多層微多孔膜
【課題】生理活性物質に代表される有用物と病原性物質に代表される不要物とを含有する液体中から不要物を除去し、有用物を精製することに用いられる分離膜において、液体等の透過速度が高く、かつ、高い微粒子の阻止性能を併せて有する、分離膜として有用な多層微多孔膜、およびその使用方法を提供する。
【解決手段】低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有し、低開孔率層中の該最小孔径層が、高開孔率層に接して位置し、しかも低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることを特徴とする多層微多孔膜。
【解決手段】低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有し、低開孔率層中の該最小孔径層が、高開孔率層に接して位置し、しかも低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることを特徴とする多層微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれる微粒子を除去する分離膜技術において、液体等の透過速度が高く、かつ、高い微粒子の阻止性能を併せて有する、分離膜として有用な多孔膜に関する。さらに本発明は、生理活性物質を含有する液体からウィルスの除去に有用な多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中からサブミクロン程度の微粒子、特に微生物粒子を除去する方法として、ゲル濾過法、遠心分離法、吸着分離法、沈澱法、膜濾過法が利用されている。これら除去方法の中でも膜濾過法は、微粒子の種類に関わらず、特定の大きさ以上の微粒子であればその分画能により除去でき、しかも大量処理が可能であるという点で優れていると言われている。また膜を用いた濾過方法は、医薬品製造や食品製造の中間原料である有用タンパク質含有溶液から不要物を除去する用途にも大いに期待が寄せられている。
【0003】
近年、特に抗体医薬製造分野、血漿製剤製造分野、血漿分画製剤製造分野等において、潜在的に混入している危険性のあるウィルスなどの病原性物質を除去する技術がクローズアップされている。
【0004】
そこで上記製剤等に混在する可能性のあるウィルスを不活化又は除去するための様々な方法が提案されてきた。ウィルスを不活化する方法としては、加熱処理による殺菌法や、Solvent/Detergent(S/D)法に代表される薬品による化学的処理がある。しかしながら、これら不活化方法は、全てのウィルスに等しく作用する訳ではなく、ウィルスの種類によってはその不活化の効果が制限される。例えば、耐熱性を有するA型肝炎ウィルス等に加熱処理による不活化の効果は期待できない。また、小児まひを起こすポリオウィルスや風邪の症状を起こすアデノウィルス等は、脂質二重膜とエンベロープ蛋白とで構成されるエンベロープを持たないため、脂質二重膜を破壊することによってエンベロープ蛋白を失わせ、感染性を失わせるS/D法は、原理的に効果が無い。さらに化学的処理に用いる薬品が人体に対して有害である場合には、薬品の除去工程が必須となる。
【0005】
これに対してウィルスを物理的に除去する方法の一つとして、膜濾過によるウィルスの分離除去、いわゆる「ウィルス除去膜法」が挙げられる。この方法が前述した不活化の方法に比べて優れている点は、粒子の大きさに応じた分離機能の制御が可能であるため、ウィルスが偶然に濾過膜を通過する可能性を抑制し、ウィルスの熱的あるいは化学的性質には無関係に全てのウィルスの除去に有効であるという点である。このような用途に用いる濾過膜は、そのウィルス除去能を低下させずに、より高い濾過速度を実現させる工夫が常に求められる。使用する膜の濾過速度が大きくなれば、より短時間に必要量を処理でき、目的物の生産効率を高めることができるからである。従って、ウィルス除去膜に適した構造を有する多孔膜の開発が、種々行われている。
【0006】
ウィルスの種類としては、最も小さいもので直径18〜24nm程度のパルボウィルスや直径25〜30nmのポリオウィルス等があり、比較的大きいものでは直径80〜100nmのHIV(ヒト免疫不全ウィルス)等がある。このようなウィルス群を膜濾過法によって物理的に除去するためには、少なくとも最大孔径が100nm以下の微多孔膜が必要である。
【0007】
一方、ウィルス除去膜にはウィルス除去性能だけでなく、アルブミンやグロブリン等の生理活性物質の透過性が高いことが求められる。このため、孔径が数nm程度の限外濾過膜や、更に孔径が小さい逆浸透膜等はウィルス除去膜として適当でない。
従って、ウィルス除去膜には、除去したいサイズのウィルス群は捕捉するが、回収すべきアルブミンやグロブリン等の生理活性物質は十分透過する適切な孔径が要求され、その孔径は一般的に10〜100nm、好ましくは20〜50nmである。
【0008】
また、ウィルス除去に適した孔径を持つ微多孔膜であっても、内部空孔率に比較して表面の開孔性が低い膜、いわゆるスキン層を有する微多孔膜は濾過速度が低く好ましくない。これは開孔性の低いスキン層の存在によって、膜厚方向内側の孔が十分に利用されないこと、或いはスキン層自体が大きな濾過抵抗となることによって生じるものと考えられる。従って、表面にスキン層を有しないことが望ましい。一般に熱誘起相分離を利用した溶融成膜法は、膜内部にマクロボイドを形成しにくく比較的均質な孔径分布構造を形成するため、ピンホールによるウィルス漏れの危険性が低く、同時に高い膜強度を与えるため、ウィルス除去膜の製造方法としては好ましいといえる。ところが、この溶融成膜法は、一般的にポリマーと可塑剤等からなる組成物を溶融後、急冷するために膜表面にスキン層が生じやすくなる。従って、溶融成膜法で形成された孔構造を有し、しかも表面開孔性の高い多孔膜は、ウィルス除去膜に適していると言える。
【0009】
またウィルス除去を発現する小さな孔を有する緻密な層、いわゆるウィルス除去層は、成膜工程やフィルターカートリッジへの組立工程等において加えられる可能性のある外力によって亀裂やキズが生じると、ウィルス漏れにつながる。従って、ウィルス除去層を保護する多孔質層が一体化されていることもウィルス除去膜には必要である。このような保護層は、濾過溶液に含まれる粗大異物を予め濾過するプレフィルターとしての機能を発現する場合もある。なおこのような保護層の存在が、逆に濾過速度を低下させてしまうと好ましくないので、保護層の開孔率はウィルス除去層の開孔率よりも大きいことが好ましい。
【0010】
特許文献1には特定の物性を有するポリオレフィン樹脂、有機液状体、無機微粉体を混合した後、Tダイ押出成型や射出成型によって溶融成型し、得られた成型物から有機液状体及び無機微粉体を抽出して微孔性ポリオレフィン多孔物を製造する方法が開示されている。該方法によって製造した多孔膜は、膜の最表面の開孔性が悪く、液体中に含まれる微粒子を除去するための分離膜としての用途では、高い濾過速度が得られない。
【0011】
特許文献2には開孔率が大きい粗大構造層と、開孔率が小さい緻密構造層を有する、熱可塑性樹脂を含む微多孔膜であって、該粗大構造層が少なくとも一方の膜表面に存在し、該粗大構造層と該緻密構造層が一体化している多層微多孔膜が開示されている。該緻密構造層は、開孔率の均質性が高く、しかもその厚みは膜全体の50%以上を占めるため、ウィルス除去を担う小孔径領域層が厚くなり、高いウィルス除去性能が期待されるが濾過速度の低下が懸念される。
【0012】
特許文献3には孔径の大きなプレフィルタ領域と、孔径の小さな適性領域とからなる膜エレメントを孔径の小さな適性領域同士が相並ぶように、相分離後に積層される微孔性濾過膜が開示されている。このようにして作製される膜の適正領域の孔径をウィルス除去可能となるまで小さくする場合、相分離の際の急冷時に適性層表面に開孔率の低いスキン層を生じる可能性が高い。スキン層を有する適性層同士を貼り合わせれば、貼り合わせ領域において、一方の膜エレメントからもう一方の膜エレメントへと孔が連通する確率は、お互いのスキン層の開孔部が重なり合う確率に相当することから、濾過速度が大きく低下することは明らかである。また、一方の膜エレメントにスキン層が無い、孔径のやや大きなものを用いた場合においても、もう一方の膜エレメントに存在するスキン層により、やはり濾過速度は阻害されることになる。
【0013】
特許文献4には、高分子を溶媒に溶解させた高分子溶液を支持材に塗布後、湿気のある空気を吹き付けた後に非溶媒に浸漬させることで、膜厚方向に孔径分布を有し、しかも膜内部において孔径最小層を有する多孔膜、およびその製造方法が開示されている。該多孔膜は、粗大層が厚くなるため膜内部の該孔径最小層の保護には有効である。しかし、孔径が膜厚方向にて連続的に大きく変化する膜構造であるため、粒子捕捉性能を発現する該孔径最小層は非常に薄くなってしまい、しかもこのような層が膜内に一層しかないため、ウィルス等の微小粒子を阻止する膜としては不十分である。実際、該多孔膜によってウィルス除去を実現させるための条件は一切記載されていない。
【0014】
特許文献5には、少なくとも1つの非対称限外濾過膜層と少なくとも1つの微孔質膜層を有し、これら2つの層は結合部にて一体となっており、該結合部には多孔度の遷移帯域を有する一体型多層複合限外濾過膜が開示されている。しかし該一体型多層複合限外濾過膜では、ウィルス除去層として機能する限外濾過膜層が非対称構造であるため、限外濾過膜相中におけるウィルス除去性を実質的に担う領域層が薄くなってしまい、しかもそのような層が限外濾過膜内に一層しかないため、十分なウィルス除去性能を発現させることが難しい。
【0015】
特許文献6には少なくとも2種の高分子溶液を、連続して移動する無孔性の支持体上に共流延し、相分離させて積層膜を得る方法、および該方法によって得られる多層膜が開示されている。しかし該文献には種々の層構成の多層膜が得られるとの記載、さらに外側の2層の孔径が内側の層の孔径よりも大きい3層積層構造の記載はあるものの、該積層膜による具体的な除去対象物が示されておらず、当然ウィルス除去能を有し、且つ高い濾過速度を実現する多層膜に関しては一切記載されていない。
【0016】
特許文献7には高分子濃度が40から80重量部、溶剤が20から60重量部、フッ化合物が少なくとも0.5重量部以上からなる組成物を溶融し、フィードブロックまたはマルチマニホールドダイを用いて共押し出しすることで微多孔層に多孔性または非多孔性の層を積層する積層膜の製造方法が開示されている。しかし、ウィルス除去能を有し、且つ高い濾過速度を実現させるための条件は一切記載されていない。また、フッ素化合物を含有することにより撥水性を発現するため、液体の濾過には不向きである。
【0017】
特許文献8には、無数の膜内貫通孔を含んで成る高分子多孔質中空糸であって、該中空糸の内壁面から外壁面への膜厚方向に垂直な面における孔径を面内平均孔径で表す時、前記膜内貫通孔の入口、および出口における面内平均孔径が0.02μmから10μmの範囲であり、かつ面内平均孔径が極小の部分、該極小の部分より面内平均孔径が大きい部分、極小の部分に配列された構造が、中空糸の内壁面から外壁面への膜厚方向に少なくとも1組存在する中空糸膜が開示されている。このような膜構造であれば、面内平均孔径が極小の部分が膜厚方向に少なくとも2つ存在するため、ウィルス等の微小粒子の阻止性能は高くなることが期待される。しかし、実施例に開示されている走査型電子顕微鏡写真及び開示されている製造方法から、2つの極小部分の間に存在する該極小の部分より孔径が大きい部分の面内空孔率は、内壁面および外壁面から平均孔径が極小の部分までの層の面内空孔率と同程度であり、孔径極小部分の面内空孔率よりもかなり高いことが分かる。このように膜厚方向における膜中心付近の面内空孔率が非常に高く、孔径極小部分の孔径よりも2つの極小部分の間の層の孔径が明らかに大きい構造である場合、孔径極小部から膜中心部の孔径極大部までの連続的な孔径増大の勾配は大きくなる。従って、必然的にウィルス等の微粒子阻止を担うべき孔径極小領域の厚みは小さくなり、孔径極小部よりも膜中心寄りの領域ではウィルス阻止への寄与は急速に低下してしまうことになる。その結果、膜中心部での濾過抵抗が低いため濾過速度は高いが、逆に膜中央寄りの領域はウィルス除去に全く寄与できないためウィルス除去性能は不十分となり、ウィルス除去膜としてはバランスが悪く不十分な膜となってしまう。また、該発明は中空糸膜に限定されているが、該発明開示の方法でシート状膜に成型するためには、均等にシート面に凝固性液体(中空剤に相当する)と接触させながら厚みの均一化を図る必要があるが、通常表面平滑性や厚み均一性を出すために使用されるキャストロールを使用することが難しく、シート状膜への成型は困難である。膜がシート状である場合、フィルターカートリッジへの組立てが容易であること、組立ての際に別種の膜(例えばプレフィルター)を同時に組み込むことで性能を向上させたカートリッジを作成することも容易であること、さらに中空糸膜カートリッジで問題となる、糸内部に入り込んだ気泡の除去操作(脱泡操作)が、シート状膜では大きな問題にならないこと、といった利点がある。
【0018】
従って、ウィルス除去に適した孔径の緻密層を有することはもちろんのこと、高いウィルス除去性能と高い濾過速度をバランス良く発現する孔構造を有する多孔膜であって、さらにカートリッジ組み立てや膜の成型加工中に起こる可能性のある損傷から緻密層を保護する一方、プレフィルターとしての役割も担うことができる粗大層が緻密層の両面に一体化された優れた多孔膜が、ウィルス除去膜として求められていた。
【特許文献1】特公昭60−23130号公報
【特許文献2】WO03/026779A1パンフレット
【特許文献3】特表2006−503685号公報
【特許文献4】GB2199786Aパンフレット
【特許文献5】特開2006−7211号公報
【特許文献6】US2002/0113006A1パンフレット
【特許文献7】WO03/104310A2パンフレット
【特許文献8】特開昭62−184108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、高いウィルス除去性能と優れた濾過速度の発現に適した構造を有し、しかもカートリッジ組み立てや膜の成型加工中に起こる可能性のある損傷から緻密層を保護する一方、プレフィルターとしての役割も担うことができる粗大層が緻密層の両面に一体化された多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本願発明を完成させるに至った。
【0021】
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする多層微多孔膜。
(2)低開孔率層中の該最小孔径層が、高開孔率層に接して位置することを特徴とする(1)に記載の多層微多孔膜。
(3)低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることを特徴とする(1)または(2)に記載の多層微多孔膜。
(4)高開孔率層の断面開孔率が、低開孔率層における膜厚方向の中心部の断面開孔率より5%以上高いことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(5)低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比が0.2以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(6)溶融成膜法によって得られた多孔構造を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(7)両表面の表面開孔率が10%以上であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(8)該高分子がポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、フッ素化炭化水素ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合ポリマーのいずれかであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(9)該高分子がポリエチレン、またはポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする(1)〜(7)に記載の多層微多孔膜。
(10)細孔表面が親水性高分子で被覆されていることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(11)該親水性高分子が水酸基を有することを特徴とする(10)に記載の多層微多孔膜。
(12)(1)〜(11)のいずれかに記載の多層微多孔膜を用いて、少なくとも2種の成分を含有する液体から、特定の成分を濾過する方法。
(13)細菌、真菌、ウィルス、病原性プリオン、白血球、及び細胞由来粒子からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、生理活性物質を含む液体から、生理活性物質をのみを透過することを特徴とする(12)に記載の液体の処理方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液体等の透過速度が高く、かつ、液体中に含まれる微粒子、例えばコロイド、不溶性高分子、細菌、ウィルス、病原性プリオン等を阻止する分離膜として有用な多孔膜を提供することができる。
更に本発明によれば、血漿分画製剤や抗体医薬品のようなバイオ医薬品の生産工程において、高い濾過速度と高いウィルス除去性能を発現する分離膜を提供することができ、これを用いて安全性の高い医薬品を、より高い生産効率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする。
【0025】
本発明の低開孔率層および高開孔率層とは、膜断面における断面開孔率の相対的な大小関係によって定義される。ここでいう膜断面開孔率とは、膜断面の電子顕微鏡観察結果から画像解析処理によって膜面における空隙部分の占める面積比率を計測して出した値である。
【0026】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造であり、3つ以上の断面開孔率の異なる層から成る膜が包含されるが、膜製造の容易さや装置の簡便性の観点から3層構造であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の多層微多孔膜の形状は特に限定されず、シート状でも中空糸状でも構わない。しかしながらシート状膜は、フィルターカートリッジへの組立てが容易であるし、組立ての際に別種の膜(例えばプレフィルター)を同時に組み込むことで性能を向上させたカートリッジを作成することも容易である。さらに中空糸膜カートリッジで問題となる、糸内部に入り込んだ気泡の除去操作(脱泡操作)が、シート状膜では大きな問題にならない。そのような点を考慮すれば、本発明の多層微多孔膜の形状はシート状であることが好ましい。
【0028】
本発明において層とは、膜厚方向の一定の厚み毎に測定された断面開孔率が一定の範囲にある領域を意味する。すなわち、膜の厚み1μm毎の断面開孔率測定を実施した場合に、任意の5μmの厚み範囲にて断面開孔率の差が全て5%未満であれば、その膜は1層からなることを意味し、5%以上の差の厚み範囲が1つ存在すれば、その膜は開孔率の異なる2つの層から成るものとする。2つの高開孔率層の間に低開孔率層が存在すると、低開孔率層には高分子の占める割合が高いため、膜の強度が高くなり、外力によって膜が潰れてしまうことを防ぐことができるため好ましい。適切な膜強度を与えるため、また高いウィルス除去性と優れた濾過速度を発現させるため、高開孔率層の断面開孔率は、低開孔率層における膜厚方向の中心部の断面開孔率より5%以上大きいことが好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。
【0029】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造である。積層一体化とは、2つの層の境界領域にて、両層の高分子が相互に入り込んだ形で孔を形成し接着した状態であり、この状態は走査型電子顕微鏡にて観察することが可能である。このような一体化構造は、成膜時において、低開孔率層を形成する溶融組成物と高開孔率層を形成する溶融組成物を互いに溶融した状態で積層し、引き続いて同時もしくはどちらかの層を先に相分離させることで得ることができ、その結果両層を簡単に分離することは困難である。
【0030】
本発明の多層微多孔膜のバブルポイント法で求めた最大孔径は、10〜100nmである。バブルポイント法とは、膜を液体で満たした状態で気体の透過挙動を測定し、膜にある最も大きな孔の大きさを評価する方法である。本発明における最大孔径は、ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法で測定した値である。具体的には、フィルターホルダーにセットした評価膜を試験液に浸漬して湿潤し、フィルターの片側を空気でゆっくりと加圧していく。フィルターのガス透過側に設置した流量計が安定した流れの泡の上昇を検知する最低の圧力をバブルポイントとして記録し、後で述べる式を用いて最大孔径として換算する。
【0031】
膜の最大孔径を100nm以下とすることによって、除去すべき粒子、例えばウィルスを含んだ溶液を濾過する際、エイズウィルスなど大きさが比較的大きなウィルスの溶液中濃度を低下させることができる。また除去したい粒子の大きさによって、最大孔径はもっと小さく設計することも可能であり、より広範囲のサイズのウィルスを除去しようとする場合は、最大孔径は75nm以下が好ましく、55nm以下がより好ましく、45nm以下が特に好ましい。
【0032】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする。一般に孔径の小さな層は開孔率の低い部分に現れるため、本発明の3層構造では低開孔率層がウィルス等の微粒子除去性能を発現するが、本発明のように低開孔率層中に2つ以上の最小孔径層が存在することは、仮に一方に欠陥を生じ、十分な粒子除去性が発現されなかったとしても、別の小孔径層が更なる粒子除去性を発現することで、粒子の漏出を防ぐことができる。また低開孔率層中の該最小孔径層は、高開孔率層に接して位置することが好ましく、さらに低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることが好ましい。なお、ここでいう孔径の大小は走査型電子顕微鏡観察によって確認できる。
【0033】
上記のような膜構造は、溶融した組成物をシート状等に成型した後、急速に冷却して孔構造を形成する、いわゆる熱誘起相分離法を用いて得ることができる。熱誘起相分離法の場合、膜中心部の方が該中心部の周辺部より冷却速度が遅くなるため、膜の中心部の孔径が該中心部の周辺部の孔径より若干大きくなり、しかも上記中心部の周辺部から中心部へ向かって孔径が連続的に緩やかに大きくなるという特徴を有する。そして、このような孔径分布の特徴は、高分子濃度の高い組成物と、高分子濃度の低い組成物を共押出しして成膜する場合には、特に、高分子濃度の高い組成物から得られる低開孔率層中にみられる。そのような膜構造を得る具体的な方法を、実施例に示した。
【0034】
上記のように、低開孔率層の中心部の孔径が該中心部の周辺部の孔径より緩やかに大きいことにより、ウィルスやタンパクを含む液体からウィルス等の微粒子を除去するに際し、優れた微粒子捕捉性を発現しつつ、膜内部での目詰まりを抑制しながら高い濾過速度を維持し得る分離膜として有用となる。
【0035】
本発明の多層微多孔膜を構成する高分子は、本発明の膜構造が形成可能なものであれば特に限定されず、通常、膜素材として用いられる高分子を用いることができる。そのような高分子としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル1−ペンテン)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素化炭化水素ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、およびそれらのブレンド物や共重合体が挙げられる。エチレンビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールは、表面が親水性であるため親水化工程を省略することができることから好ましい。さらにポリエチレン、ポリフッ化ビニリデンは、成膜性に優れ、強度の大きい膜を得ることができる点から好ましい。特に本発明の多層微多孔膜を医薬品製造や血液製剤製造分野において用いる場合、蒸気滅菌、特にインライン滅菌に耐える耐熱性が要求されるため、耐熱性の高いポリフッ化ビニリデンは最も好ましい高分子素材である。
【0036】
本発明の多層微多孔膜では、走査型電子顕微鏡の構造観察結果から、低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比を容易に計算することが可能であるが、該高開孔率層によって内部の緻密領域を保護する十分な役割を果たすためには、該厚さの比が0.2以上であることが、十分な表面開孔性を与えるとともに、内部の緻密層の保護に有用であるため好ましい。
【0037】
本発明の多層微多孔膜は、表面開孔率が10%以上であることが好ましい。表面開孔率とは、多層微多層膜の表面の走査型電子顕微鏡写真の画像解析から求められる値である。膜表面の開孔率が10%未満であると、濾過すべき溶液に対する抵抗となり、濾過速度が不充分となる。一般的に溶融成膜法によって得られる膜を1種類の組成物のみから製造する場合、例えば本発明の低開孔率層を形成するような高分子濃度の高い組成物のみを使用して孔径の小さい膜を得ようとすると、表面に開孔率の低い、いわゆるスキン層を形成し、液体等の透過速度が大幅に小さくなる。一方、本発明の高開孔率層を形成するような高分子濃度の低い組成物のみを使用すると、開孔率が高くなりスキン層の形成を防ぐことはできるが、孔径を小さくすることがでず微粒子阻止性が不十分と成る。従って、本発明に述べるように高分子濃度の低い溶融組成物を高分子濃度の高い溶融組成物の両面に位置するように積層して熱誘起相分離を誘起して積層膜を製造すると、膜表面のスキン層の形成を防ぎながら、ウィルス等の粒子阻止が可能な孔径の膜を得ることができる。
【0038】
本発明の多層微多孔膜は、溶融成膜法によって得られた多孔構造を有することを特徴とする。溶融成膜法によって得られた多孔構造とは、まず孔径が比較的均質であり、膜厚方向における孔径の連続的な変化が小さい構造である。ただし、本発明の多層微多孔膜では、特に低開孔率層において膜厚方向の中心部が極大となる緩やかな孔径変化を示し、これが特徴の一つである。これに対し、いわゆる「非溶剤誘起相分離」に基づく湿式成膜法では膜厚方向の孔径変化が激しいものとなる。また、もう一つの構造的特長は、膜内部に実質的に10μm以上のマクロボイドを含まないことである。これに対して上記の湿式成膜法ではマクロボイドが形成しやすい。この結果、溶融成膜法によって得られた多孔膜は、ピンホールによるウィルス除去性能の低下が起こりにくく、膜強度も高いものとなる。
【0039】
本発明の多層微多孔膜は、透水測定法によって求めた平均孔径が10〜200nm、好ましくは15〜180nm、更に好ましくは20〜160nmの範囲にあると良い。平均孔径をこの範囲とすることによって、除去すべき粒子、例えばウィルス、の除去性能を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することが可能となる。
【0040】
本発明の多層微多孔膜の透水量は、孔径によって変化するが、1〜3000、好ましくは10〜2000、更に好ましくは100〜1000の範囲にあると良い。該透水量は膜厚を100μmに換算した値であり、単位はL/m2/hr/(0.1MPa)/100μmである。なお該単位中、「hr」は単位時間として「1時間」を意味する。透水量をこの範囲とすることによって、除去すべき粒子、例えばウィルス、の除去性能を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することが可能となる。
【0041】
本発明の多層微多孔膜は、その気孔率が一定の範囲にあることが好ましく、その値は20〜80%、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜80%であると良い。気孔率をこの範囲とすることによって、濾過に必要な機械的強度を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することができる。本発明において気孔率とは、膜を10cm四方で切り出し、その厚みと質量、および膜素材となる高分子の密度の値から求められる数値であり、後で詳細に述べる。
【0042】
本発明の多孔膜は、その膜厚が10〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmの範囲にあると良い。膜厚をこの範囲とすることによって気孔率同様、濾過に必要な機械的強度を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することができる。なお本発明において、膜厚とは、膜厚計を用いて多孔膜の異なる箇所の厚みを10点計測した数値の平均値である。
【0043】
本発明の多層微多孔膜の細孔表面は、親水性高分子で被覆されていることが好ましい。
細孔表面とは、多孔膜を液体に浸漬し、膜の細孔内を全て液体で満たした状態において、接液している部分を意味する。
【0044】
親水性高分子とは、該分子構造中に親水性基を含有する高分子を意味する。親水性基としては水酸基、アミド基、カルボキシル基、スルホン酸基、繰り返し単位数1〜4程度のポリオキシエチレン基等が挙げられ、中でも水酸基を含有する高分子は特に好ましい。親水性高分子が膜の細孔表面を被覆していると、水の自発的浸透を可能とすることで水系の濾過溶液の細孔への浸入を容易とし、またタンパク等の非特異的吸着を阻害するために膜の目詰まりを防止し、優れた濾過速度を発現することができる。
【0045】
水酸基を含有する高分子としては、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、ポリ(1−ヒドロキシエチレンオキシド)、ポリ(2−ヒドロキシエチレンオキシド)等のポリ(エチレンオキシド)誘導体などの高分子、または2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類を重合して高分子としたもの、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。特に2−ヒドロキシプロピルアクリレートを重合して高分子としたものは十分な親水性を有し、タンパク濃度の高い水溶液を濾過する際の濾過速度を高く保つ効果が大きいため、好適に用いられる。
【0046】
本発明に用いる多孔膜の細孔表面を被覆する親水性高分子の量は、下記式(A)に定義される「親水化率」で表現する場合、3〜200重量%の範囲にあることが好ましく、5〜100重量%がより好ましく、10〜70重量%とするのが特に好ましい。被覆する親水性高分子の量をこの範囲とすることによって、タンパク濃度の高い水溶液を濾過する際の濾過速度を高く保つことができる。
【0047】
親水化率(wt%)=(親水化多孔膜の重量−親水化前の多孔膜の重量)/(親水化前の多孔膜の重量)×100 ・・・ (A)
【0048】
次に本発明の多層微多孔膜を製造する方法について説明する。
【0049】
本発明の多層微多孔膜は、少なくとも高分子及び可塑剤を含み、組成の異なる少なくとも2種の組成物を用意し、高開孔率層を形成する組成物の溶融物が低開孔率層を形成する組成物の溶融物の両面に位置するように積層した後、冷却によって相分離を起こさせる「熱誘起相分離法」による溶融成膜法を用いることで得ることができる。溶融成膜法とは、該高分子の融点以上に該組成物を加熱して均一に溶融する工程、溶融した組成物を膜状に成型する工程、膜中に可塑剤、場合によっては無機粒子を含有するため、引き続き可塑剤、無機粒子を膜中から除去する工程からなる。
【0050】
高分子の種類や状態によっては、明確な融点が観測されないものもあるが、そのような高分子を用いる場合においては、可塑剤等と均一に溶融しており、且つ成型するにあたって十分な流動性を有するようになっていればよいものとし、その判断は当業者であれば容易になせるものである。
【0051】
本発明に用いる可塑剤としては、膜素材として用いる高分子と混合して加熱した際、該高分子の結晶融点以上の温度で均一溶融し得るものであって、該均一溶融物を冷却した際に、常温以上の温度で熱誘起型相分離点を有するものを用いる。そのような可塑剤としては、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(以下、「DOP」と略す)、フタル酸ジイソノニル(以下、「DINP」と略す)、フタル酸ジイソデシル(以下、「DIDP」と略す)、フタル酸ジ(n−オクチル)(以下、「DnOP」と略す)、フタル酸ジ(n−ブチル)(以下、「DBP」と略す)、フタル酸ジシクロヘキシル(以下、「DCHP」と略す)等のフタル酸エステル類、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)等のトリメリット酸エステル類、セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類、アジピン酸ジブチル等のアジピン酸エステル類、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類、タローアミン類、ステアリン酸エステル等の長鎖アルキルエステル類、ステアリルアルコール等の高級脂肪酸アルコール類、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素系可塑剤等が好ましい。特に高分子素材として前記のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合は、これらと相溶性の大きい、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ビス(n−ブチル)、フタル酸ジシクロヘキシルを用いることがより好ましい。またこれらの可塑剤は単独でなく、得られる膜の孔径を調整するために混合して用いても良い。
【0052】
本発明においては、高分子と可塑剤の混合比は、高分子の重量割合として10〜80%となるように選択するのが好ましく、15〜70%とするのがより好ましく、20〜60%とするのが特に好ましい。高分子の割合が10重量%未満では、成膜性が低下する、実用的な強度が得られない等の不都合が生じる。また高分子の割合が80重量%を越えると、気孔率が小さくなるため、純水の透過速度が低下する。
【0053】
本発明の多孔膜を成型するために、該組成物中に高分子、可塑剤の他に微小な粒子径を有する無機粒子を含有させてもよい。該組成物中に無機粒子を含めば、無機粒子が可塑剤の担持体となり、該組成物中における高分子と可塑剤の分散性を向上させ、加熱溶融時の均一性の向上、ならびに冷却時における熱誘起型相分離の均一性の向上に寄与する。無機粒子としては特に限定されないが、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、およびこれらの誘導体で構成された粒子等が挙げられ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、非晶質二酸化珪素(以下、「シリカ粒子」と称す)が好ましい。特にシリカ粒子は成膜の後、アルカリ溶液で容易に抽出できる点からより好ましい。無機粒子の粒径としては一次粒子径として1nm〜1μmが好ましく、1nm〜100nmがより好ましく、1nm〜50nmが特に好ましい。また無機粒子は高分子との相溶性を上げるため、その粒子表面を適切に化学修飾しても良い。例えばシリカ粒子の場合、そのままでは組成物中における分散性が不十分な場合もあるので、そのような場合には一般に疎水性シリカ粒子と総称される種類を用いることもできる。そのような例としては、アエロジル社の疎水性品(製品グレード例:R972)、レオロシール社の疎水性品(製品グレード例:DM−10)などが挙げられる。また、これらシリカ粒子の製造方法については湿式法、乾式法など特に限定されない。
【0054】
無機粒子と可塑剤の重量比は1対10〜10対1となるように選択するのが好ましく、1対5〜5対1とするのがより好ましく、1対3〜3対1とするのが特に好ましい。この範囲で重量比を選択することによって実用的な透過速度を持つために必要な開孔性を有する膜を得ることが可能となる。
【0055】
本発明においては、高分子、可塑剤、無機粒子の他に、その他の添加剤、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、等を混合しても良い。特に高分子の熱劣化を抑制するために酸化防止剤、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加してもよく、例えばイルガノックス(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を高分子に対して重量比で0.01〜10%添加することは、得られる膜の強度保持のため推奨される。
【0056】
上記の材料を用いて準備した、少なくとも高低2種類の高分子濃度の組成物は、まず均一溶融する必要があり、その方法は特に限定されないが、例えばスクリュー式押出機等の連続式樹脂混錬装置に投入して均一溶融することができる。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。該組成物の押出し機への投入形態としては、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれでも良い。
【0057】
次に均一に溶融された組成物は、引き続き積層成型される。高開孔率層と低開孔率層を積層一体化する方法としては、高低2種類の高分子濃度の組成物を、それぞれ別々の2つの加熱したスクリュー式押出機に投入し、加熱・混錬しながら均一に溶融させた後、共押出し用金型内(ダイス内)で接触させながら共に押し出し、巻き取り機で巻き取る方法が好ましい。このとき別々の押出機で溶融された組成物を成型するための共押出し用ダイスは、内部に少なくとも3つの流路に区切られた内部構造を有するものを用いる。特に3つの流路を有する場合には、中央が低開孔率層用の溶融組成物の流路で、その両側は高開孔率層用の溶融組成物の流路となる。但し、それぞれの溶融組成物が合流する点はダイス内の任意の位置に設けることができる。
【0058】
なお、積層一体化した多層積層膜を得るその他の方法としては、例えば高低2種類の高分子濃度の組成物をそれぞれ別々に加熱したスクリュー式押出機に投入し、加熱・混錬しながら均一に溶融させた後、単層平膜成型用のダイスを用いてそれぞれ別々にシート状に押し出し、次いで高分子濃度の高いシートの両表面に該高分子濃度より低高分子濃度のシートを重ね合わせた積層体を圧縮成型機等の中で加熱して再溶融させた後、冷却する方法でも可能である。
【0059】
共押出し用ダイスを通して溶融積層シートを押し出す場合、ダイスから押し出されたシート状物は、通常、キャスト装置と呼ばれる冷却及び圧延可能な装置のロール部で、該溶融積層シートの冷却及び/または厚みの調整を行いながら、適度な巻き取り張力となるように巻き取り速度を調整した巻き取り機で巻き取られる。多層微多孔膜の孔径がウィルス除去に適切なものにするためには、キャスト装置のロール部において溶融物を急冷することが好ましいことから、ロール温度は上記溶融温度より80℃以上低いことが好ましい。特に高分子素材としてポリフッ化ビニリデンを用いる場合は、ロール温度は溶融温度より150℃以上低いことが好ましい。
【0060】
以上の方法によって得られたシート状成型物は、膜中に可塑剤、場合によっては、無機粒子を含有するため、引き続き、可塑剤、無機粒子を膜中から除去する必要がある。
【0061】
可塑剤を抽出するための抽出溶剤としては、膜素材として用いる高分子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点が膜素材として用いる高分子の融点より低いことが望ましい。例えば可塑剤がフタル酸エステル類であれば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類が適当であり、特に塩化メチレンはその抽出力が優れている点で好ましい。可塑剤を抽出する場合、室温より高い温度で浸漬処理をするとより効果的に抽出を行うことができる。以上の抽出工程により、可塑剤を除去した多孔膜が得られる。
【0062】
また膜中に含有される無機粒子を抽出するためには、無機粒子を溶解することのできる溶液に膜を浸漬させる方法が推奨される。無機粒子を抽出する場合も、可塑剤を抽出する時と同様、室温より高い温度で浸漬処理をするとより効果的に抽出を行うことができる。特に無機粒子がシリカ粒子の場合は20〜60質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液に30〜60分程度、膜を浸漬する方法が効果的である。ただしポリフッ化ビニリデンのようにアルカリ水溶液との接触にて化学変化(変色)を起こす可能性のある高分子の場合は、水酸化ナトリウムの濃度や浸漬温度、時間を適宜調整することが好ましい。
【0063】
なお本発明では、可塑剤と無機粒子の双方が膜中に含有されている場合、抽出する順序は特に限定されないが、その作業性から、無機粒子よりも可塑剤の抽出を先に行うことが好ましい。以上の除去方法により、可塑剤、場合によっては可塑剤と無機粒子の双方を膜中より除去して多孔膜を得ることができる。
【0064】
本発明に用いる多孔膜の細孔表面を親水性高分子で被覆する方法としては、多孔膜に親水性高分子原料のモノマーをコーティングしてから熱、放射線、架橋剤等で架橋する方法、親水性高分子を適当な溶剤に溶解して膜表面にコーティングする方法、低温下で電子線やガンマ線等の電離性放射線を膜に照射してラジカルを発生させ、次いで液状または気体状のモノマーと接触させる方法(以下、前照射法と称す)、膜を予めモノマーと接触させた状態で電離性放射線を照射してモノマーを重合させる方法(以下、同時照射法と称す)等、公知の方法を用いることができるが、中でも、多孔膜に電離性放射線を照射した後にモノマーと接触させる方法は、細孔表面を均一に被覆することが可能であるため、特に好ましい。
【0065】
本発明に用いる多孔膜に電離性放射線を照射する方法としては、膜周辺の酸素濃度をできるだけ低く抑えた状態で、放射線を照射することが推奨される。照射する放射線量は、本発明に用いる多孔膜においては10〜500kGyが好ましく、50〜300kGyがより好ましい。照射後の多孔膜にモノマーを接触させる方法としては、モノマーを溶媒に溶解させて溶液とし、該溶液に多孔膜を一定時間浸漬する方法が推奨される。モノマーを溶解させる溶媒としては、例えばモノマーが前述の2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類である場合、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、水、またはこれらの混合物が適している。
【0066】
被覆する親水性高分子の量を既述した親水化率の範囲に被覆する方法としては、多孔膜とモノマーとを接触させる時間と温度を変化させる、あるいはモノマーを溶媒に溶解させる際のモノマー濃度を変化させる等で調整することが可能である。また本発明では上記モノマーに、ポリエチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート系化合物を添加してから反応を行い、モノマーの重合の結果生じた高分子鎖を架橋しても良い。この方法は細孔表面を被覆する親水性高分子の量が大きくなった場合、透水性を高く保つために有効である。
【0067】
親水化された本発明の多層微多孔膜を利用した代表的な用途を、以下に説明する。
【0068】
本発明の親水化多層微多孔膜は、少なくとも有用物と不要物とを含有する液体中から、不要物を除去することにより有用物を精製することを含む、従来の精密濾過膜あるいは一部の限外濾過膜が現在利用されている用途に幅広く使用できる。そのような用途としては、汚泥あるいは油水混合液中からの水の精製、医薬品製造あるいは食品製造分野における中間原料の精製などが挙げられるが、特にウィルスおよびこれに類する大きさの微粒子に対する阻止性能が高いことからみて、該微粒子が潜在的に混入している恐れのある生理活性物質の精製に特に有用である。該生理活性物質としては、血漿分画製剤の原料に有用な血漿中のタンパクやバイオ医薬として用いられるタンパク等が挙げられ、そのような例としては、アルブミン、免疫グロブリン、フィブリノーゲン、血液凝固因子、アンチトロンビンIII、フィブリン糊、ハプトグロビン、活性化プロテインC、又はC1−インアクチベーター等が挙げられるが、これら例示したものに限定されない。該生理活性物質に潜在的に混入している恐れのある不要物としては、細菌、真菌、ウィルス、病原性プリオン、白血球、及び細胞由来粒子が挙げられる。従って、本発明の親水化多層微多孔膜を使用すれば、少なくとも有用物と不要物とを含有する液体を濾過することにより、不要物を除去して精製された有用物含有液体を提供することができる。さらに本発明は、少なくとも有用物と不要物とを含有する液体を本発明の親水化多孔膜で濾過することにより、不要物を除去するという液体の処理方法をも提供する。また逆の観点からの用途として、ウィルスの同定又は試験等のために、本発明の親水化多孔膜を用いて流体からウィルスを採集及び濃縮することもできる。
【0069】
本発明の親水化多層微多孔膜は、単独で使用することもできるし、適切な支持構造体と組み合わせて使用することもできる。適切な支持構造体の例としては、織布又は不織布のような多孔質支持体が挙げられる。
【0070】
また本発明は、本発明の多層微多孔膜またはその親水化膜を用いた濾過を簡便に実施する目的のため、該膜を少なくとも1枚含む濾過用フィルターカートリッジの形態をとることを含む。本発明の濾過用フィルターカートリッジは、該フィルターカートリッジに含む本発明の親水化多層微多孔膜がプリーツ状に成形されているものも含む。膜がプリーツ状に成形されている場合、平膜状の膜に比べてフィルター容量に対して大きな膜表面を提供することができるため好ましい。
【0071】
さらに本発明は、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を有するハウジング(a)、並びに該ハウジング(a)の内部空間を、該入口に連通する第1の空間(c)と該出口に連通する第2の空間(d)に分割する隔膜(b)を包含する濾過用カートリッジであって、該隔膜(b)の少なくとも一部が本発明の親水化された多層微多孔膜により構成されていることを特徴とする濾過用カートリッジも提供する。
【0072】
なお本発明の濾過用フィルターカートリッジにおいては、親水化された本発明の多層微多孔膜以外の構成要素は、ハウジング形成素材として通常用いられる材料であれば特に限定されずに用いることができる。
【0073】
本発明で用いるそれぞれの値は、以下のように定義した。
【0074】
[親水化率]
電離性放射線を照射する前に、予め多孔膜の質量を電子天秤で秤量した。膜に電離性放射線を照射してラジカルを発生させ、次いで液状または気体状のモノマーと接触させて親水化多孔膜を得た。得られた親水化多孔膜の重量を前述の電子天秤で秤量し、(1)式によって算出された重量変化率を親水化率(wt%)とした。
親水化率(wt%)=(親水化多孔膜の重量−親水化前の多孔膜の重量)/(親水化前の多孔膜の重量)×100・・・(1)
【0075】
[膜厚]
膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130 (製品名))を用いて多孔膜の厚みを測定した。異なる10点の箇所で計測した数値の平均値を多孔膜の膜厚とした。
【0076】
[気孔率]
多孔膜の質量および体積を測定し、(2)式によって気孔率(%)を算出した。
気孔率(%)={1−(多孔膜の重量)/(多孔膜の比重)/(多孔膜の体積)}×100・・・(2)
【0077】
[純水透水量]
多孔膜から任意に直径25mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とし、この重量を電子天秤で秤量した。膜厚は前述の膜厚計で測定した。評価膜をフィルターホルダー(アドバンテック株式会社製 PP−25 (商品名))にセットし、温度25℃の純水を空気圧0.1MPaで加圧して一定時間透過させ、その透過量を測定した。評価膜の膜面積、膜厚から、(3)式によって透水量を算出した。
透水量(L/m2/hr/(0.1MPa)/100μm)
=(純水の透過量[L])/(膜面積[m2])/(純水の透過時間[hr])/(膜間差圧[0.1MPa])/{100/(膜厚[μm])}・・・(3)
【0078】
[平均孔径]
多孔膜の孔に流体が流れるときの個々の流路を円筒管と考え、円筒管内で流体が定常流をなして流れているときに成り立つHagen−Poiseuilleの法則を用いると、多孔膜の個々の孔に流れる純水の流量は(4)式で表される。
孔1個の流量[m3/秒]=π×(円筒管の半径[m])4/{8×(純水の粘度[Pa・秒])}×(膜間差圧[Pa])/(膜厚[m])・・・(4)
一方、多孔膜の単位面積あたりに存在する孔の数は(5)式で表される。
孔数[−/m2]=(気孔率)/{π×(円筒管の半径[m])2}・・・(5)
(4)式および(5)式を用いると、単位面積あたりの多孔膜に流れる純水の流量は(6)式で表される。
多孔膜の流量[m3/m2/秒]=(円筒管の半径[m])2×(気孔率)/{8×(純水の粘度[Pa・秒])}×(膜間差圧[Pa])/(膜厚[m])・・・(6)
多孔膜の平均孔径は、(5)式および前述の透水量の算出における各測定値を用いて計算される円筒管の半径の2倍とし、(7)式によって平均孔径を算出した。
平均孔径(nm)=2×(円筒管の半径[m])×109=2×√{(純水の透過量[m3])/(膜面積[m2])/(純水の透過時間[秒])×8×(純水の粘度[Pa・秒])×(膜厚[m])/(膜間差圧[Pa])/(気孔率)}×109・・・(7)
【0079】
[最大孔径]
ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法から求められるバブルポイント(MPa)をASTM F316−86に記載の次式(8)を基に、次式(9)によって最大孔径(nm)として換算した。多孔膜を浸漬する試験液として、表面張力が12mN/mのフッ化炭化水素液体(住友スリーエム社製 パーフルオロカーボンクーラントFX−3250 (商品名))を用いた。
最大孔径(μm)=2860×(表面張力)/(バブルポイント、Pa)・・・(8)
従って、最大孔径(nm)=最大孔径(μm)×1000
={2860×(表面張力)/(バブルポイント、Pa)}×1000
=2.86×(表面張力)/(バブルポイント、MPa)・・・(9)
【0080】
[多孔膜の構造観察]
10cm四方の多孔膜から任意に適当な大きさに切り取った膜を、導電性両面テープにより試料台に固定し、3〜5nm程度のオスミウムコーティングを施して検視用試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立社製 S−4700)を用い、加速電圧1.0kV、および所定の倍率で多孔膜の表面および断面の構造観察を実施した。
【0081】
[低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比]
低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比(高開孔率層/低開孔率層)は、3層積層膜の走査型電子顕微鏡観察から、内層の厚みと外層の厚みを測定し、「内層の厚み/外層の厚み」として示した。
【0082】
[膜表面および断面の開孔率]
前述した表面の構造観察結果から、画像解析処理によって膜の表面における空隙部分の占める面積比率を計測した。このときの電子顕微鏡撮影は倍率15000倍で実施した。
【0083】
[膜断面における孔径の異なる層の判定]
前述したように、膜の厚み1μm毎の断面開孔率測定を実施し、任意の5μmの厚み範囲にて断面開孔率の差が5%以上あれば、その厚み範囲に異なる層の境界が存在すると判断した。このときの電子顕微鏡撮影は倍率3000倍および5000倍、10000倍、15000倍で実施した。
【0084】
[金コロイド粒子の除去率]
親水性多孔膜から任意に直径25mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とした。試験液の調製に用いる金コロイド原液は以下のようにして調製した。テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬株式会社製 (特級))を注射用水(日本薬局方)に溶解して6.0mMの塩化金酸水溶液を調製し、該水溶液80gに注射用水を320g加え、スターラーで撹拌しながら80℃に加温した。該水溶液が80℃に昇温された後、20分以内にクエン酸ナトリウム二水和物(和光純薬株式会社製 (特級))を注射用水に溶解して調製した4%クエン酸ナトリウム水溶液を14g加え、80℃で保温しながら30分間撹拌した。これを冷水で15分間冷却した後、ポリビニルピロリドンK15(東京化成工業株式会社製)を注射用水に溶解して調製した30%ポリビニルピロリドン水溶液を18mL加えて1分間撹拌したものを金コロイド原液とした。TEM観察によって求めた金コロイドの平均粒径は34.5nmであった。試験液として用いる金コロイド溶液は、注射用水を用いて該原液を約10倍に希釈し、該希釈液の535nmにおける吸光度が1.0〜1.2の範囲にあるものを用いた。なお吸光度は紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV−1700)を用いて測定した。試験液の温度を25℃に調整し、空気圧0.1MPaで加圧して3mL透過させた。得られた透過液の吸光度を測定し、(10)式によって金コロイド粒子の除去率を算出した。
金コロイド粒子の除去率(−Log)=−Log[(透過液の吸光度)/(試験液の吸光度)]・・・(10)
【0085】
[ウシ下痢症ウィルスの除去性能]
親水化多孔膜から任意に直径25mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とし、この重量を電子天秤で秤量した。試験液の調製に用いるウシ下痢症ウィルス(以下、「BVDV」と称す)原液は、0.5%のウマ血清にBVDVを添加することにより得た。該BVDV原液中に混在している浮遊物を取り除くため、前述のプラノバ75Nフィルターで前濾過して夾雑物を除いたものを試験液として用いた。該試験液の温度を25℃に調整し、空気圧0.0272MPaで加圧して約2mL透過させた。得られた濾液と試験液中のBVDV濃度の測定は、それぞれの液を細胞に加えて3〜4日間培養した後、凝集反応を利用して、TCID50測定法により(11)式によってBVDVの除去性能を算出した。
BVDVの除去性能(−Log)=−Log[(濾液中のBVDV濃度)/(試験液中のBVDV濃度)]・・・(11)
【0086】
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定
されるものではない。
【実施例1】
【0087】
ポリエチレン樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製 サンファイン(製品名))32.0重量%、可塑剤(シージーエスター株式会社製 DOP(工業品))37.1重量%、疎水性シリカ粒子(株式会社トクヤマ製 レオロシールDM−10(製品名))30.9重量%、酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 イルガノックス1010FP(製品名))0.32重量%を混合し、ミキサー(カワタ製スーパーミキサー 容量100L)を用いて室温で10分間撹拌混合した。得られた混合原料をA−1とする。
一方、ポリエチレン樹脂15.0重量%、可塑剤52.3重量%(DOP)、疎水性シリカ粒子32.7重量%、酸化防止剤0.15重量%を混合し、同様にミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料をB−1とする。
混合原料A−1を220℃に昇温した内層用の第1押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BTN−25−S2−45−L型 同方向2軸押出機(特注品))に、混合原料B−1を200℃に昇温した外層用の第2押出機(装置名は第1押出機と同一品)にそれぞれ投入し、220℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を100℃としたキャスト装置(大機工業株式会社製(特注品))により、キャストロールのクリアランスをシートの厚みが約600μmとなるように調整しながら毎分1.3mの速度で巻き取った。なお、A−1の吐出量を5kg/h、B−1の吐出量も5kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートを30cm四方に裁断して金枠に固定し、塩化メチレン(和光純薬株式会社製(工業品))に38℃で1時間浸漬する操作を4回繰り返し、更に80℃の20質量%水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社製(工業品))水溶液に1時間浸漬する操作を2回繰り返して可塑剤とシリカ粒子を抽出し、室温で一晩乾燥することにより、平膜状の多孔膜を得た。
【0088】
得られた多孔膜を窒素封入したアルミ袋に入れ、−78℃の温度下でガンマ線を100キログレイの線量となるように照射した。膜を袋から取り出し、5.5重量%の2−ヒドロキシプロピルアクリレート(和光純薬株式会社製)のt−ブタノール(和光純薬株式会社製(特級))/水=1/3の混合溶液に40℃で20分浸漬した後、イソプロピルアルコール(和光純薬株式会社製(特級))/水(1/1)の混合溶液で良く洗浄し親水化多孔膜を得た。
得られた親水化多孔膜の親水化率、膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表1に示した。
また走査型電子顕微鏡を用いて親水化多孔膜の表面構造(図1)を観察した結果、膜表面の開孔率は22%であり、膜断面の膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察された(図2、3)。また、図4と図5を対比させることで、内層において、外層との境界付近では孔径が小さく、中心部では孔径が大きくなっていた。画像解析処理の結果、外層における断面開孔率は43%、内層の外層との境界付近における断面開孔率は20%であった。更に内層の中心部における断面開孔率は27%であった。
得られた膜を用いて金コロイドの阻止性能とBVDVの除去性能を測定した。結果を表2に示す。
金コロイド溶液透過後に、膜断面を光学顕微鏡(キーエンス社製 デジタルマイクロスコープVH6300)で観察したものを図6に示す。図において膜の上方が溶液入り側であり、黒い帯状部分が捕集された金コロイドである。図6に示すように金コロイドが溶液入り側の内層と外層の境界付近に捕捉されていることが分かった。さらに金コロイド溶液を上記膜の反対面から透過させても同様の画像が得られた。
以上の結果は、本発明の3層膜が内層と外層の2つの境界面付近に微小粒子の捕捉層を有していることを示すものである。さらに内層の中心部における断面開孔率は、外層の断面開孔率よりもかなり小さい。従って、本発明の膜の孔径を捕捉したいウィルスに合わせて設計すれば、2つのウィルス捕捉領域の存在によって2段階の高いウィルス除去性能を示し、しかも優れた濾過速度を発現することが可能となる。
【実施例2】
【0089】
ポリエチレン樹脂32重量%、可塑剤41.8重量%(DOP)、疎水性シリカ粒子26.2重量%、酸化防止剤0.32重量%を混合し、ミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料をA−2とする。一方、実施例1のB−1と同じ組成の原料も調製した。混合原料A−2を220℃に昇温した内層用の第1押出機に、混合原料B−1を200℃に昇温した外層用の第2押出機にそれぞれ投入し、220℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を100℃としたキャスト装置により、キャストロールの隙間をシートの厚みが約550μmとなるように調整しながら、毎分1.0mの速度で巻き取った。なお、A−2の吐出量を5kg/h、B−1の吐出量も5kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートから実施例1と同様の抽出工程、次いで親水化処理を実施することにより、平膜状の親水化多孔膜を得た。得られた親水化多孔膜の基本物性を表1に示す。
得られた膜を用いて金コロイドの阻止性能を測定した。結果を表2に示す。
【実施例3】
【0090】
ポリエチレン樹脂20重量%、可塑剤46.7重量%(DOP)、疎水性シリカ粒子33.3重量%、酸化防止剤0.20重量%を混合し、実施例1と同じミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料を押出機(ウェルナー製 ZSK40MC 同方向噛合型2軸押出機)に投入し、スクリューで加熱・混錬して、200℃でペレット成型用のストランドダイスから押し出した。押出された成型物を25℃の冷却槽に通し、ファンカッター(星プラスチック製)を用いてペレット状に成型した。これをペレットB−2と称す。一方、実施例1のA−1と同じ組成の原料も調製した。
混合原料A−1を220℃に昇温した内層用の第1押出機に、ペレットB−2を200℃に昇温した外層用の第2押出機にそれぞれ投入し、B−2のフィード量と同量の可塑剤をフィーダー(クボタ製ロスインウェイトフィーダー プランジャーポンプ2連式)を用いて第2押出機に導入(該操作により、溶融混錬物中のポリエチレン樹脂濃度は10重量%となる)しながら、220℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を100℃としたキャスト装置により、キャストロールの隙間をシートの厚みが約610μmとなるように調整しながら、毎分1.3mの速度で巻き取った。なお、A−1の吐出量を5kg/h、B−2(追添可塑剤を含めて)の吐出量も5kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートから実施例1と同様に抽出工程、次いで親水化処理を実施することにより、平膜状の親水化多孔膜を得た。得られた親水化多孔膜の基本物性を表1に示す。
得られた膜を用いてBVDVの除去性能を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
[比較例1]
ポリエチレン樹脂32重量%、可塑剤42重量%(DOP)、シリカ粒子26重量%、酸化防止剤0.32重量%を混合し、ミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料を押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BT−40−S−30−L型2軸押出機(特注品))に投入し、200℃で平膜押し出し用のダイスからシート状に押し出し、キャスト装置でキャストロールの温度を120℃とし、キャストロールの隙間をシートの厚みが約100μmとなるように調整しながら、毎分4.2mの速度で巻き取り機にて巻き取った。得られたシートを単独で実施例1と同様に抽出工程と親水化処理を実施することにより、平膜状の多孔膜を得た。得られた多孔膜の基本物性を表1に示す。
また走査型電子顕微鏡を用いて多孔膜の表面構造を観察した結果(図7)、膜表面の開孔率は8%であった。この比較例は本発明において膜表面の開孔率が低下すると透水量が低下し、液体の濾過には不適となることを示す例である。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【実施例4】
【0094】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製 KFポリマーW#7200(製品名))40.0重量%と可塑剤(大阪有機化学工業株式会社製 DCHP(工業品))60.0重量%を混合し、ミキサー(カワタ製スーパーミキサー 容量100L)を用いて室温で10分間撹拌混合した。得られた混合原料をC−1とする。
一方、ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製 KFポリマーW#1300(製品名))40.0重量%、可塑剤40.0重量%(シージーエスター株式会社製 DOP/DBP=35/40(重量比))、疎水性シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製 R972グレード)20.0重量%を混合し、同様にミキサーを用いて室温で10分間撹拌混合した。得られた混合原料をD−1とする。
混合原料C−1を250℃に昇温した内層用の第1押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BTN−25−S2−45−L型 同方向2軸押出機(特注品))に、混合原料D−1を250℃に昇温した外層用の第2押出機(装置名は第1押出機と同一品)にそれぞれ投入し、250℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を35℃としたキャスト装置(大機工業株式会社製(特注品))により、キャストロールのクリアランスを約200μmに調整し、毎分1.7mの速度で巻き取った。なお、C−1の吐出量を4kg/h、D−1の吐出量も4kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートを30cm四方に裁断して金枠に固定し、イソプロピルアルコールに30℃で30分浸漬する操作を4回繰り返し、更に40℃の5重量%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬する操作を2回繰り返して可塑剤とシリカ粒子を抽出し、室温で一晩乾燥することにより、平膜状の多孔膜を得た。
得られた多孔膜の膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表3に示す。
走査型電子顕微鏡を用いて3層多孔膜の表面構造(図8)を観察した結果、膜表面の開孔率は14%であり、また図9から膜断面の膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察され、しかも内層(低開孔率層)において膜厚方法の中央部の孔径がその周辺よりも大きいことも分かった。さらに、図10と図11を対比させることでも、内層において、外層との境界付近では孔径が小さく、中心部では孔径が若干大きくなっていることが分かった。画像解析処理の結果、外層における断面開孔率は32%、内層の外層との境界付近における断面開孔率は14%であった。更に内層の中心部における断面開孔率は17%であった。従って、PVDF3層膜においても孔径を捕捉したいウィルスに合わせて設計すれば、高いウィルス除去性能と優れた濾過速度を発現させることが可能となる。
【実施例5】
【0095】
C−1の吐出量を4kg/h、D−1の吐出量を2kg/hとして内層(低開孔率層)と外層(高開孔率層)の厚み制御を行う以外は、実施例4と同じ操作にて成膜を行い、可塑剤抽出およびシリカ抽出を行うことで、平膜状の多孔膜を得た。
得られた多孔膜の膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表3に示す。
走査型電子顕微鏡を用いて得られた多孔膜の膜断面を観察したところ、図7と同様に膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察され、しかも各層の厚みは成膜時の吐出量によって制御され、外層(高開孔率層)/内層(低開孔率層)は実施例4の膜よりも低下していることが分かった。
【実施例6】
【0096】
C−1の吐出量を4kg/h、D−1の吐出量も2kg/hとして内層(低開孔率層)と外層(高開孔率層)の厚み制御を行うと同時に、キャストロールによる巻取り速度を毎分3.3mとする以外は、実施例4と同じ操作にて成膜を行い、可塑剤抽出およびシリカ抽出を行うことで平膜状の多孔膜を得た。
得られた多孔膜の膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表3に示す。
走査型電子顕微鏡にて、図7と同様に膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察されると同時に、各層の厚みも成膜時の吐出量によって制御され、しかも巻き取り速度を高くしたことで全体の膜厚も薄くなり最大孔径も小さい膜が得られた。
【0097】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、液体中に含まれるサブミクロン以下の粒子を阻止する分離膜として有用である。特に血漿やグロブリン等の生理活性物質を含む溶液から、ウィルスや細菌、病原性プリオン等を高い阻止性能かつ高い濾過速度で除去できる分離膜として利用できる。こうして得られた血漿や生理活性物質含有溶液は血漿製剤製造分野、血漿分画製剤製造分野、バイオ医薬製造分野等における種々の原料や医薬品等に用いることができる。
さらに本発明は、薬液や処理水等から微粒子を除去する産業プロセス用フィルター、油水分離膜や液ガス分離膜、上下水等の浄化用分離膜、リチウムイオン電池等のバッテリーセパレータ、及びポリマー電池用の固体電解質支持体等、広範囲な用途に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜の表面を15000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜の断面を100倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、低開孔率層と高開孔率層の境界の断面を3000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、低開孔率層と高開孔率層の境界の断面を10000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、膜断面における低開孔率層の中央付近を10000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、金コロイド溶液透過後の膜断面の光学顕微鏡写真である。写真上側が溶液の入り側である。
【図7】比較例1で得られたポリエチレン多孔膜の表面を15000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜の表面を10000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜の断面を450倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜において、低開孔率層と高開孔率層の境界の断面を5000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜において、膜断面における低開孔率層の中央付近を5000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に含まれる微粒子を除去する分離膜技術において、液体等の透過速度が高く、かつ、高い微粒子の阻止性能を併せて有する、分離膜として有用な多孔膜に関する。さらに本発明は、生理活性物質を含有する液体からウィルスの除去に有用な多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中からサブミクロン程度の微粒子、特に微生物粒子を除去する方法として、ゲル濾過法、遠心分離法、吸着分離法、沈澱法、膜濾過法が利用されている。これら除去方法の中でも膜濾過法は、微粒子の種類に関わらず、特定の大きさ以上の微粒子であればその分画能により除去でき、しかも大量処理が可能であるという点で優れていると言われている。また膜を用いた濾過方法は、医薬品製造や食品製造の中間原料である有用タンパク質含有溶液から不要物を除去する用途にも大いに期待が寄せられている。
【0003】
近年、特に抗体医薬製造分野、血漿製剤製造分野、血漿分画製剤製造分野等において、潜在的に混入している危険性のあるウィルスなどの病原性物質を除去する技術がクローズアップされている。
【0004】
そこで上記製剤等に混在する可能性のあるウィルスを不活化又は除去するための様々な方法が提案されてきた。ウィルスを不活化する方法としては、加熱処理による殺菌法や、Solvent/Detergent(S/D)法に代表される薬品による化学的処理がある。しかしながら、これら不活化方法は、全てのウィルスに等しく作用する訳ではなく、ウィルスの種類によってはその不活化の効果が制限される。例えば、耐熱性を有するA型肝炎ウィルス等に加熱処理による不活化の効果は期待できない。また、小児まひを起こすポリオウィルスや風邪の症状を起こすアデノウィルス等は、脂質二重膜とエンベロープ蛋白とで構成されるエンベロープを持たないため、脂質二重膜を破壊することによってエンベロープ蛋白を失わせ、感染性を失わせるS/D法は、原理的に効果が無い。さらに化学的処理に用いる薬品が人体に対して有害である場合には、薬品の除去工程が必須となる。
【0005】
これに対してウィルスを物理的に除去する方法の一つとして、膜濾過によるウィルスの分離除去、いわゆる「ウィルス除去膜法」が挙げられる。この方法が前述した不活化の方法に比べて優れている点は、粒子の大きさに応じた分離機能の制御が可能であるため、ウィルスが偶然に濾過膜を通過する可能性を抑制し、ウィルスの熱的あるいは化学的性質には無関係に全てのウィルスの除去に有効であるという点である。このような用途に用いる濾過膜は、そのウィルス除去能を低下させずに、より高い濾過速度を実現させる工夫が常に求められる。使用する膜の濾過速度が大きくなれば、より短時間に必要量を処理でき、目的物の生産効率を高めることができるからである。従って、ウィルス除去膜に適した構造を有する多孔膜の開発が、種々行われている。
【0006】
ウィルスの種類としては、最も小さいもので直径18〜24nm程度のパルボウィルスや直径25〜30nmのポリオウィルス等があり、比較的大きいものでは直径80〜100nmのHIV(ヒト免疫不全ウィルス)等がある。このようなウィルス群を膜濾過法によって物理的に除去するためには、少なくとも最大孔径が100nm以下の微多孔膜が必要である。
【0007】
一方、ウィルス除去膜にはウィルス除去性能だけでなく、アルブミンやグロブリン等の生理活性物質の透過性が高いことが求められる。このため、孔径が数nm程度の限外濾過膜や、更に孔径が小さい逆浸透膜等はウィルス除去膜として適当でない。
従って、ウィルス除去膜には、除去したいサイズのウィルス群は捕捉するが、回収すべきアルブミンやグロブリン等の生理活性物質は十分透過する適切な孔径が要求され、その孔径は一般的に10〜100nm、好ましくは20〜50nmである。
【0008】
また、ウィルス除去に適した孔径を持つ微多孔膜であっても、内部空孔率に比較して表面の開孔性が低い膜、いわゆるスキン層を有する微多孔膜は濾過速度が低く好ましくない。これは開孔性の低いスキン層の存在によって、膜厚方向内側の孔が十分に利用されないこと、或いはスキン層自体が大きな濾過抵抗となることによって生じるものと考えられる。従って、表面にスキン層を有しないことが望ましい。一般に熱誘起相分離を利用した溶融成膜法は、膜内部にマクロボイドを形成しにくく比較的均質な孔径分布構造を形成するため、ピンホールによるウィルス漏れの危険性が低く、同時に高い膜強度を与えるため、ウィルス除去膜の製造方法としては好ましいといえる。ところが、この溶融成膜法は、一般的にポリマーと可塑剤等からなる組成物を溶融後、急冷するために膜表面にスキン層が生じやすくなる。従って、溶融成膜法で形成された孔構造を有し、しかも表面開孔性の高い多孔膜は、ウィルス除去膜に適していると言える。
【0009】
またウィルス除去を発現する小さな孔を有する緻密な層、いわゆるウィルス除去層は、成膜工程やフィルターカートリッジへの組立工程等において加えられる可能性のある外力によって亀裂やキズが生じると、ウィルス漏れにつながる。従って、ウィルス除去層を保護する多孔質層が一体化されていることもウィルス除去膜には必要である。このような保護層は、濾過溶液に含まれる粗大異物を予め濾過するプレフィルターとしての機能を発現する場合もある。なおこのような保護層の存在が、逆に濾過速度を低下させてしまうと好ましくないので、保護層の開孔率はウィルス除去層の開孔率よりも大きいことが好ましい。
【0010】
特許文献1には特定の物性を有するポリオレフィン樹脂、有機液状体、無機微粉体を混合した後、Tダイ押出成型や射出成型によって溶融成型し、得られた成型物から有機液状体及び無機微粉体を抽出して微孔性ポリオレフィン多孔物を製造する方法が開示されている。該方法によって製造した多孔膜は、膜の最表面の開孔性が悪く、液体中に含まれる微粒子を除去するための分離膜としての用途では、高い濾過速度が得られない。
【0011】
特許文献2には開孔率が大きい粗大構造層と、開孔率が小さい緻密構造層を有する、熱可塑性樹脂を含む微多孔膜であって、該粗大構造層が少なくとも一方の膜表面に存在し、該粗大構造層と該緻密構造層が一体化している多層微多孔膜が開示されている。該緻密構造層は、開孔率の均質性が高く、しかもその厚みは膜全体の50%以上を占めるため、ウィルス除去を担う小孔径領域層が厚くなり、高いウィルス除去性能が期待されるが濾過速度の低下が懸念される。
【0012】
特許文献3には孔径の大きなプレフィルタ領域と、孔径の小さな適性領域とからなる膜エレメントを孔径の小さな適性領域同士が相並ぶように、相分離後に積層される微孔性濾過膜が開示されている。このようにして作製される膜の適正領域の孔径をウィルス除去可能となるまで小さくする場合、相分離の際の急冷時に適性層表面に開孔率の低いスキン層を生じる可能性が高い。スキン層を有する適性層同士を貼り合わせれば、貼り合わせ領域において、一方の膜エレメントからもう一方の膜エレメントへと孔が連通する確率は、お互いのスキン層の開孔部が重なり合う確率に相当することから、濾過速度が大きく低下することは明らかである。また、一方の膜エレメントにスキン層が無い、孔径のやや大きなものを用いた場合においても、もう一方の膜エレメントに存在するスキン層により、やはり濾過速度は阻害されることになる。
【0013】
特許文献4には、高分子を溶媒に溶解させた高分子溶液を支持材に塗布後、湿気のある空気を吹き付けた後に非溶媒に浸漬させることで、膜厚方向に孔径分布を有し、しかも膜内部において孔径最小層を有する多孔膜、およびその製造方法が開示されている。該多孔膜は、粗大層が厚くなるため膜内部の該孔径最小層の保護には有効である。しかし、孔径が膜厚方向にて連続的に大きく変化する膜構造であるため、粒子捕捉性能を発現する該孔径最小層は非常に薄くなってしまい、しかもこのような層が膜内に一層しかないため、ウィルス等の微小粒子を阻止する膜としては不十分である。実際、該多孔膜によってウィルス除去を実現させるための条件は一切記載されていない。
【0014】
特許文献5には、少なくとも1つの非対称限外濾過膜層と少なくとも1つの微孔質膜層を有し、これら2つの層は結合部にて一体となっており、該結合部には多孔度の遷移帯域を有する一体型多層複合限外濾過膜が開示されている。しかし該一体型多層複合限外濾過膜では、ウィルス除去層として機能する限外濾過膜層が非対称構造であるため、限外濾過膜相中におけるウィルス除去性を実質的に担う領域層が薄くなってしまい、しかもそのような層が限外濾過膜内に一層しかないため、十分なウィルス除去性能を発現させることが難しい。
【0015】
特許文献6には少なくとも2種の高分子溶液を、連続して移動する無孔性の支持体上に共流延し、相分離させて積層膜を得る方法、および該方法によって得られる多層膜が開示されている。しかし該文献には種々の層構成の多層膜が得られるとの記載、さらに外側の2層の孔径が内側の層の孔径よりも大きい3層積層構造の記載はあるものの、該積層膜による具体的な除去対象物が示されておらず、当然ウィルス除去能を有し、且つ高い濾過速度を実現する多層膜に関しては一切記載されていない。
【0016】
特許文献7には高分子濃度が40から80重量部、溶剤が20から60重量部、フッ化合物が少なくとも0.5重量部以上からなる組成物を溶融し、フィードブロックまたはマルチマニホールドダイを用いて共押し出しすることで微多孔層に多孔性または非多孔性の層を積層する積層膜の製造方法が開示されている。しかし、ウィルス除去能を有し、且つ高い濾過速度を実現させるための条件は一切記載されていない。また、フッ素化合物を含有することにより撥水性を発現するため、液体の濾過には不向きである。
【0017】
特許文献8には、無数の膜内貫通孔を含んで成る高分子多孔質中空糸であって、該中空糸の内壁面から外壁面への膜厚方向に垂直な面における孔径を面内平均孔径で表す時、前記膜内貫通孔の入口、および出口における面内平均孔径が0.02μmから10μmの範囲であり、かつ面内平均孔径が極小の部分、該極小の部分より面内平均孔径が大きい部分、極小の部分に配列された構造が、中空糸の内壁面から外壁面への膜厚方向に少なくとも1組存在する中空糸膜が開示されている。このような膜構造であれば、面内平均孔径が極小の部分が膜厚方向に少なくとも2つ存在するため、ウィルス等の微小粒子の阻止性能は高くなることが期待される。しかし、実施例に開示されている走査型電子顕微鏡写真及び開示されている製造方法から、2つの極小部分の間に存在する該極小の部分より孔径が大きい部分の面内空孔率は、内壁面および外壁面から平均孔径が極小の部分までの層の面内空孔率と同程度であり、孔径極小部分の面内空孔率よりもかなり高いことが分かる。このように膜厚方向における膜中心付近の面内空孔率が非常に高く、孔径極小部分の孔径よりも2つの極小部分の間の層の孔径が明らかに大きい構造である場合、孔径極小部から膜中心部の孔径極大部までの連続的な孔径増大の勾配は大きくなる。従って、必然的にウィルス等の微粒子阻止を担うべき孔径極小領域の厚みは小さくなり、孔径極小部よりも膜中心寄りの領域ではウィルス阻止への寄与は急速に低下してしまうことになる。その結果、膜中心部での濾過抵抗が低いため濾過速度は高いが、逆に膜中央寄りの領域はウィルス除去に全く寄与できないためウィルス除去性能は不十分となり、ウィルス除去膜としてはバランスが悪く不十分な膜となってしまう。また、該発明は中空糸膜に限定されているが、該発明開示の方法でシート状膜に成型するためには、均等にシート面に凝固性液体(中空剤に相当する)と接触させながら厚みの均一化を図る必要があるが、通常表面平滑性や厚み均一性を出すために使用されるキャストロールを使用することが難しく、シート状膜への成型は困難である。膜がシート状である場合、フィルターカートリッジへの組立てが容易であること、組立ての際に別種の膜(例えばプレフィルター)を同時に組み込むことで性能を向上させたカートリッジを作成することも容易であること、さらに中空糸膜カートリッジで問題となる、糸内部に入り込んだ気泡の除去操作(脱泡操作)が、シート状膜では大きな問題にならないこと、といった利点がある。
【0018】
従って、ウィルス除去に適した孔径の緻密層を有することはもちろんのこと、高いウィルス除去性能と高い濾過速度をバランス良く発現する孔構造を有する多孔膜であって、さらにカートリッジ組み立てや膜の成型加工中に起こる可能性のある損傷から緻密層を保護する一方、プレフィルターとしての役割も担うことができる粗大層が緻密層の両面に一体化された優れた多孔膜が、ウィルス除去膜として求められていた。
【特許文献1】特公昭60−23130号公報
【特許文献2】WO03/026779A1パンフレット
【特許文献3】特表2006−503685号公報
【特許文献4】GB2199786Aパンフレット
【特許文献5】特開2006−7211号公報
【特許文献6】US2002/0113006A1パンフレット
【特許文献7】WO03/104310A2パンフレット
【特許文献8】特開昭62−184108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、高いウィルス除去性能と優れた濾過速度の発現に適した構造を有し、しかもカートリッジ組み立てや膜の成型加工中に起こる可能性のある損傷から緻密層を保護する一方、プレフィルターとしての役割も担うことができる粗大層が緻密層の両面に一体化された多孔膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本願発明を完成させるに至った。
【0021】
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする多層微多孔膜。
(2)低開孔率層中の該最小孔径層が、高開孔率層に接して位置することを特徴とする(1)に記載の多層微多孔膜。
(3)低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることを特徴とする(1)または(2)に記載の多層微多孔膜。
(4)高開孔率層の断面開孔率が、低開孔率層における膜厚方向の中心部の断面開孔率より5%以上高いことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(5)低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比が0.2以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(6)溶融成膜法によって得られた多孔構造を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(7)両表面の表面開孔率が10%以上であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(8)該高分子がポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、フッ素化炭化水素ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合ポリマーのいずれかであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(9)該高分子がポリエチレン、またはポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする(1)〜(7)に記載の多層微多孔膜。
(10)細孔表面が親水性高分子で被覆されていることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の多層微多孔膜。
(11)該親水性高分子が水酸基を有することを特徴とする(10)に記載の多層微多孔膜。
(12)(1)〜(11)のいずれかに記載の多層微多孔膜を用いて、少なくとも2種の成分を含有する液体から、特定の成分を濾過する方法。
(13)細菌、真菌、ウィルス、病原性プリオン、白血球、及び細胞由来粒子からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、生理活性物質を含む液体から、生理活性物質をのみを透過することを特徴とする(12)に記載の液体の処理方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液体等の透過速度が高く、かつ、液体中に含まれる微粒子、例えばコロイド、不溶性高分子、細菌、ウィルス、病原性プリオン等を阻止する分離膜として有用な多孔膜を提供することができる。
更に本発明によれば、血漿分画製剤や抗体医薬品のようなバイオ医薬品の生産工程において、高い濾過速度と高いウィルス除去性能を発現する分離膜を提供することができ、これを用いて安全性の高い医薬品を、より高い生産効率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする。
【0025】
本発明の低開孔率層および高開孔率層とは、膜断面における断面開孔率の相対的な大小関係によって定義される。ここでいう膜断面開孔率とは、膜断面の電子顕微鏡観察結果から画像解析処理によって膜面における空隙部分の占める面積比率を計測して出した値である。
【0026】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造であり、3つ以上の断面開孔率の異なる層から成る膜が包含されるが、膜製造の容易さや装置の簡便性の観点から3層構造であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の多層微多孔膜の形状は特に限定されず、シート状でも中空糸状でも構わない。しかしながらシート状膜は、フィルターカートリッジへの組立てが容易であるし、組立ての際に別種の膜(例えばプレフィルター)を同時に組み込むことで性能を向上させたカートリッジを作成することも容易である。さらに中空糸膜カートリッジで問題となる、糸内部に入り込んだ気泡の除去操作(脱泡操作)が、シート状膜では大きな問題にならない。そのような点を考慮すれば、本発明の多層微多孔膜の形状はシート状であることが好ましい。
【0028】
本発明において層とは、膜厚方向の一定の厚み毎に測定された断面開孔率が一定の範囲にある領域を意味する。すなわち、膜の厚み1μm毎の断面開孔率測定を実施した場合に、任意の5μmの厚み範囲にて断面開孔率の差が全て5%未満であれば、その膜は1層からなることを意味し、5%以上の差の厚み範囲が1つ存在すれば、その膜は開孔率の異なる2つの層から成るものとする。2つの高開孔率層の間に低開孔率層が存在すると、低開孔率層には高分子の占める割合が高いため、膜の強度が高くなり、外力によって膜が潰れてしまうことを防ぐことができるため好ましい。適切な膜強度を与えるため、また高いウィルス除去性と優れた濾過速度を発現させるため、高開孔率層の断面開孔率は、低開孔率層における膜厚方向の中心部の断面開孔率より5%以上大きいことが好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。
【0029】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造である。積層一体化とは、2つの層の境界領域にて、両層の高分子が相互に入り込んだ形で孔を形成し接着した状態であり、この状態は走査型電子顕微鏡にて観察することが可能である。このような一体化構造は、成膜時において、低開孔率層を形成する溶融組成物と高開孔率層を形成する溶融組成物を互いに溶融した状態で積層し、引き続いて同時もしくはどちらかの層を先に相分離させることで得ることができ、その結果両層を簡単に分離することは困難である。
【0030】
本発明の多層微多孔膜のバブルポイント法で求めた最大孔径は、10〜100nmである。バブルポイント法とは、膜を液体で満たした状態で気体の透過挙動を測定し、膜にある最も大きな孔の大きさを評価する方法である。本発明における最大孔径は、ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法で測定した値である。具体的には、フィルターホルダーにセットした評価膜を試験液に浸漬して湿潤し、フィルターの片側を空気でゆっくりと加圧していく。フィルターのガス透過側に設置した流量計が安定した流れの泡の上昇を検知する最低の圧力をバブルポイントとして記録し、後で述べる式を用いて最大孔径として換算する。
【0031】
膜の最大孔径を100nm以下とすることによって、除去すべき粒子、例えばウィルスを含んだ溶液を濾過する際、エイズウィルスなど大きさが比較的大きなウィルスの溶液中濃度を低下させることができる。また除去したい粒子の大きさによって、最大孔径はもっと小さく設計することも可能であり、より広範囲のサイズのウィルスを除去しようとする場合は、最大孔径は75nm以下が好ましく、55nm以下がより好ましく、45nm以下が特に好ましい。
【0032】
本発明の多層微多孔膜は、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする。一般に孔径の小さな層は開孔率の低い部分に現れるため、本発明の3層構造では低開孔率層がウィルス等の微粒子除去性能を発現するが、本発明のように低開孔率層中に2つ以上の最小孔径層が存在することは、仮に一方に欠陥を生じ、十分な粒子除去性が発現されなかったとしても、別の小孔径層が更なる粒子除去性を発現することで、粒子の漏出を防ぐことができる。また低開孔率層中の該最小孔径層は、高開孔率層に接して位置することが好ましく、さらに低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることが好ましい。なお、ここでいう孔径の大小は走査型電子顕微鏡観察によって確認できる。
【0033】
上記のような膜構造は、溶融した組成物をシート状等に成型した後、急速に冷却して孔構造を形成する、いわゆる熱誘起相分離法を用いて得ることができる。熱誘起相分離法の場合、膜中心部の方が該中心部の周辺部より冷却速度が遅くなるため、膜の中心部の孔径が該中心部の周辺部の孔径より若干大きくなり、しかも上記中心部の周辺部から中心部へ向かって孔径が連続的に緩やかに大きくなるという特徴を有する。そして、このような孔径分布の特徴は、高分子濃度の高い組成物と、高分子濃度の低い組成物を共押出しして成膜する場合には、特に、高分子濃度の高い組成物から得られる低開孔率層中にみられる。そのような膜構造を得る具体的な方法を、実施例に示した。
【0034】
上記のように、低開孔率層の中心部の孔径が該中心部の周辺部の孔径より緩やかに大きいことにより、ウィルスやタンパクを含む液体からウィルス等の微粒子を除去するに際し、優れた微粒子捕捉性を発現しつつ、膜内部での目詰まりを抑制しながら高い濾過速度を維持し得る分離膜として有用となる。
【0035】
本発明の多層微多孔膜を構成する高分子は、本発明の膜構造が形成可能なものであれば特に限定されず、通常、膜素材として用いられる高分子を用いることができる。そのような高分子としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチル1−ペンテン)等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素化炭化水素ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、およびそれらのブレンド物や共重合体が挙げられる。エチレンビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールは、表面が親水性であるため親水化工程を省略することができることから好ましい。さらにポリエチレン、ポリフッ化ビニリデンは、成膜性に優れ、強度の大きい膜を得ることができる点から好ましい。特に本発明の多層微多孔膜を医薬品製造や血液製剤製造分野において用いる場合、蒸気滅菌、特にインライン滅菌に耐える耐熱性が要求されるため、耐熱性の高いポリフッ化ビニリデンは最も好ましい高分子素材である。
【0036】
本発明の多層微多孔膜では、走査型電子顕微鏡の構造観察結果から、低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比を容易に計算することが可能であるが、該高開孔率層によって内部の緻密領域を保護する十分な役割を果たすためには、該厚さの比が0.2以上であることが、十分な表面開孔性を与えるとともに、内部の緻密層の保護に有用であるため好ましい。
【0037】
本発明の多層微多孔膜は、表面開孔率が10%以上であることが好ましい。表面開孔率とは、多層微多層膜の表面の走査型電子顕微鏡写真の画像解析から求められる値である。膜表面の開孔率が10%未満であると、濾過すべき溶液に対する抵抗となり、濾過速度が不充分となる。一般的に溶融成膜法によって得られる膜を1種類の組成物のみから製造する場合、例えば本発明の低開孔率層を形成するような高分子濃度の高い組成物のみを使用して孔径の小さい膜を得ようとすると、表面に開孔率の低い、いわゆるスキン層を形成し、液体等の透過速度が大幅に小さくなる。一方、本発明の高開孔率層を形成するような高分子濃度の低い組成物のみを使用すると、開孔率が高くなりスキン層の形成を防ぐことはできるが、孔径を小さくすることがでず微粒子阻止性が不十分と成る。従って、本発明に述べるように高分子濃度の低い溶融組成物を高分子濃度の高い溶融組成物の両面に位置するように積層して熱誘起相分離を誘起して積層膜を製造すると、膜表面のスキン層の形成を防ぎながら、ウィルス等の粒子阻止が可能な孔径の膜を得ることができる。
【0038】
本発明の多層微多孔膜は、溶融成膜法によって得られた多孔構造を有することを特徴とする。溶融成膜法によって得られた多孔構造とは、まず孔径が比較的均質であり、膜厚方向における孔径の連続的な変化が小さい構造である。ただし、本発明の多層微多孔膜では、特に低開孔率層において膜厚方向の中心部が極大となる緩やかな孔径変化を示し、これが特徴の一つである。これに対し、いわゆる「非溶剤誘起相分離」に基づく湿式成膜法では膜厚方向の孔径変化が激しいものとなる。また、もう一つの構造的特長は、膜内部に実質的に10μm以上のマクロボイドを含まないことである。これに対して上記の湿式成膜法ではマクロボイドが形成しやすい。この結果、溶融成膜法によって得られた多孔膜は、ピンホールによるウィルス除去性能の低下が起こりにくく、膜強度も高いものとなる。
【0039】
本発明の多層微多孔膜は、透水測定法によって求めた平均孔径が10〜200nm、好ましくは15〜180nm、更に好ましくは20〜160nmの範囲にあると良い。平均孔径をこの範囲とすることによって、除去すべき粒子、例えばウィルス、の除去性能を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することが可能となる。
【0040】
本発明の多層微多孔膜の透水量は、孔径によって変化するが、1〜3000、好ましくは10〜2000、更に好ましくは100〜1000の範囲にあると良い。該透水量は膜厚を100μmに換算した値であり、単位はL/m2/hr/(0.1MPa)/100μmである。なお該単位中、「hr」は単位時間として「1時間」を意味する。透水量をこの範囲とすることによって、除去すべき粒子、例えばウィルス、の除去性能を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することが可能となる。
【0041】
本発明の多層微多孔膜は、その気孔率が一定の範囲にあることが好ましく、その値は20〜80%、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜80%であると良い。気孔率をこの範囲とすることによって、濾過に必要な機械的強度を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することができる。本発明において気孔率とは、膜を10cm四方で切り出し、その厚みと質量、および膜素材となる高分子の密度の値から求められる数値であり、後で詳細に述べる。
【0042】
本発明の多孔膜は、その膜厚が10〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmの範囲にあると良い。膜厚をこの範囲とすることによって気孔率同様、濾過に必要な機械的強度を維持しながら、実用的な濾過速度を実現することができる。なお本発明において、膜厚とは、膜厚計を用いて多孔膜の異なる箇所の厚みを10点計測した数値の平均値である。
【0043】
本発明の多層微多孔膜の細孔表面は、親水性高分子で被覆されていることが好ましい。
細孔表面とは、多孔膜を液体に浸漬し、膜の細孔内を全て液体で満たした状態において、接液している部分を意味する。
【0044】
親水性高分子とは、該分子構造中に親水性基を含有する高分子を意味する。親水性基としては水酸基、アミド基、カルボキシル基、スルホン酸基、繰り返し単位数1〜4程度のポリオキシエチレン基等が挙げられ、中でも水酸基を含有する高分子は特に好ましい。親水性高分子が膜の細孔表面を被覆していると、水の自発的浸透を可能とすることで水系の濾過溶液の細孔への浸入を容易とし、またタンパク等の非特異的吸着を阻害するために膜の目詰まりを防止し、優れた濾過速度を発現することができる。
【0045】
水酸基を含有する高分子としては、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、ポリ(1−ヒドロキシエチレンオキシド)、ポリ(2−ヒドロキシエチレンオキシド)等のポリ(エチレンオキシド)誘導体などの高分子、または2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類を重合して高分子としたもの、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。特に2−ヒドロキシプロピルアクリレートを重合して高分子としたものは十分な親水性を有し、タンパク濃度の高い水溶液を濾過する際の濾過速度を高く保つ効果が大きいため、好適に用いられる。
【0046】
本発明に用いる多孔膜の細孔表面を被覆する親水性高分子の量は、下記式(A)に定義される「親水化率」で表現する場合、3〜200重量%の範囲にあることが好ましく、5〜100重量%がより好ましく、10〜70重量%とするのが特に好ましい。被覆する親水性高分子の量をこの範囲とすることによって、タンパク濃度の高い水溶液を濾過する際の濾過速度を高く保つことができる。
【0047】
親水化率(wt%)=(親水化多孔膜の重量−親水化前の多孔膜の重量)/(親水化前の多孔膜の重量)×100 ・・・ (A)
【0048】
次に本発明の多層微多孔膜を製造する方法について説明する。
【0049】
本発明の多層微多孔膜は、少なくとも高分子及び可塑剤を含み、組成の異なる少なくとも2種の組成物を用意し、高開孔率層を形成する組成物の溶融物が低開孔率層を形成する組成物の溶融物の両面に位置するように積層した後、冷却によって相分離を起こさせる「熱誘起相分離法」による溶融成膜法を用いることで得ることができる。溶融成膜法とは、該高分子の融点以上に該組成物を加熱して均一に溶融する工程、溶融した組成物を膜状に成型する工程、膜中に可塑剤、場合によっては無機粒子を含有するため、引き続き可塑剤、無機粒子を膜中から除去する工程からなる。
【0050】
高分子の種類や状態によっては、明確な融点が観測されないものもあるが、そのような高分子を用いる場合においては、可塑剤等と均一に溶融しており、且つ成型するにあたって十分な流動性を有するようになっていればよいものとし、その判断は当業者であれば容易になせるものである。
【0051】
本発明に用いる可塑剤としては、膜素材として用いる高分子と混合して加熱した際、該高分子の結晶融点以上の温度で均一溶融し得るものであって、該均一溶融物を冷却した際に、常温以上の温度で熱誘起型相分離点を有するものを用いる。そのような可塑剤としては、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(以下、「DOP」と略す)、フタル酸ジイソノニル(以下、「DINP」と略す)、フタル酸ジイソデシル(以下、「DIDP」と略す)、フタル酸ジ(n−オクチル)(以下、「DnOP」と略す)、フタル酸ジ(n−ブチル)(以下、「DBP」と略す)、フタル酸ジシクロヘキシル(以下、「DCHP」と略す)等のフタル酸エステル類、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)等のトリメリット酸エステル類、セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類、アジピン酸ジブチル等のアジピン酸エステル類、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類、タローアミン類、ステアリン酸エステル等の長鎖アルキルエステル類、ステアリルアルコール等の高級脂肪酸アルコール類、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素系可塑剤等が好ましい。特に高分子素材として前記のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合は、これらと相溶性の大きい、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ビス(n−ブチル)、フタル酸ジシクロヘキシルを用いることがより好ましい。またこれらの可塑剤は単独でなく、得られる膜の孔径を調整するために混合して用いても良い。
【0052】
本発明においては、高分子と可塑剤の混合比は、高分子の重量割合として10〜80%となるように選択するのが好ましく、15〜70%とするのがより好ましく、20〜60%とするのが特に好ましい。高分子の割合が10重量%未満では、成膜性が低下する、実用的な強度が得られない等の不都合が生じる。また高分子の割合が80重量%を越えると、気孔率が小さくなるため、純水の透過速度が低下する。
【0053】
本発明の多孔膜を成型するために、該組成物中に高分子、可塑剤の他に微小な粒子径を有する無機粒子を含有させてもよい。該組成物中に無機粒子を含めば、無機粒子が可塑剤の担持体となり、該組成物中における高分子と可塑剤の分散性を向上させ、加熱溶融時の均一性の向上、ならびに冷却時における熱誘起型相分離の均一性の向上に寄与する。無機粒子としては特に限定されないが、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、およびこれらの誘導体で構成された粒子等が挙げられ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、非晶質二酸化珪素(以下、「シリカ粒子」と称す)が好ましい。特にシリカ粒子は成膜の後、アルカリ溶液で容易に抽出できる点からより好ましい。無機粒子の粒径としては一次粒子径として1nm〜1μmが好ましく、1nm〜100nmがより好ましく、1nm〜50nmが特に好ましい。また無機粒子は高分子との相溶性を上げるため、その粒子表面を適切に化学修飾しても良い。例えばシリカ粒子の場合、そのままでは組成物中における分散性が不十分な場合もあるので、そのような場合には一般に疎水性シリカ粒子と総称される種類を用いることもできる。そのような例としては、アエロジル社の疎水性品(製品グレード例:R972)、レオロシール社の疎水性品(製品グレード例:DM−10)などが挙げられる。また、これらシリカ粒子の製造方法については湿式法、乾式法など特に限定されない。
【0054】
無機粒子と可塑剤の重量比は1対10〜10対1となるように選択するのが好ましく、1対5〜5対1とするのがより好ましく、1対3〜3対1とするのが特に好ましい。この範囲で重量比を選択することによって実用的な透過速度を持つために必要な開孔性を有する膜を得ることが可能となる。
【0055】
本発明においては、高分子、可塑剤、無機粒子の他に、その他の添加剤、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、等を混合しても良い。特に高分子の熱劣化を抑制するために酸化防止剤、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加してもよく、例えばイルガノックス(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を高分子に対して重量比で0.01〜10%添加することは、得られる膜の強度保持のため推奨される。
【0056】
上記の材料を用いて準備した、少なくとも高低2種類の高分子濃度の組成物は、まず均一溶融する必要があり、その方法は特に限定されないが、例えばスクリュー式押出機等の連続式樹脂混錬装置に投入して均一溶融することができる。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。該組成物の押出し機への投入形態としては、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれでも良い。
【0057】
次に均一に溶融された組成物は、引き続き積層成型される。高開孔率層と低開孔率層を積層一体化する方法としては、高低2種類の高分子濃度の組成物を、それぞれ別々の2つの加熱したスクリュー式押出機に投入し、加熱・混錬しながら均一に溶融させた後、共押出し用金型内(ダイス内)で接触させながら共に押し出し、巻き取り機で巻き取る方法が好ましい。このとき別々の押出機で溶融された組成物を成型するための共押出し用ダイスは、内部に少なくとも3つの流路に区切られた内部構造を有するものを用いる。特に3つの流路を有する場合には、中央が低開孔率層用の溶融組成物の流路で、その両側は高開孔率層用の溶融組成物の流路となる。但し、それぞれの溶融組成物が合流する点はダイス内の任意の位置に設けることができる。
【0058】
なお、積層一体化した多層積層膜を得るその他の方法としては、例えば高低2種類の高分子濃度の組成物をそれぞれ別々に加熱したスクリュー式押出機に投入し、加熱・混錬しながら均一に溶融させた後、単層平膜成型用のダイスを用いてそれぞれ別々にシート状に押し出し、次いで高分子濃度の高いシートの両表面に該高分子濃度より低高分子濃度のシートを重ね合わせた積層体を圧縮成型機等の中で加熱して再溶融させた後、冷却する方法でも可能である。
【0059】
共押出し用ダイスを通して溶融積層シートを押し出す場合、ダイスから押し出されたシート状物は、通常、キャスト装置と呼ばれる冷却及び圧延可能な装置のロール部で、該溶融積層シートの冷却及び/または厚みの調整を行いながら、適度な巻き取り張力となるように巻き取り速度を調整した巻き取り機で巻き取られる。多層微多孔膜の孔径がウィルス除去に適切なものにするためには、キャスト装置のロール部において溶融物を急冷することが好ましいことから、ロール温度は上記溶融温度より80℃以上低いことが好ましい。特に高分子素材としてポリフッ化ビニリデンを用いる場合は、ロール温度は溶融温度より150℃以上低いことが好ましい。
【0060】
以上の方法によって得られたシート状成型物は、膜中に可塑剤、場合によっては、無機粒子を含有するため、引き続き、可塑剤、無機粒子を膜中から除去する必要がある。
【0061】
可塑剤を抽出するための抽出溶剤としては、膜素材として用いる高分子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点が膜素材として用いる高分子の融点より低いことが望ましい。例えば可塑剤がフタル酸エステル類であれば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類が適当であり、特に塩化メチレンはその抽出力が優れている点で好ましい。可塑剤を抽出する場合、室温より高い温度で浸漬処理をするとより効果的に抽出を行うことができる。以上の抽出工程により、可塑剤を除去した多孔膜が得られる。
【0062】
また膜中に含有される無機粒子を抽出するためには、無機粒子を溶解することのできる溶液に膜を浸漬させる方法が推奨される。無機粒子を抽出する場合も、可塑剤を抽出する時と同様、室温より高い温度で浸漬処理をするとより効果的に抽出を行うことができる。特に無機粒子がシリカ粒子の場合は20〜60質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液に30〜60分程度、膜を浸漬する方法が効果的である。ただしポリフッ化ビニリデンのようにアルカリ水溶液との接触にて化学変化(変色)を起こす可能性のある高分子の場合は、水酸化ナトリウムの濃度や浸漬温度、時間を適宜調整することが好ましい。
【0063】
なお本発明では、可塑剤と無機粒子の双方が膜中に含有されている場合、抽出する順序は特に限定されないが、その作業性から、無機粒子よりも可塑剤の抽出を先に行うことが好ましい。以上の除去方法により、可塑剤、場合によっては可塑剤と無機粒子の双方を膜中より除去して多孔膜を得ることができる。
【0064】
本発明に用いる多孔膜の細孔表面を親水性高分子で被覆する方法としては、多孔膜に親水性高分子原料のモノマーをコーティングしてから熱、放射線、架橋剤等で架橋する方法、親水性高分子を適当な溶剤に溶解して膜表面にコーティングする方法、低温下で電子線やガンマ線等の電離性放射線を膜に照射してラジカルを発生させ、次いで液状または気体状のモノマーと接触させる方法(以下、前照射法と称す)、膜を予めモノマーと接触させた状態で電離性放射線を照射してモノマーを重合させる方法(以下、同時照射法と称す)等、公知の方法を用いることができるが、中でも、多孔膜に電離性放射線を照射した後にモノマーと接触させる方法は、細孔表面を均一に被覆することが可能であるため、特に好ましい。
【0065】
本発明に用いる多孔膜に電離性放射線を照射する方法としては、膜周辺の酸素濃度をできるだけ低く抑えた状態で、放射線を照射することが推奨される。照射する放射線量は、本発明に用いる多孔膜においては10〜500kGyが好ましく、50〜300kGyがより好ましい。照射後の多孔膜にモノマーを接触させる方法としては、モノマーを溶媒に溶解させて溶液とし、該溶液に多孔膜を一定時間浸漬する方法が推奨される。モノマーを溶解させる溶媒としては、例えばモノマーが前述の2−ヒドロキシプロピルアクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類である場合、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、水、またはこれらの混合物が適している。
【0066】
被覆する親水性高分子の量を既述した親水化率の範囲に被覆する方法としては、多孔膜とモノマーとを接触させる時間と温度を変化させる、あるいはモノマーを溶媒に溶解させる際のモノマー濃度を変化させる等で調整することが可能である。また本発明では上記モノマーに、ポリエチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート系化合物を添加してから反応を行い、モノマーの重合の結果生じた高分子鎖を架橋しても良い。この方法は細孔表面を被覆する親水性高分子の量が大きくなった場合、透水性を高く保つために有効である。
【0067】
親水化された本発明の多層微多孔膜を利用した代表的な用途を、以下に説明する。
【0068】
本発明の親水化多層微多孔膜は、少なくとも有用物と不要物とを含有する液体中から、不要物を除去することにより有用物を精製することを含む、従来の精密濾過膜あるいは一部の限外濾過膜が現在利用されている用途に幅広く使用できる。そのような用途としては、汚泥あるいは油水混合液中からの水の精製、医薬品製造あるいは食品製造分野における中間原料の精製などが挙げられるが、特にウィルスおよびこれに類する大きさの微粒子に対する阻止性能が高いことからみて、該微粒子が潜在的に混入している恐れのある生理活性物質の精製に特に有用である。該生理活性物質としては、血漿分画製剤の原料に有用な血漿中のタンパクやバイオ医薬として用いられるタンパク等が挙げられ、そのような例としては、アルブミン、免疫グロブリン、フィブリノーゲン、血液凝固因子、アンチトロンビンIII、フィブリン糊、ハプトグロビン、活性化プロテインC、又はC1−インアクチベーター等が挙げられるが、これら例示したものに限定されない。該生理活性物質に潜在的に混入している恐れのある不要物としては、細菌、真菌、ウィルス、病原性プリオン、白血球、及び細胞由来粒子が挙げられる。従って、本発明の親水化多層微多孔膜を使用すれば、少なくとも有用物と不要物とを含有する液体を濾過することにより、不要物を除去して精製された有用物含有液体を提供することができる。さらに本発明は、少なくとも有用物と不要物とを含有する液体を本発明の親水化多孔膜で濾過することにより、不要物を除去するという液体の処理方法をも提供する。また逆の観点からの用途として、ウィルスの同定又は試験等のために、本発明の親水化多孔膜を用いて流体からウィルスを採集及び濃縮することもできる。
【0069】
本発明の親水化多層微多孔膜は、単独で使用することもできるし、適切な支持構造体と組み合わせて使用することもできる。適切な支持構造体の例としては、織布又は不織布のような多孔質支持体が挙げられる。
【0070】
また本発明は、本発明の多層微多孔膜またはその親水化膜を用いた濾過を簡便に実施する目的のため、該膜を少なくとも1枚含む濾過用フィルターカートリッジの形態をとることを含む。本発明の濾過用フィルターカートリッジは、該フィルターカートリッジに含む本発明の親水化多層微多孔膜がプリーツ状に成形されているものも含む。膜がプリーツ状に成形されている場合、平膜状の膜に比べてフィルター容量に対して大きな膜表面を提供することができるため好ましい。
【0071】
さらに本発明は、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を有するハウジング(a)、並びに該ハウジング(a)の内部空間を、該入口に連通する第1の空間(c)と該出口に連通する第2の空間(d)に分割する隔膜(b)を包含する濾過用カートリッジであって、該隔膜(b)の少なくとも一部が本発明の親水化された多層微多孔膜により構成されていることを特徴とする濾過用カートリッジも提供する。
【0072】
なお本発明の濾過用フィルターカートリッジにおいては、親水化された本発明の多層微多孔膜以外の構成要素は、ハウジング形成素材として通常用いられる材料であれば特に限定されずに用いることができる。
【0073】
本発明で用いるそれぞれの値は、以下のように定義した。
【0074】
[親水化率]
電離性放射線を照射する前に、予め多孔膜の質量を電子天秤で秤量した。膜に電離性放射線を照射してラジカルを発生させ、次いで液状または気体状のモノマーと接触させて親水化多孔膜を得た。得られた親水化多孔膜の重量を前述の電子天秤で秤量し、(1)式によって算出された重量変化率を親水化率(wt%)とした。
親水化率(wt%)=(親水化多孔膜の重量−親水化前の多孔膜の重量)/(親水化前の多孔膜の重量)×100・・・(1)
【0075】
[膜厚]
膜厚計(Mitutoyo社製 Digimatic Indicator IDF−130 (製品名))を用いて多孔膜の厚みを測定した。異なる10点の箇所で計測した数値の平均値を多孔膜の膜厚とした。
【0076】
[気孔率]
多孔膜の質量および体積を測定し、(2)式によって気孔率(%)を算出した。
気孔率(%)={1−(多孔膜の重量)/(多孔膜の比重)/(多孔膜の体積)}×100・・・(2)
【0077】
[純水透水量]
多孔膜から任意に直径25mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とし、この重量を電子天秤で秤量した。膜厚は前述の膜厚計で測定した。評価膜をフィルターホルダー(アドバンテック株式会社製 PP−25 (商品名))にセットし、温度25℃の純水を空気圧0.1MPaで加圧して一定時間透過させ、その透過量を測定した。評価膜の膜面積、膜厚から、(3)式によって透水量を算出した。
透水量(L/m2/hr/(0.1MPa)/100μm)
=(純水の透過量[L])/(膜面積[m2])/(純水の透過時間[hr])/(膜間差圧[0.1MPa])/{100/(膜厚[μm])}・・・(3)
【0078】
[平均孔径]
多孔膜の孔に流体が流れるときの個々の流路を円筒管と考え、円筒管内で流体が定常流をなして流れているときに成り立つHagen−Poiseuilleの法則を用いると、多孔膜の個々の孔に流れる純水の流量は(4)式で表される。
孔1個の流量[m3/秒]=π×(円筒管の半径[m])4/{8×(純水の粘度[Pa・秒])}×(膜間差圧[Pa])/(膜厚[m])・・・(4)
一方、多孔膜の単位面積あたりに存在する孔の数は(5)式で表される。
孔数[−/m2]=(気孔率)/{π×(円筒管の半径[m])2}・・・(5)
(4)式および(5)式を用いると、単位面積あたりの多孔膜に流れる純水の流量は(6)式で表される。
多孔膜の流量[m3/m2/秒]=(円筒管の半径[m])2×(気孔率)/{8×(純水の粘度[Pa・秒])}×(膜間差圧[Pa])/(膜厚[m])・・・(6)
多孔膜の平均孔径は、(5)式および前述の透水量の算出における各測定値を用いて計算される円筒管の半径の2倍とし、(7)式によって平均孔径を算出した。
平均孔径(nm)=2×(円筒管の半径[m])×109=2×√{(純水の透過量[m3])/(膜面積[m2])/(純水の透過時間[秒])×8×(純水の粘度[Pa・秒])×(膜厚[m])/(膜間差圧[Pa])/(気孔率)}×109・・・(7)
【0079】
[最大孔径]
ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法から求められるバブルポイント(MPa)をASTM F316−86に記載の次式(8)を基に、次式(9)によって最大孔径(nm)として換算した。多孔膜を浸漬する試験液として、表面張力が12mN/mのフッ化炭化水素液体(住友スリーエム社製 パーフルオロカーボンクーラントFX−3250 (商品名))を用いた。
最大孔径(μm)=2860×(表面張力)/(バブルポイント、Pa)・・・(8)
従って、最大孔径(nm)=最大孔径(μm)×1000
={2860×(表面張力)/(バブルポイント、Pa)}×1000
=2.86×(表面張力)/(バブルポイント、MPa)・・・(9)
【0080】
[多孔膜の構造観察]
10cm四方の多孔膜から任意に適当な大きさに切り取った膜を、導電性両面テープにより試料台に固定し、3〜5nm程度のオスミウムコーティングを施して検視用試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(日立社製 S−4700)を用い、加速電圧1.0kV、および所定の倍率で多孔膜の表面および断面の構造観察を実施した。
【0081】
[低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比]
低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比(高開孔率層/低開孔率層)は、3層積層膜の走査型電子顕微鏡観察から、内層の厚みと外層の厚みを測定し、「内層の厚み/外層の厚み」として示した。
【0082】
[膜表面および断面の開孔率]
前述した表面の構造観察結果から、画像解析処理によって膜の表面における空隙部分の占める面積比率を計測した。このときの電子顕微鏡撮影は倍率15000倍で実施した。
【0083】
[膜断面における孔径の異なる層の判定]
前述したように、膜の厚み1μm毎の断面開孔率測定を実施し、任意の5μmの厚み範囲にて断面開孔率の差が5%以上あれば、その厚み範囲に異なる層の境界が存在すると判断した。このときの電子顕微鏡撮影は倍率3000倍および5000倍、10000倍、15000倍で実施した。
【0084】
[金コロイド粒子の除去率]
親水性多孔膜から任意に直径25mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とした。試験液の調製に用いる金コロイド原液は以下のようにして調製した。テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬株式会社製 (特級))を注射用水(日本薬局方)に溶解して6.0mMの塩化金酸水溶液を調製し、該水溶液80gに注射用水を320g加え、スターラーで撹拌しながら80℃に加温した。該水溶液が80℃に昇温された後、20分以内にクエン酸ナトリウム二水和物(和光純薬株式会社製 (特級))を注射用水に溶解して調製した4%クエン酸ナトリウム水溶液を14g加え、80℃で保温しながら30分間撹拌した。これを冷水で15分間冷却した後、ポリビニルピロリドンK15(東京化成工業株式会社製)を注射用水に溶解して調製した30%ポリビニルピロリドン水溶液を18mL加えて1分間撹拌したものを金コロイド原液とした。TEM観察によって求めた金コロイドの平均粒径は34.5nmであった。試験液として用いる金コロイド溶液は、注射用水を用いて該原液を約10倍に希釈し、該希釈液の535nmにおける吸光度が1.0〜1.2の範囲にあるものを用いた。なお吸光度は紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV−1700)を用いて測定した。試験液の温度を25℃に調整し、空気圧0.1MPaで加圧して3mL透過させた。得られた透過液の吸光度を測定し、(10)式によって金コロイド粒子の除去率を算出した。
金コロイド粒子の除去率(−Log)=−Log[(透過液の吸光度)/(試験液の吸光度)]・・・(10)
【0085】
[ウシ下痢症ウィルスの除去性能]
親水化多孔膜から任意に直径25mmの円形状に切り抜いた膜を評価膜とし、この重量を電子天秤で秤量した。試験液の調製に用いるウシ下痢症ウィルス(以下、「BVDV」と称す)原液は、0.5%のウマ血清にBVDVを添加することにより得た。該BVDV原液中に混在している浮遊物を取り除くため、前述のプラノバ75Nフィルターで前濾過して夾雑物を除いたものを試験液として用いた。該試験液の温度を25℃に調整し、空気圧0.0272MPaで加圧して約2mL透過させた。得られた濾液と試験液中のBVDV濃度の測定は、それぞれの液を細胞に加えて3〜4日間培養した後、凝集反応を利用して、TCID50測定法により(11)式によってBVDVの除去性能を算出した。
BVDVの除去性能(−Log)=−Log[(濾液中のBVDV濃度)/(試験液中のBVDV濃度)]・・・(11)
【0086】
[実施例]
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定
されるものではない。
【実施例1】
【0087】
ポリエチレン樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製 サンファイン(製品名))32.0重量%、可塑剤(シージーエスター株式会社製 DOP(工業品))37.1重量%、疎水性シリカ粒子(株式会社トクヤマ製 レオロシールDM−10(製品名))30.9重量%、酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 イルガノックス1010FP(製品名))0.32重量%を混合し、ミキサー(カワタ製スーパーミキサー 容量100L)を用いて室温で10分間撹拌混合した。得られた混合原料をA−1とする。
一方、ポリエチレン樹脂15.0重量%、可塑剤52.3重量%(DOP)、疎水性シリカ粒子32.7重量%、酸化防止剤0.15重量%を混合し、同様にミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料をB−1とする。
混合原料A−1を220℃に昇温した内層用の第1押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BTN−25−S2−45−L型 同方向2軸押出機(特注品))に、混合原料B−1を200℃に昇温した外層用の第2押出機(装置名は第1押出機と同一品)にそれぞれ投入し、220℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を100℃としたキャスト装置(大機工業株式会社製(特注品))により、キャストロールのクリアランスをシートの厚みが約600μmとなるように調整しながら毎分1.3mの速度で巻き取った。なお、A−1の吐出量を5kg/h、B−1の吐出量も5kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートを30cm四方に裁断して金枠に固定し、塩化メチレン(和光純薬株式会社製(工業品))に38℃で1時間浸漬する操作を4回繰り返し、更に80℃の20質量%水酸化ナトリウム(和光純薬株式会社製(工業品))水溶液に1時間浸漬する操作を2回繰り返して可塑剤とシリカ粒子を抽出し、室温で一晩乾燥することにより、平膜状の多孔膜を得た。
【0088】
得られた多孔膜を窒素封入したアルミ袋に入れ、−78℃の温度下でガンマ線を100キログレイの線量となるように照射した。膜を袋から取り出し、5.5重量%の2−ヒドロキシプロピルアクリレート(和光純薬株式会社製)のt−ブタノール(和光純薬株式会社製(特級))/水=1/3の混合溶液に40℃で20分浸漬した後、イソプロピルアルコール(和光純薬株式会社製(特級))/水(1/1)の混合溶液で良く洗浄し親水化多孔膜を得た。
得られた親水化多孔膜の親水化率、膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表1に示した。
また走査型電子顕微鏡を用いて親水化多孔膜の表面構造(図1)を観察した結果、膜表面の開孔率は22%であり、膜断面の膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察された(図2、3)。また、図4と図5を対比させることで、内層において、外層との境界付近では孔径が小さく、中心部では孔径が大きくなっていた。画像解析処理の結果、外層における断面開孔率は43%、内層の外層との境界付近における断面開孔率は20%であった。更に内層の中心部における断面開孔率は27%であった。
得られた膜を用いて金コロイドの阻止性能とBVDVの除去性能を測定した。結果を表2に示す。
金コロイド溶液透過後に、膜断面を光学顕微鏡(キーエンス社製 デジタルマイクロスコープVH6300)で観察したものを図6に示す。図において膜の上方が溶液入り側であり、黒い帯状部分が捕集された金コロイドである。図6に示すように金コロイドが溶液入り側の内層と外層の境界付近に捕捉されていることが分かった。さらに金コロイド溶液を上記膜の反対面から透過させても同様の画像が得られた。
以上の結果は、本発明の3層膜が内層と外層の2つの境界面付近に微小粒子の捕捉層を有していることを示すものである。さらに内層の中心部における断面開孔率は、外層の断面開孔率よりもかなり小さい。従って、本発明の膜の孔径を捕捉したいウィルスに合わせて設計すれば、2つのウィルス捕捉領域の存在によって2段階の高いウィルス除去性能を示し、しかも優れた濾過速度を発現することが可能となる。
【実施例2】
【0089】
ポリエチレン樹脂32重量%、可塑剤41.8重量%(DOP)、疎水性シリカ粒子26.2重量%、酸化防止剤0.32重量%を混合し、ミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料をA−2とする。一方、実施例1のB−1と同じ組成の原料も調製した。混合原料A−2を220℃に昇温した内層用の第1押出機に、混合原料B−1を200℃に昇温した外層用の第2押出機にそれぞれ投入し、220℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を100℃としたキャスト装置により、キャストロールの隙間をシートの厚みが約550μmとなるように調整しながら、毎分1.0mの速度で巻き取った。なお、A−2の吐出量を5kg/h、B−1の吐出量も5kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートから実施例1と同様の抽出工程、次いで親水化処理を実施することにより、平膜状の親水化多孔膜を得た。得られた親水化多孔膜の基本物性を表1に示す。
得られた膜を用いて金コロイドの阻止性能を測定した。結果を表2に示す。
【実施例3】
【0090】
ポリエチレン樹脂20重量%、可塑剤46.7重量%(DOP)、疎水性シリカ粒子33.3重量%、酸化防止剤0.20重量%を混合し、実施例1と同じミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料を押出機(ウェルナー製 ZSK40MC 同方向噛合型2軸押出機)に投入し、スクリューで加熱・混錬して、200℃でペレット成型用のストランドダイスから押し出した。押出された成型物を25℃の冷却槽に通し、ファンカッター(星プラスチック製)を用いてペレット状に成型した。これをペレットB−2と称す。一方、実施例1のA−1と同じ組成の原料も調製した。
混合原料A−1を220℃に昇温した内層用の第1押出機に、ペレットB−2を200℃に昇温した外層用の第2押出機にそれぞれ投入し、B−2のフィード量と同量の可塑剤をフィーダー(クボタ製ロスインウェイトフィーダー プランジャーポンプ2連式)を用いて第2押出機に導入(該操作により、溶融混錬物中のポリエチレン樹脂濃度は10重量%となる)しながら、220℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を100℃としたキャスト装置により、キャストロールの隙間をシートの厚みが約610μmとなるように調整しながら、毎分1.3mの速度で巻き取った。なお、A−1の吐出量を5kg/h、B−2(追添可塑剤を含めて)の吐出量も5kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートから実施例1と同様に抽出工程、次いで親水化処理を実施することにより、平膜状の親水化多孔膜を得た。得られた親水化多孔膜の基本物性を表1に示す。
得られた膜を用いてBVDVの除去性能を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
[比較例1]
ポリエチレン樹脂32重量%、可塑剤42重量%(DOP)、シリカ粒子26重量%、酸化防止剤0.32重量%を混合し、ミキサーを用いて室温で5分間撹拌混合した。得られた混合原料を押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BT−40−S−30−L型2軸押出機(特注品))に投入し、200℃で平膜押し出し用のダイスからシート状に押し出し、キャスト装置でキャストロールの温度を120℃とし、キャストロールの隙間をシートの厚みが約100μmとなるように調整しながら、毎分4.2mの速度で巻き取り機にて巻き取った。得られたシートを単独で実施例1と同様に抽出工程と親水化処理を実施することにより、平膜状の多孔膜を得た。得られた多孔膜の基本物性を表1に示す。
また走査型電子顕微鏡を用いて多孔膜の表面構造を観察した結果(図7)、膜表面の開孔率は8%であった。この比較例は本発明において膜表面の開孔率が低下すると透水量が低下し、液体の濾過には不適となることを示す例である。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【実施例4】
【0094】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製 KFポリマーW#7200(製品名))40.0重量%と可塑剤(大阪有機化学工業株式会社製 DCHP(工業品))60.0重量%を混合し、ミキサー(カワタ製スーパーミキサー 容量100L)を用いて室温で10分間撹拌混合した。得られた混合原料をC−1とする。
一方、ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製 KFポリマーW#1300(製品名))40.0重量%、可塑剤40.0重量%(シージーエスター株式会社製 DOP/DBP=35/40(重量比))、疎水性シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製 R972グレード)20.0重量%を混合し、同様にミキサーを用いて室温で10分間撹拌混合した。得られた混合原料をD−1とする。
混合原料C−1を250℃に昇温した内層用の第1押出機(株式会社プラスチック工学研究所製 BTN−25−S2−45−L型 同方向2軸押出機(特注品))に、混合原料D−1を250℃に昇温した外層用の第2押出機(装置名は第1押出機と同一品)にそれぞれ投入し、250℃の平膜共押し出し用2種3層ダイスからシート状に押し出し、キャストロールの温度を35℃としたキャスト装置(大機工業株式会社製(特注品))により、キャストロールのクリアランスを約200μmに調整し、毎分1.7mの速度で巻き取った。なお、C−1の吐出量を4kg/h、D−1の吐出量も4kg/hとして、内層(低開孔率層)と外層(低開孔率層)の厚み制御を行った。
得られたシートを30cm四方に裁断して金枠に固定し、イソプロピルアルコールに30℃で30分浸漬する操作を4回繰り返し、更に40℃の5重量%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬する操作を2回繰り返して可塑剤とシリカ粒子を抽出し、室温で一晩乾燥することにより、平膜状の多孔膜を得た。
得られた多孔膜の膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表3に示す。
走査型電子顕微鏡を用いて3層多孔膜の表面構造(図8)を観察した結果、膜表面の開孔率は14%であり、また図9から膜断面の膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察され、しかも内層(低開孔率層)において膜厚方法の中央部の孔径がその周辺よりも大きいことも分かった。さらに、図10と図11を対比させることでも、内層において、外層との境界付近では孔径が小さく、中心部では孔径が若干大きくなっていることが分かった。画像解析処理の結果、外層における断面開孔率は32%、内層の外層との境界付近における断面開孔率は14%であった。更に内層の中心部における断面開孔率は17%であった。従って、PVDF3層膜においても孔径を捕捉したいウィルスに合わせて設計すれば、高いウィルス除去性能と優れた濾過速度を発現させることが可能となる。
【実施例5】
【0095】
C−1の吐出量を4kg/h、D−1の吐出量を2kg/hとして内層(低開孔率層)と外層(高開孔率層)の厚み制御を行う以外は、実施例4と同じ操作にて成膜を行い、可塑剤抽出およびシリカ抽出を行うことで、平膜状の多孔膜を得た。
得られた多孔膜の膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表3に示す。
走査型電子顕微鏡を用いて得られた多孔膜の膜断面を観察したところ、図7と同様に膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察され、しかも各層の厚みは成膜時の吐出量によって制御され、外層(高開孔率層)/内層(低開孔率層)は実施例4の膜よりも低下していることが分かった。
【実施例6】
【0096】
C−1の吐出量を4kg/h、D−1の吐出量も2kg/hとして内層(低開孔率層)と外層(高開孔率層)の厚み制御を行うと同時に、キャストロールによる巻取り速度を毎分3.3mとする以外は、実施例4と同じ操作にて成膜を行い、可塑剤抽出およびシリカ抽出を行うことで平膜状の多孔膜を得た。
得られた多孔膜の膜厚、気孔率、透水量、平均孔径、最大孔径を測定した。測定結果を表3に示す。
走査型電子顕微鏡にて、図7と同様に膜厚方向に3層の開孔率の異なる層が観察されると同時に、各層の厚みも成膜時の吐出量によって制御され、しかも巻き取り速度を高くしたことで全体の膜厚も薄くなり最大孔径も小さい膜が得られた。
【0097】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、液体中に含まれるサブミクロン以下の粒子を阻止する分離膜として有用である。特に血漿やグロブリン等の生理活性物質を含む溶液から、ウィルスや細菌、病原性プリオン等を高い阻止性能かつ高い濾過速度で除去できる分離膜として利用できる。こうして得られた血漿や生理活性物質含有溶液は血漿製剤製造分野、血漿分画製剤製造分野、バイオ医薬製造分野等における種々の原料や医薬品等に用いることができる。
さらに本発明は、薬液や処理水等から微粒子を除去する産業プロセス用フィルター、油水分離膜や液ガス分離膜、上下水等の浄化用分離膜、リチウムイオン電池等のバッテリーセパレータ、及びポリマー電池用の固体電解質支持体等、広範囲な用途に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜の表面を15000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜の断面を100倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、低開孔率層と高開孔率層の境界の断面を3000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、低開孔率層と高開孔率層の境界の断面を10000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、膜断面における低開孔率層の中央付近を10000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得られたポリエチレン多孔膜において、金コロイド溶液透過後の膜断面の光学顕微鏡写真である。写真上側が溶液の入り側である。
【図7】比較例1で得られたポリエチレン多孔膜の表面を15000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜の表面を10000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜の断面を450倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜において、低開孔率層と高開孔率層の境界の断面を5000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例4で得られたポリフッ化ビニリデン多孔膜において、膜断面における低開孔率層の中央付近を5000倍で観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする多層微多孔膜。
【請求項2】
低開孔率層中の該最小孔径層が、高開孔率層に接して位置することを特徴とする請求項1に記載の多層微多孔膜。
【請求項3】
低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層微多孔膜。
【請求項4】
高開孔率層の断面開孔率が、低開孔率層における膜厚方向の中心部の断面開孔率より5%以上高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項5】
低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比が0.2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項6】
溶融成膜法によって得られた多孔構造を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項7】
両表面の表面開孔率が10%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項8】
該高分子がポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、フッ素化炭化水素ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合ポリマーのいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項9】
該高分子がポリエチレン、またはポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1〜7に記載の多層微多孔膜。
【請求項10】
細孔表面が親水性高分子で被覆されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項11】
該親水性高分子が水酸基を有することを特徴とする請求項10に記載の多層微多孔膜。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の多層微多孔膜を用いて、少なくとも2種の成分を含有する液体から、特定の成分を濾過する方法。
【請求項13】
細菌、真菌、ウィルス、病原性プリオン、白血球、及び細胞由来粒子からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、生理活性物質を含む液体から、生理活性物質をのみを透過することを特徴とする請求項12に記載の液体の処理方法。
【請求項1】
低開孔率層の両面に高開孔率層が積層一体化した多層構造からなる高分子の多孔膜であって、バブルポイント法で求めた最大孔径が10〜100nmであり、低開孔率層中に少なくとも2層以上の最小孔径層を有することを特徴とする多層微多孔膜。
【請求項2】
低開孔率層中の該最小孔径層が、高開孔率層に接して位置することを特徴とする請求項1に記載の多層微多孔膜。
【請求項3】
低開孔率層における膜厚方向の中心部の孔径が、該中心部の周辺部の孔径より大であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層微多孔膜。
【請求項4】
高開孔率層の断面開孔率が、低開孔率層における膜厚方向の中心部の断面開孔率より5%以上高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項5】
低開孔率層に対する高開孔率層の厚さの比が0.2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項6】
溶融成膜法によって得られた多孔構造を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項7】
両表面の表面開孔率が10%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項8】
該高分子がポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、フッ素化炭化水素ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、エチレンビニルアルコール共重合ポリマーのいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項9】
該高分子がポリエチレン、またはポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1〜7に記載の多層微多孔膜。
【請求項10】
細孔表面が親水性高分子で被覆されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多層微多孔膜。
【請求項11】
該親水性高分子が水酸基を有することを特徴とする請求項10に記載の多層微多孔膜。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の多層微多孔膜を用いて、少なくとも2種の成分を含有する液体から、特定の成分を濾過する方法。
【請求項13】
細菌、真菌、ウィルス、病原性プリオン、白血球、及び細胞由来粒子からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、生理活性物質を含む液体から、生理活性物質をのみを透過することを特徴とする請求項12に記載の液体の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−272636(P2008−272636A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117427(P2007−117427)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
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