説明

多層押出被覆丸電線

【課題】巻線の自由度が高く且つ生産性が高く且つ290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上が得られる使用温度230℃の耐熱性を有する多層押出被覆丸電線を提供する。
【解決手段】めっき処理しない軟銅丸線(1)と、軟銅丸線(1)の外周に形成された第一PFA(四フッ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)押出被覆(11)と、第一PFA押出被覆(11)の外周に形成された第二PFA押出被覆(12)と、第二PFA押出被覆(12)の外周に形成された第三PFA押出被覆(13)とを具備する。
【効果】巻線の自由度が大きくなる。生産性を向上できる。高い押出温度でも安定して押出しが出来る。290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上の耐熱性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層押出被覆丸電線に関し、さらに詳しくは、巻線の自由度が高く且つ生産性が高く且つ290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上が得られる使用温度230℃の耐熱性を有する多層押出被覆丸電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平角銅線の外周に3層の樹脂絶縁被覆を形成し、その樹脂絶縁被覆の樹脂としてPFA(四フッ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)を用いた樹脂絶縁被覆平角電線が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−272916号公報([請求項4]、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の樹脂絶縁被覆平角電線では、断面形状が角形であるため、丸線に比べて巻線の自由度が制限される問題点があった。
他方、従来の多層被覆丸電線では、被覆がテープ巻きのため、生産性が低い問題点があった。
さらに、従来の多層被覆電線では、外側の被覆層が破れたときに露出する内側の被覆層の色が外側の被覆層の色と同じであったため、被覆層が破れに気づきにくい問題点があった。
そこで、本発明の第一の目的は、巻線の自由度が高く且つ生産性が高く且つ290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上が得られる使用温度230℃の耐熱性を有する多層押出被覆丸電線を提供することにある。
また、本発明の第二の目的は、最外層の被覆が破れたら直ちに気づくことが出来る多層押出被覆丸電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、めっき処理しない軟銅丸線または銀めっき軟銅丸線またはニッケルめっき軟銅丸線(1)と、前記軟銅丸線(1)の外周に形成された第一PFA(四フッ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)押出被覆(11)と、前記第一PFA押出被覆(11)の外周に形成された第二PFA押出被覆(12)と、前記第二PFA押出被覆(12)の外周に形成された第三PFA押出被覆(13)とを具備したことを特徴とする多層押出被覆丸電線(10)を提供する。
上記第1の観点による多層押出被覆丸電線(10)では、断面形状が丸形であるため、角線に比べて巻線の自由度が大きくなる。また、押出被覆のため、生産性を向上できる。また、融点が高い軟銅丸線(1083℃)に融点が低い錫めっき(232℃)などをしないか、又は、融点が高い銀めっき(961℃)またはニッケルめっき(1455℃)をするため、PFAの高い押出温度(370℃)でも、安定して押出しが出来る。そして、被覆にPFAを用いているため、290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上が得られる使用温度230℃の耐熱性を得ることが出来る。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による多層押出被覆丸電線(10)において、前記第二PFA押出被覆(12)の色が前記第三PFA押出被覆(13)の色と異なることを特徴とする多層押出被覆丸電線(10)を提供する。
上記第2の観点による多層押出被覆丸電線(10)では、第三PFA押出被覆(13)が破れたら、異なる色の第二PFA押出被覆(12)が露出するため、直ちに気づくことが出来る。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多層押出被覆丸電線(10)によれば、巻線の自由度が大きくなる。また、生産性を向上できる。そして、290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上が得られる使用温度230℃の耐熱性を得ることが出来る。さらに、第三PFA押出被覆(13)の破れに直ちに気づくことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1に係る多層押出被覆丸電線を示す断面図である。
【図2】本発明に係る多層押出被覆丸電線の耐熱性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0010】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る多層押出被覆丸電線10を示す断面図である。
この多層押出被覆丸電線10は、めっき処理しない軟銅丸線1と、軟銅丸線1の外周に形成された第一PFA押出被覆11と、第一PFA押出被覆11の外周に形成された第二PFA押出被覆12と、第二PFA押出被覆12の外周に形成された第三PFA押出被覆13とを具備してなる。
【0011】
軟銅丸線1の外径は、例えば1mmである。
PFA押出被覆11,12,13の各厚さは、例えば0.06mmである。
【0012】
PFA押出被覆11,12,13は、PFA押出温度370℃、軟銅丸線速度26m/分で形成した。
【0013】
第一PFA押出被覆11は赤色、第二PFA押出被覆12は黄色、第三PFA押出被覆13は白色とした。
【0014】
多層押出被覆丸電線10について、次の条件で耐熱性を試験した。
(1)試験試料:IEC60950−1 付属書U2.3に基づく2ヶ撚り法(片方は銅線)…荷重1.38kg
(2)評価方法:試験試料を所定温度で所定時間エージングし、破壊電圧値を測定し、破壊電圧値が初期破壊電圧値の50%以下になったときのエージング温度とエージング時間とを耐熱性の評価基準とする。破壊電圧値は、試験試料にAC4kVを1分間印加した後、0.5kV/秒で昇圧し、絶縁破壊に至った電圧を測定する。
【0015】
試験結果は、次の通りであった。
(1)エージング温度:250℃ エージング時間:19000時間
(2)エージング温度:270℃ エージング時間:9000時間
(3)エージング温度:290℃ エージング時間:8000時間
(4)エージング温度:300℃ 300時間で変化なし(UL N種に該当)
図2のaに、上記試験結果から推定される耐熱特性を示す。
【0016】
−比較例−
本発明のPFAの代わりに、ETFE(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)を用いた以外は同じ構造の多層押出被覆丸電線を製造し、上記方法で耐熱性の試験を行った。
試験結果は、次の通りであった。
(1)エージング温度:180℃ エージング時間:7000時間
(2)エージング温度:200℃ エージング時間:700時間
(3)エージング温度:220℃ エージング時間:60時間
図2のbに、上記試験結果から推定される耐熱特性を示す。
【0017】
上記試験結果から、同じフッ素樹脂であるが、PFAがETFEよりも優れた耐熱性を示し、290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上が得られる使用温度230℃の耐熱性を有することが判った。
【0018】
多層押出被覆丸電線10について、次の条件で密着性を試験した。
(1)長さ100mmの多層押出被覆丸電線10の片側半分のPFA押出被覆11,12,13を除去し、軟銅丸線1を露出する。
(2)軟銅丸線1の外径より僅かに大きく且つ残っているPFA押出被覆11,12,13より小さな孔の開いた鉄板の孔に露出した軟銅丸線1を通し、引張試験機で、鉄板と露出した軟銅丸線1とをクランプし、引き抜き速度200mm/minで、残っているPFA押出被覆11,12,13から軟銅丸線1を引き抜いたときに要した力を測定する。
【0019】
3つの試料についての試験結果は、6.49N、6.34N、6.43Nであった。
【0020】
実施例1の多層押出被覆丸電線10によれば、次の効果が得られる。
(1)断面形状が丸形であるため、角線に比べて巻線の自由度が大きくなる。
(2)押出被覆のため、テープ巻被覆に比べて生産性を向上できる。
(3)軟銅丸線に錫めっき処理などのめっき処理をしないため、PFAの高い押出温度(370℃)でも、安定して押出しが出来る。
(4)290℃における寿命時間7千時間以上・寿命時間4万時間以上の耐熱性を得ることが出来る。
(5)バラツキが小さく安定したPFA押出被覆11,12,13の密着性を得ることが出来る。
【0021】
−実施例2−
めっき処理しない軟銅丸線1の代わりに、銀めっき軟銅丸線を用いてもよい。
【0022】
−実施例3−
めっき処理しない軟銅丸線1の代わりに、ニッケルめっき軟銅丸線を用いてもよい。
【0023】
−実施例4−
・PFA押出被覆を4層以上設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の多層押出被覆丸電線は、長時間使用され且つ高温となる巻線(例えばスイッチング電源用トランスの巻線)用線材として利用することが出来る。
【符号の説明】
【0025】
1 軟銅丸線
10 多層押出被覆丸電線
11 第一PFA押出被覆
12 第二PFA押出被覆
13 第三PFA押出被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき処理しない軟銅丸線または銀めっき軟銅丸線またはニッケルめっき軟銅丸線(1)と、前記軟銅丸線(1)の外周に形成された第一PFA(四フッ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)押出被覆(11)と、前記第一PFA押出被覆(11)の外周に形成された第二PFA押出被覆(12)と、前記第二PFA押出被覆(12)の外周に形成された第三PFA押出被覆(13)とを具備したことを特徴とする多層押出被覆丸電線(10)。
【請求項2】
請求項1に記載の多層押出被覆丸電線(10)において、前記第二PFA押出被覆(12)の色が前記第三PFA押出被覆(13)の色と異なることを特徴とする多層押出被覆丸電線(10)

【図1】
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【図2】
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