説明

多層シルク蛋白質膜

本発明は、多層シルク蛋白質膜の形成方法、及びそれにより得られる多層膜に関する。本発明はさらに、前記多層膜を含む様々な材料、製品及び組成物、並びにいくつかの用途における前記多層膜の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シルク蛋白質膜の形成方法、及びそれにより得られる多層膜に関する。本発明はさらに、前記多層膜を含む様々な材料、製品及び組成物、並びにいくつかの用途における前記多層膜の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
多層膜は多種多様な目的に対して有用である(参考文献1〜12)。用途は大きく次の2つのカテゴリーに分類される。表面とその環境との相互作用を調整すること、及び特定の構造特性を有する「装置(device)」を製造することである。開発分野の範囲としては、コーティング、コロイド安定化、発光又は太陽光発電装置、電極修飾、光学記憶装置及び磁気フィルム、高電荷密度電池、生体材料、生体適合性の改変、酵素の固定化、水処理及び製紙のための凝集、機能性膜、分離、担体、放出制御装置、センサ、及びナノリアクタなどが含まれる。多層膜及びカプセルを調製する好ましい方法の鍵となる特質は、ナノメートル単位で制御された垂直方向の構造化である。ポリペプチド多層膜は、ポリペプチドからなる多層膜として定義される。いくつかの例においては、化学修飾ポリペプチド(参考文献13)、非生体有機高分子電解質(参考文献14)又は多糖(参考文献15)などの別のタイプのポリマーが製法に含まれる。ポリペプチド膜は、元は生物不活性な表面に特定の生物機能性を与えるために、又は、生体活性表面を細胞非接着性に変えるために堆積させる場合もある(参考文献16〜20)。
【0003】
ポリペプチドの多層膜は、次の望ましい特性、すなわち、防汚性、生体適合性、生分解性、特異的生体分子感受性、可食性、環境への優しさ、熱反応性、及び粘着性又は非粘着性のいくつかを包含する用途の開発に有望である。シルク蛋白質は、その生化学的性質、ポリマー合成の様々な手法において化学構造全体を制御できること、二次構造の形成を制御できること、ゲノムデータが入手可能であることにより、そのような用途に理想的に適している。
【0004】
米国特許出願第2005/0069950A1号は、静電的な層毎(layer-by-layer)自己アセンブリ(ELBL)によって適切な表面上にポリペプチドの超薄多層膜を作製することを開示している。さらに、生体医学及び他の分野における用途に対する薄膜のナノファブリケーションのためのポリペプチドの設計方法も記載されている。ELBLにおいて使用するためのアミノ酸配列情報において、中性pHでの所定の長さ及び正味荷電をもつ配列モチーフを同定し、望ましい数のモチーフを記録する新しい方法が提供されている。米国特許出願第2005/0069950号は、ELBLアセンブリにおいて、小さく高荷電のペプチドを使用することを請求している。
【0005】
クモの糸は、驚くべき物理的特性を示す蛋白質ポリマーである。種々のクモの糸のなかでも、ドラグライン(dragline)は最も熱心に研究されている。ドラグラインシルクは、円網クモ(orb weaving spider)によって、巣の枠と径を構築するために、また、常に後に引きずられる命綱として利用される。この目的のために、高い引張強度と弾性が要求される。このような特性の組み合わせにより、他の大多数の既知の材料に比べて靱性が高くなる。ドラグラインシルクは、一般に、その一次構造が共通の反復構造を有する2つの主要な蛋白質からなる。
【0006】
円形のクモの巣の捕獲らせんは、その一部がフラジェリフォーム(flagelliform)腺によって形成される粘着性のシルクからなり、そのためフラジェリフォームシルクと呼ばれており、伸縮性があって破断前に長さが3倍にまでなるあるが、ドラグラインシルクに比べると引張強度は半分しかない。
【0007】
大腸菌においてクモシルク蛋白質を組み換え生産するためのシステムについては以前に開発されている。一例としては、国際公開公報第2006/008163A2号、国際公開公報第2006/002827Al号、及び米国仮出願第60/712,095号(未公開)が挙げられる。ここに開示されている発現系において、個々の構築単位(モジュール)は自由に変更することができ、したがって、特定のケースの要求に対して適用することが可能である。この種のモジュールは参考文献21にも開示されている。
【0008】
しかしながら、今日まで、これらの入手可能なシルク蛋白質から多層膜を形成する一般的な方法はなかった。現時点で知られる方法をシルク蛋白質から作られる様々な多層膜を生産するために一般的に使用することはできない。上述のように、いくつかの刊行物は、多層膜を安定化するために荷電面に依存しているが、これらは一般的な手法を与えるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、多層シルク蛋白質膜の製造方法を提供することと、それから得られる膜を提供することである。本発明のさらなる目的は、それらの多層膜に対する様々な用途を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、独立項の主題によって達成される。好ましい実施形態は、従属項に記載されている。
本発明者らは、種々の起源のシルク蛋白質からなる多層膜の形成方法を初めて確立した。発明者らは、安定かつ有用な多層膜を形成するために、シルク蛋白質の多層が処理できることを示した。例えば逆荷電させた層などの特定の条件を生み出すことなく、シルク蛋白質から安定な多層膜を形成できることは現在の技術水準においては予期できなかったことであるため、このような発見は予期しないものであった。
【0011】
第1の態様によれば、本発明は、
a)適当な溶媒中に溶解又は懸濁したシルク蛋白質からなる一又は複数の溶液を用意する工程と、
b)前記溶液のうちの1つを膜に形成する工程と、
c)溶媒を蒸発させて、第1のシルク蛋白質膜層を形成する工程と、
d)多層シルク蛋白質膜を形成するために、a)〜c)の工程を一又は複数回繰り返して、第1のシルク蛋白質膜層の上にさらなるシルク蛋白質膜層を形成する工程と
を含む、多層シルク蛋白質膜の形成方法を提供する。
【0012】
これまでにも、シルク蛋白質、特にクモシルク蛋白質からなる膜をキャスティングすることは知られていた。クモシルク蛋白質の膜キャスティングについては、参考文献22を参照されたい。しかしながら、これには多層膜を形成することについては記載されていない。
【0013】
本発明の方法によって、多層膜を製造できるという驚くべき事実とは別に、テイラード(tailored)多層膜を製造できるという利点が提供される。一例として、使用する蛋白質溶液の濃度によって膜の厚みを調節してもよい。さらに、所望の特性を達成するために、種々のシルク蛋白質を同一又は異なる層の中で組み合わせることもできる。さらに、本手法は、様々な目的を達成するために、シルク蛋白質を、他の例えば人工ポリマーと組み合わせることも可能にする(以下に詳細に説明する)。
【0014】
さらに、驚くべきことに、(上記参考文献とは対照的に)シルク蛋白質膜の複数の単層が、単膜層の表面を何ら修飾する必要なく安定な多層膜を形成することが分かった。このことは、種々の層の拒絶をもたらすことがなく、したがって安定な多層膜の形成を可能にするというシルク蛋白質の両親媒性の特性によって説明することができる。
【0015】
一実施形態において、多層膜の各単層は、一又は複数種類のシルク蛋白質を含んだシルク蛋白質溶液から形成される。本発明を実施する際にどの種類のシルクを使用するかについては後述する。例えば、多層膜は、同じ(同質多層膜)又は異なる(異質多層膜)シルク蛋白質からなる層から形成される。
【0016】
上述のように、好ましい実施形態において、多層膜は、シルク蛋白質からなる一又は複数の層と、他の蛋白質性材料又は非蛋白質性材料を含んだ一又は複数の層とを備える。
一実施形態において、多層膜の1つの単層の厚みは、0.5〜1.5μmの範囲である。ただし、より薄い又は厚い膜(3.0μmまで)を設計することもできる。さらに、本発明の多層膜は、好ましくは2〜1000の層、好ましくは2〜100の層、最も好ましくは2〜20の層からなる。
【0017】
非蛋白質性材料は、好ましくは、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンスルホン酸塩(PSS)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリアクリル酸(PAA)、及び/又はポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム(PDADMAC)から選択される。非蛋白質性材料は、単独で使用してもよいし、他の非蛋白質性材料及び/又はシルク蛋白質及び/又は他の蛋白質性材料と組み合わせて使用してもよい。
【0018】
他の蛋白質性材料は、好ましくは、コラーゲン、エラスチン又はケラチンから選択することができる。これらの蛋白質性材料の例としては、例えば、イガイの足糸蛋白質、例えば、イガイ(Mytilus)種、好ましくは、M. edulis、M. galloprovincialis、M. californians又はGeukeria demissaから得られるものが挙げられる。
【0019】
マスコロ(Mascolo)及びウェート(Waite)(1986)は、イガイ属の足糸における化学勾配を最初に同定した。ペプシンで糸を処理した後、それぞれ50kDa及び60kDaの分子量を有するColP及びColDと呼ばれる2つのペプシン耐性コラーゲン断片が同定された。ColPは、主として基端領域において見つけることができるが、先端領域においては殆ど見られない。一方、ColDの量は先端部分において約100%にまで増加する(ルーカス(Lucas)ら(2002)、チン(Qin)及びウェート(1995))。イガイの足だけでなく足糸においても、糸の構造の構築に加わるさらなるコラーゲン様蛋白質が存在する。この追加の蛋白質は、ColNG(NG=勾配なし)と呼ばれ、ColD及びColPとは対照的に、糸の全体にわたって均一に分布している。その生理学的機能は、おそらく他の2つの糸コラーゲンの間のアダプタである(チン及びウェート(1998))。
【0020】
ケラチンは、強靱で不溶性の繊維性構造蛋白質のファミリーであり、は虫類、鳥類及び哺乳類に見られる固いけれど石化していない構造を形成する。ケラチンは、回虫を含む多くの動物の胃腸管にも見られる。ケラチンには様々な種類がある。昆虫及びクモによって作られるシルクフィブロインは、ケラチンとして分類されることが多い。
【0021】
コラーゲンは、動物における結合組織の主要蛋白質であり、動物においては全量の約40%もを占める最も豊富な蛋白質である。強靱かつ非伸縮性であって、大きな引張強度を有し、伸長性がなく、軟骨、人体及び腱の主要成分であり、骨及び歯の主要蛋白質成分である。コラーゲンは、体中の多くの場所に存在し、とりわけ(コラーゲンには全部で27の型がある)I型からXIII型コラーゲンを含んだ型として知られる種々の形態で存在する。
【0022】
エラスチンは、弾性があって、体内の多くの組織が伸縮後にその形状に回復することができるようにする結合組織中の蛋白質である。エラスチンは、皮膚が突かれたり摘まれたりした場合に、その元の位置に戻るのを助ける。エラスチンは、主として、アミノ酸であるグリシン、バリン、アラニン及びプロリンからなる。エラスチンは多くの可溶性トロポエラスチン蛋白質分子を架橋して、大きな不溶性で耐久性のある架橋列をつくることによって形成される。
【0023】
しかしながら、本発明はこれらの蛋白質性材料に限らず、多くの他のものを用いることもできる。
溶媒としては、好ましくは極性溶媒が用いられる。極性溶媒は、好ましくは、水、ギ酸、ヘキサフルオロイソプロパノール及び/又は酢酸から選ばれる。水は入手しやすく、毒性もないため、最も好ましい。この溶媒中に、シルク蛋白質を溶解又は懸濁する。さらに、溶媒は、溶解した蛋白質を残して容易に蒸発することができ、その結果、個々の膜層が形成されるように、上記の物質から選択されなければならない。
【0024】
本発明の意味における「溶液」とは、シルク蛋白質を含有し、膜キャスティングに使用できる任意の液体混合物を意味する。このような溶液は、蛋白質モノマーに加えて、例えば、二量体、三量体及び四量体を含むより高次の凝集体を含有してもよい。溶液は、溶液の保存性、安定性又は加工性を高めるために添加剤を含有してもよい。
【0025】
ここで懸濁液とは、液体中に固体粒子が分散したものとして定義される。粒子の径が100nm以下であれば、懸濁液はコロイド状である。
好ましい実施形態において、シルク蛋白質は、昆虫シルク蛋白質又はクモシルク蛋白質、好ましくは天然又は組み換えシルク蛋白質、好ましくは昆虫綱、蛛形綱又はそれらに類似のものに由来のシルクから選択される。
【0026】
特に好ましいのは、円網クモ(Araneidae及びAraneoids)のドラグライン蛋白質又はフラジェリフォーム蛋白質に由来のドラグライン及び/又はフラジェリフォーム配列である。
【0027】
クモシルクは一般に、驚くべき物理的性質を示す蛋白質ポリマーであるが、種々のクモによって生産される様々なシルクの組成についての情報は限られている(シャイベル(Scheibel)(2004)を参照)。種々のタイプのクモシルクのなかで、ジョロウグモであるNephila clavipesと、ニワオニグモであるAraneus diadematusに由来するドラグラインが最もよく研究されている。ドラグラインシルクは一般に、2つの主要蛋白質からなり、別の蛋白質がシルク集合及び最終シルク構造において有意な役割を果たすかどうかはまだ明らかになっていない。Araneus diadematusに由来するドラグラインの2つの主要蛋白質成分は、ADF−3及びADF−4である(ADF=Araneus diadematusフィブロイン)。
【0028】
ここで用いる「クモシルク蛋白質」という用語は、すべての天然の配列だけでなく、それに由来するすべての人工又は合成の配列もまた包含する。
したがって、クモシルク配列は、ここでは「真正」と称する配列から誘導されるものであってもよい。この語は、基本的な核酸配列が、配列自体に実質的な修正を行うことなく天然の環境から単離されたものであることを意味する。起こることが許される唯一の修飾は、コードされるアミノ酸配列を変更することなく、宿主中での発現に適合させるべく真正の核酸配列を修飾することである。
【0029】
真正の配列は、天然に存在するクモシルク蛋白質のアミノ末端非反復領域(フラジェリフォーム蛋白質)及び/又はカルボキシ末端非反復領域(フラジェリフォーム蛋白質及びドラグライン蛋白質)から誘導することが好ましい。これらの蛋白質の好ましい例は以下に示す。
【0030】
さらなる実施形態によれば、真正配列は、天然に存在するクモシルク蛋白質のアミノ末端非反復領域(フラジェリフォーム蛋白質)及び/又はカルボキシ末端非反復領域(フラジェリフォーム蛋白質及びドラグライン蛋白質)から誘導される。
【0031】
好ましい一実施形態によれば、ドラグライン蛋白質は、野生型ADF−3、ADF−4、MaSpI、MaSpIIであり、フラジェリフォーム蛋白質はFLAGである。ADF−3/−4という用語は、Araneus diadematusによって生産されるMaSp蛋白質の意味で用いられる(Araneus diadematusフィブロイン−3/−4)。ADF−3及びADF−4のいずれの蛋白質も、MaSpII蛋白質(major ampullate spidroin II)のクラスに属する。このことは国際公開公報第2006/002827号に明確に示されており、その内容は参照によりここに組み込まれるとする。
【0032】
本発明の出発点を構成する単量体配列モジュールも開発されている。これらのモジュールは、クモAraneus diadematusの遺伝子ADF3及びADF4、並びにクモNephila clavipesの遺伝子FLAGから誘導される。採用したADF3及びADF4の配列の変種が公に入手可能である(アクセス番号U47855及びU47856として入手可能)。最初の2つの遺伝子(ADF3及びADF4)は、クモのドラグライン糸を構成する蛋白質をコードするものであり、3つめは、フラジェリフォームシルクの蛋白質をコードするものである。これらの蛋白質のアミノ酸配列に基づいて、いくつかのモジュールを設計した。
【0033】
【表1】

これらのアミノ酸モジュールから、合成クモシルク蛋白質構成体を組み立てた。これらのモジュール及びそれらから誘導されるクモシルク蛋白質は、この多層膜の形成方法における出発材料を特に構成する。
【0034】
本発明はさらに、特定のペプチドタグを使用することに関する。これらのタグ(例えば、下記の配列番号20〜27に開示するようなタグ)は、システイン又はリシンを含む。タグの配列は、シルク蛋白質の残りの部分との相互作用及び集合挙動の影響をできる限り排除するように選択される。
【0035】
以下のタグは、クモシルク構成体における好適な使用のために開発したものである。
【0036】
【表2】

これらのモジュールから作られる合成シルク蛋白質の好ましい例は、実施例において見つけることができ、好ましくは(AQ)24NR3及びC16である。
【0037】
シルク蛋白質を得ることのできるシルク産生昆虫の例としては、カイコ(Bombyx mori)、特にAntheraea mylitta(茶色のシルクを生産する東洋蛾)が挙げられる。後者は、タッサー(tussah)シルクを生産する。タッサーシルクは、茶色の野生のシルク繭から作られる茶色のシルク糸又はシルク生地である。これらの虫は、様々な植物や樹木、例えば、オーク、サクランボ、野生の桑などの葉を餌としている。このような昆虫のさらなる例としては、トビケラ(例えば、Hydropsyche slossonae)、ガ(例えば、Galleria mellonella(ハチミツガ)、Ephestria kuehniella(穀物ガ)、Plodia interpunctella(トウモロコシガ)、又はHyalophora cecropia(カイコガ))が挙げられる。
【0038】
多層膜の層は好ましくは、層内に混合されるか、あるいは隣接する2つの層の間に配置される一又は複数の薬剤を含むことが好ましい。これらの薬剤は、好ましくは、塩、染料、金属、化学物質及び/又は医薬品から選択される。これに関しては、このような混合の原理を示す図9,11及び12を参照されたい。混合される物質は特に限定されるものでなく、固体、半固体又は液体のいずれであってもよい。
【0039】
例えば、医薬品は、鎮痛剤;睡眠薬及び鎮静剤;うつや統合失調症などの精神疾患の治療薬;抗てんかん剤及び抗けいれん剤;パーキンソン病及びハンチントン病、老化及びアルツハイマー病の治療薬;中枢神経系外傷又は発作の治療を目的とした薬物;依存症及び薬物乱用の治療薬;寄生虫感染及び微生物に起因する疾患に対する化学治療剤;免疫抑制剤及び抗ガン剤;ホルモン及びホルモン拮抗剤;非金属毒性剤に対する拮抗剤;癌治療のための細胞増殖抑制剤;医療用診断物質;免疫活性及び免疫反応性剤;抗生物質;鎮痙剤;抗ヒスタミン剤;制嘔吐剤;弛緩剤;刺激剤;脳拡張剤;向精神薬;血管拡張剤及び収縮剤;抗高血圧剤;偏頭痛治療薬;催眠薬、血糖上昇薬及び血糖降下薬;抗喘息剤;抗ウィルス剤;及びそれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0040】
さらに、本発明による多層膜は、局所的又は全身的な薬物送達系として作用するように設計してもよい。局所的な系は、粘性の液体が混合されて、所定の時間のあいだ皮膚に適用される多層系からなるものであってよい。その時間のあいだに、多層膜の1つ以上の層を液体が浸透し、所定量の液体が皮膚表面に提供される。この場合、多層膜は、TTS(経皮治療系)と呼ばれることもある。ホルモン又はニコチンなどの医薬物質は、このようにして投与することができる。
【0041】
あるいは、固体物質を多層の一又は複数の層内及び/又は層間に混合してもよい。経口投与後、粒子は層を移動し、体液の流入によるか(浸透圧系)、あるいは一又は複数の外側層をゆっくりと溶解した後に(遅れて)各物質を放出することによって、強制排出されることになる。
【0042】
例えば布などの他の用途において、多層膜は、例えば要求される使用分野に特別に適合されてもよく、例えば、一又は複数の気密又は耐水性層を有してもよい。さらに、一例として、殺菌効果を与えるために銀を層に混合してもよい。
【0043】
さらに好ましい実施形態によれば、シルク蛋白質は、上述のような工程1b)の前又は後に、共有結合により官能化される。これに関しては、添付の例である図7及び図8も参照されたい。
【0044】
層は、さらなる特性を達成するためにさらに処理されてもよい。例えば、水に不溶であることは蛋白質膜(そのほとんどが水溶性)の大半の用途にとって前提条件であるので、膜は、水不溶性となるように処理されてもよい。この目的のための適切な方法は、リン酸カリウム又はメタノールでの処理である。
【0045】
多層膜の各層をキャスティングするためのシルク蛋白質溶液は、0.1〜20%、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜3%(重量/体積)のシルク蛋白質を含む。溶液の濃度は、膜の実際の厚みを決定することになるため、重要である。これによっても、所定の厚みを有する層からなるテイラード多層膜を、特定の想定される用途に合わせて製造することができる。
【0046】
本発明の多層膜の層は、任意の利用可能な方法によって形成してもよいが、好ましくは、適当な支持体の上に溶液をモールディング、スピンコーティング又はキャスティングすることによえい形成することができる。支持体の種類は一般に制限されないが、ポリスチレン、ガラス又はシランからなる支持体(又は使用する溶媒に耐性のある表面)が適切な支持体といえる。
【0047】
第2の態様において、本発明は、上記の方法によって得られる多層膜に関する。本発明の多層シルク蛋白質膜は、少なくとも2層のシルク蛋白質膜を含む。
第3の態様によれば、本発明は、化粧品組成物、薬学的又は医学的組成物、好ましくは薬物送達系、人工細胞、コンタクトレンズコーティング、徐放薬物送達系、人工皮膚移植片;食品組成物;自動車部品;航空部品;コンピュータ又はデータ記憶装置;建築材料;上記多層膜を含む布地又は膜を提供する。
【0048】
さらに、本発明は、医学における当該多層膜の用途を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明を、以下の非限定的な実施例及び添付の図面によって説明する。
実施例
クモシルク蛋白質の膜キャスティング:
膜をキャスティングするために、本発明は、ニワオニグモAraneus diadematusに由来するドラグラインシルク蛋白質ADF−3及びADF−4から誘導された2つの合成シルク蛋白質、(AQ)24NR3及びC16を予め使用した。これらの蛋白質は、ADF−3及びADF−4並びにその誘導体が著しく異なる溶解性と集合の挙動を示すという以前の観察に基づいて選択した。(AQ)24NR3及びC16溶液の円偏向二色性(CD)の測定によって、水性バッファとHFIPの二次構造への異なる影響が明らかになった。水性溶液において、いずれの蛋白質も200nm未満の波長に単一の最大を有するCDスペクトルを示し、このことは主としてランダムコイル状の蛋白質であることを示すものである(図1)。
【0050】
これに対して、HFIP中での両蛋白質のスペクトルは、201〜202nmに1つの最大と、220nmにさらなる最大((AQ)24NR3)又は肩部(C16)を示し、このことはαヘリックス含量の増加を示すものである(図1)。このようなフッ素化アルコールの蛋白質及びペプチドへの影響は、以前にも報告されており、シルクフィブロイン及びクモNephila clavipesに由来するドラグライン蛋白質MaSpIから誘導される合成シルク蛋白質に対しても観察されている。
【0051】
ポリスチレン表面(又はCD測定のためには石英ガラス)上に、2%(重量/体積)蛋白質を含む200μLのHFIP溶液から膜をキャスティングした。溶媒の蒸発後、(AQ)24NR3及びC16の両方が、表面から容易に剥離可能な透明な膜を形成していた。溶媒が完全に蒸発し、蛋白質膜の密度がクモドラグラインシルクに対する報告値である1.3g/cmと等しいと仮定すると、膜の厚みは、0.5〜1.5μmの範囲と算出された。どちらの蛋白質からなるアズキャスト(新たに調製した)膜も、水と接触すると溶解した。水不溶性は、蛋白質膜の大半の用途に対する前提条件であるので、我々は膜を不溶性にするための処理方法について研究した。リン酸カリウムは、使用したシルク蛋白質の凝集及び化学的に安定な構造の形成を誘導することが知られている。メタノールも不溶性のシルク形態を得るために使われてきた。したがって、アズキャスト膜を1Mリン酸カリウム又はメタノールで処理(インキュベート)することで、水溶性膜を水不溶性のものに転換した。
【0052】
膜の構造的特性を調べるために、基礎となる蛋白質の二次構造をCD分光計によって調べた。アズキャスト膜は、208nm及び220nmに2つの最小をもつスペクトルを示し、これは可溶性蛋白質に比べてアズキャスト膜のαヘリックス含量が高いことを示す。1Mリン酸カリウムで処理した後、膜は、βシートを多く含む蛋白質構造に典型的な、218nmに1つの最小をもつスペクトルを示した(図2)。メタノールで膜を処理した後にも同様の結果が得られた(データは示さない)。このように、水溶性から水不溶性への変化は、蛋白質の二次構造のαヘリックスからβシートへの変化と平行したものであった。
【0053】
化学的安定性を調べるために、膜を8M尿素、6M塩酸グアニジン及び6Mチオシアン酸グアニジン中に24時間浸漬した。両蛋白質のアズキャスト膜、並びにリン酸カリウム又はメタノールで処理した(AQ)24NR3膜は、これらのすべての変性剤に可溶であった。これに対して、リン酸カリウム又はメタノールで処理したC16膜は、チオシアン酸グアニジンにしか溶解しなかった。C16膜のこの顕著な化学的安定性は、天然のドラグラインシルクのもの、ならびに組み換えによって生産及び集合されたADF−4のものと同等である。以前の研究から、集合特性と集合構造の安定性は、シルク蛋白質のアミノ酸配列と直接的に関連づけることができる。したがって、クモシルク膜の特性は、対応するシルク遺伝子の操作によってシルク蛋白質の一次構造を変えることによって直接改変できる(図2)。
【0054】
蛋白質膜の多くの用途において、膜の表面上に特定の機能性が存在することが要求される。使用したクモシルク膜が蛋白質などの生体巨大分子のみならず小さい有機分子によっても修飾可能であることを実証するために、発色団であるフルオレセインと酵素であるβ−ガラクトシダーゼを、原理を証明するものとして、リン酸カリウムで処理したC16膜に化学的に結合した。結合は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いてC16の表面に露出したカルボキシル基を活性化することによって行った。膜をエチレンジアミンとともにさらにインキュベートして、アミドを形成させた。次に、エチレンジアミンの残った遊離アミノ基をフルオロレセインイソチオシアネートと結合させて、安定なチオ尿素誘導体の形成を介した効率的なフルオレセインの共有結合を行った(図3)。同様に、β−ガラクトシダーゼをEDC活性化C16膜とともにインキュベートすると、C16のカルボキシル基と、酵素表面に接近可能なβ−ガラクトシダーゼ一級アミン(例えば、リシン残基からの)との間にアミノ結合が形成された。このような修飾膜を繰り返し洗浄した後、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)を基質として使用して、β−ガラクトシダーゼ活性を検出することができた(図3)。
【0055】
発明者は、合成クモシルク蛋白質から蛋白質膜を得られることを実証することができた。最初は水溶性であった膜は、リン酸カリウム又はメタノールで処理することにより、多くの用途に対する主たる要件である水不溶性にすることができる。2つの異なる合成クモシルク蛋白質からなる膜の化学的安定性の比較から、膜の特性は蛋白質の一次構造に基づいていることが示唆された。クモシルク遺伝子に対して以前に確立された我々のクローニング戦略を利用すれば、特定の特性を示す膜を形成するシルク蛋白質を生み出すことができるであろう。異なる機能的分子を膜の表面に供給結合させることができるので、非常に多種多様な技術的又は医学的用途への手がかりを与えることができる。
【0056】
蛋白質(AQ)24NR3及びC16は、HFIP又はギ酸溶液から出発するいくつかの膜の中にキャスティングすることができる。しかしながら、天然の昆虫及びクモシルク蛋白質のみならず、我々のモジュール(配列1〜27)上に構築される他のいかなるシルク蛋白質も用いることができる。蛋白質溶液を、ポリスチレン、ガラス又はシラン(又は使用される溶媒に耐性のある任意の他の表面)上にキャスティングし、その後溶媒を完全に蒸発させる。ヘキサフルオロイソプロパノール溶液からキャスティングした膜は水溶性である。水不溶性を達成するために、これらのフィルムはメタノール、エタノール又はリン酸カリウムで処理する必要がある。ギ酸からキャスティングしたフィルムは、処理なしでも水に不溶である。
【0057】
膜の厚みは、使用する蛋白質溶液の濃度によって調節することができる(データは示さない)。重要なことは、膜は、1つの蛋白質(1蛋白質膜)の溶液又は2つの蛋白質(2蛋白質膜)の溶液からキャスティング可能である。
【0058】
2蛋白質膜
発明者は、2つの蛋白質成分を含んだ溶液からキャスティングした膜(2蛋白質膜)が、1蛋白質膜と比べて異なる構造又は安定性を示すかどうかを分析した。(AQ)12及びC16又は(AQ)24NR3及びC16NR4をHFIP(それぞれ全体の1%(重量/体積)、2%(重量/体積))に溶解した。配列情報については、参照によりここに組み込まれる国際公開公報第2006/008163号を参照されたい。
【0059】
2蛋白質膜は、(AQ)12/C16(モル比1:1)又は(AQ)24NR3/C16NR4(モル比1:1.8)混合物からキャスティングした。注目すべきは、2蛋白質膜は、単一のシルク蛋白質からキャスティングした膜の特性を合わせ持っていたことである。(AQ)12/C16からなるアズキャスト2蛋白質膜は、調べたすべての試薬中で可溶であった。メタノールで処理した後には、これらの膜は水及び尿素には不溶となったが、GdmCl及びGdmSCNの溶液には可溶であり、これは、単純C16膜又は単純(AQ)12膜のあいだの化学的安定性を示すものである。(AQ)24NR3/C16NR4からなるアズキャスト2蛋白質膜は、水に完全に溶解することができた。水処理後、無定形の蛋白質凝集物が残っていた。β−メルカプトエタノール(5%(重量/体積))などの還元剤の共存下において膜の挙動が変化しなかったことから、NR領域間の分子間ジスルフィド架橋の形成を排除して、無定形凝集をもたらすことができた。(AQ)24NR3/C16NR4フィルムをメタノールで処理することにより、水及び尿素中での化学的安定性がもたらされる。
【0060】
2蛋白質膜の場合、メタノールによる処理は両蛋白質の影響によって化学的安定性をもたらす。ブレンドすることによって通常は混合特性をもたらす従来の合成ポリマーと比べると、上記の知見は蛋白質にとっては驚くべきものである。一般に、蛋白質の構造と相互作用は複雑であり、多くの因子に依存する。相互作用しない2つの蛋白質が混合されると、第2の蛋白質の非共存下で見られる化学的安定性を残しているのが通常である。それらが相互作用する場合には、両蛋白質がより高い化学的安定性を示すのが通常である。我々のケースでは、両蛋白質が相互作用するようではあるのだが、得られた化学的安定性は、それら単独の化合物の安定性の中間であった。
【0061】
多層膜
多層膜は、既存の膜の上にさらに層をキャスティングすることによって得られる(図4、5及び6)。多層膜のすべての層をクモシルクから作ることができるが、昆虫シルク、エラスチンコラーゲン、ケラチン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンスルホン酸塩(PSS)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム(PDADMAC)などの他の材料から膜層は形成されてもよい。シルク膜の厚みは、蛋白質濃度によって調節することができる。各層は、異なる化学的及び物理的特性を有する異なるシルク蛋白質(天然の昆虫又はクモシルク、又は我々のモジュール配列1〜27に基づく組み換えシルク)を含むものであってよい。さらに、各膜は、種々に修飾したシルク蛋白質(修飾は膜キャスティング前に行ってもよい)を含んでいてもよい。最後に、各シルク蛋白質に物質を化学的に結合させることにより、各層を所望の機能性によってキャスト後処理することもできる(図7及び8)。
【0062】
物質は、キャスティング前に添加することにより、組み換えクモシルク蛋白質からキャスティングされる膜中に混合させることができる(図9及び10)。あるいは、物質は、シルク膜の上面に与えることもできるし、その上に別のシルク膜をキャスティングしてもよい(図11及び12)。
【0063】
まとめると、本発明によって以下の目的を達成することができる。
単一シルク膜層は、キャスティングの前又は後のいずれかにおいて、共有結合により官能化することができる。さらに、シルクと薬剤(塩、染料、金属、化学物質、薬物など)をブレンドしたものは、キャスティングの前に調製することができる。一層ずつキャスティングすることにより、各層において異なる機能性を有した多層膜が作られる。このような多層多機能シルク蛋白質膜は全く新しいものである。さらに、単一の膜をキャスティングするために、それぞれ異なるように機能化された異なるクモシルク蛋白質を調合することも新しいことである。これにより、多層蛋白質膜の各単一膜が異なる機能を提供することができ、単一の機能が所定の空間的分布をもつ複雑な三次元骨格が生み出される。単一の機能が通じ合う場合には、スマート三次元構造となる。最後に、シルク膜は、他の既存のポリマー膜と積層して、様々な成分からなる混合多層膜を作成することができる。
【0064】
産業上の利用分野
多層で多機能な骨格及び構造は、食品科学、廃棄物処理、及び化粧品、医学、薬学、自動車、航空などの市場に対する膨大な量の革新的製品に対する基礎となる。用途としては、例えば、デバイスコーティング(例えば、内皮細胞付着を増進させるため)、薬物送達系、人工細胞、コンタクトレンズコーティング、徐放薬物送達系、バイオセンサ、及び、様々な電気的(例えば、発光ダイオード)、磁気的、エレクトロクロミック、及び光学的特性(例えば、携帯用パソコン及びコンピュータ画面の輝度を高めること、細胞信号の干渉を低減すること、及び自動車が赤外光(熱線)を反射することによりより効率的に機能できるようにし、空調設備への負荷を低減すること)を有した機能的に向上した材料が包含される。
【0065】
多層シルク膜は、通常は吸収される光を取り込んで、それを通常の光に変換して輝度を高めることができる。自動車産業においては多層シルク膜は太陽赤外熱を反射するために用いることができるが、これは、非伝導性膜が完全に透明であるためであり、この特性は、日光の透過の増大が望ましい建築用途において有用である。何百もの透明シルクポリマー層からなる多層膜は、光学干渉効果のために反射性となる。反射及び透過される波長は、それらが保持される角度によって変わる。
【0066】
多層膜は、薄いナノ多孔性膜及び細孔膜を形成するために用いることができ、金属ナノ粒子の合成のためのナノリアクタとしても利用することができる。
水素結合した多層シルク膜は、水素結合した膜の脱構築速度を制御することが望ましいミクロパターニング及び薬物送達などの用途において用いることができる。多層薄膜の脱構築挙動を調節するための一つの手法は、膜の構造的設計を介したものである。
【0067】
別の用途としてはエナンチオマー分離がある。キラリティは生物学における分子認識の鍵となるものである。製薬業界における単一のエナンチオマー薬物のニーズが、キラル分子の調製スケールでの分離に対する技術の開発に弾みをつけている。膜に基づく分離は、操作の簡便性とコストの低さからさらに注目を浴びている。
【0068】
多層シルク膜のさらなる用途は、人工皮膚移植片である。大きな燃焼事故は皮膚への広範な損傷を伴う。体液の損失を制限し、組織の修復と再生を助けるためには、即時に被覆を行う必要がある。理想的な皮膚代替物の構造的及び機能的特性は、自家移植皮膚と厳密に一致していなければならない。代替物調製手順及びその組成物の柔軟性は、被覆に対してさらなる価値を与え、拒絶と炎症性反応の活性化を最小限に抑える。本方法は、大きさ、形状及び組成を限定することなく膜を製造する簡単な手段を提供し、ポリペプチドは本質的に生体適合性であるために、多層クモシルク膜は、人工皮膚移植片を調製するためにも有用である。
【0069】
ナノ濾過(NF)は、硬水軟化、汽水再生及び染料塩分離などの用途に対して使用される圧力駆動膜分離処理である。このような用途は、逆浸透(RO)膜に典型的な高度なNaCl排除を必要としないため、NFは、ROよりも著しく低い圧力で起こり、したがって必要とするエネルギーも少ない。この理由から、NFの利用は急速に成長してきているが、安定であって防汚性のある選択的なハイフラックス膜の継続的な開発が、この分離技術の利用性を高めるに違いない。RO及びNFの両方において、膜は透過性の高い支持体上の選択的表皮層からなるが、これは膜層の厚みを最小限にすることで、その密集性にもかかわらず適度な流動を可能にするためである。このような膜構造を作るための典型的な手順には、相反転及び界面重合による複合膜の形成、移植、又は予め形成された多孔支持体上への膜の堆積などが含まれる。複合膜は、少量の潜在的に高価な表皮材料しか必要としないため、特に魅力的である。多層シルク膜は、NF、ガス分離、及びパーベーパレーション(pervaporation)用の膜の表皮層を形成するための制御された方法を提供する。
【0070】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】合成シルク蛋白質(AQ)24NR3及びC16を6Mチオシアン酸グアニジンに溶解し、5mMリン酸カリウムpH8.0に対して透析したもの(直線)、又はHFIPに溶解したもの(点線)のCDスペクトル。
【図2】(AQ)24NR3及びC16から作成した蛋白質膜のCDスペクトル。無地の石英硝子上に直接、蛋白質のHFIP溶液から膜をキャスティングし、CD分光法によって解析した(点線)。続いて、1Mリン酸カリウムで膜を処理し、再度解析した。膜の厚みの定義における不正確さのために、ΘMRWを判定することはできなかった。
【図3】HFIP溶液からキャスティングし、リン酸カリウムで処理したC16膜の修飾。(A)フルオレセイン(黄色)の効率的結合は、C16のカルボキシル基をEDCを用いて活性化した場合(+)にのみ起こった。これに対し、EDC活性化なし(−)では、膜にはほとんどフルオレセインが結合しなかった。(B)結合したβ−ガラクトシダーゼの活性を、X−Galを基質として用いてモニタした。酵素活性を示す青色沈殿の発生は、EDCで活性化された膜(+)の上にだけ見られ、非活性化膜(−)では残留酵素活性しか示さなかった。
【図4】多層シルク膜のキャスティング。
【図5】様々な機能性を備えた多層シルク膜のキャスティング。
【図6】様々な機能性を備えた多層シルク膜のキャスティング。
【図7】EDC(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド)によって誘発されるアミノ反応性薬剤の結合で示されるような、シルク蛋白質への薬剤の化学的結合。
【図8】シルク表面の特異的官能化。多層膜において、極性は、異なる蛋白質からキャスティングした多層シルク膜を用いることで得られる。
【図9】多層シルク膜への薬剤の混合。
【図10】多層シルク膜への薬剤の混合。原理の証明として、キャスティングに先立って、異なって着色された化学物質をシルク蛋白質溶液に加えた。
【図11】サンドイッチ多層シルク膜への固体薬剤の混合。
【図12】サンドイッチ多層シルク膜への流体薬剤の混合。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層シルク蛋白質膜の形成方法であって、
a)ギ酸中に溶解又は懸濁したシルク蛋白質からなる一又は複数の溶液を用意する工程と、
b)前記溶液のうちの1つを膜に形成する工程と、
c)ギ酸を蒸発させて、第1のシルク蛋白質膜層を形成する工程と、
d)多層シルク蛋白質膜を形成するために、a)〜c)の工程を一又は複数回繰り返して、第1のシルク蛋白質膜層の上にさらなるシルク蛋白質膜層を形成する工程と
を含む方法。
【請求項2】
多層膜の各単層は、一又は複数種類のシルク蛋白質を含んだシルク蛋白質溶液から形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多層膜は、同じ(同質多層膜)又は異なる(異質多層膜)シルク蛋白質からなる層から形成される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
多層膜は、シルク蛋白質からなる一又は複数の層と、他の蛋白質性材料又は非蛋白質性材料を含んだ一又は複数の層とを備える、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
非蛋白質性材料は、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンスルホン酸塩(PSS)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリアクリル酸(PAA)、及び/又はポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム(PDADMAC)から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
他の蛋白質性材料は、コラーゲン、エラスチン又はケラチンから選択される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
シルク蛋白質は、昆虫シルク蛋白質又はクモシルク蛋白質、好ましくは天然又は組み換えシルク蛋白質、好ましくは昆虫綱、蛛形綱又はそれらに類似のものに由来のシルクから選択される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
多層膜の層は、層内に混合されるか、あるいは隣接する2つの層の間に配置される一又は複数の薬剤を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
一又は複数の薬剤は、金属、化学物質及び/又は医薬品から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
シルク蛋白質は、工程1b)の前又は後に、共有結合により官能化される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
シルク蛋白質溶液は、0.1〜20%、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜3%(重量/体積)のシルク蛋白質を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
膜は、適当な支持体の上に溶液をモールディング、スピンコーティング又はキャスティングすることにより形成される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法によって得られる多層膜。
【請求項14】
少なくとも2層のシルク蛋白質膜を備える多層シルク蛋白質膜。
【請求項15】
多層膜の各単層は、一又は複数種類のシルク蛋白質を含んだシルク蛋白質溶液から形成される、請求項14に記載の多層膜。
【請求項16】
多層膜は、同じ(同質多層膜)又は異なる(異質多層膜)シルク蛋白質からなる層から形成される、請求項14又は15に記載の多層膜。
【請求項17】
多層膜は、シルク蛋白質からなる一又は複数の層と、他の蛋白質性材料又は非蛋白質性材料を含んだ一又は複数の層とを備える、請求項14〜16のいずれかに記載の多層膜。
【請求項18】
非蛋白質性材料は、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンスルホン酸塩(PSS)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリアクリル酸(PAA)、及び/又はポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム(PDADMAC)から選択される、請求項17に記載の多層膜。
【請求項19】
他の蛋白質性材料は、コラーゲン、エラスチン又はケラチンから選択される、請求項17に記載の多層膜。
【請求項20】
シルク蛋白質は、昆虫シルク蛋白質又はクモシルク蛋白質、好ましくは天然又は組み換えシルク蛋白質、好ましくは昆虫綱、蛛形綱又はそれらに類似のものに由来のシルクから選択される、請求項14〜19のいずれかに記載の多層膜。
【請求項21】
多層膜の層は、層内に混合されるか、あるいは隣接する2つの層の間に配置される一又は複数の薬剤を含む、請求項14〜20のいずれかに記載の多層膜。
【請求項22】
一又は複数の薬剤は、金属、化学物質及び/又は医薬品から選択される、請求項21の記載の多層膜。
【請求項23】
シルク蛋白質は、共有結合により官能化されている、請求項14〜22のいずれかに記載の多層膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−535242(P2009−535242A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508152(P2009−508152)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003304
【国際公開番号】WO2007/128378
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(506426030)
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITAET MUENCHEN
【Fターム(参考)】