説明

多層カーボンナノチューブとポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜、アクチュエータ素子

【課題】導電性薄膜を有する導電体及びアクチュエータ素子を安価な材料を用い、アクチュエータの高速応答性や伸縮率及び発生力を改善すること。
【解決手段】空気中あるいは真空中で柔軟に作動することができるアクチュエータ素子は、イオン伝導層1の表面に相互に絶縁状態で形成された導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノチューブ相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜を有する導電体及びアクチュエータ素子並びにその製造法に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0002】
空気中、あるいは真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルを導電性があり、かつ伸縮性のある活性層として用いるアクチュエータが提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1の実施例では特殊で高価な単層カーボンナノチューブが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4038685
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単層カーボンナノチューブは高価であるので、より安価な材料を用い、アクチュエータの高速応答性や伸縮率及び発生力を更に改善することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、多層カーボンナノチューブ、特に酸処理した多層カーボンナノチューブのように、表面に親水性基を有する多層カーボンナノチューブの配合によりアクチュエータの伸縮率、高速応答性及び発生力が飛躍的に大きくなることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の導電性薄膜、積層体、アクチュエータ素子、またはその製造法を提供するものである。
項1. 多層カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜。
項2. 前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、項1に記載の導電性薄膜。
項3. 項1又は2に記載の導電性薄膜層とイオン伝導層を有する積層体。
項4. 項3に記載の積層体を含むアクチュエータ素子。
項5. イオン伝導層の表面に、項1又は2に記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている項4に記載のアクチュエータ素子
項6. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法:
工程1:多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体および溶媒を含む分散液を調製する工程;
工程2:ポリマーおよび溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いるイオン伝導層の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層とイオン伝導層の積層体を形成する工程。
項7. 前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、項6に記載のアクチュエータ素子の製造方法。
項8. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法:
工程1:多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体および溶媒を含む分散液を調製する工程;
工程2:ポリマーおよび溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、導電性薄膜を形成、その後、必要に応じて、作製した導電性薄膜の熱厚密化を行い、密度を大きくする工程、あるいは数枚の導電性薄膜を熱圧着すると同時に厚密化し、密度を大きくする工程
工程4:工程2の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、イオン伝導層を形成する工程;
工程5:工程3で形成した導電性薄膜と工程4で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程。
項9. 前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、項8に記載のアクチュエータ素子の製造方法。
項10. 以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法:
工程1:多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体および溶媒を含む分散液を調製する工程;
工程2:ポリマーおよび溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト後加熱により、導電性薄膜を形成する工程
工程4:工程2の分散液を用いキャスト後加熱により、イオン伝導層を形成する工程;
工程5:工程3で形成した導電性薄膜と工程4で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程。
項11. 前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、項10に記載のアクチュエータ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特別で高価な単層カーボンナノチューブでなく、電池材料分野で汎用品で安価な、多層カーボンナノチューブを用いても導電性薄膜を得ることができるため、様々な多層カーボンナノチューブを用いて、効率のよい変形応答のアクチュエータ素子を提供することができるようになった。そしてアクチュエータの伸縮率、高速応答性及び発生力が飛躍的に大きくなる素子を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例でアクチュエータ素子変位評価法に用いたレーザー変位計を示す。
【図2】(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
【図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アクチュエータ素子の電極層に使用する導電性薄膜には、多層カーボンナノチューブ、好ましくは酸処理した多層カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体が使用される。
【0011】
本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」と略記することがある。
【0012】
本発明に用いられる多層カーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、多層カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。好ましい多層カーボンナノチューブは酸処理した多層カーボンナノチューブである。酸処理以外であっても酸処理と同様に、COOH、C−OH及びC−NHなどの親水性基を含む多層カーボンナノチューブが好ましく使用できる。本発明の多層カーボンナノチューブは、COOH基を有する多層カーボンナノチューブである。
【0013】
本発明で使用するカーボンナノチューブのアスペクト比は、10以上が好ましい。アスペクト比は大きければ大きいほど好ましいが、上限は、例えば10程度、10程度或いは10程度、である。カーボンナノチューブの長さは、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは200μm以上、特に500μm以上である。カーボンナノチューブの長さの上限は、特に限定されないが、例えば3mm程度である。
【0014】
実用に供される多層カーボンナノチューブの好適な例として、NC3101及びNC3151(ナノシル社製)が挙げられるが、勿論、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明の導電性薄膜は、多層カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体から基本的に構成されるが、活性炭素繊維や補強材などを導電性などの特性をあまり損なわない範囲で加えることもできる。
【0016】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0017】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X)より成るものが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
[NR4−x (III)
[PR4−x (IV)
【0020】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは炭素数1〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてRは炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとRは同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。式(III)および(IV)において、2つのR基は一緒になって3〜8員環、好ましくは5員環又は6員環の脂肪族飽和環式基を形成してもよい。
【0021】
炭素数1〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1〜8,より好ましくは1〜6である。
【0022】
炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルが挙げられる。
【0023】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、CH2CH2OCH3、CH2OCH2CH3、CH2CH2OCH2CH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1〜4の整数、qは1〜4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0024】
アニオン(X)としては、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、BF3CF3-、BF3C2F5-、BF3C3F7-、BF3C4F9-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン((CF3CF2SO2)2N-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、ジシアンアミドイオン((CN)2N-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、有機カルボン酸イオンおよびハロゲンイオンが例示できる。
【0025】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、[N(CH3)(CH3)(C2H5)(C2H4OC2H4OCH3)]+、[N(CH3)(C2H5)(C2H5)(C2H4OCH3)]+、アニオンがハロゲンイオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)のものが、具体的に例示でき、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)からなるイオン液体が特に好ましい。なお、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0026】
ただし、これらの組み合わせに限らず、イオン液体であって、導電率が0.1Sm-1以上のものであれば、使用可能である。
【0027】
本発明のイオン伝導層は、ポリマーと溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製し、得られた溶液をキャスト法により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させることによって得ることができる。イオン伝導層の形成は、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などにより行うことができる。ここで、前記溶媒は親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
【0028】
親水性溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜3の低級アルコール、アセトニトリル等が挙げられる。疎水性溶媒としては、4−メチルペンタン−2−オンなどの炭素数5〜10のケトン類、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類が挙げられる。
【0029】
本発明において、電極膜、固体電解質膜に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0030】
アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜層は、多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体から構成される。導電性薄膜層中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
多層カーボンナノチューブ:
1〜98重量%、好ましくは25〜66重量%、より好ましくは17〜50重量%;
ポリマー:
1〜98重量%、好ましくは17〜50重量%、より好ましくは17〜40重量%;
イオン液体:
1〜98重量%、好ましくは17〜50重量%、より好ましくは17〜50重量%;
である。
【0031】
導電性薄膜の調製は、多層CNT、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーとイオン液体を任意の割合で混合して実施することが可能である。得られた導電性薄膜層の強度の問題から、多層CNTは一定以上含まれるのがよい。
【0032】
多層CNTとポリマーとイオン液体を任意の割合で攪拌などにより混合し、超音波処理を行うのが好ましい。超音波処理時間は、30分から15時間程度、好ましくは1時間〜7時間程度が挙げられる。
【0033】
導電性薄膜の形成は、多層CNTとポリマーとイオン液体の混合液を、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などの方法により行なうことができ、好ましくはキャストにより実施される。
【0034】
本発明の方法で製造するアクチュエータ素子としては、例えば、イオン伝導層1を、その両側から、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーを含む導電性薄膜層(電極層)2,2で挟んだ3層構造のものが挙げられる(図2A) 。また、電極の表面伝導性を増すために、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が形成された5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図2B) 。
【0035】
イオン伝導層の表面に導電性薄膜層を形成してアクチュエータ素子を得るには、イオン伝導層の表面に導電性薄膜を熱圧着すればよい。
【0036】
イオン伝導層の厚さは、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。導電性薄膜層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、各層の製膜にあたっては、スピンコート、印刷、スプレー等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0037】
導電性薄膜は、複数の薄膜を熱圧着などにより積層することもでき、1枚の薄膜からなっていてもよい。
【0038】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間(電極は導電性薄膜層に接続されている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.5〜1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができる。
【0039】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図3に示すように、イオン伝導層1の表面に相互に絶縁状態で形成された導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノチューブ相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮するためである。図3に示すように、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノチューブがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図3において、4はイオン液体のカチオンを示し、5はイオン液体のアニオンを示す。
【0040】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、多層カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルの界面有効面積が極めて大きくなることから、界面電気二重層におけるインピーダンスが小さくなり、多層カーボンナノチューブの電気伸縮効果が有効に利用される効果に寄与する。また、機械的には、界面の接合の密着性が良好となり、素子の耐久性が大きくなる。その結果、空気中、真空中で、応答性がよく変位量の大きい、且つ耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。
【0041】
本発明のアクチュエータ素子は、空気中、真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツなどの医療、福祉用ロボット、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0042】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、純度の高い製品を得るために、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0043】
なお、イオン伝導層表面への導電性薄膜層の形成は少なくとも2層必要であるが、図4に示すように、平面状のイオン伝導層1の表面に多数の導電性薄膜層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4に示すものは、径が1mm程度のイオン伝導層1のロッドの周囲に4本の導電性薄膜層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0045】
<実験法の共通の説明>
1. 使用した薬品、材料
エチルメチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)、エチルメチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(EMIBF4
【0046】
【化2】

【0047】
使用したカーボンナノチューブ:量産が可能なNC3100,3101,3150及び3151(ナノシル社製)の物性を表に示す。
使用した導電性薄膜層及びイオン伝導体用ベースポリマー:ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF(HFP))ポリマー
【0048】
【表1】

【0049】
なお、表1において、SWCNTは、単層カーボンナノチューブである。
使用した溶媒
N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)
プロピレンカーボネート(PC)
メチルペンタノン(MP)
【0050】
2.ゲル電解質キャスト液の一般的作製方法
IL(イオン液体)200mg、PVdF(HFP)(Kynar Flex2801)、PC 500mg、MP 6mlを、80℃に液温を上げて30分以上撹拌し、作製したキャスト液0.3mlを25mmx25mmのキャスト枠中にキャストし、溶媒を蒸発させて、ゲル電解質フィルムを得る。厚みは約20μm程度である。
【0051】
3.電極/電解質ゲル/電極3層構造からなるアクチュエータ素子の変位測定方法
図1に示す様にレーザー変位計を用い、素子を2mmx10mmの短冊状に切り取り、電圧を加えた時の4mmの位置の変位を測定した。
また伸縮率(ε)は
【0052】
【数1】

【0053】
L :電圧を印加しない時の素子長
D:素子の厚さ
δ:変位
【0054】
4.電極導電率測定法
電極の導電率は、電極の両端、および、表面の2点間に金ペーストで直径50μmの金線を接合し、両端の金線に定電流源で一定電流を流し、表面に接続した接点間の電圧を測定することで、電極の抵抗を測定した。この時の電極の厚みd、電極の幅をbとすると断面積S=bdである。流した電流がI、測定した電圧がV、電圧測定端子間距離がLとすると、
コンダクタンス G=I/V[S]
導電率=GL/S[Scm-1
となる。
【0055】
5.ヤング率測定法
引張り試験機を用い、応力―歪み特性から、電極フィルムのヤング率を求めた。
【0056】
6.キャパシタンス測定
作成した電極フィルムを直径7mmに切り取り、ステンレス製の電極で挟み込んで、サイクリックボルタンメトリ法により、±0.5V、0.001V/sの条件で測定を行った。測定値は電極フィルム中のカーボンナノチューブのグラム当りの容量値として(Fg-1)表した。
【0057】
7.電極、ゲル電解質、アクチュエータ素子フィルム厚測定
作成した電極フィルム、ゲル電解質フィルム、およびそれらの積層体からなるアクチュエータ素子フィルムの厚みは、マイクロメーターを用いて測定した。
【0058】
8.アクチュエータ素子の最大発生力
σ= Y ×εmax.
σ; アクチュエータ素子の最大発生力, εmax; アクチュエータ素子の最大伸縮率、Y; 電極層のヤング率
【0059】
実施例1
電極膜(導電性薄膜)の作製
MWCNT-COOH(NC3101)90mg、PVdF(HFP) 105 mg、EMIBF4 105 mgを試料瓶にとり、溶媒DMAc 4mlを入れマグネティックスターラーで撹拌を1日間行う。さらに試料瓶を超音波分散(20KHz)1時間、その後、溶媒DMAc 5mlを入れマグネティックスターラーで撹拌を1日間行い、超音波分散(20KHz)3時間してキャスト液を得た。その後、試料瓶を逆さまにしても流れない程度に固化した。CNTが分散し、ネットワークを作ることによってゲル状になり、固化したものと思われる。25mm角のテフロン(登録商標)型に上記キャスト液をそれぞれ2.4mlキャストし、温度50℃で一昼夜乾燥した。その後、温度を80℃にして減圧乾燥一昼夜行い、電極膜を得た。
【0060】
また2枚の電極膜と1枚の固体電解質膜を用い、共通実験法2による方法により作成したゲル電解質膜をサンドイッチにして70℃、120Nの圧力で1分間プレスすることにより、電極/固体電解質/電極複合体素子を作成した。電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表2に示す。また電極間に周波数の異なる±2.0Vの三角波電圧を加えた時に観測された変位を表3に示す。素子の応答性能(曲げ及び高速応答)とアクチュエータ素子の最大発生力が比較例1(表6、7)と比べて飛躍的に上昇していることがわかる。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
実施例2
電極膜の作製
実施例1のうち、MWCNT-COOH(NC3101)をMWCNT-COOH(NC3151)に変更して行った。
【0064】
電極間に周波数の異なる±2.0Vの三角波電圧を加えた時に観測された変位を表5に示す。また電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表4に示す。素子の応答性能(曲げ及び高速応答)とアクチュエータ素子の最大発生力が比較例1(表6、7)と比べて飛躍的に上昇していることがわかる。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
比較例1
電極膜の作製
実施例1のうち、MWCNT-COOH(NC3101)をSWCNTに変更して行った。
【0068】
電極間に周波数の異なる±2.0Vの三角波電圧を加えた時に観測された変位を表7に示す。また電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表6に示す。
【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
実施例3
電極膜の作製
実施例2のうち、EMIBF4をEMITFSIに変更して行った。
【0072】
電極間に周波数の異なる±2.0Vの三角波電圧を加えた時に観測された変位を表9に示す。また電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表8に示す。素子の応答性能(曲げ及び高速応答)とアクチュエータ素子の最大発生力が比較例2(表10、11)と比べて飛躍的に上昇していることがわかる。
【0073】
【表8】

【0074】
【表9】

【0075】
比較例2
電極膜の作製
実施例3のうち、MWCNT-COOH(NC3151)をSWCNTに変更して行った。
電極間に周波数の異なる±2.0Vの三角波電圧を加えた時に観測された変位を表11に示す。また電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表10に示す。
【0076】
【表10】

【0077】
【表11】

【0078】
実施例4
電極膜の作製
実施例1のうち、MWCNT-COOH(NC3101)90mg、PVdF(HFP) 105 mg、 EMIBF4 105 mgをMWCNT-COOH(NC3151)50mg、PVdF(HFP) 80 mg、 EMITFSI 120 mgに変更して行った。
【0079】
電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表12に示す。アクチュエータ素子の最大発生力が比較例3(表13)と比べて飛躍的に上昇していることがわかる。
【0080】
【表12】

【0081】
比較例3
電極膜の作製
実施例4のうち、MWCNT-COOH(NC3151)をSWCNTに変更して行った。
電極膜及びアクチュエータ素子の特性の結果を表13に示す。
【0082】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜。
【請求項2】
前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の導電性薄膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性薄膜層とイオン伝導層を有する積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の積層体を含むアクチュエータ素子。
【請求項5】
イオン伝導層の表面に、請求項1又は2に記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている請求項4に記載のアクチュエータ素子
【請求項6】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法:
工程1:多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体および溶媒を含む分散液を調製する工程;
工程2:ポリマーおよび溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いるイオン伝導層の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層とイオン伝導層の積層体を形成する工程。
【請求項7】
前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、請求項6に記載のアクチュエータ素子の製造方法。
【請求項8】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法:
工程1:多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体および溶媒を含む分散液を調製する工程;
工程2:ポリマーおよび溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、導電性薄膜を形成、その後、必要に応じて、作製した導電性薄膜の熱厚密化を行い、密度を大きくする工程、あるいは数枚の導電性薄膜を熱圧着すると同時に厚密化し、密度を大きくする工程
工程4:工程2の分散液を用いキャスト、印刷、塗布、押し出しまたは射出により、イオン伝導層を形成する工程;
工程5:工程3で形成した導電性薄膜と工程4で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程。
【請求項9】
前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、請求項8に記載のアクチュエータ素子の製造方法。
【請求項10】
以下の工程を含むことを特徴とするアクチュエータ素子の製造方法:
工程1:多層カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体および溶媒を含む分散液を調製する工程;
工程2:ポリマーおよび溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製する工程;
工程3:工程1の分散液を用いキャスト後加熱により、導電性薄膜を形成する工程
工程4:工程2の分散液を用いキャスト後加熱により、イオン伝導層を形成する工程;
工程5:工程3で形成した導電性薄膜と工程4で形成したイオン伝導層を、圧着により積層し、積層体を形成する工程。
【請求項11】
前記多層カーボンナノチューブが酸処理した多層カーボンナノチューブである、請求項10に記載のアクチュエータ素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−205337(P2012−205337A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65550(P2011−65550)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】