説明

多層ポリエステルフィルム。

【課題】 曲面、凹凸面等に成形加工、積層、転写する用途に有用なフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルAからなる両表層、ポリエステルBからなる中間層のフィルムであり、Aの融点はBの融点より20℃以上高く、フィルム面内の100%伸び時応力の最大値が20MPa以下、最大と最小の差が3MPa以下、Aはジカルボン酸単位がTPA単位90モル%以上およびIPA単位10モル%以下、グリコール単位がEG単位、Bはジカルボン酸単位がTPA酸単位85〜95モル%およびIPA単位5〜15モル%、グリコール単位がEG単位75〜95モル%および1,4−CHDM単位5〜25モル%、一方の表面に表面固有抵抗10〜1012Ωの塗布層(4級アミノ基を有する化合物とポリカーボネートポリオールとを含むポリウレタン樹脂Cとカチオン性高分子帯電防止剤Dとを含有する)を有することを特徴とする多層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、本発明は、成形性、加工性、耐溶剤性、寸法安定性、透明性、特に帯電防止性に優れた多層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品、家具、屋内外装飾品、電化製品等に用いられるラミネート成形品分野にはフィルムが用いられている(フィルムと樹脂、金属、木材、もしくは紙とのラミネート成形品など)。これらの材料は、平面形態のみならず、曲面、凹凸面等の非平坦表面形態の製品が多いため、成形性、加工性に優れたアクリル樹脂製のフィルムが主として使用されている。しかし、アクリル樹脂は耐有機溶剤性に劣るため、製品表面に溶剤成分が付着した場合に周囲が白濁するという問題がある。また、アクリル樹脂は、薄膜フィルム化することが困難であり、ラミネート製品のコストが上がるという問題がある。
【0003】
ここで、1,4−シクロヘキサンジメタノール誘導体共重合ポリエステルが、アクリルの代替樹脂として提案されている。しかし、かかる樹脂よりなるフィルムは、成形性には改善効果があるものの、やはり有機溶剤への耐久性に劣る。さらに通常のポリエステルフィルムは、加工工程でフィルムが帯電しやすく、印刷のはじきが発生してムラとなったり、工程内でスパークが発生したりするなど安全面で大きな問題に至ることが懸念される。さらにラミネート加工後の製品としても、ブロッキングや汚れ防止の観点から、帯電しにくい材料が望まれている。
【0004】
これらの課題を解決すべく、既に配向構造を有するポリエステル層と、その層よりも配向構造を低下させたポリエステル層とからなる多層ポリエステルフィルムが提案されている(特許文献1および2)。しかし、かかる多層フィルムは、帯電防止性に改良の余地があることが分かってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162221号公報
【特許文献2】特開2009−208303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、曲面、凹凸面等の非平坦面に成形加工、積層、転写する用途に対して有用な、成形性、加工性、耐溶剤性、寸法安定性、特に帯電防止性に優れたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルAからなる層を両側の最表層とし、ポリエステルBからなる層を中間層とする多層ポリエステルフィルムであり、ポリエステルAの融点は、ポリエステルBの融点より20℃以上高く、多層ポリエステルフィルムの面内における、100℃雰囲気100%伸び時応力の最大値が20MPa以下で、最大値と最小値の差が3MPa以下であり、ポリエステルAは、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位90モル%以上およびイソフタル酸単位10モル%以下からなり、主たるグリコール単位がエチレングリコール単位からなるポリエステルであり、ポリエステルBは、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位85〜95モル%およびイソフタル酸単位5〜15モル%からなり、グリコール単位がエチレングリコール単位75〜95モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル単位5〜25モル%からなり、少なくとも一方のフィルム表面に表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωである塗布層を有し、当該塗布層が、分子中に3級アミノ基を有する鎖延長剤の3級アミノ基を4級化した化合物とポリカーボネートポリオールとを構成成分として含むポリウレタン樹脂(C)とカチオン性高分子帯電防止剤(D)とを含有することを特徴とする多層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工性、成形性、耐溶剤性、寸法安定性に優れ、かつ印刷層の密着性および印刷後の防汚性等に優れる帯電防止性多層ポリエステルフィルムを提供することができる。かかるフィルムは、自動車部品、家具、電化製品等に用いるフィルム製品の用途分野、具体的にはフィルムと樹脂、木材、金属などとのラミネートフィルムを作成し、折曲げ加工、曲面加工、凹凸付与加工、ブロー成形等により立体的に成形する用途において有用であり、その工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多層ポリエステルフィルムは、A層/B層/A層からなる3層構成を基本とする。また、A/B/A/B/Aの5層構成、さらに2n+1層からなるマルチ多層構成とすることも可能である。A層が2層以上の場合、1以上の層を異なるポリエステルで構成してもよい。B層が2層以上の場合も同様である。そして、配向構造を有するA層が両側の最表層となることが必要である。融点が低い(共重合成分比が多い)ポリエステルからなるB層が最表層になると、フィルム表面に文字、画像等をインキで印刷する際、溶剤等でフィルムが一部溶解して裏移りしやすく、有機溶剤への耐久性が劣る。また、フィルム製造の際、工程内の各種ロールにフィルムが粘着しやすくなる。
【0011】
本発明においてA層を構成するポリエステルAは、延伸により配向構造を形成し得るポリエステルである。ポリエステルAは、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位90モル%以上およびイソフタル酸単位10モル%以下からなり、主たるグリコール単位がエチレングリコール単位からなるポリエステルである。さらに必要に応じて、例えばオルトフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のカルボン酸単位を含有していてもよい。また、例えばプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の他のグリコール単位を小割合で含有していてもよい。
【0012】
B層を構成するポリエステルBは、前記のポリエステルAと同じように、延伸により配向構造を形成し得るポリエステルである。ポリエステルBは、ポリエステルAの融点より少なくとも20℃低い融点を有し、かつジカルボン酸単位がテレフタル酸単位85〜95モル%およびイソフタル酸単位5〜15モル%からなり、かつグリコール単位がエチレングリコール単位75〜95モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル単位5〜25モル%からなる。なお、ポリエステルAと同様に、これ以外の単位を小割合で含有していてもよい。
【0013】
ポリエステルAの融点は、ポリエステルBの融点より20℃以上高いことが必要であり、30℃以上高いことがより好ましい。ポリエステルAとポリエステルBの融点差が20℃未満の場合、製膜工程のテンターで熱処理を行う際に熱処理温度の最適化が困難となる。即ち、フィルムを易成形化するために熱処理温度をポリエステルBの融点近くに設定することが好ましいが、同時に、熱処理温度がポリエステルAの融点に近くなると、ポリエステルAの一部が溶融を始めるため、フィルム製造時に破断頻発、フィルムが工程内のロールに融着するなどのトラブルが発生しやすくなる。より具体的には、ポリエステルAの融点は210〜265℃の範囲であることが好ましく、ポリエステルBの融点は180〜235℃の範囲が好ましい。ここで融点とは、ポリエステルを一度溶融し、急冷、固化したサンプルを、DSC(示差熱量計)で10℃/分の速度で昇温したときの溶融吸熱ピーク温度をいう。
【0014】
本発明の多層ポリエステルフィルムは、配向構造を有するA層と、A層より配向構造を低下させたB層とからなる積層構造を有する。A層の配向構造は二軸延伸により生成される方法が好ましく用いられる。またB層は、二軸延伸により生成された配向構造を、熱処理により部分的に融解させ、低配向構造とさせる方法が好ましく用いられる。具体的には、ポリエステルAの融点より低く、かつポリエステルBの融点付近で熱処理を行う方法にて、生産性よく行うことができる。好ましい熱処理温度はポリエステルBの融点±10℃の範囲内であり、より好ましくはポリエステルBの融点±5℃の範囲内である。
【0015】
A層の合計厚さ(a)とB層の合計厚さ(b)の比(a/b)は0.01〜1であることが好ましい。より好ましいa/bの比は0.03〜0.5、さらに好ましくは0.05〜0.2の範囲内である。厚さ比(a/b)が0.01に満たない場合、A層が薄くなることからフィルム製造時に厚さ制御が困難になり、B層の一部が表層に露出する問題が生じやすい。また多層フィルムの寸法安定性も不足する傾向がある。一方、厚さ比が1を超える場合、B層の比率が低下することから、多層フィルムの柔軟性、加工性が不足する傾向がある。
【0016】
本発明の多層ポリエステルフィルムの総厚さは特に限定されるわけではないが、フィルムの加工適性として、適度の腰強度を有することが好ましく、通常12〜300μmの範囲であり、好ましくは25〜200μm、さらに好ましくは38〜150μmの範囲内である。
【0017】
本発明の多層ポリエステルフィルムの100℃雰囲気での100%伸び時応力の面内での最大値は20MPa以下であることが必要であり、好ましくは15MPa以下、さらに好ましくは10MPa以下である。また同100%伸び時応力の面内での最大値と最小値の差は3MPa以下であり、好ましくは1MPa以下である。同100%伸び時の応力が20MPaを超えるとフィルムの柔軟性が不足し成形不良となる。また同最大値と最小値の差が3MPaを超えると、フィルム面内の成形性のバランス(等方性)が悪くなり、金型に沿った均一な成形が困難になる傾向がある。このような面内における応力値の最大値と最小値の差が小さいフィルムを得るためには、縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率との比を1に近い値に設定し、併せて熱処理後に幅方向の弛緩処理を実施する方法が好ましく用いられる。横延伸倍率/縦延伸倍率の比は1.0〜1.1の範囲内とすることがより好ましい。
【0018】
本発明の多層ポリエステルフィルムには、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有させることができる。必要に応じて例えば、従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、蛍光増白剤、染料、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の成分を含有させることができる。
【0019】
発明の多層ポリエステルフィルムは、帯電による印刷工程でのはじき、ムラを防止すること、スパーク発生による引火の危険を防止すること、また製品同士のブロッキング防止や汚れ防止等の効果を得るため、表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωの範囲であることが必要である。表面固有抵抗値が1×1012Ωを超える場合、帯電防止の効果が不足する傾向がある。好ましい表面固有抵抗値は1×1011Ω以下であり、さらに好ましくは1×1010Ω以下である。一方表面固有抵抗値が1×10Ω未満の場合、効果が飽和している上、帯電防止剤を多量に添加することが必要となり、塗布層の耐久性が不足する傾向がある。好ましい表面固有抵抗値(下限)は1×10Ω以上であり、さらに好ましくは1×10Ω以上である。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも片面に、下記成分c1)、c2)を構成単位として含むポリウレタン樹脂(C)とカチオン性高分子帯電防止剤(D)とを含有する塗布層を有することが必要である。
【0021】
c1)ポリカーボネートポリオール
c2)分子中に3級アミノ基を有する鎖延長剤の3級アミノ基を4級化した化合物
本発明のポリウレタン樹脂(C)は、ポリオールとしてポリカーボネート単位を含むことが必要である。ポリカーボネートポリオールを含むポリウレタン樹脂を用いることで、柄印刷層との接着性が良好となる。
【0022】
本発明のポリウレタン樹脂(C)で使用するc1)は、例えばジエチルカーボネートなどの低級ジアルキレンカーボネートや、あるいはジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルと、ジオールとのエステル交換反応を用いるか、ジオールに直接ホスゲンを反応させることで得られるものが挙げられる。本発明では、ジオールとして、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン等を用いたポリカーボネートポリオールを使用することができる。また、上記のポリカーボネートジオールは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量で、300〜4000であることが好ましい。さらに、これらのポリカーボネートポリオールの添加量は、ポリウレタン樹脂(C)に対して40〜80重量%の範囲で選ぶことができる。
【0023】
本発明のポリウレタン樹脂(C)で使用するポリイソシアネートには、公知の脂肪族、脂環族、芳香族等のポリイソシアネートを挙げることができる。
【0024】
脂肪族ポリイソシアネートの具体例として、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0025】
脂環族ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−シクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0026】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、トリレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。またこれらのポリイソシアネートは単独で使用してもよいが、2種以上混合して使用することもできる。
【0027】
本発明で用いるポリウレタン樹脂(C)は、接着性の向上のため、上記のc1(ポリカーボネートポリオール)と共に、ポリオール成分としてポリオキシアルキレングリコールを共存させることができる。ポリウレタン(C)に含有させるポリオキシアルキレングリコールの具体例としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブタンジオール、ポリオキシエチレングリコール−ポリオキシプロピレングリコールブロック共重合体等を挙げることができる。
【0028】
またこれらのポリオキシアルキレングリコールの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリオキシエチレングリコール換算の数平均分子量で、200〜3000であることが好ましい。さらに、これらのポリオキシアルキレングリコールの添加量は、ポリウレタン樹脂(C)に対して3〜10重量%の範囲で選ぶことができる。
【0029】
本発明においては、ポリウレタン樹脂(C)は、c2(分子中に3級アミノ基を有する鎖延長剤の3級アミノ基を4級化した化合物)を構成単位として含むことが必要である。これによりポリウレタン樹脂(C)は自己乳化性となり、特に乳化剤を添加しなくとも、水を主体とする媒体中で安定した分散体となすことが可能となる。また、ポリウレタン樹脂(C)は、後述するカチオン性高分子帯電防止剤(D)と同じカチオン性高分子であるので、両者を混合しても、分子間のイオン凝集が発生しない。
【0030】
本発明のポリウレタン樹脂(C)で使用する鎖延長剤としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等のN−アルキルジアルカノールアミン、N−メチルジアミノエチルアミン、N−エチルジアミノエチルアミン等のN−アルキルジアミノアルキルアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。これらの3級アミノ基を有する鎖延長剤は単独または2種以上併用して用いることができる。また、これらの鎖延長剤の添加量は、ポリウレタン樹脂(C)に対して5〜15重量%の範囲から選ぶことができる。
【0031】
本発明においては、上記ポリウレタン樹脂に導入された上記3級アミノ基を有する鎖延長剤を、酸で中和するか、あるいは4級化剤で4級化した化合物を含むカチオン性ポリウレタン樹脂とする必要がある。3級アミノ基を酸で中和する場合には、酸として、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸等の有機酸、および塩酸、燐酸、硝酸等の無機酸を挙げることができる。これらの酸は単独または2種以上併用して用いることができる。また、3級アミノ基を4級化剤で4級化する場合には、4級化剤として、ベンジルクロライド、メチルクロライド等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の硫酸エステル等を挙げることができる。これらの4級化剤は単独または2種以上併用して用いることができる。
【0032】
本発明で用いるポリウレタン樹脂(C)は、ポリイソシアネートとポリカーボネートポリオールと分子中に3級アミノ基を有する鎖延長剤を添加して反応させた後、4級化させることで得られるが、初めから4級化された化合物を鎖延長剤として反応させることもできる。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムは、その少なくとも片面に有する塗布層にカチオン性高分子帯電防止剤(D)を含むことが必要である。ポリウレタン樹脂(C)とカチオン性高分子帯電防止剤(D)とは、同じカチオン性高分子であるので、両者を混合した塗布剤には、分子間のイオン凝集が発生しない。また帯電防止剤としてカチオン性高分子を用いるので、アニオン性やノニオン性の帯電防止剤よりも良好な帯電防止性能や、フィルム延伸後の塗膜の透明性を得やすい点で好ましい。また低分子帯電防止剤でしばしば問題となる転着現象も生じることはない。
【0034】
本発明で用いるカチオン性高分子帯電防止剤(D)は、4級化された窒素を含むユニットを繰り返し単位として含有するポリマーが好適であるが、特に下記式(I)または(II)式で示される主鎖にピロリジニウム環を有するユニットを主たる繰り返し単位として含有するカチオンポリマーであることが、優れた帯電防止性能が得られる点で好ましい。
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

【0037】
上記(I)式あるいは(II)式の構造において、R、Rは、炭素数が1〜4のアルキル基もしくは水素であることが好ましく、これらは同一基でもよいし異なっていてもよい。またR、Rのアルキル基は、ヒドロキシル基、アミド基、アミノ基、エーテル基で置換されていてもよい。さらに、RとRとが化学的に結合していて、環構造を有するものであってもよい。また、(I)式あるいは(II)式のXは、ハロゲンイオン、硝酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、モノメチル硫酸イオン、モノエチル硫酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオンの何れかである。上述の、主鎖にピロリジニウム環を有するユニットを主たる繰り返し単位として含有するカチオンポリマーの中でも、特に(I)式の構造で、Xが塩素イオンである場合には、帯電防止性能が優れると同時に、帯電防止性能の湿度依存性が小さく、低湿度下でも帯電防止性能の低下が少なくなる点で好ましい。また、帯電性易接着にハロゲンイオンを使用できない場合においては、塩素イオンの代わりにメタンスルホン酸あるいはモノメチル硫酸イオンを使用することで、塩素イオンの場合に近い帯電防止性能を得ることができる。(I)式のユニットを繰り返し単位とするポリマーは、次の(III)式で示されるジアリルアンモニウム塩を単量体として、水を主とする媒体中で、ラジカル重合で閉環させな
がら重合することで得られる。また、(II)式のユニットを繰り返し単位とするポリマーは、(III)式の単量体を、二酸化硫黄を媒体とする系で環化重合させることにより得られる。
【0038】
【化3】

【0039】
また、(I)式または(II)式に示すユニットを繰り返し単位とするポリマーは、単一のユニットから構成されるホモポリマーである場合が、より良好な帯電防止性能を得ることができるが、後述するように、カチオンポリマーを含む塗布液をポリエステルフィルムに塗布した後に、さらにポリエステルフィルムを延伸する場合に、塗布層の透明性を改善するために、(I)式または(II)式で示されるユニットの0.1〜50モル%が、共重合可能な他の成分で置き換えられてもよい。
【0040】
共重合成分として用いる単量体成分としては、(III)式のジアリルアンモニウム塩と共重合可能な炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を1種あるいは2種以上を選ぶことが
できる。
【0041】
これらは具体的には、アクリル酸およびその塩、メタクリル酸およびその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、マレイン酸およびその塩あるいは無水マレイン酸、フマル酸およびその塩あるいは無水フマル酸、モノアリルアミンおよびその4級化物、アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジアルキルアミンおよびその4級化物、(メタ)アクリロイルオキシプロピルジアルキルアミンおよびその4級化物、(メタ)アクリロイルアミノエチルジアルキルアミンおよびその4級化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジアルキルアミンおよびその4級化物などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の塗布層中のカチオン性高分子帯電防止剤(D)は、上記(I)または(II)式で示される主鎖にピロリジニウム環を繰り返し単位として含有するカチオンポリマーの代わりに、例えば(IV)式または(V)式で示されるユニットを繰り返し単位とするカチオンポリマーであってもよい。
【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
(IV)式あるいは(V)式の構造において、R、Rはそれぞれ水素またはメチル基であり、R、Rは、それぞれが炭素数2〜6のアルキル基であることが好ましく、またR、R、R、R10、R11、R12はメチル基あるいはヒドロキシエチル基もしくは水素であり、これらは同一基でもよいし異なっていてもよい。さらに(IV)式あるいは(V)式のXは、ハロゲンイオン、硝酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、モノメチル硫酸イオン、モノエチル硫酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオンの何れかである。
【0046】
(IV)式あるいは(V)式で示されるユニットを繰り返し単位とするカチオンポリマーは、例えば、それぞれのユニットが対応するアクリル酸モノマーまたはメタクリル酸モノマーを、水を主とする媒体中でラジカル重合することで得ることができるが、これに限定されるわけではない。
【0047】
本発明で用いるカチオンポリマーの平均分子量(数平均分子量)は、通常1000〜500000、さらには5000〜100000の範囲であることが好ましい。平均分子量が1000未満であると、フィルムを巻き取った時に重なり合う面にカチオンポリマーが転着したり、ブロッキングしたりするなどの原因となり、逆に平均分子量が500000を超えると、これを含む塗布液の粘度が高くなり、フィルム面に均一に塗布することが困難となることがある。
【0048】
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層は、前述のポリウレタン樹脂(C)と、カチオン性高分子帯電防止剤(D)とを含有することが必要であるが、その重量比(C)/(D)は、40/60〜90/10の範囲が好ましく、さらに好ましくは50/50〜80/20の範囲である。重量比(C)/(D)が40/60よりも小さい場合には、塗布層の帯電防止効果は十分であるが、レンズ層などの接着性が不十分となる傾向にある。一方で90/10よりも大きい場合には、塗布層の接着性は十分であるが、帯電防止効果が不十分となる傾向にある。
【0049】
また、塗布層中のポリウレタン樹脂(C)とカチオン性高分子帯電防止剤(D)との重量合計は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上であり、最大で100%であってもよい。
【0050】
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層は、前述のポリウレタン樹脂(C)およびカチオン性高分子帯電防止剤(D)の他に、塗膜の耐熱性や耐湿性、耐ブロッキング性の向上などを目的として、架橋剤を添加することができる。この架橋剤には、メチロール化あるいはアルコキシメチロール化したメラミン系化合物やベンゾグアナミン系化合物、もしくは尿素系化合物、もしくはアクリルアミド系化合物の他、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、シランカップリング剤系化合物、チタンカップリング剤系化合物などから選ばれた少なくとも1種類を含有させることが好ましい。これらの架橋剤の添加量は、塗布層全体に対して通常1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%の割合とすることができる。
【0051】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、塗布層表面の滑り性の付与や耐ブロッキング性の向上を目的として、無機や有機の微粒子を添加することができる。この微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、シリカ−アルミナ複合体、シリカ−酸化チタン複合体、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂などの微粒子、あるいは酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物微粒子、アンチモン−スズ複合酸化物微粒子などの導電性微粒子から選ばれた少なくとも1種以上を含有させることが好ましい。添加する微粒子は、平均粒子径が5〜200nmであることが好ましく、その添加量も塗布層全体に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0052】
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層には、界面活性剤を添加することができる。この界面活性剤には、塗布液のヌレ性の改善を目的に、アルキレンオキサイド付加重合物で置換されたアセチレグリコール誘導体などのノニオン系界面活性剤を好ましく用いることができる。また、フィルムと共に塗布層が延伸される工程での塗布層の透明性の維持を目的として、グリセリンのポリアルキレンオキサイド付加物、あるいはポリグリセリンのポリアルキレンオキサイド付加物などを用いることができる。
【0053】
その他塗布層には、必要に応じて上記で述べた成分以外に、例えば、消泡剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等を添加することもできる。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0054】
また本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層には、ポリウレタン樹脂(C)を含むことが必要だが、これ以外のバインダー樹脂として、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、(C)以外のポリウレタン樹脂等を、本発明の効果を損なわない範囲で共存させることもできる。
【0055】
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層は、その塗工量としては、乾燥・固化された後の、あるいは二軸延伸・熱固定等を施された後の最終的な乾燥皮膜として、0.005〜1.0g/m、さらには0.01〜0.5g/mの範囲とするのが好ましい。この塗工量が0.005g/m未満では、帯電防止性能や接着性が不十分となることがあり、1.0g/mを超える場合には、もはや帯電防止性能や接着性は飽和しており、逆にブロッキングの発生等の弊害が発生しやすくなる傾向がある。
【0056】
本発明における二軸延伸ポリエステルフィルムの塗布層は、通常、主として水を媒体とした塗布液としてポリエステルフィルム上に塗工される。塗工されるポリエステルフィルムは、予め二軸延伸されたものでもよいが、塗工した後に少なくとも一方向に延伸され、さらに熱固定をする、いわゆるインラインコーティング法を用いることが好ましい。インラインコーティング法によれば、通常200℃以上の高温でポリエステルフィルムと塗布層が同時に熱固定されるため、塗布層の熱架橋反応が十分に進行すると共に、ポリエステルフィルムとの密着性がさらに向上する。
【0057】
また塗布液は、その保存安定性の向上、あるいは塗布性や塗布膜特性の改善を目的に、水以外に、通常10重量%以下の量で水との相溶性のある有機溶剤の1種または2種以上を加えることが可能である。この有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、エチルセルソルブ、t−ブチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラハイドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエタノールアミン、トリメタノールアミン等のアミン類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類等を例示することができる。
【0058】
ポリエステルフィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような塗布技術を用いることができる。具体的には、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、カレンダコーター、押出コーター、バーコーター等のような技術が挙げられる。
【0059】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0060】
ここで二軸延伸を用いた場合の一例を詳細に説明するが、本発明の要旨を超えない限り、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0061】
まず、ポリエステルフィルムを構成する原料を押出機へ供給し、溶融混練後、押出す。多層フィルムを構成するためには、異なる押出機から供給された原料⇒溶融ポリマーをTダイ内でスリット状に積層してから押出す方法が好ましい。次に、ダイから押し出された溶融シートを、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面均一性、冷却効果を向上させるためには、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法が好ましく採用される。次いで、得られたシートを二軸方向に延伸してフィルム化する。まず、通常65〜130℃、好ましくは70〜110℃の延伸温度、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜5.0倍の延伸倍率の条件下、前記未延伸シートを一方向(縦方向)に延伸する。かかる延伸にはロールおよびテンター方式の延伸機を使用することができる。ここで縦延伸後のフィルムに、上述した組成からなる塗布層を設けることが好ましい。次いで、通常80〜150℃、好ましくは90〜130℃の延伸温度で、通常2.0〜6.0倍、好ましくは2.5〜5.0倍の延伸倍率の条件下、一段目と直交する方向(横方向)に延伸を行い、二軸配向フィルムを得る。かかる延伸には、テンター方式の延伸機を使用することができる。
【0062】
上記の一方向の延伸を2段階以上で行う方法も採用することができるが、その場合も最終的な延伸倍率が上記した範囲に入ることが好ましい。
次いでテンター内で熱処理を実施する。この工程では、ポリエステルBについて、二軸延伸で生成した配向構造を低下せしめることが主な目的の一つである。そのため熱処理温度はポリエステルBの融点に近い温度とすることが好ましい。具体的には、通常170〜245℃、好ましくは175〜240℃で、1秒〜5分間行う。この熱処理工程では、熱処理の最高温度のゾーン〜熱処理出口直前の冷却ゾーンの間において、横方向6〜30%の弛緩を行うことが、フィルム面内の100%伸び時応力値の最大値と最小値の差を所定値以下とするために有効である。好ましい弛緩率は11〜20%の範囲内である。
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではないが、通常、塗布後の後工程において、70〜235℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明における各種の物性およびその測定方法、定義は下記のとおりである。
【0064】
(1)添加粒子の平均粒子径(μm)
(株)島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置SA−CP3型を用いて、ストークスの抵抗則に基づく沈降法によって粒子の大きさを測定した。測定により得られた粒子の等価球形分布における積算(体積基準)50%の値を用いて平均粒径とした。
【0065】
(2)塗布層に用いる微粒子の平均粒子径(nm)
微粒子の分散液を、マイクロトラックUPA(日機装社製)にて、個数平均の50%平均径を測定し、これを平均粒子径とした。
【0066】
(3)固有粘度IV(dl/g)
ポリエステル1gに対し、フェノール/テトラクロロエタン:50/50(重量比)の混合溶媒を100mlの比で加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0067】
(4)融点
示差走査熱量計(NETZSCH社製の商品名「DSC 204 F1 Phoenix」)を用い、10℃/分の昇温速度でサンプル(5〜10mg)を昇温させ、融解に伴う吸熱ピークの頂上部に相当する温度を融点とした。なお、B層融点は、多層フィルムの表層(A層)を除去したフィルムから得られた融解ピーク温度とし、A層融点は、B層融点と異なる融解ピーク温度とした。
【0068】
(5)100%伸び時応力(MPa)
引張試験機(島津製作所製の商品名「オートグラフ AG−I(1kN)」)を用い、得られたフィルムの縦方向、15°方向、30°方向、45°方向、60°方向、75°方向、横方向、105°方向、120°方向、135°方向、150°方向、165°方向について、それぞれ長手方向150mm×幅方向15mmのサンプルを採取し、100℃の雰囲気下で間隔50mmにセットしたチャックに挟んで固定した後、200mm/分の速度で引張り、装着されたロードセルで荷重を測定した。そして100%伸び時の荷重を読み取り、引張り前のサンプル断面積で割って応力(MPa)を計算した。
【0069】
(6)表面固有抵抗(Ω)
横河ヒューレット・パッカード社の同心円型電極「16008A(商品名)」(内側電極50mm、外側電極70mm径)に23℃、50%RHの雰囲気下、試料フィルムを設置し、100Vの電圧を印加し、同社の高抵抗計「4329A(商品名)」でフィルム表面(A層側)の表面抵抗を測定した。
【0070】
(7)絵柄印刷層の加工適性
(7−1)印刷層の接着性
藍色のセロカラー用印刷インキ(東洋インキ製造社製「CCST39」)を使用し、印刷後の塗布厚さが1.5μmとなる様にフィルム表面に塗布し、80℃で1分間熱風乾燥し評価用フィルムとする。印刷インキの表面に碁盤目のクロスカット(4mmの升目を100個)を施し、その上にインキ表面塗布面にニチバン製セロテープ(登録商標)(24mm幅)を気泡が入らないように7cmの長さ貼り、貼った上を3kgの手動式荷重ロールを往復させて密着させる。次いで、評価用フィルムを垂直方向に配置された基板上に固定し、セロハンテープの上側一端に45cmの糸で500gの錘を結びつける。そしてセロハンテープの上側一端と同じ高さから錘を落下させる。錘が45cmの距離自然落下した後、180°方向への剥離試験が開始される。
評価5:セロハンテープ面にインキが全く剥離しない。
評価4:10%未満のインキがセロハンテープ側に剥離する。
評価3:10〜50%のインキがセロハンテープ側に剥離する。
評価2:50%を超えるインキがセロハンテープ側に剥離する。
評価1:全てのインキがセロハンテープ側に剥離する。
上記評価で5および4を合格と判定した。
【0071】
(7−2)印刷表面の防汚性
7−1で作成した印刷済みの評価用フィルムを、一般の室内机上に並べておき、1カ月後の塵埃(異物)等による汚れ付着状況を比較した。汚れの付着がないものを○、(帯電防止)塗布層を設けなかった比較例1と比べて汚れの付着が低減していたものを△、比較例1と同等もしくは以下のものを×として評価した。
【0072】
(8)成形性
加熱用IRヒーターでフィルムを130℃に予熱し、所定形状(長さ40mm、幅20mm、深さ10mm)の金型に沿うように真空成形を行った。成形後のフィルムを観察し以下の基準で評価した。
○:成形後の形状に歪みがなく金型に沿った形状で、フィルムにしわも見られない。
△:成形後の形状にやや歪みが見られる、もしくはフィルムに微弱なしわが発生する。
×:成形後の形状が金型に追従しておらず、フィルムにしわ或いは破断が発生する。
【0073】
比較例1:
下記表1に示すブレンド比からなるポリエステルA層原料(IV=0.65dl/g)と、同じく表1に示すブレンド比からなるポリエステルB層原料(IV=0.69dl/g)とを、2台の押出機に各々供給し、各々280℃で溶融した後、A層を最外層(表層)、B層を中間層として、キャスティングドラム上に2種3層(ABA)の層構成で共押出し、静電印加法を適用して急冷固化させて無延伸シートを得た。得られたシートを縦方向に80℃で3.3倍延伸した後、さらに横方向に110℃で3.5倍延伸し、段階的に昇温後、191℃で3秒間熱処理すると同時に、幅方向に12%の熱処理弛緩(テンターレール幅を狭める)を行った。最終的にフィルム厚さ75μm(厚さ比=3.5/68.0/3.5μm)のフィルムを得た。当該フィルムは帯電防止コートを実施しておらず、表面固有抵抗が高いことから静電気を帯びやすく、環境下の異物を吸着しやすいフィルムであった。
【0074】
実施例1〜3および比較例2〜4:
上記比較例1において、縦延伸後のフィルムの両表面に、下記表2に示す組成からなる水性塗布液をバーコート方式で塗布した。
【0075】
比較例5:
実施例1において、ポリウレタン樹脂A1の代わりに、ポリカーボネートポリオール構造を有するアニオン系水性ポリウレタン(三井化学ポリウレタン社製 商品名タケラックW−6010)を用いて塗布液を配合した。塗布液は作成後直ちに沈殿が発生してしまい、フィルムに塗布することができなかった。
【0076】
実施例4:
実施例1において、ポリエステルB層原料のブレンド比を表1および2に示すとおりに変更し、熱処理温度を205℃とする以外は同様にして、塗布も同様に行い、最終的にフィルム厚さ75μm(厚さ比も実施例1同様)のフィルムを得た。
【0077】
実施例5:
実施例1において、熱処理温度を181℃に変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ75μm(厚さ比も実施例1同様)のフィルムを得た。
【0078】
比較例6:
実施例1において、熱処理弛緩を5%に変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ75μm(厚さ比も実施例1同様)のフィルムを得た。
【0079】
比較例7:
実施例1において、縦延伸倍率を4.0に変更する以外は同様にして、最終的にフィルム厚さ75μm(厚さ比も実施例1同様)のフィルムを得た。
【0080】
比較例8:
実施例1において、ポリエステルB層原料のブレンド比を表1に示すとおりに変更し、熱処理温度を218℃とする以外は同様として製膜を試みたが、フィルム破断が頻発し、連続製膜が不可能であった。従って、塗布も実施できなかった。
【0081】
下記表1および2に、各々のフィルムの製膜に用いた条件、塗布層の組成および多層ポリエステルフィルムの評価結果を示す。
【0082】
各塗布層を構成する化合物は以下のとおりである。
・ポリウレタン樹脂A1:
1,6−ヘキサンジオールとジエチルカーボネートとの反応により得られるポリカーボネートポリオール(GPCでの数平均分子量約1000)を76.7重量部、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製、商品名PEG600、分子量600)を6.4重量部、トリメチロールプロパンを2.0重量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミンを19.9重量部、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを86.7重量部と、MEK87重量部を反応容器に取り、70〜75℃で反応を行い、ウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーにジメチル硫酸を16.8重量部添加し、50〜60℃で反応させて、カチオン性ウレタンポリマーを得た。これに水623重量部を添加して乳化させた後、MEKを回収することにより、ポリウレタン樹脂A1の水分散体を得た。
【0083】
・ポリウレタン樹脂A2:
ポリテトラメチレングリコール(三菱化学社製、商品名PTMG1000、分子量1000)を300重量部、ポリエチレングリコール(第一工業製薬社製、商品名PEG600、分子量600)を6.0重量部、トリメチロールプロパンを2.5重量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミンを16.0重量部、イソホロンジイソシアネートを71.7重量部と、MEK89重量部を反応容器に取り、70〜75℃で反応を行い、ウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーにジメチル硫酸を13.4重量部添加し、50〜60℃で反応させて、カチオン性ウレタンポリマーを得た。これに水457重量部を添加して乳化させた後、MEKを回収することにより、ポリウレタン樹脂A2の水分散体を得た。
【0084】
・カチオン性高分子帯電防止剤B:
ジアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いた4級アンモニウム塩含有カチオンポリマー((I)式のピロリジニウム環含有ポリマー)平均分子量約30000
【0085】
・架橋剤C:
2−イソプロペニル−2−オキサゾリンとアクリル系モノマーとの共重合ポリマー型架橋剤水溶液(日本触媒社製 商品名エポクロスWS−500)、オキサゾリン基量=4.5mmol/g
【0086】
・微粒子D:
コロイダルシリカ微粒子(平均粒径0.07μm)
【0087】
比較例2では、塗布層にポリカーボネートポリオールを含まないポリウレタン樹脂が用いられているため、インキ層との接着性が不十分であった。比較例3では、塗布層にポリウレタン樹脂(A)が存在しないため、インキ層との接着性が発現されなかった。一方比較例4では、塗布層にカチオン性高分子帯電防止剤(B)を含有しないため、帯電防止性能が不十分であった。また比較例5では、用いたポリウレタン樹脂が、分子中に3級アミノ基を有する鎖延長剤の3級アミノ基を4級化した化合物を含有していないため、カチオン性高分子帯電防止剤との混合でイオン凝集による沈殿を生成してしまった。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
注1)上記表のポリエステル構成成分について、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、EGはエチレングリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノールをそれぞれ意味する。
注2)上記表の塗布層固形分重量比にある(A)/(B)比率とは、塗布層中の「ポリウレタン樹脂(A)/カチオン性高分子帯電防止剤(B)」(重量比)を表す。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のフィルムは、自動車部品、家具、電化製品等に用いるフィルム製品の用途分野、具体的にはフィルムと樹脂、木材、金属などとのラミネートフィルムを作成し、折曲げ加工、曲面加工、凹凸付与加工、ブロー成形等により立体的に成形する用途において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルAからなる層を両側の最表層とし、ポリエステルBからなる層を中間層とする多層ポリエステルフィルムであり、ポリエステルAの融点は、ポリエステルBの融点より20℃以上高く、多層ポリエステルフィルムの面内における、100℃雰囲気100%伸び時応力の最大値が20MPa以下で、最大値と最小値の差が3MPa以下であり、ポリエステルAは、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位90モル%以上およびイソフタル酸単位10モル%以下からなり、主たるグリコール単位がエチレングリコール単位からなるポリエステルであり、ポリエステルBは、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位85〜95モル%およびイソフタル酸単位5〜15モル%からなり、グリコール単位がエチレングリコール単位75〜95モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル単位5〜25モル%からなり、少なくとも一方のフィルム表面に表面固有抵抗値が1×10〜1×1012Ωである塗布層を有し、当該塗布層が、分子中に3級アミノ基を有する鎖延長剤の3級アミノ基を4級化した化合物とポリカーボネートポリオールとを構成成分として含むポリウレタン樹脂(C)とカチオン性高分子帯電防止剤(D)とを含有することを特徴とする多層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−218309(P2012−218309A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86876(P2011−86876)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】