説明

多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品とその製造方法

【課題】
各層の食品の主成分が練りうに以外である場合に、多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品で加熱殺菌を必要とする食品を製造するについて、各層間の滲みによる外観の劣化の防止のための技術構成を確立すること。
【解決手段】
多層を構成する各層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品に各々の重量の0.2〜0.5%の高粘度ゾル性寒天を含有させ、所望により該寒天の1/50〜1/100(w/w)のカルシウム化合物を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工食品分野、より詳しくは高粘度、あるいは/および半ゲル状食品とその製造技術に関する分野に属し、用いる食材により農産物加工、あるいは/および水産物加工の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
農産物加工食品、あるいは/および水産加工食品の分野において高粘度、および半ゲル状食品は製品形態として定着している。農産加工食品分野では、例えば舐め味噌類、ジャム類、バター、マーガリン、クリームチーズ等を例示でき、水産加工食品の分野では練りウニ、アミ塩辛等をはじめとする塩辛類[例えば、フィリピン等で日常的に副食ないしは調味料として食されているバゴーン]、海苔佃煮等をあげることができよう。
【0003】
近年、以上のような伝統的な高粘度、あるいは/および半ゲル状食品を複合させて新規、あるいはリニューアルした加工食品として開発・販売しようとする傾向が見られる。団塊の世代以上の高年齢層は子供時代に米飯主体の食生活を経験しているため、米飯食に合う、ある程度食塩濃度の高い副食を好む傾向があり、高年齢化に伴う昔回帰現象からこのような加工食品が再び売れ始める傾向が見えてきた。また、高齢化に伴う歯や歯茎の健康状態の劣化、咀嚼力の衰え等もこの種の加工食品のニーズを高めるものと予測される。
【0004】
このような消費市場の変化に対し、伝統的な加工食品だけでなく、それらを再加工した、見栄えのよい加工食品の開発ニーズが生じている。
【0005】
このようなニーズに迎合すべく、例えば特許文献1には海苔佃煮とウニ可食部を別々に、寒天、キサンタンガム、エコーガム等の増粘剤と適宜に混和して粘稠性を付与し、これらを容器内に成層させて充填し、密封した後に適宜加熱殺菌して製品化する技術が公開されている。
【0006】
本発明者は佃煮海苔、明太子、練りウメ、練りワサビ、あるいは佃煮海苔の任意の二つの組み合わせの場合を特許文献1の技術により試作してみたが、殺菌温度が90℃を越え、加熱時間が30分間を越える場合には、しばしば上層と下層との境界面に滲み現象が起き、各層の色彩が浸透し合って仕上がり外観が劣悪になることを経験した。特に、殺菌工程を連続化し、ベルトコンベアー、ネットコンベアー等のような移送手段によりスチーマー、あるいはクッカー中に通して加熱殺菌する場合には、移送手段に由来する振動により滲みが短時間[10分間くらい]でも起こった。特許文献1の実施例では上層が練りウニの場合を記述しているが、おそらく、ウニはタンパクを多く含むため保水性が高く、高温になっても離水が起こりにくく特に困難なく加工できたものと推測する。
【特許文献1】 特許公開平6−90719
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は二層以上の多層の、層境界面に滲みのない、加熱殺菌された高粘度、あるいは/および半ゲル状食品を容易に、かつ確実に製造・提供する目的を有する。ただし、多層の一層が練りウニのような、本来、滲みを生じない食材を主成分とする場合を除く、高粘度、あるいは半ゲル状で外観の優れた多層の食品とその製造技術を提供するものである。より詳細には、多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品での、加熱殺菌が条件90℃を越え、30分間を越えて実施する場合にしばしば観察される層境界面の滲み現象を防止する方法を提供する。特に、連続的に加熱殺菌を実施する場合、移送手段に由来する振動と熱による拡散の相乗効果により、この滲み現象は甚だしく加速されるが、このような外観劣化を抑制する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
液状、あるいは粘稠状の食品の粘度を上昇させ、あるいは半ゲル状にして、異種の食品を成層させる場合の境界面の相互浸透、ないしは混合を回避する技術は古くから知られている。例えば、和菓子の水菓子には凝固剤として寒天や葛粉等を用い、熱時に液を分け、一方だけに、あるいは各々に色の異なる食材、あるいは食用色素類を混和して色違いとし、成層させて容器に充填し、冷却・固化させてから一定の形状に切り出して盛り付ける例があり伝統的な水菓子の製造法として著名である。
【0009】
このような伝統的な技術は下層液充填後に少し冷却して凝固ないし粘度を大幅に上昇させて間なしに上層液を流し込むことにより容易に実施できる。ただし、下層が凝固した後に上層の寒天液を注加して冷却する場合には境界面の撹乱のおそれはないが、凝固後の切断等の取り扱い時に二層が容易に剥離する傾向がある。冷却して下層が半凝固状態、ないしは高粘度状態になったときに上層を注加して凝固させる場合には剥離のおそれは軽減されるが、境界面を撹乱しないように静かに注化する必要があり、相当の技術・熟練を必要とし工場での量産にはそぐわない。
【0010】
本発明の場合には前項の和菓子の例のような、下層の冷却による固化、ないしは高粘度化現象を利用することなく、多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状の食品を製造する。ここに、高粘度とは常温、あるいは冷蔵状態において容器を45度以上傾けても短時間[数分間以内]には流動しない程度の粘度を有することを言う。[ただし、それ以上の時間を掛けると徐々に流動する]半ゲル状とは一見ゲル状に固化し45度以上に傾けて相当時間放置しても流動しないが、箸・スプーン等でずり応力を加えると容易に流動状態になることを言う。このような例は特許文献1において公開され、その実施例によれば下層が佃煮海苔、上層が練りウニの場合には通常の配合技術の範囲内で上首尾に加工できる旨が記載されている。
【0011】
本発明者はより色彩の美しい組合せを模索し、明太子(紅色)、練り梅(赤色)、あるいは練りワサビ(緑色)、佃煮海苔(黒色)の各層を適宜の組合を試作した。しかし、加熱温度が90℃を越え、加熱時間が30分間を越える加熱殺菌を施す場合にはしばしば上層と下層との境界面で撹乱が起こり、色彩の滲みにより見栄えのよい製品とならなかった。このことは、特に量産を前提に、移送手段を用いてスチーマーやクッカーのような加熱手段中を通過させて加熱殺菌を試みる場合に顕著であり、10分間程度の短時間で滲みが起こった。
【0012】
本発明者は明太子、練り梅、練りワサビ、佃煮海苔の適宜の組合せの場合に常温域で高粘度性、あるいは/および半ゲル状の物性を付与し、かつ加熱殺菌で境界面の滲みを防止しうる食品素材を種々検索し、ある種の特殊仕様の寒天がこの目的に適していること、およびある種の添加物を併用すると移送手段を用いる場合でも極めて安定した状態で明瞭な境界面を有する積層した加工食品を製造しうることを見出だし本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の目的を実現するには特殊用途に用いられる高粘度ゾル性寒天の添加が適していることを見出だし本発明を完成した。ここに言う特殊用途とは、一般の寒天が常温で食感のよい(咀嚼すると簡単に崩れて嚥下容易な状態になる)ゲルを形成する性質にもっぱら着目し、主な用途として常温で食するゲル状食品(つまり、心太様の食品)の製造に使用されることを言う。高粘度ゾル性寒天はもっぱらゲルの食感を楽しむ類の常温下のゲル状食品の製造を主な用途とはせず、添加物として食品の改質に用いることを念頭に開発された製品である。このタイプの寒天は一般的な寒天よりも溶液の粘度が顕著に高く、加熱殺菌時の高温でも色彩の滲みを防止しうる程度の粘度を維持すると推測される。高粘度ゾル性寒天としては例えば、伊那食品工業株式会社[長野県伊那市西春近5074番地]の製品番号T−1が例示される。この寒天は1.5%[w/w]の水溶液濃度で、ゼリー強度が950±50g/ [佃煮用の一般的な寒天である同社の寒天製品S−5では同条件で530±20/ ]、同濃度での90℃でのゾル粘度40.0±5.0mPa・S[S− 5では8.0±2.0]と規格されている。本発明では高粘度ゾル性寒天を食材に対して0.2〜0.5%の範囲で添加する。本明細書の実施例では二つの食材の組合せの場合のみを開示しているが、これ以外にも例えば練りワサビ・佃煮海苔・蟹味噌・アンチョビーペースト・塩辛等の液状ないしはペースト状食材、あるいは、シラス、いりこ、漬物類、ソボロ類等の、米飯の副食として適切な食材を細切したものを、佃煮海苔・味噌類・酒粕・梅肉ペースト等のペースト状食材と混合して全体としてペースト状にした複合食材類に本発明を適用することは当業者の通常の技術水準において容易に類推できる範囲であろう。
【0014】
量産の場合には容器充填品をベルトコンベアー、ネットコンベアー等の移送手段を用いてスチーマー、クッカー等の加熱手段に通して加熱殺菌する方法が一般的であるが、移送手段に由来する振動により境界面の撹乱・滲みが促進される。はなはだしい場合には10分間程度の短時間で撹乱が起きる。この場合に、本発明の高粘度ゾル性寒天を添加しても30分間以上の通常の加殺菌条件で境界面の明瞭性がぼやけ、シヤープな外観を有する製品が得られない場合があった。本発明者はさらに改良を進め、微量のカルシウム化合物の併用添加が振動による層境界面の撹乱・滲みの防止を増強し境界面の明瞭性の維持に極めて有効であることを見出だした。カルシウム化合物は高粘度ゾル性寒天の1/50〜1/100[w/w]程度の添加で充分である。カルシウム化合物として食品添加物として使用可能な、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の無機酸、および有機酸との塩、あるいは水酸化物を使用しうる。また、カキ・ホタテ貝等の貝殻や豚・鶏・牛等の動物の骨を焼いて無機化し粉砕した焼成カルシウム類も使用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば加熱殺菌を必要とする、各層が高粘度、あるいは/および半ゲル状である多層の食品を、境界面の撹乱・滲みなく安定して製造することができ、食品加工業に大きく寄与するものであると信ずる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最適な条件は使用する食材によって多少の差異がある。これは食品加工業の、原料である食材の多様性に鑑みればいたしかたのないことであろう。以下に代表的な事例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されないことは自明である。
【実施例1】
【0017】
A.明太子を用いる場合の処理
明太子としては塊になった状態のものもバラ子も使用することができる。塊の場合で卵膜のあるものは膜を剥離する。適度にほぐしてから箸で掻き回しつつ流動する程度に加水する。通常、バラ子であればバラ子に対して20〜40%[w/w]程度、加水してやればよい。この混合物に対して高粘度ゾル性寒天を0.2〜0.5%添加し、所望により寒天量に対して1/50〜1/100のカルシウム化合物を添加する。混合物を80℃以上に加熱し静かに撹拌すると寒天は溶解して全体が良好な流動性を帯びるようになるので、これを容器内に熱時に注入して充填する。容器としては瓶、耐熱性樹脂容器を使用できるが、製品の見た目、色彩が重要な特性となるので透明のものがよい。
【0018】
B.練り梅を用いる場合の処理
練り梅は箸で掻き回して適度の流動性を有するものはそのまま、流動性のよくない場合には所望の流動性になるまで適度に加水し、これに高粘度ゾル性寒天を0.2〜0.5%添加し、所望により1/50〜1/100量のカルシウム化合物を添加し、前項のようにして処理して充填する。
【0019】
C.二つの食材の成層の具体例
A.項の明太子[高粘度ゾル性寒天0.2%添加、カルシウム化合物無添加]を内径約5cm、内高さ約5cmの透明ガラス瓶中にノズルを用いて約80℃を保持して、ガラス瓶壁に付着しないように約半分まで充填した。ノズルを切り替えてB.項の練り梅[高粘度ゾル性寒天0.2%添加、カルシウム化合物無添加]を同様に明太子層の上に瓶にいっぱいになるまで充填した。密栓し90〜95℃の湯煎で40分間加熱殺菌した。明太子と練り梅の二層の境界は明瞭で赤色系ツートーンカラーの見栄えのよい製品に仕上がった。常温下でこの食品の各層は箸に取るとだれて落ちない程度の粘性を保持していた。
【実施例2】
【0020】
実施例1において明太子と練り梅の各食材に高粘度ゾル性寒天とともに寒天の1.5%相当のカキ殻焼成カルシウムの200メッシュ粉末を添加し各々同様に処理して瓶に充填し密栓した。これを90〜95℃の熱水中にメッシュコンベアーに載せて40分間通過させて見栄えのよい製品を得た。なお、このメッシュコンベアーは駆動部と移送部の支持手段から常時振動を受けていた。[振動に由来する小波が水面に常時観察された]この製品は常温下で実施例1と同様の粘性を有していた。なお、焼成カルシウムを添加しない場合には層境界面の区分の明瞭さが劣る製品に仕上がった。
【比較例1】
【0021】
実施例1において高粘度ゾル性寒天に換えて通常規格の寒天を同様に添加して同様に処理すると二層の境界面の色彩の滲みが起き、境界面のぼやけた、外観の悪い製品となった。
【比較例2】
【0022】
実施例2において高粘度ゾル性寒天に換えて通常規格の寒天を同様に添加し、焼成カルシウムを同様に添加して同様に処理すると二層の境界面の色彩の滲みが起き外観の悪い製品となった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の加工食品は食品加工業の分野で、米飯の副食として好まれる、二種以上の高粘度の、あるいは/および半ゲル状の食品を積層し、各層の境界面に滲みがない、外観の良好な製品の製造に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各層が高粘度、あるいは/および半ゲル状食品から構成され、かつ、各層が0.2〜0.5%の高粘度ゾル性寒天を含み、各層の主成分が練りうに以外の食材で構成され、さらに、各層が滲みを生ずることなく境界面が明瞭であることを特徴とする多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品。
【請求項2】
各層が0.2〜0.5%の高粘度ゾル性寒天と該寒天の1/50〜1/100(w/w)のカルシウム化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品。
【請求項3】
各食品の主成分が練りうに以外の食材により構成される、二種以上の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品の食品に0.2〜0.5%の高粘度ゾル性寒天を添加し、各々を加熱処理して均一化し、ゾル状態を保持して別々に同一の容器に充填して積層させ、加熱殺菌することを特徴とする多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品。
【請求項4】
二種以上の食品の各々に高粘度ゾル性寒天と該寒天の1/50〜1/100(w/w)のカルシウム化合物を添加することを特徴とする請求項3に記載の多層の高粘度、あるいは/および半ゲル状食品

【公開番号】特開2010−115188(P2010−115188A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335875(P2008−335875)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(505181206)株式会社桑田商店 (2)
【Fターム(参考)】