説明

多層抄き紙

【課題】光沢感が高く美粧性に優れながら、かつ耐罫線割れ性に優れ、段ボール適性及び紙器適性を有する多層抄き紙、特に高光沢多層抄き板紙を提供する。
【解決手段】着色表面層を有する多層抄き紙と、前記着色表面層上に設けられた、顔料及び接着剤を主成分とする塗工層とからなる多層抄き紙において、前記塗工層がリウェットキャスト法により鏡面仕上げされたものであり、前記塗工層表面について測定した光沢度が60〜90%であり、前記塗工層表面について測定した平滑度が80〜350秒であり、前記多層抄き紙について測定した透気度が5000秒以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美粧性に優れ、耐罫線割れ性、段ボール適性、紙器適性、印刷適性、高平滑性を有する多層抄き紙、特に高光沢多層抄き板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、板紙・紙器分野では化粧品等の段ボールケースまたは紙器に高級感が求められており、高い光沢感を有し見栄えの良い紙または板紙が多く使用されている。
【0003】
従来、段ボールケースまたは紙器に使用される、高い光沢感を有し見栄えの良い紙または板紙として、板紙等紙基材の表面に印刷層、光沢コート層あるいは光沢コート層が施されたものが用いられている。例えば紫外線硬化型インキ(以下UVインキという)により、紙基材の表面に印刷層を形成し、この印刷層の上に紫外線硬化型コート剤(以下UVニスという)からなるオーバーコート層を形成した構成が一般的であった。上記のように、UVインキ、UVニスを用いた高光沢の印刷物は、高い光沢感が得られる。しかしながら、紙容器等の使用後、それを再生紙として再利用するに際し、古紙として溶解し、パルプ繊維とオーバーコート層を含む印刷層を分離する工程において、オーバーコート層を含む印刷層の分離性が劣るため、この高い光沢性を有する印刷物を環境に配慮された再生紙へ再利用することは困難なものであった。
【0004】
また、前記のようにUVニスを用いずに印刷物の表面光沢度を上げる方法として、例えば脱墨性に優れ、かつ有機溶剤を用いないすなわち環境に配慮されたアクリル系キャスト用塗料のエマルジョンから構成される水性コート剤を塗布し、次にその水性コート剤を塗布した印刷物にプレス加工を行ってオーバーコート層とする、いわゆる水性コート剤をプレスコートする方法がある。しかしながら、上記の水性コート剤をプレスコートし、オーバーコート層とすることは、プレスコート自体の速度が遅いので高速印刷機へのインライン化が不可能であり、オフラインとしても生産効率に劣りコスト高となるという問題があった。
【0005】
この他に表面光沢度を上げる方法として、キャスト法がある。キャスト法には、顔料及びバインダーを主成分とする水性塗料を基紙上に塗布した後、湿潤状態にある塗工層表面を加熱ドラムの鏡面に圧接、乾燥し、加熱ドラムより離型して得られるウェットキャスト法、基紙上の水性塗料を一旦乾燥して塗被層とした後、前記塗被層に再湿潤液を付与して湿潤可塑化した後、加熱ドラムの表面に圧接、乾燥後、剥離して光沢仕上げするリウェットキャスト法(再湿法)、凝固剤を添加しゲル状態にした水性塗料を基紙上に塗布した後、湿潤状態にある塗工層表面を加熱ドラムの鏡面に圧接、乾燥し、加熱ドラムより離型して得られるゲル化キャスト法(凝固法)がある。このキャスト法で製造されるキャストコート紙は、優れた高光沢性、高平滑性、印刷適性により、包装用紙、書籍やノートの表紙、カタログ、印刷用紙として様々な分野で広く使用されている。
【0006】
キャストコート紙には、高光沢性、高平滑性を要求されることはもちろんのこと、加熱ドラム面から塗工面を抵抗なく離型させ、ピット(ドラム面に塗工膜が付着することにより発生する欠陥)やブリスター(塗工面を乾燥する際、塗工紙内部の水分が瞬間的に膨張し、水蒸気が塗料層を通過出来ずに紙層内における膨れ、即ち紙の層内もしくは層間剥離が発生する欠陥)がないことが重要な要件となっており、高度な技術を必要とされている。
【0007】
このキャストコート紙の製造方法としては、以下の方法がある。
【0008】
例えば、特許文献1には、顔料および接着剤を主成分として含有してなるキャストコート紙用塗料において、該顔料100重量部に対して、該接着剤として平均粒子径0.1−0.3μmのラテックス(A)を固形分で6−18重量部および平均粒子径0.5−1.5μmのラテックス(B)を固形分で3−12重量部、かつラテックス(A)および(B)を固形分で合計9−13重量部含有してなるキャストコート紙用塗料組成物および該組成物を塗工してなるキャストコート紙が提案されている。しかしながら、前記技術では、実施例にてキャストコート紙の光沢度が88〜91%あるものの、塗料組成物が乾燥重量で塗工量25g/mと塗工膜が厚く、罫線割れが発生することにより段ボール原紙または紙器原紙として品質不良が発生するおそれがある。
【0009】
また、特許文献2には、シート状基体の1面上と、電子線硬化性キャスト用塗料組成物よりなる塗布液層を介して平滑な成型面とが圧着され、電子線照射により該塗布液層を硬化して電子線硬化キャスト用塗料被覆層が形成され、次いで成型面から剥離してなる強光沢キャストコート紙において、前記電子線硬化キャスト用塗料被覆層の被覆量が1〜20g/mであり、かつ前記電子線硬化キャスト用塗料被覆層を設ける側のシート状基体の表面の王研式平滑度が500秒以上であることを特徴とするキャストコート紙が提案されている。しかしながら、前記技術は基紙に硬化キャスト用塗料被膜層を設けていることから、前述した通り再生紙としてリサイクルすることが困難である。
【0010】
さらにまた、特許文献3には、アルキルケテンダイマー系、アルケニルコハク酸無水物系等の中性抄紙用の高性能サイズ剤を、カチオン化澱粉等とともにパルプに添加して中性域で抄紙することにより、キャスト塗工紙に適した原紙が得られること、及びこれに加えて、該原紙とキャスト塗工層との中間に設ける下塗り層に含まれる接着剤としてのアクリルエマルジョン及び/又はラテックスのゲル含有率を最適化することにより、キャスト塗工の操業の安定化と高速化が達成できることが提案されている。しかしながら、前記技術では、実施例でキャスト表面のピットが少なく、キャスト表面の光沢度が88〜94%あるものの、キャスト塗工用塗工液が乾燥重量で15〜23g/mと塗工膜が厚く、罫線割れが発生することにより段ボール原紙または紙器原紙として品質不良が発生するおそれがある。
【0011】
さらにまた、特許文献4には、両面キャストコート紙の耐ブロッキング性を確保するための手段として、亜鉛、マグネシウム、アルミニュウム、チタニュウムを含む金属塩を少なくとも一種含む水溶液を再湿潤液として使用すると、高温、高湿、高圧下に於いてもブロッキングが発生しないか、したとしても非常に軽微で印刷工程の原紙セット作業において容易に解除される程度に軽減することが提案されている。しかしながら、前記技術は、光沢度が80%以上あるものの、キャスト塗工用塗料の塗工量が約20g/mと塗工膜が厚く、罫線割れが発生することにより段ボール原紙または紙器原紙として品質不良が発生するおそれがある。
【0012】
さらにまた、特許文献5には、光沢面の美観を損なうことなく、その裏面に印刷部が形成されたキャストコート紙が提案されている。しかしながら、前記技術では、光沢度の記載がなく、本願が目的とする光沢度を満足するか不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2664396号公報
【特許文献2】特開平8−311798号公報
【特許文献3】特開平6−123098号公報
【特許文献4】特許第3013059号公報
【特許文献5】特開2005−54308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光沢感が高く美粧性に優れながら、かつ耐罫線割れ性に優れ、段ボール適性、紙器適性、印刷適性及び高平滑性を有する多層抄き紙、特に高光沢多層抄き板紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、着色表面層を有する多層抄き紙と、前記着色表面層上に設けられた、顔料及び接着剤を主成分とする塗工層とからなる多層抄き紙であって、
前記塗工層がリウェットキャスト法により鏡面仕上げされたものであり、
前記塗工層表面について、JIS−P8142(2005)に準じて測定した光沢度が60〜90%であり、
前記塗工層表面について、JIS−8119(1998)のベック平滑度試験機による平滑度試験方法に準じて測定した平滑度が80〜350秒であり、
前記多層抄き紙について、JIS−8117(1998)のガーレー試験機法に準じて測定した透気度が5000秒以下であることを特徴とする多層抄き紙に関する。
【0016】
好ましくは、前記塗工層中に、離型剤を、前記顔料100質量部に対し、1.4〜3.0質量部含有し、前記離型剤としては、融点が100〜110℃の離型剤を含有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光沢感が高く美粧性に優れながら、かつ耐罫線割れ性に優れ、段ボール適性、紙器適性、印刷適性及び高平滑性を有する多層抄き紙、特に高光沢多層抄き板紙を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例における罫線割れの評価手順を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る多層抄き紙の一実施形態について詳細に説明する。なお、本発明に係る多層抄き紙は以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【0020】
本実施形態は、高光沢多層抄き板紙に関する。本実施形態に係る高光沢多層抄き板紙(以下、「本高光沢板紙」と言う。)では、表層、中層、及び裏層の3層の紙層により基紙(多層抄き紙)が構成されている。
【0021】
(原料)
本高光沢板紙の基紙に使用される原料パルプは、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、古紙を脱墨、漂白した古紙パルプ、ケント、上白、特白、中白等の未印刷古紙、地券、段ボール新聞、クラフト、模造、雑誌などの古紙から得られる古紙パルプ等をあげることができる。なお、古紙パルプを多く利用すると環境負荷が低減されるという利点がある。
【0022】
表層に用いられる原料パルプのフリーネスは150〜400ml、特に150〜350mlであることが好ましい。表層のフリーネスが150ml未満であると、繊維間が密になりやすく、透気度が高くなりすぎてしまう。逆に400mlを超えると、繊維間が疎になりやすく、透気度が低くなると共に平滑度が低くなってしまう。
【0023】
中層に用いられる原料パルプのフリーネスは250〜450ml、特に250〜400mlであることが好ましい。250ml未満であると繊維間が密になりやすく、透気度が高くなりすぎてしまう。逆に450mlを超えると繊維間が疎になりやすく、透気度が低くなると共に平滑度が低くなってしまう。
【0024】
また、裏層に用いられる原料パルプのフリーネスは300〜450ml、特に300〜400mlであることが好ましい。300ml未満であると、繊維間が密になりやすく、透気度が高くなりすぎてしまい、塗工した後の乾燥時において紙中水分が裏面に抜けにくくなる。逆に450mlを超えると、本高光沢板紙の表層原料フリーネスと裏層原料フリーネスの差が大きくなることにより、乾燥後にカールが発生する。
【0025】
また、各層の原料パルプのフリーネスは乾燥面の水分が紙の裏面に抜けやすいように、「表層の原料パルプのフリーネス<中層の原料パルプのフリーネス<裏層の原料パルプのフリーネス」という条件を満たすことがより好ましい。
【0026】
フリーネスの調整方法としては、例えばシングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、コニカルリファイナーなどの公知の叩解機を使用することができる。
【0027】
なお、本明細書において、フリーネスとはJIS−P8220(1998)離解方法に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121(1995)パルプのろ水度試験方法に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0028】
(各種添加薬品)
また、基紙中には、必要に応じて填料、歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤、定着剤、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤を適宜配合することができる。
【0029】
また、本高光沢板紙の抄造においては、キャスト用塗料の基紙内部への吸水性を調整するため、酸性ロジンサイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマーなど公知のサイズ剤を内添することにより、JIS−P8140に準じて測定された塗工前原紙(基紙)のコッブサイズ度が接触時間120秒で25〜90g/m、好ましくは25〜80g/mとなるように調整されることが好ましい。塗工前原紙のコッブサイズ度が25g/m未満では、後工程のキャスト用塗料の塗布工程で、後述するキャスト用塗料を十分に塗工することができず、目標とする光沢度を得ることができない。一方、塗工前原紙のコッブサイズ度が90g/mを超えると、塗布されるキャスト用塗料の基紙の内部への浸透量が多くなりコスト高になると共に、透気度が高くなることにより、乾燥不良を発生させるおそれがある。
【0030】
また、本高光沢板紙は、表層の原料パルプ中に着色剤を配合して着色層とする。なお、本高光沢板紙は、中層、あるいは裏層の原料パルプ中に着色剤を配合して中層及び/又は裏層も着色層としても良い。
【0031】
着色剤としては、アニオン性直接染料やカチオン性直接染料とともに、色が美しく、色濃度が高い塩基性染料を用いることができる。なお、これらの染料を2種以上添加する場合の染料の添加順序は、初期の段階でアニオン性直接染料を添加し、硫酸バンドを添加してpH調整を行った後、塩基性染料とそれに必要な定着剤を添加し、インレットに近い場所で高速染着性を有し、吸尽性が高く、耐水堅牢度や日光堅牢度が良好なカチオン性直接染料を添加するのが好適である。さらに、顔料を添加することで、一層濃色で且つ一層耐候性の高い着色を実現できる。なお、顔料としては公知の種々のものを用いることができる。
【0032】
(坪量)
本高光沢板紙の基紙の坪量は、特に限定されるものではないが、通常120〜320g/m、好ましくは150〜280g/mである。坪量が120g/m未満であると、段ボール原紙としての強度を確保することが難しい。逆に、坪量が320g/mを超えると、過剰品質となるだけでなく、製造コストが高くなるだけである。なお、本明細書における坪量とはJIS−P8124(1998)の坪量測定方法に準拠して測定した値である。
【0033】
(抄紙方法)
なお、本高光沢板紙の基紙の抄紙方法については、特に限定されるものではなく、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであってもよい。また、抄紙機も特に限定されるものではなく、例えば長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機、ヤンキー抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の当業界公知の種々な抄紙機を適宜使用することができる。
【0034】
ところで、本発明においては、平滑性の向上と、後工程で塗布されるキャスト用塗料の歩留り向上のため、基紙表面に、表面処理層を設けることが好ましい。表面処理剤としては、本発明の効果を損なわない範囲のものであれば特に制限なく利用できる。例えば、トウモロコシ、馬鈴薯、タピオカ、小麦、米等の澱粉やこれらの酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉誘導体、ポリアクリルアミド系樹脂やポリビニルアルコール等の合成水溶性バインダー、スチレン−ブタジエン共重合体などの共重合体ラテックス等、水溶性高分子が挙げられ、単独あるいは複数混合して利用しても良い。これらの中でも、酸化澱粉は安価なため、表面処理剤として利用しやすい。
【0035】
上記表面処理剤の塗工方法としては、一般に公知の塗工装置、例えばカレンダー、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、バーコータ、カーテンコータ、スロットダイコータ、グラビアコータ、チャンプレックスコータ、ブラシコータ、スライドビードコータ、ツーロールあるいはメータリングブレード式のサイズプレスコータ、ビルブレードコータ、ショートドウェルコータ、ゲートロールコータ等を用いることができる。
【0036】
なお、本高光沢板紙の基紙には通常平滑化処理が施される。平滑化処理は、例えばヤンキードライヤー、スーパーキャレンダ、グロスキャレンダ、ソフトキャレンダ等の公知の装置を用いてオンマシンやオフマシンにて行われる。加圧装置の圧力、加熱温度、ニップ数等の処理条件は適宜調節される。
【0037】
なお、前記抄紙方法で製造した基紙は、JIS−P8119(1998)のベック平滑度試験機による平滑度が24〜90秒であることが好ましい。平滑度が24秒未満であると、紙の表面が粗いことにより、後工程で塗工剤を塗布する際に塗工ムラが発生し、本願の目的とする光沢度、平滑度を満足する高光沢板紙を得ることができない。また、平滑度が90秒を超えると、後工程で塗工剤を塗工ムラなく均一に塗布するには過剰品質となる。
【0038】
また、前記抄紙方法で製造した基紙は、JIS−P8117(1998)のガーレー試験機法に準じて測定した透気度が80〜350秒であることが好ましい。透気度が80秒未満であると、後工程で塗工剤を塗布した後の乾燥工程で過乾燥となり、ブリスターが発生するおそれがある。また、透気度が350秒を超えると、後工程で塗工剤を塗布した後の乾燥工程で乾燥不足となり、ピットが発生するおそれがある。
【0039】
さらにまた、前記抄紙方法で製造した基紙は、JIS−P8140(1998)のコッブ法に準じて測定したコッブサイズ度(2分コッブ)が25〜90g/mであることが好ましい。コッブサイズ度が25g/m未満であると、後工程で塗工剤を塗布する際、塗工剤が基紙内部に浸透することはないが、過剰品質となりコスト高になる。また、コッブサイズ度が90g/mを超えると、後工程で塗工剤を塗布する際、塗工剤が基紙内部に浸透してしまい、キャスト加工時に本願の目的とする光沢度、平滑度を満足する高光沢板紙を得ることができない。
【0040】
(塗工層)
以上により製造した基紙の着色表層の表面に、顔料及び接着剤を主成分とする塗工層を設ける。この塗工層は、さらに離型剤を含有することが好ましい。
【0041】
(顔料)
塗工層に使用する顔料は特に限定されないが、例えば、カオリン、デラミネーテッドカオリン、タルク、クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、シリカ、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト等の無機顔料やポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子等の有機顔料等の中から、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0042】
以上の顔料の中でもクレーは、吸水性が低く、高い光沢性及び平滑性が得られることから、顔料100質量部のうち、20質量部〜80質量部配合させるのが好ましい。配合量が20質量部未満では吸水性、光沢性及び平滑性が劣るため好ましくなく、他方、80質量部を超過すると、塗工液の流動性が悪化して塗工時のプロファイルが悪化し、光沢性や平滑度のムラが発生し易くなるため、見栄えが低下する。
【0043】
クレーと併用する顔料としては、白色度を向上させ見栄えを良くし、かつ、塗料の保水性が少ないため塗工性が良好で塗工ムラが発生しにくく、経済性が良好な重質炭酸カルシウムが好ましい。この配合量は、クレーの配合量を補完するよう、20〜80質量部が好ましい。
【0044】
上記顔料のうち、シリカも光沢感が得られる顔料であるが、シリカは吸液性が高い顔料であるため、耐水性に劣るため好ましくない。シリカを顔料全体の5質量%以上、さらには10質量%以上配合した場合は、特に耐水性に劣るため好ましくない。
【0045】
上述のとおり、顔料としてクレー及び炭酸カルシウムを、好ましくは顔料全体のうち合計95質量%以上用いると、得られる本高光沢板紙は吸水性が低く、塗工性が良好であるため高い光沢性及び平滑性が得られるため、段ボール・紙器用途に適した本高光沢板紙が得られるため好ましい。
【0046】
本形態の塗工剤には、顔料、接着剤の他にも、例えば、蛍光増白剤、蛍光増白剤の被染着物質、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等の通常使用される各種助剤を適宜配合することもできる。
【0047】
(接着剤)
本形態では、塗工紙製造で一般的に用いられる接着剤を使用することができる。具体的には、例えば、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス;エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス;これらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。接着剤の中でも、顔料を固定する能力が高く、インキ着肉性の低下が少ないスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを用いることが好ましい。
【0048】
接着剤成分の配合量は、顔料100質量部に対し1〜35質量部が好ましく、3質量部〜15質量部がより好ましい。1質量部未満では顔料を固定できず、顔料由来の光沢性に劣るだけでなく、折り曲げ時の応力によって塗工層の一部が剥離しやすくなるため好ましくない。他方、35質量部を超過すると、接着剤が成膜してフィルム状の表面が形成されて顔料由来の光沢性が低下すると共に、印刷インキの着肉性が低下して印刷鮮明性に劣るため好ましくない。
【0049】
(離型剤)
本発明では、キャスト塗工層に離型剤を適宜含有しても良い。
【0050】
離型剤としては、従来から段ボール・紙器用途で使用されている離型剤や、キャスト塗工で用いられている離型剤等が挙げられ、例えば、脂肪酸もしくは高級脂肪酸の塩化物、脂肪酸アミド、高級アルコール、多価アルコール、トリブチルリン酸、ノニオン系界面活性剤などがあるが、これらを用いた場合は、段ボール・紙器用途として充分な光沢性および耐罫線割れ性を付与することができなかった。
【0051】
他の離型剤としてはポリオレフィン樹脂が一般に用いられており、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル等のビニル化合物との共重合体、さらにはこれら単独重合体や共重合体に不飽和カルボン酸モノマーを過酸化物でグラフト反応させて得られる重合体が挙げられる。しかしながら、これらを用いた場合でも、段ボール・紙器用途として充分な光沢性および耐罫線割れ性を付与することができなかった。
【0052】
本発明では、ポリオレフィン樹脂などの合成樹脂の中でも、ポリエチレン樹脂を使用した場合に初めて、段ボール・紙器用途において充分な耐罫線割れ性が得られることを見出した。
【0053】
ポリエチレン樹脂としては、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸共重合体、あるいはマレイン酸やアクリル酸を共重合させた変性ポリエチレン、酸化ポリエチレンが挙げられる。これらのポリオレフィンは、どのような製造法で製造されたものであっても良い。この中でも、酸化ポリエチレンを使用すると、特に段ボール・紙器用途において必要とされる光沢性および耐罫線割れ性が得られる。
【0054】
ポリエチレン樹脂は、一般的には融点が100〜120℃であるが、本発明においては、融点が100〜110℃であるポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。融点が110℃を超過すると、基紙上に塗工層が塗工された場合、理由は不明だが、塗工層中の水分と同様に基紙中に移動しやすくなり、十分な光沢性が得られず、また、耐罫線割れ性に劣るため好ましくない。融点が100℃を下回ると、理由は不明だが、白紙光沢度も低下するため好ましくない。
【0055】
ポリエチレン樹脂の配合量は、顔料100質量部に対して固形分換算で1.4〜3.0質量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.5質量部である。1.4質量部を下回ると十分な光沢性が得られず、3.0質量部を超過すると光沢性の効果が頭打ちとなるだけでなく、印刷インキを弾きやすくなり、印刷鮮明性が低下しやすいため好ましくない。
【0056】
離型剤を含有する塗工層は、基紙の表面に設けることが好ましい。基紙の表面に塗工層を設けた場合は、基紙と塗工層との接触面積が少ないため、塗工層中に残留する離型剤が塗工層に残りやすく、低塗工量においても充分な光沢性を付与できるため好ましい。
【0057】
上述のとおり、ポリエチレン系離型剤、好ましくは融点が100〜110℃のポリエチレン系離型剤を、顔料100質量部に対して固形分換算で1.4〜3.0質量部含有させると、印刷鮮明性が良好でありながら耐水化効果が塗工層に残りやすいため好ましい。特に離型剤として酸化型ポリエチレン樹脂を用いると、特に印刷鮮明性及び高光沢性に優れるため好ましい。
【0058】
なお、本発明では上記離型剤を2種類以上添加してもよい。
【0059】
(塗工剤の塗工方法)
原紙の表面への塗工剤の塗工は、一般の塗工紙用途設備で行えば足り、例えば、カレンダー、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、バーコータ、カーテンコータ、スロットダイコータ、グラビアコータ、チャンプレックスコータ、ブラシコータ、スライドビードコータ、ツーロールあるいはメータリングブレード式のサイズプレスコータ、ビルブレードコータ、ショートドウェルコータ、ゲートロールコータ等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、原紙上に塗工することができる。中でも、塗工層表面の高い平坦性が確保されるという点からブレードコータを用いることが好ましい。また、ドライヤーパートでの乾燥方法としては、例えば、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方式を適宜採用することができる。
【0060】
塗工層の塗工量は片面あたり3〜10g/m2が好ましく、6〜8g/m2が更に好ましい。3g/m2未満では原紙の被覆性が低下し、良好な光沢性、印刷鮮明性が得られない。10g/m2を超過すると塗工層の耐罫線割れ性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0061】
本形態においては、最表層が鏡面処理されている必要があり、この鏡面処理は、いわゆるキャストコート法による。キャストコート法は、一般に、(1)塗工層が湿潤状態にある間に、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着(圧接)して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦(半)乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化(湿潤)させて、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェットキャスト法(再湿潤法)、(3)湿潤状態の塗工層を凝固液等の凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)の3種類に分けることができ、いずれの方法でも高光沢板紙を得ることはできるが、本形態では優れた耐罫線割れ性を達成できるので、リウェットキャスト法を適用する。ウェットキャスト法やゲル化キャスト法では、塗工層表面に微細なヒビが入るため、耐水性と耐罫線割れ性に劣る傾向があるため好ましくない。
【0062】
本形態の高光沢板紙は、キャスト塗工層が1層で足りるが、基紙とキャスト塗工層の間に、更に別の層を設けても良い。ただし、塗工量が多くなると、耐罫線割れ性が低下しやすいため、好ましくない。
【0063】
基紙の非表面には、塗工層を設けなくても良く、上述したキャスト塗工層を設けても良く、キャスト塗工層以外の塗工層を設けても良い。一方の面のみにキャスト塗工層を設け、他方の面にいかなる処理をするか、何も処理をしないか、などは特に限定されない。もちろん、上記各種条件を満たさない顔料及び接着剤を主成分とする塗工層を設けても良く、また、澱粉あるいは澱粉誘導体、サイズ剤や合成紙力剤などの各種紙用外添塗工薬品を塗工しても良い。このほか、カール防止の点から、水塗工を行うこともできる。
【0064】
かくして得られる本形態の高光沢板紙は、顔料としてクレーを20質量部〜80質量部、重質炭酸カルシウムを20〜80質量部、接着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを顔料100質量部に対して1質量部〜35質量部、離型剤として融点が100〜110℃であるポリエチレン樹脂を顔料100質量部に対して1.4〜3.0質量部配合した塗工層を、基紙の表面に3〜10g/m塗工することで、耐罫線割れ性に優れた本高光沢板紙が得られ、特に段ボール・紙器用途に適した本高光沢板紙が得られる。加えて、リウェットキャスト法でキャスト塗工層を設けると、上述の段ボール・紙器用に優れる本高光沢板紙を、効率よく生産できるため好ましい。
【0065】
また、上記のようにして形成された本高光沢板紙は、JIS−8142(2005)に準じて測定した塗工層表面の光沢度が60〜90%である。光沢度が60%未満であると、段ボール・紙器に加工した際に高級感がなく、本願が目的とする光沢性を満足することができない。また光沢度が90%を超えると、品質過剰となり、コスト高となる。好ましくは70〜90%である。
【0066】
また、本高光沢板紙は、JIS−8119(1998)のベック平滑度試験機による平滑度試験方法に準拠して測定した塗工層表面の平滑度が80〜350秒である。平滑度が80秒未満であると、紙の表面が粗いことにより、段ボール・紙器に加工した際に高級感がなく、本願が目的とする高平滑性を満足することができないと共に、グラビア印刷において、特に網点部分でのインクのにじみ、再現性に問題を生じるおそれがあり、印刷適性が低下してしまう。また、平滑度が350秒を超えると、紙の高級感と印刷適性の点から過剰品質となり、コスト高となる。好ましくは150〜300秒である。
【0067】
さらにまた、本高光沢板紙は、JIS−8117(1998)のガーレー試験機法に準拠して測定した透気度が5000秒以下である。透気度が5000秒を超える本光沢板紙を段ボール原紙として、コルゲーターなどの貼合設備で段ボールシートに加工する際に、貼合時の水分を乾燥する際に水分の抜けが悪く、段ボールシートに反りが発生することで、生産時の製造ロスが発生し、生産性が悪化する恐れがある。好ましくは2000〜3000秒である。
【0068】
さらにまた、本高光沢板紙は、JIS−P8147(1994)の紙及び板紙の摩擦係数試験方法の傾斜方法に準拠して、塗工層表面と塗工層表面とが流れ方向(たて)同士で接するように測定した滑り角度を18度以上とすることが好ましく、20度以上とすることがさらに好ましい。滑り角度が18度未満となると、例えば、段ボールケースを積み上げた場合に荷崩れが発生しやすくなる、段ボールケース加工時に滑りにより加工適性が低下するなどの問題が発生しやすくなる。
【0069】
本高光沢板紙の滑り角度は、上述の通り、ポリエチレン樹脂を顔料100質量部に対して1.4〜3.0質量部配合した塗工層を設けることにより、達成することができる。さらには、顔料としてクレーを20質量部〜80質量部、重質炭酸カルシウムを20〜80質量部、接着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを顔料100質量部に対して1質量部〜35質量部した塗工層を、基紙の表面に3〜10g/mリウェットキャスト法で塗工することにより、より達成が容易となる。
【0070】
以上、本高光沢板紙について、基紙が表層、中層、及び裏層の3層の紙層から構成される場合について説明したが、本高光沢板紙は、この他、基紙が、表層、2層以上の中層、及び裏層と4層以上の紙層から構成しても良い。
【実施例】
【0071】
本発明に係る高光沢板紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0072】
本発明に係る26種類の高光沢板紙(これを「実施例1」ないし「実施例26」とする)と、これらの実施例1ないし実施例26と比較検討するために、3種類の板紙(これを「比較例1」ないし「比較例3」とする)を、表1に示すような構成で作製した。
【0073】
〔実施例1〕
<表層>
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が154mlとなるように原料パルプを調整し、表層用の原料パルプスラリーを作製した。この表層用の原料パルプスラリーに、着色剤と定着剤とサイズ剤とを添加した。なお、着色剤としては、「ブルー5B200」(日化株式会社製)、「ターキスMP」(東亜化成株式会社製)のアニオン性直接染料を用いた。また、定着剤として硫酸バンドを用い、3.0質量%添加し、さらにサイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を用い、原料パルプに対して、有効成分として0.4質量%添加した。
【0074】
<中層>
ケント古紙パルプを100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が300mlとなるように原料パルプを調整し、中層用の原料パルプスラリーを得た。
【0075】
<裏層>
地券古紙パルプ100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が341mlとなるように原料パルプを調整し、裏層用の原料パルプスラリーを得た。この裏層用の原料パルプスラリーに、定着剤及びサイズ剤を添加した。なお、定着剤として硫酸バンドを用い、0.4質量%添加した。また、サイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を用い、原料パルプに対して、有効成分として0.25質量%添加した。
【0076】
これらの表層、中層、及び裏層の各層の原料パルプスラリーを用い、円網5層抄紙機にて表層(着色層)、3層の中層、及び裏層の原料パルプスラリーを抄き合わせ、坪量が170g/mの5層構造の基紙から成る多層抄き板紙(基紙)を抄紙した。
【0077】
この多層抄き板紙の光沢度、透気度、コッブサイズ度について評価試験を行った。その結果は表1に示す通りであった。
【0078】
<塗工液>
塗工液は、以下のように調合したものを使用した。
【0079】
1級クレー UD60(エンゲルハード社製) :60.0部
軽質炭酸カルシウム TP−123CS(白石カルシウム社製) :40.0部
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス L−1388(旭化成社製) :19.0部
カゼイン POガゼイン(ラクポール社製) :12.0部
ポリエチレン系離型剤(A) SN286(サンノプコ社製) 融点105℃ : 1.5部
ポリエチレン系離型剤(B) BERCHEM4095(バーゼン社製) 融点なし: 0.6部
固形分換算で表1の塗工量となるように塗工液をエアーナイフで多層抄き板紙の着色層面に塗工した。塗工後、リウェットキャスト法(再湿潤法)により鏡面仕上げを行い、高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0080】
実施例2〜5では、表層、中層、裏層の原料パルプのフリーネスを調節し、基紙の平滑度を表1の記載のように変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0081】
実施例6〜9では、表層、中層、裏層の原料パルプのフリーネスを調節し、基紙の透気度を表1の記載のように変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0082】
実施例10〜13では、表層のサイズ剤の添加量を調節し、基紙のコッブサイズ度を表1の記載のように変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0083】
実施例14〜16では、塗工量を表1の記載のように変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0084】
実施例17では、離型剤Aの種類を変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。離型剤としては、ノプコ1097−AH(サンノプコ社製、ステアリン酸カルシウム、融点150℃)を使用した。
【0085】
実施例18〜25では、離型剤(A)、(B)の添加量を表1の記載のように変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0086】
実施例26では、離型剤(A)のみを添加した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0087】
比較例1、2では、塗工量を表1の記載のように変更した以外は実施例1と同様にして高光沢多層抄き板紙を製造した。
【0088】
比較例3では、塗工層を設ける前の実施例1の多層抄き板紙について評価を行った。
【0089】
これら全実施例及び比較例についての品質評価、すなわち高光沢多層抄き板紙(全層)の光沢度、滑り角度、平滑度、透気度、罫線割れについて評価試験を行った。その結果は表1に示す通りであった。なお、この品質評価はJIS−P8111に準拠して温度23±2℃、湿度50±2%の環境条件で行った。
【0090】
【表1】

【0091】
なお、表1中の「光沢度(%)」とは、各試料に係る高光沢多層抄き板紙における塗工層表面のつやの度合いをJIS−P8142(2005)に準拠した75度光沢度計(メーカー:堀場製作所、型式:IG−320)で測定した値である。
【0092】
「滑り角度(度)」とは、各試料に係る高光沢多層抄き板紙の滑りやすさをJIS−P8147(1994)の紙及び板紙の摩擦係数試験方法の傾斜方法に準拠して測定した値である。なお、塗工層表面と塗工層表面とが流れ方向(たて)同士で接するように測定した値である。
【0093】
「コッブサイズ度(g/m)」とは、各試料に係る基紙の吸水の度合いをJIS−P8140(1998)のコッブ法に準拠して測定した値である。水との接触時間は120秒とした。
【0094】
「平滑度(秒)」とは、各試料に係る基紙又は光沢板紙の表面の平坦性をJIS−8119(1998)のベック平滑度試験機に高平度多層抄き試験方法に準拠して測定した値である。
【0095】
「透気度(秒)」とは、各試料に係る基紙又は光沢板紙の空気の流れやすさをJIS−8117(1998)のガーレー試験機法に準拠して測定した値である。
【0096】
さらにまた、「罫線割れ」とは、高光沢多層抄き板紙の折れに対する強さを評価したものであり、評価手順としては、図1に示すように、(a)各試料を紙の巾200mm流れ250mmに切り取り、温度100℃に設定した熱風乾燥機の中に30秒間入れた後取り出し、(b)紙を折り曲げずに紙の表面1が外側を向き、裏面2が内側を向くように巾200mmの端辺同士を重ね合わせ抑えたまま、(c)湾曲になった部分の端にφ32mmの鉄製パイプ3を置き、1回で一気に折り曲げる。(d)折り曲げ部4を正面(矢印5の方向)から見た時の紙の塗工層が割れている、または、剥離している度合いを見て評価する。
【0097】
◎:3mm未満の割れが1〜2個ある。
○:3mm以上5mm未満の割れが1〜2個ある。
△:5mm未満の割れが3〜4個ある。
×:5mm以上の割れが多数ある。
【0098】
最後に、高光沢多層抄き板紙の光沢感、板紙としての品質及び加工適性を総合的に判断し、総合評価として評価した。
【0099】
◎:光沢感があり、品質及び加工適性に優れている。
○:光沢感があり、品質及び加工適性がある。
△:光沢感はあるが、品質及び加工適性がやや劣る。
×:光沢感がない。
【符号の説明】
【0100】
1 表面(着色層)
2 裏面(非着色層)
3 パイプ(折り曲げ棒)
4 折り曲げ部
5 目視にて評価する際の観察方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色表面層を有する多層抄き紙と、前記着色表面層上に設けられた、顔料及び接着剤を主成分とする塗工層とからなる多層抄き紙であって、
前記塗工層がリウェットキャスト法により鏡面仕上げされたものであり、
前記塗工層表面について、JIS−P8142(2005)に準じて測定した光沢度が60〜90%であり、
前記塗工層表面について、JIS−8119(1998)のベック平滑度試験機による平滑度試験方法に準じて測定した平滑度が80〜350秒であり、
前記多層抄き紙について、JIS−8117(1998)のガーレー試験機法に準じて測定した透気度が5000秒以下であることを特徴とする多層抄き紙。
【請求項2】
前記塗工層中に、離型剤を、前記顔料100質量部に対し、1.4〜3.0質量部含有し、前記離型剤としては、融点が100〜110℃の離型剤を含有する、請求項1記載の多層抄き紙。

【図1】
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【公開番号】特開2010−242247(P2010−242247A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90959(P2009−90959)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】