説明

多層ミラーとして機能する封止構造を有する有機発光デバイス構造体

単一の多層スタックによって、望ましい光学的特性及びバリア特性を同時に実現することができる、OLEDデバイスに関する新規な構造を提供する。OLED構造体は、(a)基板(110)と、(b)基板上に形成され、(1)第1の電極(142)と、(2)第1の電極上に形成された発光部(144)と、(3)発光部上に形成された第2の電極(146)とを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイス(140)と、(c)基板上に形成され、(1)第1の屈折率を有する平坦化層(121a〜121c)と、(2)第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層(122a〜122c)とが交互に連続的に配設された多層ミラー(120)とを備える。平坦化層及び高密度層の厚さは、多層ミラーが所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択される。平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の環境内の有害化学種(harmful species)から有機発光デバイスを保護する構造及びこのようなデバイスから出射された光を反射及び透過させる構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマ有機発光デバイス及び低分子有機発光デバイスを含む有機発光デバイス(organic light emitting devices:以下、OLEDという。)は、例えばラップトップコンピュータ、テレビジョン受像機、デジタル腕時計、電話機、ページャ、移動電話機、計算機等の様々な種類の仮想表示型ディスプレイ(virtual-view type displays)及び直接表示型ディスプレイ(virtual-and direct-view type displays)に採用されている。有機発光デバイスは、無機半導体発光デバイスとは異なり、一般的に構造が単純であり、製造が比較的簡単で安価である。更に、OLEDは、多種多様な色を必要とする用途及び表示領域が広い機器への用途にも容易に用いることができる。
【0003】
画像表示用途(imaging applications)のための2次元OLEDアレーは、当該技術分野において知られており、通常、行及び列に配列された複数のアクティブ画素からなるOLED表示領域を含む。図1Aは、従来のOLED構造を概略的に示す図(断面図)である。ここに示すOLED構造は、単一のアクティブ画素15を備え、アクティブ画素15は、例えば電極部(electrode region)であるアノード部(以下、単にアノードという。)12と、アノード12上に形成された発光層14と、発光層14上に形成された他方の電極部であるカソード部(以下、単にカソードという。)16とから構成されている。アクティブ画素15は、基板10上に配設されている。カバー20及び基板10は、封止部25とともに協働して、外部環境からアクティブ画素15に酸素や水蒸気が浸入することを防いでいる。
【0004】
従来の手法では、発光層14からの光は、基板10を介して下方に透過される。このような「下方取出し(bottom emitting)」構成では、基板10及びアノード12は、透明材料から形成される。一方、この構成では、カソード16及びカバー20は、透明である必要はない。
【0005】
「上取出し(top- emitting)」OLED及び透明OLED(transparent OLED:TOLED)等の他のOLED構造も知られている。上取出しOLEDでは、発光層14から出射された光は、カバー20を介して上方に透過される。したがって、この場合、基板10は、不透明な材料から形成してもよく、カバー20は、透明な材料から形成する必要がある。図1Aに示すような設計に基づく上取出し構成では、カソード16に透明材料を用いるが、アノード12は、透明である必要はない。図1Bに示す他の上取出し構成では、図1Aにおけるアノード12とカソード16の位置を入れ替え、このため透明なアノード12を用いている。この場合、カソード16は、不透明であってもよい。このような構成は、「反転構成("inverted" configuration)」と呼ばれることもある。
【0006】
光が上方及び下方の両方向に(すなわち、デバイスの上面と底面の両方から)出射されるTOLEDでは、基板10、アノード12、カソード16、カバー20の全てが透明である必要がある。この構成は、図1A又は図1Bに示すものと同様の構成を有していてもよい。
【0007】
OLEDを形成する場合、通常、反応性金属(reactive metal)の層をカソードとして用いて、効率的な電子注入及び低い動作電圧を実現している。しかしながら、反応性金属及び反応性金属と有機材料の間の界面は、酸素及び水分に影響を受けやすく、これによりデバイスの寿命が著しく制限される。水分及び酸素は、この他にも悪い影響を生じることが知られている。例えば、水分及び酸素により、OLEDにおける「ダークスポット領域(dark spot area)」が増加することが知られている。当該技術分野では、このような外部環境からの化学種(species)を侵入させないための様々なバリア部が知られている。その具体例としては、その開示内容全体が引用により本願に援用される米国特許第5,757,126号明細書、第6,146,225号明細書、第6,268,295号明細書等に開示されている多層構造(multi-layer structures)が含まれる。
【0008】
更に、OLEDに関連して分布ブラッグ反射器(distributed Bragg reflector:以下、DBRという。)を利用することも知られている。これらのDBRは、多くの場合いわゆる「1/4波長スタック(quarter-wave stack)」を用いた多層ミラー構造を有する。このような構造により、とりわけ、発光波長帯域のスペクトル(spectrum of the emission band)を狭くし、ピーク出力輝度を高くし、出射光の向きを変えることができる。このような構造の具体例は、例えば、ドダバラプー(Dodabalapur)他の米国特許第5,674,636号明細書、ドダバラプー他の米国特許第5,814,416号明細書、ボロビック(Bulovic)他の米国特許第5,834,893号明細書、ジョーンズ(Jones)他の米国特許第5,920,080号明細書等に開示されている。これらの文献は、それぞれ引用により本願に援用されるものとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、OLEDデバイスに関連して用いられ、多層ミラーとして及び外部環境からの有害化学種に対するバリアとして同時に機能する新たな構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る有機発光デバイス構造体は、(a)基板と、(b)基板上に形成され、第1の電極と、第1の電極上に形成された発光部と、発光部上に形成された第2の電極とを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイスと、(c)基板上に形成され、(1)第1の屈折率を有する平坦化層と、(2)第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層とが交互に連続的に配設された多層ミラーとを備える。平坦化層及び高密度層の厚さは、多層ミラーが所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択される。平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐ。
【0011】
多層ミラーは、好ましくは、1/4波長スタック(quarter-wave stack)である。好ましくは、第1の電極はアノードであり、第2の電極はカソードであるが、これと反対の構成としてもよい。更に、用途に応じて、有機発光デバイスは、上取出し型デバイス、下方取出し型デバイス、透明デバイスのいずれであってもよい。
【0012】
幾つかの実施例においては、1/4波長スタックは有機発光デバイスと基板との間に配設され、第1の電極は透明電極である。これらの実施例では、第2の電極も透明にしてもよく、この場合、必要であれば、第2の電極上に更なる1/4波長スタックを形成してもよい。一方、第2の電極は不透明であってもよく、この場合、第2の電極は反射性を有する反射電極であることが好ましい。
【0013】
他の実施例では、1/4波長スタックは有機発光デバイス上に配設され、第2の電極は透明電極である。この実施例では、第1の電極は不透明であってもよく、この場合、第1の電極は反射性を有する反射電極であることが好ましい。
【0014】
本発明の他の側面である有機発光デバイス構造体は、(a)透明基板と、(b)透明基板上に形成され、透明アノードと、透明アノード上に形成された発光部と、発光部上に形成された反射カソードとを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイスと、(c)基板上に形成され、(1)第1の屈折率を有する平坦化層と、(2)第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層とが交互に連続的に配設された1/4波長スタックとを備える。
【0015】
この実施例における平坦化層及び高密度層の厚さは、1/4波長スタックが所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択される。更に、平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐ。
【0016】
本発明の他の側面である有機発光デバイス構造体は、(a)基板と、(b)基板上に形成され、反射アノードと、反射アノード上に形成された発光部と、発光部上に形成された透明カソードとを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイスと、(c)基板上に形成され、(1)第1の屈折率を有する平坦化層と、(2)第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層とが交互に連続的に配設された1/4波長スタックとを備える。この場合も、上述と同様に、平坦化層及び高密度層の厚さは、1/4波長スタックが所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択され、平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐ。
【0017】
本発明では、単一の多層スタックによって、望ましい光学的特性及びバリア特性を同時に実現することができる。
【0018】
本発明のこれらの及びこの他の実施例、及び利点は、以下の説明によって当業者に明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施例を示す図面を参照して、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、ここに説明する実施例とは異なる形式で実施することもでき、本発明の構成は、ここに示す形式に限定されるものではない。
【0020】
なお、図面は、一般的な図面の場合と同様、単純化された図式的な表現に過ぎず、実際の構造は、構成部品の相対的な尺度を含む多くの点で、図面とは異なっている。
【0021】
ここで用いる所定の材料の「層(layer)」とは、厚さが長さ及び幅に対して小さい材料の部分を指す。層には、シート(sheet)、箔(foil)、膜(film)、積層(lamination)、コーティング(coating)等が含まれる。この明細書において層は、必ずしも平面状である必要はなく、例えば、他の構成部品を少なくとも部分的に包み込むように、湾曲し、屈曲し、又は他の形状に曲がっていてもよい。「層」は、2つ以上の副次的な層、すなわち「副層(sublayer)」を含んでいてもよい。
【0022】
図2は、包括的に符号100で指示されるOLEDデバイスの構造を示し、OLEDデバイス100は、基板110と、多層ミラー(この場合、1/4波長スタック)120と、OLED140と、カバー部150とを備える。
【0023】
OLED140は、周知のいかなるOLEDであってもよい。例えば、上述のように、OLED140は、そのアノード及びカソードとして機能する電極部142、146を備える。更に、OLED140は、電極部142、146間に配設された発光部144(放射部)144を備える。
【0024】
発光部144は、(a)正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層とからなる3層構成(すなわちダブルヘテロ構造構成)、(b)正孔輸送層と、発光及び電子輸送機能を提供する層とからなる2層構成、又は電子輸送層と、発光及び正孔輸送機能を有する層とからなる2層構成(すなわち、シングルヘテロ構造構成)(c)正孔輸送、電子輸送、発光機能を有する単一の層からなる構成(すなわち、単層構成)を含む、数多くの周知の構成に関連して設けることができる。各構成において、更なる層を追加してもよく、例えば、正孔注入又は電子注入を促進するための層を追加してもよく、或いは正孔又は電子をブロックするための層を設けてもよい。このようなデバイスの様々な構造については、例えば、米国特許第5,707,745号明細書に開示されており、この文献の開示内容全体は、引用により本願に援用される。当該技術分野では、より複雑なOLED構造も実用化されている。
【0025】
図2に示す実施例では、多くの場合、電極部146と1/4波長スタック120の組合せによって、微小共振器効果(microcavity effect)が生じる。この実施例においては、電極部142は、多くの場合、OLEDの所望の出力波長である所定の波長の出力光に対して透明性を有する。ここで言う「透明(transparent)」とは、その領域(この場合、電極部142)を通過する出力光の減衰量が小さく、所定の波長において、透過率が通常80%より大きいことを意味する。
【0026】
好ましい構成として、電極部142をアノードとして選択した場合、適切な透明性を有する材料としては、酸化インジウム−スズ(indium tin oxide:以下、ITOという。)、酸化亜鉛−スズ等の金属酸化物及び当分野で周知の他の材料が用いられる。電極部142をカソードとして選択した場合には、適切な透明性を有する材料としては、例えば、Mg−Ag/ITO、LiF/Al/ITO等の金属/金属酸化物の組合せ又は当分野で周知の他の材料が用いられる。
【0027】
図2に示す構造の好ましい実施例として、図2に示すOLEDデバイス100を下方取出し型OLEDとした場合、基板110は透明である必要があり、一方、カバー150は、透明である必要はない。この構成においては、電極部146は、例えばOLEDデバイス100の共振器効果(cavity effect)を高めるために、反射性材料から形成することが望ましい。ここで「反射性」とは、所定の波長の出力光の相当な量、典型的には少なくとも80%が反射されることを意味する。電極部146をカソードとして選択した場合、適切な反射性を有する材料としては、アルミニウム、アルミニウム/リチウム、アルミニウム/フッ化リチウム、アルミニウム/酸化リチウム及び当該技術分野で周知の他の材料を用いることができる。一方、電極部146をアノードとして選択した場合、適切な反射性を有する材料としては、例えば金、クロム、ニッケル、プラチナ及び当分野で周知の他の材料を用いることができる。
【0028】
図2に示すOLEDデバイス100をTOLEDとした場合、基板110及びカバー150の両方は透明である。更に、電極部146も透明である。電極部146に用いることができる透明な材料としては、電極部142に関して上述した材料と同様の材料がある。
【0029】
図2に示すOLEDデバイス100を上取出し型OLEDとした場合、カバー150及び電極部146は透明である。
【0030】
図2に示すOLEDデバイス100の特に好ましい構成は、下方取出し型構成であり、この場合、基板110は透明基板であり、電極部142が透明アノードである、電極部146が反射性カソードである。
【0031】
図3は、包括的に符号200で示される、本発明の他の実施例であるOLEDデバイスの構造を示している。この実施例では、多層ミラー(ここでは、1/4波長スタック220)を電極部246上に基板210とは反対側に設けている。
【0032】
後により詳細に説明するように、本発明に基づく1/4波長スタック220は、周辺環境における有害化学種の侵入を阻止する機能を有するため、この実施例では、別個のカバーを設ける必要がない。図3では、1/4波長スタック220を電極部246上に直接設けているが、1/4波長スタック220の形成において用いられるあらゆる基体(substrate)を含む介在層(intervening region)を設けてもよい。また、介在層は、従来と同様、本発明に基づくデバイスの他の様々な層間に設けることができる。
【0033】
図3に示す実施例では、微小共振器効果は、電極部242と1/4波長スタック220の組合せによって生じる。この実施例では、電極部246は、透明である。
【0034】
OLEDデバイス200を下方取出し型OLEDとした場合、又はOLEDデバイス200をTOLEDとした場合、基板210及び電極部242も透明にする。
【0035】
図3に示す構造の好ましい実施例として、OLEDデバイス200を上取出し型OLEDとした場合、電極部242を反射性材料から形成して、例えばこのOLEDデバイス200の共振器効果を高めることができる。これに代えて、上取出し構成においても、電極部242を透明材料から形成してもよい。
【0036】
図2と同様、電極部242は、好ましくはアノードであり、電極部246は、好ましくはカソードである。
【0037】
また、この他、数多くの構成が可能である。例えば、図4に示すOLEDデバイス300は、基板310と、2つの多層ミラー(この場合、1/4波長スタック320a、320b)と、OLED340とを備える。微小共振器効果は、1/4波長スタック320aと1/4波長スタック320bの組合せによって生じる。この実施例では、電極部342、346は、共に透明である。ここでは、電極部342をアノードとし、電極部346をカソードとすることが好ましい。
【0038】
OLEDデバイス300は、下方取出し型でも、上取出し型でも、透明型でもよく、この実施例に上述と同様の変形を適用することができる。例えば、OLEDデバイス300をTOLED又は下方取出し型デバイスとした場合、基板310は透明である。図3に示す実施例において好ましい構成は、透明(TOLED)構成である。
【0039】
上述のように、基板110、210、310及びカバー150は、望まれる構成に応じて、透明であることが要求される場合もあり、透明であることが要求されない場合もある。これらのコンポーネントの一般的な材料としては、ポリマ、セラミクス、半導体、金属等がある。
【0040】
金属は、基板及びカバーについて通常用いられる厚さでは、実質的な透明性を有さないが、優れたバリア特性を提供する。更に、金属は、例えば金属缶(metal cans)や金属箔等の様々な構成で設けることができる。この目的に適した金属としては、アルミニウム、金、ニッケル、ニッケル合金、インジウム及び当該技術分野で周知の他の材料を用いることができる。
【0041】
半導体(例えば、シリコン)は、金属と同様、通常、良好な透明性を示さない。しかしながら、半導体は、水、酸素及びこの他の有害化学種に対する良好なバリア特性を有するとともに、電気回路を作り上げることができる基板を提供する。
【0042】
セラミクスは、多くの場合、低い透過性と、透明性とを示す。好ましいセラミクスは、ガラスであり、より好ましくはソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスである。
【0043】
光学的な透明性が望まれる場合、ポリマを材料として用いることが望ましい場合も多い。しかしながら、ポリマを基板又はカバーとして選択した場合、殆どのポリマは、透過であるので、更なるバリア領域を設けることが望ましい。必要であれば、本発明に基づく多層ミラーによりこの機能を実現してもよい。
【0044】
図2に示す特定の実施例では、基板110の材料は、多くの場合、光学的特性、柔軟性、他の表面に対する適合性(conformability)、処理(例えばウェハベースのプロセスを想定)時における寸法の安定性、他のコンポーネント(例えば、この実施例では、1/4波長スタック120の協働的なバリア層)との十分な接着性等を含む1つ以上の有利な特性に基づいて選択される。
【0045】
柔軟性が望まれる場合、基板110は、紙、織地、金属泊、フレキシブルガラス(ショットガラステクノロジー社(Schott Glass Technologies)から入手可能)及び/又はポリマ層から構成してもよい。より好ましい柔軟性を有する基板材料としては、他の材料に対して強力な接着力を有する例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイミド、ポリオレフィン、フルオロポリマ等の1つ以上のポリマコンポーネントがある。このようなポリマコンポーネントは、例えば、ホモポリマ、コポリマ、ポリマ混合体等として入手可能である。好ましいポリマコンポーネントの具体例としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエステルカーボナート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルイミド、ポリアクリラート、デュポン社(DuPont)から入手可能なカプトン(Kapton:商標)ポリイミド薄膜のようなポリイミド、ハネウェル社(Honeywell)から入手可能なアクラ(Aclar:商標)フルオロポリマのようなフルオロポリマ、BFグッドリッチ社(BF Goodrich)から入手可能なアピア(Appear:商標)ポリノルボルネン(polynorbornene:PNB)、BFグッドリッチ社から入手可能なアートン(Arton:商標)等がある。これらの材料を用いる場合の基板110の厚さは、代表的には75〜625μmの範囲内である。
【0046】
多層ミラー(この実施例では、1/4波長スタック120)は、基板110上に、平坦化材料(planarizing material)121a〜121cと高密度材料(high-density material)122a〜122cの両方を含む一連の協働的なバリア層を形成することによって形成できる。これらの協働的なバリア層は、交互に積層された構成となっている。好ましくは、2〜10対(又はこれ以上)の層を用いる。すなわち、図2では、3対の層を示しているが、この他の層構成も可能である。更に、図2に示すように、底面層は、平坦化材料層121aであることが望ましいが、底面層は、例えば高密度材料層であってもよい。同様に、図2に示す最上位層は、高密度材料層122cであるが、この最上位層は、平坦化材料層であってもよい。
【0047】
この結果、本発明に基づく多層ミラー構造は、水分及び酸素の侵入の防止に適した、複合バリア層(composite barrier layer)としても機能する。更に、これらの構造は、生来的に柔軟性を有し、したがって、フレキシブルOLED(flexible OLED:FOLED)の製造に非常に適している。
【0048】
なお、「平坦化材料(planarizing material)」とは、基底にある表面の不規則な凹凸を反映した表面を形成するのではなく、その材料によって円滑な平面状の表面を形成する材料を意味する。平坦化材料として好ましい材料は、表面に堆積したときに、コンフォーマルでない液体(non-conformal liquid)となる材料である。このような材料としては、例えばアクリラートモノマがある(アクリラートモノマは、通常、紫外線又は電子ビームに晒されて、モノマを架橋させてポリアクリラートを形成する)。好ましい平坦化材料は、例えばフッ化ポリマ、パリレン、シクロテン、ポリアクリラートがある。平坦化材料層121a〜121cは、例えば、ディッピング、スピンコーティング、スパッタリング、蒸着コーティング、噴霧、フラッシュ蒸着、化学気相成長等の当該技術分野において周知の技術で形成することができる。
【0049】
高密度材料とは、特に水や酸素等の汚染物質及び有害化学種(deleterious species)が拡散することを防ぐように、原子間距離が十分小さい材料を意味する。好ましい高密度材料には、例えば、一酸化シリコン(SiO)や二酸化シリコン(SiO)を含む酸化シリコン、窒化シリコン(通常、Si)、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム(通常、Al)、酸化チタン、酸化インジウム−スズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム−スズ(zinc indium tin oxide)、及び例えば銀、クロム、アルミニウム、金等の金属がある。高密度材料層122a〜122cは、例えば抵抗加熱蒸着、スパッタリング、プラズマ化学気相成長(plasma-enhanced chemical vapor deposition:PECVD)、電子ビーム法等の当該技術分野において周知の方法で形成することができる。
【0050】
多層バリア部の形成に関する更なる情報は、例えば米国特許第4,842,893号明細書、第4,954,371号明細書、第5,260,095号明細書、第6,224,948号明細書に開示されており、これらの文献の開示内容全体は、引用により本願に援用されるものとする。
【0051】
適切な透明性及び十分に異なる屈折率を有する平坦化材料層121a〜121c及び高密度材料層122a〜122cを選択することにより、多層ミラー120を形成することができる。好ましくは、多層ミラー内の各層の厚さは、透過するように選択された光のピーク波長をλとすると、λ/4とする。なお、本発明に基づく多層ミラー構造を含む多層ミラー構造では、通常、単一の波長ではなく、所定の範囲内に分布する波長の光の波長が透過される。ここで、当該技術分野では周知のように、層の厚さが略λ/4であれば、透過レベルのピークは、略λで生じる。(このような透過波長の分布の結果、特定の波長を透過させるのではなく、特定の波長を反射させる場合には、層の厚さは、λ/4とは大きく異ならせる必要がある。)。このような多層ミラーは、周知であり、多層ミラー内の層の厚さに基づいて、「1/4波長スタック(quater-wave stack)」と呼ばれる。多層ミラーの透過率/反射率は、層の対の数、層の厚さ、用いられる材料の屈折率に依存して定まることが知られている。
【0052】
本発明を実現するために好ましい平坦化材料と高密度材料の対としては、例えばポリアクリラートと酸化アルミニウムの対がある。
【0053】
図3及び図4に示す実施例にも、図2に示す1/4波長スタック120と同様の1/4波長スタック220、320a、320bが設けられている。これらのスタックは、平坦化材料層221a〜221c、321a〜321cと、高密度材料層222a〜222c、322a〜322cとを含んでいる。なお、1/4波長スタック320bは、基板310の上に形成されている。一方、1/4波長スタック220、320aは、OLED240、340上に形成されており、これらのOLED240、340は、後に形成される協働的なバリア層221a〜221c、222a〜222c、321a〜321c、322a〜322cに対して「基板」として機能する。
【0054】
具体的な幾つかの実施例を用いて本発明を説明したが、上述した実施例を様々に変形できることは、当業者にとって明らかである。これらの変形は、本発明の範囲内にあり、本発明の範囲は、特許請求の範囲のみによって限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】周知のOLED構造を単純化して示す断面図である。
【図1B】周知のOLED構造を単純化して示す断面図である。
【図2】本発明の実施例であるOLED構造の断面図である。
【図3】本発明の他の実施例であるOLED構造の断面図である。
【図4】本発明の更に異なる実施例であるOLED構造の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板上に形成され、第1の電極と、該第1の電極上に形成された発光層と、該発光層上に形成された第2の電極とを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイスと、
上記基板上に形成され、(a)第1の屈折率を有する平坦化層と、(b)該第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層とが交互に連続的に配設された多層ミラーとを備え、
上記平坦化層及び高密度層の厚さは、上記多層ミラーが上記所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択され、上記平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐことを特徴とする有機発光デバイス構造体。
【請求項2】
上記多層ミラーは、1/4波長スタックからなることを特徴とする請求項1記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項3】
上記平坦化層は、フッ化ポリマ、パリレン、シクロテン、ポリアクリラートから選択される材料から形成されることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項4】
上記高密度層は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化インジウム−スズ、酸化亜鉛インジウム−スズ、金属から選択される材料から形成されることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項5】
上記平坦化層は、ポリアクリラートから形成され、上記高密度層は、酸化アルミニウムから形成されることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項6】
上記第1の電極は、アノードであり、上記第2の電極は、カソードであることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項7】
当該有機発光デバイスは、上取出し型デバイスであることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項8】
当該有機発光デバイスは、下方取出し型デバイスであることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項9】
当該有機発光デバイスは、透明デバイスであることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項10】
上記1/4波長スタックは、上記有機発光デバイスと上記基板の間に配設され、上記第1の電極は、透明電極であることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項11】
上記第1の電極は、透明アノードであり、上記第2の電極は、カソードであることを特徴とする請求項10記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項12】
上記第2の電極は、反射カソードであることを特徴とする請求項11記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項13】
上記第2の電極は、透明電極であり、該第2の電極上に形成された更なる1/4波長スタックを備えることを特徴とする請求項10記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項14】
上記第1の電極は、透明アノードであり、上記第2の電極は、透明カソードであることを特徴とする請求項13記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項15】
上記1/4波長スタックは、上記有機発光デバイス上に配設され、上記第2の電極は、透明電極であることを特徴とする請求項2記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項16】
上記第1の電極は、アノードであり、上記第2の電極は、透明カソードであることを特徴とする請求項15記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項17】
上記第1の電極は、反射アノードであることを特徴とする請求項16記載の有機発光デバイス構造体。
【請求項18】
透明基板と、
上記透明基板上に形成され、透明アノードと、該透明アノード上に形成された発光層と、該発光層上に形成された反射カソードとを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイスと、
上記基板上に形成され、(a)第1の屈折率を有する平坦化層と、(b)該第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層とが交互に連続的に配設された1/4波長スタックとを備え、
上記平坦化層及び高密度層の厚さは、上記1/4波長スタックが上記所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択され、上記平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐことを特徴とする有機発光デバイス構造体。
【請求項19】
基板と、
上記基板上に形成され、反射アノードと、該反射アノード上に形成された発光層と、該発光層上に形成された透明カソードとを有し、オンにされて所定の範囲の波長の光を発する有機発光デバイスと、
上記基板上に形成され、(a)第1の屈折率を有する平坦化層と、(b)該第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する高密度層とが交互に連続的に配設された1/4波長スタックとを備え、
上記平坦化層及び高密度層の厚さは、上記1/4波長スタックが上記所定の範囲の波長内のピーク波長の光を透過するように選択され、上記平坦化層及び高密度層は、協働して、水及び酸素の透過を防ぐことを特徴とする有機発光デバイス構造体。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−505092(P2006−505092A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−553639(P2003−553639)
【出願日】平成14年11月6日(2002.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2002/035671
【国際公開番号】WO2003/052842
【国際公開日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【出願人】(503055897)ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション (61)
【Fターム(参考)】