多層型磁性シート
【課題】焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートの諸条件を的確に設定・開発することにより、焼結型磁性シート単体や複合材料型磁性シート単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができる多層型磁性シートを提供する。
【解決手段】多層型磁性シート1には、フェライトシートなどの焼結型磁性シート2と、金属ガラスやセンダストなどの軟磁性金属粉末を混入した複合材料型磁性シート3とが積層される。複合材料型磁性シート3の厚さまたは透磁率の虚数部は、焼結型磁性シート2の厚さまたは透磁率の虚数部に応じて各々設定されている。これにより、多層型磁性シート1は、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において良好な減衰特性を発揮する。
【解決手段】多層型磁性シート1には、フェライトシートなどの焼結型磁性シート2と、金属ガラスやセンダストなどの軟磁性金属粉末を混入した複合材料型磁性シート3とが積層される。複合材料型磁性シート3の厚さまたは透磁率の虚数部は、焼結型磁性シート2の厚さまたは透磁率の虚数部に応じて各々設定されている。これにより、多層型磁性シート1は、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において良好な減衰特性を発揮する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層型磁性シートに係り、特に、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域においてノイズを抑制する際に好適に利用できる多層型磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高周波電子機器などにおいて発生する輻射性電磁波ノイズを抑制するために、フェライトなどに代表される焼結型磁性シート、センダストや金属ガラスなどの軟磁性合金と樹脂との複合材料に代表される複合材料型磁性シートなどの磁性シートが用いられている。
【0003】
従来の磁性シートにおいては、主成分たるフェライトやセンダストなどの磁気特性に応じて特定の周波数帯域におけるノイズ抑制効果が決定される。したがって、特定周波数帯域よりも広帯域においてノイズ抑制効果を発揮されるためには、複数の焼結型磁性シートや複合材料型磁性シートなどの同種の磁性シートを多層化することにより、特定周波数帯域よりも広帯域においてノイズ抑制効果を発揮させていた(特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2008−98392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートによる異種の磁性シートの多層化については、単にそれらを多層化すると互いのノイズ抑制効果に悪影響を及ぼし、特定周波数帯域よりも広帯域においてノイズ抑制効果を発揮させることが困難になるという技術常識があり、それが広帯域でのノイズ抑制効果の向上にとって問題となっていた。2GHz以下の低周波数帯域のノイズ抑制機能を有する焼結型磁性シートと、1GHz以下の高周波数帯域のノイズ抑制機能を有する複合材料型磁性シートとを多層化することができないとなると、いずれかのシートのみを用いた場合には少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域においてノイズを抑制することが困難になる。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートの諸条件を的確に設定・開発することにより、焼結型磁性シート単体や複合材料型磁性シート単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができる多層型磁性シートを提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明の多層型磁性シートは、その第1の態様として、酸化物系軟磁性体をシート状に焼結することにより形成されており、2GHz以下の周波数帯域において2GHzを越える周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する焼結型磁性シートと、軟磁性金属粉末を混入した結着材をシート状に加工してから硬化させることにより形成されており、1GHz以上の周波数帯域において1GHz未満の周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する複合材料型磁性シートとを備えており、焼結型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部に応じて複合材料型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部をそれぞれ設定し、複合材料型磁性シートに焼結型磁性シートを貼り合わせることにより、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において焼結型磁性シートの良好な減衰特性および複合材料型磁性シートの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を有することを特徴としている。
【0008】
本発明の第1の態様の多層型磁性シートによれば、複合材料型磁性シートの減衰帯域や焼結型磁性シートの減衰帯域よりも広帯域の減衰特性を有することができる。
【0009】
本発明の第2の態様の多層型磁性シートは、第1の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートは、ソフトフェライトであり、軟磁性金属粉末は、センダストや扁平粉末加工された金属ガラスであることを特徴としている。
【0010】
本発明の第2の態様の多層型磁性シートによれば、いずれも透磁率が高いので、複合材料型磁性シートおよび焼結型磁性シートについて各々良好なノイズ抑制効果を発揮することができる。
【0011】
本発明の第3の態様の多層型磁性シートは、第2の態様の多層型磁性シートにおいて、扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)は、1.5以上であることを特徴としている。
【0012】
本発明の第3の態様の多層型磁性シートによれば、複合材料型磁性シートの透磁率の虚数部を10以上に設定することが容易になる。
【0013】
本発明の第4の態様の多層型磁性シートは、第1から第3のいずれか1の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートの厚みは、各々0.1mm近傍であることを特徴としている。
【0014】
本発明の第4の態様の多層型磁性シートによれば、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において良好な減衰特性を発揮させることができる。
【0015】
本発明の第5の態様の多層型磁性シートは、第4の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において75近傍であり、複合材料型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において5〜30近傍であることを特徴としている。
【0016】
本発明の第5の態様の多層型磁性シートによれば、複合材料型磁性シートの透磁率の虚数部を所定の範囲に設定することにより、良好な多層効果を得ることができる。
【0017】
本発明の第6の態様の多層型磁性シートは、第1から第5のいずれか1の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートについては、平面視において複数に分割されているとともに、複合材料型磁性シートとの貼付面の反対面が保護シートによって覆われていることを特徴としている。
【0018】
本発明の第6の態様の多層型磁性シートによれば、分割されていない焼結型磁性シートでは不可能な可撓性を付与することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多層型磁性シートによれば、多層化による減衰特性の悪化が見られず、かつ、各層の減衰特性が広帯域において発揮されるので、複合材料型磁性シート単体や焼結型磁性シート単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明の多層型磁性シートをその一実施形態により説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の多層型磁性シート1を示している。本実施形態の多層型磁性シート1は、図1に示すように、各1枚の焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3を積層させて得た2層型の磁性シートである。また、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の間には、複合材料型磁性シート3に焼結型磁性シート2を貼付するための粘着層4が介在している。
【0022】
焼結型磁性シート2としては、粉末状の酸化物系軟磁性体(図示せず)を焼結してなる矩形状のノイズ抑制シートが選択されている。この焼結型磁性シート2は、2GHz以下の周波数帯域においてそれ以外の周波数帯域、具体的には2GHzを越える周波数帯域よりも良好な減衰特性(ノイズ抑制特性)を示すものである。
【0023】
焼結型磁性シート2の酸化物系軟磁性体としては、軟磁性を示すフェライト、具体的には、ニッケル亜鉛フェライト、マンガン亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライトなどのソフトフェライトの焼結体を選択することが好ましい。
【0024】
焼結型磁性シート2の厚みとしては、複合材料型磁性シート3の厚さとともに相対的に変更することによって種々の厚さのものを使用することができるが、本実施形態においては、焼結型磁性シート2の厚みが0.1mmであることが好ましい。ただし、この厚みは、0.09mmや0.11mmなどの0.1mm近傍であってもよい。
【0025】
焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部(μ”)の値としては、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部(μ”)とともに相対的に変更することができるが、本実施形態においては、この透磁率の虚数部の値が100MHzの周波数において75であることが好ましい。ただし、この透磁率の虚数部の値は74や76などの75近傍であってもよい。
【0026】
上記の条件をふまえた上、本実施形態に用いた焼結型磁性シート2の具体的な商品としては、株式会社MARUWA製焼結フェライトシート、製品番号「FSF200」が選択されている。
【0027】
複合材料型磁性シート3としては、軟磁性金属粉末(図示せず)を混入した結着材(図示せず)をシート状に加工してから熱加圧して硬化させることにより形成されてなる矩形状のノイズ抑制シートが選択されている。この複合材料型磁性シート3は、1GHz以上の周波数帯域においてそれ以外の周波数帯域、具体的には1GHz未満の周波数帯域よりも良好な減衰特性(ノイズ抑制特性)を示すものである。
【0028】
軟磁性金属粉末としては、センダスト(組成例:Fe-9.5%Si-5.5%Al)や扁平粉末加工された金属ガラスなどの粉末化された軟磁性金属を用いることができる。本実施形態においては、軟磁性金属粉末として、扁平粉末加工された金属ガラスを用いている。
【0029】
また、結着材としては、シリコーン樹脂等の耐熱性樹脂やポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いている。
【0030】
複合材料型磁性シート3の厚さは、焼結型磁性シート2の厚さに応じて設定されている。設定の基準については、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性が得られるか否かを基準とする。例えば、焼結型磁性シート2の厚みが0.1mmに設定されている場合、複合材料型磁性シート3の厚みは0.1mmに設定されていることが好ましい。ただし、この厚みは、0.09mmや0.11mmなどの0.1mm近傍であってもよい。
【0031】
また、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部も、上記と同様に、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部に応じて設定されている。設定の基準は上記と同様である。例えば、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部の値が100MHzの周波数において75に設定されている場合、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部の値は100MHzの周波数において5〜30近傍、特に、15〜25に設定されていることが好ましい。
【0032】
また、扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)としては、1.5以上であることが好ましい。
【0033】
上記の条件をふまえた上、本実施形態に用いた複合材料型磁性シート3の具体的な商品としては、アルプス電気株式会社製ノイズ抑制用磁性シート「リカロイ(登録商標)」の製品番号HMSUW(15N)またはHMSXW(25N)のものであってその厚さが0.1mmのものが選択されている。これらの透磁率の虚数部の値は100MHzの周波数において15または25である。
【0034】
粘着層4としては、日東電工株式会社製一般用両面接着テープNo.500が選択されている。この粘着層4は、複合材料型磁性シート3の表面に貼付することにより、複合材料型磁性シート3の表面に固着されており、その粘着層4に焼結型磁性シート2を押圧することにより、焼結型磁性シート2が複合材料型磁性シート3に貼付されている。
【0035】
図2は、本実施形態の多層型磁性シート1において焼結型磁性シート2が複数に分割されて個片2aにされた状態を示している。本実施形態の多層型磁性シート1に可撓性を要求する場合、図2に示すように、焼結型磁性シート2としては、平面視において格子状に複数分割されているものが好ましい。焼結型磁性シート2を分割する場合、焼結および分割前の焼結型磁性シート2に格子状の溝を予め形成してから焼結し、溝付の焼結型磁性シート2を粘着層に貼付したあと、いわゆるチョコレートブレーク法(手割り法)により溝付の焼結型磁性シート2を複数に分割する。
【0036】
また、焼結型磁性シート2を分割する場合、焼結型磁性シート2の分割前から複合材料型磁性シート3との貼付面(粘着層4側)の反対面が保護シート5によって覆われていることが好ましい。この保護シートは粘着層4と平面視同等の大きさを有する矩形状に形成されている。保護シート5としては、東レ株式会社製二軸延伸ポリエステルフィルム(商品名:ルミラー(登録商標))が選択されている。この保護シート5としては、厚さ0.03mmのものが用いられている。
【0037】
次に、本実施形態の多層型磁性シート1の作用を説明する。
【0038】
本実施形態の多層型磁性シート1においては、図1に示すように、複合材料型磁性シート3および焼結型磁性シート2が積層化されている。ここで、複合材料型磁性シート3の厚さまたは透磁率の虚数部は、焼結型磁性シート2の厚さまたは透磁率の虚数部に応じてそれぞれ設定されている。また、それらの設定の基準については、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を有することを基準としている。
【0039】
多層型磁性シート1の減衰帯域における設定条件については、複合材料型磁性シート3または焼結型磁性シート2の厚さ、それらの透磁率の実数部や虚数部、酸化物系軟磁性体または軟磁性金属粉末合金の粒径やアスペクト比、軟磁性金属粉末合金と結着材との混合比など種々の設定条件がある。それら種々の設定条件から、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚さおよび透磁率の虚数部の2つの設定条件のみを調整してそれらを積層化することにより、多層型磁性シート1が複合材料型磁性シート3の減衰帯域や焼結型磁性シート2の減衰帯域よりも広帯域の減衰特性を発揮することができる。これは、焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の磁気特性がいずれも厚みと透磁率の虚数部との積に応じた特性を示すことに起因しているのではないかと考えられる。
【0040】
また、本実施形態においては、焼結型磁性シート2としてソフトフェライトが用いられており、軟磁性金属粉末としてセンダストや扁平粉末加工された金属ガラスが用いられている。ソフトフェライト、センダストおよび金属ガラスについては、いずれも透磁率が高く、かつ、保持力が弱い。そのため、焼結型磁性シート2または軟磁性金属粉末にそれらの材質を用いた場合、焼結型磁性シート2のノイズ抑制効果および複合材料型磁性シート3のノイズ抑制効果をそれぞれ向上させることができる。その結果、それらを積層化した多層型磁性シート1のノイズ抑制効果を向上させることができる。
【0041】
このような焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みについては、各々0.1mm近傍に設定されていることが好ましい。この厚みに設定しておけば、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において良好な減衰特性、すなわち良好な多層効果を発揮させることができる。
【0042】
また、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部が100MHzの周波数において75近傍に設定されており、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部が100MHzの周波数において5〜30近傍、特に、15〜25に設定されていることが好ましい。これらの透磁率の虚数部を所定の値または範囲に設定することにより、良好な多層効果を得ることができる。
【0043】
なお、軟磁性金属粉末として扁平粉末加工された金属ガラスを用いる場合、扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)が1.5以上のものを用いれば、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を10以上に設定することが容易になる。
【0044】
また、図2に示すように、焼結型磁性シート2を複数に分割しておけば、多層型磁性シート1に対して分割されていない焼結型磁性シート2では不可能な可撓性を付与することができる。その際、分割した焼結型磁性シート2を保護シート5により覆うことにより、分割した焼結型磁性シート2の個片2aが飛散して焼結型磁性シート2のノイズ抑制効果が減少することもない。さらに、分割した焼結型磁性シート2の個片2aが飛散した場合であっても、焼結型磁性シート2を貼付した複合材料型磁性シート3を通してノイズの磁束が回り込むので、多層型磁性シート1の利用対象となる配線板の導電パターンに供給されるノイズの磁束が少なくなり、渦電流の発生を抑えることができる。
【0045】
すなわち、本実施形態の多層型磁性シート1によれば、多層化による減衰特性の悪化が見られず、かつ、各層の減衰特性が広帯域において発揮されるので、複合材料型磁性シート3単体や焼結型磁性シート2単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができるという効果を奏する。
【0046】
なお、本発明は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、図面を用いて、本発明の多層型磁性シート1の一実施例を説明する。
【0048】
本実施例の多層型磁性シート1は、図1に示した本実施形態の多層型磁性シート1と同様、各1枚の焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3を積層させることにより形成されている。
【0049】
焼結型磁性シート2については、ニッケル亜鉛フェライトの粉末をシート状に焼結したものを用意した。上記の通り、本実施例に用いた焼結型磁性シート2の具体的な商品としては、株式会社MARUWA製焼結フェライトシート、製品番号「FSF200」を選択した。焼結型磁性シート2の厚さは0.1mm近傍、正確には0.13mmに設定し、縦寸法および横寸法はそれぞれ40mmおよび15mmに設定した。
【0050】
焼結型磁性シート2の透磁率は、図3および図4に示す通りである。図3は焼結型磁性シート2の透磁率の実数部を示しており、図4は焼結型磁性シート2の透磁率の虚数部を示している。図4に示すように、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において75近傍を示した。
【0051】
一方、複合材料型磁性シート3については、上記の「リカロイ(登録商標)」であってその製品番号がHMLXW(5N)、HMSUW(15N)、HMSXW(25N)、HMSZW(30N)、のものを用意した。以下、上記4種の製品番号を各々5N、15N、25N、30Nと称する。
【0052】
本実施例の複合材料型磁性シート3の作成法の一実施例を以下に示す。本実施例の複合材料型磁性シート3は、軟磁性金属扁平粉末および結着材を含有したスラリーを、ドクターブレード法、軟磁性金属扁平粉末を結着材に噴射するコーテイング法、または上記スラリーを焼結型磁性シート2の表面にポッティングして薄膜状に拡散させるポッティング法などによりシート加工し、磁場を印加した後に熱加圧によりシート硬化することにより得られる。
【0053】
軟磁性金属としては、非晶質相を主相とするアモルファス金属やガラス転移を示す金属ガラス合金、特にFe基金属ガラス合金を用いることが好ましい。Fe基金属ガラス合金の組成としては、一例として、Fe100−x−y−z−w−tMxPyCzBwSit(M:Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素)を用いることができる。この組成比を示すx、y、z、w、tは、0.5原子%≦x≦8原子%、2原子%≦y≦15原子%、0原子%<z≦8原子%、1原子%≦w≦12原子%、0原子%≦t≦8原子%、70原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%である。また、他の一例としては、従来から用いられているFe−Al−Ga−C−P−Si−B系合金やその他のFe基以外の組成の金属ガラス合金をも用いることができる。
【0054】
軟磁性金属に金属ガラス合金を用いる場合、はじめに、所望する組成の金属ガラス合金溶湯を液体急冷法により急冷して得られた合金薄帯を粉砕するか、あるいは、水アトマイズ法もしくはガスアトマイズ法により得られた球状粒子をアトライタ等により機械的に粉砕することにより、金属ガラス合金の扁平粉末を得る。得られた金属ガラス合金については内部応力の緩和を目的として必要に応じて熱処理することが好ましい。熱処理温度Taはキュリー温度Tc以上ガラス遷移温度Tg以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
軟磁性金属扁平粉末のアスペクト比(長径/厚さ)は、1.5以上が好ましく、12以上がより好ましい。軟磁性金属扁平粉末のアスペクト比が1.5以上の場合、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部は10以上となる。また、そのアスペクト比が12以上の場合、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部は15以上となる。なお、軟磁性金属扁平粉末のアスペクト比が高いほど複合材料型磁性シート3の圧縮形成時に軟磁性金属扁平粉末が配向してGHz帯域の透磁率の虚数部が高くなるために電波吸収特性が向上するが、現在の製造技術のレベルからアスペクト比の上限は250程度である。
【0056】
また、Fe基金属ガラス合金としては、ΔTx=Tx−Tg>25K(ΔTx:過冷却液体の温度間隔、Tx:結晶化開始温度、Tg:ガラス遷移温度)の式を満たすものが好ましい。前述の式を満たすFe基金属ガラス合金は、軟磁気特性に優れており、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部が10以上、場合によっては15以上となり、GHz帯域での電磁波抑制効果が向上し、高周波ノイズを効果的に抑制する。
【0057】
結着材としては、シリコーン樹脂等の耐熱性樹脂やポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。ここで、複合材料型磁性シート3には、軟磁性金属扁平粉末や結着材の他に、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコールなどの分散媒やステアリン酸塩からなる潤滑剤が添加されていてもよい。
【0058】
複合材料型磁性シート3における軟磁性金属扁平粉末の含有率としては、軟磁性金属扁平粉末に金属ガラス合金を用いる場合、41体積%以上83体積%以下の範囲であることが好ましい。軟磁性金属扁平粉末の含有率が41体積%以上あれば、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部が10付近またはそれ以上になることが期待できるので、ノイズ抑制効果が有効に発揮される。また、その含有率が83体積%以下であれば、隣位する軟磁性金属扁平粉末同士が接触することが通常ないので、複合材料型磁性シート3のインピーダンス低下を有効に防止することができる。
【0059】
複合材料型磁性シート3の厚さについては、上記4種のシートに対し、それぞれ0.05mm、0.1mm、0.2mmの3種類を用意した。なお、これらの縦寸法および横縦寸法については、それぞれ40mmおよび15mmに設定した。
【0060】
上記の各条件をふまえた上で作成された複合材料型磁性シート3の透磁率は、図5および図6に示す通りである。図5は複合材料型磁性シート3の透磁率の実数部を示しており、図6は複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を示している。図6に示すように、上記4種のシート、すなわち5N、15N、25N、30Nにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において5近傍、15近傍、25近傍、30近傍を示した。なお、上記結果からもわかるように、上記4種のシートについては、製品番号の略称の数字が各透磁率の虚数部の値を示している。
【0061】
以下、上記した焼結型磁性シート2および複数種の複合材料型磁性シート3を複合材料型磁性シート3の種類を変更しながら積層させた多層型磁性シート1の減衰特性を測定した結果を示す。
【0062】
はじめに、図7〜図9は、上記条件の焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)に厚みの異なる30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた各種の多層型磁性シート1について減衰量を測定したグラフを示している。図7は厚さ0.05mmの30Nを用いた測定結果を、図8は厚さ0.1mmの30Nを用いた測定結果を、図9は厚さ0.2mmの30Nを用いた測定結果を、それぞれ示している。また、図7〜図9のグラフ内に示した減衰量曲線において、それらの点線部についてはノイズ抑制効果が有効に発揮し得ない周波数帯域であることを示している。
【0063】
はじめに、多層型磁性シート1に厚さ0.05mmの30Nを用いた場合、この多層型磁性シート1は、図7に示すように、2GHz以下の周波数帯域において、焼結型磁性シート2の減衰特性に近似した減衰特性を発揮している。しかしながら、1GHz以上の周波数帯域においては、この多層型磁性シート1は、30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性とは異なった減衰特性を示しており、30Nの減衰特性を取り入れた良好な減衰特性を発揮していない。
【0064】
次に、多層型磁性シート1に厚さ0.1mmの30Nを用いた場合、この多層型磁性シート1は、図8に示すように、2GHz以下の周波数帯域において、焼結型磁性シート2の減衰特性に近い減衰特性を発揮している。また、1GHz以上の周波数帯域において、この多層型磁性シート1は、30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性に近い減衰特性を発揮している。言い換えると、焼結型磁性シート2の減衰特性が低下する1GHz以上の周波数帯域において30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性が発揮される結果となった。このことから、多層型磁性シート1は焼結型磁性シート2と30Nの中間的な減衰特性を発揮していると言える。減衰効果が生じる広帯域の範囲を具体的に確認すると、本実施例においては、100MHzから10GHzまでの周波数帯域において良好な減衰効果が生じることがわかる。
【0065】
そして、多層型磁性シート1に厚さ0.2mmの30Nを用いた場合、この多層型磁性シート1は、図9に示すように、2GHz以下の周波数帯域において、焼結型磁性シート2の減衰特性とは異なった減衰特性を示しており、30Nの減衰特性を取り入れた良好な減衰特性を発揮していない。しかしながら、1GHz以上の周波数帯域においては、この多層型磁性シート1は、30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性に近似した減衰特性を発揮している。
【0066】
【表1】
【0067】
表1は、焼結型磁性シート2の厚みを固定して複合材料型磁性シート3の厚みを変化させた多層型磁性シート1の減衰特性の良否を示しており、以上の結果をまとめたものである。表1中の「低周波数帯域」は2GHz以上の周波数を意味し、「高周波数帯域」は1GHz以下の周波数を意味する。また、「◎」は多層型磁性シート1の減衰特性が焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の減衰特性に近似する特性を発揮することを示し、「○」は多層型磁性シート1の減衰特性が焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の減衰特性に近い特性を発揮することを示し、「×」は多層型磁性シート1の減衰特性が焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の減衰特性と異なる特性を発揮することを示している。
【0068】
焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)および厚さ0.05mmの30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた多層型磁性シート1は、表1左欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性を発揮するものの、複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を発揮することができず、それらの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を発揮させることができないという結果となった。
【0069】
また、上記の焼結型磁性シート2および厚さ0.2mmの30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた多層型磁性シート1は、表1右欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を発揮するものの、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性を発揮することができず、それらの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を発揮させることができないという結果となった。
【0070】
それらに対し、上記の焼結型磁性シート2および厚さ0.1mmの30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた多層型磁性シート1は、表1中央欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた良好な減衰特性を発揮させることができるという結果となった。
【0071】
以上の結果から、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みについては、各々0.1mmに設定されていることが好ましいことがわかる。
【0072】
次に、図10は、上記条件の焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)に厚さ0.1mmの複合材料型磁性シート35N、15N、25Nまたは30Nのいずれかを積層させた4種の多層型磁性シート1について減衰量を測定したグラフを示している。グラフ内の5N、15N、25Nまたは30Nは、その多層型磁性シート1に用いられた複合材料型磁性シート3の製品番号を示している。
【0073】
これら4種の多層型磁性シート1については、図10および図8に示すように、30Nを積層させた多層型磁性シート1の減衰特性と同等かそれ以上に良好な減衰特性、すなわち100MHzから6GHzまでの周波数帯域において良好な減衰効果が示されている。このことから、これら4種の多層型磁性シート1は、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた良好な減衰特性を発揮している。
【0074】
次に、15Nまたは25Nを積層させた2種の多層型磁性シート1についてみると、1.5GHzから2.2GHzの周波数帯域において、5Nまたは30Nを積層させた他の2種の多層型磁性シート1の減衰量よりも5〜8dB程度小さい減衰量が得られることがわかる。その一方、1.5GHz以下の周波数帯域および2.2GHzから5GHzの周波数帯域においては、これら4種の多層型磁性シート1の減衰特性はほぼ同様になっている。
【0075】
【表2】
【0076】
表2は、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みを固定して複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を変化させた多層型磁性シート1の減衰特性の良好性を示しており、以上の結果をまとめたものである。表2中の「○」は多層型磁性シート1の減衰特性が良好であることを示し、「◎」は多層型磁性シート1の減衰特性が「○」よりも良好であることを示している。
【0077】
焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)に5N、15N、25Nまたは30Nのいずれかの複合材料型磁性シート3を積層させた4種の多層型磁性シート1のうち、5Nまたは30Nを積層させた2種の多層型磁性シート1の減衰特性については、表2左欄および右欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた良好な減衰特性を発揮させることができるという結果となった。この結果は、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みが各々0.1mmであって良好な減衰特性を発揮させるのに最適な厚みの組み合わせに設定されていたことによるものと考えられる。
【0078】
また、15Nまたは25Nのどちらかの複合材料型磁性シート3を積層させた残り2種の多層型磁性シート1については、表2左欄および右欄ならびに図10に示すように、1GHzから2GHzまでの広帯域において、5Nまたは30Nを積層させた2種の多層型磁性シート1の減衰特性よりも良好な減衰特性を発揮させることができるという結果となった。この結果は、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みが各々0.1mmに設定されていること、および、焼結型磁性シート2の透磁率の虚数部が100MHzにおいて75に対して複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部が100MHzにおいて15または25に設定されており、最適な厚みおよび透磁率の組み合わせに設定されていたことによるものと考えられる。
【0079】
すなわち、本実施例の多層型磁性シート1によれば、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みを各々0.1mm近傍に設定し、焼結型磁性シート2の透磁率の虚数部を100MHzにおいて75、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を100MHzにおいて15または25に設定することにより、多層化による減衰特性の悪化が見られず、かつ、各層の減衰特性が広帯域において発揮されるので、複合材料型磁性シート3単体や焼結型磁性シート2単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができるという作用を奏することが明らかとなった。
【0080】
なお、本発明は、前述した実施例などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態の多層型磁性シートを示す斜視図
【図2】本実施形態の多層型磁性シートにおいて焼結型磁性シートが複数に分割されて個片にされた状態を示す分解斜視図
【図3】本実施例の焼結型磁性シートの透磁率の実数部を示すグラフ
【図4】本実施例の焼結型磁性シートの透磁率の虚数部を示すグラフ
【図5】本実施例の複合材料型磁性シートの透磁率の実数部を示すグラフ
【図6】本実施例の複合材料型磁性シートの透磁率の虚数部を示すグラフ
【図7】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.05mmの30Nの複合材料型磁性シートを積層させた多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【図8】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.1mmの30Nの複合材料型磁性シートを積層させた多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【図9】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.2mmの30Nの複合材料型磁性シートを積層させた多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【図10】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.1mmの4種の複合材料型磁性シートのいずれかを積層させた4種の多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【符号の説明】
【0082】
1 多層型磁性シート
2 焼結型磁性シート
3 複合材料型磁性シート
4 粘着層
5 保護シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層型磁性シートに係り、特に、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域においてノイズを抑制する際に好適に利用できる多層型磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高周波電子機器などにおいて発生する輻射性電磁波ノイズを抑制するために、フェライトなどに代表される焼結型磁性シート、センダストや金属ガラスなどの軟磁性合金と樹脂との複合材料に代表される複合材料型磁性シートなどの磁性シートが用いられている。
【0003】
従来の磁性シートにおいては、主成分たるフェライトやセンダストなどの磁気特性に応じて特定の周波数帯域におけるノイズ抑制効果が決定される。したがって、特定周波数帯域よりも広帯域においてノイズ抑制効果を発揮されるためには、複数の焼結型磁性シートや複合材料型磁性シートなどの同種の磁性シートを多層化することにより、特定周波数帯域よりも広帯域においてノイズ抑制効果を発揮させていた(特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2008−98392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートによる異種の磁性シートの多層化については、単にそれらを多層化すると互いのノイズ抑制効果に悪影響を及ぼし、特定周波数帯域よりも広帯域においてノイズ抑制効果を発揮させることが困難になるという技術常識があり、それが広帯域でのノイズ抑制効果の向上にとって問題となっていた。2GHz以下の低周波数帯域のノイズ抑制機能を有する焼結型磁性シートと、1GHz以下の高周波数帯域のノイズ抑制機能を有する複合材料型磁性シートとを多層化することができないとなると、いずれかのシートのみを用いた場合には少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域においてノイズを抑制することが困難になる。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートの諸条件を的確に設定・開発することにより、焼結型磁性シート単体や複合材料型磁性シート単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができる多層型磁性シートを提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明の多層型磁性シートは、その第1の態様として、酸化物系軟磁性体をシート状に焼結することにより形成されており、2GHz以下の周波数帯域において2GHzを越える周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する焼結型磁性シートと、軟磁性金属粉末を混入した結着材をシート状に加工してから硬化させることにより形成されており、1GHz以上の周波数帯域において1GHz未満の周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する複合材料型磁性シートとを備えており、焼結型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部に応じて複合材料型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部をそれぞれ設定し、複合材料型磁性シートに焼結型磁性シートを貼り合わせることにより、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において焼結型磁性シートの良好な減衰特性および複合材料型磁性シートの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を有することを特徴としている。
【0008】
本発明の第1の態様の多層型磁性シートによれば、複合材料型磁性シートの減衰帯域や焼結型磁性シートの減衰帯域よりも広帯域の減衰特性を有することができる。
【0009】
本発明の第2の態様の多層型磁性シートは、第1の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートは、ソフトフェライトであり、軟磁性金属粉末は、センダストや扁平粉末加工された金属ガラスであることを特徴としている。
【0010】
本発明の第2の態様の多層型磁性シートによれば、いずれも透磁率が高いので、複合材料型磁性シートおよび焼結型磁性シートについて各々良好なノイズ抑制効果を発揮することができる。
【0011】
本発明の第3の態様の多層型磁性シートは、第2の態様の多層型磁性シートにおいて、扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)は、1.5以上であることを特徴としている。
【0012】
本発明の第3の態様の多層型磁性シートによれば、複合材料型磁性シートの透磁率の虚数部を10以上に設定することが容易になる。
【0013】
本発明の第4の態様の多層型磁性シートは、第1から第3のいずれか1の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートおよび複合材料型磁性シートの厚みは、各々0.1mm近傍であることを特徴としている。
【0014】
本発明の第4の態様の多層型磁性シートによれば、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において良好な減衰特性を発揮させることができる。
【0015】
本発明の第5の態様の多層型磁性シートは、第4の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において75近傍であり、複合材料型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において5〜30近傍であることを特徴としている。
【0016】
本発明の第5の態様の多層型磁性シートによれば、複合材料型磁性シートの透磁率の虚数部を所定の範囲に設定することにより、良好な多層効果を得ることができる。
【0017】
本発明の第6の態様の多層型磁性シートは、第1から第5のいずれか1の態様の多層型磁性シートにおいて、焼結型磁性シートについては、平面視において複数に分割されているとともに、複合材料型磁性シートとの貼付面の反対面が保護シートによって覆われていることを特徴としている。
【0018】
本発明の第6の態様の多層型磁性シートによれば、分割されていない焼結型磁性シートでは不可能な可撓性を付与することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多層型磁性シートによれば、多層化による減衰特性の悪化が見られず、かつ、各層の減衰特性が広帯域において発揮されるので、複合材料型磁性シート単体や焼結型磁性シート単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明の多層型磁性シートをその一実施形態により説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の多層型磁性シート1を示している。本実施形態の多層型磁性シート1は、図1に示すように、各1枚の焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3を積層させて得た2層型の磁性シートである。また、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の間には、複合材料型磁性シート3に焼結型磁性シート2を貼付するための粘着層4が介在している。
【0022】
焼結型磁性シート2としては、粉末状の酸化物系軟磁性体(図示せず)を焼結してなる矩形状のノイズ抑制シートが選択されている。この焼結型磁性シート2は、2GHz以下の周波数帯域においてそれ以外の周波数帯域、具体的には2GHzを越える周波数帯域よりも良好な減衰特性(ノイズ抑制特性)を示すものである。
【0023】
焼結型磁性シート2の酸化物系軟磁性体としては、軟磁性を示すフェライト、具体的には、ニッケル亜鉛フェライト、マンガン亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライトなどのソフトフェライトの焼結体を選択することが好ましい。
【0024】
焼結型磁性シート2の厚みとしては、複合材料型磁性シート3の厚さとともに相対的に変更することによって種々の厚さのものを使用することができるが、本実施形態においては、焼結型磁性シート2の厚みが0.1mmであることが好ましい。ただし、この厚みは、0.09mmや0.11mmなどの0.1mm近傍であってもよい。
【0025】
焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部(μ”)の値としては、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部(μ”)とともに相対的に変更することができるが、本実施形態においては、この透磁率の虚数部の値が100MHzの周波数において75であることが好ましい。ただし、この透磁率の虚数部の値は74や76などの75近傍であってもよい。
【0026】
上記の条件をふまえた上、本実施形態に用いた焼結型磁性シート2の具体的な商品としては、株式会社MARUWA製焼結フェライトシート、製品番号「FSF200」が選択されている。
【0027】
複合材料型磁性シート3としては、軟磁性金属粉末(図示せず)を混入した結着材(図示せず)をシート状に加工してから熱加圧して硬化させることにより形成されてなる矩形状のノイズ抑制シートが選択されている。この複合材料型磁性シート3は、1GHz以上の周波数帯域においてそれ以外の周波数帯域、具体的には1GHz未満の周波数帯域よりも良好な減衰特性(ノイズ抑制特性)を示すものである。
【0028】
軟磁性金属粉末としては、センダスト(組成例:Fe-9.5%Si-5.5%Al)や扁平粉末加工された金属ガラスなどの粉末化された軟磁性金属を用いることができる。本実施形態においては、軟磁性金属粉末として、扁平粉末加工された金属ガラスを用いている。
【0029】
また、結着材としては、シリコーン樹脂等の耐熱性樹脂やポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いている。
【0030】
複合材料型磁性シート3の厚さは、焼結型磁性シート2の厚さに応じて設定されている。設定の基準については、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性が得られるか否かを基準とする。例えば、焼結型磁性シート2の厚みが0.1mmに設定されている場合、複合材料型磁性シート3の厚みは0.1mmに設定されていることが好ましい。ただし、この厚みは、0.09mmや0.11mmなどの0.1mm近傍であってもよい。
【0031】
また、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部も、上記と同様に、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部に応じて設定されている。設定の基準は上記と同様である。例えば、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部の値が100MHzの周波数において75に設定されている場合、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部の値は100MHzの周波数において5〜30近傍、特に、15〜25に設定されていることが好ましい。
【0032】
また、扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)としては、1.5以上であることが好ましい。
【0033】
上記の条件をふまえた上、本実施形態に用いた複合材料型磁性シート3の具体的な商品としては、アルプス電気株式会社製ノイズ抑制用磁性シート「リカロイ(登録商標)」の製品番号HMSUW(15N)またはHMSXW(25N)のものであってその厚さが0.1mmのものが選択されている。これらの透磁率の虚数部の値は100MHzの周波数において15または25である。
【0034】
粘着層4としては、日東電工株式会社製一般用両面接着テープNo.500が選択されている。この粘着層4は、複合材料型磁性シート3の表面に貼付することにより、複合材料型磁性シート3の表面に固着されており、その粘着層4に焼結型磁性シート2を押圧することにより、焼結型磁性シート2が複合材料型磁性シート3に貼付されている。
【0035】
図2は、本実施形態の多層型磁性シート1において焼結型磁性シート2が複数に分割されて個片2aにされた状態を示している。本実施形態の多層型磁性シート1に可撓性を要求する場合、図2に示すように、焼結型磁性シート2としては、平面視において格子状に複数分割されているものが好ましい。焼結型磁性シート2を分割する場合、焼結および分割前の焼結型磁性シート2に格子状の溝を予め形成してから焼結し、溝付の焼結型磁性シート2を粘着層に貼付したあと、いわゆるチョコレートブレーク法(手割り法)により溝付の焼結型磁性シート2を複数に分割する。
【0036】
また、焼結型磁性シート2を分割する場合、焼結型磁性シート2の分割前から複合材料型磁性シート3との貼付面(粘着層4側)の反対面が保護シート5によって覆われていることが好ましい。この保護シートは粘着層4と平面視同等の大きさを有する矩形状に形成されている。保護シート5としては、東レ株式会社製二軸延伸ポリエステルフィルム(商品名:ルミラー(登録商標))が選択されている。この保護シート5としては、厚さ0.03mmのものが用いられている。
【0037】
次に、本実施形態の多層型磁性シート1の作用を説明する。
【0038】
本実施形態の多層型磁性シート1においては、図1に示すように、複合材料型磁性シート3および焼結型磁性シート2が積層化されている。ここで、複合材料型磁性シート3の厚さまたは透磁率の虚数部は、焼結型磁性シート2の厚さまたは透磁率の虚数部に応じてそれぞれ設定されている。また、それらの設定の基準については、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を有することを基準としている。
【0039】
多層型磁性シート1の減衰帯域における設定条件については、複合材料型磁性シート3または焼結型磁性シート2の厚さ、それらの透磁率の実数部や虚数部、酸化物系軟磁性体または軟磁性金属粉末合金の粒径やアスペクト比、軟磁性金属粉末合金と結着材との混合比など種々の設定条件がある。それら種々の設定条件から、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚さおよび透磁率の虚数部の2つの設定条件のみを調整してそれらを積層化することにより、多層型磁性シート1が複合材料型磁性シート3の減衰帯域や焼結型磁性シート2の減衰帯域よりも広帯域の減衰特性を発揮することができる。これは、焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の磁気特性がいずれも厚みと透磁率の虚数部との積に応じた特性を示すことに起因しているのではないかと考えられる。
【0040】
また、本実施形態においては、焼結型磁性シート2としてソフトフェライトが用いられており、軟磁性金属粉末としてセンダストや扁平粉末加工された金属ガラスが用いられている。ソフトフェライト、センダストおよび金属ガラスについては、いずれも透磁率が高く、かつ、保持力が弱い。そのため、焼結型磁性シート2または軟磁性金属粉末にそれらの材質を用いた場合、焼結型磁性シート2のノイズ抑制効果および複合材料型磁性シート3のノイズ抑制効果をそれぞれ向上させることができる。その結果、それらを積層化した多層型磁性シート1のノイズ抑制効果を向上させることができる。
【0041】
このような焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みについては、各々0.1mm近傍に設定されていることが好ましい。この厚みに設定しておけば、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において良好な減衰特性、すなわち良好な多層効果を発揮させることができる。
【0042】
また、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部が100MHzの周波数において75近傍に設定されており、複合材料型磁性シート3における透磁率の虚数部が100MHzの周波数において5〜30近傍、特に、15〜25に設定されていることが好ましい。これらの透磁率の虚数部を所定の値または範囲に設定することにより、良好な多層効果を得ることができる。
【0043】
なお、軟磁性金属粉末として扁平粉末加工された金属ガラスを用いる場合、扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)が1.5以上のものを用いれば、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を10以上に設定することが容易になる。
【0044】
また、図2に示すように、焼結型磁性シート2を複数に分割しておけば、多層型磁性シート1に対して分割されていない焼結型磁性シート2では不可能な可撓性を付与することができる。その際、分割した焼結型磁性シート2を保護シート5により覆うことにより、分割した焼結型磁性シート2の個片2aが飛散して焼結型磁性シート2のノイズ抑制効果が減少することもない。さらに、分割した焼結型磁性シート2の個片2aが飛散した場合であっても、焼結型磁性シート2を貼付した複合材料型磁性シート3を通してノイズの磁束が回り込むので、多層型磁性シート1の利用対象となる配線板の導電パターンに供給されるノイズの磁束が少なくなり、渦電流の発生を抑えることができる。
【0045】
すなわち、本実施形態の多層型磁性シート1によれば、多層化による減衰特性の悪化が見られず、かつ、各層の減衰特性が広帯域において発揮されるので、複合材料型磁性シート3単体や焼結型磁性シート2単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができるという効果を奏する。
【0046】
なお、本発明は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、図面を用いて、本発明の多層型磁性シート1の一実施例を説明する。
【0048】
本実施例の多層型磁性シート1は、図1に示した本実施形態の多層型磁性シート1と同様、各1枚の焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3を積層させることにより形成されている。
【0049】
焼結型磁性シート2については、ニッケル亜鉛フェライトの粉末をシート状に焼結したものを用意した。上記の通り、本実施例に用いた焼結型磁性シート2の具体的な商品としては、株式会社MARUWA製焼結フェライトシート、製品番号「FSF200」を選択した。焼結型磁性シート2の厚さは0.1mm近傍、正確には0.13mmに設定し、縦寸法および横寸法はそれぞれ40mmおよび15mmに設定した。
【0050】
焼結型磁性シート2の透磁率は、図3および図4に示す通りである。図3は焼結型磁性シート2の透磁率の実数部を示しており、図4は焼結型磁性シート2の透磁率の虚数部を示している。図4に示すように、焼結型磁性シート2における透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において75近傍を示した。
【0051】
一方、複合材料型磁性シート3については、上記の「リカロイ(登録商標)」であってその製品番号がHMLXW(5N)、HMSUW(15N)、HMSXW(25N)、HMSZW(30N)、のものを用意した。以下、上記4種の製品番号を各々5N、15N、25N、30Nと称する。
【0052】
本実施例の複合材料型磁性シート3の作成法の一実施例を以下に示す。本実施例の複合材料型磁性シート3は、軟磁性金属扁平粉末および結着材を含有したスラリーを、ドクターブレード法、軟磁性金属扁平粉末を結着材に噴射するコーテイング法、または上記スラリーを焼結型磁性シート2の表面にポッティングして薄膜状に拡散させるポッティング法などによりシート加工し、磁場を印加した後に熱加圧によりシート硬化することにより得られる。
【0053】
軟磁性金属としては、非晶質相を主相とするアモルファス金属やガラス転移を示す金属ガラス合金、特にFe基金属ガラス合金を用いることが好ましい。Fe基金属ガラス合金の組成としては、一例として、Fe100−x−y−z−w−tMxPyCzBwSit(M:Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Pt、Pd、Auより選ばれる1種または2種以上の元素)を用いることができる。この組成比を示すx、y、z、w、tは、0.5原子%≦x≦8原子%、2原子%≦y≦15原子%、0原子%<z≦8原子%、1原子%≦w≦12原子%、0原子%≦t≦8原子%、70原子%≦(100−x−y−z−w−t)≦79原子%である。また、他の一例としては、従来から用いられているFe−Al−Ga−C−P−Si−B系合金やその他のFe基以外の組成の金属ガラス合金をも用いることができる。
【0054】
軟磁性金属に金属ガラス合金を用いる場合、はじめに、所望する組成の金属ガラス合金溶湯を液体急冷法により急冷して得られた合金薄帯を粉砕するか、あるいは、水アトマイズ法もしくはガスアトマイズ法により得られた球状粒子をアトライタ等により機械的に粉砕することにより、金属ガラス合金の扁平粉末を得る。得られた金属ガラス合金については内部応力の緩和を目的として必要に応じて熱処理することが好ましい。熱処理温度Taはキュリー温度Tc以上ガラス遷移温度Tg以下の範囲であることが好ましい。
【0055】
軟磁性金属扁平粉末のアスペクト比(長径/厚さ)は、1.5以上が好ましく、12以上がより好ましい。軟磁性金属扁平粉末のアスペクト比が1.5以上の場合、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部は10以上となる。また、そのアスペクト比が12以上の場合、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部は15以上となる。なお、軟磁性金属扁平粉末のアスペクト比が高いほど複合材料型磁性シート3の圧縮形成時に軟磁性金属扁平粉末が配向してGHz帯域の透磁率の虚数部が高くなるために電波吸収特性が向上するが、現在の製造技術のレベルからアスペクト比の上限は250程度である。
【0056】
また、Fe基金属ガラス合金としては、ΔTx=Tx−Tg>25K(ΔTx:過冷却液体の温度間隔、Tx:結晶化開始温度、Tg:ガラス遷移温度)の式を満たすものが好ましい。前述の式を満たすFe基金属ガラス合金は、軟磁気特性に優れており、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部が10以上、場合によっては15以上となり、GHz帯域での電磁波抑制効果が向上し、高周波ノイズを効果的に抑制する。
【0057】
結着材としては、シリコーン樹脂等の耐熱性樹脂やポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。ここで、複合材料型磁性シート3には、軟磁性金属扁平粉末や結着材の他に、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコールなどの分散媒やステアリン酸塩からなる潤滑剤が添加されていてもよい。
【0058】
複合材料型磁性シート3における軟磁性金属扁平粉末の含有率としては、軟磁性金属扁平粉末に金属ガラス合金を用いる場合、41体積%以上83体積%以下の範囲であることが好ましい。軟磁性金属扁平粉末の含有率が41体積%以上あれば、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部が10付近またはそれ以上になることが期待できるので、ノイズ抑制効果が有効に発揮される。また、その含有率が83体積%以下であれば、隣位する軟磁性金属扁平粉末同士が接触することが通常ないので、複合材料型磁性シート3のインピーダンス低下を有効に防止することができる。
【0059】
複合材料型磁性シート3の厚さについては、上記4種のシートに対し、それぞれ0.05mm、0.1mm、0.2mmの3種類を用意した。なお、これらの縦寸法および横縦寸法については、それぞれ40mmおよび15mmに設定した。
【0060】
上記の各条件をふまえた上で作成された複合材料型磁性シート3の透磁率は、図5および図6に示す通りである。図5は複合材料型磁性シート3の透磁率の実数部を示しており、図6は複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を示している。図6に示すように、上記4種のシート、すなわち5N、15N、25N、30Nにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において5近傍、15近傍、25近傍、30近傍を示した。なお、上記結果からもわかるように、上記4種のシートについては、製品番号の略称の数字が各透磁率の虚数部の値を示している。
【0061】
以下、上記した焼結型磁性シート2および複数種の複合材料型磁性シート3を複合材料型磁性シート3の種類を変更しながら積層させた多層型磁性シート1の減衰特性を測定した結果を示す。
【0062】
はじめに、図7〜図9は、上記条件の焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)に厚みの異なる30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた各種の多層型磁性シート1について減衰量を測定したグラフを示している。図7は厚さ0.05mmの30Nを用いた測定結果を、図8は厚さ0.1mmの30Nを用いた測定結果を、図9は厚さ0.2mmの30Nを用いた測定結果を、それぞれ示している。また、図7〜図9のグラフ内に示した減衰量曲線において、それらの点線部についてはノイズ抑制効果が有効に発揮し得ない周波数帯域であることを示している。
【0063】
はじめに、多層型磁性シート1に厚さ0.05mmの30Nを用いた場合、この多層型磁性シート1は、図7に示すように、2GHz以下の周波数帯域において、焼結型磁性シート2の減衰特性に近似した減衰特性を発揮している。しかしながら、1GHz以上の周波数帯域においては、この多層型磁性シート1は、30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性とは異なった減衰特性を示しており、30Nの減衰特性を取り入れた良好な減衰特性を発揮していない。
【0064】
次に、多層型磁性シート1に厚さ0.1mmの30Nを用いた場合、この多層型磁性シート1は、図8に示すように、2GHz以下の周波数帯域において、焼結型磁性シート2の減衰特性に近い減衰特性を発揮している。また、1GHz以上の周波数帯域において、この多層型磁性シート1は、30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性に近い減衰特性を発揮している。言い換えると、焼結型磁性シート2の減衰特性が低下する1GHz以上の周波数帯域において30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性が発揮される結果となった。このことから、多層型磁性シート1は焼結型磁性シート2と30Nの中間的な減衰特性を発揮していると言える。減衰効果が生じる広帯域の範囲を具体的に確認すると、本実施例においては、100MHzから10GHzまでの周波数帯域において良好な減衰効果が生じることがわかる。
【0065】
そして、多層型磁性シート1に厚さ0.2mmの30Nを用いた場合、この多層型磁性シート1は、図9に示すように、2GHz以下の周波数帯域において、焼結型磁性シート2の減衰特性とは異なった減衰特性を示しており、30Nの減衰特性を取り入れた良好な減衰特性を発揮していない。しかしながら、1GHz以上の周波数帯域においては、この多層型磁性シート1は、30Nの複合材料型磁性シート3の減衰特性に近似した減衰特性を発揮している。
【0066】
【表1】
【0067】
表1は、焼結型磁性シート2の厚みを固定して複合材料型磁性シート3の厚みを変化させた多層型磁性シート1の減衰特性の良否を示しており、以上の結果をまとめたものである。表1中の「低周波数帯域」は2GHz以上の周波数を意味し、「高周波数帯域」は1GHz以下の周波数を意味する。また、「◎」は多層型磁性シート1の減衰特性が焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の減衰特性に近似する特性を発揮することを示し、「○」は多層型磁性シート1の減衰特性が焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の減衰特性に近い特性を発揮することを示し、「×」は多層型磁性シート1の減衰特性が焼結型磁性シート2または複合材料型磁性シート3の減衰特性と異なる特性を発揮することを示している。
【0068】
焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)および厚さ0.05mmの30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた多層型磁性シート1は、表1左欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性を発揮するものの、複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を発揮することができず、それらの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を発揮させることができないという結果となった。
【0069】
また、上記の焼結型磁性シート2および厚さ0.2mmの30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた多層型磁性シート1は、表1右欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を発揮するものの、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性を発揮することができず、それらの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を発揮させることができないという結果となった。
【0070】
それらに対し、上記の焼結型磁性シート2および厚さ0.1mmの30Nの複合材料型磁性シート3を積層させた多層型磁性シート1は、表1中央欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた良好な減衰特性を発揮させることができるという結果となった。
【0071】
以上の結果から、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みについては、各々0.1mmに設定されていることが好ましいことがわかる。
【0072】
次に、図10は、上記条件の焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)に厚さ0.1mmの複合材料型磁性シート35N、15N、25Nまたは30Nのいずれかを積層させた4種の多層型磁性シート1について減衰量を測定したグラフを示している。グラフ内の5N、15N、25Nまたは30Nは、その多層型磁性シート1に用いられた複合材料型磁性シート3の製品番号を示している。
【0073】
これら4種の多層型磁性シート1については、図10および図8に示すように、30Nを積層させた多層型磁性シート1の減衰特性と同等かそれ以上に良好な減衰特性、すなわち100MHzから6GHzまでの周波数帯域において良好な減衰効果が示されている。このことから、これら4種の多層型磁性シート1は、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた良好な減衰特性を発揮している。
【0074】
次に、15Nまたは25Nを積層させた2種の多層型磁性シート1についてみると、1.5GHzから2.2GHzの周波数帯域において、5Nまたは30Nを積層させた他の2種の多層型磁性シート1の減衰量よりも5〜8dB程度小さい減衰量が得られることがわかる。その一方、1.5GHz以下の周波数帯域および2.2GHzから5GHzの周波数帯域においては、これら4種の多層型磁性シート1の減衰特性はほぼ同様になっている。
【0075】
【表2】
【0076】
表2は、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みを固定して複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を変化させた多層型磁性シート1の減衰特性の良好性を示しており、以上の結果をまとめたものである。表2中の「○」は多層型磁性シート1の減衰特性が良好であることを示し、「◎」は多層型磁性シート1の減衰特性が「○」よりも良好であることを示している。
【0077】
焼結型磁性シート2(厚さ:0.1mm、透磁率の虚数部:100MHzにおいて75)に5N、15N、25Nまたは30Nのいずれかの複合材料型磁性シート3を積層させた4種の多層型磁性シート1のうち、5Nまたは30Nを積層させた2種の多層型磁性シート1の減衰特性については、表2左欄および右欄に示すように、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において、焼結型磁性シート2の良好な減衰特性および複合材料型磁性シート3の良好な減衰特性を組み合わせた良好な減衰特性を発揮させることができるという結果となった。この結果は、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みが各々0.1mmであって良好な減衰特性を発揮させるのに最適な厚みの組み合わせに設定されていたことによるものと考えられる。
【0078】
また、15Nまたは25Nのどちらかの複合材料型磁性シート3を積層させた残り2種の多層型磁性シート1については、表2左欄および右欄ならびに図10に示すように、1GHzから2GHzまでの広帯域において、5Nまたは30Nを積層させた2種の多層型磁性シート1の減衰特性よりも良好な減衰特性を発揮させることができるという結果となった。この結果は、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みが各々0.1mmに設定されていること、および、焼結型磁性シート2の透磁率の虚数部が100MHzにおいて75に対して複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部が100MHzにおいて15または25に設定されており、最適な厚みおよび透磁率の組み合わせに設定されていたことによるものと考えられる。
【0079】
すなわち、本実施例の多層型磁性シート1によれば、焼結型磁性シート2および複合材料型磁性シート3の厚みを各々0.1mm近傍に設定し、焼結型磁性シート2の透磁率の虚数部を100MHzにおいて75、複合材料型磁性シート3の透磁率の虚数部を100MHzにおいて15または25に設定することにより、多層化による減衰特性の悪化が見られず、かつ、各層の減衰特性が広帯域において発揮されるので、複合材料型磁性シート3単体や焼結型磁性シート2単体では得られない広帯域のノイズ抑制効果を発揮することができるという作用を奏することが明らかとなった。
【0080】
なお、本発明は、前述した実施例などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本実施形態の多層型磁性シートを示す斜視図
【図2】本実施形態の多層型磁性シートにおいて焼結型磁性シートが複数に分割されて個片にされた状態を示す分解斜視図
【図3】本実施例の焼結型磁性シートの透磁率の実数部を示すグラフ
【図4】本実施例の焼結型磁性シートの透磁率の虚数部を示すグラフ
【図5】本実施例の複合材料型磁性シートの透磁率の実数部を示すグラフ
【図6】本実施例の複合材料型磁性シートの透磁率の虚数部を示すグラフ
【図7】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.05mmの30Nの複合材料型磁性シートを積層させた多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【図8】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.1mmの30Nの複合材料型磁性シートを積層させた多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【図9】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.2mmの30Nの複合材料型磁性シートを積層させた多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【図10】本実施例の焼結型磁性シートに厚さ0.1mmの4種の複合材料型磁性シートのいずれかを積層させた4種の多層型磁性シートの減衰量を測定したグラフ
【符号の説明】
【0082】
1 多層型磁性シート
2 焼結型磁性シート
3 複合材料型磁性シート
4 粘着層
5 保護シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物系軟磁性体をシート状に焼結することにより形成されており、2GHz以下の周波数帯域において2GHzを越える周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する焼結型磁性シートと、
軟磁性金属粉末を混入した結着材をシート状に加工してから硬化させることにより形成されており、1GHz以上の周波数帯域において1GHz未満の周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する複合材料型磁性シートと
を備えており、
前記焼結型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部に応じて前記複合材料型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部をそれぞれ設定し、前記複合材料型磁性シートに前記焼結型磁性シートを貼り合わせることにより、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において前記焼結型磁性シートの良好な減衰特性および前記複合材料型磁性シートの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を有する
ことを特徴とする多層型磁性シート。
【請求項2】
前記焼結型磁性シートは、ソフトフェライトであり、
前記軟磁性金属粉末は、センダストや扁平粉末加工された金属ガラスである
ことを特徴とする請求項1に記載の多層型磁性シート。
【請求項3】
前記扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)は、1.5以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の多層型磁性シート。
【請求項4】
前記焼結型磁性シートおよび前記複合材料型磁性シートの厚みは、各々0.1mm近傍である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多層型磁性シート。
【請求項5】
前記焼結型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において75近傍であり、
前記複合材料型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において5〜30近傍である
ことを特徴とする請求項4に記載の多層型磁性シート。
【請求項6】
前記焼結型磁性シートについては、平面視において複数に分割されているとともに、前記複合材料型磁性シートとの貼付面の反対面が保護シートによって覆われている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多層型磁性シート。
【請求項1】
酸化物系軟磁性体をシート状に焼結することにより形成されており、2GHz以下の周波数帯域において2GHzを越える周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する焼結型磁性シートと、
軟磁性金属粉末を混入した結着材をシート状に加工してから硬化させることにより形成されており、1GHz以上の周波数帯域において1GHz未満の周波数帯域よりも良好な減衰特性を有する複合材料型磁性シートと
を備えており、
前記焼結型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部に応じて前記複合材料型磁性シートの厚さまたは透磁率の虚数部をそれぞれ設定し、前記複合材料型磁性シートに前記焼結型磁性シートを貼り合わせることにより、少なくとも1GHzから2GHzまでの周波数帯域を含む広帯域において前記焼結型磁性シートの良好な減衰特性および前記複合材料型磁性シートの良好な減衰特性を組み合わせた減衰特性を有する
ことを特徴とする多層型磁性シート。
【請求項2】
前記焼結型磁性シートは、ソフトフェライトであり、
前記軟磁性金属粉末は、センダストや扁平粉末加工された金属ガラスである
ことを特徴とする請求項1に記載の多層型磁性シート。
【請求項3】
前記扁平粉末加工された金属ガラスのアスペクト比(長径/厚さ)は、1.5以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の多層型磁性シート。
【請求項4】
前記焼結型磁性シートおよび前記複合材料型磁性シートの厚みは、各々0.1mm近傍である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多層型磁性シート。
【請求項5】
前記焼結型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において75近傍であり、
前記複合材料型磁性シートにおける透磁率の虚数部は、100MHzの周波数において5〜30近傍である
ことを特徴とする請求項4に記載の多層型磁性シート。
【請求項6】
前記焼結型磁性シートについては、平面視において複数に分割されているとともに、前記複合材料型磁性シートとの貼付面の反対面が保護シートによって覆われている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多層型磁性シート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−114246(P2010−114246A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285265(P2008−285265)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]