説明

多層シーラントフィルム

【課題】容器(例えば、食品包装に用いられる容器など)を密封するために好適な多層フィルム、およびこのフィルムの製造方法に関する。
【解決手段】本発明のフィルムは、ポリ乳酸(PLA)から製造される密封容器に特に好適である。この多層フィルムは、a)ポリマー性ベース層を含む基材と、b)前記基材上の、PLAホモポリマーまたはPLAコポリマーを含有するヒートシール層とを含む。ヒートシール層は、その中に分散された接着促進剤をさらに含む。あるいはその代わりに、基材は、前記ベース層と前記ヒートシール層との間にあり且つ隣接している、前記ポリマー性ベース層の表面上の層内に接着促進剤をさらに含む。ヒートシール層内、またはヒートシール層の基材とは反対側の表面上に、防曇剤を含ませることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2006年7月14日に出願された米国仮出願第60/831,016号の優先権を主張し、この出願の全明細書を参照により本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は、高度に生分解性のポリマーであり、例えばトウモロコシなどの天然原料から得られる。食品包装トレーの製造ためのPLAの使用はますます多くなっており、これは、少なくとも部分的には、ポリ乳酸が容易に生分解可能であること、およびポリ乳酸から製造されたトレーが非常に高い酸素量および透湿速度を有することに起因する。しかし、PLAから製造されたトレーは、わずか104 °F(40℃)の温度で軟化および変形する傾向がある。この欠点のため、PLAトレーに使用するためのふた用フィルムについての決定的に重要な要求は、ヒートシールが低い温度(200 °F前後、すなわち93℃前後)、短い滞留時間(2秒未満)で形成されなければならないことである。従来のシーラントフィルムは、十分に低い温度でPLAトレーにヒートシール(熱融着)しないか、あるいはヒートシール強度がシール後長期にわたると低下する。1層のアモルファスPLA層と1層の結晶性PLA層とを有する共押出しPLAフィルムは、低い温度でPLAトレーにシールされ得るが、このようなフィルムは、典型的には非常にもろく、容易に裂け、パッケージングライン、特に高速のパッケージングラインにうまく載らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4375494号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したとおり、PLAトレーに使用するための密封性能の要求と、実用的な通常の使用のために求められるフィルム加工性能との両方を満足するふた用フィルムを提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様では、本発明は、
a)ポリマー性ベース層を含む基材と、
b)前記基材上の、PLAポリマーを含むヒートシール層と
を含む多層フィルムを提供する。前記ヒートシール層は、その中に分散された接着促進剤をさらに含むか、あるいは、前記基材は、前記ポリマー性ベース層と前記ヒートシール層との間にあり且つ隣接している前記ポリマー性ベース層の表面上の層内に、接着促進剤をさらに含む。
【0006】
別の態様では、本発明は、開口部を有するうつわを含む密封容器であって、前記開口部が、請求項1に記載の多層フィルムを用いて、上述した通りフィルムのヒートシール層を有する側でシールされている密封容器を提供する。
【0007】
さらに別の態様では、本発明は、多層フィルムの製造方法を提供する。この方法は、
a)コーティング液を、ポリマー性ベース層を含む基材に適用する工程であって、
前記コーティング液が溶媒およびPLAポリマーを含み、
前記コーティング液が、接着促進剤をさらに含むか、あるいは、前記基材が、前記コーティング液を受容するための、前記ポリマー性ベース層の表面上の層の中に接着促進剤をさらに含むか、のいずれかである工程と、
b)溶媒を除去して、前記PLAポリマーを含むヒートシール層を形成させる工程と
を含む。
【0008】
さらなる態様では、本発明は、PLAポリマー、コポリエステル、および溶媒を含むコーティング組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、PLAポリマーをポリエチレンテレフタレート(PET)および他の多くの基材に適切に強く接着することが、本発明以前に公知の方法では非常に達成困難であることに気付いた。この問題および他の問題に取り組むために、本発明の多層フィルムは、ポリマー性ベース層を含む基材と、この基材上の、PLAポリマーを含むヒートシール層とを含む。このヒートシール層および基材の1つまたは双方は、接着促進剤をさらに含み、この接着促進剤は、PLAポリマーとポリマー性ベース層との間の接着性を高める一方、良好な低温ヒートシール特性を維持する。特に指定しない限り、本明細書で用いる用語「PLAポリマー」には、乳酸のホモポリマー、および少なくとも30モル%の乳酸繰り返し単位を含む乳酸のコポリマーが含まれる。基材が接着促進剤を1つの層として含む場合、この層は、ポリマー性ベース層の製造プロセスの際にインラインで、あるいはポリマー性ベース層を製造した後にオフラインで形成させることができる。一般に、ヒートシール層内に用いられることになるポリマー材料(すなわち「ヒートシール可能な」ポリマー)は、ポリマー性ベース層の軟化温度より少なくとも50 °F、典型的には少なくとも100 °F、より典型的には少なくとも150 °F低い軟化温度を有する熱可塑性ポリマーである。軟化温度は、好ましくは75 °Fより高い。
【0010】
接着促進剤をヒートシール層の中に分散させる場合、この分散液は、均一な溶液の形態をとることができ、あるいは、ヒートシール層は、異なる組成を有するポリマー性分散相とポリマー性連続相とを含むことができる。一部の実施態様では、接着促進剤は、これらの相の一方の50重量%を超えて占め、かつ、前記PLAポリマーは、これらの相の他方の相の50重量%を超えて占める。接着促進剤は、PLAポリマー中に分散されていてよく、あるいはその逆であってもよい。本発明の一部の実施態様のヒートシール層において存在する曇った外観は、異なる組成のポリマー相の存在を示すと考えられる。基材の乾燥後にこのような外観および良好なヒートシール性能をもたらす典型的な1つの配合は、アモルファスPLAポリマー〔PLA 4060D、NatureWorks LLC社(Minnetonka、MN)からのD,L-ポリ乳酸ポリマー〕30%と、コポリエステル(アゼライン酸/テレフタル酸/エチレングリコール、45/55/100モル当量)70%からなる。
【0011】
本発明者は、接着促進剤を注意深く選択することによって、PLAが変形されない一方で、PLAポリマー層と基材との間の良好な接着がもたらされるために十分に低い温度で、トレーなどのPLA製品を密封することができる多層フィルムを製造することが可能であることを見いだした。さらに、機械的に強力なポリマー性ベース層の存在に少なくとも部分的によって、これらのフィルムは、典型的には、パッケージングラインにおける優れた加工性を示す。
【0012】
任意の厚さの多層フィルムを、本発明に従って用いることができる。典型的には、ポリマー性ベース層は、12〜120ミクロンの範囲の厚さであってよい。ヒートシール層は、典型的には0.5〜20ミクロン、より典型的には2.0〜10ミクロンの範囲の厚さである。これらの比較的薄いヒートシール層は、典型的には、溶液コーティングによって製造することができ、他の方法(例えば、押出しコーティングまたは共押出しコーティングなど)によって達成することは困難である可能性がある。押出加工PLAポリマーの欠点は、予めポリマーを乾燥させて熱劣化を防止する必要があることである。この特別な工程は、PLAポリマーを溶液コーティングによって典型的な条件下(すなわち、PLAポリマーの熱変性温度未満の加工温度)で適用する場合にはなくすことができる。別個の接着促進層がPLAポリマーとポリマー性ベース層との間に存在する場合には、接着促進層は、典型的に、0.02〜5ミクロンの範囲の厚さである。
【0013】
ヒートシール層が、その中に溶解されたかまたは分散された接着促進剤を含む場合、接着促進剤の量は、促進剤とPLAモノマーとの合計重量の、典型的には少なくとも1重量%、より典型的には少なくとも10重量%、最も典型的には少なくとも20重量%、または少なくとも30重量%である。この量は、典型的には、最高で90重量%、より典型的には最高で70重量%、最も典型的には最高で40重量%である。ヒートシール層が比較的透明である(曇っていない)ことが求められる本発明の実施態様では、接着促進剤のPLAポリマーに対する相対的な量は、幾分低いことが好適である可能性がある。例えば、接着促進剤の量は、促進剤とPLAモノマーとの合計重量の、典型的には少なくとも20重量%、より典型的には少なくとも30重量%、最も典型的には少なくとも40重量%である。この量は、典型的には最高で60重量%、より典型的には最高で50重量%である。フィルムの表面上に水滴が形成されることを、そのような形成が促される環境で使用する場合(例えば、冷凍食品の包装など)に、避けることが望まれる場合には、以下にさらに記述するように、防曇剤を使用することもできる。多層フィルムを構成する成分を、以下にさらに詳細に論じ、次いで、どのようにフィルムを製造するかと、いくつかのフィルムの典型的な用途とを記述する。
【0014】
[ヒートシール層]
ヒートシール層は、少なくとも1種のPLAポリマーを含む。本発明に従って用いるための好適なPLAポリマーの種類は、当分野で公知の任意の種類であってよく、乳酸のホモポリマーおよびコポリマーを含む。好適なコポリマーには、式:
HOC(R1)(R2)(CH2)nCOOH
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、H、または置換もしくは非置換のC1〜C5基であり、nは、0〜10の整数である)
のコポリマーが含まれる。PLAポリマーはアモルファス(すなわち、示差走査熱量測定によって測定して少なくとも90%アモルファス)であってよく、あるいは、PLAポリマーは実質的に結晶性であってよい。典型的には最高で50%まで結晶性であり、より典型的には最高で20%まで結晶性である。PLAポリマーは、乳酸のホモポリマーであってよく、以下のモルホロジー的にはっきりと区別可能なポリマー:D-ポリ乳酸、L-ポリ乳酸、D,L-ポリ乳酸、およびメソ-ポリ乳酸の1種以上であってよい。D-ポリ乳酸およびL-ポリ乳酸は、相当する純粋な鏡像異性酸のポリマーであり、光学活性ポリマーである。D,L-ポリ乳酸は、ラセミ乳酸から製造される。すなわち、D,L-ポリ乳酸は、D-およびL-ポリ乳酸単位の明確な立体配座を有するD-ポリ乳酸とL-ポリ乳酸とのコポリマーである。メソ-ポリ乳酸は、等モルのD-ポリ乳酸およびL-ポリ乳酸のランダムコポリマーである。PLAホモポリマーのモルホロジーは、ポリマー骨格中のD異性体のL異性体に対する比によって支配されていることが知られている。典型的には、D-乳酸含有量が高いほど、ポリマーの結晶性が低い。
【0015】
任意の公知の重合法、例えば、重縮合および開環重合などを、乳酸を重合させるために採用することができる。重縮合法では、例えば、L-乳酸、D-乳酸、またはこれらの混合物を、当分野で公知の脱水重縮合反応に直接かける。開環重合法では、ラクチド(すなわち、乳酸の環状二量体)を触媒の存在下で重合反応にかけてポリ乳酸を形成させる。ラクチドは、L-乳酸の二量体、D-乳酸の二量体、またはL-乳酸およびD-乳酸の混合二量体であってよい。これらの異性体を、混合し且つ重合させて、任意の所望の組成および結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0016】
少量の鎖延長剤(例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、または酸無水物)を用いて、PLAポリマーの分子量を増大させることができる。ポリマーは、任意の分子量範囲内であってもよいが、通常、重量平均分子量は、60,000〜1,000,000ダルトンの範囲である。典型的には、分子量が60,000未満であると、適切な物理的特性が得られない場合がある。他方では、分子量が1,000,000より高いと、溶融粘度が過剰に高くなり、成形性が悪くなる。
【0017】
PLAポリマーは、乳酸と1種以上のコモノマーとのコポリマーであってもよい。このようなコポリマーは、存在する場合には、合計で、PLAポリマーの50モル%未満、典型的には30モル%未満、より典型的には10モル%未満を占める。このようなコモノマーの例には、カプロラクトン;ヒドロキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ吉草酸、および6-ヒドロキシカプロン酸など);ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリ(エチレングリコール)、グリセロール、およびペンタエリスリトールなど);および多塩基酸(例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムオキシスルホニルイソフタル酸、および5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタレート)が含まれる。本発明の一部の実施態様では、コモノマーは(存在する場合には)生分解性であることが好ましい。
【0018】
本発明の一部の実施態様では、フィルムは、防曇剤を、水滴の形成に起因するフィルムの内側表面の曇りの形成を低減または排除するために含む。防曇剤は、ヒートシール層内に分散され、かつ/あるいはヒートシール層の基材の反対側の表面上に存在する。一部の実施態様では、防曇剤はヒートシール層を形成させるために用いられる配合物の一部であってよく、防曇剤はヒートシール層中に広く分散されたままであってもよく、あるいは防曇剤は表面を被膜していてよい。あるいは、防曇剤は、浸漬、スプレー、もしくはコーティング(典型的には溶媒からのコーティング)により、ヒートシール層の表面に直接適用することができる。好適な防曇剤の例には、アルコキシル化脂肪エーテル〔例えば、ATMER(登録商標)502〕、ソルビタンエステル〔例えば、ATMER(登録商標)103〕、他の公知の非イオン性、陰イオン性、および陽イオン性の界面活性剤〔例えば、ポリアルキレン脂肪酸エステル、アルコキシル化フェノール、混合モノ-、ジ-、もしくはトリ-グリセリド、ポリヒドロキシアルコールの脂肪酸エステル、他のポリアルコキシル化された化合物など〕が含まれる。ATMER(登録商標)製品は、Ciba Specialty Chemical社(Tarrytown、NY)から入手可能である。ヒートシール層に含まれる場合、防曇剤は、典型的には、ヒートシール層の約0.1重量%〜15重量%、より典型的には、約0.5重量%〜10重量%を占める。ヒートシール層の表面に直接適用する場合、防曇剤の量は、典型的には、ヒートシール層の重量の約0.1重量%〜5重量%、より典型的には、約0.1重量%〜1重量%の範囲である。
【0019】
ヒートシール層には、無機粒子(例えば、シリカなど)、および/またはスリップ剤(例えば、ワックスなど)、および/またはポリテトラフルオロエチレン分散物が含まれていてよい。一部の用途では、酸化防止剤が含まれていてもよい。一部の実施態様では、ヒートシール層は、可塑剤(例えば、ポリグリコールもしくはポリエーテル、またはこれらのエステル)、粘着付与剤、および/または無機充填剤を含まないことができる。ヒートシール層はまた、一部の実施形態では、PLAポリマー以外の脂肪族ポリエステルを含まないこともできる。
【0020】
[接着促進剤]
本明細書において、用語「接着促進剤」は、ヒートシール層内のPLAポリマーに添加するか、またはヒートシール層とポリマー性ベース層との間の中間層として用いると、実施例の節における方法(ii)に従って測定して少なくとも200 g/インチのヒートシール強度をもたらす材料を意味する。この強度は、典型的には少なくとも300 g/インチであり、より典型的には少なくとも400 g/インチである。好ましくは、接着促進剤は、方法(ii)に従ってフィルムを剥がす際に凝集破壊状態をもたらし、ヒートシール層はそれぞれポリマー性ベース層に残り、かつ、分離は融着したヒートシール層内で起こる。好適な接着促進剤には、これらだけに限定されないが、エチレンコポリマー〔例えば、EVA(エチレン-ビニルアセテート)およびEMA(エチレン-メチルアクリレート)など〕、および粘着付与樹脂(例えば、ロジンエステルなど)が含まれる。
【0021】
一部の実施態様では、接着促進剤は、コポリエステル樹脂を含む。本明細書において用語「コポリエステル」は、少なくとも1種(好ましくは1種だか)の芳香族ジカルボン酸および少なくとも1種(好ましくは1種だか)の脂肪族ジカルボン酸、またはこれらの低級アルキルジエステル(最高で炭素原子14個のアルキルジエステル)とから、1種または2種のグリコールを用いて誘導されたポリエステルを意味する。コポリエステルの形成は、縮合またはエステル交換の公知の方法によって、一般に最高で約275℃までの温度で都合良く行わせることができる。代表的な芳香族ジカルボン酸には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、および2,5-、2,6-、もしくは2,7-ナフタレンジカルボン酸が含まれる。代表的な脂肪族ジカルボン酸は、一般式 CnH2n(COOH)2(式中、nは2〜8である)の飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、またはピメリン酸など)であり、セバシン酸、アジピン酸、およびアゼライン酸が好ましく、アゼライン酸がより好ましい。
【0022】
一部の実施態様では、ポリエステルは、90%未満の芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸など)と、少なくとも10%の脂肪族ジカルボン酸を含有する(%は、ポリエステルの全二酸含有量のモルパーセントである)。典型的には、芳香族ジカルボン酸の濃度は、少なくとも55モル%であり、60モル%以上であってもよい。この濃度は、コポリエステルのジカルボン酸成分に基づいて、典型的には約80モル%以下、より典型的には70重量%以下、最も典型的には65モル%以下である。コポリエステル中の脂肪族ジカルボン酸の濃度は、コポリエステル中のジカルボン酸成分に基づいて、典型的には少なくとも20モル%、より典型的には少なくとも35モル%であって、典型的には最高で45モル%までである。重量基準で表すと、芳香族および脂肪族のジカルボン酸の相対的な量はそれぞれの分子量にいくぶん依存するが、典型的には、少なくとも55重量%の芳香族ジカルボン酸と、少なくとも45重量%の脂肪族ジカルボン酸が存在する。
【0023】
好適なグリコールには、脂肪族グリコール(例えば、アルキレングリコールなど)が含まれる。さらに、好適なグリコールには、脂肪族ジオール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-l,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、および1,6-ヘキサンジオールなど)が含まれる。エチレングリコールまたは1,4-ブタンジオールが典型的に用いられる。コポリエステルは、典型的には少なくとも50%アモルファスであり、完全にアモルファス(すなわち、示差走査熱量測定によって測定して少なくとも90%アモルファス)であってもよい。
【0024】
前述したように、コポリエステルは、ヒートシール層内にPLAポリマーと共に分散されていてもよく、かつ/あるいは基材の一部を形成(すなわち、ポリマー性ベース層上に層を形成)していてもよい。
【0025】
[ポリマー性ベース層]
ポリマー性ベース層は、当分野で公知の任意のフィルム形成性ポリマーを、それがPLAホモポリマーだけから製造されたフィルムより機械的に強度が高いことを条件に、含んでいてよい。例には、これらだけに限定されないが、ポリエステルフィルム、ナイロン(登録商標)フィルム、ポリエチレンもしくはエチレンコポリマーで作製されたフィルム、ポリプロピレンフィルム、および強化PLA材料で作製されたフィルムが含まれる。
【0026】
本発明の一部の実施態様では、ポリマー性ベース層は、線状ポリエステル層、典型的には二軸配向線状ポリエステル層を含む。典型的には、線状ポリエステルは、約0.5〜約0.8、最も典型的には約0.6の固有粘度を有する。ポリエステルフィルムの例には、二軸配向ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、および二軸配向ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムが含まれる。
【0027】
特に有用であるものは、二軸配向性であり且つヒートセット性であるポリエチレンテレフタレートである。このような材料は当分野において周知であり、例えば、Stokesの米国特許第4375494号(参照により本明細書に組み込む)に記載されている。
【0028】
ポリエチレンテレフタレートポリマーの製造技術は、当業者に周知であり、例えば、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, 2nd. Ed., Vol. 12, Wiley, N. Y., pp. 1-313などの多くの文献に開示されている。ポリマーは、適切なジカルボン酸またはその低級アルキルジエステルをエチレングリコールと縮合させることによって典型的に得られる。ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステルから形成され、ポリエチレンナフタレートは、2,6-ナフタレンジカルボン酸またはそのエステルから形成される。
【0029】
共押出しされた二層のポリエステル/コポリエステルフィルムを、その上にPLAをコーティングする基材として用いる場合、この二層フィルム複合体は、複数のオリフィスダイによる多段押出しまたは複合層の共押出し(例えば、米国特許第3871947号に広く記載されている)、その後の1方向もしくは2方向への延伸による分子配向、およびヒートセットを含む方法によって都合良く製造することができる。単一チャネルの共押出しとして知られている共押出しのための簡便な方法および装置が、米国特許第4165210号および英国特許明細書第1115007号に記載されている。この方法は、同時に、第一および第二のポリエステルの流れを2つの異なる押出機から押出し、これらの2つの流れをチューブを通して押出ダイのマニホールドに導き、さらに、2つのポリエステルを、2つのポリエステルが混合されることなく流れの相異なる領域を占めるような層流条件下で、そのダイを通して一緒に押し出すことによって、フィルム複合体を製造する。
【0030】
フィルム複合体のポリエチレンテレフタレート部分の二軸配向は、複合体を、順次2つの互いに直交した方向に、典型的には78℃〜125℃の範囲の温度で延伸させることによって達成することができる。一般に、複合体を延伸させるための条件は、第一の熱接着性層を部分的に結晶化させる働きをしうる。さらにこのような場合には、フィルム複合体を、寸法束縛条件下で、第一の熱接着性層結晶溶融温度より高いがポリエチレンテレフタレート部分の結晶溶融温度より低い温度でヒートセットさせることが好ましい。次いで、この複合体を、放冷するかまたは冷却して、第一の熱接着性層が本質的にアモルファスである一方、PET部分には高い結晶性が維持されるようにする。したがって、延伸操作に続いて、寸法束縛条件下、150℃〜250℃の範囲の温度でヒートセットさせることが好ましい。都合のよい延伸法およびヒートセット法は、米国特許第3107139号に記載されている。ここに記載されている、ポリエステルベース層、およびポリエステルベース層上のコポリエステル層を組み込んだ、共押出しされたフィルム複合体は、MELINEX(登録商標)301Hの名称の下で、DuPont Teijin Films社(Wilmington、DE)から商業的に入手可能である。上述したように、これらは、本発明に従って、PLAコーティング組成物中に追加的なコポリエステルを含ませて、あるいは追加的なコポリエステルを含ませないで、PLAポリマーでコーティングすることができる。
【0031】
[多層シーラントフィルムの製造]
本発明の多層フィルムは、ポリマー性基材を、溶媒中のPLAポリマー溶液(場合により、接着促進剤も含有する溶液)でコーティングすることによって製造することができる。本明細書において、用語「溶媒」は、PLAポリマーおよび接着促進剤の一方または双方のための揮発性の担体を意味し、得られる混合物は、エマルション、マイクロエマルション、または他の分散体であってよく、厳密な意味で完全な溶液であってもよい。好適な溶媒には、これらだけに限定されないが、水、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、トルエンなどが含まれる。溶媒として水を用いる場合、乳化剤を使用してエマルションまたはマイクロエマルションを製造することができる。
【0032】
PLAポリマーを単独で用いる場合、PLAポリマーがコーティングされる基材の側面は、接着促進層を有していなければならない。例えば、溶媒コーティングされたコポリエステル層を有するポリエステルフィルムを用いることができるが、共押出しされた多層(典型的には二層)のポリエステル/コポリエステルフィルムを用いることもできる。いずれの場合でも、PLAポリマーを、その後、基材上にコーティングして多層フィルムを得る。
【0033】
コーティングは、当分野に公知の任意の方法、例えば、反転計測およびグラビアを含む方法で行うことができる。本発明者は、溶媒コーティング法を用いることによって、比較的薄いヒートシール層(例えば、0.5〜20ミクロン)を有する多層フィルムを製造することが可能であることを見いだした。このような比較的薄い層は、他の方法(例えば、押出しまたは共押出しコーティングなど)によって得ることが困難であることが多い。したがって、本発明は、他の方法(例えば、ラミネーションまたは押出しコーティングなど)によって製造される他の構造体と比較して、高い面積-重量比を有する多層フィルムの入手を可能にする。さらに、より薄いヒートシール層により、一部の用途(例えば、シール包装された食品容器など)において有利な、より容易に除去可能な(剥離可能な)シールももたらされる。
【0034】
[多層シーラントフィルムの用途]
上述したように、本発明のフィルムは、特に、密閉容器(例えば、PLAトレイなど)において、容器にふたをするフィルムとして使用することができる。典型的には、このようなトレイまたは他のうつわは、ポリ乳酸ホモポリマーでできているが、乳酸とコモノマー(これらだけに限定されないが、ヒートシール層に用いるPLAポリマーについて上述により言及したコモノマーを含む)とのコポリマーを、本発明に従って用いてもよい。しかし、他の種類の容器を、これらのフィルムでシールすることもでき、このような使用も本発明において想定されている。本質的に、開口部を有する任意のうつわをフィルムの側面にヒートシール層を有する本発明の多層フィルムでシールすることができる。
【0035】
以下の試験法を下記実施例で用いる。
【実施例】
【0036】
[試料の試験法]
(i)トレイへのヒートシール強度を、以下のように測定する。フィルムを、ヒートシール機上のPLAトレイ製容器のシートに、200 °F、35 psiの圧力で0.5秒間、そのヒートシール層によってヒートシールする。シールされたフィルムおよびトレイのストリップ(25 mm幅)を、シールに対して90 °で切り出し、Instron operatingを使用して0.25 m/分のクロスヘッド速度でシールを引き剥がすのに必要とされる荷重を測定する。この手順を通常4回繰り返し、5つの結果の平均値を算出する。
【0037】
(ii)複合体フィルムのそれ自体へのヒートシール強度を、以下のように測定する。2つのフィルムサンプルのヒートシール層を、一緒に置き、35 psiの圧力下、230 °Fで0.5秒間加熱する。シールしたフィルムを室温に冷まし、シールした複合体を25 mm幅のストリップに切り出す。ヒートシール強度は、フィルムの層を0.25 m/分のクロスヘッド速度で引き剥がすために直線的な張力下で必要とされる、単位シール幅当たりの力を測定することによって決定する。
【0038】
(iii)結晶性の割合は、示差走査熱量分析によって測定することができる。5 mgの試料をフィルムから取り、Perkin Elmer DSC7B示差走査熱量計で0℃から300℃まで80℃/分で加熱する。結晶性の割合は、結晶性が全ての試料に存在することを前提とする。
【0039】
[試料の調製]
コーティング溶液#1の調製:99 gのPLA 4060D(NatureWorks LLC(Minnetonka、MN)から購入した低結晶性D,L-ポリ乳酸ポリマー)、0.5 gのKEMAMIDE Eブロッキング防止剤(Witcoから購入)、およびSYLOID 244スリップ剤(W.R. Graceから購入)を、500 gのテトラヒドロフラン(THF)に添加した。この混合物を、30分間撹拌してコーティング溶液#1を得た。
【0040】
コーティング溶液#2の調製:69 gのPLA 4060D、30 gのアゼライン酸/テレフタル酸/エチレングリコールのコポリエステル(45/55/100モル当量)、0.5 gのKEMAMIDE E、および0.5 gのSYLOID 244を、400 gのテトラヒドロフラン(THF)に添加した。この混合物を、30分間撹拌してコーティング溶液#2を得た。
【0041】
試料1:コーティング溶液#1を、92ゲージMYLAR Eフィルム(DuPont Teijin Films社製の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に、順送りのコーティング法によってコーティングした。ロールギャップを調整して、8 g/m2の乾燥コーティング重量を達成させた。濡れたコーティングを、100℃で1分間乾燥させた。
【0042】
試料2:コーティング溶液#1を、MYLAR 100OLフィルム(DuPont Teijin Films社製造のコポリエステル層を有する二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に、順送りのコーティング法によってコーティングした。ロールギャップを調整して、8 g/m2の乾燥コーティング重量を達成させた。濡れたコーティングを、100℃で1分間乾燥させた。
【0043】
試料3:コーティング溶液#2を、92ゲージMYLAR Eフィルム(DuPont Teijin Films社製)上に、順送りのコーティング法によってコーティングした。ロールギャップを調整して、8 g/m2の乾燥コーティング重量を達成させた。濡れたコーティングを、100℃で1分間乾燥させた。
【0044】
試料4:コーティング溶液#2を、MYLAR 100OLフィルム(DuPont Teijin Films社製)上に、順送りのコーティング法によってコーティングした。ロールギャップを調整して、8 g/m2の乾燥コーティング重量を達成させた。濡れたコーティングを、100℃で1分間乾燥させた。
【0045】
試料1〜4において調製したフィルムを、上述した方法(i)および(ii)に従って、それぞれ、PLAトレー製造ストック、およびそのフィルム自体に、ヒートシールさせた。得られたヒートシール強度を下記表にg/インチで示す。
【表1】

【0046】
試料1と2とを比較することにより、コポリエステルの中間層を有するベースフィルム上の、PLAのみを含有するヒートシール層(試料2)のヒートシール性能は、中間コポリエステル層を有さないベースフィルム上の、PLAのみを含有するヒートシール層(試料1)のヒートシール性能より良好であることが分かる。さらに、試料1と3とを比較することにより、中間コポリエステル層が存在しない場合、PLAヒートシール層にコポリエステルを添加すると(試料3)、PLAのみを含有するヒートシール層(試料1)より高いヒートシール強度が得られることが分かる。最後に、試料4を試料2または試料3のいずれかと比較することにより、PLAヒートシール層内にコポリエステルを含ませること、およびコポリエステルを中間層として含ませることにより、それぞれ含ませないものより良い性能がもたらされることが分かる。
【0047】
本発明を、特定の実施態様を参照することにより本明細書において説明および記述しているが、本発明がこれらの明らかにした詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明から逸脱することなく特許請求の範囲およびその均等範囲内の詳細において、多様な変形がなされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリマー性ベース層を含む基材と、
b)前記基材上の、PLAポリマーを含むヒートシール層と
を含む、容器の密封に用いるための多層フィルムであって、
前記ヒートシール層が、その中に分散された接着促進剤をさらに含むか、あるいは、前記基材が、前記ポリマー性ベース層と前記ヒートシール層との間にあり且つ隣接している前記ポリマー性ベース層の表面上の層内に接着促進剤をさらに含み、かつ、
前記接着促進剤が、エチレンコポリマーであるか、または、1種以上のグリコール、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸、および少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸から誘導されるコポリエステル樹脂である、
多層フィルム。
【請求項2】
前記ポリマー性ベース層が、ポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記基材が前記接着促進剤の層を含み、前記接着促進剤の層がコポリエステルを含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記接着促進剤が、コポリエステルであり且つ前記ヒートシール層内に分散されている、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項5】
コポリエステルの量が、前記コポリエステルおよび前記PLAポリマーの合計重量の10重量%〜90重量%の範囲である、請求項4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記ヒートシール層が、それぞれ異なる組成物からのポリマー性分散相とポリマー性連続相とを含み、前記接着促進剤が、前記相の一方の50重量%を超えて占め、かつ、前記PLAポリマーが、前記相の他方の相の50重量%を超えて占める、請求項4に記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記ヒートシール層が、0.5〜20ミクロンの範囲の厚さである、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項8】
前記ヒートシール層が、2.0〜10ミクロンの範囲の厚さである、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項9】
前記ポリマー性ベース層が、二軸配向ポリエチレンテレフタートを含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項10】
前記PLAポリマーが、PLAホモポリマーまたはPLAコポリマーである、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項11】
前記PLAポリマーが、最高で50%まで結晶性である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項12】
前記PLAポリマーがアモルファスである、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項13】
前記ヒートシール層内に分散された防曇剤、またはヒートシール層の基材とは反対側の表面上の防曇剤をさらに含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項14】
開口部を有するうつわを含む密閉容器であって、前記開口部が、請求項1に記載の多層フィルムを用いて、フィルムのヒートシール層を有する側でシールされている、密封容器。
【請求項15】
前記うつわが、ポリ乳酸のホモポリマーまたはコポリマーから形成されている、請求項14に記載の密封容器。
【請求項16】
ポリマー性ベース層を含むフィルム基材をコーティングして、容器の密封に用いるための多層フィルムを製造するためのコーティング組成物であって、
前記組成物が、PLAポリマー;溶媒;ならびに、1種以上のグリコール、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸、および少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸から誘導されるコポリエステル樹脂を含む、組成物。
【請求項17】
コポリエステルの量が、前記コポリエステルおよび前記PLAポリマーの合計重量の10重量%〜90重量%の範囲である、請求項16に記載のコーティング組成物。

【公開番号】特開2013−18549(P2013−18549A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−179726(P2012−179726)
【出願日】平成24年8月14日(2012.8.14)
【分割の表示】特願2009−520763(P2009−520763)の分割
【原出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(505077426)デュポン・テイジン・フィルムズ・ユー・エス・リミテッド・パートナーシップ (9)
【Fターム(参考)】