説明

多層型睫用化粧料

【課題】カールキープ及びロングラッシュ効果や発色、そしてツヤといった化粧効果に加え、耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性、付着性に優れ、かつ滑らかな伸びを有し簡便に塗布できる睫用化粧料を提供する。
【解決手段】(A)揮発性油分と(B)着色剤を含有する少なくとも1の油層と、(C)皮膜形成剤と(D)水を含有する少なくとも1の水層が互いに相溶しない状態で充填されてなる多層型睫用化粧料であって、
水層が下記成分(E)及び(F);
(E)ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの中から選択される1種又は2種以上の水溶性高分子、及び
(F)多価アルコール
を含有し、実質的に油性成分を含有しないことを特徴とする多層型睫用化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は睫用化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
睫用化粧料は従来、ロングラッシュ効果などの目元を際立たせる化粧効果を持たせるという目的で睫に塗布するものであり、塗布部位の特性上、汗や涙、皮脂などの生理現象の影響や瞬き、目を擦るなどの人間の無意識な行動による影響を受けやすい。このため、耐水性や耐皮脂性、耐摩擦性などの機能を有する事が必要とされてきた。また、近年では塗布時にダマになるのを防ぐためや感触向上のために、マスカラ液の伸びの良さも強く求められるようになってきている。
【0003】
耐水性や耐皮脂性を改善するために合成樹脂エマルジョンを配合し、O/W/O型のダブルエマルジョン化、或いはマルチプルエマルジョン化する睫用化粧料が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この睫用化粧料の系では、皮膜形成能が乏しく、耐皮脂性、耐水性が貧弱であり、とりわけ耐摩擦性は極めて弱く、塗膜の剥離が起こりやすかった。また、カールキープ効果にも乏しく、目元を際立たせるという睫用化粧料の目的を十分に果たせていなかった。さらに乳化によって液体が白濁してしまい、発色やツヤの面で満足いくものが得られなかった。
【0004】
また、皮膜形成能を向上させることによって色移りを防ぐ目的で、揮発性化合物とポリビニルピロリドンのポリマーの混合物を含有する化粧料が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この化粧料においても皮膜強度が充分ではなく、摩擦による塗膜の剥離を防げるものではなかった。さらに、皮脂に弱いという大きな欠点があった。
【0005】
また、ロングラッシュ効果の向上を目的として曳糸性水溶性高分子を配合した含水化粧料が提案されている(特許文献3参照)。しかしこの含水化粧料においては曳糸性は発揮されるものの、塗膜が水性の皮膜になってしまうため、カールキープ力や耐水性が貧弱であるという問題点があった。
【0006】
さらに、二剤収納型の容器に異なる機能を持たせた二種の化粧料組成物を充填するようにしたマスカラ化粧用具が提案されている(特許文献4参照)。しかしこの化粧料においては、各剤を別々に塗布しなければならないばかりか、2剤目を塗布する前に1剤目が乾燥するまで待たなければならず、簡便さに欠けており、さらにロングラッシュ効果も充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭52−27695号公報
【特許文献2】特許第3001832号公報
【特許文献3】特開2009−234978号公報
【特許文献4】特開2002−322031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、カールキープ及びロングラッシュ効果や発色、そしてツヤといった化粧効果に加え、耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性、付着性に優れ、かつ滑らかな伸びを有し簡便に塗布できる睫用化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、特定の水溶性高分子、皮膜形成剤及び多価アルコールを組み合わせた水層成分と揮発性油分と着色剤を含有する油層成分とを界面活性剤を用いることなく多層状態に存在させることによって、高いロングラッシュ効果が得られ、さらにカールキープ、発色、ツヤといった高い化粧効果を有し、耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性、付着性に優れ、かつ滑らかな伸びを有し簡便に塗布できる従来にない睫用化粧料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は(A)揮発性油分と(B)着色剤を含有する少なくとも1の油層と、(C)皮膜形成剤と(D)水を含有する少なくとも1の水層が互いに相溶しない状態で充填されてなる多層型睫用化粧料であって、
水層が下記成分(E)及び(F);
(E)ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの中から選択される1種又は2種以上の水溶性高分子、及び
(F)多価アルコール
を含有し、実質的に油性成分を含有しないことを特徴とする多層型睫用化粧料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層型睫用化粧料は、カールキープ及びロングラッシュ効果や発色、そしてツヤといった化粧効果に加え、耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性、付着性に優れ、かつ滑らかな伸びを有し簡便に塗布できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明の多層型睫用化粧料の少なくとも1の油層は、(A)揮発性成分と(B)着色剤とを含有する。
【0014】
本発明の油層に使用される(A)揮発性油分としては、通常化粧料に使用されるものであれば特に制限されないが、例えば、軽質流動イソパラフィン、イソドデカン等の炭化水素油、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルトリメチコン、低重合度ジメチルポリシロキサン等のシリコーン類が挙げられ、これらを必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも軽質流動イソパラフィン、イソドデカンなどの揮発性炭化水素が油層成分の乾燥を高め、揮発により強固な化粧塗膜を形成する効果に優れ、好ましい。例えばマルカゾール(丸善石油化学社製)、IPソルベント1620(出光石油化学社製)などが挙げられる。
【0015】
(A)揮発性油分の含有量は、特に限定されないが、油層成分総量を基準として、10〜70質量%(以下、単に「%」で示す。)が好ましく、さらに好ましくは20〜60%である。この範囲であれば、睫への付着性や使用時のなめらかさ、化粧膜の均一性の点で特に満足のいくものが得られる。
【0016】
また本発明の油層に使用される(B)着色剤としては、通常化粧料に使用されるものであれば特に制限されないが、例えば、カーボンブラック、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。具体的には、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン・酸化チタン焼結物、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、カオリン、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、珪ソウ土、ヒドロキシアパタイト、窒化硼素等の無機粉体類;オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、紺青被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、酸化鉄・酸化チタン被覆合成金雲母、魚燐箔、二酸化チタン被覆ガラスフレーク、銀被覆ガラスフレーク、金被覆ガラスフレーク、酸化鉄被覆ガラスフレークポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・ポリウレタン積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末等の光輝性粉体類;ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂等のコポリマー樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の有機高分子樹脂粉体、N−アシルリジン等の有機粉体類;澱粉、シルク粉末、セルロース粉末等の天然有機粉体、有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体類;アルミニウム粉、金粉、銀粉等の金属粉体、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体等が挙げられる。またこれらの色素及び顔料は、表面をシリコーン類、ラウロイルリジン、ステアロイルグルタミン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルジエタノールアミン塩、ポリエチレン、その他油剤等で被覆処理されていても良い。またその形態についても、板状、紡錘状、針状等の形状、粒子径、多孔質、無孔質等の粒子構造等により特に限定されない。
本発明の油層においては、これらの中から黒酸化鉄及び/又はカーボンブラックを選択して用いるのが発色やツヤの面で望ましい。
【0017】
(B)着色剤の含有量としては、油層成分総量を基準として0.01〜30%であると好ましく、より好ましくは0.5〜20%であり、さらに好ましくは5.0〜15%である。着色剤の含有量がこの範囲であると、ツヤと黒さの面で充分な効果が得られ、化粧料自体の保存安定性が良好である。
【0018】
また本発明においては、その効果を損ねない範囲で上記着色剤が油層に加えて水層中にも含有されていても構わない。
【0019】
本発明の睫用化粧料の油層は、さらに(G)ワックス、及び(H)油溶性樹脂を含有し、25℃における粘度が1000〜30000mPa・sであるのが好ましい。
【0020】
成分(G)のワックスとしては、通常化粧料に用いられているワックスであれば、合成系、植物系、動物系、鉱物系、石油系などその由来を問わず、いずれのものも使用できる。例えば、パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、エチレンプロピレンコポリマー、α−オレフィンオリゴマー、モクロウ、モンタンワックス、フィッシャートロプスワックス、ゲイロウ、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ミツロウ、コメヌカロウ、シリコーンワックス、ライスワックス、サンフラワーワックス等が挙げられる。
【0021】
本発明において(G)ワックスは、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して用いることができ、またその含有量は、油層成分総量を基準として5〜30%が好ましく、特に好ましくは10〜25%である。この範囲でワックスを含有することにより、充分なカールキープ効果と付着性が得られ、伸びが良好になる。
【0022】
本発明に用いられる成分(H)の油溶性樹脂としては、通常化粧料に使用されるものであれば特に制限されず利用することができる。この成分(H)の例としては、キャンデリラレジン、水添ロジン酸ペンタエリスチル、水添アビエチン酸グリセル等のロジン系樹脂、トリメチルシロキシケイ酸、アクリル―シリコーングラフト共重合体などのシリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリイソブチレン等が挙げられる。中でも、トリメチルシロキシケイ酸を選択すると、仕上がりの化粧膜のツヤ感、塗膜の強さといった化粧持ちの点で好ましい。これらの成分(H)は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
この成分(H)である油溶性樹脂の含有量は、樹脂固形分換算で油層成分総量を基準として1〜50%が好ましく、より好ましくは5〜40%、さらに好ましくは10〜30%である。この範囲であれば、化粧膜のツヤ感、また耐皮脂性、耐摩擦性が向上する。
【0024】
また本発明の油層には、上記成分とは別に伸びの良さと保存安定性を向上させるために、(I)油性ゲル化剤を含有させることができる。例えば、ラウリン酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、オレイン酸デキストリン、ベヘン酸デキストリン、ヤシ油脂肪酸デキストリン等のデキストリン脂肪酸エステル、パルミチン酸ショ糖エステル等のショ糖脂肪酸エステル、アルミニウムステアレート、マグネシウムステアレート、ジンクミリステート等の金属セッケン、N−ラウロイル−L−グルタミン酸、α,γ−ジ−n−ブチルアミン等のアミノ酸誘導体、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトールのベンジリデン誘導体、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト等の有機変性粘土鉱物、シリコーン架橋物や架橋型メチルポリシロキサンをシリコーン類で希釈したもの等のシリコーン系ゲルやイヌリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
本発明における油層は、B型回転粘度計(ローターNo.4)による測定において、25℃における粘度が、好ましくは30rpmの時1000〜30000mPa・sであり、より好ましくは、3000〜25000mPa・sであり、さらに好ましくは5000〜20000mPa・sである。この範囲内であれば、塗布時の滑らかな使用感を得られ、水層との絡みが良く、睫上に油層及び水層の均一な塗布膜が得られる。
【0026】
また本発明の油層には、成分(G)や成分(H)以外の固形、半固形又は液状の油性成分を含有していても良い。これらの油性成分は通常化粧料に用いられているものであれば、特に限定されず何れのものも使用できる。例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、2−エチルヘキサン酸、ウンデシレン酸、パルミトオレイン酸、イソステアリン酸、リシノレイン酸、リノール酸、オレイン酸等の脂肪酸、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ツバキ油、アボガド油、トウモロコシ油、ヒマシ油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、ホホバ油、パーム油、ヤシ油、硬化ヤシ油、硬化油、硬化ヒマシ油、卵黄油、ナタネ油、コムギ胚芽油、落花生油、コメヌカ油等の油脂、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、トリオクタン酸グリセリル、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、(カプリル/カプリン/ミリスチン/ステアリン酸)トリグリセリル、オレイン酸フィトステリル、乳酸オクチルドデシル、イソステアリン酸イソプロピル、トリベヘン酸グリセリル、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、コレステロール脂肪酸エステル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル,マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル等のエステル類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、ラノリンアルコール、オクチルドデカノール、カプリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ポリブテン等の炭化水素、高重合度ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン系油、フッ素変性ポリシロキサン等、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン、パーフルオロポリエーテル等のフッ素油、パルミチン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソトリデシル等の脂肪酸と一価のアルコールのエステル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ステアリン酸ポリエチレングリコール等の脂肪酸とグリコールのエステル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトールなどの脂肪酸と多価アルコールのエステル、リンゴ酸ジイソステアリルなどの水酸基を持つエステル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、炭酸ジアルキルなどの二塩基酸のエステル、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル等の脂肪酸とステロールとのエステルや液状ラノリン、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体等が挙げられる。
【0027】
なお本発明における油層は水性成分を実質的に含有しないことが好ましいが、油層を連続層としたW/OエマルジョンやO/W/Oエマルジョンの形態になっていても良い。また本明細書において「油層が水性成分を実質的に含有しない」とは、油層中の水性成分の含有量が油層成分の総量を基準として5%未満であることを指し、1%未満であるとより好ましい。
【0028】
本発明の多層型睫用化粧料の少なくとも1の水層は、(C)皮膜形成剤と(D)水を含有し、かつ下記成分(E)及び(F);
(E)ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンから選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子、及び
(F)多価アルコールを含有し、実質的に油性成分を含有しない。
【0029】
本発明の水層に用いる(C)皮膜形成剤としては特に限定されないが、ポリマーエマルジョンを用いることが望ましい。ポリマーエマルジョンは化粧料に通常使用されるものであれば、特に限定されない。例としては、アクリル酸アルキル共重合体エマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、ポリ塩化ビニルエマルジョン、(メタ)アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション、ビニルピロリドン・スチレン共重合体エマルション、シリコーン系ポリマーエマルション、アクリルアミド系ポリマーエマルション、ポリウレタン系ポリマーエマルション、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルジョン等が挙げられる。この中でも、アクリル酸アルキル共重合体エマルジョンが最も好ましい。アクリル酸アルキル共重合体エマルジョンの例としては、ヨドゾールシリーズ(アクゾノーベル社製)などが挙げられる。
【0030】
本発明に用いる(C)皮膜形成剤は1種又は2種以上を適時選択して用いることができ、その含有量は、樹脂固形分換算で水層成分総量を基準として0.1〜40%であると好ましく、より好ましくは1〜30%であり、さらに好ましくは5〜20%である。この範囲で皮膜形成剤を用いると、充分な耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性が得られ、水層の経時安定性も良好である。
水層における(D)水の含有量は、睫への付着性や使用時の滑らかさ、化粧膜の均一性の点から、水層成分総量を基準として20〜99質量%が好ましく、さらに30〜95質量%が好ましく、特に40〜90質量%が好ましい。
【0031】
本発明に用いる成分(E)の水溶性高分子は曳糸性を付与し、ロングラッシュ効果を出すのに重要であり、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの中から選択される1種又は2種以上を使用することができ、化粧料に通常用いられるものであれば特に制限されず使用できる。この中でも、ポリ(メタ)アクリル酸塩を用いるのが好ましく、特にナトリウム塩が好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸塩としては、例えば、アクアリックL−YS、アクアリックL−HL(日本触媒社製)、アロンビスシリーズ(日本純薬社製)等が挙げられる。
【0032】
また、この成分(E)は平均分子量が200万以上のポリアクリル酸ナトリウムであると、ロングラッシュ効果の面で望ましく、さらに部分中和物であるとより好ましい。このポリアクリル酸ナトリウム部分中和物は、ポリアクリル酸ナトリウム中の一部がアルカリで中和されたものであり、アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニア、アンモニア水、トリエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ポリエタノールアミン等の第1級、第2級もしくは第3級のアルキルアミン、又は第1級、第2級もしくは第3級のアルカノールアミンなどが挙げられる。ポリアクリル酸ナトリウム部分中和物を製造する方法としては、ポリアクリル酸ナトリウムを後から一部中和する方法と、重合時のモノマーの仕込み時においてアクリル酸の一部を中和してから重合する方法があるが、本発明においてはどちらの方法も適用できる。
【0033】
成分(E)の含有量は、水層成分総量を基準として0.01〜5%であるのが好ましく、より好ましくは0.03〜3%であり、さらに好ましくは0.05〜2%である。成分(E)の含有量がこの範囲であると曳糸性、ロングラッシュ効果が十分であり、塗布時のなじみが良く、べたつきが生じない。
【0034】
本発明に用いる成分(F)の多価アルコールは、化粧料に通常用いられるものであれば特に制限されず使用できる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン、トリオキシイソブタン等の3価アルコール、エリトリット、ペンタエリトリット等の4価アルコール、キシリット、アドニット等の5価アルコール、アロズルシット、ソルビトール、ソルビット液、マンニトール等の6価アルコール等が挙げられる。
上記成分(F)の中でも、特に1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。
【0035】
成分(F)の含有量としては水層成分総量を基準として0.1〜10%が好ましく、より好ましくは0.5〜8%、さらに好ましくは1〜5%である。多価アルコールの含有量がこの範囲であると乾燥速度が適切であり、均一な塗布膜が形成され、べたつきが生じない。
【0036】
また本発明に用いられる水層においては、必要に応じて上記成分(E)以外の水溶性高分子を含有することもできる。例えば、アラビアガム、トラガカント、ガラクタン、キャロガム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、キサンタンガム、ペクチン、寒天、クイスシード(マルメロ)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドキシプロピルセルロース、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子等、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリオキシアクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系水溶性高分子等が挙げられる。
【0037】
本発明における水層は、油性成分を実質的に含有しないことが好ましいが、本明細書において「水層が油相成分を実質的に含有しない」とは、水層中の油性成分の含有量が水層成分の総量を基準として5%未満であることを指し、1%未満であるとより好ましい。
【0038】
本発明における多層型睫用化粧料は、前記の油層と水層とが容器内に分離した層を形成するように充填されている。より好ましくは、油層が容器内の底面側に充填され、油層より開口部側に水層が充填されている。好ましくはその充填比率が油層:水層=10:1〜10:15であり、より好ましくは、10:2〜10:10であり、さらに好ましくは10:3〜10:8である。この範囲内であれば、油層及び水層の均一な付着性が特に得られる。なお、油層と水層とは、少なくとも各1層あればよいが、油層−水層−油層−水層のように各2層以上あってもよい。
【0039】
本発明の多層型睫用化粧料は、前記の各成分に加えて必要に応じて、かつ本発明の効果を損なわない範囲において、化粧料に通常用いられる各種の成分、例えば、睫を長く見せるための繊維、保湿剤、増粘剤、香料、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、溶剤、抗炎症剤、抗アンドロゲン剤、育毛剤、抗酸化剤、清涼剤、生薬抽出物やビタミン類、キューティクル保護成分等を適宜配合することができる。
【0040】
本発明で用いることのできる上記繊維としては、化粧料に通常用いられているものであれば、特に限定されず何れのものも使用できる。例えば、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維、レーヨン等の人造繊維、セルロース等の天然繊維、アセテート人絹等の半合成繊維等が挙げられる。また、これらの繊維は一般油剤、シリコーン油、フッ素化合物、界面活性剤等で処理したものを使用することができる。
【0041】
本発明の多層型睫用化粧料を睫に適用してロングラッシュ効果やカールキープ力、ツヤ、といった化粧効果を発揮するためには、睫上に塗布し、かつ化粧料をそこに残留させる必要がある。この点で、塗布具として油層及び水層を睫上に塗布し易いものを用いることが好ましい。
而して、本発明の多層型睫用化粧料の使用方法は、上記の多層型睫用化粧料を、樹脂製のくし型塗布具を用いて睫上に塗布することよりなり、前記塗布具のくしのピッチ幅が0.6〜1.3mmであり、より好ましくは0.7〜0.9mmのものを用いることを特徴とする。
【0042】
本発明の多層型睫用化粧料の使用方法に用いられる塗布具は、油層と水層の両方を一度の塗布で睫上にダマを形成することなく均一に塗布できる塗布具であり、くしのピッチ幅が0.6〜1.3mmであり、より好ましくは0.7〜0.9mmである。より詳細には、例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により射出成形されており、くしのピッチ幅が0.6〜1.3mmであるものが好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、ニトリルゴム、ブチルゴム等の合成ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)等の熱可塑性エラストマー、ポリウレタン、HDPE、MDPE、LDPE、LLDPE等のポリエチレン(PE)、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、PET、PBT等のポリエステル樹脂、メタクリル酸エステル重合体等のアクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリウレタン、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性アクリル樹脂等を使用することができる。
【0044】
従来、睫用塗布具として用いられてきたブラシ型塗布具(例えば、ブラシ繊維を2条の金属芯線材で把持しながら螺旋状に捻回したスクリューブラシや、ブラシ繊維を櫛軸周部に植毛した植毛ブラシ)は睫への塗布は可能であるが、油層と水層の塗布膜の均一性、睫への液体の付着量といった点で樹脂製のくし型塗布具と比較して悪く、好ましくない。
【実施例】
【0045】
本発明について以下に実施例を挙げて詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の技術範囲が何ら限定されるものではない。尚、配合量は特記しない限り含有量(質量%)である。実施例に先立ち、各実施例で採用した評価方法を説明する。
【0046】
(1)官能評価試験方法
女性パネラー25名によって、塗布時の使用感(なめらかなのびの良さ)、付着性の良さ、塗布後8時間後の皮脂や摩擦による化粧崩れ(耐皮脂性、耐摩擦性)、塗布後1時間後のカールキープ力、ロングラッシュ効果の実感について下記の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
良いと答えた人数が20人以上 ;◎
〃 13〜19人;○
〃 7〜12人;△
〃 6人以下;×
(評価項目)
a.カールキープ力
b.耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性
c.付着性
d.使用感(なめらかなのびの良さ)
e.ロングラッシュ効果
【0047】
<多層型マスカラの調製方法>
・油層成分の調製方法
ワックス、油溶性樹脂、揮発性油分、さらに場合によりデキストリン脂肪酸エステルやその他の油性成分を80℃以上に加熱混合して均一に溶解する。さらに顔料等を添加し、ホモミキサーを用いて均一分散した後に、室温まで冷却し、油層成分とする。
・水層成分の調製方法
水溶性高分子、多価アルコール、さらに場合によってはその他の水性成分を80℃以上に加熱混合して均一に溶解し、室温まで冷却してから皮膜形成剤を添加し、ホモミキサーで撹拌したものを水層成分とする。
上記油層成分を底面側に、上記水層成分を開口部側に所定の同一気密容器に所定の比率(油層:水層=10:6)で充填して目的の多層型マスカラを得る。
尚、塗布具は、PETを射出成形したくしのピッチ幅0.8mmのくし型塗布具を使用した。
【0048】
上記各組成物の成分組成及び評価試験結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、本発明の多層型睫用化粧料を用いれば、優れたカールキープ力を有し、耐水性、耐皮脂性、耐摩擦性、付着性、使用感が良好であり、ロングラッシュ効果に優れていた。
【0051】
(2)くし型塗布具の検討
実施例1の多層型マスカラを用いて、塗布具の検討を行ったところ、実施例1で用いたピッチ幅0.8mmのくし型塗布具は、ピッチ幅0.5mm及び1.5mmのくし型塗布具と比して、油層、水層の両方を同時に均一に塗布することができ、使用し易く、睫への塗布量も良好なものであった。またナイロンによるブラシ型塗布具は油層は睫上に均一に塗布されるものの、水層が良好に塗布されにくいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)揮発性油分と(B)着色剤を含有する少なくとも1の油層と、(C)皮膜形成剤と(D)水を含有する少なくとも1の水層が互いに相溶しない状態で充填されてなる多層型睫用化粧料であって、
水層が下記成分(E)及び(F);
(E)ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの中から選択される1種又は2種以上の水溶性高分子、及び
(F)多価アルコール
を含有し、実質的に油性成分を含有しないことを特徴とする多層型睫用化粧料。
【請求項2】
油層が下記成分(G)及び(H);
(G)ワックス、及び
(H)油溶性樹脂
を含有し、さらに油層の25℃における粘度が、1000〜30000mPa・sである請求項1記載の多層型睫用化粧料。
【請求項3】
油層が容器内の底面側に充填され、油層より開口部側に水層が充填されてなり、その質量比率が油層:水層=10:1〜10:15である請求項1又は2記載の多層型睫用化粧料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層型睫用化粧料を、くし型塗布具を用いて睫に塗布することよりなり、前記塗布具のくしのピッチ幅が0.6〜1.3mmであるものを用いることを特徴とする多層型睫用化粧料の使用方法。

【公開番号】特開2012−180317(P2012−180317A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45119(P2011−45119)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】