説明

多層フィルム及び多層フィルムの製造方法

【課題】ガスバリア、水蒸気バリアに優れ、より簡易に液界面が確認可能で、かつ内容液の確認が可能な医療用包装袋を提供できる多層フィルム及び多層フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の片方の表面に接着性樹脂層を介して、非晶性シクロオレフィンコポリマー65〜92質量%と、非晶性シクロオレフィンポリマー8〜35質量%とからなるシクロオレフィン系樹脂混合物100質量部と、低密度ポリエチレン系樹脂7〜30質量部とを含有するシクロオレフィン系樹脂組成物層を設けた多層フィルムによる。また、さらに該エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の他方の表面に接着性樹脂層を介して、表面樹脂層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルム及び該多層フィルムの製造方法に関し、特に医療用に用いられるガスバリア及び水蒸気バリアに優れた多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野における医療用容器としては、医薬的に許容されたプラスチックよりなる包装袋が主流となって用いられている。ここで使用される医薬的に許容されたプラスチックとしては、ポリプロピレンやポリエチレン等が知られている。
【0003】
ところで、医療用の容器では内容液の確認が確実に可能であることが求められている。そこで、ポリプロピレン系重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーとの重合体組成物からなり、450nmの波長の水中透過率が80%を超える医療用包装袋がある(特許文献1参照。)
また、環状オレフィン系樹脂層とプロピレン組成物層とからなる、透明性に優れたフィルムがあり(特許文献2参照。)、医療用包装袋等に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−239436号公報
【特許文献2】特開平11−165387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献1及び2で開示されているような透明性の高い医療用包装袋は、内容液の色が薄い場合又は無色である場合、液界面の確認がし難いという問題がある。
【0006】
医療現場では、医薬品の投与量や残量を確認する必要があるが、このように液界面の確認が困難な容器においては、その確認作業に注意を払う必要があり、多忙な医療現場においては、不便を感じることが多かった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、ガスバリア、水蒸気バリアに優れ、より簡易に液界面が確認可能で、かつ内容液の確認が可能な医療用包装袋を提供できる多層フィルム及び多層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層フィルムは、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の片方の表面に接着性樹脂層を介して、非晶性シクロオレフィンコポリマー65〜92質量%と、非晶性シクロオレフィンポリマー8〜35質量%とからなるシクロオレフィン系樹脂混合物100質量部と、低密度ポリエチレン系樹脂7〜30質量部とを含有する樹脂組成物層設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の多層フィルムは、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の他方の表面に面に接着性樹脂層を介し、表面樹脂層を設けたことを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の多層フィルムは、非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンコポリマーは、ガラス転移温度がどちらも150℃以下のものを用いられる。
【0011】
また、前記シクロオレフィン系樹脂組成物層に用いられる非晶性シクロオレフィンコポリマー全質量中、ガラス転移温度が65〜85℃である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%以上、ガラス転移温度が100〜150℃である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%未満含有することが好ましい。
【0012】
本発明の多層フィルムの製造方法は、非晶性シクロオレフィンコポリマー65〜92質量%と非晶性シクロオレフィンポリマー8〜35質量%とからなるシクロオレフィン系樹脂混合物100質量部と、低密度ポリエチレン系樹脂7〜30質量部とを含有するシクロオレフィン系樹脂組成物、接着性樹脂、及びエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂からなる三種の樹脂組成物を、それぞれ混練溶融し、多層インフレーション法を用いて、内側からシクロオレフィン系樹脂組成物層、接着性樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層を配置してなることを特徴とする。また、該多層インフレーション成形において、該エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の外面側に、さらに接着性樹脂層及び表面樹脂層を設けても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガスバリア、水蒸気バリアに優れ、より簡易に液界面が確認可能で、かつ内容液の確認が可能な医療用包装袋を提供できる多層フィルム及び該多層フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
[シクロオレフィン系樹脂組成物]
本発明の多層フィルムの内面側に使用されるシクロオレフィン系樹脂組成物は、非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンポリマーからなるシクロオレフィン系樹脂混合物、並びに低密度ポリエチレン系樹脂を含有することを特徴とする。
【0015】
非晶性シクロオレフィンコポリマーとは、環状オレフィン系の樹脂で、ノルボルネン系モノマーとエチレンモノマーの共重合体を示す。
【0016】
ノルボルネン系モノマーとは、分子骨格中にノルボルネン骨格を有するものであり、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、テトラシクロドデセン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0017】
非晶性シクロオレフィンコポリマーは、透明性、薬剤吸着抑制性、水蒸気バリア性、臭いバリア性等を付与することが可能なことから本発明の樹脂組成物に用いることが好ましい。
【0018】
本発明の多層フィルムの内面側に使用されるシクロオレフィン系樹脂組成物に用いる非晶性シクロオレフィンコポリマーは、ガラス転移温度が150℃以下、好ましくは65〜145℃のものが用いられる。
【0019】
非晶性シクロオレフィンコポリマーのガラス転移温度が65℃未満の場合、非晶性シクロオレフィンポリマーやポリエチレン系樹脂との流動性の差が大きくなり好ましくない。一方、150℃を超えた場合、加工温度が高すぎるためポリエチレン系樹脂との相溶性が悪くなり、フィッシュアイが発生し易い傾向にある。
なお、ガラス転移温度とはISO11357−1,2,3にて測定される値を示す。
【0020】
また、本発明の多層フィルムの内面側に使用されるシクロオレフィン系樹脂組成物に用いる非晶性シクロオレフィンコポリマーは、非晶性シクロオレフィンコポリマー全質量中、ガラス転移温度が65〜85℃である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%以上、好ましくは60〜90質量%、ガラス転移温度が100〜150℃である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%未満、好ましくは10〜40質量%用いることにより、多層フィルムを袋加工する場合、ヒートシール温度に比例して接着強度を設定出来るので、イージーピール機能を簡単に付与することが可能となる。
【0021】
ガラス転移温度が65〜85℃の範囲である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%以上含有していると、非晶性シクロオレフィンポリマーやポリエチレン系樹脂と均一化しやすく、且つポリエチレン系樹脂との相溶性も優れるため、優れたフィルムを得やすい傾向にある。
【0022】
非晶性シクロオレフィンコポリマーの市販品としては、ポリプラスチック社製の「TOPAS(登録商標)」、三井化学(株)製の「アペル(登録商標)」等が挙げられる。
非晶性シクロオレフィンポリマーとは、ノルボルネン系モノマーの単独重合体を示す。
ノルボルネンモノマーとしては、非晶性シクロオレフィンコポリマーと同様のものが挙げられる。
【0023】
非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンポリマーは、透明性、薬剤吸着抑制性、水蒸気バリア性を付与することが可能であるので好ましい。
【0024】
本発明の多層フィルムの内面側層に使用されるシクロオレフィン系樹脂組成物に用いる非晶性シクロオレフィンポリマーは、ガラス転移温度が150℃以下のものが用いられる。特に90〜145℃であることが好ましい。
【0025】
非晶性シクロオレフィンポリマーのガラス転移温度が150℃を越えた場合、加工性が悪く、未溶融ゲルの発生が見られる。
このような、非晶性シクロオレフィンポリマーの市販品としては、日本ゼオン社製の「ゼオノア(登録商標)」、「ゼオネックス(登録商標)」、JSR社製の「アートン(登録商標)」などが挙げられる。
【0026】
以上の、非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンポリマーからなるシクロオレフィン系樹脂混合物において、非晶性シクロオレフィンコポリマーの含有量は65〜92質量%であり、70〜90質量%であると好ましく、73〜88質量%であるとより好ましい。
【0027】
一方、非晶性シクロオレフィンポリマーの含有量は8〜35質量%であり、10〜30質量%であると好ましく、12〜27質量%であるとより好ましい。
【0028】
このように非晶性シクロオレフィンコポリマーの含有量が65〜92質量%の範囲内であるとき(非晶性シクロオレフィンポリマーの含有量が8〜35質量%の範囲内であるとき)、本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物層の表面には微細な凹凸が成形される。この微細な凹凸が成形されたフィルムを薬剤容器包装袋に用いると、内容液の確認性が良好で、かつ液界面の確認性が良好な薬剤容器包装体を得ることができる。
【0029】
しかし、非晶性シクロオレフィンコポリマーの含有量が65質量%未満であると(非晶性シクロオレフィンポリマーの含有量が35質量%を超える)、本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物層の表面の凹凸が大きくなり、ムラが発生しやすい。更に、このようなフィルムを用いた薬剤容器包装袋は、内容液の確認が困難なものとなる。
【0030】
また、非晶性シクロオレフィンコポリマーの含有量が92質量%を超えると(非晶性シクロオレフィンポリマーの含有量が8質量%未満)、本発明の樹脂組成物からなるフィルムの表面に微細な凹凸を成形しにくい。更に、このようなフィルムを用いた薬剤容器包装袋は、液界面の確認が困難なものとなる。
【0031】
更に、本発明の多層フィルムの内面側に使用されるシクロオレフィン系樹脂組成物には、低密度ポリエチレン系樹脂を含有させる。
【0032】
本発明で用いる低密度ポリエチレン系樹脂とは、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)や、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)のことを示す。中でも、メタロセン系触媒を用いて得られたものを用いることが好ましい。メタロセン触媒を用いて得られた直鎖状低密度ポリエチレンを用いると、他の樹脂組成物との接着性、成型性、柔軟性、流動性等を付与することができる傾向にある。
【0033】
具体的には、日本ポリエチレン(株)の「ハーモレックス」、「カーネル」、「ノバテック」や、東ソー(株)の「ペトロセン」、「ニポロン」、住友化学(株)の「エクセレン」、「スミカセン」(いずれも登録商標)等が挙げられ、中でも、メタロセン触媒系のものを用いることが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0034】
本発明の多層フィルムの内面側に使用されるシクロオレフィン系樹脂組成物に用いる低密度ポリエチレン系樹脂は、融点が80〜130℃であり、90〜125℃であると好ましい。低密度ポリエチレン系樹脂の融点が130℃以下であれば、製膜性が良好で、フィッシュアイやピンホール等の発生し難い傾向にある。一方、融点が80℃未満の場合、製膜性が低下し、フィッシュアイやピンホールが発生しやすくなる傾向にある。
【0035】
前記低密度ポリエチレン系樹脂の含有量は、非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンポリマーからなるシクロオレフィン系樹脂混合物100質量部に対して、7〜30質量部であり、10〜20質量部であると好ましい。
【0036】
低密度ポリエチレン系樹脂の含有量が7質量部未満であると、シクロオレフィン系樹脂組成物の成型性が低下し、フィルムの成型を行う際に、異物、フィッシュアイ及びピンホールなどが多発する傾向にある。このようなフィルムを用いた薬剤容器包装袋は、内容液の確認が困難になる。一方、含有量が30質量部を越えると、フィルムの成型を行う際に、フィルムに微細な凹凸を成形しにくい。このようなフィルムを用いた薬剤容器包装袋は、液界面の確認が困難になり、また、水蒸気バリア性も低下する。
【0037】
また、本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物には、本発明の用途に適合し、かつ効果を損なわない範囲において、目的に応じた他の成分を添加してもよい。
【0038】
具体的には、ポリプロピレン系樹脂や、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0039】
[エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂]
本発明の多層フィルムに使用されるエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物で、公知のものを使用することが出来る。好ましくは、エチレン含有量が20〜70モル%であり、酢酸ビニルのけん化度が95モル%以上、更に好ましくは、エチレン含有量が25〜50モル%であり、酢酸ビニルのけん化度が98モル%以上である。
【0040】
けん化度が低いとガスバリア、特に酸素バリアが低下するので好ましくない。
【0041】
前記のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物は、第3の共重合し得るモノマー成分を含んでもよい。共重合し得るモノマー成分としては、プロピレン等のα−オレフィン、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和酸が挙げられる。これらの共重合モノマーは、5モル%以下が好ましい。
【0042】
[接着性樹脂]
本発明の多層フィルムの中間層であるエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層と内外面の樹脂層とを接着する接着性樹脂は、オレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸でグラフトした変性オレフィン系樹脂が好ましい。前記のオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられ、不飽和カルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及びこれらの塩が挙げられる。
【0043】
また、前記変性オレフィン系樹脂に、通常のオレフィン系樹脂をブレンドすることも可能である。本発明の多層フィルムに耐熱性を付与するためには、変性ポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。
更に、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等も使用できる。
【0044】
[表面樹脂層]
表面樹脂層としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン等を用いることが出来る。前記のオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−αオレフィン共重合体等が挙げられるが、耐熱性を付与するためには、プロピレン系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂としては、非晶性ポリエステル系樹脂を主成分として結晶性ポリエステル樹脂を従成分として用いることが製膜性、柔軟性等の点から好ましい。
【0045】
[多層フィルムの製造方法]
本発明の多層フィルムは、インフレーション法、Tダイ法等の公知の方法で成型することができる。
【0046】
なかでも、押出機からチューブ状に押出した溶融樹脂組成物を垂直方向に引き取りながら空気圧で膨らませて筒状フィルムを成型し、冷却しながらロールではさんで扁平化し、多層フィルムを成型するインフレーション法によってフィルムを成型することが好ましい。
【0047】
本発明の多層フィルムの内面側層に使用される樹脂組成物はインフレーション法で成型するだけで、表面に微細な凹凸を成形し、すりガラスのような外観を有するフィルムとなる。特に下向水冷方式のインフレーション装置を使用すると、微細な凹凸を成形する際に冷却ロールに接することがなく、微細な凹凸が成形しやすい傾向にあり好ましい。
【0048】
また、Tダイ法を用いる場合、通常は微細な凹凸を付けるため別途加工する必要があるが、本発明の樹脂組成物を用いた場合、加工をせずに表面に微細な凹凸成形することができる。
【0049】
以上の方法で得られる本発明の多層フィルムは、その厚みが100μm以上であると好ましく、150μm以上であるとより好ましく、200μm以上であると更に好ましい。対して、厚みが500μm以下であると好ましく、400μm以下であるとより好ましく、300μm以下であると更に好ましい。
【0050】
フィルムの厚みが100μm以上であれば、フィルムの強度を保持することができ、ヒートシール時に層切れなどが起こり難い。更に200μm以上であれば、フィッシュアイ等の影響を受けにくくなる。
【0051】
一方、フィルムの厚みが300μm以下であれば、フィルムの柔軟性を保持することができ、医療用包装袋等に用いた際の内容液の排出性が良好となる。
【0052】
本発明の多層フィルムは、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層と、接着性樹脂層と、前記内面側のシクロオレフィン系樹脂組成物層からなり、前記樹脂組成物が非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンポリマーからなるシクロオレフィン系樹脂混合物、並びにポリエチレン系樹脂を含有する。
【0053】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さは8〜50μmであると好ましく、10〜40μmであるとより好ましい。
【0054】
この層の厚さが8μm以上であれば、ガスバリア性、特に酸素バリア性が付与でき、50μm以下であれば柔軟性に富む傾向にある。
【0055】
接着性樹脂層には、変性オレフィン系樹脂が用いられるが、他の接着性樹脂であるスチレン系熱可塑性エラストマーや、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いて柔軟性を付与することも可能である。
【0056】
スチレン系熱可塑性エラストマー及びオレフィン系熱可塑性エラストマーとして具体的には、JSR(株)のダイナロン、(株)クラレのハイブラー、三菱化学(株)のゼラス(いずれも登録商標)等が挙げられ、中でも透明性の高いダイナロンを用いると好ましい。これらは、一種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0057】
接着性樹脂層の厚さは5〜150μmであると好ましく、10〜100μmであるとより好ましい。
【0058】
内面側には、非晶性シクロオレフィンコポリマー及び非晶性シクロオレフィンポリマーからなるシクロオレフィン系樹脂混合物、並びにポリエチレン系樹脂を含有するシクロオレフィン系樹脂組成物を用いることにより、液界面が確認可能で、かつ内容液が確認可能な医療用包装袋を提供できる。また、本発明の樹脂組成物にはシクロオレフィン系樹脂混合物が用いられているため、該内面層は水蒸気バリア性薬剤吸着抑制効果を付与することも可能である。
【0059】
内面層の厚さは8〜100μmであると好ましく、10〜80μmであるとより好ましい。
【0060】
内面層の厚さが8μm以上であれば、フィルムの強度を保持することができ、ヒートシール時に層切れなどが起こり難い。厚さが100μm以下であれば、透明性を維持できる傾向にある。
【0061】
また、本発明における多層フィルムは、輸液バッグを代表とする医療用包装袋に用いられることから、柔軟性、耐熱性及びガスバリア性等の付加価値を更に付与するため、前記エチレン−ビニルアルコール樹脂層より外側に、他の樹脂による層やアルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等を配置することが可能である。
【0062】
以上の各層を有する本発明の多層フィルムは、インフレーション法、Tダイ法等の公知の方法で成型することができる。
【0063】
なかでも、押出機からチューブ状に押出した溶融樹脂組成物を垂直方向に引き取りながら空気圧で膨らませて筒状フィルムを成型し、冷却しながらロールではさんで扁平化し、多層フィルムを成型するインフレーション法によって多層フィルムを成型することが好ましい。
【0064】
本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物はインフレーション法で成型すると、微細な凹凸を有するフィルムとなる。特に下向水冷方式のインフレーション装置を使用すると、微細な凹凸を成形する際にロール等に接することがなく、微細な凹凸が成形しやすい傾向にあり好ましい。
【0065】
また、Tダイ法を用いる場合、通常は微細な凹凸を付けるためエンボス加工する必要があるが、本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物を用いた場合、エンボス加工をせずに内面層の表面に微細な凹凸成形することができる。
【0066】
医療用包装袋は、インフレーション法を用いて得られた、前記内面層が最内面である筒状の多層フィルムの周縁部をヒートシールにより接着して製造する。このとき、前記周縁部に口部材をヒートシール等の手段によって取付けると好ましい。ここで、ヒートシールとは、熱による熱圧着のことを示す。
【0067】
本発明の医療用包装袋は、本発明のシクロオレフィン系樹脂組成物を用いたフィルムを最内面層に配置することで、内面に微細な凹凸を有した袋となる。このような微細な凹凸によって、本発明の医療用包装袋は、中身が空の場合はすりガラスのような外観を有する。しかし、この医療用包装袋内部に薬液などの液体を充填させると、液体に内面が触れる部分が透明となり、内容液を確認できるようになる。このとき、液体に触れない部分はすりガラスのような外観のままである。従って、液界面は高いコントラストの差を持ち、はっきりと確認することが可能となる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
<表面層>
(A1):ポリプロピレン系樹脂(融点:161℃、MFR:2.3g/10min、密度:0.9g/cm3、商品名:ゼラスMC715(三菱化学社製))
(A2):ポリプロピレン系樹脂(融点:143℃、MFR:2.5g/10min、密度:0.885g/cm3、商品名:エクセレンEP3721E1(住友化学社製))
【0070】
<接着性樹脂層>
(B1):変性ポリプロピレン系樹脂(融点:155℃、MFR:3.5g/10min、密度:0.89g/cm3、商品名:ゼラスMC721AP(三菱化学社製))
(B2):変性ポリプロピレン系樹脂(融点:168℃、MFR:1.3g/10min、密度:0.89g/cm3、商品名:モディックP502(三菱化学社製))
<エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層>
(C1):エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(融点:191℃、MFR:4.0g/10min、密度:1.20g/cm3、エチレン共重合比率:27mol%、商品名:エバールL171B(クラレ社製))
(C2):エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(融点:187℃、MFR:4.3g/10min、密度:1.19g/cm3、エチレン共重合比率:27mol%、エバールSP521B(クラレ社製))
【0071】
<内面層>
(D1):非晶性シクロオレフィンコポリマー(ガラス転移温度:80℃、MVR:32ml/10min、密度:1.02g/cm3、商品名:TOPAS8007)
(D2):非晶性シクロオレフィンコポリマー(ガラス転移温度:70℃、MFR:15g/10min、密度:1.02g/cm3、商品名:APL8008T)
(D3):非晶性シクロオレフィンコポリマー(ガラス転移温度:140℃、MVR:14ml/10min、密度:1.02g/cm3、商品名:TOPAS6013)
(E1):非晶性シクロオレフィンポリマー(ガラス転移温度:102℃、MFR:20mg/10min、密度:1.01g/cm3、商品名:ゼオノア1020R)
(E2):非晶性シクロオレフィンポリマー(ガラス転移温度:100℃、MFR:60g/10min、密度:1.01g/cm3、商品名:ゼオノア1060R)
(F1):線状低密度ポリエチレン(融点:108℃、MFR:2.5g/10min、密度:0.921g/cm3、商品名:カーネルKF283)
(F2):線状低密度ポリエチレン(融点:121℃、MFR:2.0g/10min、密度:0.912g/cm3、商品名:ハーモレックスNF444A)
【0072】
[実施例1]
表面側の第1層としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(C1)、第2層として変性ポリプロピレン系樹脂(B1)からなる接着性樹脂層、内面側の第3層として非晶性シクロオレフィンコポリマー(D1)を85質量部、非晶性シクロオレフィンポリマー(E1)を15質量部の合計100質量部に対し、線状低密度ポリエチレン(F1)を20質量部混合したシクロオレフィン系樹脂組成物を用い、各層それぞれの押出機で溶融させ、下向方式の水冷インフレーション共押出装置を用いて、チューブ状に押出した溶融樹脂を垂直方向に引き取りながら空気圧で膨らませて筒状フィルムを成型し、水冷しながらロールではさんで扁平化し、各層の厚さが、第1層30μm、第2層50μm、第3層30μmである多層フィルムを成型した。
【0073】
その後、充填口を除く部分を、温度190℃、圧力1.0kgf/cm2、3秒の条件でヒートシールし、更に充填口より蒸留水を100mL充填し、充填口を上記と同条件でヒートシールさせることで蒸留水100mL入りの医療用包装袋を製袋し、以下の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
<内容液の確認性>
得られた医薬用包装袋に充填された蒸留水を目視で観察し、以下の評価を行った。
○:多層フィルムにフィッシュアイ等の異常が無く、透明性が良好で、蒸留水の確認が可能である。
×:多層フィルムにフィッシュアイ等の異常があるか、または透明性が不良で、蒸留水の確認がしづらい。
【0075】
<液界面の確認性>
得られた医薬用包装袋に充填された蒸留水の液界面について以下の評価を行った。
○:医薬用包装袋内面に微細な凹凸が成形されているため、液界面が明瞭に観察できる。
×:医薬用包装袋内面に微細な凹凸が成形されず、液界面が観察しづらい。
―:フィッシュアイ等が生じており、容器として不適。
【0076】
<水蒸気バリア性>
蒸留水が充填された医薬用包装袋について、医療用包装袋をアルミニウム蒸着層付防湿袋に入れて室内に7日間放置した。その後、目視で観察して以下の評価を行った。
○:医薬用包装袋のエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は異常なし。
×:医薬用包装袋のエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は、吸湿による白化がおきている。
【0077】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
表面側の第1層としてエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、第2層として接着性樹脂層及び内面側の第3層に用いた樹脂の配合割合を表1に示すものとした他は、実施例1と同様にして、各層の厚さが、第1層30μm、第2層50μm、第3層30μmである多層フィルムを成型した。
更に、得られた多層フィルムを用いて、実施例1と同様にして、容積100mLの医療用包装袋を製袋し、実施例1と同様の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1で示されるように、実施例1〜4で得られた医療用包装袋は、透明性も良好で、内面に微細な凹凸が成形され、内容液の確認性と液界面の確認性に優れたものであった。また、内面のシクロオレフィン系樹脂組成物の水蒸気バリア層により、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は吸湿による白化もなく、ガスバリア性も維持されていた。更に、実施例4は、ヒートシール温度を110〜190℃に変更すると、温度に応じた接着強度を付与できるので、イージーピール機能を有する袋を製造することが出来るので、多室袋に有用である。
【0080】
対して、比較例1で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの内面層において、非晶性シクロオレフィンコポリマー(樹脂(D1))の含有量が多いため(非晶性シクロオレフィンポリマー(樹脂(E1))の含有量が少なく)、微細な凹凸が成形されず、液界面の確認性に劣っていた。
【0081】
比較例2で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの内面層において、非晶性シクロオレフィンコポリマー(樹脂(D1))の含有量が少ないため(非晶性シクロオレフィンポリマー(樹脂(E1))の含有量が多く)、医療用包装袋内面にムラが生じ、内容液の確認性に劣っていた。
【0082】
比較例3で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの内面層において、低密度ポリエチレンが含有されていないため、フィッシュアイが多発し、内容液を確認することができなかった。
【0083】
比較例4で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの内面層において、低密度ポリエチレン(樹脂(F1))の含有量が多いため、微細な凹凸が成形されず、内部透過率と外部透過率に差がないものとなり、液界面の確認性に劣り、かつ、水蒸気バリア性が劣るので、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は吸湿による白化がおきていた。
【0084】
[実施例5]
外面側より、第1層として樹脂(A1)を、第2層の接着性樹脂として樹脂(B1)を、第3層として、樹脂(C1)を、第4層の接着性樹脂として樹脂(B1)を、内面側の第5層として樹脂(D1)を85質量部、樹脂(E1)を15質量部及び樹脂(F1)を20質量部混合したシクロオレフィン系樹脂組成物を用い、各層それぞれの押出機で溶融させ、下向方式の水冷インフレーション共押出装置を用いて、チューブ状に押出した溶融樹脂を垂直方向に引き取りながら空気圧で膨らませて筒状フィルムを成型し、水冷しながらロールではさんで扁平化し、各層の厚さが、第1層30μm、第2層50μm、第3層30μm、第4層30μm、第5層30μmである多層フィルムを成型した。
その後、充填口を除く部分を、温度190℃、圧力1.0kgf/cm2、4秒の条件でヒートシールし、更に充填口より蒸留水を100mL充填し、充填口を上記と同条件でヒートシールさせることで容積100mLの医療用包装袋を製袋し、実施例1と同様の各評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
<蒸気滅菌後の水蒸気バリア性>
蒸留水が充填された医薬用包装袋について、121℃/20minの高圧蒸気滅菌した後、医療用包装袋をアルミニウム蒸着層付防湿袋に入れて室内に7日間放置した。その後、目視で観察して以下の評価を行った。
○:医薬用包装袋のエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は異常なし。
×:医薬用包装袋のエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は、吸湿による白化がおきている。
【0086】
[実施例6〜8、比較例5〜8]
第1層乃至第5層に用いた樹脂の配合割合を表2に示すものとした他は、実施例5と同様にして、多層フィルムを成型した。
更に、得られた多層フィルムを用いて、実施例4と同様にして、容積100mLの医療用包装袋を製袋し、実施例6と同様の各評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2で示されるように、実施例5〜8で得られた医療用包装袋は、透明性も良好で、第5層の内面に微細な凹凸が成形され、内容液の確認性と液界面の確認性に優れたものであった。また、第5層のシクロオレフィン系樹脂組成物の水蒸気バリア層により、第3層のエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は吸湿による白化もなく、ガスバリア性も維持されていた。更に、実施例4は、ヒートシール温度を110〜190℃に変更すると、温度に応じた接着強度を付与できるので、イージーピール機能を有する袋を製造することが出来るので、多室袋に有用である。
【0089】
対して、比較例5で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの第5層において、非晶性シクロオレフィンコポリマー(樹脂(D1))の含有量が多いため(非晶性シクロオレフィンポリマー(樹脂(E1))の含有量が少なく)、微細な凹凸が成形されず、液界面の確認性に劣っていた。
【0090】
比較例6で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの第5層において、非晶性シクロオレフィンコポリマー(樹脂(D1))の含有量が少ないため(非晶性シクロオレフィンポリマー(樹脂(E1))の含有量が多く)、医療用包装袋内面にムラが生じ、内容液の確認性に劣っていた。
【0091】
比較例7で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの第5層において、低密度ポリエチレンが含有されていないため、フィッシュアイが多発し、内容液を確認することができなかった。
【0092】
比較例8で得られた医療用包装袋においては、多層フィルムの第5層において、低密度ポリエチレン(樹脂(F1))の含有量が多いため、微細な凹凸が成形されず、液界面の確認性に劣り、かつ、水蒸気バリア性が劣るので、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層は吸湿による白化がおきていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の片方の表面に接着性樹脂層を介して、非晶性シクロオレフィンコポリマー65〜92質量%と、非晶性シクロオレフィンポリマー8〜35質量%とからなるシクロオレフィン系樹脂混合物100質量部と、低密度ポリエチレン系樹脂7〜30質量部とを含有するシクロオレフィン系樹脂組成物層を設けたことを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の他方の表面に接着性樹脂層を介して、表面樹脂層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記非晶性シクロオレフィンコポリマー及び前記非晶性シクロオレフィンポリマーのガラス転移温度は、150℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
非晶性シクロオレフィンコポリマー全質量中、ガラス転移温度が65〜85℃である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%以上、ガラス転移温度が100〜150℃である非晶性シクロオレフィンコポリマーを50質量%未満含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項5】
非晶性シクロオレフィンコポリマー65〜92質量%と非晶性シクロオレフィンポリマー8〜35質量%とからなるシクロオレフィン系樹脂混合物100質量部と、低密度ポリエチレン系樹脂7〜30質量部とを含有するシクロオレフィン系樹脂組成物、接着性樹脂、及びエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂からなる三種の樹脂組成物を、それぞれ混練溶融し、
多層インフレーション法を用いて、内側からシクロオレフィン系樹脂組成物層、接着性樹脂層、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層を配置してなる筒状の多層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記多層インフレーション成形において、前記エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂層の外面側に、さらに接着性樹脂層及び表面樹脂層を配置してなる請求項5に記載の筒状の多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−274595(P2010−274595A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131084(P2009−131084)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】