説明

多層型多孔質材料およびその製造方法

【課題】
本発明は、多層構造の多孔質材を、材質の組合せに制限なく製造することを可能にするとともに、すでにできあがった半製品に対しても、その後工程で新たに多孔質材を密着、付与することが可能となる多層構造の多質材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
予め決められた粒度に調整された第1の粉末材料を第1多孔質材料として基材に形成する工程と、予め決められた粒度に調整された骨材となる第2の粉末材料と、この第2の粉末材料を加水反応によって析出する微細結晶または/および非晶質材で結合するアルコキシド溶液と、上記第2の粉末材料と上記アルコキシド溶液とを溶解させる溶媒と、をスラリ状に形成する工程と、上記第1多孔質材料の上に上記スラリを塗布する工程と、上記スラリを高温にして固化させて第2多孔質材料とする工程と、を有する多層型多孔質材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体のろ過などに使用されるフィルタや熱交換器などに用いられる多孔質材料に関し、特に多孔質材料を基材として、さらにその基材の別の多孔質材料を形成させた多層型多孔質材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体のろ過などに一般的に使用されているフィルタ類は、ろ過すべき物体の大きさに応じて、その細孔径が選択されている。そして、その細孔径に応じてその材質もさまざまなもので構成されており、発電所の冷却水などのろ過には金属板に細孔を多数設けたパンチングメタルや金網状のものが、水道水などのろ過などでは繊維状のものやセラミックス製のものが、またイオンなどのろ過には化学繊維製の浸透膜などが使用されている。
【0003】
一方、これらのフィルタの特性は、孔径、孔分布、孔形状、等の構造により決定されるため、多くの用途において、複数の構造を有するフィルタを組合せて使用している。セラミックス製のフィルタにおいては、通常、流体の流入側から流出側に向うに従い孔径が順次大きくなるように構成されており、例えば、水の浄化などに使用されるセラミックス製のフィルタでは、数〜数百ミクロンオーダの孔径の構造のものからサブミクロンオーダーの微細な孔径を有する構造のものを複数重ねた層状の構造になっている。
【0004】
図5は、そのようなセラミックス製のフィルタの構造の一例を概略的に示したものである。水が流出する内層には、例えば数百ミクロンオーダ孔径を有する粒子の大きなセラミックスで構成され、その外側には例えば数十から数ミクロンオーダの孔径を有する中程度の粒子のセラミックスで構成され、さらにその外側の最外層には0.1〜1ミクロンオーダの孔径を有する細かい粒子からなるセラミックスで構成されており、全体として10ミリ前後の厚みを有したものとなっている。
【0005】
このようなセラミックス製のフィルタは、各層を形成するセラミックスが略同質材料であるため、各層を順次必要な厚み・形状に構成、特に、最外層の細かい粒子からなるセラミックス層は、スラリ状の原材料を塗布することで、構成されており、これらを一体で焼結することが可能で、一般的に製造プロセスが確立している。
【0006】
例えば、特許文献1には、成膜用スラリをアルミナ粒子からなる多孔質基材上に付着させ層を形成した後、水分蒸発を抑制した状態で加温する給湿処理を施してセラミックス多孔質フィルタを製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−261464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、セラミックス製のフィルタは一体で焼結されるため、例えば、孔径の異なる複数の層のうち、1つの層でも詰まると、その層のみを交換することが出来ず、フィルタ全体を交換する必要があり、経済的に不利であった。
【0008】
また、セラミックス製のフィルタは焼結体であるため、強度が必ずしも高くは無い。そのため、例えば孔径の粗い部分は強度を有する金属材料で、孔径の微細な部分は従来通りセラミックスで構成しようとしても、一体焼結という方法では製作することが出来ず、機械的に接合するしか方法が無かった。
【0009】
一方、金属材料にセラミックスを接合する技術は既に知られているが、その場合でも金属材料とセラミックスとの熱膨張係数が異なるため、その接合面には残留応力が発生し、接合後の強度は一体焼結されたセラミックス製のものより劣る。また、その応力を低下させるためには、金属部材とフィルタとなるセラミックスの間に、熱膨張係数が金属部材とフィルタとなるセラミックスとの中間の値を有するセラミックス層を新たに設ける必要があり、そのような材料の模索、製作工程の増加、それによるコストの増加、などの不都合が生じていた。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするもので、多層構造の多孔質材を、材質の組合せに制限なく製造することを可能にするとともに、すでにできあがった半製品に対しても、その後工程で新たに多孔質材を密着、付与することが可能となる多層構造の多質材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の多層型多孔質材料の製造方法は、予め決められた粒度に調整された第1の粉末材料を第1多孔質材料として基材に形成する工程と、予め決められた粒度に調整された骨材となる第2の粉末材料と、この第2の粉末材料を加水反応によって析出する微細結晶または/および非晶質材で結合するアルコキシド溶液と、上記第2の粉末材料と上記アルコキシド溶液とを溶解させる溶媒と、をスラリ状に形成する工程と、上記第1多孔質材料の上に上記スラリを塗布する工程と、上記スラリを高温にして固化させて第2多孔質材料とする工程と、を有する多層型多孔質材料の製造方法であって、前記アルコキシド溶液は、少なくともAl、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrのいずれか1種以上を含むことを特徴とするものである。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の多層型多孔質材料は、基材を形成する第1の多孔質材料と、この第1の多孔質材料の上に形成され、骨材となる粗大粒子と、これらの粗大粒子同士を結合する微細結晶または/および非晶質材とからなる第2の多孔質材料と、から構成される多層型多孔質材料であって、上記第2の多孔質材料の開気孔率が30体積%以上70体積%以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層型多孔質材料の製造方法によれば、多層構造の多孔質材を、材質の組合せに制限なく作製することを可能となり、すでにできあがった半製品に対して、その後工程で新たに多孔質材を密着、付与することが可能となる。
【0014】
また、本発明の多層型多孔質材料は、各層での開気孔率を所望の値に調整でき、かつ材質の組合せに制限なく作製することを可能となり、すでにできあがった半製品に対して、その後工程で新たに多孔質材を密着、付与することが可能となるので、フィルタ類に限らず、断熱材、吸音材および衝撃緩衝材、等、広範囲な用途に適用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の多層型多孔質材料の作製方法を説明したフローチャートである。本発明の製造方法は、基材である多孔質基材の製造工程(工程1〜2)と、この多孔質基材の外面に少なくとも1層設けられる第2の多孔質材料の製造工程(工程3〜15)とに分かれている。
【0017】
まず、基材となる材料の粉末を用意(工程1)し、これを多孔質基材とする(工程2)。この基材の製造方法においては、粉末の粒径や材質などには特に限定はなく、最終的な製品である多層型多孔質材料で必要とされる開気孔率が得られれば良い。この基材となる材料の粉末は一般的なアトマイズ法によって作製後、粒径を調整した後、焼結などの方法を用いて多孔質基材としてもよい。また、必ずしも粉末から製作するのではなく、アルミニウムの電気分解によるアルマイト層を用いた多孔質基材としてもよい。この基材の断面の拡大した模式図が図1(または図2)の基材部分である。基材の粉末である第1の多孔質材料の粒子1が互いに接合するとともに、その間には空孔4が形成され全体として多孔質材料を構成している。
【0018】
次に、この基材の上に塗布される第2の多孔質材料の製造工程を説明する。
【0019】
まず、骨材となる粉末を用意する。この粉末は、通常市販されている粉末を持いても良いし、アトマイズ法によって製作した後、粒径を調整したものを用いてもよい。このような骨材は粒子形状に加工しやすい材質である、金属、セラミックスまたは有機ポリマーのいずれかが望ましい。このうち、金属材料としては、ステンレス鋼、フェライト系合金、アルミニウム、Ni系金属材料、Cr系金属材料のいずれかが望ましい。また、セラミックスとしては、Al、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrから選択されるいずれか1種の酸化物、窒化物または炭化物のいずれかであることが望ましい。さらに有機ポリマーとしては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂のいずれかであることが望ましい。
【0020】
また、後工程でこの骨材となる粉末(粒子)同士を結合する微細結晶/非晶質材を形成するアルコキシド溶液を用意する。このアルコキシド溶液は、骨材とする粒子の成分原子を含有するアルコキシド材を用いることが望ましい。すなわち、アルコキシド溶液にはAl、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrのいずれかが含まれることが望ましい。なお、骨材が有機ポリマーの場合には、このアルコキシド溶液にどのような金属成分であっても良い。
【0021】
さらに、これらの溶媒となるアルコール溶液を用意する(工程3)。この溶媒は特にアルコール溶液であれば限定はないが、発明者等の実験ではブタノールが良い特性を示した。そしてこれらの骨材粉末、アルコキシド溶液、および溶媒を必要な分量を調整して十分混合してスラリを作製する(工程4)。
【0022】
本発明では、基材の上に塗布する多孔質材料は必ずしも1層ではないため、初層用のスラリであるか、2層目以降のスラリであるかを判断する(工程5)。すなわち、この前の工程(工程4)で作製されたスラリを、多孔質基材に塗布するか、多孔質基材の上に既に塗布された多孔質材料の上にさらに塗布する別の多孔質材料かを判断するのである。
【0023】
工程5で初層用であると判断された場合には、工程2で既に作製済みである基材である多孔質基材の上に、工程4で作製されたスラリを塗布する(工程6)。塗布する厚みは0.5mm程度が望ましい。厚みが0.5mmより薄いと塗布する上で必要以上に精度が必要なり、また意図する気孔率が得られない可能性が高くなる。一方、厚みが0.5mmより厚くても機能上0.5mm程度塗布した場合と特段の変化がないため、それ以上は無駄な厚みとなる。よって、望ましい塗布する厚みは0.5mmである。
【0024】
次に、塗布したスラリに加水分解処理を施す(工程7)。加水分解処理を行うことにより、工程3で調整したアルコキシド溶液から形成される微細結晶または非晶質材が、骨材粒子同士、および基材と骨材粒子と同士とをそれぞれ結合して、塗布された基材とは別の新たな多孔質材を基材の上に形成するとともに、基材とも強固に結合されるのである。この加水分解処理は、50℃以上であれば反応が進むのでそれ以上の温度は必ずしも必要ないが、温度が高いほど微細結晶/非晶質材が安定するため、50℃以上の適当な温度を選択すればよい。しかし、500℃以上になると、基材を構成する材料の機械的性質が低下する可能性が高くなり、製造装置自体のコストもかかるため、500℃以下が望ましい。
【0025】
次に、基材である多孔質基材と初層の多孔質材の2層構造で、全体としての必要となる気孔率が得られたならば、この段階で本発明の多層型多孔質材料は完成する(工程8、工程9)。
【0026】
基材の上に初層のみで形成される多層型多孔質材料の断面を拡大した模式図が図2である。第1の多孔質材料の粒子1同士が接合されるとともに、粒子1の間に空孔4を有する基材の上には、第2の多孔質材料の粒子2とこの粒子2間には空孔4を有するとともに、この粒子2同士またはこの粒子2と基材の粒子1とを結合する微細結晶3a、非晶質材3b、3cからなる第1層が形成されている。そして、この基材と第1層とで、初層のみからなる本発明の多層型多孔質材料が構成されている。なお、第2の多孔質材料の粒子で形成される第1層の開気孔率は30〜70体積%となっている。
【0027】
しかしながら、さらに層を重ねて多層構造にしたい場合には、工程8から工程10に進み、新たな骨材料粉末とアルコキシド溶液および溶媒を準備して(工程10)、スラリを作製する(工程11)。これらの工程は、前述の工程3、工程4と同じなので説明を省略する。
【0028】
工程11で作製されたスラリは、初層ではないので(工程12)、既に完成済みの基材の上に形成された多孔質材(最外層)の上に塗布される(工程13)。これ以降の工程も、既に説明済みの工程7〜9と同じなので、説明を省略する。
【0029】
このように基材の上に層を重ねて形成された多層型多孔質材料の断面を拡大した模式図が図3である。第1の多孔質材料の粒子1同士が接合されるとともに、この粒子1の間に空孔4を有する基材の上には、第2の多孔質材料の粒子2と、この粒子2間に形成された空孔4およびこの粒子2同士またはこの粒子2と基材の粒子1とを結合する微細結晶3a、非晶質材3b、3cとから構成される第1層が形成されている。なお、第2の多孔質材料の粒子2で形成される第1層の開気孔率は30〜70体積%となっている。
【0030】
さらに、第1層の上には、第3の多孔質材料の粒子5とこの粒子5間に形成された空孔4およびこの粒子5同士またはこの粒子5と第1層の粒子2とを結合する微細結晶3a、非晶質材3b、3cとか構成される第2層が形成されている。
【0031】
そして、これらの基材、第1層および第2層ともに、微細結晶または/および非晶質材で互いの粒子同士が結合されるため、より強固な結合がなされるのである。
【0032】
このように、本発明においては、工程15で必要とされる多孔質材が得られたか否かの判断を行い、必要に応じて何層にも亘って多孔質材を重ねて塗布することが可能となるのである。
【0033】
なお、本発明では基材となる多孔質基材の作製工程も説明したが、この基材は市販のセラミックス、金属材料で構成された多孔質体などでも代用可能である。さらに、本発明では基材と骨材との結合を行う微細結晶/非晶質材を形成するためにアルコキシド溶液を用いたが、これに限らず骨材の成分を含有する金属イオン電解液から析出させて形成させてもよい。
【0034】
(実施例1)
実施例1は、基材をステンレス焼結金属多孔質体とし、その上にジルコニア系セラミックス多孔質体を層構造にした多層型多孔質材料である。
【0035】
まず、基材となるステンレス焼結金属多孔質体を作製した。ステンレス粉末材料をアトマイズ法で作製した後、機械的なふるいによる分級を行い、平均粒径約53μmの粉末に調整した。この粉末を金型に入れて1ton/cm2の圧力でプレス成形した後、真空雰囲気の炉で1000℃、2時間保持し、板状のステンレス焼結金属多孔質体を作製した。出来たステンレス焼結金属多孔質体を、水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径が約φ12μm、気孔率は約53体積%であった。
【0036】
次に、この上に層を形成するジルコニア系セラミックス多孔質体を作製した。平均粒径約1.3μmの骨材となるジルコニア粒子を用意し、このジルコニア粉末を62重量%、ジルコニアのアルコキシドであるテトラ−n−ブトキシジルコニウム(化学式:Zr(O−n−C4H9)4)を9重量%、溶媒としてのブタノール(化学式:n−C4H9OH)29重量%を秤量し、ジルコニアボールを混合メディアとした回転ボールミルで湿式混合した。
【0037】
湿式混合で得られたスラリーを上記ステンレス焼結金属多孔質体の上に約0.5mmの厚さに塗布し、50℃に加温して加水分解反応させて固化膜とした。この固化膜を水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径が約φ0.7μm、気孔率は約47体積%であった。さらに、この固化膜を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。その結果、骨材であるジルコニア粒子の間、およびジルコニア粒子と基材であるステンレス焼結金属多孔質体のステンレス粒子との間には、平均粒径約0.1μm以下の微細結晶または非晶質材が連結した構造になっていた。
【0038】
得られた2層構造の多孔質材料は、各層間の結合、各層の構造とも堅牢なものであり、良好な多層型多孔質材料が得られた。
【0039】
(実施例2)
実施例2は、基材をアルミナ多孔質体とし、その上にアルミナ系セラミックス多孔質体を層構造にした多層型多孔質材料で、同じ材料を用いながら構造が異なるものを層状にした多孔質材料である。
【0040】
まず、基材となるアルミナ多孔質体を作製した。このアルミナ多孔質体は、平均粒径約0.3μmの易焼結性の高純度アルミナ粉末を金型に入れてプレス成形した後、焼結し、アルミナ多孔質体とした。出来たアルミナ多孔質体を、水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径が約φ0.2μm、気孔率は約51%であった。
【0041】
次に、この上に層を形成するアルミナ系セラミックス多孔質体を作製した。平均粒径約0.8μmの骨材となるアルミナ粒子を用意し、このアルミナ粉末を70重量%、チタンのアルコキシドであるテトラ−i−プロポキシチタン(化学式:Ti(O−i−C3H7)4)を9重量%、溶媒としてのブタノール(化学式:n−C4H9OH)21重量%を秤量し、ジルコニアボールを混合メディアとした回転ボールミルで湿式混合した。
【0042】
湿式混合で得られたスラリーを上記アルミナ多孔質体の上に約0.5mmの厚さに塗布し、50℃に加温して加水分解反応させて固化膜とした。この固化膜を水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径が約φ0.5μm、気孔率は約57体積%であった。さらに、この固化膜を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。その結果、骨材であるアルミナ粒子の間、およびアルミナ粒子と基材であるアルミナ多孔質体のアルミナ粒子との間には、平均粒径約0.1μm以下の微細結晶または非晶質材が連結した構造になっていた。
【0043】
得られた2層構造の多孔質材料は、各層間の結合、各層の構造とも堅牢なものであり、良好な多層型多孔質材料が得られた。
【0044】
(実施例3)
実施例3は、基材を実施例1や実施例2とは異なる陽極酸化アルミニウム膜からなる多孔質体とし、その上に比較的粗い粒子構造を有するアルミナ系セラミックス多孔質体を層構造にした多層型多孔質材料である。
【0045】
本実施例の基材が陽極酸化アルミニウム膜からなる多孔質体で、その上にアルミナ系セラミックス多孔質体を層状に形成した多層型多孔質材料の縦断面および横断面を拡大した模式図が図4(a)および図4(b)である。
【0046】
まず、基材となる陽極酸化アルミニウム膜は、以下のような公知の陽極酸化の方法により作製した。すなわち、高純度のアルミニウム基材を陽極に、鉛を陰極に、電解液を硫酸(化学式:H2SO4)により電気分解することにより、アルミニウム基材の表面は電解液中に溶解するとともに、電解液中の水が電気分解による分解されて酸素が発生し、溶解したアルミニウムがこの酸素と結合して多孔質構造のアルマイト(化学式:Al2O3)層がアルミニウム基材の上に形成された。このアルマイト層を、硫酸液でエッチングすることによりアルミニウム基材から剥離、剥離部分を再度処理することにより、貫通した多孔を有する膜が得られた(図4(b))。この膜を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて観察したところ、約φ70nmの細孔が規則正しく並んだ構造をした膜を得ることが出来た。
【0047】
次に、この上に層を形成するアルミナ系セラミックス多孔質体を作製した。平均粒径約0.8μmの骨材となるアルミナ粒子を用意し、このアルミナ粉末を70重量%、アルミニウムのアルコキシドであるトリ−sec−ブトキシアルミニウム(化学式:Al(O−sec−C4H9)3)9重量%、溶媒としてのブタノール(化学式:n−C4H9OH)21重量%を秤量し、ジルコニアボールを混合メディアとした回転ボールミルで湿式混合した。
【0048】
湿式混合で得られたスラリーを上記アルミナ多孔質体の上に約0.5mmの厚さに塗布し、50℃に加温して加水分解反応させて固化膜とした。この固化膜を水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径が約φ0.4μm、気孔率は約52体積%であった。さらに、この固化膜を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。その結果、骨材であるアルミナ粒子の間、および基材である陽極酸化アルミニウム膜とアルミナ粒子の間、平均粒径約0.1μm以下の微細結晶または非晶質材が連結した構造になっていた。
【0049】
得られた2層構造の多孔質材料は、各層間の結合、各層の構造とも堅牢なものであり、良好な多層型多孔質材料が得られた。
【0050】
(実施例4)
実施例4は、基材をセラミックス多孔質体とし、その両面にフェライト合金からなる多孔質体を層構造にした多層型多孔質材料である。基材となるセラミックス多孔質体は、緻密なジルコニア焼結体の一方の面にNi酸化物を含有する多孔質酸化物が、他方の面にはランタンストロンチウムマンガナイトような多孔質サーメットが積層された3層からなる多孔質体である。
【0051】
基材の一方の面を構成する多孔質酸化物を水銀圧入法で測定したところ、気孔率は約32%であった。同様に、基材の一方の面を構成する多孔質サーメットを水銀圧入法で測定したところ気孔率が約35%であった。
【0052】
次ぎに、この基材の上に層を形成するフェライト系合金多孔質体を作製した。ここで、実施例4で用いたフェライト系合金は、酸化皮膜との導電性の保持を主な目的に開発されたもので、Fe−22Crを主成分とし、さらに微量元素を添加された合金(商品名:ZMG232(日立金属))である。この合金をアトマイズ法で微粒子化を行い、得られた粉末を機械的なふるいによる分級を行い、平均粒径が約38μmに調整した。
【0053】
このフェライト系合金粉末(ZMG232粉末)65重量%、ジルコニウムのアルコキシドであるテトラ-n-ブトキシジルコニウム(化学式:Zr(O−n−C4H9)4)を15重量%、溶媒であるブタノール(化学式:n−C4H9OH)20重量%を秤量し、ジルコニアボールを混合メディアとした回転ボールミルで湿式混合した。
【0054】
湿式混合で得られたスラリーを上記基材の両面に約0.5mmの厚さに塗布し、50℃に加温して加水分解反応させて固化膜とした。この固化膜を水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径は約φ21.2μm、気孔率は約51体積%であった。さらに、この固化膜を電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて観察した。その結果、骨材であるジルコニウム粒子の間、ジルコニウム粒子と基材側の一方の面を構成するNi酸化物を含有する多孔質体の粒子との間、およびジルコニウム粒子と基材側の他方の面を構成する多孔質サーメットの粒子との間との間は、平均粒径約0.1μm以下の微細結晶または非晶質材が連結した構造になっていた。
【0055】
得られた片面3層構造の多孔質材料は、各層間の結合、各層の構造とも堅牢なものであり、良好な多層型多孔質材料が得られた。
【0056】
(比較例1)
基材となるステンレス焼結金属多孔質体を作製した。実施例1と同様に、ステンレス粉末材料をアトマイズ法で作製した後、機械的なふるいによる分級を行い、平均粒径約53μmの粉末に調整した。この粉末を金型に入れて1ton/cm2の圧力でプレス成形した後、真空雰囲気の炉で1000℃、2時間保持し、板状のステンレス焼結金属多孔質体を作製した。出来たステンレス焼結金属多孔質体を、水銀圧入法で測定したところ、平均気孔径が約φ12μm、気孔率は約53体積%であった。
【0057】
次に、この上に層を形成するジルコニア系セラミックス多孔質体を作製した。平均粒径約1.3μmの骨材となるジルコニア粒子を用意し、このジルコニア粉末を55重量%、バインダを10重量%、溶媒としてのエタノール(化学式:C2H6O)35重量%を秤量し、ジルコニアボールを混合メディアとした回転ボールミルで湿式混合した。
【0058】
湿式混合で得られたスラリーを上記ステンレス焼結金属多孔質体の上に約0.5mmの厚さに塗布し、50℃に加温後、大気中500℃で2時間保持した。
【0059】
得られたジルコニア系セラミックス多孔質体は十分な強度を持たず、亀裂や剥離が顕著であっり、この方法では、良好な多層型多孔質材料は得られなかった。
【0060】
(比較例2)
実施例4と同様に、基材をセラミックス多孔質体とし、その両面にフェライト合金からなる多孔質体を層構造にした多層型多孔質材料である。基材となるセラミックス多孔質体は、緻密なジルコニア焼結体の一方の面にNi酸化物を含有する多孔質酸化物が、他方の面にはランタンストロンチウムマンガナイトような多孔質サーメットが積層された3層からなる多孔質体である。
【0061】
基材の一方の面を構成する多孔質酸化物を水銀圧入法で測定したところ、気孔率は約32%であった。同様に、基材の一方の面を構成する多孔質サーメットを水銀圧入法で測定したところ気孔率が約35%であった。
【0062】
次ぎに、この基材の上に層を形成するフェライト系合金多孔質体を作製した。フェライト系合金多孔質体は、実施例4で用いた合金(商品名:ZMG232(日立金属))である。この合金をアトマイズ法で微粒子化を行い、得られた粉末を機械的なふるいによる分級を行い、平均粒径が約38μmに調整した。
【0063】
このフェライト系合金粉末(ZMG232粉末)70重量%、バインダを10重量%、溶媒であるブタノール(化学式:n−C4H9OH)20重量%を秤量し、ジルコニアボールを混合メディアとした回転ボールミルで湿式混合した。
【0064】
湿式混合で得られたスラリーを上記基材の両面に約0.5mmの厚さに塗布し、50℃に加温した後、アルゴン雰囲気中950℃で2時間保持し、昇温過程でバインダーを分解させるとともに、合金粒子間の部分的な焼結を進めた。
【0065】
フェライト系合金粉末は、フェライト系合金同士は焼結して金属多孔質体となったが、基材上では、焼結収縮によると思われる膜の破壊、剥離が生じ、一体化ができなかった。加えて、多孔質サーメット側には変質が生じ、多層型多孔質材料は得られなかった。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の多層型多孔質材料の作製方法の手順を説明する図
【図2】本発明の第1の実施の形態の多層型多孔質材料の板厚方向の断面の詳細を模式的に表わした図
【図3】本発明の第2の実施の形態の多層型多孔質材料の板厚方向の断面の詳細を模式的に表わした図
【図4】(a)本発明の別の実施の形態の多層型多孔質材料の板厚方向の断面の詳細を模式的に表わした図 (b)(a)のW−W断面を示した図
【図5】従来のセラミックス製フィルタを模式的に表わした図
【符号の説明】
【0067】
1…第1の多孔質材料(基材)の粒子、2…第2の多孔質材料の粒子、3a…微細結晶、3b…非晶質材、3c…別の非晶質材、4…空孔、5…第3の多孔質材料の粒子、6…アルマイト製多孔質材料、7…アルマイト空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め決められた粒度に調整された第1の粉末材料を基材となる第1多孔質材料に形成する工程と、
予め決められた粒度に調整された骨材となる第2の粉末材料と、
この第2の粉末材料を加水反応によって析出する微細結晶または/および非晶質材で結合するアルコキシド溶液と、
上記第2の粉末材料と上記アルコキシド溶液とを溶解させる溶媒と、
をスラリ状に形成する工程と、
上記第1多孔質材料の上に上記スラリを塗布する工程と、
塗布された上記スラリを高温にして固化させて第2多孔質材料とする工程と、
を有する多層型多孔質材料の製造方法であって、
前記アルコキシド溶液は、少なくともAl、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrのいずれか1種以上を含むことを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項2】
予め決められた孔径を有する多孔質膜を基材となる第1多孔質材料に形成する工程と、
予め決められた粒度に調整された骨材となる粉末材料と、
この粉末材料を加水反応によって析出する微細結晶または/および非晶質材で結合するアルコキシド溶液と、
上記粉末材料と上記アルコキシド溶液とを溶解させる溶媒と、
をスラリ状に形成する工程と、
上記第1多孔質材料の上に上記スラリを塗布する工程と、
塗布された上記スラリを高温にして固化させて第2多孔質材料とする工程と、
を有する多層型多孔質材料の製造方法であって、
前記アルコキシド溶液は、少なくともAl、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrのいずれか1種以上を含むことを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多層型多孔質材料の製造方法であって、
前記第2多孔質材料とする工程に加え、さらに上記スラリとは異なる粉末材料および異なるアルコキシド溶液材料から構成されるスラリをこの第2多孔質材料に塗布する工程と、を有する
ことを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに1項に記載の多層型多孔質材料の製造方法であって、
上記第2多孔質材料を構成する骨材料は、金属、セラミックス、有機ポリマーから選択される1種であることを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の多層型多孔質材料の製造方法であって、
上記第2多孔質材料となる金属粉末材料は、ステンレス、フェライト系合金、アルミニウム、Ni系金属材料、Cr系金属材料から選択されるいずれか1種の金属材料であることを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の多層型多孔質材料の製造方法であって、
上記第2多孔質材料となるセラミックス粉末材料は、Al、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrから選択されるいずれか1種の酸化物、窒化物または炭化物のいずれかであることを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の多層型多孔質材料の製造方法であって、
上記第2多孔質材料となる有機ポリマー粉末材料は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂から選択されるいずれか1種であることを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項8】
請求項2乃至請求項7のいずれか1項に記載の多層型多孔質材料の製造方法であって、
上記第1多孔質材料は、陽極酸化アルミニウムであることを特徴とする多層型多孔質材料の製造方法。
【請求項9】
少なくとも基材を形成する第1の多孔質材料と、
この第1の多孔質材料の上に形成され、
骨材となる粗大粒子と、これらの粗大粒子同士を結合する微細結晶または/および非晶質相とからなる第2の多孔質材料と、
から構成される多層型多孔質材料であって、
上記第2の多孔質材料の開気孔率が30体積%以上70体積%以下であることを特徴とする多層型多孔質材料。
【請求項10】
請求項9に記載の多層型多孔質材料であって、
上記第2の多孔質材料を構成する骨材は、ステンレス、フェライト系合金、アルミニウム、Ni系金属材料、Cr系金属材料から選択されるいずれか1種の金属材料であることを特徴とする多層型多孔質材料。
【請求項11】
請求項9に記載の多層型多孔質材料であって、
上記第2の多孔質材料を構成する骨材は、Al、Si、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Zrから選択されるいずれか1種の酸化物セラミックスまたは窒化物セラミックスであることを特徴とする多層型多孔質材料。
【請求項12】
請求項9に記載の多層型多孔質材料の作製方法であって、
上記第2の多孔質材料を構成する骨材は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂から選択されるいずれか1種の有機ポリマーであることを特徴とする多層型多孔質材料。
【請求項13】
請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の多層型多孔質材料であって、
上記第1の多孔質材料は、陽極酸化アルミニウムであることを特徴とする多層型多孔質材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−238744(P2008−238744A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85779(P2007−85779)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】