説明

多孔質高分子分離材料

本発明はCu、Zn、Ag、またはPdからの金属イオンに結合した1つ以上の官能基を含むメソポーラス高分子分離材料に関する。この材料の製造方法、その調製方法、および食品または飼料製品からの農薬の分離における前記材料の使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の技術分野
本発明は1種以上の金属錯体を含む新規の樹脂の設計、製造および使用に関する。これらの新たな樹脂は従来のクロマトグラフ材料によって十分に分離されない1つ以上の検体/ターゲットに対して選択的である。
【0002】
背景技術
分離材料の分野には、金属配位子を含有する樹脂の系統群が存在する。これらのほとんどは蛋白質の分離を狙っている。従来の市販の樹脂の例はSephadex(GE Healthcare)、BioGel(BioRad)およびToyopearl(Tosoh)である。これらの従来の樹脂は、通常、低い架橋度および柔軟な骨格構造を有し、大きな孔を含む。これらの大きな孔は、検体たとえば蛋白質にとって最適であるが、言及した従来の材料には、所定のタイプの小分子にとって十分な解決策を与えるものがない。小分子のために開発された従来のキレート材料、たとえばPurolite(登録商標)が、金属イオンと相互作用する小分子の分離のために慣習的に使用される。前記材料は、時々、乏しい分離、低い選択性および所定の適用分野にとって不十分な解決策をもたらす。他の金属キレート樹脂、たとえばDowex 50WX8、Amberlite(R) CG50、Amberlite(R)IR-120、Amberlyst(R) 15は、広く使用されるが、要求が厳しい分離、たとえば複雑なマトリックス中に低濃度で存在する農薬および他の環境汚染物質の分離のために使用する場合、常に十分に働くわけではない。
【0003】
不飽和の小分子、たとえば脂肪酸、フェロモンおよび多環芳香族の硫黄含有複素環などを精製および分離するための銀担持カチオン交換体の使用は説明されてきており、このような樹脂は、分析および製造目的のカラムクロマトグラフィーシステムで使用されてきた。食品産業では、一般的に、加工中に食品の原材料、成分および製品に金属が混入しないことが要件である。
【0004】
文献に記載されているいくつかの研究から、農薬の加水分解反応が水性環境にある金属によって触媒されることがあることがわかってきた。しかしながら、加水分解は、生じた加水分解生成物を除去しないので、農薬の除去の問題を完全には解決しない。
【0005】
Ridvan Sayは、Anal. Chim. Acta 579 (2006) 74-80の中で、パラオキサンまたはパラチオンを鋳型として、およびメタクリロイル−アンチピリン−ガドリニウムキレートをモノマーとして使用して製造した分子インプリントポリマーを開示している。
【0006】
食品からの農薬の除去は食品産業における大きな焦点であり、食品中の農薬残留物の濃度に対しての社会的関心が高まっている。US5558893は、実質的に農薬を含まない柑橘油の製造のために使用できる、汚染された柑橘油の蒸留方法を開示している。しかしながら、蒸留は、香りと味とを与える多くの揮発性化合物を同時に除去するので、通常柑橘油の香りに対して悪影響を与える。
【0007】
Separation and Purification Technology, Vol 52, Issue 3, 2007年1月, 第403-415頁に開示されているように、改質活性炭による水溶液中の殺真菌剤および除草剤の除去および吸着が、調剤用オイルの精製、製油所、そして農薬のために使用されている。
【0008】
農薬は、柑橘油における問題であるだけでなく、多くの他の精油(たとえばパーム油)に存在する。その結果、食品および飼料製品、たとえば精油から農薬を選択的に除去、抽出、分離および/または分析するための材料および方法の必要性が存在する。
【0009】
発明の概要
本発明の1つの目的は、農薬を選択的に抽出および/または分離するための多孔質分離材料を提供することにある。
【0010】
本発明の1つの目的は、多孔質高分子分離材料であって、メソポーラス領域にある孔を含むことと;BET分析によって測定される50m2/g材料を上回る表面積および0.2ないし1.2ml/g材料の孔容積を有することと、前記材料がCu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+からなる群より選択される1つ以上の金属イオンに結合した1つ以上の官能基を含むこととを特徴とする材料によって達成される。
【0011】
1つの態様では、この多孔質高分子分離材料は、スルホン酸およびカルボン酸からなる群より選択される1つ以上の官能基で置換されたジビニルベンゼンとスチレンとのコポリマー;またはジビニルベンゼンと重合性の三級アルキルアミンとのコポリマーである。
【0012】
本発明の1つの目的は、多孔質高分子分離材料の製造方法であって、
官能性モノマー、架橋性モノマー、任意の開始剤、およびポロゲンを提供することと;
重合させることと;
多孔質高分子材料を得ることと;
前記多孔質高分子材料に、Cu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+からなる群より選択される1種以上の金属イオンを接触させることと;
多孔質高分子分離材料を得ることと
による方法によって達成される。
【0013】
1つの目的は、1つの態様において、上述の方法であって、官能性モノマーが、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸;ビニルベンジルイミノ二酢酸、たとえば4−ビニルベンジルイミノ二酢酸;三級アルキルアミンの重合性誘導体;またはこれらの組み合わせもしくはこれらの塩からなる群より選択され;および/または架橋性モノマーが、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される方法によって達成される。
【0014】
本発明の1つの目的は、食品または飼料製品から農薬を分離する方法であって、食品または飼料製品に本発明による多孔質高分子分離材料を接触させることによる方法によって達成される。
【0015】
1つの態様では、食品または飼料製品から農薬を分離する方法は、多孔質高分子分離材料と農薬との間に三元錯体を生じさせることと;精製された食品または飼料製品を集めることと;前記農薬を溶出させることとをさらに含む。
【0016】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は多孔質高分子分離材料(樹脂)に関する。この樹脂は、多孔質高分子材料であり、それゆえにゲル材料ではない。
【0017】
この樹脂は農薬の分離に特に有用である。この樹脂は、1種以上の標的分子に対して選択的であり、従来の方法または材料によっては十分に分離されない標的分子の閉じ込め、分離、抽出および/または分析、たとえばクロマトグラフ分析を可能にする。標的分子は農薬である。
【0018】
本発明は、多孔質高分子分離材料であって、メソポーラス領域にある孔を含むことと;BET分析によって測定される50m2/g材料を上回る表面積および0.2ないし1.2ml/g材料の孔容積を有することと、前記材料がCu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+からなる群より選択される1つ以上の金属イオンに結合した1つ以上の官能基を含むこととを特徴とする材料に関する。
【0019】
1つの実施形態では、前記金属イオンはAg+およびPd2+から選択される。1つの実施形態では、前記金属イオンはAg+である。Cu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+から選択される2種以上の異なる金属イオンを本発明の樹脂において使用することは可能である。
【0020】
多孔質分離材料の表面積は、1つの実施形態では、>50m2/g材料である。
【0021】
多孔質材料の表面積は、1つの実施形態では、>300m2/g材料、たとえば300ないし700m2/g材料であり;1つの実施形態では、孔の表面積は>400m2/g材料、たとえば400ないし700m2/g材料である。
【0022】
添加した架橋性モノマーの総重量%に基づいて、20重量%を上回る架橋密度の度合いを有する多孔質高分子分離材料が製造される。
【0023】
本発明の樹脂は0.2ないし1.2ml/g材料の孔容積を有する。1つの実施形態では、孔容積は、0.2−0.9ml/g材料の間、たとえば0.3−0.9ml/g材料の間および0.4−0.8ml/g材料の間にある。ある態様では、開示されている様々な間隔が好ましい樹脂をもたらす。
【0024】
材料の孔はメソポーラス領域にある。メソポーラスは2ないし50nmの径を有する孔を意味する。1つの実施形態では、メソポーラス領域にある孔はBET分析で測定される孔表面積が>50m2/g材料である。孔表面積は1つの実施形態では>300m2/g材料、たとえば300ないし700m2/g材料であり;1つの実施形態では孔表面積は>400m2/g材料、たとえば400ないし700m2/g材料である。
【0025】
1つの実施形態では、樹脂は0.2ないし1.0mmol/g材料の容量を有する。この容量は、イオン交換により、たとえば好適な溶媒、たとえば硝酸ナトリウム水溶液または硝酸水溶液および無水メチルアミンでの洗浄により、金属イオンを樹脂から脱離させることによって測定される。この手順のより詳細な説明は例6に開示する。
【0026】
1つの実施形態では容量は0.3−0.8mmol/g材料であり、1つの実施形態では容量は0.35−0.6mmol/g材料である。
【0027】
樹脂は、スルホン酸およびカルボン酸からなる群より選択される1つ以上の官能基で置換されたジビニルベンゼンとスチレンとのコポリマー;またはジビニルベンゼンと重合性の三級アルキルアミンとのコポリマーである。
【0028】
金属錯体は金属に結合した、たとえば配位した高分子担体に付着した官能基間の二元錯体である。樹脂はスルホン酸、カルボン酸および三級アルキルアミンからなる群より選択された1つ以上の官能基を含む。
【0029】
三級アルキルアミンはNR123によって定義される三級アミンであって、R1は重合性基、たとえばビニル基、ビニルベンジル基などであり、R2およびR3は、互いに独立して、直鎖または分枝のC1-6−アルキルで任意に置換されたヘテロアリール−C1-6−アルキルおよびアミノ−C1-6−アルキルから選択される。ヘテロアリールは1つ以上の窒素原子を含むアリール基を意味する。
【0030】
官能基は、一般に、官能性モノマーによって導入され、好適な官能性モノマーは、たとえばビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸;ビニルベンジルイミノ二酢酸、たとえば4−ビニルベンジルイミノ二酢酸;三級アルキルアミンの重合性の誘導体、たとえばアミノ酸、ビピリジル、ターピリジルおよびピリジルである。いくつかの実施形態では、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0031】
架橋性モノマーはジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラートもしくは任意の他の疎水性モノマーまたはこれら組み合わせから選択できる。いくつかの実施形態では、ジビニルベンゼンまたはジビニルベンゼンと他の架橋性モノマーとの組み合わせが好ましい。
【0032】
1つの実施形態では、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸を官能性モノマーとして使用し、ジビニルベンゼンまたはジビニルベンゼンスルホン酸と他の架橋性モノマーとの組み合わせを架橋性モノマーとして使用することが好ましい。
【0033】
開始剤はアゾ開始剤、たとえば2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)もしくは2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ABDV)、または過酸化物開始剤、たとえばベンゾイル過酸化物もしくはtert−ブチル過酸化物、または任意の他のラジカル開始剤から選択できる。重合は熱的またはUV光の照射によって開始できる。
【0034】
さらに、二元錯体中の金属イオンは第3の化学種(標的分子、すなわち農薬)に配位でき、三元錯体をもたらす。用語キレートは、キレート化剤、たとえばイミノ二酢酸の2つ以上の原子に金属イオンが結合している錯体に割り当てられているが、本願の文脈では、スルホン酸の錯体も包含される。二元または三元錯体の安定性は化学量論的に決定され、結合は可逆的である、すなわち反応の平衡定数が大きい標的分子の添加はより弱く結合している標的分子を放出するであろう。吸着剤上での所定の化学種の残留は三元錯体の安定性に関連する。
【0035】
多孔質高分子分離材料の架橋度は重合の間に使用する架橋性モノマーの量に依存する。結果として、架橋性の密度は重合前の混合物(官能性モノマー、架橋剤、任意の開始剤)中の架橋剤の重量%に関連する。高分子分離材料の架橋度は20重量%を上回る架橋性モノマーである。
【0036】
本発明の材料は、上で論じたように、高い表面積および孔容積を有することを特徴とする。加えて、この樹脂は高度に架橋した高分子ネットワークであり、堅牢な構造をもたらす。本発明による樹脂のこの堅牢な構造は優れた熱−機械的性質を可能にし、そのおかげでこの材料は過酷な実験条件に耐えることができる。
【0037】
この高分子材料は、金属と官能性モノマーとの間に強い二元錯体を生じさせ、食品マトリックスへの金属の漏出を最小にする。さらに、三元金属錯体(官能性モノマー、金属および錯体種)は固定化担体上に化学種、たとえば農薬分子を「トラップ」するのに十分に強くある必要がある。錯体安定性の理解(Chem. Rev. 1989年, 89, 1875-1914)は硬い/柔らかい酸および硬い/柔らかい塩基の原理に基づいている。この概念によると、柔らかい塩基、たとえば有機チオフォスファート中の硫黄は、硬い酸に比べると、柔らかい酸、たとえば銀とより強く相互作用する。
【0038】
柔らかい酸として働く金属の例はCu+、Ag+、Pd2+、Pt2+であり、「ボーダーラインの酸」はFe2+、Cu2+、Zn2+である。
【0039】
官能基と金属との安定度定数が低い場合、金属と化学種との二元錯体が拡散し、溶出物を溶出する(漏出)結果となる場合がある。金属の量は原子吸光分光法(ASS)によって好適に測定できる。銀を有する二元錯体についての安定度定数はたとえば(log K):スルホン−Ag=5.6(スルホン基と銀イオンとの間の安定度定数)、イミノ二酢酸−Ag=4.3(スルホン基と銀イオンとの間の安定度定数)およびチオール−銀=13.6(スルホン基と銀イオンとの間の安定度定数)である(Martell, A. E.; Smith, R. M. Critical Stability Constants; Plenum: New York, 1989年)。三元錯体は金属配位と競合する分子の添加によって壊すことができ(一般に文献では配位子交換クロマトグラフィーと呼ばれている)、相対的な安定度係数に応じて、吸収されている化学種の連続的な放出をもたらす。いくつかの場合では、金属の定量的な脱離がたとえばカラムの再生にとって好ましく、その上、金属は吸着されている化学種を完全に遊離させもする。これは酸(たとえば希HNO3または硝酸ナトリウム水溶液)を添加することによって達成できる。本発明の多孔質高分子分離材料(樹脂)は、官能性モノマー、架橋性モノマー、任意の開始剤、およびポロゲンを提供することと;重合させることと;多孔質高分子材料を得ることと;前記多孔質高分子材料に、Cu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+からなる群より選択される1種以上の金属イオンを接触させることと;多孔質高分子分離材料を得ることとによって得られる。1つの実施形態では、官能性モノマーはビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸;ビニルベンジルイミノ二酢酸、たとえば4−ビニルベンジルイミノ二酢酸;三級アルキルアミンの重合性誘導体;またはこれらの組み合わせもしくはこれらの塩からなる群より選択され;および/または架橋性モノマーは、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチルプロパントリメタクリラートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される。
【0040】
1つの実施形態では、多孔質高分子分離材料は懸濁重合によって製造される。
【0041】
官能基は官能性モノマーによって通常導入され、好適な官能性モノマーは、たとえば、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸;ビニルベンジルイミノ二酢酸、たとえば4−ビニルベンジルイミノ二酢酸;三級アルキルアミンの重合性誘導体、たとえばアミノ酸、ビピリジル、ターピリジルおよびピリジルである。いくつかの実施形態では、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0042】
架橋性モノマーはジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラートもしくは任意の他の疎水性モノマーまたはこれらの任意の組み合わせから選択できる。いくつかの実施形態では、ジビニルベンゼンまたはジビニルベンゼンと他の架橋性モノマーとの組み合わせが好ましい。
【0043】
いくつかの実施形態では、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸を官能性モノマーとして使用し、ジビニルベンゼンまたはジビニルベンゼンスルホン酸と他の架橋性モノマーとの組み合わせを架橋性モノマーとして使用することが好ましい。
【0044】
開始剤は、アゾ開始剤、たとえば2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)もしくは2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ABDV)、または過酸化物開始剤、たとえばベンゾイル過酸化物もしくはtert−ブチル過酸化物、または任意の他のラジカル開始剤から選択できる。重合は熱的またはUV光の照射によって開始できる。好適なポロゲンは当業者にしられており、その非制限的な例はクロロホルム、トルエン、ベンジルアルコール、n−オクタン、酢酸エチルおよびメチルイソブチルケトンまたはこれらの混合物である。
【0045】
本発明は農薬に選択的に結合するように調整できる多孔質高分子分離材料に関する。本発明の1つの実施形態では、農薬は有機フォスファート農薬または有機チオフォスファート農薬から選択される。
【0046】
農薬は、たとえば有機フォスファート、有機チオフォスファート;および窒素および硫黄から選択されるヘテロ原子を含むアリール基、たとえばプロクロラズを含む様々な薬品である。
【0047】
本発明の1つの実施形態では、農薬は有機フォスファートおよび/または有機チオフォスファートから選択される。
【0048】
有機フォスファートはリン酸のエステルであり、その非限定的な例はパラチオン、エチオン、マラチオン、メチルパラチオン、クロロピリフォス、ダイアジノン、ジクロルボス、ホスメト、テトラクロルビンホス、フェンチオン、ピリダペンチオン、ピリミフォスメチルおよびアジンホスメチルである。
【0049】
本発明の1つの実施形態は、食品または飼料製品、たとえば精油、たとえば柑橘油から農薬を分離する、多孔質高分子分離材料および/または方法に関する。従来の抽出、分離クロマトグラフィーおよび/または蒸留の方法ならびにそのための材料は、所定の農薬の十分な除去を可能にしない。いくつかの実施形態では、本発明は、精油たとえば柑橘油からの有機フォスファートおよび/または有機チオフォスファートの分離方法に関する。前記方法では、本発明の樹脂は農薬、特に有機フォスファート農薬および/または有機チオフォスファート農薬を実質的に含まない食品または飼料製品を得るために使用される。「実質的に」は、製品が少量の、または不純物としての農薬を含有する場合があるが、農薬のほとんどが除去されていることを意味する。
【0050】
1つの実施形態は、食品または飼料製品に本発明による多孔質高分子分離材料を接触させることによって、この食品または飼料製品から農薬を分離する方法に関する。1つの実施形態では、この方法は、多孔質高分子分離材料と農薬との間に三元錯体を生じさせることと;精製した食品または飼料製品を集めることと;前記農薬を溶出させることとをさらに含む。
【0051】
この多孔質高分子分離材料は分離および/または抽出プロセスにおける吸着剤として使用できる。
【0052】
農薬は有害生物を殺すのに使用される物質またはこれらの物質の混合物である。農薬としては殺藻剤、殺鳥剤、殺菌剤、殺真菌剤、除草剤、殺虫剤、殺ダニ剤、軟体動物駆除剤、殺線虫剤、殺鼠剤、抗ウィルス剤が挙げられる。農薬は合成農薬でもよいし生物農薬でもよい。農薬の非限定的な例は、有機フォスファートもしくは有機チオフォスファート;またはこれらの任意の組み合わせである。
【0053】
精油は植物の揮発性エッセンスであり、通常濃縮されており、限定はされないが、根(ベチベルソウなどの);葉(ティーツリーなどの);花(バラなどの);柑橘類果実(ベルガモットなどの)および種(クミン)など、様々な植物部位から入手できる。柑橘類、スイートオレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリンミカン、ライム、タンジェリンおよびグレープフルーツからの油などの柑橘油、またはこれらの任意の組み合わせが、精油の例である。本発明で使用される精油は油の混合物でもよく、当業者に知られている他の成分、たとえば不純物(農薬以外)、香料添加剤および/または他の添加剤を含有してもよい。
【0054】
本発明にしたがって農薬の除去のために使用できる溶媒は以下の群:アルカン、ケトン、エーテル、エステルから選択でき、より好適なものは、アルカンであるシクロヘキサン、ペンタンである。
【0055】
本発明の1つの実施形態は、食品または飼料製品、たとえば精油からの農薬、たとえば有機フォスファートおよび/または有機チオフォスファートを含有した農薬の分離で使用する、上述の実施形態の1つ以上で説明した多孔質高分子分離材料に関する。1つの実施形態では、精油は柑橘油から選択される。その結果、この樹脂は食品または飼料製品などのマトリックスから農薬を分離する方法で使用できる。
【0056】
分離または分離することとしては、抽出、除去、トラップ、閉じ込め、クロマトグラフィーなどが挙げられると理解される。
【0057】
本発明の1つの実施形態は、食品または飼料製品から農薬を分離および/または精製することに関し、ここでは、農薬に上述の実施形態の1つ以上で説明した多孔質高分子分離材料を接触させる。
【0058】
本発明によると、金属イオン、たとえば銀は、農薬を多孔質高分子分離材料に付着させる各工程の後に、酸(たとえば、HNO3)または塩基(たとえば無水メチルアミン)を添加することによって脱離できる。拘束された農薬はこのようにして放出される。銀は溶液に残り、抽出された錯体は溶媒抽出によって分離できる。
【0059】
本発明の材料は樹脂−担持金属錯体と特徴付けられる。樹脂の形態は2つのカテゴリー、すなわち「マクロポーラス」または「ゲルタイプ」に分類された。ゲルタイプの樹脂は如何なる微細構造も持たない不定形の架橋無限ネットワークを有する。これらの樹脂は架橋度が低く、典型的には4−8%であるが、たとえば交換容量の点で大きな機能的能力を典型的に有する。この例はDowex 50WX8である。この材料は、精密な化学的および調剤的カラム分離のために広く使用されている強いカチオン性樹脂である。Dowex 50WX8はベンゼンスルホン酸官能性を有する8%ジビニルベンゼンで架橋されている。Dowex 50WX8はゲルタイプであり、BET分析によるとポロシティが低いまたはポロシティがなく、高い交換容量を有する。本発明の樹脂を、金属イオンでの官能化、例7、の前後、および高い機能的能力を有する樹脂であるDowex 50WX8、例9、と比較した。
【0060】
例7などの比較例から、本発明の多孔質高分子分離材料と官能化されていないポリマーとの間の1つの違いは、官能化されていないポリマーの場合、多くの柑橘油の主たる溶媒成分であるリモネンの第1の部分を充填したあとでは、ブレークスルーポイント(ポリマーに保持されないために、標的化合物がこのポリマーを通り抜け始めるポイント)に既に達していることにある。
【0061】
比較例、例9から、ゲルタイプ材料の場合、本発明の多孔質高分子材料と対照的に、柑橘油の第1の部分が充填されたでは、ブレークスルーポイントに既に達している。
【0062】
マクロポーラス樹脂は、ゲルタイプ樹脂とは対照的に、乾燥状態であっても、耐久性であり非常に発達した多孔質構造を有する。これらの樹脂は高い架橋度、>10%を典型的に有する。これらの材料は、乾燥状態で、大きな表面積(N2 BETによって測定すると、典型的に50ないし1000m2/gにわたる)を有する。この大きな表面積は非常に発達したマクロポーラスネットワークに関連し、小分子による到達性に優れている。たとえばクロマトグラフィーから、大きな表面積は、担体と溶出物との分子相互作用面積が大きいので、小さな表面積の材料よりも小分子、たとえば農薬をより十分に保持することが知られている。孔容積は相互作用の速度論に影響を及ぼす。筆者は、ゲルタイプ材料が高い交換能力を有するけれども、弱められた相互作用力を有し、その結果、小分子と相互作用をしてこれを保持できる能力および容量が低いと推測する。
【0063】
これに関連して、樹脂の容量は、大きな(無極性の)表面積を有するマクロポーラス樹脂の場合、極性の高い金属錯体への小分子の到達性にも依存する。樹脂の金属拘束容量は、たとえばイオン交換による金属錯体の除去、および樹脂の拘束された金属イオン濃度の定量測定によって評価する。例6を参照のこと。クロマトグラフ性能に関連して、金属樹脂材料は安定度定数が高い小分子を拘束する優れた性能容量を示す一方、安定度定数が低い小分子は部分的に溶出する(クロマトグラフ効果)であろうし、結果として、金属樹脂の低い性能容量を示すであろう。クロマトグラフ効果は、他のマトリックスでは、大なり小なりの強さである(例7および例8)。例10および例13では、本発明の適用性(これらの例に限定されない)を確立するために様々な農薬を試験し、それにより、構造的に多様な式を有する農薬を拘束することができる優れた能力をこの樹脂が有することが分かる。
【0064】
クロマトグラフ用途では、マトリックス混合物が樹脂に接触し、カラムをゆっくりと通り抜け、その結果、固定相と移動相との間での各化合物の平衡分布に依存したマトリック成分の分離をもたらす。
【0065】
バッチモードでは、マトリックス混合物に、織物でつくられた多孔質バッグまたは他の材料(ティーバッグ)内に収容した樹脂を接触させる。次に、このバッグを適切な期間にわたってマトリックス混合物、溶液または調整された媒体中に浸漬させ、その後、ティーバッグなどを取り出す。加えて、バッチモードをバッグの使用なしに行ってもよく、そうすると、樹脂はマトリックス混合物中に浮遊する。この方法の利点は、それが吸着剤の容易な分離と単純化された処理とを提供することにある。この方法は樹脂への親和性を有する農薬に対して使用することができる。
【0066】
添付した例から、本発明による多孔質高分子分離材料はマトリックス、たとえば精油から農薬を除去するのに働くことが明確に分かる。例14および例15から、様々な粒径で製造した本発明の樹脂が農薬の除去に有効であることが分かる。その結果、この材料は本発明の目的のうちの1つを達成すること、すなわち精油から農薬を除去することに成功する。
【0067】
例7、例8、例9、例17、および例18の全てから、本発明のポリマーを金属で処理して、本発明による多孔質高分子分離材料を得ることができることが分かる。これらの例から、この材料が農薬、たとえばエチオン、マラチオンおよびパラチオンを精油から効率的に除去することが明らかである。
【0068】
本発明の1つの実施形態では、抽出カラム内の材料−ベッドの高さを増やすことによって、本発明の樹脂を使用する農薬の抽出中に、クロマトグラフ効果を最小にするおよび/またはこれをなくすることができる。
【0069】
農薬を含有したマトリックスが複雑な構造である場合、分離性能に悪影響が及ぶ場合がある。本発明の1つの実施形態では、マトリックスが所定の有機溶媒またはリモネンで希釈されるので、望まれないマトリックス効果が最小にされるおよび/またはそれが避けられる。たとえば、シクロヘキサンおよび/またはリモネンで希釈した柑橘類/レモン油は、希釈していない柑橘類/レモン油と比較すると、樹脂への農薬の拘束を向上させる。これは、本発明の樹脂による農薬の改善された分離を可能にする。
【0070】
本発明の1つの実施形態では、「高価値」成分(香料製品に価値を与えるマトリックスの特徴的な化合物である芳香剤、香料および着色剤)を有するマトリックスの分離が改善される。前記成分は、これらが樹脂に結合しうるため、分離を複雑にする場合がある。驚くべきことに、農薬を含有していたマトリックスの充填のあとに、種々の有機溶媒、たとえばヘプタンおよび/またはリモネンでの洗浄工程を導入することによって、分離の選択性を改善できることが分かった。それにより、農薬の抽出のためのこの適用領域をより複雑なマトリックスまで広げることができる。
【0071】
本発明の樹脂は、それを分析の前の試料処理工程で使用することによって、解析問題に適用できる。また、この方法を大規模で工業的な目的に適合させることが可能である。
【0072】
本発明の樹脂は、バッチモードで使用してもよいし、クロマトグラフィーで使用してもよい。
【0073】
区間が存在しているところでは、その区間内の各個それぞれの数字に加えて、この区間内の考えられる各部分区間を意味することが意図され、たとえば、0ないし50の区間は、2ないし10、25.1ないし25.5および5ないし40などの部分区間を含む。
【0074】
本発明において「1以上」を使用するところでは、1以上、2以上、3以上などを含むと意図される。
【0075】

例1
水(100mL)およびトリブチルアミン(7.4g、0.04mol)、続いて硫酸(4.0g、0.04mol)、および次に4−ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(8.4g、0.04mol)を、攪拌しながらボトルに添加した。トルエン(55mL)を添加し、2相系を0.5時間にわたってpH=1で激しく攪拌した。これらの相は容易に分離し、トルエン相を精製なしに次の工程で使用した。試料をNMR分析のために濃縮した。NMR(CDCl3、500MHz)δH 1.38(t、9H)、3.09−3.26(m、18H)、5.30(d、1H)、5.81(d、1H)、6.64−6.76(m、1H)、7.38−7.47(m、2H)、7.81−7.90(m、2H)、10.2−10.5(bs、1H)。
【0076】
ポリビニルアルコール(PVA)(Celvol 523)を90Cの水(400mL)に溶解させて2重量%溶液を作り、これを室温まで冷まし、その後懸濁リアクタに添加した。ジビニルベンゼン80%技術グレード(26g、0.2mol)を、(例1からの)4−ビニルベンゼンスルホン酸トリブチルアミン塩の調製トルエン溶液に添加した。開始剤、ABDV(V65、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.6g)をトルエン溶液に添加し、この溶液に窒素をバブリングした。PVA溶液、続いてモノマー溶液をリアクタに入れた。
【0077】
この二相混合物を数分間攪拌し、温度を50℃まで高め、4−6時間後に65℃まで上昇させた。このプロセスを終夜維持した。ポリマーを20μmの篩を使用してろ過し、水で慎重に洗浄した。このポリマーを1MのH2SO4で0.5時間にかけて洗浄し、その後約400mlの水で洗浄した。次に、このポリマーをソックスレーにおいてエタノールで終夜洗浄し、乾燥させて28.4gのポリマーを得た(83%の収率)。粒径を測定すると20−130μmであり、金属充填前に、20−90μmのフィルタによって篩い分けした。水中でスラリーにしたポリマーの試料についての、指示薬として1MのNaOHおよびフェノールフタレインを用いた滴定は、0.36mmolの硫酸/g乾燥ポリマーを示した。
【0078】
疎水性多孔質高分子分離材料の性質(BET分析):
平均粒径(D[4,3]): 61μm
表面積: 602m2/g
孔容積: 0.88mL/g
平均孔径: 58.2Å
dV/dlog(D) 脱離孔プロットからのピーク値 120Å
【0079】
例2−比較例
Dowex 50WX8-400樹脂(5g)を5%のH2SO4(1M)中で1時間かけてスラリーにし、次にpH5の水(400mL)、続けてメタノール(100mL)で洗浄した。水中でスラリーにされたポリマーの試料についての、指示薬として1MのNaOHおよびフェノールフタレインを用いた滴定は2.3mmolの硫酸/g乾燥ポリマーを示した。例5aと同じ方法でこの樹脂に銀を充填した。
【0080】
例3−イミノ二酢酸官能性を有する樹脂の合成
イミノ二酢酸(4g、30mmol)を水メタノール(60mL、1:1)に溶解させ、水酸化ナトリウム(2g、50mmol)を添加した。溶液を60℃まで暖め、4−ビニルベンジル塩化物(5,4g、35mmol)をゆっくりと添加した。半分の量の塩化物を添加した後、さらに2gの水酸化ナトリウムを添加し、続いて残りの塩化物を添加した。60℃で0.5時間後、溶液を冷まし、ジエチルエーテルで洗浄した。水相を濃塩酸を用いて酸性化してpH2.5にし、粗生成物をろ過し、水メタノールからの再結晶によって精製した。収率36%。
【0081】
多孔質高分子分離材料の製造。
水(200mL)および4−ビニルベンジルイミノ二酢酸(10.0g、0.04mol)、続けてトリ−n−オクチルアミン(14.0g、0.04mol)、次にトルエン(50mL)およびベンジルアルコール(10mL)をボトルに添加し、0.5時間かけて激しく攪拌した。相は容易に分離して、有機相を精製なしに次の工程で使用した。
【0082】
ポリビニルアルコール(PVA)(Celvol 523)を90Cの水(400mL)に溶解させて2重量%溶液を作り、これを室温まで冷まし、その後懸濁リアクタに添加した。ジビニルベンゼン80%技術グレード(26g、0.2mol)を(上の例からの)4−ビニルベンジルイミノ二酢酸トリオクチルアミノ塩の調製溶液に添加した。開始剤、ABDV(V65、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.6g)をトルエン溶液に添加し、この溶液に窒素をバブリングした。PVA溶液、続いてモノマー溶液をリアクタに入れた。
【0083】
この二相混合物を数分間攪拌し、温度を50℃まで高め、4−6時間後に65℃まで上昇させた。このプロセスを終夜維持した。ポリマーを20μmの篩を使用してろ過し、水で慎重に洗浄した。このポリマーを1MのH2SO4で0.5時間にかけて洗浄し、その後約400mlの水で洗浄した。次に、このポリマーをソックスレーにおいてエタノールで終夜洗浄し、乾燥させた。粒径を測定すると、20−130μmであった。
【0084】
例1と同じ方法で材料に銀を充填した。銀の脱離は0.21mmolAg/g乾燥樹脂を示す。
【0085】
例4−ビス(2−ピリジルメチル)−4−ビニルベンジルアミンの合成
2−ピコリルクロリド塩酸塩(4.1g、25mmol)および4−ビニルベンジルアミン(1.6、12mmol)を水(30mL)に溶解させ、60℃まで加熱した。この溶液に、水酸化ナトリウム水溶液(10mL、5M)を0.5時間の期間をかけて添加し、その後さらに1時間にわたって攪拌した。冷めた溶液をジクロロメタンで抽出し、抽出液を乾燥させ、溶媒を蒸発させた。生成物が粘性の茶色の油として得られた(3.4g、84%)。
【0086】
多孔質高分子分離材料の製造。
ポリビニルアルコール(PVA)(Celvol 523)を90Cの水(400mL)に溶解させて2重量%溶液を作り、これを室温まで冷まし、その後懸濁リアクタに添加した。ジビニルベンゼン80%技術グレード(26g、0.2mol)を(上の例からの)ビス(2−ピリジルメチル)−4−ビニルベンジルアミン(0.02mol)の調製溶液に添加した。開始剤、ABDV(V65、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.6g)をトルエン溶液に添加し、この溶液に窒素をバブリングした。PVA溶液、続いてモノマー溶液をリアクタに入れた。
【0087】
この二相混合物を数分間攪拌し、温度を50℃まで高め、4−6時間後に65℃まで上昇させた。このプロセスを終夜維持した。ポリマーを20μmの篩を使用してろ過し、水で慎重に洗浄した。このポリマーを約400mlの水、続けて100mlのメタノールで洗浄した。次に、このポリマーをソックスレーにおいてエタノールで終夜洗浄し、乾燥させた。粒径を測定すると、40−130μmであった。
【0088】
例1と同じ方法で、材料に銀を充填した。
【0089】
例5−多孔質高分子分離材料への種々の金属イオンの充填
例5a−Ag+の充填。
例1に開示したように製造した8gの乾燥ポリマーを20mlのMeOHを用いてスラリーにした。1時間後、2mlの水に溶解させたAgNO3(1.0g、6mmol)を添加した。1時間後、ポリマーをメタノール20ml、水50mlおよびメタノール50mlで洗浄し、乾燥させた。理論:ポリマーのグラム当たり0.36×169.9=61.2mgAgNO3
【0090】
例5b−Ag+の充填。
例1からの10gの乾燥ポリマーを、30mlのメタノールでスラリーにした。5分後、樹脂を水で洗浄した。次に、この樹脂を40mlの水でスラリーにして、フラッシュカラム(内径20mm)に流し込んだ。100mlの水に溶解させた1.5gの硝酸銀(1drpのHNO3で酸性化させた)をゆっくりとこのカラムに通した(約6−8時間)。材料を蒸留水(100ml)、続けてメタノール(100ml)で洗浄し、その後真空オーブンにおいて乾燥させた。
【0091】
例5c−Cu2+の充填。
例1からの10gの乾燥ポリマーを、30mlのメタノールでスラリーにした。5分後、樹脂を水で洗浄した。次に、この樹脂を40mlの水でスラリーにし、フラッシュカラム(内径20mm)に流し込んだ。CuCl2(1.4g、10mmol)を100mlの水(pH5)に溶解させ、これをゆっくりとカラムに通した(約6−8時間)。材料を蒸留水(100ml)、続けてメタノール(100ml)で洗浄し、その後真空オーブンにおいて乾燥させた。
【0092】
試料(2.4g)を2MのHCl(30ml)で1時間処理した。緑みを帯びた水を蒸発乾固させた。157mgCuCl2/2.4g樹脂=65.4mgCuCl2(0.49mmol)/g樹脂。
【0093】
例5d−Cu+の充填
例1からの10gの乾燥ポリマーを30mlの水アセトニトリル(15:85)でスラリーにした。5分後、樹脂をフラッシュカラム(内径20mm)に流し込んだ。塩化銅(I)CuCl(2.0g、20mmol)を100mlの水アセトニトリル(15:85)中に窒素下で溶解させ、カラムに添加する前に静置させておいた。この金属溶液をゆっくりとカラムに通した(約6−8時間)。材料を蒸留水(30ml)、続けてメタノール(30ml)で洗浄し、その後真空オーブンにおいて乾燥させた。
【0094】
試料を、2MのHCl(30ml)で1時間処理した。洗浄水を蒸発乾固指せ、緑色の固体を残した。144.6mg/2.1g樹脂=69mg(0.70mmol/g樹脂)。
【0095】
例5e−Pd2+の充填
(充填までは)例1に開示したように製造した1.0g乾燥ポリマーを、3mlのメタノールでスラリーにした。5分後、樹脂を水で洗浄した。次に、樹脂を4mlの水でスラリーにし、フラッシュカラム(内径10mm)に流し込んだ。PdCl2(0.6g、3mmol)を10mlの水(pH5)に溶解させ、ゆっくりとカラムに通した(約6−8時間)。材料を蒸留水(10ml)、続けてメタノール(10ml)で洗浄し、その後真空オーブンにおいて乾燥させた。
【0096】
例5e−Zn2+の充填
例1からの10g乾燥ポリマーを30mlのメタノールでスラリーにした。5分後、樹脂を水で洗浄した。次に、樹脂を30mlの水でスラリーにし、これをフラッシュカラム(内径20mm)に流し込んだ。ZnCl2(2.0g、15mmol)を100mlの水(pH5)に溶解させ、これをゆっくりとカラムに通した(約6−8時間)。材料を蒸留水(10ml)、続けてメタノール(100ml)で洗浄し、その後真空オーブンにおいて乾燥させた。
【0097】
上述の例のいくつかにおいては、樹脂をさらに洗浄し、このようなさらなる洗浄工程としては、たとえば、酢酸エチル、ヘプタン、アセトニトリルおよびシクロヘキサンでの洗浄を挙げることができる。洗浄工程および洗浄溶媒の必要性は、当業者が決定する能力の範囲にある。
【0098】
例6−金属の脱離
a)例5aにしたがって製造した0.5gの樹脂を、EtOH(エタノール)中の5mlの33%MeNH2+5mlのMeOH(メタノール)で、0.5時間洗浄した。溶出液を乾燥させ、約20mgの茶色い残留物を得た。この残留物を50gの水+2drpの濃HNO3に溶解させ、銀の量を原子吸光分光法(AAS)によって測定すると、67mgのAgNO3/g樹脂であった;または
b)例5bにしたがって製造した1.0gの乾燥樹脂をろ過漏斗に入れた。20mlの0.5Mの硝酸ナトリウム水溶液をゆっくりとこの漏斗に通した(約0.5−1h)。約2mlの1Mの塩化ナトリウム水溶液を溶出した硝酸塩溶液に添加した。得られた塩化銀を4時間沈殿させ、その後集め、洗浄して、130℃で1時間乾燥させた。集めた固体の重量分析は51.0mgを示す。
【0099】
例7−リモネンからの充填試験、本発明の樹脂と官能化していないポリマーとの比較
標準/充填溶液:リモネン中のパラチオン、マラチオンおよびエチオン、25μg/ml
内部標準の溶液:酢酸エチル中のピレン、50μg/mlの200mgの:
・例5aにしたがって製造し、銀で処理したポリマー
・DVB硫酸−ポリマー(例1にしたがって製造したが最終的な金属処理をしていないNFP、非官能化ポリマー)
を3mlのSPE−カートリッジ(材料当たり2つ)に別々に詰めた。
【0100】
1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、カラム当たり10の部分を集めた。50μlの内部標準を各収集ガラス管に加え、試料の濃度レベルを高めるため、GC−MS−分析の前に溶媒を蒸発させた。結果は表1に見ることができる。ここでは、第1の欄の数がそれぞれ10および5の連続工程においてそれぞれのポリマーに添加した1mlのアリコットに関する。
【表1】

【0101】
これらの例の結果から、本発明、例5aによる高分子分離材料がリモネンから農薬を効率よく除去した(保持されないものが0%)一方で、金属処理を行っていない同じの材料(NFP)が効率的に農薬を留めなかったことが明確に分かる。
【0102】
例8−レモン油からの充填試験
標準/充填溶液:レモン油中のパラチオン、マラチオンおよびエチオン、25μg/ml
内部標準の溶液:酢酸エチル中のピレン、50μg/ml
例5aで製造した200mgのポリマーを3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0103】
1mlの標準溶液を各SPEカラムに6回充填し、6つの部分を集めた。50μlの内部標準を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表2に示す。
【表2】

【0104】
結果から、本発明、例1による高分子分離材料が、市販のレモン油によるこの実験で示された、精油中の農薬を保持することができる優れた能力を示すことが分かる。
【0105】
例9−柑橘油からの充填試験、本発明の樹脂とDOWEXポリマーとの比較
市販材料1:
銀イオンで処理した200mgのDVB硫酸−ポリマー(市販のDOWEX 50 W X8-400;38−75μm)を3mlのSPEカートリッジ、例2に詰めた。
【0106】
材料2:
例1で製造し、例5aに示したように銀イオンで処理した200mgのポリマー;20−90μmを3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0107】
4つの種々の希釈系での1mlの標準溶液を5回充填し、全ての部分を別々に集めた。
【0108】
50μlの内部標準を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表3に示す。
【表3】

【0109】
結果から、本発明、例5aによる高分子分離材料(材料2)が、材料1に比べて優れた、市販の柑橘油によるこの実験で示された精油中の農薬を保持することができる能力を示すことが分かる。
【0110】
例10−リモネンからの他の農薬の抽出
標準/充填溶液:リモネン中の、ブロモプロピラート、プロクロラズ、フェンチオン、メチルパラチオン、メチルピリミフォスおよびピリダペンチオン、10μg/ml
内部標準の溶液:酢酸エチル中のピレン、50μg/ml
例5aで製造した400mgのポリマーを3mlのSPEカートリッジに詰めた。1mlの標準溶液をこのSPEカラムに10回充填し、部分を集めた。
【0111】
50μlの内部標準を各収集ガラス管に加え、GC−MSの分析のための試料の濃度レベルを高めるため、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。
【表4】

【0112】
結果から、本発明、例5aによる高分子分離材料が有機チオフォスファート(たとえば複素環式誘導体など)などの構造的に様々な農薬を保持することができる優れた能力を示すことが分かる。
【0113】
例11−「ティーバッグ抽出」および「懸濁抽出」実験のためのエチオンが混入したグレープフルーツ油の調製。ティーバッグ:ポリプロピレン、孔径50μm。
【0114】
40.8ミリグラムのエチオンを量り、ガラス瓶に入れる。エチオンを、グレープフルーツ油を使用して、1リットルのグレープフルーツ油に移動させる。電磁攪拌子を使用して、15分間かけて完全に混合させる。この油中のエチオンの濃度は40.8mg/Lである。「ティーバッグ抽出」のために混入物入りの0.5Lのグレープフレーツ油を採り、「懸濁抽出」実験のために別の0.5Lを採った。
【0115】
抽出実験
40.8mg/Lの濃度でエチオンが混入した0.5Lのグレープフレーツ油を採り、例5bの1グラムの材料を含んだ「ティーバッグ」に加える。この油を電磁攪拌子で連続的に攪拌する。24時間の期間にわたって、油のアリコットを定期的に採り、これをエチオンについて分析した。サンプリング時間および測定したエチオン濃度についての詳細を表2に示す。24時間の期間が終わったら、この油を他の容器に移し、「ティーバッグ」を捨てた。
【表5】

【0116】
例12−懸濁モード抽出実験
40.8mg/Lの濃度でエチオンが混入した0.5Lのグレープフレーツ油を採り、例5bの1グラムの材料をこのグレープフルーツ油に直接加える。
【0117】
この油を電磁攪拌子で連続的に攪拌する。24時間の期間にわたって、油のアリコットを定期的に採り、これをエチオンについて分析した。サンプリング時間および測定したエチオン濃度の詳細を表3に示す。24時間の期間が終わったら、このオイルをMunktell濾紙#3を使用して濾過する。
【表6】

【0118】
例13−グレープフルーツ油からの農薬の除去
例5bで製造した400mgのポリマーを3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0119】
1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。50μlの内部標準を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表7に示す。
【表7】

【0120】
例14−オレンジ油からの農薬の除去
例5bにおいて様々な粒径を得るように製造した400mgのポリマーを、3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0121】
各農薬を25ppmで含有した1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。25μlの内部標準、ピレン溶液(50ppm)を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表8に示す。様々な粒径を有するバッチのカラムモード(SPE)での性能チェックを行う。
【表8】

【0122】
例15−レモン油からの農薬の除去
例5bにおいて様々な粒径を得るように製造した400mgのポリマーを、3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0123】
各農薬を25ppmで含有した1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。25μlの内部標準、ピレン溶液(50ppm)を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表8に示す。様々な粒径を有するバッチのカラムモード(SPE)での性能チェックを行った。
【表9】

【0124】
例16−レモン油からの充填試験
例3において様々な粒径を得るように製造した400mgのポリマーを3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0125】
各農薬を25ppmで含有した1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。25μlの内部標準、ピレン溶液(50ppm)を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表10に示す。
【表10】

【0126】
例17−レモン油からの充填試験
400mgのポリマーを例5eで製造した。
【0127】
各農薬を25ppmで含有した1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。25μlの内部標準、ピレン溶液(50ppm)を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表11に示す。
【表11】

【0128】
例18−レモン油からの充填試験
ポリマーを例5c、5dおよび5fにおいて様々な粒径を得るように製造した400mgのポリマーを3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0129】
各農薬を25ppmで含有した1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。25μlの内部標準、ピレン溶液(50ppm)を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表12に示す。
【表12】

【0130】
ポリマーを例5c、5dおよび5fにおいて様々な粒径を得るように製造した400mgのポリマーを3mlのSPEカートリッジに詰めた。
【0131】
各農薬を25ppmで含有した1mlの標準溶液を各SPEカラムに10回充填し、10個の部分を集めた。25μlの内部標準、ピレン溶液(50ppm)を各収集ガラス管に加え、GC−MSでの分析のための試料の濃度レベルを高めるために、部分を集める前に溶媒を蒸発させた。結果を表12に示す。
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質高分子分離材料であって、
メソポーラス領域にある孔を含むことと;
BET分析によって測定される>50m2/g材料の全表面積および0.2ないし1.2ml/g材料の孔容積を有することと;
前記材料がCu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+からなる群より選択される1つ以上の金属イオンに結合した1つ以上の官能基を含むことと
を特徴とする多孔質高分子分離材料。
【請求項2】
前記金属イオンがAg+またはPd2+からなる群より選択される請求項1に記載の多孔質高分子分離材料。
【請求項3】
前記メソポーラス領域にある前記孔はBET分析によって測定される>50m2/g材料の孔表面積を有する請求項1または2に記載の多孔質高分子分離材料。
【請求項4】
前記1つ以上の官能基はスルホン酸、カルボン酸および三級アルキルアミンからなる群より選択される請求項1ないし3のいずれか1項に記載の多孔質高分子分離材料。
【請求項5】
前記材料は0.2ないし1.0mmol/g材料の容量を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の多孔質高分子分離材料。
【請求項6】
前記多孔質高分子分離材料は、スルホン酸およびカルボン酸からなる群より選択される1つ以上の官能基で置換されたジビニルベンゼンとスチレンとのコポリマー;またはジビニルベンゼンと重合性の三級アルキルアミンとのコポリマーである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の多孔質高分子分離材料。
【請求項7】
前記1つ以上の官能基はスルホン酸から選択される請求項4ないし6に記載の多孔質高分子分離材料。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の多孔質高分子分離材料の製造方法であって、
官能性モノマー、架橋性モノマー、任意の開始剤、およびポロゲンを提供することと;
重合させることと;
多孔質高分子材料を得ることと;
前記多孔質高分子材料にCu+、Ag+、Pd2+、Cu2+またはZn2+からなる群より選択される1種以上の金属イオンを接触させることと;
多孔質高分子分離材料を得ることと
による方法。
【請求項9】
a.前記官能性モノマーは、ビニルベンゼンスルホン酸、たとえば4−ビニルベンゼンスルホン酸;ビニルベンジルイミノ二酢酸、たとえば4−ビニルベンジルイミノ二酢酸;三級アルキルアミンの重合性誘導体;またはこれらの組み合わせもしくはこれらの塩からなる群より選択され;および/または
b.前記架橋性モノマーは、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラートまたはこれらの任意の組み合わせから選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記官能性モノマーはビニルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩またはビニルベンジルイミノ二酢酸のアンモニウム塩である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アンモニウム塩はトリブチルアンモニウム塩またはテトラブチルアンモニウム塩である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
食品または飼料製品から農薬を分離する方法であって、前記食品または飼料製品に請求項1ないし7のいずれか1項に記載の多孔質高分子分離材料を接触させることによる方法。
【請求項13】
前記多孔質高分子分離材料と前記農薬との間に三元錯体を生じさせることと;
精製された前記食品または飼料製品を集めることと;
前記農薬を溶出させることと
をさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記農薬は有機フォスファート農薬、有機チオフォスファート農薬、もしくは窒素および硫黄から選択されるヘテロ原子を含むアリール基を含んだ農薬、またはこれらの任意の組み合わせから選択される請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記製品は精油または精油の組み合わせである請求項12ないし14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記精油は柑橘類、スイートオレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、マンダリンおよびタンジェリンおよびグレープフルーツ、またはこれらの任意の組み合わせから作られる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1種以上の農薬を含む食品または飼料製品に請求項1ないし7のいずれか1項に記載の多孔質高分子分離材料を接触させることによって得られる、実質的に農薬を含まない食品または飼料製品。

【公表番号】特表2012−527347(P2012−527347A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511789(P2012−511789)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050536
【国際公開番号】WO2010/134877
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511282564)バイオタゲ・エービー (1)
【氏名又は名称原語表記】Biotage AB
【住所又は居所原語表記】Kungsgatan 76, 753 18 UPPSALA, Sweden
【Fターム(参考)】