説明

多層型プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池

【課題】高濃度のメタノールを使用して発電する場合でも、メタノールクロスオーバーを低減でき、高プロトン伝導性及び高燃料遮断性を有するプロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池の提供。
【解決手段】プロトン伝導性膜の片面又は両面に、プロトン伝導性膜に対して表面方向のプロトン伝導性が同等以上である高プロトン伝導層が積層され、一方の高プロトン伝導層又はプロトン伝導性膜上に、さらにメタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上がこの順で積層されている多層型プロトン伝導性膜であって、前記メタノール遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対してメタノール遮断性が同等以上であり、前記保水層は、前記プロトン伝導性膜に対して単位質量あたりの保水性が同等以上であり、前記ガス遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対してガス遮断性が0.1倍以上であることを特徴とする多層型プロトン伝導性膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層型プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、それを構成する電解質の種類により、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類されるが、なかでも固体高分子形燃料電池(以下、PEFCと略記することがある)は、他の方式に比べて、装置が小型かつ高出力であるため、小規模オンサイト型発電用、車両等の移動体用や携帯機器用の電源等として、次世代の主力を担うシステムと位置付けられている。
【0003】
PEFCの基本構造では、プロトン(水素イオン)伝導性膜の両側に、白金等の触媒が担持された電極が配置され、さらにその両外側に燃料を供給するための構造を有する一対のセパレータが配置されている。この基本構造を単位セルとして、隣り合う複数セルを相互に連結することで、所望の電力を取り出すことが可能となる。このような接合体の片側(一般的にアノード又は燃料極と呼ばれる)から、例えば、水素を燃料として供給すると、燃料極側では、触媒により「H→2H+2e」の反応が起こり、プロトンと電子が生じる。ここで、プロトンは、電極に接触しているプロトン伝導性膜を通して反対極(一般的にカソード又は酸素極と呼ばれる)側に供給される。また、電子は、燃料極側の電極で集電され、電気として使用された後、酸素極側に供給される。一方、酸素極側では、供給された酸素、プロトン伝導性膜を通過してきたプロトン、電気として使用された電子を受け取り、触媒により、「1/2O+2H+2e→HO」の反応が起こる。
【0004】
このように、燃料電池の作動による化学反応は、プロトン伝導性膜と触媒が担持されたガス拡散電極との界面部分で起こるため、膜、電極及び触媒の界面構造が、発電効率、性能面等に大きく影響する。プロトン伝導性膜とガス拡散電極との接合体は、一般に「膜−電極接合体」(Membrane/Electrode Assembly、MEA)と呼ばれ、燃料電池の主要な技術開発分野の一つとなっている。
【0005】
MEAにおいては、膜、触媒、電極が適度な界面を介して結合されている必要がある。すなわち、燃料極側を例として挙げれば、燃料である水素等が触媒表面に接触でき、水素から発生したプロトンと電子がそれぞれ膜、電極に効率的に受け渡される必要がある。現在のところ、燃料電池用のプロトン伝導性膜及び触媒の電極構造を形成する電極バインダーとして最も標準的に使用されているものは、熱可塑性を有するスルホン化フッ素系樹脂(代表例:ナフィオン(登録商標)(DuPont社製))である。
【0006】
しかし、熱可塑性を有するスルホン化フッ素系樹脂は、固体高分子形燃料電池を稼働する際の耐熱性が不足するという問題点があった。即ち、スルホン酸基(スルホ基、−SOH)の凝集によりイオンチャネルが形成され、高いプロトン伝導性を発揮するものの、熱可塑性を有するが故に、特定の温度以上では塑性変形し、イオンチャネル構造が破壊されてしまうのである。このため、ガラス転移温度(Tg)である約130℃以上の温度では短時間で、また100〜130℃でも徐々に塑性変形し、プロトン伝導性が低下すると共に、高燃料遮断性を維持することが難しい。
【0007】
一方、近年、燃料電池の燃料としてアルコール、エーテル、炭化水素類等の水素以外の燃料を使用し、触媒によりこれらの燃料からプロトンと電子とを取り出す燃料電池も検討されている。このような燃料電池の代表例は、メタノール(通常、水溶液として使用する)を燃料とする直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCと略記する)である。DMFCは外部改質器を必要とせず、燃料の取り扱いが容易であるため、多様な種類の燃料電池の中でも、小型、携帯用電源として最も期待されている。
【0008】
しかしながら、前述のスルホン化フッ素系樹脂膜は、メタノールとの親和性が極めて高いことから、メタノールを吸収することで大きく膨潤してしまい、メタノールが、膨潤したプロトン伝導性膜を透過し、カソード側へ漏れ出す、いわゆるメタノールクロスオーバーが発生し、燃料電池の出力が大きく低下してしまうという深刻な問題点があった。
【0009】
一方、スルホン化フッ素系樹脂以外についても、炭化水素系、無機系等、様々な種類のプロトン伝導性膜が盛んに開発されている。例えば、有機ケイ素化合物は、強い結合エネルギーを有するケイ素−酸素結合からなるために、化学的安定性、耐熱性及び耐酸化性が高く、その組成によって多くの特異な性質を付与できるため、電気、電子、事務機器、建築、食品、医療、繊維、プラスチック、紙、パルプ、塗料ゴムといったあらゆる産業分野で使用されている。
この有機ケイ素化合物を利用し、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造を有するプロトン伝導性膜が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。ケイ素−酸素結合からなる架橋構造は、プロトン伝導性膜のように、強い酸性条件下で高温高湿にさらされる場合でも、比較的安定であり、プロトン伝導性膜内部の架橋構造として好適に使用できる。さらに、メタノールなどのアルコールを燃料として使用した場合でも、ケイ素−酸素架橋構造により膨潤が小さく抑えられるので、メタノールクロスオーバーの低減が期待できる。
【0010】
しかし、有機ケイ素化合物としてケイ素−酸素結合を有する場合には、主骨格がポリシロキサンという無機成分であるために剛直となり、一旦硬化してしまうと柔軟性がなくなる。そのため、有機ケイ素化合物の膜と熱可塑性樹脂電極、例えば、ナフィオン(登録商標)を電極バインダーとして使用した電極とを接着させた場合に、高い接着性を発現することが難しい場合があった。また、有機ケイ素化合物の膜と熱可塑性電極バインダーとの間に界面が生じ、接触抵抗が大きくなる場合があった。一方で、ケイ素−酸素結合より柔軟性が高いケイ素−炭素結合を有するプロトン伝導性膜の場合は、前述した接着性と接触抵抗の改善は見られるが、ケイ素−炭素結合の分子間力が非常に弱いため、湿度変化の影響を受け易く、耐衝撃性及び燃料遮断性が低下するという問題点があった。燃料遮断性が低いと、特に高濃度燃料を使用して運転する場合には、燃料透過により燃料電池の発電性能が悪くなってしまう。
【0011】
また、高濃度燃料を使用した場合は、一般的なフッ素系のプロトン伝導性膜や炭化水素系のプロトン伝導性膜は勿論、一部の有機ケイ素化合物のプロトン伝導性膜でも、膨潤して変形し、膜と電極との接合強度が弱くなる場合もあった。また、アノードで発生したプロトンをカソード側に運ぶ際には、随伴水が必要であるが、高濃度燃料を使用した場合は、元々系内に水が少ないため、随伴水が不足し、プロトン伝導性が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3679104号公報
【特許文献2】国際公開WO03/026051号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般的にプロトン伝導性膜は、吸水性、含水性、保水性が低いと、プロトンの移動媒体数が少なくなるため、抵抗が増大するという問題点があった。
また、保水性が低いと、膜のカソード側が乾き易いため、アノードからカソードに向かって膜内部の燃料濃度勾配が大きくなり、見かけ上のメタノール濃度又はメタノールクロスオーバーが大きくなる。この傾向は、メタノール反応量が少ない低電流領域で顕著に現れる。低電流領域では、アノード近傍のメタノール濃度が導入メタノールに近く、さらにカソードでの反応時に発生する水量は少ないために、膜が乾き易いからであり、これは薄い膜ほど顕著に現れる。この時、カソードでメタノールが反応するために、触媒利用率が低下し、カソードの電位低下に伴い、発電性能が大きく低下するという問題点があった。そこで、高濃度発電を実現するためには、形状安定性が高く、且つメタノールクロスオーバーが低減されたプロトン伝導性膜が必要となる。しかし、メタノールクロスオーバーと抵抗との間には相関関係があり、従来のメタノールクロスオーバーが低減されたプロトン伝導性膜では、プロトン伝導性が低くなってしまう。これは、メタノールと共に水も膜を透過し難くなるからである。また、一般的にメタノールクロスオーバーが低減されたプロトン伝導性膜は、形状安定性が高い傾向にあり、単位質量あたりの含水量が少なくなって、抵抗が大きくなってしまうという問題点があった。この時、程度に差はあるが、膜の厚み方向と膜の表面方向のいずれにおいても抵抗が大きくなる傾向がある。とりわけ、DMFCで理論的に最も高い64質量%の燃料濃度で、安定的なパッシブ発電を可能とする、メタノールクロスオーバーが低減されたプロトン伝導性膜では、ナフィオン(登録商標)のようなメタノールクロスオーバーが大きい、又は濃度によって大きく変化する膜よりも、急激に膜抵抗が大きくなる傾向があった。
さらに、プロトンの移動には、上記のように随伴水が必要である。高濃度運転では低濃度運転の場合よりもアノードでより多くのプロトンが発生するが、随伴水も多くなって、アノード側に存在する水量が低下するため、プロトンをカソードに運ぶ効率が悪化する。その結果、プロトン伝導性及び発電性能が低下してしまうという問題点があった。例えば、上記の64質量%の燃料濃度での抵抗は、3質量%といった低濃度での抵抗の2〜3倍になってしまう。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高濃度のメタノールを使用して発電する場合でも、メタノールクロスオーバーを低減でき、高プロトン伝導性及び高燃料遮断性を有するプロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、プロトン伝導性膜の片面又は両面に、該プロトン伝導性膜に対して、表面方向のプロトン伝導性が同等以上である高プロトン伝導層が積層され、一方の該高プロトン伝導層又はプロトン伝導性膜上に、さらに、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、この順で積層されている多層型プロトン伝導性膜であって、前記メタノール遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対して、メタノール遮断性が同等以上であり、前記保水層は、前記プロトン伝導性膜に対して、単位質量あたりの保水性が同等以上であり、前記ガス遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対して、ガス遮断性が0.1倍以上であることを特徴とする多層型プロトン伝導性膜である。
請求項2にかかる発明は、初期濃度が所定値のメタノール水溶液及び純水を、前記プロトン伝導性膜で仕切って配置した時、40℃で3時間後における前記純水側のメタノールの濃度が、前記メタノール水溶液の初期濃度の1/10000〜1/10となる前記プロトン伝導性膜を使用することを特徴とする請求項1に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項3にかかる発明は、前記高プロトン伝導層の水透過係数及び厚み方向のプロトン伝導性が、いずれも前記プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項4にかかる発明は、前記高プロトン伝導層の水透過係数が、メタノール透過係数の1〜1000倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項5にかかる発明は、前記メタノール遮断層のメタノール透過性が、前記プロトン伝導性膜の0.001〜1倍であり、水透過係数が前記プロトン伝導性膜の0.1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項6にかかる発明は、前記保水層の水透過係数が、前記プロトン伝導性膜の1〜100倍であり、前記保水層の、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における単位質量あたりの含水量(nW1)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における単位質量あたりの含水量(nW2)の1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項7にかかる発明は、前記ガス遮断層のガス遮断性が、前記プロトン伝導性膜の0.1〜10000倍であり、水透過係数が前記プロトン伝導性膜の0.1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項8にかかる発明は、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下におけるプロトン伝導性が、前記プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項9にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、電解質粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項10にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、電解質の一次粒子の表面に、さらに該一次粒子とは異なる成分の二次粒子が存在する複合粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項11にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、多孔質基材(Q)中で形成され、強化されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項12にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜の片面又は両面に積層された最外層の高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層又はガス遮断層上に、さらに、プロトン伝導性材料からなる膜−電極接合層が積層されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項13にかかる発明は、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における単位質量あたりの含水量(nW3)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における単位質量あたりの含水量(nW2)の1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項14にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜が酸基を有し、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における、前記多層型プロトン伝導性膜の酸基一つあたりの水分子数(nW5)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における酸基一つあたりの水分子数(nW4)の0.1〜15倍であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項15にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜の厚みが1〜200μmであり、総厚みが1〜230μmであることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項16にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜が、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、酸基を有する酸基含有構造体(B)と、がケイ素−酸素結合によって連結された構造を有し、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記一般式(1)で表され、前記酸基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)と、が共有結合した構造体を含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0018】
請求項17にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜において、さらに、ケイ素−酸素結合型構造体(A)及びシラン化合物(α)、あるいはケイ素−酸素結合型構造体(A)及び酸基含有化合物(β)が、架橋剤(C’)で架橋されていることを特徴とする請求項16に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
請求項18にかかる発明は、前記高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、酸基を有する酸基含有構造体(B)と、がケイ素−酸素結合によって連結された構造を有し、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記一般式(1)で表され、前記酸基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)と、が共有結合した構造体を含み、さらに、ケイ素−酸素結合型構造体(A)及びシラン化合物(α)、あるいはケイ素−酸素結合型構造体(A)及び酸基含有化合物(β)が、架橋剤(C’)で架橋されていることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0021】
請求項19にかかる発明は、前記プロトン伝導性膜、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上において、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)、及び/又は酸基を有する酸基含有構造体(B)が、さらに、水酸基含有構造体(P)と連結された構造を有し、前記水酸基含有構造体(P)が、ヒドロキシアルコキシ基を有する化合物(a)と、リン原子を有する重合性無機酸成分及び/又は無機酸重合体(b)とが連結した構造を含むことを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜である。
【0022】
請求項20にかかる発明は、請求項1〜19のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜の両面のうち、一方の最外層が燃料極と接合され、他方の最外層が酸素極と接合されていることを特徴とする膜−電極接合体である。
請求項21にかかる発明は、請求項20に記載の膜−電極接合体を備えることを特徴とする固体高分子形燃料電池である。
請求項22にかかる発明は、前記膜−電極接合体を単位セルとして、前記単位セルの外側に、燃料及び/又は酸素の通路となる一対のセパレータが設置されるとともに、隣り合う複数の前記単位セルが相互に連結されていることを特徴とする請求項21に記載の固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高濃度のメタノールを使用して発電する場合でも、メタノールクロスオーバーを低減でき、高プロトン伝導性及び高燃料遮断性を有するプロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供できる。これにより、優れた発電性能を長期に渡って維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明におけるプロトン伝導性膜を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明する。
<多層型プロトン伝導性膜>
本発明の多層型プロトン伝導性膜は、プロトン伝導性膜の片面又は両面に、該プロトン伝導性膜に対して、表面方向のプロトン伝導性が同等以上である高プロトン伝導層(以下、高プロトン伝導層と略記する)が積層され、一方の該高プロトン伝導層又はプロトン伝導性膜上に、さらに、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、この順で積層されている多層型プロトン伝導性膜であって、前記メタノール遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対して、メタノール遮断性が同等以上であり、前記保水層は、前記プロトン伝導性膜に対して、単位質量あたりの保水性が同等以上であり、前記ガス遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対して、ガス遮断性が0.1倍以上であることを特徴とする。
本発明においては、特に断りの無い限り、「プロトン伝導性膜」とは、高プロトン伝導層を積層するものを指し、「多層型プロトン伝導性膜」と区別する。
【0026】
本発明の多層型プロトン伝導性膜は、表面方向のプロトン伝導性が、プロトン伝導性膜に対して同等以上である高プロトン伝導層を併用することで、従来のプロトン伝導性膜よりも、表面方向及び厚み方向も含めた全体のプロトン伝導性が飛躍的に高められたものである。同時に、メタノールクロスオーバーが低減され、高燃料遮断性を有するものである。
【0027】
多層型プロトン伝導性膜は、プロトン伝導性膜の片面に高プロトン伝導層が積層されたものでも良いが、プロトン伝導性膜の両面に高プロトン伝導層が積層されたものが好ましい。また、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、この順で一方のプロトン伝導性膜上に積層されたものでも良いが、一方の高プロトン伝導層上に積層されたものが好ましい。
また、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層は、それぞれ個別に積層されていなくても良く、一つの層が、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される二つ又は三つを兼ねても良い。例えば、保水層及びガス遮断層を一つの層としても良いし、メタノール遮断層及び保水層を一つの層としても良く、タノール遮断層、保水層及びガス遮断層を一つの層としても良い。
【0028】
好ましい多層型プロトン伝導性膜として具体的には、高プロトン伝導層上に、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層がこの順で積層されたもの;高プロトン伝導層上に、メタノール遮断層及び保水層がこの順で積層されたもの;高プロトン伝導層上に、メタノール遮断層及びガス遮断層がこの順で積層されたもの;高プロトン伝導層上に、保水層及びガス遮断層がこの順で積層されたものが例示できる。
【0029】
[プロトン伝導性膜]
本発明で使用するプロトン伝導性膜は、特に限定されないが、好ましいものとして、スルホン化フッ素系樹脂や芳香族環を主鎖中に有する、所謂エンジニアリングプラスチックにスルホン酸基(−SOH)やリン酸基を導入したもの(好適な市販品として、ナフィオン(登録商標)が例示できる);酸をドープしたシリカガラス;酸をドープした有機無機複合膜等が例示できる。
【0030】
例えば、初期濃度が所定値のメタノール水溶液及び純水を、前記プロトン伝導性膜で仕切って配置すると、時間経過と共にメタノール水溶液側から純水側へメタノールが透過し、純水側のメタノールの濃度が上昇する。本発明においては、プロトン伝導性膜として、40℃で3時間後の純水側のメタノールの濃度が、前記メタノール水溶液の初期濃度の1/10000〜1/10となるような、メタノール遮断性を有するものが好ましい。そして、40℃で3時間後の純水側のメタノールの濃度が、前記メタノール水溶液の初期濃度の1/1500〜1/10であることがより好ましく、1/300〜1/10であることが特に好ましく、1/100〜1/10であることが最も好ましい。
そして、前記メタノール水溶液の初期濃度が30質量%である場合に、上記のようなメタノール遮断性を示すプロトン伝導性膜が特に好ましい。具体的には、40℃で3時間後における前記純水側のメタノールの濃度が、0.003〜3質量%となるプロトン伝導性膜が特に好ましい。これは、フッ素系スルホン酸で構成された代表的なプロトン伝導性膜であるナフィオン117(登録商標)の同条件下におけるメタノール遮断性の1/1000〜1倍に相当する。
【0031】
プロトン伝導性膜の厚みは、1〜200μmであることが好ましく、10〜190μmであることがより好ましい。
【0032】
[高プロトン伝導層]
高プロトン伝導層は、プロトン伝導性膜に対して、表面方向のプロトン伝導性が同等以上であれば特に限定されない。そして、高プロトン伝導層の表面方向のプロトン伝導性は、プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることが好ましく、1〜100倍であることがより好ましく、1〜10倍であることが特に好ましく、1〜5倍であることが最も好ましい。高プロトン伝導層及びプロトン伝導性膜の表面方向のプロトン伝導性は、同方向の抵抗値を測定し、これら抵抗値を比較することで比較できる。
【0033】
また、高プロトン伝導層の水透過係数は、プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることが好ましく、1〜100倍であることがより好ましく、1〜20倍であることが特に好ましく、1〜5倍であることが最も好ましい。
【0034】
さらに、高プロトン伝導層は、水透過係数が、メタノール透過係数の1〜1000倍であることが好ましく、5〜1000倍であることがより好ましく、5〜100倍であることが特に好ましく、5〜50倍であることが最も好ましい。
【0035】
高プロトン伝導層の厚みは、1〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
高プロトン伝導層の厚みが1μmよりも小さいと、プロトン伝導性膜に対して、表面方向のプロトン伝導性の向上が不十分で、厚み方向のプロトン伝導性の向上が小さくなる可能性がある。また、厚みが40μmよりも大きいと、厚み方向の抵抗が大きくなって、発電性能が低下する可能性がある。また配合によっては、水やメタノールによって膨潤し、膜−電極接合体の構造を維持できない可能性がある。
【0036】
[メタノール遮断層]
メタノール遮断層は、プロトン伝導性膜に対してメタノール遮断性が同等以上であれば、特に限定されない。そして、メタノール遮断層のメタノール透過性は、プロトン伝導性膜の0.001〜1倍であることが好ましく、0.005〜0.9倍であることがより好ましい。
また、メタノール遮断層の水透過係数は、プロトン伝導性膜の0.1〜100倍であることが好ましく、0.5〜50倍であることがより好ましく、0.7〜10倍であることが特に好ましく、0.9〜5倍であることが最も好ましい。
メタノール遮断性及び水透過係数が、いずれも上記範囲内であるメタノール遮断層は、後述する膜−電極接合体の酸素極(カソード)側に配置することが好ましい。
【0037】
メタノール遮断層の厚みは、1〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
メタノール遮断層の厚みが1μmよりも小さいと、メタノール遮蔽性が不十分になり、メタノールクロスオーバーにより、発電性能が低下する可能性がある。また、厚みが40μmよりも大きいと、水の透過性も低下し、プロトン伝導性、発電性能が低下する可能性がある。
【0038】
[保水層]
保水層は、プロトン伝導性膜に対して、単位質量あたりの保水性が同等以上であれば、特に限定されない。単位質量あたりの保水性は、例えば、水透過係数により比較できる。そして、保水層の水透過係数は、プロトン伝導性膜の1〜100倍であることが好ましく、1〜50倍であることがより好ましく、1〜10倍であることが特に好ましく、1〜5倍であることが最も好ましい。
【0039】
また、保水層の、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における単位質量あたりの含水量(nW1)は、プロトン伝導性膜の同条件下における単位質量あたりの含水量(nW2)の1〜100倍であることが好ましく、1〜50倍であることがより好ましく、1〜15倍であることが特に好ましく、1〜7倍であることが最も好ましい。
【0040】
水透過係数及びnW1が、いずれも上記範囲内である保水層は、後述する膜−電極接合体の酸素極(カソード)側に配置することが好ましい。
【0041】
保水層の厚みは、1〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
保水層の厚みが1μmよりも小さいと、プロトン伝導性膜が乾燥し、プロトン伝導性を維持するための十分な随伴水を保持できない可能性がある。また、厚みが40μmよりも大きいと、配合によっては、水やメタノールによって膨潤し、膜−電極接合体の構造を維持できない可能性がある。また、厚み方向の抵抗が大きくなって、発電性能が低下する可能性もある。
【0042】
[ガス遮断層]
ガス遮断層は、プロトン伝導性膜に対してガス遮断性が0.1倍以上であれば、特に限定されない。ガス遮断性は、例えば、透過ガス量により比較できる。そして、ガス遮断層のガス遮断性は、プロトン伝導性膜の0.1〜10000倍であることが好ましく、0.1〜1000倍であることがより好ましく、0.2〜700倍であることが特に好ましく、0.2〜500倍であることが最も好ましい。
【0043】
また、ガス遮断層の水透過係数は、プロトン伝導性膜の0.1〜100倍であることが好ましく、0.1〜10倍であることがより好ましく、0.3〜5倍であることが特に好ましく、0.5〜3倍であることが最も好ましい。
【0044】
ガス遮断性及び水透過係数が、いずれも上記範囲内であるガス遮断層は、後述する膜−電極接合体の酸素極(カソード)側に配置することが好ましい。
【0045】
ガス遮断層の厚みは、1〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
ガス遮断層の厚みが1μmよりも小さいと、酸素が透過し、カソードでの反応効率が下がり、発電性能が低下する可能性がある。また、プロトン伝導性膜が乾燥し、プロトン伝導性を維持するための十分な随伴水を保持できない可能性がある。また、厚みが40μmよりも大きいと、厚み方向の抵抗が大きくなって、発電性能が低下する可能性がある。また、配合によっては、水やメタノールによって膨潤し、膜−電極接合体の構造を維持できない可能性がある。
【0046】
[膜−電極接合層]
プロトン伝導性膜の片面又は両面に積層された最外層の高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層又はガス遮断層上には、さらに、プロトン伝導性材料からなる膜−電極接合層(以下、接合層と略記することがある)が積層されていても良い。高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層又はガス遮断層と、電極との接着性が良好でない場合、特に効果的である。ここで、「最外層」とは、プロトン伝導性膜上に積層された各層のうち、最も上方の層のことを指す。本発明の多層型プロトン伝導性膜に電極を接合することで、膜−電極接合体が得られる。
【0047】
接合層の厚みは、1〜50μmであることが好ましく、2〜40μmであることがより好ましく、3〜35μmであることが特に好ましい。
膜−電極接合層の厚みが1μmよりも小さいと、電極との接着性が不十分になり、膜−電極間の抵抗が増大する可能性がある。また、厚みが50μmよりも大きいと、厚み方向の抵抗が大きくなって、発電性能が低下する可能性がある。また、配合によっては、メタノールによって膨潤し、膜−電極接合体の構造を維持できない可能性がある。
【0048】
前記各層の厚みに好ましい範囲があるのは、電極構造に対応するためでもある。例えば、表面積が非常に大きな電極の場合には、電極に層が入り込んで最適な界面を形成するために、厚みは厚い方が好ましいが、あまり厚過ぎると逆に拡散性を阻害し、性能を低下させてしまう。
また、多層型プロトン伝導性膜を作製する際に、プレスによって、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層、ガス遮断層又は接合層をプロトン伝導性膜上に形成するが、その際、各層は多少なりともプロトン伝導性膜を構成する成分と結合又は一体化する。そして、プロトン伝導性膜の種類によっては、各層との相性が異なるため、各層の厚みの合計が、そのまま多層型プロトン伝導性膜の総厚みとなる訳ではない。
【0049】
多層型プロトン伝導性膜は、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における厚み方向のプロトン伝導性が、プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることが好ましく、1〜100倍であることがより好ましく、1〜10倍であることが特に好ましく、1〜5倍であることが最も好ましい。高プロトン伝導層及びプロトン伝導性膜の厚み方向のプロトン伝導性は、同方向の抵抗値を測定し、これら抵抗値を比較することで比較できる。
【0050】
多層型プロトン伝導性膜は、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における単位質量あたりの含水量(nW3)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における単位質量あたりの含水量(nW2)の1〜100倍であることが好ましく、1〜50倍であることがより好ましく、1〜20倍であることが特に好ましく、1〜15倍であることが最も好ましい。
【0051】
プロトン伝導性膜が酸基を有する場合、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における、多層型プロトン伝導性膜の酸基一つあたりの水分子数(nW5)は、プロトン伝導性膜の同条件下における酸基一つあたりの水分子数(nW4)の0.1〜15倍であることが好ましく、0.1〜10倍であることがより好ましく、0.1〜8倍であることが特にましく、0.2〜6倍であることが最も好ましい。ここで、酸基としては、スルホ基(スルホン酸基、−SOH)、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基(カルボン酸基、−C(=O)−OH)、硫酸基、リン酸基、ホウ酸基等、種々の酸基が例示でき、スルホン酸基が特に好ましい。
【0052】
多層型プロトン伝導性膜は、総厚みが1〜230μmであることが好ましく、20〜210μmであることがより好ましい。
【0053】
本発明において、プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層、ガス遮断層及び接合層は、プロトン伝導性材料から構成され、上記のような各物性は、プロトン伝導性材料を構成する材料の組成で適宜調整できる。以下、好ましいプロトン伝導性材料について、具体的に説明する。
【0054】
(1)第一のプロトン伝導性材料
第一のプロトン伝導性材料は、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)(以下、ケイ素−酸素結合型構造体(A)と略記する)と、酸基を有する酸基含有構造体(B)(以下、酸基含有構造体(B)と略記する)と、がケイ素−酸素結合によって連結された構造を有し、ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記一般式(1)で表され、酸基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)(以下、シラン化合物(α)と略記する)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)(以下、酸基含有化合物(β)と略記する)と、が共有結合した構造体を含むものである。
【0055】
【化3】

【0056】
(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0057】
プロトン伝導性材料は、酸基含有構造体(B)が配合されて形成されていることにより、膜中の酸基濃度を高濃度に維持できるとともに、膜中のプロトン濃度を上昇させることができ、長時間安定した燃料電池作動を達成できる。
【0058】
(i)ケイ素−酸素結合型構造体(A)
ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、前記一般式(1)で表される。
一般式(1)中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子である。炭素数が50より多くなると架橋が不十分であり、プロトン伝導性材料の耐膨潤性、耐熱性が見込めなくなる。
の二価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでも良い。
【0059】
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良いが、飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。
該脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
該脂肪族炭化水素基の特に好ましいものとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が例示できる。
前記芳香族炭化水素基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
【0060】
また、Rの二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が結合した2価の基でも良く、このようなものとしては、芳香族炭化水素の二個の水素原子が2価の脂肪族炭化水素基で置換された二価の基が好ましい。ここで、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基としては、上記で説明したものの中から、炭素数の総数が50以下となる組み合わせを選択すれば良い。好ましいものとして具体的には、ベンゼンの1位及び4位の水素原子がアルキレン基で置換されたものが例示でき、該アルキレン基としては炭素数1〜5であるものが好ましく、炭素数1〜3であるものがより好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0061】
は、ヘテロ原子を有していても良い。ここで、「ヘテロ原子を有する」とは、Rの少なくとも一つの水素原子又は炭素原子が、ヘテロ原子又はヘテロ原子を有する基で置換されていることを指す。また、ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が例示できる。なかでも、Rの少なくとも一つの炭素原子が、酸素原子(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−)、アミド結合(−NH−C(=O)−)で置換されたものは、これらの結合形成の容易性、構造体の柔軟性、原料の入手容易性の観点から好ましい。
【0062】
上記のなかでもRとしては、耐酸性が高く、極めて安定であることから、二価の炭化水素基が好ましい。そして、酸、ラジカル等による攻撃に対して安定であり、さらに、屈曲可能な構造であるため、プロトン伝導性材料に適度な柔軟性を付与でき、緻密性なども調整できることから、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。これら安定性、柔軟性、緻密性等は、飽和脂肪族炭化水素基の分子長で調整できる。
【0063】
一般式(1)中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基である。ここで、R〜Rのいずれかが、式「−O−Si−」で表される基である場合には、ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、他のケイ素−酸素結合型構造体(A)と結合していることを示す。
【0064】
一般式(1)中、mは1以上の整数である。
【0065】
が2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。例えば、一般式(1)において、mが2以上の整数である場合には、ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、Rとして炭素数1〜50の二価の炭化水素基と酸素原子とを両方含むものであっても良く、このようなものとして、一般式「−Si−R’−Si−O−(式中、R’は炭素数1〜50の二価の炭化水素基を表す)」で表される繰り返しの基本骨格を有するものが例示できる。同様に、複数のRも互いに同一でも異なっていても良く、複数のRも互いに同一でも異なっていても良い。そして、RとRも互いに同一でも異なっていても良い。
【0066】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、例えば、RがOであり、且つR〜Rが「−O−Si−」である場合のように、無機化合物の場合もあれば、有機化合物を複合した有機無機複合体の場合もある。有機化合物を複合する場合は、無機物が有する耐熱性と、有機物が有する柔軟性とを両方兼ね備えたプロトン伝導性材料を形成できる。このような化合物を使用する場合には、架橋構造間の分子構造設計により、柔軟性をはじめとする各膜物性の調整が可能である。プロトン伝導性材料としての重要な特性の一つである燃料遮断性も、分子構造、架橋密度の調整により調整できる。
これらの構造体を形成する架橋性前駆体は、そのまま市販されているものもあり、さらに、不飽和結合を有するものは、対応するシリル化合物のヒドロシリル化反応により合成でき、水酸基やアミノ基等を有するものも同様に合成できる。
【0067】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)として、具体的には、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、1,8−ビス(エチルジメトキシシリル)オクタン、1,9−ビス(トリエトキシシリル)ノナン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリメトキシシリルメチル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン及びn−ブチルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが加水分解されたモノマーが、重縮合したものが好ましい。また、前記アルコキシシランのアルコキシ基が、他のアルコキシ基で置換されたものも同様に使用できるし、さらに本発明においては、これらアルコキシシランに限定されるものではない。そしてこれら以外にも、例えば、ケイ酸や、少なくとも一つの水酸基が塩を形成しているケイ酸塩をモノマーとして、これらの一種以上が重縮合したものも、好ましいものとして例示できる。前記ケイ酸塩としては、ケイ酸のアルカリ金属塩が例示でき、ケイ酸ナトリウムが好ましい。
【0068】
また、ケイ素−酸素結合型構造体(A)の形成には、オリゴマーも使用でき、これを重縮合させて、ケイ素−酸素結合型構造体(A)としても良い。好適なオリゴマーとして、各種市販品も利用でき、具体的には、KC−89、KR−500、KR−212、KR−213、KR−9218(いずれも信越化学工業社製)等が例示できる。
さらに、前記モノマー及びオリゴマーを併用して、ケイ素−酸素結合型構造体(A)としても良い。
【0069】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、一種の原料(前記モノマー又はオリゴマー)が重縮合したものでも良く、二種以上の原料(前記モノマー及び/又はオリゴマー)が重縮合したものでも良い。二種以上が重縮合したものである場合、これら原料の組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0070】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、前記原料由来のアルコキシ基又は該アルコキシ基が加水分解された水酸基が残存していても良いが、アルコキシ基及び水酸基の残存数が少ないものほど好ましく、アルコキシ基及び水酸基が残存せずに、すべて重縮合反応したものが最も好ましい。アルコキシ基及び水酸基の残存数が少なく、ケイ素−酸素結合を形成しているほど、緻密な構造をとり、プロトン伝導性材料の耐熱性、燃料遮断性、機械的強度が向上する。
【0071】
本発明においては、適切なケイ素−酸素結合型構造体(A)を使用することで、シリカ架橋粒子を形成させることもでき、その架橋密度や粒子間結合強度を調整することで、プロトン伝導性材料の強度、可撓性を適宜調整することもできる。
【0072】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0073】
(ii)酸基含有構造体(B)
酸基含有構造体(B)は、シラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)とが共有結合した構造体を含むものである。そして、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)のみが結合して形成されていても良いし、シラン化合物(α)及び/又は酸基含有化合物(β)に、これら以外のその他の成分が結合して形成されていても良い。
【0074】
一般に、ケイ素−酸素架橋性化合物は構造が剛直なため、酸基等の極性が高い部分が多く存在すると、温度変動や極性溶媒の含浸等による燃料遮断性、プロトン伝導性の低下を生じさせる場合がある。これに対して、酸基含有構造体(B)において、酸基含有化合物(β)に由来する酸基と、シラン化合物(α)に由来するケイ素原子とは、所定の距離だけ離間して架橋構造を形成する。そのため、高燃料遮断性や強度等、プロトン伝導性膜に求められる様々な特性をより向上させることができる。さらに、酸基含有構造体(B)中に有機部位が多く含まれることにより、プロトン伝導性膜に柔軟性が付与され、耐衝撃性が向上する。また、必要に応じて架橋剤(C)を導入することにより、柔軟かつ強固な架橋構造が得られるため、耐衝撃性及び耐極性溶媒性が一層向上する。
【0075】
酸基含有構造体(B)においては、酸基含有化合物(β)に由来する酸基と、シラン化合物(α)に由来するケイ素原子とが、少なくとも3つ以上の連続した炭素原子間の結合を介して結合していることが好ましく、少なくとも4つ以上の連続した炭素原子間の結合を介して結合していることがより好ましい。これにより、酸基とケイ素原子との結合距離が近い場合に生じ得る、極性溶媒の急激な浸入や冷熱繰り返し等の衝撃によるプロトン伝導性膜の構造の破壊や特性劣化を抑制するより一層高い効果が得られる。
【0076】
(ii−1)シラン化合物(α)
シラン化合物(α)は、重合性不飽和二重結合を有するものであれば良く、ケイ素−酸素結合と重合性不飽和二重結合を有するものが特に好ましい。
好ましいシラン化合物(α)として具体的には、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(トリエトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(メチルジエトキシシリル)プロピルアクリレート、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルメタクリレート、3−(トリエトキシシリル)プロピルメタクリレート、3−(メチルジエトキシシリル)プロピルメタクリレート、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシラン等が例示できる。
これらの中でもシラン化合物(α)としては、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0077】
また、シラン化合物(α)としては、オリゴマーも使用できる。好適なオリゴマーとして、各種市販品も利用でき、具体的には、X−22−164、X−22−164AS、X−22−164A、X−22−164B、X−22−164C、X−22−164E、X−22−174DX、X−22−2426、X−22−2475(いずれも信越化学工業社製)等が例示できる。
【0078】
シラン化合物(α)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0079】
(ii−2)酸基含有化合物(β)
酸基含有化合物(β)は、酸基及び重合性不飽和二重結合を有するものであれば良い。
酸基含有化合物(β)における酸基としては、水中での酸解離定数で定義される該酸基含有化合物(β)のpKaを5以下とするものが好ましく、スルホン酸基(スルホ基、−SOH)、カルボキシル基(−C(=O)−OH)、リン酸基等が例示でき、スルホン酸基が特に好ましい。
【0080】
酸基含有化合物(β)の好ましいものとしては、プロトン付加が可能なヘテロ原子を三つ以上有し、且つメチレン基が二つ以上連結した直鎖構造を含むアクリルアミド誘導体又は(メタ)アクリレート誘導体が例示できる。ここでプロトン付加が可能なヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子が例示でき、スルホン酸基等、前記酸基を構成する原子であっても良い。
【0081】
好ましい酸基含有化合物(β)として、具体的には、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸、3−スルホプロピルメタクリレート、p−スチルスルホン酸、4,4’−ジアミノスチルベンゼン−2,2’−ジスルホン酸、イタコン酸ビス(3−スルホプロピル)等が例示できる。
これらの中でも、酸基含有化合物(β)としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が特に好ましい。
【0082】
酸基含有化合物(β)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0083】
酸基含有構造体(B)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0084】
(2)第二のプロトン伝導性材料
第二のプロトン伝導性材料は、第一のプロトン伝導性材料において、ケイ素−酸素結合型構造体(A)及びシラン化合物(α)、あるいはケイ素−酸素結合型構造体(A)及び酸基含有化合物(β)が、架橋剤(C’)で架橋されているものである。ここで、架橋剤(C’)は、少なくとも一部のケイ素−酸素結合型構造体(A)及びシラン化合物(α)間、あるいは、少なくとも一部のケイ素−酸素結合型構造体(A)及び酸基含有化合物(β)間で架橋していれば良い。
【0085】
(iii)架橋剤(C’)
架橋剤(C’)は、プロトン伝導性材料中で、構成成分同士を架橋すると共に、プロトン伝導性材料に親水性を付与するものである。そして、架橋剤(C’)を配合することで、膜中に水分子を多数保持できるとともに、プロトン伝導性材料のメタノール遮断性が一層向上し、高濃度発電や低加湿発電においても、長時間安定した燃料電池作動を達成できる。
架橋剤(C’)の好ましいものとしては、水酸基及び重合性不飽和二重結合を有するものが例示でき、具体的には、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、N−(4−ヒドロキシブチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール等が例示できる。さらに、上記以外にも好ましいものとして、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルリン酸、アクリル酸等が例示できる。
【0086】
架橋剤(C’)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0087】
(3)第三のプロトン伝導性材料
第三のプロトン伝導性材料は、第一又は第二のプロトン伝導性材料において、ケイ素−酸素結合型構造体(A)及び/又は酸基含有構造体(B)が、さらに、水酸基含有構造体(P)と連結された構造を有し、前記水酸基含有構造体(P)が、ヒドロキシアルコキシ基を有する化合物(a)(以下、化合物(a)と略記することがある)と、リン原子を有する重合性無機酸成分及び/又は無機酸重合体(b)(以下、無機酸(b)と略記することがある)とが連結した構造を含むものである。
【0088】
(iv)水酸基含有構造体(P)
水酸基含有構造体(P)は、「解離プロトン数(mmol)/質量(g)」で定められるmEqの値が0.5〜5であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。このようにすることで、高濃度燃料を使用した場合でも、高い発電性能を発揮でき、高い燃料遮断性を実現できると共に、膜と電極との接合強度を一層向上させることができる。
【0089】
(iv−1)化合物(a)
化合物(a)において、ヒドロキシアルコキシ基は、特に限定されないが、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基又はヒドロキシプロポキシ基であることが好ましい。
また、化合物(a)の水酸基一つあたりの分子量(「(化合物(a)の分子量)/(化合物(a)の水酸基の数)」)は、30〜300であることが好ましい。
また、化合物(a)は、重合性不飽和二重結合を有していても良く、その場合の化合物(a)の重合性不飽和二重結合一つあたりの分子量(「(化合物(a)の分子量)/(化合物(a)の重合性不飽和二重結合の数)」)は、100〜300であることが好ましい。
【0090】
このような化合物(a)としては、水酸基型低分子材料、水酸基型モノマー材料及び水酸基型有機無機ハイブリッド材料が例示できる。
【0091】
水酸基型低分子材料の好ましいものとしては、1,3−ビス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−2−プロパノール、ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)エーテル、1,2,3−プロパントリオール、グリセロールトリグリシジルエーテル、グリセロールトリプロポキシレートトリグリシジルエーテル、グリセロール三酢酸等が例示でき、1,2,3−プロパントリオールが特に好ましい。
【0092】
水酸基型モノマー材料の好ましいものとしては、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレート、1,3−ジメタクリル酸グリセロール、メチリデングリセロール、グリセロールモノメタクリレート、グリセロールモノアセテート、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール等が例示でき、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレートが特に好ましい。
【0093】
水酸基型有機無機ハイブリッド材料の好ましいものとしては、グリセロール2−リン酸二ナトリウム・n水和物、ケイ酸ナトリウム・n水和物又はビニルリン酸と、前記水酸基型低分子材料又は水酸基型モノマー材料とを反応させて得られる化合物等が例示でき、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物又はビニルリン酸と、前記水酸基型低分子材料又は水酸基型モノマー材料とを反応させて得られる化合物が特に好ましい。ここで、nは1以上の整数である。
【0094】
化合物(a)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0095】
(iv−2)無機酸(b)
無機酸(b)の好ましいものとしては、ポリリン酸、リン酸ナトリウム・n水和物と他の重合性無機成分とを反応させて得られる化合物等が例示でき、ポリリン酸が特に好ましい。
【0096】
無機酸(b)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0097】
水酸基含有構造体(P)は、さらに、ポリビニルアルコールが結合した構造を含んでいても良い。
ポリビニルアルコールの平均重合度は、1000以上であることが好ましく、1500以上であることがより好ましい。ポリビニルアルコールのケン化度は、95モル%以上であることが好ましく、97モル%以上であることがより好ましい。
【0098】
また、水酸基含有構造体(P)は、親水性樹脂を架橋できる架橋材で架橋されたものでも良く、該架橋剤として、ジヒドラジド類、トリヒドラジド類、ジカルボン酸類、トリカルボン酸類、ジアミン類、トリアミン類、ジアルデヒド類、トリアルデヒド類等が例示できる。
【0099】
水酸基含有構造体(P)は、さらに、水酸基含有構造体(P)を形成するモノマーと結合可能な官能基を有し、且つ酸基を有さないモノマー、あるいは水酸基含有構造体(P)又は水酸基含有構造体(P)を形成するモノマーと結合可能な官能基を複数有する架橋剤を配合して形成されたものでも良い。このようなもので好ましいものとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、スチレン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1−(アクリロイルオキシ)−3−(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、ジビニルベンゼン、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニルメタクリレート等が例示できる。
【0100】
水酸基含有構造体(P)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0101】
(iv−3)酸基含有構造体(H)
水酸基含有構造体(P)は、さらに、酸基含有構造体(H)が結合した構造を含んでいても良い。
酸基含有構造体(H)の好ましいものとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸、3−スルホプロピルメタクリレート、4,4’−ジアミノスチルベンゼン−2,2’−ジスルホン酸、イタコン酸ビス(3−スルホプロピル)等のモノマーを重合させたポリマーが例示できる。
【0102】
さらに、酸基含有構造体(H)の好ましいものとしては、酸基を有し且つケイ素−酸素結合により膜の架橋構造と結合できる、下記一般式(2)で表される構造体が例示できる。
【0103】
【化4】

【0104】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合または水酸基であり;Yはプロトン供与性基であり;Rは二価の有機基であり;Rはメチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基であり;mは0、1又は2であり;mが0又は1である場合には、複数のXは互いに同一でも異なっていても良く;mが2である場合には、二つのRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0105】
一般式(2)中、Xは架橋に関与する−O−結合または水酸基である。そして、酸基含有構造体(H)は、Xとして架橋に関与する−O−結合を有する場合には、ケイ素−酸素結合による架橋構造を有していて、Xがすべて水酸基である場合には、ケイ素−酸素結合による架橋構造を形成し得るものである。すなわち、水酸基は架橋構造を形成し得る基である。
【0106】
一般式(2)中、Yはプロトン供与性基であり、プロトン供与性を有するものであれば特に限定されないが、酸基であることが好ましい。ここで、酸基としては、スルホ基(スルホン酸基、−SOH)、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基(カルボン酸基、−C(=O)−OH)、硫酸基、リン酸基、ホウ酸基等、種々の酸基が例示できるが、pKaが低く、膜中プロトン濃度を十分に確保でき、熱的にも安定である点から、スルホン酸基が特に好ましい。
【0107】
一般式(2)中、Rは二価の有機基であり、プロトン供与性基(Y)と、X及びRが結合しているケイ素原子とを、共有結合により連結するものである。
は、二価の有機基であれば特に限定されないが、耐熱性、耐酸性、耐酸化性等に優れているものが好ましい。このような観点から、Rは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状のアルキレン基であることがより好ましい。直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、3〜10であることが特に好ましい。
【0108】
Yがスルホン酸基である場合、「−R−Y」は、下記一般式(2a)で表されることが好ましい。
【0109】
【化5】

【0110】
(式中、mは1〜20の整数である。)
【0111】
一般式(2a)中、mは1〜20の整数であり、1〜10であることが好ましく、3〜10であることがより好ましい。
【0112】
上記の中で、mが3である酸基含有構造体(H)の一つである3−(トリヒロドキシシリル)プロパンスルホン酸は、Gelest社より市販されており、また、臭化アリルを原料とした合成法も確立されており、入手が容易であるため、好適である。
【0113】
本発明においては、例えば、酸基の代わりに酸基の前駆体基を有する、酸基含有構造体(H)の前駆体(H’)を他の成分と連結した後、前記酸基の前駆体基を酸基に変換することにより、プロトン伝導性材料としても良い。ここで、「酸基の前駆体基」とは、化学反応等により、酸基に変換可能な基のことを指す。「化学反応」としては酸化反応や、エステル結合の分解反応等が例示できる。具体的には、酸基がスルホン酸基である場合、「酸基の前駆体基」としては、メルカプト基(チオール基)、スルホン酸エステル基等が例示できる。ただし、これらに限定されるものではない。
例えば、前記前駆体(H’)として、市販品のある3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(サイラエースS−810(チッソ社製)、KBM−803(信越化学社製))等が好適である。
【0114】
また、mが4以上であれば、Yと前記ケイ素原子との結合距離が近い場合に生じ得る、極性溶媒の急激な浸入や冷熱繰り返し等の衝撃による、プロトン伝導性材料の構造の破壊や特性劣化を抑制する一層高い効果が得られる。
【0115】
さらに、下記一般式(2−1)で表されるオリゴマー又はポリマーを使用して架橋構造を形成させたのち、メルカプト基を酸化することにより、酸基含有構造体(H)とすることもできる。
【0116】
【化6】

【0117】
(式中、kは1〜20の整数であり;lは3〜500の整数であり;R10はそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基又はフェニル基であり;R11はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基又は式「−O−Si−」で表される基であり、複数のR11は互いに同一でも異なっていても良い。)
【0118】
一般式(2−1)中、R11がメトキシ基であり、kが3であり、lが10であるものは、信越シリコーン社より市販されており(X−41−1805)、好適である。
【0119】
酸基含有構造体(H)は、さらに、接着補助剤が配合されて形成されていても良い。接着補助剤としては、シリカ粉体、カルシウム系粉体、セラミック系粉体、タルク、カオリン等が例示できる。シリカ粉体としては、中空シリカ粒子(シリカバルーン)、無アルカリガラス等が好ましい。
【0120】
酸基含有構造体(H)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0121】
(v)その他の成分
第一及〜第三のプロトン伝導性材料は、前記成分以外に、さらに、その他の成分が配合されて形成されていても良い。その他の成分の好ましいものとしては、架橋剤、相溶化剤(D)が例示できる。
【0122】
(v−1)架橋剤
架橋剤としては、プロトン伝導性材料中で、構成成分同士を架橋するものであれば、任意のものが使用できる。なかでも好ましいものとして、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)からなる群から選択される二種以上を架橋する架橋剤(C)が例示でき、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を架橋するものが好ましい。ここで、架橋剤(C)は、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)からなる群から選択される二種以上の少なくとも一部の間で架橋していれば良い。
架橋剤(C)を配合することで、プロトン伝導性材料のメタノール遮断性が一層向上し、高濃度発電や低加湿発電においても、長時間安定した燃料電池作動を達成できる。
【0123】
(v−2)架橋剤(C)
上記のような観点から、架橋剤(C)とは、シラン化合物(α)又は酸基含有化合物(β)と結合可能な官能基を一つ以上、一分子中に有する化合物である。このようなものであれば、架橋剤(C)は特に限定されないが、重合性不飽和二重結合を一つ以上有するものが好ましい。好ましいものとして具体的には、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1−(アクリロイルオキシ)−3−(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、ジビニルベンゼン、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニルメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート等の炭化水素系架橋剤;2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート等のフッ素系モノマーが例示できる。
【0124】
架橋剤(C)の配合割合は、架橋剤(C)の官能基数をN、分子量をN、モル数をN、酸基含有化合物(β)のモル数Bとすると、下記式(W1)及び(W2)の少なくとも一方の関係を満たすことが好ましい。これにより、酸基濃度の低下や、プロトン伝導性の低下を抑制する一層高い効果が得られる。
m/Nf<200 ・・・・(W1)
n/Bn<1 ・・・・(W2)
【0125】
架橋剤(C)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0126】
また、プロトン伝導性材料は、シラン化合物(α)の重合性不飽和二重結合の反応率が30%以上であるものが好ましく、50%以上であるものがより好ましい。また、酸基含有化合物(β)中の重合性不飽和二重結合の反応率が30%以上であるものが好ましく、50%以上であるものがより好ましい。ここで、「重合性不飽和二重結合の反応率」とは、膜作製時に配合する化合物全量中の二重結合の総数をu、膜作製後に未反応のまま残存している、前記化合物由来の二重結合の総数をuとした場合に、下記式(W3)で定義されるものである。
(u−u)/u×100(%) ・・・・(W3)
【0127】
シラン化合物(α)の反応重合性については、シラン化合物(α)同士の重合数及び架橋剤(C)を介したシラン化合物(α)同士の重合数の総数をpα−α、シラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)との重合数及び架橋剤(C)を介したシラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)との重合数の総数をpα−βとした時、下記式(W4)を満たすことが好ましい。
α−α/pα−β<1 ・・・・(W4)
【0128】
(v−3)相溶化剤(D)
相溶化剤(D)は、配合成分を均一に混合できるものであれば、特に限定されない。好ましいものとしては、モノアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の非イオン性界面活性剤が例示できる。また、相溶化剤としての機能だけでなく、プロトン伝導性膜を構成する材料として必要な機能、例えば、プロトン伝導性、架橋反応性等を併せ持つものであっても良い。
【0129】
相溶化剤(D)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0130】
プロトン伝導性材料においては、プロトン伝導性を高める目的で、別の酸成分として、その他の酸基含有成分を併用しても良い。ここで、その他の酸基含有成分は、低分子〜高分子のいずれでも良く、酸基とは、上記と同様のものである。好ましいものとして具体的には、スルホコハク酸やその重縮合物が例示できる。
【0131】
プロトン伝導性材料としては、プロトン伝導性を有するものであれば、上記以外のものも使用できる。例えば、ケイ素−酸素結合型構造体(A)の原料(以下、原料(A)と略記することがある)、酸基含有構造体(B)、シラン化合物(α)、酸基含有化合物(β)、水酸基含有構造体(P)、化合物(a)、無機酸(b)及び酸基含有構造体(H)からなる群から選択される一種の成分を単独で又は連結させて、あるいは二種以上の成分を連結させて、プロトン伝導性材料として使用しても良い。さらに、架橋剤等、その他の成分を配合して形成したものを使用しても良い。二種以上の成分を連結させる場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調整できる。
【0132】
前記プロトン伝導性材料は、いずれも、プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層、ガス遮断層又は接合層を構成できる。
プロトン伝導性膜は、第一又は第二のプロトン伝導性材料で構成されたものが好ましい。
高プロトン伝導層は、第二のプロトン伝導性材料で構成されたものが好ましい。また、酸基含有構造体(B)と水酸基含有構造体(P)とが結合して構成されたものが好ましい。そして、水酸基含有構造体(P)は、ポリビニルアルコールが結合した構造を含んでいるものが好ましい。さらに、これらに架橋剤(C)が配合されて構成されたものも好ましい。
メタノール遮断層は、第三のプロトン伝導性材料で構成されたものが好ましい。
保水層は、酸基含有構造体(B)と水酸基含有構造体(P)とが結合して構成されたものが好ましい。そして、水酸基含有構造体(P)は、ポリビニルアルコールが結合した構造を含んでいるものが好ましい。
ガス遮断層は、原料(A)、酸基含有構造体(B)、化合物(a)、ポリビニルアルコール及びその他の酸基含有成分を配合成分として構成されたものが好ましい。
接合層は、水酸基含有構造体(P)が配合されて構成されたものが好ましく、水酸基含有構造体(P)同士が結合して構成されたもの、又は酸基含有構造体(B)と水酸基含有構造体(P)とが結合して構成されたものが好ましい。そして、水酸基含有構造体(P)は、ポリビニルアルコールが結合した構造を含んでいるものが好ましい。さらに、酸基含有構造体(B)、化合物(a)、ポリビニルアルコール及びその他の酸基含有成分を配合成分として構成されたものも好ましい。
【0133】
前記プロトン伝導性材料は、これを構成するための原料を、目的に応じて任意の配合比で配合し、反応させることで作製できる。
【0134】
例えば、プロトン伝導性膜の作製において、原料(A)、シラン化合物(α)、酸基含有化合物(β)、前駆体(H’)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する化合物(β)の配合量は、2.5〜50モルであることが好ましく、3〜40モルであることがより好ましく、3.5〜35モルであることが特に好ましい。
また、シラン化合物(α)1モルに対する原料(A)の配合量は、3〜70モルであることが好ましく、6〜65モルであることがより好ましく、8〜60モルであることが特に好ましい。
また、シラン化合物(α)1モルに対する前駆体(H’)の配合量は、1〜30モルであることが好ましく、1.5〜25モルであることがより好ましく、2〜20モルであることが特に好ましい。
さらに、架橋剤(C)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する架橋剤(C)の配合量は、0.1〜8モルであることが好ましく、0.3〜6モルであることがより好ましく、0.5〜4モルであることが特に好ましい。
【0135】
また、例えば、高プロトン伝導層、メタノール遮断層又は保水層の作製において、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する酸基含有化合物(β)の配合量は、10〜130モルであることが好ましく、20〜120モルであることがより好ましく、30〜110モルであることが特に好ましい。
さらに、原料(A)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する原料(A)の配合量は、5〜30モルであることが好ましく、8〜25モルであることがより好ましく、12〜20モルであることが特に好ましい。
さらに、架橋剤(C)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する架橋剤(C)の配合量は、0.5〜5モルであることが好ましく、0.8〜3モルであることがより好ましく、1〜2モルであることが特に好ましい。
さらに、化合物(a)及び無機酸(b)(すなわち、水酸基含有構造体(P))を配合する場合には、化合物(a)1gに対する無機酸(b)の配合量は、0.5〜30gであることが好ましく、1〜20gであることがより好ましく、1.5〜15gであることが特に好ましい。
さらに、ポリビニルアルコールを配合する場合には、化合物(a)1gに対するポリビニルアルコールの配合量は、0.5〜40gであることが好ましく、1〜30gであることがより好ましく、1.5〜25gであることが特に好ましい。
また、例えば、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート等、シラン化合物(α)と架橋剤(C)とを兼ねるものを配合しても良い。
【0136】
また、例えば、ガス遮断層の作製において、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する酸基含有化合物(β)の配合量は、0.1〜10モルであることが好ましく、0.2〜5モルであることがより好ましく、0.2〜3モルであることが特に好ましい。
さらに、原料(A)及び化合物(a)を配合する場合には、原料(A)1gに対する化合物(a)の配合量は、1〜30gであることが好ましく、3〜20gであることがより好ましく、5〜15gであることが特に好ましい。
さらに、ポリビニルアルコールを配合する場合には、化合物(a)1gに対するポリビニルアルコールの配合量は、0.5〜20gであることが好ましく、1〜15gであることがより好ましく、1.5〜7gであることが特に好ましい。
さらに、その他の酸基含有成分を配合する場合には、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)の総量1モルに対する、その他の酸基含有成分の配合量は、0.5〜15モルであることが好ましく、1〜10モルであることがより好ましく、1.5〜5モルであることが特に好ましい。
また、例えば、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール等、化合物(a)と架橋剤(C)とを兼ねるものを配合しても良い。
【0137】
また、接合層の作製において、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を配合する場合には、シラン化合物(α)1モルに対する酸基含有化合物(β)の配合量は、高プロトン伝導層等の場合と同様で良い。
さらに、化合物(a)及び無機酸(b)(すなわち、水酸基含有構造体(P))を配合する場合には、化合物(a)1gに対する無機酸(b)の配合量は、高プロトン伝導層等の場合と同様で良い。
さらに、ポリビニルアルコールを配合する場合には、化合物(a)1gに対するポリビニルアルコールの配合量は、0.05〜5gであることが好ましく、0.1〜3gであることがより好ましく、0.15〜1gであることが特に好ましい。
さらに、その他の酸基含有成分を配合する場合には、シラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)の総量1モルに対する、その他の酸基含有成分の配合量は、0.001〜1モルであることが好ましく、0.005〜0.5モルであることがより好ましく、0.005〜0.1モルであることが特に好ましい。
【0138】
前記プロトン伝導性材料を形成する時の条件は、使用する原料の種類や目的に応じて、適宜調整すれば良く、特に限定されない。例えば、原料は、すべて一括して配合しても良いし、一種類又は複数種類の原料を、所望の順序で順次配合しても良い。
例えば、重合性組成物を得るときは、好ましくは−10〜100℃で、好ましくは1〜24時間かけて調製すると良い。また、重合性組成物には、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を配合することが好ましい。重合開始剤及び熱重合開始剤としては、公知のものが使用できる。
また、重合性組成物を加熱硬化する時は、好ましくは60〜160℃で、好ましくは12〜36時間かけて行うと良い。
【0139】
本発明においては、プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、電解質粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することが好ましい。このような粒子の連続体においては、その架橋密度や粒子間結合強度を調整することで、プロトン伝導性材料の強度や可撓性も適宜調整できる。さらに、プロトン伝導性膜においては、粒子表面は酸基を有しており、粒子と粒子との間にプロトン伝導経路が形成されていることが好ましい。このような構造をとることにより、電解質の機械的強度が向上し、かつ効率的にプロトンが伝導される。ここで粒子は球形が好ましいが、不定形粒子でも良い。ここで不定形粒子とは、完全な曲面により構成されておらず、一部又は全部に角のある箇所を有する粒子を指す。粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましく、3〜200nmであることがより好ましい。平均粒子径が500nmを超えると、プロトン伝導を担う粒子の表面積が減少し、高いプロトン伝導度が得られなくなることがあり、さらに、粒子の間隙が大きくなり過ぎて脆くなることがある。一方、平均粒子径が1nmよりも小さいと、均一層に近くなり、より少ない酸基で効率的にプロトン伝導できなくなる場合がある。平均粒子径の範囲を前述の好ましい範囲とすることにより、十分な強度を確保しつつ、プロトン伝導経路を十分に確保できる。粒子径は、例えば、電界放射形走査電子顕微鏡(FE−SEM)等の電子顕微鏡写真から直接求めることもできるが、小角X線散乱等の手段によって求めることもできる。また、粒子径には分布があっても良い。すなわち、均一な粒子径の粒子の連続体であっても良いし、不均一な粒子径の粒子の連続体であっても良い。ここで、粒子径が均一であると、粒子径にもよるが、幾何学的に間隙ができ易く、高いイオン伝導度を発現できることがある。一方、粒子径分布があると、密なパッキングが可能であり、燃料遮断性の向上や膜の強度向上に寄与する。したがって、使用状況に応じて粒子径分布を選択することが好ましい。粒子径は、使用する原料の構造、分子量又は濃度、あるいは溶媒の種類、反応温度等の条件の調整により制御できる。
【0140】
また、本発明においては、前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、電解質の一次粒子の表面に、さらに該一次粒子とは異なる成分の二次粒子が存在する複合粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することが好ましい。
この場合、一次粒子の平均粒子径は、10〜200nmであることが好ましく、2〜150nmであることがより好ましく、30〜100nmであることが特に好ましい。さらに、二次粒子の平均粒子径は、1〜300nmであることが好ましく、2〜200nmであることがより好ましく、3〜150nmであることが特に好ましい。
【0141】
本発明においては、プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、多孔質基材(Q)中で形成され、強度が強化されていても良い。そして、この場合、少なくともプロトン伝導性膜が、多孔質基材(Q)中で形成され、強度が強化されていることが好ましい。
これまでの多孔質基材(Q)中で形成されたプロトン伝導性材料では、通気性が良いため、通常のキャストされたプロトン伝導性材料よりも、ガス遮断性が低い傾向にある。そのため、例えば、酸素極(カソード)中の酸素ガスが、燃料極(アノード)側にまで浸透し易く、電極での反応効率が低下し易い。また、プロトン伝導性材料が乾燥することで、プロトン伝導性も低下し易い。さらに、燃料極で発生したプロトンが燃料極で反応することで、電極での反応効率が低下し易い。その結果、燃料電池の発電性能が低下し易い。これに対して本発明においては、プロトン伝導性材料が保水性に優れるので、このような発電性能の低下が効果的に抑制できる。
【0142】
(vi)多孔質基材(Q)
多孔質基材(Q)は、有機材料からなるものでも良いし、無機材料からなるものでも良い。これら材料には、レーヨンや精製セルロースのようなセルロース系繊維、絹のようなフィブリル化を起こし易い繊維も含まれる。さらに、多孔質基材(Q)には、極性溶媒を含浸できるプロトン伝導性膜も含まれる。
有機材料としては、ポリエチレン;超高分子量ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリイミド;ポリアリレート系液晶ポリマー等の高分子化合物が例示できる。なかでも、フッ素樹脂、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリイミドからなる高分子材料は、膜厚や孔径の異なる様々な種類のものが市販されているので好適である。
無機材料としては、ガラス、シリカ、アルミナ、カーボン、炭化珪素等が例示できる。
また、多孔質基材(Q)は、複数種類の材料からなるものでも良い。
そして、多孔質基材(Q)は、親水化処理されたものが好ましい。
【0143】
多孔質基材(Q)の形態としては、上記各材料からなる繊維をシート状に成形した不織布、織布が例示できる。織布は平織り、斜文織、朱子織、からみ織り等のいずれの織り方で織られていても良い。織布はまた、個々の繊維を直接織ったものでも良く、繊維を束ねて形成されたもの(例えば、ガラス糸等の無機糸)を織ったものでも良い。シート状の多孔質基材(Q)は、二種以上の繊維を組み合わせて構成されていても良い。
【0144】
多孔質基材(Q)は、平均孔径が0.01〜10μmであることが好ましく、0.01〜5μmであることがより好ましい。孔径が小さ過ぎると、ケイ素−酸素結合型構造体(A)や酸基含有構造体(B)を形成するための配合成分が充填され難くなり、プロトン伝導性が低下する。また、孔径が大き過ぎると、燃料遮断性が低下したり、膜の強度が低下し、破損するおそれがある。
多孔質基材(Q)の空孔率は、プロトン伝導性材料の強度、配合成分の充填率との兼ね合いにより一概には言えないが、通常は10〜98%であることが好ましく、20〜97%であることがより好ましい。
多孔質基材(Q)の厚みは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は0.3〜100μmであることが好ましく、0.5〜80μmであることがより好ましい。
【0145】
多孔質基材(Q)で強化されたプロトン伝導性材料を作製する場合には、プロトン伝導性材料を形成するための成分を含有する液体を多孔質基材(Q)に含浸させ、次いで、オーブン等を使用して加熱することで、前記成分を加熱硬化させ、さらに、焼成すれば良い。加熱時の温度及び時間は、前記重合性組成物を加熱硬化する時と同様で良い。そして、成分の配合量は、多孔質基材を使用しない場合と同様で良い。
【0146】
本発明において、プロトン伝導性材料、特にプロトン伝導性膜は、その中に含まれるプロトン付加が可能な全てのヘテロ原子の非共有電子対の総数の5%以上がプロトン付加されていることが好ましい。
図1は、本発明で使用するプロトン伝導性膜を例示する概略図である。図1に示すように、プロトン伝導性膜1は、アノード電極と接合される第一主表面1a及びカソード電極と接合される第二主表面1bを有しており、第一主表面中に存在するケイ素原子数(アノード側表面原子数(X))が、第二主表面中に存在するケイ素原子数(カソード側表面原子数(X))より多く形成されている。そして、アノード電極とプロトン伝導性膜1との接触表面を原点0、原点0からp(μm)の距離にあるケイ素原子数をX、メタノール水溶液濃度をCm(体積%)とした時、厚みZ(μm)のプロトン伝導性膜は、下記式(W5)〜(W8)を満たすことが好ましい。このような膜は、プロトン伝導性膜の原料である重合性組成物を本硬化前に遠心分離すること等により得られる。
o≧Xp≧Xz (0≦p≦z) ・・・・(W5)
o/Xz ≧1.3 ・・・・(W6)
Cm>30(ただし1aがアノードと接合し、1bがカソードと接合する。) ・・・・(W7)
Cm≦30(ただし1aがカソードと接合し、1bがアノードと接合する。) ・・・・(W8)
【0147】
本発明の多層型プロトン伝導性膜は、高濃度のメタノールを使用して発電する場合でも、メタノールクロスオーバーを低減でき、高プロトン伝導性及び高燃料遮断性を発現できる。
【0148】
<膜−電極接合体>
本発明の膜−電極接合体は、上記本発明の多層型プロトン伝導性膜の両面のうち、一方の最外層が燃料極と接合され、他方の最外層が酸素極と接合されていることを特徴とする。
好ましい膜−電極接合体の具体例としては、プロトン伝導性膜の両面に積層された最外層の高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層又はガス遮断層上に、さらに、プロトン伝導性材料からなる膜−電極接合層が積層され、一方の膜−電極接合層上に燃料極(アノード)が接合され、他方の膜−電極接合層上に酸素極(カソード)が接合されたものが例示できる。そして、高プロトン伝導層上に、さらにメタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、この順で積層された側に、酸素極を接合することが好ましい。
【0149】
<固体高分子形燃料電池>
本発明の固体高分子形燃料電池は、上記本発明の膜−電極接合体を備えることを特徴とする。
好ましい固体高分子形燃料電池の具体例としては、上記本発明の膜−電極接合体を単位セルとして、前記単位セルの外側に、燃料及び/又は酸素の通路となる一対のセパレータが設置されるとともに、隣り合う複数の前記単位セルが相互に連結されたものが例示できる。
本発明の固体高分子形燃料電池は、上記本発明の多層型プロトン伝導性膜又は膜−電極接合体を使用することで、優れた発電性能を長期に渡って維持できる。
【実施例】
【0150】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
以下に示すように、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層、ガス遮断層、接合層、プロトン伝導性膜、多層型プロトン伝導性膜を作製し、これらの物性を評価した。まず、評価方法を以下に示す。
【0151】
<評価方法>
(1)厚み方向のプロトン伝導性比
サンプルを通常の電気化学セル(例えば、特開2002−184427号公報中、図3に記載されたものと同一のもの)にセットし、サンプルと白金板とを密着させた。この白金板に、電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製、1260型)を接続し、周波数0.1Hz〜100kHzの領域でインピーダンスを測定し、サンプルのプロトン伝導度を測定した。
なお、上記測定では、サンプルを、電気的に絶縁された密閉容器中で支持し、高濃度メタノール雰囲気(64質量%)で、温度コントローラーによりセル温度を室温から80℃まで変化させ、それぞれの温度で厚み方向のプロトン伝導度を測定した。
そして、フッ素系スルホン酸で構成された代表的なプロトン伝導性膜であるナフィオン117(登録商標)について、同様の条件でプロトン伝導度を測定し、この測定値で上記の多層型プロトン伝導性膜のプロトン伝導度を割った比を算出した。
【0152】
(2)表面方向又は厚み方向の抵抗
前記(1)と同様の方法で、各サンプルについて、サンプルの表面方向又は厚み方向の抵抗値を測定した。
【0153】
(3)メタノール透過性
メタノール透過係数(以下、「MCO」という。)を、以下の方法により測定した。
直径2cmの円形の窓を有する二つの円柱形セルを使用し、窓の部分でゴムパッキンを介して、サンプルを挟み込んだ。一方のセルには純メタノールを、他方のセルには純水を入れ、40℃で3時間、スターラーで攪拌した。その後、純水側に透過したメタノールの濃度X(質量%)をガスクロマトグラフィーにより測定し、下記式(1)によりMCOを算出した。
そして、フッ素系スルホン酸で構成された代表的なプロトン伝導性膜であるナフィオン117(登録商標)をサンプルとして、同様の条件でMCOを算出し、この算出値で上記の多層型プロトン伝導性膜又はプロトン伝導性膜のMCOを割った比を算出し、メタノール透過性を評価した。
MCO(μmol/cm/day)=
(V−X)/(100−X)×1000/32.04×T/10000×24/H×1/πR ・・・(1)
(式中、Vは純水の質量(mg)、Tはプロトン伝導性膜の厚み(μm)、Hは試験時間(hr)、Rは評価セルの窓の半径(cm)を表す。)
【0154】
(4)メタノール透過量
前記メタノール透過性の評価で使用したセルを使用して、サンプルを挟み込んだ。そして、一方のセルには30質量%メタノール水溶液を、他方のセルには純水を入れ、40℃で3時間、スターラーで攪拌した。その後、純水側に透過したメタノールの濃度(質量%)をガスクロマトグラフィーにより測定し、メタノール透過量(質量%)とした。
【0155】
(5)保水性
サンプルを2cm×4cmの長方形に切断し、精製水を満たした容器に入れた。オーブンで1時間煮沸した後、前記(1)と同様の方法で、低加湿状態の恒温恒湿オーブン(エスペック社製、SH−240S3型)内で行った。相対湿度50%のオーブン雰囲気中で、温度コントローラーによりセル温度を室温から80℃まで変化させ、それぞれの温度でプロトン伝導度を測定した。
そして、フッ素系スルホン酸で構成された代表的なプロトン伝導性膜であるナフィオン117(登録商標)をサンプルとして、同様の条件でプロトン伝導度を測定し、この測定値で上記の多層型プロトン伝導性膜のプロトン伝導度を割った比を算出し、保水性を評価した。
【0156】
(6)ガス遮断性
ヘリウムリークデテクタMSE−2000形装置(島津製作所社製)を使用して、ヘリウムガス透過試験を行った。この装置では、一定流量の窒素管路中に、サンプルからリークしたヘリウムガスを混合させ、混合気体の一部を一定流量で計測部に導入する。そして、計測部は質量分析計と同等の構造であり、ヘリウムガスのみを検出するように条件を予め調整しておき、導入した混合気体中のヘリウムガス量を計測する。この装置を使用して、常温でヘリウムガスを0.2MPaの圧力で供給し、30秒後のリークガス量を評価した。
【0157】
(7)MEA耐久性(耐温度衝撃性と形状保持安定性)
1辺が5cmの正方形に切断したサンプルを、純メタノールに浸漬し、25℃において12時間静置した。その後、60℃で1時間加熱した後、0℃まで冷却して、そのまま1時間静置した。再び25℃まで昇温し、12時間静置した。これを1サイクルとし、3サイクル行った。
次いで、サンプルを充分水で濡らして含水させた後、膜を1辺が2.5cm角の電極で挟み、精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスし、膜−電極接合体(MEA)を得た。得られた膜−電極接合体を、それぞれサンプル瓶に満たされた64質量%メタノール中に浸漬し、80℃に保持して静置した。24時間後、浸漬した膜−電極接合体を取り出し、MEA構造が維持されているかどうかを確認し、温度衝撃性と形状保持安定性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:MEA構造を維持している
△:MEA構造を維持しているが、電極の剥がれが目視で確認できる
×:電極が剥がれ落ちている
【0158】
(8)耐極性溶媒性
1辺が5cmの正方形に切断したサンプルを、それぞれサンプル瓶に満たされた100mLの純メタノール中に浸漬し、60℃に保持して静置した。100時間後、浸漬したサンプルを取り出した。次いで、乾燥した後、浸漬による質量減少量を浸漬前の質量で割ってメタノール質量減少率を算出し、1からメタノール質量減少率を引いて100を乗じた値を耐メタノール質量保持率と定め、耐極性溶媒性を評価した。
【0159】
(9)ナフィオン(登録商標)電極接着性
1辺が5cmの正方形に切断したサンプルを、充分に水で濡らして含水させた後、サンプルを1辺が2.5cm角のナフィオン(登録商標)電極で挟み、精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスし、膜−電極接合体(MEA)を得た。
次いで、片側電極を両面テープで固定し、90°剥離試験機を使用して電解質膜の側部75mmを1cm/秒の速度で引き剥がし、その電極−膜間の接着強度を算出した。
そして、ナフィオン117(登録商標)膜−ナフィオン(登録商標)電極接合体について、同様の条件で接着強度を算出し、この算出値で上記サンプルの接着強度を割った比を算出し、ナフィオン(登録商標)電極接着性評価を評価した。
【0160】
(10)低濃度発電性能
膜−電極接合体を、燃料電池用単セル(JARI標準セル)に規定の方法でセットした。このセルを燃料電池発電評価装置(エヌエフ回路ブロック設計社製、「As−510」)にセットし、セルの温度を40℃、メタノールの濃度を15体積%、流量を1mL/分、空気の流量を100mL/分として運転し、セルのI−Vを計測し最大出力を比較した。
各サンプルの発電性能を比較するための評価基準として、比較例1のサンプルを使用した場合の最大出力を1として、相対値を評価した。
【0161】
(11)高濃度発電性能
メタノールの濃度を50体積%としたこと以外は、前記(8)と同様の方法で評価した。
【0162】
(12)含水量nw1〜nw3
作製したプロトン伝導性膜(4〜6cm角)を50℃で真空加熱して水分を除去し、乾燥して、膜の質量を測定し、含水量を算出した。
【0163】
(13)水分子数nw4〜nw5
2M塩化ナトリウム水溶液を調製し、メスシリンダーを使用して、前記水溶液をプロトン伝導性膜が入ったサンプル管瓶に加えた。そのまま室温で終夜静置し、膜中のスルホン酸をナトリウム塩に置換した。得られたプロトン水溶液を、ビーカーに移した。また、膜を水で洗浄し、その洗浄液も同じビーカーに移した。そして、電位差自動滴定装置APB−510と電動ビュレットAT−420(京都電子株式会社製)を使用して、水酸化ナトリウム水溶液(0.01mol/l、和光純薬工業株式会社製)を滴下していき、プロトンと中和反応を行った。
pH7になった時の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量から膜のプロトン数(mmol)を算出し、前記方法で得られた含水量nw2、nw3から算出した水数(mmol)を除することで、酸基一つあたりの水分子数nw4、nw5を得た。
【0164】
(14)水の透過係数
メタノール透過性評価試験における、直径2cmの円形の窓を有する二つの円柱形セルを使用し、窓の部分でゴムパッキンを介して、プロトン伝導性膜を挟み込んだ。一方のセルには純水を入れ、他方のセルには窒素を500kPaで流した。40℃で3時間、スターラーで攪拌した。その間、流れてきた窒素中に含まれる水蒸気をガスクロマトグラフィーにより測定し、水の検出濃度が安定するのを確認した。安定してから、1時間で検出された水蒸気量の総量Yを測定し、下記式(2)によって定義した水の透過係数を算出した。式(2)中、Tはプロトン伝導性膜の厚み(μm)、Hは試験時間(hr)、Rは評価セルの窓の半径(cm)を表す。
WCO(G)(μmol/cm/day)=
Y×100000/18.02×T/10000×24/H×1/πR ・・・(2)
【0165】
(15)メタノールの透過係数
水をメタノールに代えたこと以外は、水の透過係数の測定方法と同様にして測定した。流れてきた窒素中に含まれるメタノール蒸気をガスクロマトグラフィーにより測定し、安定してから1時間で検出されたメタノール蒸気量の総量Zを測定し、下記式(3)によって定義したメタノールの透過係数を算出した。式(3)中、Tはプロトン伝導性膜の厚み(μm)、Hは試験時間(hr)、Rは評価セルの窓の半径(cm)を表す。
MCO(G)(μmol/cm/day)=
Z×100000/18.02×T/10000×24/H×1/πR ・・・(3)
【0166】
(16)透過ガス量
前述したガス遮断性評価試験において、一定時間に一定流量のヘリウムを流して膜を通過させた圧力と、膜を設置せずに窒素のみを同様に流した時の圧力を比較し、その圧力差から算出した単位時間あたりの圧力を透過ガス量の指標とした。
【0167】
<サンプルの作製>
[実施例1]
(重合組成物)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)50質量%水溶液16.5g、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.1g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10質量%水溶液1g、ポリリン酸0.1g、5質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液8g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを混合した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。次いで、光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物(1−A)を得た。
【0168】
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)50質量%水溶液16.5g、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.5g、テトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)3.4g、ポリリン酸0.2g、5質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液4g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを混合した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。次いで、光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物(1−B)を得た。
【0169】
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)50質量%水溶液16.5g、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.1g、ポリリン酸0.2g、5質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液12g、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレート(アルドリッチ社製)0.1g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを混合した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。次いで、光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物(1−C)を得た。
【0170】
ポリ(4−スチレンスルホン酸)18質量%水溶液(アルドリッチ社製)4g、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸15質量%水溶液(アルドリッチ社製)1g、10質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液20g、3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール(東京化成社製)1g、トリメトキシビニルシラン0.31g、ケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)(和光純薬社製)(52〜57質量%)0.11g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.06g、スルホコハク酸70質量%水溶液(アルドリッチ社製)2gを混合した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。次いで、光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物(1−D)を得た。
【0171】
(高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層、ガス遮断層)
上記各重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶解させ、得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した組成物の厚みを5〜20μmに調整した。そして、UV照射してから室温で80時間養生した。次いで、ギアオーブンを使用して130℃で24時間加熱硬化した後、半透明のプロトン伝導性フィルムとして、重合組成物(1−A)(厚み16μm)から高プロトン伝導層(1−A)、重合組成物(1−B)からメタノール遮断層(1−B)(厚み6μm)、重合組成物(1−C)から保水層(1−C)(厚み9μm)、重合組成物(1−D)からガス遮断層(1−D)(厚み7μm)をそれぞれ得た。
また、得られた高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)の破断面をFE−SEMにより観察したところ、電解質内部において、粒子径が50〜80ナノメートル程度の不定形粒子構造をとっていることが確認された。
【0172】
(多層型プロトン伝導性膜)
プロトン伝導性膜として市販のナフィオン117(登録商標)(デュポン社製)を使用し、高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)、ガス遮断層(1−D)、ナフィオン117(登録商標)を充分水で濡らして、それぞれ含水させた。さらに、高プロトン伝導層(1−A)、ナフィオン117(登録商標)、高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)、ガス遮断層(1−D)をこの順に積層し、精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスすることで、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0173】
[実施例2]
(多層型プロトン伝導性膜)
ガス遮断層(1−D)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0174】
[実施例3]
(多層型プロトン伝導性膜)
保水層(1−C)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0175】
[実施例4]
(多層型プロトン伝導性膜)
メタノール遮断層(1−B)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0176】
[実施例5]
(重合組成物)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM−803)53.0g、テトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)131.2g及びメタノール26.5gをフラスコに計量し、0℃で10分撹拌した。そこに、0.01N塩酸15.6gとメタノール20.8gとを混合した溶液を添加し、0℃で1時間撹拌し、40℃に昇温後、さらに2時間撹拌した。次いで、フッ化カリウム(和光純薬社製)0.114gとメタノール29.7gとを混合した溶液を添加し、40℃で1時間撹拌し、80℃に昇温後、さらに2時間撹拌した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、その後、40℃真空にてアルコールを分留した。得られた溶液を0℃に冷却し、ジエチルエーテル200mLを加えて、0℃で10分撹拌した後、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレン孔径0.2μm)を使用して濾過した。得られた濾液から40℃真空にてジエチルエーテルを分留し、メルカプト基含有シランオリゴマーを46.9g得た。
得られたメルカプト基含有シランオリゴマー2.17g、トリエトキシビニルシラン(信越化学社製、KBE−1003)0.81g、テトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)2.43g及びテトラメトキシシラン(東京化成社製)0.86gを混合した液に、水0.15gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.07gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30質量%水溶液14.1gを滴下した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、1,4−ジビニルベンゼン0.4g(和光純薬社製)を加えて、5分間撹拌した。次いで、光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0177】
(プロトン伝導性膜)
重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶解させ、得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、UV照射してから室温で80時間養生した。ギアオーブンを使用して130℃で24時間加熱硬化した後、酢酸60mL、30%過酸化水素水15mLを混合して調整した過酢酸にこれを浸漬し、ホットプレートにて50℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、40℃の水に各1時間浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明のプロトン伝導性膜(M5)を得た。
【0178】
(多層型プロトン伝導性膜)
実施例1で得られた高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)及びガス遮断層(1−D)、並びにプロトン伝導性膜(M5)を充分水で濡らして、それぞれ含水させた。さらに、高プロトン伝導層(1−A)、プロトン伝導性膜(M5)、高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)、ガス遮断層(1−D)をこの順に積層し、精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスすることで、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0179】
[実施例6]
(重合組成物)
実施例5で得られたメルカプト基含有オリゴマー2.17g、トリエトキシビニルシラン(信越化学社製、KBE−1003)0.81g、テトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)2.43g、テトラメトキシシラン(東京化成社製)0.86gを混合した液に、水0.15gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.07gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液16.7gを滴下した。得られた混合溶液を0℃に冷却し、1,4−ジビニルベンゼン0.3g(和光純薬社製)とN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド(アルドリッチ社製)0.2gを加えて、5分間撹拌した。次いで、光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0180】
(プロトン伝導性膜)
重合組成物1gを使用して、実施例5と同様の方法で、半透明のプロトン伝導性膜(M6)を得た。
【0181】
(多層型プロトン伝導性膜)
さらに、プロトン伝導性膜(M5)に代わり、前記プロトン伝導性膜(M6)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0182】
[実施例7]
実施例6で得られたプロトン伝導性膜(M6)を、液体窒素で冷却して凍結粉砕した。得られたプロトン伝導性粉砕物をFE−SEMにより観察したところ、粒子径が10〜100ナノメートル程度の不定形粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することが確認された。
【0183】
(プロトン伝導性膜)
このプロトン伝導性粉砕物の粒子を充分水で濡らして含水させ、プロトン伝導性膜(M6)の膜表面両面に塗布した。さらに精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスすることで、前記粒子が膜に圧着されたプロトン伝導性膜(M7)を得た。
【0184】
(多層型プロトン伝導性膜)
実施例1で得られた高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)及びガス遮断層(1−D)、並びにプロトン伝導性膜(M7)を充分水で濡らして、それぞれ含水させた。さらに、高プロトン伝導層(1−A)、プロトン伝導性膜(M7)、高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)、ガス遮断層(1−D)をこの順に積層し、精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスすることで、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0185】
得られた多層型プロトン伝導性膜をFE−SEMにより観察したところ、二層の高プロトン伝導層(1−A)、プロトン伝導性膜(M7)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)、ガス遮断層(1−D)のいずれにおいても、粒子径が50〜80ナノメートル(nm)程度の不定形である一次粒子が核となり、その一次粒子表面に、さらに粒子径が10〜100ナノメートル程度の不定形である二次粒子が存在する複合粒子が、互いに結合した粒子の連続体構造を有していることが確認された。
【0186】
[実施例8]
(プロトン伝導性膜)
実施例6で得られた重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶解させ、得られた溶液を、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン/ポリプロピレン製多孔質膜(厚み:1〜60μm、空孔率:30〜95%、平均孔径:0.01〜1.0μm)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚がおよそ30μmになるようにレベリングした。次いで、フィルムを剥がし、UV照射してから室温で80時間養生した。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに膜に被せ、2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して前記膜を挟み、この状態でガラス製の容器に水500mLとともに入れた。次いで、ギアオーブンを使用して、80℃で24時間加熱硬化し、焼成して膜を得た。次いで、この膜を、実施例5と同様の方法で酸化に供し、半透明のプロトン伝導性膜(M8)を得た。
【0187】
(多層型プロトン伝導性膜)
実施例1で得られた高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)及びガス遮断層(1−D)、並びにプロトン伝導性膜(M8)を充分水で濡らして、それぞれ含水させた。さらに、高プロトン伝導層(1−A)、プロトン伝導性膜(M8)、高プロトン伝導層(1−A)、メタノール遮断層(1−B)、保水層(1−C)、ガス遮断層(1−D)をこの順に積層し、精密プレス機を使用して、140℃、1kNの条件下、3分間プレスすることで、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0188】
[実施例9]
(接合層付き多層型プロトン伝導性膜)
ポリリン酸(和光純薬社製)0.4g、1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.2g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02g、5質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液1gを混合して、超音波ホモジナイザーで均一に分散させたプロトン伝導性材料を、実施例8で得られた多層型プロトン伝導性膜の表面両面に塗布した。次いで、精密プレス機を使用して、120℃、1kNの条件下、3分間プレスした。このサイクルを繰り返し、厚みが5〜30μmである接合層を多層型プロトン伝導性膜の両面に形成し、半透明の接合層付き多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0189】
[実施例10]
(接合層付き多層型プロトン伝導性膜)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)50質量%水溶液16.5g、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.1g、1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.2g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02g、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド(アルドリッチ社製)0.2g、5質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液1g、70質量%スルホコハク酸(アルドリッチ社製)0.1gを混合して、超音波ホモジナイザーで均一に分散させた。これに光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加して得られたプロトン伝導性材料を、実施例8で得られた多層型プロトン伝導性膜の表面両面に塗布した。そして、UV照射で仮硬化した後、精密プレス機を使用して、120℃、1kNの条件下、3分間プレスした。このサイクルを繰り返し、厚みが5〜30μmである接合層を多層型プロトン伝導性膜の両面に形成し、半透明の接合層付き多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0190】
[実施例11]
(接合層付き多層型プロトン伝導性膜)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)50質量%水溶液16.5gと3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.1g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10質量%水溶液1g、ポリリン酸(和光純薬社製)0.4g、1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.2g、グリセロール2−リン酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02g、5質量%に濃度調整したポリビニルアルコール(平均重合度2000、ケン化度98.0mol%以上、和光純薬社製)水溶液1gを混合して、超音波ホモジナイザーで均一に分散させた。これに光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1g、熱重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加して得られたプロトン伝導性材料を、実施例8で得られた多層型プロトン伝導性膜の表面両面に塗布した。そして、UV照射で仮硬化した後、精密プレス機を使用して、120℃、1kNの条件下、3分間プレスした。このサイクルを繰り返し、厚みが5〜30μmである接合層を多層型プロトン伝導性膜の両面に形成し、半透明の接合層付き多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0191】
(比較例1)
ナフィオン117(登録商標)をそのまま前記評価に供した。
【0192】
(比較例2)
高プロトン伝導層(1−A)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0193】
(比較例3)
高プロトン伝導層(1−A)を使用しなかったこと以外は、実施例8と同様にして、多層型プロトン伝導性膜を得た。
【0194】
<結果>
上記実施例及び比較例で作製した各サンプルの評価結果を表1〜5に示す。
【0195】
【表1】

【0196】
【表2】

【0197】
【表3】

【0198】
【表4】

【0199】
【表5】

【0200】
【表6】

【0201】
表に示すように、実施例1の多層型プロトン伝導性膜は、比較例1のプロトン伝導性膜よりも、高いプロトン伝導性、メタノール遮蔽性、保水性及びガス遮断性を示し、比較例2の多層型プロトン伝導性膜よりも、高いプロトン伝導性を示した。
ガス遮断層が無い実施例2の多層型プロトン伝導性膜は、比較例1のプロトン伝導性膜とほぼ同等のガス遮断性を示し、その他の項目では、比較例1のプロトン伝導性膜よりも優れていた。
保水層が無い実施例3の多層型プロトン伝導性膜は、比較例1のプロトン伝導性膜とほぼ同等の保水性を示し、その他の項目では、比較例1のプロトン伝導性膜よりも優れていた。
メタノール遮断層が無い実施例4の多層型プロトン伝導性膜は、比較例1のプロトン伝導性膜とほぼ同等のメタノール遮蔽性を示し、その他の項目では、比較例1のプロトン伝導性膜よりも優れていた。
以上より、プロトン伝導性膜上に高プロトン伝導層を積層させて接合し、さらに、高プロトン伝導層上に、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上を、順次積層させて接合することで、高プロトン伝導層の種類に応じて、プロトン伝導性膜としての性能を向上させた多層型プロトン伝導性膜が得られた。
【0202】
また、実施例5では、プロトン伝導性膜として、実施例1〜4におけるナフィオン117(登録商標)に代わり、ケイ素−酸素結合型構造体(A)と酸基含有構造体(B)とがケイ素−酸素結合によって連結された構造を有するものを使用することで、実施例1〜4よりもメタノール遮蔽性に優れた多層型プロトン伝導性膜が得られた。
実施例6では、プロトン伝導性膜として、架橋剤(C)で架橋された構造を有するものを使用することで、保水性が向上した多層型プロトン伝導性膜が得られた。
実施例7では、実施例6で得られたプロトン伝導性膜を粒子状として、プロトン伝導性膜に新たに塗布して接合しても、同様に燃料電池用プロトン伝導性膜として高い性能が維持できる多層型プロトン伝導性膜が得られた。
実施例8では、実施例6で使用したプロトン伝導性材料を使用して、プロトン伝導性膜が多孔質基材中で形成され、強化されたものを使用することで、燃料電池用プロトン伝導性膜として高い性能が維持でき、さらにメタノール遮蔽性にも優れる多層型プロトン伝導性膜が得られた。実施例8の多層型プロトン伝導性膜は、比較例3の多層型プロトン伝導性膜よりも高いプロトン伝導性を示した。
実施例9〜11では、実施例8の多層型プロトン伝導性膜に、膜−電極接合剤を塗布して接合層を設けた。接合剤としては、実施例9では酸ポリマー含有型、実施例10ではケイ素−酸素結合型構造体−酸基含有構造体含有型、実施例11では水酸基含有構造体(P)含有型を、それぞれ使用したが、実施例9〜11のいずれにおいても、実施例8と同様に、燃料電池用プロトン伝導性膜として高い性能が維持できる多層型プロトン伝導性膜が得られた。
以上より、プロトン伝導性膜に、高プロトン伝導層を積層させて接合することで、高いプロトン伝導性、メタノール遮蔽性、保水性、ガス遮断性を付与でき、燃料電池用プロトン伝導性膜として、高い性能を発現可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0203】
1…プロトン伝導性膜
1a…第1主面
1b…第2主面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性膜の片面又は両面に、該プロトン伝導性膜に対して、表面方向のプロトン伝導性が同等以上である高プロトン伝導層が積層され、一方の該高プロトン伝導層又はプロトン伝導性膜上に、さらに、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、この順で積層されている多層型プロトン伝導性膜であって、
前記メタノール遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対して、メタノール遮断性が同等以上であり、
前記保水層は、前記プロトン伝導性膜に対して、単位質量あたりの保水性が同等以上であり、
前記ガス遮断層は、前記プロトン伝導性膜に対して、ガス遮断性が0.1倍以上であることを特徴とする多層型プロトン伝導性膜。
【請求項2】
初期濃度が所定値のメタノール水溶液及び純水を、前記プロトン伝導性膜で仕切って配置した時、40℃で3時間後における前記純水側のメタノールの濃度が、前記メタノール水溶液の初期濃度の1/10000〜1/10となる前記プロトン伝導性膜を使用することを特徴とする請求項1に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項3】
前記高プロトン伝導層の水透過係数及び厚み方向のプロトン伝導性が、いずれも前記プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項4】
前記高プロトン伝導層の水透過係数が、メタノール透過係数の1〜1000倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項5】
前記メタノール遮断層のメタノール透過性が、前記プロトン伝導性膜の0.001〜1倍であり、水透過係数が前記プロトン伝導性膜の0.1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項6】
前記保水層の水透過係数が、前記プロトン伝導性膜の1〜100倍であり、前記保水層の、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における単位質量あたりの含水量(nW1)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における単位質量あたりの含水量(nW2)の1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項7】
前記ガス遮断層のガス遮断性が、前記プロトン伝導性膜の0.1〜10000倍であり、水透過係数が前記プロトン伝導性膜の0.1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項8】
温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下におけるプロトン伝導性が、前記プロトン伝導性膜の1〜1000倍であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項9】
前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、電解質粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項10】
前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、電解質の一次粒子の表面に、さらに該一次粒子とは異なる成分の二次粒子が存在する複合粒子が互いに結合した粒子の連続体構造を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項11】
前記プロトン伝導性膜、高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、多孔質基材(Q)中で形成され、強化されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項12】
前記プロトン伝導性膜の片面又は両面に積層された最外層の高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層又はガス遮断層上に、さらに、プロトン伝導性材料からなる膜−電極接合層が積層されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項13】
温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における単位質量あたりの含水量(nW3)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における単位質量あたりの含水量(nW2)の1〜100倍であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項14】
前記プロトン伝導性膜が酸基を有し、温度20〜80℃、相対湿度30〜90%の条件下における、前記多層型プロトン伝導性膜の酸基一つあたりの水分子数(nW5)が、前記プロトン伝導性膜の同条件下における酸基一つあたりの水分子数(nW4)の0.1〜15倍であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項15】
前記プロトン伝導性膜の厚みが1〜200μmであり、総厚みが1〜230μmであることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項16】
前記プロトン伝導性膜が、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、酸基を有する酸基含有構造体(B)と、がケイ素−酸素結合によって連結された構造を有し、
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記一般式(1)で表され、
前記酸基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)と、が共有結合した構造体を含むことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項17】
前記プロトン伝導性膜において、さらに、ケイ素−酸素結合型構造体(A)及びシラン化合物(α)、あるいはケイ素−酸素結合型構造体(A)及び酸基含有化合物(β)が、架橋剤(C’)で架橋されていることを特徴とする請求項16に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項18】
前記高プロトン伝導層、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上が、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、酸基を有する酸基含有構造体(B)と、がケイ素−酸素結合によって連結された構造を有し、
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記一般式(1)で表され、
前記酸基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)と、が共有結合した構造体を含み、
さらに、ケイ素−酸素結合型構造体(A)及びシラン化合物(α)、あるいはケイ素−酸素結合型構造体(A)及び酸基含有化合物(β)が、架橋剤(C’)で架橋されていることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜50の二価の炭化水素基又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、水酸基又は式「−O−Si−」で表される基であり;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のR〜Rはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項19】
前記プロトン伝導性膜、メタノール遮断層、保水層及びガス遮断層からなる群から選択される一つ以上において、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)、及び/又は酸基を有する酸基含有構造体(B)が、さらに、水酸基含有構造体(P)と連結された構造を有し、
前記水酸基含有構造体(P)が、ヒドロキシアルコキシ基を有する化合物(a)と、リン原子を有する重合性無機酸成分及び/又は無機酸重合体(b)とが連結した構造を含むことを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の多層型プロトン伝導性膜の両面のうち、一方の最外層が燃料極と接合され、他方の最外層が酸素極と接合されていることを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項21】
請求項20に記載の膜−電極接合体を備えることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項22】
前記膜−電極接合体を単位セルとして、前記単位セルの外側に、燃料及び/又は酸素の通路となる一対のセパレータが設置されるとともに、隣り合う複数の前記単位セルが相互に連結されていることを特徴とする請求項21に記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−211965(P2010−211965A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54190(P2009−54190)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】