説明

多官能(メタ)アクリレート樹脂、及びその製造方法

【課題】活性エネルギー線硬化後の架橋密度が高く、得られた塗膜の硬度や耐擦傷性に優れ、かつ、活性エネルギー線硬化時の体積収縮率が小さく、活性エネルギー線硬化前のタックが低減された多官能(メタ)アクリレート樹脂、及びその製造方法の提供。
【解決手段】分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基の一部をリビングラジカル重合してなる多官能(メタ)アクリレート樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度かつ活性エネルギー線硬化時の体積収縮が低減された多官能(メタ)アクリレート樹脂、及びそれを用いた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードコート塗膜を得るために好適に用いられている多官能(メタ)アクリレート化合物は、一般に化合物中の(メタ)アクリロイル基の官能基密度が高く、活性エネルギー線硬化時に大きな体積収縮を伴うため、得られる塗膜にクラックが発生したり、薄膜のプラスチック基材へ塗膜を形成する場合は基材が変形したりするなどの問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1及び2では、グリシジルメタクリレートを共重合したアクリル重合体にアクリル酸を付加反応させてなる多官能アクリレート樹脂を用い、樹脂中のアクリロイル基濃度を低下させ硬化時の体積収縮を低減する検討がなされている。
【0004】
しかしながら上記方法では、硬化時の体積収縮を低減できるが、例えば公知の低分子多官能アクリレート化合物の中で最も架橋密度が高いジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと比較すると硬化後の架橋密度が低く塗膜硬度が十分とは言えない。高い塗膜硬度を得るためには、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートや6官能以上のウレタンアクリレートなどの硬化後の架橋密度の高い多官能アクリレート化合物を重量比で50%以上併用する必要があり、この場合体積収縮の低減効果が十分に得られないという問題があった。
【0005】
一方で、特許文献3にあるように、2次元及び3次元曲面へのハードコート層の形成手法である転写ハードコート法において、活性エネルギー線硬化前にタックフリーであるハードコート組成物が求められている。しかしながら硬化剤や無機酸化物の添加でタックフリーは達成できるものの、活性エネルギー線硬化後の硬度は十分とは言えない。
【特許文献1】特開2008−69303号公報
【特許文献2】特開2007−131837号公報
【特許文献3】特開2008−231220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、活性エネルギー線硬化後の架橋密度が高く、得られた塗膜の硬度や耐擦傷性に優れ、かつ、活性エネルギー線硬化時の体積収縮率が小さく、更に活性エネルギー線硬化前のタックが低減された、新規な多官能(メタ)アクリレート樹脂、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明は、分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基の一部をリビングラジカル重合してなる多官能(メタ)アクリレート樹脂に関する。
【0008】
又、第2の発明は、(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、5〜60モル%をリビングラジカル重合してなる第1の発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂に関する。
【0009】
又、第3の発明は、リビングラジカル重合が、原子移動リビングラジカル重合法(ATRP法)、又はニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)であることを特徴とする第1又は第2の発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂に関する。
【0010】
又、第4の発明は、分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)の数平均分子量が、300〜3,000であることを特徴とする第1〜3いずれかの発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂に関する。
【0011】
又、第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂を含有してなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に関する。
【0012】
又、第6の発明は、分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基の一部をリビングラジカル重合することを特徴とする多官能(メタ)アクリレート樹脂の製造方法に関する。
【0013】
又、第7の発明は、(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、5〜60モル%をリビングラジカル重合することを特徴とする第6の発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂の製造方法に関する。
【0014】
又、第8の発明は、リビングラジカル重合が、原子移動リビングラジカル重合法(ATRP法)、又はニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)であることを特徴とする第6又は第7の発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、活性エネルギー線硬化後の架橋密度が高く、得られた塗膜の硬度や耐擦傷性に優れ、かつ、活性エネルギー線硬化時の体積収縮率が小さく、更に活性エネルギー線硬化前のタックが低減された、新規な多官能(メタ)アクリレート樹脂、及びその製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0017】
本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂は、分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)の(メタ)アクリロイル基の一部をリビングラジカル重合してなることを特徴とする。なお、活性エネルギー線による硬化性をもたせるため、リビング重合に際して化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基のすべてが反応し、消失していてはならない。
【0018】
すなわち、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂は、分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と表記する場合がある。)をいわゆる部分的に硬化した状態の物と言い換えることができる。従って本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂を更に活性エネルギー線硬化して得られる塗膜は、化合物(A)を直接活性エネルギー線硬化させてなる塗膜と同等の架橋密度を有する。このことは、少なくとも、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂を製造したときに消費された(メタ)アクリロイル基の個数分、活性エネルギー線硬化時の硬化収縮が抑制されるということになる。従って、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂を使用すると、従来両立が困難であった、高架橋密度と低硬化収縮性とに優れたハードコート塗膜を提供することができる。
【0019】
<分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)>
本発明に使用する化合物(A)は、分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に制限はない。例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;
上記化合物のうち分子中に水酸基を1つ以上有するものと、1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物と、必要に応じ上記以外の1分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物とを反応させることにより得られる多官能ウレタン(メタ)アクリレート類;
スチレン−無水マレイン酸共重合体を、分子中に水酸基を一つ以上有する水酸基含有(メタ)アクリル系化合物で変性してなる多官能(メタ)アクリレート類;
二塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合してなるポリエステル中のアルコール残基に、(メタ)アクリル酸をエステル結合してなる多官能ポリエステル(メタ)アクリレート類;
エポキシ基含有(メタ)アクリレート化合物のアクリル系共重合体に(メタ)アクリル酸を付加させてなる多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。化合物(A)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
化合物(A)の数平均分子量は300〜3,000が好ましい。数平均分子量が300未満の化合物は実質入手が困難であり、3,000を超えると、例えば単独で重合する場合に分子量が高くなりすぎ使用が困難となる場合がある。本発明では、数平均分子量の異なる数種類の化合物(A)を使用してもよく、例えば、数平均分子量が3,000〜100,000である比較的高分子量の化合物(A1)を併用するのも好ましい形態の一つである。この場合、使用する化合物(A)100重量%中、0.1〜20重量%の化合物(A1)を使用するのが好ましい。
【0021】
リビングラジカル重合による、化合物(A)の(メタ)アクリロイル基の反応量としては、好ましくは重合反応停止後の(メタ)アクリロイル基の残存モル数が、反応初期に存在する(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、40モル%よりも大きく、95モル%未満である。[言い換えれば、重合前の(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、5〜60モル%をリビングラジカル重合する。]リビングラジカル重合する(メタ)アクリロイル基が5モル%未満の場合、活性エネルギー線硬化時の体積収縮の低減効果が十分に得られない場合がある。又、60モル%を超えると高分子量化もしくはゲル化する場合があり、活性エネルギー線硬化性組成物への使用が困難となる場合がある。
【0022】
ここで化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基のリビングラジカル重合に使用される量は、以下のようにして求める。
【0023】
反応前後のIRスペクトルにより、1720cm-1付近のエステル基のピークを内部標準ピークに用い、820〜800cm-1の(メタ)アクリロイル基のピークとのピーク面積比を算出することにより(メタ)アクリロイル基の反応率を測定する。反応率の計算式を以下に示す。
【0024】
反応率(%)=(1−[反応後の(メタ)アクリロイル基のピーク面積/内部標準ピーク面積]/[反応前の(メタ)アクリル基のピーク面積/内部標準ピーク面積])×100
【0025】
本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂の重量平均分子量としては、好ましくは3,000〜500,000であり、より好ましくは5,000〜300,000である。重量平均分子量が500,000を超える場合、塗液が高粘度化する場合があり好ましくない。重量平均分子量が3,000未満の場合、硬化収縮の低減効果が十分に得られない場合がある。
【0026】
<リビングラジカル重合法>
リビングラジカル重合法は近年様々なグループで積極的に研究がなされており、例えばコバルトポルフィリン錯体(J.Am.Chem.Soc.1994、116、7943)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules、1994、27、7228)、有機ハロゲン化物等を開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動リビングラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization)等が挙げられる。原子移動リビングラジカル重合は、有機ハロゲン化物、ハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、又は遷移金属を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される。具体的には、Matyjaszewskiらの文献、J.Am.Chem.Soc.1995,117,5614,Macromolecules 1995,28,7901,Science 1996,272,866;あるいはSawamotoらの文献、Macromolecules 1995,28,1721、国際公開特許WO96/30421及びWO97/18247等に開示されている。
【0027】
本発明に用いるリビングラジカル重合法としては、化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基の一部を重合することができれば特に制約はなく、上記方法以外のリビングラジカル重合法も使用することができる。
【0028】
又、本発明は、重合反応停止後の(メタ)アクリロイル基の残存モル数が、反応初期に存在する(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、40モル%よりも大きく、95モル%未満である[言い換えれば、重合前の(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、5〜60モル%をリビングラジカル重合する。]ことが好ましいが、(メタ)アクリロイル基のリビングラジカル重合に使用される量の調整は、周知の方法に従い、リビングラジカル重合速度、及び反応時間を調整して行われる。重合速度の調整には重合温度や重合固形分の制御のほか、例えば原子移動リビングラジカル重合法(ATPR法)では、有機配位子や金属触媒の選定、及び高原子価の遷移金属の添加などで調整することができる。又、ニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)では、反応系中にプロトン酸やその等価体を加えたり、ニトロキシルラジカルの立体的な嵩高さを変化させたりすることで反応速度を制御することができる。
【0029】
以下にリビングラジカル重合法の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
<原子移動リビングラジカル重合法(ATPR法)>
原子移動ラジカル重合法は、レドックス触媒として銅、ルテニウム、鉄、ニッケルなどの遷移金属を含む遷移金属錯体を用いて行われる。この金属錯体は、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)などの低原子価のハロゲン化遷移金属と有機配位子とから形成される。重合速度をコントロールするために、周知の方法に従って塩化銅(II)や臭化銅(II)などの高原子価のハロゲン化遷移金属を重合系に添加してもよい。
【0031】
有機配位子は、重合溶媒への可溶性、及びレドックス共役錯体の可逆的な変化を可能にするために使用される。金属の配位原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられるが、好ましくは窒素原子、又はリン原子である。有機配位子の具体例としては、スパルテイン、2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等が挙げられる。
【0032】
前記のハロゲン化遷移金属と有機配位子とは、別々に添加して重合体中で金属錯体を生成させてもよいし、予め金属錯体を合成して重合系へ添加しても良い。特に、遷移金属が銅の場合、前者の方法が好ましく、ルテニウム、鉄、ニッケルは、後者の方法が好ましい。
【0033】
予め合成されるルテニウム、鉄、ニッケル錯体の具体例としては、トリストリフェニルホスフィノニ塩化ルテニウム[Ru(Cl)2(PPh33]、ビストリスフェニルホスフィノニ塩化鉄[Fe(Cl)2(PPh32]、ビストリスフェニルホスフィノニ塩化ニッケル[Ni(Cl)2(PPh32]、ビストリブチルホスフィノニ臭化ニッケル[Ni(Br)2(PBu32]等が挙げられる。
【0034】
原子移動ラジカル重合法に使用される開始剤としては、公知のものを使用できるが、主に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物、ハロゲン化スルホニル化合物等が用いられる。具体的に例示すると、ブロモイソ酪酸エチル、ブロモ酪酸エチル、クロロイソ酪酸エチル、クロロ酪酸エチル、パラトルエンスルホン酸クロライド、ブロモエチルベンゼン、クロロエチルベンゼンなどである。これらは単独、又は併用で用いる。
【0035】
上記原子移動ラジカル重合において、原子移動ラジカル重合の開始剤は、合成される樹脂の重量平均分子量(Mw)に応じて適宜選択されるが、化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基1モルに対し、0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.1モルの割合で用いられる。又、遷移金属の使用量は、ハロゲン化物などの形態として、開始剤1モルに対して、0.03〜3モル、好ましくは0.1〜2モルの割合で用いられる。更に、その配位子は、上記の遷移金属(ハロゲン化物などの形態)1モルに対して、通常1〜5モル、好ましくは1.2〜3モルの割合で用いられる。上記原子移動ラジカル重合の開始剤と遷移金属と配位子とをこのような使用割合にすると、リビングラジカル重合の反応性、生成ポリマーの分子量などの点で好適となる。
【0036】
又、原子移動ラジカル重合の特性上、得られた樹脂の停止末端には活性な炭素−ハロゲン結合を有し、公知の方法でこれを変性して官能基を導入することができる。又、官能基を有する重合開始剤により重合を行い、樹脂末端に官能基を導入して種々の反応に利用することができる。
【0037】
原子移動ラジカル重合法による化合物(A)の重合反応は、無溶剤でも進行させることが可能であるが、酢酸エチル、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどの溶剤の存在下で進行させてもよい。
【0038】
重合条件としては、重合速度や触媒の失活の点から、50〜130℃の重合温度で、最終的な分子量や重合温度にも依存するが、0.1〜100時間の重合時間とすればよい。又、重合反応に際しては、酸素による重合触媒の失活を防ぐ為、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われるのが望ましい。
【0039】
反応停止方法としては、目的量の(メタ)アクリロイル基を重合させた後、重合反応系を0℃以下、好ましくは−78℃程度に冷却して反応を停止させる。ここで重合反応系を冷却する前に重合禁止剤を投入しても良い。更に周知の方法に従って、残存モノマー及び/又は溶剤の除去、適当な溶媒中での再沈殿、沈殿したポリマーの濾過又は遠心分離、ポリマーの洗浄及び乾燥を行うことができる。必要に応じて周知の方法により重合系に含まれる遷移金属などを除去した後、揮発分を蒸発させることによって本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂を得ることができる。除去方法としては、テトラヒドロフラン、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶媒で反応混合液を希釈し、水・希塩酸やアミン水溶液などで洗浄、樹脂溶液を陽イオン交換樹脂又はキレート樹脂に接触させる方法、アルミナ・シリカもしくはクレーのカラム又はパッドに通す方法、還元剤やハイドロタルサイト類などの吸着剤を加えた後に濾過・遠心分離する方法などがある。処理の簡便さの面から、希釈された樹脂溶液に陽イオン交換樹脂とハイドロタルサイトなどの酸吸着剤などを投入攪拌した後、イオン交換樹脂と酸吸着剤とを濾別して樹脂溶液を得るのが好ましい。
【0040】
<ニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)>
ニトロキシドを介するリビングラジカル重合法は、安定なニトロキシフリーラジカル(=N−O・)をラジカルキャッピング剤として用いて行われる。安定なニトロキシフリーラジカルとしては、特に限定されないが、例えば2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)、2,2,6,6−テトラエチル−1−ピペリジニルオキシラジカル、2,2,6,6−テトラメチル−4−オキソ−1−ピペリジニルオキシラジカル、2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニルオキシラジカル、1,1,3,3−テトラメチル−2−イソインドリニルオキシラジカル、N,N−ジ−t−ブチルアミンオキシラジカル等が挙げられる。ニトロキシフリーラジカルの代わりに、ガルビノキシル(galvinoxyl)フリーラジカル等の安定なフリーラジカルを用いても構わない。
【0041】
上記ラジカルキャッピング剤は、ラジカル重合開始剤と併用される。両者の併用割合は特に限定されるものではないが、ラジカルキャッピング剤1モルに対し、ラジカル開始剤0.1〜10モルが適当である。
【0042】
上記ラジカル重合開始剤は、合成される樹脂の重量平均分子量(Mw)に応じて適宜選択されるが、化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基1モルに対し、0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.1モルの割合で用いられる。
【0043】
ラジカル重合開始剤としては、公知のものを使用できるが、重合温度条件下でラジカルを発生しうる化合物であれば特に制限はない。例示するならばジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;
t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類;
シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;
2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレート、などのパーオキシケタール類;
クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルシクロヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;
ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;
ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類などの有機過酸化物、又はこれらの混合物があげられる。
【0044】
又、ラジカル重合開始剤としてアゾ化合物も使用することもできる。例示するならば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などの1,1’−アゾビス−1−アルカンニトリル類などが使用できる。
【0045】
更に、Macromolecules 1995,28,2993で報告されているように、ラジカルキャッピング剤と前記のラジカル重合開始剤とを併用する代わりに、一般式(1)で示されるアルコキシアミン化合物を開始剤として用いても構わない。
【0046】
一般式(1)
1−O−N(R2)(R3
(ここでR1、R2、R3は有機残基であり、R2とR3とが環状構造を形成しても良い。又、R1は、重合末端にラジカル重合開始剤由来の残基を有する、1分子中に1個のエチレン性不飽和基含有化合物の重合体残基でもよい。)
【0047】
上記一般式(1)で示されるアルコキシアミン化合物としては、例えば、式(1)〜(4)に示すアルコキシアミン化合物が挙げられる。
【0048】
式(1)
【0049】
【化1】

【0050】
式(2)
【0051】
【化2】

【0052】
式(3)
【0053】
【化3】

【0054】
式(4)
【0055】
【化4】

【0056】
ニトロキシドを介するリビングラジカル重合法を用いる場合、化合物(A)の重合反応は無溶剤でも進行させることが可能であるが、酢酸エチル、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどの溶剤の存在下で進行させてもよい。
【0057】
重合温度としては、重合速度の点から90〜130℃の重合温度で、最終的な分子量や重合温度にも依存するが、0.1〜100時間の重合時間とすれば良い。
【0058】
反応停止方法としては、目的量の(メタ)アクリロイル基を重合させた後、重合反応系を50℃以下、好ましくは0℃程度に冷却して反応を停止させる。
【0059】
<活性エネルギー線硬化性樹脂組成物>
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、上述した多官能(メタ)アクリレート樹脂を含有することを特徴とする。
【0060】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、1分子中に1個以上のエチレン性不飽和基を有する、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂以外の化合物、光重合開始剤、増感剤、溶剤、各種添加剤などを含有することができる。
【0061】
1分子中に1個以上のエチレン性不飽和基を有する、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂以外の化合物の中で、1分子中に1個のエチレン性不飽和基を有する化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、α−メチルスチレン等の不飽和化合物類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート化合物類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系化合物類;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の末端に水酸基を有しポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート化合物類;
メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の、末端にアルコキシ基を有しポリオキシアルキレン鎖を有するモノ(メタ)アクリレート化合物類;
フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の、末端にフェノキシ又はアリールオキシ基を有するポリオキシアルキレン系(メタ)アクリレート化合物類;
(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系不飽和化合物類;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等のジアルキルアミノ基を有する不飽和化合物類;
対イオンとしてCl-、Br-、I-等のハロゲンイオンまたはQSO3-(Q:炭素数1〜12のアルキル基)を有する、ジアルキルアミノ基含有不飽和化合物の4級アンモニウム塩等の窒素含有(メタ)アクリル系化合物類;
パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート等の、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート化合物類が挙げられる。
【0062】
1分子中に2個のエチレン性不飽和基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)クリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートジエステル、p−ビス〔β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ〕キシリレン、4,4’−ビス〔β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ〕ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0063】
1分子中に3個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物としては、例えば、前記化合物(A)が挙げられる。
【0064】
光重合開始剤は、紫外線により活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させる場合に添加される。なお、電子線、α線、β線、γ線のような電離放射線を用いる場合には光重合開始剤は特に添加する必要はない。光重合開始剤としては、光励起によってラジカル重合を開始できる機能を有するものであれば特に限定はなく、例えばモノカルボニル化合物、ジカルボニル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾインもしくはそのエーテル化合物、アシルフォスフィンオキシド化合物、アミノカルボニル化合物等が使用できる。これらは上記化合物に限定されず、光励起により重合を開始させる能力があればどのようなものでも構わない。これらは単独使用又は併用することができ、使用量に制限はないが、被硬化物の乾燥重量の合計100重量部に対して1〜20重量部の範囲で添加されるのが好ましい。又、増感剤として公知の有機アミン又は硫黄化合物を加えることもできる。
【0065】
モノカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン、4−メチル−ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、4−(4−メチルフェニルチオ)フェニル−エネタノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4−(1,3−アクリロイル−1,4,7,10,13−ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N,N−トリメチルベンゼンメタアンモニウムクロリド、2−ヒドロキシ−3−(4−ベンゾイル−フェノキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−n−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシエチル)]メタアンモニウム臭酸塩、2−/4−iso−プロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9Hチオキサントン−2−イロキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩、ベンゾイルメチレン−3−メチルナフト(1,2−d)チアゾリン等が挙げられる。
【0066】
ジカルボニル化合物としては、1,7,7−トリメチル−ビシクロ[2.1.1]ヘプタン−2,3−ジオン、ベンザイル、2−エチルアントラキノン、9,10−フェナントレンキノン、メチル−α−オキソベンゼンアセテート、4−フェニルベンザイル等が挙げられる。
【0067】
アセトフェノン化合物としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−ジ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−スチリルプロパン−1−オン重合物、ジエトキシアセトフェノン、ジブトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノ−フェニル)ブタン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノ−プロパノニル)−9−ブチルカルバゾール等が挙げられる。
【0068】
ベンゾインもしくはそのエーテル化合物としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテル等が挙げられる。
【0069】
アシルフォスフィンオキシド化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、4−n−プロピルフェニル−ジ(2,6−ジクロロベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0070】
アミノカルボニル化合物としては、メチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、エチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−n−ブトキシエチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、イソアミル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、4,4’−ビス−4−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス−4−ジエチルアミノベンゾフェノン、2,5’−ビス−(4−ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン等が挙げられる。
【0071】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に使用される溶剤としては、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂が溶解するものであれば特に限定されないが、シクロヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチルなどの酢酸エステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのグリコールエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸セロソルブ、酢酸メトキシブチルなどのグリコールエステル類などが挙げられる。
【0072】
各種添加剤としては公知のもの使用することができ、例えば界面活性剤、レベリング剤、染料、顔料、酸化防止剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、安定剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、及び無機酸化物、金属酸化物等の球状フィラーを挙げることができる。
【0073】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、基材上に塗工後、必要に応じて溶剤を乾燥し、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって硬化させることができる。前記活性エネルギー線としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線あるいは、通常20〜2000KeVのコックロフワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の電子線加速器から取り出される電子線、α線、β線、γ等を用いることができる。照射する活性エネルギー線量は、紫外線であれば5〜2000mJ/cm2の範囲で適時設定できるが、工程上管理しやすい50〜1000mJ/cm2の範囲であることが好ましい。
【0074】
本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂は、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性に優れ、塗料、接着剤、粘着剤、印刷用版材料、封止剤、集積回路用レジスト、プリント配線板用レジスト、カラーフィルター用着色ペースト、立体成形材料、光学用クリアコーティング剤等に好適に用いられる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いることができる。
【0075】
又、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化前の塗面のタックが低減されるという特徴を有するため、転写ハードコート剤などの用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」を表し、「%」は「重量%」を表す。
【0077】
本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で展開溶媒にTHFを用いたときのポリスチレン換算分子量を用いた。
【0078】
又、(メタ)アクリロイル基の反応率の追跡には、IR(島津社製、FTIR−8200PC)を使用した。反応率の計算式を以下に示す。
【0079】
反応率(%)=(1−[反応後の(メタ)アクリロイル基のピーク面積/内部標準ピーク面積]/[反応前の(メタ)アクリル基のピーク面積/内部標準ピーク面積])×100
【0080】
(合成例1)
攪拌機、ガス導入管、冷却管、及び温度計を備えたフラスコに、シクロヘキサノン30部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)/ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM402」、数平均分子量650)18.1部、ブロモイソ酪酸エチル0.66部、ペンタメチルジエチレントリアミン0.85部を仕込み、窒素を吹き込みながら65℃に昇温した後、塩化銅0.37部を加え重合を開始した。重合開始から20分後、フラスコを冷却し、p−トルエンスルホン酸一水和物部を0.42加えて室温で3時間攪拌した。更に金属の吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学社製)を0.28部加え室温で3時間攪拌した後、桐山漏斗で吸着剤を濾過することで固形分38%の多官能アクリレート樹脂溶液を得た。得られた多官能アクリレート樹脂の数平均分子量(Mn)は9,600、重量平均分子量(Mw)は109,000であり、IRより求められるアクリロイル基の反応率は30%であった。
【0081】
(合成例2)
アロニックスM402の代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学社製、製品名:「UA−306H」、数平均分子量490)を用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、固形分37%の多官能アクリレート樹脂溶液を得た。得られた多官能アクリレート樹脂の数平均分子量(Mn)は27,000、重量平均分子量(Mw)は158,000であり、IRより求められるアクリロイル基の反応率は26%であった。
【0082】
(合成例3)
アロニックスM402の代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET3A)/ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PET4A)混合物(共栄社化学社製、製品名:「M−305」、数平均分子量390)を用い、反応時間を40分とした以外は合成例1と同様の操作を行い、固形分38%の多官能アクリレート樹脂溶液を得た。得られた多官能アクリレート樹脂の数平均分子量(Mn)は32,000、重量平均分子量(Mw)は229,000であり、IRより求められるアクリロイル基の反応率は57%であった。
【0083】
(合成例4)
攪拌機、ガス導入管、冷却管、及び温度計を備えたフラスコに、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SARTOMER社製:SMA2021 数平均分子量12,000)5部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)/ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM402」、数平均分子量650)13部、シクロヘキサノン11.9部、p−メトキシフェノール0.01部、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン0.02部を仕込み、ドライエアーを吹き込みながら90℃に昇温し16時間反応させることで、固形分60%、数平均分子量2,700のスチレン−無水マレイン酸変性樹脂溶液を得た。
【0084】
続いて、このフラスコにブロモイソ酪酸エチル0.66部 、ペンタメチルジエチレントリアミン0.85部、シクロヘキサノン18部を仕込み、窒素を吹き込みながら65℃に昇温した後、塩化銅0.37部を加え重合を開始した。重合開始から5分後、フラスコを冷却し、p−トルエンスルホン酸一水和物部を0.42加えて室温で3時間攪拌した。更に金属の吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学社製)を0.28部加え室温で3時間攪拌した後、桐山漏斗で吸着剤を濾過することで固形分37%の多官能アクリレート樹脂溶液を得た。得られた多官能アクリレート樹脂の数平均分子量(Mn)は37,300、重量平均分子量(Mw)は181,000であり、IRより求められるアクリロイル基の反応率は8%であった。
【0085】
(合成例5)
攪拌機、ガス導入管、冷却管、及び温度計を備えたフラスコに、シクロヘキサノン30部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)/ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM402」、数平均分子量650)19.4部、2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)0.6部、ベンゾイルパーオキシド0.77部を仕込み、脱気後、95℃に加熱し3.5時間攪拌した。その後、温度115℃で2時間反応させた後、フラスコを冷却し重合を停止することで固形分42%の多官能アクリレート樹脂溶液を得た。得られた多官能アクリレート樹脂の数平均分子量(Mn)は9,100、重量平均分子量(Mw)は127,000であり、IRより求められるアクリロイル基の反応率は33%であった。
【0086】
(比較合成例1)
攪拌機、ガス導入管、冷却管、及び温度計を備えたフラスコに、シクロヘキサノン30部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)/ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM402」)19.4部、ベンゾイルパーオキシド0.77部を仕込み、脱気後、95℃に加熱し反応を開始したところ、数分後にゲル化した。
【0087】
(実施例1)
合成例1で合成した多官能アクリレート樹脂溶液100重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を2重量部添加してなる組成物を、メチルエチルケトンで希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。
【0088】
この組成物を膜厚約80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製)上にバーコーターを用いて塗布し、100℃−2分の条件で溶剤を乾燥除去した後、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射量400mJ/cm2で照射して塗布層を硬化させ、膜厚5μmのハードコート層を得た。
【0089】
得られたハードコートフィルムについて次の評価方法により評価を行い、結果を表1に示した。なお、(1)〜(6)はハードコート層側表面について行った。
【0090】
(1)ヘイズ値(Hz):ヘイズメーター300A(東京電色社製)を用いてヘイズ値を測定した。
【0091】
(2)全光線透過率(TT):ヘイズメーター300A(東京電色社製)を用いて全光線透過率を測定した。
【0092】
(3)鉛筆硬度:JIS K5400に従って評価した。
【0093】
(4)耐擦傷性:スチールウール#0000を用い、500g加重にて10往復させた後、外観を目視にて評価した。評価基準は以下のように行った。
○:「傷がない。」
×:「数本の傷が確認される。」
【0094】
(5)塗工フィルムのカール(カール値):23℃、30%RHの条件にて、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物硬化後の塗布物を10cm×10cmに切り出した際のフィルムの4辺のうち、カールしている2辺の各辺について各辺の先端部間の最短距離を測定し、その平均値をカール値(mm)とした。(すべての実施例において、残りの2辺はカールしておらず、それら各辺の先端部間の最短距離を測定したところ共に100mmであった。) カール値が大きいほど、カールの程度が小さく、活性エネルギー線硬化時の収縮率が小さいことを示す。
【0095】
(6)硬化前のタック:活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を基材に塗布後、100℃−2分の条件で溶剤を乾燥除去した後の塗面について、タックの有無を触手にて評価した。
有:「指で触れると塗面に痕が残る。」
無:「指で触れても塗面に痕が残らない。」
【0096】
(実施例2)
合成例2で合成した多官能アクリレート樹脂溶液100重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を2重量部添加してなる組成物を、メチルエチルケトンで希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。更に実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0097】
(実施例3)
合成例3で合成した多官能アクリレート樹脂溶液100重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を2重量部添加してなる組成物を、メチルエチルケトンで希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。更に実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0098】
(実施例4)
合成例4で合成した多官能アクリレート樹脂溶液100重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を2重量部添加してなる組成物を、メチルエチルケトンで希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。さらに実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0099】
(実施例5)
合成例5で合成した多官能アクリレート樹脂溶液100重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を2.2重量部添加してなる組成物を、メチルエチルケトンで希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。さらに実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0100】
(比較例1)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)/ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM402」)95重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部添加してなる組成物を、シクロヘキサノン/メチルエチルケトン=3/2(重量比)の混合溶剤で希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。更に実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0101】
(比較例2)
ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学社製、製品名:「UA−306H」)95重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部添加してなる組成物を、シクロヘキサノン/メチルエチルケトン=3/2(重量比)の混合溶剤で希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。更に実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0102】
(比較例3)
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PET3A)/ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PET4A)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM305」)95重量部に、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部添加してなる組成物を、シクロヘキサノン/メチルエチルケトン=3/2(重量比)の混合溶剤で希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。更に実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0103】
(比較例4)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)/ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)混合物(東亞合成社製、製品名:「アロニックスM402」)45重量部、2官能ウレタンアクリレート化合物(共栄社化学社製、製品名:「UF−8001」)40重量部に、光重合開始剤イルガキュアー184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部添加してなる組成物を、シクロヘキサノン/メチルエチルケトン=3/2(重量比)の混合溶剤で希釈し、固形分30重量%の活性エネルギー線硬化性組成物を調製した。更に実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示した実施例1〜5の評価結果から、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂は、比較例として用いた多官能(メタ)アクリレート化合物と同程度以上の表面硬度と透明性を有し、かつ硬化収縮が少ない樹脂であることが明らかとなった。又、本発明の多官能(メタ)アクリレート樹脂は分子量が高いため、活性エネルギー線硬化前の塗面のタックが低減されることも明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基の一部をリビングラジカル重合してなる多官能(メタ)アクリレート樹脂。
【請求項2】
(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、5〜60モル%をリビングラジカル重合してなる請求項1記載の多官能(メタ)アクリレート樹脂。
【請求項3】
リビングラジカル重合が、原子移動リビングラジカル重合法(ATRP法)、又はニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)であることを特徴とする請求項1又は2記載の多官能(メタ)アクリレート樹脂。
【請求項4】
分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)の数平均分子量が、300〜3,000であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の多官能(メタ)アクリレート樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の多官能(メタ)アクリレート樹脂を含有してなる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
分子中に少なくとも3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(A)中の(メタ)アクリロイル基の一部をリビングラジカル重合することを特徴とする多官能(メタ)アクリレート樹脂の製造方法。
【請求項7】
(メタ)アクリロイル基の合計100モル%中、5〜60モル%をリビングラジカル重合することを特徴とする請求項6記載の多官能(メタ)アクリレート樹脂の製造方法。
【請求項8】
リビングラジカル重合が、原子移動リビングラジカル重合法(ATRP法)、又はニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)であることを特徴とする請求項6又は7記載の多官能(メタ)アクリレート樹脂の製造方法。


【公開番号】特開2010−126563(P2010−126563A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300275(P2008−300275)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】