説明

多層容器の成形方法

【課題】多層体から切断する際に、多層体の端面を表面樹脂層によって中間層を安定して被覆する。
【解決手段】多層体10を構成する樹脂の少なくとも一層が溶融状態で、刃受け部14に支持された多層体10に押切刃15を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層11,12,13を延伸させながら薄肉に圧縮変形させ、薄肉に圧縮された部分Sを押切刃15を刃受け部14に突き当たるまで押し込むことにより押し切り、中間層11および表面樹脂層12,13の各層を押切刃15と刃受け部14との突き当て部Aに収束させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断と同時に中間層の切断面を表面樹脂層にて被覆する多層体の切断方法および多層体切断成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
多層体から打ち抜いて成形される多層体容器は、容器の切断端面に中間樹脂層が露出し外観が悪くなる。特に、中間樹脂層に酸素吸収層を備えたものでは、鉄系の金属を主成分としているため、鉄粒子の飛散、錆の発生等の問題が生じる。そこで、従来から、打ち抜き時に、多層体の表面樹脂層を切断端面側に回り込むように延伸させ、酸素吸収層等の中間樹脂層の端面を被覆する方法が提案されている(たとえば特許文献1、特許文献2など参照)。
これらの成形方法は、打ち抜き手段としてオス刃,メス刃の打ち抜き型を用いたもので、多層体を打ち抜く際に、表面樹脂層を刃先に引っ掛けて引っ張り、中間樹脂層の切断端面を被覆するようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−227259号公報
【特許文献2】特開平11−48385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の成形方法の場合、オス刃とメス刃のせん断作用によって切断する構成なので、オス刃とメス刃の刃先の噛み合い隙間によって被覆量が大きく変化するものと思量され、金型に高精度が要求される。
隙間が適正であったとしても、環境温度等の環境条件、経時的な型の摩耗等によって被覆量を一定に保つことがきわめて困難で、安定した品質が見込めないという問題があった。
【0005】
また、従来は抜き型を表面樹脂層のビカット軟化点付近まで加熱しており、型の温度制御も必要であった。
また、せん断により打ち抜いているので、切断端面の下端にバリが生じ、バリ取りを行う必要がある。バリが大きいと、中間樹脂層の一部が端面の被覆領域から外れて露出してしまう。
さらに、表面樹脂層による端面被覆部は、せん断面となる切断端面のせん断方向に延伸される構成なので、切断端面との密着性が悪い。また、切断端面はせん断による切断されるので、端面被覆部の先端が引っかかってめくれやすい。
【0006】
本発明は上記した従来技術の問題点を解決するためになされたもので、多層体を切断する際に、中間層を安定して被覆することができる多層体の切断方法および多層容器の成形方法並びに多層成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、複数の樹脂層が積層された多層体を所定形状に切断する多層体の切断方法において、
前記多層体を構成する樹脂の少なくとも一層が溶融状態で、刃受け部に支持された多層体に押切刃を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層を
延伸させながら薄肉に圧縮変形させ、
薄肉に圧縮された部分を押切刃を刃受け部に突き当たるまで押し込むこと により押し切り、中間層および表面樹脂層の各層を押切刃と刃受け部との突き当て部に収束させることを特徴とする。
【0008】
薄肉に圧縮された部分の最終的な押切りは、多層体を構成する樹脂材が融点以下に冷えて硬化した後に行うことを特徴とする。
また、薄肉に圧縮された部分の最終的な押切りは、多層体を構成する樹脂材が溶融状態の内に行ってもよい。
押切刃の温度は常温とすることが好ましい。
押切刃は帯状刃の両端を無端状につないで構成されることが好ましい。
また、押切刃は少なくとも一方の側面が傾斜面で形成されている角形状であることが好ましい。
多層体は、シート構成でもよいし、カップもしくはトレー形状であってもよいし、さらに、パウチ形状であってもよい。
また、中間層は少なくとも気体を遮断する気体遮断層を含む構成としてもよいし、少なくとも鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層であってもよいし、酸素吸収層と気体遮断層の2層構造でもよい。
【0009】
また、本発明の多層容器の成形方法は、複数の樹脂層が積層された多層体を構成する樹脂の少なくとも一層が溶融状態である多層体からの型成形によって容器本体部を成形すると同時に、多層体の容器本体部周縁を所定幅で切断してフランジ部を成形する多層容器の成形方法において、
前記多層体の容器本体部周縁の切断は、刃受け部に支持された溶融状態の多層体に押切刃を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層を延伸させながら薄肉に圧縮変形させ、
薄肉に圧縮された部分を押切刃を刃受け部に突き当たるまで押し込むことにより押し切り、中間層および表面樹脂層の各層を押切刃と刃受け部との突き当て部に収束させることを特徴とする。
多層体を挟む一対の金型を有し、押切刃を一方の金型側に設けると共に、刃受け部を他方の金型側に設けることが好適である。
【0010】
フランジ部の最終的な押切りは、容器本体部の成形後であって型開き前の樹脂材の冷却硬化後に行うことを特徴とする。
また、フランジ部の最終的な押切りは、容器本体部の成形前の樹脂材が溶融状態の内に行うようにしてもよい。
また、中間層は少なくとも気体を遮断する気体遮断層を含む構成としてもよいし、少なくとも鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層であってもよいし、酸素吸収層と気体遮断層の2層構造でもよい。
【0011】
また、本発明の多層成形品は、複数の樹脂層が積層された多層体を刃受け部と押切刃との間で押し切って所定形状に切断した多層成型品であって、
刃受け部と押切刃により押し切った切断点が多層体の押切刃と反対側の側面上に位置し、前記中間層と表面樹脂層の各層が前記切断点に収束する構成となっていることを特徴とする。
多層体を構成する各層は平行で、端部において切断点に向けて収束する構造となっており、平行構造から収束構造への移行部には押切刃側に盛り上がる褶曲部を有することを特徴とする。
成形品は、カップもしくはトレーであってもよいし、パウチであってもよい。
また、中間層は少なくとも気体を遮断する気体遮断層を含む構成としてもよいし、少な
くとも鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層であってもよいし、酸素吸収層と気体遮断層の2層構造でもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本請求項1に係る多層体の切断方法によれば、少なくとも一層が溶融状態の多層体に押切刃を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層を延伸させながら薄肉に圧縮変形し、薄肉に圧縮された部分を押切刃を刃受け部に突き当たるまで押し込むことにより押し切り、各層を押切刃と刃受け部との突き当て部に収束させるようにしたので、多層体端面への中間層の露出を防止できる。
また、押切刃で押し切る構成なので、従来のようなオス刃とメス刃でせん断により打ち抜くような高価な抜き型が不要となる。
また、多層体を押切刃で押し切る構成なので、せん断方式のように切断面の下端にバリが生じることはなく、バリ取り工程も不要である。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、最終的な押切りは、多層体を構成する樹脂材が融点以下に冷えて硬化した後に行うので、精度よく切断することができる。
請求項3に記載の発明によれば、最終的な押切りは、多層体が溶融状態のうちに行うので、迅速に切断できる。
請求項4に記載の発明によれば、押切刃の温度が常温でも、切断部分だけが部分的に接触するだけなので、樹脂層の溶融状態が保持され、十分延伸させることができ、表面樹脂層によって切断端面を安定して被覆することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、押切刃を可撓性の帯状刃の両端を無端状につないだ構成としたので、一つの帯状刃によって種々の形状の容器に対応でき、設備の簡素化が可能となり、大幅なコスト削減を図ることができる。
請求項6に記載の発明によれば、押切刃の少なくとも一方の側面が傾斜する構成となっているので、表面樹脂層を傾斜面に密着させて、端面の形状を整えることができる。
請求項7に係る発明は、多層体がシート状であるので成形しやすい。
請求項8に係る発明によれば、本発明の切断方法を用いてカップもしくはトレイのような多層容器を成形することにより、中間層の露出の無いカップやトレイを実現できる。
請求項9係る発明によれば、本発明の切断方法を用いてパウチを成形することにより、中間層の露出の無いパウチを実現できる。特に、気体遮断性が要求されるような場合、端面からのガス漏れを防止できる。
【0015】
請求項13に係る発明によれば、少なくとも一層が溶融状態の多層体から型成形によって容器本体部を成形すると共に、多層体の容器本体部周縁を所定幅で切断してフランジ部を成形する多層容器の成形方法において、上記したように多層体の少なくとも一層が溶融状態で押切刃を食い込ませてフランジ部を切断するようにしたので、容器本体部の成形工程と同時にフランジ部を切断することができる。
【0016】
請求項14に係る発明よれば、多層体を挟む一対の金型を有し、押切刃を一方の金型側に設けると共に、刃受け部を他方の金型側に設けたので、金型の開閉に連動して押切を行うことができ、工程数の削減を図ることができる。
請求項15に係る発明によれば、フランジ部の最終的な押切りは、容器本体部の成形後であって型開き前の樹脂材の冷却硬化後に行うようにしたので、フランジ部の寸法を精度よく切断することができる。
請求項16に係る発明によれば、フランジ部の最終的な押切りは、容器本体部の成形前の樹脂材が溶融状態の内に行うようにしたので、押切が1工程で済む。
【0017】
請求項20に係る発明によれば、複数の樹脂層が積層された多層体を刃受け部と押切刃
との間で押し切って所定形状に切断した多層成型品であって、刃受け部と押切刃により押し切った切断点が多層体の押切刃と反対側に位置し、前記中間層と表面樹脂層の各層が前記切断点に収束する構成となっているので、中間層の露出の無い安定した端面被覆形状が実現できる。
【0018】
請求項21に記載の発明によれば、多層体を構成する各層は平行構造で、端部において切断点に向けて収束する構造で、平行構造から収束構造への移行部には押切刃側に盛り上がる褶曲部を有する構成となっているので、表面樹脂層が押切刃の側面に押し付けられ、成型品の端面形状が安定する。
請求項22に係る発明によれば、本発明の切断方法を用いてカップもしくはトレイのような多層容器を成形することにより、中間層の露出の無いカップやトレイを実現できる。
請求項23係る発明によれば、本発明の切断方法を用いてパウチを成形することにより、中間層の露出の無いパウチを実現できる。
請求項10,17,24に係る発明のように、酸素等の気体を遮断する気体遮断層の場合には、気体遮断層からの化学成分の溶出を防止できる。
請求項11,18,25に係る発明のように、中間層は鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層の場合、脱酸素剤のこぼれや錆の発生を防止することができる。
請求項12,19,25に係る発明のように、中間層を酸素吸収層と気体遮断層の2層構成の場合でも、2層まとめて被覆することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)乃至(D)は本発明の多層体の切断方法を模式的に示す図である。
【図2】図2は本発明の多層容器の成形方法によって成形される多層容器を模式的に示すもので、同図(A)は半断面正面図、同図(B)はフランジ端部の拡大断面図、同図(C)はクランプ痕を有するフランジ端部の拡大断面図である。
【図3】図3(A)は図2の多層容器の成形型を示す断面図、図3(B)は同図(A)の押切刃の斜視図、図3(C)は同図(B)の押切刃を丸くした状態の斜視図である。
【図4】図4(A)乃至(D)は多層容器の成形工程を示す図である。
【図5】図5(A)乃至(E)は多層容器の成形工程を示す図である。
【図6】図6(A)乃至(H)は本発明の多層容器の成形方法によって成型されたフランジ部の断面写真の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る多層体の切断方法を模式的に示している。切断する多層体10は、中間層としての中間樹脂層11と、この中間樹脂層11を挟む一対の表面樹脂層12,13との3層構成のシートによって構成されている。各層間には、各層を接着する不図示の接着剤層が適宜設けられている。
この多層体10の少なくとも一層が溶融状態で、一側面が刃受け部14に支持された多層体10の他側面から押切刃15を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層11,12,13を延伸させながら薄肉に圧縮変形させる(図1(A),(B)参照)。なお、ここでは図示しないが、押切刃15の側面15a,15bによって下層の樹脂層が左右に押されて押切刃15の両側に若干盛り上がる。盛り上がった褶曲部121aの大小は、成形条件と樹脂層の厚みと押切刃の角度などによって変化する。
【0021】
次いで、薄肉に圧縮された部分Sを押切刃15の先端を刃受け部14に突き当たるまで押し込むことにより押し切り、中間樹脂層11および表面樹脂層12,13の各層を押切刃15と刃受け部14との突き当て部Aに収束させる(図1(C)参照)。
少なくとも一層が溶融状態で押切刃15を食い込ませているので、溶融樹脂層は切断さ
れることなく押切刃15の側面形状に倣った傾斜面に変形するだけであり、切断された多層体10の端面10aには中間樹脂層11が露出することなく一方の表面樹脂層12によって被覆された状態が維持される。
【0022】
さらに、薄肉部分Sを最終的に押し切る構成なので、各層が僅少の肉厚まで押し潰されて切断され、切断点A1,A2はほぼ一点に収束する。特に中間樹脂層11に関しては、切断部は僅少の肉厚となっていると共に、表裏一対の表面樹脂層12,13の切断部によって隠された状態となる。
溶融状態での押切刃15の食い込み寸法としては、多層体10の厚み、層構成、樹脂材料等によって適切な寸法が選択される。
薄肉部分Sの押切りは、多層体10の各層を構成する樹脂が融点以下に冷えて硬化した後に行うようにしてもよいし、樹脂が溶融状態の内に行ってもよい。
【0023】
押切刃15の温度は、常温とすることが好ましい。多層体10を支持する刃受け部14についても、常温としておくことが好ましい。
押切刃15は可撓性の帯状刃によって構成される。帯状刃によって直線状に切断することもできるし、曲線状に切断することもできるし、円形等の無端状に形状に切断することもできる。
【0024】
押切刃15は両側面15a,15bが傾斜面で形成されている両刃形状である。開き角度があまり小さいと、表面樹脂層12が切れてしまうので、30°以上に設定することが好ましい。
押切刃15の形状は、押切刃15の両側面15a,15bの角度は非対称としてもよいし、片側面のみ傾斜する片刃形状としてもよい。
すなわち、図5(E)に示すように、押切刃15の、容器100のフランジ部120側のフランジ端面121に当たるに15a側の側面をフラット形状として、反対の15b側を傾斜面とした場合には、盛り上がった褶曲部121aを最小に抑えることができるの点でより好ましい。
【0025】
図2には、シート状の多層体10から成形される多層容器を示している。
多層容器100は、上記したようなシート状の多層体10から絞り成形されたカップ形状の容器本体部110と、この容器本体部110の開口部周縁から外方に張り出すフランジ部120と、を備え、上記した多層体の切断方法を用いて、多層体10のフランジ部120の外端に相当する箇所を押切刃15と刃受け部14との間で押し切って所定形状に切断したものである。
多層体10の各樹脂層の厚みは、この例では、最下層の表面樹脂層13(容器の外層となる)が全体の半分程度と厚肉で、最上層の表面樹脂層12(容器の内層となる)が最も薄肉で、中間樹脂層11がその中間程度の厚みとなっている。
【0026】
フランジ部120は、図2(B)に示すように、互いに平行のフランジ下面123とフランジ上面124とを有し、フランジ下面123はフランジ上面124より大径で、フランジ端面121はフランジ上面124側の外径端からフランジ下面123側の外径端に向けて下方に向かって拡径する傾斜面となっている。
このフランジ端面121の鋭角状の下端エッジ部が押切刃15による切断点122となっており、フランジ部120を構成する各層が端部において切断点122に収束する構造となっている。
【0027】
フランジ部120の各樹脂層11,12,13は、フランジ下面123及びフランジ上面124と平行の平行構造となっており、フランジ部端部において切断点122に収束する収束構造を有している。また、平行構造と収束構造の間に、押切刃15の側面によって
左右に押されてフランジ上面124側に盛り上がる褶曲部を有している。
すなわち、最下層の表面樹脂層端部13aの断面収束形状は、切断点122を頂点とする角形状で、フランジ下面123に対する上層の中間樹脂層11との境界面m1とのなす角度はフランジ端面121より小さい角度となっている。
【0028】
中間樹脂層端部11aの断面形状は、切断点122が頂点となるように延びる嘴形状で、下位の三角形状の表面樹脂層端部13aに重なっている。
最上層の表面樹脂層端部12aは薄肉で、切断点122まで延伸されており、下位の嘴状の中間樹脂層端部11aに重なっている。
最下層の表面樹脂層13の褶曲部13bは表面樹脂層13と中間樹脂層11との境界面m1が中間樹脂層11側に盛り上がった構成となっており、この褶曲部13bの上に中間層11の褶曲部11bおよび最上層に位置する表面樹脂層12の褶曲部12bが重なっている。
【0029】
最上層の表面樹脂層端部12aは薄肉で全体的に延伸される構成なので、下位の層のように先端に向かって先細となるような厚みの変化は小さい。一方、最下層の表面樹脂層端部13aは下方には延伸されず、押切刃15の食い込みによって左右に押し分けられるように圧縮変形し、褶曲部13bが大きくなる。中間樹脂層11は中間的な変形である。変形状態は、各層の肉厚、位置関係等によって変化する。
【0030】
図2(C)は、成形時にフランジ部120を金型で押さえた際のクランプ痕125を有する例である。クランプ圧によってフランジ部120が圧縮されるので、クランプ部とフランジ端部の収束構造との間の褶曲部13b,11b,12bがより誇張される傾向となる。
この多層容器100を構成する多層体10の表面樹脂層12,13としては、たとえばポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられ、中間樹脂層11は、酸素吸収層や気体遮断層の単独の単層構成あるいは両方の2層構成等によって構成される。
【0031】
酸素吸収層は、鉄系脱酸素剤配合の熱可塑性樹脂、その他酸素吸収ポリマー(オレフィン系、ポリエステル系、ウレタン系など)等が用いられる。
酸素吸収ポリマーの例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、その他ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/6・6共重合体、メタキシリレンアジパミドなどのポリアミド類のガスバリア性樹脂に酸化性樹脂および遷移金属系触媒をブレンドしたものがある。
【0032】
酸化性樹脂としては、▲1▼炭素側鎖を含み、且つ主鎖または側鎖にカルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基およびカルボニル基からなる群より選択された少なくとも1個の官能基を含む樹脂、▲2▼メタキシリレンアジパミド等のポリアミド樹脂、▲3▼エチレン系不飽和基含有重合体等が挙げられる。
遷移金属系触媒は、酸化性樹脂の酸化反応の触媒となるものであり、遷移金属の有機酸塩あるいは有機錯塩等である。遷移金属系触媒の例として、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、錫、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン等を挙げることができる。
【0033】
気体遮断層は、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、その他、ナイロン6,ナイロン6・6、ナイロン6/6・6共重合体、メタキシリレンアジパミドなどのポリアミド類、樹脂コーティング剤、無機蒸着層等が用いられる。
表面樹脂層12,13には、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。この表裏一対の表面樹脂層12,13は、表裏異なる樹脂材料が使用される場合もある。
【0034】
中間樹脂層11としては、酸素吸収層単独でもよいし、気体遮断層単独であってもよいし、他の樹脂であってもよい。また、中間層は樹脂層に限られず、場合によってば、アルミ箔などの金属層であってもよい。中間層にアルミ箔などの金属層を備えた多層体としては、たとえばパウチ用のフィルムに好適である。
【0035】
次に、図3乃至図5に基づいて、上記多層容器の成形方法について詳細に説明する。
この多層容器100の成形は、シート状の多層体10から圧空成型,真空成形、真空圧空成形等によって容器本体110の立体形状を成形するもので、この容器本体110の成形と同時に、押切刃15によってフランジ部120を丸く打ち抜いて切断するようになっている。
【0036】
まず、図3を参照して成形型について説明する。
成形型200は、多層体10を挟む一対の金型としての第1,第2金型210,220を有し、押切刃15を一方の第2金型220に設けると共に、刃受け部を構成する支持台212が他方の第1金型210側に設けられている。
第1金型210は、容器本体部110を成形するキャビティ211と、キャビティ開口部周縁に設けられる平坦な環状の支持台212とを有する。第2金型220は、第1金型210の支持台212の上面の内径側の領域に係合するクランプ部221を備えている。
【0037】
第2金型220側には、少なくとも一層が溶融状態の多層体10をキャビティ211内に押し込むプラグ230が設けられている。図示例では第2金型220とプラグ230を一体で動くように記載しているが、第2金型220とプラグ230を別体構成とし、独立で移動する構成としてもよい。
また、第1金型210のキャビティ211の底部には、成形後にキャビティ211内に突出して成形された多層容器100を離型させるイジェクタ型240が設けられている。
【0038】
さらに、フランジ部120を押し切るための押切刃15が一方の第2金型220側に設けられている。この押切刃15は第2金型220のクランプ部221外形端より外側であって第1金型210の支持台212上面に対向する位置に配置されている。押切刃15の先端部による切断予定位置は、第2金型220のクランプ部221によるクランプ領域の外端よりも所定距離だけ外側に離れた位置にある。
この支持台212の表面層は硬質で断熱性を有する材料が好ましく、その下層には真鍮などの軟質材213が埋設され、押切刃15が突き当たる際の衝撃を吸収するような構造となっている。
【0039】
押切刃15は可撓性の帯状刃で、両端を無端状につないで使用され(図3(B),(C)参照)、ホルダ250の内周にはめ込まれ、ホルダ250の内周形状に倣った形状に保持される。図示例では円形状となっているが、容器の形状に倣ってホルダ250の形状を変えることにより、四角形状,楕円形状等任意の形状とすることができる。
【0040】
次に、図4および図5を参照して、成形工程を説明する。
成形工程は、シートフィード工程と、先行プラグ挿入工程と、型閉じ工程と、圧空成形工程と、フランジ部切断工程と、ノックアウト工程を有している。
シートフィード工程では、図4(A)に示すように、多層体10を構成する樹脂の少なくとも一層が溶融状態として成形型の第1金型210の上面に送り込む。多層体10はキャビティ211内に自重によって垂れ下がる。
【0041】
先行プラグ挿入工程では、図4(B)に示すように、容器本体部110の成形に先行してプラグ230を押し下げて、多層体10を第1金型210のキャビティ211内に所定
量押し込む。
【0042】
型閉じ工程では、図4(C)に示すように、容器本体部110の型成形前の多層体10の少なくとも一層が溶融状態の内に、多層体10に押切刃15を所定量食い込ませる。第2金型220が多層体10に接触すると、多層体10の温度が急激に低下して硬化してしまうので、第2金型220が多層体10に接触しない状態、すなわち、多層体10の温度が融点以上の温度を保った状態で、多層体10の他側面から押切刃15を食い込ませ、多層体10の切断予定部分を押切刃15の断面形状に倣った形状に各層を変形させながら薄肉に圧縮する。この時点では押し切らずに、押切刃15の先端と支持台212の上面間には薄肉部Sの分だけ離間している。
溶融状態にあるので、中間樹脂層11および一対の表面樹脂層12,13の各層が切れることなく、3層構成のままで各層薄肉に延伸される。
上記先行プラグ挿入工程から型閉じ工程(図4(A)〜(C))はきわめて短時間に進行し、多層体10の少なくとも一層が溶融状態に維持される。
【0043】
押切刃15が多層体10に所定量食い込んだ直後に、第2金型220の下面が多層体10上面に接触し、押切刃15の食い込み部より内側をクランプする。
図4(D)に示すように、クランプ圧によって多層体10は第2金型220下面によって圧縮され、第2金型220の下面から押切刃15による食い込み部16の間に、圧縮されない環状の非圧縮部17が存在する。したがって、第2金型220によって圧縮される部分18と、押切刃15の食い込み部16から、流動化した樹脂材が非圧縮部17側に移動し、非圧縮部17において各層が全体的に盛り上がるように褶曲する。
押切刃15の温度としては、常温とすることが好ましい。
【0044】
圧空成形工程は、図5(A)に示すように、クランプが完了した時点で、第2金型220と多層体10間の空間に圧空を吹き込み、多層体10を第1金型210のキャビティ211内周に密接させ、多層体10を冷却硬化せる。圧空の吹き込みの代わりに、第1金型210と多層体10間の空間の真空引きによって容器本体部110を成形することもできる。また、圧空と真空の両方によって成形してもよい。
【0045】
フランジ部押切工程は、図5(B)に示すように、容器本体部110を成形した後、押切刃14を停止させた状態で第1金型210を上昇させ、最終的に押切刃15先端を支持台212に突き当てて、薄肉部Sを押し切り、フランジ部120を成形する。切断は、第1金型210を固定し、押切刃15を下方に押し込むようにしてもよい。
【0046】
この結果、図5(D)に示すように、中間樹脂層11および表面樹脂層12,13の各層が、押切刃15と支持台12との突き当て部Aに収束する。
この多層体10からのフランジ部110の押切りは、容器本体部110の成形前(型閉め時)の溶融状態の内に行うようにしてもよい。
押し切った後、成形品をノックアウトする。
【0047】
ノックアウト工程は、図5(C)に示すように、は、第1金型210を停止した状態で、第2金型220および押切刃15を上昇させると共に、底部に位置するノックアウト型240を押し上げ、容器本体部110の底部を押し上げて容器本体部110を第1金型210のキャビティ211から離型する。
【0048】
なお、上記実施の形態では、第2金型220に隣接して押切刃15を設け、第1金型210の支持台212を刃受け部としたが、逆に、第2金型220側に刃受け部を設け、キャビティ211を有する第1金型210に隣接して押切刃15を設けてもよい。
また、上記実施の形態では、多層成形品として、立体的なカップやトレー等の容器の周
囲を切断することにより成形される多層容器を例にとって説明したが、多層体から袋体を構成するパウチであってもよい。
【実施例1】
【0049】
図6(A)乃至(H)は、実際に成形した多層容器のフランジ部の断面写真を示している。
いずれも、フランジ端部において、各樹脂層11,12,13が切断点に収束し、フランジ端面に中間層が露出することなく、フランジ端面が一方の樹脂層で完全に被覆されていた。
また、クランプ痕については、たとえば、図6(C),(E)に示すように、条件によっては出ない場合が認められた。また、褶曲部についても、図6(E)ではほとんど発生していない。
【符号の説明】
【0050】
10 多層体、
11 中間樹脂層
12 表面樹脂層(押切刃側)
13 表面樹脂層(刃受け部側)
14 刃受け部
15 押切刃、15a,15b 側面
S 薄肉部
A 突き当て部
A1,A2 切断点
100 容器、
110 容器本体部
120 フランジ部
121 フランジ端面、122 切断点、123 フランジ下面、
124 フランジ上面、125 クランプ痕
121a 褶曲部
200 成形型
210 第1金型
220 第2金型
211 キャビティ
212 支持台
213 軟質材
221 クランプ部
230 プラグ
240 イジェクタ型
250 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂層が積層された多層体を所定形状に切断する多層体の切断方法において、前記多層体を構成する樹脂の少なくとも一層が溶融状態で、刃受け部に支持された多層体に押切刃を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層を延伸させながら薄肉に圧縮変形させ、薄肉に圧縮された部分を押切刃を刃受け部に突き当たるまで押し込むことにより押し切り、中間層および表面樹脂層の各層を押切刃と刃受け部との突き当て部に収束させることを特徴とする多層体の切断方法。
【請求項2】
薄肉に圧縮された部分の押切りは、多層体を構成する樹脂材が融点以下に冷えて硬化した後に行う請求項1に記載の多層体の切断方法。
【請求項3】
薄肉に圧縮された部分の押切りは、多層体を構成する樹脂材が溶融状態の内に行う請求項1に記載の多層体の切断方法。
【請求項4】
押切刃の温度を常温とする請求項1に記載の多層体の切断方法。
【請求項5】
押切刃は帯状刃の両端を無端状につないで構成される請求項1に記載の多層体の切断方法。
【請求項6】
押切刃は少なくとも一方の側面が傾斜面で形成されている角形状である請求項4乃至5のいずれかの項に記載の多層体の切断方法。
【請求項7】
多層体がシートである請求項1乃至6のいずれかの項に記載の多層体の切断方法。
【請求項8】
多層体がカップもしくはトレーである請求項1乃至6のいずれかの項に記載の多層体の切断方法。
【請求項9】
多層体がパウチである請求項1乃至6のいずれかの項に記載の多層体の切断方法。
【請求項10】
上記中間層は少なくとも気体を遮断する気体遮断層を含むことを特徴とする上記請求項1乃至9のいずれかの項に記載の切断方法。
【請求項11】
上記中間層は少なくとも鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層であることを特徴とする上記請求項1乃至9のいずれかの項に記載の切断方法。
【請求項12】
上記中間層は酸素吸収層と気体遮断層の2層構造であることを特徴とする上記請求項1乃至9のいずれかの項に記載の切断方法。
【請求項13】
複数の樹脂層が積層された多層体を構成する樹脂の少なくとも一層が溶融状態である多層体からの型成形によって容器本体部を成形すると同時に、多層体の容器本体部周縁を所定幅で切断してフランジ部を成形する多層容器の成形方法において、前記多層体の容器本体部周縁の切断は、刃受け部に支持された溶融状態の多層体に押切刃を所定量食い込ませることにより、上位の層が下位の層に食い込むように各層を延伸させながら薄肉に圧縮変形させ、薄肉に圧縮された部分を押切刃を刃受け部に突き当たるまで押し込むことにより押し切り、中間層および表面樹脂層の各層を押切刃と刃受け部との突き当て部に収束させることを特徴とする多層容器の成形方法。
【請求項14】
多層体を挟む一対の金型を有し、押切刃を一方の金型側に設けると共に、刃受け部を他方の金型側に設けた請求項13に記載の多層容器の成形方法。
【請求項15】
フランジ部の押切りは、容器本体部の成形後に行う請求項13に記載の多層容器の成形方法。
【請求項16】
フランジ部の押切りは、容器本体部の成形前の多層体が溶融状態の内に行う請求項13に記載の多層容器の成形方法。
【請求項17】
上記中間層は少なくとも気体を遮断する気体遮断層を含むことを特徴とする上記請求項13乃至16のいずれかの項に記載の成形方法。
【請求項18】
上記中間層は少なくとも鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層であることを特徴とする上記請求項13乃至16のいずれかの項に記載の成形方法。
【請求項19】
上記中間層は酸素吸収層と気体遮断層の2層構造であることを特徴とする上記請求項13乃至16のいずれかの項に記載の成形方法。
【請求項20】
複数の樹脂層が積層された多層体を刃受け部と押切刃との間で押し切って所定形状に切断した多層成形品であって、刃受け部と押切りにより押し切った切断点が多層体の押切刃と反対側の側面上に位置し、前記中間層と表面樹脂の各層が前記切断点に収束する構成となっている多層成形品。
【請求項21】
多層体を構成する各層は平行構造で、端部において切断点に向けて収束する収束構造となっており、平行構造から収束構造への移行部には押切刃側に盛り上がる褶曲部を有することを特徴とする請求項20に記載の多層成形品。
【請求項22】
成形品はカップもしくはトレーである請求項21に記載の多層成形品。
【請求項23】
成形品はパウチである請求項21または22のいずれかの項に記載の多層成形品。
【請求項24】
中間層は少なくとも気体を遮断する気体遮断層を含む請求項21乃至23のいずれかの項に記載の多層成形品。
【請求項25】
中間層は少なくとも鉄系の脱酸素剤を含む酸素吸収層である請求項21乃至23のいずれかの項に記載の多層成形品。
【請求項26】
中間層は酸素吸収層と気体遮断層の2層構造である請求項21乃至23のいずれかの項に記載の多層成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−107117(P2009−107117A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27888(P2009−27888)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【分割の表示】特願2002−217342(P2002−217342)の分割
【原出願日】平成14年7月25日(2002.7.25)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(304050369)株式会社浅野研究所 (44)
【Fターム(参考)】