説明

多層セルロースエアロゲルおよびその製造方法

【課題】構造をより正確に制御しうる多層セルロースハイドロゲルの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)セルロース産生菌を、23〜40℃で培養して繊維密度の低い第1ハイドロゲル層を形成する工程、および(B)セルロース産生菌を、10℃以上23℃未満で培養して前記第1ハイドロゲル層よりも繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する工程、を交互に実施することを含む、前記第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層が交互に3層以上積層された多層ハイドロゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層セルロースエアロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を含むエアロゲルおよびハイドロゲル(以下「セルロースエアロゲル」および「セルロースハイドロゲル」ともいう)は、工業材料、医療用材料、食用材料として注目を集めている。セルロースハイドロゲルはセルロース繊維の三次元ネットワーク構造中のポア(空孔)に水を保持してなるゲルであり、この水を空気で置換することによりセルロースエアロゲルが得られる。さらに、当該エアロゲル中の空気を再び水で置換すると、セルロースハイドロゲルとなる。
【0003】
セルロースハイドロゲルは、セルロース産生バクテリアを培養することにより得られる。例えば特許文献1には、30℃で5〜10日間、セルロース産生バクテリアを静置培養して、セルロースハイドロゲルを得ることが開示されている。このようにして得られたセルロースハイドロゲルは、通常、単層構造を有する。
【0004】
この他に、繊維密度の高い層と低い層とを交互に積層してなる多層構造を有するセルロースハイドロゲルも知られている。例えば、ミニストップ株式会社製「ハロハロ」に含まれるナタデココ、株式会社ドール製「ナタデココシラップづけ(ライト)」が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−241450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多層構造のセルロースハイドロゲルは、各層の特性を生かして高機能性を付与できる可能性があり工業的に有用である。そこで発明者らは、市販の多層セルロースハイドロゲルについて予備的に検討したが、これらは層構造にバラツキが多いことを見出した。この理由は、市販の多層構造のセルロースハイドロゲルは、セルロース産生バクテリアを自然環境下で培養して製造されるので、層構造の制御が容易ではないためと推察された。具体的にこれらの多層セルロースハイドロゲルは、通常、タイやフィリピン等の東南アジア地域において製造される。タイの年間平均気温は、月ごとに殆ど大差なく、最高気温30〜32℃、最低気温24〜25℃程度である。フィリピンの1日の最高気温は平均31℃、最低気温は平均24℃である。このため、昼間の高温(29〜32℃)培養においてバクテリアが高活性となり繊維密度の高い層が産生され、夜間(24〜25℃)の低温培養においてバクテリアが低活性となり繊維密度の低い層が産生される。しかし、温度は自然任せであるので変動幅が大きい。また高温培養と低温培養は約12時間周期で繰り返されるが、時期により変動する。よって従来の方法では、構造を精密に制御した多層セルロースハイドロゲルを得ることは困難であった。
【0007】
上記事情を鑑み、本発明は、構造をより正確に制御しうる多層セルロースハイドロゲルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは課題解決について検討を重ねた結果、セルロース産生バクテリアを特定の温度で培養することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記課題は、以下の本発明により解決される。
[1](A)セルロース産生菌を、23〜40℃で培養して繊維密度の低い第1ハイドロゲル層を形成する工程、および
(B)セルロース産生菌を、10℃以上23℃未満で培養して前記第1ハイドロゲル層よりも繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する工程、
を交互に実施することを含む、前記第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層が交互に3層以上積層された多層ハイドロゲルの製造方法。
[2]第1ハイドロゲル層の、以下の方法で求めた平均繊維束間距離が3.5〜5μm、以下の方法で求めた平均ポア径が0.9〜5μmであり、
第2ハイドロゲル層の、前記平均繊維束間距離が0.1μm以上3μm未満、前記平均ポア径が0.3〜0.9μmである:
[平均繊維束間距離の測定方法:[1]に記載の方法で得た多層セルロースハイドロゲルを乾燥してエアロゲルとし、当該エアロゲルを積層面に垂直に切断した面を観察して層状に存在する繊維束同士の層間の最短距離を複数測定し、平均する、
平均ポア径の測定方法:前記エアロゲルの表面を観察して複数の空孔の径を測定し、平均する]
前記[1]に記載の方法で得られた多層ハイドロゲル。
[3]第1ハイドロゲル層の、以下に定義されるR1が0.05以上0.50未満、
第2ハイドロゲル層の、以下に定義されるR2が0.50〜1.2である、
R1(%)=D1/W1×100
D1:前記第1ハイドロゲル層の乾燥時の質量
W1:前記第1ハイドロゲル層の飽和吸水時の質量
R2(%)=D2/W2×100
D2:前記第2ハイドロゲル層の乾燥時の質量
W2:前記第2ハイドロゲル層の飽和吸水時の質量
前記[1]に記載の方法で得られた多層ハイドロゲル。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、構造をより正確に制御しうる多層セルロースハイドロゲルの製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】セルロースハイドロゲルの概要図
【図2】加工方法を示す図
【図3】加工方法を示す図
【図4】本発明で得た多層セルロースエアロゲル表面のSEM像
【図5】本発明で得た多層セルロースエアロゲル切断面のSEM像
【図6】市販の2層セルロースエアロゲル表面のSEM像
【図7】市販の2層セルロースエアロゲル切断面のSEM像
【図8】市販の多層セルロースエアロゲル表面のSEM像
【図9】市販の多層セルロースエアロゲル切断面のSEM像
【図10】セルロースエアロゲルの膨張率を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」はその両端の値を含む。
1.セルロースハイドロゲルの製造方法
(1)工程A
工程Aでは、セルロース産生菌を、23〜40℃で培養して繊維密度の低い第1ハイドロゲル層を形成する。セルロース産生菌とは、培養することによりセルロースを産生する菌であり、例えば酢酸菌が挙げられる。酢酸菌としては公知のものを用いてよいが、その菌株の例としては、ATCC23769、ATCC10245、ATCC35959、ATCC10821、ATCC700178、Acetobacter xylinum FF-88 (FERM BP-4407)等が挙げられる。
【0012】
培地としては、公知のものを使用でき、例えば、寒天状の固体培地や液体培地(培養液)を使用できる。培養液としては、コーンスティープリカーおよび果糖を主成分とし、pHを5程度に調整した培養液等が挙げられる。
【0013】
培養温度は23〜40℃である。この温度で培養することにより、セルロース産生菌がセルロースハイドロゲルを産生する。温度設定の容易さ、コスト等を考慮すると、工程Aにおける培養温度は23〜33℃が好ましく、25〜32℃がより好ましく、26〜31℃がさらに好ましい。
【0014】
培養時間は所望の層の厚さを得るために適宜調整してよいが、12時間〜60日が好ましく、3日〜22日が好ましく、4日〜10日がより好ましい。また、培養は静置培養であることが好ましい。
【0015】
(2)工程B
工程Bでは、セルロース産生菌を10℃以上23℃未満で培養する。この温度でセルロース産生菌を培養することで前記第1ハイドロゲル層よりも繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する。一般に、温度が高い方がバクテリアの活性が高くなるので、得られる層の繊維密度も高くなると考えられるが、本発明においては、工程Aよりも低い温度で培養することにより、繊維密度の高い層を得る。
【0016】
この理由は限定されないが、次のように考えられる。一般に、セルロース産生菌を培養すると、菌はセルロースを吐き出しながらランダムに運動する。培養温度が適温の場合には菌は活発に運動し、かつ増殖する。このため、産生されるセルロース繊維の量は多いが、菌の移動距離も大きいので単位体積あたりの繊維密度が低くなり低繊維密度層が得られる。しかし培養温度が低い場合には菌の運動性が低下するため、菌の行動範囲が狭まり、菌は位置をあまり変えずに増殖する。このため、一定の限られた場所で菌が増殖し、かつセルロースを産生するので、単位体積あたりの繊維密度が高くなり高繊維密度層が得られる。
【0017】
また、10℃以上23℃未満という低温で培養することにより、酢酸菌の活性は低下しないが他の菌の活性が低下するので、ゲル中の不純物を少なくできる、または培地が腐食しにくくなる等の利点がある。
【0018】
この効果をよりよく発現するために、低温培養温度は15〜20℃が好ましく、17〜19℃がより好ましい。培養時間は高温培養と同様である。
工程AとBを交互に行なうことで、第1ハイドロゲル層と第2ハイドロゲル層が交互に積層された構造となる。効率よく製造するために工程AとBは、連続して行うことが好ましい。また、得られるセルロースハイドロゲルの最外層が繊維密度の高い第2ハイドロゲル層であると、ゲルの強度、形状安定性が良好となるので、工程Bを最初に行ない、その後工程AとBとを繰り返し、最後に工程Bを実施することがより好ましい。
【0019】
(3)後処理
培養後の培地に公知の後処理を施すことでセルロースハイドロゲルとできる。例えば、産生物を培地から取り出した後、水洗、アルカリ処理によりバクテリアを除去することにより、セルロースハイドロゲルを得ることができる。
【0020】
2.セルロースハイドロゲル
セルロースハイドロゲルはセルロース繊維の三次元ネットワーク構造中のポア(空孔)に水を保持してなるゲルである。本発明で得られるセルロースハイドロゲルの例を図1に示す。図1中、10は第1ハイドロゲル層、20は第2ハイドロゲル層である。第2ハイドロゲル層は強度および剛性が高いので、形状安定性の観点から、多層セルロースハイドロゲルの最外層は、第2ハイドロゲル層であることが好ましい。本明細書では特に断らない限り、最外層が第2ハイドロゲル層であるとして説明する。また、図1は3層構造のセルロースハイドロゲルを示しているが、本発明で得られる多層セルロースハイドロゲルの層数は、3以上であればよく、3〜11、3〜7程度が好ましい。
【0021】
(1)第1ハイドロゲル層
第1ハイドロゲル層は、第2ハイドロゲル層に比べて繊維密度が低い層である。層の特定は、セルロースハイドロゲルを乾燥してセルロースエアロゲルとし、セルロースエアロゲルの表面または破断面を電子顕微鏡等で観察して、ポア径を測定することにより可能である。セルロースエアロゲルにおいてポア径が大きい層が第1ハイドロゲル層、ポア径の小さい層が第2ハイドロゲル層に対応する。あるいは、セルロースハイドロゲルを観察して、透明度によって層を特定できる。この場合、透明度の高い層が第1ハイドロゲル層であり、透明度の低い層が、第2ハイドロゲル層である。
【0022】
第1ハイドロゲル層の繊維密度の範囲は特に限定されないが平均ポア径が0.9〜5μmであることが好ましい。平均ポア径は、次のようにして測定される。1)多層セルロースハイドロゲルを、室温にて(20〜25℃)水に16〜24時間浸漬した後、凍結乾燥してセルロースエアロゲルを得る。2)当該セルロースエアロゲルの表面を電子顕微鏡等で観察した際に認められるポア(空孔)の径を測定する。ポアが円でない場合は、長径と短径を測定し、その平均をポア径とする。3)複数のポアについてポア径を測定し、平均する。
【0023】
また、エアロゲル層における繊維密度は、以下のように測定される平均繊維束間距離によっても影響を受ける。通常セルロースハイドロゲルは、まず薄いシート状のセルロースハイドロゲルが産生され、次いで当該シート状のゲルが積層されてある程度の大きさのセルロースハイドロゲルが形成される。前述のとおりセルロース産生バクテリアを用いてセルロースハイドロゲルを製造する場合、通常、前記シート状のゲルは液面に平行に液相側に積層される。よって、セルロースハイドロゲル中にはセルロースの繊維が寄り集まった繊維束が層状に存在する。当該繊維束同士の最短距離を繊維束間距離といい、複数の繊維束について繊維束間距離を測定し平均したものを平均繊維束間距離という。平均繊維束間距離は繊維密度の指標となり、平均繊維束間距離が大きいほど繊維密度は小さくなる。第1ハイドロゲル層の平均繊維束間距離は3.5〜5μmであることが好ましい。平均繊維束間距離は、次のようにして測定する。1)前述の方法でセルロースエアロゲルを得る。2)カッター等を用いて当該セルロースエアロゲルを積層面に垂直に切断する。3)切断面を電子顕微鏡等で観察して、層状に存在する繊維束同士の層間の最短距離を測定する。4)複数の層間について前記距離を測定し平均する。
【0024】
この他、繊維密度はセルロースハイドロゲル単位質量あたりの乾燥質量Rを算出する、乾燥質量法でも評価できる。具体的にR(%)はD/W×100で定義される。Dはハイドロゲル乾燥時の質量であり、Wはハイドロゲルの飽和吸水時の質量である。Dを第1ハイドロゲル層の乾燥時の質量D1とし、Wを第1ハイドロゲル層の飽和吸水時の質量W1とすれば、第1ハイドロゲル層のR、すなわちR1が求められる。飽和吸水時とは、常態(室温、大気圧下)でゲルを吸水させた際に吸水量が飽和する時点である。またハイドロゲル乾燥時とは、ハイドロゲルが完全に乾燥されて絶乾状態のエアロゲルになっていることを意味する。具体的にW1およびD1は次のようにして求められる。
1)前述の方法により第1ハイドロゲル層を特定する。
2)第1ハイドロゲル層から試料を採取する。
3)当該試料を室温にて水に1晩侵漬した後、質量を秤量し飽和吸水時質量W1を求める。
4)前記3)で得た試料を乾燥した後、質量を秤量して乾燥時質量D1を求める。
【0025】
秤量は、精密天秤を用いて、0.1mgのオーダーまで測定することが好ましい。乾燥は、熱風乾燥、凍結乾燥、または自然乾燥等により行なってよいが、乾燥効率を考慮すると熱風乾燥が好ましい。第1ハイドロゲル層と第2ハイドロゲル層を分割する場合には、ゲルをつぶさないようにカッター等を用いて切断することが好ましい。
【0026】
Rが小さい方が第1ハイドロゲル層(低密度層)であり、大きい方が第2ハイドロゲル層(高密度層)となる。R1は0.05以上0.50未満が好ましい。
【0027】
(2)第2ハイドロゲル層
第2ハイドロゲル層は、第1ハイドロゲル層よりも高い繊維密度を有する。第2ハイドロゲル層の繊維密度の範囲は特に限定されないが、平均ポア径が0.3〜0.9μmであることが好ましく、0.6〜0.9μmであることがより好ましい。第1ハイドロゲル層の好ましい平均ポア径は0.9〜5μmであるので、表記上は第2ハイドロゲル層の好ましい平均ポア径の上限(0.9μm)と重複する。しかし、第1エアロゲル層の平均ポア径は常に第2エアロゲル層の平均ポア径よりも大きく、前記表記は、両者の値が同じになることは意味しない。
【0028】
第2ハイドロゲル層の平均繊維束間距離は0.1μm以上3μm未満であることが好ましい。
本発明のセルロースハイドロゲルは、第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層とも比較的小さな平均繊維束間距離を有する。このため、本発明のセルロースハイドロゲルは、食用とした場合に、独特のこりこりとした優れた食感を有する。
【0029】
また、第2ハイドロゲル層におけるR、すなわちR2はR1と同様にして求められる。R2は0.50〜1.2が好ましい。以上から、本発明のセルロースハイドロゲルにおいて、R1:R2は「0.05以上0.50未満」:「0.50〜1.2」であることが好ましい。
【0030】
(3)形状、寸法
本発明で得られるセルロースハイドロゲルの形状は限定されないが、取扱性等から、略立方体または略直方体が好ましい。略立方体とは立方体に準じる形状である。例えば、略立方体は、頂点や面と面とがなす角度が直角からややずれている、または丸みを帯びている形状の立方体や、各辺が略平行であるような立方体を含む。略直方体についても同様である。この場合、取扱性の観点から、第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層の主面が、略立方体または略直方体の底面と略平行であることが好ましい。主面とは、各層の主たる面であり、他の層が積層される面である。本発明で得られるセルロースハイドロゲルを裁断する等によって略立方体または略直方体に成形してもよい。略直方体とは、一辺の長さが他の辺よりも短い板状の形状も含む。板状とはバクテリアを培養して得られる前述のシートより厚く、当該シートとは異なる。
【0031】
本発明で用いるセルロースハイドロゲルの寸法は、特に限定されないが、取扱性等を考慮すると、一辺の長さが0.5〜2.0cmであることが好ましく、1.0〜1.8cmであることがより好ましい。
【0032】
(4)層の厚み
本発明においては、第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層の厚みを所望のとおりに制御できるので、セルロースハイドロゲルまたはこれから調製されるセルロースエアロゲルに機能性を付与できる。例えば、セルロースエアロゲルは、吸水材料として有用であるが、第1ハイドロゲル層を厚くするあるいは第1ハイドロゲル層の数を増やすと、吸水速度が大きいセルロースエアロゲルが得られる。この他、セルロースエアロゲルを圧縮すると、復元時に形状が元に戻ることを遅らせることができる(膨張率を低減できる)。このような性質は手術時の液体吸収材料等、医療用材料として用いる際に必要となるが、第2ハイドロゲル層を厚くするまたは第2ハイドロゲル層の数を増やすと、さらに前記膨張率を低減したセルロースエアロゲルが得られる。
【0033】
このように層の厚みを変える等によりセルロースハイドロゲルに機能性を付与できるが、各層の厚みは1〜8mmが好ましく、2〜4mmがより好ましい。
【0034】
3.セルロースエアロゲル
(1)調製方法
1)乾燥
セルロースエアロゲルは、前記セルロースハイドロゲルを乾燥させることで調製できる。セルロースエアロゲルにおける、第1ハイドロゲル層由来の層を第1エアロゲル層と、第2ハイドロゲル層由来の層を第2エアロゲル層という。乾燥方法としては、凍結乾燥、減圧乾燥、超臨界液体乾燥、亜臨界液体乾燥等が挙げられる。凍結乾燥は、水を凍結して昇華して行なう乾燥である。本発明においては、ゲルの劣化を避けるため、減圧下、50℃以下の低温において凍結乾燥することが好ましい。具体的には、15〜25Paの圧力下、−50〜−40℃の温度にて凍結乾燥することが好ましい。
【0035】
減圧乾燥は、減圧下において水を除去する乾燥である。本発明においては、25Pa〜0.1MPaの圧力下、−40〜100℃の温度にて乾燥することが好ましい。
超臨界液体乾燥は、溶媒溶液を超臨界以上に加熱した後、穏やかに溶媒蒸気を系外に排出することにより乾燥させる方法である。亜臨界液体乾燥とは、溶媒溶液を、超臨界よりも温度および圧力がやや低い状態の亜臨界状態にし、溶媒蒸気を系外に排出することにより乾燥させる方法である。
【0036】
本発明においては、セルロースハイドロゲル中の水をそのまま、またはエタノール、メタノール、二酸化炭素等で置換し、水またはエタノール等を超臨界液体乾燥または亜臨界液体乾燥することが好ましい。臨界温度および圧力は以下に示すとおりである。例えば、エタノールを用いる場合、6.38MPa、243℃で超臨界液体乾燥することができる。
【0037】
水を置換せずにそのまま乾燥させる場合は、超臨界状態で行なうとセルロースが分解する場合があるので、亜臨界状態で行なうことが好ましい。例えば、大気圧で100℃以上、かつ22.12MPaで温度374.15℃(647.30K)以下とすることが好ましい。
二酸化炭素:304.1(K)、7.38(MPa)
水 :647.3(K)、22.12(MPa)
メタノール:512.6(K)、8.09(MPa)
エタノール:513.9(K)、6.14(MPa)
アセトン :508.1(K)、4.70(MPa)
乾燥時間は、乾燥状態により適宜調整できるが、24〜72時間程度行なうことが好ましい。
【0038】
2)乾燥前処理
しかしながら単にセルロースハイドロゲルを乾燥すると、セルロースハイドロゲルにヒビが入る等の不具合が生じることがある。この理由は、乾燥中にセルロースハイドロゲル内部に存在する水が体積膨張を起こすことがあり、これによって生じたひずみにより、既に乾燥して強度が低下しているセルロースハイドロゲル表面が破壊されるためと考えられる。発明者らは、この不具合を解消するために、乾燥前にセルロースハイドロゲル表面を水で被覆する方法を開発している(特願2010−020455参照)。従って、本発明においても同様にして乾燥を行なうことが好ましい。
【0039】
また、本発明においては、セルロースハイドロゲル表面を水で被覆する代わりに、セルロースハイドロゲルをマルトース等の二糖類を含む水溶液に浸漬してもよい。このような水溶液を用いると、乾燥時のセルロースハイドロゲルの破損を防止するだけでなく、復元セルロースハイドロゲルを得る際の復元率および食感が向上する。マルトースとは、2つのα−グルコースが、α1−4グリコシド結合で結合した二糖である。この他、二糖類としては、スクロース(ショ糖)またはラクトース(乳糖)を用いてもよい。濃度範囲は0.001〜1質量%が好ましく、0.01〜0.5質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましく、0.2〜0.3質量%がよりさらに好ましく、0.22〜0.27質量%が特に好ましい。
【0040】
マルトースは、水あめに主成分として含まれているので、本発明においては、マルトースを含む水溶液として、水あめを含む水溶液を用いることが好ましい。水あめとは、主成分のマルトースの他に、ブドウ糖およびデキストリンを含む食用の甘味料である。水あめを用いると表面のつやを向上できる。水あめ水溶液の濃度は、当該水溶液に含まれるマルトースの濃度が前記範囲となるように調製される。しかしながら水あめには他の成分が含まれているので水あめの濃度が高くなるとゲル内に浸透しにくくなる。よって、この観点からは、水あめ濃度は0.01〜0.25質量%が好ましい。
【0041】
また、マルトースを含む水溶液として、水あめ2〜10gとゼラチン10〜20mLを30mLの水に溶解して得た水溶液を、さらに10〜1000倍に希釈して得た水溶液を用いてもよい。ゼラチンとは、コラーゲンを水で煮沸して得られる誘導たんぱく質である。
【0042】
セルロースハイドロゲルを前記水溶液に1〜24時間浸漬することで、前記水溶液がセルロースハイドロゲル中に浸透する。浸漬時の温度は室温が好ましい。
このような水溶液を用いることで復元セルロースハイドロゲルの食感および外観が向上する理由は限定されないが以下のように推察される。マルトース等の二糖類は、セルロース類似の化学構造を有し、かつ分子量も低いので、セルロースハイドロゲル内に浸透しやすい。そして二糖類は、セルロース繊維と親和性がよいので、乾燥時にもセルロース繊維間に存在する。このため、マルトースがなければ乾燥によってセルロース繊維同士が強固に結びついてしまうところ、二糖類により、セルロース繊維同士が強固に結びつくことが低減される。その結果、再び吸水させて復元セルロースハイドロゲルを得る際に、元のセルロース繊維によるネットワーク構造が再現されやすくなる。さらに二糖類をセルロースハイドロゲル中に浸透させる際に、本発明では比較的低い濃度の水溶液を用いる。濃度が低いので毛細管現象が生じやすく二糖類をセルロースハイドロゲル内により一層浸透させやすくなる。
【0043】
また、二糖類と併用されるゼラチンは、分子量が高いのでセルロースハイドロゲルの外郭を補強するように作用していると考えられる。しかしながら、ゼラチンも前記同様に比較的低い濃度の水溶液として用いるため、セルロースハイドロゲルを完全被膜することはないので、食感を低下させないと考えられる。
【0044】
この他、セルロースハイドロゲルを被覆する代わりに、セルロースハイドロゲルの30〜50体積%を水または前記水溶液に浸漬した状態で乾燥に供してもよい。
【0045】
(2)加工
セルロースエアロゲルには、切込を設けるなどの加工を施してもよい。セルロースエアロゲルを吸収させて再度セルロースハイドロゲルを得る場合に、当該加工により復元性を高めることができる。復元性については後で詳しく説明するが、復元性は復元セルロースハイドロゲルの形状および性状が、元のセルロースハイドロゲルにどの程度近いかを表す指標である。
【0046】
1)切込加工
切込加工として、最外層を構成する第2エアロゲル層表面に、i)深さxの切込1を長辺と短辺のいずれかに平行に複数設ける、またはii)深さxの切込1を長辺と短辺のいずれか一方の辺に平行に複数設け、さらに他方の辺に平行して深さxの切込2を複数設けることが好ましい。i)の加工を「平行カット」、ii)の加工を「クロスカット」ともいう。図2は、このような加工が施されたセルロースエアロゲルを示す。図2(a)は平行カットを施したセルロースエアロゲル、図2(b)はクロスカットを施したセルロースエアロゲルである。図2中、30は切込1であり、s1は切込1に平行な辺1(長さはL1)である。32は切込2であり、s2は切込2に平行な辺2(長さはL2)である。図2中、第1エアロゲル層および第2エアロゲル層の表示は省略してある。
【0047】
切込の深さxは、前記略立方体または略直方体(以下「略立方体等」ともいう)の切込が設けられる面の長辺と短辺の平均長さをL(=(長辺+短辺)/2)としたときに、0.02L〜0.1Lとなる長さである。具体的には、0.5〜1mm程度が好ましい。
【0048】
また、切込の深さ方向と切込を設ける面とのなす最小角度は、15〜90°であることが好ましい。当該角度が15〜30°程度であると、セルロースエアロゲルを損傷することなく切込を設けることができる場合がある。
【0049】
このように、最外層を構成する第2エアロゲル層表面に加工を施すことにより、復元性に優れたセルロースエアロゲルが得られる。この理由は限定されないが、第2エアロゲル層は繊維密度が高いので、ポア径が小さく水が浸透しにくいが、前記加工を施すことにより、水が浸透しやすくなるためと推察される。この効果をより十分に発揮するために、切込1の長さは、当該切込に平行な辺1の長さL1の70〜100%が好ましい。また、隣接する切込1同士の間隔は、L1/5〜L1/100が好ましい。具体的には、1つの面に5〜100本程度設けることが好ましい。この場合、切込1はできるだけ非等間隔で設けられることが好ましい。切込2に関しても同様である。切込を、周期性を有するように等間隔に設けると、いわゆるハスの葉効果により表面が濡れ難くなって水が浸透しにくくなる場合がある。
【0050】
切込を設ける手段は限定されない。例えば、カッターやカミソリを用いて切込を設けてよい。さらにこの切込加工は、略立方体等の他の5面に対して施してもよい。
【0051】
2)貫通穿孔加工
セルロースエアロゲルには、前記切込加工に加えて、貫通穿孔加工を施してもよい。貫通穿孔加工とは、略立方体等の面の中心を通り、対向する面の中心へ貫通する孔を設けることである。この孔により、水がセルロースエアロゲル中により浸透しやすくなる。図3(a)は貫通穿孔加工されたセルロースエアロゲルを示す。図3(a)中、40が貫通孔である。
【0052】
穿孔には公知の材料を用いてよいが、例えば、直径が0.3〜1mmの針を用いることが好ましい。さらに、貫通穿孔加工は、略立方体等の6面に対して施してもよい。
【0053】
3)非貫通穿孔加工
セルロースエアロゲルには、前記切込加工に加えて、非貫通穿孔加工を施してもよい。非貫通穿孔加工とは、略立方体等の面から対向する面へ向けて、貫通しない孔を設けることである。図3(b)は貫通穿孔加工されたセルロースエアロゲルを示す。図3(b)中、42が非貫通孔である。非貫通孔42の深さ方向と、非貫通孔42が設けられる面とのなす最小角度は75〜90°が好ましい。
【0054】
孔の深さは対向する面間の距離Mの10〜70%が好ましい。貫通しない孔の数は、2〜20個程度が好ましい。非貫通穿孔加工は、例えば、直径が0.3〜1mmの針を用いて行なうことが好ましい。さらに、非貫通穿孔加工は、略立方体等の6面に対して施してもよい。
【0055】
4)深切込加工
セルロースエアロゲルには、前記切込加工に加えて、深切込加工を施してもよい。深切込加工とは、略立方体等の対向する2面に、0.5M〜0.7M(ただしMは、前記対向する面間の距離)の深さの深切込を、双方の深切込がセルロースエアロゲル中で結合しないように1つずつ設けることである。この深切込により、水がセルロースエアロゲル中により浸透しやすくなる。図3(c)は深切込加工されたセルロースエアロゲルを示す。図3(c)中、44が深切込である。この場合、深切込と深切込を設ける面とのなす最小角度は75〜90°が好ましく、85〜90°がより好ましい。また、深切込を設けるz軸上の位置は、図3(c)のz軸方向の辺(s3)の長さをZとした場合、0.25Z〜0.33Zが好ましい。
【0056】
深切込の幅(図3(c)におけるy軸方向の長さ)が過度に長いと、セルロースエアロゲルの強度が低下することがあるので、切込の幅は当該切込を設ける面の短辺と長辺の平均長さLの50〜70%が好ましい。深切込を設ける手段は、切込加工で述べたとおりである。
【0057】
5)加工の組合せ
前記1)〜4)で説明した加工は、任意に組合せてよい。特に、1)〜3)の加工を略立方体等の6面に対して施し、4)の加工を対向する2面に対して施すと、極めて復元性に優れたセルロースエアロゲルが得られるので好ましい。この加工を特に「S加工」ということがある。
【0058】
6)セルロースエアロゲルに加工を施すことの意義
本発明では、セルロースエアロゲル、すなわち乾燥状態のゲルに対して加工を行なうことが好ましい。セルロースハイドロゲルに対して加工を行ない、これを乾燥すると、乾燥時に加工部近傍のセルロース繊維が過度に密着してしまう。密着したセルロース繊維は、吸水時には容易にほぐれないので、加工による吸水速度を向上効果が相殺されてしまい、満足の行く復元性が得られにくい。しかし、乾燥後のセルロースゲルに対して加工を行なうと、加工部近傍のセルロース繊維の過度な密着が生じないので優れた復元性を達成できる。
【0059】
4.復元ハイドロゲル
(1)調製方法(復元方法)
本発明で得たセルロースハイドロゲルから調製されたセルロースエアロゲル(以下「本発明で得たセルロースエアロゲル」ともいう)は、吸水させることにより復元ハイドロゲルとすることができる。この時の温度は0〜100℃が好ましい。吸水は、前記温度の水または水溶液に本発明のセルロースハイドロゲルを浸漬することで行なえる。水溶液としては、糖水溶液、無機イオン(ミネラル成分)を含む水溶液、炭酸水、だし汁等が挙げられる。従来のセルロースエアロゲルでは、速やかに復元ハイドロゲルとするためには、熱水に浸漬する必要があったが、本発明で得たセルロースエアロゲルは、冷水(好ましくは4〜30℃、より好ましくは10〜30℃)でも容易に復元できる。
【0060】
浸漬する時間は、1分〜24時間で選択できるが、本発明で得たセルロースエアロゲルは、特に3分程度の浸漬においても高い復元率を達成できる。
【0061】
(2)復元性
復元性は、復元性は復元セルロースハイドロゲルの形状および性状が、元のセルロースハイドロゲルにどの程度近いかを表す指標である。復元性は、復元率を用いて評価できる。復元率は、復元セルロースハイドロゲルの質量/セルロースエアロゲルの質量で定義される。本発明で得たセルロースエアロゲルは、3分間水に浸漬した時点での復元率(「3分復元率」ともいう)が60%以上であることが好ましい。
【0062】
また、復元性は復元セルロースハイドロゲルの白残りを目視で観察することによっても評価できる。「白残り」とは水が浸透しないため白く見える部分である。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
(1)セルロースハイドロゲルおよびセルロースエアロゲルの調製
セルロース産生菌として、酢酸菌(菌株ATCC23769)を準備した。液体培地用に、コーンスティープリカー(シグマーアルドリッチ社製、商品名 Corn Steep Liquor)10mL、果糖20g、(NHSO 1,65g、KHPO 0.5g、MgSO・7HO 125.0mg、ビタミンミクスチャー5.0mL、ソルトミクスチャー5.0mLを準備した。
【0064】
ビタミンミクスチャーは、イノシトール 2.0mg/L、D−Chiroニコチン酸 0.4mg/L、ピリドキシン塩酸塩 0.4mg/L、チアミン塩酸塩 0.4mg/L、 パントテン酸カルシウム 0.2mg/L、リボフラビン 0.2mg/L、p−アミノ安息香酸 0.2mg/L、 葉酸 0.002mg/L、ビオチン 0.002mg/Lの混合溶液であり、各試薬は和光純薬株式会社製であった。
【0065】
ソルトミクスチャーは、CaCl・2HO 14.7mg/L、FeSO・7HO 3.6mg/L、NaMoO・2HO 2.42mg/L、ZnSO・7HO 1.73mg/L、MnSO・5HO 1.39mg/L、CuSO・5HO 0.05mg/Lの混合液であり、各試薬は和光純薬株式会社製であった。
【0066】
ビタミンミクスチャー以外の成分を蒸留水に溶解し500mLの水溶液を調製した。当該水溶液にNaOHを添加してpHを5に調整し、オートクレーブ滅菌(121℃で20分)処理を行なった。続いて、当該水溶液を室温まで冷却した後に、ろ過滅菌(フィルターとしてSartorius stedim Biotech社製、商品名 Minisart RC15、孔径0.20μmを使用)処理したビタミンミクスチャーを加えた。
【0067】
15mLファルコンチューブにて培養を行なった。培養温度は、5日ごとに18℃と29℃に切り替えながら、合計で30日間実施した。これにより1cmの厚さのゲルを得た。
【0068】
ゲルを水に浸漬し、105℃で20分間オートクレーブで処理した。次いで、水の代わりに0.1NのNaOHを用いて105℃で20分の条件でオートクレーブ処理を10回行なった。さらに水を用いて、105℃で20分の条件でオートクレーブ処理を行ない、十分洗浄してアルカリを除去した。
【0069】
10mLビーカーに、得られたセルロースハイドロゲルを、培養時の気相面が下に、層が水平になるように入れた。当該ビーカーに、ゲルの半分が水に浸かるように蒸留水を入れ、このまま48時間凍結乾燥(東京理科器械株式会社製、FDU−1200使用、−40〜50℃、15〜25Pa)を行なった。
【0070】
こうして得られたゲルは、29℃培養で産生された透明な層(第1ハイドロゲル層)3層と、18℃培養で産生された白濁した層(第2ハイドロゲル層)3層との計6層からなる多層構造を有していた。
【0071】
このようにして得たセルロースハイドロゲルを、室温で、水に一晩浸漬した。浸漬後のセルロースハイドロゲルを凍結乾燥機48時間凍結乾燥し、セルロースエアロゲルを得た。セルロースエアロゲルの第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−5200)で観察した(図4)。電子顕微鏡像からポア径を観察した。具体的には図4において矢印で示す部分をポア径と認定し、複数のポアについてポア径を測定した。第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層の平均ポア径は、それぞれ1.0μmおよび0.90μmであった。さらに、カミソリ(貝印カミソリ株式会社製、長柄ゴールドアルファ)を用いてセルロースエアロゲルを積層面に垂直な面で切断した。当該破断面を走査型電子顕微鏡で観察した(図5)。電子顕微鏡像から平均繊維束間距離を測定した。具体的には図5において矢印で示す部分を層間距離と認定し、複数の層間距離を測定した。第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層の平均繊維束間距離は、それぞれ3.78μmおよび1.15μmであった。
【0072】
また、前述のとおり各層についてRを求めた。R1およびR2の値はそれぞれ0.28%、0.90%であった。
【0073】
(2)セルロースエアロゲルの復元
前記(1)で調製したセルロースエアロゲルを、カミソリを用いて切断し、一辺が約1cmの立方体状とした。この際、積層面が底面と平行となるようにした。この様にして得たセルロースエアロゲルを25℃の水に全浸漬して、3分後の復元率を測定した。復元率は前述のとおり、復元セルロースハイドロゲルの質量/セルロースエアロゲルの質量から求めた。質量は化学天秤(カルツァイス社製)を用いて測定した。その結果、復元率(3分時復元率)は、0.35であった。
【0074】
(3)加工セルロースエアロゲルの復元
前記(1)で得た立方体のセルロースエアロゲルの6面の表面に、カミソリ(貝印カミソリ株式会社製、長柄ゴールドアルファ)を用いて前述のクロスカット加工を施した。切込深さは0.5〜1mmとし、切込の数は、1面あたり100本(切込1が50本、切込2が50本)とした。切込1および切込2の深さ方向と、当該切込が設けられた面とのなす最小角度は約90°であった。
【0075】
次に、当該セルロースエアロゲルの6面に、裁縫用針(直径0.71mm)を用いて前述の貫通穿孔加工を施し、さらに、裁縫用針(直径0.53mm)を用いて前述の非貫通穿孔加工を施した。非貫通孔の数は1面あたり20個とし、深さは1〜5mmとした。非貫通孔の深さ方向と、当該孔が設けられた面とのなす最小角度は約90°であった。
【0076】
さらに図3(c)に示すように、当該セルロースエアロゲルの側面の対向する2面にメス(アズワン株式会社製、ディスポメスNo.10)を用いて深さ8mm、長さ14mmの深切込を1本ずつ、当該面に垂直に設けた。深切込の主面と、当該主面に平行なセルロースエアロゲル面との最短距離は、0.3mmであった。
【0077】
このように加工したセルロースエアロゲルを、25℃の水に全浸漬して、3分後の復元率を測定した。その結果、復元率(3分時復元率)は、0.7であった。さらに、60分後の復元率(60分時復元率)を測定したところ、8.0であった。
【0078】
[比較例1]
培養条件を28℃で20日間の単一条件とした以外は実施例1の(1)と同様にして、セルロースハイドロゲルを調製した。得られたセルロースハイドロゲルは、白濁した部分と透明の部分が2層に積層されたゲルであった。空気中に晒されていた培地で産生された部分が第2ハイドロゲル層に相当し、培養液中に存在した培地で産生された部分が第1ハイドロゲル層に相当した。各層を、実施例1と同様にして評価した。第2ハイドロゲル層における平均ポア径は0.2μmであり(図6b)、平均繊維束間距離は5μmであった(図7b)。第1ハイドロゲル層における平均ポア径は1μmであり(図6a)、平均繊維束間距離は8μmであった(図7a)。また、R1およびR2の値はそれぞれ0.29%、0.52%であった。
【0079】
このようにして得たセルロースハイドロゲルを実施例1と同様にして乾燥し、セルロースエアロゲルを得た。得られたセルロースエアロゲルについて、加工をせずに実施例1の(2)と同様にして復元率を評価した。その結果、3分時復元率は0.28であった。
【0080】
また、得られたセルロースエアロゲルについて、実施例1の(3)と同様にして加工をした後に復元率を評価したところ、3分時復元率は0.55であった。
【0081】
[比較例2]
縦、横の1辺が1.4cm、高さが1.8cmの直方体セルロースハイドロゲル(ミニストップ株式会社製「ハロハロ」に含まれるナタデココ)を準備した。当該ナタデココから不純物を除去し、十分な水洗を行なった後、100℃の熱水で10回洗浄した。実施例1と同様にして当該ナタデココを乾燥し、セルロースエアロゲルを得た。
【0082】
当該セルロースエアロゲルは、2層の第1エアロゲル層と3層の第2エアロゲル層から形成されており、各層の厚みは約第1エアロゲルが3.1mm、第2エアロゲル層が3.6mmであった。第2ハイドロゲル層における平均ポア径は0.2μmであり(図8b)、平均繊維束間距離は3.5μmであった(図9b)。第1ハイドロゲル層における平均ポア径は0.4μmであり(図8a)、平均繊維束間距離は4μmであった(図9a)。また、R1およびR2の値はそれぞれ0.45%、1.0%であった。
【0083】
当該セルロースハイドロゲルを実施例1と同様に乾燥し、さらに加工して、セルロースエアロゲルを得た。得られたセルロースエアロゲルについて、実施例1の(2)と同様にして復元率を評価した。その結果、3分時復元率は0.68であった。さらに60分復元率を測定したところ7.0であった。
【0084】
[実施例2]
(1)セルロースハイドロゲルおよびセルロースエアロゲルの調製
培養条件を、18℃で10日間、次いで29℃で10日間、続いて18℃で10日間とした以外は、実施例1の(1)と同様にして3層セルロースハイドロゲルを得た。R1およびR2の値はそれぞれ0.28%、0.90%であった。
【0085】
(2)膨張率
当該セルロースエアロゲルを、プレス機(アズワン株式会社製、1トンハイプレッシャージャッキ)に、積層面とプレス板が平行になるように配置し、7MPaの圧力で、30秒間、室温にてプレスした。プレス後のセルロースエアロゲルを、25℃の水に全浸漬して、厚み(t)の経時変化を求めた。tと、プレス後のセルロースエアロゲルの厚みtとの比から、膨張率(t/t)を測定した。
【0086】
[実施例3]
培養条件を、29℃で10日間、次いで18℃で10日間、続いて29℃で10日間とした以外は、実施例1の(1)、(3)と同様にして加工された3層セルロースハイドロゲルを得た。R1およびR2の値はそれぞれ0.40%、0.90%であった。当該加工セルロースエアロゲルについて、実施例2と同様にして膨張率を評価した。
【0087】
[比較例3]
培養条件を29℃で30日間の単一条件とした以外は実施例1の(1)と同様にして、セルロースハイドロゲルを調製した。当該セルロースハイドロゲルからセルロースエアロゲルを調製し、実施例2の(2)と同様にして膨張率を評価した。
【0088】
[比較例4]
培養条件を18℃で30日間の単一条件とした以外は実施例1の(1)と同様にして、セルロースハイドロゲルを調製した。当該セルロースハイドロゲルからセルロースエアロゲルを調製し、実施例2の(2)と同様にして膨張率を評価した。
【0089】
実施例2〜3および比較例3〜4の結果を図10に示す。本発明のセルロースエアロゲルは、復元率を適度に低減できることが明らかである。このように復元率が適度に低減できるセルロースエアロゲルは、急な膨張を抑制できるため手術用の液体吸収材量等、医療用材料として有用である。
【符号の説明】
【0090】
10 第1ハイドロゲル層
20 第2ハイドロゲル層
30 切込1
s1 切込1に平行な辺1
32 切込2
s2 切込2に平行な辺2
40 貫通孔
42 非貫通孔
44 深切込
s3 辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロース産生菌を、23〜40℃で培養して繊維密度の低い第1ハイドロゲル層を形成する工程、および
(B)セルロース産生菌を、10℃以上23℃未満で培養して前記第1ハイドロゲル層よりも繊維密度の高い第2ハイドロゲル層を形成する工程、
を交互に実施することを含む、前記第1ハイドロゲル層および第2ハイドロゲル層が交互に3層以上積層された多層ハイドロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)における温度が、25〜32℃であり、前記工程(B)における温度が15〜20℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)および(B)における培養時間が、それぞれ12時間〜60日である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)および(B)における培養時間が、それぞれ3日〜22日である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法で得られた多層ハイドロゲルであって、
第1ハイドロゲル層の、以下の方法で求めた平均繊維束間距離が3.5〜5μm、以下の方法で求めた平均ポア径が0.9〜5μmであり、
第2ハイドロゲル層の、前記平均繊維束間距離が0.1μm以上3μm未満、前記平均ポア径が0.3〜0.9μmである、
[平均繊維束間距離の測定方法:請求項1に記載の方法で得た多層セルロースハイドロゲルを乾燥してエアロゲルとし、当該エアロゲルを積層面に垂直に切断した面を観察して層状に存在する繊維束同士の層間の最短距離を複数測定し、平均する、
平均ポア径の測定方法:前記エアロゲルの表面を観察して複数の空孔の径を測定し、平均する]
前記ハイドロゲル。
【請求項6】
請求項1に記載の方法で得られた多層ハイドロゲルであって、
第1ハイドロゲル層の、以下に定義されるR1が0.05以上0.50未満、
第2ハイドロゲル層の、以下に定義されるR2が0.50〜1.2である、
R1(%)=D1/W1×100
D1:前記第1ハイドロゲル層の乾燥時の質量
W1:前記第1ハイドロゲル層の飽和吸水時の質量
R2(%)=D2/W2×100
D2:前記第2ハイドロゲル層の乾燥時の質量
W2:前記第2ハイドロゲル層の飽和吸水時の質量
前記ハイドロゲル。

【図2】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−66461(P2013−66461A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195997(P2012−195997)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)
【Fターム(参考)】