説明

多官能(メタ)アクリレート化合物、光硬化性樹脂組成物及び物品

【課題】防汚性能を有する多官能(メタ)アクリレート化合物、支持基体に対して、その表面の耐擦傷性を損なわずに、オイルミストや指紋等の有機汚れに対する防汚性を付与させることができる光硬化性樹脂組成物及びその被膜が形成された物品を提供する。
【解決手段】平均組成式:RafbAcSiO(4-a-b-c)/2
(Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基、Rfはフッ素原子を含有する有機基、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基、a=1〜1.75、b=0.2〜0.4、c=0.4〜0.8、a+b+c=2〜2.7)
で表され、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物、該化合物を含有する防汚性能を有する光硬化性樹脂組成物及びこの硬化被膜が形成されてなる物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性能を有する多官能(メタ)アクリレート化合物、光照射することにより硬化し、基材表面に耐擦傷性を付与するとともに、指紋やゴミが付着することを防止もしくは簡単に除去できる防汚性に優れる硬化物を形成しうる光硬化性樹脂組成物及びその被膜が形成された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂等の合成樹脂は、軽量・透明性・易加工性等の利点を有する。そこで、そのような合成樹脂は、近年、CD、DVD等の光ディスク、液晶、ELパネル等の表示窓、各種機能性フィルム等、種々の分野で利用されている。
【0003】
それらの表面には、その使用に際して各種汚染物質による汚染や指紋の付着が起こる。これら汚染や指紋の付着は好ましいことではなく、光情報媒体の表面に、防汚性の改善、指紋付着性の減少、又は指紋除去性の向上のために適切な表面処理が施されることもある。例えば、光情報媒体表面に種々の撥水・撥油処理を施すことが検討されている。
【0004】
また、それらの表面の耐擦傷性を向上させるために、透明で且つ耐擦傷性を有するハードコートを媒体の記録及び/又は再生ビーム入射側表面に形成することが一般的に行われている。ハードコートの形成は、分子中に(メタ)アクリロイル基等の重合性官能基を2個以上有する活性エネルギー線重合硬化性化合物を媒体表面に塗布し、これを紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化させることにより行われる。しかしながら、このようなハードコートは耐擦傷性の向上のみを目的とするため、塵埃や大気中のオイルミスト、又は指紋汚れ等の汚染物質に対する防汚効果を期待することはできない。
【0005】
有機汚れに対する防汚性を有するハードコートとしては、例えば、特開平11−293159号公報、特開2002−190136号公報(特許文献1,2)に、ハードコート剤中に架橋型フッ素系界面活性剤を添加することが提案されている。このような架橋型フッ素系界面活性剤は重合性二重結合を有し、ハードコート剤のベース樹脂と架橋し、膜中に固定される。
特開平11−213444号公報、特表平11−503768号公報(特許文献3,4)には、フッ素系ポリマーを塗布することが開示されている。
しかしながら、フッ素系材料で形成された膜は、被膜内部にもフッ素材料が固定されるため、強度が低下してしまい、その強度の低下を避けるために添加量を少なくすると、期待する防汚性が得られなくなってしまう。
【0006】
特開2002−190136号公報(特許文献2)には、ハードコート上に、撥水性又は撥油性基を含むシランカップリング剤の膜を設け、光情報媒体表面の防汚性を向上させることが開示されている。この方法では、強度、防汚性が付与できるが、工程が煩雑になることから、ハードコート材料に添加するだけで、強度と防汚性が付与できる材料が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−293159号公報
【特許文献2】特開2002−190136号公報
【特許文献3】特開平11−213444号公報
【特許文献4】特表平11−503768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、防汚性能を有する多官能(メタ)アクリレート化合物、支持基体に対して、その表面の耐擦傷性を損なわずに、オイルミストや指紋等の有機汚れに対する防汚性(特に、付着した汚れがとれやすいという防汚性)を付与させることができる光硬化性樹脂組成物及びその被膜が形成された物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために表面保護層について種々の検討を行ったところ、平均組成式:RafbAcSiO(4-a-b-c)/2
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、a,b,cは、a=1〜1.75、b=0.2〜0.4、c=0.4〜0.8、a+b+c=2〜2.7である。)
で表され、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物を添加した組成物、特に、上記多官能(メタ)アクリレート化合物、他の多官能(メタ)アクリレート及びラジカル開始剤、好ましくは更に金属微粒子を含有する組成物を使用することにより、耐擦傷性を損なわず、防汚性に優れた被膜が得られることを知見した。
即ち、上記多官能(メタ)アクリレート化合物を添加した組成物は、シロキサン骨格の効果により、表層に偏在化し、更に(メタ)アクリル基を含有するので、表面で固定化され、長期に渡って防汚性が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記に示す多官能(メタ)アクリレート化合物、光硬化性樹脂組成物及びその被膜を形成した物品を提供する。
〔1〕 平均組成式:RafbAcSiO(4-a-b-c)/2
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、a,b,cは、a=1〜1.75、b=0.2〜0.4、c=0.4〜0.8、a+b+c=2〜2.7である。)
で表され、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物。
〔2〕 一般式:RfSiRk〔OSiRm(ORA3-m3-k
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、m=0,1又は2であり、k=0又は1である。)
で表される分岐状シロキサンからなる〔1〕記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
〔3〕 一般式:(RfRSiO)(RARSiO)n
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、nはn≧2である。)
で表される環状シロキサンからなる〔1〕記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
〔4〕 RAのSi原子への結合部位が、Si−O−C結合である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
〔5〕 Rfが、Cx2x+1(CH2p−(式中、xは1〜8の整数、pは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
〔6〕 (a)下記(b)以外の多官能(メタ)アクリレート:100質量部、
(b)〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の多官能(メタ)アクリレート化合物:0.01〜5質量部、
(c)ラジカル開始剤:0.1〜10質量部
を含有する防汚性能を有する光硬化性樹脂組成物。
〔7〕 更に、(d)金属微粒子:5〜200質量部
を含有することを特徴とする〔6〕記載の光硬化性樹脂組成物。
〔8〕 〔6〕又は〔7〕記載の光硬化性樹脂組成物の硬化被膜が形成されてなる物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面に防汚層の付与が必要とされる物品に、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物を含む光硬化性樹脂組成物の被膜を形成することにより、光照射することで硬化し得、基材表上面に耐擦傷性を付与するとともに、指紋やゴミが付着することを防止もしくは簡単に除去できる防汚性に優れる硬化被膜が形成されるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物は、下記平均組成式で表されるものである。
afbAcSiO(4-a-b-c)/2
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、a,b,cは、a=1〜1.75、b=0.2〜0.4、c=0.4〜0.8、a+b+c=2〜2.7である。)
【0013】
上記式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基である。
aは1〜1.75、好ましくは1〜1.5であり、1より小さいと化合物の合成が工業的に困難となり、1.75より大きいと硬化性、防汚性の両立ができなくなる。
【0014】
fはフッ素原子を含有する有機基であり、Cx2x+1(CH2p−(式中、xは1〜8の整数、pは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基であることが好ましい。
このようなRfとして、具体的には、
CF324−、C4924−、C4936−、
81724−、C81736−、
37C(CF3236−、
37OC(CF3)FCF2OCF2CF236−、
37OC(CF3)FCF2OC(CF3)FC36−、
CF3CF2CF2OC(CF3)FCF2OC(CF3)FCONHC36
等が挙げられる。
bは0.2〜0.4、好ましくは0.2〜0.25であり、0.2より小さいと防汚性が低下し、0.4より大きいと硬化性が悪化する。
【0015】
Aは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、具体的には
CH2=CHCOO−、CH2=C(CH3)COO−、
CH2=CHCOOC36−、CH2=C(CH3)COOC36−、
CH2=CHCOOC24O−、CH2=C(CH3)COOC24O−
等が挙げられる。更に、RAは、工業的な合成のし易さからSi原子への結合がSi−O−C結合であることがより好ましい。
cは0.4〜0.8、好ましくは0.6〜0.8であり、0.4より小さいと硬化性が悪化し、0.8より大きいと防汚性が低下する。
【0016】
また、a+b+cは2〜2.7、好ましくは2〜2.5であり、2より小さいと表面への偏在化が起こりにくくなり、2.7より大きいと硬化性、防汚性の両立ができなくなる。
【0017】
本発明の多官能アクリレートは、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上、好ましくはF原子を3〜17個及びSi原子を3〜8個含有するものである。F原子が3個未満では防汚性が不十分となり、Si原子が3個未満では表面への偏在化が不足するためか、防汚性が不十分となる。
【0018】
本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法としては、例えば、フッ素原子を3個以上含有する有機基とSi−H基を3個以上有するシロキサン化合物に、アリル(メタ)アクリレート等を付加反応する方法や、フッ素原子を3個以上含有する有機基とSi−H基を3個以上有するシロキサン化合物と、ヒドロキシエチルアクリレート等のOH基を有する(メタ)アクリル化合物とを脱水素反応する方法などが挙げられる。
これらの方法の中で、付加反応は、(メタ)アクリル基も付加反応を受ける可能性があるが、脱水素反応では、アミン等の触媒を用いることにより、(メタ)アクリル基を保持したまま反応が進行し、目的とする化合物が容易に得られるため、より好ましい。
【0019】
シロキサン構造としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、これらの中で特に分岐状、環状のものが、後述する他の多官能(メタ)アクリレート等と相溶性がよく、ハジキがなく、表面への偏在化が起こりやすいために好ましい。
【0020】
ここで、シロキサン構造が分岐状の多官能(メタ)アクリレート化合物としては、下記一般式
fSiRk〔OSiRm(ORA3-m3-k
(式中、R、Rf、RAは上記と同様であり、m=0,1又は2、特にm=2であり、k=0又は1である。)
で表されるものが好ましい。
【0021】
また、シロキサン構造が環状構造の多官能(メタ)アクリレート化合物としては、下記一般式
(RfRSiO)(RARSiO)n
(式中、R、Rf、RAは上記と同様であり、n≧2、特に3≦n≦5である。)
で表されるものが好ましい。
【0022】
このような多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、
【化1】

等が挙げられる。
【0023】
本発明の防汚性能を有する光硬化性樹脂組成物は、
(a)上述した1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物以外の多官能(メタ)アクリレート、
(b)上記1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物、
(c)ラジカル開始剤
を含有するものであり、更に、
(d)金属微粒子
を含有していてもよい。
【0024】
(a)多官能(メタ)アクリレート
本発明の(a)成分は、硬化性成分の主成分であり、硬化後に得られる被膜のマトリックスを形成するものである。好ましくは、分子内に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物であり、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、エステルアクリレート等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(b)F原子及びSi原子を含有する多官能アクリレート
本発明の(b)成分は、上述した1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物であり、防汚性を付与する成分である。
【0026】
(b)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して0.01〜5質量部であり、好ましくは0.05〜3質量部である。配合量が0.05質量部より少ないと防汚性が低下し、3質量部より多いと表面の硬度が低下する。
【0027】
(c)ラジカル開始剤
本発明の(c)成分は、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから選択することができる。
例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0028】
(c)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜8質量部である。配合量が0.1質量部より少ないと硬化性が悪化し、10質量部より多いと表面の硬度が低下する。
【0029】
(d)金属微粒子
本発明の(d)成分である金属微粒子としては、無機微粒子の金属又は半金属、金属(又は半金属)酸化物の微粒子、又は金属(又は半金属)硫化物の微粒子などを用いることができる。無機微粒子の金属又は半金属としては、例えば、Si、Ti、Al、Zn、Zr、In、Sn、Sb等、あるいはこれら複合酸化物粒子等が挙げられる。また、酸化物、硫化物の他に、Se化物、Te化物、窒化物、炭化物等を用いることもできる。また表面をシリカ、アルミナ等で被覆したものを使用してもよい。金属微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の微粒子が挙げられ、シリカ微粒子が好ましい。このような金属微粒子を添加することにより、耐摩耗性をより高めることができる。
【0030】
前記シリカ微粒子の中でも、活性エネルギー線反応性基を有する加水分解性シラン化合物によって表面修飾されたものが好ましく用いられる。このような反応性シリカ微粒子は、ハードコートを硬化させる際の活性エネルギー線照射によって、架橋反応を起こし、ポリマーマトリックス中に固定される。
【0031】
(d)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して0〜200質量部であり、好ましくは0〜150質量部である。配合量が200質量部より多いとクラックが発生する場合がある。なお、(d)成分を配合する場合、5質量部以上配合することが好ましい。
【0032】
本発明の光硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、非重合性の希釈溶剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤などを本発明の目的を損なわない範囲で含んでいても差し支えない。
【0033】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記各成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。
【0034】
上記で得られた組成物を用いて被膜を形成する方法としては、スピンコート法等により被膜を作製することができる。形成された被膜の膜厚は、0.5〜30μmの範囲にあることが好ましい。
【0035】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光照射、例えば紫外線照射によって硬化するものである。なお、紫外線硬化の条件としては、公知の条件とすることができる。
【0036】
ここで、表面に防汚層の付与が必要とされる物品としては、光情報媒体、光学レンズ、光学フィルター、反射防止膜、及び液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子等が挙げられる。
特に、本発明においては、再生専用光ディスク、光記録ディスク、光磁気記録ディスク等の光情報媒体、より詳しくは、記録及び/又は再生ビーム入射側表面に、光硬化性樹脂組成物の硬化被膜を形成することにより、防汚性及び潤滑性に優れると共に耐擦傷性及び耐摩耗性にも優れる光情報媒体が得られるものである。
【実施例】
【0037】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、粘度はキャノンフェンスケ型毛細管粘度計により測定した25℃における値を示し、屈折率はデジタル屈折率計RX−7000α(アタゴ社製)により測定した値を示す。
【0038】
[合成例1]
下記式(4)で示される化合物69.4質量部(0.1mol)、2−ヒドロキシエチルアクリレート36.5質量部(0.315mol)、トルエン111.9質量部を反応器中に配合し、均一になったところで、触媒としてN,N−ジエチルヒドロキシルアミン1.12質量部(0.0126mol)を添加した。その後、70℃で8時間反応させた。水洗後、トルエン等を留去した。この反応物は、赤外吸収光分析、核磁気共鳴分析及び元素分析から下記式(1)で示される化合物であることが認められた。なお、この反応物は、粘度93.0mm2/s、屈折率1.4018であった。
【化2】

【0039】
[合成例2]
式(4)で示される化合物を下記式(5)で示される化合物75.7質量部(0.1mol)に変えた他は、実施例1と同様に行い、下記式(2)で示される化合物を得た。なお、この化合物は、粘度272mm2/s、屈折率1.4031であった。
【化3】

【0040】
[合成例3]
式(4)で示される化合物を下記式(6)で示される化合物70.8質量部(0.1mol)に変えた他は、実施例1と同様に行い、下記式(3)で示される化合物を得た。なお、この化合物は、粘度25.3mm2/s、屈折率1.3985であった。
【化4】

【0041】
[実施例1]
γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理を行ったシリカ40質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート40質量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート20質量部、合成例1で得られた式(1)の化合物0.5質量部、ラジカル開始剤としてダロキュアー1173 5質量部を混合した。
ポリカーボネート板上にスピンコート法で塗工し、UV照射し、5μmの被膜を形成した。
【0042】
形成した被膜について以下の試験を行い、その結果を表1にまとめた。
(I)テーバー磨耗試験
ASTM D 1044に準じて摩耗輪CS−10F、500g荷重、100回転後のHaze値の変化を測定した。
(II)オレイン酸接触角
接触角計CA−150X型(協和界面科学社製)にて測定した。
(III)マジックインキ拭き取り性
マジックインキで線を描き、1分後にカーゼで拭き取った後のインクの残りで下記基準により判定した。
○:マジックインキで描いた線の痕跡が残らない
×:マジックインキで描いた線の痕跡が残る
【0043】
[実施例2]
実施例1中の式(1)の化合物を合成例2で得られた式(2)の化合物に変えて同様に行った。
【0044】
[実施例3]
実施例1中の式(1)の化合物を合成例3で得られた式(3)の化合物に変えて同様に行った。
【0045】
[比較例1]
実施例1中の式(1)の化合物を添加しない他は同様に行った。
【0046】
[比較例2]
実施例1中の式(1)の化合物をオクタフルオロペンチルアクリレートに変えて同様に行った。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例1では、フッ素化合物を添加していないため、防汚性が得られない。
また、比較例2では、フッ素を含有していても、シリコーンを含有していないため表面への偏在化が起こらないので防汚性が得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成式:RafbAcSiO(4-a-b-c)/2
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、a,b,cは、a=1〜1.75、b=0.2〜0.4、c=0.4〜0.8、a+b+c=2〜2.7である。)
で表され、1分子中にF原子を3個以上及びSi原子を3個以上含有する多官能(メタ)アクリレート化合物。
【請求項2】
一般式:RfSiRk〔OSiRm(ORA3-m3-k
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、m=0,1又は2であり、k=0又は1である。)
で表される分岐状シロキサンからなる請求項1記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
【請求項3】
一般式:(RfRSiO)(RARSiO)n
(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり、Rfはフッ素原子を含有する有機基であり、RAは(メタ)アクリル基を含有する有機基であり、nはn≧2である。)
で表される環状シロキサンからなる請求項1記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
【請求項4】
AのSi原子への結合部位が、Si−O−C結合である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
【請求項5】
fが、Cx2x+1(CH2p−(式中、xは1〜8の整数、pは2〜10の整数である。)で示される基又はパーフルオロポリエーテル置換アルキル基である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物。
【請求項6】
(a)下記(b)以外の多官能(メタ)アクリレート:100質量部、
(b)請求項1〜5のいずれか1項に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物:0.01〜5質量部、
(c)ラジカル開始剤:0.1〜10質量部
を含有する防汚性能を有する光硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
更に、(d)金属微粒子:5〜200質量部
を含有することを特徴とする請求項6記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6又は7記載の光硬化性樹脂組成物の硬化被膜が形成されてなる物品。

【公開番号】特開2007−145884(P2007−145884A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338356(P2005−338356)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】