説明

多室型熱処理装置

【課題】多室型熱処理装置において、熱処理室間における受渡しの際に熱処理対象物が冷却されることおよび受渡し環境が汚染されることを抑制する。
【解決手段】複数の熱処理室間にて熱処理対象物Xを受渡しを行う受渡し装置5を備え、該受渡し装置5は、前記熱処理室において加熱された前記熱処理対象物Xを保温する保温手段を備え、該保温手段は、前記受渡し装置5に収容された前記熱処理対象物Xを囲う断熱室5hと、該断熱室5hの内部に配置されるヒータ5iを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予熱室を含む複数の熱処理室間にて熱処理対象物の受渡しを行う受渡し装置を備える多室型熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、焼入れやロウ付けを目的として、様々な部材に対して熱処理が施されている。このような部材に対して熱処理を行う熱処理装置としては、複数の部材を連続して流しながら熱処理を行う連続炉等が知られている。
【0003】
ところが、熱処理装置においては、形状や材質の異なる部材を熱処理する場合がある。このような場合には、各部材に対する熱処理時間が異なることとなるが、いずれかの部材に対する熱処理が長時間に及ぶ場合には、その間、他の部材の熱処理を停止させる必要が生じる。また、連続炉においては、熱処理を行うライン途中で何らかの不足事態により熱処理を停止した場合には、ライン全体を停止させる必要が生じる。
このように、連続炉においては、大量の部材を熱処理する場合には、熱処理を停止せざるを得ない状態が生じやすい。
【0004】
これに対して、特許文献1及び2には、主搬送室周りに複数の熱処理室を配置し、主搬送室を介して部材を各熱処理室に搬送する多室型燃焼装置が提案されている。
このような多室型燃焼装置によれば、各燃焼室において並行して部材を熱処理することができると共に、いずれかの熱処理室において長時間の熱処理を行う場合や何らかの不足事態によって熱処理を停止する場合であっても、他の熱処理室における熱処理を停止する必要がない。
したがって、特許文献1及び2において提案された多室型燃焼装置によれば、大量の部材を効率的に熱処理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−178535号公報
【特許文献2】特開2004−37077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、熱処理装置においては、加熱室における熱処理を短時間で効率的に行うために、予め部材を予熱する場合がある。
しかしながら、上述の多室型燃焼装置において、熱処理の予熱を行う場合には、予熱された部材が一旦主搬送室に渡され、主搬送室から各熱処理室に搬送される。このため、予熱された部材が主搬送室において冷却されてしまう。
また、通常、加熱室において加熱された部材は、冷却室において冷却されることとなる。そして、この場合においても、加熱された部材が一旦主搬送室に渡され、主搬送室から冷却室に搬送される。このため、加熱された部材が主搬送室において冷却されてしまう。
つまり、多室型燃焼装置においては、熱処理室間における部材の受渡しの際に部材が冷却される。このような受渡しの際の部材の冷却は、部材の熱処理サイクルに含まれるものではないため、熱処理によって求められる部材の特性が変化する虞がある。
【0007】
また、受渡しの際に部材が冷却されるということは、受渡しの際の環境が部材温度よりも低いことを示す。このため、部材の受渡し環境は、部材の受渡しの際に部材からの熱により高温化し、部材の受渡し後に低温化する。このため、高温化された際に気化ガスが流入すると、低温化された場合に気化ガスが固化して付着物となり、受渡し環境が汚染される虞がある。このような付着物は、次の部材の受渡しにおいて気化して当該部材に付着する虞がある。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、以下の点を目的とするものである。
(1)多室型熱処理装置において、熱処理室間における受渡しの際に熱処理対象物が冷却されることを抑制し、熱処理によって所望の特性の熱処理対象物を得る。
(2)多室型熱処理装置において、熱処理対象物の受渡し環境が汚染されることを抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0010】
第1の発明は、複数の熱処理室間にて熱処理対象物の受渡しを行う受渡し装置を備える多室型熱処理装置であって、上記受渡し装置が、上記熱処理室において加熱された上記熱処理対象物を保温する保温手段を備えるという構成を採用する。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記保温手段が、上記受渡し装置に収容された上記熱処理対象物を囲う断熱室と、該断熱室の内部に配置されるヒータとを備えるという構成を採用する。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記受渡し装置が上記熱処理対象物の搬送を行う搬送手段を備え、上記断熱室が、上記熱処理対処物の出入用に開口された開口領域を有すると共に上記搬送手段に固定される搬送手段固定部と、上記搬送手段の外部に配置されると共に上記搬送手段が待機位置とされた場合に上記搬送手段固定部の開口領域を塞ぐ蓋部とを備えるという構成を採用する。
【0013】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記搬送手段固定部が上記開口領域として、熱処理対象物の出入方向に開口された出入用開口領域を備え、上記蓋部として、上記搬送手段が待機位置とされた場合に上記出入用開口領域を塞ぐ出入方向蓋部を備えるという構成を採用する。
【0014】
第5の発明は、上記第3または第4の発明において、上記蓋部として、上記熱処理対象物が上記断熱室内に収容されていない場合に移動されて上記開口領域を塞ぐ移動蓋部を備えるという構成を採用する。
【0015】
第6の発明は、上記第3〜第5いずれかの発明において、上記搬送手段が待機位置である場合に上記ヒータと電気的に接続されると共に上記ヒータに給電する給電手段を備えるという構成を採用する。
【0016】
第7の発明は、上記第1〜第6いずれかの発明において、上記熱処理室として、加熱環境における上記熱処理対象物の予熱が行なわれる予熱室と、加熱環境における上記熱処理対象物の加熱処理が行われる複数の加熱室と、冷却環境における上記熱処理対象物の冷却処理が行われる冷却室とを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受渡し装置による熱処理対象物の受渡しの際に、保温手段によって上記熱処理室において加熱された上記熱処理対象物が保温される。したがって、本発明によれば、熱処理室間における受渡しの際に熱処理対象物が冷却されることを抑制し、熱処理によって所望の特性の熱処理対象物を得ることができる。
また、保温手段によって熱処理対象物の受渡し環境の低温化が防がれるため、気化ガスが固化することを抑制し、熱処理対象物の受渡し環境が汚染されることを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1におけるB−B線断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置が備える予熱装置をワークの出し入れ方向から見た断面図である。
【図5】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置が備える冷却装置の断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置が備える受渡し装置をワークの出し入れ方向から見た断面図である。
【図7】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置が備えるターンテーブル装置固定断熱部の上部を拡大した図である。
【図8】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置が備える支持部を下方から見た図である。
【図9】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置の運転例を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態における多室型熱処理装置の他の運転例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る多室型熱処理装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0020】
図1は、本実施形態の多室型熱処理装置1の概略構成を示す平面図である。また、図2は、図1におけるA−A線断面図である。また、図3は、図1におけるB−B線断面図である。
これらの図に示すように、本実施形態の多室型熱処理装置1は、予熱装置2と、複数の加熱装置3(31〜33)と、冷却装置4と、受渡し装置5とを備えている。
【0021】
予熱装置2は、本実施形態の多室型熱処理装置1に熱処理対象物であるワークXを装入する箇所として構成され、ワークXを加熱環境において予熱してから受渡し装置5に受け渡すものである。
図4は、予熱装置2をワークXの出入方向から見た断面図である。そして、当該図4及び図2に示すように、予熱装置2は、チャンバ2a(予熱室)と、搬入扉2bと、昇降部2cと、搬出扉2dと、昇降部2eと、断熱室2fと、床部2gと、ヒータ2hと、ファン2iと、モータ2jと、レール2kとを備えている。
【0022】
チャンバ2aは、内部において加熱環境におけるワークXの予熱が行われるものであり、略円筒形状を有している。そして、チャンバ2aの両側には、昇降部2cによって開閉可能とされた搬入扉2bと、昇降部2eによって開閉可能とされた搬出扉2dとが設置されている。
なお、チャンバ2aには不図示の真空ポンプと窒素ガス供給装置が接続されており、チャンバ2aの内部が窒素ガスによってパージ可能に構成されている。
【0023】
断熱室2fは、チャンバ2aの内部に配置されており、搬入扉2b及び搬出扉2dによって開閉される開口部を有している。
そして、当該断熱室2fの内部には、受け板と当該受け板を支えるパイプ形状の支持部材からなる床部2gが設置されており、ワークXを収納可能に構成されている。なお、床部2gは、後述する受渡し装置5が備えるフォーク5fが上下に通過可能とするために、ワークXの出入方向に延在する受け板部材が当該出入方向と直交する水平方向に間隔を空けて配列されて構成されている。
また、断熱室2fの内部には、ワークXの収納領域を囲ってヒータ2hが配設されている。
さらに断熱室2fの内部には、当該断熱室2fの内部を攪拌するファン2iが設置されている。そして、このファン2iは、チャンバ2aに固定されるモータ2jによって駆動される。
【0024】
レール2kは、後述する受渡し装置5の台車5dが走行するためのものであり、チャンバ2aの下方であって、搬出扉2d側に突出するように延在して敷設されている。
【0025】
加熱装置3は、受渡し装置5から渡されたワークXを加熱環境において加熱処理してから再度受渡し装置5に受け渡すものである。なお、本実施形態の多室型熱処理装置1は、図1に示すように、3つの加熱装置31〜33を有している。これらの加熱装置31〜33の構成は同一であるため、ここでの加熱装置3の説明は、図2を参照して加熱装置33の説明のみを行う。
【0026】
加熱装置3は、チャンバ3a(加熱室)と、搬入出扉3bと、昇降部3cと、断熱室3dと、床部3eと、ヒータ3fと、レール3gと、メンテナンス用扉3hとを備えている。
【0027】
チャンバ3aは、内部において加熱環境におけるワークXの加熱処理が行われるものであり、略円筒形状を有している。そして、チャンバ3aの一方側(受渡し装置5側)には、昇降部3cによって開閉可能とされた搬入出扉3bが設置されている。
なお、チャンバ2aにも不図示の真空ポンプと窒素ガス供給装置が接続されており、チャンバ3aの内部が窒素ガスによってパージ可能に構成されている。
【0028】
断熱室3dは、チャンバ3aの内部に配置されており、搬入出扉3bによって開閉される開口部を有している。
そして、当該断熱室3dの内部には、受け板と当該受け板を支えるパイプ形状の支持部材からなる床部3eが設置されており、ワークXを収納可能に構成されている。なお、床部3eは、後述する受渡し装置5が備えるフォーク5fが上下に通過可能とするために、ワークXの出入方向に延在する受け板部材が当該出入方向と直交する水平方向に間隔を空けて配列されて構成されている。
また、断熱室3dの内部には、ワークXの収納領域を囲ってヒータ3fが配設されている。
【0029】
レール3gは、後述する受渡し装置5の台車5dが走行するためのものであり、チャンバ3aの下方であって、搬入出扉3b側に突出するように延在して敷設されている。
また、チャンバ3aの他方側にはメンテナンス用扉3hが設置されており、当該メンテナンス用扉3hを開放することによって、チャンバ3aの内部がメンテナンス可能に構成されている。
【0030】
冷却装置4は、本実施形態の多室型熱処理装置1からワークXを抽出する箇所として構成され、受渡し装置5から渡されたワークXを冷却環境において冷却処理してから外部に抽出するものである。
図5は、冷却装置4の断面図である。この図に示すように、冷却装置4は、チャンバ4a(冷却室)と、搬出扉4bと、昇降部4cと、搬入扉4dと、昇降部4eと、整流室4fと、床部4gと、ファン4iと、モータ4jと、レール4kとを備えている。
【0031】
チャンバ4aは、内部において冷却環境におけるワークXの冷却処理が行われるものであり、略円筒形状を有している。そして、チャンバ4aの両側には、昇降部4cによって開閉可能とされた搬出扉4bと、昇降部4eによって開閉可能とされた搬入扉4dとが設置されている。
なお、チャンバ4aには不図示の真空ポンプと窒素ガス供給装置が接続されており、チャンバ4aの内部が窒素ガスによってパージ可能に構成されている。
【0032】
整流室4fは、チャンバ4aの内部に配置されており、搬出扉4b及び搬入扉4dによって開閉される開口部を有している。
そして、当該整流室4fの内部には、受け板と当該受け板を支えるパイプ形状の支持部材からなる床部4gが設置されており、ワークXを収納可能に構成されている。なお、床部4gは、後述する受渡し装置5が備えるフォーク5fが上下に通過可能とするために、ワークXの出入方向に延在する受け板部材が当該出入方向と直交する水平方向に間隔を空けて配列されて構成されている。
さらに整流室4fの内部には、当該整流室4fの内部を攪拌するファン4iが設置されている。そして、このファン4iは、チャンバ4aに固定されるモータ4jによって駆動される。
【0033】
レール4kは、後述する受渡し装置5の台車5dが走行するためのものであり、チャンバ4aの下方であって、搬入扉4d側に突出するように延在して敷設されている。
【0034】
受渡し装置5は、複数の熱処理室(予熱室、加熱室、冷却室)間においてワークXの受渡しを行うものであり、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、予熱室であるチャンバ2a内から加熱室であるチャンバ3a内へワークXを受渡し、加熱室であるチャンバ3a内から冷却室であるチャンバ4aへワークXを受け渡す。
【0035】
図6は、ワークXの出入方向から見た受渡し装置5の断面図である。そして、図2、図3及び図6に示すように、受渡し装置5は、チャンバ5aと、ターンテーブル装置5bと、レール5cと、台車5dと、昇降シリンダ5eと、フォーク5fと、支持脚5gと、ターンテーブル装置固定断熱部5h(搬送手段固定部)と、ヒータ5iと、出入方向用蓋部5j(蓋部)、熱電対5kと、電極パッド5lと、ガイド穴5mと、支持部5nと、電極棒5oと、ガイド棒5pと、昇降シリンダ5qと、収納室5rと、断熱材付移動蓋部5s(蓋部)と、移動部5tとを備えている。
【0036】
チャンバ5aは、ワークXの移動領域を囲うものであり、予熱装置2のチャンバ2a、加熱装置3のチャンバ3a、及び冷却装置4のチャンバ4aと接続されている。なお、チャンバ5aには不図示の真空ポンプと窒素ガス供給装置が接続されており、チャンバ5aの内部が窒素ガスによってパージ可能に構成されている。
【0037】
ターンテーブル装置5bは、自らの上に載置されるレール5cや台車5d等を水平面内において回転可能とするものであり、チャンバ5aの内部に収容されている。
レール5cは、ターンテーブル装置5b上に敷設されており、当該ターンテーブル装置5bによって回転されることによって、予熱装置2のレール2k、加熱装置3のレール3g、及び冷却装置4のレール4kと接続可能とされている。
【0038】
台車5dは、レール5c上を走行可能に構成されており、またレール4kと接続されたレール2k、レール3gあるいはレール4k上も走行可能に構成されている。
昇降シリンダ5eは、台車5d上に設置されており、フォーク5fの昇降を行うものである。
フォーク5fは、レール5cと平行に延在されており、自らの上にワークXを載置するものである。
【0039】
そして、フォーク5f上にワークXが載置された状態で、ターンテーブル装置5b、昇降シリンダ5e及び台車5dが駆動されることによってワークXが搬送される。つまり、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、ターンテーブル装置5b、昇降シリンダ5e及び台車5dによって本発明の搬送手段が構成されている。
【0040】
支持脚5gは、ターンテーブル装置固定断熱部5hをフォーク5fの上方で支持するものであり、ターンテーブル装置5b上に設置されている。
【0041】
ターンテーブル装置固定断熱部5hは、自らの内部へのワークXの出入用に開口された開口領域を有する箱型形状の断熱部材であり、支持脚5gを解してターンテーブル装置5bに固定されている。
そして、本実施形態において、ターンテーブル装置固定断熱部5hは、ワークX自体を自らの内部へ出入可能とするために、上記開口領域として、ワークXの出入方向に開口された出入用開口領域5haを有する。また、ターンテーブル装置固定断熱部5hは、フォーク5f上に載置されたワークXを出入可能とするために、底部に相当する領域に底部開口領域5hbを有している。つまり、ターンテーブル装置固定断熱部5hは、フォーク5fの先端側の側壁と床壁とが取り払われた箱型形状を有している。
【0042】
ヒータ5iは、ターンテーブル装置固定断熱部5h内に設置されており、ターンテーブル装置固定断熱部5hに収容されたワークXを囲うように配設されている。
【0043】
出入方向用蓋部5jは、ターンテーブル装置固定断熱部5hの出入用開口領域5haを塞ぐ断熱部材であり、ターンテーブル装置5bの回転位置が待機位置である場合に出入用開口領域5haを閉じられるようにチャンバ5aの内壁に固定されている。
なお、本実施形態においてターンテーブル装置5bの待機位置とは、図1に示すように、出入用開口領域5haが収納室5rに向く位置である。
この出入方向用蓋部5jは、チャンバ5aの内壁に固定されており、ターンテーブル装置5b及び昇降シリンダ5eが移動した場合であっても、その空間位置が固定されている。そして、当該出入方向用蓋部5jに対して、熱電対5kが設置されている。この熱電対5kは、ターンテーブル装置固定断熱部5h内部の温度を測定するものである。
【0044】
また、図7の拡大図に示すように、ターンテーブル装置固定断熱部5hの上部には、ヒータ5iの電極パッド5l及び、ガイド棒5pを案内するためのガイド穴5mが複数配置されている。
そして、図7及び図3に示すように、ターンテーブル装置5bが待機位置とされた場合におけるターンテーブル装置固定断熱部5hの上方には、昇降シリンダ5qによって昇降可能な支持部5nと、当該支持部5nに設置される電極棒5o及びガイド棒5pとが設置されている。なお、図8に示すように、支持部5nには、正負の電極棒5oが設置され、当該電極棒5oを囲う三角形の頂点にガイド棒5pが設置されている。
なお、ガイド穴5mも、正負の電極パッド5lを囲う三角形の頂点に配置されている。また、電極棒5oは、電源Aと電気的接続されている。そして、ターンテーブル装置5bが待機位置である状態で、昇降シリンダ5qによって支持部5nを下降させて電極棒5oを電極パッド5lと接触させることによって、ヒータ5iに対して給電が可能とされている。
つまり、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、電極棒5o、昇降シリンダ5q及び電源Aによって本発明の給電手段が構成されている。
【0045】
図1及び図3に示すように、収納室5rは、チャンバ5aから水平方向に突設されており、上述のようにターンテーブル装置5bが待機位置である場合に、ターンテーブル装置固定断熱部5hの出入用開口領域5haが向く方向に延在して設置されている。
断熱材付移動蓋部5sは、ターンテーブル装置5bが待機位置であり、かつ、ターンテーブル装置固定断熱部5h内にワークXが収容されていない場合に、ターンテーブル装置固定断熱部5hの底部開口領域5hbを塞ぐ断熱部材である。そして、断熱材付移動蓋部5sは、ターンテーブル装置固定断熱部5hの底部開口領域5hbを塞がない場合には、収納室5rに収納される。
移動部5tは、断熱材付移動蓋部5sを、収納室5rと底部開口領域5hbを塞ぐ位置との間で移動させるものである。
【0046】
なお、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、ターンテーブル装置固定断熱部5hと、出入方向用蓋部5jと、断熱材付移動蓋部5sとによって、受渡し装置5に収容されたワークXを囲う断熱室が形成される。
さらに、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、上述のようにターンテーブル装置固定断熱部5hと、出入方向用蓋部5jと、断熱材付移動蓋部5sとによって形成される断熱室と、該断熱室の内部に配置されるヒータ5iとによって、予熱装置2によって予熱されたワークXを保温する。つまり、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、ターンテーブル装置固定断熱部5hと、出入方向用蓋部5jと、断熱材付移動蓋部5sと、ヒータ5iとによって、本発明の保温手段が構成される。
【0047】
次に、このように構成された本実施形態の多室型熱処理装置1の動作について説明する。なお、上述した本実施形態の多室型熱処理装置1の動作は、各構成要素に電気的接続された不図示の制御装置によって制御される。このため、以下の動作説明において、特に断りがない場合には、動作の主体者は制御装置である。また、制御装置は、操作盤等を介して入力される業者の指示の下、動作の制御を行う。
【0048】
まず、ワークXが装入されていない本実施形態の多室型熱処理装置1に対して、ロウ材の配置されたワークXが装入される。
具体的には、予熱装置2の搬入扉2bが昇降部2cによって上昇されてチャンバ2a及び断熱室2fが開口された状態とされる。そして、作業者が、断熱室2f内に設置された床部2g上にワークXを載置することによってワークXの装入が行われる。
【0049】
続いて、ワークXが予熱装置2において脱気処理される。より詳細には、真空ポンプによってチャンバ2a内が真空雰囲気とされることによってワークXの脱気処理が行われる。
そして、窒素ガス供給装置によってチャンバ2a内に窒素ガスが供給されることによってチャンバ2a内が不活性雰囲気とされた後、ヒータ2hに給電がなされることによって断熱室2f内部の温度が、ロウ材の融点以下の温度である予熱温度とされ、これによって加熱雰囲気においてワークXの予熱が行われる。
【0050】
続いて、予熱が終了すると、ワークXが受渡し装置5によって予熱装置2から搬出される。より詳細には、レール5cとレール2kとが接続されるようにターンテーブル装置5bが回転され、台車5dがレール5c上及びレール2k上を走行し、フォーク5fが床部2gに載置されたワークXの下方に差し込まれる。次に昇降シリンダ5eがフォーク5fを上昇させることによってフォーク5f上にワークXが載置される。次に台車5dが元の位置まで走行することによって、フォーク5f上に載置されたワークXがターンテーブル装置固定断熱部5h内に収容され、これによってワークXが予熱装置2のチャンバ2a内から搬出される。
【0051】
ここで、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、予熱装置2からワークXを搬出する前に、ターンテーブル装置5bが待機位置とされ、ヒータ5iに給電がなされる。また、出入方向用蓋部5jによってターンテーブル装置固定断熱部5hの出入用開口領域5haが閉じられ、断熱材付移動蓋部5sによってターンテーブル装置固定断熱部5hの底部開口領域5hbが閉じられる。これによって、ターンテーブル装置固定断熱部5hの内部が上記予熱温度と同程度まで加熱されている。
したがって、チャンバ2a内から搬出されて、ターンテーブル装置固定断熱部5hに収容されたワークXは、受渡し装置5において冷却されることが抑制される。
なお、ターンテーブル装置固定断熱部5h内の温度は、熱電対5kからの出力に基づいて予熱温度に制御される。
【0052】
続いて、受渡し装置5によって搬出されたワークXは、加熱装置3に搬入される。より詳細には、ターンテーブル装置5bが、レール5cが加熱装置3のレール3gに接続されるように回転される。次に昇降部3cによって搬入出扉3bが上昇されると共に台車5dがレール5c上及びレール3g上を走行し、フォーク5f上に載置されたワークXがチャンバ3a内搬入される。次に昇降シリンダ5eによってフォーク5fが下降され、ワークXがフォーク5f上から床部3e上に載置される。次に台車5dが元の位置に戻されると共に、搬入出扉3bが閉じられることによって、ワークXが加熱装置31に搬入される。
【0053】
続いて、加熱装置3に搬入されたワークXは、加熱装置3において加熱雰囲気で加熱処理される。
より詳細には、ヒータ3fによってワークXがロウ材の融点以上に加熱されることによってロウ材が溶融され、再びロウ材の融点以下とされることによってロウ材が固着される。
【0054】
なお、加熱装置3においてワークXが加熱処理されている間に、次のワークXが予熱装置2に装入されて予熱される。このため、受渡し装置5は、予熱装置2に予熱が終了したワークXが存在する場合には、他の加熱装置3に予熱装置2内のワークXを受け渡す。ただし、受渡し装置5は、加熱装置3に受け渡すワークXが存在しない場合には、ターンテーブル装置5bを待機位置とし、ヒータ5iへの給電を行うと共に、出入用開口領域5haを出入方向用蓋部5jで閉じ、底部開口領域5hbを断熱材付移動蓋部5sで閉じることによって、ターンテーブル装置固定断熱部5hの内部を予熱温度に維持する。
【0055】
続いて、加熱装置3において加熱処理されたワークXは、受渡し装置5によって搬出される。より詳細には、ターンテーブル装置5bが、レール5cが加熱装置3のレール3gに接続されるように回転される。次に昇降部3cによって搬入出扉3bが上昇されると共に台車5dがレール5c上及びレール3g上を走行し、フォーク5fがワークXの下方に差し入れられる。そして、昇降シリンダ5eによってフォーク5fが上昇され、ワークXが床部3eからフォーク5f上に載置される。次に台車5dが元の位置に戻されると共に、搬入出扉3bが閉じられることによって、ワークXが加熱装置3に搬出される。
【0056】
ここで、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、加熱装置3からワークXを搬出する前に、ターンテーブル装置5bが待機位置とされ、ヒータ5iに給電がなされる。また、出入方向用蓋部5jによってターンテーブル装置固定断熱部5hの出入用開口領域5haが閉じられ、断熱材付移動蓋部5sによってターンテーブル装置固定断熱部5hの底部開口領域5hbが閉じられる。これによって、ターンテーブル装置固定断熱部5hの内部が上記予熱温度と同程度まで加熱されている。
したがって、チャンバ3a内から搬出されて、ターンテーブル装置固定断熱部5hに収容されたワークXは、受渡し装置5において冷却されることが抑制される。
【0057】
続いて、受渡し装置5に加熱装置3から搬出されたワークXは、冷却装置4に搬入される。より詳細には、ターンテーブル装置5bが、レール5cが冷却装置4のレール4kに接続されるように回転される。次に昇降部4eによって搬入扉4dが上昇されると共に台車5dがレール5c上及びレール4k上を走行し、フォーク5f上に載置されたワークXがチャンバ4a内搬入される。次に昇降シリンダ5eによってフォーク5fが下降され、ワークXがフォーク5f上から床部4g上に載置される。次に台車5dが元の位置に戻されると共に、搬入扉4dが閉じられることによって、ワークXが冷却装置4に搬入される。
【0058】
続いて、冷却装置4に搬入されたワークXは、冷却装置4において冷却環境で冷却処理される。
より詳細には、冷却ガスがチャンバ4a内に供給され、このチャンバ4a内にワークXが載置されることによってワークXが冷却される。
【0059】
そして、最後に冷却装置4において冷却されたワークXが本実施形態の多室型熱処理装置1から抽出される。
より詳細には、昇降部4cによって搬出扉4bが上昇されて開けられ、これによって露出したワークXが冷却装置4の外部に搬出されることによって、ワークXの抽出が行われる。
【0060】
なお、複数のワークX(X1〜X10)を多室型熱処理装置1によって熱処理する場合の運転スケジュールの一例を図9及び図10に示す。
図9及び図10に示すように、本実施形態の多室型熱処理装置1においては、複数のワークXに対する熱処理が並行して行われる。例えば、いずれかのワークXが加熱装置3において加熱処理されている間に、他のワークXを予熱あるいは冷却処理することができる。
【0061】
本実施形態の多室型熱処理装置1によれば、受渡し装置5による熱処理対象物の受渡しの際に、ターンテーブル装置固定断熱部5hと、出入方向用蓋部5jと、断熱材付移動蓋部5sと、ヒータ5iとによって、予熱装置2のチャンバ2a内あるいは加熱装置3のチャンバ3a内において加熱されたワークXが保温される。したがって、本実施形態の多室型熱処理装置1によれば、予熱装置2のチャンバ2aから加熱装置3のチャンバ3aへの受渡し、加熱装置3のチャンバ3aから冷却装置4のチャンバ4aへの受渡しの際にワークXが冷却されることを抑制し、熱処理によって所望の特性のワークXを得ることができる。
また、ターンテーブル装置固定断熱部5hと、出入方向用蓋部5jと、断熱材付移動蓋部5sと、ヒータ5iとによって、ワークXの受渡し環境の低温化が防がれるため、気化ガスが固化することを抑制し、ワークXの受渡し環境が汚染されることを抑制することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態の多室型熱処理装置1によれば、ターンテーブル装置固定断熱部5hが、支持脚5gを解してターンテーブル装置5bに固定される構成を採用する。
このため、ターンテーブル装置固定断熱部5hが常にフォーク5fと共に回転され、フォーク5fを出し入れすることによって容易にワークXをターンテーブル装置固定断熱部5hに出し入れすることができる。
また、このような構成を採用することによって、ターンテーブル装置固定断熱部5hにワークXを出し入れする際の移動量を少なくすることができ、装置の小型化を図ることが可能となる。
【0063】
また、本実施形態の多室型熱処理装置1によれば、ターンテーブル装置5bが待機位置とされた場合にターンテーブル装置固定断熱部5hを塞ぐ蓋部(出入方向用蓋部5j、断熱材付移動蓋部5s)を備える構成を採用した。
このような構成を採用することによって、待機状態においてターンテーブル装置固定断熱部5hから熱が逃げることを抑制し、ターンテーブル装置固定断熱部5hにおける保温効率を高めることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態の多室型熱処理装置1によれば、ターンテーブル装置5bが待機位置である場合のみにヒータ5iに対して給電が行われる。
このため、常にヒータ5iに対して給電を行う必要がなく、配線の取り回しが容易となる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0066】
例えば、上記実施形態においては、熱処理室として、1つの予熱室と、1つの冷却室と、3つの加熱室を備える構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、予熱室、冷却室、加熱室の数を変更することも可能であり、また異なる種類の熱処理室を設けることも可能である。
例えば、受渡し装置5の上下に予熱室と冷却室とを設け、受渡し装置5の周囲に5つの加熱室を設置しても良い。また、熱処理室以外の処理室(例えば脱気室等)をさらに設置しても良い。
ただし、この場合には、受渡し装置5におけるワークXの搬送機構も、上記変更に応じて変更されることとなる。つまり、上記実施形態における受渡し装置5の構成は、一例であり、他の構成を採用することもできる。
【0067】
また、上記実施形態においては、保温手段として、ターンテーブル装置固定断熱部5hと、出入方向用蓋部5jと、断熱材付移動蓋部5sと、ヒータ5iを備える構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、チャンバ5aの内部全体を予熱温度に加熱するような加熱手段を上記保温手段として備えることも可能である。
【0068】
また、予熱装置2から加熱装置3にワークXを移動する際に、先に待機位置でターンテーブル装置固定断熱部5h内を予熱している場合には、ターンテーブル装置5bを再度、待機位置に止まらずにワークXを受け渡しても良い。
【符号の説明】
【0069】
1……多室型熱処理装置、2……予熱装置、2a……チャンバ(予熱室,熱処理室)、3(31〜33)……加熱装置、3a……チャンバ(加熱室,熱処理室)、4……冷却装置、4a……チャンバ(冷却室,熱処理室)、5……受渡し装置、5a……チャンバ、5b……ターンテーブル装置、5c……レール、5d……台車、5e……昇降シリンダ、5f……フォーク、5g……支持脚、5h……ターンテーブル装置固定断熱部(搬送手段固定部)、5ha……出入用開口領域(開口領域)、5hb……底部開口領域(開口領域)、5i……ヒータ、5j……出入方向用蓋部、5k……熱電対、5l……電極パッド、5m……ガイド孔、5n……支持部、5o……電極棒、5p……ガイド棒、5q……昇降シリンダ、5r……収納室、5s……移動蓋部(蓋部)、5t……移動部、A……電源、X……ワーク(熱処理対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱処理室間にて熱処理対象物の受渡しを行う受渡し装置を備える多室型熱処理装置であって、
前記受渡し装置は、前記予熱室あるいは前記熱処理室において加熱された前記熱処理対象物を保温する保温手段を備えることを特徴とする多室型熱処理装置。
【請求項2】
前記保温手段は、前記受渡し装置に収容された前記熱処理対象物を囲う断熱室と、該断熱室の内部に配置されるヒータとを備えることを特徴とする請求項1記載の多室型熱処理装置。
【請求項3】
前記受渡し装置が前記熱処理対象物の搬送を行う搬送手段を備え、
前記断熱室は、前記熱処理対処物の出入用に開口された開口領域を有すると共に前記搬送手段に固定される搬送手段固定部と、前記搬送手段の外部に配置されると共に前記搬送手段が待機位置とされた場合に前記搬送手段固定部の開口領域を塞ぐ蓋部とを備える
ことを特徴とする請求項2記載の多室型熱処理装置。
【請求項4】
前記搬送手段固定部が前記開口領域として、熱処理対象物の出入方向に開口された出入用開口領域を備え、
前記蓋部として、前記搬送手段が待機位置とされた場合に前記出入用開口領域を塞ぐ出入方向蓋部を備える
ことを特徴とする請求項3記載の多室型熱処理装置。
【請求項5】
前記蓋部として、前記熱処理対象物が前記断熱室内に収容されていない場合に移動されて前記開口領域を塞ぐ移動蓋部を備えることを特徴とする請求項3または4記載の多室型熱処理装置。
【請求項6】
前記搬送手段が待機位置である場合に前記ヒータと電気的に接続されると共に前記ヒータに給電する給電手段を備えることを特徴とする請求項3〜5いずれかに記載の多室型熱処理装置。
【請求項7】
前記熱処理室として、加熱環境における前記熱処理対象物の予熱が行なわれる予熱室と、加熱環境における前記熱処理対象物の加熱処理が行われる複数の加熱室と、冷却環境における前記熱処理対象物の冷却処理が行われる冷却室とを備えることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の多室型熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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