説明

多層かつ複合的な耐腐食性コーティング

金属のための耐腐食性コーティング、およびそれらを腐食を受けやすい金属の表面を保護するために用いるための方法を記述し、ここでコーティングはバインダーポリマーを含む第1ドメインおよび腐食応答剤を含む第2ドメインを含み、第1ドメインは第2ドメインと直接接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許および特許出願への相互参照
本発明は、海軍航空システム司令部(Naval Air Systems Command)(NAVAIR)により落札された契約落札N00421−05−C−0042の下で、政府の支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本出願は、2007年3月5日に出願された米国特許仮出願第60/904,965号の非仮出願(non−provisional)である。
本発明の主題は、同時係属中の同一出願人による2003年6月4日に出願された米国特許出願第10/454,347号と、2007年3月5日に出願された米国特許仮出願第60/904,925号の非仮出願として本出願と同日に出願された、代理人整理番号19506/09104を有する米国非仮出願とに関する。
【0003】
本発明は、腐食を受けやすい金属の表面のための耐腐食性コーティングに関し、より詳細には、減少された量のクロメートを用いた、またはクロメートを含まない耐腐食性コーティングに関する。
【背景技術】
【0004】
アルミニウムおよびアルミニウム合金を腐食から保護することは、幅広い興味の対象であるが、航空機用途において、それは決定的に重要となる。2024や7075などのアルミニウム合金は、航空機事業に用いられる典型的なタイプであり、これらの合金は特徴として銅を含有する。銅の存在は合金に都合のよい強度および他の物理的特性を提供するけれども、それにも関わらず、銅は腐食過程における重要な要素である酸素還元反応(ORR)を触媒する。
【0005】
航空機のアルミニウムを腐食から保護するための一般的な方法は、むき出しのアルミニウムへの化成コーティングの塗布と、それに続くプライマーおよびトップコートの塗布を伴う。トップコートは最終的な色および表面の質感(texture)を提供し、アンダーコートのための封止材として役立つ。しかしながら、化成コーティングおよびプライマーが金属のための耐腐食性の大部分を提供する。
【0006】
六価クロムを含有するクロム化成コーティングは、アルミニウムのための化成コーティングとしての使用において、現在標準的である。一般的な六価クロム化成コーティングは米軍用規格Mil−C−5541を満たす。
【0007】
現在の標準的なプライマーは、米軍用規格Mil−PRF−23377を満たすクロメート入り(chromated)エポキシプライマーである。このタイプのプライマーの例には、Deft 02−Y−40AおよびHentzen 16708TEP/16709CEHが含まれる。
【0008】
航空機における使用のための一般的なトップコートは、米軍用規格MiI−PRF−85285を満たす。例には、Deft 03−GY−321およびDeft 99−GY−が含まれる。
【発明の概要】
【0009】
従って、簡潔に言えば、本発明は腐食を受けやすい金属の表面のための新規な耐腐食性コーティングを目的としており、そのコーティングは:第1ドメインに主に位置するバインダーポリマー;および第1ドメインと直接接触する第2ドメインに主に位置する腐食応答剤を含む。腐食応答剤は:a)メルカプト置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類、b)チオ置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類、c)有機ホスホン酸のダイマー、トリマー、オリゴマー、もしくはポリマー、またはそれらの塩もしくはエステル、d)a)、b)、またはc)のいずれかの組み合わせ;e)メルカプト置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、f)チオ置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、ならびにg)a)〜f)のいずれかの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0010】
本発明は金属の表面を腐食から保護する新規な方法もまた目的としており、その方法は:硬化してバインダーポリマーを含む第1ドメインを形成する液体配合物を金属表面に塗布すること;および硬化して腐食応答剤を含む第2ドメインを形成する液体配合物を塗布すること、を含む。腐食応答剤は:a)メルカプト置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類、b)チオ置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類、c)有機ホスホン酸のダイマー、トリマー、オリゴマー、もしくはポリマー、またはそれらの塩もしくはエステル、d)a)、b)、またはc)のいずれかの組み合わせ;e)メルカプト置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、f)チオ置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、ならびにg)a)〜f)のいずれかの組み合わせからなる群から選択することができる。硬化してバインダーポリマーを含む第1ドメインを形成する液体配合物の塗布および硬化して第2ドメインを形成する液体配合物の塗布は、任意に順次または同時に行う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本コーティングの2種類の実施態様を図示しており、図1(A)においては、金属の表面は第1ドメイン層で被覆されており、第1ドメイン層を覆う第2ドメイン層を有し、図1(B)においては、第1ドメインおよび第2ドメインに属する複数の領域が単一の層を形成している;
【図2A】図2Aは、本発明の多層コーティングのいくつかの実施態様に関するコーティングスキームを図示している;
【図2B】図2Bは、本発明の多層コーティングのいくつかの実施態様に関するコーティングスキームを図示している;
【図3】図3は、(120時間の)塩スプレーの結果と、本発明の実施態様である2種類のBAM−PPVコーティングに関するコーティングスキームを示す;
【図4】図4は、本発明の2種類の最高性能を有する層状のコーティングの1つに関するコーティングスキームを図示している;
【図5】図5は、中和されたZn(DMcT)を含有する層状コーティングを図示している;
【図6】図6は、ポリDMcTを含有する層状コーティングスキームを図示している;
【図7】図7は、多数のディスクリート層のスプレー処理のための2つのスプレーガンの機構を示しており、各ガンは平行に向けられておりセパレーターが取り付けられている;
【図8】図8は、プライマーおよび抑制剤の混合スプレーを塗布するための2つのスプレーガンの機構を示しており、ここでセパレーターは取り除かれており、各ガンは対象の金属の表面で、またはその手前で重なるスプレーパターンを与えるように内側に向けられている;
【図9】図9は、湿式テープの接着性に優れた層状コーティングの系を示す;
【図10】図10は、BAM−PPVで前処理された2024−T3アルミニウム合金上に塗布された改質Zn(DMcT)抑制剤を含有するプライマーを有する金属片に関して、塩スプレーにさらした後の罫書き線の黒ずみを比較して示す;
【図11】図11(a)、11(b)および11(c)は、塩スプレーにさらして1500時間後の罫書き線の光学顕微鏡写真であり、点食は見られず、罫書き線(図10参照)において見られる色は、金属上に形成したコーティングと関係がある可能性がある;
【図12】図12は、ポリDMcTのサンプル#1の赤外スペクトルを示す;
【図13】図13は、図12のスペクトルに関して用いたサンプルとは異なる、ポリDMcTのサンプル#2の赤外スペクトルを示す;
【図14】図14は、RDE実験のための実験機構を示し、コーティングからの抑制剤の放出を評価するために用いる電気化学セルを図式的に示す;
【図15】図15は、クロメートで化成被覆し、DMcTと接触させたアルミニウムに関するRDE実験についての電流対時間の代表的なプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に従うと、腐食を受けやすい金属は、腐食応答剤およびバインダーポリマーを含み、これらの2種類の構成物を実質的に分かれたドメイン中に維持しているコーティングを塗布することによって、腐食に対して保護することができることが分かった。このコーティングは、よく混合された配合物中における同一の構成物を有するコーティングと比較して、かなり改善された腐食保護を実証した。さらに、新規なコーティングは接着品質および堅牢性を保持している。
【0013】
コーティングの腐食保護作用を提供する薬剤が腐食応答剤である場合、下記で論じるように、コーティングは完全にまたは実質的にクロム(VI)を含まないように作ることができ、それでもなお非常に優れた腐食保護品質を提供する。
【0014】
一の実施態様において、新規なコーティングはクロム化成被覆を有する金属表面に塗布される。腐食保護コーティングの当業者によって理解されているように、一般的なクロム腐食保護の系には、金属表面上に直接塗布されるクロム化成被覆(CCC)、およびCCCの上に塗布されるクロムを含有するプライマーが含まれる。両方のコーティングが有毒な形態のクロムであるCr(VI)を含有するけれども、CCCはコーティングの系の全クロムのわずかな部分のみ(しばしばたった約5%)を含有し、一方でプライマーはクロムの大部分(しばしば95%ほど)を含有することが普通である。従って、Cr(VI)を含有するプライマーを本発明のクロムを含まないプライマーで置き換えることにより、新規なコーティングをCCCの上に塗布した場合でさえ、コーティングの系のクロム含有量が非常に大きく減少する。
【0015】
しかし、新規なコーティングはクロムを含まない化成被覆、例えばCurrents,60−62,Spring2005においてAnderson,N.およびP.Zarrasにより記述されたポリ[ビス(2,5−(N,N,N’,N’−テトラアルキル)アミン)−1,4−フェニレンビニレン](BAMPPV)の化成被覆の上に塗布することができることも分かっている。この実施態様は非常に優れた腐食保護性を提供するクロムを含まないコーティングの系を提供する。
【0016】
発明者らは、腐食応答剤を含む新規なコーティングをCCCの上に塗布した場合、腐食応答剤を含有するドメインはCCCとの接触から、好ましくはバインダーポリマーを含有するドメインによって隔てられることが好ましいことを見出した。驚くべきことに、発明者らは腐食応答剤をクロム(VI)との接触から隔離することにより、クロム(VI)のクロム(III)への還元および腐食応答剤の酸化を防ぎ、または最小限にし、それにより2種類の構成物の間の化学的相互作用を低減させ、または防ぎ、それぞれの腐食保護品質を維持することを見出した。
【0017】
本コーティングは、腐食を防ぎ、または低減するために、酸化腐食を受けやすいあらゆる金属の表面に都合よく塗布することができる。特に、本コーティングは鉄、鋼鉄およびアルミニウムの保護、とりわけ銅を含有するアルミニウム合金にとって有用である。新規なコーティングのいくつかの実施態様は、2024および7075などのアルミニウム合金への本コーティングの塗布が、塩スプレー環境における腐食に対して、一般的なクロムコーティングにより提供される保護と同等か、またはそれよりも優れた保護を提供したことを示している。
【0018】
本コーティングは、バインダーポリマーを含有する第1ドメインおよび腐食応答剤を含有する第2ドメインを含む。第1ドメインは第2ドメインと直接接触していることが好ましい。本明細書で用いられる用語“ドメイン”は、固体のコーティングの化学的に異なる部分または領域を意味する。例として、本コーティングにおいて、第1ドメインおよび第2ドメインは、金属の表面上で一方が他方の上に塗布されて多層コーティングを形成する層であっても良い。第1ドメインの層は第2ドメインの層と接触し、必要な場合には、より多くの層が交互に順次続くことができる。さらに、バインダーポリマーの層に腐食応答剤のいくつかの層が続き、それらが次いでバインダーポリマーの層で覆われることができる多層コーティングが存在し得る。
【0019】
他の例として、第1ドメインおよび第2ドメインは隣接し、または重なり合っている点または小滴として塗布されて単一の複合的な層を形成することができ、例えばこれは金属の表面との接触点、またはその手前で重なるパターンを有する2つの異なるスプレーによる小滴から得られる。第1ドメインを形成するある物質のスプレーは第2ドメインを形成する物質のスプレーと重なり合い、対象の表面上で単一の層の複合的なコーティングという結果をもたらすことができる。
【0020】
本コーティングは腐食保護、柔軟性、接着および耐久性の望ましい品質を提供する任意の厚さで塗布することができる。いくつかの実施態様において、コーティングの厚さは約0.001mmから約0.2mmまで、または約0.01mmから約0.1mmまで、または約0.015mmから約0.025mmまでである。
【0021】
本コーティングの第1ドメインにおいては、バインダーポリマーが主であり、少なくとも約50重量%の量で存在する。いくつかの実施態様において、全て第1ドメインの重量を基準として、第1ドメインはバインダーポリマーを少なくとも約60%、または70%、または75%、または80%、または85%、または90%、または95%、またさらには実質的に100%の量で含むことができる。
【0022】
本コーティングのバインダーポリマーは任意のポリマー、コポリマー、または異なるポリマー類の混合物であっても良い。このポリマーは熱可塑性物質または熱硬化性物質であっても良い。本発明におけるバインダーポリマーとして有用なポリマー類には、フェノール樹脂類、アルキド樹脂類、アミノプラスト樹脂類、ビニルアルキド類、エポキシアルキド類、シリコンアルキド類、ウラルキド類、エポキシ樹脂類、コールタールエポキシ類、ウレタン樹脂類、ポリウレタン類、不飽和ポリエステル樹脂類、シリコン類、酢酸ビニル類、ビニルアクリル類、アクリル樹脂類、フェノール類、エポキシフェノール類、ビニル樹脂類、ポリイミド類、不飽和オレフィン樹脂類、フッ化オレフィン樹脂類、架橋結合可能なスチレン樹脂類、架橋結合可能なポリアミド樹脂類、ゴム前駆体、エラストマー前駆体、イオノマー類、それらの混合物および誘導体、およびそれらの架橋剤との混合物が含まれる。
【0023】
本発明の好ましい実施態様において、バインダーポリマーは、エポキシ樹脂類、ポリウレタン類、不飽和ポリエステル類、シリコン類、フェノール類およびエポキシフェノール樹脂類などの架橋結合可能なポリマー(熱硬化性物質)である。典型的な架橋結合可能な樹脂類には、脂肪族アミン硬化エポキシ類、ポリアミドエポキシ、ポリアミンのエポキシとの付加物、ケリミン(kerimine)エポキシコーティング、芳香族アミン硬化エポキシ類、シリコン改質エポキシ樹脂類、エポキシフェノール性コーティング、エポキシウレタンコーティング、コールタールエポキシ類、油で改質されたポリウレタン類、湿気硬化ポリウレタン類、ブロックウレタン類、2成分ポリウレタン類、脂肪族イソシアネート硬化ポリウレタン類、ポリビニルアセタール類およびそれらと同様のもの、イオノマー類、フッ化オレフィン樹脂類、かかる樹脂類の混合物、かかる樹脂類の塩基性もしくは酸性の水性分散液、またはその樹脂類の水性乳濁液、ならびにそれらと同様のものが含まれる。
【0024】
これらのポリマー類を製造する方法は既知であるか、またはポリマーの材料が商業的に入手可能である。コポリマーの形態で提供するといった、様々な修飾がポリマー類になされてよいことは理解されるべきである。バインダーポリマーは水性ベースでも、または溶媒ベースであっても良く、放射硬化、熱による硬化、溶媒の除去による硬化、または触媒もしくは促進剤の作用による硬化がなされたものであっても良い。
【0025】
バインダーポリマーは固有導電性ポリマー(ICP)であっても良く、またはそれを含むことができる。本明細書で用いられる“固有導電性ポリマー”は、そのポリマーの少なくとも1つの原子価状態において電流を伝導することのできるあらゆるポリマーを意味する。通常、固有導電性ポリマー類は多共役Π電子系を有する有機ポリマー類である。本発明と関連する使用に適した固有導電性ポリマー類の例にはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、例えばポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)およびポリ−(3−オクチルチオフェン)などのポリ(3−アルキル−チオフェン類)、ポリイソチアナフテン、ポリ−(3−チエニルメチルアセテート)、ポリジアセチレン、ポリアセチレン、ポリキノリン、ポリヘテロアリーレンビニレン、ここでヘテロアリーレン基はチオフェン、フランまたはピロールであっても良い、ポリ−(3−チエニルエチルアセテート)、および同様のもの、ならびにそれらの誘導体、コポリマーおよび混合物が含まれる。いくつかの固有導電性ポリマー類は自然に電気伝導特性を示すが、一方で他のものはドープ(dope)またはチャージ(charge)して適切な原子価状態としなければならない。ICP類は通常は様々な原子価状態で存在し、電気化学反応により様々な状態に可逆的に変換される。例えば、ポリアニリンは、還元状態(ロイコエメラルジン(leucoemeraldine))、部分酸化状態(エメラルジン(emeraldine))、および完全酸化状態(ペルニグラニリン(pernigraniline))などの数多くの原子価状態で存在することができる。ポリアニリンはそのエメラルジン形態(+2電子)において最も伝導性である。ポリアニリンのこの部分酸化状態は、ポリアニリンを適切なドーパント(dopant)でドープしてポリマーの電気伝導性を高めることによって形成することができる。適切なドーパントの例には、テトラシアノエチレン(TCNE)、硝酸亜鉛、p−トルエンスルホン酸(PTSA)、例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどのメルカプト置換有機化合物、またはいずれかの適切な鉱酸もしくは有機酸が含まれる。好ましい実施態様において、ICPはポリアニリンである。
【0026】
バインダーポリマーに加えて、第1ドメインは他の材料を含有することができる。任意の可塑剤、着色剤、硬化触媒、残留モノマー、界面活性剤、または第1ドメインに有用な特性を付加する、もしくは少なくとも第1ドメインの機能性を低減しない任意の他の材料を、ポリマー配合の当業者に既知の量で第1ドメインに含ませることができる。
【0027】
第1ドメインは少量の腐食応答剤も含有することができる。しかし、第1ドメインは好ましくは約10重量%を超えない腐食応答剤を含有し、5重量%、または3重量%、または1重量%を超えないことが好ましい。第1ドメインは実質的に腐食応答剤を含まないことができる。
【0028】
本発明において、第1ドメインは任意のやり方で形成されてよい。1つの有用な方法において、第1ドメインは、硬化して第1ドメインを形成する液体配合物を保護される材料に対して塗布することにより形成される。液体配合物は溶媒を含まないことができ、または溶媒を含有することができる。配合物は水性ベース、有機性ベース、またはその2つの混合物であっても良い。一般に、配合物は、溶媒と共に、または溶媒無しで、第1ドメインの構成物を液体溶液、乳濁液、微乳濁液(micro−emulsion)、分散液、または混合物中に含有する。液体配合物を表面に対して、またはあらかじめ表面に対して塗布されたコーティングに対して塗布した後、それは硬化して第1ドメインである固体を形成し得る。下記で詳細に論じるが、液体配合物を層として、またはスプレーにより小滴の形態で塗布することが普通である。
【0029】
コーティングの第2ドメインは、少なくとも1種類の腐食応答剤を含有する。第2ドメインは腐食応答剤を少なくとも約10重量%、および20%、または30%、または50%、または75%の量で含有することができ、またはさらには実質的に100重量%が好ましい。第2ドメインは腐食応答剤を少なくとも臨界顔料体積濃度(CPVC)と等しい、またはさらにより高い量で含有することができる。
【0030】
本発明の第2ドメインのいくつかの実施態様において、腐食応答剤は、硬化してバインダーポリマーまたは異なるポリマーを形成する樹脂中に混ぜられた微粒子の形態で提供される。本明細書で用いられる用語“臨界顔料体積濃度”または“ CPVC”は、顔料粒子を湿らすのにちょうど十分なポリマーが存在する点を指す。CPVCより下では、腐食応答剤の粒子の全てを湿らすのに十分なポリマーが存在し、CPVCより上では存在しない。CPVCにおいては、コーティング特性に急な変化が存在し得る。
【0031】
本明細書で用いられる用語“腐食応答剤”(“CRA”)は、酸化腐食を受けている金属表面上に特徴的に存在する電気化学的(酸化/還元)条件に反応して腐食抑制陰イオンを放出する化合物を指す。金属腐食の研究における当業者には周知であるように、酸素および水との接触による金属の酸化腐食は、金属陽イオン、水酸化物陰イオン、および同様なものの存在によって特徴づけられる電気ガルバニ電池(electrogalvanic cell)の形成を引き起こす。本発明の腐食応答剤がかかる腐食金属表面と有効な接触をしている場合には、それは酸化腐食する電気ガルバニ電池の一部であるイオンの1種類以上と反応して腐食抑制陰イオンを作り出すと考えられている。従って、腐食応答剤はそれが腐食へさらされることに反応して、それ自体が酸化または還元を受ける。しかし、非腐食条件下では、腐食応答剤は反応せず安定なままであり、低い速度で自発的にイオン化して腐食抑制陰イオンを放出する。
【0032】
腐食抑制陰イオンは無機陰イオンまたは有機陰イオンであっても良い。本発明の腐食抑制イオンとして機能することができる無機イオンの例には、CrO2−、CrO125−、PO3−、HPO3−、MoO2−、BO2−、SiO2−、NCN2−、HPO2−、NO2−、P105−、およびCO2−からなる群から選択される陰イオンが含まれる。好ましい実施態様において、無機腐食抑制陰イオンは、PO3−、HPO3−、MoO2−、BO2−、SiO2−、NCN2−、およびP105−からなる群から選択することができる。
【0033】
本発明の腐食抑制イオンは有機陰イオンであっても良い。有機腐食抑制陰イオンは、メルカプト置換有機物質、チオ置換有機物質、およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、およびポリマー類からなる群から選択される腐食応答剤のイオン化によって形成することができる。有用なメルカプト置換有機腐食応答剤の例には、メルカプト置換アリールまたはヘテロアリールが含まれる。特に有用なメルカプト置換有機腐食抑制剤には、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMcT)およびポリ(DMcT)が含まれる。
【0034】
本発明のCRAとして有用である化合物の例には、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾール−5−−チオール、1,2,4−トリアゾール−3−チオール、1−ピロリジンカルボジチオ酸(1−pyrollidinecarbodithioic acid)、2,2’−ジチオビス(ベンゾチアゾール)、2,4−ジメルカプト−6−アミノ−5−トリアジン、2,4−ジチオヒダントイン、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チオジアゾール、2,5−ジメチルベンゾチアゾール、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−ニトロベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミジゾール(2−mercaptobenzimidizole)、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−チオウラシル、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5,5−ジチオ−ビス(1,3,4−チアジアゾール−2(3H)−−チオン、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−メルカプトプリン,−アルキ−(−alky−)またはN−シクロアルキル−ジチオカルバメート類、アルキル−およびシクロ−アルキルメルカプタン類、ベンゾチアゾール、ジメルカプトピリジン、ジメチジチオカルバミン酸(dimethyidithio carbamic acid)、ジチオシアヌル酸、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンズオキサゾール、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリジン、メルカプトピリミジン、メルカプトキノリン、メルカプトチアゾール、メルカプトチアゾリン、メルカプトトリアゾール、O,O−ジアルキル−およびO,O−ジシクロアルキル−ジチオホスフェート類、O−アルキル−またはO−シクロアルキル−ジチオカルボネート類、o−エチルキサントゲン酸、キノキサリン−2,3−チオール、チオ酢酸、チオクレゾール、チオサリチル酸、トリチオシアヌル酸、ならびにそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、およびポリマー類が含まれる。
【0035】
腐食抑制剤は、随意に有機ホスホン酸またはそのダイマー、トリマー、オリゴマー、ポリマー、塩またはエステルであっても良い。有機ホスホン酸類はモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、またはポリホスホン酸類であっても良い。ジ−、トリ−、テトラ−、またはポリホスホン酸類であるホスホン酸類(これは本明細書において“ポリホスホン酸類”と呼ぶ場合もある)は、本発明における使用に好ましい。カルボキシル、ホウ酸(boric)などの他の酸性基も、ホスホン酸基に加えて分子上に存在することができる。それぞれのそのペンダントホスホン酸基が一官能ホスホン酸基であるようなペンダントホスホン酸基を少なくとも2個有するポリマー類も、ポリホスホン酸類として含まれる。
【0036】
ホスホン酸類の好ましい形態は、一般式:
−(CH−(PO)M、または
−((PO)M
を有するアミノアルキルホスホン酸類およびヒドロキシアルキルホスホン酸類であり、
式中:
Mは水素、アルカリ金属、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリール、環式、ヘテロアリール、およびヘテロ環式からなる群から選択され;
はアミノ、アミノアルキル、およびヒドロキシアルキルからなる群から選択され;ならびに
xが1以上である場合には、xはRの原子価と等しい数である。
【0037】
他の実施態様において、xは2以上である。
本発明において有用であるいくつかの有機ホスホン酸類の実例は:n−オクチルデシルアミノビスメチレンホスホン酸(n−octyldecylaminobismethylenephospho−nic acid)、ドデシルジホスホン酸、エチリデンジアミノテトラメチレンホスホン酸(ethylidenediaminotetramethylenephospho−nic acid)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン1,1−ジホスホン酸、イソプロペニルジホスホン酸、N,N−ジプロピノキシメチルアミノトリメチルホスホン酸、オキシエチリデンジホスホン酸、2−カルボキシエチルホスホン酸、N,N−ビス(エチンオキシメチル)アミノメチルトリホスホン酸、ニトリルトリメチレンホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタキス(メチレンホスホン)酸、アミノ(トリメチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミノテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(diethylenetriaminepenta(methlenephosphonic acid))、グリシン、N,N−ビス(メチレンホスホン酸)(N,N−bis(methyle−nephosphonic acid))、ビス(ヘキサメチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、および2−エチルヘキシルホスホン酸、である。
【0038】
本発明において有用である適切な有機ホスホネート類には:アルカリ金属エタン1−ヒドロキシジホスホネート類(HEDP)、アルキレンポリ(アルキレンホスホネート)、ならびにアミノアミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)、ニトリロトリメチレンホスホネート類(NTP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホネート類、およびジエチレントリアミンペンタメチレンホスホネート類(DTPMP)を含むアミノホスホネート化合物が含まれる。ホスホネート化合物は、それらの酸としての機能性のいくつかまたは全てに関して、それらの酸の形態で、または異なる陽イオンの塩としてのどちらかで存在してもよい。好ましいホスホネート類には、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホネート(DTPMP)およびエタン1−ヒドロキシジホスホネート(HEDP)が含まれる。かかるホスホネート類は、商品名DEQUEST(登録商標)としてMonsantoから商業的に入手可能である。
【0039】
腐食応答剤は、場合により、固有導電性ポリマーと上記の腐食抑制剤のいずれかから選択されたCRAの腐食抑制陰イオンとの塩である。CRAはメルカプト置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、またはチオ置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩であっても良い。ICPと腐食応答剤との好ましい塩はポリアニリンの2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール塩(PANiDMcT)である。
【0040】
腐食応答剤は腐食応答剤の中和された金属塩として提供することもできる。
CRAの中和された金属塩は、金属である陽イオンと本明細書で記述されているCRAの1種類の陰イオンとを含むことができる。一般に、本発明の腐食抑制陰イオンは、メルカプト置換有機物質、チオ置換有機物質、ならびにそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、およびポリマー類からなる群から選択される腐食応答剤のイオン化により形成される有機陰イオンであっても良い。有用なメルカプト置換有機腐食応答剤の例には、メルカプト置換アリールまたはヘテロアリールが含まれる。特に有用なメルカプト置換有機腐食応答剤は、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールである。
【0041】
一実施態様において、中和されたZn(DMcT)塩はクロメートを含まない有効な腐食応答剤であることが分かった。Zn(DMcT)などの腐食抑制有機陰イオンの金属塩に関して本明細書で用いられる用語“中和された”は、金属塩が約5〜約9の範囲、好ましくは約5.5〜約8.5の範囲、より好ましくは約6〜約8の範囲、その上もっと好ましくは約6.5〜約7.5の範囲、さらにより好ましくは約6.8〜約7.2の範囲、その上より好ましくは約7のpHまで塩/中和化合物の組み合わせのpHを上昇させるような1種類以上の中和化合物と接触したことを意味する。有機陰イオンの金属塩のpHを記載した場合には、金属塩および中和化合物(compound(s))の10重量%水溶液中または分散液中において、室温で測定されたpHを意味する。
【0042】
本発明の腐食応答剤の金属塩は、上記の腐食抑制1価有機陰イオン、腐食抑制2価有機陰イオン、または腐食抑制多価有機陰イオンの金属塩である。塩の陽イオンとして働く金属は、好ましくはZn(II)、Al(III)、Nd(III)、Mg(II)、Ca(II)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、およびFe(IIまたはIII)から選択される。好ましい金属にはZn、NdおよびSrが含まれる。
【0043】
CRAのZn(II)、Al(III)、Nd(III)、Mg(II)、Ca(II)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、およびFe(IIまたはIII)金属塩は、それを同一のまたは異なるCRAのIA族金属塩と接触させることによって中和することができることが分かっている。例として、Zn(DMcT)は、例えばK(DMcT)と接触させて、望ましい範囲のpHを有するCRAの亜鉛塩およびカリウム塩の混合物を形成することができる。
【0044】
本コーティングのCRAは、本明細書で論じられている任意のCRA化合物のあらゆる組み合わせであっても良い。
本発明において、第2ドメインはあらゆるやり方で形成することができる。しかし、硬化して第2ドメインを形成する液体配合物を、保護されるべき金属に対して、またはその金属を覆うコーティングに対して塗布することによって、第2ドメインを形成することが有用である。液体配合物は溶媒を含まなくとも、溶媒を含有していても良い。配合物は水性ベース、有機ベース、またはその2つの混合物であっても良い。一般に、配合物は、溶媒と共に、または溶媒無しで、第2ドメインの構成物を液体溶液、乳濁液、微乳濁液、分散液、または混合物中に含有する。液体配合物を表面に、またはあらかじめ表面に対して塗布された材料の層に対して塗布した後、それは硬化して第2ドメインである固体を形成し得る。下記で詳細に論じるが、硬化して第2ドメインを形成する液体配合物を、第1ドメインの下の層および/または上の層として、または硬化して第1ドメインを形成する液体配合物の小滴と混合されたスプレーとして小滴の形態で塗布することが普通である。
【0045】
本コーティングの2つの実施態様を図1に示す。図1(A)において、第1ドメインおよび第2ドメインは隣接する層であり、コーティング(101)は金属(301)の表面に隣接しそれを覆う第1ドメイン(201)の層として図示されており、ここで第1ドメインの層は第2ドメイン(401)の層で覆われている。コーティングはさらに第1ドメイン層と第2ドメイン層との追加の順序(sequence)を1つ以上含むことができ、第1ドメインの一番上の層を有することができる。場合により、第1ドメインまたは第2ドメインが順番に並ぶ(in sequence)多数の層が存在することができる。
【0046】
図1(B)において、第1ドメインおよび第2ドメインは、第1ドメインおよび第2ドメインのそれぞれの、多数の別個であるが接触しているかまたは重なり合っている領域を含む単一の層を一緒に形成しており、コーティング(101)は第1ドメイン(201)と第2ドメイン(401)とが触れている領域からなる単一の層として図示されており、これは、その一方が硬化して第1ドメインを形成する液体配合物をスプレーし、他方が硬化して第2ドメインを形成する液体配合物をスプレーするような、2つの異なるノズルからの重なり合うスプレーパターンによって形成することが出来る。
【0047】
上述したように、本コーティングは金属表面に直接塗布することができ、またはプレコートもしくは化成コーティングの上に塗布することができる。一実施態様においては、新規なコーティングはクロム化成コーティング(CCC)の上に塗布され、別の実施態様においては、コーティングはポリ[ビス(2,5−(N,N,N’,N’−テトラアルキル)アミン)−1,4−フェニレンビニレン](BAMPPV)のコーティングの上に塗布され、これは金属表面および腐食抑制コーティングの間に位置する。
【0048】
クロム化成コーティングが用いられる場合、新規なコーティングはバリヤー層(barrier layer)によってCCCから分離することができる。バリヤー層は任意のポリマーであっても良い。バリヤー層として有用なポリマー類の例は、バインダーポリマーの節で記述されたポリマー類である。
【0049】
本発明は、金属の表面を腐食から保護する方法を含む。この新規な方法は、一般に、硬化してバインダーポリマーを含む第1ドメインを形成する液体配合物を金属表面に塗布すること、および硬化して第2ドメインを形成する液体配合物を金属表面に塗布することを含む。第2ドメインは、メルカプト置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類、チオ置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類、有機ホスホン酸のダイマー、トリマー、オリゴマー、もしくはポリマー、またはそれらの塩もしくはエステル、これら3種類のいずれかの組み合わせ、メルカプト置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、チオ置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩、メルカプト置換有機物質の中和された金属塩;ならびにこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される腐食応答剤を含む。硬化して第1ドメインを形成する液体配合物の塗布および硬化して第2ドメイン形成する液体配合物の塗布は、場合により順次または同時である。
【0050】
下記の実施例は、本発明の好ましい実施態様を記述している。本明細書における特許請求の範囲内の他の実施態様は、本明細書で開示された本発明の明細書または実施の考察から当業者には明らかであろう。本明細書は、実施例とともに、単に例示的なものであると考えられることを意図しており、実施例に続く特許請求の範囲により本発明の範囲および精神を示す。実施例において、全てのパーセンテージは、別途記載しない限り重量を基準として与えられる。
【実施例】
【0051】
実施例1
これは2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(PANiDMcT)でドープしたポリアニリンの合成を説明するものである。
【0052】
PANiDMcTは、最初におよそ等モル量のアニリンおよびDMcTを水中で共に混合することにより作られる。次いで、この混合物を冷却した(2℃)反応容器中に配置する。酸化剤である、ペルオキシ二硫酸アンモニウムの水溶液をゆっくりと反応器に添加する。反応が完了したら、生成物を濾過し、洗浄して乾燥させる。
【0053】
アニリンの酸化によりポリアニリンが生成し、これは重合溶液中に存在するDMcTによりドープされてPANiDMcTを与えるであろう。DMcTのチオール基の酸化はジスルフィド結合を形成し、それ故にDMcTのダイマー類、オリゴマー類またはポリマー類になるであろう。分析データは、PANiDMcTに加えてDMcTの酸化生成物が形成されることを示している。
【0054】
ポリアニリンのDMcT塩の合成の実施例(ブレンダー法)は次の通りである:
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(93グラム)を、乳鉢中で乳棒ですり潰して細かい粉末とした。この粉末をWaringブレンダー中で脱イオン水に添加し、ブレンダー中で1分間乳化させた。アニリン(57グラム)をブレンダー中で混合物に添加し、1分間乳化させた。ブレンダー中の混合物を3リットル丸底ジャケットフラスコ(jacketed flask)に移し、それを約5℃に冷却して窒素でガスシールした。ペルオキシ二硫酸アンモニウム(170グラム、APDS)を脱イオン水に溶解し、丸底フラスコに取り付けられた添加用漏斗(addition funnel)に移した。APDS溶液を、次いでフラスコ中の混合物に約15分間の期間をかけて添加し、一方でフラスコ中の混合物の温度を約5℃より下に維持した。混合物を窒素ガスシール下において約5℃で3時間撹拌した。生成物を濾過によって回収し、固体の生成物を脱イオン水で洗浄した。
【0055】
Eigerミル法によるポリアニリンのDMcT塩の合成の実施例は次の通りである:
次の材料をEigerミル(Model Mini 100 Motormill, Eiger Machinery, Inc., Grayslake, III.)に添加した:ガラスビーズ(60ml)、脱イオン水(325ml)、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(25g、DMcT、CAS No. 1072−71−5)。充填物を5000rpmで約15分間粉砕(mill)して細かい黄色のスラリーを生成させた。次いでアニリン(15.32g)を約18〜40分間かけて滴加し、一方でミルは5000rpmの速さで作動させた。ミル中の混合物を(45分間までの)追加の時間粉砕し、次いでミルから出した。
【0056】
上記の手順をさらに2回繰り返し、その手順で得られたの3つの生成物を組み合わせ、オーバーヘッド撹拌機付きの3リットルジャケット丸底フラスコに添加した。塩の混合物に、水中において2℃で138gのペルオキシ二硫酸アンモニウム(APS)を滴加した。APSの添加を開始した後77分間、13℃の反応の発熱が示された。暗緑黒色のスラリーを2℃で一夜撹拌した。
【0057】
微粒子のスラリーを濾過し、1000mlの脱イオン水で3回洗浄し、風で乾燥させ、次いで真空オーブン中で乾燥させて、生成物の粉末を得た。光学顕微鏡検査により、粒子の大きさは約20ミクロンより小さいと評価した。プライマーの中に加える前に、固体のCRAをジャーミル(jar mill)中でプライマー樹脂に相溶する溶媒を用いてすり潰した。PANiDMcT CRAは:
a)塗布の前にCRAをポリマーと直接混合する、一般的な方法。しかし、CRAおよびバインダーポリマーが混ざり合った場合に、エポキシ樹脂のアミン硬化剤による脱ドーピング(dedoping)が問題となる可能性がある;
b)バインダーポリマーおよびCRAを交互に別の層として塗布する、層でのアプローチ;または
c)バインダーポリマーおよびCRAを、コーティングが塗布される間にスプレーの流れが混ざるように2個の別のスプレーガンから同時に塗布する、混合スプレー技法;
によって塗布可能である。
【0058】
バインダーポリマーは溶剤型および水溶型エポキシ類を含んでいた。支持体は2024−T3支持体および7075−T6アルミニウム支持体を含んでいた。
前処理はクロメート化成コーティング(CCC)およびポリ(2,5−ビス(N−メチル−N−ヘキシルアミノ)−p−フェニレンビニレン(BAM−PPV)化成コーティングを含んでいた。2024−T3に塗布されたクロメート化成コーティング上に混合スプレー塗布を使用することにより、PANiDMcTでの良好な腐食テストの結果が得られた。
【0059】
実施例2
これはポリ(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)(ポリDMcT)の合成を説明するものである。ポリDMcTは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMcT)をジメチルホルムアミド溶媒(DMF)中に溶解し、次いでジャケットされた反応容器中で別の溶媒、アセトンと混合することにより作られる。次いで酸化剤である、過酸化水素をゆっくりと反応容器に添加し、反応が完了するまで温度を約40℃に維持する。
【0060】
過酸化水素はDMcTのチオール基を酸化し、ジスルフィド結合の形成を通してDMcTを重合させる。
ポリDMcTの合成の一実施態様の実施例は次の通りである:
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(25グラム、DMcT、Sigma−Aldrich,Milwaukee,Wis.から入手可能)を50/50脱イオン水/メタノール(1500ml)に添加した。次いで、水酸化ナトリウム(6.66グラム)を混合物に、撹拌しながら混合物が澄んだ透明な黄色になるまで添加した。混合物を撹拌しながら約45℃に加熱した。別のフラスコで、ヨウ素(42.13グラム)をメタノール(400ml)に溶解し、DMcT混合物が入った丸底フラスコに取り付けられた添加用漏斗に移した。ヨウ素溶液をフラスコ中のDMcT混合物に、撹拌しながら約30分間の期間をかけて滴加した。すぐに沈殿が生じ、最初は白色であったがヨウ素溶液を添加するにつれて赤みを帯びた褐色になった。2時間撹拌した後、生成物を濾過により回収し、生成物をアセトニトリル、メタノールおよび脱イオン水で洗浄した。固体の生成物を70℃で、乾燥するまで乾燥させた。生成物は淡黄色固体であった。
【0061】
樹脂中に加える前に、CRAをジャーミル中でプライマー樹脂に相溶する溶媒を用いてすり潰した。塗布法は上記でPANiDMcTに関して記述した塗布法と同一である。
実施例3
この実施例は、上記で実施例1〜2において記述した方法により合成されたDMcT、PolyDMcTおよびPANiDMcTの化学的および物理的特性解析を示す。
【0062】
これらの試験において、試料を次のように#1、#2、#3等として識別した:
試験のための試料のリスト:
#1 DMcT、Aldrichから、新しい
#2 DMcT、Aldrichから、
#3 DMcT、Aldrichから、古い、容器を開けた日付は不明
#4 DMcT、ASVから
#5 DMcTダイマー、Vanlube829
#6 ASVの材料から合成したポリDMcT(モノマーは#4と同一であった)
#7 ポリDMcT、ヨウ素ルートにより作った
#8 R.T.VanderbiltからのDMcT、
#9 PANiDMcT
#1および#3は同一のロットだが数ヶ月離れた別の出荷からのものであった。
【0063】
抑制剤の元素分析
表1でリストした試料について元素分析を実施した。
表1.元素分析を受けた試料
【0064】
【表1】

【0065】
試料を真空オーブン中で35℃で4日間乾燥させた。分解が起こらないことを保証するために、温度を低く保った。外部の研究所が、炭素、水素、および窒素のための燃焼分析、酸素のための熱分解分析、ならびに硫黄のための燃焼分析という3タイプの分析を実施した。
【0066】
知見:
異なる出所からのDMcTである(#4)および(#8)は、FTIRにより測定可能な違いを示さなかった。(#8)の試料についてのラマンスペクトルにおいて、(#4)の試料には存在しなかった2個の非常に小さなピークが存在した。
【0067】
試料(#4)中のDMcTおよび試料(#8)中のDMcTは、主要なHPLCクロマトグラフィーのピークにおいて違いを示さなかった。それぞれのクロマトグラム中の最大のピーク上の大きな肩は、不純物の存在を示している可能性がある。
【0068】
FTIR−TGAは、試料のいくつかにおいて、二酸化炭素、水、および二酸化硫黄などの酸素を含む分解生成物の存在を示した。その試料にはDMcT(#4)、ポリDMcT(#7)、およびPANiDMcT(#9)が含まれていた。それらの分子式によると、これらの化合物には酸素が存在しないはずである。生成物は100℃、またはさらにはいくつかの場合においては200℃よりもかなり上の温度で生じたため、酸素を含む分解生成物は吸着された水またはCOではなく不純物によるものである可能性がある。ポリDMcTおよびPANiDMcTのための合成材料の1つであるDMcTに関してこれが真実であったという事実は、混入物の少なくとも一部に関して、出発材料がその源であることを示唆している。
【0069】
CRAの元素分析
表2〜5は、それぞれの生成物について結果を要約し理論的な元素のパーセンテージを与える。特にPANiDMcTに関して、異なる仮定により1セットより多い計算結果が生じた。水素に関する分析法は、約0.5%という低い検出限界を有していたことに注意すべきである。また、それぞれの試料に関する全てのデータを得るために3種類の別の分析が存在し、それゆえ実験の質量は合計して正確に100%にならなくてもよい。
【0070】
表2.ASVからのDMcTの元素分析結果
【0071】
【表2】

【0072】
DMcTに関して、1.16%の酸素が見つかった。これは水からのものである可能性があるが、興味深いことに、炭素および窒素に関する実験結果が分子式に基づいて計算した値とほぼ正確に一致していることに気づかされる。硫黄および水素の両方は理論的な計算結果から最も大きな偏差を示している。試料の製造法についていくつかの検討の余地がある。将来における手順の1つの修正は、分析の直前に試料を乾燥させることであるかもしれない。乾燥条件は、試料の熱分解を防ぐために注意深く選ばれなければならない。
【0073】
表3.ヨウ素法で合成されたポリDMcTの元素分析
【0074】
【表3】

【0075】
ヨウ素法からのポリDMcTは、さらに高い酸素のパーセンテージを示した。水素のパーセンテージは高いが、測定された値は分析に関して与えられる検出下限である。GPCの結果に基づくとポリDMcTは実際には13〜14の繰り返し単位のオリゴマーであるため、水素の含有量の計算結果は末端の基(末端のスルフィドがプロトン化されていると仮定している)を示していた。
【0076】
表4.H法で合成されたポリDMcTの元素分析
【0077】
【表4】

【0078】
酸素に関するデータを比較すると、過酸化水素ルートにより合成されたポリDMcT中にはヨウ素ルートよりも少ない酸素が存在した。
表5.PANiDMcTの元素分析
【0079】
【表5】

【0080】
PANiDMcTは単にDMcTをドープされたポリアニリン(PANiDMcT)である可能性があり、またはそれはDMcTのオリゴマーもしくはポリマーへの酸化からの生成物も含有している可能性がある。これを考慮して、それぞれの元素の理論的な質量%は、3種類の異なるシナリオの下で計算された。
【0081】
仮定A:この計算は、全ての生成物がDMcTで完全にドープされたポリアニリンであると考える。これは、ポリアニリン鎖中の2個のアニリンの繰り返し単位ごとに1個のDMcT分子が存在すると考えられることを意味する。この生成物を作るためのアニリンのDMcTに対する化学量論比は2:1である。合成は、アニリンのDMcTに対するモル比が1:1であり、過剰量のDMcTを含有する。この計算に関して、全ての過剰なDMcTは、それが可溶性であり洗浄工程の間に洗い落とされPANiDMcTのみが後に残るかのように処理される。
【0082】
仮定B:この計算は、最終生成物中のアニリンおよびDMcTの比率を合成における1:1の比率と等しいものとして処理する。水素の計算は、その量が存在するDMcTの形態に依存するため、問題をはらむ。酸化によるジスルフィド結合の形成は、pHおよびDMcTに関する酸/塩基平衡に関係する脱プロトン化によるものと同様、水素を排除する。この計算は、全てのアニリンがポリマー形態で存在し重合において2個の水素を失い;ポリアニリンは完全にプロトン化されており;そして全てのDMcTには両方の水素が存在するものとして処理する。
【0083】
仮定C
この計算は、最終生成物中のアニリンおよびDMcTの比率を合成における1:1の比率と等しいものとして処理する。この計算は、全てのDMcTが完全に脱プロトン化(2価イオン化)されているものとして処理することがBと異なっており、従って仮定Bよりも低い水素含有量の評価をもたらす。
【0084】
計算されたパーセンテージと実験結果の間の最も明らかな違いは、9.52%の酸素含有量である。1つの可能性は、これは水からのものである可能性があることだが、他の説明が存在するかもしれない。表6は、計算された、および実験による含有量に関する、窒素対硫黄の質量比を示す。
表6.PANiDMcTにおける窒素対硫黄の比率
【0085】
【表6】

【0086】
窒素対硫黄の比率は水の含有量と無関係であり、理論的な計算結果に関してよりも実験結果に関してかなり高い。高い硫黄含有量および酸素含有量を両方とも、少なくとも部分的に説明できるであろう1つの可能性があり、それはサルフェートの存在である。PANiDMcTの合成においてペルオキシ二硫酸アンモニウムが用いられており、それが反応の間にサルフェートに変わったと考えられ、それが今度はポリアニリンへのドーパントとして機能した可能性がある。しかし、これは硫黄の窒素に対する高い比率に関する唯一の説明ではない。
【0087】
上記の表3または表4から計算できるように、ポリDMcTにおける窒素対硫黄の理論的な比率は1:3.43であると考える。従って、高い硫黄含有量についての別の説明は、反応の間にDMcTよりも多くのアニリンが失われたことである。言い換えれば、反応からのポリアニリンのパーセント収率は、最終的に回収されるDMcTおよびDMcT生成物(ドーパントおよびDMcTの酸化生成物を含む)のパーセントよりも低い。
【0088】
CRAスラリーのpH
CRAの樹脂との反応性に関する問題を考慮して、非クロムCRAの酸性度を測定するために単純な試験を実施した。
【0089】
10%(重量/重量)スラリーをガラスバイアル中で濾過したDI−HO(18.2MΩ)と混合した。混合した後、測定を行う4時間前に作成したシステインおよび2−メルカプト−4−メチル−5−チアゾール酢酸を除いて、スラリーを一夜おいた。ほとんどの試料は沈殿し、従って測定は上の液体で行った。しかし、PANi塩基は懸濁されたままであった。
【0090】
有機性ドメインが電極を被覆しないように、ジノニルナフタレンスルホン酸でドープしたポリアニリン(PANi−DNNSA)は濾過した。
測定を行った際、DMcTの二カリウム塩を除いて、CRAはいずれも完全には可溶化しなかった。pHの測定はAccumet AR 15pHメーターを用いてなされた。非クロムCRAを水中に混合した結果を表7に示す。試験した材料のほとんどは、DMcTの二カリウム塩、PANi塩基およびシステインを除いてかなり酸性であった。ポリDMcTの試料は3〜4のpHをもたらした。PANiDMcTの試料は一貫して1.54〜1.65の狭い範囲に収まった。これには、1工程合成およびポリアニリンのDMcTでのドーピングによるものより、むしろPANi塩基のDMcTでのドーピングによって作られた試料が含まれていた。また、PANi塩基の“アンダードーピング(under−doping)”はpHを大きく上昇させるようには思われなかった。アニリン単位対DMcTの比率が4:1でドープされたPANiDMcTは、1.75のpHを有していた。全ての中で最も低いpHは、DMcT自体に関するpH0.87であった。
【0091】
CRAのpHは、2つの理由で重要であり得る。1つはバインダーポリマーとの酸/塩基反応の可能性である。もう1つの理由は、フィルムが水に浸透された場合に、溶液のpHはアルミニウムが不動態化するか腐食するかに影響を及ぼしうるからである。
【0092】
表7.CRAのpH
【0093】
【表7】

【0094】
バルクのCRAの伝導性
この実験の目的は、PANiDMcTの伝導性を試験して異なるロットならびに上記の実施例1で記述した2種類の合成法−PANi塩基のDMcTでのドーピングと1工程ポリアニリン合成およびDMcTでのドーピングとを比較することである。
【0095】
試料を75℃で<23Torr(<3.0×10Pa)において一定の重量まで乾燥させた。5.0gのそれぞれの試料をストレイフィンガーセル(Streifinger Cell)中に配置した。セルをプレス中で8000psi(5.52×10Pa)に加圧した。読み取りはFluke77マルチメーターを用いて行った(短絡させたリード線をまたいだ抵抗は0.3Ω)。伝導性の結果を表8に示す。バルクのPANiDMcT試料は伝導性である。ドーピング法で作られた試料はより低い伝導性を有していた。測定において粒子の大きさが1つの要因である可能性があるため、それをさらに乳鉢および乳棒を用いてすり潰した。これは他の試料との伝導性の差を補うことはなかった。参考までに、過去のポリDMcTについての測定は結果が得られなかった(抵抗が高すぎる)ことを特筆すべきである。
【0096】
表8.バルクのPANiDMcTの粉末の伝導性
【0097】
【表8】

【0098】
実施例4
これは腐食応答剤の中和された金属塩の合成を説明するものである。
硝酸亜鉛をメタノールに溶解し、この溶液をDMcTのメタノール溶液に添加することによって、Zn(DMcT)を形成する。式Zn(DMcT)を有するその製法の沈殿が形成される。メタノールを除去し、生成物をジャーミル中で水性のスラリーとしてすり潰し、5以上のヘグマングラインド(Hegman grind)が得られるまで、粒子の大きさを低下させた。次いで、DMcTの二ナトリウムまたは二カリウム塩を用いて、Zn(DMcT)のスラリーのpHを6より高く8より低い範囲まで上昇させた。この抑制剤を水溶型コーティング中で用いた場合には、それ以上の作業は不要である。溶剤型コーティングの場合には、生成物を乾燥させ、キシレンなどの有機溶媒中で、5以上のヘグマングラインドが得られるまで再びジャーミルを用いて再度すり潰し/分散させなければならない。
【0099】
上述したように、Zn(DMcT)の中和された金属塩を形成するため、金属塩を1種類以上の中和化合物と接触させる。有用な中和化合物には、有機および無機塩基が含まれる。NaOH、PO−3、KOH、LiOH、アンモニウム、MgOHなどの無機塩基を、中和化合物として用いることができる。また、中和化合物はチオールのアルカリ金属塩またはチオールのアルカリ土類金属塩であっても良い。例として、NaDMcTおよびKDMcTは本発明の中和化合物として機能することができるチオールのアルカリ土類金属塩である。
【0100】
比較例1
これは、バインダーポリマーと、第1および第2ドメインに分かれずに混ぜ合わせられた腐食応答剤を含むプライマーコーティングの配合物を説明するものである。
【0101】
セット1:
このセットのコーティングは、高固体配合で、溶剤型でスプレー塗布されたCRAであった。CRAを、Epon1001およびEpon1007の混合物であるエポキシ樹脂と混ぜ合わせた。ポリアミド硬化剤はEpikure3213であった。樹脂と抑制剤との間の不相溶性をより容易にはっきりさせるように、クリアコートを配合した。この配合の特別なサブセットにおいて、DMcTと反応しないことを期待して、追加の硬化剤を用いずに、DMcTをEpon1009樹脂に添加した。しかし、この系は米軍用規格によって要求される耐溶剤性を欠いているようだった。
【0102】
配合物:
ポリアミド硬化剤を有する高固体、溶剤型エポキシ;Epon1007エポキシ類およびEpon1001エポキシ類のブレンド;
Epikure3213硬化剤;
(DMcTのみを有する)Epon1009;
固体を基準として10%濃度の非クロムCRA。これはおよそ全樹脂固体重量の6%に等しい;ならびに
非クロムの規格と同一の量で含まれるTiOおよびZn(PO)2などの他の着色剤。
【0103】
CRAの固体は配合物に加える前にジャーミル中ですり潰した。後添加技法を用いた。
スプレー塗布したプライマーは:
Deftクロメートエポキシプライマー(商業的に入手可能);
クロメートエポキシプライマー対照;
非クロム対照;
非クロム配合物中のPANiDMcT;
非クロム配合物中のDMcTでドープしたPANI塩基(PANI塩基:DMcT=2:1);
非クロム配合物中のポリDMcT;
PANI−DMcTを有するクリアコート;
DMcTでドープしたPANI塩基(2:1)を有するクリアコート;
ポリDMcTでのクリアコート;
から成っていた。そして、
ほとんどの配合物は次の支持体の全てに対して塗布した:
腐食試験および乾式テープ付着試験に関して、CCC2024−T3(Wagner Rustproofing,Cleveland,OH);
腐食試験に関して、HD Zn亜鉛メッキ鋼;
腐食試験に関して、むき出しの冷間ロール鋼;
湿式テープ付着試験に関して、脱酸化Alクラッド(deoxidized Al−clad)2024−T3;および
柔軟性試験に関して、陽極酸化2024−T0(San Antonio,TXのMetaSpec)。
【0104】
結果および論考:プライマー配合物の試験
相溶性試験
これらの実験において、個々の構成物は本CRAと様々な組み合わせで混合された。個々の樹脂の構成物にはエポキシ類、アミンベースの硬化剤、流れを制御する添加剤、および界面活性剤型の添加剤が含まれていた。抑制剤にはポリ−DMcT、PANiDMcT、DMcT、およびPANi−DNNSAが含まれていた。配合物を、CRAのフロキュレーション(flocculation)などの問題に関して観察した。
【0105】
相溶性試験は、配合物の構成物のうち、Epikure3175などのアミンに基づく硬化剤が、おそらくポリDMcTのフロキュレーションにとって最も大きな原因であることを示した。PANiベースのCRAはひどくフロキュレートすることは無かったが、それらは緑色から青色への色の変化によって示唆される脱ドーピングを示した。また、計測可能な伝導性は存在しなかった(伝導性の欠如は全てが脱ドーピングによるものではなく、CRA粒子が絶縁樹脂により完全に封入されたことによるものである可能性がある)。塩基性のアミンを含有する硬化剤は酸性のCRAと反応するため、これは室温硬化エポキシ類にとって根本的な問題のようである。問題を克服する可能性のある方法には、CRAの封入、CRAを修飾してその酸性/反応性をより低くすること、またはCRAおよびバインダーポリマーの交互の層を分離して塗布される層状コーティングアプローチが含まれる。
【0106】
塗布の観察:
コーティングの厚さは、試験品の間で、および個々の試験品の表面に渡って、共に大きくむらがあった。ランダムに選択した個々のパネルにおいて、コーティングの厚さは2倍〜3倍と異なり得た。コーティングはおおよそ1ミルから3ミルを越えるまでの範囲であった。
【0107】
コーティングの多くはオレンジピール効果を示した。
パネルは低倍率の光学顕微鏡の下で分析された。2ミル未満の厚さのプライマーに関して、支持体の一部がむきだしのままであるというピンホール欠陥の問題があった。
【0108】
PANiDMcTおよびDMcTでドープしたPAni塩基の両方の配合物が青色に見えた。コーティングにおけるいくつかの緑色は、黄色がかった(クロメート化成コーティング)背景上の半透明の青色フィルムにより起こる錯覚であった。
【0109】
完全に配合されたPANiDMcTプライマーは、おそらくは抑制剤が脱ドープまたは脱プロトン化されたことから、青みがかった色合いを有する。これは前のバレット(bullet)で記述した対応するクリアコートの色の変化からの推論である。
【0110】
クリアコートは、乾燥したフィルムにおける過剰な数の泡のために、大部分は試験に使用できなかった。
塩スプレー:
スプレーで塗布したプライマーおよびドローダウン棒(draw−down bar)で塗布したプライマーを、MIL−PRF−2377J、第4.5.8.1項およびASTM B117に従って試験した。Q−Fog SSP600(Q−Panel)キャビネットを、塩スプレーにさらすために用いた。プライマーをクロメート化成被覆された2024−T3支持体に塗布して、罫書いて試験を行う前に周囲条件において最低2週間硬化させた。プライマーと化成コーティングとの間のよりよい付着を促すため、プライマーの塗布は化成コーティングの塗布から3〜4日間以内に実施した。
【0111】
商業的に配合されたクロメート対照および社内で配合されたクロメート対照は500時間後に合格しており、試験を続けるためチャンバー内に残された。これの目的は社内で配合されたクロメート対照の質を確かめることである。これらの2種類の配合物の性能は、500時間の終了の時点でおよそ同一であった。
【0112】
非クロメートプライマーはいずれもクロメート対照の性能に及ばず、500時間の時点で全て不合格となった。結果として、これらのパネルは塩スプレーから除かれた。本非クロム抑制剤を含有するパネルの性能は非クロム対照と同等であった。完全に着色されたコーティングよりも大きなむらと低い性能とを示した“クリア”コートを除いて、ほとんどの非クロムプライマーは同等の性能を示した。
【0113】
リバースインパクト試験
リバースインパクト試験は、MIL−PRF−2377J、第項4.4.1に従い、Gardco IM−172リバースインパクト試験器(Paul N. Gardner Co.,Inc.)を用いて実施した。試験した全てのコーティングはドローダウン棒で塗布した。コーティングは試験の前に周囲条件下で2週間硬化させた。コーティングの厚さも試験の前に記録した。
【0114】
付着試験
乾式テープ付着試験は、ASTM 3359、方法Bに従って、クロメート化成被覆された2024−T3に塗布されたプライマーコーティング上に実施した。クロスハッチの罫書きパターンは107 Cross Hatch Cutter(Elcometer)を用いて作った。試験のためのコーティングの厚さも、PosiTector 6000 Coating Thickness Gage(DeFelsko)を用いて測定し、記録した。
【0115】
全ての試料は湿式テープ接着に合格した。全ての試料は乾式テープ付着について最も高い格付けである5Bに格付けされた。“クリアコート”は試験を行わなかった。
柔軟性試験:
市販のクロメート対照、社内で配合されたクロメート対照、および非クロム対照を含め、柔軟性に合格した試料は無かった。
【0116】
他の観察/予期しなかった結果:
PANiDMcTを有するクリアコートは青く、これはポリアニリンの脱プロトン化または脱ドーピングを示している。これが完全に着色された配合物の青みがかった色合いの原因だと思われる。
【0117】
実施例5
この実施例は、抑制剤と樹脂との間の好ましくない相互作用を克服するために実施された試験を説明するものである。
【0118】
全体的な設計は、CRAおよび樹脂の層を別々に塗布し、それにより硬化していない系の中におけるそれらの相互作用を最小限にすることであった。層状コーティングの例としては、図2で示したこのセットのためのコーティングスキームを参照のこと。交互層(layer−by−layer)コーティングのアプローチは、エポキシ樹脂とCRAとの間の不相溶性の問題を最小限にするとともに、例えばフィルムの特性を弱め抑制剤の分散を困難にし、腐食を防ぐCRAの有効性を減少させ得るような望ましくない反応を減少させるか、または無くす。層にするスキームには、エポキシの層をDMcTまたはポリDMcTなどのCRAと交互にすることも含まれていた。
【0119】
交互層の研究の別の目的は、高レベルのCRAを含有する層を有する伝導フィルムを生産することであった。その目的のため、アルミニウム支持体にPANi−DNNSA3(Crosslink、St. Louis、MOから入手可能であるポリアニリン配合物)を塗布して、ポリウレタンでトップコートした。ポリウレタン樹脂を選択したのは、それがエポキシよりもPANi−DNNSA3との相溶性が高いからであった。PANi−DNNSA3フィルムには、PANiDMcT、ポリDMcTまたは両方の組み合わせを添加した。
【0120】
配合物:
ポリアミド硬化剤を有する高固体、溶剤性エポキシ:Epon1007エポキシ類およびEpon1001エポキシ類のブレンド;
Epikure3213硬化剤;および
例えばTiOなどの、非クロム標準と同一の量で含まれる他の着色剤、;
バインダーポリマーおよびCRAコーティング配合物は、3”×3”パネルを500rpmでスピンコートすることにより塗布した。DMcT層を除く、塗料および抑制剤の両方の層を被覆する間に、溶媒を80℃で約15分間蒸発分離した。DMcT層は、加熱することなく空気中で急速に乾燥した。
【0121】
ほとんどの配合物を、腐食試験のためにCCC2024−T3に塗布した。腐食試験の前に、被覆したパネルを機械的な罫書き器で罫書き、電気めっきテープを張った。腐食試験はASTM B117に従って実施した。厚さの測定はPositector 6000−N2(DeFelsko)を用いて行った。
【0122】
交互層アプローチによってもたらされる塩スプレーの結果、上記の比較例において記述したように同一のCRAをエポキシ中に直接配合するよりも大きく改善した。ポリDMcTとエポキシの交互の層を用いた2個の異なるセットにおけるそれぞれ3枚のパネルが、1600時間の時点で塩スプレー試験に合格していた。1セットは、3枚のパネルのうち2枚が2000時間塩スプレーにさらされた時点でうまく機能していたことで、合格とみなされた。
【0123】
エポキシまたはポリウレタンでトップコートされたPANiフィルム(PANi−DNNSA3)は、CRAが含まれていても含まれていなくてもうまく機能しなかった。ポリウレタン配合物がエポキシの代わりに用いられたのは、ポリウレタンはPANi−DNNSAフィルムを脱ドープしないように思われたからだった。ポリウレタンで被覆されたPANi−DNNSAフィルムは緑色のままであり、一方でエポキシ被覆されたPANi−DNNSAフィルムは、エポキシが塗布されて数秒以内に青色になったであろう。
【0124】
継続された塩スプレーの結果は、交互層アプローチは同一の抑制剤をエポキシ中に直接配合するよりも大きな改善であることを示した。ポリDMcTとエポキシの交互の層を用いている3個のうちの1セットは2000時間の時点で合格していた。3000時間の時点で、結果はまだ有望であるように見えたが、罫書きにおける少量の孔食のため、これらのパネルは試験から除かれた。
【0125】
実施例6
この実施例は、罫書きしたBAM−PPV被覆されたパネルの有効な腐食抑制の改善を説明し、金属プライマー配合物へ直接用いることを含めて、Crosslinkの抑制剤のためのバインダーとしてのBAM−PPVの価値を示す。
【0126】
この実験は実施例5で記述した層スキームを用いた。CRAをキシレン中で1%BAM−PPV溶液と混合した。これらの溶液を2024−T3支持体(むき出しおよびクロメート化成コーティングを有するものの両方)に塗布し、乾燥させ、次いで1%BAM−PPV溶液で再び被覆した。コーティングスキームの実施例に関しては図2を参照のこと。CRAにはDMcT、ポリDMcT、およびPANiDMcTが含まれていた。パネルを罫書きし、ASTM B117塩スプレー法に従って耐腐食性に関して試験した。
【0127】
この層の系に関する塩スプレーの結果は、実施例5で記述した層コーティングに関して示された最高の結果ほど良くなかった。しかし、ブランクの配合物と比べて腐食抑制の形跡があった。最高の性能を有していたものは、第1コーティング層中にPANiDMcTおよびポリDMcTの混合物(1:1の比率)の高い量で含有していた。図3はこのコーティングスキームと対照の比較を示す。対照は罫書きにおけるより多くの腐食生成物、および罫書きからの塩のしみ出し(bleeding)を示す。
【0128】
実施例7
これは実施例5で記述したスピンコートされた試料の反復試験およびスプレーガンを用いた類似の交互層の系による塗布を説明するものである。
【0129】
この実施例のほとんどの配合物は、実施例5で記述した配合物に類似しているか、またはその変形であった。加えて、いくつかのコーティングは、実施例4で記述した中和されたZn(DMcT)を含有していた。この実施例のコーティングと実施例5のコーティングの間の別の違いは、このセットにおいて、配合スキームの多くが、スピンコートしたものまたはドローダウン棒で塗布したものよりはむしろスプレーで塗布したものであったことである。これらのいくつかは“ウェットオンウェット(wet−on−wet)”でもスプレーされ、これは今日航空機の被覆に用いられている方法と類似のやり方でそれぞれの層の塗布の間に層が乾く時間を与えなかったことを意味する。
【0130】
配合物の試験
塩スプレー試験
スプレーで塗布したプライマーおよびドローダウン棒で塗布したプライマーを、MIL−PRF−2377J、第4.5.8.1項およびASTM B117に従って試験した。Q−Fog SSP600(Q−Panel)キャビネットを塩スプレーにさらすために用いた。プライマーをクロメート化成被覆された2024−T3支持体に塗布して、罫書して試験を行う前に周囲条件において最低2週間硬化させた。プライマーと化成コーティングとの間のよりよい付着を促すため、プライマーの塗布は化成コーティングの塗布から3〜4日間以内に実施した。
【0131】
1つの発見は、層状コーティングスキームはスピンコート塗布と同様にスプレー塗布によって塗布できることであった。層を“ウェットオンウェット”で塗布することも可能で、すなわち各層は層の間に乾燥すること無く互いの上に塗布された。これにより層状コーティングアプローチは抑制剤/樹脂の不相溶性の問題に対するさらにより実用的な解決策となる可能性がある。
【0132】
プライマーの塗布の前に、CCCを水漏れおよび希酸耐性に関して試験した(4%硝酸液滴をクロメート化成コーティング上に10分間置くことはCCCに損傷を与えないはずである)。
【0133】
これらの試験からの結果は次のことを示した:
中和されたZn(DMcT)を層状コーティングにおいて用いたところ、いくつかの最高の結果を生み出した。3枚のパネルのうち3枚ともが、880時間塩スプレーにさらした時点で合格しており、まだ試験中である。
【0134】
このセットにおいて他の良好な性能を有していたものはポリDMcTを含んでいた。図4のスキームに従ってそれをスピンコートし、層の間で乾燥させた。このセットにおいて、3枚のパネルのうちの2枚が、880時間の時点で合格していた。
【0135】
別の興味深い観察は、図8のコーティングスキームはポリDMcTが化成コーティングと直接接触しているコーティングスキームよりも性能がよかったことである。研究は、DMcTがクロメート化成コーティングと相互作用するという証拠を見出した。クロメート化成コーティングは、ポリDMcTまたはポリDMcT、PANiDMcT、もしくはこのCRAのいずれかの他の源から放出されたDMcTに好ましくない影響を及ぼし得ると考えられていた。
【0136】
2セットの、3枚のホスフェート処理鋼パネルをスプレー被覆した。1セットはブランク対照であった;他方は2層のプライマーの間に挟まれたポリDMcTの層を含有していた。ポリDMcTコーティングは対照と比べて耐腐食性においてかなりの改善を示した。
【0137】
良好な結果のスプレー塗布したプライマーは、DMcTを含有していた。これはポリDMcTがよい性能を示したより以前の試験から逸脱するものであった。しかし、スプレー塗布したDMcTを含有するコーティングは、上述したポリDMcTを含有するコーティング程は性能がよくなかった。
【0138】
層状コーティングにおいて、DMcTは依然として次のプライマー層を通って移動することができる可能性がある。スプレー塗布したパネルにおいて、薄緑色のプライマーの上に黄色の領域が観察された。これらの黄色の領域において付着の失敗があり、一方で黄色の色合いを示さなかった領域は付着試験に合格した。DMcT層はプライマー配合物中の溶媒により再可溶化されるようである。
【0139】
むき出しのアルミニウム(クロメート化成コーティング無し)に塗布された非クロメートプライマーは、それらがクロメート化成被覆されたアルミニウム上に塗布された場合程は性能がよくなかった。
【0140】
実施例8
これは実施例5に記述したスピンコートされた試料の反復試験、および実施例7で記述したような類似の交互層の系のスプレーガンを用いた塗布を説明するものである。
【0141】
用いたバインダーポリマーは、MIL−PRF−23377Jの範囲に入る溶剤型、高固体配合物であった。パートAに関する構成物には、Epon1007−HT−55、Epon1001−B−80、添加剤、着色剤および溶媒が含まれていた。パートBにはEpi−cure3213および溶媒が含まれていた。パートAおよびBを混合し、混合の後30分〜4時間の間に塗布した。抑制剤無しのプライマーの配合は、下記の表9に示した通りであった。
【0142】
表9:溶剤型エポキシプライマー(P5)、クロメート入りで無いもの。
【0143】
【表9】

【0144】
これらの配合物のほとんどは実施例5で用いた配合物と類似しているか、またはその変形である。加えて、いくつかのコーティングは中和されたZn(DMcT)を含有していた。
【0145】
このセットと実施例5で記述したコーティングとの間の別の違いは、このセットでは配合スキームの多くがスプレー塗布され、これらのいくつかは“ウェットオンウェット”でもスプレーされたことである。
【0146】
中和されたZn(DMcT)が層状コーティングにおいて用いられ、それは良好な結果をもたらした。改質したZn(DMcT)を含有する層状コーティングの例を図5に示す。3枚のパネルのうちの3枚が、2500時間塩スプレーにさらした時点で合格していた。これは層が塗布された際のパネル表面に渡る抑制剤の粗悪な分布にもかかわらずであった。この抑制剤の追加の研究は、キシレン中の抑制剤のスラリーのスプレー塗布を用いた。
【0147】
このセットにおける他の良好な性能を有するものは、ポリDMcTが含有していた。それは図6のスキームに従ってスピンコートされ、層の間で乾燥させられた。3枚のパネルのうちの2枚が880時間の時点で合格しており、3枚のパネルのうちの1枚は2000時間について合格した後2500時間の時点で不合格であった。
【0148】
実施例9
この実施例は、層状スキームまたは2個の別のスプレーを同時に適用して複合コーティングを得る複合スキームのどちらかを用いてスプレーすることによる本発明の実施態様のコーティングの塗布を説明するものである。
【0149】
この試験の目的は:スプレー塗布を用いて、実施例5で記述した、元々はスピンコーティングにより塗布されたコーティングから、最高の層コーティングを再現すること、2個のスプレーガンの機構を用いて、同一の装置で層を塗布すること、2個のスプレーガンを修正して樹脂および抑制剤のスプレー流を混合することが樹脂および抑制剤を別の層で塗布することと同じくらいうまく働くか否かを試験すること−コーティングはこの系を用いて単一の層で塗布することができるだろう、中和されたZn(DMcT)をスプレー塗布したコーティングに含めること、ならびにパネルを加速させた硬化スケジュールを用いずに試験の前に室温で2週間硬化させることにより、層状アプローチをより実用的にすることである。
【0150】
配合物/塗布
プライマーは実施例5および7で記述したものと同一の配合であった。コーティングは、長さ約18インチの棒にすえつけられた2個の重力供給式スプレーガンから塗布された。この配置により、両方のガンは同時に操作することができた。一方のガンは高固体エポキシプライマーを含有し、他方のガンはキシレン中ですり潰し分散させたCRAのスラリーを含有していた。多層の場合のそれらのコーティングに関して、ガンのスプレー流の間に仕切りが設置された(図7参照)。混合スプレーとして塗布されたプライマーコーティングに関しては、仕切りは取り除かれ、スプレーガンは互いに内向きに角度をつけられた(図8)。様々なコーティングスキームは4種類の非クロム抑制剤−DMcT、ポリDMcT、PANiDMcTおよび中和されたZn(DMcT)を含有していた。一般に行われているやり方でスプレー塗布したクロメート対照のセットも含まれていた。
【0151】
塩スプレー試験
この実施例におけるコーティングは、実施例5および7で記述したスピンコートされた試験品の有望な結果を綿密に調べるために設計された。実施例7で記述したコーティングには、コーティングをスプレー塗布で層にする第1の試みが含まれていた。残念ながら、その実施例のスプレー塗布したコーティングは塩スプレー試験において性能が劣っていた。本実験からの塩スプレーの結果は、最初の1000時間の試験を通じて非常に優れていた。
【0152】
重要な所見:
PANiDMcTを用いた“混合スプレー”は最高の働きをし、次がポリDMcTの多層であった;
混合スプレーコーティングスキームは多層プライマーよりも塗布が容易であった;
多層の系における中和されたZn(DMcT)は有望な結果を示した。3枚のうちの1枚のパネルが1000時間の時点で合格していたが、2枚の不合格となったパネルのうち、1枚は不合格と関係のありそうな欠点のある罫書きを有していた;
PANiDMcTは混合スプレーアプローチにおいてのみうまく働いた。それは層状アプローチにおいて優れた抑制を示さなかった;
層状アプローチにおいて、抑制剤の単一の層にプライマーの単一の層が続くコーティングスキームは、交互に多層重ねたものよりはうまく働かなかった。
【0153】
クロメート対照プライマーがこのセットにおける最高性能のプライマーより大きな抑制をもたらすことは決して無かった;
多くのパネルは、500時間〜1000時間の指標の間に技術的に不合格となったが、これらの多くは罫書き中のかろうじて検出できる塩がついた領域のために不合格となった。これらの領域は罫書きの長さの数パーセント未満を含んでいたが、罫書きの残りの部分は完全に光っていた;そして
実施例7とは異なり、ふくれ(blistering)はこのセットではほとんど問題でなかった。これはより優れたクロメート化成コーティングのためか、または上昇させた温度においてパネルの硬化を加速させずにパネルを室温で2週間硬化させたためである可能性がある。
【0154】
柔軟性試験:
このセットに関して、柔軟性試験は問題をはらんでいた。非クロムCRAを含有するコーティングは不合格となり、一方でクロメート対照および陰性(CRAではない)対照の1つが合格した。一見すると、その不合格はコーティングが非クロムCRAを含有していたか否かと関係があるようである。しかし、合格したか不合格であったかにはコーティングの厚さが大きな役割を果たした可能性がある。陰性対照を、2つの異なる形式、単一の層およびより厚い多層コーティングにおいて試験した。米軍用規格により推奨されるコーティングの厚さの範囲は0.6〜0.9ミルである。合格した単一の層のコーティングは、0.5ミルのコーティング厚みを有していた。不合格となった多層コーティングは、1.4ミルのコーティング厚みを有していた。合格したクロメート対照は、0.4ミルのコーティング厚みを有していた。非クロムCRAを含有する2種類のコーティングは合格に非常に近く、きわどい不合格と記録された。これら二種類のコーティングの厚さは米軍用規格により推奨される範囲内に入っており、従って合格した2種類の対照コーティングよりも厚かった。この理由から、CRAは、影響がもしあるとしても柔軟性にほとんど有害な影響を及ぼさず、柔軟性の不合格は配合物の調整により対処できると信じられている。
【0155】
付着
試験した全ての試験品は乾式テープ付着試験に合格した。
湿式テープ付着試験からの結果は正確ではなかったかもしれないが、それらは層状コーティングアプローチでも優れた付着がなお達成できることを証明したかもしれない。1種類を除く全てのコーティングの系が不合格であった。ポリDMcTを含有する合格した試験品に関するコーティングスキームを図9に示す。不合格のものにはクロメートおよび陰性対照が含まれていた。この理由から、コーティングの塗布または試験の間に、おそらくは塗装の前の表面の準備の間に何かが不適切に機能したことが疑われる。図9により表した試験品は、支持体に直接隣接する抑制剤の層の潜在的な弱さを考えると、付着試験に合格するのは最も難しいと予想されていただろう。その問題にも関わらず、結果は多層の系に関して優れた付着の結果が達成できることを示唆している。
【0156】
この実施例のコーティングの継続した試験は、次の所見をもたらした:
最初の1000時間を通して、PANiDMcTを用いて複合コーティングを形成する“混合スプレー”が全体で最高の働きをし、ポリDMcTの多層がそれに続いた。1500および2000時間の指標の後、混合スプレーPANiDMcTパネルの性能が急速に衰えた。この時間の間に、わずかな色の変化が見られた。もしこの色の変化が脱ドーピングによるものなら、脱ドーピングは抑制剤が激減したことを意味するため、色の変化は腐食保護の低下と相関がある可能性がある。最高の働きをした中和されたZn(DMcT)のセットの性能は、最初の1000時間を越えたころはそれ程よくなかったが、それらは2000時間の指標を越えてポリDMcTまたはPANiDMcTのいずれかよりもよく耐えた。
【0157】
混合スプレー法のみにおいて、中和されたZn(DMcT)およびPANiDMcTは最高の結果をもたらした。PANiDMcTは、著しく質が落ちる前の最初の1500〜2000時間の間、クロメート対照に匹敵していた。混合スプレーZn(DMcT)はより長くもちこたえ、試験が終わった3000時間の時点でクロメート対照に匹敵していた。
【0158】
PANiDMcTは混合スプレーアプローチでのみうまく働いき、層状アプローチでは優れた抑制を示さなかった。
層状アプローチにおいて、抑制剤の単一の層にプライマーの単一の層が続くコーティングスキームは、一般に交互に多層重ねたものよりはうまく働かなかった。
【0159】
クロメート対照プライマーがこのセットからの最高性能のプライマーより大きな抑制をもたらすことは決して無かった。
多くのパネルは、500時間〜1000時間の指標の間に技術的に不合格となったが、これらの多くは罫書き中のかろうじて検出できる塩がついた領域のために不合格となった。これらの領域は罫書きの長さの数パーセント未満を含んでいたが、罫書きの残りの部分は完全に光っていた。
【0160】
実施例10
この実施例は、複合スプレー塗布コーティングにおいてCRAの濃度を制御する試験を説明するものである。
【0161】
非クロムプライマーミルベース(mill base)およびスプレー装置は、実施例8において混合スプレーに関して用いたものと類似のものであった。
研究はCRA:PANiDMcT、ポリDMcTおよび中和されたZn(DMcT)2の3種類に集中した。これらのCRAを様々な濃度で、クロメート化成被覆された2024−T3(塩スプレー、乾式テープ付着)および陽極酸化2024−T0(柔軟性)に塗布した。3種類の最も有望な非クロメートコーティング配合物を、更なる試験のために選択した。追加した変更点はアルミニウム合金、合金の前処理およびトップコートの塗布であった。変更点および試験を表10に示す。商業的に入手可能なクロメート対照プライマーもまた、それぞれの試験に含まれていた。
【0162】
表10:非クロメートCRA配合物の追加試験のための支持体、前処理および指定された試験。
【0163】
【表10】

【0164】
注:BAM−PPV前処理はChina Lake,CAのNAVAIRにより供給された。クロメート化成コーティングはCleveland,OHのWagner Rustproofingにより塗布された。クロム酸の陽極酸化処理はLorton,VAのAlexandria Metal Finishersにより実施された。トップコートを有するパネルは、溶剤型ポリウレタンであるDeft 03−W−127A、バッチ#66539で塗った。ポリウレタントップコートは、プライマーを塗布した後4 1/2〜5時間後に塗布された。
【0165】
赤外分光法
反射率の測定にはGolden Gate Sampling Accessoryを用いて、赤外スペクトルをPerkin Elmer、Spectrum One FTIRにより記録した。試験した試料にはPANiDMcT、ポリDMcT、およびDMcTダイマーが含まれていた。
【0166】
重量分析
この実験の目的は、PANiDMcT生成物中のポリアニリンの量を決定することであった。最初にPANiDMcTを乳鉢および乳棒で細かい粉末にすり潰した。4つの0.20±0.01gのPANiDMcTの試料を、50mLの0.1M NaOH中に1〜4日間浸した。水酸化ナトリウム溶液の体積は、PANiDMcT試料中のDMcTおよびDMcT誘導体の量に対して過剰なモルのNaOHを与えた。毎日続けて1つの試料を取り、濾過してすすいだ。固体の残留物を赤外線により分析し、PANi塩基であることを決定した。それぞれの試料からの濾液およびすすいだ水を合わせて取っておいた。
【0167】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
GPC試験は、ポリDMcTおよびPANiDMcTを分析するために以前に利用した方法の再検討に集中した。試験した試料の1つは、上記のPANiDMcTの重量試験からの固体の残留物を含んでいた。ポリDMcTおよびDMcTモノマーも試験した。
【0168】
元素分析
ポリDMcTおよびZn(DMcT)の試料を分析のために外部の分析試験所に送った。
【0169】
サルフェート分析
PANiDMcT生成物の潜在的な混入物はサルフェートである。サルフェートは、重合反応のための酸化剤として用いられるペルオキシ二硫酸アンモニウムの還元からの合成において生成する。PANiDMcT粒子中に捕足されているかまたはPANi中にドーパントとして組み込まれているために、サルフェートを洗浄工程で除去することは困難である可能性がある。硫酸としてのサルフェートはPANiDMcTの高い酸性に寄与している可能性があり、サルフェートドーパントは放出のために利用可能なDMcTドーパントの量を減少させるであろう。
【0170】
サルフェート分析は、外部の分析試験所により、イオンクロマトグラフィーの技法および伝導度検出器を用いて実施した。2種類の試料を提出した−上記の重量分析の項で記述された1日目および4日目の実験からの濾液およびすすいだ水を合わせたものである。
【0171】
エネルギー分散型分光法(EDS)
DMcTのEDSを環境制御型SEMで実施した。目的はEDSによってN、S、およびOに関する元素分析データを得られるかどうかを試験することであった。
【0172】
塩スプレー試験(ASTM B117)、2000時間さらした時点において
塩スプレー試験は2024−T3および7075−T6のアルミニウム合金を包含していた。前処理にはクロメート化成コーティングおよびBAM−PPV非クロメート化成コーティングが含まれていた。トップコートしたプライマーの試験品も試験に加えた。2000時間の時点での塩スプレー試験の結果の概要を下記で提供する。最も重要な所見の1つは、塩スプレー試験において最も性能が良かったものが、BAM−PPVに塗布した非クロメートプライマーであったことである。このクロメートを含まない系は、対応するクロメート対照よりも性能がよかった。このセットのためのクロメート対照は、Deftから商業的に入手可能な溶剤型プライマーであり、これはクロメートプライマーに関する第23377J号規格を満たしている。
【0173】
CCC2024−T3:
CCC2024−T3上で最も性能がよかったものは、PANiDMcTおよび中和されたZn(DMcT)のプライマーのセットである。5セットのPANiDMcTプライマーを試験した。最も高い抑制剤濃度は固体の重量を基準として約29%であり、最も低いものは約14%であった。これらの2セット、および別の15%のものが最も性能が低かったものであった。中間の範囲の濃度である17%および21%が最高の性能をもたらした。17%の濃度は、クロメート対照を含めて、CCC2024−T3上での試験セットのあらゆるものの中で最も多く合格をもたらした。より低い濃度はより高い濃度よりも性能がより大きく低下するが、取りうる最高の濃度にも限界があるようである。乾式テープ付着試験において、29%PANiDMcTを含有するコーティングから抑制剤の一部が物理的に取り除かれた可能性があるようだった。より低い塩スプレーの性能はこの問題と関係している可能性がある。3セットのZn(DMcT)はクロメート対照と比較して性能がよかったが、1500時間さらした時点では、1セットからの1枚のパネルのみが合格していた。ポリDMcTは2セットに含まれていた。これらのセットはいずれもクロメート対照ほどは性能がよく無かった。
【0174】
トップコートを有するCCC2024−T3:
トップコートされたプライマーの結果は、クロメート対照を含めて、500時間さらした後で合格しているものが無かったという驚くべきものであった。しかし、中和されたZn(DMcT)プライマーはクロメート入りプライマーと同じぐらい性能がよかった。2個のPANiDMcTのセットは現場では多くの小さなふくれを有していた。性能を改善し得る変更の1つは、その厚さを増加させるための第2層目のトップコートの塗布である。
【0175】
CCC7075−T6:
Cr対照も含めて、4セットのうちでCCC7075−T6上で最も性能がよかったものは、中和されたZn(DMcT)プライマーのセットであった。これらは1000時間までの合格をもたらした後1500時間で不合格となった。クロメート対照は僅少差であり、1000時間の時点で合格した後、1500時間で不合格となった。1500時間の時点でのクロメート対照の分解は、中和されたZn(DMcT)プライマーの分解よりも深刻であった。2個のPANiDMcTプライマーのセットは500時間の時点で不合格であり、塩スプレーから除いた。
【0176】
BAM−PPVで前処理した2024−T3:
このセットで最も性能のよかったCRAは中和されたZn(DMcT)であった。このセットは2000時間の時点で合格であり、クロメートを含まない系がクロメート入り塗装の系よりもすぐれた腐食保護を提供することを示した。図10は塩スプレーにさらしてからちょうど500時間後に生じた罫書きの黒ずみを示している。罫書きは時間が経つと次第にさらに橙色/赤色に変わった。発明者の経験では、この種の色の変化は時として非常に小さな孔食の結果である。図11は塩スプレーに1500時間さらした後の罫書きの光学顕微鏡写真を示している。色は非常に小さな孔食のためであるようには見えない。むしろ、罫書きにおいてコーティングが形成されている可能性があるかもしれない。罫書きにおいて不動態化している物質の特性解析が将来の分析研究の目的であるかもしれない。
【0177】
興味深いことに、このセットはクロメート化成被覆された支持体上に塗布された同一の中和されたZn(DMcT)プライマーを有するセットよりも性能がよかった。DMcTはクロメート化成コーティングと反応し、従ってDMcTによって提供される腐食保護を弱める可能性がある。BAM−PPV前処理は抑制剤と相互作用しないか、または好ましい方向で相互作用する可能性がある。
【0178】
PANiDMcTプライマーおよびクロメート対照はふくれがひどかった。また、乾式テープ付着試験は前処理および支持体の間の付着の不足を示した。非クロメート前処理の供給者に連絡した。前処理の前の表面の準備は、2024−T3支持体に順応するように変える必要があるかもしれない。付着を改善することで、耐腐食性を改善させ、ふくれを軽減するだろうと考えられる。
【0179】
糸状腐食試験
糸状腐食に関して試験した全てのパネルが合格した。これらにはクロメート対照プライマー、PANiDMcTプライマーおよび中和されたZn(DMcT)プライマーの2種類が含まれる。
【0180】
付着試験
乾式テープ付着試験において、クロメート化成被覆された2024−T3に塗布された14種類のコーティング全てが、最高の格付けである5Bを与えられた。BAM−PPVで前処理した2024−T3に塗布された4種類のコーティングのうちの3種類は、より低い格付けを獲得した。その低い格付けは、クロメート対照に関しても同様であった。付着の不足は、前処理およびプライマーよりもむしろ前処理と支持体との間で観察された。
【0181】
湿式テープ付着試験において、クロメート対照のみが合格した。試験した3枚の非クロメートパネルのうちの1枚は、約10〜20%のフィルムのはがれのみにより不合格であった。更に、これは乾式テープ付着試験においてBAM−PPVに対して最高の付着を有しているものもあった。この試験は将来修正されるであろう。この点に限って用いられた支持体は、脱酸化Alクラッド2024−T3であり、米軍用規格23377で指定された支持体であるが、この試験はクロメート化成被覆された2024−T3を支持体として用いた方がより適当である可能性がある。
【0182】
柔軟性試験
9種類のコーティング配合物のうちの7種類が柔軟性試験に合格した。不合格であったのは、中和されたZn(DMcT)プライマーおよびクロメート対照である。これらの2種類のプライマーは、推奨される0.9ミルよりも大きい厚さでスプレー塗布され、試験した9種類のコーティングのうちで最高の乾燥フィルムの厚さを有していた。フィルムの厚さを減少させることで合格率が改善するはずである。
【0183】
抑制剤の分析による特性解析
赤外分光法
異なるバッチからのポリDMcTに関するスペクトルは、組成にいくらか差異があることを示している。試料#1および試料#2のスペクトルの比較は、両方に共通する興味深い特徴は1705〜1710cm−1周辺のピーク位置であることを示した。これらのピークはモノマーには存在しない。1690〜1760cm−1の範囲のピークはしばしばカルボニル基に帰せられる。もしピークが実際にカルボニルであるなら、これは、アセトンなどの捕捉された溶媒、または望ましくない副産物の存在を示している。また、試料#1は1652にピークを有している。これはポリDMcTの他のスペクトルにも時々現れる。1つの可能性は、他の官能基との共役によりカルボニルが吸収する波長が短くなったことである。他の可能性としては、C=N伸縮と結合した他の官能基の何らかの組み合わせが含まれる。興味深いことに、参考文献の1つは、DMcTがアセトンまたはメチルエチルケトンと混合されると分解することに言及している。
【0184】
元素分析
2種類のポリDMcT試料および1種類の中和されたZn(DMcT)試料の分析を表11〜13に示す。2種類のポリDMcT試料が選択されたのは、それらが、赤外線に従うと、最も類似していない2種類の試料を代表していたからであった。これらの2つの赤外スペクトルをそれぞれ図12および図13に示す。
【0185】
表11.ポリDMcT、試料#1の元素分析。
【0186】
【表11】

【0187】
表12.ポリDMcT、試料#2の元素分析
【0188】
【表12】

【0189】
*水素の検出限界は0.5%である。
中和前のZn(DMcT)の元素分析
【0190】
【表13】

【0191】
表13のデータの用途の1つは、Zn(DMcT)の式の決定である。炭素の亜鉛に対するモル比を比較すると:
C=1.1、Zn=0.28
(炭素のモル)/(亜鉛のモル)=3.93
となり、式:Zn(CHNが暗示される。
【0192】
おそらく、製造に用いる条件の下では、Zn2+はDMcTの最も酸性のプロトンとのみ置き換わると考えられる。
要約および結論
PANiDMcTおよび中和されたZn(DMcT)の混合スプレーは、ASTM B117塩スプレー試験に基づくと、有望なCRAである。
【0193】
混合スプレー塗布において、ポリDMcTコーティングは、層にする方法が用いられた場合、他の抑制剤と比べて、それらの性能程は性能がよく無かった。
PANiDMcTは1000〜2000時間塩スプレーにさらす間に有効性を失う。PANiDMcTの性能が低下するにつれて同時に起こる色の変化が見られ、それは脱ドーピングによる抑制剤の供給の枯渇を示している可能性がある。
【0194】
CCC2024−T3上に塗布される最高の非クロメートプライマーはクロメート対照に匹敵する。最も良好な結果のプライマーは、PANiDMcTまたは中和されたZn(DMcT)を含有するものである。
【0195】
完全な非クロメートの系に関して、中和されたZn(DMcT)は最高の結果をもたらした。このプライマーはCCCの代わりにBAM−PPV上に塗布され、2000時間塩スプレーにさらされることに合格した。
【0196】
第1の糸状腐食試験は、クロメートプライマー対照を含めて、試験した4種類の配合物に合格を与えた。
乾式テープ付着は概して良好であった。
【0197】
リバースインパクト試験(柔軟性)は、軍事用規格により推奨されるものよりも厚くないコーティングに関して合格を与えた。
CRAの特性解析のために、いくつかの分析法を利用した。最も有用なものは赤外線、元素分析、およびイオンクロマトグラフィーであろう。赤外線はいくつかのポリDMcT生成物において、異なる官能基の存在を示している。元素分析はZnDMcT着色剤に関する式Zn(CHNを与えた。イオンクロマトグラフィーの結果は、PANiDMcTがかなりの量のサルフェートを含んでいることを示唆しており、もしサルフェートがPANiのためのドーパントとして存在しているならば、PANiの半分がサルフェートでドープされている可能性があるほどに多量である。
【0198】
実施例11
この実施例は、DMcTの酸化によるCr(VI)のCr(III)への還元の有効性を説明するものである。
【0199】
実施例7で記述した実験では、DMcTがクロメート化成コーティングの漂白を引き起こすことが観察された。これが腐食抑制に寄与する化成コーティングの能力に影響を及ぼし得るクロメート化成コーティングの化学変化を示しているのかについて、疑問が生じた。回転ディスク電極(RDE)における酸素還元反応(ORR)を自由にしたり、抑制したりするクロメート化成コーティングの能力に関して、DMcTにさらすことが影響するかを測定するために、電気化学的な実験を実施した。
【0200】
クロメート化成被覆された(CCC)Al 2024−T3パネルをDMcTを含有する水溶液中に置き、24時間浸しておいた。浸した後、パネルを溶液から取り出し、脱イオン水で洗い落とし、回転ディスク電極(RDE)実験に用いて腐食セルにおけるクロメート化成コーティングの活性を測定した。他に、ベースのAl 2024−T3パネルおよび、DMcTにさらしていないクロメート化成被覆されたAl 2024−T3パネルの2枚のパネルも試験した。
【0201】
この実験において、腐食セルを、図14に示すように組み立てた。銅のRDE(Pine Instrument Company,5mm i.d.)をPine Instrument Companyのローテーター(モデルAFMSRX)につないだ。速度制御装置(Pine Instrument Company,モデルMSRX)に取り付けて、ローテーターを、RDEの回転を一定の2000rpmで制御した。
【0202】
RDEの先端とパネルとの間の距離を測定したところ2.5mmであり、実験の間を通して一定に保った。セルを25.0mlの5%(重量/重量)NaCl水溶液で満たした。
【0203】
Gamry PC14ポテンシオスタットにより一定の電圧−0.8VをRDEに印加し、電流を時間の関数として測定した。それぞれのパネルを10000秒間試験した。
実験の結果を図15に図示する。10ksにおける一番上の曲線は、むき出しのアルミニウムパネルに関して観察された陰極電流を表わし、対照として役立つ。10ksにおける一番下の曲線は、CCCパネルに関して観察された陰極電流を表わす。陰極電流の大きな減少は、化成コーティングからのCr(VI)の溶解および陰極電流の源であり銅電極で起こる酸素還元反応の抑制と、それによる腐食の防止が原因である可能性がある。10ksにおける中間の曲線は、DMcTの溶液にさらしたCCCのパネルに関して観察された陰極電流を表わす。電流の減少は赤色の曲線と比較してより少なく、これはコーティング中の利用可能なCr(VI)の量がクロムとDMcTとの間の反応により減少したことを示唆している。
【0204】
DMcTのCr(VI)をCr(III)に還元する能力に関する知識は、コーティングをDMcTとの接触から隔てることにより、Cr(VI)を含むコーティングの耐腐食性の活性をより長い期間維持することができるという発見につながった。DMcTを含有するドメインのCr(VI)を含有するドメインからの隔離は、Cr(VI)とDMcTとの間の反応を防ぐ、または減少させると考えられている。例えば、両方の層の抗腐食の有効性を保持するためには、クロメート化成コーティングをDMcT、またはDMcTを放出するポリDMcTまたはPANiDMcTのような化合物を含有するその隣接する層から離すことが最良である。この分離は、DMcTの層をまたいだ移動を防ぐか、または減少させるポリマーによって提供することが出来る。エポキシ層はその分離を提供することができる。
【0205】
この明細書に引用した全ての参考文献を、全ての論文、出版物、特許、特許出願、発表、テキスト、報告書、原稿、パンフレット、書籍、インターネットの情報配信、雑誌の記事、定期刊行物、および同様のものを制限なく含めて、そのまま参照により本明細書中に援用する。本明細書中の参考文献に関する議論は、単にそれらの著者によりなされた主張を要約することを意図するものであり、いずれかの参考文献が先行分野を構成するという自認をするものでは決してない。出願人らは引用した参考文献の正確さおよび適切さに挑戦する権利を保有する。
【0206】
上記を見れば、本発明のいくつかの利点が達成されたこと、および他の有利な結果が得られたことが分かるであろう。
本発明の範囲から逸脱すること無く、当業者により上記の方法および組成において様々な変更がなされることが可能であるが、上記の記述に含有され、添付の図面で示される全ての事柄は、例示としてのものであり制限する意味におけるものでは無いと解釈されるべきであると意図している。加えて、様々な実施態様の観点は全て、または部分的に交換可能であることは理解されるべきである。
【符号の説明】
【0207】
101 コーティング
201 第1ドメイン
301 金属
401 第2ドメイン
【図1(A)】

【図1(B)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーポリマーを含む第1ドメイン;ならびに
該第1ドメインと直接接触し、
a)メルカプト置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類;
b)チオ置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類;
c)有機ホスホン酸のダイマー、トリマー、オリゴマー、もしくはポリマー、またはそれらの塩もしくはエステル;
d)a)、b)、またはc)のいずれかの組み合わせ;
e)メルカプト置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩;
f)チオ置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩;ならびに
h)a)〜f)のいずれかの組み合わせ;
からなる群から選択される腐食応答剤を含む第2ドメイン;
を含む、腐食を受けやすい金属の表面のための耐腐食性コーティング。
【請求項2】
第1ドメインが実質的に腐食応答剤を含まない、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
第2ドメインが腐食応答剤を臨界顔料体積濃度より高い量で含有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
金属表面と耐腐食性コーティングとの間に位置するクロム化成被覆をさらに有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
金属表面と耐腐食性コーティングとの間に位置するポリ[ビス(2,5−(N,N,N’,N’−テトラアルキル)アミン)−1,4−フェニレンビニレン](BAMPPV)の層をさらに有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
第1ドメインおよび第2ドメインが隣接する層である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
第1ドメインおよび第2ドメインが、第1ドメインおよび第2ドメインのそれぞれの多数の別個であるが接触しているかまたは重なり合っている領域を含む単一の層を一緒に形成している、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
第1ドメインおよび第2ドメインが隣接する層であり、第1ドメイン層がクロム化成被覆と直接接触しており、クロム化成被覆を第1ドメイン層を覆う第2ドメイン層から隔てている、請求項4に記載のコーティング。
【請求項9】
コーティングが第1ドメイン層と第2ドメイン層との追加の順序を少なくとも1つ含み、第1ドメインの最上層をさらに有する、請求項8に記載のコーティング。
【請求項10】
第1ドメインおよび第2ドメインが第1ドメインおよび第2ドメインのそれぞれの多数の別個であるが接触しているかまたは重なり合っている領域を含む単一の層を一緒に形成しており、コーティングがバリヤー層によりクロム化成被覆から分離され、隔てられている、請求項4に記載のコーティング。
【請求項11】
腐食応答剤がポリ(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)(ポリDMcT)を含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
腐食応答剤がポリアニリンおよび2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの塩(PANiDMcT)を含む、請求項1に記載のコーティング。
【請求項13】
硬化してバインダーポリマーを含む第1ドメインを形成する配合物;ならびに
a)メルカプト置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類;
b)チオ置換有機物質およびそれらのダイマー類、トリマー類、オリゴマー類、またはポリマー類;
c)有機ホスホン酸のダイマー、トリマー、オリゴマー、もしくはポリマー、またはそれらの塩もしくはエステル;
d)a)、b)、またはc)のいずれかの組み合わせ;
e)メルカプト置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩;
f)チオ置換有機物質および固有導電性ポリマーの塩;ならびに
h)a)〜f)のいずれかの組み合わせ;
からなる群から選択される腐食応答剤を含み、硬化して第2ドメインを形成する配合物;
を金属に塗布することを含み、
ここで、硬化してバインダーポリマーを含む第1ドメインを形成する該液体配合物の塗布および硬化して第2ドメインを形成する該液体配合物の塗布は、順次または同時である、
金属の表面を腐食から保護する方法。
【請求項14】
金属が鉄、鋼鉄およびアルミニウムから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
金属が銅を含有するアルミニウム合金である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
塗布工程が耐腐食性コーティングの塗布の前にクロム化成被覆を金属表面に直接塗布することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
塗布工程が耐腐食性コーティングの塗布の前にポリ[ビス(2,5−(N,N,N’,N’−テトラアルキル)アミン)−1,4−フェニレンビニレン](BAMPPV)の層を金属表面に直接塗布することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
塗布工程が、硬化して第1ドメイン層を形成する液体配合物を金属表面に塗布し、次いで硬化して第2ドメイン層を形成する液体配合物を該第1ドメイン層に塗布することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
硬化して第1ドメイン層を形成する液体配合物を第2ドメイン層に塗布し、次いで硬化して第2ドメイン層を形成する液体配合物を該第1ドメイン層に塗布するという少なくとも1つの順序と、硬化して一番上の第1ドメイン層を形成する液体配合物を最後の第2ドメイン層に塗布することとをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
2個のノズルからのスプレーパターンが金属表面で重なり合って、第1ドメインおよび第2ドメインのそれぞれの多数の別個であるが接触しているかまたは重なり合っている領域を含む単一の層コーティングを形成するように向けられた別々の各ノズルから、硬化して第1ドメインを形成する液体配合物および硬化して第2ドメインを形成する液体配合物を金属表面上にスプレーすることによりコーティングが塗布される、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
塗布工程が約0.015mm〜0.025mmの間の厚さを有するコーティングの形成をもたらす、請求項13に記載の方法。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−520096(P2010−520096A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552727(P2009−552727)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/002965
【国際公開番号】WO2008/143735
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509249900)
【出願人】(509249922)
【出願人】(509249874)
【出願人】(509249885)
【出願人】(509249896)
【Fターム(参考)】