説明

多層成形品

【課題】三層以上の多層成形品でありながらその外周端部は二層に成すことができて、外周端部の肉厚を必要最小限に抑えた良好な形状と特性を有する多層成形品を提供する。
【解決手段】容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティ12aで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品1であって、多層成形品1の鍔部6は、その全周に亘り二層に形成され、多層成形品1の鍔部6を除いた部分である主要部75はN層に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層成形により成形した多層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年需要が増大しつつあるLED照明等のプロジェクタレンズは、その集光特性上12mm以上の厚肉レンズとなる。そのような厚肉プラスチックレンズを従来の成形方法としての一層で成形する場合、最大肉厚部分に発生するひけの光学特性への影響を少なくするため長時間の冷却時間が必要とされていた。この問題を解決して成形時間を短縮する手段として多層成形の技術が提案されると共にその技術で成形された成形品が開示されている。
【0003】
特許文献1には、樹脂厚肉レンズの肉厚方向に対して何れか一方の面側から順次に肉厚を増していき、最終的には規定肉厚に達するようにした複数の金型を形成し、この一方の面の金型を交換しながら、金型毎の回数の樹脂の注入を行うという多層化技術とその技術で成形された厚肉レンズが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、最終的に得られる凸レンズの厚さの約1/2の厚さの凸レンズをインサートとして二次成形して、インサートとほぼ同曲率の凸レンズを成形する多層化技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−191365号公報
【特許文献2】特公平3−31124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1及び特許文献2の多層化技術において、各層を成形するための射出充填は、レンズの光学面ではなく、レンズの外周端面に設けたゲートから行われている。しかしながら、厚肉凸レンズの断面形状の特性から、その外周端面の厚さ寸法は極めて小さいため、多層成形品における各層の全てのゲートを外周端面に設けることは困難である。また、仮に凸レンズの外周端面に多層の各層のゲートを設けた場合には、各層のゲートの断面積は極めて小さくなるため、その場所の溶融樹脂に残留応力が集中し光学特性の悪化を招くことになる。これらの問題は、多層化の効果が十分に得られる三層以上の多層成形の場合に顕著となるのである。
【0007】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、三層以上の多層成形品でありながらその外周端部は二層に成すことができて、外周端部の肉厚を必要最小限に抑えた良好な形状と特性を有する多層成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明である多層成形品は、容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品であって、前記多層成形品の外周端部は、その全周に亘り二層に形成され、前記多層成形品の前記外周端部を除いた部分である主要部はN層に形成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、主要部が三層以上の多層であるにも拘わらず外周端部は二層のみで形成される。すなわち、本来の機能を有する主要部とは異なり取り付け部材としての機能のみを要求される外周端部が、成形性を維持しつつ必要最小限の形状に形成される。それ故、本発明の多層成形品は、機能的、特性的及び外観的に良好なものになるという優れた効果を奏する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記外周端部の一方の層の端面には第1層又は第N層を成形したゲートのゲート痕が露出し、前記外周端部の他方の層の端面には第2層乃至第N層又は第1層乃至第(N−1)層の各層を成形したゲートのゲート痕が露出することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、本発明の多層成形品は、特性的に、また、外観的にも良好なものとなるという優れた効果を奏する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品の外周端部の端面には、第N層を成形したゲートのゲート痕のみが露出し、他の層を成形したゲートのゲート痕は露出しないことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、本発明の多層成形品は、鍔部を取り付け部材として好適な形状となすことができ機能的に優れたものになるとともに、ゲート痕が一箇所にしか露出しないので外観的にも優れたものになるという優れた効果を奏する。さらに、このような構成とするために不可欠な内層のゲートのゲート痕は界面が溶融して消滅し、外周端面に露出するのは第N層を成形したゲートのゲート痕のみであるから、光学特性を低下させることがないという優れた効果を奏する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品の主要部の一方の表面が、第1層の成形部分からなって小曲率又は平面状を有し、前記主要部の他方の表面が、第N層の成形部分からなって前記一方の表面の曲率より大きい曲率を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、このような本発明の多層成形品を成形する金型装置は、同一形状で且つ同一寸法を有する側の凹部の加工面積が減少してその加工費用を削減することができるので、金型装置を低コストで製造でき、本発明の多層成形品が低価格になるという優れた効果を奏する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品の前記第1層乃至第N層の各々の最大厚さのうち、第N層の最大厚さ寸法が最も小さいことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、主要部の表面の成形転写性が向上するので、高品質の多層成形品が得られるという優れた効果を奏する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記多層成形品が、光学レンズであることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、高品質の光学レンズを得ることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の多層成形品の側面図である。
【図2】本発明の多層成形品を成形する金型装置の断面側面図である。
【図3】本発明の多層成形品を成形し他の形態のゲートを有する金型装置の断面側面図である。
【図4】本発明の多層成形品の第1態様を示す部分断面の斜視図である。
【図5】本発明の多層成形品の第2態様を断面で示す斜視図である。
【図6】本発明の多層成形品の第3態様を断面で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1に示す多層成形品1は、図2に示す金型装置7又は図3に示す金型装置17により成形される。金型装置7,17は、互いに型合わせして金型キャビティ12を形成するコアブロック8及びキャビティブロック9の対、並びに、コアブロック8を固着する第一型板10及びキャビティブロック9を固着する第二型板11の対から構成される。一対のコアブロック8とキャビティブロック9に、図2,3に示すように、複数の金型キャビティ12a,12bを設けることが経済性や作業性を向上させる点で有効となる。しかしながら、一対のコアブロックとキャビティブロックに一の金型キャビティを設けるようにしてもよい。このとき、第一型板と第二型板は、求める多層成形品の層数(N)と同数のコアブロックとキャビティブロックをそれぞれの所定位置に固着することになる。また、一又は複数の金型キャビティを有するコアブロックとキャビティブロックの一又は複数対を一又は複数対の第一型板と第二型板にそれぞれ固着してもよい。さらに、第一型板と第二型板が複数対の場合、第一型板と第二型板の全ての対を同一の型締装置に取付けるか、第一型板と第二型板の一部の対を他の型締装置に分散して取付けてもよい。
【0023】
金型キャビティ12a,12bは、図2,3に示すように、コアブロック8に形成される一方側とキャビティブロック9に形成される他方側とが、コアブロック8とキャビティブロック9との型合わせで一体化することにより形成される。金型キャビティの数は、金型装置7,17で成形する多層成形品の層数(N)と同数である。コアブロック8における各金型キャビティ12a,12bの一方側を形成する凹部76は、全て同一形状で且つ同一寸法を有している。キャビティブロック9における金型キャビティ12a,12bの他方側を形成する凹部の深さ寸法は、各凹部毎に異なる。それら凹部の中で最大の深さ寸法を有する凹部14bの深さ寸法は、コアブロック8における各金型キャビティの一方側を形成する凹部76の深さ寸法より大きくなるように設定されている。すなわち、キャビティブロック9の凹部の中で最大の深さ寸法を有する凹部14bの曲率は凹部76の曲率より大きいのである。このようにして形成される各金型キャビティは、金型キャビティの容積が一方向に順次変化し円周上に等間隔となるよう配設される。そして、各金型キャビティの容積は、第1層成形の金型キャビティ12aから第N層成形の金型キャビティ12bに向けて順次大きくなるのである。図2及び図3では、説明の便宜上、第1層成形の金型キャビティ12a及び第N層成形の金型キャビティ12bのみを記載し、他の層の金型キャビティの記載を省略している。尚、金型キャビティの配設は、円周上ではなく、直線上に行ってもよい。さらに、複数の金型キャビティを事前に配設するのではなく、一の金型キャビティにおいてキャビティブロックを手動又は自動で交換するように構成してもよい。
【0024】
図2,3における上側に示す金型キャビティのように、凹部14aの容積が最小であって金型キャビティの容積が最小の金型キャビティ12aでは、第1層としての中間成形品が成形される。その中間成形品は、型開き時に第一型板10を回転させる等の手段により、金型キャビティの容積がより大きい併設の金型キャビティに移送される。この金型キャビティでは、第1層の中間成形品のキャビティブロック側の面により実質的な金型キャビティが形成され、第2層が成形される。このように第1層から第(N−1)層の各層で成形された中間成形品は、より大きい金型キャビティ容積の金型キャビティへ順次移送される。図2,3における下側に示す金型キャビティ12bのように、キャビティブロック9の凹部の容積が最大であって金型キャビティの容積が最大の金型キャビティ12bでは、N=8の場合の最終層となる第8層が成形され、多層成形品1が完成する。その後、多層成形品1は、金型キャビティ12bから離型されて取出される。尚、多層成形品1としては凸レンズを例示したが、多層成形品1は、光学製品である導光板等であってもよいし、非光学製品であってもよい。
【0025】
図1に示す多層成形品1は、凹部76で転写成形され小曲率又は平面状を有する表面2及び、凹部14bで転写成形され表面2の曲率より大きい曲率を有する表面3からなる主要部75、並びに、主要部75の外周に鍔状に突出し表面2と同じ成形層である第1層及び主要部75の外周に鍔状に突出し表面3と同じ成形層である第N層の二層からなる鍔部6により構成されている。このように、全て同一形状で且つ同一寸法を有する凹部76がキャビティブロック9の各凹部のうちの最大のものである凹部14bより深さ寸法と曲率において小さく設定されているので、キャビティブロック9の各凹部のうちの最大のものを同一形状で且つ同一寸法を有する凹部とした場合すなわち図2,3において凹部14bと凹部76とを入れ替えたような場合と比較すると、同一形状で且つ同一寸法を有する側の凹部の加工面積が減少して加工費用を削減することが可能になる。特に、成形品が光学レンズのときには、凹部を非球面の鏡面にする必要があり、加工費用が高額となるので、顕著な効果を奏する。
【0026】
図4に示す多層成形品19は、多層成形品1のゲート及び各層の形態を示す第1態様である。多層成形品19は、N=8のときの態様であり、図2に示す金型装置7により成形される。
【0027】
多層成形品19の成形工程は次の通りである。(1)金型キャビティ12aにゲート痕32のゲート13aから溶融樹脂を射出充填させて第1層20を成形する。溶融樹脂は図示しない射出装置からスプル15とランナ16を介してゲート13aに供給される。(2)第1層20を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕33のゲートから樹脂通路28を介して溶融樹脂を射出充填し第1層20の上に第2層21を積層成形する。(3)第1層20及び第2層21を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕34のゲートから樹脂通路29を介して溶融樹脂を射出充填し第2層21の上に第3層22を積層成形する。(4)第1層20乃至第3層22を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕35のゲートから樹脂通路30を介して溶融樹脂を射出充填し第3層22の上に第4層23を積層成形する。(5)第1層20乃至第4層23を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕36のゲートから樹脂通路31を介して溶融樹脂を射出充填し第4層23の上に第5層24を積層成形する。(6)第1層20乃至第5層24を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへ図示しないゲート痕のゲートから図示しない樹脂通路を介して溶融樹脂を射出充填し第5層24の上に第6層25を積層成形する。(7)第1層20乃至第6層25を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへ図示しないゲート痕のゲートから図示しない樹脂通路を介して溶融樹脂を射出充填し第6層25の上に第7層26を積層成形する。(8)第1層20乃至第7層26を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティにゲート痕37のゲート13bから溶融樹脂を射出充填して第8層27を成形する。
【0028】
多層成形品19の外周端部である鍔部38を構成する第8層の端面には、第2層21を成形したゲートのゲート痕33と、第3層22を成形したゲートのゲート痕34と、第4層23を成形したゲートのゲート痕35と、第5層24を成形したゲートのゲート痕36と、第6層25及び第7層26を成形したゲートの図示しないゲート痕と、第8層(第N層27)を成形したゲートのゲート痕37とが露出している。ゲートは、ゲート部分での発熱の影響が少ないサイドゲートであることが好ましい。第1層乃至第6層(第(N−2)層)成形での各中間成形品を擁する第2層乃至第7層(第(N−1)層)成形における実質的な各金型キャビティには、その外周から放射状にゲートまで連通して溶融樹脂を流通させる樹脂通路28〜31が第1層20の表面に形成されるように設けられている。そして、第8層(第N層27)の成形では、第1層20上の樹脂通路28〜31は第8層(第N層27)の鍔部38を成形する溶融樹脂によって鍔部38の表面と同一面となるよう埋設される。このように、多層成形品19はその鍔部38を除いた主要部75が八層でありながら、鍔部38が二層となり薄く形成可能なことから、機能的・外観的に優れたものとなる。また、主要部75の内部にある樹脂通路28〜31は層成形時にその界面が溶融されるので、微小な凹凸や残留応力が消滅し、界面が光学特性に悪影響を及ぼすことはなく、多層成形品19は光学特性の優れたものとなる。なお、第3層から第7層までの各層の積層は、前の層の全面を覆うように示したが、前の層の一部を部分的に覆うように金型キャビティを構成してもよい。その場合には、樹脂通路は複数の層となった中間成形品の表面に設けられることになる。
【0029】
さらに、多層成形品19は、同一形状で且つ同一寸法を有する凹部76をキャビティブロック9の各凹部のうちの最大のものである凹部14bに置換したような変形態様の金型構成によっても成形することができる。上述した成形工程により多層成形品19を成形するときは、平板状の第1層20の上に第2層以降の層を順次積み重ねていくようにして積層成形する。これに対し、この金型構成で成形するときには、ドーム状の第1層の内側全面に第2層以降の層を順次はめ込んで積層するような形態となる。そのため、この金型構成で成形した多層成形品の第1層の外周端面には、第1層を成形したゲート及び第2層乃至第(N−1)層の各層を樹脂通路を介して成形したゲートのゲート痕が露出し、その第1層に積層して鍔部を形成する第N層の端面には、第N層を成形するゲートのゲート痕のみが露出するのである。
【0030】
図5に示す多層成形品55は、多層成形品1のゲート及び各層の形態を示す第2態様である。多層成形品55は、N=8のときの態様であり、図3に示す金型装置17により成形される。
【0031】
多層成形品55の成形工程は次の通りである。(1)金型キャビティ12aにゲート痕48のゲート13cから溶融樹脂を射出充填させて第1層39を成形する。溶融樹脂は図示しない射出装置からスプル15とランナ16を介してゲート13cに供給される。(2)第1層39を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕49のゲートから溶融樹脂を射出充填し第1層39の上に第2層40を積層成形する。(3)第1層39及び第2層40を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕50のゲートから溶融樹脂を射出充填し第2層40の上に第3層41を積層成形する。(4)第1層39乃至第3層41を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕51のゲートから溶融樹脂を射出充填し第3層41の上に第4層42を積層成形する。(5)第1層39乃至第4層42を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕52のゲートから溶融樹脂を射出充填し第4層42の上に第5層43を積層成形する。(6)第1層39乃至第5層43を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕53のゲートから溶融樹脂を射出充填し第5層43の上に第6層44を積層成形する。(7)第1層39乃至第6層44を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕54のゲートから溶融樹脂を射出充填し第6層44の上に第7層45を積層成形する。(8)第1層39乃至第7層45を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕73のゲート13bから溶融樹脂を射出充填し第7層45の上に第8層(第N層46)を積層成形する。
【0032】
ゲート痕48乃至54の配設位置すなわちゲートの配設位置は、各層の中央部に設けたものとして図5に示した。しかしながら、ゲートは各層の金型キャビティの面であれば何処に設けてもよい。このように、多層成形品55は、その第1層39乃至第7層45を成形したゲートのゲート痕48乃至54が表面に露出せず、第8層46を成形したゲートのゲート痕73のみが鍔47の端面に露出する外観となる。なお、ゲート痕48乃至54は、それぞれのゲート痕のゲートで成形した層に続く層の成形で界面が溶融されるので、ゲート痕の微小な凹凸や残留応力は消滅する。そのため、ゲート痕48乃至54は光学特性に悪影響を及ぼすことはなく、多層成形品55は光学特性の優れたものになるとともに、外観的にも優れたものとなる。
【0033】
さらに、多層成形品55は、同一形状で且つ同一寸法を有する凹部76をキャビティブロック9の各凹部のうちで最大のものである凹部14bに置換したような変形態様の金型構成によっても成形することができる。上述した成形工程により多層成形品55を成形するときは、平板状の第1層39の上に第2層以降の層を順次積み重ねていくようにして積層成形する。これに対し、この金型構成で成形するときには、ドーム状の第1層の内側全面に第2層以降の層を形成するため、実質的な金型キャビティへピンゲートやホットランナから溶融樹脂を射出充填し、それを第(N−1)層の成形まで繰り返すことになる。そのため、この金型構成で成形した多層成形品の第N層の外周端面には、第N層を成形したゲートのゲート痕のみが露出する。そして、第N層とともに鍔部を形成する第1層の端面には、ゲート痕が露出しないのである。また、この金型構成においても、ゲートの配設位置は自在に設定可能である。特に、第2層から第(N−1)層までの各ゲートを第N層の金型キャビティとなる面に設けることができる。そのとき、第2層から第(N−1)層まで成形した各ゲート痕は第N層の成形で界面が溶融されつつ被覆される。そのため、多層成形品55は光学特性及び外観性がともに優れたものとなる。
【0034】
図6に示す多層成形品72は、多層成形品1のゲート及び各層の形態を示す第3態様である。多層成形品72は、N=8のときの態様であり、図3に示す金型装置17により成形される。
【0035】
多層成形品72の成形工程は次の通りである。(1)金型キャビティ12aにゲート痕65のゲート13cから溶融樹脂を射出充填させて第1層56を成形する。溶融樹脂は図示しない射出装置からスプル15とランナ16を介してゲート13cに供給される。(2)第1層56を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕66のゲートから溶融樹脂を射出充填し第1層56の上に第2層57を積層成形する。(3)第1層56及び第2層57を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕67のゲートから溶融樹脂を射出充填し第2層57の上に第3層58を積層成形する。(4)第1層56乃至第3層58を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕68のゲートから溶融樹脂を射出充填し第3層58の上に第4層59を積層成形する。(5)第1層56乃至第4層59を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕69のゲートから溶融樹脂を射出充填し第4層59の上に第5層60を積層成形する。(6)第1層56乃至第5層60を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕70のゲートから溶融樹脂を射出充填し第5層60の上に第6層61を積層成形する。(7)第1層56乃至第6層61を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕71のゲートから溶融樹脂を射出充填し第6層61の上に第7層62を積層成形する。(8)第1層56乃至第7層62を中間成形品として擁した実質的な金型キャビティへゲート痕74のゲート13bから溶融樹脂を射出充填し第7層62の上に第8層(第N層63)を積層成形する。
【0036】
このように、多層成形品72の成形工程は、多層成形品55の成形工程と同一である。多層成形品72は、各層の外周端部が第1層に接触しない点で多層成形品55との相違がある。しかしながら、鍔部64が第1層56及び第8層(第N層63)からなる二層に形成され、ゲート痕74が鍔部64を形成する第8層(第N層63)の端面にのみ露出する点は、多層成形品55の態様と同様である。
【0037】
すなわち、多層成形品55及び72並びにその変形態様の金型構成で成形したものも含めて鍔部は二層となっている。そして二層の鍔部の一方にはゲート痕はなく、他方にのみゲート痕が露出する。しかしながら、図示はしないが、第1層の中間成形品が鍔部を有せず、主要部のみのものとなり、鍔部は第N層の成形で形成するような金型構成とすることもできる。この場合には鍔部は一層であり、その端面にゲート痕が露出することになる。
【0038】
ところで、多層成形品1の第N層5の表面3は、キャビティブロック9の凹部14bにより転写成形して形成される。この表面3の転写状態は、多層成形品1が光学製品である場合には、その特性を左右する重要な要素となる。転写状態が良好とは、凹部14bの表面状態を忠実に転写したときであるが、そのようにするには、第N層5の成形時の冷却効果を緩和する必要がある。そのため、キャビティブロック9の凹部14bを有する部分の温度を他のものより高く設定する。そこで、第1層から第N層までの各層の成形時間の統一を図るために、第N層の最大肉厚部の厚さ寸法を他の層のものより小さくするのである。
【0039】
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態の多層成形品1,19,55,72は、その外周端部としての鍔部6,38,47,64が全周に亘り二層に形成されるとともに、多層成形品1,19,55,72の鍔部6,38,47,64を除いた部分である主要部75は八層(N層)に形成されている。多層成形品1,19,55,72はこのように、主要部75が三層以上の多層であるにも拘わらず鍔部6,38,47,64は二層のみで形成される。そして、本来の機能を有する主要部75とは異なり剰余部分の排除を要する鍔部6,38,47,64は、必要最小限の厚さに形成される。それ故、多層成形品1,19,55,72は、取り付け部材としての鍔部が良好に機能し、また、外観的にも極めて優れたものとなる。さらに、このような構成とするために不可欠な内層のゲートや樹脂通路は、その界面が溶融して消滅し、ゲート痕は外周端面に露出するのみであるから、光学特性を低下させることがなく、多層成形品1,19,55,72は、優れた特性を有するのである。
【0040】
また、本実施形態の多層成形品55及び72は、その鍔部47,64の端面には第N層を成形したゲートのゲート痕のみが露出し、他の層を成形したゲートのゲート痕は露出しないのである。このような多層成形品55及び72は、取り付け部材としての鍔部が良好に機能し、また、外観的にも極めて優れたものとなる。さらに、このような構成とするために不可欠な内層のゲートのゲート痕は界面が溶融して消滅し、外周端面に露出するのは第N層を成形したゲートのゲート痕のみであるから、光学特性を低下させることがないという優れた効果を奏するのである。
【0041】
さらに、多層成形品1,19,55,72の主要部75の一方の表面は、第1層の成形部分からなって小曲率又は平面状を有し、前記主要部75の他方の表面は、第N層の成形部分からなって前記一方の表面の曲率より大きい曲率を有する。このような形状に成形するための金型装置は、同一形状で且つ同一寸法を有する側の凹部の加工面積が減少するので、その加工費用が低減する。特に、成形品が光学レンズのときには、凹部を非球面の鏡面にする必要があり、加工費用が高額となるので、顕著な効果を奏する。
【0042】
またさらに、多層成形品1,19,55,72の第1層乃至第N層のそれぞれの最大厚さのうち、第N層の最大厚さ寸法が最も小さい。このようにすれば、主要部75の表面の成形転写性が向上して高品質の多層成形品が得られるという優れた効果を奏する。
【0043】
尚、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,19,55,72 多層成形品
2 表面
3 表面
4,20,39,56 第1層
5,27,46,63 第N層
6,38,47,64 鍔部
7,17 金型装置
12a,12b 金型キャビティ
13a,13b,13c ゲート
32〜37,73,74 ゲート痕
75 主要部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品であって、
前記多層成形品の外周端部は、その全周に亘り二層に形成され、
前記多層成形品の前記外周端部を除いた部分である主要部はN層に形成されていることを特徴とする多層成形品。
【請求項2】
前記外周端部の一方の層の端面には第1層又は第N層を成形したゲートのゲート痕が露出し、前記外周端部の他方の層の端面には第2層乃至第N層又は第1層乃至第(N−1)層の各層を成形したゲートのゲート痕が露出することを特徴とする請求項1に記載の多層成形品。
【請求項3】
容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品であって、
前記多層成形品の外周端部の端面には、第N層を成形したゲートのゲート痕のみが露出し、他の層を成形したゲートのゲート痕は露出しないことを特徴とする多層成形品。
【請求項4】
容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品であって、
前記多層成形品の主要部の一方の表面は、第1層の成形部分からなって小曲率又は平面状を有し、前記主要部の他方の表面は、第N層の成形部分からなって前記一方の表面の曲率より大きい曲率を有することを特徴とする多層成形品。
【請求項5】
容積が相互に異なる複数の金型キャビティのうち最小容積の金型キャビティで成形した第1層としての中間成形品を容積のより大きい金型キャビティへ移送して第2層を積層成形し、以後中間成形品を第N層までの各金型キャビティへ順次移送して積層成形することにより成形される三層以上(N層)の多層成形品であって、
前記多層成形品の第1層乃至第N層のそれぞれの最大厚さのうち、第N層の最大厚さ寸法が最も小さいことを特徴とする多層成形品。
【請求項6】
前記多層成形品は、光学レンズであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多層成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107229(P2013−107229A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252343(P2011−252343)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000225740)南部化成株式会社 (41)
【Fターム(参考)】