説明

多層体

【課題】PETフィルムとのラミネート強度が良好で、保香性や耐薬品性に優れる積層フィルムを提供する。
【解決手段】外面側から、少なくとも基材層、接着剤樹脂層、PET層、接着剤樹脂層、およびシーラント層からなる多層体において、接着剤樹脂層が1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤を主成分とする接着剤の硬化により形成され、アミン系硬化剤がメタキシリレンジアミンとジカルボン酸成分との反応生成物であり、ジカルボン酸成分の70モル%以上が炭素数18〜36の脂肪族ジカルボン酸であり、接着剤樹脂の破断伸び率(JISK−7161に準拠。幅10mm、厚み30μm、引張速度10mm/min)が100〜700%であることを特徴とする多層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内容物の保存を目的とした食品、医薬品、感光材料、タバコなどの包装材料に使用される多層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムはその優れた透明性や腰(印刷適性)や耐熱性を生かして、各種食品、医薬品、感光材料、タバコなどの包装材料に使用されてきた。PETフィルムを包装材料に利用するにあたっては、接着などの加工性の付与や、強度向上のため、主としてポリオレフィンから成るシーラント層やポリアミドからなる層と組み合わせて使用されている。また、水蒸気や各種ガスのバリア性を付与するため、アルミニウム箔や、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)フィルムやPVDCによるコートフィルム、ポリビニルアルコール(PVA)によるコートフィルムやエチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)や無機酸化物を蒸着したフィルムと組み合わせて使用されている。これらの多層体を作製するにあたり、接着剤を使用する場合は、ポリウレタン系接着剤を使用することが一般的である。
【0003】
近年、PETフィルムのバニラ、シナモン、ガーリック、コーヒー、ココア、日本茶等の香辛料に対する優れた保香性や、耐酸性、有機溶剤に対する優れたバリア性が認められており、バリアフィルムとしての使用が増えてきている。例えば、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着フィルムやアルミナ蒸着フィルムは酸に弱いため、これらを使用した多層体では中間層に耐酸性に優れたPETフィルムが配置されることが多い。また、同様に耐溶剤性や、耐油性、保香性を持たせるため、多層体の中間層にPETフィルムが配置されることが多い。
しかしながら、従来接着剤層にはウレタン系接着剤が用いられており、通常の内容物に対しては内容物保存後のラミネート強度は良好であり問題はないが、サリチル酸メチル等の医薬品を収納した場合には、薬品が接着層に浸透してしまい、多層体のラミネート強度が低下し、包装体の中身を安定して保存することができないという耐薬品性の問題があった。
【0004】
多層フィルムの耐薬品性の改善方法として、熱可塑性樹脂からなる外層、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂からなる内層、およびエポキシ樹脂組成物を主成分とする積層用接着剤を用いて形成した接着層を含むガスバリア性積層フィルムを用いて食品を密封する食品の保存方法であって、該エポキシ樹脂組成物により形成されるエポキシ樹脂硬化物中に(1)式の骨格構造を40重量%以上含有することを特徴とする保存方法が提案されている(特許文献1参照。)。この接着剤は、耐薬品性に優れるものの、多層体の中間層にPETフィルムを使用した場合、ややPETフィルムに対する接着性が低く、ラミネート強度が安定しないという問題があった。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公開2006−280845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の中間層にPETフィルムを用いた積層フィルムが有する上記問題を解決し、ラミネート強度が良好で、保香性と耐薬品性に優れた積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のエポキシ樹脂組成物を主成分とする接着剤を用いて作製した多層体が、ラミネート強度が良好で、耐内容物性に優れることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、つぎの通りである。
1. 外面側から、少なくとも基材層、接着剤樹脂層、PET層、接着剤樹脂層、およびシーラント層からなる多層体において、接着剤樹脂層が1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤を主成分とする接着剤の硬化により形成され、アミン系硬化剤がメタキシリレンジアミンとジカルボン酸成分との反応生成物であり、ジカルボン酸成分の70モル%以上が炭素数18〜36の脂肪族ジカルボン酸であり、接着剤樹脂の破断伸び率(JISK−7161に準拠。幅10mm、厚み30μm、引張速度10mm/min)が100〜700%であることを特徴とする多層体。
2. 前記脂肪族ジカルボン酸がダイマー酸であることを特徴とする第1項に記載の多層体。
3. 前記エポキシ樹脂がメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂およびビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂である第1項または第2項に記載の多層体。
4. 前記エポキシ樹脂がメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂である第1項〜第3項のいずれかに記載の多層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層体におけるPET層とその他の熱可塑性樹脂層と隣接する層との接着に使用されるラミネート用接着剤が、各種フィルム材料に対する好適な接着性能に加え、高い耐内容物性を有する事を特徴としていることから、内容物によるラミネート強度の低下が小さく、保香性や耐内容物性に優れたPET積層フィルムが得られ、耐内容物性が要求される食品や医薬品などの包装材料を始めとする様々な用途に応用される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多層体は、外面側より、少なくとも基材層、接着剤樹脂層、PET層、接着剤樹脂層、シーラント層からなる積層フィルムである。ここで、PET層は外面側にアルミニウムやアルミナ等の金属又は金属酸化物を蒸着したPETフィルムを用いてもよい。また、水蒸気や各種ガスのバリア性を付与するため、バリア層を用いても良い。
層構成を例示すると、基材層/接着剤樹脂層/PET/接着剤樹脂層/シーラント層、基材層/接着剤樹脂層/アルミニウム蒸着PET/接着剤樹脂層/シーラント層、基材層/接着剤樹脂層/バリア層/接着剤樹脂層/PET/接着剤樹脂層/シーラント層、基材層/接着剤樹脂層/バリア層/接着剤樹脂層/アルミニウム蒸着PET/接着剤樹脂層/シーラント層などが挙げられる。
基材層とは、積層フィルムに機械的性能、美麗性、印刷適性などを付与する目的で設けられる層であり、具体的には、延伸ナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートなどの延伸ポリエスエテルフィルム、延伸ポリプロピレンフィルム等が選択される。これらの基材層を構成するフィルムの厚さは10〜30μm程度が好ましい。グラビア印刷等、従来公知の方法で印刷が施されていても本発明に充分供しうる。
【0011】
シーラント層はヒートシール性を付与するために設けられる層であり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンやヒートシール性を有するナイロンやポリエステルなどの一般に使用されているヒートシール性を有する熱可塑性ポリマーフィルムが使用されるが、良好なヒートシール性の発現を考慮した場合には、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系フィルムを選択することが好ましい。これらのフィルムの厚さは、10〜300μm程度、好ましくは10〜100μm程度が実用的であり、フィルムの表面には火炎処理やコロナ放電処理などの各種表面処理が実施されていてもよい。
【0012】
本発明の多層体におけるバリア層は、金属箔または金属蒸着層などのバリア層のほかに、ポリビニルアルコール、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ナイロンMXD6等のバリア性ポリアミド、ポリエチレンナフタレートやイソフタル酸−レゾルシノールエチレンオキサイド付加物共重合ポリエチレンテレフタレート等のバリア性ポリエステルから成るバリア層が使用しうる。
【0013】
本発明の多層体において、接着剤樹脂層は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤を主成分とする接着剤の硬化により形成され、アミン系硬化剤がメタキシリレンジアミンとジカルボン酸成分との反応生成物であり、ジカルボン酸成分の70モル%以上が炭素数18〜36の脂肪族ジカルボン酸の少なくとも1種の酸である。該接着剤樹脂層はPETフィルムや熱可塑性樹脂を接着させる働きを有し、医薬品保存後もラミネート強度の低下が小さく、破袋や内容物の漏れを防止する働きを有する。接着剤樹脂の破断伸び率(JISK−7161に準拠)が高いことにより、PETフィルムへの高い接着性が発現する。
また、アミン系硬化剤はメタキシリレンジアミン骨格が高いレベルで含有されることにより、高い耐内容物性が発現する。アミン系硬化剤中のメタキシリレンジアミン骨格の含有量は好ましくは5重量%、より好ましくは10重量%、特に好ましくは15重量%である。
【0014】
本発明の多層体に使用される接着剤樹脂層は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤を主成分とする接着剤の硬化により形成される。この硬化により得られる接着剤樹脂(エポキシ樹脂硬化物)の破断伸び率(JISK−7161に準拠、30μm、引張速度10mm/min)は、100%以上、好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上である。接着剤樹脂層を形成するエポキシ樹脂硬化物の破断伸び率が高いことにより、柔軟性が向上し、PETフィルムへの高い接着性が発現する。以下に、エポキシ樹脂硬化物を形成するエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤について説明する。
【0015】
本発明におけるエポキシ樹脂は飽和または不飽和の脂肪族化合物や脂環式化合物、芳香族化合物、あるいは複素環式化合物のいずれであってよいが、塗布作業性を考慮した場合には基本液状タイプまたは溶剤に可溶なエポキシ樹脂が好ましい。
【0016】
具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂およびレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂が挙げられる。
【0017】
この中でもメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂が特に好ましい。具体的には三菱ガス化学(株)製のTETRAD-X、ジャパンエポキシレジン(株)製のビスフェノールA型基本液状樹脂であるJER828、ビスフェノールF型基本液状樹脂であるJER807などが挙げられる。
【0018】
また、柔軟性や耐衝撃性、耐湿熱性などの諸性能を向上させるために、上記の種々のエポキシ樹脂を適切な割合で混合して使用することもできる。
【0019】
アミン系硬化剤は、メタキシリレンジアミンとジカルボン酸成分との反応生成物であり、ジカルボン酸成分の70モル%以上が炭素数18〜36の脂肪族ジカルボン酸である。
【0020】
ジカルボン酸は、シクロヘキサノンを主原料として合成される炭素数18〜22の脂肪族二塩基酸や、炭素数36のダイマー酸が挙げられる。
【0021】
シクロヘキサノンを主原料として合成される炭素数18〜22の脂肪族二塩基酸は、典型的な市販品の例としては、岡本製油(株)の炭素数20のUB−20(化学名:12−ビニル−8−オクタデセン二酸、含有量90%、酸価305−340)や炭素数22のIPU−22(化学名:8,13−ジメチル−8,12−エイコサジエン二酸、含有量90%、酸価280−320)が挙げられる。
【0022】
ダイマー酸は、炭素数18の不飽和脂肪酸を2量化して得られる炭素数36の脂肪族2塩基酸である。ダイマー酸は、天然の油脂脂肪酸であるトール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、菜種油脂肪酸、サフラワ油脂肪酸,綿実油脂肪酸等を熱重合させたものである。ダイマー酸は、「ダイマー酸」として市販されており、典型的な市販品の例としては、築野食品工業(株)製のツノダイム395(組成:ダイマー成分90%以上、トリマー成分5%以下、モノマー成分5%以下、酸価191−199、粘度5500〜7000mPa・s)が挙げられる。
【0023】
HPLCによる測定でダイマー成分が約70%〜約99%の範囲であり、そしてトリマー及びより高い酸の成分は約0.1%〜約20%であり、その残りがモノマーの脂肪酸である、ダイマー酸が本発明の目的に適している。しかしながら、トリマー及びより高い脂肪酸の官能基が多いほど分岐が増えそして生成物における分子量が増加し、そしてさらには生成物をゲル化することがあるので好ましくない。
【0024】
好ましいダイマー酸成分は、70%〜99%のダイマーの酸の範囲を有するものであり、築野食品工業(株)製のツノダイム395、395R、398、398R、205(W)、216(W)、228が挙げられる。
【0025】
本発明においてダイマー酸と組み合わせて脂肪酸を使用してもよい。この脂肪酸は、0〜4つの不飽和ユニットを有するC8〜C22、好ましくはC16からC22の、モノカルボン酸を含む。通常、このような脂肪酸は、天然製品、例えばババス、カストリウム、ココナツ、トウモロコシ、綿実、ブドウの種、大麻の種、カポック、亜麻の種、ワイルドマスタード、オイチシカ、オリーブ、オウリ−キュリ(ouri−curi)、ヤシ、ヤシの核、ピーナツ、シソ、ポピーの種、菜種、紅花、ゴマ、大豆、サトウキビ、ひまわり、トール(tall)、茶の種、バターの木、ユチューバ(uchuba)、又はクルミ油、のトリグリセリドから派生した混合物である。純粋な脂肪酸又は純粋な脂肪酸の混合物、例えばステアリン酸、パルチミン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の酸、等も採用されてもよく、これらの脂肪酸のいずれかでの種々のエステル、特にC1〜C4のエステルが採用可能である。モノマー酸としても知られるイソステアリン酸も実用的である。モノマー酸は大部分がダイマー酸の調合から派生したC18脂肪モノ酸の流れである。
【0026】
メタキシリレンジアミンとジカルボン酸成分との反応比は、メタキシリレンジアミンに対するジカルボン酸のモル比で0.51〜0.95の範囲が好ましく、0.80〜0.95が特に好ましい。0.51より少ない比率では、接着剤樹脂(エポキシ樹脂硬化物)の破断伸び率が小さく、PETフィルムに対する接着性が低下する。また、0.95より高い範囲では、ラミネート用溶剤であるメタノールやエタノールおよびイソプロパノール等のアルコール類に対する溶解度が低下するため好ましくない。また高粘度となるためラミネート時の作業性が低下するため好ましくない。
本発明で用いられるアミン系硬化剤のアミン当量は、好ましくは500〜7000の範囲、より好ましくは1500〜7000の範囲、特に好ましくは3000〜6000の範囲である。なお、アミン当量はJIS K7237に指定されている全アミン価試験方法により求めることができる。
【0027】
本発明で用いられるアミン系硬化剤の合成法は、特に限定されることなく公知の方法が用いられる。たとえば、メタキシリレンジアミン中にダイマー酸を投入後、加温し反応させる方法が挙げられる。
【0028】
本発明で使用する接着剤の主成分であるエポキシ樹脂とアミン系硬化剤の配合割合については、一般にエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との反応によりエポキシ樹脂硬化物を作製する場合の標準的な配合範囲であってよい。具体的には、エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するアミン系硬化剤中の活性水素数の比が0.2〜5.0、好ましくは0.6〜4.0の範囲である。
【0029】
本発明で使用する接着剤には各種フィルム材料に塗布時の表面の湿潤を助けるために、必要に応じてシリコンあるいはアクリル系化合物といった湿潤剤が添加されていても良い。適切な湿潤剤としては、ビックケミー社から入手しうるBYK331、BYK333、BYK348、BYK381などがある。これらを添加する場合には、接着剤組成物の全重量を基準として0.01〜2.0重量%の範囲が好ましい。
【0030】
本発明で使用する接着剤にはラミネート直後の粘着性を向上させるために、必要に応じてキシレン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂などの粘着付与剤を添加しても良い。これらを添加する場合には、接着剤組成物の全重量を基準として0.01〜5.0重量%の範囲が好ましい。
【0031】
本発明における接着剤樹脂層の耐薬品性、耐衝撃性、耐熱性などの諸性能を向上させるために、接着剤樹脂層形成用の接着剤の中にシリカ、アルミナ、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレークなどの無機充填剤を添加しても良い。フィルムの透明性を考慮した場合には、このような無機フィラーが平板状であることが好ましい。これらを添加する場合には、接着剤組成物の全重量を基準として0.01〜10.0重量%の範囲が好ましい。
【0032】
さらに、本発明における接着剤樹脂層のアルミニウム箔やプラスチックフィルム材料に対する接着性を向上させるために、接着剤の中にシランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤を添加しても良い。これらを添加する場合には、接着剤組成物の全重量を基準として0.01〜5.0重量%の範囲が好ましい。
【0033】
本発明の多層体を作製する場合には、ドライラミネート、ノンソルベントラミネート、押出しラミネート等公知のラミネート法を用いることが可能である。
【0034】
本発明で使用する接着剤をフィルム材料に塗布し、ラミネートする場合には、接着剤樹脂層となるエポキシ樹脂硬化反応物を得るのに十分な接着剤組成物の濃度および温度で実施されるが、これは開始材料およびラミネート方法の選択により変化し得る。すなわち、接着剤組成物の濃度は選択した材料の種類およびモル比、ラミネート方法などにより、溶剤を用いない場合から、ある種の適切な有機溶剤および/または水を用いて約5重量%程度の組成物濃度に希釈する場合までの様々な状態をとり得る。適切な有機溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどの非水溶性系溶剤、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのグリコールエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどのアルコール類、N, N-ジメチルホルムアミド、N, N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられるがエタノール、酢酸エチル、2-プロパノールなどの比較的低沸点溶剤が好ましい。また、溶剤を使用した場合には塗布後の溶剤乾燥温度は室温から約180℃までの様々なものであってよい。接着剤組成物をフィルム材料に塗布する際の塗装形式としては、ロール塗布やスプレー塗布、エアナイフ塗布、浸漬、はけ塗りなどの一般的に使用される塗装形式のいずれも使用され得る。ロール塗布またはスプレー塗布が好ましい。例えば、ポリウレタン系接着剤成分をフィルム材料に塗布し、ラミネートする場合と同様のロールコートあるいはスプレー技術および設備が適用され得る。
【0035】
続いて、各ラミネート方法での具体的な操作について説明する。ドライラミネート法の場合には、基材となるフィルム材料に本発明で使用する接着剤の有機溶剤および/または水による希釈溶液をグラビアロールなどのロールにより塗布後、溶剤を乾燥させ直ちにその表面に新たなフィルム材料を貼り合わせることにより積層フィルムを得ることができる。この場合、ラミネート後に必要に応じて室温〜60℃で一定時間のエージングを行ない、硬化反応を完了することが望ましい。一定時間のエージングを行なうことにより、十分な反応率でエポキシ樹脂硬化反応物が形成され、高い耐薬品性と接着性が発現する。
【0036】
また、ノンソルベントラミネート法の場合には、基材となるフィルム材料に予め40〜100℃程度に加熱しておいた本発明で使用する接着剤を40℃から120℃に加熱したグラビアロールなどのロールにより塗布後、直ちにその表面に新たなフィルム材料を貼り合わせることによりラミネートフィルムを得ることができる。この場合もドライラミネート法の場合と同様にラミネート後に必要に応じて一定時間のエージングを行なうことが望ましい。
【0037】
押出しラミネート法の場合には、基材となるフィルム材料に接着補助剤(アンカーコート剤)として本発明で使用する接着剤の主成分であるエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤の有機溶剤および/または水による希釈溶液をグラビアロールなどのロールにより塗布し、室温〜140℃で溶剤の乾燥、硬化反応を行なった後に、押出し機により溶融させたポリマー材料をラミネートすることによりラミネートフィルムを得ることができる。溶融させるポリマー材料としては低密度ポリエチレン樹脂や直線状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0038】
本発明で使用する接着剤を各種フィルム材料等に塗布、乾燥、貼り合わせ、熱処理した後の接着剤樹脂層の厚さは0.1〜100μm、好ましくは0.5〜10μmが実用的である。0.1μm以下では十分な耐内容物性および接着性が発揮し難く、一方100μm以上では均一な厚みの接着剤樹脂層を形成することが困難になる。
【0039】
本発明の多層体におけるPET層およびその他の熱可塑性樹脂層と隣接する層との接着に使用される接着剤が、各種フィルム材料に対する好適な接着性能に加え、高い耐内容物性を有する事を特徴としていることから、内容物によるラミネート強度の低下が小さく、保香性や耐内容物性に優れたPET積層フィルムが得られ、耐内容物性が要求される食品や医薬品などの包装材料を始めとする様々な用途に応用される。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を紹介するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0041】
<アミン系硬化剤A>
反応容器に1molのメタキシリレンジアミンを仕込んだ。窒素気流下90℃に昇温し、0.90molのダイマー酸(築野食品工業(株)製ツノダイム395)を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃で1時間攪拌し、さらに、生成する水を留去しながら3時間で180℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が60重量%になるように所定量のエタノールを加え、アミン系硬化剤Aを得た。固形分のアミン当量は3300であった。
【0042】
<アミン系硬化剤B>
反応容器に1molのメタキシリレンジアミンを仕込んだ。窒素気流下90℃に昇温し、0.93molのダイマー酸(築野食品工業(株)製ツノダイム395)を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃で1時間攪拌し、さらに、生成する水を留去しながら3時間で180℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が60重量%になるように所定量のエタノールを加え、アミン系硬化剤Bを得た。固形分のアミン当量は5600であった。
【0043】
<アミン系硬化剤C>
反応容器に1molのメタキシリレンジアミンを仕込んだ。窒素気流下90℃に昇温し、0.80molのダイマー酸(築野食品工業(株)製ツノダイム395)を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃で1時間攪拌し、さらに、生成する水を留去しながら3時間で180℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が60重量%になるように所定量のエタノールを加え、アミン系硬化剤Cを得た。固形分のアミン当量は1700であった。
【0044】
<アミン系硬化剤D>
反応容器に1molのメタキシリレンジアミンを仕込んだ。窒素気流下90℃に昇温し、0.50molのダイマー酸(築野食品工業(株)製ツノダイム395)を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃で1時間攪拌し、さらに、生成する水を留去しながら3時間で180℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が60重量%になるように所定量のエタノールを加え、アミン系硬化剤Dを得た。固形分のアミン当量は400であった。
【0045】
<アミン系硬化剤E>
反応容器に1molのメタキシリレンジアミンを仕込んだ。窒素気流下60℃に昇温し、0.90molのアクリル酸メチルを1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃で1時間攪拌し、さらに、生成するメタノールを留去しながら3時間で160℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が70重量%になるように所定量のメタノールを加え、アミン系硬化剤Eを得た。固形分のアミン当量は180であった。
【0046】
<アミン系硬化剤F>
反応容器に1molのメタキシリレンジアミンを仕込んだ。窒素気流下90℃に昇温し、0.93molの岡村製油(株)製UB-20(炭素数20のジカルボン酸)を1時間かけて滴下した。滴下終了後100℃で1時間攪拌し、さらに、生成する水を留去しながら3時間で180℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が53重量%になるように所定量のエタノールを加え、アミン系硬化剤Fを得た。固形分のアミン当量は3500であった。
【0047】
また、接着剤樹脂の伸び率、ラミネート強度等の評価方法は以下の通りである。
【0048】
<接着剤樹脂の破断伸び率(%)>
エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤と溶剤を所定量混合して、よく攪拌して塗布液を調製した。この塗布液をバーコーターNo.60を使用して塗布し、40℃で2日間乾燥させ、厚み30μmの接着剤樹脂を得た。破断伸び率測定は、JIS K-7161に指定されている方法を用い、10mm幅、10mm/minの引張速度にて行った。
【0049】
<ラミネート強度 (g/15mm)>
積層フィルムのラミネート強度を測定した。測定は、JIS K-6854に指定されている方法を用い、T型剥離試験により15mm幅、300mm/minの剥離速度にて行った。
【0050】
<耐内容物性試験>
積層フィルム2枚(大きさ縦150mm×横100mm)を用意し、その低密度ポリエチレンフィルムの面を対向させて重ね合わせ、その外周周辺の端部を三方ヒートシールしてシール部を形成させ、上方に開口部を有する三辺シール型の包装用袋を作製した。作製した三辺シール型の包装用袋内に、その開口部からサリチル酸メチルを100g充填し、開口部をヒートシールにより密封して包装体を製造した。この包装体を40℃で、2週間保存した後、積層フィルムのラミネート強度を調査した。
【0051】
<実施例1>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)を10重量部およびアミン系硬化剤Aを280重量部含むエタノール/酢酸エチル=1/1溶液(固形分濃度;35重量%)を作製し、そこにシランカップリング剤(東レ・ダウコーニング(株)製;DOW CORNING(R) Z-6050 SILANE)を5.3重量部加え、よく攪拌して塗布液Hを調製した。この塗布液Hを厚み12μmの延伸PETフィルムにバーコーターNo.8を使用して塗布し(塗布量:4 g/m2(固形分))、85℃で10秒乾燥させた後、厚み15μmのナイロンフィルムをニップロールにより貼り合わせた。次いで、PETフィルムのナイロンフィルムを貼っていない側に、塗布液HをバーコーターNo.8を使用して塗布し(塗布量:4 g/m2(固形分))、85℃で10秒乾燥させた後、厚み40μmの低密度ポリエチレンフィルムをニップロールにより貼り合わせた後、40℃で2日間エージングすることによりPET積層フィルムを得た。接着剤樹脂の破断伸び率は350%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例2>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)の代わりにビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製;JER807)を17重量部用いた塗布液Iを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は400%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例3>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)を6重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Bを280重量部用いた塗布液Jを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は390%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
<実施例4>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)の代わりにビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製;JER807)を10重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Bを280重量部用いた塗布液Kを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は430%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
<実施例5>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)を23重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Cを280重量部用いた塗布液Lを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は210%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
<実施例6>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)の代わりにビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製;JER807)を38重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Cを280重量部用いた塗布液Mを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は240%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
<実施例7>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)を9重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Fを280重量部用いた塗布液Nを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は160%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
<比較例1>
エポキシ系接着剤塗布液として、エポキシ樹脂(三井化学ポリウレタン(株)製;タケラックA-369)を10重量部、エポキシ樹脂硬化剤(三井化学ポリウレタン(株)製;タケネートA-19(ウレタン系))を1重量部含むイソプロピルアルコール溶液(固形分濃度;35重量%)を作製し、実施例1の接着剤塗布液Hの代わりに用いた以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は580%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
<比較例2>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)を5重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Eを16重量部用いた塗布液Oを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は4%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
<比較例3>
ポリウレタン系接着剤塗布液として、ポリエステル成分(東洋モートン(株)製;TM-251)を17重量部、ポリイソシアネート成分(東洋モートン(株)製;CAT-RT88)を3.4重量部含む酢酸エチル溶液(固形分濃度;30重量%)を作製し、実施例1の接着剤塗布液Hの代わりに用いた以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は600%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例4>
メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD-X)を85重量部用いて、アミン系硬化剤Aの代わりにアミン系硬化剤Dを280重量部用いた塗布液Pを使用した以外は実施例1と同様の方法で作製した。接着剤樹脂の破断伸び率は43%であった。得られた積層フィルムについてそのラミネート強度及び耐内容物性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面側から、少なくとも基材層、接着剤樹脂層、PET層、接着剤樹脂層、およびシーラント層からなる多層体において、接着剤樹脂層が1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂およびアミン系硬化剤を主成分とする接着剤の硬化により形成され、アミン系硬化剤がメタキシリレンジアミンとジカルボン酸成分との反応生成物であり、ジカルボン酸成分の70モル%以上が炭素数18〜36の脂肪族ジカルボン酸であり、接着剤樹脂の破断伸び率(JISK−7161に準拠。幅10mm、厚み30μm、引張速度10mm/min)が100〜700%であることを特徴とする多層体。
【請求項2】
前記脂肪族ジカルボン酸がダイマー酸であることを特徴とする請求項1に記載の多層体。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂がメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂およびビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂である請求項1または2に記載の多層体。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂がメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の多層体。

【公開番号】特開2011−11460(P2011−11460A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157743(P2009−157743)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】