説明

多層ダイレクトブロー成形体

【課題】アルコール類やエーテル類を含有する液体燃料に対するバリア性及び強度に優れた多層ダイレクトブロー成形体及びそれからなる燃料用容器を提供する。
【解決手段】ポリアミド層(I)より内側にポリエチレン系樹脂層(II)を有する多層ダイレクトブロー成形体であって、前記ポリアミド層(I)が、メタキシリレン基を有するポリアミド(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを含有し、かつ、前記ポリアミド(A1)及び(A2)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記ポリアミド(A1)の含有量が10〜45質量%、前記ポリアミド(A2)の含有量が90〜55質量%であり、前記ポリアミド(A1)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位、及び炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とイソフタル酸単位とのモル比率が30:70〜95:5である前記2種のジカルボン酸単位を合計70モル%以上含むジカルボン酸単位からなり、前記脂肪族ポリアミド(A2)が、ナイロン6、ナイロン666、ナイロン610及びナイロン612からなる群から選択された少なくとも1種である、多層ダイレクトブロー成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層ダイレクトブロー成形体及び該成形体からなる燃料用容器に関し、詳しくは、燃料バリア性及び強度に優れた多層ダイレクトブロー成形体及び該成形体からなる液体燃料用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料保存用容器として、軽量化、防錆処理不要化、形状の自由度向上、加工工数の削減や製造の全自動化等の面から、ブロー成形体等からなる樹脂製燃料容器が注目され、金属製燃料容器からの代替が進んでいる。しかし、そのような樹脂製燃料容器に用いられるポリエチレン系樹脂は、成形加工性、経済性に優れるものの、液体燃料に対するバリア性能(以下、「燃料バリア性」という)に乏しいという欠点を有する。
【0003】
樹脂製燃料容器に燃料バリア性を付与する手段としては、バリア性を有するポリアミド樹脂を用いて、ポリエチレン系樹脂とポリアミド樹脂とをブレンドする方法が挙げられる(例えば特許文献1、2参照)。しかしながら、この方法は、バリア性樹脂を層状に分散させることにより燃料の透過量を減らすことができるものの、成形条件や成形体サイズが限定されたり、黒色等の着色タンクへの適用が困難である等の課題がある。
【0004】
ところで、近年、化石燃料の使用量を減らして二酸化炭素の排出量を削減するために、ガソリンにエタノール等のアルコール類やエチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)等のエーテル類を含有する液体燃料が検討されている。
このようなアルコール類やエーテル類に対するバリア性を向上させるために特定のポリアミド樹脂を使用した樹脂組成物及び多層成形体が特許文献3及び4に記載されている。また、バリア性、耐剥離性及び耐熱性に優れた多層射出成形体が特許文献5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−156036号公報
【特許文献2】特開平10−279752号公報
【特許文献3】特開2004−352985号公報
【特許文献4】特開2008−133455号公報
【特許文献5】特開2008−200941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、燃料用容器に使用されるような成形体においては、成形体の燃料バリア性だけでなく、強度を有することも重要である。特に、高強度の成形体を得るために、ダイレクトブロー方式で成形を行い、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との共重合から得られるポリアミドをバリア層として多層ダイレクトブロー成形体を得ようとすると、成形温度が高く、ドローダウン等が生じ、得られた製品の厚みが薄すぎたり、偏肉等の不具合があり、実用に供する燃料用容器を得ることは困難であった。
また、射出成形体やフィルムを形成する特許文献3〜5に記載されたメタキシリレン基を有する特定のポリアミドを含有する樹脂組成物をバリア層として多層ダイレクトブロー成形体とした場合には、バリア性は良好であるものの、耐衝撃性や、ダイレクトブロー方式で成形する際のピンチオフ部(パリソンが金型に挟まれて突合され、突合せ部分どうしが融着した部分)の強度に課題を残すものであり、高強度の成形体を得ることはできなかった。
従って、従来は、アルコール類やエーテル類に対するバリア性が優れ、かつ強度に優れた多層ダイレクトブロー成形体や、該成形体からなる燃料用容器を得ることができなかった。
【0007】
本発明の課題は、液体燃料に対するバリア性、特に、アルコール類やエーテル類を含有する液体燃料に対するバリア性に優れ、かつ、強度に優れた多層ダイレクトブロー成形体、及び該成形体からなる燃料用容器を提供することにある。
詳しくは、ダイレクトブロー方式で成形する際のピンチオフ部(パリソンが金型に挟まれて突合され、突合せ部分どうしが融着した部分)の強度や耐衝撃性が高く、更にアルコール類やエーテル類を含有する液体燃料に対する優れたバリア性を有する多層ダイレクトブロー成形体、及び該成形体からなる燃料用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す多層ダイレクトブロー成形体及び該成形体からなる燃料用容器が提供される。
[1]ポリアミド層(I)より内側にポリエチレン系樹脂層(II)を有する多層ダイレクトブロー成形体であって、
前記ポリアミド層(I)が、メタキシリレン基を有するポリアミド(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを含有し、かつ、前記ポリアミド(A1)及び(A2)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記ポリアミド(A1)の含有量が10〜45質量%、前記ポリアミド(A2)の含有量が90〜55質量%であり、
前記のメタキシリレン基を有するポリアミド(A1)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位、及び炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とイソフタル酸単位とのモル比率が30:70〜95:5である前記2種のジカルボン酸単位を合計70モル%以上含むジカルボン酸単位からなり、
前記脂肪族ポリアミド(A2)が、ナイロン6、ナイロン666、ナイロン610及びナイロン612からなる群から選択された少なくとも1種である、多層ダイレクトブロー成形体。
[2]前記ポリエチレン系樹脂層(II)が、前記ポリアミド層(I)の内側に接して位置し、ポリエチレン系樹脂(B)と変性ポリエチレン系樹脂(C)とを含有し、前記ポリエチレン系樹脂層(II)を構成する前記樹脂(B)及び(C)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記樹脂(B)の含有量が30〜95質量%、前記樹脂(C)の含有量が70〜5質量%である、[1]に記載の多層ダイレクトブロー成形体。
[3]前記ポリアミド層(I)が最も外側に位置する、[1]又は[2]に記載の多層ダイレクトブロー成形体。
[4]前記ポリアミド層(I)及び前記ポリエチレン層(II)の2層のみからなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体。
[5]前記ポリアミド層(I)の平均厚みが0.2mm以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体。
[6]前記ポリエチレン系樹脂層(II)の平均厚みが2mm以上である、[1]〜[5]のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体からなる、アルコール及び/又はエーテル含有液体燃料用容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体及び該成形体からなる燃料用容器は、液体燃料に対するバリア性、特に、アルコール類やエーテル類を含有する液体燃料に対するバリア性に優れ、かつ、ピンチオフ部の強度や耐衝撃性などの強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリアミド層(I)>
本発明の多層ダイレクトブロー成形体を形成するポリアミド層(I)は、燃料バリア層として機能し、特に、該成形体からなる燃料容器において、容器内の燃料が容器外に透過するのを防止する役割を有する。ポリアミド層(I)を構成する樹脂は、メタキシリレン基を有するポリアミド(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを含有する。メタキシリレン骨格を有するイソフタル酸変性のポリアミド(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを溶融混練させて得られる樹脂組成物からなるポリアミド層(I)を有することで、従来のバリア性ポリアミドと比較して成形温度の低下が可能となり、またピンチオフ部の強度や落下衝撃などに対する優れた強度と燃料バリア性を両立する優れた成形体を得ることができる。
【0011】
[メタキシリレン基を有するポリアミド(A1)]
メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)は、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位と、及び炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とイソフタル酸単位とのモル比率が30:70〜95:5である前記2種のジカルボン酸単位を合計70モル%以上含むジカルボン酸単位とからなる。上記ポリアミド(A1)は、バリア性に優れるものであることから、ポリアミド層(I)を薄くすることが可能となり、成形体の軽量化やリサイクル性が良好となる。
【0012】
メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)中のジアミン単位は、優れた燃料バリア性を発現させる観点から、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含み、好ましくは80モル%以上100モル%以下、より好ましくは90モル%以上100モル%以下含有する。
【0013】
メタキシリレンジアミン単位以外のジアミン単位を構成しうる化合物としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン(構造異性体を含む。)、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン(構造異性体を含む。)等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン(構造異性体を含む。)等の芳香環を有するジアミン類等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)中のジカルボン酸単位は、燃料バリア性の低下や結晶性の低下を避ける観点から、前記炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とイソフタル酸単位の2種のジカルボン酸単位を合計70モル%以上含み、好ましくは80モル%以上100モル%以下、より好ましくは90モル%以上100モル%以下含有する。
炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、上記化合物を2種以上含有するものを用いることもできる。これらの中でもアジピン酸が好ましい。
【0015】
炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とイソフタル酸単位とのモル比率は、成形性及び燃料バリア性、特にメタノール等を含有する液体燃料に対するバリア性の向上の観点から、30:70〜95:5であり、好ましくは40:60〜95:5、より好ましくは60:40〜90:10である。すなわち、所定量のイソフタル酸単位を含有することで、ポリアミド層(I)のバリア性、特にメタノール、エタノールなどのアルコール類やメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)などのエーテル類に対するバリア性が向上する。また、ジカルボン酸単位が炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位のみからなるポリアミド比べて、ポリアミド(A1)の融点が低下するため、より低温でダイレクトブロー成形することが可能となり、ポリエチレン系樹脂層(II)がピンチオフ部で薄肉化することを防止でき、また製造エネルギーの低減や成形サイクルの短縮化を図ることができる。更に、樹脂の溶融粘度が高くなるので、該樹脂のドローダウン等を防ぎ成形加工性が向上する。
【0016】
炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位及びイソフタル酸単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物としては、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物;1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸;安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸;無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
前記メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)は、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、所定のモル比の炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸とを含有するジカルボン酸を合計70モル%以上含むジカルボン酸成分とを溶融重縮合することで得ることができる。重縮合時に分子量調整剤として少量のモノアミンやモノカルボン酸を加えてもよい。また、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−エナントラクタム等のラクタム類、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、9−アミノノナン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸等を、性能を損なわない範囲で加えてもよい。
【0018】
溶融重縮合法は特に限定されるものではなく、常圧溶融重合法、加圧溶融重合法等の任意の方法、重合条件により製造することができる。溶融重縮合法としては、例えば、ジアミン成分とジカルボン酸成分とからなるナイロン塩を、水の存在下に加圧下で昇温し、加えた水及び縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法が挙げられる。また、ジアミン成分を溶融状態のジカルボン酸成分に直接加えて、常圧下で重縮合する方法を挙げることもできる。この場合、反応系を固化させることの無いように、ジアミン成分をジカルボン酸成分に連続的に加えて、その間の反応温度が、生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0019】
前記メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)は、溶融状態で重縮合した後、結晶化させ、更に特定の加熱処理を行って得られたものが好ましく用いられる。この場合、回分式加熱装置を用いることが好ましく、重合体と、重合体に対し1〜30質量部の水とを装置内に仕込み、不活性ガス流通下又は減圧下で50〜95℃で0.5〜4時間加熱処理を行って重合体を結晶化させた後、(重合体の融点−50℃)から(重合体の融点−10℃)までの間の温度で1〜12時間加熱処理して得ることができる。
【0020】
メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)の相対粘度(1g/dlの96%硫酸溶液、25℃)は、ダイレクトブロー成形体の機械的特性の観点からは、好ましくは1.8〜5.0、より好ましくは2.4〜4.0、更に好ましくは2.5〜3.5である。また、成形時のドローダウン防止や成形加工性の観点からは、相対粘度は特に1.8〜3.9であることが好ましい。
【0021】
メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)の融点は、160℃〜240℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは170〜235℃、更に好ましくは180〜230℃である。該ポリアミド(A1)の融点をポリエチレン系樹脂(B)や変性ポリエチレン系樹脂(C)の融点に近づけておくことで、多層ダイレクトブロー成形体の成形時に、前記ポリアミド層(I)やポリエチレン系樹脂層(II)を構成する樹脂間の融点差による厚みムラ等の不良や、樹脂劣化による臭気及び着色を抑えた成形体となる。
【0022】
また、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)のガラス転移点は、高温下での燃料バリア性の観点から、80〜130℃の範囲であることが好ましい。
【0023】
[脂肪族ポリアミド(A2)]
脂肪族ポリアミド(A2)は結晶性ポリアミドであり、ポリアミド層(I)における強度を向上する役割を有する。特に、脂肪族ポリアミド(A2)は、伸張性が良好で耐衝撃性にも優れるため、強度とバリア性を有するポリアミド層(I)の形成が可能となる。
脂肪族ポリアミド(A2)としては、ナイロン6、ナイロン666、ナイロン610及びナイロン612からなる群から選択された少なくとも1種である。これらのナイロン類を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、ナイロン666は、ナイロン6/ナイロン66コポリマーであり、ε−カプロラクタム、アジピン酸、及びヘキサメチレンジアミンを共縮重合して得られる共重合体である。ナイロン612は、ナイロン6/ナイロン12コポリマーであり、ε−カプロラクタム及びω−ラウロラクタムを共縮重合して得られる共重合体である。なお、これらのナイロン類は、任意の方法で製造することができる。
メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)との混練性及び製造コストの観点から、脂肪族ポリアミド(A2)は、ナイロン6を主成分として含有することが好ましく、脂肪族ポリアミド(A2)を100質量%として、ナイロン6を50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有することが好ましい。
【0024】
脂肪族ポリアミド(A2)の相対粘度(1g/dlの96%硫酸溶液、25℃)は、成形時のドローダウン防止や成形加工性の観点からは、好ましくは2〜5、より好ましくは2.5〜4.5、更に好ましくは3〜4である。
また、脂肪族ポリアミド(A2)の融点は、成形加工性の観点からは、225℃以下であることが好ましく、より好ましくは170〜225℃、更に好ましくは180〜220℃である。
【0025】
ポリアミド層(I)を構成する樹脂組成物は、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを、任意の方法により混合及び/又は混練することで調製することができる。混合方法としては、例えば、回転中空容器内にポリアミド樹脂ペレットを投入し混合してもよく、定量フィーダーを用いてホッパーに所定量投入してもよい。混練方法としては、例えば溶融混練が挙げられる。所定量のポリアミド(A1)及びポリアミド(A2)をドライブレンドし、混合物をホッパーに一括投入して、溶融混練し、ポリアミド樹脂組成物を調製することが特に好ましい。
【0026】
ポリアミド層(I)において、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)及び脂肪族ポリアミド(A2)の含有量は、前記ポリアミド(A1)及び(A2)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記ポリアミド(A1)の含有量は、10〜45質量%、好ましくは15〜40質量%、更に好ましくは20〜35質量%である。一方、脂肪族ポリアミド(A2)は、90〜55質量%、好ましくは85〜60質量%、更に好ましくは80〜65質量%である。メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)が少なすぎる場合には、成形体とした場合の燃料バリア性が不十分となるおそれがある。一方、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)が多すぎると、ポリアミド層(I)を構成する樹脂組成物の機械的強度が低下し、ポリアミド層(I)が破断し易くなるおそれがある。更に、ポリアミド層(I)の破断によりポリエチレン層(II)へ亀裂が伝播して成形体全体が破断するおそれがある。
【0027】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、ポリアミド層(I)が最も外側に位置することが好ましい。ポリアミド層(I)は、多層ダイレクトブロー成形体の最外層に配置しても、バリア性に優れるメタキシリレン基含有ポリアミド(A1)と、強度に優れる脂肪族ポリアミド(A2)を特定割合で含有することから、優れた強度とバリア性を発揮することができる。
【0028】
また、ポリアミド層(I)には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリアミドや、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ビニルアルコール系共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエチレン系樹脂、変性ポリエチレン系樹脂、リン化合物等が含有されていてもよい。
【0029】
<ポリエチレン系樹脂層(II)>
本発明の多層ダイレクトブロー成形体を形成するポリエチレン系樹脂層(II)は、前記ポリアミド層(I)の内側に位置するものである。ポリエチレン系樹脂層(II)がポリアミド層(I)の内側に位置することにより、成形体のピンチオフ部の融着性を向上させることができる。また、ポリエチレン系樹脂層(II)により、成形体全体の強度を向上させることが可能となる。上記層構成により、強度及び燃料バリア性に優れた多層ダイレクトブロー成形体を得ることができる。
【0030】
特に、前記ポリエチレン系樹脂層(II)は、前記ポリアミド層(I)の内側に接して位置することが好ましく、また、ポリエチレン系樹脂(B)と変性ポリエチレン系樹脂(C)とを含有していることが好ましい。ポリエチレン系樹脂層(II)が変性ポリエチレン系樹脂(C)を含有することにより、ポリエチレン系樹脂層(II)とポリアミド層(I)との接着性を向上させることができる。また、多層ダイレクトブロー成形体を形成する層が少なくても、接着性や強度、燃料バリア性に優れる成形体となる。更には、成形体を形成する層を少なくできることから、製造設備を簡略化することが可能となる。
【0031】
ポリエチレン系樹脂層(II)を構成するポリエチレン系樹脂(B)及び変性ポリエチレン系樹脂(C)の含有量において、前記樹脂(B)及び(C)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記樹脂(B)の含有量は、30〜95質量%が好ましく、より好ましくは35〜90質量%、更に好ましくは40〜80質量%である。一方、前記樹脂(C)は、70〜5質量%が好ましく、より好ましくは65〜10質量%、更に好ましくは60〜20質量%である。前記樹脂(B)及び(C)の含有量が上記範囲内であれば、各層の接着性に優れ、ピンチオフ部の強度や衝撃強度、リサイクル性に優れる成形体となる。
【0032】
[ポリエチレン系樹脂(B)]
ポリエチレン系樹脂(B)としては、好ましくは低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のエチレン系炭化水素の単独重合体;エチレン系炭化水素と炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体(エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−デセン共重合体等);エチレン系炭化水素と環状オレフィンとの共重合体(ノルボルネンとの共重合体等)等が挙げられる。これらのポリエチレン系樹脂は単独で用いることもできるし、2種類以上の混合物として使用することもできる。
また、ポリエチレン系樹脂(B)は、上記ポリエチレン系樹脂を主成分として含有するものであり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含有するものである。
これらのポリエチレン系樹脂の中で、特に、高強度の成形体を得る観点からは、ガラス転移点の高い樹脂が好ましく、高密度ポリエチレン系樹脂が好ましい。特に、高分子量のもの、より好ましくは超高分子量のものが好ましい。
【0033】
本発明で用いられるポリエチレン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFR、JISK7210)は、成形加工性や強度の観点から、0.001〜10g/10分の範囲にあることが好ましく、0.01〜5g/10分がより好ましく、0.1〜1g/分のものが更に好ましい。
【0034】
[変性ポリエチレン系樹脂(C)]
本発明で用いられる変性ポリエチレン系樹脂(C)は、上記ポリエチレン系樹脂(B)に例示されるポリエチレン系樹脂に、不飽和カルボン酸又はその無水物でグラフト変性されたもので、一般に相溶化剤や接着剤として広く用いられているものである。不飽和カルボン酸又はその無水物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、クロロマレイン酸、ブテニルコハク酸等、及びこれらの酸無水物が挙げられる。中でも、マレイン酸及び無水マレイン酸が好ましく用いられる。
また、変性ポリエチレン系樹脂(C)は、上記変性ポリエチレン系樹脂を主成分として含有するものであり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含有するものである。なお、ポリエチレン系樹脂層(II)に用いる変性ポリエチレン系樹脂(C)のポリエチレン成分は、ポリエチレン系樹脂(B)とは異なるものを用いてもよい。
【0035】
上記不飽和カルボン酸又はその無水物をポリエチレン系樹脂にグラフト共重合して変性ポリエチレン系樹脂を得る方法としては、任意の方法を用いることができる。例えば、ポリエチレン系樹脂を押出機等を用いて溶融させ、グラフトモノマーを添加して共重合させる方法、あるいはポリエチレン系樹脂を溶媒に溶解させてグラフトモノマーを添加して共重合させる方法、ポリエチレン系樹脂を水懸濁液とした後グラフトモノマーを添加して共重合させる方法等を挙げることができる。
【0036】
変性ポリエチレン系樹脂(C)のメルトフローレート(MFR、JIS K7210)は、3g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以下であることがより好ましい。
【0037】
ポリエチレン系樹脂層(II)を構成する樹脂組成物として、例えば、ポリエチレン系樹脂(B)と変性ポリエチレン系樹脂(C)とを混合する場合には、任意の方法により混合及び/又は混練することで調製することができる。混合方法としては、例えば、回転中空容器内に樹脂ペレットを投入し混合してもよく、定量フィーダーを用いてホッパーに所定量投入してもよい。混練方法としては、例えば溶融混練が挙げられる。所定量の樹脂2種をドライブレンドし、混合物をホッパーに一括投入して、ポリエチレン系樹脂組成物を調製することが特に好ましい。
【0038】
また、ポリエチレン系樹脂層(II)は、再使用樹脂(E)を含有してもよい。再使用樹脂(E)は、特に限定されないが好ましくは、前記のポリアミド(A1)及び(A2)、ポリエチレン系樹脂(B)並びに変性ポリエチレン系樹脂(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分の再生樹脂を含有するものである。
ダイレクトブロー成形においては成形体を得るために大量のバリが発生するため、コストやリサイクルの観点から、バリや成形時の不良品等を回収して再使用樹脂(E)として再使用することが好ましい。
再使用樹脂(E)は、成形時に発生するバリや不良品等を回収した後に粉砕させたもの、あるいは単軸や二軸押出機等でペレット状に再加工されたものであってもよい。特に、ポリアミドが含有される場合、吸湿による発泡が生じるおそれがあるので、成形直後のものや除湿乾燥等を行って吸水率を0.5%以下にしたものが好ましく用いられる。
再使用樹脂(E)を含有する場合、その含有量は、強度の観点から、前記ポリエチレン系樹脂層(II)における前記樹脂(B)及び(C)の合計100質量部に対して、好ましくは5〜400質量部、より好ましくは10〜300質量部、更に好ましくは20〜200質量部である。
【0039】
更に、本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、ポリアミド層(I)とポリエチレン系樹脂層(II)の2層構造であることが好ましい。特定比率のポリアミド(A1)及び(A2)を有するポリアミド層(I)により強度とバリア性を併せ持ち、更に、ポリアミド層(II)の内側にポリエチレン系樹脂層(II)を有することから、ピンチオフ部の融着性や落下強度が良好なものとなることで、2層構造であっても、強度とバリア性を併せ持つダイレクトブロー成形体となる。更に、上記2層構造の成形体である場合には、成形工程を簡略化することができる。
【0040】
また、成形体の平均厚みは、軽量性及び強度の観点から、好ましくは2〜10mm、より好ましくは2.5〜9mm、更に好ましくは3〜8mmである。
ポリエチレン系樹脂層(II)の平均厚みは2mm以上であることが好ましく、軽量性及び強度の観点から、より好ましくは3〜10mm、更に好ましくは4〜8mmである。
ポリアミド層(I)の平均厚みは、前記成形体の平均厚みに対して5〜30%であることが好ましく、より好ましくは7〜25%、更に好ましくは10〜20%である。ポリアミド層(I)の厚みが薄過ぎる場合には、バリア性が不十分となるおそれがある。一方、ポリアミド層(I)の厚みが厚すぎる場合には、強度が低下するおそれがあり、また、成形後に生じたバリ等を回収して再使用する場合に、ポリアミドの含有量が多くなりすぎ、良好な多層ダイレクトブロー成形体を安定して得ることができなくなるおそれがあるため、コストリサイクルの観点からも好ましくない。
ポリアミド層(I)の平均厚みは、具体的には、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3〜1.0mm、更に好ましくは0.4〜0.8mmである。
【0041】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、前記のポリアミド層(I)及びポリエチレン系樹脂層(II)以外の層を有していてもよい。
例えば、成形体の強度の観点から、補強層を有していてもよい。補強層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネートあるいはポリアミド、フッ素系樹脂等からなるものが好ましく、ポリオレフィン系樹脂がより好ましい。ポリオレフィンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレン、ブテン等から選ばれる2種類以上のオレフィンの共重合体、及びそれらの混合体を例示することができる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、超高分子量高密度ポリエチレンが、中空成形時のドローダウン防止、耐衝撃性、耐燃料膨潤性、耐水性に優れるため好ましく用いられる。
また、各層間には接着層を設けることもできる。例えば、前記ポリアミド層(I)の内側に、前記変性ポリエチレン系樹脂(C)を含有する接着層が隣接して配置され、該接着層の内側に前記ポリエチレン系樹脂層(II)を配置することもできる。接着層を有することにより層構成が増加するため、製造工程は複雑となるものの、ポリアミド層(I)とポリエチレン系樹脂層(II)との接着強度が向上し、成形性が向上する。ポリエチレン系樹脂層(II)と接着層との厚み比率は、接着性及び成膜性の観点から、好ましくは99:1〜50:50%、より好ましくは98:2〜55:45%、更に好ましくは97:3〜60:40%である。各層の厚さは多層ダイレクトブロー成形体の形状に応じて適宜選択されるが、例えば、ポリアミド層(I)の平均厚みが0.3〜1mmである場合には、補強層の平均厚みは0.1〜2mmであることが好ましい。
また、本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、前記再使用樹脂(E)からなるリサイクル層を、成形体を形成する各層の間に配置してもよい。
【0042】
なお、本発明の成形体は、本発明の目的を損なわない限り、滑剤、離型剤、酸化防止剤、加工安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、結晶化核剤等を含有してもよい。また、層状ケイ酸塩や、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)等の無機又は有機金属塩、錯体等を含有してもよい。
【0043】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、多層ダイレクトブロー成形により製造される。具体的には、押出機を用いて多層の円筒状パリソン(ホットパリソン)を成形し、該パリソンをダイレクトブロー成形して製造される。
本発明の多層ダイレクトブロー成形体の形状は特に限定されないが、中空成形体、例えばボトル状、タンク状等とすることができ、少なくとも成形体の一部には、パリソンが金型に挟まれて突合されて融着された、ピンチオフ部を有するものである。特に、ボトル状、タンク状の成形体とする場合には、ピンチオフ部は金型に挟まれる突合部分に沿って成形体の周縁に形成される。
【0044】
多層ダイレクトブロー成形する場合には、例えば、前記ホットパリソンを金型間に配置し、前記金型を型締めして、軟化状態にあるパリソンを挟み、パリソンの余剰部分を押し潰しながら、パリソン内に加圧気体を吹き込むことで金型形状に対応した形状の成形体を製造する方法が挙げられる。
かかる方法によれば、パリソンから余剰部分が切断除去されるので、パリソンが金型に挟まれて突合された部分、即ち突合せ部分と突合せ部分とを融着させなければならない。ところが、パリソン内に加圧気体が吹き込まれると、突合部分はそれぞれ突合される方向と反対方向に押し広げられるので、突合せ部分どうしが融着した部分であるピンチオフ部の肉厚が成形体の壁面の平均肉厚と比べ薄くなり、ピンチオフ部の強度が弱くなるおそれがある。
特に、前記ポリアミド層(I)と前記ポリアミド層(I)よりも内側にポリエチレン層(II)とを有する成形体を成形する場合には、通常のポリエチレン樹脂を成形する場合よりも成形温度を高くする必要がある。成形温度を高くすると、内側のポリエチレン層(II)を構成するポリエチレン系樹脂が軟化して、成形体内面や前記ピンチオフ部分が更に薄肉になり易くなり、成形体の強度、特にピンチオフ部の強度が低下してしまう。
【0045】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、特定のポリアミド(A1)を含有することにより、成形温度を低くすることが可能となり、その結果、ポリエチレン系樹脂層(II)のピンチオフ部分の薄肉化を抑制することができ、成形体の強度を向上させることができる。
【0046】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体は、部品等の種々の成形体として使用できるが、燃料容器として使用されるものとして好適である。特に、アルコール類やエーテル類を含有する液体燃料用の容器として使用されるものとして好適である。本発明の多層ダイレクトブロー成形体からなる燃料容器は、アルコール類やエーテル類を含有する液体燃料に対するバリア性に優れ、かつ、強度に優れる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
以下の実施例及び比較例で用いたポリアミド樹脂の物性の測定方法について示す。
(ポリアミド樹脂の融点測定方法)
熱流束示差走査熱量計(島津製作所(株)製)を使用し、JIS K7121(1987)に基づき熱流束示差走査熱量測定により得られるDSC曲線から求めた。
具体的には、試料を2mg採取し、熱流束示差走査熱量計を用いて、加熱速度10℃/分で23℃から融解ピーク終了時より30℃高い温度まで加熱し、この温度に10分間保った後、10℃/分の冷却速度で40℃まで冷却し、再度、加熱速度10℃/分で23℃から融解ピーク終了時より30℃高い温度まで加熱したときに得られたDSC曲線において、融解ピークの頂点の温度を融点とした。なお、融解ピークが2つ以上現れる場合には、最も面積の大きな融解ピークの頂点の温度を融点とした。
【0049】
(ポリアミドの相対粘度測定方法)
ポリアミド1gを精秤し、96質量%硫酸100mlに20〜30℃で撹拌溶解した。完全に溶解した後、速やかにキャノンフェンスケ型粘度計(商品名:キャノンフェンスケ粘度計、東京硝子器械(株)製)に溶液5mlを取り、25℃の恒温漕中で10分間放置後、落下時間(t)を測定した。また、96質量%硫酸そのものの落下時間(t0)も同様に測定した。t及びt0の値から次式(1)により相対粘度を算出した。
相対粘度=t/t0 (1)
【0050】
実施例1
2層ダイレクトブロー成形機を用い、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)としてMXナイロン1(三菱ガス化学(株)製、イソフタル酸6mol%変性ポリメタキシリレンアジパミド、融点230℃、相対粘度2.7)30質量%と、脂肪族ポリアミド(A2)としてナイロン6「1024B」(商品名、宇部興産(株)製、相対粘度3.5)70質量%とをドライブレンドした後、240℃に設定した40mm単軸押出機からなる第1の押出機から押出して、メタキシリレン基含有ポリアミドとナイロン6との混合樹脂溶融物を得た。
別途、ポリエチレン系樹脂(B)として高密度ポリエチレン「ハイゼックス6008B」(商品名、(株)プライムポリマー製、190℃、2.16kgfの荷重におけるMFR=0.36g/10分、融点132℃)50質量%と、変性ポリエチレン系樹脂(C)として「アドテックスDH0200」(商品名、日本ポリエチレン(株)製、190℃、2.16kgfの荷重におけるMFR=0.5g/10分)50質量%とをドライブレンドした後、230℃に設定した50mm単軸押出機からなる第2の押出機から押出しを行い、高密度ポリエチレンと変性ポリエチレンとの混合樹脂溶融物を得た。
両樹脂溶融物を250℃に設定した環状ダイに合流させ共押出し、円筒状パリソン(ホットパリソン)を形成させ、前記パリソンを金型にて成形することにより、ポリアミド層(I)(外側)/ポリエチレン系樹脂層(II)(内側)=0.4/3.2mmからなる2層容器(質量200g、容量750mL)を作製した。容器形状は、高さ170mm、幅95mm、奥行き60mm、口栓外径36mmの直方体形状であり、ピンチオフ部はリブ構造を有していないものである(口栓部を上部とする)。
【0051】
なお、成形した成形体、容器における全体の厚み、層厚みは、底部中心部分から口栓方向(中空部は口栓方向に貫通している、高さ方向)に容器を4箇所切断し、2cm間隔で、切断面の各層の厚み及び全体の厚みを光学顕微鏡にて測定して、平均厚みを求めた(但し、特殊な形状部分は避けることとする)。
【0052】
実施例2
ポリアミド(A1)及び(A2)の配合比を、MXナイロン1を20質量%、ナイロン6「1024B」を80質量%に変更し、ポリアミド層(I)/ポリエチレン系樹脂層(II)の各層の厚みを0.5/3.1mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして容器を作製した。
【0053】
実施例3
3層ダイレクトブロー成形機を用い、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)としてMXナイロン1 30質量%と、脂肪族ポリアミド(A2)としてナイロン6「1024B」70質量%とをドライブレンドした後、240℃に設定した40mm単軸押出機からなる第1の押出機により溶融混錬し、メタキシリレン基含有ポリアミドとナイロン6との混合樹脂溶融物を得た。
また、接着層として変性ポリエチレン系樹脂(C)「アドテックスDH0200」を、230℃に設定した40mm単軸押出機からなる第2の押出機により溶融して、変性ポリエチレンの樹脂溶融物を得た。
更に、ポリエチレン系樹脂(B)として高密度ポリエチレン「ハイゼックス6008B」80質量%と、変性ポリエチレン系樹脂(C)として「アドテックスDH0200」20質量%とをドライブレンドした後、230℃に設定した50mm単軸押出機からなる第3の押出機により溶融混錬し、高密度ポリエチレンと変性ポリエチレンとの混合樹脂溶融物を得た。
各樹脂溶融物を240℃に設定した環状ダイに合流させ共押出し、円筒状パリソン(ホットパリソン)を形成させ、前記パリソンを金型にて成形することにより、ポリアミド層(I)(外側)/接着層(中間層)/ポリエチレン系樹脂層(II)(内側)の厚みが、0.4/0.4/2.8mmからなる3層容器(質量200g、容量750mL)を作製した。容器形状は、高さ170mm、幅95mm、奥行き60mm、口栓外径36mmの直方体形状である(口栓部を上部とする)。
【0054】
実施例4
ポリアミド層(I)(外側)/接着層(中間層)/ポリエチレン系樹脂層(II)(内側)の各層の厚みを0.4/1.6/1.6mmに変更したこと以外は実施例3と同様にして容器を作製した。
【0055】
実施例5
ポリエチレン系樹脂層(II)として、ポリエチレン系樹脂(B)75質量%及び変性ポリエチレン系樹脂(C)25質量%からなる樹脂組成物と、前記樹脂組成物100質量部に対して、ポリエチレン系樹脂(B)45質量%、変性ポリエチレン系樹脂(C)35質量%、MXナイロン1:ナイロン6=30:70の比率からなるポリアミド樹脂組成物20質量%を溶融混錬させて得られた再使用樹脂(E)150質量部とを配合してドライブレンドしたこと以外は実施例3と同様にして容器を作製した。
【0056】
実施例6
ポリアミド層(I)/ポリエチレン系樹脂層(II)の各層の厚みを1.7/2.9mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして容器を作製した。
【0057】
実施例7
ポリアミド層(I)/ポリエチレン系樹脂層(II)の各層の厚みを0.3/1.6mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして容器を作製した。
【0058】
比較例1
ポリアミド(A1)及び(A2)の配合比を、MXナイロン1を70質量%、ナイロン6を30質量%に変更し、ポリアミド層(I)/ポリエチレン系樹脂層(II)の各層の厚みを0.3/2.8mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして容器を作製した。
【0059】
比較例2
第1の押出機の設定温度を255℃に変更し、メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)として、MXナイロン1をMXナイロン2「S6121」(商品名、三菱ガス化学(株)製、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とからなるポリアミド樹脂、融点240℃、相対粘度3.8)に変更し、ポリアミド層(I)/ポリエチレン系樹脂層(II)の各層の厚みを0.8/3.2mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして容器を作製した。
【0060】
比較例3
ポリアミド層(I)を脂肪族ポリアミド(A2)のナイロン6「1024B」のみに変更し、ポリアミド層(I)/ポリエチレン系樹脂層(II)の各層の厚みを0.4/3.0mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして容器を作製した。
【0061】
<評価>
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた容器について、燃料バリア性測定、引張試験、及び落下試験を行った。結果を表1〜3に示す。
【0062】
[燃料バリア性試験]
(燃料透過量)
得られた容器に、燃料(イソオクタン/トルエン/エタノール=45/45/10vol%)を130ml充填し、口栓部を蒸着アルミフィルムでヒートシールした後、キャップで閉じた。該燃料充填容器を、40℃に調整した防爆型乾燥機に40日間放置させた後に質量を測定し、更に一日放置後の質量を測定して、質量変化量(減少量)から一日当たりの燃料透過量(g/m2−day)を算出した。
【0063】
[引張試験]
(引張最大点荷重)
得られた上記容器について、ピンチオフ箇所を中心とした長さ5cm、幅1cmの短冊状の試験片を切り出し、テンシロン万能材料試験機(商品名:RTC−1250A−TL、(株)オリエンテック製)を用いて、JIS 7161に準拠して、引張速度50mm/min、チャック間距離20mmにて引張試験を行い、引張最大点での荷重(kN)を測定した。
【0064】
(引張破断状況)
得られた上記容器について、ピンチオフ箇所を中心とした長さ5cm、幅1cmの短冊状の試験片を切り出し、前記引張試験を5回行い、その破断箇所を観察し、ピンチオフ箇所(溶着部)で破断した数/試験数で示した。
【0065】
[落下試験]
(耐低温衝撃性)
得られた上記容器に、エチレングリコール/水=50/50を約750mL充填し、口部を閉じた。充填容器を−15℃の雰囲気下で12時間放置した後、1.5mの高さから落下させて、割れに至るまでの落下回数を測定した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
以上の結果から以下のことがわかる。
ナイロン6に対してMXナイロン1を多く含有する比較例1の容器は、ポリアミド層(I)を構成する樹脂組成物の強度が低下し、ピンチオフ部の強度が低く、耐低温衝撃性が著しく低い。メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)がイソフタル酸単位を有しない比較例2の容器は、ピンチオフ部の強度が低く、耐低温衝撃性が著しく低い。メタキシリレン基含有ポリアミド(A1)を含有しない比較例3の容器は、燃料バリア性が低い。
これらに対して、本発明の実施例1〜7の容器は、燃料バリア性に優れ、引張強度及びピンチオフ部の強度が高く、耐低温衝撃性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の多層ダイレクトブロー成形体及び該成形体からなる燃料容器は、アルコール類やエーテル類を含有する液体燃料に対するバリア性に優れ、かつ、強度に優れる。アルコール類やエーテル類等を含有する液体燃料は、化石燃料の使用量を減らして二酸化炭素の排出量を削減することができ、このような燃料の普及に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド層(I)より内側にポリエチレン系樹脂層(II)を有する多層ダイレクトブロー成形体であって、
前記ポリアミド層(I)が、メタキシリレン基を有するポリアミド(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを含有し、かつ、前記ポリアミド(A1)及び(A2)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記ポリアミド(A1)の含有量が10〜45質量%、前記ポリアミド(A2)の含有量が90〜55質量%であり、
前記のメタキシリレン基を有するポリアミド(A1)が、メタキシリレンジアミン単位を70モル%以上含むジアミン単位、及び炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸単位とイソフタル酸単位とのモル比率が30:70〜95:5である前記2種のジカルボン酸単位を合計70モル%以上含むジカルボン酸単位からなり、
前記脂肪族ポリアミド(A2)が、ナイロン6、ナイロン666、ナイロン610及びナイロン612からなる群から選択された少なくとも1種である、多層ダイレクトブロー成形体。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂層(II)が、前記ポリアミド層(I)の内側に接して位置し、ポリエチレン系樹脂(B)と変性ポリエチレン系樹脂(C)とを含有し、前記ポリエチレン系樹脂層(II)を構成する前記樹脂(B)及び(C)の含有量の合計を100質量%としたとき、前記樹脂(B)の含有量が30〜95質量%、前記樹脂(C)の含有量が70〜5質量%である、請求項1に記載の多層ダイレクトブロー成形体。
【請求項3】
前記ポリアミド層(I)が最も外側に位置する、請求項1又は2に記載の多層ダイレクトブロー成形体。
【請求項4】
前記ポリアミド層(I)及び前記ポリエチレン層(II)の2層のみからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体。
【請求項5】
前記ポリアミド層(I)の平均厚みが0.2mm以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体。
【請求項6】
前記ポリエチレン系樹脂層(II)の平均厚みが2mm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多層ダイレクトブロー成形体からなる、アルコール及び/又はエーテル含有液体燃料用容器。

【公開番号】特開2011−121317(P2011−121317A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282123(P2009−282123)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】