説明

多層基板の製造方法

【課題】ピール強度が高く、耐熱性及び耐クラック性に優れ、伝送損失が小さい多層基板の製造方法、及び前記多層基板を提供すること。
【解決手段】表面粗度(Rz)が2500nm以下である導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層1を形成する工程(A)、及び樹脂層1を加熱硬化するか、又は樹脂層1の上に、有機ポリマーを含む樹脂層2を少なくとも1層積層し、加熱硬化して、絶縁層を形成する工程(B)を有する、多層基板の製造方法、及び前記製造方法により得られる多層基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の材料等として好適に用いられる多層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化や通信の高速度化に伴い、電子回路基板にも小型化、多機能化が求められている。回路基板は、通常、導体層となる金属箔と、絶縁層となる樹脂層とを積層し、これを加熱圧着して積層板を得、次いで金属箔をエッチングするなどにより回路を形成して製造される。かかる回路基板を高周波領域で用いる場合、高周波における伝送損失を低減する観点から、絶縁層に用いられる樹脂は、誘電正接が小さいことが、また、導体層に用いられる金属箔は、低表面粗度であることが求められる。
【0003】
絶縁層を形成するのに用いられる、誘電正接の小さい樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリブタジエン、及びシクロオレフィンポリマーなどの低極性の樹脂が知られている。一方、これらの樹脂を絶縁層の形成に用いると、絶縁層と導体層との密着性が不充分になる場合があった。
【0004】
絶縁層と導体層との密着性を高める方法としては、例えば、特許文献1には、銅箔の表面を、所定のシランカップリング剤含有水溶液で処理し、当該表面上に絶縁層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2には、基板表面上でモノマーを重合せしめ層間絶縁膜層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/123253号
【特許文献2】特開2002−53630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが、前記特許文献に記載の技術を適用し、多層基板を製造したところ、導体層が低表面粗度である場合、ピール強度が低下し、耐熱性及び耐クラック性が劣る場合があることが明らかになった。
本発明の目的は、ピール強度が高く、耐熱性及び耐クラック性に優れ、伝送損失が小さい多層基板の製造方法、及び前記多層基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、低表面粗度の導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層を形成し、更に有機ポリマーを含む樹脂層を積層し、加熱硬化して絶縁層を形成することで、所望の多層基板が得られることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基いて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕表面粗度(Rz)が2500nm以下である導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層1を形成する工程(A)、及び樹脂層1を加熱硬化するか、又は樹脂層1の上に、有機ポリマーを含む樹脂層2を少なくとも1層積層し、加熱硬化して、絶縁層を形成する工程(B)を有する、多層基板の製造方法、
〔2〕シクロオレフィンポリマーが架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するものである前記〔1〕記載の多層基板の製造方法、
〔3〕導体層の表面へのシクロオレフィンポリマーのグラフトを、導体層の表面にメタセシス重合触媒を結合する工程(A−1)、及び前記メタセシス重合触媒により、前記導体層の表面にシクロオレフィンモノマーをグラフト重合する工程(A−2)により行う、前記〔1〕又は〔2〕記載の多層基板の製造方法、
〔4〕有機ポリマーがシクロオレフィンポリマーである前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の多層基板の製造方法、並びに
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の多層基板の製造方法により得られる多層基板、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピール強度が高く、耐熱性及び耐クラック性に優れ、伝送損失が小さい多層基板を効率的に製造することができる。本発明の多層基板は、特に、多層高周波回路基板の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多層基板の製造方法は、表面粗度(Rz)が2500nm以下である導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層1を形成する工程(A)、及び樹脂層1を加熱硬化するか、又は樹脂層1の上に、有機ポリマーを含む樹脂層2を少なくとも1層積層し、加熱硬化して、絶縁層を形成する工程(B)を有する。
【0011】
1.工程(A)
工程(A) では、表面粗度(Rz)が2500nm以下である導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層1を形成する。
【0012】
導体層の表面粗度(Rz)としては、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1000nm以下である。表面粗度(Rz)の下限としては、特に制限はないが、通常、5nm程度である。導体層の表面粗度(Rz)がかかる範囲にあれば、本発明の多層基板に回路形成して高周波で動作させた場合、伝送信号におけるノイズや遅延の発生が抑制され、伝送損失が効果的に低減されるため、好適である。本明細書において表面粗度は、JIS B0601−1994に従って、十点平均粗さ(Rz)として測定することができる。
【0013】
導体層の厚さは、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜選択すれば良いが、通常、0.5〜50μm、好ましくは1〜30μmの範囲である。導体層の厚さがかかる範囲にあれば、回路のL/Sを小さくすることができ、回路形成を安定に行うことができ、好適である。
【0014】
用いる導体層は、回路基板で一般に用いられる金属箔、中でも銅箔からなるものが好適である。所定の表面粗度(Rz)を有する銅箔は市販品として容易に入手可能であるので、導体層として好適に用いることができる。
【0015】
また、導体層は、任意の基板の最外層に形成された導体層であってもよい。前記基板としては、例えば、絶縁層の少なくとも一方の表面に所定の表面粗度(Rz)を有する導体層が形成されてなる基板が挙げられる。絶縁層は、例えば、後述の硬化性組成物を用いて形成することができる。また、絶縁層は、任意にガラス繊維等の繊維状強化材を含んでいてもよい。基板の厚さは、特に限定されないが、通常、50μm〜2mmの範囲が好適である。
【0016】
本発明においては、上記のような導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層1を形成する。導体層表面へのシクロオレフィンポリマーのグラフトは、少なくとも導体層表面の一部に行われていればよいが、得られる多層基板のピール強度を高める観点から、実質的に導体層表面の全体に行われているのが好ましい。
【0017】
グラフトさせるシクロオレフィンポリマーは、特に限定されないが、得られる多層基板のピール強度及び機械的強度を高める観点から、架橋性炭素―炭素不飽和結合を有するものが好ましい。シクロオレフィンポリマーの分子量は、特に限定されないが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜100,000の範囲である。なお、シクロオレフィンポリマーに加え、その他のポリマーが一部グラフトされていてもよい。グラフトされるその他のポリマーの量としては、グラフトされるシクロオレフィンポリマーとその他のポリマーとの合計量中、通常、50重量%以下である。
【0018】
導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトさせる方法は特に限定されない。例えば、1)シクロオレフィンポリマーに、導体層表面に対して結合性を有する官能基(A)〔以下、官能基(A)という。〕を付加させて、導体層表面にグラフトさせる方法、2)官能基(A)と、任意の有機化合物に対し化学反応性の官能基(B)〔以下、官能基(B)という。〕とを有する化合物(X)〔以下、化合物(X)という。〕を導体層表面に結合し、次いで官能基(B)とシクロオレフィンポリマーとを反応させる方法、3)導体層表面にメタセシス重合触媒活性を有する化合物を結合し、該活性によりシクロオレフィンモノマーをグラフト重合する方法等が挙げられる。中でも、導体層表面の全体に渡り均一にシクロオレフィンポリマーをグラフトすることが可能で、かつ重合鎖長の制御が容易であることから、3)の方法が好ましい。
【0019】
前記官能基(A)としては、例えば、シラン基、シラノール基、カルボキシル基、アミノ基、アンモニウム基、ニトロ基、水酸基、カルボニル基、チオール基、スルホン酸基、スルホニウム基、ホウ酸基、オキサゾリン基、ピロリドン基、燐酸基、及びニトリル基等が挙げられる。前記官能基(B)としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、シリル基、シラノール基、イソシアネート基、及びノルボルネン基等が挙げられる。前記化合物(X)としては、例えば、2−ノルボルネン−6−メチルジクロロシラン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン 2−カルボン酸、p−ベンゼンチオールビニルスルフィド、及び1−メルカプト−10−(エクソ−5−ノルボルネン−2−オキシ)デカンなどが挙げられる。
【0020】
前記3)の方法は、例えば、導体層の表面にメタセシス重合触媒を結合する工程(A−1)、及び前記メタセシス重合触媒により、前記導体層の表面にシクロオレフィンモノマーをグラフト重合する工程(A−2)により、好適に行うことができる。
【0021】
工程(A−1)では、導体層の表面にメタセシス重合触媒を結合する。
本発明に用いるメタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能なものであれば、特に限定されない。
メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、好ましくはタンタルが挙げられ、6族の原子としては、好ましくは、モリブデン及びタングステンが挙げられ、8族の原子としては、好ましくは、ルテニウム及びオスミウムが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、重合時の触媒活性に優れ、効率的にグラフト重合を行うことができる。また、8族のルテニウムやオスミウムの錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0023】
ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【0024】
【化1】

【0025】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X及びXは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよい、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。さらに、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0026】
ヘテロ原子とは、周期表15族及び16族の原子をいう。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、砒素原子、及びセレン原子などが挙げられる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0027】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素原子の両側にヘテロ原子が隣接して結合した構造を有するものが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含んでヘテロ環が形成された構造を有するものがより好ましい。また、カルベン炭素原子に隣接するヘテロ原子に嵩高い置換基を有するものが好ましい。
【0028】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0029】
【化2】

【0030】
式(3)又は式(4)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0031】
前記式(3)又は式(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0032】
また、前記式(3)又は式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0033】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子XとXは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、弗素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0034】
また、中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0035】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物が各々1つ結合したルテニウム錯体化合物;
【0036】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0037】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0038】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0039】
これらの錯体化合物の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0040】
メタセシス重合触媒は、重合活性を制御し、重合反応率を向上させる目的で活性剤(共触媒)と併用することもできる。活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズの、アルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを用いることができる。
活性剤の使用量は、(触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0041】
導体層表面へのメタセシス重合触媒の結合方法は、特に限定されず、例えば、メタセシス重合触媒に官能基(A)を付加して導体層表面に結合させる方法、化合物(X)を導体層表面に結合させ、次いで官能基(B)とメタセシス重合触媒とを反応させる方法等が挙げられる。操作の簡便性より、後者の方法が好ましい。
【0042】
以上の工程(A−1)は、例えば、以下のようにして行うことができる。化合物(X)の使用量は、適宜調整すればよいが、導体層100重量部に対し、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは3〜10重量部である。化合物(X)を含む任意の有機溶媒中に導体層を浸漬し、官能基(A)を介して化合物(X)を導体層表面に結合させる。その際の処理温度は、通常、40〜200℃、処理時間は、通常、5〜100分間である。導体層は、適宜、洗浄して、所望により、更に乾燥して用いればよい。
【0043】
工程(A−2)では、前記メタセシス重合触媒により、導体層の表面にシクロオレフィンモノマーをグラフト重合する。
本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される脂環構造を有し、かつ該脂環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(メタセシス開環重合)に関与する炭素−炭素二重結合をいう。
【0044】
シクロオレフィンモノマーの脂環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとしては、得られる多層基板の機械的強度を向上させる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。各環構造を構成する炭素原子数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、及びアリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基や酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0045】
本発明において、前記シクロオレフィンモノマーとしては、得られる多層基板のピール強度及び機械的強度を高める観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するものが好適に用いられる。本明細書において「架橋性炭素−炭素不飽和結合」とは、メタセシス開環重合には関与せず、架橋反応に関与する炭素−炭素不飽和結合をいう。「架橋反応」とは橋架け構造を形成する反応をいう。また、「架橋反応」とは、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。
【0046】
前記架橋性炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー中、該不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される脂環構造内の他、該脂環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。例えば、前記脂肪族炭素−炭素二重結合は、ビニル基(CH=CH−)、ビニリデン基(CH=C<)、又はビニレン基(−CH=CH−)として存在し得、良好にラジカル架橋性を発揮することから、ビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましく、ビニリデン基として存在するのがより好ましい。
【0047】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマーとしては、特に、架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、及びテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0048】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−アリルノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中では、架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0049】
本発明においてシクロオレフィンモノマーとしては、前記架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマーの他、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーが用いられる。
【0050】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−プロピルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロノルボルネン、5,5−ジクロロノルボルネン、5−フルオロノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチルノルボルネン、5−クロロメチルノルボルネン、5−メトキシノルボルネン、5,6−ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノノルボルネン、5−シアノノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中でも、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0051】
以上のシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、シクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの混合物が用いられる。
【0052】
用いるシクロオレフィンモノマー中、架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択すればよいが、重量比(架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー/架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜95/10、より好ましくは15/85〜90/15の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる多層基板のピール強度が高まり、耐熱性や機械的強度がバランス良く向上し、好適である。
【0053】
なお、本発明に用いるシクロオレフィンモノマーには、本発明の効果の発現が阻害されない限り、以上のシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0054】
工程(A−2)は、以上のシクロオレフィンモノマーを用い、例えば、以下のようにして行うことができる。工程(A−1)で用いた化合物(X)と同モル量でメタセシス重合触媒を含む任意の有機溶媒中に、工程(A−1)を経た導体層を浸漬し、官能基(B)とメタセシス重合触媒とを反応させる。次いで、得られた、メタセシス重合触媒が表面に結合した導体層にシクロオレフィンモノマーを接触させ、グラフト重合を行う。その際のシクロオレフィンモノマーとメタセシス重合触媒との割合は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。また、グラフト重合時には反応系に架橋剤を存在させておいてもよい。重合温度は、通常、室温〜250℃、重合時間は、所望とするシクロオレフィンポリマーのグラフト鎖長に合わせ適宜設定できるが、通常、1分間〜24時間の範囲である。かかるシクロオレフィンポリマーの分子量は、特に限定されないが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜100,000の範囲である。得られた導体層は、適宜、洗浄して、所望により、更に乾燥して用いればよい。なお、工程(A−1)及び(A−2)で用いられる前記有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、及びトリクロロメタンなどが挙げられる。
【0055】
以上のようにして導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトすることにより樹脂層1が形成される。樹脂層1の厚さとしては、特に限定されるものではないが、次の工程(B)で直接加熱硬化して絶縁層を形成する場合、通常、1〜100μm、好ましくは10〜50μmであり、さらに樹脂層2を積層し、加熱硬化して絶縁層を形成する場合、通常、1〜500nm、好ましくは10〜100nmである。
【0056】
2.工程(B)
工程(B)では、工程(A)で形成された樹脂層1を加熱硬化するか、又は樹脂層1の上に、有機ポリマーを含む樹脂層2を少なくとも1層積層し、加熱硬化して、絶縁層を形成する。
【0057】
樹脂層1、又は樹脂層1及び樹脂層2(以下、まとめて樹脂層という場合がある。)の加熱硬化の条件は、特に限定されるものではない。加熱温度は、樹脂層において架橋反応が生ずる温度以上である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。樹脂層に架橋剤が含まれている場合、加熱温度は、通常、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。加熱時間は、0.1〜180分間、好ましくは0.5〜120分間、より好ましくは1〜60分間の範囲である。また、最外層の樹脂層上に任意に金属箔を積層し、熱プレスして該樹脂層を硬化して絶縁層を形成してもよい。熱プレスするときの圧力は、通常、0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0058】
樹脂層2の厚さは、特に限定されないが、通常、1μm〜10mmの範囲である。
【0059】
樹脂層2としては、特に限定されないが、有機ポリマーと架橋剤とを含有する硬化性組成物のフィルム状又はシート状成形体からなるものが好ましい。樹脂層1上に樹脂層2を積層する方法に格別な制限はないが、例えば、前記フィルム状又はシート状成形体を貼り合わせて樹脂層2を積層する方法が好ましい。この場合、樹脂層を硬化して得られる絶縁層の面内均一性が高くなることから、好適である。
【0060】
前記有機ポリマーとしては、特に限定されないが、硬化剤との組合せで熱硬化性を示す熱硬化性樹脂が好ましい。前記有機ポリマーの具体例としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、シクロオレフィンポリマー、芳香族ポリエーテル重合体、ベンゾシクロブテン重合体、シアネートエステル重合体、及びポリイミドなどが挙げられる。これらの有機ポリマーは、それぞれ単独で、又は2種以上を組合わせて用いられる。これらの中でも、シクロオレフィンポリマー、芳香族ポリエーテル重合体、ベンゾシクロブテン重合体、シアネートエステル重合体、及びポリイミドが好ましく、シクロオレフィンポリマー、及び芳香族ポリエーテル重合体がより好ましく、誘電損失が小さい観点からシクロオレフィンポリマーが特に好ましい。有機ポリマーの重量平均分子量(Mw)に格別な制限はないが、通常3,000〜1,000,000、好ましくは4,000〜500,000である。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とはメタクリル又はアクリルを意味する。
【0061】
本発明において架橋剤としては、特に限定されないが、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。
【0062】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類及びペルオキシケタール類が好ましい。
【0063】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0064】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0065】
これらのラジカル発生剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ラジカル発生剤の1分間半減期温度としては、特に限定はないが、通常、150〜300℃、好ましくは180〜250℃の範囲である。本明細書において「1分間半減期温度」とは、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0066】
架橋剤の量は、有機ポリマーに応じて適宜選択すればよいが、有機ポリマー100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0067】
樹脂層2として用いられる前記フィルム状又はシート状成形体としては、特に、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物をガラス繊維等の繊維状強化材に含浸させた後、塊状重合してなるプリプレグが好適に用いられる。かかるプリプレグは、例えば、特許公開2010−106215号公報、特許公開2010−100684号公報、又は特許公開2010−100683号公報を参照することにより容易に製造することができる。なお、シクロオレフィンモノマーやメタセシス重合触媒の好ましい態様は前記と同様である。プリプレグ中の繊維状強化材の含有量としては、得られる多層基板の機械的強度を高める観点から、通常、5〜50体積%、好ましくは15〜40体積%である。
【0068】
かかるプリプレグには、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を必須成分とし、その他の配合剤として、充填剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、架橋剤、反応性流動化剤、架橋助剤、難燃剤、酸化防止剤、及び着色料などが含まれていても良い。それらの成分は公知のものから適宜選択して用いればよい。なお、反応性流動化剤は、特許公開2010−100685号公報に記載されているものを好適に用いることができる。
【0069】
以上により、本発明の多層基板が得られる。かかる基板は、表面粗度(Rz)が2500nm以下の導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトしてなる樹脂層1を、又は樹脂層1と、その上に少なくとも1層積層された有機ポリマーを含む樹脂層2とを、加熱硬化してなる絶縁層を有する。前記工程(A)及び工程(B)を適宜繰り返して行うことにより、表面粗度(Rz)が2500nm以下の導体層、及び樹脂層1を、又は樹脂層1と樹脂層2とを加熱硬化してなる絶縁層を、それぞれ2以上有する多層基板も製造可能である。本発明の多層基板は、ピール強度が高く、耐熱性及び耐クラック性に優れ、伝送損失が小さい基板であるため、公知の方法に従い、適宜、回路形成することで、多層高周波回路基板の製造に非常に好適に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0071】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従って測定した。
(1)ピール強度
銅張積層板から銅箔を引き剥がすときの強度を、JIS C6481に準拠して測定し、以下の基準に従ってピール強度を評価した。
(評価基準)
○:0.2kN/m超
×:0.2kN/m以下
(2)耐熱性
銅張積層板について、はんだ温度260℃のはんだ浴に10秒間浮かべ、室温に30秒間放置する試験を3回繰り返すという条件にて、はんだ試験を行った。はんだ試験を行った後の積層板について、前記(1)ピール強度と同様にして、銅箔の引き剥がし強さを測定し、評価した。銅箔の引き剥がし強さが大きいほど、はんだを行った後においても、銅箔と樹脂とが強固、かつ均一に密着しており、耐熱性に優れていることを表す。
(3)耐クラック性
10枚の銅張積層板を用意し、各積層板に対し、−40℃〜+150℃の温度範囲で200回の冷熱衝撃試験を行った。試験後、各積層板の外観観察を目視にて行い、クラックが発生した枚数を調べ、以下の基準に従って耐クラック性を評価した。なお、冷熱衝撃試験は、冷熱衝撃試験装置(エスペック社製、型番:TSA−71H−W)により行った。
(評価基準)
○:クラックの発生数が2枚以下
×:クラックの発生数が3枚以上
(4)伝送損失
銅張積層板(樹脂層の総厚み:50μm)を用いて、ライン幅100μmのマイクロスストリップラインの回路基板を作製し、5GHzにおける伝送損失を測定し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:0.4dB/cm以下
×:0.4dB/cm超える
【0072】
製造例1
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、シクロオレフィンモノマーとしてテトラシクロドデセン(TCD)80部及びジシクロペンタジエン20部、酸化ケイ素粒子(アドマテックス社製、商品名SOC02、平均粒子径0.5μm)200部、連鎖移動剤としてスチレン0.74部、架橋剤として3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン(1分間半減期温度205℃)2部、反応性流動化剤としてベンジルメタクリレート15部、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート20部、難燃剤としてジメチルホスフィン酸アルミニウム50部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1部を混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mLの割合で加えて撹拌し、重合性組成物1を調製した。
次いで、重合性組成物1を、厚さ70μmのガラスクロス(Eガラス)に含浸させ、得られた含浸物を120℃にて5分間維持して重合性組成物1を塊状重合し、厚さ0.11mmのプリプレグ1を得た。プリプレグ1のガラスクロス含有量は25体積%であった。
【0073】
実施例1
トルエン 500mLに2−ノルボルネン−6−メチルジクロロシラン 50mmolを加え、ここに10cm角に切り出した、片面に保護フィルムを有する、厚さ12μmのF2銅箔1(シランカップリング剤処理電解銅箔、粗度Rz=1,600nm、古河サーキットホイル社製)を浸漬し、6時間放置して、銅箔表面にノルボルネン基を結合させた後、銅箔を取り出し、トルエンで洗浄した。
次いで、メタセシス重合触媒としてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロライド 50mmolが添加されたトルエン 500mL中に室温で30分間浸漬し、前記触媒とノルボルネン基とを反応させた後、銅箔を取り出し、トルエンで洗浄した。
更に、トルエン 500mLにグラフト重合に供するシクロオレフィンモノマーとしてノルボルネン 20mmolをアルゴン雰囲気下で添加し、ここに上記銅箔を室温で30分間浸漬させグラフト重合を行い、銅箔表面に樹脂層1を形成した。メタノール洗浄し、濾過後、乾燥して、保護フィルムを剥離し表面処理銅箔1を得た。グラフトさせたポリノルボルネンポリマーの重量平均分子量(Mw)は30,000であり、得られた樹脂層1の厚さは0.1μmであった。
続いて、前記プリプレグ1を6枚重ね、さらに表面処理銅箔1で、積層したプリプレグシートを表面処理銅箔1の表面処理面がそれぞれ最外層のプリプレグと接するように挟み、205℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い、銅張積層板1を得た。
【0074】
比較例1
p−スチリルトリメトキシシラン(KBM−1403、信越化学工業社製)を、メタノールに濃度50%になるように溶解した。次いで、得られた溶液を、界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル(商品名:HS−210、日本油脂製、HLB値13.5)を0.06%含む水溶液に逐次的に滴下することにより、溶解させた。滴下の速度は、界面活性剤含有水溶液1Lあたり5mL/分とした。さらに、この溶液のpHが4になるように酢酸を滴下し、シラン系カップリング剤濃度0.03%の処理剤含有水溶液を得た。
厚さ12μmのF2銅箔(シランカップリング剤処理電解銅箔、粗度Rz=1,600nm、古河サーキットホイル社製)に、上記で得られた処理剤含有水溶液を、温度23℃、湿度50%の環境下で、バーコーターを用いて塗布厚が4μmになるように均一に塗布した。次いで、これを速やかに窒素気流下で120℃で5分間乾燥させることによって、表面処理銅箔2を得た。
続いて、表面処理銅箔1に換えて表面処理銅箔2を用いた以外は実施例1と同様にして、銅張積層板2を得た。
【0075】
比較例2
銅箔1に換えて、銅箔2(厚さ12μmの電解銅箔、表面クロメート処理、粗度Rz=8.0μm、古河サーキットフォイル社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理銅箔3を得た。表面処理銅箔1に換えて、表面処理銅箔3を用いた以外は実施例1と同様にして、銅張積層板3を得た。
【0076】
【表1】

【0077】
表1より、低表面粗度の導体層(銅箔1)の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトさせてなる銅張積層板1は、ピール強度が高く、耐熱性及び耐クラック性に優れ、伝送損失が小さいことが分かる(実施例1)。一方、低表面粗度の導体層(銅箔1)の表面にシラン系カップリング剤を結合させたのみで同様にして得られた銅張積層板2は、伝送損失は小さいが、ピール強度が低く、耐熱性及び耐クラック性に劣ることが分かる(比較例1)。また、表面粗度が大きい導体層(銅箔2)の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトさせてなる銅張積層板3では、伝送損失が大きくなることが分かる(比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗度(Rz)が2500nm以下である導体層の表面にシクロオレフィンポリマーをグラフトして樹脂層1を形成する工程(A)、及び樹脂層1を加熱硬化するか、又は樹脂層1の上に、有機ポリマーを含む樹脂層2を少なくとも1層積層し、加熱硬化して、絶縁層を形成する工程(B)を有する、多層基板の製造方法。
【請求項2】
シクロオレフィンポリマーが架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するものである請求項1記載の多層基板の製造方法。
【請求項3】
導体層の表面へのシクロオレフィンポリマーのグラフトを、導体層の表面にメタセシス重合触媒を結合する工程(A−1)、及び前記メタセシス重合触媒により、前記導体層の表面にシクロオレフィンモノマーをグラフト重合する工程(A−2)により行う、請求項1又は2記載の多層基板の製造方法。
【請求項4】
有機ポリマーがシクロオレフィンポリマーである請求項1〜3いずれか記載の多層基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の多層基板の製造方法により得られる多層基板。

【公開番号】特開2012−99583(P2012−99583A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244760(P2010−244760)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】