説明

多官能含フッ素化合物及び該化合物の製造方法

【課題】多官能含フッ素化合物及び該化合物の製造方法、該化合物からなる架橋剤、該化合物を含む硬化性組成物及び該組成物を硬化させた硬化物を提供する
【解決手段】一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rfは置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基であり、該置換基は−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Rはアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Xは同一又は異なってH又はFであり、Zは−CF−又は単結合である。]
で表される基を2以上有する化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能含フッ素化合物及び該化合物の製造方法、該化合物からなる架橋剤、該化合物を含む硬化性組成物及び該組成物を硬化させた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内にフッ素原子を有する含フッ素化合物は、光の透過性や光に対する耐久性に優れており、含フッ素化合物を含む材料は、塗料の架橋剤、硬化性組成物、光デバイス関連の封止部材用材料等として使用されている。これらの用途に使用される含フッ素化合物は、他の成分と反応する官能基を分子内に複数有することが望まれる。
【0003】
しかしながら、含フッ素化合物の合成には、フッ素原子を有する特殊な原料が必要である。また、含フッ素化合物の反応性は一般的な有機化合物とは異なることが多いので、通常の有機合成の手法によって目的とする化合物を得ることは難しい。
【0004】
特に、分子内に複数の官能基を有する多官能含フッ素化合物は合成が容易ではなく、官能基数が3以上の多官能含フッ素化合物になると、市販されているものは皆無の状況である。
【0005】
このような状況下、分子内に複数の官能基を有する新規な多官能含フッ素化合物が求められている。
【特許文献1】国際公開WO2004/016689パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多官能含フッ素化合物及び該化合物の製造方法、該化合物からなる架橋剤、該化合物を含む硬化性組成物及び該組成物を硬化させた硬化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、多官能チオール化合物と官能基を有する含フッ素アリル化合物とのエンチオール反応、又は多官能チオール化合物と官能基を有する含フッ素ビニルエーテル化合物とのエンチオール反応により、容易に新規多官能含フッ素化合物を合成できることを見出した。
【0008】
得られた多官能含フッ素化合物は、分子内に複数の反応性官能基を有するので、塗料の架橋剤、添加剤として好適に使用できる。また、官能基を分子内に複数有する本発明の多官能含フッ素化合物は、硬化性組成物とし、これを硬化させて硬化物を製造することもできる。本発明は、この様な知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0009】
本発明は、下記項1〜11に示す新規な多官能含フッ素化合物、該化合物の製造方法、該化合物からなる架橋剤、該化合物を含む硬化性組成物及び該組成物を硬化させた硬化物を提供する。
項1. 一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rfは置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基であり、該置換基は−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Rはアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Xは同一又は異なってH又はFであり、Zは−CF−又は単結合である。]
で表される基を2以上有する化合物。
項2. 一般式(1a)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、TはO、N及びSからなる群から選ばる少なくとも1種のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素であり、pは2以上の整数であり、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される項1に記載の化合物。
項3. 一般式(1b)
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、Rは同一又は異なって単結合、−C2a−、−C2b−B−C2c−又は−S−C2d−であり、a、b、c及びdは同一又は異なって1以上の整数であり、Bは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−であり、Aは−C2e−又は−C2f−E−C2g−であり、e、f及びgは同一又は異なって1以上の整数であり、Eは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−であり、RはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基であって、RはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基であって、qは0以上の整数であり、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される項2に記載の化合物。
項4. 一般式(1c)
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、Qは置換基を有していてもよい脂肪族環、置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環であり、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、RはH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、rは2以上の整数であり、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される項2に記載の化合物。
項5. XがH、Zが−CF−である項1〜4のいずれかに記載の化合物。
項6. XがF、Zが単結合である項1〜4のいずれかに記載の化合物。
項7. Rfが置換基を有する炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜50のエーテル結合を有する直鎖又は分岐鎖の含フッ素アルキル基であり、該置換基が−OH、−CHOH、−COOH、−COOR(式中Rは前記に同じ)及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である項1〜6のいずれかに記載の化合物。
項8. 分子内に2以上の一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rfは置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基であり、該置換基は−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Rはアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Xは同一又は異なってH又はFであり、Zは−CF−又は単結合である。]
で表される基を有する化合物の製造方法であって、分子内に2以上のチオール基を有する化合物を一般式(2)
CX2=CF−Z−O−Rf (2)
[式中、X、Z及びRfは前記に同じである。]
で表される化合物と反応させることを特徴とする製造方法。
項9. 項1〜6のいずれかに記載の化合物からなる塗料用架橋剤。
項10. 項1〜6のいずれかに記載の化合物を含有する硬化性組成物。
項11. 項10に記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。
【0016】
多官能含フッ素化合物
本発明の多官能含フッ素化合物は、下記一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rfは置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基であり、
該置換基は−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
はアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、
及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、
Xは同一又は異なってH又はFであり、
Zは−CF−又は単結合である。]
で表される基を2以上有する化合物である。
【0017】
一般式(1)のRfにおいて、「置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基」の含フッ素アルキル基は、炭素数1〜20の含フッ素アルキル基が好ましく、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基がより好ましい。該含フッ素アルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよい。
【0018】
一般式(1)のRfにおいて、「置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基」のアルキル基は、炭素数2〜50のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基が好ましく、炭素数2〜25のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基がより好ましい。該含フッ素アルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよい。
【0019】
一般式(1)のRfにおいて、「置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基」及び「置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基」の置換基としては、例えば−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体が挙げられる。
【0020】
一般式(1)のRf中のこれらの置換基は、Rf中に少なくとも1つ存在すればよく、Rf中に2個以上存在していてもよい。すなわち、一般式(1)のRfにおいて、「置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基」及び「置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基」には、−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基が存在する。
【0021】
これらの置換基を少なくとも2つ有する本発明の多官能含フッ素化合物は、該置換基が官能基となるので、塗料の架橋剤等として使用できる。
【0022】
これらの置換基の中でも、−OH、−CHOH、−COOH、−COOR及び−CNからなる群から選ばれた少なくとも1種をRf中に有することが好ましい。溶剤への溶解性の点から、置換基として−COOHをRf中に有することが好ましい。
【0023】
Rf中の置換基−COORにおいて、Rは、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。該アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。また、該含フッ素アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0024】
該置換基−COORの具体例としては、例えば、−COOCH、−COOCHCH、−COOCHCF、−COOCHCFCF等が挙げられる。これらの中でも、−COOCHは合成の容易さ、耐熱性の高さの点で好ましい。−COOCHCFは合成の容易さ、低屈折率性の観点から好ましい。
【0025】
置換基−CONRにおいて、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。該アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。また、該含フッ素アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0026】
該置換基−CONRの具体例としては、例えば、−CONH、−CONHCH、−CON(CH等が挙げられる。
【0027】
また、置換基−COOHの誘導体としては、例えば、−COONH、−COONa、−COOK、−COOLi等のカルボン酸の塩が挙げられる。また、―SOHの誘導体としては、―SONH、―SONa、―SOK、―SOLi等のスルホン酸の塩が挙げられる。
【0028】
一般式(1)のRfにおいて、「置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基」及び「置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基」の具体的な構造式としては、例えば、以下の構造式で表すことができる。式中、該置換基はYで表す。
【0029】
【化4】

【0030】
[式中、l及びmは同一又は異なって1〜10の整数であり、s、t及びuは同一又は異なって0又は1であり、nは0〜5の整数であり、n、n及びnは同一又は異なって0以上の整数であって、n+n+n=1〜10であり、X、X、X及びXは同一又は異なってF又はCF3であり、X、X及びX6は同一又は異なってH又はFであり、各繰り返し単位はこの順に限られず、ブロックでもよくランダムでもよい。]
等が挙げられる。
【0031】
Rfはこれらの中でも下記構造式で表されるものが好ましい。
【0032】
【化5】

【0033】
[式中、nは前記に同じ。]
さらに、Rfはこれらの中でも、特に下記構造式で表されるものが好ましい。
【0034】
【化6】

【0035】
[式中、n及びmは前記に同じ。]
一般式(1)−S−CX2CHF−Z−O−Rfにおいて、Xは同一又は異なってH又はFである。また、一般式(1)において、Zは−CF−又は単結合である。一般式(1)においては、XがHかつZが−CF−である化合物、又はXがFかつZが単結合である化合物が好ましい。
【0036】
一般式(1)で表される化合物の中でも、下記一般式(1a)
【0037】
【化7】

【0038】
[式中、TはO、N及びSからなる群から選ばれた少なくとも1種のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素であり、
pは2以上の整数であり、
X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される化合物が好ましい。
【0039】
一般式(1a)において、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なり、上記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。
【0040】
また、一般式(1a)で表される化合物において、式:−(S−CXCHF−Z−O−Rf)で表される基は、p個(pは2以上の整数)存在し、それぞれ同一又は異なる。
【0041】
pは通常2〜20の整数、好ましくは2〜10の整数、より好ましくは2〜6の整数である。
【0042】
一般式(1a)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(1b)
【0043】
【化8】

【0044】
[式中、Rは同一又は異なって単結合、−C2a−、−C2b−B−C2c−又は−S−C2d−であり、
a、b、c及びdは同一又は異なって1以上の整数であり、
Bは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−であり、
Aは−C2e−又は−C2f−E−C2g−であり、
e、f及びgは同一又は異なって1以上の整数であり、
Eは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−であり、
はH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基であって、
はH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基であって、
qは0以上の整数であり、
X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じであり、
式:−(S−CXCHF−Z−O−Rf)で表される基は同一又は異なる。]
で表される化合物が挙げられる。
【0045】
一般式(1b)において、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なり、上記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。
【0046】
一般式(1b)中、Rは同一又は異なって単結合、−C2a−、−C2b−B−C2c−又は−S−C2d−である。a、b、c及びdは同一又は異なって1以上の整数であり、好ましくは1〜20の整数、より好ましくは1〜10の整数である。
【0047】
また、Rが−C2b−B−C2c−で示される基において、Bは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−である。ただし、Rにおいて、−C2a−、−C2b−B−C2c−及び−S−C2d−はそれぞれ紙面の右側結合子が一般式(1b)中の−S−CX2CHF−Z−O−RfのS原子に結合する。Bはこれらの中でも、−OC(=O)−が好ましい。
【0048】
一般式(1b)中、Aは−C2e−又は−C2f−E−C2g−である。
e、f及びgは同一又は異なって1以上の整数であり、好ましくは1〜20の整数、より好ましくは1〜10の整数である。Eは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−である。Eはこれらの中でも、−O−が好ましい。
【0049】
一般式(1b)において、RはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基である。
【0050】
で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」のアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、シクロデシル等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基である。該アルキル基は置換されていてもよく、該置換基としては、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定はない。該置換基としては、例えば、−OH、COOH、−COOCH、−NH、−COOCHCH、−COOCHCF等が挙げられる。該アルキル基は、これらの群から選ばれる少なくとも1種で1〜3個置換されていてもよい。
【0051】
一般式(1b)において、RはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基である。
【0052】
で示される「置換基を有していてもよいアルキル基」のアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、シクロデシル等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基である。該アルキル基は置換されていてもよく、該置換基としては、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定はない。該置換基としては、例えば、−OH、COOH、−COOCH、−NH、−COOCHCH、−COOCHCF等が挙げられる。該アルキル基は、これらの群から選ばれる少なくとも1種で1〜3個置換されていてもよい。
【0053】
一般式(1b)において、qは0以上の整数である。qは0〜10の整数であることが好ましく、0〜5の整数であることがより好ましく、0又1であることが特に好ましい。
【0054】
一般式(1b)で表される化合物の中でも、特に好ましい化合物として、下記一般式で表される化合物が挙げられる。
【0055】
【化9】

【0056】
[式中、X、Z、Rf、b及びcはそれぞれ同一又は異なって前記に同じ。]
【0057】
【化10】

【0058】
[式中、X、Z、Rf、b、c、f及びgはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0059】
【化11】

【0060】
[式中、X、Z、Rf、b、c及びeはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0061】
【化12】

【0062】
[式中、X、Z、Rf、b及びcはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0063】
【化13】

【0064】
[式中、X、Z、Rf、b及びcそれぞれ同一又は異なって前記に同じであり、Rは炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基である。]
さらに、一般式(1a)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(1c)
【0065】
【化14】

【0066】
[式中、Qは置換基を有していてもよい脂肪族環、置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環であり、
該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
はH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、
及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、
rは2以上の整数であり、
X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じであり、
式:−(S−CXCHF−Z−O−Rf)で表される基は同一又は異なる。]
で表される化合物が挙げられる。
【0067】
一般式(1c)において、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なり、上記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。
【0068】
一般式(1c)で表される化合物において、rは2以上の整数であり、−(S−CXCHF−Z−O−Rf)で表される基は、一般式(1c)で表される化合物中に2つ以上存在する。rは通常2〜20の整数、好ましくは2〜10の整数、より好ましくは2〜6の整数である。
【0069】
一般式(1c)のQにおいて、置換基を有していてもよい脂肪族環は、単環、複環のいずれであってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0070】
該置換基−COORにおいて、RはH、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。該アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。また、該含フッ素アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0071】
また、置換基−CONRにおいて、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。該アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。また、該含フッ素アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0072】
置換基を有していてもよい脂肪族環の炭素数は、通常3〜100程度、好ましくは3〜50程度、より好ましくは3〜12程度である。
【0073】
置換基を有していてもよい脂肪族環の具体例としては、下記式で表される脂肪族環が挙げられる。
【0074】
【化15】

【0075】
[式中、それぞれの脂肪族環は一般式(1c)と同じ置換基を有していてもよく、r、X、Z及びRfは前記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。]
一般式(1c)のQにおいて、置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環は、単環、複環のいずれで合ってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0076】
、R及びRは、前記置換基を有していてもよい脂肪族環のものと同じである。
【0077】
置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環の炭素数は、通常2〜100程度、好ましくは2〜50程度、より好ましくは2〜12程度である。
【0078】
ヘテロ脂肪族環に含まれるヘテロ原子としては、例えば、O、N及びSからなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0079】
該置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環の具体例としては、下記式で表されるヘテロ脂肪族環が挙げられる。
【0080】
【化16】

【0081】
[式中、それぞれのヘテロ脂肪族環は一般式(1c)と同じ置換基を有していてもよく、r、X、Z及びRfは前記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。]
一般式(1c)のQにおいて、置換基を有していてもよい芳香族環は、単環、複環のいずれで合ってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0082】
、R及びRは、前記置換基を有していてもよい脂肪族環のものと同じである。
【0083】
置換基を有していてもよい芳香族環の炭素数は、通常6〜100程度、好ましくは6〜50程度、より好ましくは6〜20程度である。
【0084】
置換基を有していてもよい芳香族環の具体例としては、下記式で表される芳香族環が挙げられる。
【0085】
【化17】

【0086】
[式中、それぞれの芳香族環は一般式(1c)と同じ置換基を有していてもよく、r、X、Z及びRfは前記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。]
一般式(1c)のQにおいて、置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環は、単環、複環のいずれで合ってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0087】
、R及びRは、前記置換基を有していてもよい脂肪族環のものと同じである。
【0088】
置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環の炭素数は、通常4〜100程度、好ましくは4〜50程度、より好ましくは4〜20程度である。
【0089】
置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環の具体例としては、下記式で表されるヘテロ芳香族環が挙げられる。
【0090】
【化18】

【0091】
[式中、それぞれのヘテロ芳香族環は一般式(1c)と同じ置換基を有していてもよく、r、X、Z及びRfは前記一般式(1)で表される化合物のものと同じである。]
製造方法
本発明の製造方法は、分子内に2以上のチオール基を有する化合物を一般式(2)
CX2=CF−Z−O−Rf (2)
[式中、X、Z及びRfは前記に同じである。]
で表される化合物と反応させて、一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rf、X及びZは前記に同じ。]
で表される基を2以上有する化合物を得ることを特徴とする。
【0092】
本発明の製造方法において、分子内に2以上のチオール基を有する化合物としては、例えば下記一般式(3a)
【0093】
【化19】

【0094】
[式中、TはO、N及びSからなる群から選ばれた少なくとも1種のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素であり、pは2以上の整数である。]
で表される化合物が挙げられる。
【0095】
一般式(3a)において、T及びpは一般式(1a)のものと同じである。
【0096】
一般式(3a)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(3b)
【0097】
【化20】

【0098】
[式中、R5bはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−SHで表される基であって、R6bはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−SHで表される基であって、R、A及びqは前記に同じである。]
で表される化合物が挙げられる。
【0099】
一般式(3b)において、R5bはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−SHで表される基である。
【0100】
5bで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」のアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、シクロデシル等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基である。該アルキル基は置換されていてもよく、該置換基としては、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定はない。該置換基としては、例えば、−OH、COOH、−COOCH、−NH、−COOCHCH、−COOCHCF等が挙げられる。該アルキル基は、これらの群から選ばれる少なくとも1種で1〜3個置換されていてもよい。
【0101】
一般式(3b)において、R6bはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−SHで表される基である。
【0102】
6bで示される「置換基を有していてもよいアルキル基」のアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、シクロデシル等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。より好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基である。該アルキル基は置換されていてもよく、該置換基としては、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定はない。該置換基としては、例えば、−OH、COOH、−COOCH、−NH、−COOCHCH、−COOCHCF等が挙げられる。該アルキル基は、これらの群から選ばれる少なくとも1種で1〜3個置換されていてもよい。
【0103】
一般式(3b)で表される化合物の中でも、特に好ましい化合物として、下記一般式で表される化合物が挙げられる。
【0104】
【化21】

【0105】
[式中、b及びcはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0106】
【化22】

【0107】
[式中、b、c及びeはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0108】
【化23】

【0109】
[式中、b、c、f及びgはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0110】
【化24】

【0111】
[式中、b及びcはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
【0112】
【化25】

【0113】
[式中、b及びcそれぞれ同一又は異なって前記に同じであり、Rは炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基である。]
一般式(3b)で表される化合物としては、例えば、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、ジメルカプトブタン、ジメルカプトヘキサン、テトラキスメルカプトメチルメタン、ジメルカプトメタン、トリメルカプトメタン、1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,2,3,4−テトラメルカプトブタン、ジメルカプトメタン、1,1−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトエタン、1,1−ジメルカプトプロパン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,1−ジメルカプトブタン、1,2−ジメルカプトブタン、1,3−ジメルカプトブタン、1,4−ジメルカプトブタン、2,2−ジメルカプトブタン、2,3−ジメルカプトブタン、1,2−ジメルカプトエチルチオ−3−メルカプトプロパン、1,2−ビス−2−メルカプトエチルチオ−3−メルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等が挙げられる。
【0114】
また、一般式(3a)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(3c)
【0115】
【化26】

【0116】
[式中、Q及びrは前記一般式(1c)と同じである。]
で表される化合物が挙げられる。
【0117】
一般式(3c)において、Qは、前記一般式(1c)と同じ置換基を有していてもよい脂肪族環、置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環である。該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0118】
一般式(3c)のQにおいて、置換基を有していてもよい脂肪族環は、単環、複環のいずれであってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0119】
該置換基−COORにおいて、RはH、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。該アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。また、該含フッ素アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0120】
また、置換基−CONRにおいて、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基である。該アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。また、該含フッ素アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖又は環状の含フッ素アルキル基が挙げられる。
【0121】
一般式(3c)で表される化合物において、rは2以上の整数であり、−(SH)で表される基は、一般式(3c)で表される化合物中に2つ以上存在する。rは通常2〜20の整数、好ましくは2〜10の整数、より好ましくは2〜6の整数である。
【0122】
置換基を有していてもよい脂肪族環の炭素数は、通常3〜100程度、好ましくは3〜50程度、より好ましくは3〜12程度である。
【0123】
該置換基を有していてもよい脂肪族環の具体例としては、下記式で表される脂肪族環が挙げられる。
【0124】
【化27】

【0125】
[式中、それぞれの脂肪族環は一般式(3c)と同じ置換基を有していてもよく、該置換基及びrは前記一般式(1c)で表される化合物のものと同じである。]
一般式(3c)のQにおいて、置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環は、単環、複環のいずれで合ってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0126】
、R及びRは、前記置換基を有していてもよい脂肪族環のものと同じである。
【0127】
置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環の炭素数は、通常2〜100程度、好ましくは2〜50程度、より好ましくは2〜12程度である。
【0128】
ヘテロ脂肪族環に含まれるヘテロ原子としては、例えば、O、N及びSからなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0129】
置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環の具体例としては、下記式で表されるヘテロ脂肪族環が挙げられる。
【0130】
【化28】

【0131】
[式中、それぞれのヘテロ脂肪族環は一般式(3c)と同じ置換基を有していてもよく、該置換基及びrは前記一般式(1c)で表される化合物のものと同じである。]
一般式(3c)において、Qが置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環である化合物の具体例としては、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4,5−ジメルカプトメチル−1,3−ジチアン等が挙げられる。
【0132】
一般式(3c)のQにおいて、置換基を有していてもよい芳香族環は、単環、複環のいずれで合ってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0133】
、R及びRは、前記置換基を有していてもよい脂肪族環のものと同じである。
【0134】
置換基を有していてもよい芳香族環の炭素数は、通常6〜100程度、好ましくは6〜50程度、より好ましくは6〜20程度である。
【0135】
置換基を有していてもよい芳香族環の具体例としては、下記式で表される芳香族環が挙げられる。
【0136】
【化29】

【0137】
[式中、それぞれの芳香族環は一般式(3c)と同じ置換基を有していてもよく、該置換基及びrは一般式(1c)で表される化合物のものと同じである。]
一般式(3c)において、Qが置換基を有していてもよい芳香族環である化合物の具体例としては、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,2−ジメルカプトトルエン、1,3−ジメルカプトトルエン、1,4−ジメルカプトトルエン、1,3,5−トリメルカプトトルエン、1,2−ジメルカプトキシレン、1,3−ジメルカプトキシレン、1,4−ジメルカプトキシレン、1,3−ジメルカプトトリレン、1,3,5−トリメルカプトトリレン等が挙げられる。
【0138】
一般式(1c)のQにおいて、置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環は、単環、複環のいずれで合ってもよい。また、置換基を有する場合、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0139】
、R及びRは、前記置換基を有していてもよい脂肪族環のものと同じである。
【0140】
置換基を有していてもよい芳香族環の炭素数は、通常4〜100程度、好ましくは4〜50程度、より好ましくは4〜20程度である。
【0141】
ヘテロ芳香族環に含まれるヘテロ原子としては、例えば、O、N及びSからなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0142】
【化30】

【0143】
[式中、それぞれのヘテロ芳香族環は一般式(3c)と同じ置換基を有していてもよく、該置換基及びrは一般式(1c)で表される化合物のものと同じである。]
本発明の分子内に2以上のチオール基(−SH基、メルカプト基)を有する化合物は、従来公知の製造方法によって得られる化合物であり、市販品を使用することもできる。本発明の分子内に2以上のチオール基を有する化合物は、例えば、TheChemistry of the thiol group(Chemistry of Functional Groups) By Saul Patai: John Wiley and Sons Ltd 出版等に記載の方法に準じて合成することができる。例えば、チオ尿素を反応させて、イソチウロニウム塩化し、これを加水分解するイソチウロニウム塩法等が挙げられる。
【0144】
本発明の製造方法においては、分子内に2以上のチオール基を有する上記化合物と一般式(2)で表される化合物CX2=CF−Z−O−Rfとを反応させて、本発明の多官能含フッ素化合物を得る。一般式(2)で表される化合物のX、Z及びRfは、一般式(1)で表される化合物のものと同じである。
【0145】
一般式(2)で表される化合物としては、一般式(1)で表される化合物と同様、Rf中に存在する置換基(置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基の置換基である−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH又は―SOH)をYとすると、例えば以下の構造式が挙げられる。
【0146】
【化31】

【0147】
[式中、nは0〜5の整数。]
【0148】
【化32】

【0149】
[式中、nは前記に同じ。]
さらに、一般式(2)で表される化合物はこれらの中でも、下記構造式で表されるものが特に好ましい。
【0150】
【化33】

【0151】
[式中、mは1〜10の整数であり、nは前記に同じ。]
本発明の一般式(2)で表される化合物は、従来公知の製造方法によって得られる化合物であり、市販品を使用することもできる。
【0152】
本発明の一般式(2)で表される化合物の製造方法としては、例えば、国際公開WO95/33782パンフレットに記載されている方法が具体的に挙げられる。
【0153】
また、三共出版 「フッ素化学入門」 独立行政法人 日本学術振興会 フッ素化学 第155委員会編 に記載されている具体的な合成ルートに従い製造することができる。
【0154】
本発明の製造方法において、一般式(2)で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0155】
本発明の製造方法において、分子内に2以上のチオール基を有する化合物の使用量は、分子内のチオール基の数によって異なり、例えば、チオール基1つに対して一般式(2)で表される化合物が1つ反応するのに足る量を使用すればよい。本明細書においては、この量を当量という。分子内に2個チオール基をもつ化合物においては、当量は分子量の1/2となり、同様に分子内に3個チオール基をもつ化合物では当量は分子量の1/3となる。
【0156】
分子内に2以上のチオール基を有する化合物の使用量は、一般式(2)で表される化合物に対して、通常、2〜0.1当量程度、好ましくは1.2〜0.2当量程度、より好ましくは1〜0.5当量程度の量である。換言すれば、分子内に2以上のチオール基をもつ化合物のチオール基1モルに対して、一般式(2)で表される化合物を通常、0.5〜10モル程度、好ましくは0.83〜5モル程度、より好ましくは1〜2モル程度使用すればよい。
【0157】
本発明の製造方法においては、分子内に2以上のチオール基を有する化合物と一般式(2)で表される化合物とがエンチオール反応(付加反応)することにより、分子内に2以上のチオール基を有する化合物のS上のHが下記一般式(4)
−CX2CHF−Z−O−Rf (4)
[式中、X、Z及びRfは前記に同じ]
で表される基で置換される。
【0158】
すなわち、本発明のエンチオール反応では、一般式(2)で表される化合物中に存在する炭素−炭素二重結合が、分子内に2以上のチオール基を有する化合物中のチオール基と付加反応する。一方、一般式(2)で表される化合物中に存在する上記Rf中の置換基は、実質的に反応せずに、本発明の多官能含フッ素化合物の反応性官能基となる。
【0159】
本発明の多官能含フッ素化合物は、一般式(2)で表される化合物中に存在する上記置換基由来の反応性官能基が分子内に複数存在するので、塗料の架橋剤、添加剤として好適に使用できる。また、発明の多官能含フッ素化合物を含む硬化性組成物とし、これを硬化させて硬化物を製造することもできる。
【0160】
エンチオール反応によって得られる本発明の多官能含フッ素化合物中に未反応のチオール基が存在する場合、該未反応のチオール基は、本発明の多官能含フッ素化合物を硬化性組成物として用いた際、硬化反応基として作用する。
【0161】
本発明の製造方法において、分子内に2以上のチオール基を有する化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0162】
該エンチオール反応は、分子内に2以上のチオール基を有する化合物と一般式(2)で表される化合物との混合物に、紫外線を照射することによって容易に進行する。
【0163】
紫外線の照射量は、通常0.1〜10J/cm程度、好ましくは0.5〜8J/cm程度、より好ましくは1〜6J/cm程度である。
【0164】
該エンチオール反応の反応温度は、通常5〜60℃程度、好ましくは10〜55℃程度、より好ましくは20〜50℃程度である。
【0165】
本発明の製造方法においては、分子内に2以上のチオール基を有する化合物と一般式(2)で表される化合物に加えて、光重合開始剤を使用しても良い。光重合開始剤を使用しなくても、本発明の多官能含フッ素化合物が得られるが、光重合開始剤を使用することにより、より短時間でエンチオール反応が進行し、目的とする多官能含フッ素化合物が得られる。
【0166】
光重合開始剤の種類は、特に限定されず、従来公知のものを使用すればよく、市販品が容易に入手可能である。
【0167】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、クロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、α−アミノアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4− フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシ−プロピルベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、ミヒラーケトン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン、ジエチルチオキサンソン、ジメチルチオキサンソン等のチオキサンソン類;ベンジル、α−アシルオキシムエステル、アシルホスフィンオキサイド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、アンスラキノン等の光重合開始剤が挙げられる。また、光重合開始剤の市販品としては、例えば、長瀬産業株式会社製のイルガキュア907、イルガキュア127、イルガキュア369、イルガキュア819等が挙げられる。光重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0168】
また、光重合開始剤には、必要に応じてアミン類、スルホン類、スルフィン類などの公知の光開始助剤を添加してもよい。
【0169】
光重合開始剤を使用する場合、光重合開始剤の使用量は、特に限定されず、適宜調整すればよいが、例えば、一般式(2)で表される化合物100質量部に対して、通常0.01〜10質量部程度、好ましくは0.5〜7質量部程度、より好ましくは1〜5質量部程度である。
【0170】
本発明の製造方法においては、さらに溶媒を使用しても良い。溶媒を使用する場合、溶媒としては、エンチオール反応の進行を妨げない一般的に使用される従来公知の溶媒を使用すればよい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、HCFC225(ジクロロペンタフルオロプロパン)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)等を使用すればよい。
【0171】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、さらに他の成分を添加しても良い。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、レべリング剤、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
【0172】
酸化防止剤を使用する場合、使用量は、一般式(2)で表される化合物100質量部に対して、通常0.01〜10質量部程度、好ましくは0.1〜2質量部程度、より好ましくは0.5〜1質量部程度である。
【0173】
また、エンチオール反応は。特に紫外線を照射しなくても、適当な方法でラジカルを発生させることにより反応を進行させることができる。
【0174】
ラジカルを発生させる方法としては、たとえば公知のラジカル重合開始剤を使用して、加熱によってラジカルを発生させる方法が好ましい。
【0175】
ラジカル重合開始剤としては、公知のパーオキサイド類、アゾ系開始剤などが利用できる。
【0176】
ラジカル重合開始剤の量は、一般式(2)で表される化合物100質量部に対してに対して通常0.01〜10質量部程度、好ましくは0.05〜7質量部程度、より好ましくは0.5〜3質量部程度である。
【0177】
塗料用架橋剤及び添加物
本発明の多官能含フッ素化合物は、分子内に複数の架橋性官能基を有するので、塗料の架橋剤、添加剤として好適に使用できる。
【0178】
本発明の多官能含フッ素化合物を架橋剤として使用できる塗料としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、フッ素系等の塗料が挙げられる。本発明の多官能含フッ素化合物を架橋剤は、例えば、特開2004−204205号公報の実施例1に挙げられている塗料に添加して用いることができる。該実施例1ではイソシアネート系の硬化剤が使用されている。本発明の多官能含フッ素化合物を該実施例1に記載のようなイソシアネート系の硬化剤の架橋剤として使用する場合、本発明の多官能含フッ素化合物の置換基としては−OH、−CHOH、−COOH等が好ましい。置換基が−CHOH場合、添加量は塗料中の固形分に対して0.01〜10質量部程度、好ましくは0.05〜7質量部程度、より好ましくは1〜5質量部程度添加すればよい。
【0179】
本発明の多官能含フッ素化合物は、特開2004−204205号公報の実施例に記載されているような通常の条件下でイソシアネート系の硬化剤との硬化架橋が進行する。
【0180】
本発明の多官能含フッ素化合物は官能基を複数もつため、塗料の架橋剤、添加剤として用いると架橋密度が向上する効果が得られる。また、特開2004−204205号公報記載の官能基含有フッ素ポリマーと異なり、本発明の多官能含フッ素化合物は低分子であるため粘度が上がらないという効果も奏される。
【0181】
また、本発明の多官能含フッ素化合物は室温で液状であるため、無溶剤の硬化性組成物を作製することもできる。さらに、多官能含フッ素化合物の官能基の種類を容易に変える事ができるため、各種塗料の硬化系に合わせて官能基を選択する事が可能である。例えば、ウレタン系の塗料の場合は、−OH、−CHOH、−COOH等、エポキシ系塗料の場合は−CHOH、−COOH等、アクリル系塗料の場合は−CHOH等、使用する塗料の組成に応じて適当な官能基を選択することができる。
【0182】
また、高フッ素含有率の多官能含フッ素化合物を用いることにより、硬化物のフッ素含有率を高く設計できるという特徴を有する。その結果、得られた硬化物はフッ素特有の性質を併せ持つ。すなわち、本発明の多官能含フッ素化合物を架橋剤として使用することにより、硬化物に対して屈折率の低下効果、耐熱性の向上、撥水撥油性の効果、耐薬品性の向上といった特徴を付与することができる。
【発明の効果】
【0183】
本発明によれば、多官能チオール化合物と官能基を有する含フッ素アリル化合物とのエンチオール反応、又は多官能チオール化合物と官能基を有する含フッ素ビニルエーテル化合物とのエンチオール反応により、容易に新規多官能含フッ素化合物を合成できる。得られた多官能含フッ素化合物は、分子内に複数の架橋性官能基を有するので、塗料の架橋剤、添加剤として好適に使用できる。また、得られた多官能含フッ素化合物は、硬化性を有する官能基を分子内に複数有するので、硬化性組成物および硬化物を製造することもできる。
【実施例】
【0184】
以下に、本発明の実施例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0185】
本発明の実施例において、(1)フッ素含有量の測定、(2)屈折率(n)の測定、(3)赤外吸収分析(IR分析)、(4)19F−NMRの測定及び(5)相溶性(溶解性)の測定は、以下の方法により行った。
【0186】
(1)フッ素含有量の測定
酸素フラスコ燃焼法により試料10mgを燃焼し、分解ガスを脱イオン水20mlに吸収させ、吸収液中のフッ素イオン濃度をフッ素選択電極法(フッ素イオンメーター、オリオン社製 901型)で測定することにより、試料中のフッ素含有量を求めた(質量%)。
【0187】
(2)屈折率(n)の測定
ナトリウムD線(589nm)を光源とし、アッベ屈折率計(株式会社アタゴ光学機器製作所製)を用いて25℃における試料の屈折率(n)を測定した。
【0188】
(3)赤外吸収分析(IR分析)
Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光光度計1760Xを使用し、室温にて試料の赤外吸収分析を行った。
【0189】
(4)19F−NMR測定
BRUKER社製のNMR測定装置を用いて試料の19F−NMRを測定した。
19F−NMR測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン:0ppm)。
【0190】
(5)相溶性(溶解性)の測定
試料とアセトンとを質量比1:1で混合し、相溶性を目視で確認した。相溶性の評価は、相溶を○、二相分離を×とした。
【0191】
本実施例で使用した含フッ素アリルエーテル化合物及び多官能チオール化合物の構造式及び略称を以下に示す。
【0192】
含フッ素アリルエーテル化合物
【0193】
【化34】

【0194】
多官能チオール化合物
【0195】
【化35】

【0196】
(カレンズMT BD1 昭和電工社製)
【0197】
【化36】

【0198】
(カレンズMT PE1 昭和電工社製)
【0199】
【化37】

【0200】
(TMMP(Trimethylolpropane tris-3-mercaptopropionate)堺化学社製)
【0201】
【化38】

【0202】
(PEMP(Pentaerythritol tetrakis-3-mercaptopropionate)堺化学社製)
【0203】
【化39】

【0204】
(DPMP(Dipentaerythritolhexa-3-mercaptopropionate) 堺化学社製)。
【0205】
QE−340M:(ポリチオールQE−340M 東レ・ファインケミカル株式会社製 構造式は非開示)。
【0206】
実施例1
(1)混合溶液(a1)〜(a3)の調整
以下の配合に従い、混合溶液(a1)〜(a3)を調製した。
【0207】
混合溶液(a1)
(i) AEH−1 100質量部
(ii) TMMP 33質量部
(iii) イルガキュア907(光重合開始剤 長瀬産業株式会社製) 4質量部。
【0208】
混合溶液(a2)
(i) AEH−1: 100質量部
(ii) TMMP 33質量部
(iii) イルガキュア127(光重合開始剤 長瀬産業株式会社製) 4質量部。
【0209】
混合溶液(a3)
(i) AEH−1 100質量部
(ii) TMMP 33質量部。
【0210】
(2)混合溶液(a2)の反応及びIR吸収測定
混合溶液(a2)1gを5mlの硝子製サンプル瓶に入れた。フタをせずに、サンプル瓶の上から、高圧水銀灯を用いて、それぞれ強度2000 mJ/cm2U及び5000 mJ/cm2Uの紫外線を混合溶液(a2)に照射した(常温常圧下)。
【0211】
その後、得られた溶液(a2)のIR吸収の変化を測定した。AEH−1とTMMPとのエンチオール反応によって変化すると思われる−SH基及びC=C結合に基づくIR吸収の変化をそれぞれ図1及び図2に示す。
【0212】
図1及び図2から分かるように、紫外線照射によってAEH−1とTMMPとのエンチオール反応が進行し、溶液(a2)中のSH基の減少及びC=C結合の減少が確認された。一方、紫外線照射前後において、AEH−1由来の−OH基のIR吸収に変化はなかった。
【0213】
また、紫外照射後の溶液(a2)の粘度は、紫外線照射前の混合溶液(a2)に比べて目視でわかる程度に上昇した。紫外照射後の溶液(a2)は無色透明であった。
【0214】
(3)混合溶液(a1)〜(a3)の反応及び反応率の計算
混合溶液(a1)〜(a3)を各1gずつ、それぞれ5mlの硝子製サンプル瓶に入れた。フタせずに、サンプル瓶の上から、高圧水銀灯を用い、それぞれ強度500 mJ/cm2U、2000 mJ/cm2U及び5000 mJ/cm2Uの紫外線を各混合溶液に照射した。
【0215】
得られた各溶液の19F−NMR測定により、C=C二重結合に結合したフッ素の吸収の積分強度変化でAEH−1とTMMPとの反応率を計算した。結果を下表1に示す。
【0216】
【表1】

【0217】
紫外線照射前後において、各溶液のIR吸収を測定したところ、AEH−1由来の−OH基のIR吸収に変化はなかった。また、紫外照射後の各溶液の粘度は、紫外線照射前の各混合溶液に比べて目視でわかる程度に上昇した。
【0218】
紫外線照射後の溶液(a2)及び(a3)は、無色透明であった。一方、紫外線照射後の溶液(a1)は、透明ではあったが、淡黄色であった。淡黄色の原因は、光重合開始剤であるイルガキュア907の色であると思われる。
【0219】
(4)紫外線照射後の溶液(a1)のフッ素含有率、屈折率及び相容性の測定
上記(3)で得られた、強度5000 mJ/cm2Uの紫外線照射後の溶液(a1)のフッ素含有率、屈折率及び相容性を測定した。結果を表2に示す。
【0220】
【表2】

【0221】
比較例1
(1)混合溶液(b1)〜(b3)の調整
以下の配合に従い、混合溶液(b1)〜(b3)を調製した。
【0222】
混合溶液(b1)
(i) AEH−1 100質量部
(ii) イルガキュア907 4質量部。
【0223】
混合溶液(b2)
(i) AEH−1 100質量部
(ii) イルガキュア127 4質量部。
【0224】
混合溶液(b3)
(i) AEH−1 100質量部。
【0225】
(2)混合溶液(b1)〜(b3)の反応、IR吸収測定及び19F−NMR測定
混合溶液(b1)〜(b3)を各1gずつ、それぞれ5mlの硝子製サンプル瓶に入れた。フタをせずに、サンプル瓶の上から、高圧水銀灯を用いて、5000 mJ/cm2U強度の紫外線を各混合溶液に照射した(常温常圧下)。
【0226】
紫外線照射後の各溶液のIR吸収測定及び19F−NMRの測定を行ったが、C=C結合の減少は見られず、C=C二重結合に結合したフッ素の吸収の積分強度変化もみられなかった。また、紫外線照射前後の粘度変化も目視では見られなかった。
【0227】
実施例2
(1)混合溶液(a4)〜(a6)の調整、反応及び反応率の計算
以下の配合に従い、混合溶液(a4)〜(a6)を調製した。
【0228】
混合溶液(a4)
(i) AEC−1 76質量部
(ii) TMMP 24質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0229】
混合溶液(a5)
(i) AEC−1 78質量部
(ii) PEMP 22質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0230】
混合溶液(a6)
(i) AEC−1 76質量部
(ii) DPMP 24質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0231】
混合溶液(a4)〜(a6)を各1gずつ、それぞれ5mlの硝子製サンプル瓶に入れた。フタをせずに、サンプル瓶の上から、高圧水銀灯を用いて、それぞれ500mJ/cm2U、2000 mJ/cm2U及び5000 mJ/cm2U強度の紫外線を各混合物に照射した(常温常圧下)。
【0232】
得られた各溶液の19F−NMR測定により、C=C二重結合に結合したフッ素の吸収の積分強度の変化でAEC−1とTMMP、PEMP及びDPMPとの反応率をそれぞれ計算した。結果を表3に示す。
【0233】
【表3】

【0234】
紫外照射後の各溶液の粘度は、紫外線照射前の各混合溶液に比べて目視でわかる程度に上昇した。
【0235】
(4)紫外線照射後の溶液(a4)〜(a6)のフッ素含有率、屈折率、相容性及びIR吸収の測定
強度5000 mJ/cm2Uの紫外線照射後の溶液(a4)〜(a6)のフッ素含有率、屈折率及び相容性を測定した。結果を下表4に示す
【0236】
【表4】

【0237】
紫外線照射前後において、各溶液中、AEC−1由来の−COOH基のIR吸収に変化はなかった。
【0238】
実施例3
(1)混合溶液(a7)〜(a11)の調整
以下の配合に従い、混合溶液(a7)〜(a11)を調製した。
【0239】
混合溶液(a7)
(i) AEH−0 62質量部
(ii) MTBD 38質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0240】
混合溶液(a8)
(i) AEC−0 68質量部
(ii) MTPE 32質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0241】
混合溶液(a9)
(i) AEC−2 82質量部
(ii) TMMP 18質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0242】
混合溶液(a10)
(i) AEC−0 54質量部
(ii) QE−340M 46質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
【0243】
混合溶液(a11
(i) AEHFIP−0 74質量部
(ii) TMMP 26質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部。
(2)混合溶液(a7)〜(a11)の反応、フッ素含有率、屈折率及びIR吸収測定
混合溶液(a7)〜(a11)を各1gずつ、それぞれ5mlの硝子製サンプル瓶に入れた。フタをせずに、サンプル瓶の上から、高圧水銀灯を用い、強度5000 mJ/cm2Uの紫外線を各混合物に照射した(常温常圧下)。紫外線照射後の各溶液のフッ素含有率及び屈折率を測定した。結果を下表5に示す。
【0244】
【表5】

【0245】
紫外線照射前後における各溶液のIR吸収を測定したところ、SH基の減少及びC=C結合の減少が確認された。さらに、紫外線照射前後において、AEH−0及びAEHFIP−0由来の−OH基、AEC−0及びAEC−2由来の−COOH基のIR吸収に変化はなかった。
【0246】
また、紫外照射後の各溶液の粘度は、紫外線照射前の各混合溶液に比べて目視でわかる程度に上昇した。
【0247】
実施例4
(1)混合溶液(a12)〜(a16)の調整
以下の配合に従い、混合溶液(a12)〜(a16)を調製した。
【0248】
混合溶液(a12)
(i) AEHFIP−1 80質量部
(ii) TMMP 20質量部
(iii) イルガキュア907 4質量部
(iv) HCFC225 100質量部。
【0249】
混合溶液(a13)
(i) AEH−1 37質量部
(ii) AEE−1 39質量部
(iii) TMMP 24質量部
(iv) イルガキュア907 4質量部
(v) HCFC225 100質量部。
【0250】
混合溶液(a14)
(i) AEC−0 28質量部
(ii) AECN−1 44質量部
(iii) TMMP 28質量部
(iv) イルガキュア907 4質量部
(v) HCFC225 100質量部。
【0251】
混合溶液(a15)
(i) AEH−2 53質量部
(ii) AEH−0 22質量部
(iii) TMMP 25質量部
(iv) イルガキュア907 4質量部
(v) HCFC225 100質量部。
【0252】
混合溶液(a16)
(i) AEH−3 59質量部
(ii) AEH−0 20質量部
(iii) TMMP 21質量部
(iv) イルガキュア907 4質量部
(v) HCFC225 100質量部。
【0253】
(2)混合溶液(a12)〜(a16)の反応、フッ素含有率、屈折率及びIR吸収測定
混合溶液(a12)〜(a16)を各1gずつ、それぞれ5mlの硝子製サンプル瓶に入れた。フタをせずに、サンプル瓶の上から、高圧水銀灯を用いて、強度5000 mJ/cm2Uの紫外線を各混合溶液に照射した(常温常圧下)。得られた溶液を常温で風乾させてHCFC225を除去した。その後、得られた溶液のフッ素含有率及び屈折率を測定した。結果を下表6に示す。
【0254】
【表6】

【0255】
紫外線照射前後における各溶液のIR吸収を測定したところ、溶液中のSH基の減少及びC=C結合の減少が確認された。さらに、紫外線照射前後において、AEH−0、AEH−1、AEH−2、AEH−3及びAEHFIP−1由来の−OH基、AEC−0由来の−COOH基、AECN−1由来の−CN基並びにAEE−1由来の−C(=O)O−結合のIR吸収に変化はなかった。
【0256】
また、乾燥後の各溶液の粘度は、紫外線照射前の各混合溶液(HCFC225を含まない)に比べて目視でわかる程度に上昇した。
【0257】
実施例5(硬化性組成物の作成)
実施例1(混合溶液(a1))で得られたOH基含有フッ素化合物をAとする。また実施例2(混合溶液(a4))で得られたCOOH基含有含フッ素化合物をBとする。
【0258】
また、硬化性組成物の作製には、下記の試薬を使用した。
【0259】
含フッ素系塗料:ダイキン工業社製 GK−510
アクリルモノマー:TMPA(トリメチロールプロパントリアクリレート)
水酸基含有アクリルポリマー:東亜合成社製 UH−2032
硬化剤:住化バイエルウレタン社製 スミジュールN3300 (脂肪族ポリイソシアネート)(以下 N3300)
光重合開始剤:長瀬産業社製 イルガキュア907
架橋剤:ジャパンエポキシレジン社製 YX−8000 (水添ビスフェノールエポキシ)
酸無水物:日立化成社製 HN−5500 (脂環式酸無水物)
硬化促進剤:サンアプロ社製 UCAT−5003。
【0260】
以下の配合で各成分を混合し、硬化性組成物を作成した(熱硬化性)。
【0261】
硬化性組成物(c1)
(i)A 5質量部
(ii)GK570 50質量部
(iii)N3300 10質量部。
【0262】
硬化性組成物(c2)
(i)B 5質量部
(ii)GK570 50質量部
(iii)N3300 10質量部。
【0263】
硬化性組成物(c3)
(i)A 5質量部
(ii)B 5質量部
(iii)GK570 50質量部
(iv)N3300 12質量部。
【0264】
硬化性組成物(c4)
(i)A 10質量部
(ii)GK570 50質量部
(iii)N3300 12質量部。
【0265】
硬化性組成物(c5)
(i)B 12質量部
(ii)YX−8000 50質量部
(iii)HN−500 40質量部
(iv)UCAT−5003 2質量部。
【0266】
得られた硬化性組成物(c1)〜(c5)は、いずれも均一透明な組成物であった。
【0267】
次に、以下の配合で各成分を混合し、硬化性組成物を作成した(光硬化性)。
【0268】
硬化性組成物(c6)
(i)A 12質量部
(ii)UH−2032 50質量部
(iii)TMPA 50質量部
(iv)イルガキュア907 3質量部。
【0269】
硬化性組成物(c7)
(i)B 12質量部
(ii)UH−2032 50質量部
(iii)TMPA 50質量部
(iv)イルガキュア907 3質量部。
【0270】
得られた硬化性組成物(c6)及び(c7)は、いずれも均一透明な組成物であった。
【0271】
実施例6(塗布物の作製(酸無水物))
実施例5で得られた熱硬化性組成物(c1)〜(c5)をスライドガラス上にバーコートにて室温で塗布し、室温で5分間真空乾燥した。この際、乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーの種類を選択した。
【0272】
また、バーコートによる塗布時の塗布性をつぎの基準で評価した。結果を表7に示す。
【0273】
○ : 塗布ムラがない。
【0274】
△ : 一部に塗布ムラが認められる。
【0275】
× : 塗布できない。
【0276】
実施例7(硬化膜の物性測定)
実施例6で塗布した硬化性組成物(c1)〜(c5)を硬化させた。硬化性組成物(c5)は乾燥後の被膜を90℃の乾燥機に2時間、引き続いて140℃の乾燥機で3時間熱処理して熱硬化させて硬化被膜を作製した。硬化性組成物(c1)〜(c4)は室温で4日間硬化させて硬化被膜を作製した。
【0277】
硬化させた膜の物性を以下の方法で評価した。結果を表7に示す。
【0278】
外観
目視で評価した。
○ : 透明均一
△ : 一部、不均一
× : 白濁。
【0279】
フッ素含有率
前記の通り。
【0280】
耐薬品性
メタノールを含浸させた綿布で塗膜表面を擦った後の塗膜表面の状態(溶解又は剥離)を目視で観察した。耐薬品性の評価は以下のように行った。
○ : 変化なし
△ : 一部溶解又は剥離あり
× : 溶解又は剥離あり
【0281】
【表7】

【0282】
実施例8(塗布物の作製(光硬化))
実施例5で得られた光硬化性組成物(c6)及び(c7)を表面未処理のアクリル板上にスピンコーターにより室温でコートし、室温で5分間真空乾燥した。この際、乾燥後の膜厚が1μmとなるように、スピンコーターの回転数を調整した(500〜2000回転)。スピンコーターによる塗布時の塗布性をつぎの基準で評価した。結果を表8に示す。
○ : 塗布ムラがない
△ : 一部に塗布ムラが認められる
× : 塗布できない。
【0283】
実施例9(硬化膜の物性測定)
実施例8で塗布した光硬化性組成物(c6)及び(c7)を、乾燥後の被膜に高圧水銀灯を用い、室温にて5000mJ/cmの強度で紫外線を照射して光硬化させて硬化被膜を作製した。光硬化させた膜の物性は以下の方法で評価した。結果を表8に示す。
【0284】
外観
目視で評価した。
○ : 透明均一
△ : 一部、不均一
× : 白濁。
【0285】
フッ素含有率
前記の通りである。
【0286】
耐薬品性
メタノールを含浸させた綿布で塗膜表面を擦った後の塗膜表面の状態(溶解又は剥離)を目視で観察した。耐薬品性の評価は以下のように行った。
○ : 変化なし
△ : 一部溶解又は剥離あり
× : 溶解又は剥離あり。
【0287】
対水接触角
接触角計(協和界面化学(株)製のCA−DT)を用いて、純水を室温下で3μlの液量を基材の表面に触れさせて液滴を作った。このときに生ずる液滴と面との角度を測定し対水接触角とした。結果を表8に示す。
【0288】
比較例2
以下の組成の混合溶液を作成した(光硬化系)。
【0289】
硬化性組成物(d1)
(i)UH−2032 50質量部
(ii)TMPA 50質量部
(iii)イルガキュア907 3質量部。
【0290】
得られた硬化性組成物(d1)を実施例8及び9と同様にして塗布硬化させ塗膜を評価した。結果を表8に示す。
【0291】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0292】
【図1】IR吸収の測定結果(−SH基)を示すグラフ(紫外線照射前、強度2000 mJ/cm2U及び5000 mJ/cm2Uの紫外線照射後の混合溶液(a2))
【図2】IR吸収の測定結果(C=C結合)を示すグラフ(紫外線照射前、強度2000 mJ/cm2U及び5000 mJ/cm2Uの紫外線照射後の混合溶液(a2))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rfは置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基であり、該置換基は−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Rはアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Xは同一又は異なってH又はFであり、Zは−CF−又は単結合である。]
で表される基を2以上有する化合物。
【請求項2】
一般式(1a)
【化1】

[式中、TはO、N及びSからなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を有していてもよい炭化水素であり、pは2以上の整数であり、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
一般式(1b)
【化2】

[式中、Rは同一又は異なって単結合、−C2a−、−C2b−B−C2c−又は−S−C2d−であり、a、b、c及びdは同一又は異なって1以上の整数であり、Bは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−であり、Aは−C2e−又は−C2f−E−C2g−であり、e、f及びgは同一又は異なって1以上の整数であり、Eは−S−、−C(=O)O−、−OC(=O)−又は−O−であり、RはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基であって、RはH、置換基を有していてもよいアルキル基又は式:−R−S−CX2CHF−Z−O−Rfで表される基であって、qは0以上の整数であり、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(1c)
【化3】

[式中、Qは置換基を有していてもよい脂肪族環、置換基を有していてもよいヘテロ脂肪族環、置換基を有していてもよい芳香族環又は置換基を有していてもよいヘテロ芳香族環であり、該置換基はそれぞれアルキル基、−OH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、RはH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、rは2以上の整数であり、X、Z及びRfはそれぞれ同一又は異なって前記に同じである。]
で表される請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
XがH、Zが−CF−である請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
XがF、Zが単結合である請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
Rfが置換基を有する炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜50のエーテル結合を有する直鎖又は分岐鎖の含フッ素アルキル基であり、該置換基が−OH、−CHOH、−COOH、−COOR(式中Rは前記に同じ)及び−CNからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
分子内に2以上の一般式(1)
−S−CX2CHF−Z−O−Rf (1)
[式中、Rfは置換基を有する炭素数1〜40の含フッ素アルキル基、又は置換基を有する炭素数2〜100のエーテル結合を有する含フッ素アルキル基であり、該置換基は−OH、−CHOH、−COOR、−CONR、―NH2、−COCl、―SOF、―SOH、−CN、−COOH、−COOHの誘導体、―SOH及び―SOHの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Rはアルキル基又は含フッ素アルキル基であり、R及びRは同一又は異なってH、アルキル基又は含フッ素アルキル基であり、Xは同一又は異なってH又はFであり、Zは−CF−又は単結合である。]
で表される基を有する化合物の製造方法であって、分子内に2以上のチオール基を有する化合物を一般式(2)
CX2=CF−Z−O−Rf (2)
[式中、X、Z及びRfは前記に同じである。]
で表される化合物と反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物からなる塗料用架橋剤。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の化合物を含有する硬化性組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−242318(P2009−242318A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92079(P2008−92079)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】