説明

多層抄き板紙

【課題】硫化水素ガスの吸着効果に優れ、また高温多湿の条件下においても、硫化水素ガスの吸着保持力に優れるガス吸着層を有する多層抄き板紙を提供する。
【解決手段】シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成されたガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物と、ウレタン系樹脂エマルジョンを40〜60質量%と、さらに、平均粒子径が1〜20μmである銅粉を塗工剤に対し2〜5質量%とを含有させた塗工剤を、塗工剤を基紙上に2.0〜5.0g/m塗工して下塗り層を形成し、この下塗り層上に、塗工剤を1.0〜2.5g/m塗工して上塗り層を形成してガス吸着層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば金属製品の包装等に用いられ、防錆機能を有する多層抄き板紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、段ボールケースから発生する硫化水素ガスにより、内容物である銅・銀等の金属メッキ製品および樹脂加工製品、繊維加工製品が変色することから、当該変色を防止するために優れた硫化水素ガス除去効果を発揮する防錆層を紙面に形成するという技術が従来から知られている。
【0003】
特許文献1には、シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成された多孔質珪酸塩鉱物をウレタン系樹脂エマルジョンに混合した塗工剤を多層塗工することにより、硫化水素ガス除去効果に優れた防錆層を有する防錆ライナーが開示されている。しかし、この防錆ライナーは、一時的に硫化水素ガスを吸着し除去することはできるものの、高温多湿化における経時において、一旦除去した硫化水素ガスが再放出されてしまうという問題があり、この結果、経時で金属等に錆が発生してしまうことがあった。
【0004】
また、特許文献2には、硫黄を含まない蒸解液によって蒸解されたパルプ、又はサーモメカニカルパルプ(TMP)、加熱処理もしくは酸化処理により有害成分を除去したパルプを原料とした金属類の包装材料が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の技術は、そもそも紙中から放出される発錆ガス成分であるイオウ成分を減少させるものであり、硫化水素ガスを吸着したり、この吸着された硫化ガスが再放出されることを抑制する吸着保持力を有するものではない。
【0005】
また、特許文献3には、不織布として特定の物性を有するものを使用することによって、防錆剤の脱落が極めて少なくなることを見出し、また原料として再使用可能な、防湿耐水性防錆シートが開示されている。しかしながら、この特許文献3に記載の技術も、紙から発生する硫化水素ガスの吸着性能や、吸着された硫化ガスが再放出されることを抑制する硫化ガスの吸着保持性能を有するものではない。
【0006】
さらにまた、特許文献4には、活性炭微粉末と、銅からなる金属と、バインダーとを混合した塗布液を塗布又は含浸させることにより、硫化水素のような還元性イオウ化合物の吸着性能に優れる防食用板紙が開示されている。しかしながら、特許文献4に記載の技術は、還元性イオウ、特に硫化水素やメルカプタン類の吸着固定作用は著しく向上させているものの、長期に使用すると高温多湿において、硫化ガスの吸着保持力を有するものではなく、やはり防錆効果としては満足できるものではなかった。
【0007】
また、塗工機により防錆層となる塗工層を単層塗工で形成する場合、通常、塗工量が制限されるという難点がある。このため、抄紙段階で防錆剤を内添することにより防錆性を付与することが考えられる。しかしながら、この場合、防錆層が紙の表面に形成されないことがあり、防錆効果が不十分となるおそれがある。特に、このような防錆層は、硫化水素ガスを吸着する機能は有するが、高温多湿条件下においては、吸着した硫化水素ガスが再放出してしまい、硫化水素ガスの吸着保持力が不十分であるという問題があった。
【特許文献1】特許第3887386号公報
【特許文献2】特公平3−62838号公報
【特許文献3】特開平7−89572号公報
【特許文献4】特開昭63−99399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、硫化水素ガスの吸着効果に優れ、また高温多湿の条件下においても、硫化水素ガスの吸着保持力に優れるガス吸着層を有する多層抄き板紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成されたガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物をウレタン系樹脂エマルジョンに混合した塗工剤を塗工して得られたガス吸着層を有する多層抄き板紙であって、前記塗工剤に銅粉を含有し、防錆機能を付与したことを特徴とする多層抄き板紙を提供することによって達成される。
【0010】
また、本発明の上記目的は、前記銅粉の添加量は、前記塗工剤に対して2〜5質量%であり、また、前記多層抄き板紙を6.5cm角に断裁したサンプルを200ppmの硫化水素ガス1Lと共にテドラーバックに封入し、室温24℃環境下にて静置し、30分後のテトラーバック内の硫化水素ガス濃度が0.1〜20.0ppmであることを特徴とする多層抄き板紙を提供することによって、効果的に達成される。
【0011】
また、本発明の上記目的は、前記ガス吸着層は下塗り層と上塗り層とを有し、前記下塗り層は前記塗工剤を2.0〜5.0g/m塗工して形成され、また前記上塗り層は前記塗工剤を1.0〜2.5g/m塗工して形成されることを特徴とする多層抄き板紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【0012】
さらにまた、本発明の上記目的は、前記銅粉の平均粒子径が1〜20μmであり、また前記ウレタン樹脂エマルジョンを、前記塗工剤に対して40〜60質量%添加することを特徴とする多層抄き板紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る多層抄き板紙によれば、ガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物をウレタン系樹脂エマルジョンに混合した塗工剤に銅粉を含有させて、塗工層であるガス吸着層を形成したので、硫化水素ガスの吸着除去効果に優れ、また吸着した硫化水素ガスは銅粉と反応して硫化銅としてガス吸着層中に固着することができるので、硫化水素ガスが再放出されることを少なくすることができる、すなわち硫化水素ガスの吸着保持力に優れる。従って、このようにして得られた本多層抄き板紙を用いて、金属メッキ製品および樹脂加工製品、繊維加工製品を包装した場合、金属メッキ製品および樹脂加工製品、繊維加工製品の変色を効果的に防止する、すなわち防錆機能に優れるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本願発明の好適な実施の形態について説明する。
本発明に係る多層抄き板紙(以下、「本多層抄き板紙」という)は、シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成されたガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物を、バインダーであるウレタン系樹脂エマルジョンに混合し、銅粉を含有した塗工剤を塗工して得られたガス吸着層を有する多層抄き板紙において、ある特定の銅粉を含有させた塗工剤を塗工することで防錆機能を有する多層抄き板紙である。
【0015】
上記ガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物としては、チャバザイト、モルデナイト、エリオナイト、ホージャサイト、クリノプチロライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、オメガ型ゼオライト等の天然または合成のゼオライト、クリストバライト、セピオライト、モンモリロナイト、キシロタイル、ラフリナイト、パリゴルスカイト、アタパルジャイト、ハイドロタルサイト、ハイドロキシアパタイト等が採用できるが、ここでは、例えばライオナイトSF:ライオン株式会社製(シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウムの中性粉体)が採用されており、これらガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物の平均粒子径は2.0〜5.0μmの範囲に設定するのが望ましい。そのようにした場合、粒子間が密になり、吸着面積が大きくなるという作用効果が得られる。
【0016】
また、上記ウレタン系樹脂エマルジョンとしては、アデカボンタイターHUXシリーズ:旭電化工業株式会社製、JW224アクワエコートRSメジウム:東洋インキ製造株式会社製等が採用できる。
【0017】
また、ウレタン系樹脂エマルジョンは、塗工剤に対して40〜60質量%の割合で添加されることが好ましい。これにより、本発明の目的とする硫化水素ガスの吸着保持力に優れるガス吸着層を提供することができる。なお、ウレタン系樹脂エマルジョンの添加量が40質量%未満であると、後述する銅粉のガス吸着層中での硫化水素ガスの固着力が悪化する傾向にある。一方、添加量が60質量%を超えると、塗工剤中での銅粉の分散が悪化する傾向にあり、本発明の目的である硫化水素ガスの吸着保持力に優れるガス吸着層を提供することが困難になる。
【0018】
また、上記銅粉としては、MA−C04J、CT−1000、銅触媒、KP−130、硫酸銅担持ゼオライト、ナトリウム担持ゼオライト、CU−Yパウダーなどが採用できるが、中でもCT−1000のような粉体状のものが好ましい。
【0019】
また、銅粉は、塗工剤に対して2〜5質量%の割合で添加されることが好ましい。これにより、シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成されたガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物との相溶性がよく均一に分散させることができる。なお、銅粉の添加量が2質量%未満であると、硫化水素の分解性能が低下し、防錆効果が低下する傾向にある。一方、銅粉の添加量が5質量%を超えると、硫化水素の分解性能は維持でき、防錆効果は向上させることができるが、本多層抄き板紙に用いられる塗工剤を紙表面に塗布した場合、塗工層の表面に割れが発生するおそれがある。
【0020】
この塗工剤に添加する銅粉の平均粒子径は1〜20μmが好ましく、2.0〜5.0μmがより好ましい。平均粒子径が1μm未満であると、塗工剤中の銅粉のトータル表面積が大きくなり、銅粉をガス吸着層(塗工層)に固着させるために多量のバインダーが必要になる。このため、ガス吸着層が硬くなる傾向になり、防錆効果は有するものの、本多層抄き板紙を段ボールケースのような収容体、または包装体として使用するには、折れや曲げに弱く、耐罫線割れ適性に問題が発生してくる。一方、平均粒子径が20μmを超えると、銅粉の占める表面積が小さくなるため、本発明の目的とする硫化水素ガスの吸着性能を満足することができなくなる。
【0021】
このようにしたことにより、硫化水素ガスの吸着効果および吸着保持力に優れた多孔質珪酸塩鉱物を含むガス吸着層に銅粉を含有させることで、本多層抄き板紙が得られる。このようにして得られた多層抄き板紙を用いて形成した段ボールケース等に、金属メッキ製品および樹脂加工製品、繊維加工製品を包装した場合、紙から発生する硫化水素ガスが多孔質珪酸塩鉱物に吸着される。このとき、塗工剤中に添加した銅粉が硫化水素ガスを吸収して硫化銅としてガス吸着層内に固着させることができので、硫化水素ガスの再放出を少なくすることができ、硫化水素ガスの吸着保持力を向上させることができる。従って、金属メッキ製品および樹脂加工製品、繊維加工製品の変色を効果的に防止し、防錆機能を向上させることができる。
【0022】
また、ここで得られるガス吸着層は、6.5cm角に断裁した本多層抄き板紙を、濃度が200ppmの硫化水素ガス1L(1リットル)と共にテドラーバッグに封入し、室温(24℃)環境下に静置させ、30分静置させた後は、テドラーバッグ内の硫化水素ガス濃度が0.1〜20ppmとなり、60分静置させた後は、硫化水素ガスを検出限界(0.1ppm以下)まで硫化水素ガスを吸着し、除去することができる。
【0023】
さらに、ガス吸着層を下塗り層及び上塗り層の少なくとも2層から成る複数層で構成する。このように、塗工剤を多層塗工にすることにより、単一層で塗工するよりも、下塗り層と上塗り層との間の境界面において、より効率よく基紙から発生する硫化水素ガスが吸着され、これにより硫化水素ガスを通過させ難くなることが分かった。すなわち、下塗り層が基紙から発生する硫化水素ガスを優先的に吸着し、上塗り層は、本多層抄き板紙を容器として利用した場合、内包密閉され空気中の硫化水素ガスを優先的に吸着する。従って、硫化水素ガスを効率的に吸着することができ、吸着効果及び吸着保持力が安定するという作用効果が得られる点で望ましい。
【0024】
ガス吸着層の下塗り層は、前記塗工剤を2.0〜5.0g/mdry塗工して形成し、また上塗り層は塗工剤を1.0〜2.5g/mdry、下塗り層上に塗工して形成されることが望ましい。下塗り層の塗工剤の塗工量が2.0g/mdry未満であると、本多層抄き板紙の基紙表面の目止めが不十分となり、基紙を通過して硫化水素ガスが混入する可能性があり、本発明の目的とする硫化水素ガス吸着除去効果を得ることが難しくなる。一方、下塗り層の塗工剤の塗工量が5.0g/mdryを超えると、塗工剤を均一に塗布することが難しくなり、上塗り層の塗工性に不具合が生じる。また、上塗り層の塗工剤の塗工量が1.0g/mdry未満であると、塗工量が少なく、外気中からの硫化水素ガス、または多層抄き板紙の断面から発生してくる硫化水素ガスの吸着除去効果を満足することが困難になる。一方、上塗り層の塗工剤の塗工量が2.5g/mdryを超えると、段ボールケースとしての耐罫線割れ適性を満足することが難しくなる。
【0025】
本多層抄き板紙を6.5cm角に断裁し、200ppmの濃度の硫化水素ガス1Lと共にテドラーバッグに封入し、室温環境下に3時間静置する。その後、静置した本多層抄き板紙を、2分程度、大気に開放した後、本多層抄き板紙のガス吸着層が内側になるように二つ折りし、その間に銀線を挟み、テープで三方を封した。封をした本多層抄き板紙をテドラーバッグに合成空気と共に封入し、70℃の温度環境下に4日間静置後、テドラーバッグ内から本多層抄き板紙を取出して、挟んだ銀線の腐食程度を目視で評価したが、銀線の変色もなく、吸着した硫化水素ガスの再放出も少なく、高いガス吸着保持力を有することがわかった。
【0026】
本多層抄き板紙におけるガス吸着層は、印刷機における印刷ユニットを用いて形成される。そのようにした場合、オンラインに塗工できるユニットを複数もっている印刷機を使用することで、1工程で多層塗工ができることとなり、生産性が大幅に向上する。しかも、印刷層とガス吸着層、あるいはガス吸着層と防湿・耐油・防カビ・抗菌等の他機能を有する層とを1工程で同時に提供することもできる。
【0027】
以上に詳述したように、シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成されたガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物と、ウレタン系樹脂エマルジョンを40〜60質量%と、さらに、平均粒子径が1〜20μmである銅粉を塗工剤に対し2〜5質量%とを含有させた塗工剤を、塗工剤を基紙上に2.0〜5.0g/m塗工して下塗り層を形成し、この下塗り層上に、塗工剤を1.0〜2.5g/m塗工して上塗り層を形成してガス吸着層を形成することによって、多層抄き板紙を6.5cm角に断裁したサンプルを200ppmの硫化水素ガス1Lと共にテドラーバックに封入し、室温24℃環境下にて静置し、30分後のテトラーバック内の硫化水素ガス濃度が0.1〜20.0ppmとし、本願発明の目的とする優れた硫化ガス吸着性能及び吸着保持力を有し、防錆機能を有する多層抄き板紙をより効率的に提供することができる。
【実施例】
【0028】
本願発明に係る多層抄き板紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の重量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本願発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0029】
本発明に係る20種類の多層抄き板紙(これを「実施例1」ないし「実施例20」とする)と、これらの実施例1ないし実施例20と比較検討するために、7種類の多層抄き板紙(これを「比較例1」ないし「比較例7」とする)を、表1に示すような構成で作成した。
【0030】
【表1】

【0031】
(実施例1)
ウレタン系樹脂エマルジョンとして、JW224アクワエコートRSメジウム(東洋インキ製造株式会社製、固形分20%)を50kg(50重量%)と、ガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物として、平均粒子径が2.5〜4.5μmであるライオナイトSF(ライオン株式会社製)を固形分で10kg(10重量%)と、さらに銅粉として、平均粒子径が2.1μmであるCT−1000(三井金属鉱業株式会社製)を2.1kg(2.1重量%)とを、水37.9kgに混合させて、塗工剤を作製する。
この塗工剤を、フレキソ印刷機を用いて、基紙(JKライナー:大王製紙株式会社製、米坪220g/m)の表面上に3.9g/mdry塗工して下塗り層を形成し、この下塗り層上に1.9g/mdry塗工して上塗り層を形成した後、乾燥させて、多層抄き板紙(実施例1)を得た。
【0032】
(実施例2〜20及び比較例1〜7)
また、実施例2〜20を表1に示す条件以外は実施例1と同様に作製し、さらに比較例1〜7を表1に示す条件以外は実施例1と同様に作製した。なお、表1中の銅粉の種類の欄の、MA−C04Jとして三井金属鉱業(株)製のものを用い、KP−130として東亜剛性(株)製のものを用い、CU−Yパウダーとして触媒化成工業(株)のものを用いた。また、多孔質珪酸塩鉱物の、硫酸担持ゼオライト、ナトリウム担持ゼオライトとして、中部電力株式会社製のものを用いた。また、バインダーのスチレン・アクリル系として、目止めワニス(東洋インキ製造株式会社製)を用いた。
【0033】
これらの全実施例及び比較例について品質評価、すなわちガス吸着性能及びガス吸着保持力を評価する試験を行った結果は、表1に示すとおりであった。
【0034】
なお、表1中の「ガス吸着性能」とは、硫化水素ガスの吸着性能を評価したものである。その評価方法は、まず、各試料である多層抄き板紙を65mm×65mmに裁断し、この断裁したものを200ppmの硫化水素ガス1Lと共にテドラーバッグに封入し、室温(24℃)環境下に静置する。30分静置後、1時間静置後、3時間静置後のテドラーバッグ内の硫化水素濃度を検知管で測定し、初濃度との差を硫化水素ガス除去濃度(ppm)として測定し、ガス吸着性能として評価した。なお、表中の「<0.1」とは、硫化水素ガス除去濃度が0.1ppm未満であることを示す。
【0035】
また、「ガス吸着保持力」とは、硫化水素ガスが再放出していないかを評価したものである。その評価方法は、まず、各試料である多層抄き板紙を65mm×65mmに裁断し、この裁断した各試料を200ppmの硫化水素ガス1Lと共にテドラーバッグに封入し、室温環境下に3時間静置する。その後、静置したサンプルを一度(2分程度)大気に開放した後、サンプルの表面が内側になるように二つに折り、その間に銀線を挟み、テープで三方の封をする。封をしたサンプルをテドラーバックに合成空気と共に封入し、70℃の温度環境下に4日間静置する。4日間静置後、テドラーバック内からサンプルを取出して、挟み込んだ銀線の腐食程度を目視で評価したものである。なお、評価基準は下記の通りである。
◎:銀線の変色がまったくない。
○:銀線の変色個所が数箇所認められる。
△:銀線の変色個所が無数に認められる。
×:銀線が全体的に変色している。
【0036】
表1から、本発明に係る多層抄き塗工板紙、すなわち実施例1〜20に係る多層抄き塗工板紙であると、硫化水素ガスの吸着効果に優れ、また高温多湿の条件下においても、硫化水素ガスの吸着保持力に優れるガス吸着層を有することが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、アルミナ、金属酸化物で合成されたガス吸着性多孔質珪酸塩鉱物をウレタン系樹脂エマルジョンに混合した塗工剤を塗工して得られたガス吸着層を有する多層抄き板紙であって、
前記塗工剤に銅粉を含有し、防錆機能を付与したことを特徴とする多層抄き板紙。
【請求項2】
前記銅粉の添加量は、前記塗工剤に対して2〜5質量%であり、
また、前記多層抄き板紙を6.5cm角に断裁したサンプルを200ppmの硫化水素ガス1Lと共にテドラーバックに封入し、室温24℃環境下にて静置し、30分後のテトラーバック内の硫化水素ガス濃度が0.1〜20.0ppmであることを特徴とする請求項1に記載の多層抄き板紙。
【請求項3】
前記ガス吸着層は下塗り層と上塗り層とを有し、前記下塗り層は前記塗工剤を2.0〜5.0g/m塗工して形成され、また前記上塗り層は前記塗工剤を1.0〜2.5g/m塗工して形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の多層抄き板紙。
【請求項4】
前記銅粉の平均粒子径が1〜20μmであり、また前記ウレタン樹脂エマルジョンを、前記塗工剤に対して40〜60質量%添加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の多層抄き板紙。

【公開番号】特開2010−150724(P2010−150724A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332279(P2008−332279)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】