説明

多層データキャリヤ

【課題】レーザー書き込みを有する多層識別カードであって、その書き込みが改良された鮮鋭度及び解像度を有しているものを提供すること。
【解決手段】一般的な印刷データ、少なくとも1つの不透明な層及びレーザービームの吸収剤である添加剤が混入された少なくとも1つの透明な層を有しており、その際、前記透明な層において、レーザービームを用いることによって、その層の光学的性質の局部的な変化の形で情報の書き込みが行われる多層データキャリヤにおいて、前記のレーザービームで書き込み可能な層が、該データキャリヤの残りの層に比較して薄い非自立の層であるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な印刷データ、少なくとも1つの不透明な層及びレーザービームの吸収剤である添加剤が混入された少なくとも1つの透明な層を有しており、その際、前記透明な層において、レーザービームを用いることによって、その層の光学的性質の局部的な変化の形で情報の書き込みが行われる、多層データキャリヤに関する。
【背景技術】
【0002】
識別カード、クレジットカード、バンクカード、キャッシュカード、その他のような形をしたデータキャリヤは、非常に多様化したサービスセクタにおいて、例えば、キャッシュレスの送金において及び社内区域において、幅広く用いられている。一方において、これらのカードは、それらの広範な使用に原因して典型的な大量生産物品であり、また、それらの製造、すなわち、カード構造体の製造とカード特定の使用者データの組み込みは、簡単かつ低コストでなければならない。他方において、これらのカードは、偽造及び変造に対してできるかぎり最高度に保護されるように設計されなければならない。すでに市場にでておりかついまなお開発段階にある多くのタイプの識別カードは、これらの2つの相反する条件を最適化するための関連技術の努力を反映している。
【0003】
特許文献1は、例えば、カード中に記録媒体としてのプラスチック層が設けられていて、通常に見たときには完全に透明に見えるけれども、レーザービームがフィルムの黒色化を引き起こす程度に強くレーザービーム光を吸収するような識別カードを開示している。したがって、最後の加工工程で、基本的に透明な層の内部に改ざんの防止をできるように画像もしくはデータを組み込むことができる。レーザー書き込みに適当なフィルムは、いわゆるカードインレイの上方でカバー層として使用するかもしくは、レーザーペンに関して同じく透明とみなされる別の透明なカバーフィルムと一緒に使用することができる。
【0004】
特許文献2において提案されている識別カードは、偽造の防止に関してすでに高度の基準を有するものであるけれども、その視覚的効果に関してカードの設計の可能性を広げかつカードの変造や総合的な偽造を防止するため、高度の技術的努力を伴ってのみ複製可能である追加の真正特徴を導入することによる努力がさらに払われている。
【0005】
したがって、例えば特許文献3において、レーザー書き込みに適当な透明な層を識別カード中に組み込みかつその層を可視領域及びレーザーペンの両方に透明なカバー層で被覆することが提案されている。この層は、レンチキュラースクリーンを有する一部の領域において設けられる。レーザー書き込みに適当な層では、このレンチキュラースクリーンを介してレーザーでの書き込みが行われる。レンチキュラースクリーンは、レーザー書き込みに適当な層にレーザーを集め、よって、その層において、その層の全厚を貫通するロッド状の黒色化が生成する。もしもレーザー書き込みに適当な透明な層が、上記のような手法で種々の角度でレンチキュラースクリーンを通ったレーザービームによるデータを有しているとするならば、この層では、基本的にこの角度でのみ見ることのできる画像が生成する。このようにして書き込みを行ったカードを特定のカード軸に関して回転させた場合、レーザーで書き込んだデータは回転中にたまに見ることができるだけであるので、いわゆる「チルト効果」を観察することができる。
【0006】
最後になるけれども、特許文献4からは、レーザー書き込みに適当ないくつかの透明なフィルムを装備した識別カードが公知である。これらのフィルムは、いくつかの層に同時にかもしくは1つの個々の層にのみ選択的にレーザービームによってデータを組み込むことを可能とする方向で、また、それによって、これらの情報の断片を透明な中間領域によって互いに分離できるようにする方向で、選択されている。また、かかるフィルムを適宜選択することを通じて、連続した画像をフィルム中に導入し、一方において、同一の画像を別のフィルムに同時に断続的に導入することも可能である。
【0007】
上記した特許文献は、一般的に、レーザー書き込みに適した、すなわち、そのような目的で増感された、単層もしくは多層の透明フィルム中にレーザービームによって情報の書き込みを行っている。
【0008】
レーザー書き込みに適した層の厚さは、増感せしめられた層の厚さによって与えられる。チルト又はパララックスイメージを有する上記したカードでは、レーザーの書き込みを設計するに当たって、特定の観察角でそれぞれのチルト又はパララックスイメージがオーバーラップすることを回避するため、できるかぎり薄くすることが有利である。カードの製造中、50μm 未満の厚さを有するフィルムを取り扱うことはもはや不可能であり、したがって、このこともまた、書き込みの最低厚さを決定するものである。この点で、いろいろな観察角におけるそれぞれの部分的な画像の妨害的なオーバーラップを伴わないでチルト又はパララックスイメージを形成することは不可能である。さらに、レーザー書き込みの最低厚さは、書き込みが行われるあらゆるカードにおいて得ることのできる画像の解像性を制限している。
【0009】
フィルムは、レーザー光に関して、特別の添加剤によって増感せしめられる。ここで、上記添加剤は、基本的に透明なフィルム中に、そのフィルムの透明性を損なうのをできるかぎり少なくしかつ但しレーザーエネルギーのための十分な吸収中心を提供するような濃度でもって混入され、その際、その領域では、フィルム材料の変色あるいは材料の変態が開始可能である。
【0010】
【特許文献1】ドイツ特許第3151407号明細書
【特許文献2】ドイツ特許第3151407号明細書
【特許文献3】欧州特許第219012号明細書
【特許文献4】欧州特許第219011号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、したがって、レーザー書き込みを有する多層識別カードであって、その書き込みが改良された鮮鋭度及び解像度を有しているものを提供するという問題に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この問題は、特許請求の範囲の請求項1の特徴部分に記載のような構成要件によって解決される。
【0013】
本発明の基本的な思想は、多層データキャリヤのカード構造体中に、少なくとも1種類の添加剤を含有し、そしてデータキャリヤのその他の層に比べて薄い層を提供することにある。この添加剤含有層は、層構造体中の実質的に任意の場所に組み込むことができる。この層は、自体非自立性であり、すなわち、独立した層として処理することが不可能であり、但し、より厚いキャリヤ層と一緒にのみ処理可能であり、これに別の層を積層して多層データキャリヤとすることができる。この層の厚さが薄ければ薄いほど、カードの厚さに関して極めて小さい容積の領域に限定されるところのレーザー書き込みを行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明で得ることのできる利点は、特に、本発明の層を使用することによって、データキャリヤに対するレーザーの書き込みを境界を鮮明としかつ輪郭を明瞭として行うことが可能となるということである。例えば、チルト又はパララックスイメージを有するカードでは、それぞれの画像を異なる観察角で互いにより良好に識別することができ、したがって、それらの光学的効果が改良される。プラスチック材料の増感は公知であり、そして、例えば、欧州特許第232502号及び同第190997号において記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
好ましい1態様において、薄くて非自立の層はカードの内部に配置され、したがって、環境の影響あるいはデータキャリヤの日常使用に原因する影響から保護される。この薄くて非自立の層を、これもまたその内側に一般的な印刷データを担持する透明な層で被覆することが特に有利であることが判明した。
【0016】
別の特別な態様において、本発明の層は、別の利点を得ることを可能にする増感せしめられたラッカー層を有している。したがって、カードの製造においてより大きなフレキシビリティが与えられる。なぜならば、ラッカー層は、フィルムの製造とは独立して製造することができ、そしてカード製造のほとんど任意の段階でカード構造体中に組み込むことができるからである。ラッカー層の組成及びしたがってそれらのレーザー増感度は直ちに変更することが可能であるので、カードの製造中、フィルムの保管とは無関係に、ラッカー層を変更することも直ちに考えることもできる。また、ラッカー層を常法に従って全面的に適用することとともに、ラッカー層を有するカードの一部の領域を増感し、よって、これらの層もまた画像あるいはパターンの形で適用することも可能である。この可能性についての制限は、印刷技術の制限によって定められるものである。また、したがって、複数のラッカー層を互いに重ねて配置することもでき、さもなければ、異なるラッカーを互いに組み合わせて、異なるカード領域において増感度を異にする表面領域が具現可能なようにすることもできる。ラッカー層はほとんど任意の膜厚で適用することができるので、もしも非常に薄い層を使用するならば、レーザー書き込み中、カードの極く小さな容積領域のみが「変色」せしめられる。このことは、向上せしめられた書き込み鮮鋭度においてプラスに反映するばかりでなく、レーザーエネルギーの低レベル化及び書き込み速度の高速化もまたもたらすものである。
【0017】
したがって、レーザー書き込みに関して増感せしめられたラッカー層を使用することにより、同じように増感せしめられたフィルムを使用して従来可能であったあらゆる用途を具現することができる。したがって、最初の部分で列挙した特許文献に記載されているようにしてチルトイメージ又はパララックスイメージを形成することができる。しかしながら、ラッカー層は、従来使用されているプラスチックフィルムとは異なって、ほとんど任意の所望の厚さで提供することができるので、データの書き込みをより高解像度で行うことができる。このことから、チルトイメージ又はパララックスイメージの組み込みにおいて特に積極的にこれを行い得るということが自体明白である。なぜならば、一方において、情報がより小さな角度の範囲で「チルト」せしめられ、そして異なる角度で組み込まれた情報の断片を互いに、より正確に、分離することができるからである。
【0018】
別の態様において、本発明の層は薄い増感せしめられた重合体層からなっていて、この重合体層は、少なくとも1つの別の重合体層と一緒に同時押し出しされている。最新の押出機を使用すると、複数の、互いに異なっている重合体層を同時に押し出すことができ、よって、それぞれの層の厚さを独立して調整することができる。したがって、非常に薄い増感フィルム層を製造することができ、これらのフィルム層をより厚い同時押し出しキャリヤフィルムに原因して取り扱うことができる。
【0019】
本発明のその他の特徴及び利点は、特許請求の範囲の従属項及び以下に記載するところの、図面を参照してより詳細に説明する種々の実施例において見出すことができる。説明をより明瞭にするため、実寸での作図を行わなかった。
【実施例】
【0020】
図1は、「レーザーデータ」が略示的に示されているカードの正面図を示している。
【0021】
図2〜図13は、いろいろな多層カードの断面図を示している。
【0022】
図1は、一般的なカードを正面から示したもので、例えば、英数字のデータ2がレーザービームによってカードの内部に焼き込まれており、どのような視角からでも観察者が認識できるようになっており、また、いわゆるチルトイメージの領域において使用者関連データ3が与えられている。データ3は、略示されたチルトイメージのなかに組み込まれている。データ3は、略示されたレンチキュラースクリーン領域8のなかにいろいろな角度で組み込まれており、したがって、グラフィック表示のものとは異なって、チェック時に同時に認識することができず、但し、書き込みが行われた特定の角度に限って認識することができる。なお、このことについての詳細は、関連して具体的に参照するところの欧州特許第219012号において見出すことができる。
【0023】
図2は、同じく図1に対応するカード構造体を断面図で示したものである。カード1は、したがって、上方の透明なカバーフィルム4、不透明な中間体(インレイ)5及び下方の透明なカバーフィルム6を有している。上方のカバーフィルムはレンチキュラースクリーン8を有していて、その下方には、レーザー書き込みに関して増感されたラッカー層7が配置されている。ラッカー層7には、いわゆるチルトイメージとして認識することのできるデータがレーザービームによって書き込まれている。インレイ5の表面には、上記したチルトイメージデータ3とともに、英数字のデータ2が焼き込まれている。
【0024】
ラッカー層7は、比較的に薄く構成されている。この場合、1〜約50μm の膜厚が有用であると考えられる。実験から判明したことによれば、5〜20μm の膜厚の時、特に良好なレーザー書き込み性ならびに高感度及び良好なコントラスト、そして個々のチルトイメージの良好な識別の両方が可能となる。
【0025】
ラッカー層7は、カードの製造中の間に、カバーフィルム4の下側あるいはインレイ5の表面のいずれかに印刷することによって組み込むことができる。
【0026】
図3は、レーザー書き込みに適当な2つの隣接したラッカー層11、12を備えていて、それらのラッカー層を2つの透明なカバーフィルム9、10と一緒に使用している別のカード構造体を示している。この4層構造体9、10、11、12は、不透明なインレイ13に対して適用され、また、このインレイは、その背面に施された透明なカバーフィルム14をさらに有している。このような構造を有するカードでは、欧州特許第219011号からすでに知られているように、パララックスイメージを特に容易に組み込むことができる。また、このパララックス効果は、このカード構造体の場合、極めて薄いラッカー層11、12を使用することによって非常にプラスな効果を導くことができる。なぜならば、レーザー記録が鮮鋭度に優れたものである時、構造体のとりわけ良好な分離が可能となるからである。
【0027】
図4は、特に簡単な構造を持ったカードを示したものである。このカードでは、比較的に厚いカード基材15に対してレーザー書き込みに関して増感されたラッカー層16が施されている。ラッカー層16は、この場合、直接的にアクセス可能であり、また、したがって、特に耐性を有するように調製しなければならない。特別のレーザー書き込み性を有することが必要とされるプラスチック材料を基材15に使用しないでその基材15に単にラッカーを塗布することによってカードを製造することができることは、このカード構造体によってもたらされる特別な利点を証明するものである。もしもレーザーエネルギーがそのような大きさであるならば、ラッカー層16においてのみレーザー書き込みを行うことができる。しかし、レーザーの出力を増加させることによって、カード基材の表面においても同時に書き込みを行うことができる。
【0028】
図5は、ラッカー層18が透明なカバーフィルム20で被覆されているカードを示している。これらの層のどちらも、不透明なカードインレイ19の上方に配置されている。カードインレイ19の背面には、別の透明なカバーフィルム21が設けられている。ラッカー層18中に組み込まれているレーザー書き込みデータ17は、その上方にあるカバーフィルム20によって、直接にアクセスできないようになっており、また、したがって、偽造及び変造から高度に保護されている。
【0029】
図6は、ラッカー層18が2つの透明なカバー層20及び23の中間に配置されているようなカードを示している。この全体的に透明な複合フィルムは、印刷画像22を担持したカードインレイ22上に配置されている。このカード構造体では、レーザー書き込みデータ17がカバーフィルムの内部に半ば埋め込まれており、印刷画像22とは目に見える形で分離されている。観察者は、特に、カードを傾けて見る場合、レーザー書き込みデータ17をそのデータが印刷画像22上に「浮いた状態」で見ることができる。この効果は、透明な層23の厚さが増加すればするほどより鮮明となる。端的な例を示すと、実質的にカードの厚さ全体が透明な層23から形成されているようにするため、不透明な層21を省略することもできる。このカード構造体の場合には、大半において、カードの対向する面の上方に印刷画像22が配置されることとなる。
【0030】
図7は、透明なカバーフィルム20の背面に印刷画像22が配置されている識別カードを示している。このようにして印刷を施したフィルムは、ラッカー層18を装備した不透明な基材25の上に積層せしめられる。このカード構造体のラッカー層18にレーザーペンを使用してデータ17の書き込みを行う場合、それらのデータをカード構造体内のうちの印刷画像22の下側に配置する。したがって、データ17を除去しようと試みた場合、いつでも印刷画像の破壊を導くことになり、また、もしもそのデザインがかなり複雑であるならば(quilloches、その他)、小細工を施すことが実質的に不可能となる。印刷画像22の複数の部分にはレーザーデータの書き込み途中でレーザービームが衝突するので、そのような場合、その領域においては、ラッカー層23における書き込みとともに印刷画像そのものの局部的な破壊が行われる。完成したカードでは、このことを観察者が認識することができないが、これは、レーザー書き込みを通じて均一なくぼみができるからである。しかしながら、層構造体そのものにおいては、印刷画像22中及びラッカー層23中の両方に対してこの方法でレーザー書き込みデータが焼き付けられる。したがって、レーザーエネルギーを適宜増大させることによって、すでに説明したように、この作用をカード基材25の内部に対してまで拡張することができる。
【0031】
以上に説明した実施例では、いろいろな形のカード構造体を考慮に入れてラッカー層を構成すべきであること、そして特定の態様に依存して異なる作用を得ることができること、について説明した。可能と考えられる組み合わせの数は、もちろん、記載の実施例によってすべてとなるわけではない。特に、同一もしくは異なる増感度を有するラッカー層を上下に重ねて選択的に配置した場合、レーザー感度の局部的な増大を達成することができる。カード構造体及びカードの書き込みにおいて追加の効果を得ることができるようにするため、ラッカー層を全面的もしくはパターン状のいずれかの形で施すことができる。
【0032】
増感せしめられたラッカー層を含むようにする場合には、使用される特定のカード材料に関して最適に書き込み可能なラッカー層を有し得るようにするため、多数のパラメータをいろいろに変更することができる。下記のような特定のパラメータを変更することができる。
【0033】
1.溶媒(テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、エチルメチルケトン、その他)、
2.結合剤(PVC、PC、ポリエステル、その他)、
3.増感物質、
4.ラッカー層の膜厚(湿潤時膜厚で10〜150μm )、
5.ラッカー及びフィルム材料(例えば、ポリエステル及びPVC)の種類のいろいろに可能な組み合わせ、
6.適用の方法(ドクタ塗布、プリンティング、スプレー塗布、注加、その他)、
7.カード中/上のラッカー層の位置、
8.分散ラッカーの使用。
【0034】
非常に多数の可能と考えられる組み合わせが存在するけれども、以下、一例として、1つの可能な態様を説明する。
【0035】
ラッカーの調製
超音波浴において、40gのシクロヘキサノン中に0.08gのカーボンブラックを5分間をかけて分散させる。この分散液に対して、60gの50よりも大きなK値を有するPVCを添加し、熱時に溶解させる。
【0036】
適用
次いで、上記の一般的な手法に従い調製されかつ添加剤のカーボンブラック(200ppm )を含有するラッカーをドクタブレードを用いて湿潤時膜厚75μm でPVCフィルムに適用し、そして乾燥する。このラッカー塗布フィルムレーザービームに対して透明な別のフィルムをに常法に従って積層してカードを形成し、そのカードの内部では、透明なフィルムの下方にラッカー層が位置するようにする。
【0037】
レーザー印刷の組み込み
上記の一般的な手法に従い調製されかつ増感せしめられたラッカーを含有するカードに、Nd−YAGパルスレーザーの光路で光パルスを照射する。集中的に黒色化が発生する。よって、ラッカー層において書き込みが行われる。
【0038】
ラッカー中における結合剤の選択に関して、特に、隣接層中の基材重合体と少なくとも化学的に同様な重合体物質を結合剤として使用することは、そのことが有利な場合もあるけれども、不必要であることが明らかとなった。さらに、一般的に行われていることとは対照的に、比較的に高分子量の重合体を使用することも有利な点である。このことは、まず第一に、同一のレーザーエネルギーでも、得ることのできる黒色化を改良し、また、第二に、増感せしめられたラッカー層と隣接するフィルム層との間の接合力を増大させる。ラッカーを調製する場合に、飽和溶液中において20%の固形分含有量を上回らないように重合体結合剤の分子量を選択することが、書き込み可能性及び層の複合に関して有利であることが判明した。PVCの場合には50よりも大きなK値を有する材料を使用することができ、ポリカーボネート(PC)の場合には10000g/モルよりも大きな分子量を有する重合体である。ラッカー層は、それらの結合剤ができるかぎり少量の可塑剤を有する単独重合体からなる場合、とりわけ良好な書き込み可能性を有している。しかし、コモノマーが可塑剤特性を有していないならば、例えば、アクリレートベースであるならば、共重合体もまた適当である。
【0039】
しかしながら、これらのラッカーであって高分子量の重合体結合剤を有しているものとともに、通常は固体で非溶媒の分散剤及び必要に応じて溶媒からなる増感せしめられた分散ラッカーを使用することも可能である。
【0040】
同様にして、増感せしめられたいわゆる粉体塗膜、結合剤を有しない細分化せしめられたバインディング系、を使用可能であることが判明した。例えば、ラッカーを塗布されるべき基材上に静電あるいはスプレー手段を用いて適用することによって、識別カードの層に対して粉体塗膜を適用する。ラッカー粒子が高粒子粘度を有していると、積層プロセスの間におけるフィルムに対する重合体粉末の付着及び連続したラッカー層中への結合が引き起こされる。
【0041】
ラッカー層に対してそれに隣接するカードのフィルム層が付着することは、そのラッカー層をレーザー照射領域で局部的に炭化することによって軽減せしめられるので、第1のラッカーと第2のラッカーの混合物からなるラッカー層を使用し、その際、第2のラッカーはレーザービームと反応させないことによって、積層複合体の付着を改良することが有利である。これらのラッカー混合物において、2種類のラッカーは、好ましくは、化学的に異なっており、例えば、アクリレートラッカー及びPVCラッカーであり、その際、これらのラッカーの一方だけが添加剤を含有する。この基準で、ラッカー層とそれに隣接するカードのフィルム層との間の付着を保持することができる。なぜならば、ラッカー層の少なくとも1つはレーザービームに関して透明であり、材料の変態を被ることがなく、また、したがって、ラッカー層と隣接フィルム層との間の強固な結合を保証するからである。
【0042】
本発明の別の態様は、図8に示されている。ここで、ラッカー層18が施されている多孔質の層41は、不透明なコア層19上に位置している。ラッカー層は、追加的に、透明なカバー層で被覆することができる。この配置に特有な利点は、その多孔質の層41がレーザー書き込み中に発生するガスを吸収することができ、よって、レーザー書き込み中におけるガスの形成を多孔質の基材によって補償し、クラックが発生することはないということである。
【0043】
別の好ましい態様において、増感せしめられた層は、少なくとも1つの別のフィルム層と複合した形で、いわゆる同時押し出しフィルムとして製造される。フィルム複合体であって、同時押し出しフィルムの少なくとも1つの層がレーザーでの書き込みを可能とする添加剤を有するようなものは、複数のフィルム材料を一緒に同時的に押し出すことを通じて製造することができる。したがって、通常のフィルムと同様に、薄い増感層を少なくとも1つの同時押し出し層と一緒に処理することができる。添加剤を有する層は、通常、5〜50μm の厚さを有している。
【0044】
図9は、印刷データを含有することのできるカード基材15、そしてその上方に位置する同時押し出しフィルム26を含む識別カードを示している。同時押し出しフィルムは、さらに、2つのプラスチック層を有していて、そのうちの層27が、レーザー書き込みに関して増感せしめられている。また、レーザー増感層は、同時押し出しフィルム内のほとんど任意の領域で変更することができるので、鮮明な書き込みのために必要な50μm 未満の膜厚を提供することも可能である。
【0045】
もしも同時押し出し材料を以下に記載する方向で選択するならば、カード本体に対して同時押し出しフィルムをあべこべに積層して、その外側の上方に薄くて非自立の層27を配置することもできる。この場合には、層27に印刷を施すことが可能である。層27は、通常、別の透明な層によって環境の影響から保護されている。レーザーデータは、その追加の透明層を施す前かもしくはその後、書き込むことができ、よって、もしもインクがレーザービームに関して透明であるならば、印刷画像を介してレーザー照射を行うこともできる。
【0046】
図10は、カード基材15に印刷データ22がプリントされている別のカード構造体を示している。同時押し出しフィルムは、カード基材上に積層されており、そして3種類の層27、28及び29を有していて、そのうちの層27だけが添加剤を有している。レーザー書き込み17は、したがって、層27においてのみ行われる。この構造体は、印刷22とレーザー増感層27の中間に分離層29が加えられ、よって、カード基材とその上方に配置された層26の間の化合物がレーザー書き込みにより別に影響を受けるのを防止できるという利点を有している。
【0047】
図11は、同時押し出しフィルム26が3種類の層30、31及び32を有していて、その際、レーザー光に関して層30が最高に増感されており、層32が最低の増感度であるような実施例を示している。異なる形で増感を行うことによって、1種類、2種類、もしくは全部で3種類の層にレーザービームで書き込みを行い、異なる深さの黒色化を導くことが可能となる。書き込みが行われる層の数は、使用されるレーザービームの強度にのみ依存している。この態様は、異なるグレー濃度を生成しようとするような場合、例えば、カードに連続階調の画像を組み込もうとするような場合、とりわけ有利である。さらに、カードインレイがプリント(図示せず)を担持することもできる。この場合には、書き込みを行う予定の層26を、同時押し出しフィルムの一部であるレーザー不感応性層かもしくは独立した層によって、カードインレイあるいはその上方のプリントから分離することが好ましいということが判明している。さらに、同時押し出しフィルム26を追加の層20で被覆するか、さもなければ、その層20を層30〜32と一緒に同時押し出しすることも可能である。
【0048】
図12において、プリント22はカードインレイ15に対して適用され、また、カバー層33を支承する。その上方には、2つの薄いレーザー増感層34及び36を含有する同時押し出しフィルムが適用されている。同時押し出しフィルムは、同じように、同一もしくは異なる材料から作られた層35及び37を含有している。一般に5〜50μm の厚さを有しているレーザー増感層に関しては、同一もしくは異なる度合いの増感を選択することができる。さらにまた、プリント付きのカードインレイ15上に層33〜37を含む同時押し出しフィルムを簡単に積層するだけでカードの仕上げが十分であるようにするため、同時押し出しフィルム複合体中にカバー層33を含めることも可能である。
【0049】
図13は、プリント22を備えることのできるカードインレイ15を示している。このカード基材の上方には、層38及び39を含む同時押し出しフィルムが積層されている。層39は、レーザー増感層として設計されていて、その上方に位置する層40によってカバーされており、また、レンチキュラースクリーンパターン41を装備している。また、同時押し出しフィルムは、それが層38、39及び40を含有し、よって、層40が、カード本体上に積層する前かもしくはその途中に、レンチキュラースクリーンパターン41を与える処理にさらされるように、フィルム複合体26’として製造することもできる。
【0050】
後者の実施例は、増感せしめられた薄くかつ非自立の層を含有する同時押し出しフィルムはデータキャリヤおいていろいろな形態で使用することができ、よって、特定の態様に依存して異なる効果を得ることができるということを示している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】「レーザーデータ」が略示的に示されているカードの正面図である。
【図2】多層カードの断面図である。
【図3】多層カードの断面図である。
【図4】多層カードの断面図である。
【図5】多層カードの断面図である。
【図6】多層カードの断面図である。
【図7】多層カードの断面図である。
【図8】多層カードの断面図である。
【図9】多層カードの断面図である。
【図10】多層カードの断面図である。
【図11】多層カードの断面図である。
【図12】多層カードの断面図である。
【図13】多層カードの断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 カード
2 データ
3 データ
4 カバーフィルム
5 インレイ
6 カバーフィルム
7 ラッカー層
8 レンチキュラースクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般的な印刷データ、少なくとも1つの不透明な層及びレーザービームの吸収剤である添加剤が混入された少なくとも1つの透明な層を有しており、その際、前記透明な層において、レーザービームを用いることによって、その層の光学的性質の局部的な変化の形で情報の書き込みが行われる、多層データキャリヤにおいて、
前記のレーザービームで書き込み可能な層が、該データキャリヤの残りの層に比較して薄い、非自立の層であることを特徴とする多層データキャリヤ。
【請求項2】
前記の非自立の層が少なくとも1種類の重合体物質を含有しており、そして1〜50μm の厚みを有していることを特徴とする、請求項1に記載のデータキャリヤ。
【請求項3】
前記の非自立の層が該データキャリヤの内部に位置していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のデータキャリヤ。
【請求項4】
前記の非自立の層が透明な層によって覆われていることを特徴とする、請求項3に記載のデータキャリヤ。
【請求項5】
前記の透明な層が、前記の非自立の層に対向する面の上に印刷物を有していることを特徴とする、請求項4に記載のデータキャリヤ。
【請求項6】
前記の不透明な層に対して印刷データが施されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項7】
前記の非自立の層がラッカー層であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項8】
前記ラッカー層の結合剤が高分子量の重合体物質であることを特徴とする、請求項7に記載のデータキャリヤ。
【請求項9】
前記ラッカー層の結合剤が単独重合体材料からなることを特徴とする、請求項7に記載のデータキャリヤ。
【請求項10】
前記ラッカー層の結合剤が共重合体からなり、その際、そのコモノマーは材料の可塑化作用を引き起こさないことを特徴とする、請求項7に記載のデータキャリヤ。
【請求項11】
前記ラッカー層が一部の領域においてのみ担持されていることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項12】
該データキャリヤの層構造体が多数個の互いに上下に重ね合わされたラッカー層を有しており、それぞれの個々のラッカー層が相異なる添加剤あるいは相異なる量の添加剤のいずれかを含有していることを特徴とする、請求項7に記載のデータキャリヤ。
【請求項13】
互いに上下に重ね合わされたラッカー層がその都度少なくとも1つの透明な層によって分離されていることを特徴とする、請求項12に記載のデータキャリヤ。
【請求項14】
前記ラッカー層がラッカーから形成されており、その際、該ラッカーは、前記添加剤を除いて、その都度隣接する層の基材重合体と同一の化学組成を有していることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項15】
前記ラッカー層が分散ラッカーであることを特徴とする、請求項7〜14のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項16】
前記ラッカー層が粉体塗膜であることを特徴とする、請求項7〜14のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項17】
前記ラッカー層が2種類の互いに異なるラッカーからなることを特徴とする、請求項7〜13のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項18】
2種類のラッカーの一方が、前記添加剤を除いて、その都度隣接する層の基材重合体と同一の化学組成を有していることを特徴とする、請求項17に記載のデータキャリヤ。
【請求項19】
前記結合剤が、50よりも大きなK値を有しているPVCであることを特徴とする、請求項7に記載のデータキャリヤ。
【請求項20】
前記ラッカー層が多孔質な層の上に位置していることを特徴とする、請求項7に記載のデータキャリヤ。
【請求項21】
前記の薄くて非自立の層が同時押し出しフィルムの一部であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項22】
前記の非自立の層が一般的な印刷データを有している層に直接的に隣接していることを特徴とする、請求項21に記載のデータキャリヤ。
【請求項23】
前記同時押し出しフィルムが、非自立の層及び2つの別の透明な層からなり、その際、前記の透明な層の中間に前記の非自立の層が位置することを特徴とする、請求項21に記載のデータキャリヤ。
【請求項24】
前記の非自立の層が、それぞれが互いに異なるかもしくは互いに量を異にする添加剤を有している層の複数からなることを特徴とする、請求項21〜23のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項25】
個々の非自立の層がその都度透明な層によって分離されていることを特徴とする、請求項24に記載のデータキャリヤ。
【請求項26】
前記の薄くて非自立の層の表面に印刷データが施されていることを特徴とする、請求項21〜25のいずれか1項に記載のデータキャリヤ。
【請求項27】
前記印刷データがレーザービームに関して透明であることを特徴とする、請求項26に記載のデータキャリヤ。
【請求項28】
前記ラッカーの飽和溶液中の固形分含有量が20%未満であることを特徴とする、請求項3に記載のデータキャリヤにおいてレーザー書き込みを行うためのラッカー。
【請求項29】
前記ラッカー中の固形分が高重合度のプラスチックからなることを特徴とする、請求項28に記載のラッカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−216690(P2007−216690A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119620(P2007−119620)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【分割の表示】特願平6−514830の分割
【原出願日】平成5年12月23日(1993.12.23)
【出願人】(391021167)ガオ ゲゼルシャフト フュア アウトマツィオン ウント オルガニザツィオン ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】GAO GESELLSCHAFT FUR AUTOMATION UND ORGANISATION MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】