説明

多層延伸フィルム

【課題】従来よりもさらに偏光性能を高めつつ、同時に斜め方向に入射した光に対して斜め方向の入射角による透過偏光の色相ずれが見られない、反射偏光機能を有する多層延伸フィルムを提供すること。
【解決手段】第1層と第2層とが交互に積層された251層以上の多層延伸フィルムであり、該第1層は(i)ジカルボン酸成分としてナフトエ酸成分を含む特定のジカルボン酸成分を5モル%以上50モル%以下、およびナフタレンジイル基を有するジカルボン酸成分を含有し、(ii)ジオール成分として炭素数2〜4のアルキレン基を有するジオール成分を含有するポリエステルからなる厚さ0.01〜0.5μmの層で、該第2層は平均屈折率1.55以上1.65以下でかつ光学等方性の共重合ポリエチレンテレフタレートからなる厚さ0.01〜0.5μmの層であり、第1層と第2層の厚み比および屈折率差が特定された、P偏光成分について入射角0度および50度での平均反射率がそれぞれ90%以上、S偏光成分について入射角0度および50度での平均反射率がそれぞれ15%以下である多層延伸フィルムにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一定の偏光成分を選択的に反射し、該偏光成分と垂直方向の偏光成分を選択的に透過する多層延伸フィルムに関するものである。さらに詳しくは、一定の偏光成分を選択的に反射し、該偏光成分と垂直方向の偏光成分を選択的に透過する偏光性能に優れ、かつ斜め方向に入射した光に対して部分的な反射が発生することなく透過偏光の色相ずれが解消された多層延伸フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
屈折率の低い層と屈折率の高い層とを交互に積層したフィルムは、層間の構造的な光干渉によって、特定波長の光を選択的に反射または透過する光学干渉フィルムとすることができる。また、このような多層フィルムは、膜厚を徐々に変化させたり、異なる反射ピークを有するフィルムを貼り合せたりすることで金属を使用したフィルムと同等の高い反射率を得ることができ、金属光沢フィルムや反射ミラーとして使用することもできる。さらには、このような多層フィルムを1方向にのみ延伸することで、特定の偏光成分のみを反射する偏光反射フィルムとしても使用できる。これらを液晶ディスプレイなどに使用することで、液晶ディスプレイなどの輝度向上フィルムとして使用できることが知られている。
【0003】
一般に層厚が0.05〜0.5μmの異なる屈折率を持った層で構成される多層フィルムは、一方の層を構成する層と他方の層を構成する層の屈折率差と膜厚および積層数により、特定の波長の光を反射する増反射といった現象がみられる。一般にその反射波長は、下記の式で示される。
λ=2(n×d+n×d
(上式中、λは反射波長(nm)、n、nはそれぞれの層の屈折率、d、dはそれぞれの層の厚み(nm)を表わす)
【0004】
例えば特許文献1に示されている通り、一方の層に正の応力光学係数をもった樹脂を使用することで、1軸方向に延伸することによりかかる層の屈折率を複屈折化させて異方性を持たせ、フィルム面内の延伸方向における層間の屈折率差を大きくし、一方でフィルム面内の延伸方向と直交方向における層間の屈折率差を小さくする方法により、特定の偏光成分のみを反射することができる。
この原理を利用して、例えば一方向の偏光を反射し、その直交方向の偏光を透過するといった反射偏光フィルムを設計することができ、そのときの望ましい複屈折性は下記の式で表される。
1X>n2X、n1Y=n2Y
(上式中、n1X、n2Xはそれぞれの層における延伸方向の屈折率、n1Y、n2Yはそれぞれの層における延伸方向に直交する方向の屈折率を表す)
【0005】
また、特許文献2には、屈折率の高い層にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、2,6−PENと称することがある)を使用し、屈折率の低い層に熱可塑性エラストマーやテレフタル酸を30mol%共重合したPENを使用した多層フィルムが例示されている。これは、一方の層に正の応力光学係数を有する樹脂を使用し、他方の層に応力光学係数が非常に小さい(延伸による複屈折の発現が極めて小さい)樹脂を使用することで、特定の偏光のみを反射する反射偏光フィルムを例示したものである。
また、特許文献3にはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを高屈折率層とし、不活性粒子を含む多層積層フィルムが記載されているが、広波長域において一方の偏光を高反射させる反射偏光フィルムの概念は提案されていない。
【0006】
このように、屈折率の高い層に2,6−PENを用いることは従来より知られているが、屈折率の高い層に2,6−PENを使用した場合、かかる層において、延伸後の延伸方向に直交する方向(Y方向)の屈折率とフィルム厚み方向(Z方向)の屈折率に差異が生じる。そのため延伸倍率を大きくして延伸方向(X方向)の層間の屈折率差を大きくし、偏光性能を高めようとすると、それに伴いZ方向の層間の屈折率差が大きくなる。そのため斜め方向に入射した光に対する部分的な反射により透過光の色相ずれがさらに大きくなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−268505号公報
【特許文献2】特表平9−506837号公報
【特許文献3】国際公開第01/47711号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来の多層フィルムが有する上記の課題を解消し、従来よりもさらに偏光性能を高めつつ、同時に斜め方向に入射した光に対して斜め方向の入射角による透過偏光の色相ずれが見られない、反射偏光機能を有する多層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の知見に基づく。即ち、高屈折率層を構成する第1層の樹脂として従来から用いられていたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、一軸延伸により、延伸方向(X方向)の屈折率は増大するものの、Y方向では延伸前後でほとんど屈折率が変化せず、一方Z方向は屈折率が低下する特徴を有する。そのため、延伸倍率を大きくして延伸方向(X方向)の層間の屈折率差を大きくし、偏光性能を高めようとすると、それに伴いZ方向の層間の屈折率差が大きくなる。また、延伸後のZ方向の層間の屈折率を一致させようとすると今度はY方向の層間の屈折率差が大きくなる。そのため、偏光性能の向上と斜め方向の入射光に対する透過偏光の色相ずれ抑制の両立が難しい。
【0010】
本発明者らは、高屈折率層を構成する第1層の樹脂として、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに代えて、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有する屈折率の高いポリエステルを用いると、一軸延伸後の第1層のX方向とY方向の屈折率差を大きくすることができることに加え、Y方向とZ方向の両方向について層間の屈折率差を小さくすることができる結果、本発明の課題である偏光性能の向上と斜め方向の入射角による透過偏光の色相ずれ解消の両立化が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、以下の発明により達成される。
1. 第1層と第2層とが交互に積層された251層以上の多層延伸フィルムであり、
1)該第1層は、ジカルボン酸成分とジオール成分とのポリエステルからなる厚み0.01μm以上0.5μm以下の層であり、
(i)ジカルボン酸成分は5モル%以上50モル%以下の下記式(A)で表される成分および50モル%以上95モル%以下の下記式(B)で表される成分を含有し、
【化1】

(式(A)中、Rは炭素数3〜6のアルキレン基を表わす)
【化2】

(式(B)中、Rはナフタレンジイル基を表わす)
(ii)ジオール成分は90モル%以上100モル%以下の下記式(C)で表される成分を含有し、
【化3】

(式(C)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表わす)
該第2層は共重合量が5モル%以上50モル%以下の共重合ポリエチレンテレフタレートからなり、平均屈折率1.55以上1.65以下かつ光学等方性の厚み0.01μm以上0.5μm以下の層であり、
2)フィルム面内における第1層と第2層の1軸延伸方向(X方向)の屈折率差が0.10〜0.45であって、1軸延伸方向に直交する方向(Y方向)における第1層と第2層との屈折率差、およびフィルム厚み方向(Z方向)における第1層と第2層との屈折率差がそれぞれ0.05以下であり、
3)第1層および第2層におけるそれぞれの最大層厚みと最小層厚みの比率がいずれも2.0以上5.0以下であり、かつ
4)フィルム面を反射面とし、X方向を含む入射面に対して平行な偏光成分について入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ90%以上であり、
5)フィルム面を反射面とし、X方向を含む入射面に対して垂直な偏光成分について、入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ15%以下である、
ことを特徴とする多層延伸フィルム。
【0012】
また、本発明によれば、上記の多層延伸フィルムを用いた下記の輝度向上用部材、液晶ディスプレイ用複合部材、および液晶ディスプレイ装置も提供される。
2. 前項1に記載の多層延伸フィルムからなる輝度向上用部材。
3. 前項2に記載の輝度向上用部材の少なくとも一方の面に光拡散フィルムが積層されてなる液晶ディスプレイ用複合部材。
4. 前項2に記載の輝度向上用部材を含む液晶ディスプレイ装置。
5. 前項3に記載の液晶ディスプレイ用複合部材を含む液晶ディスプレイ装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層延伸フィルムは、従来の反射偏光フィルムで見られた斜め方向の入射角による透過偏光の色相ずれが解消され、しかも従来よりも高い偏光性能を有する。そのため、輝度向上フィルムや液晶セルと貼り合せる偏光板として用いた場合に高い輝度向上率が得られ、かつ高視野角で色相ずれの少ない視認性に優れた液晶ディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の液晶ディスプレイ装置の第1態様の概略断面図である。
【図2】本発明の液晶ディスプレイ装置の第2態様の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[多層延伸フィルム]
本発明の多層延伸フィルムは、第1層と第2層とが交互に積層され、251層以上を有し、少なくとも1軸方向に延伸されたフィルムである。ここで第1層は第2層より屈折率の高い層、第2層は第1層より屈折率の低い層をそれぞれ表す。
【0016】
本発明の特徴は、一定の層厚み構成で、多層延伸フィルムを構成する第1層と第2層において、第1層に特定の共重合成分を有することを特徴とする屈折率の高いポリエステルを用い、かつ第2層に平均屈折率が1.55以上1.65以下で光学等方性の共重合ポリエチレンテレフタレートを用いることにある。なお、ここで光学等方性とは、延伸方向(X方向)、その直交方向(Y方向)およびフィルム厚み方向(Z方向)それぞれの屈折率差がいずれも0.05以下であることをいう。
【0017】
後述する特定のポリエステルを用いて第1層を構成することにより、延伸後の第1層のX方向とY方向の屈折率差を従来より大きくすることが可能となり、かつY方向とZ方向の両方向について層間の屈折率差を小さくすることが初めて可能となる。このように、従来、反射偏光機能を有する多層フィルムの第1層に用いられることが知られていなかった本発明の特定のポリエステルを第1層に用い、さらに後述する第2層の共重合ポリエチレンテレフタレートと組み合わせて一定層厚みの多層フィルムにすることにより、これまで困難であった、偏光性能の向上と斜め方向の入射光に対する透過偏光の色相ずれ抑制の両立化が可能となる。さらに、偏光性能が従来よりも高くなるため、従来と同程度の偏光性能であればフィルム厚みを従来より薄くでき、ディスプレイ厚みをより薄肉化することができる。
【0018】
ここで、延伸方向(X方向)の屈折率はn、延伸方向と直交する方向(Y方向)の屈折率はn、フィルム厚み方向(Z方向)の屈折率はnと記載することがある。
以下、さらに本発明の多層延伸フィルムについて詳述する。
【0019】
[第1層]
本発明において、第1層を構成するポリエステル(以下、芳香族ポリエステル(I)と称することがある)は以下のジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合によって得られる。
【0020】
(ジカルボン酸成分)
本発明の芳香族ポリエステル(I)を構成するジカルボン酸成分(i)として、5モル%以上50モル%以下の下記式(A)で表される成分、および50モル%以上95モル%以下の下記式(B)で表される成分の、少なくとも2種の芳香族ジカルボン酸成分が用いられる。ここで、各芳香族ジカルボン酸成分の含有量は、ジカルボン酸成分の全モル数を基準とする含有量である。
【0021】
【化4】

(式(A)中、Rは炭素数3〜6のアルキレン基を表わす)
【化5】

(式(B)中、Rはナフタレンジイル基を表わす)
【0022】
式(A)で表される成分について、式中、Rは炭素数3〜6のアルキレン基である。かかるアルキレン基として、トリメチレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0023】
式(A)で表される成分の含有量の下限値は、好ましくは7モル%、より好ましくは10モル%、さらに好ましくは15モル%である。また、式(A)で表される成分の含有量の上限値は、好ましくは45モル%、より好ましくは40モル%、さらに好ましくは35モル%である。従って、式(A)で表される成分の含有量は、好ましくは5モル%以上45モル%以下、より好ましくは7モル%以上40モル%以下、さらに好ましくは10モル%以上35モル%以下、特に好ましくは15モル%以上30モル%以下である。
【0024】
式(A)で表される成分は、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(テトラメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸および6,6’−(ヘキサメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が好ましく、これらの中でも6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が好ましい。
【0025】
かかる芳香族ポリエステル(I)は、ジカルボン酸成分が5モル%以上50モル%以下の式(A)で表される成分を含有することを特徴とする。式(A)で示される成分の割合が下限値に満たない場合は、延伸によるY方向の屈折率の低下が生じないため、延伸フィルムにおけるY方向の屈折率nとZ方向の屈折率nの差異が大きくなり、斜め方向の入射角で入射した偏光による色相ずれが改善し難い。また、式(A)で示される成分の割合が上限値を超える場合は、非晶性の特性が大きくなり、延伸フィルムにおけるX方向の屈折率nとY方向の屈折率nとの差異が小さくなるため、反射偏光フィルムとして十分な性能を発揮しない。
【0026】
このように、式(A)で表される成分を含有するポリエステルを用いることで、反射偏光フィルムとしての偏光性能を従来より高めつつ、斜め方向の入射角による色相ずれも生じない多層延伸フィルムを製造することができる。
また、式(B)で表される成分について、式中、Rはナフタレンジイル基である。
式(B)で表される成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特に2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0027】
式(B)で表される成分の含有量の下限値は、好ましくは55モル%、より好ましくは60モル%、さらに好ましくは65モル%である。また、式(B)で表される成分の含有量の上限値は、好ましくは93モル%、より好ましくは90モル%、さらに好ましくは85モル%である。従って、式(B)で表される成分の含有量は、好ましくは55モル%以上95モル%以下、より好ましくは60モル%以上93モル%以下、さらに好ましくは65モル%以上90モル%以下、特に好ましくは70モル%以上85モル%以下である。
【0028】
式(B)で示される成分の割合が下限値に満たない場合は、非晶性の特性が大きくなり、延伸フィルムにおけるX方向の屈折率nとY方向の屈折率nとの差異が小さくなるため、反射偏光フィルムとして十分な性能を発揮しない。また、式(B)で示される成分の割合が上限値を超える場合は、式(A)で示される成分の割合が相対的に少なくなるため、延伸フィルムにおけるY方向の屈折率nとZ方向の屈折率nの差異が大きくなり、斜め方向の入射角で入射した偏光による色相ずれが改善し難い。
このように、式(B)で表される成分を含有するポリエステルを用いることで、X方向に高屈折率を示すと同時に1軸配向性の高い複屈折率特性を実現できる。
【0029】
(ジオール成分)
本発明の芳香族ポリエステル(I)を構成するジオール成分(ii)として、90モル%以上100モル%以下の下記式(C)で表されるジオール成分が用いられる。ここで、ジオール成分の含有量は、ジオール成分の全モル数を基準とする含有量である。
【0030】
【化6】

(式(C)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表わす)
【0031】
式(C)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基であり、例えばエチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。式(C)で表されるジオール成分としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール等が好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。
式(C)で表されるジオール成分の含有量は、好ましくは95モル%以上100モル%以下、より好ましくは98モル%以上100モル%以下である。式(C)で示されるジオール成分の割合が下限値に満たない場合は、前述の1軸配向性が損なわれる。
【0032】
(芳香族ポリエステル(I))
芳香族ポリエステル(I)において、式(A)で表される成分と式(C)で表されるジオール成分で形成される繰り返し単位((A)−(C))の含有量は、全繰り返し単位の5モル%以上50モル%以下であり、好ましくは5モル%以上45モル%以下、さらに好ましくは10モル%以上40モル%以下である。
【0033】
芳香族ポリエステル(I)を構成する他のエステル単位として、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのアルキレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が挙げられる。これらの中でも高屈折率性などの点からエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましい。
【0034】
芳香族ポリエステル(I)として、特に、式(A)で表されるジカルボン酸成分が6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸であり、式(B)で表されるジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、ジオール成分がエチレングリコールであるポリエステルが好ましい。
【0035】
芳香族ポリエステル(I)は、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.4〜1.5dl/g、特に好ましくは0.5〜1.2dl/gである。
【0036】
一般的に共重合体は単独重合体に比べて融点が低く、機械的強度が低下する傾向にある。しかし、本発明のポリエステルは、酸成分として式(A)の成分および式(B)の成分を含有する共重合体であり、式(A)の成分のみを有する単独重合体に比べて融点が低いものの機械的強度は同程度であるという優れた特性を有する。
【0037】
芳香族ポリエステル(I)のガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜118℃、さらに好ましくは85〜118℃の範囲にある。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムが得られる。かかる融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
かかる芳香族ポリエステル(I)の製造方法は、例えばWO2008/153188号パンフレットの第9頁に記載されている方法に準じて製造することができる。
【0038】
(第1層の厚み)
本発明の第1層は、各層の厚みが0.01μm以上0.5μm以下の層である。第1の層の厚みがかかる範囲にあることにより、層間の光干渉によって選択的に光を反射することが可能となる。
【0039】
(第1層の屈折率)
芳香族ポリエステル(I)を1軸延伸した場合、X方向の屈折率nは延伸により増加する方向にあり、Y方向の屈折率nとZ方向の屈折率nはともに延伸に伴い低下する方向にあり、しかも延伸倍率によらずnとnの屈折率差が非常に小さいことを特徴としている。
【0040】
また第1層は、かかる特定の共重合成分を含む芳香族ポリエステル(I)を用いて1軸延伸を施すことにより、X方向の屈折率nが1.70〜1.90の高屈折率特性を有する。第1層におけるX方向の屈折率がかかる範囲にあることにより、第2層との屈折率差が大きくなり、十分な反射偏光性能を発揮することができる。
【0041】
またY方向の1軸延伸後の屈折率nとZ方向の1軸延伸後の屈折率nの屈折率差は、具体的には0.05以下であり、好ましくは0.03以下、特に好ましくは0.01以下である。これら2方向の屈折率差が非常に小さいことにより、偏光光が斜め方向の入射角で入射しても色相ずれが生じない効果を奏する。
【0042】
芳香族ポリエステル(I)が1軸延伸により上述のような屈折率特性を発現するメカニズムとして、延伸によるX方向の高屈折率化には芳香族成分である式(A)で表される成分と式(B)で表される成分が主として影響する。また延伸によるY方向の屈折率低下については、式(A)で表される成分が主として影響し、式(A)で表される成分に含まれる2つの芳香環がアルキレン鎖を介してエーテル結合でつながっている分子構造であるため、1軸延伸したときにこれら芳香環が面方向でない方向に回転しやすくなり、第1層のY方向の屈折率特性が発現していると考えられる。なお、本発明における芳香族ポリエステル(I)のジオール成分は脂肪族成分であるため、ジオール成分が第1層の屈折率特性に与える影響は上述のジカルボン酸成分に較べて小さい。
【0043】
一方、第1層を構成するポリエステルがポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの場合、1軸方向の延伸倍率によらず、Y方向の屈折率nは一定で低下がみられないのに対し、Z方向の屈折率nは1軸延伸倍率の増加に伴い屈折率が低下する。そのため、Y方向の屈折率nとZ方向の屈折率nの差が大きくなり、偏光光が斜め方向の入射角で入射した際に色相ずれが生じやすくなる。
【0044】
[第2層]
(共重合ポリエステル)
本発明において第2層は、1軸延伸における製膜性の観点から、ポリエステルを構成する全繰り返し単位を基準として共重量が5〜50モル%、好ましくは10〜40モル%の共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、共重合ポリエステルと称することがある。)である。好ましく用いられる共重合成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸といった脂環族ジカルボン酸等の酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールといった脂環族ジオール等のグリコール成分を好ましく挙げることができる。なかでもイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、または、シクロヘキサンジメタノールを共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、これら以外の共重合成分を含む場合には、その共重合量は10モル%以下であることが好ましい。これらの共重合成分の中から、第1層のY方向の屈折率に合わせて第2層の共重合ポリエステルの共重合成分の種類および共重合量を適宜調整することが好ましい。
なお、第2層を構成する共重合ポリエステルは、例えばフィルムにする段階で2種以上のポリエステルを溶融混練してエステル交換させたものであってもよい。
【0045】
かかる共重合ポリエステルからなる第2層は、平均屈折率1.55以上1.65以下でかつ光学等方性を有する。ここで平均屈折率とは、第2層を構成する共重合ポリエチレンテレフタレートを単独で溶融させ、ダイより押出して未延伸フィルムを作成し、多層延伸フィルムの製膜条件と同一条件で製膜して得られたフィルムのX方向、Y方向、Z方向それぞれの方向における屈折率について、メトリコン製プリズムカプラを用いて波長633nmで測定し、それらの平均値を平均屈折率として規定したものである。また、光学等方性とは、これらX方向、Y方向、Z方向の屈折率の2方向間の屈折率差がいずれも0.05以下、好ましくは0.03以下であることをいう。
【0046】
第2層を構成する共重合ポリエステルの平均屈折率は、好ましくは1.56以上1.63以下である。第2層がかかる平均屈折率を有し、しかも光学等方性材料であることにより、第1層と第2層の層間におけるX方向の屈折率差が大きく、かつY方向の屈折率差およびZ方向の屈折率差が共に極めて小さい屈折率特性を得ることができ、その結果、偏光性能と斜め方向の入射角よる色相ずれの両立が可能となる。
【0047】
(第2層の厚み)
本発明の第2層は、各層の厚みが0.01μm以上0.5μm以下の層である。第2の層の厚みがかかる範囲にあることにより、層間の光干渉によって選択的に光を反射することが可能となる。
【0048】
(第1層と第2層の屈折率差)
第1層と第2層のX方向(フィルム面内における1軸延伸方向)の屈折率差は0.10〜0.45であることが必要であり、好ましくは0.20〜0.40、特に好ましくは0.25〜0.30である。X方向の屈折率差がかかる範囲にあることにより、反射特性を効率よく高めることができるため、より少ない積層数で高い反射率を得ることができる。
【0049】
フィルム面内で1軸延伸方向に直交する方向(Y方向)における第1層と第2層との屈折率差、およびフィルム厚み方向(Z方向)における第1層と第2層との屈折率差は、それぞれ0.05以下である。また、Y方向における第1層と第2層との屈折率差は、好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.01以下である。また、Z方向における第1層と第2層との屈折率差は、好ましくは0.04以下、さらに好ましくは0.03以下、特に好ましくは0.02以下である。
【0050】
[樹脂以外の成分]
本発明の多層延伸フィルムは、フィルムの巻取り性を向上させるために、少なくとも一方の最外層に平均粒径が0.01μm〜2μmの不活性粒子を、層の重量を基準として0.001重量%〜0.5重量%含有することが好ましい。不活性粒子の平均粒径が下限値よりも小さいか、含有量が下限値よりも少ないと、多層延伸フィルムの巻取り性を向上させる効果が不十分になりやすく、他方、不活性粒子の含有量が上限値を超えるか、平均粒径が上限値を超えると、粒子による多層延伸フィルムの光学特性の悪化が顕著になることがある。好ましい不活性粒子の平均粒径は、0.02μm〜1μm、特に好ましくは0.1μm〜0.3μmの範囲である。また、好ましい不活性粒子の含有量は、0.02重量%〜0.2重量%の範囲である。
【0051】
多層延伸フィルムに含有させる不活性粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、カオリン、タルクのような無機不活性粒子、シリコーン、架橋ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体のような有機不活性粒子を挙げることができる。粒子形状は、凝集状、球状など一般的に用いられる形状であれば特に限定されない。
【0052】
不活性粒子は、最外層のみならず、最外層と同じ樹脂で構成される層中に含まれていてもよく、例えば第1層または第2層の少なくとも一方の層中に含まれていてもよい。または、第1層、第2層と異なる別の層を最外層として設けてもよく、またヒートシール層を設ける場合は該ヒートシール層中に不活性粒子が含まれていてもよい。
【0053】
[積層構成]
(積層数)
本発明の多層延伸フィルムは、上述の第1層および第2層を交互に合計251層以上積層したものである。積層数が251層未満であると、延伸方向を含む入射面に対して平行な偏光成分の平均反射率特性について、波長400〜800nmにわたり一定の平均反射率を満足することができない。
かかる積層数はかかる範囲内であれば特に限定されないが、積層数が増えるに従い、反射軸方向に平行な偏光についてより高い反射率が得られ、好ましくは301層以上、より好ましくは401層以上、さらに好ましくは501層以上である。
【0054】
また、501層以上の積層数の多層延伸フィルムを得るためのより好ましい方法として、300層以下の範囲で交互積層状態の溶融物を得、かかる層構成を保持したまま、積層方向と垂直方向に1:1の比率になるように分割し、積層数(ダブリング数)が2〜4倍になるように再度積層する方法で積層数を増やすことができる。
積層数の上限値は、生産性およびフィルムのハンドリング性など観点から2001層に制限される。積層数の上限値は、本発明の平均反射率特性が得られれば生産性やハンドリング性の観点からさらに積層数を減らしてもよく、例えば1001層、901層であってもよい。
【0055】
(各層厚み)
第1層および第2層は、層間の光干渉によって選択的に光を反射するために、各層の厚みは0.01μm以上0.5μm以下である。各層の厚みは透過型電子顕微鏡を用いて撮影した写真をもとに求めることができる。
本発明の多層延伸フィルムが示す反射波長帯は、可視光域から近赤外線領域であることから、上記層厚の範囲とすることが必要である。層厚みが0.5μmを超えると反射帯域が赤外線領域になり、反射偏光フィルムとして有用性が得られない。一方、層厚みが0.01μm未満であると、ポリエステル成分が光を吸収し反射性能が得られなくなる。
第1層の各層の厚みは、好ましくは0.01μm以上0.1μm以下である。また第2層の各層の厚みは、好ましくは0.01μm以上0.3μm以下である。
【0056】
(最大層厚みと最小層厚みの比率)
本発明の多層延伸フィルムは、第1層および第2層におけるそれぞれの最大層厚みと最小層厚みの比率がいずれも2.0以上5.0以下であり、好ましくは2.0以上4.0以下、より好ましくは2.0以上3.5以下、さらに好ましくは2.0以上3.0以下である。
すなわち、第1層における最大層厚みと最小層厚みの比率が2.0以上5.0以下であり、かつ第2層における最大層厚みと最小層厚みの比率が2.0以上5.0以下である。
【0057】
例えば、第1層が126層あり第2層が125層ある多層延伸フィルムにおいて、第1層の最大層厚みとは、126層ある第1層の中で最も厚みの大きい層の厚みのことである。第1層の最小層厚みとは、126層ある第1層の中で最も厚みの小さい層の厚みのことである。
かかる層厚みの比率は、具体的には最小層厚みに対する最大層厚みの比率で表わされる。第1層、第2層におけるそれぞれの最大層厚みと最小層厚みは、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した写真をもとに求めることができる。
【0058】
多層延伸フィルムは、層間の屈折率差、層数、層の厚みによって反射する波長が決まるが、積層された第1層および第2層のそれぞれが一定の厚みでは、特定の波長のみしか反射することができず、延伸方向(X方向)を含む入射面に対して平行な偏光成分の平均反射率特性について、波長400〜800nmの幅広い波長帯にわたって均一に平均反射率を高めることができない。また、最大層厚みと最小層厚みの比率が上限値を超える場合は、反射帯域が広がりすぎ、延伸方向(X方向)を含む入射面に対して平行な偏光成分の反射率が低下する。
第1層および第2層は、段階的に変化してもよく、連続的に変化してもよい。このように積層された第1層および第2層のそれぞれが変化することで、より広い波長域の光を反射することができる。
【0059】
本発明の多層延伸フィルムの積層方法は特に限定されないが、例えば、第1層用ポリエステルを138層、第2層用共重合ポリエステルを137層に分岐させた、第1層と第2層が交互に積層され、その流路が連続的に2.0〜5.0倍までに変化する多層フィードブロック装置を使用する方法が挙げられる。
【0060】
(第1層と第2層の平均層厚み比)
本発明の多層延伸フィルムは、第1層の平均層厚みに対する第2層の平均層厚みの比が1.5倍以上5.0倍以下の範囲であることが好ましい。第1層の平均層厚みに対する第2層の平均層厚みの比の下限値は、より好ましくは2.0である。また、第1層の平均層厚みに対する第2層の平均層厚みの比の上限値は、より好ましくは4.0であり、さらに好ましくは3.5である。
【0061】
第1層の平均層厚みに対する第2層の平均層厚みの比がかかる範囲にあることにより、反射波長の半波長で生じる2次反射を有効に利用できるため、第1層および第2層それぞれの最大層厚みと最小層厚みの比率を最小限に抑えることができ、光学特性の観点から好ましい。また、このように第1層と第2層の厚み比を変化させることにより、層間の密着性を維持したまま、また使用する樹脂を変更することなく、得られたフィルムの機械特性も調整することができ、フィルムが裂けにくくなる効果も有する。
一方、第1層の平均層厚みに対する第2層の平均層厚みの比がかかる範囲からはずれる場合、反射波長の半波長で生じる2次反射が小さくなってしまい、反射率が低下することがある。
【0062】
(厚み調整層)
本発明の多層延伸フィルムは、かかる第1層、第2層以外に、層厚みが2μm以上の厚み調整層を第1層と第2層の交互積層構成の一部に有していてもよい。かかる厚みの厚み調整層を第1層と第2層の交互積層構成の一部に有することにより、偏光機能に影響を及ぼすことなく、第1層および第2層を構成する各層厚みを均一に調整しやすくなる。かかる厚みの厚み調整層は、第1層、第2層のいずれかと同じ組成、またはこれらの組成を部分的に含む組成であってもよく、層厚みが厚いため、反射特性には寄与しない。一方、透過する偏光光には影響することがあるため、層中に粒子を含める場合は既述の粒子濃度の範囲内であることが好ましい。
【0063】
[1軸延伸フィルム]
本発明の多層延伸フィルムは、目的とする反射偏光フィルムとしての光学特性を満足するために、少なくとも1軸方向に延伸されている。本発明における1軸延伸には、1軸方向にのみ延伸したフィルムの他、2軸方向に延伸されたフィルムであって、一方向に、より延伸されたフィルムも含まれる。1軸延伸方向(X方向)は、フィルム長手方向、幅方向のいずれの方向であってもよい。また、2軸方向に延伸されたフィルムであって、一方向により延伸されたフィルムの場合は、より延伸される方向(X方向)はフィルム長手方向、幅方向のいずれの方向であってもよく、延伸倍率の低い方向は、1.05〜1.20倍程度の延伸倍率にとどめることが偏光性能を高める点で好ましい。2軸方向に延伸され、一方向により延伸されたフィルムの場合、偏光光や屈折率との関係での「延伸方向」とは、2軸方向のうちのより延伸された方向を指す。
延伸方法としては、棒状ヒータによる加熱延伸、ロール加熱延伸、テンター延伸など公知の延伸方法を用いることができるが、ロールとの接触によるキズの低減や延伸速度などの観点から、テンター延伸が好ましい。
【0064】
[フィルム厚み]
本発明の多層延伸フィルムは、フィルム厚みが15μm以上150μm以下であることが好ましく、より好ましくは25μm以上100μm以下、さらに好ましくは30μm以上80μm以下である。
【0065】
[平均反射率]
本発明の多層延伸フィルムは、フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して平行な偏光成分について入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ90%以上である。
またフィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して垂直な偏光成分について、入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ15%以下である。
ここで、入射面とは反射面と垂直の関係にあり、かつ入射光線と反射光線を含む面を指す。また、フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して平行な偏光成分は、一般的にP偏光とも称される。また、フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して垂直な偏光成分は、一般的にS偏光とも称される。さらに入射角とは、フィルム面の垂直方向に対する入射角を表す。
【0066】
フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して平行な偏光成分(P偏光)について、入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率は、さらに好ましくは95%以上100%以下であり、特に好ましくは97%以上100%以下である。
かかる入射角でのP偏光成分に対する波長400〜800nmの平均反射率が下限値に満たない場合、反射偏光フィルムとしての偏光反射性能はもとより、反射した光の色相ずれが生じ、ディスプレイとした場合に着色が生じる。また、かかる範囲内でより該平均反射率が高い方がより偏光反射性能が高まる。
P偏光成分に対するこのような高い平均反射率特性を有し、さらにS偏光成分に対して後述する反射率特性をも備えることにより、本発明の液晶ディスプレイ装置の第1態様における輝度向上用部材として好適に用いることができる。
【0067】
また、かかる平均反射率の範囲において、P偏光成分に対する平均反射率がさらに入射角0度および50度に対して95%以上であることにより、P偏光の透過量を従来よりも抑え、S偏光を選択的に透過させる高い偏光性能が発現され、従来の吸収型偏光板に匹敵する高い偏光性能が得られ、本発明の液晶ディスプレイ装置の第2態様のように、単独で液晶セルと貼り合せる偏光板として用いることができる。同時に、透過軸と直交方向のP偏光がフィルムに吸収されずに高度に反射されることにより、かかる光を再利用させる輝度向上フィルムとしての機能も兼ね備えることができる。また、入射角50度でのP偏光についても平均反射率がこのように高いことにより、高い偏光性能が得られるとともに、斜め方向に入射した光の透過が高度に抑制されるため、かかる光による色相ずれが抑制される。
【0068】
フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して垂直な偏光成分(S偏光)について入射角0度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率は、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは5%以上12%以下であり、特に好ましくは8%以上12%以下である。
また、フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して垂直な偏光成分について入射角50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率は、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは5%以上12%以下であり、特に好ましくは8%以上12%以下である。
かかる入射角でのS偏光成分に対する波長400〜800nmの平均反射率が上限値を越える場合、反射偏光フィルムとしての偏光透過率が低下するため、液晶ディスプレイなどの輝度向上フィルムや液晶セルに貼り合せる偏光板としての十分な性能を発現しない。
【0069】
一方、かかる範囲内でより該偏光反射率が低い方がよりS偏光成分の透過率が高くなるものの、下限値より低くすることは組成や延伸との関係で難しいことがある。特に、上述のP偏光に対する高い平均反射率とともに、S偏光に対する反射率が12%以下になると、光源と反対側に透過されるS偏光量の増大により、従来の吸収型偏光板に匹敵する高い偏光性能が得られ、本発明の液晶ディスプレイ装置の第2態様のように、単独で液晶セルと貼り合せる偏光板として好適に用いることができる。
かかるP偏光成分についての平均反射率特性を得るためには、各層厚み、積層数に加え、第1層および第2層を構成するポリマー成分として上述の特性を有するポリマーを用い、かつ延伸方向(X方向)に一定の延伸倍率で延伸して第1層のフィルム面内方向を複屈折率化させることにより、延伸方向(X方向)における第1層と第2層の屈折率差を大きくすることによって達成される。
【0070】
また、S偏光成分についての平均反射率特性を得るためには、第1層および第2層を構成するポリマー成分として上述の特性を有するポリマーを用い、かつ該延伸方向と直交する方向(Y方向)に延伸しないか、低延伸倍率での延伸にとどめることにより、該直交方向(Y方向)における第1層と第2層の屈折率差を極めて小さくすることによって達成される。
【0071】
(第1層の屈折率特性)
第1層のポリエステルのX方向における屈折率nは、延伸により0.15以上増大することが好ましい。該屈折率の変化がより大きい方が偏光性能を高めることができるが、延伸倍率が高すぎるとフィルム破断が生じる関係で、上限値は0.35に制限され、さらには0.30である。
【0072】
第1層のポリエステルのY方向における屈折率nは、延伸により0.05以上0.15以下の範囲で低下することが好ましく、より好ましくは0.06以上0.15以下、さらに好ましくは0.06以上0.10以下である。該屈折率の低下量が下限値に満たない場合は、Y方向の層間屈折率が一致するように両層の樹脂を選択すると、X方向の層間の屈折率差を大きくするに伴いZ方向の層間の屈折率のずれが大きくなり、偏光性能の向上と斜め方向の入射光に対する透過偏光の色相ずれの両立化が困難であることがある。一方、該屈折率の低下量が上限値を超える場合は、配向性が高すぎて、機械的な強度が十分でないことがある。
【0073】
第1層のポリエステルのZ方向における屈折率nは、延伸により0.05以上0.15以下の範囲で低下することが好ましく、より好ましくは0.06以上0.15以下、さらに好ましくは0.06以上0.10以下である。該屈折率の低下量を下限値に満たない範囲にするためにはX方向を低配向にせざるを得ず、X方向の層間の屈折率差を十分に大きくすることができないことがある。一方、該屈折率の低下量が上限値を超える場合は、配向性が高すぎて、機械的な強度が十分でないことがある。
【0074】
第1層の延伸後のY方向屈折率nと延伸後のZ方向屈折率nの屈折率差は、0.05以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.03以下、特に好ましくは0.01以下である。これら2方向の屈折率差が非常に小さいことにより、偏光光が斜め方向の入射角で入射しても色相ずれが生じない効果を奏する。かかる偏光光は特に、フィルム面を反射面とし、1軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を含む入射面に対して垂直な偏光成分(S偏光)についての色相ずれの解消に効果的である。
【0075】
[色相]
本発明における多層延伸フィルムは、斜め方向の入射光に対する色相の変化量が小さいことが好ましく、具体的には、JIS規格Z8729に準じてCIE表色系におけるx、y値の少なくとも一方について0〜80度視野での最大変化量が0.03未満であることが好ましく、さらにx,yの両方ともに最大変化が0.03未満であることが好ましい。かかる範囲を超える最大変化量の場合、斜め方向の入射角による透過偏光の色相ずれが大きく、輝度向上フィルムとして用いた場合に高視野角での色相ずれが大きくなり、視認性が低下することがある。
色相変化量をかかる範囲にするためには、第1層、第2層を構成するポリマーとしてそれぞれ上述の特定のポリエステルを用い、延伸により上述のX方向、Y方向、Z方向の屈折率の関係にすることにより達成される。
【0076】
[ヒートシール層]
本発明の多層延伸フィルムは、第1層と第2層との交互積層の少なくとも一方の最外層面上にさらにヒートシール層(以下、保護層と称することがある)を設けることができる。ヒートシール層を有することにより、例えば液晶ディスプレイの部材として他の部材と積層させる際に、加熱処理により、ヒートシール層を介して部材同士を貼り合せることができる。
【0077】
かかるヒートシール層として、該交互積層の最外層の融点と同程度か該融点以下の熱可塑性樹脂を用いることが好ましいが、交互積層と同時に形成できる利点として、第2層と同じ共重合ポリエステルを用いることが好ましい。さらに、該共重合ポリエステルが非晶性で融点を示さないか、融点を有する場合は融点が第1層のポリエステルの融点より20℃以上低く、かつ厚み3〜10μmの層であることが好ましい。かかる特性の層を設けることにより、部材同士を強固に接着することができる。
なお、前述の厚み調整層を交互積層の最外層面上に設ける場合、上述の特性を備えている場合はヒートシール層としても機能する。また、前述の厚み調整層が交互積層の最外層面に存在する場合、厚み調整層上にさらにヒートシール層を設けてもよい。
【0078】
ヒートシール層として第2層と同じ共重合ポリエステルを用いる場合、かかるヒートシール層は層厚みが3〜10μmであり、このような交互積層を構成する層の最大厚みである0.5μmに比して4倍以上の厚みの層は、波長400〜800nmの波長帯での反射率に寄与しない層であり、第1層と第2層の交互積層とは区別される。また、ヒートシール層としての特性を損なわない範囲で、第1層および第2層のブレンド物を使用しても問題ない。
【0079】
[輝度向上用部材]
本発明の多層延伸フィルムは、P偏光成分を選択的に高反射し、該偏光成分と垂直方向のS偏光成分を選択的に高透過させ、かつ斜め方向に入射した光についての透過偏光の色相ずれが解消される。そのため、液晶ディスプレイの輝度向上フィルムとして好適に使用することができ、加工して輝度向上用部材にすることができる。特に従来よりも高い偏光性能を有することから、輝度向上用部材として用いた場合に高い輝度向上率が得られ、かつ高視野角で色相ずれの少ない視認性に優れた液晶ディスプレイを提供することができる。
【0080】
[液晶ディスプレイ用複合部材]
本発明の多層延伸フィルムを用いて作成された輝度向上用部材は、さらにその少なくとも一方の面に光拡散フィルムを積層し、液晶ディスプレイ用複合部材として使用されることが好ましい。また、輝度向上用部材と光拡散フィルムとはヒートシール層を介して貼り合せて積層されることが好ましい。
また、本発明の液晶ディスプレイ用複合部材は、輝度向上用部材の両方の面に光拡散フィルムを積層する態様が好ましい。光拡散フィルムを輝度向上用部材の表層に設けることにより、耐熱寸法安定性が向上することに加え、輝度の均一性が向上する。
【0081】
[輝度向上用部材を含む液晶ディスプレイ装置]
本発明の多層延伸フィルムを輝度向上用部材として用いる場合、図1に示すような第1態様の構成で液晶ディスプレイ装置に用いることができる。
具体的には、液晶ディスプレイの光源5と、偏光板1/液晶セル2/偏光板3で構成される液晶パネル6との間に輝度向上用部材4を配置する態様の液晶ディスプレイ装置が例示される。
【0082】
[液晶セル貼合せ用反射偏光板]
本発明の多層延伸フィルムは、液晶セルと貼り合せる反射偏光板として用いることができる。
具体的には、本発明の多層延伸フィルムのうち、P偏光成分について入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ95%以上であり、S偏光成分について、入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ12%以下である多層延伸フィルムを、液晶セルと貼り合せる反射偏光板として用いることができる。
かかる反射率特性を有する偏光板は、従来の吸収型偏光板に匹敵する高い偏光性能と、透過されない偏光光を反射させて再利用する輝度向上フィルムとしての機能とを備え、しかも斜め方向に入射した光に対する透過光の色相ずれが解消される。
【0083】
[液晶ディスプレイ装置用光学部材]
本発明には、本発明の多層延伸フィルムからなる第1の偏光板、液晶セルおよび第2の偏光板がこの順で積層された液晶ディスプレイ装置用光学部材も発明の一態様として含まれる(本発明において、液晶ディスプレイ装置の第2態様と称することがある)。かかる光学部材は、液晶パネルとも称される。かかる光学部材は図2における11に相当し、第1の偏光板は9、液晶セルは8、第2の偏光板は7に相当する。
【0084】
従来は液晶セルの両側の偏光板として、吸収型偏光板を少なくとも有することにより、高い偏光性能が得られていたところ、本発明の多層延伸フィルムを用いた偏光板であれば、従来の多層延伸フィルムでは到達できなかった高偏光性能が得られるため、従来の吸収型偏光板に代えて液晶セルと貼り合せて用いることができるものである。
すなわち、本発明の特徴は、第1の偏光板として本発明の多層延伸フィルムからなる偏光板を液晶セルの一方において単独で用いることにある。本発明の多層延伸フィルムを複数積層して第1の偏光板としてもよい。本発明の多層延伸フィルムを他のフィルムと積層した積層体を第1の偏光板として用いてもよいが、好ましくは本発明の多層延伸フィルムと吸収型偏光板とが積層された構成は除かれる。
液晶セルの種類は特に限定されず、VAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)など、任意のタイプのものを用いることができる。
【0085】
また、第2の偏光板の種類は特に限定されず、吸収型偏光板、反射型偏光板のいずれも用いることができる。第2の偏光板として反射型偏光板を用いる場合、本発明の多層延伸フィルムからなる反射偏光板を用いることが好ましい。
本発明の液晶ディスプレイ装置用光学部材は、第1の偏光板、液晶セル、および第2の偏光板がこの順で積層されることが好ましく、これらの各部材同士は直接積層されてもよく、また粘着層や接着層と称される層間の接着性を高める層(以下、粘着層と称することがある)、保護層などを介して積層されてもよい。
【0086】
[液晶ディスプレイ装置用光学部材の形成]
液晶セルに偏光板を配置する方法としては、両者を粘着層によって積層することが好ましい。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤のように透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を有し、耐候性や耐熱性等に優れるものが好ましい。また、粘着層は異なる組成又は種類の層を複数設けてもよい。
液晶セルと偏光板とを積層する際の作業性の観点において、粘着層は、予め偏光板、あるいは液晶セルの一方または両方に付設しておくことが好ましい。粘着層の厚みは、使用目的や接着力等に応じて適宜決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0087】
(離型フィルム)
また、粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的として離型フィルム(セパレータ)が仮着されてカバーされることが好ましい。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。離型フィルムとしては、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体などを、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデンなどの剥離剤でコート処理したものを用いうる。
【0088】
[液晶セル貼合せ用反射偏光板を含む液晶ディスプレイ装置]
本発明には、光源と本発明の液晶ディスプレイ装置用光学部材とを備え、第1の偏光板が光源側に配置されてなる液晶ディスプレイ装置も発明の一態様として含まれる。
図2に本発明の第2態様である液晶ディスプレイ装置の概略断面図を示す。液晶ディスプレイ装置は光源10および液晶パネル11を有し、さらに必要に応じて駆動回路等を組込んだものである。液晶パネル11は、液晶セル8の光源10側に第1の偏光板9を備える。また、液晶セル8の光源側と反対側、すなわち、視認側に第2の偏光板7を備えている。液晶セル8としては、例えばVAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)などの任意なタイプのものを用いうる。
【0089】
本発明の液晶ディスプレイ装置は、液晶セル8の光源側に、高偏光性能を有する本発明の液晶セル貼合せ用反射偏光板からなる第1の偏光板9を配置することによって、従来の吸収型偏光板に代えて液晶セルと貼り合せて用いることができる。
【0090】
本発明の偏光板は、従来の吸収型偏光板に匹敵する高い偏光性能と、透過されない偏光光を反射させて再利用する輝度向上フィルムとしての機能とを備えるため、光源10と第1の偏光板9との間にさらに輝度向上フィルムとよばれる反射型偏光板を用いる必要がなく、輝度向上フィルムと液晶セルに貼り合せる偏光板の機能を一体化させることができるため、部材数を減らすことができる。
【0091】
さらに本発明の液晶ディスプレイ装置は、第1の偏光板として本発明の偏光板を用いることにより、斜め方向に入射した光についても、斜め方向に入射したP偏光成分をほとんど透過させず、同時に斜め方向に入射したS偏光成分については反射を抑えて透過させるため、斜め方向に入射した光に対する透過光の色相ずれが抑制される特徴を有する。そのため、液晶ディスプレイ装置として投射した映像のカラーのままで視認できる。
【0092】
また、通常は図2に示すように、液晶セル8の視認側に第2の偏光板7が配置される。第2の偏光板7は特に制限されず、吸収型偏光板など公知のものを用いることができる。外光の影響が非常に少ない場合には、第2の偏光板として第1の偏光板と同じ種類の反射型偏光板を用いてもかまわない。また、液晶セル8の視認側には、第2の偏光板以外にも、例えば光学補償フィルム等の各種の光学層を設けることができる。
【0093】
[液晶セル貼合せ用反射偏光板を含む液晶ディスプレイ装置の形成]
本発明の液晶ディスプレイ装置用光学部材(液晶パネル)と光源とを組合せ、さらに必要に応じて駆動回路等を組込むことによって本発明の第2態様の液晶ディスプレイ装置が得られる。また、これら以外にも液晶ディスプレイ装置の形成に必要な各種部材を組合せることができるが、本発明の液晶ディスプレイ装置は光源から射出される光を第1の偏光板に入射させるものであることが好ましい。
【0094】
一般に液晶ディスプレイ装置の光源は、直下方式とサイドライト方式に大別されるが、本発明の液晶ディスプレイ装置においては、方式の限定なく使用可能である。
このようにして得られた液晶ディスプレイ装置は、例えば、パソコンモニター,ノートパソコン,コピー機等のOA機器、携帯電話,時計,デジタルカメラ,携帯情報端末(PDA),携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ,テレビ,電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター,カーナビゲーションシステム用モニター,カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター,医療用モニター等の介護・医療機器等、種々の用途に用いることができる。
【0095】
[多層延伸フィルムの製造方法]
つぎに、本発明の多層延伸フィルムの製造方法について詳述する。
本発明の多層延伸フィルムは、第1層を構成するポリエステルと第2層を構成する共重合ポリエステルとを溶融状態で交互に少なくとも251層以上重ね合わせた状態で押出し、多層未延伸フィルム(シート状物とする工程)とする。このとき、積層された251層以上の積層物は、各層の厚みが段階的または連続的に2.0倍〜5.0倍の範囲で変化するように積層される。
【0096】
このようにして得られた多層未延伸フィルムは、製膜方向、またはそれに直交する幅方向の少なくとも1軸方向(フィルム面に沿った方向)に延伸される。延伸温度は、第1層のポリエステルのガラス転移点の温度(Tg)〜Tg+50℃の範囲が好ましい。このときの延伸倍率は2〜10倍であることが好ましく、さらに好ましくは2.5〜7倍、さらに好ましくは3〜6倍、特に好ましくは4.5〜5.5倍である。延伸倍率が大きい程、第1層および第2層における個々の層の面方向のバラツキが、延伸による薄層化により小さくなり、多層延伸フィルムの光干渉が面方向に均一になり、また第1層と第2層の延伸方向の屈折率差が大きくなるので好ましい。このときの延伸方法は、棒状ヒータによる加熱延伸、ロール加熱延伸、テンター延伸など公知の延伸方法を用いることができるが、ロールとの接触によるキズの低減や延伸速度などの観点から、テンター延伸が好ましい。また、かかる延伸方向と直交する方向(Y方向)にも延伸処理を施し、2軸延伸を行う場合は、1.05〜1.20倍程度の延伸倍率にとどめることが好ましい。Y方向の延伸倍率をこれ以上高くすると、偏光性能が低下することがある。また、延伸後にさらに熱固定処理を施すことが好ましい。
【実施例】
【0097】
実施例をもって、本発明をさらに説明する。なお、実施例中の物性や特性は、下記の方法にて測定または評価した。
【0098】
(1)ポリエステルおよびフィルムの融点(Tm)およびガラス転移点(Tg)
ポリエステル試料またはフィルムサンプルを10mgサンプリングし、DSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:DSC2920)を用い、20℃/minの昇温速度で、融点およびガラス転移点を測定する。
【0099】
(2)樹脂の特定ならびに共重合成分および各成分量の特定
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定より樹脂の成分ならびに共重合成分および各成分量を特定した。
【0100】
(3)各層の厚み
フィルムサンプルをフィルム長手方向2mm、幅方向2cmに切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂(リファインテック(株)製エポマウント)にて包埋した。包埋されたサンプルをミクロトーム(LEICA製ULTRACUT UCT)で幅方向に垂直に切断し、5nm厚の薄膜切片にした。透過型電子顕微鏡(日立S−4300)を用いて加速電圧100kVにて観察撮影し、写真から各層の厚みを測定した。
また、得られた各層の厚みをもとに、第1層における最小層厚みに対する最大層厚みの比率、第2層における最小層厚みに対する最大層厚みの比率をそれぞれ求めた。
また、得られた各層の厚みをもとに、第1層の平均層厚み、第2層の平均層厚みをそれぞれ求め、第1層の平均層厚みに対する第2層の平均層厚みを算出した。
なお、最外層の厚み調整層は第1層と第2層から除外した。また交互積層中に2μm以上の厚み調整層が存在する場合は、かかる層も第1層と第2層から除外した。
【0101】
(4)フィルム全体厚み
フィルムサンプルをスピンドル検出器(安立電気(株)製K107C)にはさみ、デジタル差動電子マイクロメーター(安立電気(株)製K351)にて、異なる位置で厚みを10点測定し、平均値を求めフィルム厚みとした。
【0102】
(5)各方向の屈折率および平均屈折率
各層を構成する個々のポリマーについて、それぞれ溶融させてダイより押出し、キャスティングドラム上にキャストしたフィルムを作成し、得られたフィルムを多層延伸フィルムの製膜条件と同じ条件で製膜して延伸フィルムを用意した。得られた延伸フィルムについて、それぞれ延伸方向(X方向)とその直交方向(Y方向)、厚み方向(Z方向)のそれぞれの屈折率(それぞれn、n、nとする)を、メトリコン製プリズムカプラを用いて波長633nmにおける屈折率を測定して求め、平均屈折率については、n、n、nの平均値を求めた。
【0103】
(6)反射率、反射波長
分光光度計((株)島津製作所製、MPC−3100)を用い、光源側に偏光フィルタを装着し、各波長でのアルミ蒸着したミラーとの相対鏡面反射率を波長400nmから800nmの範囲で測定する。このとき、偏光フィルタの透過軸をフィルムの延伸方向(X方向)と合わせるように配置した場合の測定値をP偏光とし、偏光フィルタの透過軸をフィルムの延伸方向と直交するように配置した場合の測定値をS偏光とした。それぞれの偏光成分について、400−800nmの範囲での反射率の平均値を平均反射率とした。
【0104】
(7)輝度向上用部材として用いた場合の輝度向上率、色相
LCDパネル(松下電器製ビエラTH−32LZ80 2007年製)中の光学フィルム(拡散フィルム、プリズムシート)の代わりに、作成した積層フィルム(拡散フィルム/多層延伸フィルム/拡散フィルムの積層フィルム)を光源と偏光板との間に挿入し、PCで白色を表示したときの正面輝度をオプトデザイン社製FPD視野角測定評価装置(ErgoScope88)により評価した。
サンプルフィルム挿入前の輝度に対するサンプルフィルム挿入後の輝度の上昇率を算出し、輝度向上効果を下記の基準で評価した。
◎: 輝度向上効果が160%以上
○: 輝度向上効果が150%以上、160%未満
△: 輝度向上効果が140%以上、150%未満
×: 輝度向上効果が140%未満
あわせて、JIS規格Z8729に準じてCIE表色系における色相x、y値について、0度〜80度の全方位視野角での色相xまたはyの最大変化を測定し、下記の基準で評価した。
○: x、yともに最大変化が0.03未満
△: x、yのいずれかの最大変化が0.03以上
×: x、yともに最大変化が0.03以上
【0105】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の65モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の35モル%が6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステルを得た。これに真球状シリカ粒子(平均粒径:0.3μm、長径と短径の比:1.02、粒径の平均偏差:0.1)を第1層の重量を基準として0.10wt%添加したものを第1層用ポリエステルとし、第2層用ポリエステルとして固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.62dl/gのイソフタル酸10mol%共重合ポリエチレンテレフタレート(IA10PET)を準備した。
【0106】
準備した第1層用ポリエステルおよび第2層用ポリエステルを、それぞれ170℃で5時間乾燥後、第1、第2の押出機に供給し、300℃まで加熱して溶融状態とし、第1層用ポリエステルを138層、第2層用ポリエステルを137層に分岐させた後、第1層と第2層が交互に積層され、かつ第1層と第2層におけるそれぞれの最大層厚みと最小層厚みが最大/最小で2.2倍まで連続的に変化するような多層フィードブロック装置を使用して、第1層と第2層が交互に積層された総数275層の積層状態の溶融体とし、その積層状態を保持したまま、その両側に第3の押出機から第2層用ポリエステルと同じポリエステルを3層ダイへと導き、総数275層の積層状態の溶融体の両側に厚み調整層をさらに積層した。かかる両端層(厚み調整層)は、全体の18%なるよう第3の押出機の供給量を調整した。ついで、かかる積層状態(以下、1ユニットと称することがある)を保持したまま、積層方向と垂直方向に1:1の比率になるように分割し、積層数(ダブリング数)が2倍になるように再度積層し、その積層状態を保持したままダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして、第1層と第2層の平均層厚み比が1.0:2.6になるように調整し、多層未延伸フィルムを作成した。
【0107】
この多層未延伸フィルムを125℃の温度で幅方向に5.2倍に延伸し、120℃で3秒間熱固定処理を行った。得られたフィルムの全体厚みは66μm、第1の層と第2の層の交互積層(光学干渉層)部分の層数は550層であった。
得られた多層延伸フィルムの各層のポリマー構成、各層の特徴を表1に、また物性を表2に示す。また、得られた多層延伸フィルムの最表層を構成する両側の厚み調整層上に光拡散性ポリカーボネートフィルム(SABIC社製 レクサン8A35−0.25)を粘着剤で貼り合わせて積層体フィルムを得た。
【0108】
[実施例2〜8]
表1に示すとおり、各層のポリマー組成を変更した以外は、実施例1と同様にして多層延伸フィルムを得た。その際、第1層を構成するポリマーのTgに合わせて延伸温度および熱固定温度を調整した。
得られた多層延伸フィルムの物性を表2に示す。また、得られた多層延伸フィルムの両面(厚み調整層)に実施例1と同様にして光拡散性ポリカーボネートフィルムを粘着剤で貼り合わせて積層体フィルムを得た。
【0109】
[実施例9]
1ユニットの積層状態を得たあとの積層数(ダブリング数)を3倍に変更した以外は実施例1と同様にして多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの物性を表2に示す。また、得られた多層延伸フィルムの両面(厚み調整層)に実施例1と同様にして光拡散性ポリカーボネートフィルムを粘着剤で貼り合わせて積層体フィルムを得た。
【0110】
[実施例10]
1ユニットの積層状態を得たあとの積層(ダブリング)を行わなかった以外は実施例1と同様にして多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの物性を表2に示す。また、得られた多層延伸フィルムの両面(厚み調整層)に実施例1と同様にして光拡散性ポリカーボネートフィルムを粘着剤で貼り合わせて積層体フィルムを得た。
【0111】
[比較例1]
第1層用ポリエステルを固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.62dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)に変更し、1ユニットの積層状態を得たあとの積層(ダブリング)を行わなかった以外は実施例1と同様にして多層延伸フィルムを得た。なお、延伸温度および熱固定温度は表1のように変更して製膜を行った。
得られた多層延伸フィルムの物性を表2に示す。また、得られた多層延伸フィルムの両面(厚み調整層)に実施例1と同様にして光拡散性ポリカーボネートフィルムを粘着剤で貼り合わせて積層体フィルムを得た。
【0112】
[比較例2]
表1に示すとおり、第2層用ポリエステルを固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.62dl/gのテレフタル酸45mol%共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(TA45PEN)に変更した以外は比較例1と同様にして多層延伸フィルムを得た。
得られた多層延伸フィルムの物性を表2に示す。また、得られた多層延伸フィルムの両面(厚み調整層)に実施例1と同様にして光拡散性ポリカーボネートフィルムを粘着剤で貼り合わせて積層体フィルムを得た。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
なお、表1中のポリエステルの組成は以下の通りである。
【0116】
【表3】

【0117】
C3NA: 6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸
NDC: 2,6−ナフタレンジカルボン酸
EG: エチレングリコール
PEN: ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート
C4NA: 6,6’−(テトラメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸
C6NA: 6,6’−(ヘキサメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸
TMG: トリメチレングリコール
PTN: ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート
BD: 1,4−ブタンジオール
PBN: ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート
IA: イソフタル酸
TA: テレフタル酸
PET: ポリエチレンテレフタレート
CHDM: シクロヘキサンジメタノール
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の多層延伸フィルムは、輝度向上フィルムや液晶セルと貼り合せる偏光板、液晶ディスプレイに利用することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 偏光板
2 液晶セル
3 偏光板
4 輝度向上用部材
5 光源
6 液晶パネル
7 第2の偏光板
8 液晶セル
9 第1の偏光板
10 光源
11 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と第2層とが交互に積層された251層以上の多層延伸フィルムであり、
1)該第1層は、ジカルボン酸成分とジオール成分とのポリエステルからなる厚み0.01μm以上0.5μm以下の層であり、
(i)ジカルボン酸成分は5モル%以上50モル%以下の下記式(A)で表される成分および50モル%以上95モル%以下の下記式(B)で表される成分を含有し、
【化1】

(式(A)中、Rは炭素数3〜6のアルキレン基を表わす)
【化2】

(式(B)中、Rはナフタレンジイル基を表わす)
(ii)ジオール成分は90モル%以上100モル%以下の下記式(C)で表される成分を含有し、
【化3】

(式(C)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表わす)
該第2層は共重合量が5モル%以上50モル%以下の共重合ポリエチレンテレフタレートからなり、平均屈折率1.55以上1.65以下かつ光学等方性の厚み0.01μm以上0.5μm以下の層であり、
2)フィルム面内における第1層と第2層の1軸延伸方向(X方向)の屈折率差が0.10〜0.45であって、1軸延伸方向に直交する方向(Y方向)における第1層と第2層との屈折率差、およびフィルム厚み方向(Z方向)における第1層と第2層との屈折率差がそれぞれ0.05以下であり、
3)第1層および第2層におけるそれぞれの最大層厚みと最小層厚みの比率がいずれも2.0以上5.0以下であり、かつ
4)フィルム面を反射面とし、X方向を含む入射面に対して平行な偏光成分について入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ90%以上であり、
5)フィルム面を反射面とし、X方向を含む入射面に対して垂直な偏光成分について、入射角0度および50度での該入射偏光に対する波長400〜800nmの平均反射率がそれぞれ15%以下である、
ことを特徴とする多層延伸フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の多層延伸フィルムからなる輝度向上用部材。
【請求項3】
請求項2に記載の輝度向上用部材の少なくとも一方の面に光拡散フィルムが積層されてなる液晶ディスプレイ用複合部材。
【請求項4】
請求項2に記載の輝度向上用部材を含む液晶ディスプレイ装置。
【請求項5】
請求項3に記載の液晶ディスプレイ用複合部材を含む液晶ディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−3409(P2013−3409A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135607(P2011−135607)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】