説明

多層伝導性繊維と、共押出によるその製造

コアがナノチューブ、特定のカーボンナノチューブを含むコア/シェル構造を有する多層伝導性繊維と、共押出によるこの繊維の製造方法と、その使用と、織成またはポリマーマトリックスを使用して接続した上記多層繊維を含む複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアにナノチューブ、特にカーボンナノチューブを含むコア/シェル構造の多層伝導性繊維に関するものである。
本発明はさらに、共押出によって上記繊維を製造する方法と、その使用とに関するものである。
本発明はさらに、上記多層繊維を織成するか、ポリマーマトリックスを用いて互いに結合して得られる複合材料と、その使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNT)は五角形、六角形および/または七角形の規則的に整列した炭素原子から成る中空または閉じた管状形状の特定結晶構造を有するということは知られている。CNTは一般に一つまたは複数の同軸状に巻かれたグラファイトのシーツから成り、単一壁のナノチューブ(Single Wall Nanotubes、SWNT)と多重壁のナノチューブ(Multi−Wall Nanotubes、MWNT)に分けられる。
【0003】
CNTは市販されており、また、既知の方法で製造できる。CNTの合成方法は放電、レーザアブレーションおよび化学的蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)等が存在し、特にCVDはカーボンナノチューブを多量かつ安価に製造することができる。このプロセスでは炭素源を比較的高い温度で触媒上へ噴射する。触媒は無機固形物、例えばアルミナ、シリカまたはマグネシアに担持された金属、例えば鉄、コバルト、ニッケルまたはモリブデンから成ることができる。炭素源はメタン、エタン、エチレン、アセチレン、エタノール、メタノールにすることができ、さらには一酸化炭素と水素の混合物でもよい(HIPCOプロセス)
【0004】
CNTは多くの顕著な性質すなわち熱的、化学的、電気的および機械的特性を有する。特に、自動車、船舶、航空機用の複合材料の用途では電気機械アクチュエータ、ケーブル、抵抗ワイヤ、化学的検出器、エネルギの貯槽および変換、電子放出ディスプレイ、電子コンポーネント、機能性織物を特に挙げることができる。自動車、航空機および電子産業では伝導性充填剤、例えばCNTは熱および電気の放出や、摩擦時の熱および電気の散逸を可能にする。
【0005】
一般に、合成されたCNTは、もつれたフィラメントから成る乱雑な粉末の形をしており、その使用は難しい。特に、マクロなスケールで機械的および/または電気的性質を利用するためにはCNTを所定方向に配向させ、多量に存在させる必要がある。
【0006】
この問題を解決するための一つの方法は複合繊維(コンポジットファイバー)にすることである。そのためにナノチューブをマトリックス、例えば有機ポリマ中に組み込むことができる。その後に、例えば特許文献1(欧州特許第EP l 181 331号公報)に記載のような従来技術を用いてスピニング(紡糸)する。このスピニングでは引張き加工および/または剪断加工でCNTを繊維軸上で配向させて、所望の機械的および/または電気的特性を得ることができる。しかし、この技術ではCNTが非常に純粋であることが必要である。そして、CNTがその一体構造のための自然に形成する凝集物(aggregates)を除去することが必要である。すなわち、この凝集物はスピニング法に対して有害であり、得られる複合繊維が頻繁に破断する原因となる。
【0007】
しかも、上記の方法で得られた多層繊維の伝導度は必ずしも満足のいくものではない。これは、CNTの電気特性はCNTの均一性およびランダム分散性が高くなるほど向上する、という理由のためである。これとは逆に、スピニングプロセスでCNTの配向性は高くなってしまう。
【0008】
この不利な点を克服するために、予備形成した繊維で溶剤ルートでCNTを配置する方法が考えられた。しかし、こうした複合材料を用いて繊維を製造する時には、繊維を複数の層に積重ねて構造部品やブレーキディスクを形成する。例えば航空機の分野または自動車の分野では、これら部品は摩擦の作用によって繊維が空気中または地表上で磨耗する。その結果、CNTが失われて大気中に放散され、環境にインパクトを与えるという問題を生じ、部品の機械的特性が変化する。
【0009】
CNTをベースにした複合材料繊維を製造するさらに他のルートはポリ(ビニルアルコール)のようなポリマー流中でCNTの分散物を凝固させるものである
(特許文献2)。しかし、この凝集沈降法では今日使われている高スピニング速度を達成できない。これは高速では層条件から乱条件へ変るためと、粘性媒体中では新たに凝固した繊維が脆いため、CNTの分散物と凝集溶液の両方の流れ(coflow)を安定させるのが難しいためです。
【0010】
従って、機械特性、特に荷重下でおよび強靭性下での縦弾性係数(引張りモジュラス)に優れ、さらには耐熱性および/または耐薬品性に優れ、しかも、低含有量のナノチューブでも静電荷を放散するのに充分な伝導度を有する複合繊維を製造するというニーズが残っている。さらに、ナノチューブの凝集物の存在によって大きく影響を受けずに繊維を高速で安定して経済的に製造するプロセスに対するニーズが残っている。
【0011】
本発明者は、コアがCNTの分散物から成るコア/シェル構造の多層繊維が上記ニーズに応えることができるということを発見した。この繊維は一方がCNTを含む熱可塑性ポリマーをベースにした2つのポリマー・マトリックスを共押出しすることで製造できる。
【0012】
伝導性充填材を含む繊維のコアを形成するポリマー・マトリックスと、引張り特性を繊維に与えるシェルを形成するポリマー・マトリックスとから成る熱可塑性ポリマーを共押出しして伝導性複合繊維を製造する方法は既に知られている。しかし、本発明者が知る限り、この方法はカーボンブラックに限定されている(特に、特許文献3(米国特許第US3 803 453号明細書)および特許文献4(米国特許第US5 260 013号明細書)を参照)。事実、伝導性複合繊維の機械特性を高めるために使われる引張き加工処理、特に特許文献5(欧州特許第EP 1 183 331号公報)に記載の方法はこのタイプの繊維には適用できない。すなわち、引張き作業中にカーボンブラック粒子のネットワークが分断され、接触点が大幅に減り、それによって繊維の伝導度に悪影響がでる。本発明者はナノチューブ、特にCNTの場合にはこの現象が起こらないということを見出した。
【0013】
さらに、カーボンナノチューブを含むコア/シェル構造を有する伝導性繊維を共押出して製造する方法も知られている。特許文献6(欧州特許第EP 1 559 815号公報)に記載の繊維はコアを牽制する主成分と、シェルを形成する二次成分とから成る。二次成分のみがCNTを含む。特許文献7(米国特許第US 2006/019079号明細書)に記載の伝導性繊維は、CNTの第1の分散物を含むコアと、CNTの第2の分散物を含むシェルとから成る。特許文献8(国際特許第WO 2009/053470号公報)の伝導性原料では、CNTまたはカーボンブラックは伝導性繊維のシェル中にだけ存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第EP l 181 331号公報
【特許文献2】フランス特第FR 2 805 179号公報
【特許文献3】米国特許第US3 803 453号明細書
【特許文献4】米国特許第US5 260 013号明細書
【特許文献5】欧州特許第EP 1 183 331号公報
【特許文献6】欧州特許第EP 1 559 815号公報
【特許文献7】米国特許第US 2006/019079号明細書
【特許文献8】国際特許第WO 2009/053470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、多層伝導性繊維のシェル中にナノチューブが不存在であることによって、繊維表面を摩耗させる使用中(特に、織成中または編成中)に、形成中にガラス遷移温度以上に加熱した時に繊維間(interfiber)の伝導度に影響を及ぼすこと無しに、ナノチューブの放出を避けることができるということを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の対象は、下記(1)と(2)から成る多層伝導性繊維にある:
(1)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーと、熱伝導および/または電気伝導を与える周期律表の第IIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの元素のナノチューブの分散物とを含む第1のポリマーマトリックスから成るコア、
(2) 周期律表の第IIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの元素のナノチューブの分散物は含まない、ポリ(ビニールアルコール)以外の少なくとも一種の熱可塑性ポリマーから成る第2のポリマーマトリックスから成るシェル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で「〜の間」という表現は両端の値を含む。
本発明で「繊維(fiber)」という用語は直径が100nm〜10mm、好ましくは1μm〜3mm、より好ましくは1μm〜100μmのフィラメントを意味する。
本発明の一実施例では、繊維のコアは固体構造物の形をしている。しかし、他の形としては中空構造でもよい。さらに、この構造は多孔質でも、多孔質でなくてもよい。繊維はその使用が機械部品の安定性を確実にし、それを強化することを目的とするものであり、従って、液体の輸送に使用するチューブまたはパイプとは区別される。
【0018】
本発明の繊維は、少なくとも2つのポリマー・マトリックスから製造される。その第1のポリマーマトリックスはコアを形成し、その第2のポリマーマトリックスはシェルを形成する。本発明の繊維の製造に上記以外の他のポリマー・マトリックスをさらに使用することもできる。すなわち、単に2つの層(コアおよびシェル)だけにすることも、2層以上の多層繊維すなわちコアとシェルとの間に一層以上の他の層を挿入したり、および/または、シェルを覆う層を追加することもできる。
【0019】
第1および/または第2のポリマーマトリックスはホモポリマー、ブロック、交互、ランダムまたは勾配コポリマーの少なくとも一種の熱可塑性ポリマーから成る。好ましくは熱可塑性ポリマーは特に下記の中から選択できる:
(1)ポリアミド、例えばポリアミド6(PA6)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド6.6(PA6.6)、ポリアミド4.6(PA4.6)、ポリアミド6.10(PA6.10)およびポリアミド6.12(PA-6.12)。これらのポリマーのいくつかはアルケマ(Arkema)社からリルサン(Rilsan、登録商標)の名称で市販されており、特に好ましいのは液体グレードの例えばリルサン(Rilsan、登録商標)AMNO TLDであり、そのコポリマー、特にアミドモノマーと他のモノマー(例えばポリテトラメチレングリコール、PTMG)とを含むブロック共重合体、例えばペバックス(Pebax、登録商標)である。
(2)芳香族ポリアミド、例えばポリフタルアミド、
(3)下記(i)および(ii)の中からの選択されるフルオロポリマ:
(i)式(I)の少なくとも一つのモノマーを少なくとも50モル%含むフルオロポリマ:
CFX1=CX23 (I)
(ここで、X1、X2およびX3は互いに独立して水素またはハロゲン原子(特に、弗素または塩素原子)を表す)。例えばポリ(ビニリデンフルオライド)(PVDF)好ましくはα形、ポリ(三フッ化エチレン)(PVF3)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレン(HFP)または三フッ化エチレン(VF3)またはテトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)またはテトラフルオロエチレン(TFE)またはクロルトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー。
(ii)式(II)の少なくとも一つのモノマーを少なくとも50モル%含むフルオロポリマ:
R−O−CH=CH2 (II)
(ここで、Rはパーハロゲン化アルキル基、特にパーフッ素化アルキル基を表す)。例えばパーフルオロプロピル・ビニールエーテル(PPVE)、パーフルオロエチルビニールエーテル(PEVE)およびエチレンとパーフルオロメチルビニールエーテル(PMVE)とのコポリマー。これらのポリマーのいくつかはアルケマ(Arkema)社からにカイナー(Kynar、登録商標)の名称で市販されており、好ましいのは押出しグレード、例えばカイナー(Kynar、登録商標)710または720である。
(4)ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、
(5)ポリ(ビニルクロライド)、
(6)ポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレンとプロピルのコポリマー(PE/PP)。これらは官能化されていてもよい。
(7)熱可塑性ポリウレタン(TPU)、
(8)ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート、
(9)シリコーンポリマ、
(10)アクリル重合体、
(11)上記の混合物またはアロイ。
【0020】
第1のポリマーマトリックス中に存在する熱可塑性ポリマーは第2のポリマーマトリックス中に存在する熱可塑性ポリマーと同じファミリーから選択でき、また、両者は同一であってもよい。
【0021】
第1のポリマーマトリックスは上記の熱可塑性ポリマーの他に周期律表の第IIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの元素のナノチューブを含む。このポリマーマトリックスはPVDF、PA11、PA12、PEKKおよびPE、中から選択される少なくとも一つのポリマーから成るのが好ましい。
【0022】
ナノチューブはその種類および量によって熱伝導および/または電気伝導を与えることができなければならない。このナノチューブは炭素、硼素、リンおよび/または窒素をベースにしたもの(硼化物、窒化物、炭化物、燐化物)、例えば炭窒化物、窒化硼素、炭化硼素、燐化硼素、窒化燐または炭素硼素窒化物から成ることができる。本発明ではカーボンナノチューブ(以下にCNT)が好ましい。
【0023】
本発明で使用可能なナノチューブは単一壁または二重壁または多重壁のタイプにすることができる。多重壁のナノチューブは特に下記文献に記載の方法で調製できる。
【非特許文献1】Flahaut et al. in Chem. Comm. (2003), 1442
【0024】
二重壁のナノチューブは下記文献に記載の方法で調製できる。
【特許文献9】国際特許第WO 03/02456号公報
【0025】
ナノチューブは一般に0.1〜200ナノメートル、好ましくは0.1〜100ナノメートル、より好ましくは0.4〜50ナノメートル、さらに好ましくは1〜30ナノメートルの平均径を有し、0.1〜10μmの長さを有するのが有利である。また、その長さ/直径比は10以上、一般には100以上であるのが好ましい。その比表面積は例えば100〜300m2/gであり、その嵩密度は0.05〜0.5g/cm3であり、好ましくは0.1〜0.2g/cm3である。多重壁ナノチューブは例えば5〜15枚のシート(または隔壁)、好ましくは7〜10枚のシートから成ることができる。ナノチューブは処理されたものでも、未処理のものでもよい。
【0026】
粗カーボンナノチューブは例えばアルケマ(Arkerna)社からグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100の商品名で市販されている。
【0027】
このナノチューブは本発明方法で使用する前に精製および/または処理(例えば酸化処理)でき、粉砕および/または官能化できる。
【0028】
ナノチューブの粉砕は特に冷却条件下または加熱条件下で実行でき、公知の装置、例えばボールミル、ハンマーミル、エッジランナーミル、ナイフミル、ガスジェットミルやナノチューブのもつれたネットワークのサイズを減らすことができる他の任意の粉砕法を用いて実行できる。この粉砕段階はガス噴射粉砕法、特に空気ジェットミルで実行するのが好ましい。
【0029】
粗ナノチューブまたは粉砕したナノチューブは硫酸溶液で洗浄して、製造プロセスに起因する残存する無機および金属の不純物を除いて精製することができる。硫酸溶液に対するナノチューブの重量比は1:2〜1:3の間にする。洗浄操作は90〜120℃の温度で5〜10時間行うことができる。この操作の後に水で洗浄し、精製済みナノチューブを乾燥する段階を続けることができる。変形例ではナノチューブを高温、一般には1000℃以上に熱処理して精製することもできる。
【0030】
ナノチューブは酸化させるのが好ましい。この酸化は0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させて行うことができる。次亜塩素酸ナトリウム溶液に対するナノチューブの重量比は例えば1:0.1〜1:1にすることができる。酸化は6℃以下の温度、好ましくは外界温度、2、3分〜24時間の時間実行するのが有利である。この酸化操作後には、酸化済みのナノチューブを濾過および/または遠心分離し、洗浄し、乾燥する段階を続けることができる。
【0031】
ナノチューブに反応性単位をグラフトさせて、例えば、ナノチューブの表面上にビニルモノマーをグラフトさせて官能化させることもできる。この場合、表面から酸素含有基を除去するために無水環境および無酸素環境下で900℃以上の熱処理をして、ナノチューブの成分原料をラジカル重合開始剤として使用することができる。特に、カーボンナノチューブの表面にメチルメタクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリラートを重合させてPVDFまたはポリアミドの分散を容易にすることができる。さらに、繊維のシェル中に含まれるナノチューブの官能化で繊維のコアへの付着を改良することができる。
【0032】
本発明では、必要に応じて粉砕した粗のナノチューブすなわち酸化せず、精製せず、官能化もせず、他の化学物質および/または熱処理をしていないナノチューブを使用するのが好ましい。
【0033】
ナノチューブはそれを含むコアまたはシェルの重量に対して0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%であるのが好ましい。
【0034】
本発明の他の対象は上記繊維の製造方法と、この製造方法を用いて得られる繊維にある。
【0035】
本発明の製造方法は、横断面がコアの形状を有する第1のポリマーマトリックスが供給される第1の出口オリフィスと、横断面がシェルの形状を有する第2のポリマーマトリックスが供給される第2の出口オリフィスとから成る開口を有するダイを介して上記2つのポリマー・マトリックスを共押出しする段階を有することを特徴とする。
【0036】
この共押出し方法は当業者に周知である。一般には混練機、例えば押出機(特に共回転する二軸押出機)またはバス(Buss、登録商標)タイプのコニーダー中に第1および第2のポリマー・マトリックスのそれぞれの成分を導入し、ブレンディングする予備段階を含む。
【0037】
熱可塑性ポリマーは一般に顆粒状または粉末の形で混練機に導入される。ナノチューブはポリマーと同じ供給ホッパーまたは別のホッパーに導入できる。
【0038】
本発明で使用されるポリマー・マトリックスには可塑剤、抗酸化剤、光安定剤、着色剤、衝撃緩衝材、ナノチューブ以外の静電防止剤、難燃剤、滑剤およびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種のアジュバントを含むことができる。
【0039】
伝導性ナノチューブを含むポリマーマトリックス(以下、伝導性ポリマーマトリックス)には、マトリックス中のナノチューブの分散性を改良するための少なくとも一種の分散剤を含むのが好ましい。この分散剤は下記特許文献10に記載のブロックコポリマーにすることができる。すなわち、ブロック1に対して少なくとも10重量%の理卯で存在するモノマーMl(例えば(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸)と、少なくとも一つのモノマーM2(例えば(メタ)アクリレートまたはスチレン誘導体)との重合で得られるイオン性またはイオン化可能な官能基を有する少なくとも一つのブロック1を有し、任意成分として伝導性ポリマーマトリックスの熱可塑性ポリマーと相溶性のある少なくとも一つのブロック2を有するコポリマーにすることができる。
【特許文献10】国際特許第WO 2005/108485号公報
【0040】
変形例では分散剤は可塑剤にすることができる。この可塑剤は混練機の熱可塑性ポリマーの溶融帯域またはその上流側に導入するのが有利である。
【0041】
本発明の一実施例では上記可塑剤、熱可塑性ポリマーおよびナノチューブをミクサーの同じ供給ホッパーに同時または連続的に供給できる。一般に可塑剤の全てを上記ホッパーに導入するのが好ましい。上記の原料は任意の順番で連続的にホッパー中に直接またはホッパー導入前に均質化するための他の適当な受け具中に導入できる。
【0042】
本実施例ではポリマーは顆粒状ではなく主として粉末形にするのが好ましい。本発明者はそうすることによってポリマーマトリックス中にナノチューブをより良く分散させることができ、伝導性マトリックスの伝導性がより良く成るということを確認した。実際には粉末形のポリマーと顆粒状のポリマーとの混合物を使用することができ、粉末形のポリマーと顆粒状のポリマーとの重量比は70: 30〜100:0 、好ましくは90:10〜100:0にする。
【0043】
本発明のこの実施例は固体の可塑剤が適している。可塑剤は必要に応じてナノチューブと一緒に予備混合した形でミクサーの供給ホッパー中に供給できる。例えば、可塑剤としての70重量%のポリ(ブチレンテレフタレート)と30重量%のナノチューブとを含むこの種の予備混合物はアルケマ(Arkema)社からグラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C M12-30の名称で市販されている。
【0044】
本発明の上記実施例は可塑剤が液体の場合にも適用できる。この場合、ナノチューブおよび可塑剤は予備混合物の形でホッパーまたは上記受け具に供給できる。この種の予備混合物は例えば下記プロセスに従って得ることができる:
(1)液体の形の可塑剤を、必要に応じて溶解状態または溶剤中の溶液の形で粉末のナノチューブと接触させる。例えば可塑剤をナノチューブ粉末上(またはその逆にして)へ注いで分散または直接導入するか、可塑剤を粉末上に滴下導入するか、噴霧器を用いて可塑剤をナノチューブ粉末上にスプレーする。
(2)得られた予備混合物を乾燥し、必要に応じて溶剤を除去する(一般に蒸発によって)。
【0045】
上記の第1段階は通常の合成反応装置、ブレードミクサー、流動反応装置またはブラベンダー(Brabender)混合装置、Z−アームミクサーまたは押出機タイプで実行できる。一般にはコニカルミキサ、例えば円錐容器の壁に沿って回転スクリューを有するホソカワのVrieco −Nautaタイプのコニカルミキサを使用するのが好ましい。
【0046】
変形実施例では、ナノチューブと混合する前に、液体の可塑剤と熱可塑性ポリマーから予備混合物を形成することができる。
【0047】
いずれの場合でも、得られた導電性ポリマー材料マトリックスを、ナノチューブを含まない他のポリマーマトリックスと一緒に共押出しダイへ送る。
【0048】
このダイはそれぞれ第1および第2のポリマー・マトリックスのための任意形状および配置の第1と第2の出口オリフィスを有し、第2のポリマーマトリックスは第1のポリマーマトリックスの周りに少なくとも部分的にシェルを形成する。本発明の第1変形例では、第1と第2のオリフィスが同心である。この場合、第2のオリフィスを第1のオリフィスの全外周に沿って配置するか、外周の一部だけに配置することができる。第2変形例では、第2のオリフィスを第1のオリフィスの外側に部分的に配置し、部分的に第1のオリフィスを通して配置する。従って、第1のオリフィスは例えば2つ半月の形にすることができる。さらに、本発明の繊維のコアはその横断面を円形、楕円形、正方形、長方形、三角形、多葉形にできる。多葉形にすることで繊維の織成段階で繊維の表面ラインを接続することができる。
【0049】
本発明方法では共押出段階後にさらに、得られた繊維を引張ること(drawing)に本質がある追加の段階を有することができる。この引張操作は非伝導性マトリックスの熱可塑性ポリマーのガラス遷移温度(Tg)以上の温度、必要な場合には導電性ポリマー材料マトリックスの熱可塑性ポリマーのTg以上の温度、好ましくは非伝導性マトリックスの熱可塑性ポリマーの融点以下の温度で行う。さらに、伝導性を改良するために上記の引張り加工段階は導電性ポリマー材料マトリックスの熱可塑性ポリマーの融解以上の温度で実行することもできる。この引張き加工段階は下記文献に記載の方法で行うことができる(この特許文献11に記載の内容は本明細書の一部を成す)。
【特許文献11】米国特許第US6 331 265号明細書
【0050】
この方法を行うことでナノチューブおよびポリマーを繊維の軸線に沿ってほぼ同じ方向に配向することができ、繊維の機械特性、特にその縦弾性係数(ヤング ジュラス)および強靭性(破壊強度)を改良することができる。引張加工の後の繊維の長さと引張る前の繊維の長さの比で定義される延伸比(draw ratio)は1〜20、好ましくは1〜10にするのが好ましい(両端を含む)。この引張加工は一回だけでも、複数回行ってもよい。各引張り作業の間に繊維をわずかに弛緩させることもできる。この引張加工段階は互いに異なる回転数で回転している一連のロール上に繊維を通すことで行うのが好ましい(巻き取りロールより繊維を受けるロールの方を低速にする)。繊維をロール間に配置した乾燥器に通すか、加熱ロールを用いるか、これらを組み合わせて所望の引張り温度にすることもできる。
【0051】
さらに、本発明方法で得られる多層伝導性繊維は本質的に伝導性である。すなわち導電性ポリマー材料マトリックスの固有抵抗値は外界温度で1O5 オーム.cm以下である。しかし、繊維のこの電気伝導率を加熱処理によってさらに改良することができる。
【0052】
本発明の多層伝導性繊維はロケットまたは飛行機のノーズ、ウイングまたはキャビン、オフショア可撓性パイプ強化材、自動車車体、エンジンのシャシ部品または支持部品、自動車の座席カバー、建設または土木分野の構造部材、静電気防止用外装材および織物、特に静電気防止カーテン、静電気防止衣類(例えば、安全ルームまたはクリーンルーム用)、サイロの保護材料、粉末または粒状物の包装および/または輸送材料、家具部品、特にクリーンルーム用部品、フィルタ、電磁遮蔽材、特に電子部品の保護、加熱織物、伝導ケーブル、センサー、特に機械的歪みまたはストレス用センサー、電極、水素貯蔵機材、生医学部品、例えば縫合糸、人工器官またはカテーテルの製造で使用できる。
【0053】
これらの複合材料部品は種々の方法で製造できるが、一般には少なくとも一種の熱可塑性、エラストマーまたは熱硬化性材料を含むポリマー組成物で繊維を含浸する段階を含む。この含浸段階は種々の方法、特に、使用する組成物の物理形状(粉末、液体の度合い)に依存した方法で実行できる。繊維の含浸はポリマー組成物が粉末の形をした流動床含浸法で行うのが好ましい。さらに、含浸ポリマーマトリックス材料は本発明の多層伝導性繊維の製造で使用した熱可塑性原料の少なくとも一種を含むのが好ましい。
【0054】
こうして得られた半製品を用いて所望の多層部品の完成品を製造することができる。互いに同一または異なる組成物の繊維で形成された各種の予備含浸したファブリックを積み重ね積層シートまたは原料を作ったり、熱成形プロセスに適した形にすることができる。変形例ではフィラメントワインディング法で使用可能なストリップの形に繊維を結合し、ストリップを製造すべき部品の形状をしたマンドレルの周りにワインディングして任意形状の中空部品に製造することができる。全ての場合、例えば局所的に溶融して繊維を他の部品に取付ける領域を作り、および/または、フィラメントワインディングプロセスで繊維ストリップを一体化して、ポリマー組成物を圧密化する段階を経て最終部品が製造される。
【0055】
他の変形例では含浸組成物から押出し加工またはカレンダー加工で例えば約100μmの厚さのフィルムを作り、そのフィルムを本発明で作った2枚の繊維マット間に配置し、全体をホットプレスして繊維を含浸して、複合材料を製造する。
【0056】
これらのプロセスでは本発明の多層繊維をそれ単独で、または、他の繊維と一緒に織成または編成してフェルトまたは不織布原料を製造することができる。そうした他の繊維成分原料の例としては下記を挙げることができる。しかし、下記のものに限定されるものではない:
(1)延伸したポリマー繊維、特に下記をベースにしたもの:ポリアミド、例えばポリアミド6(PA-6)、ポリアミド11(PA-11)、ポリアミド12(PA-12)、ポリアミド6.6(PA-6.6)、ポリアミド4.6(PA-4.6)、ポリアミド6.10(PA-6.10)またはポリアミド/ポリエーテルブロック共重合体(Pebax、登録商標)、ポリアミド6.12(PA-6.12)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、例えばポリヒドロキシアルカノエート、デュポン(Du Font)社からHytrelの名称で市販のポリエステル、
(2)炭素繊維、
(3)ガラス繊維、特にタイプE、RまたはS2のガラス、
(4)アラミド繊維、(ケブラー、登録商標)
(5)硼素繊維、
(6)シリカ繊維、
(7)天然繊維、例えば亜麻、大麻、サイザル、綿、羊毛または絹、
(8)上記の混合物、例えばガラス繊維、炭素繊維およびアラミド繊維の混合物。
【0057】
本発明の他の対照は、織成またはポリマーマトリックスを用いて接着した多層繊維から成る複合材料にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)と(2)から成る多層伝導性繊維:
(1)少なくとも一種の熱可塑性ポリマーと、熱伝導および/または電気伝導を与える周期律表の第IIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの元素のナノチューブの分散物とを含む第1のポリマーマトリックスから成るコア、
(2) 周期律表の第IIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの元素のナノチューブの分散物は含まない、ポリ(ビニールアルコール)以外の少なくとも一種の熱可塑性ポリマーから成る第2のポリマーマトリックスから成るシェル。
【請求項2】
繊維のコアが固体構造を形成している請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
ナノチューブがカーボンナノチューブである請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
第1および/または第2のポリマーマトリックスの熱可塑性ポリマーが下記の中から選択をされる請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維:
(1)ポリアミド、例えばポリアミド6(PA−6)、ポリアミド11(PA−11)、ポリアミド12(PA−12)、ポリアミド6.6(PA−6.6)、ポリアミド4.6(PA−4.6)、ポリアミド6.10(PA−6.10)およびポリアミド6.12(PA−6.12)並びにアミド・モノマーと、他のモノマー、例えばポリテトラメチレン・グリコール(PTMG)を含むコポリマー、特にブロック共重合体、
(2)芳香族ポリアミド、例えばポリフタルアミド、
(3)下記(i)および(ii)の中から選択されるフルオロポリマー:
(i)式(I)の少なくとも一つのモノマーを少なくとも50モル%有するフルオロポリマー:
CFX1=CX23 (I)
(ここで、X1、X2およびX3はそれぞれ独立して水素またはハロゲン原子、特に弗素または塩素原子を表し、例えばポリ(ビニリデンフルオライド)(PVDF)好ましくはα形、ポリ(三フッ化エチレン)(PVF3)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレン(HFP)または三フッ化エチレン(VF3)またはテトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、フルオロ−エチレン/プロピレン(FEP)コポリマーまたはエチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)またはテトラフルオロエチレン(TFE)またはクロルトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、
(ii)式(II)の少なくとも一つのモノマーを少なくとも50モル%含むフルオロポリマー:
R−O−CH=CH2 (II)
(ここで、Rはパーハロゲノ(特にパーフルオロ)アルキル基、例えばペルフルオロプロピル・ビニールエーテル(PPVE)、ペルフルオロエチルビニールエーテル(PEVE)およびエチレンとペルフルオロメチルビニールエーテルのコポリマー(PMVE)
(4)ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)およびポリエーテルケトンケトン(PEKK)、
(5)ポリ(ビニルクロライド)、
(6)ポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびエチルとプロピレンのコポリマー(PE/PP)(これらは官能化されていてもよい)
(7)熱可塑性ポリウレタン(TPU)、
(8)ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート、
(9)シリコーンポリマ、
(10)アクリル重合体、
(11)上記の混合物またはアロイ。
【請求項5】
ナノチューブを含むポリマーマトリックスがPVDF、PA−11、PA−12、PEKKおよびPEの中から選択をされる少なくとも一種のポリマーから成る請求項4に記載の繊維。
【請求項6】
ナノチューブを含むコアが0.1〜30重量%、好ましくはから0.5〜10重量%のナノチューブを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の繊維の製造方法であって、横断面がコアの形状を有する第1のポリマーマトリックスが供給される第1の出口オリフィスと、横断面がシェルの形状を有する第2のポリマーマトリックスが供給される第2の出口オリフィスとから成る開口を有するダイを介して上記2つのポリマー・マトリックスを共押出しする段階を有することを特徴とする方法。
【請求項8】
コアの横断面が円形、楕円形、正方形、長方形、三角形または多葉形である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2のオリフィスの一部が第1のオリフィスの周りに配置され、その一部が第1のオリフィスを通って配置されている請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
第1のオリフィスと第2のオリフィスとが同心である請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法で得られる多層伝導繊維。
【請求項12】
ロケットまたは飛行機のノーズ、ウイングまたはキャビン、オフショア可撓性パイプ強化材、自動車車体、エンジンシャシ部分または支持部品、自動車の座席カバー、建設または土木分野の構造部材、静電気防止用外装材および織物、特に静電気防止カーテン、静電気防止衣類(例えば、安全ルームまたはクリーンルーム用)、サイロの保護材料、粉末または粒状物の包装および/または輸送材料、家具部品、特にクリーンルーム用部品、フィルタ、電磁遮蔽材、特に電子部品の保護、加熱織物、伝導ケーブル、センサー、特に機械的歪みまたはストレス用センサー、電極、水素貯蔵機材、生医学部品、例えば縫合糸、人工器官またはカテーテルの製造での請求項11に記載の多層伝導繊維の使用。
【請求項13】
織成またはポリマーマトリックスを使用して互いに接着した、請求項11に記載の多層繊維から成る複合材料。

【公表番号】特表2012−528253(P2012−528253A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512437(P2012−512437)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051026
【国際公開番号】WO2010/136729
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【Fターム(参考)】