説明

多層成形体及びそれを用いた燃料用部品

【課題】燃料等の有機物の流体搬送に用いられる配管用部材、容器、チューブ等の用途において、ポリアリーレンスルフィド樹脂本来の有機物の流体に対する優れたバリアー性を損なうことなく、他の樹脂成分と優れた密着性を発現する多層成形体、及びそれを用いた燃料用部品を提供する。
【解決手段】ゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量が23,000〜100,000の範囲であるポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、芳香族系エポキシ樹脂(a2)及び熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基及びエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出成形して得られる多層構造を有することを特徴とする多層成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料等の有機物の流体搬送に用いられる配管用部材、容器、チューブに適する多層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶剤、燃料、液化ガス、その他各種のポリマー原料、中間体、製品等の流動性を有する有機物の搬送に用いられる配管用部材、容器、チューブ製品は、金属材料に変わりプラスチック化が進められてきており、例えば、車両用の燃料配管部材や容器には、ガソリンなどの燃料に対するバリアー性能が高いポリアミド樹脂が用いられている。
【0003】
しかしながら、急速に普及しつつあるアルコール含有ガソリンに対しては、ポリアミド樹脂のバリアー性は決して十分なものではなく、アルコール含有ガソリンに対するバリアー性が比較的高いポリアミド12であっても、大気中への燃料拡散防止の各種法規制に対応可能な高いバリアー性を得られない状況であった。
【0004】
一方、アルコール含有ガソリンに対する非常に高いバリアー性を有する樹脂材料としてポリフェニレンスルフィド樹脂が注目されている。しかしながら、ポリフェニレンスルフィド樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性を有しているものの、耐衝撃性が十分でなく車両用の燃料チューブや燃料タンクへの適用が困難であった。そこで、車両用の燃料チューブや燃料タンクを製造する方法として、ポリフェニレンスルフィド樹脂層、接着層、及びポリエチレン層の3層の構造体とすることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂のバリアー性を保持しながら、耐衝撃性を付与した成形容器が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0005】
しかしながら、ポリフェニレンスルフィド樹脂は他の樹脂成分との接着性が低いため、前記多層構造体は層間での剥離が生じ易く、バリアー性が顕著に低下するという問題を有していた。特に、高温環境となるエンジンルーム内で用いる部材に使用される場合には温度上昇にともなうポリエチレン層の著しい軟化によって変形を生じる等の不具合も生じる問題があった。
【0006】
また、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いた多層構造体におけるポリエチレン層の軟化の問題を解決する方法として、ポリフェニレンスルフィドとエポキシ基含有ポリオレフィンとの混合物からなる層、ポリオレフィン系接着層、ポリアミドからなる層を積層させた多層構造体が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この多層構造体はポリオレフィン系の接着層を使用しているため、やはり、高温環境下で使用される場合は層間の剥離強度が不足するという問題があった。
【0007】
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、ポリアミド及びアミド結合、エステル結合、ウレタン結合、カルボキシル基、酸無水物基及びエポキシ基の中から選ばれる1種以上の結合又は官能基を有する熱可塑性樹脂の少なくとも1種を10〜150重量部配合してなるポリフェニレンスルフィド系樹脂層と、ポリアミドの層とを接着層を介さずに多層化した多層構造体が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、この多層構造体は、ポリアミド樹脂層との接着性を得るために、ポリフェニレンスルフィド樹脂に多量のポリアミド及び変性オレフィン系樹脂を含有させる必要があり、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有するバリアー性が損なわれるという問題があった。
【0008】
さらに、ポリアリーレンスルフィド樹脂に多価イソシアネート化合物を配合した樹脂成分を、特定の官能基を有する熱可塑性樹脂と共押出することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂の有する性能を低下させることなく層間の密着性を向上させた多層成形体が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、溶融混練時に多価イソシアネート化合物が自己縮合又は分解することにより、層間密着性が低下する場合があり、燃料配管部材等に対して要求されるレベルの密着性を保持するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−193060号公報
【特許文献2】特開平5−193061号公報
【特許文献3】特開平11−156970号公報
【特許文献4】特開平10−138372号公報
【特許文献5】特開2008−110561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、燃料等の有機物の流体搬送に用いられる配管用部材、容器、チューブ等の用途において、ポリアリーレンスルフィド樹脂本来の有機物の流体に対する優れたバリアー性を損なうことなく、他の樹脂成分と優れた密着性を発現する多層成形体、及びそれを用いた燃料用部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のピーク分子量を有したポリアリーレンスルフィド樹脂に、芳香族系エポキシ樹脂及び熱可塑性エラストマーを配合した樹脂組成物と、特定の官能基を有する熱可塑性樹脂とを共押出成形することによって得られる多層成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂の有する性能を低下させることなく、層間の密着性が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量が23,000〜100,000の範囲であるポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、芳香族系エポキシ樹脂(a2)及び熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基及びエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出成形して得られる多層構造を有することを特徴とする多層成形体及びそれを用いた燃料用部品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層成形体は、ポリアリーレンスルフィド本来の有機物の流体に対する優れたバリアー性を損なうことなく、多層構造の樹脂層間での密着性に優れるため、燃料等の有機物の流体搬送に用いられる配管用部材、容器、チューブ等に用いることができる。特に、本発明の多層成形体は、ガソリン、軽油、アルコール含有ガソリン、アルコール燃料等の燃料を搬送するために用いられる配管用部材、容器、チューブ等の燃料用部品に最適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した場合のピーク分子量が、23,000以上となる範囲であれば低温での耐衝撃性、強靭性の向上が顕著となる。また、ピーク分子量が100,000以下であれば成形時の流動性が良好となる。中でも、これらの性能バランスの点から、ピーク分子量は25,000〜70、000の範囲であることが好ましく、25,000〜50、000の範囲であることがより好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)は、これらのピーク分子量の範囲にあるものであれば、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0015】
ここで、ピーク分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより求める事ができる。この測定法では、特に限定はしないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶解溶媒として1−クロロナフタレンが使用でき、200℃前後の高温で溶解し測定する事ができる。
【0016】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)(以下、「ポリアリーレンスルフィド」は「PAS」と略記する。)の樹脂構造は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位として有するものであり、具体的には、下記構造式(1)で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【0017】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
【0018】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂(a1)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂(a1)の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0021】
また、前記PAS樹脂(a1)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)〜(7)で表される構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂(a1)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。
前記PAS樹脂(a1)中に、上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0022】
【化3】

【0023】
また、前記PAS樹脂(a1)は、その分子構造中に、下記構造式(8)で表される3官能性の構造部位、又はナフチルスルフィド結合等を有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、1モル%以下であること、特に実質的には含まれないことがPAS樹脂(a1)中の塩素原子含有量低減の観点から好ましい。
【0024】
【化4】

【0025】
前記PAS樹脂(a1)は、例えば、下記(1)〜(5)の方法によって製造することができる。
(1)ポリハロゲノ芳香族化合物類を硫黄と炭酸ソーダの存在下に重合させる方法。
(2)P−クロルチオフェノールを自己縮合させる方法。
(3)N−メチルピロリドンとポリハロゲノ芳香族化合物を混合し加熱しておき、反応系内の水分量が有機極性溶媒の2〜50モル%の範囲内になる様な速度で含水スルフィド化剤を加えてポリハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させる方法。
(4)N−メチルピロリドン中でアルカリ金属硫化物とポリハロゲノ芳香族化合物との反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流させることによりPASを製造する方法。
(5)N−メチルピロリドン、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ金属硫化物を混合した後、得られた混合液を脱水して、固形のアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属水硫化物(b)と、N−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを含むスラリーを製造し(工程1)、次いで、前記スラリーの存在下、ポリハロゲノ芳香族化合物と前記アルカリ金属水硫化物と、前記したN−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを反応させて重合を行う(工程2)方法。
【0026】
これらの中でも、線状の高分子量PAS樹脂(a1)が容易に得られる点から特に(3)〜(5)の方法が好ましい。
【0027】
上記(3)の方法は、具体的には、N−メチルピロリドン及びジハロゲノ芳香族化合物の混合物を150℃以上に加熱し、次いで、含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入することにより、反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲に調整しながら反応させる方法が挙げられる。ここで、反応温度は200〜300℃、好ましくは210〜280℃の範囲であると反応が良好に進行する点から好ましい。
【0028】
反応終了後は、まず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で加熱して溶媒だけを留去し、ついで缶残固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類等の溶媒で1回又は2回以上洗浄し、それから中和、水洗、ろ別及び乾燥をすることによって目的物を回収できる。
【0029】
上記(3)の方法で用いる含水スルフィド化剤は、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、あるいはこれらの混合物等の含水物が挙げられる。
【0030】
前記アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられ、水和物、水溶液として用いることができる。これらの中でも、硫化ナトリウム及び硫化カリウムが好ましく、特に硫化ナトリウムが好ましい。これらのアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基、硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で調製されたものを用いてもよい。
【0031】
アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム等が挙げられ、水和物、水溶液として用いることができる。
【0032】
上記アルカリ金属水硫化物の中でも、水硫化ナトリウム及び水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。これらアルカリ金属水硫化物は、硫化水素とアルカリ金属塩基とを反応させることによっても得られるが、反応系外で調製された物を用いてもかまわない。
【0033】
また、ここで用いるポリハロゲノ芳香族化合物は、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが好ましい。
【0034】
これらの中でも、線状の高分子量PAS樹脂を効率的に製造できることから、2官能性のジハロゲノ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状PAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物と共に、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、又は1,3,5−トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0035】
上記(4)の方法は、具体的には、反応容器内にN−メチルピロリドン、アルカリ金属硫化物、及びポリハロゲノ芳香族化合物を投入し、まず不活性ガス雰囲気下で、重合系の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水又は水添加する。反応系内の水分量はアルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜1.7モル、特に0.8〜1.2モルとすることが副反応生成物の生成を抑制する点から好ましい。ここで、反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイル又はジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が挙げられる。
【0036】
また、(4)の方法の反応条件は、230〜275℃の温度条件下で0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。
【0037】
反応終了後は、常法により、反応スラリーをろ過、溶剤洗、酸処理、水洗、さらに、必要により、溶剤洗と水洗とを繰り返して目的とするPAS樹脂(a1)を得ることができる。
【0038】
上記(5)の方法は、具体的には、まず、N−メチルピロリドン、ポリハロゲノ芳香族化合物、含水アルカリ金属硫化物を混合し、次いで、得られた混合液を脱水して、固形のアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属水硫化物と、N−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを含むスラリーを製造する(工程1)。ここで、前記N−メチルピロリドンの仕込み量は、含水アルカリ金属硫化物に対してN−メチルピロリドンを当量未満、中でも含水アルカリ金属硫化物1モルに対してN−メチルピロリドンを0.01〜0.9モルとなる割合で用いることが好ましい。
【0039】
次いで、工程1を経て得られたスラリーに、必要により、水、ポリハロゲノ芳香族化合物、アルカリ金属硫化物、N−メチルピロリドン等を加え、180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲で反応させることにより目的とするPAS樹脂(a1)を得ることができる。
【0040】
ここで、工程2におけるポリハロゲノ芳香族化合物の量は、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより高分子量のPAS樹脂(a1)を得られる点から好ましい。
【0041】
また、工程2では、前記固形のアルカリ金属硫化物の消費率が10%の時点における該重合スラリーが実質的に無水状態であることがPAS樹脂(a1)の高分子量化の点から好ましい。
【0042】
ここで、ポリハロゲノ芳香族化合物は、前記(3)の方法にて例示したものがいずれも使用でき、含水アルカリ金属硫化物は、前記(3)の方法にて例示したアルカリ金属硫化物の含水物がいずれも使用できる。
【0043】
このようにして得られるPAS樹脂(a1)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定した場合のピーク分子量が23,000以上となる範囲であることが低温での耐衝撃性、靭性が高いことから好ましく、また、成形時の流動性が良好であることからピーク分子量が100,000以下となる範囲であることが好ましい。中でも、これらの性能バランスの点から25,000〜70,000の範囲であることがより好ましい。ここで、前記ピーク分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求めることができる。なお、このゲル浸透クロマトグラフィーによるピーク分子量の測定条件は、後述する実施例に記載する。
【0044】
本発明で用いるPAS樹脂(a1)は、上記のように23,000〜100,000の範囲にピーク分子量を有するものであるが、このピーク分子量の範囲内にある複数の異なるピーク分子量を有するPAS樹脂(a1)を用いることがより好ましい。また、複数の異なるピーク分子量を有するPAS樹脂(a1)を用いる際には、それらのピーク分子量及び配合量から算出される加重平均が、30,000〜35,000の範囲であるが好ましく、33,000〜34,000の範囲であることがより好ましい。
【0045】
本発明で用いる芳香族系エポキシ樹脂(a2)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの芳香族系エポキシ樹脂(a2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0046】
なお、芳香族系エポキシ樹脂(a2)はハロゲン基又は水酸基等を有していてもよく、単独又は二種以上の混合物として使用してもよい。
【0047】
前記芳香族系エポキシ樹脂(a2)の中でも特に、他の樹脂成分との密着性に優れる点から、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0048】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の芳香族系エポキシ樹脂(a2)の配合比率は、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜4質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることが特に好ましい。芳香族系エポキシ樹脂(a2)の配合比率がこの範囲であれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)の溶融安定性が良好となり、熱可塑性樹脂(B)と共押出した際の、該熱可塑性樹脂(B)との密着性が良好となる。
【0049】
前記熱可塑性エラストマー(a3)は、多層積層体に耐衝撃性を付与し、また、熱可塑性樹脂(B)との密着性を改善するための必須の成分である。この熱可塑性エラストマー(a3)は、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するエラストマーであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)と溶融混練した際の分散性に優れる点から好ましい。また、耐熱性に優れ、かつ、混合の容易であり、耐衝撃性の向上の効果も顕著である点からポリオレフィン系エラストマー又はニトリル系エラストマーが好ましい。
【0050】
前記ポリオレフィン系エラストマーとしては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、エステル基、ビニル基等の官能基を有するものが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)との相溶性に優れる点から好ましい。
【0051】
また、これらの中でも、酸無水物、酸、エステル等のカルボン酸に由来する官能基、又はエポキシ基が特に好ましい。
【0052】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、例えば、α−オレフィン類と前記官能基を有するビニル重合性化合物類との共重合で得ることができる。前記α−オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素原子数2〜8のα−オレフィン類が挙げられる。また、前記官能基を有するビニル重合性化合物類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル類等のα,β−不飽和カルボン酸類及びそのアルキルエステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4〜10の不飽和ジカルボン酸とそのモノ及びジエステル類、及びその酸無水物等のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその無水物、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
これらの官能基類を複数個、同時に含有した共重合体を用いることができる。これらの好ましい例としては、α−オレフィン類、無水マレイン酸、アクリル酸グリシジルの三元共重合体が挙げられる。
【0054】
前記ポリオレフィン系エラストマーの中でも、酸変性されたものが好ましい。また、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体を熱可塑性エラストマー(a3)中の必須成分とするものが好ましく、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体及び未変性エチレン−α−オレフィン共重合体を併用したものはより好ましい。
【0055】
次に、前記ニトリル系エラストマーは、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の様な不飽和結合を有するニトリルと共役二重結合を有するブタジエン、メチルブタジエン等との共重合により得られるものが挙げられる。この共重合体は二重結合の一部又は全部を水素添加して耐熱性を高めたタイプはさらに好ましい。
【0056】
これらの官能基を含んだ熱可塑性エラストマー(a3)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との分散性が良好になり、均一混合された樹脂組成物を得ることが容易になり、耐低温破断性などが向上する。
【0057】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の熱可塑性エラストマー(a3)の配合比率は、10〜20質量%であることが好ましく、12〜18質量%であることがより好ましく、16〜18質量%であることが特に好ましい。熱可塑性エラストマー(a3)の配合比率がこの範囲であれば、燃料バリアー性と密着性とのバランスに優れる。
【0058】
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)には、前記したポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、芳香族系エポキシ樹脂(a2)及び熱可塑性エラストマー(a3)に加え、無機系又は有機系の各種強化材、充填材、潤滑剤、安定剤等を配合することができる。これらの配合量はポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中に5重量%以下であることが好ましい。
【0059】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)を製造する方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、芳香族系エポキシ樹脂(a2)、熱可塑性エラストマー(a3)、及びその他の配合成分を予めヘンシェルミキサー又はタンブラー等で混合した後、1軸又は2軸押出混練機に供給して250℃〜350℃で混練し、造粒しペレット化することにより得る方法が挙げられる。特に、前記混練機は、混練用のニーディングディスクを備えた同方向回転の2軸押出混練機を用いることが組成物の均一性が良好となる点から好ましい。
【0060】
一方、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と共押出する、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基及びエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)としては、具体的には、分子末端に水酸基を有するポリカーボネート樹脂、水酸基やカルボキシル基を有するポリエステル樹脂、水酸基やイソシアネート基を有するポリウレタン、エポキシ基、カルボキシル基又は酸無水物基をペンダント状に有する変性ポリオレフィン、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0061】
ここで前記ポリカーボネート樹脂は、具体的には、二官能性フェノール化合物の高分子炭酸エステルが挙げられ、該二官能性フェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、4,4−ビス(ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のビスフェノール類;p,p’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;レゾルシノール、ハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジヒドロキシ−3−メチルベンゼン等のジヒドキシベンゼン類が挙げられる。
【0062】
また、前記ポリカーボネート樹脂を製造するために、前記二官能性フェノール化合物と反応させるカーボネート化剤としては、例えば、臭化カルボニル、塩化カルボニル等のハロゲン化カルボニル、ジフェニルカーボネート、ジ(クロロフェニル)カーボネート、ジ(トリルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のカーボネートエステル;ハイドロキノンビスクロロホルメート、エチレングリコールハロホルメート等のハロホルメートが挙げられる。
【0063】
前記ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとから得られる芳香族ポリエステル樹脂であることが好ましく、特に、ジカルボン酸成分の60モル%以上がテレフタル酸であるジカルボン酸と脂肪族ジオールとから得られる芳香族ポリエステルが好ましい。テレフタル酸以外の前記ジカルボン酸成分としては、例えば、アゼライン酸、セバシン酸、アジピン酸、ドデカンジカルボン酸等が挙げられる。一方、脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキセンジメタノール等が挙げられる。
【0064】
前記ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキセンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。これらの中でも、特にポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレートがポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)との密着性の点から好ましい。
【0065】
また、前記ポリウレタン樹脂とは、ポリイソシアネートとジオールとから得られるものである。前記ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、前記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキセンジメタノール等が挙げられる。
【0066】
さらに、エポキシ基、カルボキシル基又は酸無水物基をペンダント状に有する変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンを主鎖とし、その側鎖にエポキシ基、カルボキシル基、又は酸無水物基をペンダント状に有するものである。
【0067】
具体的には、エポキシ基を含有するポリオレフィンとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のグリシジル(メタ)アクリレートと、α−オレフィンとの共重合体が挙げられ、カルボキシル基、又は酸無水物基を含有するポリオレフィンとしては、ポリオレフィン樹脂にマレイン酸、コハク酸、フタル酸あるいはこれらの酸無水物を反応させたものが挙げられる。
【0068】
前記α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン1、デセン−1、オクテン−1等が挙げられる。
【0069】
前記ポリアミド樹脂は、アミノ酸化合物、ラクタム化合物の重合体、又はジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合体が挙げられる。
【0070】
前記アミノ酸化合物としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。また、前記ラクタム化合物はとしては、例えば、ε−アミノカプロラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
【0071】
前記ジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合体に用いられるジアミン化合物は、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂環式ジアミン;メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0072】
一方、ジカルボン酸化合物は、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0073】
これらの中でも、特に、ガソリン等の燃料に対するバリアー性及び耐衝撃性に優れる点から、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドXD6)が好ましく、特に、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12が好ましい。
【0074】
また、これらポリアミド樹脂は、その重合度が1%の濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度で1.5〜7.0の範囲、特に2.0〜6.5の範囲のものが耐衝撃性に優れる点から好ましい。
【0075】
上記したアミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基及びエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)の中でも、特に燃料チューブ等の燃料配管部材用途における耐衝撃性や燃料バリアー性に優れる点からポリアミド樹脂が好ましい。
【0076】
本発明の多層積層体は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、前記熱可塑性樹脂(B)とを共押出成形して得られるものである。ここで、共押出成形する方法としては、燃料チューブなどのチューブ状成形体を得る場合には、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)及び前記熱可塑性樹脂(B)を、押出機内に投入し、溶融混練後、溶融状態で接触させることができるダイを用いて積層チューブに成形する方法が挙げられる。ここで、押出機は、一軸又は二軸の押出機であって、ダイ部において各々のシリンダーで可塑化された樹脂を1つの多層チューブに成形できるチューブ用ダイを具備するものが好ましい。なお、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)を溶融混練する際のシリンダー内の温度は280〜320℃であることが好ましく、前記熱可塑性樹脂(B)を溶融混練する際のシリンダー内の温度は230〜270℃であることが好ましい。
【0077】
前記チューブ成形体を得る場合、その層構成は、内層に前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)からなる層(以下、「(A)層」と略記する。)と、外層に前記熱可塑性樹脂(B)からなる層(以下、「(B)層」と略記する。)とを有する2層構造であってもよいし、さらに、前記(B)層の外側に(A)層を設けた3層構造、さらにこの(A)層の外側に(A)層を設けた4層構造であってもよい。本発明では、特に、耐衝撃性及び燃料バリアー性のバランスが良好となる点から2層構造であることが好ましい。
【0078】
また、本発明の多層積層体における一層あたりの厚さは、その用途によって異なるが、例えば、燃料チューブに用いる場合、チューブ状成形体の全厚が0.8〜1.2mmであることが好ましく、前記(A)層の一層の厚さと、(B)層の一層の厚さとの比率が、(A)層/(B)層=10/90〜40/60であることがバリアー性と耐衝撃性とのバランスの点から好ましい。
【0079】
本発明の多層積層体として、燃料タンク、容器等の成形体を得るには、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、前記熱可塑性樹脂(B)とを多層シート状に共押出し、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等の他、深絞成形、真空成形等の成形法により賦形することによって製造することができる。また、燃料タンク、容器等の用途においては、燃料等との接液面側を前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)からなる層、外側を前記熱可塑性樹脂(B)からなる層にすることが燃料バリアー性の点から好ましい。
【0080】
本発明の多層成形体は、上記した通り、燃料等の有機物の流体搬送の際に用いられる配管用部材、容器、燃料チューブに適するものであるが、具体的な用途としては、例えば、パイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)等の燃料を搬送するための配管及び配管に付属する各種の部品;燃料ポンプ、キャニスター等のハウジング;燃料タンクなどが挙げられる。また、本発明の多層成形体は、他の材料との複合化や、接着、カシメ等により他材料と合わせてよい。
【実施例】
【0081】
(実施例1〜16及び比較例1〜7)
[ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)の調製]
表1〜3に示した各種材料を、表1〜3中の配合組成で均一に混合した後、35mmφの二軸押出機を用いて、温度290〜330℃で溶融混練して、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A−1)〜(A−23)を得た。
【0082】
[ポリアリーレンスルフィドのピーク分子量の測定]
上記のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の調製で用いたPPS−1〜4のピーク分子量は、ゲル浸透クロマトグラフを用いて下記の条件で測定した。なお、校正には、6種類の単分散ポリスチレンを用いた。
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC−7000」)
カラム:UT−805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1−クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
【0083】
[ガス透過係数測定用試験片の作製]
上記で調製したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A−1)〜(A−23)を射出成形機により成形して、縦50mm×横100mm×厚さ2mmのプレートを作製した。次いで、このプレートをメルトプレスにより薄く加工し、厚さ0.3mmのフィルムを作製した。このフィルムをガス透過係数測定用試験片とした。
【0084】
[燃料バリアー性の評価]
上記で作製したフィルムについて、フューエルC/エタノール=90/10(体積%)、フューエルC;トルエン/イソオクタン=50/50(体積%))の40℃におけるガス透過係数(単位:mol・m/m・s・Pa)をJIS K7126 A法に準拠し、測定装置にガス透過率・透湿度測定装置(GTRテック株式会社製「GTR−30VAD」)を用い、GC検出部に株式会社島津製作所製「GC−14A」を用いて差圧方式のGC検出で測定した。また、測定で得られたガス透過係数の値から、下記の基準で燃料バリアー性を評価した。
◎:ガス透過係数が1.0×10−15mol・m/m・s・Pa未満。
○:ガス透過係数が1.0×10−15mol・m/m・s・Pa以上。
【0085】
[2層チューブの作製]
2つの可塑化シリンダー(内径20mmφ、一軸押出しスクリュー)を有し、ダイ部分で各々のシリンダーで可塑化された樹脂を1つの2層チューブに合一化できるチューブ用ダイを有する2層チューブ作製装置を用いて、外層側となる可塑化シリンダーにポリアミド12(エムスケミー・ジャパン株式会社製「グリルアミドL25W40」;ガス透過係数5.7×10−14mol・m/m・s・Pa)を投入し、内層側となる可塑化シリンダーに上記で調製したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A−1)〜(A−23)を投入して、外層側の温度250℃、内層側の温度300℃でチューブを押出し、巻き取り速度を調整して、外径8mmφ、内径6mmφの2層チューブを作製した。なお、これらの2層チューブは内層の厚さは0.3mm、外層の厚さは0.8mmであった。
【0086】
[密着性の評価]
上記で作製した2層チューブを用いて、長さ方向にチューブを切り開いてシート状とし、10mm幅に切りそろえて、ISO−11339に従い、ピール強度(単位kN/m)を測定した。また、測定で得られたピール強度の値から、下記の基準で密着性を評価した。
○:ピール強度が2.0kN/m以上。
△:ピール強度が1.0kN/m以上で2.0kN/m未満。
×:ピール強度が1.0kN/m未満。
【0087】
上記の測定及び評価結果を表1〜3に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
なお、上記表1〜3中の略号は以下の通りである。
(1)PPS−1:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP ML−320」;ピーク分子量41,000)
(2)PPS−2:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LR−300G」;ピーク分子量25,000)
(3)PPS−3:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LR−1G」;ピーク分子量30,000)
(4)PPS−4:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LR−100G」;ピーク分子量 20,000)
(5)エポキシ1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン N−695」;エポキシ当量214g/eq、軟化点94℃)
(6)エポキシ2:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン N−680」;エポキシ当量214g/eq、軟化点84℃)
(7)エポキシ3:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン N−673」;エポキシ当量209g/eq、軟化点77℃)
(8)エポキシ4:4官能ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「エピクロン HP−4700」;エポキシ当量167g/eq、軟化点91℃)
(9)エポキシ5:1,4−ブタンジオールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール EX−214L」;エポキシ当量120g/eq)
(10)エポキシ6:1,4−シクロヘキサングリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール EX−216L」;エポキシ当量150g/eq)
(11)エラストマー1:酸変性エチレン−ブテン共重合体(三井化学株式会社製「タフマー MH−7020」)
(12)エラストマー2:未変性エチレン−ブテン共重合体(三井化学株式会社製「タフマー A−4085」)
(13)エラストマー3:酸変性エチレン−プロピレン共重合体(三井化学株式会社製「タフマー MP−0430」)
(14)シリコーン:エポキシポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング株式会社製「FZ−3736」)
【0092】
表1及び2に示した評価結果から、実施例1〜16の本発明の多層成形体は、高い燃料バリアー性を有し、多層成形体の層間の密着性にも優れることが分かった。
【0093】
表3に示した比較例の評価結果から、下記のことが分かった。
【0094】
比較例1及び2は、本発明で用いるポリアリーレンスルフィド(a1)のピーク分子量の下限である23,000未満のポリアリーレンスルフィドを用いた例であるが、多層成形体の層間の密着性がやや不十分であることが分かった。
【0095】
比較例3及び4は、本発明で用いる芳香族系エポキシ樹脂(a2)の代わりに脂肪族系エポキシ樹脂を用いた例であるが、多層成形体の層間の密着性が極めて不十分であることが分かった。
【0096】
比較例5は、本発明で用いる芳香族系エポキシ樹脂(a2)を用いずに、シリコーンを配合した例であるが、多層成形体の層間の密着性が極めて不十分であることが分かった。
【0097】
比較例6は、本発明で用いる熱可塑性エラストマー(a3)を用いなかった例であるが、多層成形体の層間の密着性が極めて不十分であることが分かった。
【0098】
比較例7は、本発明で用いる芳香族系エポキシ樹脂(a2)を用いなかった例であるが、多層成形体の層間の密着性が極めて不十分であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量が23,000〜100,000の範囲であるポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)、芳香族系エポキシ樹脂(a2)及び熱可塑性エラストマー(a3)を必須成分とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)と、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、イソシアネート基及びエポキシ基の中から選ばれる1種以上の官能基を有する熱可塑性樹脂(B)とを共押出成形して得られる多層構造を有することを特徴とする多層成形体。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(a1)が、複数の異なるピーク分子量を有するポリアリーレンスルフィドであり、これらのピーク分子量の加重平均が30,000〜35,000の範囲である請求項1記載の多層成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(B)が脂肪族系ポリアミドである請求項1又は2記載の多層成形体。
【請求項4】
前記芳香族系エポキシ樹脂(a2)が、ノボラック型エポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれか1項記載の多層成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー(a3)が、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体を必須成分とするものである請求項1〜4のいずれか1項記載の多層成形体。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー(a3)が、酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体及び未変性エチレン−α−オレフィン共重合体である請求項1〜4のいずれか1項記載の多層成形体。
【請求項7】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の芳香族系エポキシ樹脂(a2)の含有率が0.1〜5質量%である請求項1〜6のいずれか1項記載の多層成形体。
【請求項8】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(A)中の熱可塑性エラストマー(a3)の含有率が10〜20質量%である請求項1〜7のいずれか1項記載の多層成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の多層成形体からなることを特徴とする燃料用部品。

【公開番号】特開2011−20401(P2011−20401A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168840(P2009−168840)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】