップリング処理から選択される少なくとも一種を用いた処理皮膜の形成により行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記表面処理が、電解研磨、物理的研磨、化学的研磨、およびブラスト処理から選択される少なくとも一種により行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
多孔質金属箔の製造方法であって、
表面にクラックが発生し、かつ、凹凸が付与された剥離層を備えた導電性基材を用意する工程と、
前記剥離層に、前記クラックに優先的に析出可能な金属をめっきして、前記クラックに沿って金属を析出させ、それにより金属繊維で構成される二次元網目構造からなる多孔質金属箔を形成する工程と、
前記多孔質金属箔を前記剥離層から剥離して、前記剥離層と離れた側に位置する光沢度が高めの第一面と、前記剥離層の凹凸が転写された、光沢度が低めの第二面とを与えるか、または、前記剥離層と離れた側に位置する光沢度が低めの第二面と、前記剥離層の凹凸が転写された光沢度が高めの第一面とを与え、それにより前記第一面の光沢度の前記第二面の光沢度に対する比が小さくされてなる工程と
を含んでなる、製造方法。
【請求項16】
前記クラックが前記剥離層の応力によって発生したものである、請求項11〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記剥離層が、クロム、チタン、タンタル、ニオブ、ニッケル、およびタングステンからなる群から選択される少なくとも一種を含んでなるか、または有機物からなる、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記剥離層が、クロム、クロム合金またはクロム酸化物からなる、請求項11〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記クラックに優先的に析出可能な金属が、銅、アルミニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、および錫からなる群から選択される少なくとも一種を含んでなる、請求項11〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質金属箔の厚さが3〜40μmである、請求項11〜19のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図13】
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【図23】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図24A】
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【図24B】
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【図24C】
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【図25A】
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【図25B】
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【図25C】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【図28A】
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【図28B】
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【公開番号】特開2011−174184(P2011−174184A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−86619(P2011−86619)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】