説明

多層構造体の製造方法および容器の製造方法

【課題】環境上の問題点や経済上の問題点がなく、他部材との接着性、印刷特性、コーティング特性等に優れた多層構造体を製造すること。
【解決手段】以下の(1)−(3)の工程を順に含む多層構造体の製造方法。
(1)基材層の少なくとも一方の面に、金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物ならびに可燃性ガスを含有する混合ガスを燃焼させた火炎を接触させて火炎処理を行い、表面処理層前駆体(1)を形成する工程
(2)該表面処理層前駆体(1)を、極性溶媒にて洗浄し、表面処理層前駆体(2)を形成する工程
(3)該表面処理層前駆体(2)を乾燥処理し、表面処理層を形成する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体の製造方法および容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体物質、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレン樹脂等の表面は、疎水性や撥水性であることが多く、他部材との接着、印刷、コーティング等が一般に困難である。このような固体物質の表面特性を改質する方法として、紫外線照射法、コロナ放電処理などが挙げられる。例えば、特許文献1には、疎水性プラスチックの表面に対し、合成石英製高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射して、塗装の濡れ性及び密着性を向上させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−68934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらこのような方法では表面改質効果が不充分である上に、環境上の問題点、また設備が大規模、高価といった経済上の問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、環境上の問題点や経済上の問題点がなく、他部材との接着性、印刷特性、コーティング特性等に優れた多層構造体を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、以下の(1)−(3)の工程を順に含む多層構造体の製造方法である。
(1)基材層の少なくとも一方の面に、金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物ならびに可燃性ガスを含有する混合ガスを燃焼させた火炎を接触させて火炎処理を行い、表面処理層前駆体(1)を形成する工程
(2)該表面処理層前駆体(1)を、極性溶媒にて洗浄し、表面処理層前駆体(2)を形成する工程
(3)該表面処理層前駆体(2)を乾燥処理し、表面処理層を形成する工程
【0007】
また本発明は、他の面において該多層構造体が容器部材であり、該容器部材同士を接合して、容器を製造する方法であって、以下の(1)−(3)の工程を順に含む容器の製造方法である。
(1)該容器部材の少なくとも内面に、重合体成分(A)および液体媒体を含む塗工液を塗布して、膜を形成する工程
(2)少なくとも内面に膜が形成されてなる容器部材同士を接合して、一次容器を得る工程
(3)一次容器を乾熱処理する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、疎水性の高い基材表面に対しても、環境上の問題点や経済上の問題点がなく、他部材との接着性、印刷特性、コーティング特性等に優れた多層構造体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の多層構造体の製造方法における工程(1)は、基材層の少なくとも一方の面に、金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物ならびに可燃性ガスを含有する混合ガスを燃焼させた火炎を接触させて火炎処理を行い、表面処理層前駆体(1)を形成する工程である。前記基材層を構成する材料は特に限定されるものではなく、金属や樹脂、木材、セラミック、ガラス等が挙げられる。樹脂としては熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることができるが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0010】
該熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂や、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂として2種類以上を用いてもよい。また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、ワックス、石油樹脂、帯電防止剤、充填剤としての無機フィラーなど(例えば「プラスチック及びゴム用添加剤実用便覧」化学工業(1970年)など参照)、公知の添加剤を用いてもよい。
【0011】
本発明で使用する基材層は、単層であってもよく、2層以上であってもよい。例えばオレフィン系樹脂層とガスバリア性樹脂層とが積層された多層の基材層を用いることが、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から好ましい。ガスバリア性樹脂としては、ポリビニルアルコール系重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド樹脂、脂肪族ポリケトンなどが挙げられる。
【0012】
基材層として、オレフィン系樹脂層とガスバリア性樹脂層とが積層された多層の基材層を用いる場合には、両層の間に接着性樹脂層を有することが好ましい。このような多層の基材層は、オレフィン系樹脂層とガスバリア性樹脂層の層間強度が高くなるため、ガスバリア性や強度に優れる基材層を得ることができる。
接着性樹脂としては、変性ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。前記変性ポリオレフィンとしては、カルボン酸変性ポリオレフィン、特に無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましく用いられる。
本発明の多層構造体を容器部材として用い、基材層がオレフィン系樹脂層とガスバリア性樹脂層とが積層された多層の基材層である場合、ガスバリア性樹脂層が容器の内側に近くなるようにして使用することが好ましい。
【0013】
前記基材層の少なくとも一方の面に、金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物ならびに可燃性ガスを含有する混合ガスを燃焼させた火炎を接触させて火炎処理を行ない、表面処理層前駆体(1)を形成する。このようにして基材層に火炎処理を行なうことにより、基材層表面に存在する有機不純物が酸化により消失し、基材層表面に付着していた水も失われ、また可燃性ガス中の金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物により、基材層表面に金属酸化物層である表面処理層前駆体(1)が形成される。
【0014】
本発明の多層構造体の製造方法における工程(2)は、工程(1)で形成した該表面処理層前駆体(1)を、極性溶媒にて洗浄し、表面処理層前駆体(2)を形成する工程である。ここで極性溶媒とは親水性の溶媒であり、水に溶解できるものが好ましい。具体的には、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等)、ケトン類(アセトン、ジエチルケトン等)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、とりわけアルコール類、水−アルコール類混合物、ケトン類、水−ケトン類混合物が好ましい。また洗浄方法としては特に限定されないが、前記極性溶媒に浸漬する方法等が挙げられる。
【0015】
本発明の多層構造体の製造方法における工程(3)は、工程(2)で形成した該表面処理層前駆体(2)を乾燥処理し、表面処理層を形成する工程である。該乾燥処理は、該表面処理層前駆体(2)に付着している極性溶媒および湿気を除去する処理である。通常、湿度50%RH以下、温度20〜100℃で1秒間〜24時間エージングすればよい。
【0016】
該混合ガス中に含まれる金属アルコキシドやアルキル金属化合物としては、公知のものを用いることができる。
金属アルコキシドやアルキル金属化合物中の金属は、例えばNa、Ba、Cu、Al、Si、Ti、Ge、Zr、V、W、Yなどであり、好ましくはSi、Ti、Al、Zrのいずれかであり、基材層と表面処理層との密着性、あるいは表面処理層と後述する膜との密着性向上の観点から、Siであることがより好ましい。金属アルコキシドにおける炭化水素部分やアルキル金属化合物中のアルキル基は、例えばCH3、C2H5、C3H7、C4H9、C5H11、C6H13などである。
【0017】
金属アルコキシドの例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、トリエトキシアルミニウム、イソプロポキシジルコニウム、トリメトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、メチルプロピルアクリルトリエトキシシラン、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ベンジルトリメトキシシランなどがあげられる。
アルキル金属化合物の例としては、テトラメチルジシロキサン、テトラエチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルシロキサンなどがあげられる。
【0018】
混合ガス中に含まれる金属アルコキシドやアルキル金属化合物としては、金属アルコキシドのみ、あるいはアルキル金属化合物のみを含んでいてもよく、金属アルコキシドとアルキル金属化合物とを共に含んでいてもよい。また用いる金属アルコキシドやアルキル金属化合物は1種類でもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
該混合ガス中にはさらに可燃性ガスを含有する。該可燃性ガスとしては公知のものを用いることができ、例えばメタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガスおよびそれらが混合された天然ガス、都市ガス、液化石油ガス(LPガス)、ペンタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタリン、シクロプロパン、シクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどの炭化水素系ガスや、これらの炭化水素系ガスと酸素および水素との混合ガスなどがあげられる。
【0020】
該混合ガスを燃焼させる際には、通常空気のような酸素を含む気体と混合ガスとを混合して燃焼させる。該混合ガスと空気とを混合する際の体積比率は、混合ガス1に対して空気3〜80が好ましい。
【0021】
該混合ガスと空気との混合気体中に含まれる金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物の量は、基材層と表面処理層との密着性や、表面処理層と後述する膜との密着性の観点や、形成される表面処理層の厚みの均一性の観点から、その合計が10-1〜10-7のモル分率であることが好ましく、10-2〜10-6のモル分率であることがさらに好ましい。
【0022】
火炎処理には通常ガスバーナーが用いられる。火炎処理を行なう際の火炎の温度や処理時間は、基材層の種類、形状、厚みなどによって異なるが、通常基材層表面が50〜100℃になるように適宜設定される。
本発明の多層構造体の製造方法における工程(1)〜(3)によって設けられる表面処理層の厚さが好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは5〜500nm、とりわけ好ましくは10〜300nmとなるように処理条件を設定することが望ましい。
【0023】
火炎の温度は通常900〜2000℃である。火炎を照射する時間は通常0.1〜5秒であり、好ましくは0.1〜1秒である。熱による基材層の変形を防ぐため、火炎照射時間は必要最小限に留める必要がある。
【0024】
本発明の方法で得られる多層構造体の形状は特に制約はなく、用途や目的に応じて適宜選択される。また該多層構造体は容器部材であっても良い。本発明における容器部材とは、各部材を接合することにより、開口部を有する容器を形成することができる部材であればよい。例えば、一対の部材を接合することにより容器が得られるような部材であってもよく、さらに細かく分割された部材であってもよい。部材が多くなると接合箇所が増え、工程が煩雑になることから、一対の部材であることが好ましい。
【0025】
該容器部材の製造方法は特に限定されるものではない。例えば予め容器部材状に賦形された基材層を用い、前述の表面処理層を形成する方法、フィルムまたはシート状の基材層を用い、前述の表面処理層を形成した後、容器部材状に賦形を行う方法が挙げられる。また賦形方法については特に制約はなく、例えば射出成形やプレス成形などによって製造することができる。
【0026】
容器部材同士を接合して、容器を製造する方法における工程(1)は、該容器部材の少なくとも内面に、重合体成分(A)および液体媒体を含む塗工液を塗布して、膜を形成する工程である。
容器部材の内面とは、容器部材同士を接合して容器とした場合に、容器の内側となる面であり、該容器に内容物を注入した場合には、該内容物と接触する面である。
【0027】
本発明の方法で得られる容器は、通常ガスバリア性が要求されるため、前記重合体成分(A)としては、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルロースなどの多糖類、ポリアクリル酸およびそのエステル類、ウレタン系樹脂を挙げることができるが、水系の液体媒体に容易に溶解させることができ、取り扱いが容易であることや、得られる容器のガスバリア性の観点から、重合体成分(A)は、水酸基を含む重合体成分であることが好ましい。該水酸基を含む重合体成分としては、PVA、EVOH、セルロースを挙げることができる。
【0028】
本発明の方法で得られる容器のガスバリア性の観点から、(i)一分子中に、水酸基、および該水酸基と反応し得る第2の官能基を有する樹脂、あるいは(ii)水酸基を有する樹脂と、水酸基と反応し得る第2の官能基を有する樹脂との混合物であることが好ましい。以下、(i)の場合と(ii)の場合とをあわせて、「水酸基および第2の官能基を有する樹脂成分」と称することがある。
【0029】
前記水酸基と反応し得る第2の官能基は、水酸基と共有結合、あるいはイオン結合をし
得る官能基であることが好ましい。具体的には、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸
基、カルボキシレート基、アンモニウム基等の極性基が挙げられる。
【0030】
一分子中に水酸基と第2の官能基を含む樹脂としては、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体、ビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体、ビニルアルコール−ビニルアミン共重合体、アクリル酸−ビニルアミン共重合体、メタアクリル酸−ビニルアミン共重合体等が挙げられる。
【0031】
水酸基と反応し得る第2の官能基を有する樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリビニルアミン、アクリル酸−メタアクリル酸共重合体、ビニルアミン−(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0032】
重合体成分(A)が、水酸基を有する樹脂と、水酸基と反応し得る第2の官能基を有する樹脂との混合物である場合には、水酸基を有する樹脂がポリビニルアルコール系重合体(A−1)であり、水酸基と反応し得る第2の官能基を有する樹脂がカルボキシル基を含む重合体成分(A−2)であることが好ましい。
【0033】
ポリビニルアルコール系重合体(A−1)とは、ビニルアルコール単位を主成分として有するポリマーである。このような「ポリビニルアルコール」としては、例えば、酢酸ビニル重合体の酢酸エステル部分を加水分解して得られるポリマーや、トリフルオロ酢酸ビニル重合体、ギ酸ビニル重合体、ピバリン酸ビニル重合体、t−ブチルビニルエーテル重合体、トリメチルシリルビニルエーテル重合体等を加水分解して得られるポリマーが挙げられる(「ポリビニルアルコール」の詳細については、例えば、ポバール会編、「PVAの世界」、1992年、(株)高分子刊行会;長野ら、「ポバール」、1981年、(株)高分子刊行会を参照することができる)。ポリマーのエステル部分の「ケン化」の程度は、70モル%以上が好ましく、85モル%以上のものがより好ましく、98%モル以上のいわゆる完全ケン化品がさらに好ましい。また、使用するビニルアルコール系重合体(A−1)の重合度は、100以上5000以下、200以上3000以下であることがより好ましい。
【0034】
また、ポリビニルアルコール系重合体(A−1)として、水酸基以外の官能基を有するいわゆるポリビニルアルコール誘導体も使用でき、水酸基以外の官能基として例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、燐酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、シリル基、シロキサン基、アルキル基、アリル基、フルオロアルキル基、アルコシキ基、カルボニル基、ハロゲン基等が例示できる。PVA中の水酸基の一部がこれら官能基の1種または2種以上と置き換わっていてもよい。また本発明におけるポリビニルアルコール系重合体(A−1)は、ビニルアルコール単位と、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン単位とを含む共重合体であってもよい。ポリビニルアルコールが一分子中にビニルアルコール単位とα−オレフィン単位とを含む場合、本発明では、α−オレフィン単位の含有量が20モル%以下である樹脂をPVAと称する。ここでα−オレフィン単位とは、α−オレフィン由来の構成単位を意味する。
【0035】
前記カルボキシル基を含む重合体成分(A−2)は、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、およびポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選択される1種以上の重合体成分であることが好ましい。またアクリル酸とメタアクリル酸の共重合体も使用できる。上記カルボキシル基を含む重合体成分(A−2)の重量平均分子量は、それぞれ2000〜10000000の範囲が好ましく、より好ましくは100000〜5000000である。
【0036】
ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物は、通常、ポリアクリル酸の水溶液にアルカリを添加することにより得ることができる。ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸とアルカリの量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。またポリアクリル酸完全中和物またはポリメタアクリル酸完全中和物をイオン交換により部分中和物に変換することもできる。ここでポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物の中和度は、下式にて定義される。ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物は、得られる容器のガスバリア性や透明性の点から、中和度が0.1%〜20%であることが好ましい。
中和度=(A/B)×100
A:ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸1g中に含まれる中和されたカルボキシル基のモル数
B:ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸1g中に含まれる中和前のカルボキシル基のモル数
【0037】
本発明の重合体成分(A)が、水酸基および第2の官能基を有する樹脂成分であり、該第2の官能基がカルボキシル基である場合、該重合体成分(A)に含まれる水酸基とカルボキシル基のモル比は、水酸基:カルボキシル基=30:70〜95:5であることが好ましく、より好ましくは70:30〜95:5である。また得られる容器のガスバリア性の観点から、該重合体成分(A)に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量は30〜60%であることが好ましく、より好ましくは35〜55%である。なお水酸基およびカルボキシル基の合計重量は、重合体成分の重量を100%としたときの値である。
【0038】
前記重合体成分(A)が水酸基および第2の官能基を有する樹脂成分であり、該第2の官能基がカルボキシル基である場合、該重合体成分に含まれる水酸基とカルボキシル基のモル比は、NMR法、IR法等により求めることができる。例えばIR法であれば、水酸基とカルボキシル基のモル比が既知のサンプルを用いて検量線を求め、これを用いて測定サンプルの水酸基とカルボキシル基とのモル比を算出することができる。またビニルアルコール単一重合体と、アクリル酸単一重合体および/またはメタアクリル酸単一重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基のモル数を求め、水酸基とカルボキシル基のモル比を算出することができる。また、前記重合体成分に含まれる水酸基およびカルボキシル基の合計重量測定については、モル比と同様、NMR法、IR法等にて求めることができる。例えばIR法であれば、ポリオールユニット数が既知であるポリオール重合体および、ポリカルボン酸ユニット数が既知であるポリカルボン酸重合体について検量線を求め、これらの検量線を用いて測定サンプルにおける水酸基およびカルボキシル基の合計重量を算出することができる。またビニルアルコール単一重合体と、アクリル酸単一重合体および/またはメタアクリル酸単一重合体を用いる場合は、予めその重量から水酸基およびカルボキシル基の重量を求め、この合計量を求めることができる。
【0039】
本発明における重合体成分(A)が、ポリビニルアルコール系樹脂(A−1)と、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物およびポリメタアクリル酸部分中和物からなる群から選択されるカルボキシル基を含む重合体成分(A−2)とからなる場合、ポリビニルアルコール系重合体95〜5重量%と、カルボキシル基を含む重合体成分(A−2)5〜95重量%の混合物であることが好ましい。ただしこの割合は、塗工液に含まれる重合体成分(A)の重量を100%としたときの値である。ポリビニルアルコール系重合体(A−1)とカルボキシル基を含む重合体成分(A−2)の割合は、(A−1)が50〜95%、(A−2)が5〜50%であることがより好ましく、(A−1)が70〜90%、(A−2)が10〜30%であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明における塗工液は、前記重合体成分(A)と液体媒体とを含む。液体媒体は特に限定されるものではないが、該重合体成分(A)を溶解させることができる液体媒体であることが、塗工性の観点から好ましい。また該液体媒体は、最終的に得られる容器では、ほとんど残存しないようにする必要がある。そのため、除去が容易な液体媒体であることが好ましい。また、後述するように塗工液が粘土鉱物(B)を含む場合には、該粘土鉱物(B)が膨潤し、へき開しやすい液体媒体を用いることが好ましい。
【0041】
本発明で用いられる液体媒体としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、とりわけ水、アルコール類、水−アルコール類混合物が好ましく用いられる。
【0042】
重合体成分(A)が水酸基および第2の官能基を有する重合体成分であり、該第2の官能基がカルボキシル基である場合、得られる容器の耐水性の点から、塗工液がアルカリ金属イオン(C)を含むことが好ましい。アルカリ金属イオン(C)としては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。塗工液に含まれるアルカリ金属イオン(C)の重量は、該重合体成分(A)100重量部に対し0.2〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2重量部である。
【0043】
前記アルカリ金属イオン(C)は、通常、アルカリ金属イオン供与化合物に由来する。すなわち重合体成分(A)が水酸基および第2の官能基を有する樹脂成分であり、該第2の官能基がカルボキシル基である場合、塗工液はアルカリ金属イオン供与化合物を含むことが好ましい。アルカリ金属イオン供与化合物としては、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。また重合体成分(A)として、ポリアクリル酸水溶液に水酸化ナトリウムを添加して得られるポリアクリル酸部分中和物を使用する場合には、該ポリアクリル酸部分中和物がアルカリ金属イオン供与化合物として作用する。
アルカリ金属イオン供与化合物としては、層間にアルカリ金属イオンを有する粘土鉱物(B)も挙げられる。アルカリ金属イオン供与化合物として、2種類以上を併用してもよい。得られる容器のガスバリア性の観点から、塗工液は、層間にアルカリ金属イオンを有する粘土鉱物(B)を含むことが好ましい。
【0044】
粘土鉱物(B)は、通常、原料の状態で、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を有する化合物である。ここで層状構造とは、原子が共有結合等によって強く結合して密に配列した面が、ファン・デル・ワールス力等の弱い結合力によって略平行に積み重なった構造をいう。粘土鉱物(B)としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、金雲母等が挙げられる。また、これら粘土鉱物(B)を有機物でイオン交換等の処理し、分散性等を改良したもの(朝倉書店、「粘土の事典」参照)もアルカリ金属イオン含有粘土鉱物として用いることができる。粘土鉱物(B)を処理する前記有機物としては、ジメチルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩やフォスフォニウム塩、イミダゾリウム塩等を用いることができる。
【0045】
得られる容器のガスバリア性を高める観点から、アルカリ金属イオンはナトリウムイオンであることが好ましく、該ナトリウムイオンを供与するナトリウムイオン供与化合物としては、ナトリウムイオン含有粘土鉱物が好ましい。また塗工液中の分散性の観点から、液体媒体に膨潤しへき開する性質を有する粘土鉱物(B)を用いることが特に好ましい。このような粘土鉱物(B)として、層間にナトリウムイオンを有するモンモリロナイトが挙げられる。
粘土鉱物(B)が溶媒に膨潤しへき開する性質の程度は、以下の試験により評価することができる。該粘土鉱物(B)の膨潤性は、下記膨潤性試験において5以上のものが好ましく、さらには20以上のものが好ましい。一方、該粘土鉱物(B)のへき開性は、下記へき開性試験において5以上のものが好ましく、さらには20以上のものが好ましい。
【0046】
〔膨潤性試験〕
100mlメスシリンダーに液体媒体100mlを入れ、これに粘土鉱物(B)2gを徐々に加える。23℃にて24時間静置後、上記メスシリンダー内における粘土鉱物分散層と上澄みとの界面の目盛から粘土鉱物分散層の体積(ml)を読む。この数値(膨潤値)が大きい程、膨潤性が高いことを示す。
【0047】
〔へき開性試験〕
粘土鉱物(B)30gを液体媒体1,500ml中に徐々に加え、分散機(浅田鉄工株式会社製、デスパMH−L、羽根径52mm、回転数3,100rpm、容器容量3L、底面−羽根間の距離28mm)にて、周速8.5m/分、23℃で90分間分散させた後、この分散液100mlをメスシリンダーに採取する。60分静置後、上記メスシリンダー内における粘土鉱物分散層と上澄みとの界面の目盛から粘土鉱物分散層の体積(ml)を読む。この数値(へき開値)が大きい程、へき開性が高いことを示す。
【0048】
粘土鉱物(B)としては、塗工液中の分散性と得られる容器のガスバリア性の観点から、アスペクト比が30〜3,000のものが好ましく、30〜1,500のものがより好ましい。粘土鉱物(B)のアスペクト比(Z)とは、式:Z=L/aで定義される。式中、Lは粘土鉱物(B)の平均粒径であり、aは、粘土鉱物(B)の単位厚さ、即ち、粘土鉱物(B)の単位結晶層の厚みを示し、粉末X線回析法(「機器分析の手引き(a)」(1985年、化学同人社発行、塩川二朗監修)69頁参照)により求められる。
【0049】
粘土鉱物(B)の平均粒径とは、液体媒体中の回折/散乱法により求めた粒径(体積基準のメジアン径)である。すなわち、粘土鉱物(B)の分散液に光を通過させたときに得られる回折/散乱パターンから、ミー散乱理論等により、上記回折/散乱パターンに最も矛盾のない粒度分布を計算することにより求めることができる。具体的には、例えば粒度分布の測定範囲を適当な区間に分け、それぞれの区間について、代表粒子径を決定し、本来連続的な量である粒度分布を離散的な量に変換させて計算する方法が挙げられる。
【0050】
本発明において粘土鉱物(B)を膨潤し劈開させる溶媒としては、粘土鉱物(B)が親水性の膨潤性粘土鉱物の場合には、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、とりわけ水、アルコール類、水−アルコール類混合物が好ましい。
【0051】
また、粘土鉱物(B)が有機修飾粘土鉱物の場合には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、シリコンオイルなどを液体媒体として用いることができる。
【0052】
塗工液に含まれる粘土鉱物(B)の量は特に限定されるものではないが、得られる容器のガスバリア性の観点から、重合体成分(A)と粘土鉱物(B)の体積比が、(A)/(B)=50/50〜99/1であることが好ましく、70/30〜99/1であることがより好ましい。
【0053】
塗工液には、界面活性剤を添加することが好ましい。このような塗工液を塗布して形成される膜は、容器部材との密着性に優れるものとなる。界面活性剤の含有量は、通常、塗工液100重量%中0.001〜5重量%である。
【0054】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤など、公知の界面活性剤を用いることができる。とりわけ炭素原子数6以上24以下のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体等のエーテル型の非イオン性界面活性剤(シリコーン系非イオン性界面活性剤)や、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド化合物等のフッ素型非イオン性界面活性剤(フッ素系非イオン性界面活性剤)を使用することが密着性向上の観点から好ましい。
【0055】
塗工液には、さらに目的や用途に応じて、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アンチブロッキング剤などを添加して使用することができる。これらの添加剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
また塗工液が粘土鉱物(B)を含む場合には、高圧分散処理して該粘土鉱物(B)を均一に分散させて用いることが好ましい。
【0056】
該塗工液に架橋剤を添加してもよい。該重合体成分(A)が水酸基を含む重合体成分である場合、用いられる架橋剤としては、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、メラミン系カップリング剤、エポキシ系カップリング剤、イソシアネート系カップリング剤、カルボジイミド系カップリング剤、銅化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。これら架橋剤は、一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0057】
架橋剤を塗工液に添加する場合には、通常架橋剤を予めアルコール類等の溶媒に10〜90重量%溶解させた架橋剤溶液を、塗工液に添加する方法によって調整される。
架橋剤にキレート化合物を用いる場合には、架橋剤を混合した後の塗工液の安定性の観点から、該塗工液が酸性であることが好ましい。
【0058】
本発明の容器の製造方法における工程(1)では、前記した塗工液を各容器部材の少なくとも内面に塗布して、該面上に膜を形成する。また該表面処理層と該膜との密着性を改良する目的で、該表面処理層上に予めアンカーコート層を設けても良い。
一つの好ましい態様においては、工程(1)において、各容器部材の前記内面および他の容器部材との接合面に前記塗工液を塗布して、該内面および接合面上に膜を形成する。容器部材に塗工液を塗布する方法としては、ディッピング法やスプレーコート法が挙げられる。部材が平板状である場合には、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法などのロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、バーコーティング法などの方法によっても塗工液を塗布することができる。塗工液を塗布して形成する膜の膜厚は、得られる容器における乾燥した膜の厚みとして、通常1〜50μmとなるように決定される。
【0059】
本発明の容器の製造方法における工程(2)は、少なくとも内面に膜が形成されてなる容器部材同士を接合して、一次容器を得る工程である。工程(1)で得られる容器部材の内面には、重合体成分(A)と液体媒体を含む塗工液を塗布することにより、前記重合体成分(A)と液体媒体を含む膜が形成されている。容器の製造方法における工程(2)では、前記重合体成分(A)と液体媒体を含む膜から液体媒体を除去した容器部材を用いてもよく、液体媒体を除去することなく、容器の製造方法における工程(1)で得られる重合体成分(A)と液体媒体を含む膜が形成された容器部材をそのまま用いてもよい。前者の場合には、容器部材同士を接合する際に加熱および加圧する必要がある。後者の場合には、接合面にも膜が形成されてなる容器部材を用いると、該膜から液体媒体を加熱除去すれば、加圧することなく部材同士を接合することができる。そのため、液体媒体を含んだ状態の膜が内面および接合面に形成されてなる容器部材を用いることが好ましい。液体媒体の除去方法としては、通常100℃以下、好ましくは通常30〜80℃程度の温度で乾燥する方法が挙げられる。液体媒体の除去は、水蒸気濃度が50g/m3未満の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0060】
容器部材同士を接合する方法としては、接合面同士をヒートシールする方法、すなわち接合面同士を重ね合わせた、または突き合わせた状態で少なくともその接合面付近を加熱して接合する方法が挙げられる。また、容器部材に予め接合用のフランジを設けておき、該フランジ同士をヒートシールしてもよい。この場合には、フランジが接合面となる。通常ヒートシールする際の条件は、温度は容器部材を構成する熱可塑性樹脂の融点以上、時間は1秒間〜1時間、圧力は0.001kg/cm2〜100kg/cm2である。前記したように、液体媒体を含んだ状態の膜が内面および接合面に形成されてなる容器部材を用いると、接合面同士を重ね合わせて、または突き合わせて液体媒体を加熱除去するだけで、加圧することなく接合することができ、生産効率に優れるため、好ましい。
【0061】
本発明の容器の製造方法における工程(3)は、工程(2)で得た一次容器を乾熱処理する工程である。
乾熱処理することにより、塗工液を塗布し、乾燥して形成した膜と表面処理層、または膜同士の密着性が向上する。また特に重合体成分(A)が水酸基と第2の官能基を有する重合体成分であるとき、乾熱処理を施すと、水酸基と第2の官能基とが反応し、ガスバリア性に優れた層となる(以下ガスバリア層と称する)。また膜に液体媒体が含まれている場合には、乾熱処理によって該液体媒体を除去することができる。乾熱処理条件は、水蒸気濃度50g/m3未満、温度100℃以上であり、好ましくは、水蒸気濃度0〜40g/m3、温度120℃以上、200℃以下である。乾熱処理する時間は、通常1秒間〜1時間である。
【0062】
本発明の容器の製造方法において、重合体成分(A)が水酸基と第2の官能基を有する重合体成分であるとき、工程(1)で得られる内面に膜を形成した容器部材では、膜に含まれる重合体成分(A)の水酸基と第2の官能基との反応が進行していない。また、容器部材の接合面に形成された膜についても同様である。そのため、容器部材の接合面に膜が形成されていても、工程(2)において接合が可能である。また、容器部材の接合面に膜が形成されていなくとも、工程(3)において膜に含まれる重合体成分(A)の反応が進行するため、容器部材同士の界面にも強固なガスバリア層が形成された容器が得られる。すなわち、接合面が膜で覆われていても接合可能であるため、接合面を膜で被覆しないように注意して膜を形成する必要がない。したがって、効率よく容器を製造することができる。
【0063】
本発明の容器の製造方法における一つの態様では、工程(2)と工程(3)は、同時に行ってもよい。すなわち、工程(3)における乾熱処理条件下で、容器部材同士を接合することができる。特に工程(2)において、工程(1)で得られる重合体成分(A)と液体媒体を含む膜から液体媒体を除去した容器部材を用いる場合には、乾熱処理条件下で容器部材同士を接合することにより、容器の生産効率を高めることができる。
【0064】
本発明の多層構造体の製造方法では、前記工程(3)の後に、さらに工程(4)として、該表面処理層上に重合体成分(A)および液体媒体を含む塗工液を塗布して、膜を形成する工程を有していてもよい。該重合体成分(A)は前述のものを使用することができるが水酸基を含む重合体成分であることが好ましく、液体媒体、また塗布方法については前述のものを使用することができる。またさらに該塗工液は前述の粘土鉱物(B)を含んでいても良い。また得られる多層構造体をフィルムあるいはシートとして用いる場合、前述の乾熱処理を行っても良い。また該多層構造体が容器部材である場合、該容器部材の製造方法は特に限定されるものではない。例えば予め容器部材状に賦形された基材層を用い、前述の表面処理層を形成した後、さらに膜を形成する方法、フィルムまたはシート状の基材層を用い、前述の表面処理層を形成した後、さらに膜を形成し、容器部材状に賦形を行う方法が挙げられる。
【0065】
該多層構造体の製造方法が前記工程(4)を含み、該多層構造体が容器部材である場合、本発明の容器の製造方法における工程(1‘)は、少なくとも内面に膜が形成されてなる容器部材同士を接合して、一次容器を得る工程であり、該多層構造体の製造方法が前記工程(4)を含まない場合の容器の製造方法における工程(2)に相当する。容器部材の内面には、前記重合体成分(A)と液体媒体を含む膜が形成されている。容器の製造方法における工程(1’)では、前述の容器の製造方法における工程(2)と同様、前記重合体成分(A)と液体媒体を含む膜から液体媒体を除去した容器部材を用いてもよく、液体媒体を除去することなく、重合体成分(A)と液体媒体を含む膜が形成された容器部材をそのまま用いてもよい。
【0066】
該多層構造体の製造方法が前記工程(4)を含み、該多層構造体が容器部材である場合、本発明の容器の製造方法における工程(2‘)は、一次容器を乾熱処理する工程であり、該多層構造体の製造方法が前記工程(4)を含まない場合の容器の製造方法における工程(3)に相当する。該乾熱処理の効果、条件については前述の容器の製造方法における工程(3)と同様である。
【0067】
さらに本発明の一つの態様では、前記容器の製造方法における工程(3)あるいは工程(2‘)の後に、さらに湿熱処理する工程を有していてもよい。湿熱処理とは、100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m3超の雰囲気下または80℃以上の水中で保持する処理である。湿熱処理する時間は、通常1秒間〜1時間である。100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m3超の雰囲気下での処理の場合、温度は120〜200℃の範囲内が好ましく、水蒸気濃度は500〜20000g/m3の範囲内が好ましい。湿熱処理を行うことにより、さらにガスバリア性に優れる容器とすることができる。
本発明で得られる容器の厚みには特に制限はなく、通常0.5〜10mmの範囲である。
【0068】
本発明の容器は、耐擦傷性およびガスバリア性に優れるため、各種液体の包装、輸送容器として最適である。さらに、本発明の容器は、食品、調味料、飲料水等の食品用容器、化粧品、洗剤などの非食品用容器、輸液などの医療用容器などにも適している。またガソリン等の各種有機溶剤等を保管するタンクとして好適に用いることができ、とりわけ、自動車の燃料タンクとして好適である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは
ない。各種物性の測定方法を以下に記す。
【0070】
〔厚み測定〕
0.5μm以上の厚みは、市販のデジタル厚み計(接触式厚み計、商品名:超高精度デ
シマイクロヘッド MH−15M、日本光学社製)を用いて測定した。0.5μm未満の
厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)の断面観察より求めた。
【0071】
〔粒径測定〕
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA910、堀場製作所(株)製)を用いて
測定した。塗工液(1)および塗工液(2)を希釈し、該希釈液中の無機層状化合物の平均粒径を、フローセルにて光路長4mmで測定し、得られた平均粒径を無機層状化合物の平均粒径Lとみなした。なお、塗工液(1)および塗工液(2)を希釈せずに、該塗工液中の無機層状化合物の平均粒径をペーストセルにて光路長50μmで測定し、この平均粒径と、希釈液で求めた平均粒径Lの値とがほぼ一致したとき、該塗工液中で無機層状化合物が充分に膨潤しへき開していると認定した。
【0072】
〔アスペクト比計算〕
X線回折装置(XD−5A、(株)島津製作所製)を用い、無機層状化合物そのものに
ついて粉末法による回折測定を行った。これにより無機層状化合物の単位厚さaを求め、
上述の方法で求めた粒径Lを用いて、アスペクト比Zを、Z=L/aの式により算出した
。なお塗工液(1)および塗工液(2)を乾燥したものについてもX線回折測定を行ない、無機層状化合物の面間隔が広がっていることを確認した。
【0073】
〔乾熱処理〕
210mm×300mmの多層構造体を、150℃2%RHのオーブン中で60分間乾
熱処理した。
【0074】
〔乾燥処理〕
210mm×300mmの多層構造体を、23℃50%RH雰囲気下で24時間静置した。
【0075】
碁盤目試験
多層構造体の表面に、カッターナイフで膜を貫通するように、1mm角100目の碁盤目状の切り込みを入れ、これにセロハンテープ〔ニチバン(株)製、24mm幅〕を貼り、次いで垂直方向に剥がして、碁盤目100個あたりの剥離数で評価した。
○・・・剥離なし ×・・・一部剥離または全面剥離
【0076】
燃料浸漬試験
模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10重量%)中に、前記多層構造体を、65℃、200hr浸漬した。その後、塗膜の剥れを目視にて確認し、評価した。
○ 剥離無し、 × 一部剥離または全面剥離
【0077】
〔塗工液の作製〕
塗工液(1)の作製
分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導
率0.7μs/cm以下)1300gと、ポリビニルアルコール(AQ2117;(株)
クラレ製,ケン化度;99.6%、重合度1,700)130gとを混合し、低速撹拌下
(1500rpm、周速度4.1m/分)で95℃に昇温した。該混合系を同温度で30
分間攪拌してポリビニルアルコールを溶解させたのち、60℃に冷却し、ポリビニルアル
コール水溶液を得た。該ポリビニルアルコール水溶液(60℃)を前記同様の条件で攪拌
しながら、1−ブタノール122g、イソプロピルアルコール122gおよびイオン交換
水520gを混合してなるアルコール水溶液を5分間かけて滴下した。滴下終了後、高速
攪拌(3,000rpm、周速度=8.2m/分)に切り替え、該攪拌系に高純度モンモ
リロナイト(商品名:クニピアG;クニミネ工業(株)製)65gを徐々に加え、添加終
了後、60℃で60分間攪拌を続けた。その後、さらにイソプロパノール243gを15
分間かけて加え、次いで該混合系を室温まで冷却し、さらに非イオン性界面活性剤(ポリ
ジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体、商品名:SH3746、東レ・ダウ
コーニング(株)製)0.1重量%(前記含有液の重量を基準とする)を添加し、無機層
状化合物分散液(1)を得た。この無機層状化合物分散液(1)に対し、非イオン性界面活性剤(ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体、商品名:SH3746、東レ・ダウコーニング(株)製)0.1重量%(前記分散液の重量を基準とする)を低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において添加し、その後系のpHが3となるようにイオン交換樹脂で調整し、粘土鉱物分散液(1)を調製した。さらにこの粘土鉱物分散液(1)を高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM110−E/H、Microfluidics Corporation 製)を用いて、1100kgf/cm2の条件で処理し、塗工液(1)を得た。該塗工液(1)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径は560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比は460であった。
【0078】
塗工液(2)の作製
高純度モンモリロナイト82gとしたこと以外は粘土鉱物分散液(1)と同様にして、粘土鉱物分散液(2)を作製した。
またさらに別の分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1067gと、ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量100,0000)33gとを混合し、常温にて低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)で樹脂成分溶液を作製した。
粘土鉱物分散液(2)2519gと樹脂成分溶液1100gを、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して混合液とし、さらに該混合液を高圧分散装置を用いて、1100kgf/cm2の条件で処理することにより、混合液(2‘)を得た。該混合液(2’)のpHは6であった。その後該混合液(2‘)をpHが8となるようにイオン交換樹脂で調整し、塗工液(2)を得た。塗工液(2)中のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸と無機層状化合物の合計体積を100%としたとき、無機層状化合物の割合は20vol%であった。
【0079】
[実施例1]
高密度ポリエチレンシート(ハイゼックス1300J;(株)プライムポリマー製,5cm角、厚み2mmシート)を基材層として用い、該基材層の一方の表面に、金属アルコキシドとしてテトラメトキシシロキサンを、炭化水素ガスとしてプロパンガスを用い、燃焼させて照射し、基材層を10m/分の速度で走査させて火炎処理を行い、表面処理層前駆体(1)を形成した。該表面処理層前駆体(1)の積層した側の濡れ指数は64dyn/cm<であった。その後前記表面処理層前駆体(1)を形成した基材層を、イソプロピルアルコール中に5秒間浸漬処理し、表面処理層前駆体(2)を形成した。その後さらに前記表面処理層前駆体(2)を形成した基材層に対して乾燥処理を行い、基材層上に表面処理層を形成した多層構造体(1‘)を得た。該表面処理層の厚みは0.1μmであり、表面処理層を形成した側の濡れ指数は64dyn/cm<であった。
さらに該多層構造体(1‘)の表面処理層上にバーコーター(♯8)にて、アンカ−コート剤(EL510−1/CAT−RT87=5/1(重量比)、固形分濃度4wt%:東洋モートン(株)製)を塗工し、温度40℃にて1時間乾燥させることにより、アンカーコート層を形成した。当該アンカーコート層の乾燥厚みは0.1μmであった。該アンカーコート層上にさらに塗工液(1)をバーコーター(♯8)にて塗布し、温度80℃にて1時間乾燥させることにより、膜を設け、多層構造体(1)を得た。得られた多層構造体(1)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(1)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0080】
[実施例2]
表面処理層前駆体(1)を形成した基材層を、アセトン中に5秒間浸漬し、表面処理層前駆体(2)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして多層構造体(2)を得た。得られた多層構造体(2)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(2)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0081】
[実施例3]
塗工液(1)のかわりに塗工液(2)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして多層構造体(3)を得た。得られた多層構造体(3)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(3)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0082】
[実施例4]
アンカーコート層を形成せずに、表面処理層上に直接、膜を設けたこと以外は、実施例1と同様にして多層構造体(4)を得た。得られた多層構造体(4)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(4)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0083】
[比較例1]
表面処理層前駆体(2)を形成せず、表面処理層前駆体(1)上にアンカーコート層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして多層構造体(5)を得た。得られた多層構造体(5)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(5)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0084】
[比較例2]
火炎処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして多層構造体(6)を得た。得られた多層構造体(6)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(6)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0085】
[比較例3]
表面処理層前駆体(2)を形成した後、アンカーコート層を設けたこと以外は、実施例1と同様にして多層構造体(7)を得た。得られた多層構造体(7)を乾熱処理した後、さらに乾燥処理を行った。その後該多層構造体(7)の評価を行った。結果を表2に示した。
【0086】
表1

【0087】
表2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)−(3)の工程を順に含む多層構造体の製造方法。
(1)基材層の少なくとも一方の面に、金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物ならびに可燃性ガスを含有する混合ガスを燃焼させた火炎を接触させて火炎処理を行い、表面処理層前駆体(1)を形成する工程
(2)該表面処理層前駆体(1)を、極性溶媒にて洗浄し、表面処理層前駆体(2)を形成する工程
(3)該表面処理層前駆体(2)を乾燥処理し、表面処理層を形成する工程
【請求項2】
該金属アルコキシドおよび/またはアルキル金属化合物が、Si、Ti、Al、またはZrを含む請求項1に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項3】
該基材層が熱可塑性樹脂からなる請求項1または2に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項4】
多層構造体が容器部材である、請求項1〜3のいずれかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により製造された容器部材同士を接合して、容器を製造する方法であって、以下の(1)−(3)の工程を順に含む容器の製造方法。
(1)該容器部材の少なくとも内面に、重合体成分(A)および液体媒体を含む塗工液を塗布して、膜を形成する工程
(2)少なくとも内面に膜が形成されてなる容器部材同士を接合して、一次容器を得る工程
(3)一次容器を乾熱処理する工程
【請求項6】
該重合体成分(A)が水酸基を含む重合体成分である請求項5記載の容器の製造方法。
【請求項7】
該塗工液がさらに粘土鉱物(B)を含む請求項5または6に記載の容器の製造方法。
【請求項8】
工程(3)の後に以下の工程(4)を有する、請求項1〜3いずれかに記載の多層構造体の製造方法。
(4)該表面処理層上に重合体成分(A)および液体媒体を含む塗工液を塗布して、膜を形成する工程
【請求項9】
該重合体成分(A)が水酸基を含む重合体成分である請求項8記載の多層構造体の製造方法。
【請求項10】
該塗工液がさらに粘土鉱物(B)を含む請求項8または9に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項11】
多層構造体が容器部材である、請求項8〜10いずれかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により製造された容器部材同士を接合して、容器を製造する方法であって、以下の(1)−(2)の工程を順に含む容器の製造方法。
(1)少なくとも内面に膜が形成されてなる容器部材同士を接合して、一次容器を得る工程
(2)一次容器を乾熱処理する工程
【請求項13】
多層構造体がシート又はフィルムである、請求項8〜10いずれかに記載の多層構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法により製造されたシート又はフィルムを乾熱処理する、シート又はフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−5947(P2010−5947A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168585(P2008−168585)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】