説明

多層多孔膜

【課題】 本発明は、リチウムイオン二次電池用等の安全性に優れたセパレータとして好適に使用し得る、高温時における低収縮性とシャットダウン機能を併せ持つ多孔膜を提供する。
【解決手段】 融点が150℃未満であるポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜(A)と耐熱性樹脂からなる多孔膜(B)との積層体であって、多孔膜(A)の最大収縮力が35mN以下であり、多孔膜(B)の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解率が50%未満である多層多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れた非水電解液二次電池を構成するセパレータとして好適な多層多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多孔膜は、種々の電池用セパレータとして広く使用されている。ポリオレフィン樹脂は有機溶媒に対する耐性に優れ、また電子絶縁性にも優れることなどから、特にリチウムイオン二次電池において多用されている。
近年、携帯機器の多機能化、軽量化が急速に進み、電池には高容量化、高出力化、高エネルギー密度化が求められている。これらの要求を満足するためにセパレータには薄膜化が強く要望されている。しかし、高容量化への方向は電池内に内在するエネルギー量が大きくなるために、短絡、過充電など異常時においては従来以上に過剰な発熱に至る可能性が大きい。そのため電池には異常時でも安全を確保するための手段が数種施されており、その中の一つにセパレータのシャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは、なんらかの要因で電池の温度が上昇した際に、セパレータの孔が閉塞し、イオンの移動を阻止することにより電池反応を停止させ、過剰な発熱を抑制する機能である。リチウム電池用セパレータとしてポリエチレン多孔膜が多用されている理由の一つにこのシャットダウン機能に優れている点が挙げられる。
【0003】
しかしながら、高いエネルギーを有する電池では、異常発熱時の発熱量が大きく、急激に高温に至る場合やシャットダウン後の放熱に時間を要し長時間高温状態が維持されている場合がある。そのような場合は、膜収縮により電極端部が接触する内部短絡の恐れがあり、内部短絡により再度発熱を引き起こす可能性がある。ゆえにシャットダウン後のような高温でも膜収縮が小さいことがセパレータに強く要望されている。さらに電池内ではセパレータがMD方向に捲回されているために、固定されていないTD方向の膜収縮を低減することが特に重要である。現在、一般的に広く用いられているセパレータは、優れたイオン透過性と強度を有することなどから高倍率の延伸を施したポリエチレン、ポリプロピレン製の多孔膜が主流であるが、これらには樹脂自身の融点以上の高温にした場合の収縮性に改善が求められている。そのためシャットダウン後の高温状態でも収縮の小さいセパレータが強く求められている。
【0004】
これら課題を解決するために種々の検討がなされているが、必ずしも十分に満足しうるものではなかった。
例えば特許文献1では、ポリエチレン多孔質膜とポリエチレンテレフタレート不織布を積層することにより安全性が向上したセパレータを開示しているが、不織布は薄膜化が困難なため電池の高容量化による薄膜化要求には限界がある。また接着剤や熱融着による積層方法ではポリエチレン多孔膜とのアンカー効果も小さく、ポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する効果は小さい。
【0005】
特許文献2では、ポリエチレン多孔膜にゲル化可能な高分子としてポリフッ化ビニリデンやポリアクリルニトリルの多孔質体を被覆した複合膜を提案しているが、高温では電解液に溶解するためにポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する効果は十分ではない。
【0006】
特許文献3では、ゲル化可能な高分子としてポリスルフォンの多孔質層をポリオレフィン多孔膜の少なくとも一面に形成させた複合膜を提案しているが、高温では電解液に溶解するためにポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する効果は十分ではない。またポリスルフォンはその構造因によりポリエチレン多孔膜への接着性が低いことからもポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する効果は小さい。
【0007】
特許文献4では、ポリエチレン多孔膜に耐熱性高分子としてポリイミドの多孔質層を形成させた複合膜を提案し耐熱性向上を提示しているが、ポリイミドの良溶媒として電解液の主要成分であるエチレンカーボネートを挙げていることから、電池内での電解液含浸下では十分な耐熱性を示すとは考えがたくポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する効果は期待できない。また構造因によりポリエチレン多孔膜への接着性が低いことからポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する効果は十分ではない。
【0008】
特許文献5では、ポリエチレン多孔膜に耐熱性樹脂としてパラ配向芳香族ポリアミドの多孔質層を形成させた複合膜を提案しているが、パラアミドの溶液を塗布し、一定湿度で数十分近く放置し、パラアミドを析出させ、脱溶媒しているが、連続して大量に生産することが容易でないばかりか、パラアミド層の構造を制御することが難しく、透過性を安定して制御する事が難しい。またパラ配向芳香族ポリアミドはアミド基を有することから吸湿性が大きいという懸念点がある。電池内において水分は不純物成分であり、容量低下や副反応を引き起こし、電池特性を低下させる一因である。
【0009】
さらにいずれの場合も、様々な手法でポリエチレン多孔膜の収縮を抑制する検討を提案しているにも関わらず、ポリエチレン微多孔膜自身の収縮に関して言及していない。
実際の電池内の環境でシャットダウン後の高温でも収縮の小さいセパレータが渇望されているにも関わらず、安定生産可能で満足しうる技術は提案されていなかった。
【特許文献1】特開2002−190291号公報
【特許文献2】特開2002−240215号公報
【特許文献3】特許第2981238号公報
【特許文献4】特開2002−355938号公報
【特許文献5】特開2000−223107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、シャットダウン機能と、高温時における低収縮性を併せ持ち、安全性に優れることが要求されるリチウムイオン二次電池用等のセパレータとして好適に使用し得る多孔膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、融点が150℃未満であるポリオレフィン樹脂を含有する多孔膜(A)と耐熱性樹脂からなる多孔膜(B)との積層体に関して、多孔膜(A)の最大収縮力が35mN以下であり、多孔膜(B)の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解率が50重量%未満であることを特徴とする多層多孔膜が、シャットダウン機能と、高温時における低収縮性を併せ持つ安全性に優れたリチウムイオン二次電池用等のセパレータとして好適に使用し得ることを見出し、本発明を為すに至った。
【0012】
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.融点が150℃未満であるポリオレフィン樹脂を含有する多孔膜(A)と耐熱性樹脂からなる多孔膜(B)との積層体であって、多孔膜(A)の最大収縮力が35mN以下であり、多孔膜(B)の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解率が50重量%未満であることを特徴とする多層多孔膜。
2.プロピレンカーボネートへの溶解率が20重量%未満であることを特徴とする、1.記載の多層多孔膜。
3.多孔膜(B)がポリケトンからなる多孔膜であることを特徴とする、1.または2.記載の多層多孔膜。
4.多孔膜(B)がポリフッ化ビニリデンを電子線照射したものからなる多孔膜であることを特徴とする、1.または2.記載の多層多孔膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、シャットダウン機能と、高温時における低収縮性を併せ持つ安全性に優れ、リチウムイオン二次電池用セパレータとして好適な多層多孔膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の多層多孔膜について、特にその好ましい形態を中心に、以下詳細に説明する。
1.多孔膜(A)
本発明における多孔膜(A)は、融点が150℃未満のポリオレフィン樹脂を含有する。前記ポリオレフィンの例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。
多孔膜(A)のシャットダウン温度が150℃未満である範囲であれば、融点が150℃未満であるポリオレフィン樹脂を単独、もしくは他のポリオレフィン樹脂と任意の割合で混合して使用することができる。他のポリオレフィン樹脂とは、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、及び1−オクテンのホモ重合体および共重合体等が挙げられる。前記重合体の例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
【0015】
多孔膜(A)中の融点150℃未満のポリオレフィン含有量は、50重量%以上が好ましく、さらに好ましくは80重量%以上、よりさらに好ましくは90重量%以上である。含有量が50重量%未満の場合は、急激な発熱が起こった場合に、シャットダウンが迅速に開始せずにシャットダウン温度が150℃を超えてしまう可能性がある。150℃未満のポリオレフィン樹脂としては、電池用セパレータとして強度の観点から、高密度ポリエチレンを使用することが好ましい。
なお、本発明で使用されるポリオレフィン樹脂には、本発明の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の添加剤、シリカやアルミナ等の無機物を混合して使用できる。
【0016】
また、本発明に使用されるポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜の製造方法については特に限定されるものではない。例えばポリオレフィン樹脂と溶剤を溶融混練し均一な溶液を得た後、Tダイより押し出して冷却固化させシート状の多孔膜前駆体を成形し、延伸ついで溶剤除去、または溶剤除去ついで延伸を行うこと等により得ることが出来る。またTD方向の最大収縮力を低減させるために、熱固定をすることが好ましい。熱固定の方法は、既知の手法を用いることができ、TD方向を固定した状態で多孔膜(A)の融点以下で熱処理する方法や熱処理の際にTD方向に緩和させる方法などが挙げられる。さらにMD/TD延伸倍率比を制御することによりTD方向の最大収縮力を低減することなどが出来る。
【0017】
本発明で使用される多孔膜(A)の最大収縮力が35mN以下であることが多層多孔膜の低収縮を達成できる必須条件である。最大収縮力とは、TMAにて測定した際のTD方向の最大収縮力である。TD方向とはMD方向に垂直な幅方向のことであり、MD方向とは、機械方向、すなわちセパレータの連続製膜時の巻き取り方向である。最大収縮力は30mN以下がより好ましく、20mN以下がよりさらに好ましい。最大収縮力が35mNより大きいポリオレフィン多孔膜を用いた多層多孔膜の場合では、耐熱性樹脂からなる多孔膜(B)との多層多孔膜であってもポリオレフィンの融点以上の高温では収縮を十分に低減することが難しい。または収縮を十分に低減するために、多孔膜(B)の厚みを極度に厚くする必要があり、電池の高容量化によるセパレータの薄膜化要求に対し有効とは言い難い。
【0018】
また、多孔膜(A)の膜厚は1〜50μmが好ましく、5〜35μmがさらに好ましい。膜厚が1μmより小さいと機械強度が不十分となる場合があり、また、50μmより大きいとセパレータの占有体積が増えるため、電池の高容量化の点において不利となる傾向がある。
気孔率は、好ましくは25%〜60%、より好ましくは30%〜55%の範囲である。気孔率が25%未満では、透過性が低下しやすく、一方60%を超えると機械強度が低下しやすい。本発明の多孔膜の突き刺し強度は、3.0N以上が好ましく、4.0N以上が更に好ましい。3.0N未満では、電池用セパレータとして使用した場合に、脱落した活物質等によってセパレータが破れやすくなる。
【0019】
このような多孔膜(A)としては、電池用セパレータとして多用されているポリオレフィン膜を使用でき、例えば、旭化成ケミカルズ製ハイポアSV718(商品名、膜厚18μm、最大収縮力9.8N未満)や旭化成ケミカルズ製ハイポアN9420G(商品名、膜厚20μm、最大収縮力31N)などが好適に使用できる。
【0020】
2.多孔膜(B)
本発明において使用する耐熱性樹脂とは、その融点が170℃以上である樹脂、あるいは融点を有さない非晶構造の樹脂の場合は、その熱分解温度が170℃以上である樹脂のことである。耐熱性樹脂として種々の公知の樹脂が挙げられる。本発明では多孔膜(B)の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解度が50重量%未満でなくてはならない。より好ましくは30重量%未満、さらに好ましくは10重量%未満である。リチウムイオン二次電池の多くは非水系電解液を使用しており、溶媒に求められる要求として、電極に対する化学的、電気化学的安定性が優れること、リチウム塩を多く溶解すること、そして使用温度範囲が広いことなどが挙げられる。
【0021】
このような溶媒としてはカーボネート系の有機溶媒が適しており広く使用されている。特に高温時の安全性を重視した系では、沸点の比較的高いプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート系の有機溶媒が電解液として使用されている。多孔膜(B)の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解度が50重量%以上の場合は、高温時の電解液への耐性が低いために、ポリオレフィン多孔膜の高温時における収縮を十分に低減することが難しく、電池での十分な安全性が得られない。
ここで言うプロピレンカーボネートへの溶解度とは、160℃のプロピレンカーボネート中で1時間保存した時に多孔膜(B)が溶解した重量分率のことである。多孔膜(A)と多孔膜(B)の多層多孔膜より多孔膜(B)を剥離することが可能な場合、多孔膜(B)を多層多孔膜より剥離し、溶解度を測定することができる。
【0022】
多層多孔膜より多孔膜(B)を剥離することが困難な場合、剥離して溶解度を測定する必要は必ずしもなく、多孔膜(A)が160℃のプロピレンカーボネートへ溶解しないことを確認できれば、多層多孔膜の重量変化を測定し、重量減少分は多孔膜(B)が溶解したものとして算出すればよい。例えば算出例として多孔膜(A)がポリエチレン多孔膜、多孔膜(B)がポリケトン多孔膜の場合、ヘキサフルオロプロパノールでポリケトンを溶解させ、ポリエチレンの重量、およびポリケトンの重量を算出する。次に新たに多層多孔膜を切り出し160℃のプロピレンカーボネートへの溶解量を計測することにより、溶解度を測定する事ができる。
【0023】
また、熱架橋処理によりポリケトンのプロピレンカーボネートへの溶解度を低減させた場合については、該多層多孔膜のMD方向とTD方向の断面SEM写真より、多孔膜(A)と多孔膜(B)の厚み、気孔率を算出し、各層の重量を測定する事が出来る。次に新たに多層多孔膜を切り出し160℃のプロピレンカーボネートへの溶解量を計測することにより、溶解度を測定する事ができる。
また、このようなプロピレンカーボネートへの溶解性は次のような手法で測定した値と相関がある。多層多孔膜をガラス板等で挟み一定時間160℃下に静置する。その際に多孔膜がガラス板よりはみ出た状態で挟み、必要に応じては圧力をかけて挟部が収縮しないようにする。プロピレンカーボネートを十分に含有した多層多孔膜も同様にして一定時間160℃下に静置する。ガラス板より多層多孔膜を取り外し、プロピレンカーボネートを含有させ熱処理した場合と含有させずに熱処理をした場合とのTMAによる収縮応力の比、引張弾性率の比を求めることにより同様に効果の違いを判断できる。
【0024】
溶解度50%未満である温度が160℃であれば本発明における効果は十分に得られるが、180℃でのプロピレンカーボネートへの溶解度は50%未満が好ましく、200℃でのプロピレンカーボネートへの溶解度が50%未満であることがさらに好ましい。融点または熱分解温度が170℃以上であり、160℃でのプロピレンカーボネートへの溶解度が50%未満である樹脂の例として、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。中でも耐熱樹脂のコスト、多孔膜の生産性など観点からポリケトンが好ましい。
【0025】
また、溶解度が50%以上の樹脂であっても、熱処理、重合、電子線架橋等の後処理により、溶解度が50%未満になるものであっても構わない。例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。中でも多孔化が容易で扱いが簡便であり、ポリエチレンとの接着性も良いポリフッ化ビニリデンを積層多孔化した後、電子線処理を施したものが好ましい。さらにポリフッ化ビニリデンは難燃性樹脂であることから高温における安全性の観点でより好ましい。
【0026】
多孔膜(B)の製造方法については特に限定されるものではなく、一般的に知られている相転換法、テンプレート析出法などによる多孔膜の製造方法が適用出来る。製造工程上、ポリオレフィン多孔膜(A)の表面に耐熱性樹脂多孔膜(B)を形成することが好ましく、例えば、融点が170℃以上である樹脂、あるいは融点を有さない非晶構造の樹脂の場合は、その熱分解温度が170℃以上である樹脂を良溶媒または良溶媒と貧溶媒の混合溶媒に均一に溶解し、ポリオレフィン多孔膜(A)の少なくとも片表面に塗布した後、貧溶媒に接触させることにより耐熱性樹脂多孔膜(B)を形成する手法が挙げられる。ただしポリオレフィン多孔膜(A)の特性が低下しない温度条件、溶媒を選択する必要がある。
【0027】
また、多孔膜(B)の膜厚は0.5〜30μmが好ましく、1〜20μmがさらに好ましい。ここで言う多孔膜(B)の膜厚とは、すべての多孔膜(B)の合計膜厚であり、例えば多孔膜(B)が2層積層されている場合は、2層の厚みの合計が多孔膜(B)の膜厚である。膜厚が0.5μmより小さいとポリオレフィン多孔膜の収縮低減効果が不十分となる場合があり、また、30μmより大きいとセパレータの占有体積が増えるため、電池の高容量化の点において不利となる傾向がある。
気孔率は、好ましくは30%〜90%、より好ましくは50%〜85%の範囲である。気孔率が30%未満では、透過性が低下しやすく、一方90%を超えるとポリオレフィン多孔膜の収縮低減効果が不十分となる場合がある。
【0028】
3.多層多孔膜
本発明における多層多孔膜とは、ポリオレフィン多孔膜の片面、もしくは両面に耐熱性樹脂からなる多孔膜を形成した多層多孔膜である。多層多孔膜のソリを考慮すると、対称的に両面に多層化することが好ましい。
積層方法は、接着剤による方法、熱融着による方法などが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。より好ましくはポリオレフィン多孔膜を基板とし、その表面上に融点が170℃以上、融点を有さない非晶構造樹脂の場合は熱分解温度が170℃以上である樹脂を良溶媒または良溶媒と貧溶媒の混合溶媒に均一に溶解し、ポリオレフィンの少なくとも片表面に塗布した後、溶媒置換や溶媒揮発などによる溶解度の違いを利用した相転換法などにより多孔膜を形成すると同時に積層する方法である。溶媒は、耐熱性樹脂の種類や目標孔径等により適した溶媒を選択できる。溶液を塗布する方法としてはダイコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーターなどによる一般的な塗布方法により行うことができる。
【0029】
本発明における多層多孔膜の160℃でのプロピレンカーボネートへの溶解度は20%未満であることが好ましい。多層多孔膜の溶解度が20%以上の場合は、多孔膜(B)の溶解量が大きいために、1.多孔膜(B)の厚さが厚い、2.多孔膜(B)の気孔率が小さい、ことがあり得る。前者の場合は、電池の高容量化によるセパレータの薄膜要求に対し有効とは言いがたく、後者の場合は、透過性が低下しやすく十分な電池特性が得られない場合がある。最終的な多層多孔膜の物性は、厚みに関して好ましくは2〜50μm、より好ましくは6〜35μmである。透気度は、20〜1000秒/100ccの範囲が好ましく、80〜800秒がより好ましい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。実施例における試験方法は次の通りである。
<多孔膜の評価>
(1)膜厚
ダイヤルゲージ(尾崎製作所:商標、PEACOCK No.25)にて測定した。MD10mm×TD10mmのサンプルを多孔膜から切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の膜厚を測定した。得られた平均値を膜厚とした。
(2)透気度
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計にて測定した。
(3)熱収縮率
MD100mm×TD100mmのサンプルを多層多孔膜から切り出し、プロピレンカーボネート溶液に減圧下で1時間含浸した。ステンレス製シャーレーにプロピレンカーボネートを注ぎ、該多孔膜を浸漬した状態で150℃下のオーブン中に水平に置き1時間放置した。その後、空冷し最短部分のTD長さ(mm)を測定した。
熱収縮率(%)=(1−TD長さ(mm)/100)×100
【0031】
(4)多孔膜(B)の溶解率
MD100mm×TD100mmのサンプルを多層多孔膜から切り出し重量を測定した。該多孔膜をプロピレンカーボネート溶液に減圧下で1時間含浸した。ステンレス製シャーレーにプロピレンカーボネートを注ぎ、該多孔膜を浸漬した状態で160℃下のオーブン中に水平に置き1時間放置した。冷却後、プロピレンカーボネートを洗浄し、乾燥後重量を測定した。
溶解率(%)=((処理前重量(g)−処理後重量(g))/処理前重量(g)×100
ただし、測定した多層多孔膜の重量よりポリオレフィン多孔膜(A)の重量を差し引いた重量を各重量として算出した。
【0032】
(5)多層多孔膜の溶解率
MD100mm×TD100mmのサンプルを多層多孔膜から切り出し重量を測定した。該多孔膜をプロピレンカーボネート溶液に減圧下で1時間含浸した。ステンレス製シャーレーにプロピレンカーボネートを注ぎ、該多孔膜を浸漬した状態で160℃下のオーブン中に水平に置き1時間放置した。冷却後、プロピレンカーボネートを洗浄し、乾燥後重量を測定した。
溶解率(%)=((処理前重量(g)−処理後重量(g))/処理前重量(g)×100
【0033】
(5)融点
測定には島津製作所社製DSC60(商品名)を用いた。
試料6〜7mgをアルミパンへ投入し、窒素気流下、10℃/min.の昇温速度で室温から600℃まで測定した。得られた吸発熱曲線の最大吸熱ピークのピークトップ温度を融点とした。
【0034】
(6)熱分解温度
測定には理学電機製のThermo Plus TG8120(商品名)を用いた。
試料6〜7mgをアルミパンへ投入し、窒素気流下、10℃/min.の昇温速度で室温から600℃まで測定した。熱重量減少開始温度を熱分解温度とした。
【0035】
(7)最大収縮力
測定には島津製作所製TMA50(商品名)を用いた。MD方向に長さ3mm、TD方向に長さ13mmの短冊状に切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を9.8mNとし、30℃より10℃/minの速度にてプローブを定長制御した状態で200℃まで昇温し、そのとき発生した収縮力の最大値を最大収縮力(mN)とした。
【0036】
(8)シャットダウン温度
規定の電解液を十分に含浸させた多層多孔膜を、ガラス板に固定した厚さ10μmのニッケル箔で挟みこみ、ガラス板を市販のダブルクリップで固定する。ガラス板には熱電対を耐熱テープで固定しセルを作成した。
【0037】
さらに、詳細に説明すると、一方のニッケル箔には耐熱テープを貼り合わせて、箔中央部に15mm×10mmの窓の部分を残しマスキングする。窓部を多層多孔膜で覆うように重ね、もう一方のニッケル箔で多層多孔膜を挟みこむ。なお規定の電解液とは1mol/リットルのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ−ブチルラクトン=1/2/2)である。
このセルをオーブン中に静置し、温度とニッケル箔間の電気抵抗を測定した。オーブンは30℃から200℃まで2℃/minの昇温速度で昇温させ、電気抵抗値は1kHzの交流にて測定した。シャットダウン温度とは電気抵抗値が1000Ωに達する時の温度とした。
【0038】
[実施例1]
ポリフッ化ビニリデン(SOLVAY SOLEXIS社製、商品名:SOLEF1015、融点173℃)10重量部をジメチルアセトアミド80重量部とポリエチレングリコール10重量部の溶液に60℃で溶解した。該溶液を、膜厚18μmのポリエチレン多孔膜(融点138℃、透気度100秒、最大収縮応力9.8mN以下)上にバーコーターを用いて両面に塗布し、水浴中に浸漬した。
エタノールに浸漬後、室温で風乾し、80℃に設定したオーブン中で乾燥した。該多層多孔膜に窒素気流中下で電子線照射を施した。膜厚20μm、透気度130秒、熱収縮率24%、ポリフッ化ビニリデン多孔膜層の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解度30%の多層多孔膜が得られた。多層多孔膜の膜厚、透気度、熱収縮率、プロピレンカーボネートへの溶解度、及び多孔膜(A)の膜厚、融点、透気度、最大収縮力、多孔膜(B)の膜厚、融点、プロピレンカーボネートへの溶解度を表1に示した。また以下の実施例、および比較例についての値も同様に表1に示した。
【0039】
[実施例2]
多層多孔膜の膜厚が28μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0040】
[実施例3]
多層多孔膜の膜厚が34μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0041】
[実施例4]
膜厚18μmのポリエチレン多孔膜のかわりに、膜厚20μmのポリエチレン多孔膜(融点137℃、透気度260秒、最大収縮力31mN)を使用し、多層多孔膜の膜厚が24μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0042】
[実施例5]
多層多孔膜の膜厚が30μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は実施例4と同様にして多層多孔膜を得た。
【0043】
[実施例6]
膜厚18μmのポリエチレン多孔膜のかわりに、膜厚16μmのポリエチレン多孔膜(融点135℃、透気度350秒、最大収縮力28mN)を使用し、多層多孔膜の膜厚が18μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0044】
[実施例7]
多層多孔膜の膜厚が20μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は実施例6と同様にして多層多孔膜を得た。
【0045】
[実施例8]
エチレンと一酸化炭素が完全交互共重合したポリケトンポリマー(融点260℃)を塩化亜鉛22重量部/塩化カルシウム40重量部を含有する水溶液に添加し、80℃で攪拌してポリマー濃度4.5重量%の水溶液を得た。該溶液を、膜厚18μmのポリエチレン多孔膜(融点138℃、透気度100秒、最大収縮応力9.8mN以下)上にバーコーターを用いて両面に塗布し、塩化亜鉛0.1重量部/塩化カルシウム2重量部/塩酸0.1重量部を含有する2℃に温調した水/アセトン=40/60混合溶液中に浸漬した。その後、濃度2%の塩酸水溶液で洗浄し、ついで水洗を行った。次に沸騰水中に30分間浸漬し、エタノールに浸漬後、室温で風乾し、80℃に設定したオーブン中で乾燥した。膜厚20μm、透気度150秒、熱収縮率16%、ポリケトン多孔膜層の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解度0%の多層多孔膜が得られた。
【0046】
[実施例9]
多層多孔膜の膜厚が28μmになるようにポリケトン水溶液を塗布した以外は実施例8と同様にして多層多孔膜を得た。
【0047】
[比較例1]
電子線照射を行わない以外は、実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0048】
[比較例2]
電子線照射を行わない以外は、実施例3と同様にして多層多孔膜を得た。
【0049】
[比較例3]
電子線照射を行わない以外は、実施例5と同様にして多層多孔膜を得た。
【0050】
[比較例4]
膜厚18μmのポリエチレン多孔膜のかわりに、膜厚16μmのポリエチレン多孔膜(融点134℃、透気度290秒、最大収縮力41mN)を使用し、多層多孔膜の膜厚が18μmになるようにポリフッ化ビニリデン溶液を塗布した以外は、実施例1と同様にして多層多孔膜を得た。
【0051】
[参考例1]
膜厚20μmのポリエチレン多孔膜(融点137℃、透気度260秒、最大収縮力31mN)の熱収縮率は75%、160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解度は0%であった。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように本発明の多層多孔膜は、良好なシャットダウン機能を有し、かつ、比較例1,2、3、4に比べ明らかに熱収縮率が小さい。高温時における低収縮性とシャットダウン機能を併せ持つ安全性に優れた多孔膜といえる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の多層多孔膜は、安全性に優れた電池セパレータとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が150℃未満であるポリオレフィン樹脂を含有する多孔膜(A)と耐熱性樹脂からなる多孔膜(B)との積層体であって、多孔膜(A)の最大収縮力が35mN以下であり、多孔膜(B)の160℃におけるプロピレンカーボネートへの溶解率が50重量%未満であることを特徴とする多層多孔膜。
【請求項2】
プロピレンカーボネートへの溶解率が20重量%未満であることを特徴とする、請求項1記載の多層多孔膜。
【請求項3】
多孔膜(B)がポリケトンからなる多孔膜であることを特徴とする、請求項1または2記載の多層多孔膜。
【請求項4】
多孔膜(B)がポリフッ化ビニリデンを電子線照射したものからなる多孔膜であることを特徴とする、請求項1または2記載の多層多孔膜。

【公開番号】特開2006−27024(P2006−27024A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207742(P2004−207742)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】